【実施例】
【0027】
(実施例1)
先ず、炭素源と鋳型源とを兼ねる二クエン酸三マグネシウム〔Mg
3(C
6H
5O
7)
2〕を用意し、これを窒素ガス雰囲気中900℃で1時間焼成した。これにより、鋳型であるMgOと炭素質壁とを備えた焼成物を得た。次いで、得られた焼成物を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより、多数のメソ孔とミクロ孔とを有する多孔質炭素を得た。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A1と称する。
【0028】
(実施例2)
上記炭素A1を窒素ガス雰囲気下、400℃で1時間熱処理した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A2と称する。
【0029】
(実施例3)
上記炭素A1を窒素ガス雰囲気下、700℃で1時間熱処理した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A3と称する。
【0030】
(実施例4)
上記炭素A1を窒素ガス雰囲気下、1000℃で1時間熱処理した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A4と称する。
【0031】
(実施例5)
炭素源としてのPVA(ポリビニルアルコール)と、鋳型サイズ10nmのMgO粒子とを5:5の重量比で混合したものを、上記実施例1と同様の条件で焼成、MgOの溶出を行った。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A5と称する。
【0032】
(実施例6)
MgO粒子として、鋳型サイズが30nmのものを用いた他は、上記実施例5と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A6と称する。
【0033】
(実施例7)
MgO粒子として、鋳型サイズが150nmのものを用いた他は、上記実施例5と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A7と称する。
【0034】
(実施例8)
上記炭素A5を窒素ガス雰囲気下、700℃で1時間熱処理した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A8と称する。
【0035】
(実施例9)
上記炭素A5を窒素ガス雰囲気下、400℃で1時間熱処理した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A9と称する。
【0036】
(実施例10)
上記炭素A5を窒素ガス雰囲気下、1000℃で1時間熱処理した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A10と称する。
【0037】
(実施例11)
洗浄液(鋳型除去溶液)として塩酸を用いた他は、上記実施例5と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A11と称する。
【0038】
(実施例12)
洗浄液として硝酸を用いた他は、上記実施例5と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A12と称する。
【0039】
(実施例13)
PVAとMgO粒子とを3:7の重量比で混合した他は、上記実施例5と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A13と称する。
【0040】
(実施例14)
炭素源としてフェノール樹脂を用い、且つこのフェノール樹脂とMgO粒子とを3:7の重量比で混合した他は、上記実施例5と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A14と称する。
【0041】
(実施例15)
炭素源としてフェノール樹脂を用い、且つこのフェノール樹脂とMgO粒子とを4:6の重量比で混合した他は、上記実施例5と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A15と称する。
