特許第6678070号(P6678070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6678070透明導電性コーティング組成物、透明導電性シート及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6678070
(24)【登録日】2020年3月18日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】透明導電性コーティング組成物、透明導電性シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/16 20060101AFI20200330BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20200330BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20200330BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20200330BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20200330BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20200330BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20200330BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20200330BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20200330BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20200330BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20200330BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20200330BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20200330BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
   C09D127/16
   C09D167/00
   C09D201/00
   C09D7/65
   C09D5/24
   H01B1/20 A
   H01B1/12 F
   H01B5/14 A
   H01B13/00 503B
   B05D5/12 B
   B05D7/24 302F
   B32B27/00 A
   B32B27/30 D
   B32B27/36
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-121560(P2016-121560)
(22)【出願日】2016年6月20日
(65)【公開番号】特開2017-226716(P2017-226716A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセルホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】土畑 美由喜
(72)【発明者】
【氏名】水谷 拓雄
(72)【発明者】
【氏名】光橋 文枝
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−003312(JP,A)
【文献】 特開2016−020408(JP,A)
【文献】 特開2013−191294(JP,A)
【文献】 特開2006−169494(JP,A)
【文献】 特開2005−015609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
H01B
B05D
B32B
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子と、樹脂と、溶媒とを含む透明導電性コーティング組成物であって、
前記樹脂は、ポリフッ化ビニリデンと水溶性ポリエステルとを含み、
前記溶媒は、水と有機溶媒とを含み、
前記有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン及びブチロラクトンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする透明導電性コーティング組成物。
【請求項2】
前記水溶性ポリエステルのガラス転移温度が、60℃以上である請求項1に記載の透明導電性コーティング組成物。
【請求項3】
前記ポリフッ化ビニリデンと前記水溶性ポリエステルとの割合が、体積比率で、95:5〜80:20である請求項1又は2に記載の透明導電性コーティング組成物。
【請求項4】
前記有機溶媒の含有量が、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量に対して、質量比で5倍以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電性コーティング組成物。
