(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸素イオン伝導性を有する固体電解質体(20)と、上記固体電解質体の一方面に設けられた第1の電極膜(31)と、上記固体電解質体の他方面に設けられた第2の電極膜(32)とを有しており、
上記第1の電極膜および上記第2の電極膜の少なくとも一方の電極膜は、
貴金属粒子(33)と、酸素イオン伝導性を有する固体電解質粒子(34)と、気孔(35)とを含み、
上記電極膜と上記固体電解質体との間の粒界静電容量を除いた上記電極膜内部全体の静電容量が80μF以下であり、
膜厚方向に沿う電極膜断面において、Lre/Leの値が0.50以上1.25以下である、ガスセンサ素子(10)。
但し、
上記Lre:上記電極膜断面当たりの上記貴金属粒子と上記固体電解質粒子とによる二相界面(36)の総長さ
上記Le:上記電極膜断面当たりの上記固体電解質粒子の総周長
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
実施形態1のガスセンサ素子およびガスセンサについて、
図1〜
図7を用いて説明する。
図3に例示されるように、本実施形態のガスセンサ素子10は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体20と、固体電解質体20の一方面に設けられた第1の電極膜31と、固体電解質体20の他方面に設けられた第2の電極膜32とを有している。第1の電極膜31および第2の電極膜32の少なくとも一方の電極膜は、貴金属粒子33と、酸素イオン伝導性を有する固体電解質粒子34と、気孔35とを含み、電極膜内の静電容量が80μF以下とされている。また、
図1、
図2に例示されるように、本実施形態のガスセンサ1は、本実施形態のガスセンサ素子10を有している。以下、詳説する。
【0015】
図1および
図2に示されるように、ガスセンサ1は、内燃機関から排気される排ガスを測定ガスGとし、大気を基準ガスAとして、測定ガスG中の酸素濃度、特定ガス成分濃度等を測定する排気系センサである。本実施形態において、ガスセンサ1は、具体的には、内燃機関としてのエンジンの排気管に配置され、排気管を通過する排ガスを測定ガスGとするとともに、大気を基準ガスAとして、測定ガスGの酸素濃度を求め、この酸素濃度に基づいてエンジンにおけるA/F(空燃比)を求めるA/Fセンサである。ガスセンサ1は、より具体的には、測定ガスGの拡散律速に基づく限界電流特性を利用して、エンジンの空燃比を定量的に求めるA/Fセンサとすることができる。また、ガスセンサ1は、エンジンにおける燃料と空気との混合比である空燃比が、理論空燃比に対して燃料過剰なリッチ状態にあるか空気過剰なリーン状態にあるかを検出する濃淡電池式のものとすることもできる。また、ガスセンサ1は、A/Fセンサ以外のガスセンサとして構成することもできる。つまり、貴金属粒子と、酸素イオン伝導性を有する固体電解質粒子と、気孔とを含む電極膜を有するガスセンサ素子を備えるガスセンサであれば、本実施形態のガスセンサ素子10を適用することができる。
【0016】
本実施形態では、具体的には、ガスセンサ1は、ガスセンサ素子10と、ガスセンサ素子10を保持する絶縁碍子62と、絶縁碍子62を保持するハウジング61と、ハウジング61に保持された内側カバー7および外側カバー8とを備えている。ガスセンサ素子10は、絶縁碍子62から突出する突出部11を有している。内側カバー7および外側カバー8は、ガスセンサ素子10の突出部11を覆っている。突出部11には、測定ガスGが取り込まれて、測定ガスGにおける酸素濃度が測定されるガス測定部12が設けられている。内側カバー7には、測定ガスGが通過する内側通過孔711、721が形成され、外側カバー8には、測定ガスGが通過する外側通過孔811、821が形成されている。なお、内側カバー7および外側カバー8の二重の保護カバーを用いる代わりに、一重の保護カバーを用いることもできる。また、内側通過孔711、721、外側通過孔811、821の配置は、特に限定されない。
