特許第6678044号(P6678044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6678044コンポジット粒子、その製造方法及び油水分離材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6678044
(24)【登録日】2020年3月18日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】コンポジット粒子、その製造方法及び油水分離材
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20200330BHJP
   B01D 17/04 20060101ALI20200330BHJP
   C08L 83/14 20060101ALI20200330BHJP
   C08L 25/06 20060101ALI20200330BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20200330BHJP
   C08G 77/50 20060101ALN20200330BHJP
【FI】
   C08J3/12 ZCET
   B01D17/04 501J
   B01D17/04 504G
   C08L83/14
   C08L25/06
   C08K3/34
   !C08G77/50
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-40689(P2016-40689)
(22)【出願日】2016年3月3日
(65)【公開番号】特開2016-180097(P2016-180097A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2018年10月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-44668(P2015-44668)
(32)【優先日】2015年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−235943(JP,A)
【文献】 特開2013−184984(JP,A)
【文献】 特開平10−265580(JP,A)
【文献】 特開昭64−000133(JP,A)
【文献】 特開2012−207197(JP,A)
【文献】 特開2015−187220(JP,A)
【文献】 特開2009−209349(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0203820(US,A1)
【文献】 特開2011−190292(JP,A)
【文献】 日本化学会第94春期年会(2014)講演予稿集III,日本,公益社団法人 日本化学会,2014年 3月12日,p.825
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28;99/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C08G 77/00−77/62
B01D 17/00−17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物、タルク及び架橋ポリスチレンを含むことを特徴とするコンポジット粒子。
【化1】

(式中、R1及びR2−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R1及びR2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、qは0〜3の整数である。R3、R4及びR5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R3、R4及びR5は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【請求項2】
一般式(1)の式中のR1及びR2が、−CF(CF3)OC37であることを特徴とする請求項1記載のコンポジット粒子。
【請求項3】
平均粒子径が、0.1〜500μmであることを特徴とする請求項1又は2の何れか一項に記載のコンポジット粒子。
【請求項4】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー、タルク、架橋ポリスチレン及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて、該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程を有することを特徴とするコンポジット粒子の製造方法。
【化2】
(式中、R1及びR2−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R1及びR2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、qは0〜3の整数である。R3、R4及びR5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R3、R4及びR5は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコンポジット粒子を用いたことを特徴とする油水分離材。
【請求項6】
請求項5記載の油水分離材に、水と油を含む混合液を接触させることを特徴とする油水分離方法。
【請求項7】
請求項5記載の油水分離材に、水と油を含むエマルションを接触させることを特徴とする油水分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンポジット粒子、その製造方法、該コンポジット粒子を用いた油水分離材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素化合物は、撥水・撥油性、酸素透過性、低屈折率などの特徴を活かして塗料や化粧品等への応用が期待できる。しかしながら、フッ素系化合物は撥水・撥油性が高すぎるため非フッ素原料に対して、分散安定性を保持させることが難しい。
【0003】
