特許第6678046号(P6678046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6678046
(24)【登録日】2020年3月18日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】質量分析によるサイログロブリン定量
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20200330BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
   C12Q1/37ZNA
   G01N27/62 V
   G01N27/62 X
【請求項の数】13
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-47198(P2016-47198)
(22)【出願日】2016年3月10日
(62)【分割の表示】特願2015-533192(P2015-533192)の分割
【原出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2016-165284(P2016-165284A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2016年6月16日
【審判番号】不服2018-9943(P2018-9943/J1)
【審判請求日】2018年7月20日
(31)【優先権主張番号】61/703,721
(32)【優先日】2012年9月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505063050
【氏名又は名称】クエスト ダイアグノスティックス インヴェストメンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】ザン,ヤンニ
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ニゲル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ライツ,リチャード イー.
【合議体】
【審判長】 田村 聖子
【審判官】 中島 庸子
【審判官】 小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/111249号
【文献】 Clinical Chemistry,2008年,Vo.54,No.11,pp.1796−1804
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12Q
C12N15/
C12N 9/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/EMBASE/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験試料中のサイログロブリンの量を決定するための方法であって、
(a)前記被験試料中のサイログロブリンおよび添加した同位体標識サイログロブリンペプチド標準を消化して、TgペプチドおよびTgペプチド標準産物を生成するステップと、ここで、TgペプチドおよびTgペプチド標準産物いずれも配列番号1のアミノ酸配列を含み、
(b)ステップ(a)からの前記TgペプチドおよびTgペプチド標準産物を精製するステップと、
(c)ステップ(b)からの前記TgペプチドおよびTgペプチド標準産物をイオン化して、質量分析によって検出可能な1種または複数のTgペプチドイオンおよびTgペプチド標準産物イオンを産生するステップと、
(d)質量分析によって、ステップ(c)からの612.3±0.5、726.4±0.5、および797.4±0.5の質量/電荷比を有するイオンの群から選択される1種または複数のイオンの量を検出するステップであって、ステップ(d)で検出されるイオンの量を、ステップ(a)で消化された前記被験試料中のサイログロブリンの量およびサイログロブリンペプチド標準の量と関係付けるステップと、
を含む方法。
【請求項2】
サイログロブリンペプチド標準の長さが、50アミノ酸残基未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
TgペプチドおよびTgペプチド標準産物の両方が、T129ペプチド(配列番号1、VIFDANAPVAVR)を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
サイログロブリンペプチド標準が、配列番号2のアミノ酸配列(KVPESKVIFDANAPVAVRSKVPDS)を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
サイログロブリンペプチド標準が、配列番号2(KVPESKVIFDANAPVAVRSKVPDS)に対し少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、ステップ(a)の消化によりT129ペプチド(配列番号1、VIFDANAPVAVR)を生成することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
被験試料に添加された同位体標識サイログロブリンペプチド標準の量が既知である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(c)において産生されたTgペプチドイオンが、さらに541.3±0.5、636.4±0.5、912.4±0.5または1059.5±0.5の質量/電荷比を有するイオンの群から選択される1種または複数のイオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン化が、さらに636.4±0.5の質量/電荷比を有するTgペプチド前駆イオンを生成することと、912.4±0.5または1059.5±0.5の質量/電荷比を有する1種または複数の断片イオンを生成することとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記被験試料が、体液または組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
被験試料中のサイログロブリンの量を決定するための方法であって、
(a)前記被験試料中のサイログロブリンを消化して、ペプチドT129を生成し、前記被験試料中の添加された同位体標識サイログロブリンペプチド標準を消化して、同位体標識ペプチドT129内部標準を生成するステップと、ここで、ペプチドT129およびペプチドT129内部標準いずれも配列番号1のアミノ酸配列を含み、
(b)ステップ(a)からの前記ペプチドT129およびペプチドT129内部標準を精製するステップと、
(c)ステップ(b)からの前記ペプチドT129およびペプチドT129内部標準をイオン化して、タンデム質量分析によって検出可能な2種以上の前駆イオンを生成するステップであり、ペプチドT129の前記前駆イオンが、636.4±0.5の質量/電荷比を有するステップと、
(d)質量分析装置において前記前駆イオンを断片化して、質量分析によって検出可能な1種または複数の断片イオンを生成するステップであって、ペプチドT129の前記断片イオンのうち1種または複数が、797.4±0.5の質量/電荷比を有するイオンのリストから選択されるステップと、
)質量分析により、ステップ()の前記前駆イオン、ステップ()の前記断片イオンのうち1種もしくは複数、またはその両方の量を検出するステップとを含み、ステップ()で検出されたイオンの量を、前記被験試料中の前記サイログロブリンの量と関係付ける、方法。
【請求項11】
サイログロブリンペプチド標準が、配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
サイログロブリンペプチド標準が、配列番号2(KVPESKVIFDANAPVAVRSKVPDS)に対し少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、ステップ(a)の消化によりT129ペプチドを生成することができる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
被験試料に添加された同位体標識サイログロブリンペプチド標準の量が既知である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、ここに本開示の一部を構成するものとしてその内容全体を援用する、2012年9月20日に出願された米国特許仮出願第61/703,721号に基づく利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、サイログロブリンの定量に関する。特定の態様において、本開示は、質量分析によりサイログロブリンを定量するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本開示の背景に関する以下の記載は、単に本開示の理解の補助として提供されるものであり、本開示の先行技術を記載または構成するものと認めるものではない。