【0017】
図2に示されるように、ガス測定部12は、測定ガスGが導入される導入部13と、固体電解質体20の一方面に設けられて測定ガスGに晒される第1の電極膜31としての測定電極膜と、固体電解質体20の他方面に設けられて基準ガスAに晒される第2の電極膜32としての基準電極膜と、測定電極膜31と基準電極膜32とに挟まれる固体電解質体20の一部とを有している。ガスセンサ素子10における固体電解質体20には、固体電解質体20、測定電極膜31および基準電極膜32を加熱して活性化させるためのヒータ5が積層されている。
【0018】
固体電解質体20の一方面には、測定ガスGが導入される測定ガス室41が形成されており、測定電極31は測定ガス室41に配置されている。測定ガス室41は、絶縁体43、および測定ガスGを所定の拡散速度で通過させる拡散抵抗層44によって囲まれて形成されている。固体電解質体20の他方面には、基準ガスAが導入される基準ガス室42が形成されており、基準電極膜32は基準ガス室42に配置されている。固体電解質体20に積層されたヒータ5は、通電によって発熱する発熱体52と、発熱体52を埋設するセラミック基板51とによって形成されている。基準ガス室42は、セラミック基板51によって囲まれて形成されている。固体電解質体20は、板形状を呈しており、希土類金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニアなどの固体電解質より構成されている。本実施形態では、固体電解質体20は、具体的には、イットリア部分安定化ジルコニアより構成されている。
【0019】
ここで、
図3に例示されるように、第1の電極膜31としての測定電極膜および第2の電極膜32としての基準電極膜の少なくとも一方の電極膜は、貴金属粒子33と、固体電解質粒子34と、気孔35とを含んでおり、電極膜内の静電容量が80μF以下とされている。本実施形態は、第1の電極膜31および第2の電極膜32の双方が、貴金属粒子33と、固体電解質粒子34と、気孔35とを含み、電極膜内の静電容量が80μF以下とされている例である。
【0020】
貴金属粒子33を構成する貴金属としては、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Au、Ag、これらの合金などを例示することができる。また、固体電解質粒子34を構成する固体電解質としては、上述した固体電解質などを例示することができる。本実施形態では、具体的には、貴金属粒子33は、Pt粒子であり、固体電解質粒子34は、イットリア安定化ジルコニア粒子である。
【0021】
なお、
図3に例示されるように、貴金属粒子33の表面と固体電解質粒子34の表面とが接触する接触部分が、貴金属粒子33と固体電解質粒子34とによる二相界面36(
図3中、太線で示される部分)とされる。また、貴金属粒子33の表面と固体電解質粒子34の表面と気孔35(気孔35内のガス)との交わり点が、貴金属粒子33と固体電解質粒子34と気孔35(気孔35内のガス)とによる三相点37(
図3中、丸印で囲った部分)とされる。
【0022】
ガスセンサ素子10は、電極膜内の静電容量が80μF以下とされているので、ガス切り替わり時のガスセンサ1の応答性を向上させることができる。これは、以下の理由によるもの考えられる。
【0023】
図4に示されるように、第1の電極膜31としての測定電極膜側でO
2+2e
−→2O
2−の反応が生じ、発生したO
2−が固体電解質体20内を通って第2の電極膜32としての基準電極膜側まで移動し、第2の電極膜32側で2O
2−→O
2+2e
−の反応が生じることで、センサ出力電流Isが流れるというガス反応モデルを考える。また、このガス反応モデルを等価回路に置き換えると
