特許第6678091号(P6678091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6678091
(24)【登録日】2020年3月18日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】設備吊下げ装置
(51)【国際特許分類】
   E21F 17/02 20060101AFI20200330BHJP
【FI】
   E21F17/02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-202717(P2016-202717)
(22)【出願日】2016年10月14日
(65)【公開番号】特開2018-62821(P2018-62821A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】594036135
【氏名又は名称】株式会社東宏
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅彦
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−203090(JP,A)
【文献】 実開昭58−156800(JP,U)
【文献】 実開昭62−110400(JP,U)
【文献】 特開平1−288686(JP,A)
【文献】 国際公開第95/20718(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21F 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル工事の施工において坑内に設備を吊り下げる、設備吊下げ装置であって、
長尺部材からなりトンネルの坑壁の断面形状に相似したアーチ形状に湾曲可能な可撓性を有する支持枠と、
前記支持枠の両端を支持する2つの支持脚と、を備え、
前記支持脚の少なくとも一方はジャッキ機構を備え、坑内の地盤に設置した前記支持脚の少なくとも一方を伸長することによって、前記支持枠を坑壁に沿って押付け可能に構成されていることを特徴とする、
設備吊下げ装置。
【請求項2】
前記支持枠は繊維強化プラスチック製であることを特徴とする、請求項1に記載の設備吊下げ装置。
【請求項3】
前記支持脚は長手方向と直交する方向を回動軸としたヒンジ部を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の設備吊下げ装置。
【請求項4】
前記支持枠は複数の支持枠分割体を連結してなることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の設備吊下げ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の設備吊下げ装置を備える設備吊下げ構造であって、
前記支持枠のアーチ形状によって形成される仮想面に直交する方向に並列した2つの前記設備吊下げ装置と、
前記2つの設備吊下げ装置を相互に連結している複数の連結材と、を備えることを特徴とする、
設備吊下げ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルの施工において、坑内に風管や照明器具などの設備を吊り下げるための設備吊下げ装置に係る。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工事の施工においては、切羽まで空気を圧送するための風管や、工事用の照明などの仮設設備を吊り下げる必要がある。また、二次覆工コンクリートの打設にあたり、配筋用の鉄筋を吊り下げる必要がある。
設備の坑内吊下げに係る従来技術には、(1)鋼製支保工に予め溶接したボルトなどから吊り下げる方法、(2)坑壁に釘や拡張アンカーなどを打ち込んでここから吊下げる方法、(3)鋼製支保工に予め溶接したクリップと吊り金具で防水シートを挟み込みここから吊り下げる方法、(4)一次覆工面の内側に支保工を建て込んでここから吊り下げる方法、などがある。
【0003】
また、特許文献1には、板状体と、棒状体と、筒状体と、を備えた鉄筋の吊下げ具(固定具)であって、板状体の一面を防水シートに接着し、板状体の他面に棒状体の一端を螺合して立設し、棒状体に筒状体を遊嵌し、筒状体に設けた透孔に螺着したボルトによって、鉄筋の吊下げ位置を調整可能な吊下げ具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−160583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術には次のような欠点がある。
<1>支保工に溶接する方法は、ボルトが防水シートを貫通するため、防水工の水密性を損なうおそれがある。また、鋼製支保工を設置していない区間には適用できない。
<2>拡張アンカー、釘などを打ち込む方法も、同様に防水シートを貫通するため、水密性を損なうおそれがある。また、高所における上向きの施工となるため、施工性が悪い。
<3>クリップを挟む込む方法は、防水シートを損傷しやすい。また、支持力が弱いため重量物を吊下げられない。
<4>支保工を建て込む方法は、施工性が悪く材料コストが高い。また、二次覆工コンクリートの打設時に型枠内におけるコンクリートの流動を阻害する恐れがある。
<5>特許文献1は、防水シートに接着して固定しているだけなので重量が大きい設備を吊り下げることができない。
