特許第6679051号(P6679051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6679051生体情報分析装置、システム、及び、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6679051
(24)【登録日】2020年3月23日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】生体情報分析装置、システム、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20200406BHJP
   A61B 5/029 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   A61B5/022 400L
   A61B5/029
   A61B5/022 AZDM
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-512093(P2018-512093)
(86)(22)【出願日】2017年4月14日
(86)【国際出願番号】JP2017015281
(87)【国際公開番号】WO2017179700
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2018年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-82463(P2016-82463)
(32)【優先日】2016年4月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100106622
【弁理士】
【氏名又は名称】和久田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100138357
【弁理士】
【氏名又は名称】矢澤 広伸
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏
(72)【発明者】
【氏名】和田 洋貴
(72)【発明者】
【氏名】土屋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】笠井 誠朗
(72)【発明者】
【氏名】閑 絵里子
(72)【発明者】
【氏名】上野山 徹
(72)【発明者】
【氏名】尾林 慶一
(72)【発明者】
【氏名】小久保 綾子
(72)【発明者】
【氏名】太田 雄也
(72)【発明者】
【氏名】志賀 利一
(72)【発明者】
【氏名】桑原 光巨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博則
(72)【発明者】
【氏名】宮川 健
(72)【発明者】
【氏名】堤 正和
【審査官】 亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−536545(JP,A)
【文献】 特表2005−532111(JP,A)
【文献】 特開2014−000105(JP,A)
【文献】 特表2012−521223(JP,A)
【文献】 特開2008−086568(JP,A)
【文献】 特表2002−536104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 − 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測される血圧波形のデータから、心臓の状態を表す指標を抽出する指標抽出部と、
前記指標抽出部により抽出した前記指標を出力する処理部と、
を有し、
前記指標抽出部は、計測された血圧波形データから1心拍ごとに心駆出量に基づいて決定される心臓負荷指標を抽出し、複数心拍分の前記心臓負荷指標の分布において心駆出量が第1閾値を超える頻度に基づいて、心臓の状態を表す指標を求める、
ことを特徴とする、生体情報分析装置。
【請求項2】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測される血圧波形のデータから、心臓の状態を表す指標を抽出する指標抽出部と、
前記指標抽出部により抽出した前記指標を出力する処理部と、
を有し、
