【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発」の「チタン薄板の革新的低コスト化技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉛直方向において、前記スポンジチタン塊の下端から前記金属製還元反応容器に備わる上蓋の内面までの高さH3に対する、前記高さH1の割合(H1/H3)は、前記四塩化チタンの供給終了時において下記式(2)の関係を満足する、請求項1に記載のスポンジチタンの製造方法。
H1/H3≧0.55・・・式(2)
【背景技術】
【0002】
スポンジ状の固体金属チタン(以下、「スポンジチタン」と称する。)は、いわゆるクロール法によって製造されうる。すなわち、スポンジチタンは、金属製還元反応容器内で溶融マグネシウムに四塩化チタンを滴下することで還元反応が起こり生成される。その際、金属製還元反応容器内には、反応の進行に伴ってスポンジチタン以外に、塩化マグネシウムが副生される。発熱反応により塩化マグネシウムが副生されるので、四塩化チタンを滴下し続ければ、特に反応終盤において金属製還元反応容器内のガス発生が過剰となり、金属製還元反応容器内の圧力が上昇し、その圧力上昇を止めるために四塩化チタンの滴下を停止せざるを得ないといった事情が生じる。四塩化チタンの滴下を一度停止すると、四塩化チタンを装入するためのパイプが閉塞しやすく、スポンジチタンの製造効率が低下してしまう。なお、塩化マグネシウムはマグネシウムより比重が大きいため、溶融状態の塩化マグネシウムは溶融状態のマグネシウムより下層に存在することとなる。
【0003】
塩化マグネシウムは四塩化チタンを還元することができないため、金属製還元反応容器からの抜き取り(タップ)を適宜のタイミングで実施可能であるし、溶融マグネシウムの不足が想定される場合は金属製還元反応容器内への充填(チャージ)を適宜のタイミングで実施可能である。該チャージは例えば金属製還元反応容器上部から可能であるし、底部からも可能である。適切なタップは塩化マグネシウム量減に基づく金属製還元反応容器の過剰な圧力上昇の抑制に寄与しうるし、四塩化チタンの還元に必要な溶融マグネシウム量を順次チャージするのであれば金属製還元反応容器内のガス存在空間をより多く確保しやすい。よって、これらの操作はスポンジチタンの製造効率に影響するため、これらの操作に関し様々な報告がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、反応容器内に収容された溶融MgにTiCl
4を滴下添加することによりスポンジチタンを製造する際に、副生するMgCl
2を容器内から抜き取るタップ操作を間欠的に行うと共に、そのMgCl
2のタップ量を反応後半で反応前半より少なくすることを特徴とするスポンジチタン製造方法が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0015】
本発明者らは、従来のスポンジチタン製造方法において、四塩化チタンの滴下終了間際に金属製還元反応容器の上蓋の内面温度が急激に上昇することを知見している。スポンジチタン塊の上端は製造工程終盤にて形成されるため、この上蓋の内面温度の急激な上昇を抑制することがスポンジチタン塊の上端側の体積増加に有効であると本発明者らは推論した。
【0016】
当該推論に基づき種々検討した結果、溶融マグネシウムの浴面の高さ位置とスポンジチタン塊の上端の高さ位置との関係が重要であるという知見を得るに至った。溶融マグネシウムの浴面から一定距離以上離して浴中にてスポンジチタン塊を成長させたところ、いわゆる柱状のスポンジチタン塊を製造することができた。すなわち、スポンジチタン塊の上端側の体積を大きくすることができた。
【0017】
また、柱状スポンジチタン塊の製造では、四塩化チタンの滴下終了後においてスポンジチタン塊上端より高い位置(金属製還元反応容器本体の上部側面)における金属製還元反応容器への付着物も従来のスポンジチタン製造方法と比べて低減されていた。したがって、柱状のスポンジチタン塊を金属製還元反応容器から取り出しやすい。
