【文献】
江村真史 ほか,CTFMソーナーを用いた音響イメージング,日本音響学会 2012年 春季研究発表会講演論文集CD−ROM,日本,社団法人日本音響学会,2012年 3月15日,1407-1408,ISSN: 1880-7658
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る水中探知装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。本発明の実施形態に係る水中探知装置1は、いわゆるCTFM(Continuous Transmission Frequency Modulated)方式の探知装置であって、例えば自船(例えば、漁船などの船舶)の船底に装備され、主に魚及び魚群等の物標の探知に用いられる。また、本実施形態に係る水中探知装置1では、2周波復調方式(dual demodulation, dual sweep demodulation)を用いてエコー信号の処理を行っているため、超音波が送波されてからエコーが戻ってくるまでの時間(いわゆるブラインド区間)においてビート信号の抽出ができない問題を解消でき、精度が高いエコー画像を得ることできる。
【0023】
[全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係る水中探知装置1の構成を示すブロック図である。水中探知装置1は、
図1に示すように、送波部2と、受波部3と、送受信装置4と、信号処理部10と、表示部7とを備えている。
【0024】
送波部2は、送信波としての超音波を水中に送波するためのものであって、超音波が送波される送波面(図示省略)が海中に露出して鉛直下方へ向かうように、船底に対して固定される。
【0025】
送波部2からは、周波数が掃引された超音波が送波される。より具体的には、送波部2からは、周波数が時間経過に応じて徐々に変化するチャープ波が、一定の周期毎に、連続的に送波される。
図2は、送波部2から送波される超音波の、時間に対する周波数変化を示すグラフである。
図2におけるSTは掃引時間を示し、ΔFは掃引帯域幅を示している。
【0026】
受波部3は、超音波が受波される受波面(図示省略)が海中に露出するように、船底に対して固定されている。受波部3は、送波部2から送波された超音波の反射波を、受信波として受波し、受信信号としての電気信号に変換する。
【0027】
送受信装置4は、送信部5と、受信部6とを備えている。
【0028】
送信部5は、信号処理部10で生成された送信信号を増幅し、増幅後の高電圧送信信号を送波部2に印加する。
【0029】
受信部6は、受波部3が出力する受信信号としての電気信号を増幅し、増幅した受信信号をA/D変換する。その後、受信部6は、デジタル信号に変換された受信信号を、信号処理部10に対して出力する。
【0030】
信号処理部10は、送信信号生成部11と、ビート信号生成部12と、処理対象信号抽出部20と、対象物標情報生成部40と、を備えている。この信号処理部10は、例えばハードウェア・プロセッサ18(例えばCPU、FPGA等)及び不揮発性メモリ等のデバイスで構成される。例えば、CPUが不揮発性メモリからプログラムを読み出して実行することにより、信号処理部10を、送信信号生成部11、ビート信号生成部12、処理対象信号抽出部20、及び対象物標情報生成部40として機能させることができる。信号処理部10は、送信信号を生成する処理と、受信部6から出力される受信信号を処理して物標の画像信号を生成する処理とを行う。信号処理部10が有する各構成要素の構成及び動作については、詳しくは後述する。
【0031】
図3は、表示部7に表示されるエコー画像の一例を示す図である。表示部7は、信号処理部10から出力された画像信号に応じたエコー画像を表示画面に表示する。本実施形態では、表示部7は、自船下方における海中の状態を表示する。
図3では、表示部7に、縦軸が深さ方向に対応し且つ横軸の単位がピング(ping)で表される2次元画面が表示される例を示している。1ピングは、あるタイミングで送波されたチャープ波の1掃引時間ST分又はそれより短い時間(例えば、後述するゲート区間の時間)に対応している。表示部7に表示されるエコー画像では、最新の画像信号から得られた縦1本分の画像が、画面中における最も右側の縦1本分のラインで表示され、過去の画像は、最新の画像信号が得られる毎に、1ピング分ずつ左方向へスクロールする。ユーザは、当該表示画面を見て、自船下方における海中の状態、例えば、単体魚及び魚群、海底の起伏、人工漁礁のような構造物の有無及び位置、を推測することができる。
【0032】
また、表示部7では、自船下方の各深さ位置からのエコーの強度が、エコーの強度に応じた色調によって表示される。例えば一例として、表示部7では、エコー強度の高い位置が赤色で表示され、エコー強度が低くなるにつれて、橙、黄、緑、青、の色調が対応して付される。なお、
図3では、便宜上、エコー強度の高さとドットハッチングの密度とを対応させて図示している。
図3に示す例では、海底部分のエコー像Aが表示部7に表示されている。また、
図3に示す例では、海底部分のエコー像Aの上側に魚群のエコー像が表示されている。本実施形態に係る水中探知装置1によれば、その理由については詳しくは後述するが、海底部分のエコー像Aが鮮明に得られる。そうすると、例えば海底付近に位置する魚についても容易に探知することができる。
【0033】
[信号処理部の構成]
図4は、信号処理部10の構成を示すブロック図である。信号処理部10は、
図1及び
図4を参照して、送信信号生成部11と、ビート信号生成部12と、処理対象信号抽出部20と、対象物標情報生成部40と、を有している。
【0034】
送信信号生成部11は、送波部2から送波される送信波の基となる送信信号としての電気信号を生成する。送信信号生成部11で生成された送信信号TXは、送信部5及びビート信号生成部12へ送信される。
【0035】
[ビート信号生成部の構成]
ビート信号生成部12は、周波数解析の対象となるビート信号BSを生成する。ビート信号生成部12は、
図4を参照して、高周波ローカル信号生成部13と、低周波ローカル信号生成部14と、第1乗算部15と、第2乗算部16と、加算部17とを有している。
【0036】
図5は、送信信号TX、受信信号RX、高周波ローカル信号LOH、及び低周波ローカル信号LOLの、時間に対する周波数変化を示すグラフである。
【0037】
高周波ローカル信号生成部13は、送信信号生成部11で生成される送信信号TXに基づき、高周波ローカル信号LOHを生成する。高周波ローカル信号LOHは、