前記指標抽出部は、計測された血圧波形データから1心拍ごとに心駆出量に基づいて決定される心臓負荷指標を抽出し、複数心拍分の前記心臓負荷指標の分布において心駆出量が第2閾値を下回る頻度に基づいて、心臓の状態を表す指標を求める、
ことを特徴とする、生体情報分析装置。
【請求項3】
前記心臓の状態を表す指標は、前記分布において心駆出量が第1閾値を超える頻度に基づいて決定される、ことを特徴とする請求項2に記載の生体情報分析装置。
【請求項4】
前記心臓の状態を表す指標は、前記分布における心駆出量の最大値に基づいて決定される、ことを特徴とする請求項からのいずれかに記載の生体情報分析装置。
【請求項5】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測される血圧波形のデータから、心臓の状態を表す指標を抽出する指標抽出部と、
前記指標抽出部により抽出した前記指標を出力する処理部と、
を有し、
前記指標抽出部は、計測された血圧波形データから1心拍ごとに全末梢血管抵抗に基づいて決定される心臓負荷指標を抽出し、複数心拍分の前記心臓負荷指標の分布において全末梢血管抵抗が第3閾値を超える頻度に基づいて、心臓の状態を表す指標を求める、
ことを特徴とする、生体情報分析装置。
【請求項6】
前記処理部は、複数心拍分の前記心臓負荷指標の時間変化と、前記心臓の状態を表す指標とを出力する、ことを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の生体情報分析装置。
【請求項7】
前記処理部は、血圧波形計測中のユーザの体動または環境の状態の少なくともいずれかを表すデータを第2のセンサから取得し、前記心臓負荷指標の時間変化を、前記ユーザの体動または環境の状態と関連付けて出力する、ことを特徴とする請求項に記載の生体情報分析装置。
【請求項8】
前記処理部は、血圧波形計測中の環境の状態の表す時系列データを第2のセンサから取得し、前記心臓負荷指標と前記環境の状態とを関連付けて出力する、請求項またはに記載の生体情報分析装置。
【請求項9】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサと、
前記センサにより連続的に計測される血圧波形のデータを用いて、生体情報の分析を行う、請求項1〜のいずれかに記載の生体情報分析装置と、を有することを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項1〜のいずれかに記載の生体情報分析装置の前記指標抽出部及び前記処理部としてプロセッサを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測される血圧波形のデータを取得するステップと、
前記血圧波形のデータから1心拍ごとに心駆出量に基づいて決定される心臓負荷指標を抽出するステップと、
複数心拍分の前記心臓負荷指標の分布において心駆出量が第1閾値を超える頻度に基づいて、心臓の状態を表す指標を求めるステップと、
前記心臓の状態を表す指標を出力するステップと、
を含むことを特徴とした生体情報分析方法。
【請求項12】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測される血圧波形のデータを取得するステップと、
前記血圧波形のデータから1心拍ごとに心駆出量に基づいて決定される心臓負荷指標を抽出するステップと、
複数心拍分の前記心臓負荷指標の分布において心駆出量が第2閾値を下回る頻度に基づいて、心臓の状態を表す指標を求めるステップと、
前記心臓の状態を表す指標を出力するステップと、
を含むことを特徴とした生体情報分析方法。
【請求項13】
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより
連続的に計測される血圧波形のデータを取得するステップと、
前記血圧波形のデータから1心拍ごとに全末梢血管抵抗に基づいて決定される心臓負荷指標を抽出するステップと、
複数心拍分の前記心臓負荷指標の分布において全末梢血管抵抗が第3閾値を超える頻度に基づいて、心臓の状態を表す指標を求めるステップと、
前記心臓の状態を表す指標を出力するステップと、
を含むことを特徴とした生体情報分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測した血圧波形から有益な情報を取得する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