以下、スポンジチタンの製造方法及びチタン加工品又は鋳造品の製造方法について、図面を使用して説明する。
【0018】
[スポンジチタンの製造方法]
図1は、本発明に係るスポンジチタンの製造方法の一実施形態において供される金属製還元反応容器の内部構造を模式的に示す概略断面図である。
図2は、本発明に係るスポンジチタンの製造方法の一実施形態を説明するためのフロー図である。
【0019】
(金属製還元反応容器)
まず、本発明に係るスポンジチタンの製造方法において供される金属製還元反応容器について図面を用いて説明する。金属製還元反応容器1は、
図1に示すように、溶融マグネシウムを貯留した金属製還元反応容器本体10と、金属製還元反応容器本体10を密閉する上蓋20と、金属製還元反応容器本体10の底部に配置された円盤状のロストル30と、金属製還元反応容器本体10の底部に配置し、ロストル30を支持するパンチ40と、未反応のマグネシウムや副生化合物である塩化マグネシウムを通液可能のMgCl
2パイプ50とを備える。なお、金属製還元反応容器1は、溶融マグネシウムと四塩化チタンとの反応が起こる高温条件に耐え得るように、好ましくは、ステンレス鋼製又は内面が炭素鋼、外面がステンレス鋼であるクラッド鋼製のものが使用される。
【0020】
上蓋20には、連結パイプ60と、TiCl
4パイプ61と、Mgパイプ62と、上蓋20の内面21の温度を測定するための温度センサ70とが設けられる。なお、金属製還元反応容器1は、炉内(不図示)に配置されている。
【0021】
次に、本発明に係るスポンジチタンの製造方法における各工程について図面を使用しながら説明する。本発明に係るスポンジチタンの製造方法は、一実施形態において、
図2に示すように、還元工程S11と真空分離工程S21とを含む。
【0022】
(還元工程)
還元工程S11は、金属製還元反応容器1内にて溶融マグネシウムを保持し、四塩化チタンを供給することで、スポンジチタン塊Sを生成する。通常、四塩化チタンの供給は滴下により行われる。
【0023】
還元工程S11では、鉛直方向において、スポンジチタン塊Sの下端から溶融マグネシウムの浴面MSまでの高さH1に対する、スポンジチタン塊Sの下端からスポンジチタン塊の上端までの高さH2の割合(H2/H1)は、下記式(1)の関係を満足する。なお、スポンジチタン塊Sの成長方向が鉛直方向である。また、上記高さH2におけるスポンジチタン塊Sの上端は、鉛直方向においてスポンジチタン塊Sの最上端の位置である。
H2/H1≦0.85・・・式(1)
【0024】
従来のスポンジチタン製造方法では、反応中、上蓋の内面温度の変化幅は最大350℃程度となることもある。上記変化幅が大きくなるメカニズムは詳細について不明であり、理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、以下のようなことが考えられる。
先述した特許文献1の
図2のように、特に四塩化チタンの滴下終盤において溶融マグネシウムの浴面とスポンジチタンの上端が近すぎた場合、還元反応で生じた反応熱によりスポンジチタン塊上端側が昇温されうる。さらには溶融マグネシウムにも熱がとどまり、溶融マグネシウムの浴面MS側が過度に熱せられ、マグネシウムの蒸発が促進されうる。その結果、TiCl
4パイプから滴下された四塩化チタンと蒸発したマグネシウムが溶融マグネシウムより上側の空間にて反応し、発生する熱によって上蓋の内面温度が大きく上昇すると考えられる。
そこで、本発明においては、上記H2/H1を0.85以下としたことで、溶融マグネシウムの浴面MSとスポンジチタン塊Sの上端とを適切に隔離し、溶融マグネシウムが過度に熱せられることを回避できたと考えられる。よって、スポンジチタン塊製造過程においてマグネシウムの蒸発が効果的に抑制されていると考えられる。金属製還元反応容器1の反応空間を活用したことで、上蓋20の内面21付近で生じる反応が従来のスポンジチタンの製造方法よりも低減され、これによりスポンジチタン塊の形状を柱状にすることができると考えられる。このようなスポンジチタン塊Sの製造方法によれば、反応中、上蓋20の内面21温度の変化幅を200℃以内に制御することができる。