図5に示されるような等価回路モデルとなる。なお、
図5の等価回路モデルにおいて、Cdlは、電極反応のコンデンサ成分である静電容量、Rfは、電極膜内の界面抵抗、Zwは、ガス拡散抵抗、Ipは、酸素ポンピング電流、Isは、センサ出力電流、Irは、逆電流である。
図5の等価回路モデルによると、ガス切り替わり時には、ガス拡散抵抗Zwが変動するため、電極反応のコンデンサ成分である静電容量Cdlへ逆電流Irが流れ、この逆電流Irによりコンデンサ成分において充放電が発生する。このコンデンサ成分における充放電にかかる時間が長くなるほど、ガス切り替わり時のガスセンサ1の応答性が悪くなる。しかし、上述したように電極膜内の静電容量が上記特定の範囲とされている場合には、ガス切り替わり時におけるコンデンサ成分の充放電が早くなされる。その結果、ガス切り替わり時のガスセンサ1の応答性が向上するものと推定される。
【0024】
電極膜内の静電容量は、ガス切り替わり時のガスセンサ1の応答性向上を確実なものとするなどの観点から、好ましくは、78μF以下、より好ましくは、75μF以下、さらに好ましくは、73μF以下、さらにより好ましくは、70μF以下とすることができる。なお、ガス切り替わり時のガスセンサ1の応答性向上などの観点から、電極膜内の静電容量は小さいほどよいが、0とすることは製造上困難である。そのため、電極膜内の静電容量の下限は特に限定されない。
【0025】
ガスセンサ素子10において、第1の電極膜31および第2の電極膜32少なくとも一方の電極膜は、
電極膜内における貴金属粒子33と固体電解質粒子34とによる二相界面36の抵抗(以下、単に、電極膜内の界面抵抗
という。)が95Ω以下である構成とすることができる。この構成によれば、電極膜内の界面抵抗の低下により、ガスセンサ1の活性時間の向上を図ることが可能になる。つまり、この構成によれば、ガス切り替わり時のガスセンサ1の応答性向上と、ガスセンサ1の活性時間の向上との両立を図ることが可能になる。
【0026】
電極膜内の界面抵抗は、ガスセンサ1の活性時間の向上を確実なものとするなどの観点から、好ましくは、90Ω以下、より好ましくは、85Ω以下、さらに好ましくは、80Ω以下、さらにより好ましくは、75Ω以下とすることができる。なお、ガスセンサ1の活性時間向上などの観点から、電極膜内の界面抵抗は小さいほどよいが、0とすることは製造上困難である。そのため、電極膜内の界面抵抗の下限は特に限定されない。
【0027】
なお、電極膜内の静電容量および界面抵抗は、電極膜に対してインピーダンス解析を行うことで計測することができる。上記計測は、センサ使用温度である600〜800℃にて実施される。上記インピーダンス解析は、具体的には、次のようにして実施することができる。
図6に、ガスセンサ素子10の等価回路モデルを示す。
図7に、Cole−Coleプロットの模式図を示す。
図6、
図7において、R1は、固体電解質粒子34の粒内抵抗である。R2は、固体電解質粒子34の粒界抵抗である。R3は、電極膜内の界面抵抗である。C1は、電極膜と固体電解質体20との間の粒界静電容量である。C2は、電極膜内の静電容量
(電極膜と固体電解質体20との間の粒界静電容量C1を除いた電極膜内部全体の静電容量)である。Zwは、ガス拡散抵抗である。Z
Reは、インピーダンスの実数成分である。Z
Imは、インピーダンスの虚数成分である。
図6、
図7に示すように、電極膜内の静電容量C2、界面抵抗R3は、得られたCole−Coleプロットに対して等価回路フィッティングを行うことで求めることができる。
【0028】
固体電解質粒子34は、具体的には、
