特許第6678520号(P6678520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6678520
(24)【登録日】2020年3月19日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】細胞集合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20200330BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20200330BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
   C12N5/07
   C12N1/00 A
   C12M3/00 Z
   C12M3/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-110409(P2016-110409)
(22)【出願日】2016年6月1日
(65)【公開番号】特開2017-212952(P2017-212952A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100101904
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 直己
(72)【発明者】
【氏名】高本 陽子
(72)【発明者】
【氏名】中澤 浩二
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−023540(JP,A)
【文献】 特開2014−138558(JP,A)
【文献】 特開2016−000029(JP,A)
【文献】 特開2014−073107(JP,A)
【文献】 特開2013−055911(JP,A)
【文献】 特開2011−172533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 3/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性細胞を細胞培養容器に播種して細胞集合体を製造する方法であって、
前記細胞培養容器が、前記接着性細胞に対して低接着性を有する培養面を有し、
細胞充填率が100%以上となるように前記細胞を前記培養面上に播種する工程、及び播種した前記細胞を培養して前記細胞集合体を形成する工程を含み、
形成された前記細胞集合体が、前記培養面から自然に剥離しており、
前記低接着性を有する培養面は、以下に記載される方法に従って測定される細胞接着率が10.0%以下である培養面である、細胞集合体の製造方法
細胞接着率の測定方法:対象細胞を、1.0×10cells/cm〜1.0×10cells/cmの範囲の播種密度で培養面上に播種し、次に、対象細胞を5時間培養し、培養後、培地を除去し、培養容器をバッファーで洗浄し、その後、培養面上の接着細胞数を接着細胞数としてカウントし、そして、細胞接着率(%)を、式[(接着細胞数/細胞播種数)×100]によって算出する
【請求項2】
細胞充填率が、130%以上である、請求項1に記載の細胞集合体の製造方法。
【請求項3】
複数の接着性細胞を含むスフェロイドを細胞培養容器に播種して細胞集合体を製造する方法であって、
前記細胞培養容器が、前記接着性細胞に対して低接着性を有する培養面を有し、
スフェロイド充填率が100%以上となるように前記スフェロイドを前記培養面上に播種する工程、及び播種した前記スフェロイドを培養して前記細胞集合体を形成する工程を含み、
形成された前記細胞集合体が、前記培養面から自然に剥離しており、
前記低接着性を有する培養面は、以下に記載される方法に従って測定される細胞接着率が10.0%以下である培養面である、細胞集合体の製造方法
細胞接着率の測定方法:対象細胞を、1.0×10cells/cm〜1.0×10cells/cmの範囲の播種密度で培養面上に播種し、次に、対象細胞を5時間培養し、培養後、培地を除去し、培養容器をバッファーで洗浄し、その後、培養面上の接着細胞数を接着細胞数としてカウントし、そして、細胞接着率(%)を、式[(接着細胞数/細胞播種数)×100]によって算出する
【請求項4】
スフェロイド充填率が、120%以上である、請求項3に記載の細胞集合体の製造方法。
【請求項5】
前記接着性細胞に遠心力又は押圧力を掛けながら培養を行う工程、及び前記接着性細胞を加圧してから培養を行う工程を含まない、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞集合体の製造方法。
【請求項6】
前記培養面を構成する基材が、ポリジメチルシロキサンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞集合体の製造方法。
【請求項7】
前記培養面の表面が、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート又はMPCポリマーで修飾されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞集合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療技術の一つとして、細胞を移植する手法がある。移植のための細胞の形態としては、細胞をシート状に培養して得られる細胞シートが挙げられる。細胞シートは、細胞間結合で細胞同士が連結されたシート状の細胞集合体である。また、細胞シートはシャーレなどの支持体上で細胞培養を行うことにより形成することができる。
【0003】
例えば、特許文献1では、温度応答性ポリマーによって表面が修飾された培養基材上で細胞を培養し、形成された細胞シートを低温処理によって剥離する細胞シートの製造方法が開示されている。一般的に、基材上で形成された細胞シートは接着分子などを介して基材表面と強固に結合しているため、細胞間の結合を壊さずに基材から細胞シートを剥離することは容易ではない。しかし、特許文献1に記載の方法によると、基材上に形成された細胞シートに対して酵素処理を行わずに、温度の調節によって細胞シートを回収し得るとされている。
【0004】
また一方で、特許文献2には、血清要求性の細胞種を用いてシート状の細胞培養物を得る方法が開示されている。特許文献2に記載の方法は、血清で被覆された培養基材上に細胞を播種する工程、及び細胞を培養してシート状の細胞培養物を形成する工程を含む。特許文献2の方法によると、臨床への適用に障害となり得る製造工程由来の不純物成分を含まない良質な細胞培養物を回収し得るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−20145号公報
【特許文献2】特開2015−171382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、細胞シートなどの細胞集合体の製造に用いられる培養容器における培養面は、細胞が接着して伸展し易い基材が用いられるため、基材上で形成された細胞集合体は接着分子などを介して基材表面と強固に結合している。そこで、上述のように、特許文献1では、温度応答性ポリマーを用いて培養基材の培養面を修飾し、温度の調節によって細胞シートを回収している。しかし、特許文献1に記載の方法では、温度応答性ポリマーを基材表面に被覆する工程が必要となるため、製造コストが高くなる。また、当該方法は低温処理工程を必要とするため、工程が煩雑である。さらに、温度応答性ポリマーとして用いられるポリN−イソプロピルアクリルアミドのモノマーには神経毒性があり、基材上にモノマーが残存する可能性や、温度応答性ポリマーの一部が細胞シート中へ取り込まれる可能性がある。
