特許第6677820号(P6677820)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6677820電極/セパレータ積層体及びそれを備えたニッケル亜鉛電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6677820
(24)【登録日】2020年3月17日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】電極/セパレータ積層体及びそれを備えたニッケル亜鉛電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/30 20060101AFI20200330BHJP
   H01M 4/24 20060101ALI20200330BHJP
   H01M 4/32 20060101ALI20200330BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20200330BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20200330BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20200330BHJP
   H01M 2/18 20060101ALI20200330BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20200330BHJP
   H01M 2/26 20060101ALI20200330BHJP
   H01M 2/30 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
   H01M10/30 Z
   H01M4/24 H
   H01M4/32
   H01M4/52
   H01M4/48
   H01M2/16 M
   H01M2/16 P
   H01M2/18 Z
   H01M2/02 A
   H01M2/26 B
   H01M2/30 D
【請求項の数】13
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-554823(P2018-554823)
(86)(22)【出願日】2017年8月25日
(86)【国際出願番号】JP2017030550
(87)【国際公開番号】WO2018105178
(87)【国際公開日】20180614
【審査請求日】2019年2月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-237871(P2016-237871)
(32)【優先日】2016年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(72)【発明者】
【氏名】権田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 賢信
(72)【発明者】
【氏名】八木 毅
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/076047(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/133747(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/30
H01M 2/02
H01M 2/16
H01M 2/18
H01M 2/26
H01M 2/30
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル亜鉛電池用電極/セパレータ積層体であって、
水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極板と、
亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む負極板と、
前記正極板と前記負極板とを水酸化物イオン伝導可能に隔離する、層状複水酸化物(LDH)セパレータと、
開口部を有する樹脂製外枠であって、前記開口部に前記LDHセパレータ及び前記正極板が嵌合又は接合される樹脂製外枠と、
を備え、
前記正極板が前記負極板よりも板面方向の寸法が小さく、それにより前記負極板がその外周縁から所定の幅にわたって前記正極板と位置的に重ならないクリアランス領域を有しており、
前記LDHセパレータの外周端面と、前記LDHセパレータの前記正極板側の面における前記クリアランス領域と対応する部分とが、前記樹脂製外枠で塞がれている、電極/セパレータ積層体。
【請求項2】
前記クリアランス領域の幅が1〜10mmである、請求項1に記載の電極/セパレータ積層体。
【請求項3】
前記正極板が正極集電体を含み、該正極集電体は前記正極板の外周縁の一辺から延出する正極集電タブを有し、かつ、前記負極板が負極集電体を含み、該負極集電体は前記負極板の外周縁の一辺から延出する負極集電タブを有する、請求項1又は2に記載の電極/セパレータ積層体。
【請求項4】
前記正極集電タブと前記負極集電タブが互いに反対方向に延出している、請求項3に記載の電極/セパレータ積層体。
【請求項5】
前記樹脂製外枠が、前記負極板の外周端面を塞ぐように、前記負極板の板厚方向に延在している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極/セパレータ積層体。
【請求項6】
前記負極板の外周端面が封止部材及び/又は接着剤で塞がれている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電極/セパレータ積層体。
【請求項7】
前記LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電極/セパレータ積層体。
【請求項8】
前記LDHセパレータが多孔質基材と複合化されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極/セパレータ積層体。
【請求項9】
前記LDHセパレータが、複数のLDH板状粒子の集合体で構成されるLDH膜を有し、前記複数のLDH板状粒子がそれらの板面が前記多孔質基材の表面と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向している、請求項8に記載の電極/セパレータ積層体。
【請求項10】
前記正極板及び/又は前記負極板がそれぞれ不織布で包まれており、前記不織布が、アルカリ金属水酸化物水溶液を含む電解液で含浸されている又は含浸可能とされている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電極/セパレータ積層体。
【請求項11】
樹脂製容器と、
前記樹脂製容器内に収容される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の電極/セパレータ積層体と、
アルカリ金属水酸化物水溶液を含む電解液と、
を備えた、ニッケル亜鉛電池。
【請求項12】
樹脂製容器と、
前記樹脂製容器内に互いに隔壁で隔離されることなく並列配列で収容される、複数個の請求項1〜10のいずれか一項に記載の電極/セパレータ積層体と、
アルカリ金属水酸化物水溶液を含む電解液と、
を備えた、ニッケル亜鉛組電池。
【請求項13】
前記正極板が正極集電体を含み、該正極集電体は前記正極板の外周縁の一辺から延出する正極集電タブを有し、かつ、前記負極板が負極集電体を含み、該負極集電体は前記負極板の外周縁の一辺から延出する負極集電タブを有し、前記正極集電タブと前記負極集電タブが互いに反対方向に延出しており、
複数枚の前記正極集電タブが1つの正極集電端子に接続され、複数枚の前記負極集電タブが1つの負極集電端子に接続され、前記正極集電端子と前記負極集電端子が前記樹脂製容器の互いに反対の位置から延出している、請求項11又は12に記載のニッケル亜鉛組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極/セパレータ積層体及びそれを備えたニッケル亜鉛電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/118561号