また、空気中で高い撥油性を発現するフッ素化合物は、水中では逆に撥油性が消失し、油が濡れ拡がるという欠点がある。
【0004】
油分を含んだ廃水は、環境を汚染する大きな原因となり、適切に処理することが求められている。従来、油水分離処理には、比重分離等の静置分離、遠心分離、吸着分離等の方法が用いられている。
【0005】
しかし、静置分離は多大な時間を要し、遠心分離は大がかりな装置を必要とし、吸着分離は大量の油水混合液の処理に不向きである。
【0006】
本発明者らは、先にフルオロアルキル基含有オリゴマーを用い、フルオロアルキル基含有オリゴマーに起因した優れた特性を付与した各種の新しい機能性材料を提案している(例えば、特許文献1〜3等参照)。
【0007】
また、本発明者らは、先にアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー、タルク、更に2−ヒロドキシー4−メトキシベンゾフェノン、ビスフェノールAF、ビスフェノールA等の種々の有機化合物の存在下、アルカリ条件下でのゾルーゲル反応によりタルク及び有機化合物がカプセル化されたナノコンポジット粒子を提案した(非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−209300号公報
【特許文献2】特開2010−235943号公報
【特許文献3】特開2013−185071号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本化学会講演予稿集,Vol.94th, No.3, Page.825(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1のナノコンポジット粒子では、油水分離材として用いたときに、溶剤への耐久性等の問題が懸念され、油水分離材として使用することが難しい。
【0011】
従って、本発明の目的は、油水分離材として好適に利用することが出来るコンポジット粒子、その工業的に有利な製造方法及び該コンポジット粒子を用いた油水分離材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、フロオルアルキル基含有オリゴマーを用いた新しい機能性材料の開発を進める中で、特定のフルオロアルキル基含有オリゴマーを縮合させた縮合物、タルク及び架橋ポリスチレンを含有するコンポジット粒子は優れた撥水性、親油性を有し、油水分離材として好適に利用できるものであること。更に水と油を含むエマルションに対しても、油水分離材として好適に利用することができるものであることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0013】
すなわち、本発明が提供しようとする第一の発明は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物、タルク及び架橋ポリスチレンを含むことを特徴とするコンポジット粒子である。
【化1】
(式中、R1及びR2は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R1及びR2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R1及びR2中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R3、R4及びR5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R3、R4及びR5は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0014】
また、本発明が提供しようとする第二の発明は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー、タルク、架橋ポリスチレン及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて、該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程を有することを特徴とするコンポジット粒子の製造方法である。
【化2】
(式中、R1及びR2は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R1及びR2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R1及びR2中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R3、R4及びR5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R3、R4及びR5は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0015】
また、本発明が提供しようとする第三の発明は、前記第一の発明のコンポジット粒子を用いたことを特徴とする油水分離材である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた撥水性、親油性を有したコンポジット粒子を提供することができる。また、該コンポジット粒子は水と油を分離する油水分離材として好適に利用することができる。
また、本発明によれば、該コンポジット粒子を工業的に有利な方法で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の油水分離材を用いて油水分離を行う実施形態の一つを示す概略図。
図2】本発明の油水分離材を用いて油水分離を行う実施形態の一つを示す概略図。
図3】評価1で、本発明のコンポジット粒子で改質した濾紙を用いて1,2−ジクロロエタンと水の混合液を分離処理した際の写真。
図4】評価2で実際に分離に用いたクロマトグラフィー用カラムの写真。
図5】評価2で、濾過材として本発明のコンポジット粒子を用い、処理水1を分離処理した際の写真。