【0004】
サイログロブリンまたはTgは、非共有結合したホモ二量体で構成される、660kDaの分子量を有する大型の二量体の分泌性糖タンパク質である。
【0005】
Tg分子は、数種類の形態で存在する。UniProt知識ベース(Swiss−Prot+TrEMBL)に見出される3種の主要Tg分子配列は、P01266(ヒトサイログロブリン前駆体)、P01266−2(P01266のアイソフォーム2)およびQ59GF02(ヒトサイログロブリン変異体)である(それぞれ図1図2および図3を参照)。
【0006】
P01266は、2768AAの長さを有するP01266の主要な変異体であり、P01266−2は、2711AAの長さを有するP01266のアイソフォームである。P01266−2は、Tgのアミノ酸位置1510〜1567がP01266とは異なり、Q59GF0は、1574AAの長さを有するサイログロブリン断片である。Q59GF0は、Tgの1212〜2768位のアミノ酸を含有する。
【0007】
Tgは、甲状腺でのみ産生され、正常かつ十分に分化した良性の甲状腺細胞、または甲状腺がん細胞、のいずれによっても産生され得る。これは、甲状腺ホルモン合成のための前駆体タンパク質であり、甲状腺ヨウ素貯蔵のためのマトリックスとして機能する。Tgは、甲状腺によって、甲状腺ホルモン、サイロキシン(T4)およびトリヨードサイロニン(T3)を産生するために用いられる。血中のTgレベルは、分化型甲状腺癌(DTC)の腫瘍マーカーとして用いることができる。血中の高レベルTgは、それのみでは甲状腺がんの指標ではないが、甲状腺の外科的除去後の血中にTgが残留することは、甲状腺組織が残留していることの指標となる。甲状腺の外科的除去後に血中Tgが検出された後の処置過程は、残存する全ての正常甲状腺を除去するための放射性ヨウ素の投与を含み得る。全ての正常甲状腺を除去した後でも持続的に血中Tgが残留することは、ある程度の量の腫瘍がなお存在していることを示す可能性がある。
【0008】
Tgを定量するためにいくつかの方法が開発されている。例えば、Spencerら、Thyroid、1999、9(5):435〜41およびPersoonら、Clinical Chem 2006、52(4):686〜691は、Tgを定量するための免疫測定法、放射免疫測定法、および化学発光免疫測定法を開示する。これらの方法は全て、規格化の差、アッセイ間感度および精度のばらつき、フック効果、ならびにTg抗体に起因し得る干渉等、方法論上の問題の影響を受ける。甲状腺がん患者の最大20%がTg自己抗体を有するため、Tg抗体に起因し得る干渉の問題は、腫瘍マーカーとしてTg
レベルをモニターする臨床適用において特に厄介である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、タンデム質量分析などの質量分析により試料中のTgを定量するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様において、被験試料中のTgの量を決定するための方法であって、(a)Tg含有被験試料を消化処理し、Tgペプチドを作製するステップと、(b)1種または複数のTgペプチドを精製するステップと、(c)1種または複数のTgペプチドをイオン化するステップと、(d)質量分析によりTgペプチドイオンの量を検出するステップと、(e)検出されたTgペプチドイオンの量を、被験試料中のTgの量と関係付けるステップとを含む方法が提供される。Tgペプチドを調製するための好ましい酵素は、トリプシンである。本方法に適したTgペプチドは、質量分析により評価することができ、Tg以外のタンパク質から生成され得る関連ペプチドから十分に精製することができるTgペプチドである。斯かるペプチドの一例は、Tgの1579〜1590位由来のアミノ酸を含有し、約1,270Daの分子量を有し、Tgの全3種のアイソフォームに存在するペプチドT129(配列VIFDANAPVAVR;配列番号1)である。図4を参照されたい。
【0011】
ペプチドT129の形成は、サイログロブリンの特有のトリプシン生成ペプチドをもたらす。また、Tgのトリプシン消化からのペプチドT129の作製は、Tg抗体の有無の影響を受けないと予想される。よって、被験試料中のペプチドT129の増加の測定は、Tg抗体の干渉を受けずに被験試料に元から存在するTgの量を定量する方法を提供する。
【0012】
あらゆる適切な方法を用いて、試料中のTgの消化に起因するTgペプチドの量を決定することができる。被験試料が内在性Tgペプチドを含有し得る場合には、内在性ペプチドが、試料中のTgの消化により生成されるペプチドと混同されないようにするステップを採用してもよい。アプローチの1つは、Tgを消化する前に試料から内在性Tgペプチドを除去することである。これは、例えば、サイズ分離技術を用いて行うことができる。別のアプローチは、被験試料中の内在性ペプチドのベースラインレベルを確立するために、特許請求される方法に従って、但し消化ステップを除外して、被験試料の一部を解析することである。このアプローチにおいて、ベースラインが決定されたら、ペプチドの消化後レベル(内在性ペプチドおよび消化により生成されたペプチドの両方を表す)からこれを減算することができる。
【0013】
本方法は、複合被験試料(特に、体液または組織由来被験試料)に適用することができるため、消化の前に被験試料中のTgを精製するステップを採用してもよい。これは、例えば、サイズ分離技術を用いて行うことができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、本方法は、1種または複数のTgペプチドイオンを生成するステップを含み、前記イオンのうち少なくとも1種は、(一価または多価の)ペプチドT129イオンに相当する質量/電荷比(m/z)を有する。好ましい関連実施形態において、本方法は、1種または複数のTgペプチドイオンを生成するステップを含み、その少なくとも1種は、1272.8±0.5、636.4±0.5または424.3±0.5(単一、二重または三重荷電ペプチドT129イオンに相当)のm/zを有する。関連する好ましい実施形態において、本方法は、Tgペプチドイオンの1種または複数の断片イオンを生成するステップを含むことができ、その少なくとも1種は、541.3±0
.5、612.3±0.5、726.4±0.5、797.4±0.5、912.4±0.5または1059.5±0.5のm/zを有し、好ましくは、断片イオンのうち1種または複数は、797.4±0.5、912.4±0.5および1059.5±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択される。
【0015】
いくつかの実施形態において、ステップ(b)における精製は、少なくとも1回のサイズ分離技術を用いて達成される。好ましくは、サイズ分離技術は、濾過、LCまたはこれらのいずれかの組み合わせとなり得る。特定の好ましい実施形態において、被験試料は、体液または組織である。いくつかの実施形態において、1種または複数の内在性Tgペプチドのベースラインレベルを確立するために、第2の量の被験試料をステップ(b)から(e)で処理する追加のステップが含まれる。これらの実施形態において、このベースラインレベルを被験試料で検出されたTgペプチドイオンの量から減算して、元の被験試料中のTgに起因するTgペプチドイオンの量を決定することができる。他の実施形態において、本方法は、消化の前に被験試料中のTgを精製する追加の初期ステップを含む。これらの実施形態において、消化前精製および/またはステップ(b)における精製はそれぞれ、少なくとも1回のサイズ分離技術により達成することができる。好ましくは、消化前精製およびステップ(b)の両方において用いられる少なくとも1回のサイズ分離技術は、濾過である。より好ましくは、この濾過は、フィルター上にTgを保持し、濾液と共にTgペプチドを通過させる分子量カットオフを有する分子量カットオフフィルターにより行われる。関連する実施形態において、分子量カットオフは、約2kD〜300kD、より好ましくは、約100kD〜300kDである。これらの実施形態において、同じフィルターで2回の濾過(消化前およびステップ(b))を行ってもよい。
【0016】