橈骨(とうこつ)動脈の内圧変化を計測し、圧脈波の形状(血圧波形)を記録する技術が知られている。特許文献1(特開2008−61824号公報)には、トノメトリ法により血圧波形を計測し、血圧波形からAI(Augmentation Index)値、脈波周期、基線変動率、鮮鋭度、ET(Ejection Time)などの情報を取得することが開示されている。また、特許文献2(特表2005−532111号公報)には、腕時計型の血圧計により血圧波形を計測し、血圧波形から平均動脈圧、平均収縮期圧、平均拡張期圧、平均収縮期圧指数、及び、平均拡張期圧指数を計算し、これらの値が基準値から逸脱した場合にアラートを出力することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−61824号公報
【特許文献2】特表2005−532111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、自由行動下における1心拍ごとの血圧波形を正確に計測可能な血圧測定デバイスの実用化に向け、鋭意開発を進めている。その開発過程における被験者実験を通じて、本発明者らは、自由行動下において連続的に計測した血圧波形のデータから様々な有益な情報を抽出できることを見出した。
【0005】
心肥大や心拡大を進行させる要因として、後負荷や前負荷などの心臓に対する負荷が知られている。後負荷は心駆出量(SV:Stroke Volume, 心拍出量とも呼ばれる)、前負荷は全末梢血管抵抗(TPR:Total Peripheral Resistance)によって評価できる。しかしながら、上記文献に開示される血圧測定装置では、1拍ごとの後負荷・前負荷の測定を行うために安静状態であることを必要とし、自由行動下で実際に心臓に負荷がかかったときの測定ができないという問題がある。また、長時間(たとえば一晩)測定できないという問題もある。
【0006】
本発明者らは、自由行動下において連続的に計測した血圧波形データに基づいて、心臓の状態や心疾患のリスクを評価できることを見出した。
【0007】
本発明は、心臓の状態を評価するための新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は以下の構成を採用する。
【0009】
本発明の一態様に係る生体情報分析装置は、ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測される血圧波形のデータから、心臓の状態を表す指標(以下、心臓状態指標)を抽出する指標抽出部と、前記指標抽出部により抽出した前記指標を出力する処理部と、を有し、前記指標抽出部は、計測された血圧波形データから1心拍ごとに心臓負荷指標を抽出し、複数心拍分の前記心臓負荷指標の分布に関わる特徴に基づいて、心臓の状態を表す指標を求めることを特徴とする。
【0010】
本態様において、心臓負荷指標として心駆出量(SV)あるいは心駆出量に基づいて決定される値を採用してもよい。心駆出量は、心室が1回の収縮で拍出する血液の量であり、前負荷を表す指標である。以下では、1心拍における心駆出量を瞬時心駆出量とも称する。
【0011】
本態様における指標抽出部は、心臓状態指標を、瞬時心駆出量の分布において瞬時心駆出量が第1閾値を超える頻度(割合)に基づいて決定してもよい。心臓状態指標は、当該頻度そのものであってもよいし、当該頻度に基づいて決定される値であってもよい。第1閾値は、ユーザの瞬時心駆出量の最大値に基づいて決定すればよい。たとえば、第1閾値として、最大瞬時心駆出量の60〜99%の範囲の値、より好適には70〜90%の範囲の値、さらに好適には75〜85%の範囲の値を採用できる。最大瞬時心駆出量は、上記の連続的な計測における瞬時心駆出量の最大値として決定されてもよいし、それ以外の方法で決定されてもよい。
【0012】
瞬時心駆出量が第1閾値を超える状態は、過剰な前負荷が発生している状態といえ、したがって、その発生頻度は心拡大のリスクに関連する。すなわち、上記のように求められる心臓状態指標によって、心拡大のリスクを評価できる。
【0013】
本態様における指標抽出部は、心臓状態指標を、瞬時心駆出量の分布において瞬時心駆出量が第2閾値を下回る頻度(割合)に基づいて決定してもよい。心臓状態指標は、当該頻度そのものであってもよいし、当該頻度に基づいて決定される値であってもよい。第2閾値は、全てのユーザに対して共通するあらかじめ定められた値を利用してもよいし、ユーザごとに固有の値を利用してもよい。