【0025】
上記H2/H1は、スポンジチタン塊Sの形状を柱状にする観点から、0.85以下であり、0.80以下であることが好ましい。上記H2/H1が0.85を超えるとスポンジチタン塊Sの上端側部位は体積が減少して概略円錐状となる。なお、上記H2/H1の下限側はスポンジチタン塊Sの生産量に応じて適宜設定可能である。
【0026】
スポンジチタン塊の製造過程において適宜の時期に溶融マグネシウムをチャージする場合、上記H2/H1が0.85以下を満たすようにスポンジチタン塊を成長させることが好ましい。この条件を満足することを条件に、溶融マグネシウムのチャージ条件は適宜設定可能である。また、蒸発したマグネシウムと四塩化チタンの反応に基づく不具合は、高さH1が金属製還元反応容器1に備わる上蓋20の内面21までの高さH3の半分以上となった場合に顕在化しやすいので、H1/H3が0.5以上の場合に上記H2/H1が0.85以下を満たすように制御してもよい。
【0027】
一方、スポンジチタン塊の製造過程において溶融マグネシウムのチャージをしない場合は、スポンジチタン塊が成長するほどH2/H1が大きくなるので、四塩化チタンの滴下終盤においてH2/H1が大きくなりすぎないようにタップの量や時期を調整しうる。
【0028】
鉛直方向において、スポンジチタン塊Sの下端から金属製還元反応容器1に備わる上蓋20の内面21までの高さH3に対する、高さH1の割合(H1/H3)は、四塩化チタンの供給終了時において下記式(2)の関係を満足することが好ましい。
H1/H3≧0.55・・・式(2)
【0029】
スポンジチタン塊Sの製造効率向上の観点から、H1/H3は四塩化チタンの供給終了時において0.55以上としてよく、0.65以上としてよく、0.75以上としてよい。一方、上記H1/H3の上限側は上蓋20の内面21と溶融マグネシウムの浴面MSが過度に接近し上蓋が熱により変質することを抑制する観点から、0.90以下であることが好ましい。また、上記H1/H3は、四塩化チタンの供給開始時から終了時において、上述した範囲内としてもよい。
なお、四塩化チタンの供給開始時においてH1/H3≧0.55とすると、初期溶融マグネシウム量を多く確保できるので溶融マグネシウムのチャージ回数を適切に低減可能となる。また、溶融マグネシウムのチャージ操作不要としても大きなスポンジチタン塊を製造可能である。
【0030】
先述した高さH1およびH2は、金属製還元反応容器1のサイズ、金属製還元反応容器内における溶融マグネシウム量及び溶融塩化マグネシウム量、四塩化チタンの滴下量と滴下速度、金属製還元反応容器1内の圧力変動、溶融塩化マグネシウムのタップ量、溶融マグネシウムのチャージ量、等の製造条件を考慮して求めることが可能である。例えば高さH1は溶融マグネシウムの初期充填量、四塩化チタンの滴下量、溶融塩化マグネシウムのタップ量、溶融マグネシウムのチャージ量に基づき求めることが可能である。また、高さH2は四塩化チタンの供給を止めた状態で金属製還元反応容器1内に尺付きの棒等を装入して求めることが可能であるし、上記した項目に基づく理論量によって把握できる場合もある。金属製還元反応容器1が上蓋20の他、該上蓋20の内面21側においてさらに遮蔽板を備えるときは、該遮蔽板の内面を「上蓋20の内面21」として高さH3を求める。
【0031】
柱状の体積が大きいスポンジチタン塊Sを生成し、また上蓋20に含有される不純物金属であるFe,Ni等が溶融マグネシウムを介してスポンジチタン塊Sの表面部に移行することを低減するという観点から、四塩化チタン供給中における、金属製還元反応容器1に備わる上蓋20の内面21の温度の変化幅は、200℃以内であることが好ましく、150℃以内であることがより好ましく、130℃以内であることがより好ましい。マグネシウムが過剰に蒸発するのを抑制することで、スポンジチタン塊
