特許第6678075号(P6678075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6678075
(24)【登録日】2020年3月18日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂硬化促進剤
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/68 20060101AFI20200330BHJP
【FI】
   C08G59/68
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-129621(P2016-129621)
(22)【出願日】2016年6月30日
(65)【公開番号】特開2018-2820(P2018-2820A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106139
【氏名又は名称】サンアプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118061
【弁理士】
【氏名又は名称】林 博史
(72)【発明者】
【氏名】陳 礼翼
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−216229(JP,A)
【文献】 特開2000−169556(JP,A)
【文献】 特開昭51−073030(JP,A)
【文献】 特開2006−137809(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第02207676(GB,A)
【文献】 中国特許出願公開第103097427(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)、(2)、(3)もしくは(4)で示されるアミジン基を有する環式カチオン(A)と、一般式(5)で示される有機カルボン酸(B)のアニオンからなる四級化アミジン塩(S)、および一般式(6)で示される有機フェノール化合物(C)を含み、有機カルボン酸(B)と有機フェノール化合物(C)のモル比が、30/70〜70/30であることを特徴とするエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)。
【化1】
[式(1)中、Rは、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表す。]
【化2】
[式(2)中、Rは、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表す。]
【化3】
[式(3)中、R及びRが、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表し、Rは、炭素数1〜16のアルキル基、またはフェニル基を表し、R及びRが、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、水酸基、水素、ヒドロキシメチル基またはヒドロキシエチル基を表す。]
【化4】
[式(4)中、R及びR11が、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表し、R10は、炭素数1〜16のアルキル基、またはフェニル基を表し、R12及びR13が、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、水酸基、水素、ヒドロキシメチル基またはヒドロキシエチル基を表す。]
【化5】
[式(5)中、R14〜R16は、同一または異なって、それぞれ水酸基、カルボキシル基、水素または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R17は、水酸基またはカルボキシル基を表す。]
【化6】
[式(6)中、R18〜R20は、同一または異なって、それぞれ水酸基、カルボキシル基、水素または炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
【請求項2】
一般式(6)において、R18及びR20が水素、R19が水酸基またはカルボキシル基である請求項1に記載のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)。
【請求項3】
一般式(6)において、R18及びR20が水素、R19が水酸基である請求項1に記載のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)。
【請求項4】
一般式(5)において、R14及びR16が水素、R17が水酸基またはカルボキシル基である請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)を含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項に記載のエポキシ樹脂組成物が硬化してなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂硬化促進剤に関する。さらに詳しくは、半導体などの電子部品用のエポキシ樹脂系封止材の製造に適した、アミジン基を有する塩からなるエポキシ樹脂硬化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エポキシ樹脂は成形性および硬化物の電気特性などに優れるため、例えば、半導体封止材などの電子部品の封止材用途に使用される。封止材樹脂としては、硬化剤としてフェノールノボラック類を用い多量のフィラーなどを配合したエポキシ樹脂が広く使用されている。近年、半導体の高集積化、薄型化または実装方式の改良などに伴い、封止材の成形性、および封止された半導体の信頼性の向上などが強く要望されている。この要望に対して封止材の一成分である硬化促進剤の役割も大きくなっている。