図3に示されるように、表面凹凸部340を有する構成とすることができる。この構成によれば、固体電解質粒子34の周長が長くなり、固体電解質粒子34の表面凹凸部340における突部341にて、固体電解質粒子34と貴金属粒子33とを接触させることができる。そのため、この構成によれば、貴金属粒子33と固体電解質粒子34とによる二相界面量を低減させやすくなり、当該二相界面量に溜まる静電容量を減少させやすくなる。それ故、この構成によれば、当該二相界面量が低減するように制御可能となることで、電極膜内の静電容量を上記特定の範囲としやすくなる。
【0029】
また、上記構成によれば、上記二相界面量の低減により、貴金属粒子33と固体電解質粒子34と気孔35とによる三相点37の数を増加させることができる。そのため、上記構成によれば、ガスセンサ1の活性時間の向上を図ることが可能になる。つまり、上記構成によれば、ガス切り替わり時のガスセンサ1の応答性向上と、ガスセンサ1の活性時間の向上との両立を確実なものとすることが可能になる。
【0030】
表面凹凸部340を有する固体電解質粒子34は、例えば、貴金属粒子33の粒子径よりも粒子径の小さい複数の固体電解質粒子34の焼結体などより構成することができる。この構成によれば、例えば、所定の粒子径の貴金属粒子33と、貴金属粒子33の粒子径よりも粒子径の小さい固体電解質粒子34とを含む混合物を固体電解質体20の表面に塗布し、焼成することにより、微粒子の固体電解質粒子34同士が凝集、焼結し、表面凹凸部340を有する固体電解質粒子34を形成することができる。そのため、上記構成によれば、ガス切り替わり時のガスセンサ1の応答性を向上させることが可能なガスセンサ素子10を比較的簡単に得ることが可能になる。
【0031】
(実施形態2)
実施形態2のガスセンサ素子およびガスセンサについて説明する。なお、実施形態2以降において用いられる符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0032】
本実施形態のガスセンサ素子10では、第1の電極膜31および第2の電極膜32の少なくとも一方の電極膜は、膜厚方向に沿う電極膜断面において、Lre/Leの値が0.50以上1.25以下とされている。但し、Lreは、電極膜断面当たりの貴金属粒子33と固体電解質粒子34とによる二相界面36の総長さである。また、Leは、電極膜断面当たりの固体電解質粒子34の総周長である。
【0033】
この構成によれば、電極膜内の静電容量を上述した特定の範囲としやすくなる。これは、貴金属粒子33と固体電解質粒子34とによる二相界面長さが十分に小さくなるためである。なお、Lre/Leの値が上記下限値よりも小さくなると、貴金属粒子33と固体電解質粒子34との接触部分が不足して導電性が低下するため、静電容量が増加しやすくなる傾向が見られる。一方、Lre/Leの値が上記上限値よりも大きくなると、貴金属粒子33と固体電解質粒子34とによる二相界面長さが大きくなり、静電容量が増加しやすくなる傾向が見られる。
【0034】
Lre/Le値は、電極膜内の静電容量の増加抑制などの観点から、好ましくは、0.52以上、より好ましくは、0.55以上、さらに好ましくは、0.57以上、さらにより好ましくは、0.60以上とすることができる。また、Lre/Le値は、電極膜内の静電容量の増加抑制などの観点から、好ましくは、1.24以下、より好ましくは、1.23以下、さらに好ましくは、1.22以下、さらにより好ましくは、1.20以下とすることができる。なお、本実施形態は、第1の電極膜31としての測定電極膜と第2の電極膜32としての基準電極膜の双方におけるLre/Leの値が上記特定の範囲内とされている例である。
【0035】
また、本実施形態のガスセンサ素子10では、第1の電極膜31および第2の電極膜32の少なくとも一方の電極膜は、膜厚方向に沿う電極膜断面において、P/Leの値が0.20以上0.78以下とされているとよい。但し、Pは、電極膜断面当たりの貴金属粒子33と固体電解質粒子34と気孔35とによる三相点37の数である。また、Leは、上述した通り、電極膜断面当たりの固体電解質粒子34の総周長である。
【0036】