Sの還元工程S11における上蓋20の内面21の温度の変化幅を狭くできると考えられる。本発明においては、上蓋20の内面21の温度は、上蓋20に挿通された温度センサ70によって測定する。なお、上記温度の変化幅は、四塩化チタンの供給中、上記温度センサ70によって測定された最高温度から最低温度を差し引いた値によって求めることができる。
【0032】
スポンジチタン塊の還元工程S11において上蓋20の内面21の温度は、上蓋20の内面21の形状を維持し、該上蓋20の内面21に蒸着した不純物が溶融マグネシウムに移行するのを抑制する観点から550℃以下が好ましく、450℃以下とすることが好ましい。なお、該温度は下限側が特に制限されず、例えば100℃以上としてよい。
【0033】
還元工程S11では、金属製還元反応容器本体10内に溶融マグネシウムを予め貯留した後に、溶融塩化マグネシウムの副生に伴う溶融マグネシウムの浴面MSの上昇を制御するため、溶融塩化マグネシウムを抜き取ってもよいし、又は上記溶融塩化マグネシウムを抜き取った後に溶融マグネシウムを更に供給してもよい。
【0034】
(真空分離工程)
真空分離工程S21では、まず金属製還元反応容器1内に残存する塩化マグネシウムと未反応の金属マグネシウムを金属製還元反応容器1中からMgCl
2パイプ50を通じて液相状態のまま抜き取る操作を行う。そして、液相抜き取り操作を行っても残留している塩化マグネシウムと未反応の金属マグネシウムを真空分離し、スポンジチタン塊
Sを得る。真空分離の条件は適宜選択すればよい。例えば、空の金属製還元反応容器を連結パイプ60に連結した後、生成したスポンジチタン塊Sを高温かつ減圧下で真空引きすることで、金属製還元反応容器本体10内に残存した塩化マグネシウムやマグネシウムを除去できる。
【0035】
更に、真空分離工程S21後に、スポンジチタン塊
Sを、所望部位を仕分けした後、その部位を破砕等することで小型化して、スポンジチタンが製造される。
【0036】
(形状評価)
本発明に係るスポンジチタンの製造方法の一実施形態によれば、得られたスポンジチタン塊Sが柱状となる。得られたスポンジチタン塊Sの形状を評価する方法について以下に例示する。
得られたスポンジチタン塊Sを金属製還元反応容器1から取り出す。その際、スポンジチタン塊Sより上部側の金属製還元反応容器本体10の側面に生成した、リング状のスポンジチタンがスポンジチタン塊Sの上部に食い込み、一体化することがある。その場合は、リング状のスポンジチタンを取り除き、スポンジチタン塊Sのみを得る。
そのスポンジチタン塊Sの高さを基準とし、上部から鉛直方向に10、20、30、70、80、90%の位置について直径を測定し、上部側10〜30%部位の平均直径Aと、下部側70〜90%部位の平均直径Bを求める。上部側と下部側の平均直径との割合(A/B)は、0.85以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましい。上記A/Bが0.85以上である場合には、本実施形態により得られたスポンジチタン塊Sが柱状であるといえる。なお、上記A/Bは、上限側を特に限定しないが、典型的に1.0以下である。
製造したスポンジチタン塊Sは適宜の手法により仕分け・破砕され、スポンジチタンが得られる。
【0037】
[チタン加工品又は鋳造品の製造方法]
本発明に係るチタン加工品又は鋳造品の製造方法の一実施形態は、前述したスポンジチタンの製造方法によって製造されたスポンジチタンを加工し又は鋳造する工程を含む。製造されたスポンジチタンは、様々なチタン加工品又は鋳造品の原料として好適である。例えば、チタン鋳造品としては、インゴット、ビレット、スラブ等が挙げられ、チタン加工品としては、チタン板、チタン条、チタン棒、チタン線、チタンターゲット材等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
まず、