【0042】
(実施例16)
炭素源としてフェノール樹脂を用い、且つ鋳型サイズが30nmのMgO粒子を用いた他は、上記実施例5と同様にして多孔質炭素を作製した。
このようにして作製した多孔質炭素を、以下、炭素A16と称する。
【0043】
(実験1)
炭素A1〜A16の孔径、BET比表面積、全細孔容量、ミクロ孔容量、メソ孔容量、炭素A1〜A8、A11〜A16のCO量、CO
2量、及び炭素A1〜A8、A13〜A16の平均粒子径(D
50)について、下記の方法で調べたので、それらの結果を表1及び表2に示す。なお、炭素A1〜A16は、メソ孔の外殻を構成する炭素質壁におけるメソ孔に臨む位置にはミクロ孔が形成され、また、上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構造であった。
【0044】
・ 孔径
窒素ガスによる77Kでの吸着等温線からBJH(Berret−Joyner−Halenda)法を用いて算出した。但し、炭素A7では、SEMより細孔の孔径を確認した。
・ BET比表面積
各試料に、窒素ガスを77Kの温度中の各相対圧力で吸着させ、吸着等温線を測定し、BET法によって算出した。
【0045】
・ 全細孔容量
窒素ガスによる77Kでの吸着等温線において、相対圧(P/P
0)が0.95における吸着量から算出した。
・ ミクロ孔容量
DA
(Dubinin-Astakhov)法を用いて算出した。
・メソ孔容量
全細孔容量からミクロ孔容量を差し引くことでメソ孔容量を算出した。
【0046】
・CO量、CO
2量
図1の装置を用いて、TPD(Temperature Programmed Desorption)法を用いて測定した。具体的には、以下の通りである。
先ず、
図1に示す管路1内のグラスウール4,4間にサンプル3(サンプル量は100mg)を配置する。次に、ガス供給口2からHeガス(流量15×10
−3dm
3/min)を供給しつつ、10℃/分の速度で室温から100℃になるまで昇温する。次いで、100℃で1時間保持した後、ガス供給口2からHeガスを供給しつつ、5℃/分の速度で100℃から1100℃になるまで昇温する。そして、1100℃で2時間保持した。これら一連の昇温過程で、ガス排出口6から排出されるガス中のCO量とCO
2量とを調べた。尚、CO量とCO
2量との測定は、ガスクロマトグラフ(ジーエルサイエンス株式会社のVarian490-GC)を用いた。また、
図1における5は加熱炉である。なお、このような測定によって、各温度で放出されたCO量およびCO
2量の値が得られる。
【0047】
・ 平均粒子径(D
50)
平均粒子径(D
50)とは、累積体積が50%となる粒子径であり、粒子径・粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所LA−950)を用いたレーザー散乱法により粒度分布を測定して求めた。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1及び表2から明らかように、鋳型サイズが大きくなると、孔径が大きくなる一方、BET比表面積が小さくなる。また、鋳型サイズ及び孔径が大きくなると、ミクロ孔容量は小さくなるが、メソ孔容量と全細孔容量とは関連性が少ない。更に、鋳型サイズ及び孔径が大きくなると、CO量とCO
2量とが少なくなるが、平均粒径とは関連性が少ない。
【0051】
また、上記表1から明らかなように、熱処理していない炭素A1と、各400℃、700℃、1000℃で熱処理した炭素A2〜A4とを比較すると、BET比表面積、全細孔容量、ミクロ孔容量、及びメソ孔容量は殆ど変化がないのに対して、CO量とCO
2量は大きく変化していることが認められる。したがって、孔構造が変化するのを抑制しつつ、官能基の量や官能基の比率を変えることができることがわかる。また、上記表1及び表2から明らかように、熱処理していない炭素A5と、各700℃、400℃、1000℃で熱処理した炭素A8〜A10とを比較すると、BET比表面積、全細孔容量、ミクロ孔容量、及びメソ孔容量は殆ど変化がないので、この点からも、熱処理によって孔構造が変化しないことがわかる。