【0007】
また、特許文献2では、細胞シートと基材表面との接着については特に考慮されておらず、特許文献2に記載の方法は、シート状細胞培養物を回収するために、温度や光などの刺激応答性材料で表面が処理された基材を利用すること及び/又は酵素処理を用いることが前提とされている。そのため、特許文献2に記載の方法では、細胞シートの製造工程が煩雑となる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、容易に回収可能な細胞集合体を形成することができる細胞集合体の製造方法を提供することである。すなわち、本発明の目的は、温度処理や酵素処理などの特段の処理を施さなくとも容易に回収可能な細胞集合体を形成することができる細胞集合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、低細胞接着性を有する培養面を有する細胞培養容器を用い、かつ所定の細胞充填率又はスフェロイド充填率が100%以上となるように細胞又はスフェロイドを培養面上に播種することにより、容易に回収することができる細胞集合体を形成することができることを見出し、本発明に至った。
【0010】
本発明の態様は、以下の通りに記載することができる。
(1) 細胞を細胞培養容器に播種して細胞集合体を製造する方法であって、
前記細胞培養容器が、前記細胞に対して低接着性を有する培養面を有し、
細胞充填率が100%以上となるように前記細胞を前記培養面上に播種する工程、及び播種した前記細胞を培養して前記細胞集合体を形成する工程を含む、細胞集合体の製造方法。
(2) 複数の細胞を含むスフェロイドを細胞培養容器に播種して細胞集合体を製造する方法であって、
前記細胞培養容器が、前記細胞に対して低接着性を有する培養面を有し、
スフェロイド充填率が100%以上となるように前記スフェロイドを前記培養面上に播種する工程、及び播種した前記スフェロイドを培養して前記細胞集合体を形成する工程を含む、細胞集合体の製造方法。
(3) 前記培養面を構成する基材が、ポリジメチルシロキサンである、(1)又は(2)に記載の細胞集合体の製造方法。
(4) 前記培養面の表面が、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート又はMPCポリマーで修飾されている、(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の細胞集合体の製造方法。
(5) 形成された前記細胞集合体が、前記培養面から自然に剥離している、(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の細胞集合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、容易に回収可能な細胞集合体を形成することができる細胞集合体の製造方法を提供することができる。すなわち、本発明により、温度処理や酵素処理などの特段の処理を施さなくとも容易に回収可能な細胞集合体を形成することができる細胞集合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明で用いることができる細胞培養容器の構成例を説明するための概略断面図である。
図2】本発明で用いることができる細胞培養容器の構成例を説明するための概略断面図である。
図3】本実施形態の工程例を説明するための概略断面図である。
図4】本実施例で用いた細胞培養容器Aのモールドの作製工程を説明するための模式的斜視図である。
図5】本実施例で用いた細胞培養容器Dのモールドの形状を説明するための模式図である。
図6】実施例1で得られたシート状の細胞集合体を示す写真である。
図7】比較例1で得られた細胞の凝集塊を示す写真である。
図8】実施例5で得られたファイバー状の細胞集合体を示す写真である。
図9】比較例5で得られた細胞の凝集塊を示す写真である。
図10】実施例6及び7で得られた細胞集合体におけるアルブミン産生能の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、細胞又は複数の細胞を含むスフェロイドを細胞培養容器に播種して細胞集合体を製造する方法である。また、本発明において、前記細胞培養容器が、前記細胞に対して低接着性を有する培養面を有する。また、本発明は、所定の細胞充填率又はスフェロイド充填率が100%以上となるように前記細胞又は前記スフェロイドを前記培養面上に播種する工程、及び播種した前記細胞又は前記スフェロイドを培養して前記細胞集合体を形成する工程を含む。本発明の製造方法により、容易に回収可能な細胞集合体を形成することができる。
【0014】
本発明の第一の実施形態は、細胞を細胞培養容器に播種して細胞集合体を製造する方法であって、前記細胞培養容器が、前記細胞に対して低接着性を有する培養面を有し、細胞充填率が100%以上となるように前記細胞を前記培養面上に播種する工程、及び播種した前記細胞を培養して前記細胞集合体を形成する工程を含む、細胞集合体の製造方法である。
【0015】
本発明の第二の実施形態は、複数の細胞を含むスフェロイドを細胞培養容器に播種して細胞集合体を製造する方法であって、前記細胞培養容器が、前記細胞に対して低接着性を有する培養面を有し、スフェロイド充填率が100%以上となるように前記スフェロイドを前記培養面上に播種する工程、及び播種した前記スフェロイドを培養して前記細胞集合体を形成する工程を含む、細胞集合体の製造方法である。
【0016】
以下、本発明のこれらの実施形態について説明する。
【0017】
本発明において、細胞に対して低接着性を有する培養面を備える細胞培養容器を用いる。本明細書において、細胞培養容器の内部において、細胞又はスフェロイドが播種されて細胞集合体が形成される面を「培養面」と称す。使用される細胞培養容器における培養面は、該培養面は、細胞集合体を形成させるのに用いる細胞又はスフェロイド中の細胞(以下、対象細胞とも称す)に対して低接着性(以下、低細胞接着性とも称す)を有する。低細胞接着性とは、細胞が接着し難い性質を指し、細胞シートの形成方法に一般的に用いられている基材、具体的には細胞培養用ポリスチレン(例えば、商品名:Falconセルカルチャーディッシュ、メーカー:Corning)の表面よりも低い細胞接着性を有することを言う。また、低細胞接着性は、非細胞接着性を含む概念である。容器の培養面が低細胞接着性を有するかどうかは、当業者であれば、本発明の効果又は容器の材質や培養面の表面処理を考慮することにより、容易に判断することができる。例えば、培養面に低細胞接着性を付与する化学的表面処理としては、親水性ポリマーによる表面修飾が挙げられる。親水性ポリマーとしては、PEG(ポリエチレングリコール)、PAA(ポリアクリルアミド)、pHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)、MPCポリマー(MPC(例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)の(共)重合体)が好ましく挙げられる。MPCポリマーは、コンタクトレンズや人工血管などに使われている生体適合性の高い樹脂である。例えば、細胞培養に一般的に用いられているポリスチレンやガラスの表面をPEGなどの親水性ポリマーで修飾することにより、低細胞接着性を有する培養面を形成することができる。当業者は、細胞培養容器の培養面が低細胞接着性を有するかどうかを、基材の種類、表面処理、カタログの説明などから容易に把握することができる。また、細胞培養に一般的に用いられていない材質の基材であっても、化学的表面処理によって低細胞接着性を有する培養面を備える基材として用いることができる。例えば、アクリル樹脂(具体的にはポリメチルメタクリレート)をPEGなどの親水性
