(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に
図2以降において、
図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0016】
本明細書中、数値範囲の説明における「a〜b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1〜5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0017】
<第一実施形態>
第一実施形態として、
図1に示される不純物含有有機溶剤中の不純物量を減らすための装置(装置1)と、装置1を用いてリサイクル有機溶剤を製造する方法(特に、第一工程)を説明する。
【0018】
装置1のタンク10内には、上層液20と下層液21が収容されている。
下層液21の比重は、上層液20の比重よりも大きい。
上層液20と下層液21の一方は不純物含有有機溶剤である。
上層液20と下層液21の他方は、含水液である。この含水液は、不純物含有有機溶剤中の不純物と反応してその不純物の有機溶剤溶解性を低下させる反応性成分(以下、単に「反応性成分」とも記載する)と水とを含む。また、この含水液は、不純物含有有機溶剤と実質的に混和しない。
【0019】
念のため補足すると、含水液が不純物含有有機溶剤と「実質的に混和しない」とは、タンク10内において、含水液を主成分とする水層と、不純物含有有機溶剤を主成分とする油層の2層が、分離して存在することと同義である。
例えば、酢酸エチルは、25℃の水1Lに80g程度溶解する。しかし、水と、それより十分多い量の酢酸エチルとを同一容器内に入れると、酢酸エチルの大部分は水に溶解できず、水層と油層に分離する。すなわち、酢酸エチルは、含水液と「実質的に混和しない」ものと扱って差し支えない。
【0020】
一例として、不純物は酸であり、反応性成分は塩基である。別の例として、不純物は塩基であり、反応性成分は酸である。これらについては別途詳述する。
第一実施形態においては、好ましくは、上層液20が不純物含有有機溶剤であり、下層液21が含水液である。
【0021】
タンク10は、タンク10内に液体を供給することができる供給口11を備えている。供給口11の位置は、上層液20と下層液21の間の界面よりも上側にあればよい。好ましくは、供給口11の位置は、タンク10の上部であって、上層液20の表面(気液界面)よりも上である。
装置1は、下層液21の少なくとも一部を、供給口11に送液する送液手段を備える。
図1において、送液手段は具体的には、タンク10の下部と上部(より具体的にはタンク10の下部と供給口11)とをつなぐ配管12や、その配管12の流路にあるポンプ13などを備えている。
配管12は、好ましくは、配管12中を通過する液体中の反応性成分の濃度を測定する測定手段14や、配管12中を通過する液体に反応性成分を添加する添加手段15を備える。
装置1は、好ましくは、タンク10中の内容物を排出するためのバルブ16を備える。
【0022】
上記の送液手段により、下層液21の少なくとも一部は、供給口11に送液される。送液された下層液21は、供給口11から放出され、上層液20と接触する。
下層液21は上層液20と実質的に混和せず、かつ、下層液21の比重は上層液20の比重よりも大きい。よって、供給口11から放出されて上層液20と接触した下層液21は、上層液20の中を「通過」して、再びタンク10下部に滞留する下層液21の一部となる(換言すると、下層液21は「循環的に」上層液20と接触し、上層液20の中を通過する)。
上記の接触・通過の際に、不純物含有有機溶剤中の不純物の一部と、含水液中の反応性成分の一部とが、下層液21と上層液20との界面付近で反応する。この反応により、不純物の有機溶剤溶解性が低下する。その結果、不純物含有有機溶剤中の不純物量は低減される(反応性成分と反応した不純物は、例えば、含水液中に溶解または分散する、かつ/または、沈殿、析出などする)。
【0023】
この「下層液21の少なくとも一部を、送液手段により送液して、上層液20と接触させる」第一工程により、攪拌羽根を用いずとも、上層液20と下層液21(一方は不純物含有有機溶剤であり、他方は含水液である)とを十分に接触させることができる。そして、不純物含有有機溶剤中の不純物を低減することができる。
【0024】
攪拌羽根を用いなくても、上層液20と下層液21とを十分に接触させることができるということにより、装置1はスケールアップに適していると言える(前述のように、攪拌羽根による撹拌の場合、スケールアップには限界がある)。別の言い方として、第一実施形態のような装置/方法により、一度に多量の不純物含有有機溶剤をリサイクルすることができ、リサイクルコストの低減につながる。
【0025】
第一工程において、不純物含有有機溶剤(上層液20と下層液21の一方)は、液体状態である。また、含水液(上層液20と下層液21の他方)も液体状態である。つまり、第一実施形態は、不純物含有有機溶剤を液体状態のままで不純物を低減することが可能である。第一実施形態の実施にあたっては、蒸気を発生させるための装置や蒸気を凝縮する装置などは必須ではない。
また、第一工程では、蒸気を発生させるためなどの熱エネルギーも必須ではない。このことは、エネルギーコスト低減の観点、ひいてはリサイクルコスト低減の観点で好ましい。
【0026】
「熱エネルギーを必須としない」ことにより、以下のようなメリットが得られる場合もある。
・不純物含有有機溶剤中の不純物が揮発性である場合、高温で加熱されると、不純物が揮発して装置を痛める懸念がある。しかし、熱エネルギーを用いないならば、基本的にそのような懸念は無い。
・不純物それ自体が反応性を有する場合(例えば、重合性モノマーやイソシアネート化合物など)、高温により不純物が意図せぬ反応を起こして除去がうまくできない可能性もある。しかし、熱エネルギーを用いないならば、基本的にそのような懸念は無い。
【0027】
また、第一実施形態は、有機溶剤中の不純物低減で通常行われる「蒸留」では十二分に低減させにくい(低減効率が悪い)不純物の量を低減させやすいという側面を有する。
一例として、蒸留により、揮発性が有機溶剤と同程度の不純物を除去することは、蒸留の原理上難しい場合がある。しかし、不純物を、有機溶剤に不溶または難溶にすることで、不純物を高いレベルで除去することができる。
別の例として、不純物としてアンモニアが含まれる有機溶剤をリサイクルしようとした場合、ppmオーダーのアンモニアが残留しただけでも、異臭の問題が発生しうる。蒸留のみによってそのようなppmオーダーのアンモニアを除去することは、通常、極めて非効率であり、実質的に不可能と考えられる。しかし、第一実施形態によれば、蒸留よりも効率的に、アンモニアを高いレベルで除去することができる。
【0028】
以下、第一実施形態についてより具体的に説明する。
【0029】
(タンク10)
タンク10は、上層液20と下層液21を貯留できる限り、その形状や材質などは特に限定されない。
上層液20を通過する下層液21の「通過距離」を大きくするという観点からは、タンク10は縦長であることが好ましい。この通過距離が大きければ、上層液20と下層液21の接触時間が増えるため、より多くの量の不純物と反応性成分とを反応させることができる。つまり、タンク10を縦長に設計することで、不純物の除去効率を高めることができる場合がある。また、タンク10が縦長であることは、設置スペースの点からも好ましい。
具体的には、タンク10を鉛直面で切断し、その切断面の鉛直方向の長さをL
1、水平方向の長さをL
2としたとき、L
1/L
2の値は、好ましくは1.5〜20、より好ましくは2〜15、さらに好ましくは2〜8である。