第2の態様において、被験試料中のTgの量を決定するための方法であって、(a)Tg含有被験試料を消化処理し、ペプチドT129を作製するステップと、(b)ペプチドT129を精製するステップと、(c)ペプチドT129をイオン化して、636.4±0.5のm/zを有する前駆イオンを生成するステップと、(d)ペプチドT129前駆イオンを断片化して、1種または複数の断片イオンを生成し(ここで断片イオンのうち少なくとも1種が、約797.4±0.5、912.4±0.5または1059.5±0.5のm/zを有する)、質量分析により、ペプチドT129前駆イオン、断片イオンのうち1種もしくは複数、またはその両方の量を検出するステップと、(e)検出されたイオンの量を、被験試料中のTgの量と関係付けるステップとを含む方法が提供される。特定の好ましい実施形態において、被験試料は、体液または組織または組織である。いくつかの実施形態において、1種または複数の内在性ペプチドT129のベースラインレベルを確立するために、第2の量の被験試料をステップ(b)から(e)で処理する追加ステップが含まれる。これらの実施形態において、このベースラインレベルを、被験試料で検出されたペプチドT129イオンの量から減算して、元の被験試料中のTgに起因するペプチドT129イオンの量を決定することができる。他の実施形態において、本方法は、消化の前に被験試料中のTgを精製する追加の初期ステップを含む。これらの実施形態において、消化前精製および/またはステップ(b)における精製はそれぞれ、少なくとも1回のサイズ分離技術により達成することができる。好ましくは、消化前精製およびステップ(b)の両方において用いられる少なくとも1回のサイズ分離技術は、濾過である。より好ましくは、この濾過は、フィルター上にTgを保持し、濾液と共にTgペプチドを通過させる分子量カットオフを有する分子量カットオフフィルターにより行われる。関連する実施形態において、分子量カットオフは、約2kD〜300kD、より好ましくは、約100kD〜300kDである。これらの実施形態において、同じフィルターで2回の濾過(消化前およびステップ(b))を行ってもよい。
【0017】
本明細書において、用語「精製」または「精製する」とは、試料から目的とする分析物以外のあらゆる材料を除去することを指すものではない。その代わりに、精製は、試料の
1種または複数の他の構成成分と比べて、目的とする1種または複数の分析物の量を濃縮する手順を指す。本明細書における精製は、他のあらゆるものからの分析物の単離を必要としない。好ましい実施形態において、精製ステップまたは手順を用いて、1種または複数の干渉物質、例えば、本方法において用いられる装置の動作に干渉し得る1種もしくは複数の物質または質量分析による分析物イオンの検出に干渉し得る物質を除去することができる。
【0018】
本明細書において、イオンの質量測定値以外の、定量的測定値に関する用語「約」は、表示の値プラスマイナス10%を指す。
【0019】
本明細書において、用語「実質的に全ての」は、50%を超える、より好ましくは60%を超える、より好ましくは70%を超える、より好ましくは80%を超える、より好ましくは90%を超える、いずれかの比率を指す。
【0020】
本明細書において、用語「被験試料」は、Tgを含有し得るいずれかの試料を指す。本明細書において、用語「体液または組織」は、個体の身体から単離することができるいずれかの流体または組織を意味する。例えば、「体液または組織」は、血液、血漿、血清、胆汁、唾液、尿、涙、汗その他を含むことができる。固形組織を解析する必要がある場合、これを加工することで、組織中に存在する何らかのTgを含有する可能性がある液体部分を放出させてもよい。次に、液体部分を本明細書に記載されている方法で処理してもよい。
【0021】
本明細書において、用語「消化」は、タンパク質をペプチドにするタンパク質切断を意味する。消化剤は、トリプシン、Lyc−C、Arg−R、Asp−Nその他を含むことができる。消化は、試料に消化剤(即ち、酵素)を添加し、所定期間インキュベートすることにより行われる。
【0022】
本明細書において、「Tg」または「Tg分子」は、インタクトなTgタンパク質分子を意味する。
【0023】
本明細書において、用語「Tgペプチド」は、天然のTgの断片である、100アミノ酸以下のいずれかのペプチドを意味する。Tgペプチドは、被験試料に内在していてもよいし、あるいはTgの消化の結果として形成されてもよい。ペプチドT129は、Tgのトリプシン消化の結果として形成されるTgペプチドの一例である。
【0024】
本明細書において、用語「サイズ分離技術」は、分子量および形状のうちいずれか1種または複数に基づき、被験試料からの少なくとも1種の化学種の分離を可能にするいずれかの技術(物理的または化学的)を意味する。斯かる技術の例として、濾過、クロマトグラフィーおよび質量分析の特定の態様が挙げられるがこれらに限定されない。
【0025】
本明細書において、用語「クロマトグラフィー」は、液体または気体によって運ばれる化学的混合物が、固定された液相または固相の周り、その上および/またはその中を流動するときに、化学物質の差次的分布の結果として構成成分に分離されるプロセスを指す。
【0026】
本明細書において、用語「液体クロマトグラフィー」または「LC」は、流体が、微粉物質のカラムを通ってまたは毛細管通路を通って均一に浸出する際の、流体溶液の1種または複数の構成成分の選択的遅延のプロセスを意味する。遅延は、この流体が固定相と相対的に移動する際の、1種または複数の固定相およびバルク流体(即ち、移動相)の間の混合物の構成成分の分布に起因する。「液体クロマトグラフィー」は、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および高乱流(high
turbulence)液体クロマトグラフィー(HTLC)を含む。
【0027】
本明細書において、用語「高速液体クロマトグラフィー」または「HPLC」は、典型的には密に充填されたカラムである固定相を通して移動相を加圧下で推し進めることにより、分離の程度が増加した液体クロマトグラフィーを指す。
【0028】
本明細書において、用語「質量分析」または「MS」は、その質量により化合物を同定するための分析的技術を指す。MSは、そのm/zに基づきイオンを濾過、検出および測定する方法を指す。MS技術は、一般に、(1)化合物をイオン化して、荷電化学種(例えば、イオン)を生成するステップと、(2)イオンの分子量を検出し、そのm/zを計算するステップとを含む。化合物は、いずれかの適した手段によりイオン化および検出することができる。「質量分析計」は、一般に、イオン化装置およびイオン検出器を含む。一般に、目的とする1種または複数の分子がイオン化され、その後、イオンは質量分析装置に導入され、磁場および電場の組み合わせにより、質量(「m」)および電荷(「z」)に依存する空間中のパスをたどる。例えば、「Mass Spectrometry From Surfaces」と題する米国特許第6,204,500号;「Methods and Apparatus for Tandem Mass Spectrometry」と題する第6,107,623号;「DNA Diagnostics Based On Mass Spectrometry」と題する第6,268,144号;「Surface−Enhanced Photolabile Attachment And Release For Desorption And Detection Of Analytes」と題する第6,124,137号;Wrightら、Prostate Cancer and Prostatic Diseases 2:264〜76(1999);ならびにMerchantおよびWeinberger、Electrophoresis 21:1164〜67(2000)を参照されたい。
【0029】
本明細書において、用語「正イオンモードで操作する」は、正イオンが検出される質量分析方法を指す。同様に、用語「負イオンモードで操作する」は、負イオンが検出される質量分析方法を指す。
【0030】
本明細書において、用語「イオン化」または「イオン化する」は、1または複数の電子単位に等しい正味電荷を有する分析物イオンを生成するプロセスを指す。正イオンは、1または複数の電子単位の正味正電荷を有するイオンである。負イオンは、1または複数の電子単位の正味負電荷を有するイオンである。
【0031】
本明細書において、用語「電子イオン化」または「EI」は、気相または蒸気相における目的とする分析物が、電子の流動と相互作用する方法を指す。分析物と電子の衝突は、分析物イオンを産生し、次にこれを質量分析技術で処理してもよい。
【0032】
本明細書において、用語「化学イオン化」または「CI」は、試薬ガス(例えば、アンモニア)が電子衝突に付され、試薬ガスイオンおよび分析物分子の相互作用により分析物イオンが形成される方法を指す。
【0033】