【0052】
更に、
図2から明らかように、熱処理していない炭素A1と400℃で熱処理した炭素A2とでは余り差異は見られないが、700℃で熱処理した炭素A3は熱処理していない炭素A1と比べ、600℃付近のピークで大きく落ち込んでいる。更に、1000℃で熱処理した炭素A4は700℃で熱処理した炭素A3と比べ、800℃付近のピークで大きく落ち込んでいる他、全体的にも大きく落ち込んでいる。
【0053】
加えて、
図3から明らかように、400℃で熱処理した炭素A2は熱処理していない炭素A1比べ、300℃付近のピークで大きく落ち込んでおり、700℃で熱処理した炭素A3は400℃で熱処理した炭素A2と比べ、400℃付近のピークで大きく落ち込んでいる。更に、1000℃で熱処理した炭素A4は700℃で熱処理した炭素A3と比べ、全体的にも大きく落ち込んでいる。
【0054】
また、
図4及び
図5から明らかなように、粒径が異なる炭素A1、A5〜A7を比較すると、一般的に、粒径が大きくなるほどCO量やCO
2量が少なくなっていることが認められる。
更に、
図6及び
図7から明らかように、炭素源としてPVAを用いた炭素A6と炭素源としてフェノール樹脂を用いた炭素A16とを比較すると、CO量は炭素A16が若干多く、CO
2量は炭素A6が若干多くなっていることが認められる。
【0055】
加えて、表1、表2、
図8及び
図9から明らかように、共に炭素源としてPVAを用い、鋳型比率の異なる炭素A5と炭素A13とを比較すると、鋳型比率の高い炭素A13の方がCO量とCO
2量が多くなっていることが認められる。
また、
図10及び
図11から明らかように、共に炭素源としてフェノール樹脂を用い、鋳型比率の異なる炭素A14と炭素A15とを比較すると、鋳型比率の高い炭素A14の方がCO量とCO
2量が多くなっていることが認められる。
【0056】
更に、表1、表2、
図12及び
図13から明らかなように、除去溶液として硫酸を用いた炭素A5と、除去溶液として塩酸を用いた炭素A11と、除去溶液として硝酸を用いた炭素A12とを比較すると、CO量に関しては、硫酸を用いた炭素A5、塩酸を用いた炭素A11、硝酸を用いた炭素A12の順で多くなっていることが認められる。CO
2量に関しては、塩酸を用いた炭素A11、硫酸を用いた炭素A5、硝酸を用いた炭素A12の順で多くなっていることが認められる。
【0057】
また、上記表1及び表2から明らかように、熱処理の有無及び熱処理した場合の温度が異なる炭素A1〜A4を比較した場合、ミクロ孔容量は略同等であることが認められる。同様に、熱処理の有無及び熱処理した場合の温度が異なる炭素A5、A9、A10を比較した場合も、ミクロ孔容量は略同等であることが認められる。
【0058】
更に、洗浄液の種類が異なる炭素A5、A11、A12を比較した場合も、ミクロ孔容量は略同等であることが認められる。加えて、炭素源が異なる炭素A6、A16を比較した場合も、ミクロ孔容量は略同等であることが認められる。
また、炭素源と鋳型源との配合比が異なる炭素A5、A13を比較した場合、鋳型源の配合比が増加することでミクロ孔容量はやや増加するものの、大きな変化は認められなかった。また、炭素源と鋳型源との配合比が異なる炭素A14、A15を比較した場合も、同様の傾向となった。
【0059】
これらに対して、鋳型サイズが異なる炭素A5〜A7を比較した場合、ミクロ孔容量は大きく異なっていることが認められる。
これらのことから、ミクロ孔容量を変化させたい場合には鋳型サイズを変化させ、ミクロ孔容量を変化させたくない場合にはその他の条件を変化させれば良いことが認められる。
【0060】
(実験2)
炭素A1〜A8、A11〜A16のBET比表面積、実測CO量、酸無水物量、エーテル基及び水酸基の合計量、キノン及びカルボニル基の合計量、1000℃付近のピークにおける量、実測CO
2量、カルボキシル基の量、ラクトンの量、実測CO量+CO
2量、H
