【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係わるマイクロカロリメータは、基板から
空洞を介して熱分離した薄膜に、第1の温度センサが形成されてあり、該第1の温度センサは、前記薄膜の反応部、もしくはその近傍に配置していること、該反応部に特定試料成分対応物質が固定されていること、前記基板と前記第1の温度センサおよび反応部に連通する被検出液体試料が通るマイクロチャンネルが前記薄膜に形成されていること、特定試料成分を含む被検出液体試料が、前記特定試料成分対応物質と、互いに接触したとき、基質と酵素との接触反応に基づく反応熱作用のために温度上昇し、該温度上昇分を第1の温度センサの出力として取り出すようにしたこと、被検出液体試料がマイクロチャンネル内から蒸発しないように、少なくとも基板から熱分離した前記薄膜領域は密閉構造にしたこと、
更に、前記の基板から熱分離した薄膜に、前記第1の温度センサの他に、第2の温度センサも形成して、第1の温度センサの出力を第2の温度センサの出力を基準として、これらの位置における温度差出力として取り出
せるようにもした
こと、を特徴とするものである。
【0012】
本マイクロカロリメータのセンサチップは、シリコン(Si)単結晶のSOI基板を用いて、そのSOI層を利用して公知のMEMS技術で作成される微小寸法、例えば、長さ1mm、幅0.2mm、厚み0.01mm程度の架橋構造状や、必要に応じて、カンチレバ状の薄膜などで構成される。例えば、この架橋構造状の薄膜に、第1の温度センサがこの薄膜の反応部、もしくはその近傍に形成されている。この反応部は、前記薄膜が一様加熱された時に最も高温になる領域(例えば、中央部付近)に設けた方が有効に反応部での発熱が架橋構造状の薄膜の昇温に寄与できる。反応部には、例えば、特定試料成分対応物質であるグルコースオキシダーゼなどの酵素が固定される。また、マイクロチャンネルがこの架橋構造状の薄膜に形成されており、第1の温度センサを通り、基板の手前から空洞を跨いで対向する位置の基板まで延在したマイクロチャンネル内を、特定試料成分を含む被検出液体試料の体液が通る。例えば、特定試料成分が被検出液体試料の体液である尿中の基質である糖(グルース)であった場合、特定試料対応物質は、糖(グルース)に対応する(酸化)酵素であるグルコースオキシダーゼある。なお、「近傍」とは、同一の温度と見做せる範囲の領域や位置をいう。
【0013】
被検出液体試料としての血液や尿、汗、唾液などの体液中にある特定試料成分である基質としてグルコース、尿酸、乳酸、タンパク、脂肪などで、それらの量を検出する場合、その基質に対応するそれぞれの特定試料成分対応物質としての酵素であるグルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、トリプシン、リパーゼなどを、架橋構造状の薄膜のほぼ中央に位置する反応部に、酵素を担体結合法、架橋法、包括法などで固定するための固定材(例えば、多孔性のあるシリカゲルなどのゲル状物質や電着した高分子材料、光架橋性PVAなど高分子材料などで、親水性はあるが水に不溶な物質に固定しておき、マイクロチャンネルを通して導入された体液中の基質とそれに対応する酵素との接触触媒反応で、熱反応して温度上昇させて、その温度上昇を反応部内又は近傍に形成してある第1の温度センサにより検出して、その時間経過を含む大きさから基質の量を測定するものである。なお、基質とそれに対応する酵素との接触触媒反応は、最適な温度があり、体液中の基質と対応酵素との反応は、一般には、体温付近のことが多い。従って、少なくとも反応に寄与する反応部付近は、一様にその反応の最適温度にしておくようにすることが望ましい。
【0014】