【0030】
もちろん、タンク10は縦長でなくてもよい。タンク10は横長であってもよい。
タンク10が横長であれば、当然、上層液20の上面の面積は大きくなる。例えば、その大面積の上層液20の上面に対し、万遍なく下層液21を接触(典型的には落下)させるようにすれば、より効率的により短時間で、不純物と反応性成分とを反応させることができる。
【0031】
タンク10の材質は、好ましくは、有機溶剤や含水液(特に含水液中の反応性成分)によって腐食しにくいものが選択される。一例として、タンク10の材質はステンレス鋼である。ステンレス鋼は比較的安価でありつつ、有機溶剤や各種薬品への耐性も比較的良好である。よって、タンク10の材質として好ましい。
タンク10の材質として、好ましくは、SUS304、SUS316L、SUS317J2、SUS312L、ハステロイ(登録商標)、チタンなどを挙げることができる。コストの点からは特にSUS304が好ましい。
【0032】
タンク10の内壁には、何らかの膜が形成されていてもよい。例えば、タンク10の内壁は、防食性のある樹脂(例えばフッ素系樹脂)によるコーティングまたはライニング、不動態膜、などのうち1または2以上を有していてもよい。
【0033】
タンク10の容量は特に限定されない。上層液20と下層液21を収容できる容量があればよい。
工業的な生産性、すなわち、一度に処理できる不純物含有有機溶剤の多さの観点からは、タンク10の容量は、好ましくは5kL以上、より好ましくは10kL以上、さらに好ましくは20kL以上である。一方、現実的には、タンク10の容量は、通常、50kL以下である。
【0034】
(供給口11)
前述のように、供給口11の位置は、上層液20と下層液21の界面よりも上側にあればよい。供給口11は、例えば、上層液20と下層液21の界面よりも上側であって、かつ、上層液20の表面(上面、気液界面)よりも下側に位置していてもよい。
供給口11の位置は、好ましくは、上層液20の表面(上面、気液界面)よりも上である。別の言い方として、供給口11は、タンク10の上方であって、上層液20の表面(上面、気液界面)に下層液21を「落下させる」ことが可能な位置にあることが好ましい。こうすることで、上層液20中を通過する下層液21の「通過距離」を大きくし、上層液20と下層液21の接触時間を長くすることができる。よって、より多くの量の不純物と反応性成分とを反応させることができる。また、下層液21が上層液20の表面に落下する際の衝撃で、下層液21が細かくなり、下層液21と上層液20との接触面積が増える場合がある。そうすると、不純物と反応性成分とが反応しやすくなり、より効率的・効果的に不純物含有有機溶剤中の不純物を低減することができる。
【0035】
供給口11においては、タンク10の下部から送液された下層液21を、シャワー状、液滴状、霧状などの、表面積が比較的大きい状態にして、上層液20の表面に落下させることが好ましい。別の言い方として、下層液21は、供給口11において「微粒化」されて「噴霧」されることが好ましい。
下層液21を、シャワー状、液滴状、霧状などの表面積が大きい状態にして落下させることで、下層液21と上層液20との接触面積をより大きくすることができる。これにより、不純物と反応性成分とがより反応しやすくなり、一層効率的・効果的に不純物含有有機溶剤中の不純物を低減することができる。
【0036】
下層液21をシャワー状、液滴状または霧状にする手段は、特に限定されない。簡便さの点からは、供給口11として、シャワーノズルまたはスプレーノズルを備えるものを用いればよい。
シャワーノズルまたはスプレーノズルとしては、公知または市販のものを適宜用いることができる。異物による詰まり防止の観点からは、スパイラルノズルを用いることが好ましい。スパイラルノズルとは、螺旋状の先端形状によって、水を円錐状に噴射させることができるノズルのことである。スパイラルノズルは、その構造上、目詰まりを非常に起こしにくい。このことは、第一工程を連続的に行うにあたって好都合である(目詰まりにより送液が止まることが抑えられるため)。スパイラルノズルは、スプレーイングシステムスジャパン社、株式会社共立合金製作所、株式会社いけうち等から販売されている。
【0037】
シャワーノズルまたはスプレーノズル以外の、下層液21をシャワー状、液滴状または霧状にする手段として、噴射弁のような圧力エネルギーを用いた手段、2流体ノズルのように気体エネルギーを用いた手段、回転噴孔や回転円盤のように遠心力を用いた手段、振動や超音波などの振動エネルギーを用いた手段などを挙げることができる。
【0038】
供給口11の材質は特に限定されない。耐腐食性の観点からは、タンク10と同様、ステンレス等であることが好ましい。また、表面(特に接液面)にコーティングや耐腐食加工などが施されていてもよい。
【0039】
下層液21をシャワー状、液滴状または霧状にして供給口11から放出する際の「噴射角度」は、特に限定されない。
タンク10の径やタンク10中の液体の充填率にもよるが、一つの観点として、噴射角度は、ある程度大きいことが好ましい(例えば15°以上、好ましくは30°以上、より好ましくは45°以上)。これにより、上層液20の液面に、全体的に下層液21が降りかかりやすくなる。
一方、別観点として、噴射角度は大きすぎないことが好ましい(例えば150°以下、好ましくは120°以下)。これにより、液滴化された下層液21の一部が上層液20の液面に触れる前にタンク10の内壁に触れることが抑制され、下層液21を「液滴化」することの効果を特に高めることができる。
噴霧角度が最適となるように、適切なシャワーノズルやスプレーノズル、噴霧圧などを選択することが好ましい。
【0040】
図1の装置1は、供給口11を1つのみ備えているが、装置1は、複数の供給口11を備えていてもよい。例えば、配管12が、測定手段14よりも上の部分で枝分かれして、各々の枝分かれの末端がタンク10の上方に接続され、それら接続部分のそれぞれに供給口11が備わっていてもよい。
装置1が複数の供給口11を備えることで、下層液21と上層液20とをより効率的に接触させうる。つまり、有機溶剤の処理効率を一層高めうる。
【0041】
(送液手段(配管12、ポンプ13))
タンク10下部に滞留する下層液21の少なくとも一部を、供給口11に送液する送液手段は、典型的には、タンク10の下部と供給口11とをつなぐ配管12や、その配管12の流路にあるポンプ13などにより構成される。
【0042】
配管12は、その内部に下層液21を通過させることができるものである限り、特に限定されない。配管12の材質は、耐腐食性などの観点からは、タンク10と同様、例えばステンレス鋼が好ましい。また、配管12としては樹脂製のものも用いうる。具体的には、塩ビ製、PFA製、PTFE製の配管なども用いうる。
配管12の接液面の一部または全部には、タンク10と同様、樹脂などによるコーティングやライニングなどが施されていてもよい。
配管12が樹脂製である、または、配管12の接液面にコーティングやライニングが施されていることにより、特に、反応性成分が酸である場合に、配管12の腐食が抑制される。
【0043】
ポンプ13としては、下層液21の少なくとも一部を、供給口11に送液可能である限り、任意のものを用いることができる。ポンプには、ターボ型、容積式、遠心ポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプなど様々な形式のものがある。下層液21の少なくとも一部を供給口11に送液できる限り、どのようなポンプであってもよい。
ポンプ13についても、内部の接液面にはコーティングやライニングなどが施されていてもよい。このようなポンプは、例えば、株式会社イワキ、株式会社丸八ポンプ製作所、株式会社トーケミ、株式会社イワキ、株式会社ワールドケミカル、日機装エイコー株式会社などから購入することができる。