図6】評価2で、濾過材として本発明のコンポジット粒子(a)又はWakogel C−500HG(b)を用い、処理水2を分離処理した際の写真。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明に係るコンポジット粒子は、前記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「フルオロアルキル基含有オリゴマー」ということもある)を縮合させた縮合物、タルク及び架橋ポリスチレンを含むことを特徴とするものである。
【0019】
本発明に係るコンポジット粒子は、フルオロアルキル基含有オリゴマー、タルク、架橋ポリスチレン及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて加水分解反応を行う反応工程を行い得られるものであることが好ましい。
【0020】
反応工程に係るフルオロアルキル基含有オリゴマーは、下記一般式(1)で表され、加水分解可能なアルコキシシリル基を有するものである。
【化3】
(式中、R1及びR2は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R1及びR2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R1及びR2中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R3、R4及びR5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R3、R4及びR5は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0021】
一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、本発明のコンポジット粒子に、主に優れた撥水性を付与するために用いられる。
【0022】
一般式(1)中のR3、R4及びR5で示される炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
一般式(1)中のR1及びR2の−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基のp及びqは、0〜10、好ましくは0〜3である。特にR1及びR2は、−CF(CF3)OC37であることが好ましい。
【0023】
一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、トリメトキシビニルシラン等のトリアルコキシビニルシランを過酸化フルオロアルカノイルと反応させることにより製造される(例えば、特開2002−338691号公報、特開2010−77383号公報参照)。
【0024】
反応工程に係るタルク(Mg3Si410(OH)2)は、本発明のコンポジット粒子に、主に優れた親油性を付与する成分である。
【0025】
タルクは、微細なコンポジット粒子を製造する観点から微細なものを用いることが好ましく、動的光散乱法により求められる平均粒子径が5〜1000nm、好ましくは20〜500nmであることが好ましい。本発明においてタルクは、市販品を好適に用いることが出来る。
【0026】
反応工程に係る架橋ポリスチレンは、本発明のコンポジット粒子に溶剤への耐久性及び優れた油水分離能を付与するために用いられる。
【0027】
本発明において、架橋ポリスチレンとは、スチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン等のモノビニル芳香族化合物と、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、トリビニルベンゼン等のポリビニル芳香族化合物との架橋共重合体である。
【0028】
架橋ポリスチレンの物性は、微細なコンポジット粒子を製造する観点から微細なものを用いることが好ましい。微細な架橋ポリスチレンは、凝集している場合が多く、一次粒子の粒子径を測定することは困難であるが、レーザー光散乱法により求められる二次粒子の平均粒子径が0.1〜500μm、好ましくは5〜200μmであればよい。本発明において架橋ポリスチレンは、市販品を好適に用いることが出来る。
【0029】
反応工程に係る反応溶媒は、前記フルオルアルキル基含有オリゴマーが溶解できるものが用いられる。反応工程に係る反応溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、この中で、メタノールが特に好ましい。
【0030】
本発明の反応工程において、反応原料溶液を調製する際に、フルオロアルキル基含有オリゴマー、タルク及び架橋ポリスチレンを反応溶媒に混合する順序は特に制限されるものではない。
【0031】
反応原料溶液中のタルクの含有量は、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー100mgに換算した値で、1〜500mg、好ましくは20〜300mgである。反応原料溶液中の前記タルクの含有量が、上記範囲にあることにより、親油性、撥水性が優れたものになる。
【0032】
反応原料溶液中の架橋ポリスチレンの含有量は、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー100mgに換算した値で、5〜800mg、好ましくは10〜500mgである。反応原料溶液中の前記架橋ポリスチレンの含有量が、上記範囲にあることにより、耐久性及び油水分離能が優れたものになる。
【0033】
反応工程において、反応原料溶液に加えるアルカリとしては、フルオロアルキル基含有オリゴマー中のアルコキシシリル基の加水分解を行うことができるものであれば、特に制限されず、例えば、アルカリとしては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等が挙げられ、反応性が高い点で、好ましくは水酸化アンモニウムである。
【0034】
反応原料溶液に加えるアルカリの混合量は、特に制限されず、適宜選択される。また、反応原料溶液に、アルカリを混合して、フルオロアルキル基含有オリゴマー中のアルコキシシリル基の加水分解を行う際の反応温度は、−5〜50℃、好ましくは0〜30℃である。反応温度が、−5℃未満だと、アルコキシシリル基の加水分解速度が遅くなり過ぎるので、反応効率が悪く、また、50℃を超えると、コンポジット粒子の分散安定性が低くなり易い。また、反応原料溶液に、アルカリを混合して、アルコキシシリル基の加水分解を行う際の反応時間は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは1〜72時間、特に好ましくは1〜24時間である。