【0014】
瞬時心駆出量が第2閾値を下回る状態は、前負荷が過度に低下している状態といえ、したがって、その発生頻度は血栓のリスクに関連する。すなわち、上記のようにして求められる心臓状態指標によって、血栓のリスクを評価できる。
【0015】
本態様における指標抽出部は、心臓状態指標を、前記分布における心駆出量の最大値(最大瞬時心駆出量)に基づいて決定してもよい。心臓状態指標は、当該最大値そのものであってもよいし、当該最大値に基づいて決定される値であってもよい。なお、前記センサによるユーザの血圧波形の測定は、ユーザが所定強度以上の運動を行っている状態で行うことが望ましい。
【0016】
瞬時心駆出量の最大値(飽和点)は、心臓の容積に関連し、したがって、その低下は心肥大のリスクに関連する。すなわち、上記のようにして求められる心臓状態指標によって、心肥大のリスクを評価できる。
【0017】
本態様において、心臓負荷指標として全末梢血管抵抗(TPR)あるいは全末梢血管抵抗に基づいて決定される値を採用してもよい。全末梢血管抵抗は、血管内での血流への抵抗であり、後負荷を表す指標である。全末梢血管抵抗は、体血管抵抗(SVR:Systemic Vascular Resistance)とも呼ばれる。以下では、1心拍における全末梢血管抵抗を瞬時全末梢血管抵抗または瞬時TPRとも称する。
【0018】
本態様における指標抽出部は、心臓状態指標を、瞬時TPRの分布において瞬時TPRが第3閾値を超える頻度(割合)に基づいて決定してもよい。心臓状態指標は、当該頻度そのものであってもよいし、当該頻度に基づいて決定される値であってもよい。第3閾値は、全てのユーザに対して共通するあらかじめ定められた値を利用してもよいし、ユーザごとに固有の値を利用してもよい。
【0019】
瞬時全末梢血管抵抗が第3閾値を超える状態は、過剰な後負荷が発生している状態といえ、したがって、その発生頻度は心肥大のリスクに関連する。すなわち、上記のように求められる心臓状態指標によって、心肥大のリスクを評価できる。
【0020】
本態様における処理部は、複数心拍分の前記心臓負荷指標の時間変化と、前記心臓の状態を表す指標とを出力してもよい。心臓負荷指標の時間変化を出力することで、心疾患のリスクを伴う心臓負荷がいつ起こっているのかを容易に把握できる。
【0021】
本態様における処理部は、血圧波形計測中のユーザの体動または環境の状態の少なくともいずれかを表すデータを第2のセンサから取得し、前記心臓負荷指標の時間変化を、前記ユーザの体動または環境の状態と関連付けて出力してもよい。このような出力によれば、心臓負荷指標とユーザあるいは環境の状態との間の関係性を把握でき、心臓負荷が大きくなる原因の特定が容易になる。
【0022】
本態様における処理部は、血圧波形計測中の環境の状態を表す時系列データを第2のセンサから取得し、前記心臓負荷指標と前記環境の状態とを関連付けて出力してもよい。環境の状態を表すデータは、心臓負荷あるいは心疾患リスクに関連することが想定される影響因子であれば任意のデータであってよい。処理部は、たとえば、心臓負荷指標の時系列データと影響因子の時系列データを重畳して出力してもよい。また、処理部は、同一時刻における影響因子を第1の座標値、心臓負荷指標を第2の座標値として有するグラフを出力してもよい。このような出力によって、心臓負荷が大きくなる原因の特定が容易になる。
【0023】
本発明の一態様に係る生体情報分析システムは、ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサと、前記センサにより連続的に計測される血圧波形のデータを用いて、生体情報の分析を行う生体情報分析装置と、を有することを特徴とするシステムである。
【0024】
本発明に係るプログラムは、生体情報分析装置の前記指標抽出部及び前記処理部としてプロセッサを機能させることを特徴とするプログラムである。
【0025】
なお、本発明は、上記構成ないし機能の少なくとも一部を有する生体情報分析装置ないしシステムとして捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む生体情報分析方法、又は、かかる方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、又は、そのようなプログラムを非一時的に記録したコンピュータ読取可能な記録媒体として捉えることもできる。上記構成及び処理の各々は技術的な矛盾が生じない限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、心臓の状態を評価するため新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は生体情報分析システム10の外観の概略構成を示す図である。