本明細書において、用語「高速原子衝撃」または「FAB」は、高エネルギー原子(多くの場合、XeまたはAr)のビームが不揮発性試料に衝突し、試料に含有される分子を脱離およびイオン化させる方法を指す。被験試料は、グリセロール、チオグリセロール、m−ニトロベンジルアルコール、18−クラウン−6クラウンエーテル、2−ニトロフェニルオクチルエーテル、スルホラン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミン等、粘稠性の液体マトリックスに溶解される。化合物または試料に適切なマトリックスの選択は、経験的なプロセスである。
【0034】
本明細書において、用語「マトリックス支援レーザー脱離イオン化」または「MALDI」は、不揮発性試料をレーザー照射に曝露して、光イオン化、プロトン化、脱プロトン化およびクラスター崩壊を含む様々なイオン化経路により、試料中の分析物を脱離およびイオン化させる方法を指す。MALDIのため、試料は、分析物分子の脱離を容易にするエネルギー吸収マトリックスと混合される。
【0035】
本明細書において、用語「表面増強レーザー脱離イオン化」または「SELDI」は、不揮発性試料をレーザー照射に曝露して、光イオン化、プロトン化、脱プロトン化およびクラスター崩壊を含む様々なイオン化経路により、試料中の分析物を脱離およびイオン化させる別の方法を指す。SELDIのため、試料は典型的に、目的とする1種または複数の分析物を優先的に保持する表面に結合している。MALDIと同様に、このプロセスは、イオン化を容易にするためにエネルギー吸収材料を用いることもできる。
【0036】
本明細書において、用語「エレクトロスプレーイオン化」または「ESI」は、長さの短い毛細管に沿って溶液を通過させて、その末端に高い正または負の電位を印加する方法を指す。チューブの末端に達した溶液は、溶媒蒸気中で溶液の微小液滴のスプレーまたはジェットに気化(噴霧化)される。この液滴ミストは、溶媒の濃縮を防いで蒸発させるために僅かに加熱された蒸発チャンバー中を流動する。液滴が小さくなればなるほど、同じ電荷間の自然反発がイオンおよび中性分子を放出させるような時間まで、電気的表面電荷密度は増加する。
【0037】
本明細書において、用語「大気圧化学イオン化」または「APCI」は、ESIと同様の質量分析方法を指す。しかし、APCIは、大気圧におけるプラズマ内で起こるイオン−分子反応によりイオンを産生する。プラズマは、スプレーキャピラリーおよび対電極の間の放電により維持される。続いて、イオンは典型的に、差次的にポンプ注送されるスキマーステージのセットの使用により質量分析器へと抽出される。乾燥および予熱されたN2ガスの向流を用いて、溶媒の除去を改善することができる。APCIにおける気相イオ
ン化は、極性の小さい化学種を解析するためにESIよりも有効となり得る。
【0038】
用語「大気圧光イオン化」または「APPI」は、本明細書において、分子Mの光イオン化の機序が、分子M+を生成するための光子吸収および電子放出である質量分析の形態を指す。光子エネルギーは典型的に、イオン化ポテンシャルのわずかに上であるため、分子イオンは、解離に対する感受性が低い。多くの場合、クロマトグラフィーの必要なく、よって、有意な時間および費用を節約しつつ試料を解析することが可能となり得る。水蒸気またはプロトン性溶媒の存在下で、分子イオンは、Hを抽出して、MH+を生成することができる。これは、Mが高いプロトン親和性を有する場合に起こる傾向がある。M+およびMH+の合計が一定であるため、これは定量の正確性に影響を与えない。プロトン性溶媒における薬物化合物は通常、MH+として観察され、一方、ナフタレンまたはテストステロン等、非極性化合物は通常、M+を生成する。Robb、D.B.、Covey、T.R.およびBruins、A.P.(2000):例えば、Robbら、Atmospheric pressure photoionization:An ionization method for liquid chromatography−mass spectrometry.Anal.Chem.72(15):3653〜3659を参照されたい。
【0039】
本明細書において、用語「誘導結合型プラズマ」または「ICP」は、試料が、大部分の要素の微粒化およびイオン化に十分な高温で、部分的にイオン化されたガスと相互作用される方法を指す。
【0040】
本明細書において、用語「電界脱離」は、不揮発性被験試料がイオン化表面に置かれ、強電界を用いて分析物イオンが生成される方法を指す。
【0041】
本明細書において、用語「脱離」は、表面からの分析物の除去および/または気相への分析物の侵入を指す。
【0042】
本明細書において、用語「定量限界」または「LOQ」は、測定が定量的に臨界的となるポイントを指す。このLOQにおける分析物の応答は、20%の精度および80%〜120%の正確性で個別に識別可能であり、再現性がある。
【0043】
本明細書に開示されている方法の特定の好ましい実施形態において、質量分析は、正イオンモードで行われる。本明細書に開示されている方法の特定の特に好ましい実施形態において、質量分析は、Tgペプチドからイオンを作製する方法としてESIを用いて行われる。
【0044】
好ましい実施形態において、質量分析計で検出可能なTgペプチドイオン化由来のイオンは、636.4±0.5、1059.5±0.5、921.4±0.5、797.4±0.5、726.4±0.5、612.3±0.5および541.3±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択され;上記のうち1番目のイオン(636.4±0.5のm/z)は、正の2電子単位の正味電荷を有する前駆イオンであり、上記のうち後者の6イオンは、前駆イオンの断片イオンである。特に好ましい実施形態において、前駆イオンは、正の2電子単位の正味電荷および約636.4±0.5のm/zを有し、断片イオンは、1059.5±0.5、921.4±0.5または797.4±0.5のm/zを有する。
【0045】
一部の好ましい実施形態において、別々に検出可能な内部標準ペプチド(例えば、T129)は、トリプシン消化後に被験試料に導入される。これらの実施形態において、内在性Tgの消化および内部標準の添加の両方に由来する被験試料に存在するペプチドの全体または一部は、イオン化されて、質量分析計で検出可能な複数のイオンを産生し、ペプチドイオン化から産生された1種または複数のイオンは、質量分析計で検出される。
【0046】
他の好ましい実施形態において、別々に検出可能な内部Tg標準は、トリプシン消化の前に被験試料に供給される。これらの実施形態において、被験試料に存在する内在性Tgおよび内部標準の両方の全体または一部は、トリプシンにより消化されて、Tgペプチドの生成をもたらす。Tgペプチドは、イオン化されて、質量分析計で検出可能な複数のイオンを産生し、Tgペプチドイオン化から産生された1種または複数のイオンは、質量分析により検出される。
【0047】
好ましい実施形態において、Tg消化に起因するTgペプチドのイオン化から産生される質量分析計で検出可能なイオンは、636.4±0.5、1059.5±0.5、921.4±0.5、797.4±0.5、726.4±0.5、612.3±0.5および541.3±0.5のm/zを有するイオンからなる群から選択され;上記のうち1番目のイオン(636.4±0.5のm/z)は、正の2電子単位の正味電荷を有する前駆イオンであり、上記のうち後者の6イオンは、前駆イオンの断片イオンである。特に好ましい実施形態において、前駆イオンは、正の2電子単位の正味電荷および636.4±0.5のm/zを有し、断片イオンは、1059.5±0.5、921.4±0.5、797.4±0.5のm/zを有する。
【0048】
好ましい実施形態において、Tgペプチドイオンの存在または量を、参照Tg試料と比較することにより、元の被験試料中のTgの存在または量と関係付ける。
【0049】
一実施形態において、本方法は、質量分析とLCとの組み合わせを含む。別の好ましい実施形態において、質量分析は、タンデム質量分析(MS/MS)である。
【0050】
上述の本開示の概要は、非限定的であり、本開示の他の特色および利点は、次の本開示の詳細な説明と特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】MS/MSによるペプチドT129に相当するm/zを有するTgペプチドイオンの定量限界の検証を示す図である。詳細は、実施例1に記載されている。
図2】LC−MS/MSアッセイを用いた、連続希釈したストック試料中のペプチドT129の定量の直線性を示す図である。詳細は、実施例1に記載されている。
図3】MS/MSによるストリップ血清におけるペプチドT129の定量限界の検証を示す図である。詳細は、実施例2に記載されている。