【0035】
そして、反応工程を行うことにより、シロキサン結合を主骨格とするコンポジット粒子が生成し、本発明に係るコンポジット粒子を含有する反応液が得られる。
【0036】
反応終了後、常法により減圧下に溶媒を除去、必要により洗浄等の精製を行ってコンポジット粒子を得る。
【0037】
本発明において、前記コンポジット粒子を含有する反応液は、後述するように油水分離材として使用するための、各種基材の改質を行う改質液としてそのまま使用することが出来る。
【0038】
また、本発明のコンポジット粒子の他の好ましい物性としては、動的光散乱法により求められる平均粒子径が好ましくは0.1〜500μm、好ましくは10〜250μmである。平均粒子径が前記範囲内にあると、種々の分散溶媒、樹脂材料、各種基材等への分散性が良好である点で好ましい。
【0039】
本発明に係る油水分離材は、前記コンポジット粒子を用いたことを特徴とするものである。
【0040】
本発明に係る油水分離材と、水と油を含む混合液を接触させることにより水と油を分離することが出来る。
【0041】
発明のコンポジット粒子は、例えば、以下の2つの方法により油水分離材として用いることが出来る。
(1)水に不溶な基材を本発明のコンポジット粒子で改質する方法。
(2)本発明のコンポジット粒子自体をそのまま濾過材として用いる方法。
【0042】
前記(1)に係る基材としては、水に不溶である無機物や有機物を用いることが出来る。無機物としては、例えば、ガラス繊維、シリカ、シリカゲル、アルミナ、スラグウール、モレキュラーシーブ、ゼオライト、活性炭、珪藻土、砂、石綿等が挙げられる。有機物としては、天然高分子または合成高分子であってもよい。天然高分子としては、例えば、セルロース、羊毛、綿、絹等が挙げられる。合成高分子としては、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート等の縮合系または付加系重合高分子重合体や、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル等のエチレン系不飽和高分子重合体等が挙げられる。
【0043】
また、基材の形状は、特に制限されるものではなく、例えば、細片状、海綿状、リボン状、フィブリル状、ウェブ状、マット状、綿布状、不織布状等が挙げられる。
【0044】
また、本発明においては、市販の濾紙等を改質する基材として用いてもよい。この場合、濾紙の孔径は5μm以下、好ましくは0.1〜3μmとすることが効率的に油水分離を行う観点から好ましい。
【0045】
前記(1)において、基材を本発明のコンポジット粒子で改質する方法としては、本発明のコンポジット粒子を基材の表面や内部に固定或いは担持することが出来る方法であれば特に制限はなく公知の方法を用いることが出来る。その一例を挙げると、本発明のコンポジット粒子が1〜50wt%の濃度で分散した分散液に、基材を接触させた後、乾燥する方法等がある。また、分散液と基材との接触は、基材を分散液へ浸漬する方法、スプレーにより基材に吹き付ける方法、或いは基材へ分散液を塗布する方法等により行うことが出来る。
【0046】
なお、コンポジット粒子が分散した分散液は、前記した反応終了後のコンポジット粒子を含む反応液をそのまま用いてもよい。
【0047】
図1は、本発明のコンポジット粒子により改質を行った濾紙を用いて、水と油の混合液を分離処理する場合の一つの実施形態を示す概略図である。
【0048】
図1に示す実施形態では、カラム(1b)、改質した濾紙(1a)からなる簡単な分離システム(A)を備え、改質した濾紙(1a)は本発明のコンポジット粒子で改質したものである。
カラム(1b)の途中に改質した濾紙(1a)を噛ませることで、カラム(1b)に投入された水と油の混合液(1)は改質した濾紙(1a)と接触する。油(1')は改質した濾紙(1a)を通過し、水は改質した濾紙(1a)を通過することが出来ないので、水と油を分離することが出来る。なお、必要により分離効率を高めるため分離操作は圧力をかけたり、或いは減圧下に行うことができる。この場合、先に油(1’)は改質した濾紙(1a)を選択的に通過し、次いで強い外力により水は遅れて改質した濾紙(1a)を通過する場合があるが、水が溶出する前に、油水分離操作を終える等の手段により改質した濾紙(1a)を介して水と油を分離することができる。
【0049】
図2は、本発明のコンポジット粒子を濾過材として用いて、水と油の混合液を分離処理する場合の一つの実施形態を示す概略図である。
図2に示す実施形態では、カラム(2b)、濾過材(2c)を含む濾過材層(2a)からなる簡単な分離システム(B)を備えている。
カラム(2b)には濾過材(2c)として本発明のコンポジット粒子が充填されて濾過材層(2a)が形成されている。カラム(2b)に水と油の混合液(1)を投入することにより、濾過材(2c)と混合液を接触させることが出来る。油(1')は濾過材層(2a)を通過し、水は濾過材層(2a)を通過することが出来ないので、水と油を分離することが出来る。なお、必要により分離効率を高めるため分離操作は圧力をかけたり、或いは減圧下に行うことができる。また、目詰まり等を抑制するため、濾過材層(2a)の上部及び/又は下部に濾過助剤を充填した層を必要により設けることが出来る。
【0050】
用いることができる濾過助剤としては、特に制限はなく広く公知のものを用いることができる。例えば、珪藻土、砂粒子、真珠岩、アンスラサイト、セルロース、羊毛、綿、絹、炭素質濾過助剤、酸性白土、ベントナイト、セライト、タルク、マイカ、カオリナイト等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることが出来る。
【0051】
本発明に係る油水分離材で処理対象する水と油の混合液は、溶液状態のものであってもエマルションであってもよい。
【0052】
本発明に係る油水分離材は、例えば、油を含んだ廃水処理、各種産業分野での生産現場での水と油の分離或いは精製手段等に利用することが出来る。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<フルオロアルキル基含有オリゴマー試料>
フルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「VM」という)として下記表1のものを使用した。
【表1】
表1中、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量である。
【0054】
{実施例1〜4}
VM(100mg)をメタノール溶液5mlに溶解し、タルク(浅田製粉社製 平均粒子径;131nm)100mg及び表2に示す量の架橋ポリスチレン(東京化成工業社製 平均粒子径;92μm)を添加し、次いで25wt%アンモニア水溶液(2ml)を添加し、マグネチックスターラーにより室温(25℃)で1時間撹拌を行って、反応液試料を得た。
反応終了後、反応液試料から減圧下で溶媒を除去し、得られた粗生成物をメタノール中に一晩分散させた。次いで、遠心分離処理して目的物を固形分として分離し、得られた固形分をメタノールで数回洗浄し、溶媒除去後に、50℃で真空乾燥して目的物(コンポジット粒子試料)を得た。
また、得られたコンポジット粒子試料をFT−IRで測定した。
IR(KBr、cm-1);1600(ポリスチレン)、1338、1240(C−F)、1016(Si−O−Si)、750(C−C)、1687(C=C)
【0055】
{比較例1〜2}
タルク又は架橋ポリスチレンを添加しないで反応を行う以外は実施例1と同様な反応条件にて反応を行い、反応液試料及びコンポジット粒子試料を得た。
【0056】
【表2】
【0057】
<物性の評価>
上記で調製したコンポジット粒子について平均粒子径及びドデカンと水の接触角を測定した。
なお、平均粒子径とドデカンと水の接触角は下記のように測定した。
(平均粒子径の評価)
得られたコンポジット粒子を、メタノールに再分散させて粒度分測定計(島津製のSALD-200 V)を用いて測定した。
(ドデカンと水の接触角の評価)
各実施例及び比較例で得られた反応液試料に、ガラス板を1分間、室温(25℃)で浸し、ガラス板を引き上げた後、自然乾燥、さらに一晩真空乾燥を行って改質ガラス板試料を調製した。この改質ガラス板試料の表面のドデカンと水の接触角を協和界面科学製のDrop Master.300を使用して評価した。その結果を表3に示した。
なお、接触角の評価は、水及びドデカンを滴下30分後の値として評価した。
また、VMのみで処理したものをブランク1とし、タルクのみで処理したものをブランク2として評価し、その評価結果を表3に併記した。
【0058】
【表3】
【0059】
(油水分離材としての評価)
評価1;
実施例1で得られた反応液試料に、3cm四方にカットした濾紙(Advantec: 131、孔径3μm)を1分間、室温(25℃)で浸し、濾紙を引き上げた後、自然乾燥、さらに一晩真空乾燥を行って改質濾紙試料を調製した。
この改質濾紙による水―油分離について、1,2−ジクロロエタンと水の混合液(1:1vol.)2mlにより検討を行った。混合液中の水は硫酸銅五水和物により青色に着色した。
また、改質処理を行わない濾紙を用いた場合についても同様に評価を行った。
【0060】
(評価1の結果)
図3に示したように改質濾紙試料を漏斗で挟み、減圧下における混合液の濾過により水―油の分離試験を行った。評価1の結果を表4に示す。なお表4中の記号は下記のことを示す。
○;目視で濾液に水が観察されない。
△;目視で濾液に若干の水の混入が観察される。
×;目視で濾液に多くの水の混入が観察される。
【表4】
また、図3に示すように、改質濾紙試料を用いて減圧下において混合液を濾過することにより、改質濾紙を1,2−ジクロロエタンのみが通過し、水と1,2−ジクロロエタンを分離することができた。
一方、改質処理を行わない濾紙を用いて減圧下において混合液を濾過したところ、水と1,2−ジクロロエタンの両方が濾紙を通過したため、水と1,2−ジクロロエタンを分離することができなかった。
【0061】
評価2;
クロマトグラフィー用カラム(内径10mm)に海砂を層厚が約2mmになるに充填し、次いで実施例1で得られたコンポジット粒子200mg(層厚約4mm)を充填し、更にその上に海砂を層厚が約2mmになるに充填した(図4参照)。なお、図4中の「Rf-(VM-SiO2)n-Rf/Talc/Pst」は、コンポジット粒子を示す。
このクロマトグラフィー用カラムを用いて、下記の2種類の処理水について水−油の分離試験を行った。
また、コンポジット粒子に代えてWakogel C−500HGを用いたものを同様に試験した。
処理水1(混合液);
1,2−ジクロロエタンと水の混合液(1:1vol.)2mlを調製した。なお、混合液中の水は硫酸銅五水和物により青色に着色した。
処理水2(エマルション);
1,2−ジクロロエタン(5ml)と水(0.05ml)及び乳化剤としてSpan80(20mg)を混合し、エマルションを調製した。
【0062】
(評価2の結果)
評価2の結果を表5に示す。なお表5中の記号は下記のことを示す。
○;目視で濾液に水が観察されない。
△;目視で濾液に若干の水の混入が観察される。
×;目視で濾液に多くの水の混入が観察される。又は目視で濾液にエマルションが観察される。
【表5】
また、図5に示すように、本発明のコンポジット粒子を濾過材として用いて減圧下において処理水1を濾過することにより、濾過材層を1,2−ジクロロエタンのみが通過し、水と1,2−ジクロロエタンを分離することができた。
一方、処理水1を濾過材としてWakogel C−500HGを用いて処理した場合は、濾過後の濾液に1,2−ジクロロエタンに加えて若干水が混入していることが目視でも確認できた。
【0063】
また、図6(a)に示すように、本発明のコンポジット粒子を濾過材として用いて減圧下において処理水2を濾過することにより、濾過材層を1,2−ジクロロエタンのみが通過し、エマルションから水と1,2−ジクロロエタンを分離することができた。
一方、図6(b)に示すように、処理水2を濾過材としてWakogel C−500HGを用いて処理した場合は、濾過材層をエマルションごと通過し、エマルションから水と1,2−ジクロロエタンを分離することができなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6