【特許文献2】国際公開第2016/076047号
【発明の概要】
【0005】
上述したようなLDHセパレータを搭載したニッケル亜鉛電池によれば、亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に防止することができる。この効果を最大限に発揮させるために、特許文献2では、樹脂製外枠付きのLDHセパレータで電池容器内を正極室(正極及び電解液を含む区画)と負極室(負極及び電解液を含む区画)とを液絡しないように完全に隔離することが推奨されている。しかしながら、正極室と負極室を完全に隔離するためには、LDHセパレータを収容する樹脂製外枠(典型的には正方形又は長方形である)の少なくとも外周3辺を電池容器又は電池パッケージの内壁に液密に接合させる必要があるため、接合部分が多く、作業が煩雑となる。その結果、組立時間が長くなる。この問題は、単電池を複数個含む組電池を作製する場合に、より顕著なものとなる。これは、上述の煩雑な接合作業を複数個の単電池の各々に対して行わなければならず、しかも複数の正極室及び複数の負極室の各々にノズルを挿入して電解液を注入する必要があるためである。
【0006】
本発明者らは、今般、正極板を負極板よりも小さくし、かつ、LDHセパレータの外周近傍領域を樹脂製外枠で敢えて塞ぐことで、正極室と負極室を完全に隔離しなくても、ニッケル亜鉛電池における亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に抑制できるとの知見を得た。すなわち、正極室と負極室を完全に隔離するための作業、構造ないし部品を無くして、LDHセパレータ搭載ニッケル亜鉛電池(特にニッケル亜鉛組電池)の組立を飛躍的に容易にすること可能な電極/セパレータ構造を知見した。
【0007】
したがって、本発明の目的は、正極室と負極室を完全に隔離するための作業、構造ないし部品を無くし、LDHセパレータ搭載ニッケル亜鉛電池(特にニッケル亜鉛組電池)の組立を飛躍的に容易にすることが可能な、電極/セパレータ積層体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのような電極/セパレータ積層体を備えたニッケル亜鉛電池(特にニッケル亜鉛組電池)を提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、ニッケル亜鉛電池用電極/セパレータ積層体であって、
水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極板と、
亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む負極板と、
前記正極板と前記負極板とを水酸化物イオン伝導可能に隔離する、層状複水酸化物(LDH)セパレータと、
開口部を有する樹脂製外枠であって、前記開口部に前記LDHセパレータ及び前記正極板が嵌合又は接合される樹脂製外枠と、
を備え、
前記正極板が前記負極板よりも板面方向の寸法が小さく、それにより前記負極板がその外周縁から所定の幅にわたって前記正極板と位置的に重ならないクリアランス領域を有しており、
前記LDHセパレータの外周端面と、前記LDHセパレータの前記正極板側の面における前記クリアランス領域と対応する部分とが、前記樹脂製外枠で塞がれている、電極/セパレータ積層体が提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、
樹脂製容器と、
前記樹脂製容器内に収容される、前記電極/セパレータ積層体と、
アルカリ金属水酸化物水溶液を含む電解液と、
を備えた、ニッケル亜鉛電池が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、
樹脂製容器と、
前記樹脂製容器内に互いに隔壁で隔離されることなく並列配列で収容される、複数個の前記電極/セパレータ積層体と、
アルカリ金属水酸化物水溶液を含む電解液と、
を備えた、ニッケル亜鉛組電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様による電極/セパレータ積層体を示す模式断面図である。
図2図1に示される電極/セパレータ積層体を備えたニッケル亜鉛電池における電極反応時の状態を説明するための図である。
図3A】本発明の別の態様による電極/セパレータ積層体を示す模式断面図である。
図3B図3Aに示される電極/セパレータ積層体に適用可能なセパレータ一体型負極を示す模式断面図である。
図4A】負極板の端面が粘着テープで覆われた電極/セパレータ積層体を示す模式断面図である。
図4B図4Aに示される電極/セパレータ積層体を負極集電体側から見た模式上面図である。
図5A】負極板の端面が接着剤で覆われた電極/セパレータ積層体を示す模式断面図である。
図5B図5Aに示される電極/セパレータ積層体を負極集電体側から見た模式上面図である。
図6A】本発明の一態様によるニッケル亜鉛組電池(組電池)の模式断面図である。
図6B図6Aに示されるニッケル亜鉛電池の6B−6B線矢視断面図である。
図6C図6Bに示されるニッケル亜鉛電池の6C−6C線矢視断面図である。
図6D図6A〜Cに示されるニッケル亜鉛電池の内部構造(樹脂製容器と電解液を取り除いたもの)を示す斜視図である。
図7】例1で作製したニッケル亜鉛電池の模式断面図である。
図8】例1で作製した負極板の充放電サイクル実施後の状態を示す模式上面図である。
図9】例1で作製した負極板の充放電サイクル実施後の状態を撮影した写真である。
図10】例2(比較)において参考のために言及される、正極室及び負極室を完全に隔離した形態のニッケル亜鉛電池の模式断面図である。
図11A】例3において作製された機能層の表面微構造を示すSEM画像である。
図11B】例3において作製された機能層の断面微構造を示すSEM画像である。
図12A】例3の緻密性判定試験で使用された測定用密閉容器の分解斜視図である。
図12B】例3の緻密性判定試験で使用された測定系の模式断面図である。
図13A】例3で使用されたHe透過度測定系の一例を示す概念図である。
図13B図13Aに示される測定系に用いられる試料ホルダ及びその周辺構成の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
電極/セパレータ積層体
本発明による電極/セパレータ積層体はニッケル亜鉛電池、特にニッケル亜鉛二次電池に用いられるものである。図1に電極/セパレータ積層体10の構成が模式的に示される。電極/セパレータ積層体10は、正極板12と、負極板14と、層状複水酸化物(LDH)セパレータ16と、樹脂製外枠18とを備える。正極板12は、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む。負極板14は、亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む。LDHセパレータ16は、層状複水酸化物(LDH)を含み、正極板12と負極板14とを水酸化物イオン伝導可能に隔離する。典型的なLDHセパレータ16はLDH膜16a及び所望により多孔質基材16bを含む。樹脂製外枠18は開口部を有しており、その開口部にLDHセパレータ16及び正極板12が嵌合又は接合される。そして、正極板12は負極板14よりも板面方向の寸法が小さく、それにより負極板14がその外周縁から所定の幅Wにわたって正極板12と位置的に重ならないクリアランス領域CLを有する。その上、LDHセパレータ16の外周端面と、LDHセパレータ16の正極板12側の面におけるクリアランス領域CLと対応する部分とが、樹脂製外枠18で塞がれている。このように、正極板12を負極板14よりも小さくし、かつ、LDHセパレータ16の外周近傍領域を樹脂製外枠18で敢えて塞いでしまうことで、正極室と負極室を完全に隔離しなくても、ニッケル亜鉛電池における亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に抑制することができる。このメカニズムは以下のように説明される。
