【実施例】
【0054】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
サケ鼻軟骨からのプロテオグリカンの抽出検討
<抽出に用いた試料>
以下の3種類((1)〜(3))のサケ鼻軟骨由来試料を、プロテオグリカン抽出検討に用いた。なお、サケ鼻軟骨としては、凍結サケ頭部を解凍後、直ちに鼻軟骨を取り出し、さらに流水に6時間さらして洗浄及び脱脂した後、さらにピンセットで肉片等を取り除き、手で水洗いして得られたサケ鼻軟骨を用いた。
【0055】
(1)凍結サケ鼻軟骨ブロック
サケ鼻軟骨をフリーザーに保存して凍結させ、これを凍結サケ鼻軟骨ブロックとして用いた。なお、用いたサケ頭部の大きさにもよるが、凍結サケ鼻軟骨ブロックは、およそ、大きさ 2.5×1.5 〜 4.5×2 cm、重さ 1.71 〜 6.91 gの塊(7個あたりの平均の重さは3.701g)であった。凍結サケ鼻軟骨ブロックの写真を
図1aに示す。
【0056】
(2)凍結サケ鼻軟骨小片
(1)の凍結サケ鼻軟骨ブロックをブレンダーに入れて10秒間破砕し、凍結サケ鼻軟骨小片を得た。凍結サケ鼻軟骨小片の写真を
図1bに示す。なお、ランダムに20小片を採取して、各小片の大きさ及び質量を検討したところ、大きさはおよそ0.2 〜 0.7 cm、質量は約0.0890 〜 0.0116 g(20個の平均の重さは0.033 g)であった。また、凍結サケ鼻軟骨ブロック100gから95.6gの凍結サケ鼻軟骨小片が得られた。
【0057】
(3)脱脂サケ鼻軟骨粉末
(1)の凍結サケ鼻軟骨を用いて、特許文献1(特開2009−173702号公報)の実施例1に記載の方法により、脱脂サケ鼻軟骨粉末を得た。凍結サケ鼻軟骨ブロック100gから、脱脂サケ鼻軟骨粉末は5.83g得られた。脱脂サケ鼻軟骨粉末の写真を
図1cに示す。
【0058】
特許文献1の実施例1の記載を次に抜粋する。
『凍結サケ鼻軟骨100gを破砕し、これに15℃の水道水を同容量加え、緩やかに撹件して十分混ぜ合わせ、5℃前後に維持された混合物をただちに遠心分離器9,000rpm、30分、4℃で遠心分離し、脂質とプロテオグリカン他組成物を分けた。遠心分離層は3層に分かれ、最上部の脂質層と中間層の水層を取り除き、沈殿物を回収した。沈殿物は凍結乾燥後、遠心式粉砕機で粉砕し、水脱脂微粉末を得た。この段階で、一部をエーテル抽出にて脂質を測定した結果、脂質は8.8%残存しており、脱脂前の脂質を100%とした場合の除去率は75.0%となり、弱い異臭を含んでいた。ついで、水脱脂微粉末に10倍容量のエタノールを加えて、異臭を含む脂質を溶解抽出した。本操作を2回繰り返してエタノール溶液を濾過除去し、溶媒を蒸発させると微黄褐色無臭のプロテオグリカン組成物粉末を得た。サケ鼻軟骨に対する収率58.7%(ドライベース)、プロテオグリカン含有率77.7%であった。プロテオグリカン組成物粉末の異臭は全く消失した。』
特許文献1実施例1の「凍結サケ鼻軟骨」は、上記「凍結サケ鼻軟骨ブロック」に相当する。また、「ドライベース」とは、乾燥質量換算のことである。
【0059】
<凍結サケ鼻軟骨小片を用いたプロテオグリカン抽出検討>
上述のようにして得られた(2)凍結サケ鼻軟骨小片に水を加え、静置又は100℃で加熱することによりプロテオグリカンの抽出を試みた。具体的には、次のようにして検討を行った。凍結サケ鼻軟骨小片約12gに対し60mLの蒸留水を加えたサンプルを4サンプル調製し、これらを100℃で1時間、2時間、3時間、4時間それぞれ加熱し、それらを遠心分離機により5,000rpm、20分、4℃で遠心分離し、不溶物(残渣)を取り除き上清を回収した。回収上清液量を測定した後、回収上清液中のウロン酸量をカルバゾール硫酸法により測定した(ウロン酸量は、プロテオグリカン量を反映する。図表中では、ウロン酸量を、ウロン酸の1種であるグルクロン酸の略記「GlcA」を用いて表すことがある。)。また、回収上清液中のタンパク質量をブラッドフォード法にて測定した。結果を表1に示す。また、表1をグラフにした図を
