【実施例】
【0018】
図1、
図2において、符号30はダイナミックマイクロホンユニットを示している。ダイナミックマイクロホンユニット(以下「マイクロホンユニット」という)30は前部音響端子Tfと後部音響端子Tbを有していて、指向性は単一指向性である。前部音響端子および後部音響端子とは、前述のようにマイクロホンユニットが備える振動板と同時に動く前側と後ろ側の空気の中心位置である。前部音響端子Tfは振動版前方側の中心位置にある。後部音響端子Tbは、後で説明する第1音響質量板60と音響抵抗体50との間の空間および第2音響質量板と音響抵抗体50との間の空間に広がっている。マイクロホンユニット30は、後端部(
図1において右端部)に長めの音響管40の前端部が結合され、音響管40の後端部はベース70に結合されている。ベース70は円柱状の部材で、後半部は小径になっていて、この小径部は、マイクロホンケーブルを結合するコネクタ部90になっている。
【0019】
マイクロホンユニット30の外周には円筒形の音響抵抗体50の前端部が嵌められて固着されている。音響抵抗体50は音響管40と平行に後方に伸びていて、音響抵抗体50の内周面と音響管40の外周面との間に円筒形状の空気室52が形成されている。空気室52はマイクロホンユニット30の後部空気室33およびの音響管40の内部の空気室41に連通している。音響抵抗体50の後端は音響管40の後端に届かず、音響管40の後端部に、空気室52を開放する後部開口45が形成されている。
【0020】
ベース70には円筒形の第1マイクロホンケース10の後端部が固着されている。第1マイクロホンケース10はマイクロホンユニット30に向かって音響抵抗体50と平行に伸びている。第1マイクロホンケース10の内周面と音響抵抗体50の外周面との間には円筒形状の第1外側空気室12が形成されている。第1マイクロホンケース10の前端近くの内周には支持リング15が嵌められ、支持リング15の外周面が第1マイクロホンケース10の内周面に固着されている。支持リング15の内周面は音響抵抗体50の外周面に固着されている。
【0021】
支持リング15の内外方向の厚さは、第1外側空気室12の内外方向の間隔と等しくなるように設定されている。支持リング15は第1外側空気室12の前端位置を規制している。
【0022】
第1マイクロホンケース10には、複数の音波導入部11が形成されている。各音波導入部11は、第1マイクロホンケース10を周方向に長い窓型に切除することによって形成されている。各音波導入部11は、第1マイクロホンケース10の長さ方向に等間隔に並んで形成されている。
【0023】
第1マイクロホンケース10の内周面に沿って第1音響質量板60が配置されている。前記各音波導入部11は、第1音響質量板60によって内側から塞がれている。第1音響質量板60は、高域の音波に対して高い音響質量を持つ部材である。したがって、第1音響質量板60として、例えば、厚みが0.5mm程度のアルミニウム板に微細な孔を無数に形成したパンチングメタルを使用することができる。各音波導入部11から導入される音波は、第1音響質量板60を通って第1外側空気室12に入り、音響抵抗体50を通って内側空気室52に入る。音波はさらにマイクロホンユニット30の振動板31の背面側空気室に入り、さらに後部空気室33から音響管40の空気室41に至る。
【0024】
第1マイクロホンケース10の前端部には円筒形状の第2マイクロホンケース20が結合されている。第2マイクロホンケース20は、マイクロホンユニット30および音響管40と音響抵抗体50の前端部を外周側から覆っている。第2マイクロホンケース20の前端部にはカバー80が嵌められている。カバー80は、マイクロホンユニット30を主とする内部構造を保護している。
【0025】
第2マイクロホンケース20には、複数の音波導入部21が形成されている。各音波導入部21は、第2マイクロホンケース20を周方向に長い窓型に切除することによって形成されている。各音波導入部21は、第2マイクロホンケース20の長さ方向に等間隔に形成されている。
【0026】
第2マイクロホンケース20の内周面に沿って第2音響質量板62が配置されている。前記各音波導入部21は、第2音響質量板62によって内側から塞がれている。第2音響質量板62は、高域の音波に対して低い音響質量を持つ部材である。したがって、第2音響質量板62は、第1音響質量板60よりも大きな孔を有する部材、例えば、目の粗い網のような部材を使用するとよい。第2音響質量板62と音響抵抗体50との間の空間は、第1音響質量板60と音響抵抗体50との間の空間とともに後部音響端子Tbとして機能する。
【0027】