図1に示すように、有底筒状の金属製還元反応容器本体10と、金属製還元反応容器本体10を密閉する上蓋20と、円盤状のロストル30と、ロストル30を支持するパンチ40と、MgCl
2パイプ50と、連結パイプ60と、TiCl
4パイプ61と、Mgパイプ62と、温度センサ70とを備えた金属製還元反応容器1を使用した。当該金属製還元反応容器1を炉内に設置した。
<金属製還元反応容器本体>
材質:ステンレス鋼
高さH3:4300mm
<上蓋>
材質:ステンレス鋼
【0040】
次に、この金属製還元反応容器本体10をアルゴン雰囲気で800℃まで加熱後、溶融マグネシウムを12ton投入し、高さH1(ロストル30の上端面位置が反応開始後のスポンジチタン塊の下端位置となる)を2500mmとした。金属製還元反応容器本体10内へ四塩化チタンの滴下を開始し、四塩化チタンを溶融マグネシウムで還元し、ロストル30上にスポンジチタン塊Sを生成した。四塩化チタンの滴下開始後(反応開始後)は副生された塩化マグネシウムをMgCl
2パイプ50で間欠的にタップし、上記反応中、H2/H1≦0.85を満たすようにした。なお、実施例1では四塩化チタンの滴下開始後は溶融マグネシウムのチャージを行わなかった。四塩化チタンの滴下終了時において、高さH1は3800mm、高さH2は3000mmであった。最終的に、四塩化チタンの滴下量は、32tonであった。上記四塩化チタン滴下の開始時から終了時までを温度センサ70で測定した結果、該上蓋20の内面21の温度は420℃以下に制御され、その温度の変化幅は130℃であった。なお、四塩化チタンの滴下開始時から四塩化チタンの滴下終了時までにおける、H2/H1の最大値を表1に示す。
【0041】
<高さ位置>
上記四塩化チタンの滴下開始時から終了時までのH2/H1の最大値について、下記判断基準に基づき評価した。なお、その結果を表1に示す。
(判断基準)
○:四塩化チタンの滴下開始時から終了時までのH2/H1の最大値が、0.85以下であった場合
×:四塩化チタンの滴下開始時から終了時までのH2/H1の最大値が、0.85を超えていた場合
【0042】
次いで、四塩化チタンの滴下終了後、金属製還元反応容器本体10内に残留しているマグネシウム及び塩化マグネシウムをMgCl
2パイプ50で抜き取った。
【0043】
そして、空の金属製還元反応容器を連結パイプ60に連結した後、生成したスポンジチタン塊Sを高温かつ減圧下で真空引きすることで、金属製還元反応容器本体10内に残存した塩化マグネシウムやマグネシウムを除いた。そして、パンチ40でロストル30上に生成されたスポンジチタン塊を突き上げて、ロストル30からスポンジチタン塊を取り出した。得られたスポンジチタン塊Sについては、表1に示す評価をそれぞれ実施した。なお、得られたスポンジチタン塊Sの形状については、
図3に示すように、柱状であることを後述の形状評価により確認した。
【0044】
(形状評価)
先述した方法により、
図3に示すように、上部から鉛直方向に10、20、30%の位置に相当する上部側直径A1〜A3と、上部から鉛直方向に70、80、90%の位置に相当する下部側直径B1〜B3をそれぞれ測定した後、上部側10〜30%部位の平均直径Aと下部側70〜90%部位の平均直径Bとをそれぞれ算出した。そして、上部側の平均直径Aと下部側の平均直径Bとの割合(A/B)を算出した。
上記A/Bが0.85以上である場合には、得られたスポンジチタン塊Sを柱状であると判断した。一方、上記A/Bが0.85未満である場合には、得られたスポンジチタン塊Sを円錐型であると判断した。
【0045】
(ロス率)
得られたスポンジチタン塊Sのバッチ外周部について、目視にて高鉄部位が確認されなくなるまでチッピングハンマーで除去した。そして、回収された製品スポンジチタンの歩留まりを調査した。ここで、歩留まりのロス率は、下記式(3)に従って算出した。その結果については、表1に示す。
ロス率(質量%)=(除去したスポンジチタン重量(kg)/生成したスポンジチタン塊重量(kg))×100・・・式(3)
【0046】
(実施例2)