図2に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1及び
図2から、加熱時間の増加とともにプロテオグリカン抽出量が増加することがわかった。また、特に3時間より長く(例えば4時間)加熱することで、特にプロテオグリカン抽出量が大幅に増加することがわかった。
【0062】
<凍結サケ鼻軟骨小片と、凍結サケ鼻軟骨ブロック及び脱脂サケ鼻軟骨粉末との比較>
(1)凍結サケ鼻軟骨ブロック及び(3)脱脂サケ鼻軟骨粉末についても、上記(2)凍結サケ鼻軟骨小片の場合と同様にして(但し、加熱時間及び加熱温度は変化させた)プロテオグリカンを抽出し、その抽出量を比較した。結果を表2に示す。なお、表2には、抽出されたウロン酸量及びタンパク質量を、凍結サケ鼻軟骨ブロック100g当たりの量に換算して示した。タンパク質量はブラッドフォード法にて測定した値である。また、表2をグラフにした図を
図3に示す。
図3に示される各試料の記載(1〜9)は、表2の「サンプルNo.」欄の1〜9の記載と対応する。
【0063】
【表2】
【0064】
凍結サケ鼻軟骨ブロックをそのまま水抽出に供し、加熱も行わない場合は、タンパク質が抽出されなかった。従って、当該抽出条件では、プロテオグリカンは抽出されないことがわかった。
【0065】
特に、凍結サケ鼻軟骨小片を水中で4時間100℃で加熱した場合、抽出されるウロン酸量(プロテオグリカン量を反映する)が顕著に増加することがわかった。
【0066】
<プロテオグリカンの分子量の検討>
上記脱脂サケ鼻軟骨粉末20gに1000mLの常温の精製水(pH6.5)を加え、30分間撹拌した後、遠心分離(8000rpm,30分,4℃)を行い、上清を回収し、当該上清を凍結乾燥して魚類軟骨水抽出物を得た。当該魚類軟骨水抽出物を以下サンプルNo.10とよぶことがある。
【0067】
このサンプルNo.10を、下記条件のゲル濾過クロマトグラフィーにより各フラクションに分離した。そして、各フラクションに含まれるウロン酸量をカルバゾール硫酸法により定量した。また、各フラクションの280nmでの吸光度を測定し、当該吸光度を、含まれるタンパク質量を反映する値とした。そして、これらの結果を基にして、ウロン酸量クロマトグラム及び280nmタンパク質量クロマトグラムを描いた。ウロン酸量クロマトグラム及び280nmタンパク質量クロマトグラムを重ねて描いた図を
図4aに、また、ウロン酸量クロマトグラムにおいて各分子量マーカーが溶出されたフラクションの位置を示した図を
図4bに、それぞれ示す。なお、ゲル濾過クロマトグラフィーの分画フラクション量は下記の通り 1mL/tubeとしたため、
図4の横軸「Elution Volume(mL)」は、フラクションNo.も反映する。
【0068】
『〔ゲル濾過クロマトグラフィー条件〕
カラム: Sepharose CL-2B 充填カラム(Sepharose CL-2Bを担体としてφ1cm×50cmのカラムに充填したもの。Sepharose CL-2Bのデキストランの分画範囲は100〜20,000kDaであり、GE Healthcare社等から入手できる。Sepharose CL-2Bは、2%架橋アガロース、粒子径60〜200μm(レーザー回折散乱法による)、CAS登録番号65099-79-8である。)
バッファー: 0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.1, 0.2M NaCl含有)
アプライサンプル量:サンプルNo.10を4mg(1mLバッファーに溶解させて使用)
流速: 0.15mL/min
分画フラクション量: 1mL/tube
分子量検量線:次の各種デキストラン分子量マーカーについて上記と同様の条件(但しサンプル量は1mg/1mLバッファー)でゲル濾過クロマトグラフィーを行い、フェノール・硫酸法により各フラクションの吸光度(デキストラン量を反映する)を測定し、検量線を作製した。
【0069】
<デキストラン分子量マーカー>
Dextran from Leuconostoc mesenteroides(mol wt 5,000,000−40,000,000)(SIGMA)・・・カラムのvoid volume測定用、20000kDa