2終端量、及びエッジ量について、下記の方法で調べたので、それらの結果を表3及び表4に示す。尚、1000℃付近のピークにおける量は炭素A1〜A4及びA12ではピークは観測されず、また、エッジ量については、炭素A1、A5〜A7についてのみ測定し、H
2終端量については、炭素A1、A5〜A7についてのみ算出した。
【0061】
更に、上記結果から、鋳型サイズとエッジ量との関係を
図14に、エッジ量と官能基量(実測CO量及び実測CO
2量)との関係を
図15に示す。また、炭素A1、A5〜A7における官能基量を
図16に、炭素A1〜A4における官能基量とBET比表面積を
図17に示す。
【0062】
・ BET比表面積、CO量(実測値)、CO
2量(実測値)
上記実験1と同様にして計測した
【0063】
・酸無水物の量と、エーテル基及び水酸基の合計量と、キノン及びカルボニル基の合計量
図18は炭素A1における、上記実験1の計測で得られた温度とCO量との関係を示すグラフであるが、この
図18に基づいて、算出方法を示す。
曲線10(〇をつなぎ合わせたもの)は各温度で放出されたCO量であり、曲線10と横軸とに囲まれた領域(
図18の点々で示す領域)が放出されたCO量の総量であり、実測CO量となる。次に、酸無水物では離脱してCOを排出する量が600℃付近で最大となり、エーテル基及び水酸基では800℃付近で最大となり、キノン及びカルボニル基は900℃付近で最大となることが知られている。このことから、曲線10から、曲線11(酸無水物の量)、曲線12(エーテル基及び水酸基の量)、及び曲線13(キノン及びカルボニル基の量)に波形分離を行う。そして、曲線11と横軸とに囲まれた領域(
図18の右上がりのハッチングで示す領域)が排出された酸無水物の合計量となり、曲線12と横軸とに囲まれた領域(
図18の右下がりのハッチングで示す領域)が排出されたエーテル基及び水酸基の合計量となり、曲線13と横軸とに囲まれた領域(
図18の縦方向のハッチングで示す領域)が排出されたキノン及びカルボニル基の合計量となる。
同様の方法で、炭素A2〜A8についても各量を求めた
【0064】
・カルボキシル基の量と、ラクトンの量
図19は炭素A1における、上記実験1の計測で得られた温度とCO
2量との関係を示すグラフであるが、この
図19に基づいて、算出方法を示す。
曲線21(〇をつなぎ合わせたもの)は各温度で放出されたCO
2量であり、曲線21と横軸とに囲まれた領域(
図19の点々で示す領域)が放出されたCO
2の総量であり、実測CO
2量となる。次に、カルボキシル基は離脱してCO
2を排出する量が250℃付近で最大となり、ラクトンでは400℃付近で最大となり、酸無水物は600℃付近で最大となることが知られている。このことから、曲線21から、曲線22(カルボキシル基の量)、曲線23(ラクトンの量)、及び曲線24(酸無水物の量)に波形分離を行う。そして、曲線22と横軸とに囲まれた領域(
図19の右上がりのハッチングで示す領域)が排出されたカルボキシル基の量となり、曲線23と横軸とに囲まれた領域(
図19の右下がりのハッチングで示す領域)が排出されたラクトンの量となり、曲線24と横軸とに囲まれた領域(
図19の縦方向のハッチングで示す領域)が排出された酸無水物の総量となる。尚、実測CO
2量から得られる酸無水物の量は、上記実測CO量から得られる酸無水物の量に比べて極めて少ないので、本明細書では、実測CO量から得られる酸無水物の量を酸無水物の量と規定する。
同様の方法で、炭素A2〜A8についても各量を求めた
【0065】
・エッジ量
図1の装置を用いて、TPO(Temperature Programmed Oxidation)法で測定した。具体的には、以下の通りである。
先ず、
図1に示す管路1内のグラスウール4,4間にサンプル3(サンプル量は100mg)を配置する。次に、ガス供給口2からHeガス(流量200×10
−3dm
3/min)を供給しつつ、20℃/分の速度で室温から800℃になるまで昇温する。次いで、ガス供給口2からHeガス(流量180×10
−3dm
3/min)とO
2ガス(流量20×10
−3dm