【0013】
図2に電極/セパレータ積層体10を備えたニッケル亜鉛電池における電極反応時の状態を模式的に示す。図2に示されるように、この状態における電極/セパレータ積層体10は電解液20に浸漬されており、充電時には以下の反応:
‐ 正極: Ni(OH)+OH→NiOOH+HO+e
‐ 負極: ZnO+HO+2e→Zn+2OH
に従い、水酸化物イオン(OH)が負極板14から正極板12にLDHセパレータ16を通って移動する。この充電時に負極板14から望ましくない亜鉛デンドライトが析出することになるが、本発明の構成によれば負極板14のクリアランス領域CLにおける亜鉛デンドライトの析出を阻止することができる。その理由は、負極板14のクリアランス領域CLに対応する反対側には正極板12が無く、その代わりに樹脂製外枠18が存在しており、この樹脂製外枠18が電解液20とLDHセパレータ16との間のOHの授受を阻止するためである。こうして、負極板14のクリアランス領域CLの部分は正極板12との間でOHの授受が実質的にできず、それ故、負極反応に実質的に関与しない未反応部分14aとなる。したがって、充放電の繰り返しに伴う負極板14からの亜鉛デンドライトの析出及び成長は避けられないとしても、本発明の構成によれば負極板14の外周近傍で亜鉛デンドライトが析出して外周の外側へと広がっていくのを阻止できるのである。このため、負極板14の外周近傍で析出して樹脂製外枠18を迂回して正極板12に向かう経路で進展しうる亜鉛デンドライトの発生を阻止することができ、亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に防止することができる。つまり、LDHセパレータ16と樹脂製外枠18の複合構造で亜鉛デンドライトの貫通を完全に阻止できる場合、亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡が生じる残された可能性は、樹脂製外枠18を迂回する経路で進展する亜鉛デンドライトであると考えられるところ、この迂回経路での亜鉛デンドライトの伸展すら本発明によれば効果的に阻止できるのである。この驚くべき利点は、正極室と負極室とで隔離させることなく共通の電解液を使用できる、すなわち、正極室と負極室を完全に隔離しなくても、ニッケル亜鉛電池における亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に抑制することができることを意味する。例えば、図10に示されるような、外装部材22(例えば樹脂フィルム)を樹脂製外枠18に熱融着等で封止接合して正極室と負極室を液絡しないように完全に区切る必要が無くなるのである。この利点は図6A〜6Dに示されるようなニッケル亜鉛組電池を組み立てる際にとりわけ大きなメリットをもたらす。これは、従来型の組電池の場合、上述の煩雑な接合作業を複数個の単電池の各々に対して行わなければならず、しかも複数の正極室及び複数の負極室の各々にノズルを挿入して電解液を注入する必要があるところ、そのような煩雑な作業を不要にできるためである。したがって、電極/セパレータ積層体10によれば、正極室と負極室を完全に隔離するための作業、構造ないし部品を無くして、LDHセパレータ搭載ニッケル亜鉛電池(特にニッケル亜鉛組電池)の組立を飛躍的に容易にすること可能となる。
【0014】
正極板
正極板12は正極活物質として水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む板である。例えば、ニッケル亜鉛電池を放電末状態で構成する場合には正極活物質として水酸化ニッケルを用いればよく、満充電状態で構成する場合には正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルを用いればよい。水酸化ニッケル及びオキシ水酸化ニッケル(以下、水酸化ニッケル等という)は、ニッケル亜鉛電池に一般的に用いられている正極活物質であり、典型的には粒子形態である。水酸化ニッケル等には、その結晶格子中にニッケル以外の異種元素が固溶されていてもよく、それにより高温下での充電効率の向上が図れる。このような異種元素の例としては、亜鉛及びコバルトが挙げられる。また、水酸化ニッケル等はコバルト系成分と混合されたものであってもよく、そのようなコバルト系成分の例としては、金属コバルトやコバルト酸化物(例えば一酸化コバルト)の粒状物が挙げられる。さらに、水酸化ニッケル等の粒子(異種元素が固溶されていてよい)の表面をコバルト化合物で被覆してもよく、そのようなコバルト化合物の例としては、一酸化コバルト、2価のα型水酸化コバルト、2価のβ型水酸化コバルト、2価を超える高次コバルトの化合物、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0015】
正極板12は、水酸化ニッケル系化合物及びそれに固溶されうる異種元素以外にも、追加元素をさらに含んでいてもよい。そのような追加元素の例としては、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルピウム(Er)、ツリウム(Tm)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)および水銀(Hg)、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。追加元素の含有形態は特に限定されず、金属単体又は金属化合物(例えば、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物)の形態で含まれていてよい。追加元素を含む金属単体又は金属化合物を添加する場合、その添加量は、水酸化ニッケル系化合物100重量部に対し、好ましくは0.5〜20重量部であり、より好ましくは2〜5重量部である。
【0016】
正極板12は電解液等をさらに含むことにより正極合材として構成されてもよい。正極合剤は、水酸化ニッケル系化合物粒子、電解液、並びに所望により炭素粒子等の導電材やバインダー等を含むことができる。
【0017】
所望により、正極板12が不織布で包まれていてもよい。この場合、不織布が、アルカリ金属水酸化物水溶液を含む電解液で含浸されている又は含浸可能とされているのが好ましい。これにより正極板12における電解液の保液性を向上して、正極反応を効率良く行わせることができる。また、正極活物質の脱落を防止することもできる。
【0018】
負極板
負極板14は負極活物質として亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む板である。亜鉛は、負極に適した電気化学的活性を有するものであれば、亜鉛金属、亜鉛化合物及び亜鉛合金のいずれの形態で含まれていてもよい。負極材料の好ましい例としては、酸化亜鉛、亜鉛金属、亜鉛酸カルシウム等が挙げられるが、亜鉛金属及び酸化亜鉛の混合物がより好ましい。負極活物質はゲル状に構成してもよいし、電解液と混合して負極合材としてもよい。例えば、負極活物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化した負極を得ることができる。増粘剤の例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸等が挙げられるが、ポリアクリル酸が強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0019】
亜鉛合金として、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。例えば、インジウムを0.01〜0.06質量%、ビスマスを0.005〜0.02質量%、アルミニウムを0.0035〜0.015質量%を含む亜鉛合金が水素ガス発生の抑制効果があるので好ましい。とりわけ、インジウムやビスマスは放電性能を向上させる点で有利である。亜鉛合金の負極への使用は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くすることで、水素ガス発生を抑制して安全性を向上できる。
【0020】