Dextran Standard 1,400,000(SIGMA)・・・1400kDa
Dextran Standard 670,000(SIGMA) ・・・670kDa
Dextran Standard 410,000(SIGMA) ・・・410kDa
Dextran Standard 270,000(SIGMA) ・・・270kDa
【0070】
但し、Dextran from Leuconostoc mesenteroidesについては、当該マーカーに含まれる低分子のデキストランを除去する前処理を行った後、用いた。当該前処理は、上述の〔ゲル濾過クロマトグラフィー条件〕(アプライ量はマーカー用の量)によりDextran from Leuconostoc mesenteroidesそのものを溶出させ、分子量2000万以上の分子を回収し、凍結乾燥させることで行った。具体的には、フェノール・硫酸法により各フラクションの吸光度を測定して作成した、デキストラン量を反映するクロマトグラムにおいて、最初に出現したピークに相当するフラクションを回収し、これを凍結乾燥した(これにより、分子量20,000kDa以上の分子を回収、凍結乾燥できると考えられる)。この凍結乾燥物を実際にマーカー(カラムのvoid volume測定用)として用いた。
デキストラン量を反映するクロマトグラムを得るための吸光度測定は、Hodge, J. E. and Hofreiter, B. T., Method in Carbohydrate Chemistry, 1, 338 (1962)に記載の方法(フェノール・硫酸法)に従った。具体的には、次のようにして行った。
〔1〕105×15mmの試験管に試料水溶液を500μL加える。
〔2〕フェノール試薬(5 v/v%フェノール水溶液)を500μL加え、撹拌する。
〔3〕濃硫酸を2.5mL加え、すぐに10秒間激しく撹拌する。
〔4〕室温に20分以上放置する。
〔5〕分光光度計で490nmの吸収を測定する。』
なお、得られた検量線は(y = −4.1355Ln(x)+59.47 ; R
2=0.9869)であり、R
2値から考えて分子量とフラクションNo.(即ち溶出液量)はよく相関していることがわかった。
【0071】
図4bに示されるように、サンプルNo.10には、少なくとも分子量200万以上(さらには分子量250万以上)のプロテオグリカンが含まれることがわかった。なお、
図4bに示すように、ウロン酸量クロマトグラムにおいて、特定の分子量に相当する溶出液量点に垂線を引き、該クロマトグラムを分割した際の2部分の面積比を求めることで、その特定の分子量以上(又は以下)の成分が魚類軟骨水抽出物に含有される比率を求めることができる。
【0072】
次に、サンプルNo.10をさらに詳しく分析した。具体的には次のようにして行った。サンプルNo.10を、下記条件のイオン交換クロマトグラフィーに供し、プロテオグリカンを分画した。具体的には、溶出フラクションを16mLずつ採取して、ウロン酸量をカルバゾール硫酸法により定量した。
【0073】
『〔イオン交換クロマトグラフィー条件〕
カラム:DEAE充填カラム(DEAE(GEヘルスケア社)を担体として、φ5.0cm×20cmのカラムに充填したもの)
バッファー: 7M尿素-トリス-塩酸緩衝液 (pH 7.2)
グラジェント: NaCl 濃度 0 → 0.75M
アプライサンプル量: サンプルNo.10(魚類軟骨水抽出物の凍結乾燥物)200mg (50mLバッファーに溶解させてアプライ)
流速: 2.0mL/min
フラクション量: 16mL/tube 』
【0074】
得られたウロン酸量クロマトグラムを
図5に示す。ウロン酸を含むフラクション(
図6において両方向矢印で示される)を集め、透析した後、凍結乾燥を行ない、粉末を得た。当該粉末を「プロテオグリカン画分」とし、以下の検討に用いた。
【0075】