この構成によれば、電極膜内の界面抵抗を上述した特定の範囲としやすくなる。これは、三相点37が十分に存在するようになるためである。なお、P/Leの値が上記下限値よりも小さくなると、三相点37が不足しがちとなり、電極膜内の界面抵抗が上昇しやすくなる傾向が見られる。一方、P/Leの値が上記上限値よりも大きくなると、貴金属粒子33と固体電解質粒子34との接触部分が不足して導電性が低下するため、界面抵抗が上昇しやすくなる傾向が見られる。
【0037】
P/Le値は、電極膜内の界面抵抗の上昇抑制などの観点から、好ましくは、0.22以上、より好ましくは、0.25以上、さらに好ましくは、0.27以上、さらにより好ましくは、0.30以上とすることができる。また、P/Le値は、電極膜内の界面抵抗の上昇抑制などの観点から、好ましくは、0.77以下、より好ましくは、0.75以下、さらに好ましくは、0.73以下とすることができる。なお、本実施形態は、第1の電極膜31としての測定電極膜と第2の電極膜32としての基準電極膜の双方におけるP/Le値が上記特定の範囲内とされている例である。
【0038】
上述した二相界面36の総長さLre、固体電解質粒子34の総周長Le、および、三相点37の数Pは、基本的には、膜厚方向に沿う電極膜断面のSEM像(倍率5000倍)を撮り、画像解析して算出される。具体的には、以下のようにしてLre、Le、Pを算出することができる。
【0039】
先ず、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、膜厚方向に沿う電極膜断面の反射電子像(倍率5000倍)を得る。次いで、得られた反射電子像を、輝度にて、貴金属粒子領域、固体電解質粒子領域、気孔領域の各領域に分ける。この際、電極膜内におけるLre、Le、Pを正確に求める観点から、固体電解質体20と電極膜31、32との界面から電極膜31、32の内方向へ2μmまでの領域、電極膜31、32の外表面から電極膜31、32の内方向へ2μmまでの領域は、除かれる。これら領域が除かれたサンプリング領域内を、貴金属粒子領域、固体電解質粒子領域、気孔領域の各領域に分けることになる。なお、サンプリング領域は、概ね、30μm×5μm程度とすることができる。次いで、分離した貴金属粒子領域、固体電解質粒子領域、気孔領域の輪郭線をそれぞれ求める。求めた固体電解質粒子領域の輪郭線より、単位断面積あたりの固体電解質粒子34の総周長Le(μm/μm
2)を求める。次いで、貴金属粒子領域の輪郭線と固体電解質粒子領域の輪郭線との共通線(接触線)より、単位断面積あたりの貴金属粒子33と固体電解質粒子34とによる二相界面36の総長さLre(μm/μm
2)を求める。次いで、貴金属粒子領域の輪郭線と固体電解質粒子領域の輪郭線と気孔領域の輪郭線との共通点(接点)より、貴金属粒子33と固体電解質粒子34と気孔35とによる三相点37の数P(−/μm
2)を求める。次いで、得られたLre値をLe値で除することにより、Lre/Le(−)を求める。また、得られたP値をLe値で除することにより、P/Le(/μm)を求める。
【0040】
その他の構成および作用効果は、実施形態1と同様である。
【0041】
(実験例1)
電極膜内の静電容量が異なる複数のガスセンサ素子を有するガスセンサを準備し、各ガスセンサによって測定ガス中の酸素濃度を測定する際のインバランス応答性を求めた。なお、本実験例では、電極膜の形成に用いる原料のPt粒子の一次粒子径は0.6μm、原料の固体電解質粒子の一次粒子径は0.2μm〜0.6μmの範囲とした。上記一次粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の累積度数分布が50%を示すときの粒子径(直径)d50(以下、省略)である。
【0042】