上述では、体液である血液や尿、汗、唾液などの体液中にある特定試料成分として、基質の場合を述べたが、逆に、特定試料成分として酵素の場合もある。例えば、前立腺癌のマーカとなる酸性フォスファターゼという酵素は、ヒトが前立腺癌になると血清中にこの酵素が多量に分泌されることが知られている。この酵素に対応する基質として、1−ナフチル・リン酸 が知られており、上述とは逆に、この基質を上記反応部に固定材により固定し、体液(血液)がマイクロチャンネルを通って反応部に到達するようにして熱反応をさせ、その時の発熱温度を第1の温度センサで計測して、予め用意してある校正用データを用いて、特定試料成分である酸性フォスファターゼ(酵素)の量を計測することもできる。なお、酵素と基質との熱反応では、最適温度(最適環境温度)があるが、その他に、pHの最適値もある。また、更に酵素が活性化するために補酵素が必要な場合もある。このような場合は、その条件に合うように予めpH調整や補酵素の補給などができるように、バッファー液や特定試料対応物質を含む固定材料のpHなどの調整をしておくと良い。
【0015】
基板の試料注入孔付近の温度は、一般に反応の最適温度ではないので、注入された体液がマイクロチャンネルを通って反応部に到達するまでには、既にその反応の所定の最適環境温度になっていることが望ましい。従って、本願発明では、前記薄膜のうち、反応部の近傍にある第1の温度センサと薄膜の基板側支持端との間に第2の温度センサを設けておき、この第2の温度センサの近傍のマイクロチャンネル内を通る体液も外部のヒータなどにより所定の最適温度になるように配置することができる。そして、第1の温度センサと第2の温度センサとの温度差の計測により、基質とそれに対応する酵素との接触触媒反応による熱反応の温度上昇分のみを計測できるように工夫している。もちろん、最適環境温度でなくとも、温度センシング部を断熱材で覆い、室温の環境下での熱反応の温度上昇分を計測しても良い。なお、薄膜のうち、略均一な温度分布内とは、時間的に変動がほぼ見られない1℃程度の温度変化内を指す。
【0016】
本発明の請求項
2に係わるマイクロカロリメータは、前記第1の温度センサと前記第2の温度センサのうちの少なくとも一つは、温度差センサとした場合である。
【0017】
温度差センサには、熱電対やサーモパイルが知られている。温度差センサの特長は、基準点(例えば、冷接点)と測定点(例えば、温接点)との温度差のみに関係する出力を電圧出力として取り出すことができることであり、しかも、ほぼ温度差に比例した出力電圧になることである。従って、例えば、第1の温度センサとして熱電対を採用し、第2の温度センサの位置を基準点(冷接点)にして、第1の温度センサの位置を測定点(温接点)とすれば、第1の温度センサの出力は、第2の温度センサの位置と第1の温度センサの位置の温度差出力を示す。このように、少なくとも第1の温度センサを温度差センサにすることにより第2の温度センサの位置と第1の温度センサの位置の温度差出力を高精度で容易に取り出すことができる。もちろん、第2の温度センサと第1の温度センサとも熱電対などの温度差センサにしても良い。この場合、第2の温度センサと第1の温度センサとの基準点を共通にすることにより、第2の温度センサと第1の温度センサとの出力差を計測すると、これは、第2の温度センサの位置と第1の温度センサの位置の温度差出力となる。第2の温度センサと第1の温度センサのそれぞれの一方の熱電物質として、共通する架橋構造を構成するSOI層(例えば、n型シリコン層)とすると、単純な構成となり便利である。また、基準点も基板1に設けた共通電極とすると良い。
【0018】
本発明の請求項
3に係わるマイクロカロリメータは、前記第1の温度センサの出力の時間変化の状態から前記被検出液体試料中の特定試料成分の量に関する情報を得るように構成した場合である。
【0019】
例えば、第1の温度センサが架橋構造の薄膜の反応部に形成され、反応部には、例えば、グルコースオキシダーゼなどの酵素が固定されている場合を考える。マイクロチャンネル内を、特定試料成分である基質のグルコース(尿糖)を含む被検出液体試料の体液である尿が通る場合、基質のグルコースと酵素のグルコースオキシダーゼとの接触触媒熱反応によりグルコースが酸化されて発熱反応を生じる。この時の温度上昇を上述のように、第1の温度センサの温度を第2の温度センサを基準して計測する(温度差を計測する)ようにして、この時の温度差出力の時間変化から尿糖の量を計測するようにした場合である。一般に、接触触媒熱反応が生じている間は温度上昇するが、尿中の基質のグルコース(尿糖)の反応が終了し、グルコースオキシダーゼであるの酵素と接触することが無くなる、もしくは乏しくなると、熱反応が終了するなどして温度上昇は次第に小さくなり、第1の温度センサの温度出力が降下する。