【0044】
(測定手段14、添加手段15)
装置1は、好ましくは、含水液中の反応性成分の濃度を測定する測定手段を備える。反応性成分が酸または塩基である場合、測定手段は例えばpH測定器であることができる。もちろん、pH測定器以外にも、反応性成分の濃度を測定可能な測定手段を用いることが可能である。
図1においては、配管12が、測定手段14を備えている。
図1の測定手段14により、特に下層液21が含水液である場合には、タンク10の下部から供給口11に送液される含水液(下層液21)中の反応性成分の濃度を測定することができる。
もちろん、
図1で示されている位置とは異なる位置に測定手段は備えられていてもよい。例えば、タンク10内の適当な位置に測定手段が備えられていてもよい。
【0045】
また、装置1は、好ましくは、反応性成分を添加する添加手段を備える。
図1においては、配管12が添加手段15を備え、配管12内を通る下層液21に反応性成分を添加できるようになっている。より具体的には、添加手段15は、第一の反応性成分貯蔵部15Cが第一の添加量制御用ポンプ15Bを介してインラインミキサー15Aに接続され、かつ、第二の反応性成分貯蔵部15Eが第二の添加量制御用ポンプ15Dを介してインラインミキサー15Aに接続された構造を有している。インラインミキサー15A内で、タンク10の下部から供給口11に送液される含水液(下層液21)に、反応性成分が添加される。
【0046】
添加手段15を構成する各部材については、適宜、公知技術または市販品を適用することができる。好ましくは、添加手段15を構成する各部材の内壁は、防食性のある樹脂によるコーティングまたはライニング、不動態膜、などのうち1または2以上を有する。添加手段15周辺は、局所的に反応性成分の濃度が高くなりがちなためである。
【0047】
第一の反応性成分貯蔵部15Cと、第二の反応性成分貯蔵部15Eは、互いに異なる反応性成分(反応性成分そのもの、または、反応性成分を含む溶液)を貯蔵することができる。例えば、第一の反応性成分貯蔵部15Cには酸またはその溶液を貯蔵し、第二の反応性成分貯蔵部15Eには塩基またはその溶液を貯蔵することができる。これにより、ポンプ15Bおよび/またはポンプ15Dの操作のみで、不純物含有有機溶剤中の不純物が酸である場合と塩基である場合の両方の処理を行うことができる。つまり、種々の不純物含有有機溶剤をより効率的に処理できるようになる。また、例えば含水液のpHが過度に低く/高くなってしまったときにその調整がしやすいという利点もある。
ポンプ15Bおよび/またはポンプ15Dに適した市販品のポンプは、株式会社トーケミ、株式会社イワキ、株式会社ワールドケミカル、日機装エイコー株式会社などから購入することができる。
【0048】
第一実施形態においては、含水液中の反応性成分の量が、第一工程を通じて所定の数値範囲内になるように、添加手段15により(またはその他任意の手段により)、反応性成分が添加されることが好ましい。
例えば、フィードバック制御などの適当な制御方法により、測定手段14で測定された反応性成分の濃度情報から、第一の添加量制御用ポンプ15Bおよび/または第二の添加量制御用ポンプ15Dを通過する反応性成分の量を制御して、供給口11に送液される下層液21(好ましくは含水液)中に、所定の数値範囲内の濃度の反応性成分が含まれるようにすることが好ましい。
【0049】
もちろん、フィードバック制御が無くとも、第一工程の途中で、反応性成分を添加することは排除されない。例えば、(1)まず、不純物含有有機溶剤中の不純物量、含水液中の反応性成分の量、送液速度(配管12を流れる下層液21の流量)などから、反応性成分が消費される速さを予測しておき、(2)その予測に基づき、第一工程の途中で反応性成分を添加してもよい。
【0050】
(上層液20、下層液21、不純物、反応性成分、有機溶剤、水)
前述のように、第一実施形態において、好ましくは、上層液20が不純物含有有機溶剤であり、下層液21が含水液である。この理由は、1つには、装置1のように添加手段15を配管12の流路に設ける場合、下層液21が含水液であるほうが、反応性成分の添加に都合が良いためである。
もちろん、第一実施形態において、上層液20が含水液であり、下層液21が不純物含有有機溶剤であってもよい。この場合も、供給口11から放出された下層液21(不純物含有有機溶剤)が、上層液20の中を「通過」することにより、不純物の一部と反応性成分の一部とが反応し、不純物の有機溶剤溶解性が低下する。すなわち、不純物含有有機溶剤中の不純物量は低減される。
【0051】
不純物含有有機溶剤中の不純物と、反応性成分との組合せは、特に限定されない。不純物と反応性成分が反応することで不純物の有機溶剤溶解性が低下する限り、任意の組合せであってよい。
【0052】
一例として、不純物は酸であり、反応性成分は塩基である。酸と塩基は反応して塩を形成する。通常、塩は有機溶剤溶解性が小さく、かつ、水への溶解性が大きい。よって、塩となった不純物は、有機溶剤から含水液のほうに(油層から水層のほうに)移行することとなる。
不純物である酸としては、例えば塩化水素、硫酸、硝酸などの無機成分、酢酸や(メタ)アクリル酸などの有機成分等が挙げられる。各種の有機合成・高分子合成プロセスにおいて、これら不純物を含む廃溶剤が発生する。
反応性成分である塩基としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸塩、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類、アンモニア、等が挙げられる。塩基は、強塩基でも弱塩基でもよいが、不純物の除去性の観点からは強塩基が好ましい。
【0053】
別の例として、不純物は塩基であり、反応性成分は酸である。この場合も、不純物有機溶剤(油層)中の不純物は、塩となって、含水液(水層)のほうに移行することとなる。
不純物である塩基としては、アンモニア、トリアルキルアミン、含窒素複素環化合物などのような含窒素化合物またはアミン系化合物、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩、等が挙げられる。一例として、中和工程を含む有機合成プロセスにおいて発生する廃溶剤は、トリエチルアミンなどの含窒素化合物を含むことがある。別の例として、一部の有機合成プロセスでは、反応促進のために用いられるピリジンを含む廃溶剤が発生する。さらに別の例として、シリコンウエハーの処理で発生した廃溶剤は、不純物としてヘキサメチルジシラザン等のケイ素含有塩基を含むことがある。
反応性成分である酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、ギ酸、酢酸などの有機酸などを挙げることができる。酸は、強酸でも弱酸でもよいが、不純物の除去性の観点からは強酸が好ましい。
【0054】
さらに別の例として、不純物はモノマー、オリゴマーおよびポリマーからなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、反応性成分は酸または塩基である。この場合、不純物と反応性成分との反応は、必ずしも酸−塩基反応による塩形成ではない。しかし、反応性成分が不純物に何らかの形でアタックし、その結果として不純物の有機溶剤溶解性が低下する限り、任意の酸または塩基を用いることができる。
不純物のモノマー、オリゴマーまたはポリマーは、例えば、(メタ)アクリル系のものである。モノマー、オリゴマーまたはポリマーを不純物として含む廃溶剤は、例えば、工業的なモノマー・ポリマー合成プロセスで、反応釜を洗浄する際に発生する。