図4】LC−MS/MSアッセイを用いた、ペプチドT129添加ストリップ血清におけるペプチドT129の定量の直線性を示す図である。詳細は、実施例2に記載されている。
図5】本明細書に記載されている方法に従った加工および濃縮の前にTgを添加したストリップ血清におけるLC−MS/MSアッセイを用いた、ペプチドT129に相当するm/zを有するTgペプチドイオンの定量の直線性を示す図である。詳細は、実施例3に記載されている。
図6】実施例4に記載の内部標準として用いるための、同位体標識したサイログロブリンペプチド標準の例示的な実施形態を示す図である。
図7-10】実施例5に記載されている抗体陰性患者廃棄(図7図9)および抗体陽性患者廃棄(図8図10)由来の、本技術の方法による被験試料中のサイログロブリン定量(Y軸)対、イムノアッセイまたはラジオイムノアッセイによる定量(X軸)のグラフを示す図である。
図11】P01266(ヒトサイログロブリン前駆体;配列番号3)のアミノ酸配列を示す図である。
図12】P01266−2(P01266のアイソフォーム2;配列番号4)のアミノ酸配列を示す図である。
図13】Q59GF0(サイログロブリン変異体断片;配列番号5)のアミノ酸配列を示す図である。
図14図1図3に含有されている3種の配列の比較を示す図であり、これら全てTgの1579〜1590位に相当するアミノ酸を含有することが実証される。上段が配列P01266であり、中段が配列P01266−2であり、下段が配列Q59GF0である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
被験試料中のTgを定量的に測定するための方法が記載されている。この定量的測定は、LC−MS/MS技術の使用により達成される。LC−MS/MSの使用の前に、次の技術またはそのいずれかの一部により試料を調製してもよい。被験試料中のTgの第1の精製は、被験試料中の実質的に全てのTgが保持されるようなサイズ分離技術の使用によって行うことができる。第1の精製ステップ後にTgの酵素消化を行って、目的とするTgペプチドを作製することができる。消化後に、サイズ分離技術を別途利用して、Tgの酵素消化で生成した選択Tgペプチドを精製することもできる。この第2のサイズ分離技術を用いて、実質的に全ての未消化のより高分子量の化学種を除去することができる。かかる試料調製技術を適正に実行することにより、LC−MS/MSで定量される選択Tgペプチドが、被験試料に元から存在するTgを酵素により消化することで直接生じたものであることが確保される。よって、LC−MS/MSの開始時の被験試料中の選択Tgペ
プチドのレベルは、被験試料に元から存在するTgの量に正比例する。
【0053】
いずれかの適したサイズ分離技術を利用することができるが、次の実施例において、第1および第2のサイズ分離技術の両方が、分子量カットオフフィルターを通した濾過である。次の実施例に記述されるように、第1のサイズ分離と第2のサイズ分離との両方に同じフィルターを使用できるように、適切な分子量カットオフを有する分子量カットオフフィルターを選択することも可能である。
【0054】
選択Tgペプチドを精製するために、LC、最も好ましくはHPLCを、単独でまたは他の精製方法と組み合わせて利用する、または利用することができる。この精製をMS/MSと組み合わせることにより、被験試料中の選択Tgペプチドを定量するためのアッセイ系が得られる。次に、被験試料中の選択Tgペプチドの含量を用いて、元の被験試料中のTgの含量を決定する。本明細書に提示されているTg定量方法は、増強された特異性を有し、方法論上の問題(Tg抗体干渉等)の影響が少ない。
【0055】
適した被験試料としては、目的とする分析物を含有し得るあらゆる被験試料が挙げられる。一部の好ましい実施形態において、試料は、生物学的試料である。即ち、動物、細胞培養物、器官培養物その他等、何らかの生物学的供給源から得られる試料である。特定の好ましい実施形態において、試料は、イヌ、ネコ、ウマ等、哺乳動物から得られる。特に好ましい哺乳動物は、霊長類、最も好ましくは、ヒトである。特に好ましい試料は、血液、血漿、血清、尿、唾液、涙、脳脊髄液または他の体液もしくは組織試料を含む。斯かる試料は、例えば、患者から得ることができる。即ち、疾患または状態の診断、予後予測または処置のための臨床背景を呈する生者から得ることができる。被験試料は、好ましくは、患者から得られ、例えば、血清または血漿である。
【0056】
質量分析のための試料調製
試料を加工または精製して、質量分析による解析に適した調製物を得ることができる。斯かる精製は通常、液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーを含み、多くの場合、クロマトグラフィーの前に行われる追加の精製手順を含んでいてもよい。試料の種類またはクロマトグラフィーの種類に応じて、様々な手順をこの目的のために用いることができる。例として、濾過、遠心分離、これらの組み合わせその他が挙げられる。特定の好ましい実施形態において、Tgは、酵素消化の前に被験試料に存在する。
【0057】
濾過は、クロマトグラフィーのための被験試料、特に、血清または血漿等の生物学的被験試料を調製する好ましい方法の一つである。斯かる濾過は、分子量カットオフフィルターを通して被験試料を濾過して、フィルターのカットオフよりも低い分子量を有する化学種から、フィルターのカットオフよりも高い分子量を有する化学種(Tgを含む)を分離することにより行われる。完全な(またはほぼ完全な)濾過後にフィルター上に残る被験試料は、フィルターのカットオフよりも低い分子量を有する潜在的干渉化学種を実質的に含まない。
【0058】
次に、被験試料のpHは、消化剤に要求される何らかのポイントに調整されうる。特定の好ましい実施形態において、消化剤は、トリプシンであり、pHは、この酵素に適したpHとなるよう酢酸アンモニウム溶液で調整することができる。これらの好ましい実施形態において、次に、試料をトリプシンで消化して、Tgペプチド(ペプチドT129を含む)を生成する。
【0059】
トリプシン消化後に、第2の濾過により試料を精製することができる。試料中に存在し得るフィルターのカットオフよりも高い分子量を有する潜在的干渉化学種からTg断片を分離するために、この消化後濾過は、上述の消化前濾過と同様に行うことができる(濾液
が保持されることを除いて)。次に、この消化後濾過から得た濾液を液体クロマトグラフィーにより精製し、その後、質量分析法により分析してもよい。
【0060】
質量分析法による分析前に試料を浄化するためにHPLCの使用を含む様々な方法が記載されてきた。例えば、Taylorら、Therapeutic Drug Monitoring 22:608〜12(2000)(血液試料の手動沈殿と、続く手動C18固相抽出、C18分析カラムにおけるクロマトグラフィーのためのHPLCへの注入およびMS/MS解析);およびSalmら、Clin. Therapeutics 22 付録B:B71〜B85(2000)(血液試料の手動沈殿と、続く手動C18固相抽出、C18分析カラムにおけるクロマトグラフィーのためのHPLCへの注入およびMS/MS解析)を参照されたい。当業者であれば、本方法における使用に適したHPLC装置およびカラムを選択することができる。クロマトグラフィー用カラムは典型的に、化学的部分の分離(即ち、分画)を容易にするための媒体(即ち、充填材料)を含む。培地は、微小な粒子を含むことができる。粒子は、化学的部分の分離を容易にするための、様々な化学的部分と相互作用する結合した表面を含む。適した結合表面の1つは、アルキル結合表面等、疎水性結合表面である。アルキル結合表面は、C−4、C−8またはC−18結合アルキル基、好ましくは、C−8結合化学基を含むことができる。クロマトグラフィー用カラムは、試料を受け入れるための入口と、分画された試料を含む流出液を排出するための出口とを含む。
【0061】
特定の実施形態において、1種または複数の他の材料は保持されないが目的とする分析物がカラム充填材料により可逆的に保持される条件下でカラムに試料を適用することにより、分析物を精製することができる。これらの実施形態において、目的とする分析物がカラムにより保持される第1の移動相条件を用いることができ、その後に第2の移動相条件を用いて、非保持材料を洗い流した後に、保持された材料をカラムから除去することができる。あるいは、1種または複数の他の材料と比較して目的とする分析物が異なる速度で溶出する移動相条件下でカラムに試料を適用することにより、分析物を精製することができる。斯かる手順は、試料の1種または複数の他の構成成分と比べて、1種または複数の目的とする分析物の量を濃縮することができる。
【0062】