ポリマーで化学修飾することにより、低細胞接着性を有する培養面を形成することができる。
【0018】
低細胞接着性を有する培養面を有する市販の細胞培養容器としては、例えば、ポリスチレン製細胞培養ディッシュ(商品名;EZ−BindShut、メーカー名;IWAKI、リン脂質ポリマー処理)、ポリスチレン製細胞培養ディッシュ(商品名;Nunclon Sphera、メーカー名;ThermoScientific Nunc、リン脂質ポリマー処理)、ポリスチレン製細胞培養ディッシュ(商品名;超低接着表面培養容器、メーカー名;Corning、ハイドロゲルコーティング処理)、ポリスチレン製細胞培養ディッシュ(商品名;ハイドロセル、メーカー名;セルシード、超親水性ポリマー処理)などを挙げることができる。
【0019】
なお、培養面の細胞接着性は、培養面を構成する基材(以下、培養面構成基材とも称す)の材料、培養面構成基材に施される化学的表面処理、又は培養面構成基材の材料と対象細胞との相性などによって変化する可能性がある。
【0020】
本発明において、低細胞接着性を有する培養面とは、以下に記載される方法に従って測定される所定の細胞接着率が20.0%以下である培養面であることが好ましい。この範囲の細胞接着率は、一般的な細胞集合体の形成方法における細胞接着率よりも低い。培養面の細胞接着率は、より好ましくは15.0%以下であり、さらに好ましくは10.0%以下であり、特に好ましくは5.0%以下(非細胞接着性)である。
【0021】
細胞接着率の測定方法:まず、対象細胞を、1.0×10cells/cm〜1.0×10cells/cm(例えば1.0×10cells/cm)の範囲の播種密度で培養面上に播種する。播種密度に関しては、培養面上で細胞がコンフルエントに到達した際に存在する密度よりも少ない播種密度に設定する。また、播種溶液中の細胞濃度は1.0×10cells/cm〜1.0×10cells/cmであることが好ましい。次に、対象細胞の培養における通常の条件(例えば、37℃、約5%のCO濃度、静置)下で培養する。培養時間は、例えば、1〜10時間であり、好ましくは2〜8時間であり、より好ましくは4〜6時間であり、特に好ましくは5時間である。培養後、培地を除去し、培養容器をバッファー(例えばPBSバッファー)で洗浄する。その後、培養面上の接着細胞数をカウントし、得られた細胞数を接着細胞数と定義する。そして、細胞接着率(%)を、式:[(接着細胞数/細胞播種数)×100]によって算出する。接着細胞数の計測方法としては、例えば、接着細胞をトリプシン処理して培養面から剥離させた後、培地で細胞懸濁液を調製し、血球計算盤で細胞数をカウントする方法が挙げられる。
【0022】
細胞接着率の測定において、細胞を培養する培地及び外部環境(例えば、温度、湿度、光周期又はCO濃度)等の培養条件は、使用される細胞の種類に基づき、当該技術分野で通常使用される培養条件を適宜選択することができる。細胞接着率及び倍加時間の測定において、実際に細胞集合体を形成するための培養条件と同様の条件を採用することが好ましい。
【0023】
本発明の第一の実施形態において、細胞充填率が100%以上となるように細胞を培養面上に播種する。細胞充填率(%)は、式:[(細胞断面積×播種細胞数/培養面面積)×100]で表される。細胞断面積とは、液中に存在する接着していない細胞(浮遊している細胞)における最大断面積(細胞の断面のうち面積が最大となる断面の断面積)である。通常、細胞は液中で球状であるため、細胞断面積は、一般的に、細胞の中心を通る断面の面積である。細胞充填率の測定において使用する液は、好ましくは細胞集合体の製造(培養工程)に用いる培養液である。細胞の直径は、液中の細胞を顕微鏡で観察すること
により測定することができる。同一種類の各細胞は、液中においてほぼ同じ径を有するため、複数の細胞の径を測定する必要はないが、好ましくは10〜100個の細胞の平均径を用いて細胞断面積を算出する。以下の表に、例として、細胞の直径と細胞充填率が100%となる細胞播種密度との関係を示す。
【0024】
【表1】
【0025】
第一の実施形態における細胞の播種密度は、従来の一般的な細胞集合体の形成方法における播種密度よりも大きい。従来の一般的な方法では、細胞を培養面に播種して細胞を培養面に接着させた後、培養により細胞を増殖させ、コンフルエントに到達させる(なお、本明細書において、「コンフルエント」とは、細胞が培養面を覆った状態を言う)。しかし、この方法では、培養面と細胞シートとの接着が強いため、細胞シートの剥離には酵素処理や温度処理などが必要となる。一方、本発明では、細胞充填率が100%以上となるように細胞を低細胞接着性を有する培養面上に播種する。この細胞充填率は、播種した際に、すでにコンフルエントに到達する播種密度である。本発明では、このような高い播種密度で低細胞接着性を有する培養面上に細胞を播種することにより、細胞同士の接着が進んで細胞集合体を形成できることを見出した。このような条件で細胞を培養した場合、細胞と培養面との接着よりも細胞同士の接着が進むため、細胞集合体と培養面との間の接着力が弱くなる。したがって、得られる細胞集合体は、温度処理や酵素処理などの特段の処理を施さなくとも容易に回収することができる。細胞と培養面との接着よりも細胞同士の接着が進む理由は、以下のように推測される。まず、低細胞接着性を有する培養面上では細胞の培養面への接着性が低く、細胞の伸展及び増殖が抑制される傾向がある。そして、本発明では、高い播種密度で細胞を培養面上に播種しているため、細胞間組織の形成を促進することができる。その結果、細胞と培養面との接着よりも細胞同士の接着が進んで細胞集合体が形成されるものと推測される。なお、このような推測は、本発明を限定するものではない。
【0026】
細胞充填率は、好ましくは、130%以上であり、より好ましくは150%以上であり、さらに好ましくは200%以上である。細胞充填率を大きくすれば、厚みの増した及び/又は大きいサイズの細胞集合体又は強度に優れた細胞集合体を得られ易くなる。また、細胞充填率の上限は、特に制限されるものではないが、細胞充填率を大きくしすぎると、細胞集合体の内側に存在する細胞に酸素若しくは栄養などを供給し難くなる場合がある。このような観点から、細胞充填率は、好ましくは1000%以下であり、より好ましくは800%以下であり、さらに好ましくは600%以下である。
【0027】
また、本発明の第二の実施形態において、スフェロイド充填率が100%以上となるようにスフェロイドを培養面上に播種する。スフェロイド充填率(%)とは、式:[(スフェロイド断面積×播種スフェロイド数/培養面面積)×100]で表される。スフェロイド断面積とは、液中に存在するスフェロイドにおける最大断面積(スフェロイドの断面の
うち面積が最大となる断面の断面積)である。用いるスフェロイドの形状は特に制限されるものではないが、球状であることが好ましい。球状のスフェロイドは、例えば、特許第4332653号明細書及び特許第4576539号明細書に記載の方法に従って作製することができる。スフェロイド充填率の測定において使用する液は、好ましくは細胞集合体の製造(培養工程)に用いる培養液である。スフェロイドの直径は、液中のスフェロイドを顕微鏡で観察することにより測定することができる。複数のスフェロイドの最大断面積を求め、その平均値を上記式のスフェロイド断面積として用いることが好ましく、例えば、10〜100個のスフェロイドの平均最大断面積を上記式のスフェロイド断面積として用いることができる。
【0028】