図5を参照して、時間経過に応じて徐々に周波数が変化するチャープ波が送信信号と同じ周期毎に繰り返される信号である。高周波ローカル信号LOHの周波数は、送信信号TXの周波数よりも高く設定される。高周波ローカル信号LOHの掃引時間及び掃引帯域幅は、送信信号TXの掃引時間及び掃引帯域幅と同じである。
【0038】
低周波ローカル信号生成部14は、送信信号生成部11で生成される送信信号TXに基づき、低周波ローカル信号LOLを生成する。低周波ローカル信号LOLは、
図5を参照して、高周波ローカル信号LOHと同様、時間経過に応じて徐々に周波数が変化するチャープ波が送信信号と同じ周期毎に繰り返される信号である。低周波ローカル信号LOLの周波数は、送信信号TXの周波数よりも高く、且つ高周波ローカル信号LOHの周波数よりも低く設定される。低周波ローカル信号LOLの掃引時間及び掃引帯域幅は、送信信号TX及び高周波ローカル信号LOHの掃引時間及び掃引帯域幅と同じである。
【0039】
第1乗算部15は、高周波ローカル信号生成部13によって生成された高周波ローカル信号LOHと受信信号RXとをミキシング(言い換えれば、乗算)する。そして、第1乗算部15は、その演算結果から高周波ローカル信号LOHの周波数と受信信号RXの周波数との差を周波数成分として有する信号を抽出し、その信号を加算部17に出力する。
図6(A)は、第1乗算部15でのミキシングにより得られた信号の、時間に対する周波数変化を示すグラフである。
【0040】
第2乗算部16は、低周波ローカル信号生成部14によって生成された低周波ローカル信号LOLと受信信号RXとをミキシングする。そして、第2乗算部16は、その演算結果から低周波ローカル信号LOLの周波数と受信信号RXの周波数との差を周波数成分として有する信号を抽出し、その信号を加算部17に出力する。
図6(B)は、第2乗算部16でのミキシングにより得られた信号の、時間に対する周波数変化を示すグラフである。
【0041】
加算部17は、第1乗算部15から出力される信号と第2乗算部16から出力される信号とを加算する。そして、加算部17は、その加算結果をビート信号BSとして処理対象信号抽出部20へ出力する。
図6(C)は、加算部17から出力される信号であるビート信号BSの、時間に対する周波数変化を示すグラフである。
【0042】
[処理対象信号抽出部の構成]
処理対象信号抽出部20は、加算部17から出力されたビート信号BSの中から、対象物標情報生成部40での処理対象となる信号である処理対象信号を抽出する。処理対象信号抽出部20は、
図4を参照して、3つのビート信号抽出部21a,21b,21cと、3つの窓関数乗算部22a,22b,22cと、3つの周波数解析部23a,23b,23cと、絶対値算出部24と、最小値選択部25と、処理対象信号選択部としてのデータ選択部26と、を有している。
【0043】
図7は、ゲート区間G
1〜G
3について説明するための図であって、ゲート区間G
1〜G
3を、送信信号TX及び受信信号RXの時間に対する周波数変化を示すグラフとともに示す図である。
【0044】
3つのビート信号抽出部21a,21b,21cは、前側ビート信号抽出部21a、基本ビート信号抽出部21b、後側ビート信号抽出部21cで構成されている。3つのビート信号抽出部21a,21b,21cは、ビート信号BSのうち、各ゲート区間G
1〜G
3(具体的には、前側ゲート区間G
1、基本ゲート区間G
2、後側ゲート区間G
3)に含まれる部分を抽出する。
図7を参照して、各ゲート区間G
1〜G
3は、互いのゲート幅が同じとなるように設定されている。前側ゲート区間G
1は、基本ゲート区間G
2よりも前側に設定されている。具体的には、前側ゲート区間G
1は、抽出開始時刻が基本ゲート区間G
2よりも早い時刻となるように設定されている。後側ゲート区間G
3は、基本ゲート区間G
2よりも後側に設定されている。具体的には、後側ゲート区間G
3は、抽出開始時刻が基本ゲート区間G
2よりも遅い時刻となるように設定されている。より具体的には、前側ゲート区間G
1は、基本ゲート区間G
2の前側の半分とオーバーラップするように設定され、後側ゲート区間G
3は、基本ゲート区間G
2の後側の半分とオーバーラップするように設定されている。なお、
図7での図示は省略するが、基本ゲート区間G
2は、送信波の送信周期と同期するように設定されている。
【0045】
前側ビート信号抽出部21aは、ビート信号の中から、前側ゲート区間G
1内に含まれる信号を、前側信号Saとして抽出する。基本ビート信号抽出部21bは、ビート信号BSの中から、基本ゲート区間G
2内に含まれる信号を、基本信号Sbとして抽出する。後側ビート信号抽出部21cは、ビート信号BSの中から、後側ゲート区間G
3内に含まれる信号を、後側信号Scとして抽出する。そして、次のピングの処理に移る場合は、基本ゲート区間G
2をゲート幅分遅い時間にずらし、その区間に含まれるビート信号を抽出し、基本信号Sbとする。前側信号Sa、基本信号Sbについても同様である。前側信号Sa、基本信号Sb、及び後側信号Scは、抽出ビート信号として抽出される。
【0046】
各窓関数乗算部22a,22b,22cは、各ビート信号抽出部21a,21b,21cに対応して設けられている。各窓関数乗算部22a,22b,22cには、複数(本実施形態の場合、N個)の窓関数が記憶されている。複数の窓関数としては、例えば、σの値が互いに異なる複数のガウス窓が用いられる。窓関数乗算部22aは、前側ゲート区間G
1に含まれる前側信号SaにN個の窓関数を乗算し、N個の窓処理後前側信号Sa
n(n=1,2,…,N)を算出する。また、窓関数乗算部22bは、基本ゲート区間G
2に含まれる基本信号SbにN個の窓関数を乗算し、N個の窓処理後基本信号Sb
n(n=1,2,…,N)を算出する。また、窓関数乗算部22cは、後側ゲート区間G
3に含まれる後側信号ScにN個の窓関数を乗算し、N個の窓処理後後側信号Sc
n(n=1,2,…,N)を算出する。
【0047】
各周波数解析部23a,23b,23cは、各窓関数乗算部22a,22b,22cに対応して設けられている。各周波数解析部23a,23b,23cは、対応する窓関数乗算部22a,22b,22cから出力されたN個の窓処理後信号Sa
n,Sb
n,Sc
nのそれぞれを周波数解析し、窓処理後信号毎に振幅及び位相を示すデータを生成する。なお、このデータは、振幅スペクトル及び位相スペクトルであり、以下では、これらをまとめて複素スペクトルと称する場合もある。周波数解析部23aは、N個の窓処理後前側信号Sa
nのそれぞれについて複素スペクトルを算出し、周波数解析部23bは、N個の窓処理後基本信号Sb
nのそれぞれについて複素スペクトルを算出し、周波数解析部23cは、N個の窓処理後後側信号Sc