各音波導入部21から導入される音波は、第2音響質量板62を通って第2外側空気室22に入り、さらには音響抵抗体50を通って内側空気室52に入り、マイクロホンユニット30の後部空気室33から音響管40内の空気室41に至る。
【0028】
以上の説明および
図1、
図2からもわかるように、第1マイクロホンケース10はマイクロホンユニット30から後方に離れた位置にある。これに対して第2マイクロホンケース20は、第1マイクロホンケース10よりもマイクロホンユニット30の近くに位置している。これに伴い、第1音響質量板60はマイクロホンユニット30から後方に離れた位置にあるのに対し、第2音響質量板62はマイクロホンユニット30の近くに位置している。
【0029】
次に、上記実施例に係る単一指向性ダイナミックマイクロホンの動作を、
図2、
図3を合わせて参照しながら説明する。マイクロホンユニット30の前方から振動板31に当たる音波の音圧をP1、振動板31の音響質量をm0、振動板31の前面側空気室の容量をs0、振動板31の背面側の音響抵抗をR1、振動板31の背面側空気室の容量をs1とする。また、第2音響質量板62の音響質量をm2、音波導入部21から第2音響質量板62を通る音波の音圧をP2とする。
【0030】
第1音響質量板60を通り、後部開口45から内側空気室52に入る音波の音圧をPn、第1音響質量板60の音響質量をm、第1外側空気室12の容量をsb、音響抵抗体50の音響抵抗をRbとする。音響抵抗体50を通る音波の音圧の総和をPn−1、音圧Pn−1の音波が通る第1音響質量板60の音響質量の総和をmb、音響抵抗体50の音響質量をmpとする。
【0031】
図3に示すように、上記P1とm0とs0とR1とs1が直列に接続され、R1とs1の直列接続に対し、P2とm2の直列接続が並列に接続されている。この接続関係は、R1、s1を有してなる後部空気室に、P2とm2を有する音響端子が付加された関係になる。P2とm2は、マイクロホンユニット30の後部の、マイクロホンユニット30に近い位置から高域の音波を導入する構造になっており、高域の音波を少ない減衰量で振動板31の背面に導く。
【0032】
図3において、R1とs1の直列接続に対し、mpとmbとRbとPn−1の直列接続が並列に接続されている。さらに、mbとRbとPn−1の直列接続に対し、sbが並列に接続されるとともに、mとPnの直列接続が並列に接続された形になっている。この接続関係は、R1、s1を有してなる後部空気室に、Pnとmを有する音響端子がmpを介して付加され、かつ、mbとRbとPn−1を有する別の音響端子がmpを介して接続された関係になる。Pnとmは音響管40への音波導入口11のうち、マイクロホンユニット30の後端から最も遠い位置にある音波導入口から導入される音波の音圧と音響質量であるから、低域の音波を最も少ない減衰量で振動板31の背面に導く。
【0033】
音波導入口11は、マイクロホンユニット30の後端からの距離を順次短縮しながら複数形成されていて、マイクロホンユニット30の後端に近づくに従って低域の減衰量が大きくなる。
図1、
図2に示す実施例では、マイクロホンユニット30の後端からの距離が異なる複数の音波導入口11からそれぞれ音波が導入される。
図3では、第1音響質量板60を通る音波に関連する部分を破線で囲んで示している。また、複数の音波導入口11からそれぞれ導入され、音響抵抗体50を通る音波については、音波の総和Pn−1、第1音響質量板60の音響質量の総和mbとして表している。
図1に示すように、後部音響端子Tbは、第1音響質量板60と音響抵抗体50との間の空間および第2音響質量板62と音響抵抗体50との間の空間に広がっている。
【0034】
以上の通り、図示の実施例は、後部音響端子Tbを、高域を受け持つものと低域を受け持つものとに分けてそれぞれマイクロホンユニット30からの距離が異なる別の位置に設けている。音響管40の後端はマイクロホンユニット30からの距離が長く、音響管40の後端からは低域の音波が導入されるため、低域の駆動力を増加することができる。一方、高域の音波はマイクロホンユニット30に近い音波導入口21から減衰することなく導入されるため、高域の指向性を良好に維持することができる。よって、図示の実施例によれば、感度が高く、指向周波数応答が良好な単一指向性ダイナミックマイクロホンを得ることができる。
【0035】
図4は、上記実施例に係る単一指向性ダイナミックマイクロホンの周波数1000Hzにおける指向特性を示している。
図5は、上記実施例に係る単一指向性ダイナミックマイクロホンの指向周波数応答を示しており、太線は収音軸上正面の音源に対する周波数応答を、細線は収音軸に対し120度ずれた方向にある音源に対する周波数応答を示している。