3/min)とを供給しつつ、5℃/分の速度で800℃から1000℃になるまで昇温した後、1000℃で2時間保持した。そして、このときにガス排出口6から排出されるガス中の離脱水分量を調べ、この離脱水分量からエッジ量を算出した。尚、離脱水分量の測定は、カールフィッシャー水分計(京都電子工業株式会社のMKC-610)を用いた。
なお、本願においてエッジ部とは炭素表面上に存在し、官能基で終端されうる部位を言う。またエッジ量とは、1g中に存在するエッジ部の量(mmol/g)を言う。
【0066】
・H
2終端量
H
2終端量は、エッジ量から、全ての官能基量を減算することにより算出した。尚、全ての官能基量とは、表3及び表4における、酸無水物の量と、エーテル基及び水酸基の合計量と、キノン及びカルボニル基の合計量と、カルボキシル基の量と、ラクトンの量とを加算した量をいう。
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
表1〜表4から明らかなように、鋳型サイズを変えたり、原料を変えたり[金属有機酸(二クエン酸三マグネシウム等)を用いるか、有機質樹脂(PVA等)と鋳型(MgO粒子)とを混合したものを用いるか、有機質樹脂としてPVAを用いるかフェノール樹脂を用いるか]ということによって、官能基の種類や割合を変化させうることがわかる。
【0070】
表1〜表4に示すように、鋳型サイズを変えると、官能基量(CO量、CO
2量)も変化することがわかる。具体的には、鋳型サイズが大きくなると、官能基量(CO量、CO
2量)が少なくなり、特に、CO量の減少度合いが大きい。したがって、表1〜表4に示すように、酸無水物、エーテル基及び水酸基、キノン及びカルボニル基の量や比率を大きく変化させることが可能となる。表1〜表4では、鋳型サイズが大きくなると、酸無水物、エーテル基及び水酸基が減少する一方、キノン及びカルボニル基は増加していることがわかる。
【0071】
更に、表1〜表4から明らかなように、BET比表面積が変わると官能基量(CO量、CO
2量)も変化することがわかる。一般的には、BET比表面積大きくなると官能基量が多くなることが認められる。
【0072】
加えて、
図14から明らかなように、鋳型サイズが大きくなるとエッジ量は減少し、また、
図15から明らかように、エッジ量が減少すると官能基量(実測CO量、実測CO
2量)は減少する。したがって、鋳型サイズを大きくすることで官能基量は減少し、鋳型サイズを小さくすることで官能基量が増加することから、鋳型サイズを変えることにより官能基量(実測CO量、実測CO
2量)を所望の量に調整することができる。
【0073】
また、
図16から、炭素A1は最大量の官能基を有し、また、炭素A1、A5〜A7全てにおいて5つの官能基の中で酸無水物が多く観察された。また、官能基量は、孔径の増大とともに減少することがわかった。以上のことを考慮すると、定かではないが、官能基は、孔径の減少によってメソ孔が互いに連通する箇所が多くなるためにエッジ量が増加し増大している可能性が考えられる。
【0074】
また、
図17から明らかように、熱処理してもBET比表面積や細孔径は余り変化しないが、各官能基量の量や比率は大きく変化することが認められる。
【0075】
加えて、
図20から明らかように、400℃で熱処理した炭素A2は熱処理していない炭素A1比べ、酸無水物の量と、エーテル基及び水酸基の合計量とが若干減少しているが、キノン及びカルボニル基の合計量は略同等である。700℃で熱処理した炭素A3は400℃で熱処理した炭素A2と比べ、エーテル基及び水酸基の合計量とキノン及びカルボニル基の合計量とは略同等であるが、酸無水物の量が大きく減少している。1000℃で熱処理した炭素A4は700℃で熱処理した炭素A3と比べ、全ての官能基が大きく減少している。
【0076】
また、
図21から明らかように、400℃で熱処理した炭素A2は熱処理していない炭素A1比べ、全ての官能基が大きく減少している。700℃で熱処理した炭素A3は400℃で熱処理した炭素A2と比べ、カルボキシル基の量は略同等であるが、酸無水物の量とラクトンの量とが大きく減少している。1000℃で熱処理した炭素A4は700℃で熱処理した炭素A3と比べ、全ての官能基が減少している。
【0077】