反応性成分である酸または塩基は、例えば、上述のものであることができる。
【0055】
不純物含有有機溶剤中の「有機溶剤」は、含水液と実質的に混和しないものである限り、特に限定されない。不純物含有有機溶剤は、通常、各種の工業プロセスで用いられた後の廃有機溶剤である。有機溶剤として具体的には、アルカン、アルケン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶剤(脂肪族系または芳香族系)、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン系溶剤、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン含有溶剤、などを挙げることができる。
【0056】
前述のように、有機溶剤は、含水液と「実質的に」混和しないものであればよい。水に若干溶解する有機溶剤であっても、含水液と一緒にタンク10に入れたときに水層と油層に分離する限り、ここで説明した方法/装置により不純物量を低減することができる。
【0057】
不純物の除去性を高めたり、処理速度を速めたりする観点からは、含水液中の反応性成分の濃度は高いことが好ましい。一方、装置の腐食を抑えたり、反応熱を適度に抑えたりする観点からは、含水液中の反応性成分の濃度はある程度低いことが好ましい。ただし、特に装置の内壁に腐食防止処理が施されている場合は、腐食についてさほど気にしなくてよい場合が多い。
【0058】
反応性成分が酸である場合、含水液のpHは好ましくは2.0以上である。前述のように添加手段15により反応性成分を添加する場合は、pHが2.0より小さくならないようにすることが好ましい。pHが2.0以上であることで、樹脂ライニングなどの内壁処理を施していないステンレス製のタンク10(例えばSUS304製のタンク)を用いたとしても、タンク10の腐食を十分に抑えやすい。
反応性成分が酸である場合、不純物の除去の効率性の観点からは、含水液のpHは好ましくは4.0以下である。
【0059】
反応性成分が塩基である場合、経済性の観点(塩基の使用量の観点)から、含水液のpHは好ましくは14以下である。
反応性成分が塩基である場合、不純物の除去の効率性の観点からは、含水液のpHは好ましくは10以上である。
【0060】
含水液中の水としては、通常、水道水を用いることができる。特に有機溶剤の純度を高めたい場合には、水として蒸留水や精製水などを用いることも考えられる。
【0061】
タンク10内に収容される不純物含有有機溶剤の体積(おおよそ、一度に処理される不純物含有有機溶剤の体積に相当)は、工業的生産性の観点からは、好ましくは3kL以上、より好ましくは5kL以上、さらに好ましくは10kL以上である。この上限は特にないが、例えば50kL以下である(上限は、基本的にはタンク10の容積に依る)。
【0062】
タンク10内に収容される含水液の体積(一度の処理で用いられる含水液の体積に相当)は、タンク10内に収容される不純物含有有機溶剤の体積の、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上である。例えば、3kLの不純物含有有機溶剤を処理する場合、150L(0.15kL)以上の含水液を用いることが好ましい。ある程度多量の含水液を用いることで、不純物含有有機溶剤中の不純物を十二分に含水液のほうに移行させることができる。また、下層液21が含水液である場合には、常にある程度の量の含水液がタンク10の下部に滞留することとなるため、供給口11への下層液21の送液を安定的に行うことができというメリットもある。
タンク10内に収容される含水液の体積の上限は特に無いが、経済性(水道代)の観点から、タンク10内に収容される不純物含有有機溶剤の体積の100%以下であることが好ましい。例えば、3kLの不純物含有有機溶剤を処理する場合、含水液の量は3kL以下であることが好ましい。
不純物の除去性と経済性のバランスの観点からは、タンク10内に収容される含水液の体積は、タンク10内に収容される不純物含有有機溶剤の体積の20〜40%程度であることが特に好ましい。
【0063】
タンク10内に収容される、不純物含有有機溶剤の体積と含水液の体積との合計(すなわち充填率)の下限値は、タンク10の容積の、例えば50%、好ましくは60%、より好ましくは70%である。充填率が50%以上であることで、不純物含有有機溶剤の処理の効率性を高めることができる。
別観点として、タンク10内に収容される、不純物含有有機溶剤の体積と含水液の体積との合計(充填率)の上限値は、タンク10の容積の、例えば100%、好ましくは98%、より好ましくは95%、さらに好ましくは90%である。充填率を100%としないことで、タンク10の上部において下層液21を「落下」させることができるようになるため、好ましい。ただし、充填率が100%であっても、下層液の循環自体は可能であるため、不純物低減の効果を得ることはできる。
【0064】
(流量など)
第一実施形態において、供給口11から供給される下層液21の流量は、処理される不純物含有有機溶剤の量、不純物含有有機溶剤中の不純物濃度、含水液中の反応性成分の濃度などに基づき適宜調整すればよい。
供給口11から供給される下層液21の流量は、例えば10〜2000L/min、好ましくは50〜1000L/minである。流量が10L/min以上であることで、第一工程の時間短縮を図ることができ、リサイクル有機溶剤製造の生産性向上につながる。また、流量が2000L/min以下であることで、常にある程度の量の下層液21がタンク10の下部に存在することとなり、上層液20が配管12を通ることが抑制される。つまり、第一工程を安定的に行うことができる。
【0065】
第一工程において、供給口11から供給される下層液21の合計量(供給口11から排出される下層液21の延べ量)は、処理される不純物含有有機溶剤の量、不純物含有有機溶剤中の不純物濃度、含水液中の反応性成分の濃度などに基づき適宜調整すればよい。
供給口11から供給される下層液21の合計量は、例えば0.3〜300kL、好ましくは1.5〜150kLである。この量が0.3kL以上であることで、上層液20と下層液21とを十二分に接触させることができ、一層の不純物低減を図ることができる。また、この量が300kL以下であることで、第一工程の時間を短くすることができる。
【0066】
(第一工程後の有機溶剤の取り出し)
下層液21の送液を止めた後、例えばバルブ16を開放して、不純物量が低減された有機溶剤をタンク10の外に取り出す。下層液21が含水液である場合には、まず、下層液21(含水液)を取り出し、その後、上層液20(不純物量が低減された有機溶剤)を取り出す。
もちろん、バルブ16を用いずに不純物量が低減された有機溶剤を取り出してもよい。例えば、タンク10の上部から、不純物量が低減された有機溶剤を吸い出してもよい。
【0067】
第一工程により、タンク10内に不溶性成分(上層液20にも下層液21にも溶けない成分)が生じる場合がある。かつ/または、下層液の送液を止めた直後には、ある程度の量の液滴状の下層液21が上層液20中に存在し、上層液20と下層液21との分離が不十分な場合がある。よって、有機溶剤を取り出す前には、例えば10分〜5時間の静置時間を設け、不溶性成分を沈殿させたり、上層液20と下層液21との分離を十分としたりすることが好ましい。
【0068】
(第一工程に関する補足)
第一工程を行うにあたっては、まず、不純物含有有機溶剤と、反応性成分を含まない水とをタンク内に収容し、後から反応性成分を加えるようにしてもよい。具体的には、(1)まず、しばらくの時間(例えば5分〜5時間程度)、反応性成分を含まない水である下層液21の少なくとも一部をタンク上部に送液して、不純物含有有機溶剤である上層液20と接触させ、(2)その後、添加手段15を用いるなどして、反応性成分を添加するようにしてもよい。