【請求項5】
前記導電性高分子の含有量が、0.8質量%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明導電性コーティング組成物。
【請求項6】
前記導電性高分子の含有量が、前記透明導電性コーティング組成物に含まれる固形分の全質量に対して、10質量%以上35質量%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明導電性コーティング組成物。
【請求項7】
前記導電性高分子は、ポリチオフェン系化合物を含む請求項1〜6いずれか1項に記載の透明導電性コーティング組成物。
【請求項8】
透明な基材と、前記基材の少なくとも一方の主面に形成された透明導電性膜とを含む透明導電性シートであって、
前記透明導電性膜が、請求項1〜7のいずれか1項に記載の透明導電性コーティング組成物を用いて形成されていることを特徴とする透明導電性シート。
【請求項9】
透明な基材の少なくとも一方の主面に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の透明導電性コーティング組成物を塗布する工程と、
前記透明導電性コーティング組成物を加熱することにより、透明導電性膜を形成する工程とを含むことを特徴とする透明導電性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性コーティング組成物、透明導電性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チオフェン系やアニリン系の高分子は優れた安定性及び導電性を有することから、有機導電性材料としてその活用が期待されている。その活用の一つとして、液晶ディスプレイ、透明タッチパネル等の各種デバイスに用いられる透明電極の形成に、上記高分子にドーパントを付加した導電性高分子を溶媒に分散させたコーティング組成物が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1では、導電性高分子の水分散液とバインダとを含む導電性コーティング組成物が提案され、特許文献2では、チオフェン系高分子としてポリエチレンジオキシチオフェン及びポリスチレンスルホン酸と、樹脂として変性ポリフッ化ビニリデンとが、有機溶媒に分散した導電性インクが提案されている。しかし、特許文献1に記載の導電性コーティング組成物、及び、特許文献2に記載の導電性インクを用いてそれぞれ形成した透明導電性膜では、高温高湿保存後の表面電気抵抗値の変化が大きく、保存安定性が不十分であることが判明した。
【0004】
また、特許文献3では、カチオン性ポリチオフェンとポリアニリンとを含む導電性高分子及び水溶性ポリエステルを含む導電性フィルムが提案されている。特許文献3では、熱処理後の表面電気抵抗値の変化を抑制できる長期耐熱性に優れた導電性フィルムを実現している。しかし、特許文献3に記載の導電性フィルムでも、高温高湿保存後の表面電気抵抗値の変化を抑制するにはまだ不十分であることが判明した。
【0005】
一方、特許文献4では、導電性高分子と、ポリフッ化ビニリデンと、特定の溶媒とを含む透明導電性コーティング組成物が提案されている。特許文献4では、耐熱性及び耐湿性に優れた信頼性の高い透明導電性膜を有する透明導電性シートを実現している。
【0006】
より具体的には、特許文献4では、85℃で240時間保存した後の透明導電性膜の表面電気抵抗値の変化を測定して耐熱性を評価し、60℃、相対湿度90%で240時間保存した後の透明導電性膜の表面電気抵抗値の変化を測定して耐湿性を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−324143号公報
【特許文献2】特開2011−201933号公報
【特許文献3】特開2011−152667号公報
【特許文献4】特開2016−3312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、最近では、液晶ディスプレイ、透明タッチパネル等の各種デバイスが車載される状況が増加し、その車載環境として、従来のデバイスの使用環境より厳しい環境、例えば、85℃、相対湿度85%等が想定され、このようなより厳しい高温高湿環境下でも液晶ディスプレイ、透明タッチパネル等の各種デバイスの信頼性が求められるようになってきた。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、より厳しい高温高湿環境下においても、信頼性が高く、即ち表面電気抵抗値の変化が小さく、且つ光学特性及び耐薬品性に優れた透明導電性膜を有する透明導電性シート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の透明導電性コーティング組成物は、導電性高分子と、樹脂と、溶媒とを含む透明導電性コーティング組成物であって、前記樹脂は、ポリフッ化ビニリデンと水溶性ポリエステルとを含み、前記溶媒は、水と有機溶媒とを含み、前記有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン及びブチロラクトンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の透明導電性シートは、透明な基材と、前記基材の少なくとも一方の主面に形成された透明導電性膜とを含む透明導電性シートであって、前記透明導電性膜が、本発明の前記透明導電性コーティング組成物を用いて形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の透明導電性シートの製造方法は、透明な基材の少なくとも一方の主面に、本発明の前記透明導電性コーティング組成物を塗布する工程と、前記透明導電性コーティング組成物を加熱することにより、透明導電性膜を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の透明導電性コーティング組成物によれば、より厳しい高温高湿環境下においても、信頼性が高く、即ち表面電気抵抗値の変化が小さく、且つ光学特性及び耐薬品性に優れた透明導電性膜を有する透明導電性シート及びその製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(透明導電性コーティング組成物)
本発明の透明導電性コーティング組成物は、導電性高分子と、樹脂と、溶媒とを含んでいる。また、上記樹脂は、ポリフッ化ビニリデンと水溶性ポリエステルとを含み、上記溶媒は、水と有機溶媒とを含み、上記有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン及びブチロラクトンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0015】
上記透明導電性コーティング組成物を用いることにより、より厳しい高温高湿環境下においても、信頼性が高く、且つ光学特性及び耐薬品性に優れた透明導電性膜を形成できる。
【0016】
<導電性高分子>
上記導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば使用できる。例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。上記導電性高分子としては、水溶性のもの、非水溶性のものの何れでも用いることができ、水溶性導電性高分子は水溶液の形態で使用され、非水溶性導電性高分子は溶媒分散体、例えば水分散体の形態で使用される。
【0017】
上記ポリピロール系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)等が挙げられる。
【0018】
上記ポリチオフェン系導電性高分子の具体例としては、ポリ(チオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)等が挙げられる。
【0019】
上記ポリアニリン系導電性高分子の具体例としては、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0020】
これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、透明性及び導電性がより高くなることから、ポリピロール、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)から選ばれる1種又は2種からなる重合体が好ましく、特にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が好ましい。
【0021】
本発明においては導電性高分子の電気伝導度を高めるために、ドーパントを併用することができる。上記ドーパントとしては、ヨウ素、塩素等のハロゲン類、BF3、PF5等のルイス酸類、硝酸、硫酸等のプロトン酸類や、遷移金属、アルカリ金属、アミノ酸、核酸、界面活性剤、色素、クロラニル、テトラシアノエチレン、TCNQ等が使用できる。
【0022】
本発明では、上記導電性高分子として、ポリチオフェン系化合物とドーパントとを含むものを用いることが好ましく、上記ポリチオフェン系化合物としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を用い、上記ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を用いた混合物(PEDOT/PSSともいう。)を用いることが最も好ましい。通常、上記PEDOT/PSSは水分散体の形態で供給される。
【0023】
上記導電性高分子と上記ドーパントとの配合割合は、質量比で導電性高分子:ドーパント=1:2〜1:4が好ましい。
【0024】
上記導電性高分子の含有量は、本発明の透明導電性コーティング組成物の全質量に対して0.15質量%以上0.80質量%以下であることが好ましい。上記含有量が0.80質量%を超えると、本発明の透明導電性コーティング組成物において、塗料中の導電性高分子の濃度が高いため短時間で凝集物が多数発生し、塗料安定性が悪く、適切な透明導電性膜が得られない傾向にあり、上記含有量が0.15質量%を下回ると、透明導電性膜の導電性が低下する傾向にある。また、上記含有量が0.15質量%を下回ると、適切な表面電気抵抗値の透明導電性膜を得るためには膜厚を大きくする必要があり、膜厚を大きくすると塗膜の乾燥時間が延びることから、製造効率の点で不利である。
【0025】