これらエポキシ樹脂の硬化促進剤として、アミン系化合物、トリフェニルホスフィンが一般的に使用されている。配合物の流動性と保存安定性が悪いという問題がある。
【0003】
この問題の改良として、例え、TPPの第4級化ホスホニウム塩、四級アミン塩(特許文献1および2参照)が提案されている。
【0004】
しかしながら、無機充填材を高濃度に配合する封止材組成では、前記四級塩を硬化促進剤として用いる場合、エポキシ樹脂、硬化剤および硬化促進剤の混合物を加熱溶融させた配合液の粘度が高くなるため、モールド充填時に半導体チップの配線を押し流したり、配合物が隅々まで行き渡る前に粘度が上昇し、未充填部分ができたりする、いわゆる液流れ性不良の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−256643号公報
【特許文献2】特開2005−162944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、モールド充填時に流動性に優れ、かつ触媒活性が高く硬化性に優れるエポキシ樹脂硬化促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、一般式(1)、(2)、(3)もしくは(4)で示されるアミジン基を有する環式カチオン(A)と、一般式(5)で示される有機カルボン酸(B)のアニオンからなる四級化アミジン塩(S)、および一般式(6)で示される有機フェノール化合物(C)を含むことを特徴とするエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)である。
【0008】
【化1】
【0009】
[式(1)中、Rは、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表す。]
【0010】
【化2】
【0011】
[式(2)中、Rは、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表す。]
【0012】
【化3】
【0013】
[式(3)中、R及びRが、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表し、Rは、水素、炭素数1〜16のアルキル基、またはフェニル基を表し、R及びRが、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、水酸基、水素、ヒドロキシメチル基またはヒドロキシエチル基を表す。]
【0014】
【化4】
【0015】
[式(4)中、R及びR11が、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表し、R10は、水素、炭素数1〜16のアルキル基、またはフェニル基を表し、R12及びR13が、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、水酸基、水素、ヒドロキシメチル基またはヒドロキシエチル基を表す。]
【0016】
【化5】
【0017】
[式(5)中、R14〜R16は、同一または異なって、それぞれ水酸基、カルボキシル基、水素または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R17は、水酸基またはカルボキシル基を表す。]
【0018】
【化6】
【0019】
[式(6)中、R18〜R20は、同一または異なって、それぞれ水酸基、カルボキシル基、水素または炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
【発明の効果】
【0020】
本発明はアミジン基を有する環式カチオン(A)を有するため、エポキシ樹脂と硬化剤との反応を硬化促進することができる。
また有機カルボン酸(B)のアニオンと有機フェノール化合物(C)はそれぞれの1,3位に水素結合可能な置換基(水酸基、カルボニル基)を有する、及び芳香環π-πスタッキングを有するため、有機カルボン酸(B)のアニオンと有機フェノール化合物(C)の分子間の相互作用が強力に作用する。これにより有機カルボン酸(B)のアニオンの酸強度が見かけ上強くなり、四級塩(S)が解離しにくくなる。これによりエポキシ樹脂、硬化剤および硬化促進剤の混合物を加熱溶融する温度では、四級塩(S)が解離しにくいため硬化反応を抑制でき、モールド充填時の流動性が優れる。
一方、モールド充填後の硬化温度では、有機カルボン酸(B)のアニオンと有機フェノール化合物(C)の水素結合が弱まり、有機カルボン酸(B)のアニオンが解離されるため硬化性に優れる。
【0021】
このため本発明のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)はモールド充填時に流動性に優れ、かつ触媒活性が高く硬化性に優れるため、半導体などの電子部品用のエポキシ樹脂系封止材の製造に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)は、アミジン基を有する環式カチオン(A)と有機カルボン酸(B)のアニオンからなる四級塩(S)、および有機フェノール化合物(C)を含むことを特徴とする。
【0023】
アミジン基を有する環式カチオン(A)は、エポキシ樹脂と硬化剤との反応を促進するための必須成分であり下記一般式(1)、(2)、(3)もしく(4)で表される。
【0024】
【化7】
【0025】
[式(1)中、Rは、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表す。]
【0026】