【0069】
本発明者らの知見として、例えば、有機溶剤が、含水液中の「水」と反応して酸や塩基を発生する不純物を含んでいる場合などには、その反応によって系中のpHが大きく変動することがある。よって、まず、水と反応する不純物と反応性成分を含まない水とを十分に反応させてpHを安定させ、その後、反応性成分を添加することが好ましい。こうすることで、例えば反応性成分の無駄を低減することができる。
【0070】
第一工程において、通常、加熱は不要である。ただし、不純物と反応性成分との反応を促進させる目的などのため、上層液および/または下層液を加熱することも排除はされない。
一方、不純物と反応性成分との反応による発熱が過度である場合には、冷却を行うことも考えられる。
参考までに、不純物と反応性成分との反応が酸−塩基反応である場合、反応は発熱を伴う場合が多い。
【0071】
第一工程において、下層液の循環は、連続的であっても断続的であってもよい。例えば、装置1が測定手段14を備えない場合、第一工程の開始からしばらく時間が経過した後に循環を一旦停止して含水液中の反応性成分の量を測定し、その測定結果に基づいて反応性成分を追添してから循環を再開させてもよい。
【0072】
第一工程を行う時間(下層液を循環させる時間の合計)は、特に限定されない。不純物含有有機溶剤中の不純物量や、不純物と反応性成分との反応性などにより適宜調整すればよい。不純物量の十分な低減、一度に処理する不純物含有有機溶剤の量、工業的生産性などの兼ね合いから、例えば5分〜24時間程度とすることができる。
【0073】
(第二工程:蒸留)
第一工程を経ることで不純物濃度が低減された有機溶剤を、蒸留(精留)する第二工程が行われてもよい。
蒸留は、例えば、(i)元々の不純物含有有機溶剤が含んでいた不純物(第一工程で除去しきれなかった不純物、かつ/または、反応性成分と反応しない不純物)を低減するため、(ii)有機溶剤中の主成分の純度を高めるため、(iii)有機溶剤が混合物である場合などには、それらを分離精製するため、(iv)第一工程で有機溶剤中に混入した水分を低減するため、などの目的のうち、1または2以上の目的のために行われる。つまり、第二工程を行うことで、追加のメリットを得ることができる場合がある。蒸留を行うか否か、また、蒸留によりどの程度不純物量や水分を低減するかは、有機溶剤の用途などにより適宜決定される。
蒸留は、各種の蒸留塔(精留塔)を用いて行うことができる。蒸留は、回分式蒸留(バッチ式蒸留)であっても連続式蒸留であってもよい。
【0074】
蒸留には熱エネルギーが必要であるが、第一工程で十分に不純物が除去されていれば、熱エネルギーの消費は比較的少なく済むと考えられる。また、有機溶剤が水と共沸しないものである場合には、極めて効率的かつ効果的に水分を除去することができる。有機溶剤が水と共沸するものである場合であっても、いわゆる共沸蒸留法などを適用すれば水分を一層低減することができる(リサイクル有機溶剤の用途によっては、水分等は完全に除去されなくても問題ない)。
【0075】
第一実施形態においては、第二工程の蒸留とは別に、または蒸留とあわせて、その他の工程が行われてもよい。その他の工程としては、例えば、ろ過による固形残渣の除去、ゼオライト膜脱水装置(PVセパレーター)、モレキュラーシーブ、活性アルミナ等を用いた水分の除去などが挙げられる。
【0076】
<第二実施形態>
第二実施形態として、
図2に示される不純物含有有機溶剤中の不純物量を減らすための装置(装置2)と、この装置を用いてリサイクル有機溶剤を製造する方法を説明する(第一実施形態と共通する事項については説明を省略する)。
第二実施形態においては、好ましくは、上層液20が含水液であり、下層液21が不純物含有有機溶剤である。
【0077】
装置2は、特に、測定手段14および添加手段15が、タンク10の側面の、上層液20が存在する部分に設けられている点で、装置1と異なっている。装置2は、配管12Bを通じて、上層液20中の反応性成分の濃度を測定したり、上層液20に反応性成分を添加したりすることができる構成となっている。
(装置1では、測定手段14および添加手段15は、タンク10の下部と上部とをつなぐ配管12に設けられている。)
【0078】
上記のような構成の装置2を用いることで、下層液21が不純物含有有機溶剤であり、その不純物含有有機溶剤が装置2内を循環する場合、含水液である上層液20中の反応性成分の濃度を監視しやすい、反応性成分の消費量などに応じた適切な量の反応性成分を上層液20中に添加しやすい、等のメリットがある。
【0079】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
リサイクル有機溶剤の製造方法であって、
タンク内に収容された、
(i)上層液および前記上層液よりも比重が大きい下層液の一方である、不純物含有有機溶剤と、
(ii)前記上層液および前記下層液の他方であって、前記不純物と反応して前記不純物の有機溶剤溶解性を低下させる反応性成分と水とを含み、前記不純物含有有機溶剤と実質的に混和しない含水液と、
のうち、
前記下層液の少なくとも一部をタンク上部に送液し、送液された下層液を前記上層液と接触させる第一工程を含む、リサイクル有機溶剤の製造方法。
2.
1.に記載のリサイクル有機溶剤の製造方法であって、
前記第一工程は、前記送液された下層液を前記上層液に落下させる落下工程を含む、リサイクル有機溶剤の製造方法。
3.
2.に記載のリサイクル有機溶剤の製造方法であって、
前記落下工程においては、前記送液された下層液を、シャワー状、液滴状または霧状にして、前記上層液に落下させる、リサイクル有機溶剤の製造方法。
4.
1.〜3.のいずれか1つに記載のリサイクル有機溶剤の製造方法であって、
前記不純物含有有機溶剤の体積は3kL以上である、リサイクル有機溶剤の製造方法。
5.
1.〜4.のいずれか1つに記載のリサイクル有機溶剤の製造方法であって、
前記含水液の体積は、前記不純物含有有機溶剤の体積の5%以上である、リサイクル有機溶剤の製造方法。
6.
1.〜5.のいずれか1つに記載のリサイクル有機溶剤の製造方法であって、
前記不純物は酸であり、前記反応性成分は塩基である、リサイクル有機溶剤の製造方法。
7.
1.〜5.のいずれか1つに記載のリサイクル有機溶剤の製造方法であって、
前記不純物は塩基であり、前記反応性成分は酸である、リサイクル有機溶剤の製造方法。
8.
1.〜5.のいずれか1つに記載のリサイクル有機溶剤の製造方法であって、
前記不純物はモノマー、オリゴマーおよびポリマーからなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、前記反応性成分は酸または塩基である、リサイクル有機溶剤の製造方法。
9.
1.〜8.のいずれか1つに記載のリサイクル有機溶剤の製造方法であって、
前記不純物含有有機溶剤が前記上層液であり、前記含水液が前記下層液である、リサイクル有機溶剤の製造方法。
10.
1.〜8.のいずれか1つに記載のリサイクル有機溶剤の製造方法であって、
前記不純物含有有機溶剤が前記下層液であり、前記含水液が前記上層液である、リサイクル有機溶剤の製造方法。
11.
1.〜10.のいずれか1つに記載のリサイクル有機溶剤の製造方法であって、
前記第一工程において、前記含水液中の前記反応性成分の量が所定の数値範囲内となるように、前記反応性成分を添加する、リサイクル有機溶剤の製造方法。
12.
1.〜11.のいずれか1つに記載のリサイクル有機溶剤の製造方法であって、
前記第一工程を経ることで不純物濃度が低減された有機溶剤を蒸留する第二工程を含む、リサイクル有機溶剤の製造方法。
13.