また、上記導電性高分子の含有量は、本発明の透明導電性コーティング組成物に含まれる固形分の全質量に対して、10質量%以上35質量%以下であることが好ましい。上記含有量が10質量%を下回ると、透明導電性膜の導電性が低下する傾向にある。このため、表面電気抵抗値を所定の範囲とするために膜厚を大きくすることによって光学特性が低下する傾向がある。上記含有量が35質量%を超えると、導電性高分子の構造に起因して透明導電性膜の表面形状が粗くなるため、透明導電性膜のヘイズが上昇し、光学特性が低下する傾向にある。
【0026】
<樹脂>
本発明の透明導電性コーティング組成物を構成する樹脂には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び水溶性ポリエステルが含まれる。
【0027】
[PVDF]
上記PVDFは非水溶性樹脂であり、前述の水溶性又は水分散体の導電性高分子との混合性を高めるために、PVDFの水分散体の形態で供給される。上記PVDFは、バインダとしての役割を果たすものであり、これにより透明導電性膜と基材との密着性を向上できる。また、PVDFは、その単独の屈折率が1.42程度と低いため、透明導電性膜の屈折率も低くすることができる。このため、波長550nm付近の光の反射を抑えることができ、透明導電性膜の全光線透過率を高く維持できる。
【0028】
[水溶性ポリエステル]
上記水溶性ポリエステルは、親水性部を形成するために極性基を備えている。上記極性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基等が該当し、上記水溶性ポリエステルはこれらの極性基を少なくとも1種備えている。
【0029】
上記水溶性ポリエステルのガラス転移温度は、60℃以上であることが好ましい。上記ガラス転移温度が60℃を下回ると、高温高湿環境下において上記導電性高分子による3次元的導電性ネットワークの強度が低下する傾向がある。
【0030】
上記水溶性ポリエステルの具体例としては、例えば、互応化学工業社製の水溶性ポリエステル樹脂“プラスコート”(商品名)シリーズの“Z−221”、“Z−446”、“Z−561”、“Z−565”、“Z−880”、“Z−3310”、“RZ−105”、“RZ−570”、“Z−730”、“Z−760”、“Z−592”、“Z−687”、“Z−690”等が挙げられる。
【0031】
[PVDFと水溶性ポリエステルとの併用]
本発明の透明導電性コーティング組成物は、導電性高分子と、水溶性ポリエステルと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを必須成分とする。これらを必須成分とする理由は下記のように考えられる。
【0032】
上記PVDFは、(1)透明導電性膜の中で導電性高分子に対してバインダの役目を掌り、成膜性を向上させ、基材との密着性を向上させるとともに、(2)単独の屈折率が1.42程度と低いため、透明導電性膜全体の屈折率を低減させ、可視光線反射率の低減による導電性膜の全光線透過率を高く維持し、高透明化を図るために必要な成分である。
【0033】
上記水溶性ポリエステルは、通常水溶液として供給される。水溶性ポリエステルはPVDFに比べて導電性高分子との相溶性が高いため、上記PVDF水分散体と上記導電性高分子との混合液に、水溶性ポリエステルを加えると、最終的に水が除去されて透明導電性膜を形成した際には、透明導電性高分子が固定化され、透明導電性膜をより均質に成膜することができる。
【0034】
この結果、水溶性ポリエステルを用いずPVDFのみを使用した場合に比べて、導電性高分子を全体の膜の中でより強固に安定して固定することができる。その結果、より厳しい高温高湿環境下においても、導電性高分子の移動を抑制することができるので、電気抵抗値の変化が小さくなり、信頼性が高く耐薬品性に優れた透明導電性膜を実現することができる。
【0035】
通常、導電性高分子の導電性の低下は、熱、湿度等の外的環境変化により導電性高分子が移動することによる導電パスの損傷にあると考えられている。このため、導電性高分子が上記のように特定の位置に安定的に固定されることにより、透明導電性膜が高温高湿環境下に置かれても、表面電気抵抗値の変化を抑制することができると考えられる。
【0036】
しかし、水溶性ポリエステルは屈折率がPVDFに比べて高いため、多く使用しすぎると、透明導電性膜の屈折率が増大するため、可視光線反射率が増大し、透明性が低下する。更に、水溶性ポリエステルは水溶性であることから分子量も小さく、多く使用しすぎると耐薬品性が低下する。このため、上記ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と上記水溶性ポリエステルとの割合は、体積比率で、95:5〜80:20であることが好ましい。
【0037】
上記樹脂には、PVDF及び水溶性ポリエステル以外にフッ化ビニリデン−アクリル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、シラン化合物、ポリエステルエマルジョン、ポリオレフィンエマルジョン等の樹脂を含んでいてもよい。
【0038】
<溶媒>
本発明の透明導電性コーティング組成物を構成する溶媒には、水と特定の有機溶媒とが含まれている。
【0039】