負極材料の形状は特に限定されないが、粉末状とすることが好ましく、それにより表面積が増大して大電流放電に対応可能となる。好ましい負極材料の平均粒径は、亜鉛合金の場合、90〜210μmの範囲であり、この範囲内であると表面積が大きいことから大電流放電への対応に適するとともに、電解液及びゲル化剤と均一に混合しやすく、電池組み立て時の取り扱い性も良い。
【0021】
上述のとおり、負極板14はその外周縁から所定の幅にわたって正極板12と位置的に重ならないクリアランス領域CLを有する。クリアランス領域CLの幅Wは1〜10mmであるのが好ましく、より好ましくは1〜5mm、さらに好ましくは1〜2mmである。このような範囲内であると、電池反応に関与しない負極反応に実質的に関与しない未反応部分14aを最小限にしながら(すなわち負極反応に関与する反応部分をできるだけ多く確保しながら)、樹脂製外枠18を迂回する経路で進展する亜鉛デンドライトをより効果的に阻止できる。
【0022】
所望により、負極板14が不織布で包まれていてもよい。この場合、不織布が、アルカリ金属水酸化物水溶液を含む電解液で含浸されている又は含浸可能とされているのが好ましい。これにより負極板14の周囲における電解液の保液性を向上して、負極反応を効率良く行わせることができる。また、負極活物質の脱落を防止することもできる。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、図3Aに示されるように、樹脂製外枠18が、負極板14の外周端面を塞ぐように、負極板14の板厚方向に延在しうる。こうすることで、負極板14の外周端面近傍における亜鉛デンドライトの析出ないし伸展を許容しうる空間を実質的に無くすことができる。その結果、負極板14の外周端面から樹脂製外枠18を迂回する経路で正極板12に向かって伸展しうる亜鉛デンドライトをより一層効果的に阻止することができる。この態様に関して、図3Bに示されるように、負極板14、LDHセパレータ16及び樹脂製外枠18は一体化された1つの複合部材として提供されてもよい。この場合、負極板14と樹脂製外枠18の間及びLDHセパレータ16と樹脂製外枠18の間が接着剤24で封止接合されるのが好ましい。こうすることで、これらの部材間に不可避的に生じうる望ましくない隙間が接着剤24で埋まることになるので、負極板14の外周端面での亜鉛デンドライトの僅かな析出を許容しうる微小空間すら無くすことができ、その結果、負極板14の外周端面からの亜鉛デンドライトの析出をより一層確実に阻止することができる。接着剤24はエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点で好ましい。ホットメルト接着剤を用いてもよい。
【0024】
本発明の別の好ましい態様によれば、図4A及び4Bに示されるように、負極板14の外周端面が粘着テープ等の封止部材26で塞がれうる。こうすることで、負極板14の外周端面近傍における亜鉛デンドライトの析出ないし伸展を許容しうる空間を実質的に無くすことができる。その結果、負極板14の外周端面から樹脂製外枠18を迂回する経路で正極板12に向かって伸展しうる亜鉛デンドライトをより一層効果的に阻止することができる。封止部材26は樹脂フィルム上に粘着剤を備えた市販の粘着テープであってよく、例として、厚さ30μmのポリプロピレンフィルム上に厚さ15μmの特殊ゴム粘着剤を備えた粘着テープ(株式会社寺岡製作所製、品番:No.466)が挙げられる。本態様によれば、市販の粘着テープを負極板14の外周端面に貼るだけという安価かつ簡便な手法で負極板14の外周端部における亜鉛デンドライト抑制効果を向上できるとの利点がある。
【0025】
本発明の更に別の好ましい態様によれば、図5A及び5Bに示されるように、負極板14の外周端面が接着剤28で塞がれうる。こうすることで、負極板14の外周端面近傍における亜鉛デンドライトの析出ないし伸展を許容しうる空間を実質的に無くすことができる。その結果、負極板14の外周端面から樹脂製外枠18を迂回する経路で正極板12に向かって伸展しうる亜鉛デンドライトをより一層効果的に阻止することができる。接着剤28はエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点で好ましい。ホットメルト接着剤を用いてもよい。本態様によれば、部材間に不可避的に生じうる望ましくない隙間が接着剤28で埋まることになるので、負極板14の外周端面での亜鉛デンドライトの僅かな析出を許容しうる微小空間すら無くすことができ、その結果、負極板14の外周端面からの亜鉛デンドライトの析出をより一層確実に阻止することができる。なお、負極板14の外周端面は封止部材26及び接着剤28の両方で塞がれていてもよい。例えば、外周端面の一部が封止部材26で塞がれ、残りの部分が接着剤28で塞がれていてもよいし、外周端面の接着剤28で封止された部分に封止部材26が配設されてもよい。
【0026】
集電体
図4A〜6Dに示されるように、正極板12は正極集電体13を含むのが好ましく、正極集電体13は正極板12の外周縁の一辺から延出する正極集電タブ13aを有するのがより好ましい。また、負極板14は負極集電体15を含むのが好ましく、負極集電体15は負極板14の外周縁の一辺から延出する負極集電タブ15aを有するのがより好ましい。正極集電タブ13aと負極集電タブ15aは互いに反対方向に延出しているのが好ましく、それにより図6A〜6Dに示されるようなスペース効率が良く集電もしやすい組電池を簡便に作製することができる。正極集電体の好ましい例としては、発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板が挙げられる。この場合、例えば、ニッケル製多孔質基板上に水酸化ニッケル等の電極活物質を含むペーストを均一に塗布して乾燥させることにより正極/正極集電体からなる正極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の正極板(すなわち正極/正極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。負極集電体の好ましい例としては、銅パンチングメタルが挙げられる。この場合、例えば、銅パンチングメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含む混合物を塗布して負極/負極集電体からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極/負極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
【0027】
LDHセパレータ
LDHセパレータ16は層状複水酸化物(LDH)を含むセパレータであり、正極板12と負極板14とを水酸化物イオン伝導可能に隔離する。すなわち、LDHセパレータ16におけるLDHを含む層が水酸化物イオン伝導セパレータとしての機能を呈する。好ましいLDHセパレータ16はガス不透過性及び/又は水不透過性を有する。換言すれば、LDHセパレータ16はLDH含有層(以下、機能層という)が不透過性及び/又は水不透過性を有するほどに緻密化されているのが好ましい。なお、本明細書において「ガス不透過性を有する」とは、後述する例3の評価4で採用される「緻密性判定試験」又はそれに準ずる手法ないし構成でガス不透過性を評価した場合に、水中で測定対象物(すなわちLDHセパレータ16)の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。また、本明細書において「水不透過性を有する」とは、測定対象物(例えばLDHセパレータ)の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する(例えば特許文献2を参照)。すなわち、LDHセパレータ16がガス不透過性及び/又は水不透過性を有するということは、LDHセパレータ16が気体又は水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。こうすることで、LDHセパレータ16は、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。もっとも、図1に示されるようにLDHセパレータ16が多孔質基材16bと複合化されてよいのはいうまでもない。いずれにしても、LDHセパレータ16は水酸化物イオン伝導性を有するため、正極板12と負極板14との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極板12及び負極板14における充放電反応を実現することができる。