図8に、電極膜内の静電容量(μF)とインバランス応答性(−)との関係を示す。なお、インバランス応答性は、ガスセンサへ供給される測定ガスG中の酸素濃度の変化による理論上の空燃比(A/F)の振幅Xと、ガスセンサによって実際に出力される空燃比の振幅Yとの比(Y/X)で表され、エンジンの気筒間に生じる空燃比の差であるインバランスを求めるための応答の速さを表す。インバランス応答性は、値が大きくなって1に近づくほど応答性がよいことを示す指標である。
【0043】
図8に示されるように、電極膜内の静電容量が80μF以下の場合には、電極膜内の静電容量が80μF超えの場合と比較して、インバランス応答性が急激に向上している。この結果から、電極膜内の静電容量を80μF以下とすることにより、ガス切り替わり時のガスセンサの応答性を向上させることが可能になることが確認された。なお、本実験例では、電極膜の形成に用いる原料の固体電解質粒子の一次粒子径を0.25μm〜0.4μmの範囲とし、焼成温度を1450℃、焼成時間を1時間とすることによって、電極膜内の静電容量が80μF以下となった。また、本実験例において、電極膜内の静電容量が80μF以下であった試料の電極膜内の界面抵抗は、いずれも95Ω以下であった。
【0044】
(実験例2)
電極膜内の界面抵抗が異なる複数のガスセンサ素子を有するガスセンサを準備し、各ガスセンサによって測定ガスG中の酸素濃度を測定する際の活性時間を求めた。なお、本実験例では、電極膜の形成に用いる原料のPt粒子の一次粒子径は0.6μm、原料の固体電解質粒子の一次粒子径は0.3μm〜0.6μmの範囲とした。
図9に、電極膜内の界面抵抗(Ω)と活性時間(sec)との関係を示す。
【0045】
図9に示されるように、電極膜内の界面抵抗が95Ω以下の場合には、電極膜内の界面抵抗が95Ω超えの場合と比較して、活性時間が大きく低下している。この結果から、電極膜内の界面抵抗を95Ω以下とすることにより、ガスセンサの活性時間の向上を図ることが可能になることが確認された。
【0046】
(実験例3)
膜厚方向に沿う電極膜断面において、Lre/Le値が異なる複数のガスセンサ素子を準備し、Lre/Le(−)と電極膜内の静電容量(μF)との関係、および、P/Le(/μm)と電極膜内の界面抵抗(Ω)との関係を求めた。
【0047】
なお、Lre/Le(−)、P/Le(/μm)は、以下のようにして求めた。先ず、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、膜厚方向に沿う電極膜断面の反射電子像(倍率5000倍)を得た。次いで、得られた反射電子像を、
図10に示されるように、輝度にて、貴金属粒子領域91、固体電解質粒子領域92、気孔領域93の各領域に分けた。この際、電極膜内におけるLre、Le、Pを正確に求める観点から、固体電解質体20と電極膜との界面から電極膜の内方向へ2μmまでの領域94、電極膜の外表面から電極膜の内方向へ2μmまでの領域95は、除いた。これら領域94、95が除かれたサンプリング領域96内を、貴金属粒子領域91、固体電解質粒子領域92、気孔領域93の各領域に分けたことになる。なお、サンプリング領域96は、概ね、30μm×5μm程度であった。次いで、分離した貴金属粒子領域91、固体電解質粒子領域92、気孔領域93の輪郭線をそれぞれ求めた。求めた固体電解質粒子領域92の輪郭線920より、単位断面積あたりの固体電解質粒子34の総周長Le(μm/μm
2)を求めた。次いで、貴金属粒子領域91の輪郭線910と固体電解質粒子領域92の輪郭線920との共通線(接触線)より、単位断面積あたりの貴金属粒子33と固体電解質粒子34とによる二相界面36の総長さLre(μm/μm
2)を求めた。次いで、貴金属粒子領域91の輪郭線910と固体電解質粒子領域92の輪郭線920と気孔領域93の輪郭線930との共通点(接点)より、貴金属粒子33と固体電解質粒子34と気孔35とによる三相点37の数P(−/μm