不純物含有有機溶剤中の不純物量を減らすための装置であって、
(i)上層液および前記上層液よりも比重が大きい下層液の一方である、不純物含有有機溶剤と、(ii)前記上層液および前記下層液の他方であって、前記不純物と反応して前記不純物の有機溶剤溶解性を低下させる反応性成分と水とを含み、前記不純物含有有機溶剤と実質的に混和しない含水液と、
が収容されるタンクと、
前記タンクに設けられ、前記上層液と前記下層液の間の界面よりも上側に位置する供給口と、
前記下層液の少なくとも一部を前記供給口に送液する送液手段と、
を備える装置。
14.
13.に記載の装置であって、
前記供給口は、前記上層液の表面よりも上に位置している装置。
15.
13.または14.に記載の装置であって、
前記供給口は、シャワーノズルまたはスプレーノズルを備える装置。
16.
13.〜15.のいずれか1つに記載の装置であって、
前記タンクの容量は5kL以上である装置。
17.
13.〜16.のいずれか1つに記載の装置であって、
前記送液手段は、前記タンクの下部と前記供給口とをつなぐ配管と、当該配管の流路にあるポンプとを備える装置。
18.
13.〜17.のいずれか1つに記載の装置であって、
さらに、前記含水液中の前記反応性成分の濃度を測定する測定手段を備える装置。
19.
17.に記載の装置であって、
前記配管は、前記含水液中の前記反応性成分の濃度を測定する測定手段を備える装置。
20.
13.〜19に記載の装置であって、
さらに、前記反応性成分を添加する添加手段を備える装置。
21.
17.に記載の装置であって、
前記配管は、前記反応性成分を添加する添加手段を備える装置。
【実施例】
【0080】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。
【0081】
<実施例1>
[不純物含有有機溶剤の準備]
塗料の製造タンクの洗浄等に使用された、メチルシクロヘキサンを主成分とし、不純物として少なくともアンモニアを含む廃有機溶剤を20kL準備した。以下、この廃有機溶剤を「有機溶剤1」とも表記する。
【0082】
[事前分析]
ガスクロマトグラフィーを用いて有機溶剤1を分析した。分析結果は以下のとおりであった(アンモニアはガスクロマトグラフィーでは検出されないことに留意)。
【0083】
【表1】
【0084】
有機溶剤1を100mL採取し、同量の水と混合して2液を振り混ぜた後、その水のpHを測定した。pHは10.2であった。また、有機溶剤1で濡らしたガラス棒を37質量%濃塩酸に接近させると、塩化アンモニウム由来と思われる白煙が観測された。さらに、有機溶剤1からは特有の臭気(刺激臭)が確認された。これらより、有機溶剤1にはアンモニアが含まれていることを確認した。
【0085】
[有機溶剤の処理(下層液の循環など)]
図1で説明したような装置のタンク(SUS304製、高さ8.8m、直径2.2mの円柱状、容量約30kL)内に、20kLの有機溶剤1を収容した。
その後、さらに6kLの水道水をタンク内に収容した。タンク内は、主成分が有機溶剤1である上層液と、主成分が水である下層液との二層に分離した状態となった。
【0086】
続いて、ポンプ(ポンプ13)を作動させ、下層液(主成分:水)を、200L/minの流速で、タンク上部のノズル(噴射角度90°で円錐状のスプレーが可能なスプレーノズル)まで送液した。そして、送液された下層液をノズルで液滴状にして、上層液(主成分:有機溶剤1)の上部液面に落下させた。
ポンプを作動させた状態(下層液を送液している状態)のまま、75質量%硫酸水溶液を添加した。添加量については、pHメータ(測定手段14)を用いて送液中の水溶液層のpHをモニタリングしつつ、pHが2.5に達する量となるように調整した。
そして、下層液のpHが2.5±0.2の範囲内に保たれるように、必要に応じて75質量%硫酸水溶液または20%水酸化ナトリウム水溶液を添加しつつ、ノズルへの下層液の送液(下層液の循環)を5時間連続して行った。
【0087】
その後、ポンプを停止して下層液の送液を止め、2時間静置した。
静置後、まず、タンク下のバルブを開放して、先の工程で発生した微量の固形残渣とともに下層液を排出して、上層液と下層液とを分離した。そして、タンク内に残った上層液を排出し、不純物が低減された有機溶剤1を回収した。
【0088】
[事後分析]
回収された有機溶剤1を、再度、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0089】
【表2】
【0090】
また、事前分析で行ったのと同様にしてpHを測定した。pHは7.6であり、塩基性成分はほとんど含まれていなかった。さらに、塩化アンモニウム由来と思われる白煙や刺激臭も観測されないことを確認した。
以上の結果より、有機溶剤1からアンモニアがほぼ除去されたことを確認した。
【0091】
ちなみに、有機溶剤1中のイソプロピルアルコール量が減少している理由は、イソプロピルアルコールの親水性によるものと考えられる(イソプロピルアルコールは容易に油層から水層に移行する)。
【0092】
[蒸留]
回収された有機溶剤1を、一般的な方法で蒸留し、水やその他の不純物を分離した。そして、純度99.5質量%のメチルシクロヘキサンを得た。
(上記「一般的な方法」での蒸留とは、公称理論段数が50程度で、2相分離する組成の留出液を相分離状態で滞留させ、かつ、軽液・重液のうちの任意の液を留去できる機構を有する一般的な蒸留設備を使用し、任意の還流比を設定してバッチ方式で行う蒸留操作のことをいう。以下同様。)
【0093】
<実施例2>
シリコンウエハーの疎水化処理で使用された、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを主成分とし、不純物として少なくともヘキサメチルジシラザン(窒素含有塩基)を含む廃有機溶剤を20kL準備した。以下、この廃有機溶剤を「有機溶剤2」とも表記する。
【0094】
[事前分析]
ガスクロマトグラフィーを用いて有機溶剤2を分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0095】
【表3】
【0096】
[有機溶剤の処理(下層液の循環など)]
有機溶剤1の代わりに有機溶剤2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして処理(下層液の循環など)を行い、そして不純物が低減された有機溶剤2を回収した。
【0097】
回収された有機溶剤2を、再度、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0098】
【表4】
【0099】
また、回収された有機溶剤2中のアンモニアの有無についても確認した(ヘキサメチルジシラザンは、処理工程中に水溶液層との接触により、最終的にはアンモニアまで分解されるため)。具体的には、実施例1と同様に、pH、塩化アンモニウム由来白煙の有無、および、臭気により確認した。以下に結果を示す。
【0100】
【表5】
【0101】
以上の結果より、有機溶剤2からヘキサメチルジシラザンはほぼ除去され、また、その分解物であるアンモニアもほぼ除去されたことを確認した。
【0102】
[蒸留]
回収された有機溶剤2を、一般的な方法で蒸留し、水やその他の不純物を分離した。そして、純度99.5質量%のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを得た。
【0103】
<実施例3>
[不純物含有有機溶剤の準備]
アミン化合物による中和工程を有するアクリル系樹脂合成で使用した反応釜の洗浄工程で排出された、酢酸エチルを主成分とし、不純物として少なくともアミン化合物を含む廃有機溶剤を20kL準備した。以下、この廃有機溶剤を「有機溶剤3」とも表記する。
【0104】
[事前分析]
ガスクロマトグラフィーを用いて有機溶剤3を分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0105】
【表6】
【0106】
[有機溶剤の処理(下層液の循環)]
有機溶剤1の代わりに有機溶剤3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして処理を行い、そして不純物が低減された有機溶剤3を回収した。
【0107】
回収された有機溶剤3を、再度、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0108】