上記特定の有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン及びブチロラクトンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいる。
【0040】
上記有機溶媒は、前述のPVDFの溶解性が高く、本発明の透明導電性コーティング組成物において、PVDFを均一に溶解できるため、作製した透明導電性膜において、ヘイズを低くでき、全光線透過率を高めることができ、透明導電性膜の光学特性を向上できる。また、上記有機溶媒は、本発明の透明導電性コーティング組成物に含まれる導電性高分子を分解せず、上記導電性高分子の機能を害することがない。
【0041】
即ち、上記有機溶媒が好ましいのは、上記有機溶媒に対するPVDFのHSP距離が7.5より小さいため、上記有機溶媒に対するPVDFの溶解性が高いためである。ここで、HSP(Hansen Solubility Parameter)とは、ある溶質がある溶媒にどのくらい溶けるのかを示す溶解性の指標である。この指標を溶解特性として3次元の座標で表した距離がHSP距離であり、そのHSP距離が近いもの同士は溶解性が高いと判断するものである。3次元の座標軸は、分散項dD、極性項dP、水素結合項dHで表される。分散項dDはファンデルワールスの力、極性項dPはダイポール・モーメントの力、水素結合項dHは水、アルコール等が持つ水素結合力とされる。具体的には、dD、dP、dHを軸とする3次元座標上において、PVDF樹脂の溶解度パラメーターから溶媒もしくは非溶媒の溶解度パラメーターまでのHSP距離を計算することで、PVDF樹脂の溶媒もしくは非溶媒に対する溶解性が評価できる。HSP距離の算定式を、以下に示す。この式では熱力学的に、HSP距離が0に近づくほど、樹脂と溶媒もしくは非溶媒との相溶性が高い。
【0042】
HSP距離=[4×(dD:PVDF−dD:溶媒)2+(dP:PVDF−dP:溶媒)2+(dH:PVDF−dH:溶媒)20.5
【0043】
上記有機溶媒の中でも、導電性高分子の結晶性を向上させて導電性を発現し、全光線透過率が高く透明で、電気抵抗値が好ましい範囲である透明導電性膜を得るためには、特にジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン及び2−ピロリドンから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0044】
上記有機溶媒の含有量は、前述のPVDFの含有量に対して、質量比で5倍以上であることが好ましい。上記有機溶媒の質量比が5倍を下回ると、有機溶媒の量が少ないためPVDFの溶解性が低下し、透明導電性膜のヘイズが上昇するため、光学特性が低下する傾向にある。上記有機溶媒の含有量は、透明導電性膜の乾燥時間に影響を与えるため、本発明の透明導電性コーティング組成物の全質量に対して40質量%を超えないことが好ましい。
【0045】
本発明の透明導電性コーティング組成物には、本発明の効果が得られる範囲で、水溶性溶媒を適宜混合してもよい。上記水溶性溶媒としては、例えば、エタノール等の低沸点低級アルコール、酢酸等が挙げられる。前述の導電性高分子は、通常水分散体又は水溶液の形態で使用するため、上記水溶性溶媒を用いることにより、本発明の透明導電性コーティング組成物の酸性を維持したままで透明導電性膜を形成することができるので、電気抵抗値を好ましい範囲に設定することができ、また、塗料安定性も向上できる。更に、水溶性溶媒と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、比較的低い乾燥温度で透明性に優れた透明導電性膜を得ることができる。但し、水溶性溶媒の含有量は、全溶媒に対する質量割合で40質量%以下とすることが好ましい。
【0046】
上記溶媒の含有量は特に限定されないが、本発明の透明導電性コーティング組成物の全質量に対して、70質量%以上99.5質量%以下とすればよい。
【0047】
本発明の透明導電性コーティング組成物の調製方法は、特に限定されず、上記導電性高分子、上記樹脂、上記溶媒を公知の手法により適宜混合すればよい。
【0048】
(透明導電性シート)
本発明の透明導電性シートは、透明な基材と、上記基材の少なくとも一方の主面に形成された透明導電性膜とを備え、上記透明導電性膜が、上記本発明の透明導電性コーティング組成物を用いて形成されている。
【0049】
上記透明導電性コーティング組成物を用いることにより、より厳しい高温高湿環境下においても、信頼性が高く、且つ光学特性及び耐薬品性に優れた透明導電性膜を有する透明導電性シートを提供可能である。
【0050】
上記透明導電性シートの透明導電性膜は、上記透明導電性コーティング組成物を用いて形成されているため、前述のように、透明導電性膜の中に導電性高分子による導電パスが形成されているものと考えられるが、具体的にどのような構造を有しているかは未だ解明できていない。
【0051】
上記基材としては、例えば、プラスチック、ゴム、ガラス、セラミックス等の種々のものが使用できる。
【0052】
上記透明導電性膜の表面電気抵抗値は、150Ω/スクエア以下であることが好ましい。表面電気抵抗値が小さいほど良好な電気特性を示す。
【0053】