nのそれぞれについて複素スペクトルを算出する。すなわち、3つの周波数解析部23a,23b,23cによって、3N個の複素スペクトルを得ることができる。これら3N個の複素スペクトル(言い換えれば、複素データ)のそれぞれには、互いに異なるインデックス(例えば番号)が付される。なお、周波数解析部23a,23b,23cで行われる周波数解析手段として、離散フーリエ変換(DFT)、高速フーリエ変換(FFT)などが挙げられる。
【0048】
絶対値算出部24は、3N個の複素スペクトルのそれぞれの各点の複素値の絶対値を算出する。具体的には、絶対値算出部24は、各複素データの実部の2乗と虚部の2乗とを加算した値の平方根をとることにより、各複素データの絶対値を算出する。これにより、絶対値算出部24によれば、深さ位置毎に3N個の絶対値が算出される。
【0049】
最小値選択部25は、絶対値算出部24によって算出された深さ位置毎の3N個の絶対値のうち最も値が小さい絶対値を選択し、その絶対値が算出された複素データに対応して付された番号を、各深さ位置における選択番号として、データ選択部26に出力する。
【0050】
データ選択部26は、最小値選択部25から出力された選択番号に対応する番号が付された複素データを、処理対象信号として対象物標情報生成部40へ出力する。データ選択部26は、深さ位置毎に選択した処理対象信号を、IQエコーデータとして順次、対象物標情報生成部40へ出力する。すなわち、データ選択部26によれば、深さ位置毎に、前側信号Sa、基本信号Sb、及び後側信号Scのいずれかに基づく信号が選択される。その結果、処理対象信号抽出部20では、送信波の送信周期とは非同期である処理対象信号が抽出される。
【0051】
なお、図示は省略したが、処理対象信号抽出部20における各周波数解析部23a,23b,23cの前段又は後段には、帯域制限処理部が設けられている。これにより、受信信号に含まれる不要な成分を除去することができる。
【0052】
対象物標情報生成部40は、処理対象信号抽出部20から出力されたIQエコーデータに基づいて、対象物標(例えば海底、魚等)に関する情報を生成する。具体的には、IQエコーデータに検波とログ変換を施し、ログ変換後の信号を信号レベルに応じて色変換することで、画像信号を生成する。本実施形態では、対象物標情報生成部40は、海中の画像信号を生成する。対象物標情報生成部40によって生成された画像信号は、上述したように表示部7に出力され、表示部7には、
図3を参照して、当該画像信号に応じたエコー画像が表示される。
【0053】
[従来技術の問題点]
図8は、比較例に係る水中探知装置の信号処理部110の構成を示すブロック図であって、
図4に対応させて示す図である。また、
図9は、比較例に係る水中探知装置の表示部に表示されるエコー画像の一例を示す図であって、
図3に対応させて示す図である。
【0054】
比較例に係る水中探知装置の信号処理部110は、従来から知られている水中探知装置に設けられた信号処理部110であって、上記実施形態に係る水中探知装置1の信号処理部10と比べて、以下の点が異なっている。具体的には、信号処理部110では、3つのビート信号抽出部21a,21b,21cの代わりに1つのビート信号抽出部121が設けられ、3つの窓関数乗算部22a,22b,22cの代わりに1つの窓関数乗算部122が設けられ、3つの周波数解析部23a,23b,23cの代わりに1つの周波数解析部123が設けられている。また、信号処理部110では、絶対値算出部24、最小値選択部25、及びデータ選択部26が省略された構成となっている。
【0055】
比較例に係る信号処理部110では、上記実施形態と同様の構成を有するビート信号生成部12によって、ビート信号BSが生成される。そして、信号処理部110では、ビート信号BSの中から、送信信号の周期と同期するように設定された基本ゲート区間G
2に含まれる信号が、処理対象信号として抽出される。信号処理部110では、このようにして選択された処理対象信号のそれぞれが、上記実施形態と同様の構成を有する対象物標情報生成部40によって処理されることにより、画像信号が生成される。
【0056】
ところで、比較例に係る水中探知装置で生成されるエコー画像の中には、
図9に示すように、海底部分のエコー像Bから上方又は下方に延びる細長い複数の虚像Cが表示される場合がある。このような虚像Cが表示されてしまうと、海底部分のエコー像Bの正確な形状が把握できないだけでなく、海底付近に位置する魚を探知することができなくなってしまう。
【0057】
この点につき、本願発明者は、上述のような虚像Cが発生する原因を発見した。具体的には、
図7を参照して、本願発明者は、2周波復調方式を用いた従来の水中探知装置において、予め周期が設定された基本ゲート区間G
2の中心付近にビート信号位相ジャンプ時刻JP(具体的には、ビート信号の位相が不連続となる位置)がある場合に生じるレンジサイドローブに起因して、虚像Cが生じることを発見した。
【0058】
図10は、本実施形態の信号処理部10で生成されるグラフであって所定のピング時における各深さ位置からのエコー強度を示すグラフ(具体的には、
図10において実線で図示されているグラフ)と、比較例の信号処理部110で生成されるグラフであって所定のピング時における各深さ位置からのエコー強度を示すグラフ(具体的には、
図10において破線で図示されているグラフ)と、を重ねて表示した図である。
【0059】
比較例に係る水中探知装置では、処理対象信号が抽出される区間として予め周期が設定された基本ゲート区間G2の中心部付近にビート信号位相ジャンプ時刻JPがある場合、
図10の破線で示すグラフに示すように、海底エコー付近に大きなサイドローブが生じてしまい、海底付近のターゲットが埋もれてしまう。
【0060】
これに対して、本実施形態に係る水中探知装置1では、上述のようなレンジサイドローブを以下のようにして低減することにより、虚像Cを除去している。具体的には、本実施形態では、タイミングが異なる3つのゲート区間G
1〜G
3のそれぞれによって抽出される信号のうち絶対値が最も小さい信号が処理対象信号として選択されている。すなわち、本実施形態では、送信信号の周期である送信周期とは非同期となるゲート区間G
1〜G
3によって、処理対象信号が抽出される。そうすると、あるゲート区間の中心部付近にビート信号位相ジャンプ時刻JPが生じる場合であっても、他のゲート区間によって抽出された信号が選択されるため、海底エコーのサイドローブが低減される。これにより、
図10の実線で示すグラフのように、海底付近に存在するターゲット(例えば、海底付近に位置する魚)を探知することが可能になる。
【0061】
[効果]