実施例1で使用した金属製還元反応容器本体10をアルゴン雰囲気で800℃まで加熱後、溶融マグネシウムを8ton投入し、高さH1を1700mmとした。次に、金属製還元反応容器本体10内へ四塩化チタンの滴下を開始した後、適宜、溶融塩化マグネシウムのタップ操作を行い、TiCl
4の累積滴下量が、総滴下量に対して60%、75%のタイミングでは、塩化マグネシウムのタップ操作の後に、それぞれ2tonの溶融マグネシウムのチャージを実施し、スポンジチタン塊Sを生成した。四塩化チタンの滴下終了時において、高さH1は3800mm、高さH2は3000mmであった。最終的に、四塩化チタンの滴下量は、32tonであった。
次に、実施例1と同様に、金属製還元反応容器本体10内に残存した塩化マグネシウムやマグネシウムを除き、ロストル30からスポンジチタン塊Sを取り出した。H2/H1の最大値および得られたスポンジチタン塊Sについては実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。なお、得られたスポンジチタン塊Sの形状については、柱状であることを確認した。上記四塩化チタンの滴下開始時から終了時までを温度センサ70で測定した結果、該上蓋20の内面21の温度は420℃以下に制御され、その温度の変化幅は120℃であった。
【0047】
(比較例1)
製造過程中盤以降において、H2/H1が0.85を超える時間が生じるように調整したこと以外、実施例1と同様にスポンジチタン塊Sを製造した。H2/H1が0.85を超えた状態で四塩化チタンの滴下を続けると四塩化チタンの滴下終了間際に金属製還元反応容器の上蓋の内面の温度の急激な上昇が確認され、金属製還元反応容器本体内の圧力が不安定な状態となり、その後は注意深く四塩化チタンの滴下を続けた。その結果、四塩化チタンの供給中における、上蓋の内面の温度の変化幅が約300℃となった。四塩化チタンの滴下終了時において、高さH1は3300mm、高さH2は3000mmであった。最終的に、四塩化チタンの滴下量は、32tonであった。
H2/H1の最大値および得られたスポンジチタン塊Sについては実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。なお、得られたスポンジチタンの形状については、
図4に示すように、その上端部の形状が円錐状であることを確認した。
【0048】
【表1】
【0049】
(実施例による考察)
実施例1,2では、反応中、H2/H1を0.85以下にしたので、柱状のスポンジチタン塊Sを得ることができた。更に、比較例1と対比して実施例1,2はロス率が小さかった。以上より、実施例1,2は1バッチ当たりのスポンジチタン製造効率に優れていた。また、四塩化チタンの滴下終了後においてスポンジチタン塊Sの上端より高い位置(金属製還元反応容器本体10の上端部側面)における金属製還元反応容器1への付着物が比較的少なかったため、パンチ40でロストル30上に生成されたスポンジチタン塊Sを突き上げたところ、容易にスポンジチタン塊Sを取り出すことができた。
【0050】
一方、比較例1では、製造過程中盤以降において、H2/H1が0.85を超えたため、スポンジチタンの上端部がその下端部と比べ、体積が小さくなっていた。更に、比較例1は実施例1,2と対比してロス率が大きかった。また、パンチでロストル上に生成されたスポンジチタン塊を突き上げたところ、金属製還元反応容器本体の上端部側壁に円周方向に沿ってスポンジチタン塊が付着していたため、ロストル上に生成されたスポンジチタン塊と上端部側壁に付着したスポンジチタン塊とが接触し、スポンジチタン塊を得る手間が掛かった。
【解決手段】スポンジチタンの製造方法であって、金属製還元反応容器内にて溶融マグネシウムを保持し、四塩化チタンを供給することで、スポンジチタン塊を生成する還元工程を含み、還元工程では、鉛直方向において、スポンジチタン塊の下端から溶融マグネシウムの浴面までの高さH1に対する、スポンジチタン塊の下端からスポンジチタン塊の上端までの高さH2の割合(H2/H1)は、下記式(1)の関係を満足する。