第二の実施形態において、スフェロイドを高い播種密度で低細胞接着性を有する培養面上に播種することにより、容易に回収可能な細胞集合体を形成することができる。スフェロイドを用いることにより、細胞を用いる場合よりも高い密度で細胞を播種し易くなる。また、スフェロイド内である程度の細胞間組織が形成されているため、スフェロイド播種後の培養時間を短縮できる場合がある。また、培養時間を短くすることができるため、大きなサイズの細胞集合体を作製し易くなる。なお、培養面に接したスフェロイドは、一旦その形状を解く場合もある。第一の実施形態と同様に、細胞と培養面との接着よりも細胞間の接着が進むため、細胞集合体と培養面との間の接着力が弱くなる。
【0029】
スフェロイド充填率は、好ましくは、120%以上であり、より好ましくは140%以上である。スフェロイド充填率を大きくすれば、厚みの増した及び/又は大きいサイズを有する細胞集合体又は強度に優れた細胞集合体を得られ易くなる。また、スフェロイド充填率の上限は、特に制限されるものではないが、スフェロイド充填率を大きくしすぎると、スフェロイド集合体の内側に存在する細胞に酸素若しくは栄養などを供給し難くなる場合がある。このような観点から、スフェロイド充填率は、好ましくは1000%以下であり、より好ましくは800%以下であり、さらに好ましくは600%以下である。
【0030】
スフェロイドの平均粒径は、特に制限されるものではないが、例えば、40〜800μmであり、好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは100〜200μmである。スフェロイド平均粒径を大きくすれば、大きいサイズの細胞集合体又は強度に優れた細胞集合体を得られ易くなる。
【0031】
得られる細胞集合体は、培養面に接着していても、接着していなくてもよい。細胞集合体が培養面に接着していても、その培養面への接着力は弱いため、例えば、細胞集合体に意図的な揺動やピペッティングによって水流を与えることにより、細胞集合体を培養面から容易に剥離することができる。また、ピンセットなどの器具を用いて細胞集合体の端部を摘まんで容易に剥離することもできる。ピペッティング操作により溶液とともに吸いこむことも可能である。回収に用いる器具や機材は、細胞集合体の形状や用途に合わせて適宜選択することができる。また、本発明において、一つの培養面上に一つの細胞集合体が得られることが好ましい。また、得られる細胞集合体は、隙間なく細胞同士が接着及び/又は凝集化した構造を有することが好ましい。また、本発明の好ましい実施形態においては、形成された細胞集合体が自然に培養面から剥離する。「自然に培養面から剥離する」とは、形成された細胞集合体が、静置状態で何の操作もせず或いは培養時の容器の振とうにより生じる水流によって細胞集合体が培養面から剥がれることを言う。これは、細胞の培養により細胞間組織の形成が進むに従って、細胞間に働く収縮力が細胞集合体と培養面との間の接着力よりも強くなり、細胞集合体が培養面から自然に剥離するためと考えられる。そのため、本発明の好ましい実施形態によれば、損傷が極めて少ない細胞集合体を得ることができる。
【0032】
また、本発明の細胞集合体の製造方法は、得られる細胞集合体を容易に回収することが
できる利点以外にも、細胞又はスフェロイドの細胞充填率を増やすことで、厚みの増した及び/又は大きいサイズの細胞集合体及び/又は強度に優れた細胞集合体を容易に作製することができる利点を有する。そのため、従来のように、使用前に複数の細胞シートを重ね合わせて積層体を作製する作業も不要となる。
【0033】
細胞集合体は、細胞間を接着する細胞外マトリクスを細胞が形成することによって形成される。細胞集合体の形状は、特に制限されるものではなく、例えば、シート状、ファイバー状、リング状などが挙げられる。例えば、ファイバー状の細胞集合体を、所定の径を有する棒の外周面に巻くことにより、チューブ状の細胞集合体を形成することができる。また、リング状の細胞集合体を重ねることによってもチューブ状の細胞集合体を形成することもできる。チューブ状の細胞集合体は、移植用血管組織に使用することも考え得る。
【0034】
細胞培養容器の形状は、特に制限されるものではない。細胞培養容器の形状は、ディッシュ型、プレート型又はフラスコ型などの当該技術分野で通常使用される形状であり得る。底部表面の略全体が低細胞接着性を有する培養面である細胞培養容器を用いることが好ましい。細胞培養容器の前記培養面以外の内壁も、低細胞接着性(さらに好ましくは非細胞接着性)を有することが好ましい。なお、容器の形状及び培養面の形状は、所望の細胞集合体の形状を考慮して適宜選択することができる。
【0035】
培養面を構成する基材(培養面構成基材とも称す)の材料は、特に制限されるものではなく、例えば、ガラス又はプラスチックを用いることができる。プラスチックとしては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、又はアクリル樹脂が挙げられる。これらのうち、汎用性の観点から、ガラス又はポリスチレンが好ましい。特に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)は、材料自体が低細胞接着性を有する傾向があり、また、酸素透過性及び細胞毒性の点で優れているため、好ましい。アクリル樹脂としては、汎用性の観点から、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が好ましい。ポリメチルメタクリレートは、PEG、PAA、MPCポリマー、pHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)による表面修飾により、表面を低細胞接着性とすることができる。また、培養面構成基材の材料は、細胞の種類を考慮して、適宜選択することができる。
【0036】
培養面構成基材には、細胞接着性を低くするため、化学的表面処理を施すことができる。化学的表面処理としては、例えば、UVオゾン処理、電子線照射処理、又はレーザー処理などが挙げられる。また、基材表面に、PEG、PAA、MPCポリマー、pHEMAといった細胞接着を抑制する高分子を固定化することにより、基材表面を低細胞接着性とすることもできる。
【0037】
培養面の静的水接触角は、好ましくは70°以上であり、より好ましくは90°以上である。このような疎水的な領域では、一般的に細胞の接着が抑制される傾向がある。また、静的水接触角は、好ましくは40°以下であり、より好ましくは30°以下である。このような親水的な領域においても、一般的に細胞の接着は抑制される傾向がある。静的水接触角は、温度25℃、湿度30%、大気圧下で、マイクロシリンジから水を滴下して1分以内に接触角測定器を用いて測定した値を用いることができる。また、接触角測定器としては、例えば、協和界面科学(株)製CA−Z型を用いることができる。
【0038】
本実施形態で用いられる細胞培養容器の構成について、図1を参照して説明する。図1は、ディッシュ型の形態を有する本実施形態の細胞培養容器を示す概略断面図である。図1(A)に示される細胞培養容器は、プラスチックなどの基材から構成されるディッシュ型の容器2を有し、該容器2の底面(培養面)1は、化学的表面処理により低細胞接着性
を付与されている。図1(B)に示される細胞培養容器は、プラスチックなどの基材から構成されるディッシュ型の容器2の底面上に、培養面1を構成する培養面構成基材3が配置されている。図1(C)に示される細胞培養容器は、プラスチックなどの基材から構成される側壁(円筒状部材)に、培養面1を構成する培養面構成基材3が配置されている。培養面構成基材は、その材料自体が低細胞接着性を有してもよく、または、化学的表面処理により低細胞接着性が付与されていてもよい。材料自体が低細胞接着性を有する材料としては、例えば、PDMSが挙げられる。容器の形状は、特に制限されるものではないが、例えば、シャーレ、フラスコ、ビーカー、ウェルプレートなどの形状であり得る。図1において、容器2は外壁の側壁及び底壁を構成している。容器の内部空間(培養部)には培養液が配置される。また、図1には図示していないが、細胞培養容器は、適切な大きさの蓋を有することができる。細胞培養容器は、該蓋で閉じられた際に、液密になることが好ましい。なお、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。培養面1以外の細胞培養容器の内壁も、低細胞接着性(より好ましくは非細胞接着性)を有することが好ましい。