図2図2は生体情報分析システム10のハードウエア構成を示すブロック図である。
図3図3は血圧測定ユニット20の構造と測定時の状態を模式的に示す断面図である。
図4図4は血圧測定ユニット20で測定される血圧波形を示す図である。
図5図5は生体情報分析装置1の処理を説明するブロック図である。
図6図6は1心拍の橈骨動脈の圧脈波の波形(血圧波形)を示す図である。
図7図7Aは実施例1におけるSV値の分布のグラフであり、図7Bは時間変化のグラフであり、図7Cは散布図である。
図8図8は、実施例1,2における指標算出処理の流れを示すフローチャートである。
図9図9Aは実施例2におけるTPR値の分布のグラフであり、図9Bは時間変化のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態を説明する。ただし、以下に記載されている各構成の説明は、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0029】
<生体情報分析システム>
図1は、本発明の一実施形態に係る生体情報分析システム10の外観の概略構成を示す図である。図1は生体情報分析システム10を左手首に装着した状態を示している。生体情報分析システム10は、本体部11と、本体部11に固定されたベルト12と、を備える。生体情報分析システム10は、いわゆるウェアラブル型のデバイスであり、本体部11が手首内側の皮膚に接触し、かつ、皮下に存在する橈骨動脈TDの上に本体部11が配置されるように、装着される。なお、本実施形態では橈骨動脈TD上に装置を装着する構成としたが、他の表在動脈上に装着する構成でもよい。
【0030】
図2は、生体情報分析システム10のハードウエア構成を示すブロック図である。生体情報分析システム10は、概略、測定ユニット2と生体情報分析装置1を有する。測定ユニット2は、生体情報の分析に利用する情報を測定により取得するデバイスであり、血圧測定ユニット20、体動測定ユニット21、環境測定ユニット22を含む。ただし、測定ユニット2の構成は図2のものに限られない。例えば、血圧や体動以外の生体情報(体温、血糖、脳波など)を測定するユニットを追加してもよい。あるいは、後述する実施例で利用しないユニットは必須の構成ではないので、生体情報分析システム10に搭載しなくてもよい。生体情報分析装置1は、測定ユニット2から得られる情報を基に生体情報の分析を行うデバイスであり、制御ユニット23、入力ユニット24、出力ユニット25、通信ユニット26、記憶ユニット27を含む。各ユニット20〜27は、ローカルバスその他の信号線を介して信号がやり取りできるよう、互いに接続されている。また生体情報分析システム10は、不図示の電源(バッテリ)を有する。
【0031】
血圧測定ユニット20は、トノメトリ法により橈骨動脈TDの圧脈波を測定するユニットである。トノメトリ法は、皮膚の上から動脈を適切な圧力で押圧して動脈TDに扁平部を形成し、動脈内圧と外圧をバランスさせて、圧力センサにより非侵襲的に圧脈波を計測する方法である。
【0032】
体動測定ユニット21は、3軸加速度センサを含み、このセンサによりユーザの身体の動き(体動)を測定するユニットである。体動測定ユニット21は、当該3軸加速度センサの出力を、制御ユニット23が読み取り可能な形式に変換する回路を含んでいてもよい。
【0033】
環境測定ユニット22は、ユーザの心身の状態(特に血圧)に影響を与え得る環境情報を測定するユニットである。環境測定ユニット22は、例えば、気温センサ、湿度センサ、照度センサ、高度センサ、位置センサなどを含むことができる。環境測定ユニット22は、これらのセンサなどの出力を、制御ユニット23が読み取り可能な形式に変換する回路を含んでいてもよい。
【0034】