【表7】
【0109】
また、念のため、ガスクロマトグラフィーによる分析に加え、実施例1および2と同様に、pH、トリエチルアミン塩酸塩由来の白煙の有無、および、臭気の3点についてそれぞれ確認した。確認結果を以下の表8に示す。
【0110】
【表8】
【0111】
以上の結果より、有機溶剤3からトリエチルアミンはほぼ除去されたことを確認した。
【0112】
[蒸留]
回収された有機溶剤3を、一般的な方法で蒸留し、水やその他の不純物を分離した。そして、純度99.5質量%の酢酸エチルを得た。
【0113】
<実施例4>
[不純物含有有機溶剤の準備]
ピリジンを使用した有機合成反応を行った後の反応釜の洗浄工程で排出された、トルエンを主成分とし、不純物として少なくともピリジンを含む廃有機溶剤を20kL準備した。以下、この廃有機溶剤を「有機溶剤4」とも表記する。
【0114】
[事前分析]
ガスクロマトグラフィーを用いて有機溶剤4を分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0115】
【表9】
【0116】
[有機溶剤の処理(下層液の循環)]
有機溶剤1の代わりに有機溶剤4を用いたこと以外は、実施例1と同様にして処理を行い、そして不純物が低減された有機溶剤4を回収した。
【0117】
回収された有機溶剤4を、再度、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0118】
【表10】
【0119】
また、念のため、ガスクロマトグラフィーによる分析に加え、実施例1〜3と同様に、pH、ピリジン塩酸塩由来の白煙の有無、および、臭気の3点についてそれぞれ確認した。確認結果を以下に示す。
【0120】
【表11】
【0121】
以上の結果より、有機溶剤4からピリジンはほぼ除去されたことを確認した。
【0122】
[蒸留]
回収された有機溶剤4を、一般的な方法で蒸留し、水やその他の不純物を分離した。そして、純度99.5質量%のトルエンを得た。
念のため、このトルエンをガスクロマトグラフィーにより分析した。ピリジンは検出されなかった。
【0123】
<実施例5>
下層液のpHが3.0±0.2で保たれるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、有機溶剤1を処理、回収した。
【0124】
回収された有機溶剤1を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0125】
【表12】
【0126】
また、実施例1と同様にしてpHを測定した。pHは7.3であった。さらに、塩化アンモニウム由来と思われる白煙や刺激臭も観測されないことを確認した。これら結果より、有機溶剤1からアンモニアがほぼ除去されたことを確認した。
回収された有機溶剤1を、一般的な方法で蒸留し、水やその他の不純物を分離した。そして、純度99.5質量%のメチルシクロヘキサンを得た。
【0127】
<実施例6>
下層液のpHが3.5±0.2で保たれるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、有機溶剤1を処理、回収した。
【0128】
回収された有機溶剤1を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0129】
【表13】
【0130】
また、実施例1と同様にしてpHを測定した。pHは7.4であった。さらに、塩化アンモニウム由来と思われる白煙や刺激臭も観測されないことを確認した。これら結果より、有機溶剤1からアンモニアがほぼ除去されたことを確認した。
回収された有機溶剤1を、一般的な方法で蒸留し、水やその他の不純物を分離した。そして、純度99.5質量%のメチルシクロヘキサンを得た。
【0131】
<実施例7>
下層液のpHが4.0±0.2で保たれるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、有機溶剤1を処理、回収した。
【0132】
回収された有機溶剤1を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0133】
【表14】
【0134】
また、実施例1と同様にしてpHを測定した。pHは7.6であった。さらに、塩化アンモニウム由来と思われる白煙や刺激臭も観測されないことを確認した。これら結果より、有機溶剤1からアンモニアがほぼ除去されたことを確認した。
回収された有機溶剤1を、一般的な方法で蒸留し、水やその他の不純物を分離した。そして、純度99.5質量%のメチルシクロヘキサンを得た。
【0135】
<実施例8>
多官能アクリレート化合物の合成で使用した反応釜の洗浄工程で排出された、酢酸エチルを主成分とし、不純物として少なくとも多官能アクリレート化合物(モノマー)を含む廃有機溶剤を20kL準備した。以下、この廃有機溶剤を「有機溶剤5」とも表記する。
【0136】
[事前分析]
ガスクロマトグラフィーのほか、液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)、赤外吸収測定(IR)による分析も併せて行った。有機溶剤5の組成はおおよそ以下のとおりであった。
【0137】
【表15】
【0138】
[有機溶剤の処理(下層液の循環など)]
有機溶剤5を用い、下層液(主成分:水)のpHが11.5に達するまで20質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、さらに下層液のpHが11.5±0.2で保たれるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして処理(下層液の循環など)を行い、そして不純物が低減された有機溶剤5を回収した。
実施例5では、有機溶剤5の回収時に、下層液と上層液との界面に、上記多官能アクリレート化合物に由来すると思われる綿状の不溶物が発生していた。おそらくは、多官能アクリレート化合物が、下層液中の水酸化ナトリウムによって分解または重合し、その全部もしくは一部が上層・下層のいずれにも溶解しない物質に変化したと推測される。有機溶剤5の回収の際には、この不溶物が混入しないように留意した。
【0139】
回収された有機溶剤5を、再度、事前分析と同様にして分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0140】
【表16】
【0141】
以上のように、有機溶剤5から、不純物である多官能アクリレート化合物は十分に除去されたことが確認された。
【0142】
[蒸留]
回収された有機溶剤5を、一般的な方法で蒸留し、純度99.0質量%以上の酢酸エチルを得た。
蒸留の際、もし多官能アクリレート化合物が存在すれば、その化合物が重合反応により蒸留装置内に固着する、蒸留中の異常な温度上昇や圧力上昇、などの異常事態の発生が想定される。しかし、そのような現象は一切確認されなかった。
【0143】
<実施例9>
[不純物含有有機溶剤の準備]
フリーデルクラフツ・アシル化反応の溶媒として使用された、ジクロロメタンおよびクロロホルムを主成分とし、不純物として少なくとも塩化水素を含む廃有機溶剤を3kL準備した。以下、この廃有機溶剤を「有機溶剤6」とも表記する。
【0144】
[事前分析]
ガスクロマトグラフィーを用いて有機溶剤6を分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0145】
【表17】
【0146】
また、有機溶剤6を100mL採取し、同量の水と混合して2液を振り混ぜた後、その水のpHを測定した。pHは2.1であった。さらに、有機溶剤6においては鼻を突くような刺激臭が確認された。これらより、有機溶剤6には塩化水素が含まれていることを確認した。
【0147】
[有機溶剤の処理(下層液の循環など)]
まず、実施例1で使用した装置の6分の1スケールの装置(タンク容量約5kL)を準備し、そのタンク内に、3kLの有機溶剤6を充填した。
次に、タンク内に、pH12に調整された水酸化ナトリウム水溶液0.9kL(48質量%水酸化ナトリウム水溶液を薄めたもの)を加えた。タンク内は、水酸化ナトリウム水溶液の上層液と、有機溶剤6の下層液との2層に分離した状態となった(比重の関係で、実施例1〜8とは異なり、上層が含水液、下層が不純物含有有機溶剤となった)。