一実施形態において、解析しようとする試料が、カラムの入口に加えられ、溶媒または溶媒混合物と共に溶出され、出口から排出される。異なる溶媒モードは、目的とする分析物の溶出に対して選択することができる。例えば、液体クロマトグラフィーは、勾配モード、均一濃度モードまたはポリタイプ(即ち、混合型)モードを用いて行うことができる。好ましい実施形態において、HPLCは、移動相としてHPLCグレードの超純水に溶解した0.2%ギ酸および100%メタノールに溶解した0.2%ギ酸を用いて、C8固相を備える分析HPLCシステムにおいて行われる。
【0063】
多数のカラム充填材を試料のクロマトグラフィー分離に利用でき、適切な分離プロトコールの選択は、試料の特徴、目的とする分析物、干渉物質の存在およびその特徴等に依存した経験的プロセスである。市販のHPLCカラムとして、極性、イオン交換(カチオンおよびアニオンの両方)、疎水性相互作用、フェニル、C−2、C−8、C−18および多孔性ポリマーカラムにおける極性コーティングが挙げられるがこれらに限定されない。
【0064】
一実施形態において、HPLCカラムは、メジアン粒子サイズ5μm(名目上)およびメジアン粒子孔径100Åを有するC8固相を有する。好ましい実施形態において、カラム寸法は、内径1.0mm×長さ50mm(Phenomenex Corp.Luna
5μC8(2)100Å New Column 50×1.0mm、Phenomenex カタログ番号00B−4249−A0または均等物)である。
【0065】
クロマトグラフィーにおいて、物質の分離は、溶出剤(「移動相」としても知られる)の選択、勾配溶出の選択および勾配条件、温度等の変数により影響される。
【0066】
質量分析による検出および定量
様々な実施形態において、Tgペプチドは、当業者に公知のいずれかの方法によりイオン化することができる。質量分析は、分画された試料をイオン化し、さらなる解析のための荷電分子を作製するためのイオン源を含む質量分析計を用いて行われる。様々なMS技術において用いられるイオン化源として、電子イオン化、化学イオン化、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、光子イオン化、大気圧化学イオン化(APCI)、光イオン化、大気圧光イオン化(APPI)、高速原子衝撃(FAB)/液体二次イオン化(LSIMS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、電界イオン化、電界脱離、熱スプレー/プラズマスプレーイオン化、表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)、誘導結合型プラズマ(ICP)および粒子ビームイオン化が挙げられるがこれらに限定されない。当業者であれば、イオン化方法の選択が、測定しようとする分析物、試料の種類、検出器の種類、正又は負のモードの選択等に基づき決定され得ることを理解できよう。
【0067】
好ましい実施形態において、Tgペプチドは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)によりイオン化されて、Tgペプチド前駆イオンを作製する。関連する好ましい実施形態において、Tgペプチド前駆イオンは、気体状態であり、不活性衝突ガスは、アルゴンである。
【0068】
試料がイオン化された後に、これにより作製された正に荷電したイオンを解析して、m/zを決定することができる。m/zの決定に適した分析器は、四重極型分析装置、イオントラップ型分析装置および飛行時間型分析装置を含む。数種類の検出モードのうちの1種を用いてイオンを検出することができる。例えば、選択的イオンモニタリングモード(SIM)を用いて選択されたイオンのみを検出することができる、あるいは、走査モード、例えば、多重反応モニタリング(MRM)または選択された反応モニタリング(SRM)を用いて複数のイオンを検出することができる。好ましい実施形態において、イオンは、SRMを用いて検出される。
【0069】
好ましくは、m/zは、四重極型の装置を用いて決定される。「四重極型」または「四重極型イオントラップ」装置において、発振無線周波数電場におけるイオンは、電極間に印加されたDC電位、RFシグナルの振幅およびm/zに比例する力を受ける。特定のm/zを有するイオンのみが四重極の長さを移行できるが、他の全イオンは偏向するように、電圧および振幅を選択することができる。よって、四重極型の装置は、装置に注入されたイオンの「質量フィルター」および「質量検出器」の両方として作用することができる。
【0070】
「タンデム質量分析」または「MS/MS」を用いることにより、MS技術の分解能を増強することができる。この技術において、目的とする分子から生成された前駆イオン(親イオンとも呼ばれる)をMS装置においてフィルターし、その後前駆イオンを断片化して、1種または複数の断片イオン(娘イオンまたは産物イオンとも呼ばれる)を得て、次にこれを第2のMS処理により分析することができる。前駆イオンの慎重な選択により、特定の分析物により産生されたイオンのみが断片化チャンバーへと通され、そこで、不活性ガスの原子との衝突により断片イオンが生じる。所定の組のイオン化/断片化条件下において、再現性がある様式で前駆イオンと断片イオンとの両方が生じるため、MS/MS技術は、非常に強力な分析ツールとなり得る。例えば、濾過/断片化の組み合わせを用いて、干渉物質を排除することができ、これは生物学的試料等の複合試料において特に有用となり得る。
【0071】
その上、飛行時間型分析器に連結したマトリックス支援レーザー脱離イオン化(「MALDI−TOF」)等、技術の近年の進歩は、非常に短いイオンパルスにおけるフェムトモルレベルでの分析物の解析を可能にする。タンデムMSと飛行時間型分析器を組み合わせた質量分析計も当業者に周知である。その上、「MS/MS」として公知の方法において、複数の質量分析ステップを組み合わせることができる。MS/MS/TOF質量分析、MALDI/MS/MS/TOF質量分析またはSELDI/MS/MS/TOF質量分析等、様々な他の組み合わせを用いることができる。
【0072】
質量分析計は典型的に、イオン走査;即ち、所定の範囲(例えば、400〜1600amu)にわたり特定のm/zを有する各イオンの相対的存在量を使用者に提供する。分析物アッセイ、即ち質量スペクトルの結果は、本技術分野において公知の多数の方法により、元の試料中の分析物の量と関係付けることができる。例えば、サンプリングと解析パラメータとを慎重に制御すれば、所定のイオンの相対的存在量を変換表と比較して、その相対的存在量を元の分子の絶対量に変換することができる。あるいは、試料と共に分子標準を試験し、この標準から生成されたイオンに基づき検量線を作成することができる。斯かる検量線を用いて、所定のイオンの相対的存在量を元の分子の絶対量に変換することができる。特定の好ましい実施形態において、内部標準は、Tgの含量を計算するための検量線の生成に用いられる。斯かる検量線を作成および使用する方法は、本技術分野において周知のものであり、当業者であれば、適切な内部標準を選択することができる。イオンの量を元の分子の量と関係付けるための多数の他の方法が、当業者に周知であろう。
【0073】
方法の1つまたは複数のステップは、自動機械を用いて行うことができる。特定の実施形態において、1つまたは複数の精製ステップは、オンラインで行われ、より好ましくは、LC精製および質量分析ステップの全ては、オンライン様式で行うことができる。
【0074】
特定の実施形態において、MS/MS等の技術は、断片化に向けた前駆イオンの単離に用いられる。これらの実施形態において、衝突活性化解離(CAD)を用いて、検出のための断片イオンを生成することができる。CADにおいて、前駆イオンは、不活性ガスとの衝突によりエネルギーを得、その後、「単分子分解」と称されるプロセスにより断片化される。振動エネルギーの増加によりイオン内の特定の結合を壊すことができるように、前駆イオンに十分なエネルギーが付与される必要がある。代替的な実施形態において、電子移動解離(ETD)を用いて、断片イオンを生成することができる。ETDにおいて、ラジカルアニオンを用いて、多重荷電ペプチドまたはタンパク質カチオンに電子を移動させ、ペプチド主鎖に沿ってランダム切断をもたらす。
【0075】
特に好ましい実施形態において、Tgは、次の通りLC−MS/MSを用いて検出および/または定量される。上述の通り調製されたTgペプチド濃縮被験試料は、LCで処理される。クロマトグラフィー用カラムから流出した液体溶媒は、LC−MS/MS分析器の加熱されたネブライザー界面に進入し、溶媒/分析物混合物は、界面の加熱された管において蒸気に変換される。噴霧溶媒に含有される分析物(例えば、Tgペプチド)は、噴霧溶媒/分析物混合物に高い電圧を印加する界面のコロナ放電針によりイオン化される。イオン(即ち、Tgペプチド前駆イオン)は、装置のオリフィスを通過し、第1の四重極に進入する。四重極1および3(Q1およびQ3)は、そのm/zに基づくイオン(即ち、「前駆」および「断片」イオン)の選択を可能にする質量フィルターである。四重極2(Q2)は、イオンが断片される衝突セルである。Q1は、ペプチドT129前駆イオンのm/z(636.4±0.5のm/z)を有するイオンを選択する。選択された前駆イオンを衝突チャンバー(Q2)に通し、一方、その他のm/zを有するイオンは、Q1の側面と衝突して排除される。Q2に進入する前駆イオンは、中性アルゴンガス分子との衝突による衝突活性化解離(CAD)により断片化することができる。あるいは、Q2に進