このときの第1の温度センサの温度出力の時間経過の状態は、途中にピークを有する特性となる。この時の第1の温度センサのピークの出力値を用いても良いし、ある所定の時間に渡っての出力値の積分値などを利用して、予め校正して有るデータを基にして、尿糖値を求めることができる。もちろん、特定試料成分としての尿糖に限らず、尿中の尿酸や、尿の代わりに血液を用いれば、血液中の各種の特定試料成分としての基質を、それに対応する特定試料成分対応物質としての酵素との組合せで、熱反応により計測することができる。
【0020】
本発明の請求項
4に係わるマイクロカロリメータは、前記マイクロチャンネルを有する前記薄膜は、架橋構造とした場合である。
【0021】
薄膜として架橋構造状の構造を採用すると、薄膜の安定な保持が達成されると言う利点があると共に、後述するように、マイクロカロリメータのセンサチップを何回も使用するには、マイクロチャンネル内を洗浄する必要がある。この場合、マイクロチャンネルを通して、尿や血液などの被検出液体試料を流し、熱反応後、センサチップ外に被検出液体試料や洗浄液などを排出させる必要があるので、架橋構造状の構造が好適である。もちろん、薄膜としてカンチレバ状にすると架橋構造状の構造に比して、小型の薄膜で済むが、センサチップを何回も使用するには、被検出液体試料や洗浄液などを、基板からの熱分離して有る薄膜上で被検出液体試料の蒸発を防ぎながら排出させるには、カンチレバ上のマイクロチャンネルをカンチレバの基板支持部に戻す必要があり、構造が複雑になると言う問題もある。
【0022】
本発明の請求項
5に係わるマイクロカロリメータは、前記マイクロチャンネルを、前記基板に設けられた試料注入孔と反対側の前記基板の端部まで延在させて、被検出液体試料が排出できるようにした場合である。
【0023】
前述したように、マイクロカロリメータのセンサチップを何回も使用するには、洗浄する必要があり、マイクロチャンネルを通して、尿や血液などの被検出液体試料を流し、熱反応後、センサチップ外に被検出液体試料や洗浄液などを排出させる必要がある。このために、マイクロチャンネルを、基板に設けられた試料注入孔から宙に浮いている上記薄膜(基板から熱分離している薄膜領域)を通り、反対側の前記基板まで延在させて、更に、試料排出孔を通して、被検出液体試料が排出できるようにするような場合である。
【0024】
本発明の請求項
6に係わるマイクロカロリメータは、前記マイクロチャンネル内の上下左右の内壁の少なくとも表面の一部は、親水性物質とした場合である。
【0025】
マイクロチャンネルの中を通る体液などの被検出液体試料の液体は、そのほとんどが水溶液であるので、毛細管現象を利用して体液を反応部方向に移動させるには、マイクロチャンネルの内壁の体液が接するすべての内壁(上下左右の内壁)が親水性である方が良い。水溶液から成る体液は、その親水性の親和力により引かれて移動するからである。もちろん、被検出液体試料の体液を電気泳動などの方法で主に移動させることができるが、そのためには、それに必要な電極を配置する必要がある。また、電気泳動法と毛細管現象との両方で移動させることも可能であり、更にポンプなどを利用して体液を移動させることもできる。
【0026】
本発明の請求7に係わるマイクロカロリメータは、前記マイクロチャンネルの内壁の親水性物質の表面積の大きさにより、前記マイクロチャンネル内を通る前記被検出液体試料の移動速度が制御できるようにした場合である。
【0027】
上述のように、マイクロチャンネルの内壁を親水性にして毛細管現象を利用して体液を反応部方向に移動させる場合、マイクロチャンネルに露出している酵素である特定試料成分対応物質と体液中の基質とが、反応部で充分な反応時間を持つことができずに素早く通り過ぎる場合がある。このためには、体液を反応部方向に移動させる速度を小さくさせるなどの制御が必要になる。もちろん、外部のポンプやニードルバルブ等で体液のチャンネル内での移動速度を制御できるが、ここでは、マイクロチャンネルの内壁の親水性物質の表面積の大きさの制御で移動速度を制御した場合であり、毛細管現象だけで移動させるには好適な手段である。親水性物質の表面積を小さくする、例えば、細長くするなどにより、マイクロチャンネルの内壁で疎水性の部分の面積が大きくなり、水溶液である体液の濡れが少なくなり、移動速度が小さくなると言うことで、反応部での充分な熱反応が起こるような反応時間を与えるようにさせるものである。