制御ユニット23は、生体情報分析システム10の各部の制御、測定ユニット2からのデータの取り込み、取り込んだデータの記憶ユニット27への格納、データの処理・分析、データの入出力などの各種処理を担うユニットである。制御ユニット23は、ハードウェアプロセッサ(以下、CPUと呼ぶ)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、などを含む。後述する制御ユニット23の処理は、CPUがROM又は記憶ユニット27に記憶されているプログラムを読み込み実行することにより実現される。RAMは、制御ユニット23が各種処理を行う際のワークメモリとして機能する。なお、本実施形態では、測定ユニット2からのデータの取り込み、及び、記憶ユニット27へのデータの格納を制御ユニット23が実行する構成としたが、測定ユニット2から記憶ユニット27へ直接データが格納(書き込み)されるように構成してもよい。
【0035】
実施形態の各構成要素、例えば、測定ユニット、指標抽出部、処理部、判断部、リスクデータベース、入力ユニット、出力ユニット及び、症例データベース等は、生体情報分析システム10にハードウエアで実装されてもよい。指標抽出部、処理部、及び判断部は、記憶ユニット27に格納された実行可能なプログラムを受信して実行してもよい。指標抽出部、処理部、及び判断部は、必要に応じて血圧測定ユニット20、体動測定ユニット21、環境測定ユニット22、入力ユニット24、出力ユニット25、通信ユニット26、記憶ユニット27等からデータを受信してもよい。リスクデータベース及び症例データベース等のデータベースは、記憶ユニット27等で実装され、データを検索や蓄積が容易にできるよう整理された情報を格納してもよい。ここで、例えば、生体情報分析システム10の構造や動作等については、特願2016−082069号に開示される。その内容は、引用により本明細書に組み込まれる。また、血圧測定ユニットの構造や動作等については、特開2016−087003号公報に開示される。その内容は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0036】
入力ユニット24は、ユーザに対し操作インタフェースを提供するユニットである。例えば、操作ボタン、スイッチ、タッチパネルなどを用いることができる。
【0037】
出力ユニット25は、ユーザに対し情報出力を行うインタフェースを提供するユニットである。例えば、画像により情報を出力する表示装置(液晶ディスプレイなど)、音声により情報を出力する音声出力装置やブザー、光の明滅により情報を出力するLED、振動により情報を出力する振動装置などを用いることができる。
【0038】
通信ユニット26は、他のデバイスとの間でデータ通信を行うユニットである。データ通信方式は、無線LAN、Bluetooth(登録商標)などどのような方式でもよい。
【0039】
記憶ユニット27は、データの記憶及び読み出しが可能な記憶媒体であり、制御ユニット23で実行されるプログラム、各測定ユニットから得られた測定データ、測定データを処理することで得られた各種のデータなどを記憶する。記憶ユニット27は、記憶対象となる情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって蓄積する媒体である。例えばフラッシュメモリが用いられる。記憶ユニット27は、メモリカード等の可搬型のものであってもよいし、生体情報分析システム10に内蔵されていてもよい。
【0040】
体動測定ユニット21、環境測定ユニット22、制御ユニット23、入力ユニット24、出力ユニット25、記憶ユニット27の一部又は全部を、本体部11とは別のデバイスで構成してもよい。すなわち、血圧測定ユニット20とその制御を行う回路を内蔵する本体部11が手首に装着可能な形態であれば、それ以外のユニットの構造については自由に設計できる。この場合、本体部11は通信ユニット26を介して別のユニットと連携する。例えば、制御ユニット23や入力ユニット24や出力ユニット25の機能をスマートフォンのアプリで構成したり、体動測定ユニット21や環境測定ユニット22の機能を有する活動量計から必要なデータを取得する等、さまざまな構成が考えられる。また、血圧以外の生体情報を測定するセンサを設けてもよい。例えば、睡眠センサ、パルスオキシメーター(SpOセンサ)、呼吸センサ(フローセンサ)、血糖値センサなどを組み合わせてもよい。
【0041】
なお、本実施形態では、血圧を測定するセンサ(血圧測定ユニット20)と血圧波形データの分析処理を行う構成(制御ユニット23等)を1つの装置内に設けたが、それらを別体の構成としてもよい。本実施形態では、生体情報の分析処理を行う構成(制御ユニット23等)を生体情報分析装置と呼び、測定ユニットと生体情報分析装置の組み合わせで構成される装置を生体情報分析システムと呼ぶ。しかし、名称は便宜的なものであり、測定ユニットと生体情報の分析処理を行う構成の全体を生体情報分析装置と呼んでもよいし、他の名称を用いてもよい。