を構成する炭素数1〜16のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、および2−プロピルペンチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0027】
としては、硬化性の観点、および合成の容易さの観点から、好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基とベンジル基、さらに好ましくはメチル基、エチル基である。
【0028】
【化8】
【0029】
[式(2)中、Rは、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表す。]
【0030】
を構成する炭素数1〜16のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、および2−プロピルペンチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0031】
としては、硬化性の観点、および合成の容易さの観点から、好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基とベンジル基、さらに好ましくはメチル基、エチル基である。
【0032】
【化9】
【0033】
[式(3)中、R及びRが、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表し、Rは、水素、炭素数1〜16のアルキル基、またはフェニル基を表し、R及びRが、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、水酸基、水素、ヒドロキシメチル基またはヒドロキシエチル基を表す。]
【0034】
もしくRを構成する炭素数1〜16のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、および2−プロピルペンチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0035】
を構成する炭素数1〜16のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、および2−プロピルペンチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0036】
もしくRを構成する炭素数1〜16のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、および2−プロピルペンチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0037】
【化10】
【0038】
[式(4)中、R及びR11が、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、またはベンジル基を表し、R10は、水素、炭素数1〜16のアルキル基、またはフェニル基を表し、R12及びR13が、同一または異なって、炭素数1〜16のアルキル基、水酸基、水素、ヒドロキシメチル基またはヒドロキシエチル基を表す。]
【0039】
もしくR11を構成する炭素数1〜16のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、および2−プロピルペンチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0040】
10を構成する炭素数1〜16のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、および2−プロピルペンチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0041】
12もしくR13を構成する炭素数1〜16のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、および2−プロピルペンチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0042】
本発明の有機カルボン酸(B)は、溶融混練後の流動性を向上させ、モールド充填後の硬化温度で硬化させるための必須成分であり、下記一般式(5)で表される。
【0043】
【化11】
【0044】
[式(5)中、R14〜R16は、同一または異なって、それぞれ水酸基、カルボキシル基、水素または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R17は、水酸基またはカルボキシル基を表す。]
【0045】
一般式(5)中のR14〜R16を構成する炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0046】
有機カルボン酸(B)の入手のしやすさ、および有機フェノール化合物(C)との相互作用のしやすさの観点から、R14およびR16は水素が好ましく、R15は水酸基およびカルボキシル基が好ましい。
【0047】
四級塩(S)の合成方法は、特に限定されないが、例えば、アミジン基を有する環式カチオン(A)のアルキル炭酸塩(A1)と有機カルボン酸(B)との塩交換反応、およびアミジン基を有する環式カチオン(A)の水酸化物(A2)と有機カルボン酸(B)との塩交換反応等により得られる。
【0048】
アミジン基を有する環式カチオン(A)のアルキル炭酸塩(A1)は、例えば、対応するアミジン基を有する環式化合物と炭酸ジエステル類とを反応させることで得られる。製造条件としては温度50〜150℃にてオートクレーブ中10〜200時間であり、反応を速やかに収率良く完結するために、反応溶媒を使用することが好ましい。反応溶媒としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール等が好ましい。溶媒の量は特に限定されるものではない。