【0028】
本発明の請求項
8に係わるマイクロカロリメータは、前記被検出液体試料が基質の場合は、前記特定試料成分対応物質がその基質に対応する酵素を含む物質であり、前記被検出液体試料が酵素の場合は、特定試料成分対応物質は、その酵素に対応する基質を含む物質である場合である。
【0029】
特定試料成分が体液である尿や血液中の基質である、例えば、糖(グルース)であった場合、特定試料対応物質は、その糖(グルース)に対応する(酸化)酵素であるグルコースオキシダーゼを含む物質である。また、特定試料成分が体液である血液中の癌マーカとして知られる酵素である、例えば、前述の酸性フォスファターゼであった場合、特定試料対応物質は、その酸性フォスファターゼに対応する基質として1−ナフチル・リン酸を含む物質にすると良い。このように、各種の基質とそれに対応する酵素との組み合わせにより、極めて高い選択性があり、しかもこれらの触媒反応では、熱反応を伴うので、予め校正して有るデータを用いて、体液中の特定試料成分の量と種類が特定できると共に、多数の薄膜のそれぞれに設けたマイクロチャンネルと反応部との組み合わせにより同時に数多くの体液中の特定試料成分が特定できることになる。
【0030】
本発明の請求項
9に係わるマイクロカロリメータは、同一の前記基板に、複数の前記薄膜が配列され、それぞれの薄膜には、それぞれに対応して前記第1の温度センサや前記第2の温度センサが形成されている構造である場合である。
【0031】
尿や血液などの被検出液体試料の体液中には、生体由来物質であるグルコース、タンパク、尿酸、各種酵素などの多くの被検出試料が含まれている。これらの体液を利用して、できるだけ多くの種類の被検出試料の物質の特定や量などを同時に計測したい。そのために、本発明は、同一の基板に、複数の薄膜を配列させ、それぞれの薄膜のそれぞれに第1の温度センサや第2の温度センサ、更に反応部を形成し場合である。第1の温度センサと第2の温度センサとの差動出力を取り出すようにすると、それぞれの薄膜に形成されたマイクロチャンネル中を通る体液の温度の影響を小さくできるので好適である。
【0032】
本発明の請求項
10に係わるマイクロカロリメータは、前記複数の薄膜に、前記特定試料成分対応物質として、それぞれ異なる酵素又は基質が含有して固定されている場合である。
【0033】
上述したように、特定試料成分として、尿や血液などの体液中の酵素又は基質の量と種類の特定検出では、特定試料成分である酵素又は基質に対応する逆の基質又は酵素を複数の薄膜に固定することにより、試料注入孔から注入された被検出液体試料の体液が分配されて、複数の薄膜に形成されているそれぞれのマイクロチャンネル中を通って、それぞれの反応部で特定の酵素と基質との触媒熱反応により発熱して、それらの第1の温度センサと第2の温度センサとの差動出力を取り出すことで、特定の酵素と基質の組合せをほぼ同時に決定できる。例えば、1個の試料注入孔から注入した被検出液体試料が、各薄膜に形成して有る各マイクロチャンネルに分流して、それぞれの反応部でそれぞれの特定試料成分の基質に対応する特定試料成分対応物質の酵素と熱反応して、それぞれの第1の温度センサや前記第2の温度センサでの温度上昇分の計測によりそれぞれの異なる特定試料成分の量に対する情報を得るようにした場合であり、逆に、特定試料成分対応物質として基質を、また、特定試料成分として酵素を用いても良い。
【0034】
本発明の請求項
11に係わるマイクロカロリメータは、前記特定試料成分対応物質としての基質または酵素に対する防腐剤を含有させて固定した場合である。
【0035】
一般に、基質や酵素は、タンパク質なので、室温などの高温状態に長く置くと腐敗してしまうと言う問題が有る。そのために、ペルチェ素子などの電子冷凍を利用して、反応部に固定して有る特定試料成分対応物質を腐敗や不活性化から保護することもできるが、長期の電力が必要なので、熱反応に影響を与えない防腐剤を入れて特定試料成分対応物質を保護するものである。