上記のようにして得られたプロテオグリカン画分を、下記条件のゲル濾過クロマトグラフィーに供し、分画した。そして、各フラクションに含まれるウロン酸量をカルバゾール硫酸法により定量した。また、各フラクションの280nmでの吸光度を測定し、当該吸光度値を含まれるタンパク質量を反映する値とした。そして、これらの結果を基にして、ウロン酸量クロマトグラム及び280nmタンパク質量クロマトグラムを描いた。
【0076】
『〔ゲル濾過クロマトグラフィー条件〕
カラム: Sepharose CL-2B充填カラム(Sepharose CL-2B(GEヘルスケア社)を担体として、φ5.0cm×50cmのカラムに充填したもの)
バッファー: 0.1M リン酸緩衝液 (pH7.1, 0.2M NaCl含有)
アプライサンプル量: 150mg
流速: 2.0mL/min
フラクション量:16mL/tube 』
【0077】
また下記の各種デキストラン分子量マーカーについても、同様の条件(但しサンプル量は50mg)でゲル濾過クロマトグラフィーを行ない、フェノール・硫酸法により各溶出フラクションの吸光度(デキストラン量を反映する)を測定し、分子量とフラクションNo.の検量線を作成して、分子量が500万、40万となるフラクションNo.を求めた。
【0078】
『<デキストラン分子量マーカー>
Dextran from Leuconostoc mesenteroides (mol wt 5,000,000 - 40,000,000)(SIGMA)・・・20,000kDa
Dextran Standard 1,400,000(SIGMA)・・・1,400kDa
Dextran Standard 270,000(SIGMA)・・・270kDa
【0079】
但し、Dextran from Leuconostoc mesenteroidesについては、当該マーカーに含まれる低分子のデキストランを除去する前処理を行った後、用いた。当該前処理は、上述の〔ゲル濾過クロマトグラフィー条件〕(アプライ量はマーカー処理時の量)によりDextran from Leuconostoc mesenteroidesを溶出させ、分子量2000万以上の分子を回収し、凍結乾燥させることで行った。具体的には、デキストラン量を反映するクロマトグラムにおいて、最初に出現したピークに相当するフラクションを回収し、これを凍結乾燥した(これにより、分子量20,000kDa以上の分子を回収、凍結乾燥できると考えられる)。この凍結乾燥物を実際にマーカー(カラムのvoid volume測定用)として用いた。デキストラン量を反映するクロマトグラムを得るための吸光度測定は、上記と同様に行った。』
【0080】
得られたクロマトグラムを
図6に示す。ウロン酸を含むフラクションのうち、分子量500万以上、40万以上〜500万未満、40万未満の3区分で、それぞれフラクションを集め、透析後、凍結乾燥を行ない、3種の分子量違い魚類軟骨水抽出物(粉末)を得た。これらの3種の魚類軟骨水抽出物を、PG−1抽出物(分子量500万以上のプロテオグリカンを含有)、PG−2抽出物(分子量40万以上〜500万未満のプロテオグリカンを含有)、PG−3抽出物(分子量40万未満のプロテオグリカンを含有)とする。なお、この結果から、サンプルNo.10には、少なくとも分子量500万以上のプロテオグリカンが含まれることが確認できた。
【0081】
経口摂取による皮膚抗老化能評価1
実際に哺乳動物に魚類軟骨水抽出物を摂取させ、その効果を検討した。
<使用実験動物>
ヘアレスマウス(Hr-/Kud ♂)(九動社)を実験に用いた。エストロゲン変動による皮膚状態への影響がないオス(6週齢)を予備飼育後、実験に供した。
【0082】
<実験方法>
マウスを3つの飼育ケージに表3のとおり割りふり、それぞれ異なる群(群1〜群3)とした(1群につき6匹)。また被検体は固体識別できるよう尾部に印を付けた。検討開始時まで予備飼育を続けた。試験時の平均体重は37gであった。なお、表3の群3の評価素材である「魚類軟骨水抽出物」としてはサンプルNo.10を用いた。
【0083】
【表3】
【0084】
<評価素材の経口投与サンプル調製>
サンプルNo.10を0.35mg/mLになるように水に溶解して、投与サンプルを調製した。