2)を求めた。次いで、得られたLre値をLe値で除することにより、Lre/Le(−)を求めた。また、得られたP値をLe値で除することにより、Lre/Le(/μm)を求めた。
【0048】
図11に、Lre/Le(−)と電極膜内の静電容量(μF)との関係を示す。
図12に、P/Le(/μm)と電極膜内の界面抵抗(Ω)との関係を示す。
図11に示されるように、Lre/Le値が0.50以上1.25以下の場合には、電極膜内の静電容量を80μF以下としやすくなることが確認された。また、P/Le値が0.20以上0.78以下の場合には、電極膜内の界面抵抗を95Ω以下としやすくなることが確認された。
【0049】
なお、本実験例は、電極膜の形成に用いる原料のPt粒子の一次粒子径を0.6μmとし、原料の固体電解質粒子の一次粒子径を変化させて試料を作製したものである。本実験例によれば、原料の固体電解質粒子の一次粒子径を0.25μm〜0.4μmとすることにより、電極膜内の静電容量および界面抵抗を上述した範囲まで低下させることが可能であることが確認された。また、この結果から、原料の固体電解質粒子の一次粒子径が0.4μm以上になると、貴金属粒子33と固体電解質粒子34とによる二相界面長さが大きくなって静電容量が増加し、貴金属粒子33と固体電解質粒子34と気孔とによる三相点数が減少して、界面抵抗が上昇することがわかった。一方、原料の固体電解質粒子の一次粒子径が0.25μm以下になると、貴金属粒子33と固体電解質粒子34とによる二相界面長さが小さくなり、貴金属粒子33と固体電解質粒子34と気孔35とによる三相点数が増加するものの、導電性の確保が難しくなり、静電容量の増加、界面抵抗の上昇を招くことがわかった。
【0050】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、実施形態1では、固体電解質粒子が表面凹凸部を有し、貴金属粒子が球状である例を示したが、他にも、貴金属粒子が表面凹凸部を有し、固体電解質粒子が球状であってもよいし、貴金属粒子および固体電解質粒子の両方が表面凹凸部を有するように構成することもできる。また、各実施形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
以下、参考形態の例を付記する。
項1.
酸素イオン伝導性を有する固体電解質体(20)と、上記固体電解質体の一方面に設けられた第1の電極膜(31)と、上記固体電解質体の他方面に設けられた第2の電極膜(32)とを有しており、
上記第1の電極膜および上記第2の電極膜の少なくとも一方の電極膜は、
貴金属粒子(33)と、酸素イオン伝導性を有する固体電解質粒子(34)と、気孔(35)とを含み、
上記電極膜内の静電容量が80μF以下である、ガスセンサ素子(10)。
項2.
上記第1の電極膜および上記第2の電極膜の少なくとも一方の電極膜は、
膜厚方向に沿う電極膜断面において、Lre/Leの値が0.50以上1.25以下である、項1に記載のガスセンサ素子。
但し、
上記Lre:上記電極膜断面当たりの上記貴金属粒子と上記固体電解質粒子とによる二相界面(36)の総長さ
上記Le:上記電極膜断面当たりの上記固体電解質粒子の総周長
項3.
上記第1の電極膜および上記第2の電極膜の少なくとも一方の電極膜は、
上記電極膜内の界面抵抗が95Ω以下である、項1または項2に記載のガスセンサ素子。
項4.
上記第1の電極膜および上記第2の電極膜の少なくとも一方の電極膜は、
膜厚方向に沿う電極膜断面において、P/Leの値が0.20以上0.78以下である、項1〜項3のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
但し、
上記P:上記電極膜断面当たりの上記貴金属粒子と上記固体電解質粒子と上記気孔とによる三相点(37)の数
上記Le:上記電極膜断面当たりの上記固体電解質粒子の総周長
項5.
項1〜項4のいずれか1項に記載のガスセンサ素子を有するガスセンサ(1)。