【0049】
対応するアミジン基を有する環式化合物としては、例えば、DBU系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾール系化合物等が挙げられる。炭酸ジエステルとしては公知のものであればよく、特に限定するものではないが、具体的にはジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等が用いられる。
【0050】
アミジン基を有する環式カチオン(A)の水酸化物(A2)は、例えば、対応するアミジン基を有する環式化合物とハロゲン化(臭素、または塩素)アルキル、またはハロゲン化(臭素、または塩素)トルエンとを反応させた後に、無機アルカリにより塩交換することで得られる。製造条件としては温度0〜150℃にて1〜20時間であり、反応を速やかに収率良く完結するために、反応溶媒を使用することが好ましい。反応溶媒としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール等が好ましい。溶媒の量は特に限定されるものではない。
【0051】
対応するアミジン基を有する環式化合物としては上記と同様のものが挙げられる。ハロゲン化アルキルとしては、臭化エチル、塩化ブチル、2−エチルヘキシルブロマイド、2−ブチルエタノール、2−クロロプロパノール等が、ハロゲン化トルエンとしては、ブロベンジルブロマイド等が挙げられる。
無機アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、および水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0052】
アミジン基を有する環式カチオン(A)のアルキル炭酸塩(A1)、または水酸化物(A2)と、有機カルボン酸(B)を塩交換反応する際のモル比は、硬化性と流動性の観点から、通常10/90〜50/50であり、好ましくは40/60〜50/50である。
製造条件としては温度0〜170℃にて1〜20時間反応させながら、副生成するアルコール、水、炭酸ガス、および必要に応じて反応溶媒等を除去する。
【0053】
四級塩(S)の合成方法として、電気信頼性を悪化させるイオン性不純物の混入防止の観点から、ミジン基を有する環式カチオン(A)のアルキル炭酸塩(A1)と有機カルボン酸(B)との塩交換反応が好ましい。
【0054】
有機フェノール化合物(C)は、ホスホニウム塩(S)中の有機カルボン酸(B)のアニオンと水素結合、芳香環π-πスタッキング相互作用し、溶融混練時の解離を抑制し流動性を向上させるための必須成分であり、下記一般式(6)で表される。
【0055】
【化12】
【0056】
[式(6)中、R18〜R20は、同一または異なって、それぞれ水酸基、カルボキシル基、水素または炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
【0057】
[式(6)中、R〜R11は、同一または異なって、それぞれ水酸基、カルボキシル基、水素または炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
【0058】
一般式(6)中のR18〜R20を構成する炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0059】
有機フェノール化合物(C)は、カルボン酸(B)のアニオンとの相互作用のしやすさの観点から、好ましくはR18〜R20が水酸基、カルボキシル基および水素が好ましく、さらに好ましくはR18およびR20が水素、R19が水酸基およびカルボキシル基であり、特に好ましくはR18およびR20が水素、R19が水酸基である。
【0060】
有機カルボン酸(B)と有機フェノール化合物(C)のモル比は、カルボン酸(B)のアニオンとの相互作用のしやすさの観点から、通常10/90〜90/10であり、好ましくは20/80〜80/20、特に好ましくは30/70〜70/30である。
【0061】
エポキシ樹脂硬化促進剤(Q)は、通常、四級塩(S)と有機フェノール化合物(C)を、通常、温度0〜200℃にて1〜20時間で均一混合させることで得られる。混合を速やかに完結するために溶媒を使用しても良く、均一混合後に、温度0〜200℃で減圧〜常圧条件で溶媒等を除去する。溶媒としては特に限定されるものではないが、メタノ−ル、エタノ−ル等が好ましい。
四級塩(S)と有機フェノール化合物(C)の配合比率は、上記有機カルボン酸(B)と有機フェノール化合物(C)のモル比から適宜決定する。
【0062】
エポキシ樹脂硬化促進剤(Q)は、エポキシ樹脂組成物との混合をしやすくするために、低粘度のフェノール樹脂、また低分子フェノール化合物でマスターバッチ化して軟化点を下げる方法、粉砕して粉末状にする方法等を行っても良い。
低粘度のフェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂等が挙げられる。マスターバッチ化の方法としては、公知の方法が利用できる。
低分子のフェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられる。マスターバッチ化の方法としては、公知の方法が利用できる。
エポキシ樹脂硬化促進剤(Q)の軟化点は、通常70〜140℃、好ましくは80〜180℃、より好ましくは90〜130℃である。これは、70℃よりも低いと、粉砕時の融着や粉末状にした促進剤の貯蔵中のブロック化が起こり易く好ましくなく、また、180℃を超えると、硬化促進剤がエポキシ樹脂と溶融混合できずに不均一になり、硬化不良の原因となり易いからである。
【0063】