【0085】
<経口投与方法>
ヘアレスマウスが8週齢に達した段階で、各投与サンプル0.5mLを1日1回、ゾンデによる強制経口投与により投与した(0.175mg/day/匹)。コントロールは、蒸留水を0.5mL投与した。この投与を6回/週(月〜土の6日間の各日に1回)の頻度で、試験が終了するまで続けた。
【0086】
<UVB照射方法>
UVB照射は、経口投与開始3週間後より開始した。UVB照射用ケージにマウスを入れ、UVB照射装置内に入れて、1.0mW/ cm
2の強度でUVBを6回/週(月〜土の6日間の各日に1回)照射した。照射1週目のみ60mJ/ cm
2の照射量とし、2週目以降120mJ/ cm
2の照射量とした。なお、UVBは、波長280-315nmの紫外線である。
【0087】
<抗炎症評価>
マルチプローブ式皮膚計測器(MPA580:Courage-Khazaka社)のMaxameterにより、UVB照射4週間後および7週間後の紅斑量を測定し、抗炎症を評価した。各マウス背部5ヶ所を測定し、平均値を算出した。UVB照射による炎症は、紅斑を発生させる。よって、紅斑量が多いほど、炎症が激しいことを示す。
UVB照射4週間後及び7週間後の紅斑量測定結果を
図7に示す。結果より、魚類軟骨水抽出物であるサンプルNo.10は、経口投与により紅斑を抑えることがわかった。従って、当該魚類軟骨水抽出物は、紫外線照射による炎症を抑えることがわかった。
【0088】
<皮膚バリア機能評価>
マルチプローブ式皮膚計測器(MPA580:Courage-Khazaka社)のTewameterにより、UVB照射4週間後および7週間後の経表皮透過蒸散水分量(TEWL)を測定し、皮膚バリア機能を評価した。各マウス背部3ヶ所を測定し、平均値を算出した。なお、TEWL値が大きいほど皮膚バリア機能(皮膚の外から体内への異物の侵入を防ぐ機能及び体内の水分が外へ逃げていくのを防ぐ機能)が低下していることを示す。
UVB照射4週間後及び7週間後のTEWL測定結果を
図8に示す。結果より、魚類軟骨水抽出物であるサンプルNo.10は、経口投与によりTEWL値を下げ、皮膚バリア機能を改善することがわかった。
【0089】
経口摂取による皮膚抗老化能評価2 (分子量の違いによる効果の違いの検討)
サンプルNo.10、並びに、サンプルNo.10をさらに精製したPG−1抽出物及びPG−2抽出物を用いて、皮膚抗老化能を検討した。
【0090】
<使用実験動物>
ヘアレスマウス(Hr-/Kud ♂)(九動社)を実験に用いた。エストロゲン変動による皮膚状態への影響がないオス(6週齢)を予備飼育後、実験に供した。
【0091】
<実験方法>
マウスを5つの飼育ケージに表4のとおり割りふり、それぞれ異なる群(群1〜群5)とした(1群6匹)。また被検体は固体識別できるよう尾部に印を付けた。検討開始まで予備飼育を続けた。
【0092】
【表4】
【0093】
<評価素材の経口投与サンプル調製>
各評価素材を、0.2mg/mLになるように水に溶解して、投与サンプルを調製した。
【0094】
<経口投与方法>
ヘアレスマウスが8週齢に達した段階で、各投与サンプル0.5mLを1日1回、ゾンデによる強制経口投与により投与した(0.1mg/day)。コントロールは、蒸留水を0.5mL投与した。この投与を6回/週(月〜土の6日間の各日に1回)の頻度で、試験が終了するまで続けた。
【0095】
<UVB照射方法>
UVB照射は、経口投与開始3週間後より開始した。UVB照射用ケージにマウスを入れ、UVB照射装置内に入れて、1.0mW/ cm
2の強度でUVBを6回/週(月〜土の6日間の各日に1回)照射した。照射1週目のみ60mJ/ cm
2の照射量とし、2週目以降120mJ/ cm
2の照射量とした。なお、UVBは、波長280-315nmの紫外線である。
【0096】
<抗炎症評価>
マルチプローブ式皮膚計測器(MPA580:Courage-Khazaka社)のMaxameterにより、UVB照射4週間後および7週間後の紅斑量を測定し、抗炎症を評価した。各マウス背部5ヶ所を測定し、平均値を算出した。UVB照射による炎症は、紅斑を発生させるため、紅斑量が高いほど、炎症が激しいことを示す。