【0028】
LDHセパレータ16は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。このような範囲内のHe透過度を有するLDHセパレータは緻密性が極めて高いといえる。したがって、He透過度が10cm/min・atm以下であるLDHセパレータは、亜鉛二次電池においてセパレータとして適用した場合に、水酸化物イオン以外の物質の通過を高いレベルで阻止することができる。例えば、電解液中において亜鉛イオン及び/又は亜鉛酸イオンの透過を極めて効果的に抑制することができる。こうして亜鉛イオン及び/又は亜鉛酸イオンの透過が顕著に抑制されることで、亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。He透過度は、セパレータないし機能層の一方の面にHeガスを供給してセパレータないし機能層にHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出してセパレータないし機能層の緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時にセパレータないし機能層に加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こす亜鉛イオン及び/又は亜鉛酸イオン)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、LDHセパレータが亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する例3の評価5に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0029】
LDHセパレータ16は層状複水酸化物(LDH)を含み、典型的にはLDH膜16a及び所望により多孔質基材16bを含む。LDH膜16aはLDHで構成される。一般的に知られているように、LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。水酸化物基本層は主として金属元素(典型的には金属イオン)とOH基で構成される。LDHの中間層は、陰イオン及びHOで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH及び/又はCO2−を含む。また、LDHはその固有の性質に起因して優れたイオン伝導性を有する。
【0030】
一般的に、LDHは、M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)の基本組成式で代表されるものとして知られている。上記基本組成式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO2−が挙げられる。したがって、上記基本組成式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An−がOH及び/又はCO2−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは水のモル数を意味する任意の数であり、0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である。もっとも、上記基本組成式は、一般にLDHに関して代表的に例示される「基本組成」の式にすぎず、構成イオンを適宜置き換え可能なものである。例えば、上記基本組成式においてM3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオンで置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンAn−の係数x/nは適宜変更されてよい。
【0031】
LDHセパレータ16は多孔質基材16bと複合化されているのが好ましい。すなわち、LDHセパレータ16は、LDH膜16a及び多孔質基材16bを含む複合材料であってもよいし、多孔質基材16bの孔内にLDHが充填された複合材料であってもよい(この場合はLDH膜16aが無くてもよい)。また、両者の組合せであってもよい。すなわち、LDH膜16aの一部が多孔質基材16bの孔内に組み込まれた構成であってもよい。この場合、セパレータ機能を呈する機能層は、LDH膜16aからなる膜状部と、LDH及び多孔質基材16bからなる複合部とで構成されることになる。
【0032】
典型的なLDHセパレータ16は、LDH膜16aと、LDH膜16aを支持する多孔質基材16bとを含む。例えば、LDH膜16aの片面又は両面に多孔質基材16bを設けてもよい。LDH膜16aの片面に多孔質基材16bが設けられる場合、多孔質基材16bはLDH膜16aの負極板14側の面に設けてもよいし、LDH膜16aの正極板12側の面に設けてもよい。多孔質基材16bは透水性を有し、それ故電解液20がLDH膜16aに到達可能であることはいうまでもないが、多孔質基材16bがあることでLDHセパレータ16(特にLDH膜16a)上により安定に水酸化物イオンを保持することも可能となる。また、多孔質基材16bにより強度を付与できるため、LDH膜16aを薄くして低抵抗化を図ることもできる。また、多孔質基材16b上又はその中にLDHの緻密膜ないし緻密層を形成することもできる。LDH膜16aの片面に多孔質基材16bを設ける場合には、多孔質基材16bを用意して、この多孔質基材16bにLDHを成膜する手法が考えられる。一方、LDH膜16aの両面に多孔質基材16bを設ける場合には、2枚の多孔質基材16bの間にLDHの原料粉末を挟んで緻密化を行うことが考えられる。
【0033】
LDH膜16aの一方の側に多孔質基材16bが設けられる場合、LDH膜16aは多孔質基材16bの正極板12側及び負極板14側のいずれに設けられてもよい。もっとも、LDH膜16aは多孔質基材16bの負極板14側に設けられるのが好ましい。こうすることで、LDH膜16aの多孔質基材16bからの剥離をより効果的に抑制することができる。すなわち、負極板14からの亜鉛デンドライトの成長に伴い発生しうる応力が、LDH膜16aを多孔質基材16bに押し付ける方向に働くことになり、その結果、LDH膜16aが多孔質基材16bから剥離しにくくなる。
【0034】
多孔質基材16bは、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましく、より好ましくはセラミックス材料及び/又は高分子材料、さらに好ましくは高分子材料である。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDHセパレータ16を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム、亜鉛、及びニッケルが挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、親水化したフッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料から電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性に優れたものを適宜選択するのが更に好ましい。
【0035】