以上のように、本実施形態に係る水中探知装置1では、ビート信号BSの中から送信周波数の掃引周期である送信周期とは非同期である処理対象信号が抽出され、当該処理対象信号に基づいて、対象物標に関する情報(本実施形態の場合、海中のエコー画像)が生成される。そうすると、上述のように、海底のエコーに起因するサイドローブを低減することができるため、当該サイドローブに探知対象となる物標が埋もれてしまうことを防止できる。
【0062】
従って、水中探知装置1によれば、物標に起因するピーク波形に伴って生じるサイドローブを低減できるため、対象物標の探知漏れを防止できる。
【0063】
また、水中探知装置1では、複数のゲート区間G
1〜G
3のそれぞれに含まれる抽出ビート信号Sa,Sb,Scの中から、処理対象信号が選択される。これにより、送信周波数の掃引周期である送信周期とは非同期となる処理対象信号を容易に抽出することができる。
【0064】
また、水中探知装置1では、窓処理後信号Sa
n,Sb
n,Sc
nのそれぞれを周波数変換して得られる複素データの絶対値が最も小さい複素データに対応する窓処理後信号Sa
n,Sb
n,Sc
nが処理対象信号として選択される。これにより、サイドローブの影響を適切に低減でき、対象物標の探知漏れを防止できる。
【0065】
また、水中探知装置1では、複数のゲート区間G
1〜G
3のうちの少なくとも2つ(本実施形態の場合、前側ゲート区間G
1と基本ゲート区間G
2、基本ゲート区間G
2と後側ゲート区間G
3)は、それぞれの一部が時間領域において重なっている。これにより、物標のエコー強度がピングごとに大きく変動してしまうことを防止できる。
【0066】
また、水中探知装置1では、各抽出ビート信号Sa,Sb,Scに対して窓関数が乗算されることにより得られた窓処理後信号Sa
n,Sb
n,Sc
nが、処理対象信号の候補となる。これにより、サイドローブの影響がより低減された処理対象信号を得ることができる。
【0067】
また、水中探知装置1では、物標に起因するピーク波形に伴って生じるサイドローブを低減でき、且つ対象物標の探知漏れを防止できる水中探知装置を提供できる。
【0068】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0069】
(1)
図11は、変形例に係る水中探知装置の信号処理部10aの構成を示すブロック図である。上述した実施形態の信号処理部10の処理対象信号抽出部20には、ビート信号抽出部21a,21b,21cと周波数解析部23a,23b,23cとの間に窓関数乗算部22a,22b,22cを設けたが、これに限らず、
図11に示す処理対象信号抽出部20aのように、窓関数乗算部が省略された構成であってもよい。このような構成であっても、ビート信号位相ジャンプ時刻JPを避けてゲート区間を設定することができるため、上述した実施形態の場合と同様、物標に起因するピーク波形に伴って生じるサイドローブを低減できる。
【0070】
(2)
図12は、変形例に係る水中探知装置1bの構成を示すブロック図である。本変形例に係る水中探知装置1bは、上記実施形態に係る水中探知装置1と比べて、処理対象信号抽出部の構成が異なっている。以下では、上記実施形態と構成が異なる部分について主に説明し、それ以外の部分については説明を省略する。
【0071】
図13は、
図12に示す水中探知装置1bの信号処理部10bの構成を示すブロック図である。上述した実施形態の処理対象信号抽出部20では、互いにタイミングが異なる3つのゲート区間G
1〜G
3のそれぞれによって抽出された信号のうち絶対値が小さい信号が選択されたが、これに限らない。本変形例の処理対象信号抽出部20bでは、詳しくは
図14を参照して後述するが、ゲート区間G
0の位置を決定する前に予めビート信号位相ジャンプ時刻JPが検出される。そして、ゲート区間G
0の中心時刻Ctがビート信号位相ジャンプ時刻JPからずれるように、ゲート区間G
0の位置が決定される。
【0072】
本変形例の処理対象信号抽出部20bは、ビート信号位相ジャンプ時刻検出部27と、ゲート区間決定部28と、ビート信号抽出部21と、窓関数乗算部22と、周波数解析部23と、を有している。
【0073】
ビート信号位相ジャンプ時刻検出部27は、ビート信号位相ジャンプ時刻JPを検出するためのものである。具体的には、ビート信号位相ジャンプ時刻検出部27には、第1乗算部15からの出力信号(具体的には、高周波ローカル信号LOHと受信信号RXとがミキシングされた信号のうち、LOH,RXの周波数の差を周波数成分として有する信号)と、第2乗算部16からの出力信号(具体的には、低周波ローカル信号LOLと受信信号RXとがミキシングされた信号のうち、LOL,RXの周波数の差を周波数成分として有する信号)とが入力される。そして、ビート信号位相ジャンプ時刻検出部27は、例えば一例として、各出力信号の瞬時位相を随時算出し、その瞬時位相が大きく変化した時刻を、ビート信号位相ジャンプ時刻JPとして検出する。
【0074】
図14は、ビート信号位相ジャンプ時刻JPと、ゲート区間決定部28によって決定されるゲート区間G
0の時間関係について説明するための図である。
【0075】
ゲート区間決定部28は、
図14を参照して、ゲート区間G
0の中心時刻Ctがビート信号位相ジャンプ時刻JPからずれるように、ゲート区間G
0の位置を決定する。具体的には、ゲート区間決定部28は、例えば一例として、ゲート区間G
0の中心時刻Ctとビート信号位相ジャンプ時刻JPとのずれ量(言い換えれば、時間間隔)が所定時間Δtとなるように、ゲート区間G
0の位置を決定する。しかし、これに限らず、ゲート区間決定部28は、ビート信号位相ジャンプ時刻JPがゲート区間G
0に含まれないように、ゲート区間G
0の位置を決定してもよい。こうすると、サイドローブを大きく低減することができる。また、これらに限らず、ゲート区間決定部28は、ビート信号位相ジャンプ時刻JPがゲート区間G
0の端部に含まれるように、ゲート区間G
0の位置を決定してもよい。これは、ビート信号位相ジャンプ時刻JPがゲート区間G
0の端部に含まれる場合であれば、後段の窓関数乗算部22によってサイドローブをある程度低減することができるからである。こうすると、非同期性に起因するエコー強度のピング間の変動と、サイドローブに起因する虚像と、の両方をある程度軽減することができる。
【0076】
ビート信号抽出部21は、ビート信号BSの中から、ゲート区間決定部28によって決定されたゲート区間G
0に含まれる部分を、抽出ビート信号として抽出して窓関数乗算部22へ出力する。窓関数乗算部22は、ビート信号抽出部21から出力された信号に対して所定の窓関数を乗算して周波数解析部23へ出力する。周波数解析部23は、窓関数乗算部22から出力された信号を周波数解析することにより得られた複素データを、IQエコーデータとして対象物標情報生成部40へ出力する。