【0039】
図2に示される細胞培養容器は、図1(B)に示す細胞培養容器において、培養面構成基材3の表面のうち培養面と反対側の面に通じる開口4が容器2に形成されているものに相当する。このような細胞培養容器を用いることにより、培養面構成基材における培養面と反対側の表面から酸素を供給しながら細胞を培養することができる。そのため、細胞を効率良く培養することができ、細胞の生存率を向上することができる。図2に示される形態において、培養面構成基材3はPDMSであることが好ましい。
【0040】
図3は、第一の実施形態の細胞集合体の製造工程を説明するための概念図である。符号11は細胞培養容器を指し、符号12は播種した対象細胞を指し、符号13は培養液を指し、符号14は細胞集合体を指す。細胞培養容器の内部表面は、対象細胞12に対して低細胞接着性を有する。まず、図3(A)に示すように、細胞培養容器11中に対象細胞12を所定の細胞充填率(100%以上)となるように播種する。播種された細胞は培養面に沈降する(図3(B))。その後、細胞を培養することにより、細胞集合体を形成させる(図3(C))。本発明で得られる細胞集合体は、培養面に対する接着力が弱く、容易に回収することができる。また、好ましい実施形態においては、図3(C)に示すように、形成された細胞集合体14の少なくとも一部(好ましくは細胞集合体全体)が培養面から自然に剥離する。
【0041】
細胞の培養時間は、特に制限されるものではなく、細胞集合体が形成されるまで培養することができる。細胞集合体を形成するためには、播種された細胞が隣接する細胞間に細胞外マトリクスを形成することが必要となる。なお、培養が進むにつれ、細胞間同士の接着力強くなり、細胞集合体が収縮する傾向がある。例えば、細胞集合体がシート状である場合、培養時間の経過につれて細胞シートの面積が小さくなる傾向がある。
【0042】
対象細胞は、接着性細胞である。接着性細胞としては、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞や角膜内皮細胞などの内皮細胞、線維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞、表皮角化細胞などの表皮細胞、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞、角膜上皮細胞などの上皮細胞、乳腺細胞、ペリサイト、平滑筋細胞や心筋細胞などの筋細胞、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞や視神経細胞などの神経細胞、軟骨細胞、又は骨細胞などが挙げられる。これらの細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、或いは、それらを何代か継代させたものでもよい。さらにこれらの細胞は、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞などの多能性幹細胞、単分化能を有する血管内皮前駆細胞などの単能性幹細胞、分化が終了した細胞の何れであってもよい。また、細胞は単一種を培養してもよいし、二種以上の細胞を共培養してもよい。
【0043】
培養液は、特に制限されるものではなく、例えば、当該技術分野で一般的に用いられる細胞培養用培地を用いることができる。培地としては、例えば、用いる細胞の種類に応じて、MEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM−160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地及びRPMI1640培地などの基礎培地を用いることができる。基礎培地は、例えば、朝倉書店発行「日本組織培養学会編 組織培養の技術第三版」581頁に記載されている。さらに、基礎培地に血清(ウシ胎児血清など)、各種増殖因子、抗生物質、アミノ酸などを加えてもよい。また、Gibco無血清培地(インビトロジェン社)などの市販の無血清培地も用いることができる。最終的に得られる細胞集合体の臨床応用を考えると、動物由来成分を含まない培地を使用することが好ましい。
【0044】
培養して得られた細胞集合体は容易に剥離することができるため、ダメージがない若しくはほんどない細胞集合体を得ることができる。得られる細胞集合体は、再生医療への利用に適したものである。また、細胞集合体を利用することでバイオセンサーなどの検出デバイスにも応用できる。
【実施例】
【0045】
(細胞培養容器A)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)の平板プレート(24×24mm、厚さ1.5mm)に微細加工機を用いて直径4mmの円柱状の貫通ウェル(直径4.0mm、深さ1.5mm)を形成した(図4(A))。次に、このウェルを有するPMMAプレートを別のPMMA平板プレート(24×24mm、厚さ1.0mm)の上に配置し、熱圧着(106℃、2時間)することにより、有底ウェルを有するPMMAモールドを作製した(図4(B))。次に、ウェルを含むモールド表面全体にPt薄膜層(厚さ5nm)をスパッタリングにより形成した(図4(C))。次に、末端にチオール基(SH)を有するポリエチレングリコール(PEG−SH、分子量20000、日油社製)を2mMの濃度で含むエタノール溶液をウェル内に添加し、チオール基をPtに化学結合させ、PEG修飾PMMAモールドを作製した(図4(D))。次に、PEG修飾PMMAモールドを、ペトリディッシュ(ポリスチレン製、直径35mm、商品名:Falconプラスチックディッシュ351008、コーニング社製)の底面に設置し、細胞培養容器Aを作製した。この細胞培養容器Aにおいては、モールドのウェル内に細胞を播種した後、ウェルを含むペトリディッシュの内部空間に培地を配置し、培養を行う。PEG修飾PMMAモールドのウェルの底面が培養面となる。
【0046】
(細胞培養容器X1)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)の平板プレート(24×24mm、厚さ1.5mm)に微細加工機を用いて直径4mmの円柱状の貫通ウェル(直径4.0mm、深さ1.5mm)を形成した。次に、このウェルを有するPMMAプレートを別のPMMA平板プレート(24×24mm、厚さ1.0mm)の上に配置し、熱圧着(106℃、2時間)することにより、有底ウェルを有するPMMAモールドを作製した。次に、PMMAモールドをペトリディッシュ(ポリスチレン製、直径35mm、商品名:Falconプラスチックディッシュ351008、コーニング社製)の底面に設置することにより、比較例用の細胞培養容器X1を作製した。この細胞培養容器X1においては、細胞培養容器Aと同様に、モールドのウェル内に細胞を播種し、ペトリディッシュ内に培地を配置し、培養を行う。PMMAモールドのウェルの底面が培養面となる。
【0047】
(細胞培養容器B)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)の平板プレート(24×24mm、厚さ1.5mm)に微細加工機を用いて直径4mmの円柱状の貫通ウェル(直径4.0mm、深さ1