好ましくは、LDHセパレータ16が、複数のLDH板状粒子の集合体で構成されるLDH膜16aを有し、複数のLDH板状粒子がそれらの板面が多孔質基材16bの表面(多孔構造に起因する微細凹凸を無視できる程度に巨視的に観察した場合における多孔質基材の主面)と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向している。なお、LDH膜16aは多孔質基材16bの孔内に少なくとも部分的に組み込まれていてもよく、その場合、多孔質基材16bの孔内にもLDH板状粒子は存在しうる。LDH結晶は層状構造を持った板状粒子の形態を有することが知られているが、上記垂直又は斜めの配向は、LDHセパレータ16にとって極めて有利な特性である。というのも、配向されたLDH含有セパレータは、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いことが既に知られている。すなわち、上記垂直又は斜めの配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を層厚方向(すなわちLDH膜16a又は多孔質基材16bの表面に対して垂直方向)に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、層厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。その上、LDH膜16aは膜形態を有するため、バルク形態のLDHよりも低抵抗を実現することができる。このような配向性を備えたLDH膜16aは、層厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。
【0036】
LDH膜16aは100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでLDHセパレータ16の低抵抗化を実現できる。上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH膜16aの厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0037】
LDHセパレータ16、例えば多孔質基材16bと複合化されたLDHセパレータ16の製造方法は特に限定されず、既に知られるLDHセパレータの製造方法(例えば特許文献1及び2)を参照することにより作製することができる。
【0038】
樹脂製外枠
樹脂製外枠18は開口部を有する外枠であって、開口部にLDHセパレータ16及び正極板12が嵌合又は接合される。樹脂製外枠18が存在することで、LDHセパレータ16の端部を補強することができ、それによりLDHセパレータ16の端部の損傷を防いで信頼性を向上するとともに、LDHセパレータ16をハンドリングしやすくなる。したがって、ニッケル亜鉛電池の組み立てが容易となる。また、樹脂製外枠18自体も亜鉛デンドライトの貫通及び伸展の阻止に寄与しうる。樹脂製外枠18はLDHセパレータ16と接着剤により接着されているのがより好ましい。接着剤はエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点で好ましい。ホットメルト接着剤を用いてもよい。いずれにしても、LDHセパレータ16と樹脂製外枠18の接合部分では液密性が確保されることが望まれる。樹脂製外枠18を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂、PP樹脂、PE樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルである。
【0039】
本発明の好ましい態様において、樹脂製外枠18は、LDHセパレータ16を収容可能な開口部を有する外枠本体18aと、外枠本体18aの正極板12側の端部及び/又はその近傍から開口部に向かって延在する内延部18bとを備える。そして、内延部18bがLDHセパレータ16(例えば多孔質基材16b)と係合する。こうして、LDHセパレータ16の外周端面と、LDHセパレータ16の正極板12側の面におけるクリアランス領域CLと対応する部分とが、樹脂製外枠18で塞がれる。そして、LDHセパレータ16と樹脂製外枠18(すなわち外枠本体18a及び内延部18b)との間が上述したような接着剤で封止接合されるのが好ましい。
【0040】
ニッケル亜鉛電池
前述したように、本発明による電極/セパレータ積層体はニッケル亜鉛電池、特にニッケル亜鉛二次電池に用いられる。図6A〜6Dに電極/セパレータ積層体10を備えたニッケル亜鉛電池30が示される。ニッケル亜鉛電池30は、樹脂製容器32と、樹脂製容器32内に収容される電極/セパレータ積層体10と、電解液20とを備える。前述したように、電極/セパレータ積層体10を用いることで、正極室と負極室とで隔離させることなく共通の電解液20を使用できる。すなわち、正極室と負極室を完全に隔離しなくても、ニッケル亜鉛電池30における亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に抑制することができる。例えば、図10に示されるような、外装部材22(例えば樹脂フィルム)を樹脂製外枠18に熱融着等で封止接合して正極室と負極室を液絡しないように完全に区切る必要が無い。
【0041】
したがって、本発明による電極/セパレータ積層体を備えるニッケル亜鉛電池の特に好ましい形態は、ニッケル亜鉛組電池である。すなわち、上述の利点はニッケル亜鉛組電池を組み立てる際にとりわけ大きなメリットをもたらす。これは、従来型の組電池の場合、上述の煩雑な接合作業を複数個の単電池の各々に対して行わなければならず、しかも複数の正極室及び複数の負極室の各々にノズルを挿入して電解液を注入する必要があるところ、そのような煩雑な作業を不要にできるためである。したがって、電極/セパレータ積層体10によれば、正極室と負極室を完全に隔離するための作業、構造ないし部品を無くして、LDHセパレータ搭載ニッケル亜鉛電池(特にニッケル亜鉛組電池)の組立を飛躍的に容易にすること可能となる。
【0042】
実際、図6A〜6Dに示されるニッケル亜鉛電池30は組電池の形態を有している。すなわち、組電池であるニッケル亜鉛電池30は、樹脂製容器32と、複数個の電極/セパレータ積層体10と、電解液20とを備える。複数個の電極/セパレータ積層体10は、樹脂製容器32内に互いに隔壁で隔離されることなく並列配列で収容される。すなわち、隣り合う電極/セパレータ積層体10間で正極板12同士及び/又は負極板14同士が接するように、電極/セパレータ積層体10が交互に向きを変えて樹脂製容器32内に収容すればよい。したがって、正極室と負極室の隔離に伴う煩雑な作業を一切経ることなく、樹脂製容器32内に電解液20を注入すればよい。すなわち、組電池の主要部を、仕切り用のフィルム等を用いることなく、電極/セパレータ積層体10を単に積層させるだけで構成することができる。
【0043】
前述のとおり、図4A〜6Dに示されるように、正極板12は正極集電体13を含むのが好ましく、正極集電体13は正極板12の外周縁の一辺から延出する正極集電タブ13aを有するのがより好ましい。また、負極板14は負極集電体15を含むのが好ましく、負極集電体15は負極板14の外周縁の一辺から延出する負極集電タブ15aを有するのが好ましい。正極集電タブ13aと負極集電タブ15aは互いに反対方向に延出しているのが好ましく、それにより図6A〜6Dに示されるようなスペース効率が良く集電もしやすい組電池を簡便に作製することができる。例えば、複数枚の正極集電タブ13aを1つの正極集電端子13bに接続することができる。また、複数枚の負極集電タブ15aを1つの負極集電端子15bに接続することができる。そして、正極集電端子13bと負極集電端子15bを樹脂製容器32の互いに反対の位置から延出させることができる。
【0044】
好ましくは、樹脂製容器32は上部開放された容器であり、上部開放部は封口板34で塞がれる。典型的な封口板34は注液口34aを有し、注液口34aから電解液を樹脂製容器32に注入可能とされる。注液口34aには放圧弁36が着脱可能に設けられるのが好ましい。したがって、電解液20の注入後、注液口34aを放圧弁36で閉じればよい。封口板34は正極集電端子13b及び負極集電端子15bと一体型とされていてもよい。
【0045】