【0042】
<血圧波形の測定>
図3は血圧測定ユニット20の構造と測定時の状態を模式的に示す断面図である。血圧測定ユニット20は、圧力センサ30と、圧力センサ30を手首に対して押圧するための押圧機構31と、を備える。圧力センサ30は、複数の圧力検出素子300を有している。圧力検出素子300は、圧力を検出して電気信号に変換する素子であり、例えばピエゾ抵抗効果を利用した素子などを好ましく用いることができる。押圧機構31は、例えば、空気袋とこの空気袋の内圧を調整するポンプとにより構成される。制御ユニット23がポンプを制御し空気袋の内圧を高めると、空気袋の膨張により圧力センサ30が皮膚表面に押し当てられる。なお、押圧機構31は、圧力センサ30の皮膚表面に対する押圧力を調整可能であれば何でもよく、空気袋を用いたものに限定されない。
【0043】
生体情報分析システム10を手首に装着し起動すると、制御ユニット23が血圧測定ユニット20の押圧機構31を制御し、圧力センサ30の押圧力を適切な状態(トノメトリ状態)に維持する。そして、圧力センサ30で検知された圧力信号が制御ユニット23に順次取り込まれる。圧力センサ30より得られる圧力信号は、圧力検出素子300が出力するアナログの物理量(例えば電圧値)を、公知の技術のA/D変換回路等を通してデジタル化して生成される。当該アナログの物理量は、圧力検出素子300の種類に応じて、電流値や抵抗値など好適なアナログ値が採用されてよい。当該A/D変換等の信号処理は、血圧測定ユニット20の中に所定の回路を設けて行ってもよいし、血圧測定ユニット20と制御ユニット23の間に設けたその他のユニット(図示せず)で行ってもよい。制御ユニット23に取り込まれた当該圧力信号は、橈骨動脈TDの内圧の瞬時値に相当する。したがって、1心拍の血圧波形を把握することが可能な時間粒度及び連続性で圧力信号を取り込むことにより、血圧波形の時系列データを取得することができる。制御ユニット23は、圧力センサ30より順次取り込んだ圧力信号をその測定時刻の情報とともに記憶ユニット27に格納する。制御ユニット23は、取り込んだ圧力信号をそのまま記憶ユニット27に格納してもよいし、当該圧力信号に対して必要な信号処理を施した後で記憶ユニット27に格納してもよい。必要な信号処理は、例えば、圧力信号の振幅が血圧値(例えば上腕血圧)と一致するように圧力信号を較正する処理、圧力信号のノイズを低減ないし除去する処理などを含んでもよい。
【0044】
図4は、血圧測定ユニット20で測定される血圧波形を示す。横軸が時間、縦軸が血圧である。サンプリング周波数は任意に設定できるが、1心拍の波形の形状的な特徴を再現するため、100Hz以上に設定することが好ましい。1心拍の周期は概ね1秒程度であるから、1心拍の波形について約100点以上のデータ点が取得されることとなる。
【0045】
本実施形態の血圧測定ユニット20は以下のような利点を有する。
【0046】
1心拍ごとの血圧波形を計測することができる。これにより例えば、血圧波形の形状的な特徴に基づき、血圧や心臓の状態、心血管リスクなどに関連する様々な指標を得ることができる。また、血圧の瞬時値を監視することができるため、血圧サージ(血圧値の急激な上昇)を即座に検出したり、極めて短い時間(1〜数回の心拍)だけに現れる血圧変動や血圧波形の乱れでも漏れなく検出することが可能となる。
【0047】
なお、携帯型血圧計としては、手首や上腕に装着しオシロメトリック法により血圧を測定するタイプの血圧計が実用化されている。しかし、従来の携帯型血圧計では、数秒から十数秒間の複数心拍分のカフ内圧の変動から血圧の平均値を測定することしかできず、本実施形態の血圧測定ユニット20のように1心拍ごとの血圧波形の時系列データを得ることはできない。
【0048】
血圧波形の時系列データを記録可能である。血圧波形の時系列データを取得することにより、例えば、血圧波形の時間的な変化に関わる特徴を捉えたり、時系列データを周波数解析して特定の周波数成分を抽出したりすることで、血圧や心臓の状態、心血管リスクなどに関連する様々な指標を得ることができる。
【0049】