(その他の事項)
本発明により製造した多孔質炭素を電極に用いる場合には、ミクロ孔容量は大きく、官能基量は少ない方が好ましい。ミクロ孔容量が大きければ、比表面積が大きくなり、比表面積が大きいと電池容量も大きくなるからである。また、官能基量が少ないと、電池使用時のガス発生が抑えられ、電池の劣化を抑制できるからである。ここで、ミクロ孔容量を大きくするためには鋳型サイズを小さくする必要があるが、鋳型サイズを小さくすると、官能基量は多くなるという問題がある。しかしながら、熱処理することにより、官能基量を減少させつつミクロ孔容量の減少を抑制できる。なお、電極に用いる場合にはミクロ孔容量が0.2ml/g以上、比表面積が500m
2/g以上が好ましく、上記のことから熱処理(1000℃以下)することが好ましい。したがって、上記炭素A1〜A16の中では、鋳型サイズが小さく且つ官能基量の少ない炭素A4(炭素源と鋳型源とを兼ねるクエン酸マグネシウムを用い、1000℃で熱処理した多孔質炭素であって、ミクロ孔容量が0.2ml/g以上、かつ比表面積が500m
2/g以上を満たす多孔質炭素)を用いるのが好ましい。クエン酸マグネシウムの場合、混合する必要がないため、製造工程数を減らすことができ、コストダウンにつながるという利点がある。
【0078】
また、触媒担体として用いる場合には、比表面積が高く、鋳型由来のメソ孔からなる連通孔を有することが好ましい。比表面積が高いと触媒粒子が微粒子化し、触媒の表面積が大きくなる。このため、触媒の質量あたりの活性が高くなるためである。また、鋳型由来のメソ孔からなる連通孔を有していると、ガス拡散性が高く物質が移動しやすくなるため、触媒反応が効率的に進み、触媒活性が向上するためである。さらに、触媒担体として用いる場合は、触媒の大きさが変わることがあるため、触媒の大きさに応じて多孔質炭素の孔径を変える必要があるが、鋳型サイズを変えることにより対応でき、また、鋳型サイズが変化することにより官能基量が変わっても、洗浄液の種類や熱処理温度等により官能基量を所望の量に調整することができる。したがって、本発明であれば、触媒の大きさが変わった場合であっても、対応することが可能である。なお、触媒担体に用いる場合には、比表面積は500m
2/g以上が好ましく、700m
2/g以上がより好ましく、800m
2/g以上1200m
2/g以下がさらに好ましく、また、鋳型サイズは現状では3〜30nmが好ましい。そして、触媒担体が用いられる用途によって、耐久性及び導電性が重視される場合や、官能基量が重視される場合があるが、耐久性及び導電性が求められる用途においては熱処理(900℃以上が好ましい。900℃以上で熱処理を行うことにより結晶性が向上し、耐久性及び導電性が向上する。)を行うのがよく、炭素源と鋳型源とを兼ねるクエン酸マグネシウム、或いはPVA等の炭素源と金属酸化物等の鋳型源(鋳型サイズは3〜30nm)を用い、1000℃で熱処理した多孔質炭素を用いるのが好ましい(例えば本願実施例では炭素A4)。また、官能基量が重視される用途においては炭素源と鋳型源とを兼ねるクエン酸マグネシウム、或いはPVA等の炭素源と金属酸化物等の鋳型源(鋳型サイズは3〜30nm)を用い、熱処理は行わないか、あるいは800℃以下で行うのがよい。尚、燃料電池の触媒担体として用いる場合、現状は耐久性及び導電性が重視され、また、2〜3nmの触媒を用いていることから、鋳型サイズが触媒のサイズと近いクエン酸マグネシウムを用いて、熱処理(900℃以上が好ましい)をした多孔質炭素を用いるのが好ましく、本願実施例では炭素A4を用いるのが好ましい。
【0079】
更に、バイオセンサの酵素電極や固定化酵素担体として用いる場合、メソ孔の孔径は10nm以上であることが必要であり、30nm以上であることが好ましいが、鋳型サイズが大きくなると官能基量(親水性の官能基量)が少なくなるため、酵素が担体に固定し難くなる。しかしながら、本発明であれば、洗浄液や炭素源と鋳型との比率等を変えることにより、官能基量を増やすことができる。以上のことを考慮すれば、鋳型の大きさは30〜150nmを用い、炭素源と鋳型との割合は鋳型の割合が多くするようにして作製した多孔質炭素を用いるのが好ましい。