.5mm)を形成した。次に、このウェルを有するPMMAプレートを組織培養表面処理が施された細胞培養ディッシュ(TCPS(ポリスチレン製)、直径35mm、商品名:Falconセルカルチャーディッシュ353001、コーニング社製)の底面に貼り付けることにより、有底ウェルを形成させた。次に、ウェルを含むディッシュ表面全体にPt薄膜層(厚さ5nm)をスパッタリングにより形成した。次に、末端にチオール基(SH)を有するポリエチレングリコール(PEG−SH、分子量20000、日油社製)を2mMの濃度で含むエタノール溶液をウェル内に添加し、チオール基をPtに化学結合させることにより、PEG修飾TCPS表面を有する細胞培養容器Bを作製した。この細胞培養容器Bにおいては、ウェル内に細胞を播種した後、ウェルを含むディッシュの内部空間に培地を配置し、培養を行う。この場合、ウェル底面を形成するPEG修飾TCPS表面が培養面となる。
【0048】
(細胞培養容器X2)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)の平板プレート(24×24mm、厚さ1.5mm)に微細加工機を用いて直径4mmの円柱状の貫通ウェル(直径4.0mm、深さ1.5mm)を形成した。次に、このウェルを有するPMMAプレートを組織培養表面処理が施された細胞培養ディッシュ(TCPS(ポリスチレン製)、直径35mm、商品名:Falconセルカルチャーディッシュ353001、コーニング社製)の底面に貼り付ける(有底ウェルの形成)ことにより、比較例用の細胞培養容器X2を作製した。この細胞培養容器X2においては、細胞培養容器Bと同様に、ウェル内に細胞を播種した後、ウェルを含むディッシュの内部空間に培地を配置し、培養を行う。この場合、ウェル底面を形成するTCPS表面が培養面となる。
【0049】
(細胞培養容器C)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)の平板プレート(24×24mm、厚さ1.5mm)に微細加工機を用いて直径4mmの円柱状の貫通ウェル(直径4.0mm、深さ1.5mm)を形成した。次に、このウェルを有するPMMAプレートをペトリディッシュ(ポリスチレン製、直径35mm、商品名:Falconプラスチックディッシュ351008、コーニング社製)の底面に貼り付けることにより、有底ウェルを形成させた。次に、MPC(Lipidure−CM5206、日油社製)を0.5wt%の濃度で含むエタノール溶液をウェル内に添加してコートすることにより、MPC修飾ポリスチレン表面を有する細胞培養容器Cを作製した。この細胞培養容器Cにおいては、ウェル内に細胞を播種した後、ウェルを含むディッシュの内部空間に培地を配置し、培養を行う。この場合、ウェル底面を形成するMPC修飾ポリスチレン表面が培養面となる。
【0050】
(細胞培養容器X3)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)の平板プレート(24×24mm、厚さ1.5mm)に微細加工機を用いて直径4mmの円柱状の貫通ウェル(直径4.0mm、深さ1.5mm)を形成した。次に、このウェルを有するPMMAプレートをペトリディッシュ(ポリスチレン製、直径35mm、商品名:Falconプラスチックディッシュ351008、コーニング社製)の底面に貼り付ける(有底ウェルの形成)ことにより、比較例用の細胞培養容器X3を作製した。この細胞培養容器X3においては、細胞培養容器Cと同様に、ウェル内に細胞を播種した後、ウェルを含むディッシュの内部空間に培地を配置し、培養を行う。この場合、ウェル底面を形成するポリスチレン表面が培養面となる。
【0051】
(細胞培養容器D)
図5に示すような渦巻きパターンの凹部を有するモールドを作製した。まず、微細加工機を用いて、PMMAの平板プレート(24×24mm、厚さ0.8mm)に幅400μm、深さ500μmの渦巻きパターンの切削加工を施した。切削加工した渦巻きパターンの全長は43mmで、底面積は17.2mmであった。次に、凹部を形成したPMMA
プレートの表面にPt薄膜層(厚さ5nm)を形成した。次に、PMMAプレートにPDMS製のリング(内径7mm、厚さ2.4mm)を、渦巻きパターンがリングの内側に配置されるように貼り合わせた。次に、末端にチオール基(SH)を有するポリエチレングリコール(PEG−SH、分子量20000、日油製)を2mMの濃度で含むエタノール溶液をリングにより形成されるウェル内に添加し、チオール基をPtに化学結合させ、PEG修飾モールドを作製した。次に、作製したモールドを、ペトリディッシュ(ポリスチレン製、直径35mm、商品名:Falconプラスチックディッシュ351008、コーニング社製)の底面に設置することにより、細胞培養容器Dを作製した。この細胞培養容器Dにおいては、モールドのウェル内に細胞を播種し、ペトリディッシュ内に培地を配置し、培養を行う。また、ウェルの底面に形成される渦巻きパターンの凹部の底面を培養面として利用する。なお、ウェル内に播種した細胞について、渦巻きパターンの凹部の底面に沈降しなかった細胞は、播種後に除去することができる。下記実施例又は比較例で示される細胞充填量は、培養面(渦巻きパターンの凹部の底面)の上に配置された細胞数及び培養面面積に基づいて算出される。
【0052】
(細胞培養容器E)
PDMS(ポリジメチルシロキサン、SYLGARD184、ダウコーニング社製)製の平板プレート(24×24mm、厚さ2.5mm)の中央部分に円柱状のウェル構造(直径4.0mm、深さ1.5mm)を有するPDMSモールドを作製した。次に、MPC(Lipidure−CM5206、日油社製)を0.5wt%の濃度で含むエタノール溶液をウェル内に添加してコートすることにより、MPC修飾PDMSモールドを作製した。次に、MPC修飾PDMSモールドを、ペトリディッシュ(ポリスチレン製、直径35mm、商品名:Falconプラスチックディッシュ351008、コーニング社製)の底面に貼り付けることにより、細胞培養容器Eを作製した。この細胞培養容器Eにおいては、モールドのウェル内に細胞を播種した後、ウェルを含むペトリディッシュの内部空間に培地を配置し、培養を行う。MPC修飾PDMSモールドのウェルの底面が培養面となる。
【0053】
(細胞培養容器F)
PDMS(ポリジメチルシロキサン、SYLGARD184、ダウコーニング社製)製の平板プレート(24×24mm、厚さ2.5mm)の中央部分に円柱状のウェル構造(直径4.0mm、深さ1.5mm)を有するPDMSモールドを作製した。次に、MPC(Lipidure−CM5206、日油社製)を0.5wt%の濃度で含むエタノール溶液をウェル内に添加してコートすることにより、MPC修飾PDMSモールドを作製した。次に、MPC修飾PDMSモールドを、底面中央部に直径15mmの穴が開いたペトリディッシュ(ポリスチレン製、直径35mm、商品名:Falconプラスチックディッシュ351008、コーニング社製)の底面に貼り付けることにより、細胞培養容器Fを作製した(図2参照)。この細胞培養容器Fにおいては、細胞培養容器Eと同様に、モールドのウェル内に細胞を播種した後、ウェルを含むペトリディッシュの内部空間に培地を配置し、培養を行う。培養の際、ペトリディッシュの底面に空いた開口からPDMSを介して酸素を供給することができる。また、MPC修飾PDMSモールドのウェルの底面が培養面となる。
【0054】
(細胞培養容器G)
RTVシリコーンゴム(信越化学工業社製)の主剤KE−106と副剤CAT−RGを重量比10:1で混ぜ合わせて真空脱泡した後、ガラス板上に流し、150℃で30分硬化させてシリコーン樹脂シートを作製した。得られたシリコーン樹脂シートを直径22mmにポンチで打ち抜いた。そして、得られた円形状のシリコーン樹脂シートをポリカーボネート製パイプ(外径22mm、内径18mm)に接着剤(Momentive Performance Materials社製、RTV118)で貼り付け、PDMS(ポ