粉砕して粉末状にする方法としては、例えば衝撃式粉砕機等で粉砕して粉末状の硬化促進剤を得ることができる。使用に際しては、この粉末状の硬化促進剤の粒径は、100メッシュパス(エアージェットシーブ法などにより測定)95%以上であることが好ましい。これは、95%未満のものではエポキシ樹脂組成物への均一溶解が妨げられ易くなり、硬化不良の原因となるからである。
【0064】
本発明のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)は、エポキシ樹脂、硬化剤および充填剤など必要により他の添加剤が配合された混合物中に添加して用いられ、最終的に硬化エポキシ樹脂が得られる。エポキシ樹脂硬化促進剤(Q)の配合量はエポキシ樹脂や硬化剤の反応性に応じて調整されるが、エポキシ樹脂100質量部に対して通常1〜25質量部、好ましくは2〜20質量部である。最適な配合量は、要求される硬化特性などに合わせて設定すればよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0066】
<製造例1>
<四級塩ベース(A−Be1)の製造方法>
攪拌式のオートクレーブに、炭酸ジメチル(東京化成工業株式会社社製)180部および溶媒のメタノール500部を仕込み、この中にDBU(サンアプロ株式会社社製)152部を仕込み、反応温度125℃にて80時間反応させた。溶剤を減圧除去した後、再度メタノールに溶解させることで、四級塩ベース(A−Be1、固形分濃度 50%)を得た。
【0067】
<製造例2>
<四級塩ベース(A−Be2)の製造方法>
攪拌式のオートクレーブに、炭酸ジエチル(東京化成工業株式会社社製)240部および溶媒のエタノール500部を仕込み、この中にDBN(サンアプロ株式会社社製)124部を仕込み、反応温度125℃にて80時間反応させた。溶剤を減圧除去した後、再度メタノールに溶解させることで、四級塩ベース(A−Be2、固形分濃度 50%)を得た。
【0068】
<製造例3>
<四級塩ベース(A−Be3)の製造方法>
攪拌式のオートクレーブに、炭酸ジメチル(東京化成工業株式会社社製)220部および溶媒のメタノール500部を仕込み、この中に2-メチル-2-イミダゾリン(東京化成工業株式会社社製)84部を仕込み、反応温度125℃にて80時間反応させた。溶剤を減圧除去した後、再度メタノールに溶解させることで、四級塩ベース(A−Be3、固形分濃度 50%)を得た。
【0069】
<製造例4>
<四級塩ベース(A−Be4)の製造方法>
攪拌式のオートクレーブに、炭酸ジメチル(東京化成工業株式会社社製)220部および溶媒のメタノール500部を仕込み、この中に2-フェニルイミダゾール(東京化成工業株式会社社製)144部を仕込み、反応温度125℃にて80時間反応させた。溶剤を減圧除去した後、再度メタノールに溶解させることで、四級塩ベース(A−Be4、固形分濃度 50%)を得た。
【0070】
<製造例5>
<四級塩ベース(A−Be5)の製造方法>
滴下ロート、および還流管を備え付けたガラス製丸底3つ口フラスコにDBU152部、アセトン1000部仕込み、均一溶解させた後に、ベンジルブロミド(東京化成工業株式会社社製)175部を滴下投入し50℃で2時間反応させた。ついで水酸化ナトリウム40部(30%メタノール溶液)を投入し0℃で5時間反応させ、析出した塩を除去することで四級塩(A−Be5、固形分濃度 25%)を得た。
【0071】
<比較製造例1>
<第4級ホスホニウムベース(A−Be’1)の製造方法>
攪拌式のオートクレーブに、炭酸ジメチル180部および溶媒のメタノール224部を仕込み、この中にトリブチルホスフィン202部を滴下して仕込み、反応温度125℃にて20時間反応させて、第4級ホスホニウムベース(A−Be’1)としてトリブチルメチルホスホニウムモノメチル炭酸塩の溶液(固形分濃度 50%)を得た。
【0072】
<実施例1>
滴下ロート、および還流管を備え付けたガラス製丸底3つ口フラスコに製造例1で製造の四級塩ベース(A−Be1)486部を入れ、50℃で温調しながらトリメリット酸(東京化成工業株式会社社製)210部を分割投入後、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン(東京化成工業株式会社社製)126部を分割投入した。ついでフェノールノボラック樹脂(明和化成工業株式会社製「H−4」)200部を投入後、溶剤(メタノール)を留去しながら175℃まで昇温後、残った溶剤を減圧除去することで、エポキシ樹脂硬化促進剤(Q−1)を得た。
【0073】
<実施例2>
実施例1における四級塩ベース(A−Be1)の代わりに製造例2で製造の四級塩ベース(A−Be2)を、実施例1におけるトリメリット酸210部の代わりに5−ヒドロキシイソフタル酸(東京化成工業株式会社社製)182部、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンの代わりにフロログルシノール(東京化成工業株式会社社製)182部の変更した以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂硬化促進剤(Q−2)を得た。
【0074】
<実施例3>
実施例1における四級塩ベース(A−Be1)の代わりに製造例3で製造の四級塩ベース(A−Be3)を、トリメリット酸の代わりに1,3,5−ベンゼントリカルボン酸(東京化成工業株式会社社製)182部、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンの代わりにレソルシノール(東京化成工業株式会社社製)120部に変更した以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂硬化促進剤(Q−3)を得た。
【0075】
<実施例4>