上記透明導電性膜の波長範囲380〜780nmにおける全光線透過率は、87%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。全光線透過率が高いほど良好な光学特性を示す。また、同様の理由で、上記透明導電性膜のヘイズは1.0%未満が好ましい。上記全光線透過率及び上記ヘイズは、分光光度計、例えば、日本分光社製の“V−570”により測定可能である。
【0054】
本発明の透明導電性膜の膜厚は、用途に応じて適宜設定されるものであるが、通常、0.01〜10μm程度である。膜厚が薄すぎても厚すぎても、均一な透明導電性膜を形成することが困難となる。前述の透明導電性コーティング組成物中に含まれる導電性高分子の割合にもよるが、膜厚が薄いと、表面電気抵抗値が増加する傾向にあり、膜厚が厚すぎると、全光線透過率が低下する傾向にある。特に、上記透明導電性膜の表面電気抵抗値を150Ω/スクエア以下とするためには、上記透明導電性膜の膜厚は、0.08〜3.0μmとすることが好ましい。
【0055】
本発明の透明導電性シートは、タッチパネル、ディスプレイ、照明装置、太陽電池、スマートウィンドウ、フィルムヒータ等に使用することができる。
【0056】
(透明導電性シートの製造方法)
本発明の透明導電性シートの製造方法は、透明な基材の少なくとも一方の主面に上記本発明の透明導電性コーティング組成物を塗布する工程と、上記透明導電性コーティング組成物を加熱することにより、透明導電性膜を形成する工程とを備えている。これにより、信頼性が高く、且つ光学特性及び耐薬品性に優れた透明導電性膜を有する透明導電性シートを製造できる。
【0057】
上記透明導電性コーティング組成物を塗布する方法としては、例えば、バーコート法、リバースコート法、グラビア印刷法、マイクログラビア印刷法、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法等の塗布方法を用いることができる。
【0058】
上記加熱は、透明導電性コーティング組成物中の溶媒成分が蒸発する条件で行えばよく、100〜150℃で5〜60分間行うことが好ましい。溶媒が透明導電性膜に残っていると強度が劣る傾向にある。加熱方法としては、例えば、熱風乾燥法等を用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に述べる。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。特に指摘がない場合、下記において、「部」は「質量部」を意味する。
【0060】
(実施例1)
<透明導電性コーティング液の調製>
先ず、以下の成分を添加、混合して透明導電性コーティング液を調製した。
(1)導電性高分子水分散体(ヘレウス社製、商品名“PH−1000”、導電性高分子:PEDOT−PSS、固形分濃度:1.2質量%):36.8部
(2)PVDF分散液(アルケマ社製、商品名“LATEX32”、固形分濃度:20質量%、溶媒:水):6.3部
(3)水溶性ポリエステル水溶液(互応化学工業社製、商品名“プラスコートZ561”、固形分濃度:25質量%、ガラス転移温度:64℃):0.2部
(4)有機溶媒(ジメチルスルホキシド、HSP距離:2.0):11.0部
(5)水溶性溶媒(エタノール):30.0部
(6)水:15.7部
【0061】
<透明導電性シートの形成>
次に、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(全光線透過率:92.0%)を基板として用い、その基板の一方の主面に上記透明導電性コーティング液を、バーコータを用いて塗布し、その後100℃で5分間加熱した。これにより、一方の主面に透明導電性膜が形成された実施例1の透明導電性シートを作製した。
【0062】
(実施例2)
導電性高分子水分散体の添加量を36.6部に、PVDF分散液の添加量を5.9部に、水溶性ポリエステル水溶液の添加量を0.4部に、有機溶媒の添加量を10.4部に、水の添加量を16.7部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の透明導電性シートを作製した。
【0063】
(実施例3)
導電性高分子水分散体の添加量を36.7部に、PVDF分散液の添加量を5.6部に、水溶性ポリエステル水溶液の添加量を0.6部に、有機溶媒の添加量を9.9部に、水の添加量を17.2部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3の透明導電性シートを作製した。
【0064】
(実施例4)
PVDF分散液の添加量を5.3部に、水溶性ポリエステル水溶液の添加量を0.8部に、有機溶媒の添加量を9.3部に、水の添加量を17.8部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4の透明導電性シートを作製した。
【0065】
(実施例5)
水溶性ポリエステル水溶液を互応化学工業社製の商品名“プラスコートZ687”(固形分濃度:25質量%、ガラス転移温度:110℃)に変更して0.2部添加し、導電性高分子水分散体の添加量を37.4部に、PVDF分散液の添加量を6.4部に、有機溶媒の添加量を11.2部に、水の添加量を14.8部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例5の透明導電性シートを作製した。
【0066】
(実施例6)