UVB照射4週間後及び7週間後の紅斑量測定結果を
図9に示す。結果より、用いた魚類軟骨水抽出物は、経口投与により紅斑を抑えており、従って紫外線照射による炎症を抑えることがわかった。また魚類軟骨水抽出物に含まれるプロテオグリカンのうち、分子量500万以上の高分子量のプロテオグリカン(PG−1抽出物)が特に高い効果を発揮していることがわかった。
【0097】
<皮膚バリア機能評価>
マルチプローブ式皮膚計測器(MPA580:Courage-Khazaka社)のTewameterにより、UVB照射4週間後および7週間後の経表皮透過蒸散水分量(TEWL)を測定し、皮膚バリア機能を評価した。各マウス背部3ヶ所を測定し、平均値を算出した。なお、TEWL値が大きいほど皮膚バリア機能(皮膚の外から体内への異物の侵入を防ぐ機能及び体内の水分が外へ逃げていくのを防ぐ機能)が低下していることを示す。
UVB照射4週間後及び7週間後のTEWL測定結果を
図10に示す。結果より、用いた魚類軟骨水抽出物は、経口投与によりTEWL値を下げ、皮膚バリア機能を改善することがわかった。
【0098】
<皮膚保水性評価>
マルチプローブ式皮膚計測器(MPA580:Courage-Khazaka社)のCorneometer により、UVB照射4週間後および7週間後の角層水分量を測定し、皮膚保水性を評価した。各マウス背部10ヶ所を測定し、平均値を算出した。
UVB照射4週間後及び7週間後のTEWL測定結果を
図11に示す。結果より、用いた魚類軟骨水抽出物は、経口投与により角層水分量を上げ、皮膚保水性を改善することがわかった。また魚類軟骨水抽出物に含まれるプロテオグリカンのうち、分子量500万以上の分子量を有するプロテオグリカン(PG−1抽出物)が特に高い効果を発揮していることがわかった。
【0099】
なお、
図7〜
図11において、図中の記号はそれぞれ次の意味を示す。
***;p<0.001
** ;p<0.01
* ;p<0.05
+ ;p<0.1
【0100】
経口摂取による皮膚抗老化能評価3 (臨床試験)
被験者(健常な25歳〜55歳の女性14名)の前腕及び上腕内側皮膚に、下記に示す方法により、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を含浸させたチャンバーで刺激し、刺激後の紅斑消失速度(前腕部で測定)および経表皮透過蒸散水分量(TEWL)(上腕部で測定)の変化を比較した(試験方法の詳細は下記)。
【0101】
試験群として、サンプルNo.10を500mg、プラセボとして「結晶セルロース粉末(セオラス(登録商標)FD−301(旭化成ケミカルズ(株)製))」500mgを、それぞれハードカプセル6粒に分けて封入し、1回につき3カプセルの割合で、1日2回被験者に飲用させた(すなわち、1日摂取量は500mg)。なお、サンプルNo.10飲用被験者は7名、プラセボ飲用被験者は7名であった。
【0102】
なお、サンプルNo.10の500mg中には、分子量500万以上のプロテオグリカンが約80mg含まれる。当該値(約80mg)は、
図4のサンプルNo.10のウロン酸量クロマトグラムにおいて、分子量500万以上のプロテオグリカンに相当するフラクション(No.16〜23)を集め、透析後、凍結乾燥させて乾燥重量を測定し、
図4のクロマトグラムを描く際にNo.10をカラムにアプライした量(4mg)と、当該乾燥重量との比を求め、当該比を500mgに乗じて算出したものである。
【0103】
飲用開始から5週目(測定終了時まで飲用を継続)に、各被験者の前腕及び上腕内側皮膚にSLSを含浸させたチャンバーを貼付して皮膚を刺激し、その後、腕の刺激部位と非刺激部位において、刺激後の前腕部の紅斑の色(L
*a
*b
*表色系におけるa
*値)、及び刺激後の上腕部の経表皮透過蒸散水分量(TEWL)値、をそれぞれ測定した。そして、非刺激部位の測定値に対する刺激部位の測定値の相対値(コントロール比)を算出し、紅斑消失速度およびTEWLの変動を調べた。結果を
図12及び