電解液20はアルカリ金属水酸化物水溶液を含む。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛及び/又は酸化亜鉛の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を添加してもよい。前述のとおり、電解液20は正極活物質及び/又は負極活物質と混合させて正極合材及び/又は負極合材の形態で存在させてもよい。また、電解液の漏洩を防止するために電解液をゲル化してもよい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
【実施例】
【0046】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0047】
例1
図7に模式的に示されるような電極/セパレータ積層体及びニッケル亜鉛電池を以下のようにして作製及び評価した。
【0048】
(1)正極板の作製
水酸化ニッケル等の電極活物質を含むペーストを正極集電体13である発泡ニッケルシートの細孔内に充填した。活物質が充填された発泡ニッケルシートを乾燥させた後、圧延及び切断して、正方形の正極板12(93mm×93mm平方)を得た。
【0049】
(2)負極板の作製
銅メッシュからなる負極集電体15上に、酸化亜鉛粉末80重量部、亜鉛粉末20重量部及びポリテトラフルオロエチレン粒子3重量部からなる混合物を塗布して、多孔度約50%で、活物質部分が所定の領域にわたって塗工された正方形の負極板14(100mm×100mm平方)を得た。
【0050】
(3)外枠付きLDHセパレータの作製
アルミナ製多孔質基材16bの一面に、ガス不透過性及び水不透過性を有する緻密なLDH膜16aを公知の手法に従い形成して、多孔質基材16bと複合化された正方形のLDHセパレータ16(100mm×100mm平方)を得た。一方、95mm×95mm平方の開口部を有する樹脂製外枠18(変性ポリフェニレンエーテル樹脂(m−PPE)製)を用意した。この樹脂製外枠18は開口部の外周縁に沿って約100mm×約100mmの領域(開口部を含む)にわたって段差状の凹部が内延部として形成されている。この凹部にLDHセパレータ16を多孔質基材16bが凹部に当接するように接合させた。その際、LDHセパレータ16と凹部の接合部分には市販のエポキシ系接着剤を塗布して、液密性をもたらすように封止した。
【0051】
(4)電極/セパレータ積層体及びニッケル亜鉛電池の作製
樹脂製外枠18の開口部に多孔質基材16bと接するように正極板12を嵌合させる一方、LDHセパレータ16のLDH膜16aと正確に重なるように負極板14を配置した。このとき、負極板14における正極板12と位置的に重ならないクリアランス領域CLの幅Wが各辺とも3.5mmとなるようにした。こうして組み立てられた電極/セパレータ積層体10を、ラミネートフィルム製の外装部材22からなる可撓性袋体に収容した。電解液20としてKOH水溶液を可撓性袋体内に注入して、正極板12、負極板14及びLDHセパレータ16の内部に電解液20を十分に浸透させて、ニッケル亜鉛電池を得た。
【0052】
(5)ニッケル亜鉛電池の評価
作製したニッケル亜鉛電池の充放電を電流密度25mA/cmで4サイクル行った後、負極板14を観察した。その結果、図9に示されるように、負極板14表面における正極板12と対向していた正方形領域には亜鉛の析出に伴う黒い変色が観察される一方、負極板14の端部近傍(すなわち正極板12のクリアランス領域CLに対応していた領域)には黒く変色されていない白い縁枠部分が観察された。なお、図9の写真は、図8に示される負極板14において四角形で囲った部分を撮影した画像である。この結果から明らかなように、負極板14の端部近傍(すなわち正極板12のクリアランス領域CLに対応していた領域)においては亜鉛デンドライトが析出しない未反応部であったことが分かる。したがって、後述する例2のように正極室と負極室を完全に隔離しなくても、ニッケル亜鉛電池における亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に抑制することができる。
【0053】
例2(比較)
a)正極板の寸法を40mm×40mm平方としたこと、b)負極板の寸法を40mm×40mm平方としたこと、及びc)樹脂製外枠を正極板及び負極板と組合せ可能な形状したこと以外は、例1と同様にして、電極/セパレータ積層体及びそれを含むニッケル亜鉛電池の作製を行った。作製したニッケル亜鉛電池の充放電を電流密度8.3mA/cmで複数サイクル行った。その結果、4サイクルの時点で、負極板14には多量の亜鉛の析出が観察された。また、10サイクル後には亜鉛デンドライトが樹脂製外枠18を迂回する形で伸展して正極板12に達し、正負極間の短絡が発生した。
【0054】
ところで、このような短絡は、図10に示されるように、樹脂製外枠18と外装部材22を封止接合して正極室と負極室を液絡しないように完全に隔離することにより回避することができる。しかし、本発明によれば、正極室と負極室を完全に隔離しなくても、ニッケル亜鉛電池における亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を効果的に抑制することができる。すなわち、本発明の電極/セパレータ積層体によれば、正極室と負極室を完全に隔離するための作業、構造ないし部品を無くして、LDHセパレータ搭載ニッケル亜鉛電池(特にニッケル亜鉛組電池)の組立を飛躍的に容易にすること可能となる。
【0055】
例3(参考)
LDHを含む機能層及び複合材料を以下の手順により作製し、評価した。なお、本例における機能層はLDH膜と多孔質基材内のLDHとを含む層であり、本例における複合材料はLDHセパレータに相当するものである。
【0056】
(1)多孔質基材の作製
アルミナ粉末(住友化学社製、AES−12)100重量部に対して、分散媒(キシレン:ブタノール=1:1)70重量部、バインダー(ポリビニルブチラール:積水化学工業株式会社製BM−2)11.1重量部、可塑剤(DOP:黒金化成株式会社製)5.5重量部、及び分散剤(花王株式会社製レオドールSP−O30)2.9重量部を混合し、この混合物を減圧下で攪拌して脱泡することにより、スラリーを得た。このスラリーを、テープ成型機を用いてPETフィルム上に、乾燥後膜厚が220μmとなるようにシート状に成型してシート成形体を得た。得られた成形体を2.0cm×2.0cm×厚さ0.022cmの大きさになるよう切り出し、1300℃で2時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。
【0057】
得られた多孔質基材について、多孔質基材の気孔率をアルキメデス法により測定したところ、40%であった。
【0058】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ0.3μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から近い順に上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0059】
(2)ポリスチレンスピンコート及びスルホン化
ポリスチレン基板0.6gをキシレン溶液10mlに溶かして、ポリスチレン濃度0.06g/mlのスピンコート液を作製した。得られたスピンコート液0.1mlをアルミナ多孔質基材上に滴下し、回転数8000rpmでスピンコートにより塗布した。このスピンコートは、滴下と乾燥を含めて200秒間行った。スピンコート液を塗布した多孔質基材を95%硫酸に25℃で4日間浸漬してスルホン化した。
【0060】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO、関東化学株式会社製)、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg2+/Al3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg2++Al3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を70mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0061】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)でスルホン化した多孔質基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70℃で168時間(7日間)水熱処理を施すことにより基材表面にLDH配向膜の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、LDHを含む機能層を、その一部が多孔質基材中に組み込まれた形で得た。得られた機能層の厚さは(多孔質基材に組み込まれた部分の厚さを含めて)約3μmであった。