【0036】
本発明の請求項
12に係わるマイクロカロリメータは、前記マイクロチャンネルを持つ前記薄膜は、基質と酵素との接触熱反応前では、略均一な温度分布であるように、断熱材で囲む構造とした場合である。
【0037】
本発明のマイクロカロリメータは、極めて熱容量の小さい基板から熱分離した薄膜に、微細なマイクロチャンネルを形成した温度検出システムであり、高精度な特定試料成分の量の検出には、酵素と基質の熱反応以外の外界からの熱の授受や対流などの影響が無いようにすることが最も重要である。熱対流や外気温の変化が影響しない構造にする必要が有り、室温の変動や外部空気等の流れなどの影響を防ぐために、必要に応じて、二重、三重の断熱材で覆う構成にした場合である。
【0038】
本発明の請求項
13に係わるマイクロカロリメータは、前記マイクロチャンネルを持つ前記薄膜が、基質と酵素との接触熱反応前に、所定の略均一な温度になるようにヒータにより加熱できるようにした場合である。
【0039】
生物由来物質の基質とそれに対応する酵素とのそれぞれの組み合わせで、それぞれの接触触媒熱反応には、最適な環境温度が有り、多くの場合、人間の体温付近の35℃から40℃程度であり、一般の室温である20℃より高い温度である。このような最適な温度環境下もしくは、熱反応が観測されやすい温度環境下での接触触媒熱反応になるように、外部にヒータを設置して、マイクロチャンネルを持つ前記薄膜を所定の均一な温度分布となる温度設定できるようにした場合である。
【0040】
本発明の請求項
14に係わるマイクロカロリメータは、前記マイクロチャンネルを持つ前記薄膜が、基質と酵素との接触熱反応前には、室温で略均一な温度になるようにしてあり、基質と酵素との接触熱反応による反応部の温度上昇分の第1の温度センサの出力を、計測した室温を利用して補正するようにした場合である。
【0041】
ヒータ加熱をしないでも、ゆっくり変動する低い室温の環境温度で、接触触媒熱反応も実験的に観測されているので、反応熱の環境温度補正(室温補正)を行って、実際の特定試料成分(尿糖など)の量を補正することもできる。一般に、低温になると反応速度が小さくなり、反応熱が小さくなるという傾向が有るので、これらの補正が主体となる。
【0042】
本発明の請求項
15に係わるマイクロカロリメータは、基板に絶対温度センサを形成してある場合である。
【0043】
上記の第1の温度センサや第2の温度センサを熱電対などの温度差センサにした場合、室温などの温度や薄膜を備えている基板の絶対温度を知ることができない。基板に絶対温度センサを設けておくことにより基板の温度を知ることができるし、ほぼ室温の計測としても代用することもできる。絶対温度センサとして、白金薄膜測温体、サーミスタやpnダイオードなどを利用することができる。
【0044】
本発明の請求項
16に係わるマイクロカロリメータは、少なくとも電源回路、増幅回路、演算回路および温度制御回路を備え、被検出液体試料として、血液、尿、汗、唾液のいずれかの少なくとも1つの体液(排泄物も含む)中の前記特定試料成分の量に関する情報を得ることができるようにした場合である。
【0045】
マイクロカロリメータのセンサチップは、Si単結晶であるSOI基板を用いて製作すると、MEMS技術が適用されやすく好適である。そして、このSOI基板から成るセンサチップに集積回路技術で電源回路、増幅回路、演算回路および温度制御回路も集積化できるし、これらを別の半導体基板等に集積化して、モジュール化することもできる。このようにすることにより、極めてコンパクトな、例えば、ハンディタイプのマイクロカロリメータを提供することができる。
【0046】
電源回路は、ヒータ等の駆動や他の回路への電源の供給に関わる回路であり、増幅回路は、第1の温度センサと第2の温度センサやこれらの差動信号の出力などを増幅する回路である。上述で第1の温度センサと第2の温度センサの出力という表現をしているが、一般には、第1の温度センサと第2の温度センサの生の出力は小さいので、初段増幅後以降の出力を指すが、もちろん、第1の温度センサと第2の温度センサの生の出力信号を指すこともある。演算回路は、第1の温度センサと第2の温度センサからの出力やこれらに基づく差引や積分、また、これらの出力信号などを利用し、更にメモリ回路との組み合わせにより特定試料成分の量への換算などを演算処理するような回路である。また、温度制御回路は、ヒータ等の温度制御やヒータ等の駆動時の加熱サイクルの通電時間、通電停止期間、積分時間の設定、差引動作などの温度制御やフィードバック制御などを行う回路である。