【0077】
以上のように、水中探知装置1bでは、第1乗算部15からの出力信号及び第2乗算部16からの出力信号に基づいて検出されたビート信号位相ジャンプ時刻JPと、ゲート区間G
0の中心時刻Ctとがずれるように、ゲート区間G
0が決定される。このようにゲート区間G
0を決定しても、上記実施形態の場合と同様、物標に起因するピーク波形に伴って生じるサイドローブを低減できる。
【0078】
また、水中探知装置1bでは、第1乗算部15及び第2乗算部16からの出力信号の瞬時位相(具体的には、ビート信号の位相の変化量)が随時算出され、その瞬時位相が大きく変化した時刻が、ビート信号位相ジャンプ時刻JPとして検出される。これにより、ビート信号位相ジャンプ時刻JPを適切に算出することができる。
【0079】
なお、本変形例では、第1乗算部15からの出力信号及び第2乗算部16からの出力信号の瞬時位相が大きく変化する時刻をビート信号位相ジャンプ時刻JPとして検出するビート信号位相ジャンプ時刻検出部27を構成した。しかし、これに限らず、例えば、第1乗算部15からの出力信号及び第2乗算部16からの出力信号の瞬時周波数(具体的には、ビート信号の周波数の変化量)、或いは受信部6からの受信信号RXの瞬時周波数(具体的には、受信信号RXの周波数の変化量)、を検出し、それらが大きく変化した時刻を、ビート信号位相ジャンプ時刻として検出してもよい。このようにしてビート信号位相ジャンプ時刻JPを算出しても、上述した場合と同様、適切にビート信号位相ジャンプ時刻JPを算出できる。
【0080】
(3)
図15は、変形例に係る水中探知装置の信号処理部10cの構成を示すブロック図である。本変形例に係る信号処理部10cは、
図13に示す信号処理部10bの処理対象信号抽出部20bと比べて、ビート信号位相ジャンプ時刻検出部の構成及び動作が異なっている。具体的には、
図13に示すビート信号位相ジャンプ時刻検出部27では、各乗算部15,16からの出力信号に基づいてビート信号位相ジャンプ時刻JPを検出している。これに対して、本変形例のビート信号位相ジャンプ時刻検出部27aは、水中探知装置外のシステムからの情報に基づいて、ビート信号位相ジャンプ時刻JPを検出している。具体的には、例えば、GPSから得られる水中探知装置が装備された自船の位置情報と、海図、水深・等深線データ等とから得られる海底の深さ位置が、ビート信号位相ジャンプ時刻検出部27aに入力される。ビート信号位相ジャンプ時刻検出部27aは、その海底の深さ位置に基づいて、ビート信号位相ジャンプ時刻JPを検出する。このような構成であっても、上記実施形態の場合と同様、物標に起因するピーク波形に伴って生じるサイドローブを低減できる。
【0081】
(4)
図16は、変形例に係る水中探知装置の信号処理部10dの構成を示すブロック図である。
図15に示す変形例の処理対象信号抽出部20cでは、水中探知装置外のシステムからの情報に基づいてビート信号位相ジャンプ時刻JPを検出したが、これに限らない。本変形例の処理対象信号抽出部20dのビート信号位相ジャンプ時刻検出部27bは、あるピングにおけるビート信号位相ジャンプ時刻JPを、対象物標情報生成部40によって検出された、1つ前のピングにおける海底の深さ位置に関する情報に基づいて、決定する。具体的には、例えば一例として、あるピングにおけるビート信号位相ジャンプ時刻JPは、1つ前のピングにおける海底の深さ位置(具体的には、1つ前のピングにおける最もレベルの高いエコーのピークの深さ位置)に基づいて決定される。このような構成であっても、上記実施形態の場合と同様、物標に起因するピーク波形に伴って生じるサイドローブを低減できる。
【0082】
(5)
図17は、変形例に係る水中探知装置の処理対象信号抽出部20eの構成を示すブロック図である。本変形例に係る水中探知装置は、
図12に示す変形例に係る水中探知装置1bと比べて、処理対象信号抽出部の構成が異なっている。具体的には、本変形例の処理対象信号抽出部20eは、
図13に示す処理対象信号抽出部20bと比べて、窓関数乗算部及び周波数解析部の動作が異なっている。また、処理対象信号抽出部20eは、
図13に示す処理対象信号抽出部20bに対して、絶対値算出部24、最小値選択部25、及びデータ選択部26を更に備えた構成となっている。
【0083】
本変形例でも、
図12に示す変形例の場合と同様、ゲート区間は、当該ゲート区間の中心時刻がビート信号位相ジャンプ時刻からずれるように設定される。ビート信号抽出部21は、そのようにして設定されたゲート区間内に含まれる信号を抽出し、窓関数乗算部22eに出力する。
【0084】
窓関数乗算部22eには、上記実施形態の窓関数乗算部22a,22b,22cの場合と同様、複数の(例えばN個の)窓関数が記憶されている。そして、窓関数乗算部22eは、ビート信号抽出部21からの信号にN個の窓関数のそれぞれを乗算し、N個の窓処理後信号を算出する。
【0085】
周波数解析部23eは、N個の窓処理後信号のそれぞれを周波数解析し、N個の複素スペクトルを生成する。
【0086】
絶対値算出部24は、N個の複素スペクトルのそれぞれを検波することによって得られる複素データのそれぞれの絶対値を算出する。
【0087】
最小値選択部25は、絶対値算出部24によって算出されたN個の絶対値のうち最も値が小さい絶対値を選択し、その絶対値が算出された複素データに対応して付された番号を、各深さ位置における選択番号として、データ選択部26に出力する。
【0088】
データ選択部26は、最小値選択部25から出力された選択番号に対応する番号が付された複素データを、処理対象信号として対象物標情報生成部40へ出力する。データ選択部26は、深さ位置毎に選択した処理対象信号を、IQエコーデータとして順次、対象物標情報生成部40へ出力する。
【0089】
以上のように、本変形例に係る水中探知装置によれば、
図12に示す変形例の場合と同様、ビート信号位相ジャンプ時刻JPを避けてゲート区間を設定できるため、適切なゲート区間を設定できる。
【0090】
また、本変形例の水中探知装置によれば、ビート信号抽出部21によって抽出された抽出ビート信号に対して複数の窓関数が掛けられ、複数の窓処理後信号が生成される。そして、当該複数の窓処理後信号から得られる複素データの絶対値が算出され、その絶対値が最も小さい窓処理後信号が、処理対象信号として選択される。そうすると、最もサイドローブを低減可能な窓関数が掛けられた抽出ビート信号が処理対象信号として選択されるため、より適切にサイドローブを低減できる。
【0091】
(6)