【0062】
(5)評価結果
得られた機能層ないし複合材料に対して以下の評価を行った。
【0063】
評価1:機能層の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、機能層の結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。その結果、得られたXRDプロファイルから、機能層はLDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。
【0064】
評価2:微構造の観察
機能層の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。また、イオンミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製、IM4000によって、機能層(LDH膜からなる膜状部とLDH及び基材からなる複合部)の断面研磨面を得た後に、この断面研磨面の微構造を表面微構造の観察と同様の条件でSEMにより観察した。その結果、機能層の表面微構造及び断面微構造のSEM画像はそれぞれ図11A及び11Bに示されるとおりであった。図11Bに示されるとおり、機能層は、LDH膜からなる膜状部と、膜状部の下に位置するLDH及び多孔質基材からなる複合部とから構成されていることが分かった。また、膜状部を構成するLDHは、複数の板状粒子の集合体で構成され、これら複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(多孔構造に起因する微細凹凸を無視できる程度に巨視的に観察した場合における多孔質基材の面)と垂直に又は斜めに交差するような向きに配向していた。一方、複合部は、多孔質基材の孔内にLDHが充填されて緻密な層を構成していた。
【0065】
評価3:元素分析評価(EDS)
クロスセクションポリッシャ(CP)により、機能層(LDH膜からなる膜状部とLDH及び基材からなる複合部)の断面研磨面が観察できるように研磨した。FE−SEM(ULTRA55、カールツァイス製)により、機能層(LDH膜からなる膜状部とLDH及び基材からなる複合部)の断面イメージを10000倍の倍率で1視野取得した。この断面イメージの基材表面のLDH膜と基材内部のLDH部分(点分析)についてEDS分析装置(NORAN System SIX、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)により、加速電圧15kVの条件にて、元素分析を行った。その結果、機能層に含まれるLDH、すなわち基材表面のLDH膜と基材内のLDH部分のいずれにおいても、LDH構成元素であるC、Mg及びAlが検出された。すなわち、Mg及びAlは水酸化物基本層の構成元素である一方、CはLDHの中間層を構成する陰イオンであるCO2−に対応する。
【0066】
評価4:緻密性判定試験
機能層が通気性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、図12A及び12Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器130と、このアクリル容器130の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具132とを用意した。アクリル容器130にはその中にガスを供給するためのガス供給口130aが形成されている。また、アルミナ治具132には直径5mmの開口部132aが形成されており、この開口部132aの外周に沿って試料載置用の窪み132bが形成されてなる。アルミナ治具132の窪み132bにエポキシ接着剤134を塗布し、この窪み132bに複合材料試料136の機能層136b側を載置してアルミナ治具132に気密かつ液密に接着させた。そして、複合材料試料136が接合されたアルミナ治具132を、アクリル容器130の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤138を用いて気密かつ液密にアクリル容器130の上端に接着させて、測定用密閉容器140を得た。この測定用密閉容器140を水槽142に入れ、アクリル容器130のガス供給口130aを圧力計144及び流量計146に接続して、ヘリウムガスをアクリル容器130内に供給可能に構成した。水槽142に水143を入れて測定用密閉容器140を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器140の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、複合材料試料136の機能層136b側が測定用密閉容器140の内部空間に露出する一方、複合材料試料136の多孔質基材136a側が水槽142内の水に接触している。この状態で、アクリル容器130内にガス供給口130aを介してヘリウムガスを測定用密閉容器140内に導入した。圧力計144及び流量計146を制御して機能層136b内外の差圧が0.5atmとなる(すなわちヘリウムガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、複合材料試料136から水中にヘリウムガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、ヘリウムガスに起因する泡の発生は観察されなかった場合に、機能層136bは通気性を有しない程に高い緻密性を有するものと判定した。その結果、機能層及び複合材料は通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0067】
評価5:He透過測定
He透過性の観点から機能層の緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、図13A及び図13Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持された機能層318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0068】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、機能層318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、機能層318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。なお、機能層318は多孔質基材320上に形成された複合材料の形態であるが、機能層318側がガス供給口316aに向くように配置した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管334を接続した。
【0069】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持された機能層318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1〜30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm/min)、Heガス透過時に機能層に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05〜0.90atmの範囲内となるように供給された。
【0070】
その結果、機能層及び複合材料のHe透過度は0.0cm/min・atmであった。

図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B