水溶性ポリエステル水溶液を互応化学工業社製の商品名“プラスコートZ687”(固形分濃度:25質量%、ガラス転移温度:110℃)に変更して0.4部添加し、導電性高分子水分散体の添加量を37.7部に、PVDF分散液の添加量を6.1部に、有機溶媒の添加量を10.7部に、水の添加量を15.1部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例6の透明導電性シートを作製した。
【0067】
(実施例7)
水溶性ポリエステル水溶液を互応化学工業社製の商品名“プラスコートZ687”(固形分濃度:25質量%、ガラス転移温度:110℃)に変更して0.6部添加し、導電性高分子水分散体の添加量を38.0部に、PVDF分散液の添加量を5.8部に、有機溶媒の添加量を10.2部に、水の添加量を15.4部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例7の透明導電性シートを作製した。
【0068】
(実施例8)
水溶性ポリエステル水溶液を互応化学工業社製の商品名“プラスコートZ687”(固形分濃度:25質量%、ガラス転移温度:110℃)に変更して0.9部添加し、導電性高分子水分散体の添加量を38.5部に、PVDF分散液の添加量を5.6部に、有機溶媒の添加量を9.8部に、水の添加量を15.2部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例8の透明導電性シートを作製した。
【0069】
(実施例9)
有機溶媒のジメチルスルホキシドに代えてブチロラクトン(HSP距離:5.7)を5.6部添加し、導電性高分子水分散体の添加量を36.7部に、PVDF分散液の添加量を5.6部に、水溶性ポリエステル水溶液の添加量を0.7部に、水の添加量を21.4部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例9の透明導電性シートを作製した。
【0070】
(実施例10)
有機溶媒のジメチルスルホキシドに代えて2−ピロリドン(HSP距離:7.0)を9.9部添加し、導電性高分子水分散体の添加量を36.7部に、PVDF分散液の添加量を5.6部に、水溶性ポリエステル水溶液の添加量を0.6部に、水の添加量を17.2部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例10の透明導電性シートを作製した。
【0071】
(実施例11)
導電性高分子水分散体の添加量を36.7部に、PVDF分散液の添加量を5.6部に、水溶性ポリエステル水溶液の添加量を0.6部に、有機溶媒の添加量を6.2部に、水の添加量を20.9部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例11の透明導電性シートを作製した。
【0072】
(実施例12)
導電性高分子水分散体の添加量を36.7部に、PVDF分散液の添加量を5.6部に、水溶性ポリエステル水溶液の添加量を0.6部に、有機溶媒の添加量を16.8部に、水の添加量を10.3部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例12の透明導電性シートを作製した。
【0073】
(実施例13)
水溶性ポリエステル水溶液を互応化学工業社製の商品名“プラスコートZ446”(固形分濃度:25質量%、ガラス転移温度:47℃)に変更して添加量を0.6部に変更し、導電性高分子水分散体の添加量を36.7部に、PVDF分散液の添加量を5.6部に、有機溶媒の添加量を9.9部に、水の添加量を17.2部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例13の透明導電性シートを作製した。
【0074】
(実施例14)
PVDF分散液の添加量を5.0部に、水溶性ポリエステル水溶液の添加量を1.1部に、有機溶媒の添加量を8.8部に、水の添加量を18.3部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例14の透明導電性シートを作製した。
【0075】
(比較例1)
水溶性ポリエステル水溶液を添加せず、導電性高分子水分散体の添加量を36.7部に、PVDF分散液の添加量を6.6部に、有機溶媒の添加量を11.6部に、水の添加量を15.1部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1の透明導電性シートを作製した。
【0076】
(比較例2)
PVDF分散液を添加せず、導電性高分子水分散体の添加量を36.3部に、水溶性ポリエステル水溶液の添加量を4.1部に、有機溶媒の添加量を11.6部に、水の添加量を18.0部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして比較例2の透明導電性シートを作製した。
【0077】
表1に、実施例1〜14及び比較例1〜2で用いた透明導電性コーティング液に含まれる各成分について、水溶性ポリエステルのガラス転移温度(Tg)、水溶性ポリエステルとPVDFとの体積比率、有機溶媒のPVDFに対する質量比(有機溶媒/PVDF)、導電性高分子の含有量、及び導電性高分子の全固形成分に対する質量割合(導電性高分子/全固形成分)を示した。
【0078】
【表1】
【0079】
次に、上記で得られた透明導電性シートについて、下記に示す各評価を行った。