図13にそれぞれ示す。
【0104】
なお、皮膚刺激及び測定は、より具体的には、次のようにして行った。
・SLSパッチ貼付による刺激方法及び測定方法
被験者の腕内側を洗浄後、22℃ 60%設定の恒温恒湿室に15分以上入室した後に0.5% SLS(Sodium dodecyl sulfate : 和光純薬工業株式会社 Lot.STQ8638)を30μL含んだろ紙付きのチャンバー(200 LARGE FINN CHAMBERS ON SCANPOR, NORGESPLASTER Ltd.)を貼り付け、4時間閉塞刺激した。その後チャンバーを剥がし、1時間後、1日後、2日後に、色彩色差計CR-400 (KONICA MINOLTA) にて刺激部位の紅斑の色(a
*値)および、Tewameter TM-300 (Courage+Khazaka) にて刺激部のTEWL値を測定した。
【0105】
図12から、サンプルNo.10を経口摂取することにより、紅斑が消失する速度が速まる(すなわち、炎症が改善される)ことが確認できた。また、
図13から、サンプルNo.10を経口摂取することにより、TEWL値が低下する(すなわち、皮膚バリア機能が改善・増強される)ことが確認できた。
【0106】
細胞増殖効果の検討
上記脱脂サケ鼻軟骨小片500gに、質量比で2.5倍量の精製水を加え、100℃、90℃、70℃、又は50℃で加熱した。100℃と90℃については3時間、70℃と50℃については6時間加熱した。100℃と90℃では軟骨は完全に溶解したが、70℃と50℃は軟骨が溶解しきれず一部残存した状態で抽出を終了した。そして、遠心分離機により8,000rpm、30分、4℃で遠心分離し、不溶物(残渣)を取り除いて上清を回収し、凍結乾燥して乾燥凍結サンプル(FDサンプル)を得た。以下、これらのサンプルを、それぞれ、100℃抽出FDサンプル、90℃抽出FDサンプル、70℃抽出FDサンプル、及び50℃抽出FDサンプルともいう。また、100℃で3時間加熱した後、さらに3時間加熱してから、同様に遠心分離及び凍結乾燥をして、乾燥凍結サンプルを得た。当該サンプルを以下100℃(3h)抽出FDサンプルともいう。
【0107】
これらFDサンプルを、それぞれGlcA濃度が1mg/1mLバッファーとなるよう調整し、上記<プロテオグリカンの分子量の検討>において最初にサンプルNo.10を解析したクロマトグラフィー(結果が
図4に示されるもの)と同様にしてゲル濾過クロマトグラフィーによる解析を行い、それぞれのサンプルの分子量について検討した。具体的には、ウロン酸クロマトグラムから、分子量が500万以上の成分が含まれる比率、分子量が250万以上の成分が含まれる比率、及び分子量が180万以上の成分が含まれる比率、をそれぞれ求めた。結果を表5に示す。
【0108】
【表5】
【0109】
次に、これらのサンプルの細胞増殖能を次のようにして検討した。すなわち、培養シャーレ内で、10% fetal bovine serum (FBS) を含む minimum essential medium (最小必須培地:MEM培地)中に、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF53:CELL APPLICATIONS, INC)を1.5×10
4cells播種し、各サンプルを22μmフィルターで濾過滅菌した後、MEM倍地中、20μg/mLの濃度になるように添加した。添加後、5日間培養した。培養後、MEM培地を除去し、Trypsin-EDTA (invitrogen) で細胞を剥がし懸濁させた後、トリパンブルー染色液を添加し、計測盤にて細胞数を計測した。
【0110】
なお、コントロールとして水を用いた。また、比較のため、プロテオグリカンとして市販されている製品(市販品Aとする)も同様に検討を行った。
【0111】
結果を