【0047】
本発明の請求項
17に係わるマイクロカロリメータは、前記体液中の前記特定試料成分の量に関する情報を得るに当たり、少なくとも特定の2つ以上の成分を同時に計測できるようにした場合である。
【0048】
上述したように、複数の前記薄膜をセンサチップに形成しておき、これらのそれぞれに固定した例えば異なる酵素と、それぞれに少なくとも第1の温度センサを設け、必要に応じて第2の温度センサをも設けておき、更に反応部およびマイクロチャンネルを形成して、試料注入孔から注入した被検出液体試料の分流により各反応部で熱反応させて、基本的には、各第1の温度センサの出力を基にして、複数の異なる特定試料成分の量に関する情報を得るものである。
【0049】
本発明の請求項
18に係わるマイクロカロリメータは、前記特定試料成分の量に関する情報を無線もしくは有線にて、外部にあるコンピュータに送信できるようにした場合である。
【0050】
ある個人の血糖値などのマイクロカロリメータからの特定試料成分の量に関する情報は、その時ばかりでなく、日常での日ごとの変化やその傾向を知ることが大事である。その場での数値ばかりでなく、過去のデータを蓄積しておき、経日変化をグラフ化したり、予測したりすることも大切であり、また、医療機関への連絡なども必要な場合もあり、情報を無線もしくは有線にて、外部にあるコンピュータに送信できるようにして、各種の処理ができるようにした方が好都合である。
【0051】
本発明の請求項
19に係わる
マイクロカロリメータの製造方法は、特定試料対応物質を、第1の温度センサの電極もしくは該電極に導通させたある電極上に、電着を利用して固定させた場合である。
【0052】
例えば、キトサンは、アミノ基の存在により高分子電解質としての性質が有り、この薄い水溶液に、グルコースオキシダーゼなどの酵素を混合させて水溶液を作り、金属電極上に酵素を含むpHを最適にしたキトサンやその塩類として電着することができる。このようにすることにより、特定の電極上にキトサンを介して、特定の酵素を電着と言う手法により酵素固定させることができる。マイクロチャンネル内にある反応部に露出した第1の温度センサの電極やこの電極に導通させた他の電極、例えば、基質との接触面積を多くさせるために表面積を敢えて大きくさせて形成した電極などに、所望の酵素を固定することができる。後述するように、血液や尿などの体液中の多種類の基質を同時に検出する場合などには、それぞれの対応する所望の酵素を選択的に密閉構造のマイクロチャンネル内の所定の電極に固定できるので、酵素の固定法として好適である。
【0053】
本発明の請求項
20に係わる
マイクロカロリメータの製造方法は、前記密閉構造のマイクロチャンネルを形成後に、前記反応部に特定試料成分対応物質を固定するようにした場合である。
【0054】
上述したように、マイクロチャンネルの少なくとも基板から熱分離した薄膜の領域には、被検出液体試料の蒸発による冷却作用を防ぐために、孔がない密閉構造にする必要がある。特に同一基板に、基板から熱分離した複数の薄膜を形成して、尿などの被検出液体試料の体液から複数の特定試料成分(基質)の量を計測する場合に、各薄膜の反応部に異なる特定試料成分対応物質を固定する必要がある。そのために、各マイクロチャンネルの反応部の上部に開口部を設けて、それぞれの反応部に異なる特定試料成分対応物質の酵素を滴下固定した後、その開口部を薄膜で覆うなどしてマイクロチャンネルを密閉構造にする方法もあるが、ここでは、密閉構造のマイクロチャンネルを形成後に、前記反応部に特定試料成分対応物質を固定するようにした場合である。そのやり方の一つは、後述の密閉構造のマイクロチャンネルを形成後に、電着を利用して反応部に形成してある電極上に特定試料成分対応物質を固定することができる。