実施例1における四級塩ベース(A−Be1)の代わりに製造例4で製造の四級塩ベース(A−Be4)、トリメリット酸の代わりに5−メチルイソフタル酸(東京化成工業株式会社社製)182部、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンの代わりに5−メチルレソルシノール(東京化成工業株式会社社製)124部に変更した以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂硬化促進剤(Q−4)を得た。
【0076】
<実施例5>
実施例1における四級塩ベース(A−Be1)の代わりに製造例5で製造の四級塩ベース(A−Be5)を1044部、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンの代わりにフロログルシノールに変更した以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂硬化促進剤(Q−5)を得た。
【0077】
<実施例6>
実施例3におけるレソルシノールの代わりにフロログルシノールに変更した以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂硬化促進剤(Q−6)を得た。
【0078】
<比較例1>
実施例1における四級塩ベース(A−Be1)の代わりに比較製造例1で製造の第4級ホスホニウムベース(A−Be’1)に変更した以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂硬化促進剤(Q’−1)を得た。
【0079】
<比較例2>
実施例2におけるフロログルシノールを使用せず、フェノールノボラック樹脂200部を326部に変更した以外は、実施例2と同様にして、エポキシ樹脂硬化促進剤(Q’−2)を得た。
【0080】
<比較例3>
実施例3における1,3,5−ベンゼントリカルボン酸の代わりにテレフタル酸(東京化成工業株式会社社製)に変更した以外は、実施例3と同様にして、エポキシ樹脂硬化促進剤(Q’−3)を得た。
【0081】
<比較例4>
実施例4における5−メチルイソフタル酸を使用せず、フェノールノボラック樹脂200部を480部に変更した以外は、実施例4と同様にして、エポキシ樹脂硬化促進剤(Q’−4)を得た。
【0082】
<比較例5>
実施例1におけるトリメリット酸210部を4−スルホフタル酸の50%水溶液(東京化成工業株式会社社製)420部に変更した以外は、実施例4と同様にして、エポキシ樹脂硬化促進剤(Q’−5)を得た。
【0083】
<性能評価>
実施例1〜6で作成した本発明のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q−1)〜(Q−6)、及び比較例1〜5で作成した比較のためのエポキシ樹脂硬化促進剤(Q’−1)〜(Q’−5)の流動性、および硬化性について以下の方法で評価した。
【0084】
<流動性(フロー値)>
ビフェニル型エポキシ樹脂(軟化点105℃、エポキシ当量 192)100部、p−キシリレンフェノール樹脂(軟化点80℃、水酸基当量174)78重量部、1重量%のシランカップリング剤で処理した溶融シリカ粉末1000部、カルナバワックス1.5部、三酸化アンチモン4部およびカーボンブラック1部に、各例で得られたエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)12部を均一に粉砕混合後、 130℃の熱ロールを用いて5分間溶融混練し、冷却後粉砕して封止材を得た。この封止材について、EMMI 1−66 の方法に準じて175℃(70kg/cm2)でのスパイラルフローのフロー値(単位はcm)を測定し、流動性の指標とした。
【0085】
<硬化性(硬化トルク)>
キュラストメータV型(日合商事社製、商品名)を使用して、温度175℃、樹脂用ダイスP−200および振幅角度±1°の条件で、それぞれの上記封止剤について硬化トルクを測定し、硬化トルクの立ち上がる点をゲルタイム(単位は秒)として、測定開始から90秒後の硬化トルクの値(単位はkgf・cm)を硬化性(脱型時の強度および硬度)の指標とした。
【0086】
実施例1〜6および比較例1〜5で得たエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)の評価結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1から明らかなように、本発明の実施例1〜6のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)は、溶融混練後の封止剤のフロー値が高く流動性に優れており、また硬化トルクも高く硬化性に優れていることが分かる。
一方、テトラアルキルホスホニウムカチオンからなる比較例1では、ホスホニウムカチオンの安定性が低いため溶融混連後の封止剤のフロー値が非常に低くなり、成形性に劣ることがわかる。
また有機フェノール化合物(C)を含有しない比較例2、および有機カルボン酸(B)のm位に水素結合可能な基を含有しない比較例3では、有機カルボン酸(B)と有機フェノール化合物(C)との相互作用が不十分であるため、溶融紺練時の反応を抑制できずフロー値が低くなることがわかる。
有機カルボン酸(B)を含有しない比較例4では、溶融紺練の温度で触媒が解離するため、フロー値が低くなることが分かる。
有機カルボン酸化合物(B)中に強酸であるスルホン酸基を含有する比較例5では、硬化温度でも触媒が解離しにくいため硬化性が不十分であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)はモールド充填時に流動性に優れ、かつ触媒活性が高く硬化性に優れるため、半導体などの電子部品用のエポキシ樹脂系封止材の製造に好適である。