図14に示す。90℃抽出FDサンプルは、コントロールに比べて有意に細胞増殖を促進した。また、70℃抽出FDサンプル、100℃抽出FDサンプルも細胞増殖を促進する傾向を示した。なお、当該検討における、コントロール、50℃抽出FDサンプル、70℃抽出FDサンプル、90℃抽出FDサンプル、100℃抽出FDサンプル、100℃(3h)抽出FDサンプル、及び市販品Aのn数は、それぞれこの順に、11、3、6、11、6、6、及び5である。統計処理はスチューデントのt検定により行った。
【0112】
さらに、当該検討に用いた各サンプルの組成を分析した。各成分の分析は、次のようにして行った。タンパク質、脂質、灰分、水分、ヒドロキシプロリン量(コラーゲン量測定のために用いる)は、財団法人日本食品分析センターに委託して、各サンプル100gあたりの成分分析を実施した。タンパク質量はケルダール法、脂質量は酸分解法、灰分量は直接灰化法、水分量は常圧加熱乾燥法、ヒドロキシプロリン量はアミノ酸自動分析法(HPLC法)によって測定した。炭水化物量はタンパク質量、脂質量、灰分量及び水分量を100(g)から減じることにより算出した。
【0113】
なお、タンパク質量は、上記の通りケルダール法で測定したが、当該方法は窒素量を指標とする方法であり、グリコサミノグリカン由来の窒素も測定対象となるなどするため、以下のように補正した。
【0114】
まず、非タンパク質であるグリコサミノグリカン由来の窒素を差し引くため、カルバゾール硫酸法により求めたウロン酸量から酸性糖成分量(コンドロイチン硫酸換算)を算出し(具体的には、ウロン酸量に換算係数2.593を乗じる)、コンドロイチン硫酸由来の窒素は分子量の2.9%に相当するため、得られた酸性糖成分量に2.9%を乗じることによりグリコサミノグリカン由来の窒素を算出した。
【0115】
グリコサミノグリカン由来の窒素を差し引いて得られた窒素には、コラーゲン由来の窒素とコラーゲン以外のタンパク質由来の窒素が含まれている。コラーゲンとその他のタンパク質では、いわゆるタンパク係数が異なるため、それぞれの由来の窒素量を把握する必要がある。
【0116】
コラーゲンの定量は、上述の通り、コラーゲンに特異的に存在するアミノ酸である「ヒドロキシプロリン」を定量することにより行った。具体的には、コラーゲン含有量は、コラーゲン特異的に存在するアミノ酸であるヒドロキシプロリン(Hyp)を測定し、コラーゲン中にHypが6.7%含まれるとして算出した。このようにして得られたコラーゲン量に対してコラーゲンのタンパク係数5.55を除することにより、コラーゲン由来の窒素量を算出した。
【0117】
ケルダール法により得られた窒素定量値から、グリコサミノグリカン由来の窒素量およびコラーゲン由来の窒素量を差し引いて得られた値に、一般のタンパク質のタンパク係数である6.25を乗じてコラーゲン以外のタンパク質量を算出した。
【0118】
そして、タンパク質量は、コラーゲン量と前記算出にて得られたコラーゲン以外のタンパク質量を足すことで算出した。
【0119】
結果を下記表6に示す。表6の値は、(g/抽出FDサンプル100g)を示す。なお、表6には、分子量180万以上のプロテオグリカンの量も併せて示す。当該分子量180万以上のプロテオグリカンの量の値は、表6の「グリコサミノグリカン量」に、表5の「180万以上の成分が含まれる比率」を乗じた値である。
【0120】
【表6】
【0121】
また、表6における「10%EtOH処理→90℃抽出FD」とは、10%エタノールを用いて魚類軟骨の脱脂処理を行った後、90℃の水で抽出を行って得たサンプルである。より具体的には、500gの凍結サケ鼻軟骨小片に2.5倍量の10%EtOH溶液を加えて、24時間、室温でスターラー攪拌し、8,000rpm、30分、4℃で遠心分離し、回収した不溶物(軟骨を含む残渣)を90℃、プロペラ攪拌抽出で軟骨が完全溶解するまで加熱して、その後表5に示すFDサンプルと同様の遠心分離、濾過処理をして得た凍結乾燥(FD)サンプルである。
【0122】
表6に示されるように、本発明に係る魚類軟骨水抽出物は、含有されるタンパク質のほとんどがコラーゲンである。また、特に、脂質や灰分の含有量が少ないものほど、細胞増殖能を有する(すなわち、細胞増殖促進効果を奏する)であろうことがわかる。細胞増殖能を有することにより、より効率的に炎症改善効果又は抗老化効果を奏すると考えられる。