入する前駆イオンは、多重荷電カチオンである場合、電子移動解離(ETD)により断片化することができる。生成された断片イオンは、Q3に移行し、そこで、選択された断片イオンが収集され、一方、他のイオンは排除される。
【0076】
当業者は、本技術分野において周知の標準的な方法を用いて、Q3における選択に用いることのできる、特定のTgペプチド前駆イオンの1種または複数の断片イオンを同定することができる。特異的断片イオンは、同様の分子構造を有する他の分子によって有意な量で生成されることのない断片イオンである。対照的に、非特異的断片イオンは、所望の分析物以外の分子によって生成される断片イオンである。様々な分子標準を検査して、選択されたTgペプチドによって生成された断片イオンが、同様の構造または特色を有する他の分子によっても生成されるか決定することにより、適した特異的断片イオンを同定することができる。好ましくは、ペプチドT129イオンに相当するm/zを有するTgペプチドイオンに特異的な少なくとも1種の断片イオンが同定される。より好ましくは、これらの断片イオンのうち1種または複数は、797.4±0.5、912.4±0.5または1059.5±0.5のm/zを有する。
【0077】
イオンは、検出器と衝突すると、電子のパルスを産生し、これはデジタルシグナルに変換される。取得されたデータは、コンピュータに中継され、単位時間当たりのイオン計数がプロットされる。特定のイオンに相当するピーク下面積または斯かるピークの振幅が測定され、面積または振幅は、目的とする分析物の量に相関される。特定の実施形態において、断片イオンおよび/または前駆イオンのピークの曲線下面積または振幅が測定されて、ペプチドT129に相当するm/zを有するTgペプチドの量を決定する。上述の通り、所定のイオンの相対的存在量は、内部分子標準の1種または複数のイオンのピークに基づく較正検量線を用いて元の分析物の絶対量に変換することができる。次に、LC−MS/MSにより検出された分析物の絶対量は、元の被験試料に存在していたTgの絶対量に変換することができる。
【0078】
標識されたサイログロブリンペプチド標準によるシステム較正
サイログロブリンの不完全な消化は、サイログロブリン定量の不正確性の原因となり得る。いくつかの実施形態において、サイログロブリンペプチド標準を、消化の前に被験試料に添加することができる。サイログロブリンペプチド標準は、いくつかの実施形態において、消化されると、サイログロブリンにより産生されるペプチドと同じ1種または複数のTgペプチドを産生する。一部の態様において、試料に添加されるサイログロブリンペプチド標準の量は公知である。
【0079】
質量分析によりTgペプチドの量が定量されたら、消化率を計算することができる。一部の態様において、サイログロブリンペプチド標準の消化率が、サイログロブリンと同一または同様となることができるように、サイログロブリンペプチド標準は、Tgペプチド前後と同じ消化部位を含むよう構成されている。従って、被験試料中のサイログロブリンの定量化の較正または調整に用いることのできる、サイログロブリンの消化率が決定される。
【0080】
いくつかの実施形態において、サイログロブリンペプチド標準は、サイログロブリンよりも短い。一態様において、サイログロブリンペプチド標準は、約100アミノ酸残基以下であり、約75アミノ酸残基以下であり、あるいは約70、60、50、40、30、25または20アミノ酸残基以下である。
【0081】
いくつかの実施形態において、サイログロブリンペプチド標準は、消化されて、T129ペプチドを生成する、あるいはT129に対し少なくとも約70%、75%、80%、85%、905または95%の配列同一性を有するペプチドを生成する。
【0082】
いくつかの実施形態において、サイログロブリンペプチド標準は、配列番号2のアミノ酸配列(KVPESKVIFDANAPVAVRSKVPDS)を含む。いくつかの実施形態において、サイログロブリンペプチド標準は、配列番号2(KVPESKVIFDANAPVAVRSKVPDS)に対し少なくとも約70%、75%、80%、85%、905または95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むが、消化によりT129ペプチドを生成することができる。いくつかの実施形態において、消化は、トリプシン消化である。
【0083】
いくつかの実施形態において、サイログロブリンペプチド標準の1種または複数の残基は、例えば、13C、15Nまたはその両方で同位体標識されている。いくつかの実施形態において、標識されたアミノ酸残基は、バリン残基である。いくつかの実施形態において、サイログロブリンペプチド標準は、KVPESKVIFDANAPV*AV*RSKVPDSを含み、これは、トリプシン消化後に、K、VPESK、VIFDANAPV*AV*R(T−129−IS1)、SKおよびVPDSを産生する。
【0084】
次の実施例は、本開示の例示に資する。これらの実施例は、決して本方法の範囲の限定を企図するものではない。
【実施例1】
【0085】
ペプチドT129のMS定量の実行
公知のペプチドT129濃度の試料を初発とする連続希釈により、様々な公知の濃度のペプチドT129を含む数種類の試料を調製した。これらの試料のLC−MS/MS解析から、ペプチドT129 LOQおよび較正曲線を作成した。
【0086】
Phenomenex分析カラム(Phenomenex Corp.Luna 5μ
C8(2)100Å New Column 50×1.0mm)によりLCを行った。超純水(HPLCグレード)に溶解した0.2%ギ酸(移動相A)および100%メタノールに溶解した0.2%ギ酸(移動相B)で構成された二成分HPLC溶出剤を分析カラムに適用して、試料に含有されている他の化学種から、選択されたTgペプチドを分離した。以下の勾配プロファイルに従って二成分溶出剤を適用した:第1のステップとして、移動相A/移動相Bの80/20混合物を120秒間適用し;第2のステップとして、移動相A/移動相Bの30/70混合物を60秒間適用した;第3のステップとして、混合物における移動相Bの相対量を120秒間の期間かけて一定の比率で増加させて、移動相A/移動相Bの5/95混合物とし;第4のステップとして、移動相A/移動相Bの5/95混合物を60秒間適用し;第5の最終ステップとして、移動相A/移動相Bの80/20混合物を240秒間適用した。
【0087】
次に、ペプチドT129に相当するm/zを有する1種または複数のTgペプチドの定量のために、分離された試料をMS/MSで処理した。
【0088】
Finnigan TSQ Quantum Ultra MS/MSシステム(Thermo Electron Corporation)を用いてMS/MSを行った。本明細書に記載されている実施例において、全てThermoElectron製の次のソフトウェアプログラムを用いた:Tune Master V1.2またはより新しい版、Xcalibur V2.0 SR1またはより新しい版、TSQ Quantum
1.4またはより新しい版、LCQuan V2.0またはより新しい版およびXReport 1.0またはより新しい版。分析HPLCカラムから出た液体溶媒/分析物は、Thermo Finnigan MS/MS分析器の加熱されたネブライザー界面へと流された。界面の加熱された管において、溶媒/分析物混合物は蒸気に変換された。噴
霧溶媒/分析物混合物に電圧を印加する界面のコロナ放電針により、噴霧溶媒における分析物をイオン化した。
【0089】
イオンは、636.4±0.5のm/zを有するイオンを選択する第1の四重極(Q1)へと通過した。四重極2(Q2)に進入するイオンは、アルゴンガスと衝突して、イオン断片を生成し、これは、さらなる選択のために四重極3(Q3)へと通過した。正の極性における検証において、ペプチドT129に相当するm/zを有する前駆イオンの定量に用いられる質量遷移を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
20%の精度および80%〜120%の正確性による定量限界(LOQ)を決定するために、変動濃度の7種の異なる試料をアッセイし、それぞれの再現性(CV)を決定した。ペプチドT129に相当するm/zを有する1種または複数のTgペプチドのLOQは、約67amol/μlに定義した。