【0006】
本発明の目的は、これら従来技術の課題を解決する、設備吊下げ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の設備吊下げ装置は、長尺部材からなりトンネルの坑壁の断面形状に相似したアーチ形状に湾曲可能な可撓性を有する支持枠と、支持枠の両端を支持する2つの支持脚と、を備え、支持脚の少なくとも一方はジャッキ機構を備え、坑内の地盤に設置した支持脚の少なくとも一方を伸長することによって、支持枠を坑壁に沿って押付け可能に構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の設備吊下げ装置は、支持枠が繊維強化プラスチック製であってもよい。
【0009】
本発明の設備吊下げ装置は、支持脚が長手方向と直交する方向を回動軸としたヒンジ部を備えてもよい。
【0010】
本発明の設備吊下げ装置は、支持枠が複数の支持枠分割体を連結してなってもよい。
【0011】
本発明の設備吊下げ構造は、支持枠のアーチ形状によって形成される仮想面に直交する方向に並列した2つの設備吊下げ装置と、2つの設備吊下げ装置を相互に連結している複数の連結材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の設備吊下げ装置は、以上の構成を有するため、次の効果の少なくともひとつを備える。
<1>高剛性のパイプ材によるアーチ構造を採用したため、軽量かつ簡易な構造でありながら重量物を安定的に支持することができる。
<2>軽量で取り扱いが容易なため、施工性がよい。
<3>防水シートに孔を開けないため、防水工の水密性を損なうおそれがない。
<4>坑壁に沿って設置するため、場所を取らない。よって、狭い坑内でも施工の邪魔にならない。
<5>部材数が少なく構造が簡単なため、製造コストが安い
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る設備吊下げ装置の説明図。
図2】支持脚の説明図。
図3A】実施例2の説明図(1)。
図3B】実施例2の説明図(2)。
図4】実施例4の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の設備吊下げ装置について詳細に説明する。
なお、本明細書等において「設備」とは施工に係る仮設設備のほか、鉄筋等の構造要素も含んだ意味で使用する。「坑壁」とはトンネルの内面のうち、地盤より上の部分を表し、側壁と側壁上のクラウン(アーチ)部を含む。また、地山や覆工コンクリート面のほか、防水シート敷設後のシート面も含む。「前後」「左右」「上下」「側方」などの各方向は、トンネルの坑口側から切羽側に向かって立った位置における各方向を表す。
【実施例1】
【0015】
[設備吊下げ装置]
<1>全体の構成(図1)。
本発明の設備吊下げ装置1は、山岳トンネルなどの施工において、トンネル坑内に風管や照明などの設備Eを吊り下げる構造である。
設備吊下げ装置1は、アーチ形状の支持枠10と、支持枠10の両端を支持する2つの支持脚20と、を少なくとも備える。
本例では、一次覆工コンクリート面に防水シートを展張する工程を終えた状態において、坑内に風管や照明などの仮設設備を吊り下げる例について説明する。
なお、本発明はこれに限られず、例えば、防水シート展張前の一次覆工面に切羽照射用の照明を吊り下げたり、二次覆工コンクリートの打設工程において配筋を吊り下げるのに使用することもできる。
【0016】
<2>支持枠。
支持枠10は、設備Eの吊下げ荷重を支持脚20へと伝達する長尺部材である。
支持枠10は、トンネルの断面形状に沿ったアーチ形状に湾曲可能な柔軟性と、重量物を吊り下げ可能な剛性とを兼ね備えた素材とする。
本例では、支持枠10として、FRP(繊維強化プラスチック)製のパイプ材を採用する。FRPは、軽量でありながら強く(高比強度・高剛性)、錆びない特性を持つ。
例えば、支持枠10としてΦ38×L4000mmのFRP製パイプを採用した場合、重量は支持枠10全体で2kg程度と非常に軽い。よって、取り回しが容易で施工性が高い。一方、剛性が高いため50〜100kg程度の重量物を吊り下げても支持枠10が座屈も蛇行もせず、安定して吊下げることができる。
【0017】
<3>支持脚(図2)。
支持脚20は、支持枠10の両端を下方から支持するとともに、伸長して支持枠10を坑壁Tに押し付けて固定する、伸縮自在の部材である。
本例では、支持脚20として、支持台21と、支持台21に立設するネジ部材22と、ネジ部材22に螺着された調整ナット23と、ネジ部材22に外挿されるさや管24と、を備える、ジャッキベース(ジャッキ型ベース金具)を採用する。
支持脚20の調整ナット23を離脱方向に回転させると、さや管24の底部が調整ナット23の上部に押し付けられてネジ部材22に沿って上方へ押し上げられ、支持脚20が伸長する(ジャッキアップ)。反対に調整ナット23を螺着方向に回転させると、さや管24が自重で降下し、支持脚20が短縮する(ジャッキダウン)。
なお、支持脚20は、上記の構造に限られず、その他公知の各種ジャッキ機構などを採用してもよい。また、ジャッキ機構は一対の支持脚20のうち少なくとも一方に設ければよい。
【0018】
<4>取付部。
取付部30は、支持枠10の頂部付近に取付けられて、設備Eを吊下げるための吊り具である。
本例では取付部30として、蝶番式の吊バンドやボルトなどを組み合わせてなる公知の吊り金具を採用する。
【0019】
<5>設置方法。