図18は、変形例に係る水中探知装置1fの構成を示すブロック図である。また、
図19は、
図18に示す信号処理部10fのブロック図である。本変形例に係る水中探知装置1fは、上記実施形態に係る水中探知装置1と比べて、受波部及び信号処理部の構成が大きく異なっている。以下では、上記実施形態と異なる部分について主に説明し、それ以外の部分については説明を省略する。
【0092】
受波部8は、直線状に配列された複数の(本変形例の場合、M個の)受波素子としての超音波素子Sm(m=1,2,…M)を有している。各超音波素子Smは、超音波を受波する受波面が海中に露出するように、船底に対して固定されている。各超音波素子Smで受波された超音波は、受信信号としての電気信号に変換され、受信部6による増幅及びA/D変換が行われた後、M個の超音波素子Smのそれぞれに対応して設けられたチャンネルCHmを通じて、信号処理部10fに出力される。
【0093】
信号処理部10fは、送信信号生成部11と、ビート信号生成部12fと、処理対象信号抽出部20fと、対象物標情報生成部40fとを有している。送信信号生成部11は、上記実施形態の場合と同様、送波部2から送波される送信波の基となる送信信号を生成する。当該送信信号は、送信部5及びビート信号生成部12fへ送信される。
【0094】
ビート信号生成部12fは、各チャンネルCHm(m=1,2,…,M)を通じて入力された各超音波素子Smからの受信信号RXmのそれぞれに基づき、ビート信号BSmを生成する処理を行う。ビート信号生成部12fは、高周波ローカル信号生成部13と、低周波ローカル信号生成部14と、M個の第1乗算部15と、M個の第2乗算部16と、M個の加算部17と、を有している。
【0095】
高周波ローカル信号生成部13は、上記実施形態の場合と同様にして、高周波ローカル信号LOHを生成する。低周波ローカル信号生成部14も、上記実施形態の場合と同様にして、低周波ローカル信号LOLを生成する。高周波ローカル信号LOHは、各チャンネルCHmに対応して設けられた複数の第1乗算部15のそれぞれに出力される。一方、低周波ローカル信号LOLは、各チャンネルCHmに対応して設けられた複数の第2乗算部16のそれぞれに出力される。
【0096】
各第1乗算部15には、対応する超音波素子Smからの受信信号RXmと、高周波ローカル信号生成部13によって生成された高周波ローカル信号LOHとが入力される。各第1乗算部15では、これらの信号がミキシングされる。そして、各第1乗算部15は、その演算結果から高周波ローカル信号LOHの周波数と受信信号RXmの周波数との差を周波数成分として有する信号を抽出し、その信号を加算部17に出力する。
【0097】
各第2乗算部16には、対応する超音波素子Smからの受信信号RXmと、低周波ローカル信号生成部14によって生成された低周波ローカル信号LOLとが入力される。各第2乗算部16では、これらの信号がミキシングされる。そして、各第2乗算部16は、その演算結果から低周波ローカル信号LOLの周波数と受信信号RXmの周波数との差を周波数成分として有する信号を抽出し、その信号を加算部17に出力する。
【0098】
各加算部17は、第1乗算部15から出力される信号と第2乗算部16から出力される信号とを加算する。そして、各加算部17は、その加算結果をビート信号BSmとして、各加算部17に対応して設けられたビート信号抽出部21へ出力する。
【0099】
処理対象信号抽出部20fは、M個のビート信号抽出部21、窓関数乗算部22、及び周波数解析部23と、代表信号生成部29と、ビート信号位相ジャンプ時刻検出部30と、ゲート区間決定部31と、を有している。
【0100】
代表信号生成部29は、各超音波素子Sm(m=1,2,…,M)から得られた受信信号RXmの代表信号を生成する。例えば、代表信号生成部29は、全ての受信信号RXmを総和することにより、代表信号を生成する。なお、代表信号生成部29での代表信号の生成手法は、全ての受信信号RXmの総和に限らず、その他の手法によって代表信号を生成してもよい。例えば、M個の超音波素子Smのうち所定の超音波振動子(例えば、直線状に配置された超音波素子のうちの中心部に位置する超音波振動子)の受信信号を、代表信号としてもよい。或いは、直線状に配置された超音波素子のうちの端部に配置された超音波素子を除く超音波振動子、のそれぞれで得られた受信信号を総和することにより、代表信号を生成してもよい。
【0101】
ビート信号位相ジャンプ時刻検出部30は、代表信号生成部29で生成された代表信号において、ビート信号の位相のジャンプが発生している位置を検出する。具体的には、例えば一例として、ビート信号位相ジャンプ時刻検出部30は、代表信号の瞬時周波数を随時算出し、その瞬時周波数が大きく変化した時刻を、ビート信号位相ジャンプ時刻として検出する。なお、ビート信号位相ジャンプ時刻検出部30でのビート信号位相ジャンプ時刻の検出手法はこれに限らず、本明細書中に記載したその他の手法であってもよい。
【0102】
ゲート区間決定部31は、
図12から
図14を用いて説明した上記変形例の場合と同様、ゲート区間の中心時刻がビート信号位相ジャンプ時刻からずれるように、ゲート区間の位置を決定する。具体的には、例えば一例として、上記変形例の場合と同様、ゲート区間の中心時刻とビート信号位相ジャンプ時刻とのずれ量(言い換えれば、時間間隔)が所定時間となるように、ゲート区間の位置を決定する。しかし、これに限らず、ゲート区間決定部31は、ビート信号位相ジャンプ時刻JPがゲート区間に含まれないように、ゲート区間の位置を決定してもよい。ゲート区間決定部31によって決定されたゲート区間は、各ビート信号抽出部21へ通知される。
【0103】
各ビート信号抽出部21は、対応するチャンネルCHmを通じて入力されたビート信号BSmの中から、ゲート区間決定部31によって決定されたゲート区間に含まれる部分を抽出して、対応する窓関数乗算部22へ出力する。窓関数乗算部22は、対応するビート信号抽出部21から出力された信号に対して所定の窓関数を乗算して、対応する周波数解析部23へ出力する。周波数解析部23は、対応する窓関数乗算部22から出力された信号を周波数解析することにより得られた複素データを、IQエコーデータとして対象物標情報生成部40fへ出力する。これにより、対象物標情報生成部40fには、各受信信号RXmに対応して生成されたIQエコーデータが入力される。
【0104】
対象物標情報生成部40fは、各超音波素子Smに対応して生成されたIQエコーデータを用いて、自船を基準とした対象物標の方位及び距離を、例えば一例としてビームフォーミング処理を行うことにより算出する。また、対象物標情報生成部40fは、このようにして算出された対象物標の方位及び距離に基づき、自船下方の画像信号を生成する。