【0148】
続いて、ポンプ(ポンプ13)を作動させ、下層液である有機溶剤6を、30L/minの流速で、タンク上部のノズルまで送液した。そして、送液された下層液を液滴状にして、上層液である水酸化ナトリウム水溶液の上部液面全体に噴霧した(落下させた)。これを2時間連続して行い、下層液(有機溶剤6)を循環させた。
【0149】
その後、ポンプを停止して送液を止め、1時間静置した。
静置後、タンク下のバルブを開放して、下層液(不純物が低減された有機溶剤6)を排出、回収した。その後、上層液や、有機溶剤の処理により発生した固形残渣などを排出した。
排出された上層液(水酸化ナトリウム水溶液)のpHは11.6であり、元々のpH12よりも小さくなっていた。これは、水酸化ナトリウムの一部が、塩化水素と反応して、水酸化ナトリウムが消費されたためと考えられる。
【0150】
なお、特に実施例9では、タンク内のすべてのものを排出した後、ただちに水でタンク内の洗浄を行った。具体的には、水を新しいものと適宜交換しつつ、水のみの循環操作を4回(1時間×4回)繰り返し行った。さらにその後、添加手段15の代わりにイオン交換樹脂をセットし、再度、水のみの循環操作を行って、可能な限り、タンク内(配管なども含む)に残った塩化物イオン除去を行った。こうすることで、塩化物イオンによるタンクの腐食を抑えた。
【0151】
[事後分析]
回収された有機溶剤6を、再度、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。分析結果は以下のとおりであった。
【0152】
【表18】
【0153】
また、事前分析で行ったのと同様にしてpH測定を行った。pHは7.7であった。また、鼻を突くような刺激臭も観測されなかった。
以上の結果より、有機溶剤6から塩化水素がほぼ除去されたことを確認した。
【0154】
[蒸留]
回収された有機溶剤1を、一般的な方法で蒸留し、水やその他の不純物を分離した。そして、ジクロロメタン(純度99.5質量%以上)およびクロロホルム(純度99.5質量%以上)をそれぞれ得た。
【0155】
<比較例1>
硫酸および/または水酸化ナトリウム溶液によるpH調整を一切行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、有機溶剤1を処理、回収した。
回収された有機溶剤1を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。また、実施例1と同様に、pH測定、白煙の有無および臭気の確認を行なった。以下にこれらの分析/確認結果を示す。
【0156】
【表19】
【0157】
【表20】
【0158】
回収された有機溶剤1を、一般的な方法で蒸留し、水やその他の不純物を分離した。そして、純度99.5質量%のメチルシクロヘキサンを得た。しかし、蒸留前に確認された白煙および臭気は依然として残ったままであり、pH(事前分析と同様の測定方法)は9.0であった。つまり、アンモニアを十分に除去することはできなかった。
【0159】
<比較例2>
硫酸および/または水酸化ナトリウム溶液によるpH調整を一切行わなかったこと以外は、実施例2と同様にして、有機溶剤2を処理、回収した。
回収された有機溶剤2を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。また、実施例2と同様に、pH測定、白煙の有無および臭気の確認を行なった。以下にこれらの分析/確認結果を示す。
【0160】
【表21】
【0161】
【表22】
【0162】
回収された有機溶剤2を、一般的な方法で蒸留し、水やその他の不純物を分離した。そして、純度99.5質量%のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを得た。しかし、蒸留前に確認された白煙および臭気は依然として残ったままであり、pH(事前分析と同様の測定方法)は10.1であった。つまり、アンモニアを十分に除去することはできなかった。
【0163】
<比較例3>
硫酸および/または水酸化ナトリウム溶液によるpH調整を一切行わなかったこと以外は、実施例3と同様にして、有機溶剤3を処理、回収した。
回収された有機溶剤3を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。また、実施例3と同様に、pH測定、白煙の有無および臭気の確認を行なった。以下にこれらの分析/確認結果を示す。
【0164】
【表23】
【0165】
【表24】
【0166】
回収された有機溶剤3を、一般的な方法で蒸留し、水やその他の不純物を分離して、純度99.0質量%の酢酸エチルを得た。
しかし、蒸留前に確認された白煙および臭気は、事前分析時よりは低減したものの、依然として残ったままであった。また、pH(事前分析と同様の測定方法)は10.1で、ガスクロマトグラフィーによる分析でもトリエチルアミンが0.3質量%含まれていることが確認された。つまり、トリエチルアミンを十分に除去することができなかった。
【0167】
<比較例4>
硫酸および/または水酸化ナトリウム溶液によるpH調整を一切行わなかったこと以外は、実施例4と同様にして、有機溶剤4を処理、回収した。
回収された有機溶剤4を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。また、実施例4と同様に、pH測定、白煙の有無および臭気の確認を行なった。以下にこれらの分析/確認結果を示す。
【0168】
【表25】
【0169】
【表26】
【0170】
回収された有機溶剤4を、一般的な方法で蒸留し、水、残留ピリジン、その他の不純物を分離した。そして、純度96.0質量%のトルエンを得た。
しかし、蒸留前に確認された白煙および臭気は、事前分析時よりは低減したものの、依然として残ったままであった。また、pH(事前分析と同様の測定方法)は8.9で、ガスクロマトグラフィーによる分析でも、ピリジンが4.0質量%含まれていることが確認された。つまり、ピリジンを十分に除去することはできなかった。
【0171】
<実施例・比較例のまとめ>
実施例1〜9においては、一度に3〜20kLという多量の廃有機溶剤を、液体状態のままで、その中に含まれる不純物(酸、塩基、モノマー等)の量を十分に低減させることができた。つまり、実施例1〜9より、スケールアップが容易であり、かつ、不純物含有有機溶剤を液体状態のまま処理して不純物を低減することが可能な、リサイクル有機溶剤の製造方法が提供されることが実証された。
また、上層液が不純物含有有機溶剤であり、下層液が含水液である場合(実施例1〜8)、上層液が含水液であり、下層液が不純物含有有機溶剤である場合(実施例9)、ともに不純物を低減することができた。
さらに、実施例1および5〜7より、反応性成分の濃度については適宜設定可能であることが示された(反応性成分が酸である場合、設定pHが2.5、3.0、3.5および4.0のいずれでも、不純物の塩基を十分に低減することができた)。
【0172】
一方、含水液中に反応性成分を含めなかった比較例1〜4においては、有機溶剤中の不純物(具体的には塩基性物質)を十分に低減できなかった。
特に注目すべきは、有機溶剤中の不純物量低減でしばしば行われる「蒸留」を行っても、塩基性物質を十分に低減することができず、異臭などの点で高品質のリサイクル有機溶剤を製造することができなかったということである。このことから、実施例1〜9のような方法は、一般的な蒸留では十二分に減らしにくい不純物(アンモニア等)を、効果的に低減してリサイクル有機溶剤を製造できる方法であるとも言える。
【課題】スケールアップが容易であり、かつ、不純物含有有機溶剤を液体状態のまま処理して不純物を低減することが可能な、リサイクル有機溶剤の製造方法を提供すること。また、その製造方法に好ましく適用可能な装置を提供すること。
【解決手段】タンク内に収容された、(i)上層液および上層液よりも比重が大きい下層液の一方である、不純物含有有機溶剤と、(ii)上層液および下層液の他方であって、不純物と反応して不純物の有機溶剤溶解性を低下させる反応性成分と水とを含み、不純物含有有機溶剤と実質的に混和しない含水液と、
のうち、下層液の少なくとも一部をタンク上部に送液し、送液された下層液を上層液と接触させる第一工程を含む、リサイクル有機溶剤の製造方法。また、このような方法により不純物含有有機溶剤中の不純物量を減らすための装置。