本発明の設備吊下げ装置の設置方法について説明する。
支持枠10の一端を第1の支持脚20Aのさや管24に挿入して支持枠10と支持脚20Aとを連結し、支持脚20Aをトンネルの坑壁T近傍に仮設置する。
支持枠10をアーチ状に湾曲させながら、支持枠10の他端を第2の支持脚20Bに挿入して連結し、支持脚20A側の坑壁Tに対向する坑壁T付近に支持脚20Bを仮設置する。
2つの支持脚20A、20Bを押えながら高所作業車などを用いて支持枠10の頂部をトンネルの頂部へ持ち上げて、設備吊下げ装置1を地盤上に立設する。
支持枠10の頂部を仮支持したまま、両支持脚20A、20Bをジャッキアップし、支持枠10を坑壁Tのアーチに沿って上方に押し上げる。
支持枠10が坑壁Tに押し付けられることで、坑壁Tとの摩擦力によって支持枠10が坑壁Tに強固に固定される。
【0020】
<6>設備吊下げ装置の作用効果。
本発明の設備吊下げ装置1は、FRP製の支持枠10による素材上の剛性とアーチ構造による構造上の剛性とを組合せたことによって、軽量で取り扱いが容易でありながら高重量の設備Eを安定して吊下げることができる。
また、坑壁Tの形状に相似したアーチ形状を呈するため、坑内の限られた空間を有効に利用することができ、工事車両の通行や施工の邪魔にならない。
【実施例2】
【0021】
[ヒンジ部を備える例]
<1>全体の構成。
支持脚にヒンジ部を備えた他の実施例について説明する。
本例では、支持脚20のさや管24の中間に支持枠10の接続角度を変更可能なヒンジ部25を備える。
ヒンジ部25は、支持脚20の長手方向と直交する方向を回動軸として、さや管24の上部を下部に対して一定範囲回動させることができる。
【0022】
<2>設置方法。
本例における設備吊下げ装置の設置方法について説明する。
2つの支持脚20を坑壁T近くの設置位置にそれぞれ配置する。
2つの支持脚20の上部をそれぞれヒンジ部25を中心に水平方向に倒し、湾曲させた支持枠10の両端部を両支持脚20内に挿入して連結する。
続いて、ヒンジ部25を軸に支持枠10を上方へ引き起こして立設する(図3A)。この作業は、支持台21を足で踏んで押えながら支持枠10を引き起こすなどして、作業員が人力で容易に行うことができる。
支持枠10が立設したら2つの支持脚20をそれぞれ水平方向に90度回転させ、ヒンジ軸がトンネルの延長方向に沿う向きに位置合わせする(図3B)。
最後に支持脚20をジャッキアップして支持枠10をアーチ状に坑壁Tに押し付けて固定する。
【0023】
<3>本例の作用効果。
本例では、支持脚20にヒンジ部25を設けることにより、次の効果を更に奏する。
(1)ヒンジ部25の回転を利用して支持枠10を引き上げることで、高所作業車などを必要とせず、設備吊下げ装置1を容易に設置することができる。
(2)ジャッキアップ時にヒンジ軸をトンネル延長方向に向けることで、支持脚20のジャッキアップによる押し上げ力をトンネルの延長方向に逃がさずアーチ部への圧縮方向に誘導することができる。これによって、支持脚20のジャッキアップ時に支持枠10がトンネル延長方向にずれたり蛇行するのを防ぐことができる。
(3)設備吊下げ装置1がいわゆる2ヒンジアーチ構造となるため、設備Eの吊下げ荷重によって支持脚20に加わる回転モーメントを逃がすことができる。このため、凹凸の多い坑内の地盤上でも重量物を安定して支持することができる。
【実施例3】
【0024】
[支持枠が分割体からなる例]
支持枠を複数の分割体から構成する他の実施例について説明する。
本例では、複数の支持枠分割体11を連結して支持枠10を構成する。各支持枠分割体11は、支持枠分割体11に内挿した管状の接続材12(パイプジョイント)で連結する。
本例における支持枠10の組み立て方法は以下である。
まず、支持枠分割体11の端部に接続材12を内挿し、接続材12の一部が管内から突出した状態で、支持枠分割体11の外周からボルトを貫通させて螺着し、両者を固定する。続いて、この支持枠分割体11に接続する他の支持枠分割体11の端部を、突出している接続材12に外挿し、同様に支持枠分割体11の外周から螺着して両支持枠分割体11を接続する。この作業を繰り返して支持枠10を組み立てる。
本例では、長尺の支持枠10を分割して運搬できるため坑内での搬送・組立作業が容易になる、管内の接続材12が支持枠10の補強材として機能するため支持枠10の強度が高まる、などの更なる効果を奏する。
【実施例4】
【0025】
[設備吊下げ構造]
2つの設備吊下げ装置1をはしご状に連結した設備吊下げ構造Aについて説明する(図4)。
本例では、トンネル延長方向に並列した2つの設備吊下げ装置1を複数の連結材40で相互に連結し、はしご状の設備吊下げ構造Aを構成する。
本例では、支持枠10の複数個所に鋼棒などの連結材40を挿通して相互に連結するが、これに限られず、例えば支持枠10同士をパイプ材で接続したり、支持枠10に加えて支持脚20同士を連結してもよい。
設備吊下げ構造Aは、支持枠10同士を連結したはしご状構造を採用するため、構造上の剛性がさらに高まり、二次覆工にかかる配筋などの高重量物の吊下げにも使用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 設備吊下げ装置
10 支持枠
11 支持枠分割体
12 接続材
20 支持脚
21 支持台
22 ネジ部材
23 調整ナット
24 さや管
25 ヒンジ部
30 取付部
40 連結材
A 設備吊下げ構造
E 設備
T 坑壁
W 防水シート
図1
図2
図3A
図3B
図4