【0105】
図20(A)は、
図18に示す表示部7に表示される表示画面の一例を示す図である。また、
図20(B)は、比較例に係る水中探知装置の表示部に表示される表示画面の一例を示す図である。
図20(A)及び(B)では、自船下方に11個のターゲットを配置した状況において各水中探知装置を作動させた場合の探知結果を示している。
【0106】
比較例に係る水中探知装置では、本変形例に係る水中探知装置1fのような代表信号を生成する処理、及び代表信号に対して適切なゲート区間を決定する処理が行われていない。このような水中探知装置では、
図20(B)に示すように、ターゲットの探知漏れが発生する。その理由について詳しく説明すると、比較例に係る水中探知装置では、チャンネル毎に独立して各受信信号RXmに対応して決定したゲート区間に基づき、各チャンネルのIQエコーデータを算出し、それらをビームフォーミング処理している。そうすると、各チャンネルのIQエコーデータの位相関係がずれるため、上述のようなターゲットの探知漏れが発生する。
【0107】
これに対して、本変形例に係る水中探知装置1fでは、比較例に係る水中探知装置のような探知漏れが発生せず、自船下方に配置した11個のターゲット全てを確認することができた。
【0108】
以上のように、本変形例に係る水中探知装置1fによっても、上記実施形態に係る水中探知装置1の場合と同様、対象物標の探知漏れを防止することができる。
【0109】
また、水中探知装置1fによれば、ビームフォーミング法を用いることにより、対象物標の方位を推定することができる。
【0110】
(7)
図21は、変形例に係る水中探知装置の処理対象信号抽出部20gの構成を示すブロック図である。本変形例に係る水中探知装置は、
図19に示す処理対象信号抽出部20fと比べて、窓関数乗算部及び周波数解析部の動作が異なっている。また、処理対象信号抽出部20gは、
図19に示す処理対象信号抽出部20fに対して、チャンネル毎に、絶対値算出部24、最小値選択部25、及びデータ選択部26を更に備えた構成となっている。なお、絶対値算出部24、最小値選択部25、及びデータ選択部26の構成及び動作は、
図17に示すそれらの構成及び動作と同じであるため、その説明を省略する。
【0111】
本変形例でも、
図19に示す変形例の場合と同様、ゲート区間は、当該ゲート区間の中心時刻が代表信号のビート信号位相ジャンプ時刻からずれるように設定される。チャンネル毎に設けられたビート信号抽出部21は、上述のようにして設定されたゲート区間内に含まれる信号を抽出し、対応する窓関数乗算部22gに出力する。
【0112】
各窓関数乗算部22gには、上記実施形態の窓関数乗算部22a,22b,22cの場合と同様、複数の(例えばN個の)窓関数が記憶されている。そして、各窓関数乗算部22gは、ビート信号抽出部21からの信号にN個の窓関数のそれぞれを乗算し、N個の窓処理後信号を算出する。
【0113】
各周波数解析部23gは、N個の窓処理後信号のそれぞれを周波数解析し、N個の複素スペクトルを生成する。
【0114】
以上のように、本変形例に係る水中探知装置によれば、
図19に示す変形例に係る水中探知装置の場合と同様、対象物標の探知漏れを防止することができる。
【0115】
また、本変形例に係る水中探知装置によれば、
図17に示す変形例の処理対象信号抽出部20eの場合と同様、最もサイドローブを低減可能な窓関数が掛けられた抽出ビート信号が処理対象信号として選択されるため、より適切にサイドローブを低減できる。
【0116】
(8)上述した変形例では、処理対象信号の候補となる複数の信号の中から、絶対値が最も小さい信号を処理対象信号として選択したものもあるが、これに限らず、その他の判定基準を用いて処理対象信号を決定してもよい。具体的には、例えば一例として、所定深さ位置の処理対象信号を決定する場合、当該深さ位置前後の位置のエコー強度に応じて、前記所定深さ位置の処理対象信号を決定してもよい。
【0117】
(9)上記実施形態では、信号処理部10による信号処理が、受信部6によってA/D変換された後の受信信号RXに対して行われているが、これに限らず、信号処理部10による信号処理は、A/D変換前の受信信号に対して行われてもよい。
【0118】
(10)上記実施形態では、3つのゲート区間G
1〜G
3を設定したが、これに限らず、2又は4以上のゲート区間を設定してもよい。また、上記実施形態では、基本ゲート区間G
2と前側ゲート区間G
1(又は後側ゲート区間G
3)とのオーバーラップ範囲が、基本ゲート区間G
2の前側半分(又は後側半分)となるように設定したが、これに限らない。具体的には、上記オーバーラップ範囲は、基本ゲート区間G
2の半分を超えていてもよく、又は半分未満であってもよい。
【0119】
(11)
図22は、変形例に係る水中探知装置の信号処理部10hの構成を示すブロック図である。また、
図23は、
図22に示す選択番号決定処理部33の構成を示すブロック図である。また、
図24は、
図22に示す候補データ生成部19の構成を示すブロック図である。
図18に示す水中探知装置1fでは、代表信号に基づいてビート信号位相ジャンプ時刻を検出し、当該時刻を避けるように(或いは当該時刻がゲート区間の中心からずれるように)ゲート区間を設定することにより、サイドローブを低減するのに適切なゲート区間を設定した。しかし、これに限らず、以下で示すような手法を用いてもよい。この手法では、エコー画像を生成するための処理対象信号の抽出の仕方(すなわち、ゲート区間の設定の仕方)が、
図18に示す水中探知装置1fの手法と異なっている。以下では、
図18に示す変形例と異なる信号処理部について説明し、その他の部分については説明を省略する。
【0120】
本変形例の信号処理部10hは、
図22を参照して、送信信号生成部11と、ビート信号生成部12fと、処理対象信号抽出部20hと、対象物標情報生成部40fとを有している。送信信号生成部11、ビート信号生成部12f、及び対象物標情報生成部40fは、
図18に示す変形例に係る水中探知装置1fのそれらと構成が同じであるため、その説明を省略する。
【0121】
処理対象信号抽出部20hは、代表信号生成部29と、代表ビート信号生成部32と、選択番号決定処理部33と、複数の(本変形例の場合、M個の)候補データ生成部19及びデータ選択部26aと、を有している。代表信号生成部29は、
図19に示す代表信号生成部29を構成が同じであるため、その説明を省略する。
【0122】
代表ビート信号生成部32は、第3乗算部15aと、第4乗算部16aと、加算部17aとを有している。
【0123】