リジメチルシロキサン)から構成される培養面を有する細胞培養容器Gを作製した。
【0055】
(細胞培養容器X4)
細胞培養ペトリディッシュ(TCPS(ポリスチレン製)、商品名:Nunc細胞培養ディッシュ、Thermo Fisher Scientific社製、直径35mm)を比較例用の細胞培養容器X4として用いた。
【0056】
(細胞培養容器の細胞接着率の測定)
細胞培養容器A〜FおよびX1〜X3と同じ培養面を有する35mmディッシュを用いて、下記方法により対象細胞に対する細胞接着率を測定した。
まず、細胞培養容器の培養面上に、播種密度1.0×10cells/cmで対象細胞(ヒト肝ガン由来細胞株(HepG2))を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ社製)を用いた。細胞を播種した細胞培養容器をCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて5時間保持した。次に、細胞培養容器をリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した後、培養面に接着している細胞をトリプシン処理により培養面から剥離した。剥離した細胞を遠心分離により回収し、培地に懸濁させた。培地中の細胞の数を血球計算盤を用いてカウントし、接着細胞数を得た。式:[(接着細胞数/細胞播種数)×100]によって細胞接着率を算出した。細胞接着率(3回の平均)の結果を、後述の表2に示す。
【0057】
細胞培養容器(細胞培養容器G、X4)について、下記方法により対象細胞(マウス筋芽細胞株(C2C12))に対する細胞接着率を測定した。
【0058】
まず、細胞培養容器の培養面上に、播種密度1.0×10cells/cmで対象細胞(マウス筋芽細胞株(C2C12))を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(シグマ社製)を用いた。細胞を播種した細胞培養容器をCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて5時間保持した。保持後、培養容器をPBSバッファーで2回洗浄した後、培養面に接着している細胞をトリプシン処理により培養面から剥離した。剥離した細胞を遠心分離により回収し、培地に懸濁させた。培地中の細胞の数を血球計算盤を用いてカウントし、接着細胞数を得た。式:[(接着細胞数/細胞播種数)×100]によって細胞接着率を算出した。細胞接着率(3回の平均)の結果を、後述の表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
[実施例1]
細胞培養容器Aに、細胞充填率165%(播種密度1.0×10cells/cm)でヒト肝ガン由来細胞株(HepG2)(理化学研究所から入手、10%FBS含有DMEM培地中の直径14.5μm)を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ社製)を用いた。培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて2日間行った。培養後、目視で観察したところ、シート状の細胞集合体が形成されており、該細胞集合体が培養面から自然に剥離していることを確認した(図6)。
【0061】
[実施例2]
細胞充填率200%(播種密度1.5×10cells/cm)で細胞を播種したこと以外は、実施例1と同じ方法で細胞集合体を作製した。培養後、目視で観察したところ、シート状の細胞集合体が形成されており、該細胞集合体が培養面から自然に剥離していることを確認した。
【0062】
[比較例1]
細胞充填率41%(播種密度2.5×10cells/cm)で細胞を播種したこと以外は、実施例1と同じ方法で細胞集合体を作製した。培養後、目視で観察したところ、細胞の凝集塊が培養容器中に散在しており、シート状の細胞集合体は形成されなかった(図7)。
【0063】
[比較例2]
細胞培養容器X1に、細胞充填率200%(播種密度1.5×10cells/cm)でヒト肝ガン由来細胞株(HepG2)を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ社製)を用いた。培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて2日間行った。培養後、目視で観察したところ、シート内に隙間が存在するシート状の細胞集合体が形成された。また、該細胞集合体は培養面に強く接着しており、ピンセットで端を摘まんでも容易に剥離できなかった。
【0064】
[実施例3]
細胞培養容器Bに、細胞充填率200%(播種密度1.5×10cells/cm)でヒト肝ガン由来細胞株(HepG2)を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ社製)を用いた。培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて2日間行った。培養後、目視で観察したところ、シート状の細胞集合体が形成されており、該細胞集合体が培養面から自然に剥離していることを確認した。
【0065】
[比較例3]
細胞培養容器X2に、細胞充填率200%(播種密度1.5×10cells/cm)でヒト肝ガン由来細胞株(HepG2)を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ製)を用いた。培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて2日間行った。培養後、目視で観察したところ、シート内に隙間が存在するシート状の細胞集合体が形成された。また、該細胞集合体は培養面に強く接着しており、ピンセットで端を摘まんでも容易に剥離できなかった。
【0066】
[実施例4]
細胞培養容器Cに、細胞充填率200%(播種密度1.5×10cells/cm)でヒト肝ガン由来細胞株(HepG2)を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ社製)を用いた。培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて2日間行った。培養後、目視で観察したところ、シート状の細胞集合体が形成されており、該細胞集合体が培養面から自然に剥離していることを確認した。
【0067】
[比較例4]
細胞培養容器X3に、細胞充填率200%(播種密度1.5×10cells/cm)でヒト肝ガン由来細胞株(HepG2)を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ製)を用いた。培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて2日間行った。培養後、目視で観察したところ、シート内に隙間が存在するシート状の細胞集合体が形成された。また、該細胞集合体は培養面に強く接着しており、ピンセットで端を摘まんでも容易に剥離できなかった。
【0068】
[実施例5]
細胞培養容器Dに、播種胞密度4.7×10cells/moldでヒト肝ガン由来細胞株(HepG2)を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ製)を用い、培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件で行った。1日間培養した後、培地を用いて洗浄することで培養面上に沈降しなかった細胞を除去した結果、モールド内への細胞充填率は150%(細胞密度9.1×10cells/cm)であった。洗浄後、新しい培地を添加してさらに2日間培養した。培養後、目視で観察したところ、培養面上に連続するファイバー状の細胞集合体が形成されており、該ファイバー状細胞集合体が培養面から自然に剥離していることを確認した(図8)。