【0080】
<電気特性>
先ず、透明導電性シートの透明導電性膜の膜厚を測定した。膜厚の測定は、透明導電性シートの透明導電性膜を形成した面とは反対面に黒色テープを貼り付け、大塚電子社製のマルチチャンネル型分光光度計“MCPD−3700”を用いて、透明導電性膜の反射スペクトルを測定し、その反射スペクトルを膜厚測定システムにより解析することにより行った。
【0081】
次に、透明導電性シートの透明導電性膜の表面電気抵抗値を測定した。表面電気抵抗値の測定は、三菱化学アナリテック社製の抵抗率測定装置“Loresta−GP”(MCP−T610型)とLSPプローブを用いて行った。また、その測定の結果、上記抵抗率測定装置の表面電気抵抗値が“OVER”と表示された場合には、上記表面電気抵抗値を三菱化学アナリテック社製の抵抗率測定装置“Hiresta−UP”(MCP−HT450型)とURSPプローブを用いて測定した。
【0082】
最後に、透明導電性シートの透明導電性膜の膜厚と表面電気抵抗値とを用いて、次のように透明導電性シートの電気特性を評価した。即ち、透明導電性シートの透明導電性膜の膜厚が0.08〜3.0μmの範囲で表面電気抵抗値が150Ω/スクエア以下の場合を電気特性が良好と判断し、それ以外の場合を電気特性が不良と判断した。
【0083】
<光学特性>
透明導電性シートの光学特性は、下記のように透明導電性シートのヘイズ及び全光線透過率を測定することで評価した。
【0084】
透明導電性シートのヘイズ及び全光線透過率は、日本分光社製の分光光度計"V−570"を用いて測定した。具体的には、積分球“ILN−472”を組み合わせ、ヘイズ値計算モードで、レスポンスがFast、バンド幅が2.0nm、近赤外バンド幅が8.0nm、走査速度が400nm/分の条件で波長範囲380〜780nmにおける光透過スペクトルを測定し、その光透過スペクトルの測定結果を用いて、C光源、視野2度の条件でヘイズ及び全光線透過率を算出した。
【0085】
上記測定の結果に基づき、次のように透明導電性シートの光学特性を評価した。即ち、ヘイズが1.0%未満の場合を光学特性は良好と判断し、ヘイズが1.0%以上1.2%未満の場合を光学特性は良と判断し、ヘイズが1.2%以上の場合を光学特性は不良と判断した。また、全光線透過率が87%以上の場合を光学特性は良好と判断し、全光線透過率が85%以上87%未満の場合を光学特性は良と判断し、全光線透過率が85%を下回った場合を光学特性は不良と判断した。
【0086】
<信頼性>
透明導電性シートの信頼性は、下記のように透明導電性シートの保存試験を行うことで評価した。
【0087】
先ず、透明導電性シートの透明導電性膜の初期の表面電気抵抗値を前述の電気特性の評価と同様にして測定した。次に、透明導電性シートを恒温恒湿槽に入れて85℃、相対湿度85%で500時間保存した。続いて、保存後の透明導電性シートの透明導電性膜の表面電気抵抗値を同様にして測定した。最後に、下記式(1)により表面電気抵抗値の変化率を算出した。
表面電気抵抗値の変化率(%)=〔(保存後の表面電気抵抗値−初期の表面電気抵抗値)/初期の表面電気抵抗値〕×100 (1)
【0088】
上記測定の結果、上記変化率が30%未満の場合を信頼性は良好と判断し、上記変化率が30%以上50%未満の場合を信頼性は良と判断し、上記変化率が50%以上の場合を信頼性が不良と判断した。
【0089】
<耐薬品性>
透明導電性シートの耐薬品性は、下記のように透明導電性シートの摺動試験を行うことで評価した。
【0090】
先ず、透明導電性シートの透明導電性膜の初期の表面電気抵抗値を前述の電気特性の評価と同様にして測定した。次に、先端の直径が10mmの筒状の治具に綿布を取り付けた後、その綿布にトルエンを含浸させて、HEIDON社製の摺動試験装置に設置し、その治具の先端を透明導電性シートの透明導電性膜の表面に接触させ、4500mm/分の速度で20往復摺動させた。続いて、摺動後の透明導電性シートの透明導電性膜の表面電気抵抗値を同様にして測定した。最後に、下記式(2)により表面電気抵抗値の変化率を算出した。
表面電気抵抗値の変化率(%)=〔(摺動後の表面電気抵抗値−初期の表面電気抵抗値)/初期の表面電気抵抗値〕×100 (2)
【0091】
上記測定の結果、上記変化率が10%未満の場合を信頼性は良好と判断し、上記変化率が10%以上30%未満の場合を信頼性は良と判断し、上記変化率が30%以上の場合を信頼性が不良と判断した。
【0092】
上記評価の結果を表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
表2から、本発明の実施例1〜14では、全ての評価項目で良好又は良の評価結果を得たことが分かる。一方、用いた透明導電性コーティング液において、水溶性ポリエステルを添加しなかった比較例1では信頼性及び耐薬品性が低下し、PVDFを添加しなかった比較例2では耐薬品性が低下した。
【0095】
また、実施例同士の比較において、水溶性ポリエステルのガラス転移温度が60℃未満である実施例13は、水溶性ポリエステルのガラス転移温度が60℃以上である実施例3及び実施例10よりも信頼性及び耐薬品性がやや劣った。また、PVDFと水溶性ポリエステルとの割合が75:25である実施例14は、PVDFと水溶性ポリエステルとの割合が95:5〜80:20である実施例5〜8よりもヘイズがやや劣った。