【0092】
収集し、LOQならびに図5および図6における較正曲線の作成に用いたデータを表2に示す。
【0093】
【表2】
【実施例2】
【0094】
ペプチドT129をスパイクした、加工、濃縮および消化したストリップ血清におけるペプチドT129の定量の実行
ストリップ血清(例えば、本実施例における被験試料)の500μl試料を、市販の300kDa分子量カットオフフィルターカートリッジ(Pall Corp.Nanosep 300kDa、Pall Corp.カタログ番号OD300C33)のフィルター要素の上に加えた。
【0095】
13kgで6分間カートリッジを遠心分離することにより、被験試料を完全に濾過した。濾液を除去し廃棄した。次に、500μlのHPLCグレード水をフィルターの上に加え、13kgで6分間カートリッジを再度遠心分離した。濾液を再度除去し廃棄した。次に、200μlの20mM酢酸アンモニウムをフィルターの上に加えた。13kgで3分
間カートリッジを再度遠心分離した。濾液を再度除去し廃棄し、100μlの20mM酢酸アンモニウムをフィルターの上に加えた。
【0096】
続いて、15μgのトリプシン(Promega Trypsin Gold、質量分析グレード、Promega Corp.Cat.No.V5280または均等物)を、フィルターの上に残る被験試料に加えた。その結果得られた混合物を、フィルターカートリッジから除去せずに37Cで最大17時間インキュベートした。
【0097】
インキュベーション後に、13kgで6分間フィルターカートリッジを遠心分離し、濾液を保持した。次に、50μlの20mM酢酸アンモニウムをフィルターの上に加えることによりフィルターカートリッジを洗浄し、13kgで6分間遠心分離した。2つの保持された消化後濾液をプールすることにより、LC−MS/MSによる解析のための被験試料を作製した。
【0098】
上述の加工および濃縮処理したストリップ血清試料の出発容量は、約500μlであった。各プールされた消化後濾液の最終容量は、約130μlであった。よって、上述のプロセスは、試料を3.83倍に濃縮する。
【0099】
次に、プールした消化後濾液にペプチドT129を濃度を変えながら加えた。次に、表3に示す質量遷移を用いたことを除き実施例1に記載されている手順に従ったLC−MS/MSによるペプチドT129の定量のために、30μl試料を解析した。加工、濃縮されたストリップ血清によって生成されるバックグラウンドの増加のため、797.4±0.5のm/zを有する断片イオンは用いなかった。
【0100】
【表3】
【0101】
収集され、LOQならびに図7および図8に示される較正曲線の作成に用いたデータを表4に示す。
【0102】
【表4】
【実施例3】
【0103】
様々な濃度の添加Tgを含有するストリップ血清におけるペプチドT129の定量の実行
実施例2に詳述されている手順に従って、様々な濃度の添加Tgを含有するストリップ
血清の500μl試料を数種類調製した。実施例1に詳述されているステップに従って、その結果得られた被験試料のLC−MS/MSを行った。
【0104】
収集し、図9に示される較正曲線の作成に用いたデータを表5に示す。
【0105】
【表5】
【実施例4】
【0106】
Tg消化の程度を確認するための手順
Tgが十分に消化されていることを確認するために、消化されると同位体標識T−129内部標準を遊離する、合成「翼状(winged)」ペプチドを被験試料に加えた。理想的には、調製プロセス(変性/還元、アルキル化および消化)の前に血清試料に加えることのできる、完全に標識されたTgが用いられる。しかし、現在、斯かる標識Tgタンパク質を得ることは不可能である。従って、その中に同位体標識されたT−129を含有する短いTgペプチドを合成した(T129−IS1)。T129−IS1は、血清試料に存在するTg由来のT129と同じ様式で、加工手順において生成される。従って、これは、標識Tgタンパク質の代用として作用し、試料の完全な加工を確認する。
【0107】
この手順の例示的な実施形態を、図6に例示する。簡潔に説明すると、同位体標識したバリンを印のついた位置に有する、配列KVPESKVIFDANAPV*AV*RSKVPDSのペプチドを調製した。バリン残基は、標識13C5および15Nであった。トリプシン消化の前に、ペプチドを被験試料に加えた。次の断片が、消化の際に産生される:K、VPESK、VIFDANAPV*AV*R(T−129−IS1)、SKおよびVPDS。T−129−IS1の量は、T−129と同じ方法で定量され、T−129消化の程度の決定を可能にする。
【実施例5】
【0108】
抗体陰性および抗体陽性患者試料中のTgの定量の比較
イムノアッセイおよび本質量分析方法の両方を用いて、患者試料中のTgを定量した。次表に示す通り、検査から得られた結果は、抗体陰性試料に対して十分に相関したが、患者被験試料が抗体陽性である場合、非常に異なる結果を産生した。下表は、有意なTgAb濃度の存在下において、イムノアッセイにより検出されるTgの量は低いが、一方、LC−MS/MSにより決定されるTgの量はより高いことを示す。
【0109】
【表6】
【0110】
次表は、スパイクした標準により測定される定量アッセイの回収率を示す。
【0111】
【表7】
【0112】
次表は、前混合および後混合実験間の回収率を比較する。
【0113】
【表8】
【実施例6】
【0114】
Tg抗体陽性患者由来の被験試料のTg定量
本実施例において、DTCを呈する37歳女性は、根治的甲状腺摘除術および放射性ヨウ素によるアブレーションを受けた。この患者は、Tg抗体(Ab)陽性であることが判明した。自動ICMAプラットフォームにおいて患者を検査したところ、結果は0.2ng/mL Tgであった。RIA検査のために試料を送ったところ、15ng/mLのTgであり、ICMA検査とは矛盾した結果であった。本技術のLC−MS/MSアッセイを行った。後者のアッセイは、干渉抗体を破壊し、5.6ng/mL Tgの結果を返し、患者が経過観察を要し、さらなる外科手術を必要とする可能性があることを示唆する。
【0115】
本明細書に言及または引用されている論文、特許、特許出願ならびに他のあらゆる文書および電子的に利用できる情報の内容は、あたかも個々の刊行物それぞれが特にかつ個々に、ここに本明細書の一部を構成するものとしてその内容を援用すると示されているのと同じ程度まで、これにより、ここに本明細書の一部を構成するものとしてその内容全体を援用する。本出願人らは、本出願に、斯かる論文、特許、特許出願または他の物理的および電子文書のいずれかに由来するありとあらゆる材料および情報を物理的に取り込む権利を留保する。
【0116】
本明細書に例示的に記載されている方法は、特に本明細書に開示されていないいずれかの要素(単数または複数)、限定(単数または複数)の非存在下で、適切に実施することができる。よって、例えば、用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「
含有する」等は、包括的に、限定することなく読解されたい。その上、本明細書に用いられている用語および表現は、限定ではなく説明の用語として用いられ、斯かる用語および表現の使用において、示され記載されている特色またはその一部のいかなる均等物を除外する意図もないが、請求されている本開示の範囲内において様々な修正が可能であることが認識される。よって、本開示は、好ましい実施形態と最適な特徴とによって特に開示されているが、本明細書に開示された、具体的に例示された本開示の修正および変種を当業者であれば用いることができることと共に、斯かる修正および変種が、本開示の範囲内に収まると考慮されることを理解されたい。
【0117】
本明細書において、広く一般的に本開示を記載してきた。かかる一般的な開示に含まれるより狭い概念や下位群のそれぞれも、本方法の一部を構成する。これは、削除される要素が本明細書に特に列挙されているか否かにかかわらず、何らかの条件ないしある概念から何らかの主題を除外する否定的限定が付された、本方法の一般的な説明にも適用される。
【0118】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。加えて、本方法の特色または態様が、マーカッシュ群の観点で記載される場合、当業者であれば、それにより本開示がマーカ
ッシュ群のいずれか個々の要素または要素の部分群の観点でも記載されていることを認識するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図14-3】
図14-4】
図14-5】
図14-6】
図14-7】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]