【0069】
[比較例5]
細胞充填率70%(細胞密度4.2×10cells/cm)で細胞を充填したこと以外は、実施例5と同じ方法で細胞集合体を作製した。培養後、目視で観察したところ、断片的な細胞凝集物が培養面上に散在しており、培養面上に連続するファイバー状の細胞集合体は得られなかった(図9)。
【0070】
[実施例6]
細胞培養容器Eに、細胞充填率300%(播種密度1.8×10cells/cm)でヒト肝ガン由来細胞株(HepG2)を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ社製)を用いた。培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて2日間行った。培養後、目視で観察したところ、シート状の細胞集合体が形成されており、該細胞集合体が培養面から自然に剥離していることを確認した。
【0071】
[実施例7]
細胞培養容器Fに、細胞充填率300%(播種密度1.8×10cells/cm)でヒト肝ガン由来細胞株(HepG2)を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ社製)を用いた。培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて2日間行った。培養後、目視で観察したところ、シート状の細胞集合体が形成されており、該細胞集合体が培養面から自然に剥離していることを確認した。また、2日間培養した培地を回収し、HepG2細胞が産生するアルブミン(タンパク質)量を測定した結果、酸素供給能が高い細胞培養容器F(実施例7)の細胞組織体は、細胞培養容器E(実施例6)の細胞集合体よりも高いアルブミン産生能をもつことが示された(図10)。これより、細胞培養容器Fは、より好ましい容器形態であることが見出された。
【0072】
[実施例8]
細胞培養容器Gに、細胞充填率225%(播種密度3.0×10cells/cm)でマウス筋芽細胞(JCRBから入手、10%FBS含有DMEM培地中の直径15.5μm)を播種した。使用培地は、10%FBS含有DMEM(シグマ社製)を用いた。培養は、COインキュベーターで37℃、5%COの条件にて24時間行った。培養後、目視で観察したところ、シート状の細胞集合体が形成されており、該細胞集合体が培養面から自然に剥離していることを確認した。
【0073】
[実施例9]
細胞充填率135%(播種密度1.8×10cells/cm)で細胞を播種したこと以外は、実施例8と同じ方法で細胞集合体を作製した。培養後、目視で観察したところ、シート状の細胞集合体が形成されており、該細胞集合体が培養面から自然に剥離していることを確認した。
【0074】
[比較例6]
細胞充填率75%(播種密度1.0×10cells/cm)で細胞を播種したこと以外は、実施例8と同じ方法で細胞集合体を作製した。培養後、目視で観察したところ、細胞の凝集塊が培養容器中に散在しており、シート状の細胞集合体は形成されなかった。
【0075】
[比較例7]
細胞培養容器Gの代わりに細胞培養容器X4を用いたこと以外は、実施例8と同じ方法で細胞集合体を作製した。培養後、シート状の細胞集合体が形成されたが、該細胞集合体は培養面に強く接着しており、ピンセットで端を摘まんでも容易に剥離できなかった。
【0076】
実施例1〜9と比較例1〜7の結果を以下の表3にまとめる。
【0077】
【表3】
【0078】
(スフェロイド培養容器の作製)
PMMA平板プレート(24×24mm、厚さ0.5mm)に、微細加工機を用いて、直径300μm、深さ300μmの円筒形マイクロウェルを1020個形成した。次に、ウェルが形成された表面全体にPt薄膜層(厚さ5nm)をスパッタリングにより形成した。次に、末端にチオール基(SH)を有するポリエチレングリコール(PEG−SH、分子量20000、日油製)を2mMの濃度で含むエタノール溶液をウェル内に添加し、Ptとチオール基を化学結合させることにより、ウェルの表面をPEGで修飾した。得られたプレートをペトリディッシュ(ポリスチレン製、直径35mm、商品名:Falconプラスチックディッシュ351008、コーニング社製)の底面に設置し、スフェロイ
ド培養用容器として利用した。なお、このスフェロイド培養用容器において、ウェル内に細胞を播種した後、ウェルを含むペトリディッシュの内部空間に培地を配置し、培養を行う。
【0079】
(スフェロイドの作製)
作製したスフェロイド培養用容器に播種密度100cells/well(1.4×10cells/cm)でヒト肝ガン由来細胞株(HepG2)(理化学研究所から入手)を播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ製)を用い、培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて2日間行った。培養後、各ウェルで形成されたスフェロイドを顕微鏡により撮影し(30サンプル)、得られた顕微鏡写真からスフェロイドの平均粒径を算出した。スフェロイドの平均粒径は120μmであった。スフェロイド培養用容器で形成されたスフェロイドは、ピペッティングによって容器から取り出し、回収した。
【0080】
[実施例A]
上述のHepG2スフェロイド(平均粒径120μm)をスフェロイド充填率135%(播種密度1.2×10spheroids/cm)で細胞培養容器Aのウェルに播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ製)を用い、培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて2日間行った。培養後、目視で観察したところ、シート状の細胞集合体が形成されており、該細胞集合体が培養面から自然に剥離していることを確認した。
【0081】
[比較例A]
細胞培養容器Aの代わりに細胞培養容器X1を用いたこと以外は、実施例Aと同様にして細胞集合体を作製した。培養後、顕微鏡で観察したところ、シート内に隙間があるシート状の細胞集合体が形成された。また、該細胞集合体は培養面に強く接着しており、ピンセットで端を摘まんでも容易に剥離できなかった。
【0082】
[実施例B]
上述のHepG2スフェロイド(平均粒径120μm)をスフェロイド充填率135%(播種密度1.2×10spheroids/cm)で細胞培養容器Bのウェルに播種した。培地としては、10%FBS含有DMEM(ギブコ製)を用い、培養はCOインキュベーターで37℃、5%COの条件にて2日間行った。培養後、目視で観察したところ、シート状の細胞集合体が形成されており、該細胞集合体が培養面から自然に剥離していることを確認した。
【0083】
[比較例B]
細胞培養容器Bの代わりに細胞培養容器X2を用いたこと以外は、実施例Bと同様にして細胞集合体を作製した。培養後、顕微鏡で観察したところ、シート内に隙間があるシート状の細胞集合体が形成された。また、該細胞集合体は培養面に強く接着しており、ピンセットで端を摘まんでも容易に剥離できなかった。
【0084】
実施例A〜B及び比較例A〜Bを以下の表4にまとめる。
【0085】
【表4】
【符号の説明】
【0086】
1 培養面
2 容器
3 培養面構成基材
4 開口
11 容器
12 対象細胞
13 培養液
14 細胞集合体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10