第3乗算部15aには、代表信号生成部29で生成された代表信号と、高周波ローカル信号生成部13によって生成された高周波ローカル信号LOHとが入力される。第3乗算部15aでは、これらの信号がミキシングされる。そして、第3乗算部15aは、その演算結果から高周波ローカル信号LOHの周波数と代表信号の周波数との差を周波数成分として有する信号を抽出し、その信号を加算部17aに出力する。
【0124】
第4乗算部16aには、代表信号生成部29で生成された代表信号と、低周波ローカル信号生成部14によって生成された低周波ローカル信号LOLとが入力される。第4乗算部16aでは、これらの信号がミキシングされる。そして、第4乗算部16aは、その演算結果から低周波ローカル信号LOLの周波数と代表信号の周波数との差を周波数成分として有する信号を抽出し、その信号を加算部17aに出力する。
【0125】
加算部17aは、第3乗算部15aから出力される信号と第4乗算部16aから出力される信号とを加算する。そして、加算部17aは、その加算結果を代表ビート信号BS_Rとして、選択番号決定処理部33へ出力する。
【0126】
選択番号決定処理部33は、
図23を参照して、複数の(本変形例の場合、3つの)代表ビート信号抽出部21d,21e,21f、窓関数乗算部22d,22e,22f、及び周波数解析部23d,23e,23fと、絶対値算出部24aと、最小値選択部25aとを有している。
【0127】
3つの代表ビート信号抽出部21d,21e,21fは、前側代表ビート信号抽出部21d、基本代表ビート信号抽出部21e、及び後側代表ビート信号抽出部21fを有している。これらの動作については、これらの各代表ビート信号抽出部21d,21e,21fが取り扱う信号が代表ビート信号である点を除き、上記実施形態における3つのビート信号抽出部21a,21b,21cと同じであるため、その説明を省略する。なお、各代表ビート信号抽出部21d,21e,21fは、代表ビート信号BS_Rから、抽出代表ビート信号を抽出する。また、窓関数乗算部22d,22e,22f及び周波数解析部23d,23e,23fについても、これらが取り扱う信号が代表ビート信号に基づく信号である点を除き、上記実施形態の窓関数乗算部22a,22b,22c及び周波数解析部23a,23b,23cと動作が同じであるため、その説明を省略する。3つの周波数解析部23d,23e,23fからは、それぞれに番号が付された3N個の複素データ(以下、代表信号複素データと称する)が出力される。
【0128】
絶対値算出部24aは、周波数解析部23d,23e,23fから出力された3N個の代表信号複素データのそれぞれの各点の複素値の絶対値を算出する。これにより、絶対値算出部24aによれば、距離サンプル(言い換えれば、深さ位置)毎に3N個の絶対値が算出される。
【0129】
最小値選択部25aは、絶対値算出部24aによって算出された距離サンプル毎の3N個の絶対値のうち最も値が小さい絶対値を選択し、その絶対値が算出された代表信号複素データに対応して付された番号を、各距離サンプルにおける選択番号として、各データ選択部26aに出力する。
【0130】
各候補データ生成部19は、
図24を参照して、3つのビート信号抽出部21a,21b,21cと、3つの窓関数乗算部22a,22b,22cと、3つの周波数解析部23a,23b,23cとを有している。これらの動作については、上記実施形態の場合と同様であるため、その説明を省略する。すなわち、各候補データ生成部19からは、それぞれに番号が付された3N個の複素データが出力される。なお、これら複数の複素データのそれぞれに付された番号は、複数の代表信号複素データに付された番号と、同じ規則性に基づいて決定されている。具体的には、ゲート区間(本変形例の場合、前側ゲート区間、基本ゲート区間、後側ゲート区間)の位置と、乗算された窓関数の種類(本変形例の場合、互いに異なるN個の窓関数)との組み合わせのそれぞれに対応して決定された番号が、3N個の代表信号複素データ及び3N個の複素データのそれぞれに付されている。
【0131】
データ選択部26aは、最小値選択部25aから出力された選択番号に対応する番号が付された複素データを、処理対象信号として対象物標情報生成部40fへ出力する。データ選択部26aは、距離サンプル毎に選択した処理対象信号を、IQエコーデータとして順次、対象物標情報生成部40fへ出力する。すなわち、データ選択部26aによれば、距離サンプル毎に、前側信号Sa、基本信号Sb、及び後側信号Scのいずれかに基づく信号が選択される。その結果、処理対象信号抽出部20hでは、送信波の送信周期とは非同期である処理対象信号が抽出される。
【0132】
以上のように、本変形例に係る水中探知装置では、代表信号に基づいてどのゲート区間及びどの窓関数が掛けられた複素データを選択するかが決定され、その複素データに基づいてエコー画像が生成される。具体的には、本変形例では、代表信号に基づいて生成された代表ビート信号に対して、前側ゲート区間、基本ゲート区間、後側ゲート区間内の信号が抽出され、それぞれに対して窓関数の付加と周波数解析とが行われた後、各信号に対して絶対値の算出及び最小値の選択が行われ、距離サンプル毎の選択信号が出力される。一方、各チャンネルのそれぞれの受信信号から得られたビート信号BSmに対しても、前側ゲート区間、基本ゲート区間、後側ゲート区間内の信号が抽出され、それぞれに対して窓関数の付加と周波数解析とが行われ、複数の複素データの算出が行われる。このようにして得られた複数の複素データの中から、前記代表信号に基づいて得られた選択信号と同じ番号の複素データが選択され、当該複素データに基づいてエコー画像が生成される。これにより、各チャンネル間の複素データの位相関係のずれを防止できるため、後段に設けられた対象物標情報生成部40fで適切にビームフォーミング処理を行うことができる。このような手法であっても、上記実施形態の場合と同様、物標に起因するピーク波形に伴って生じるサイドローブを低減できるため、対象物標の探知漏れを防止できる。
【0133】
(12)
図25は、本発明の実施形態に係るレーダ装置9のブロック図である。上述した実施形態及び変形例では、本発明を水中探知装置に適用する例を挙げて説明したが、これに限らず、
図25に示すように、レーダ装置に適用することもできる。これにより、対象物標の探知漏れを防止可能なレーダ装置を提供できる。なお、レーダ装置9の構成及び動作は、上記実施形態及び変形例に係る水中探知装置と比べて、送波部として電磁波の送波が可能な送波用アンテナ2aが設けられている点と、受波部として電磁波の受波が可能な受波用アンテナ3aが設けられている点と、送信波及び受信波として電磁波が取り扱われている点を除いて概ね同様であるため、その説明を省略する。