携帯型(ウェアラブル型)の装置構成としたので、ユーザに与える測定負担が小さく、長時間の連続的な測定や、さらには24時間の血圧の監視なども比較的容易である。また、携帯型のため、安静時の血圧だけでなく、自由行動下(例えば日常生活や運動中)の血圧変化も測定可能である。これにより例えば、日常生活における行動(睡眠、食事、通勤、仕事、服薬など)や運動が血圧に与える影響を把握することが可能となる。
【0050】
従来製品は、血圧測定ユニットに対し腕及び手首を固定し、安静状態にて計測するタイプの装置であり、本実施形態の生体情報分析システム10のように日常生活や運動中の血圧変化を測定することはできない。
【0051】
他のセンサとの組み合わせや連携が容易である。例えば、他のセンサにより得られる情報(体動、気温等の環境情報、SpOや呼吸等の他の生体情報など)との因果関係の評価や複合的な評価を行うことができる。
【0052】
<生体情報分析装置>
図5は、生体情報分析装置1の処理を説明するブロック図である。図5に示すように、生体情報分析装置1は、指標抽出部50と処理部51を有している。本実施形態では、制御ユニット23が必要なプログラムを実行することによって、指標抽出部50及び処理部51の処理が実現されてもよい。当該プログラムは、記憶ユニット27に記憶されていてもよい。制御ユニット23が必要なプログラムを実行する際は、ROM又は記憶ユニット27に記憶された、対象となるプログラムをRAMに展開する。そして、制御ユニット23は、RAMに展開された当該プログラムをCPUにより解釈及び実行して、各構成要素を制御する。ただし、指標抽出部50及び処理部51の処理の一部又は全部をASICやFPGAなどの回路で構成してもよい。あるいは、指標抽出部50及び処理部51の処理の一部又は全部を、本体部11とは別体のコンピュータ(例えば、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータ、クラウドサーバなど)で実現してもよい。
【0053】
指標抽出部50は、血圧測定ユニット20により連続的に計測される血圧波形の時系列データを記憶ユニット27から取得する。指標抽出部50は、取得した血圧波形の時系列データから血圧波形の特徴に関わる指標を抽出する。ここで、血圧波形の特徴とは、1心拍の血圧波形の形状的な特徴、血圧波形の時間的な変化、血圧波形の周波数成分などを含む。しかし、血圧波形の特徴はこれらには限られない。抽出された指標は、処理部51へ出力される。血圧波形の特徴及び指標については様々なものがあり、処理部51による処理の目的に応じて、抽出する特徴及び指標は適宜設計ないし選択することができる。本実施形態の血圧波形の測定データから抽出可能な特徴及び指標については後ほど詳しく説明する。
【0054】
指標抽出部50は、指標を求める際に、血圧波形の測定データに加えて、体動測定ユニット21の測定データ及び/又は環境測定ユニット22の測定データを用いることもできる。また、図示しないが、睡眠センサ、SpOセンサ、呼吸センサ(フローセンサ)、血糖値センサなどの測定データを組み合わせてもよい。複数種類のセンサにより得られる複数種類の測定データを複合的に分析することによって、血圧波形のより高度な情報分析が可能となる。例えば、安静時と動作時、気温が高い時と低い時、睡眠が浅い時と深い時、呼吸時と無呼吸時というように、ユーザの状態ごとに血圧波形のデータを分類することができる。あるいは、体動、活動量や活動強度、気温の変化、無呼吸、呼吸の仕方などが血圧に与える影響を抽出するなど、各測定データの因果関係や相関などを評価することもできる。なお、無呼吸には、閉塞性無呼吸、中枢性無呼吸、混合性無呼吸などが含まれる。
【0055】
処理部51は、指標抽出部50によって抽出された指標を受信する。処理部51は、受信した指標に基づく処理を行う。指標に基づく処理には、様々なものが想定できる。例えば、抽出された指標の値や変化などをユーザや医師、保健師などに提示し、健康管理や治療や保健指導などへの活用を促してもよい。あるいは、抽出された指標から循環器系リスクを推測したり、健康維持あるいはリスク改善のための指針を提示したりしてもよい。さらには、指標に基づき心疾患リスクの上昇が検知あるいは予測された場合に、ユーザや担当医などに報知したり、ユーザの心臓等に負担となる行動や循環器系イベントの発生を阻止する制御を行ってもよい。
【0056】
<血圧波形から取得される情報>
図6は1心拍の橈骨動脈の圧脈波の波形(血圧波形)を示している。横軸は時間t[msec]であり、縦軸は血圧BP[mmHg]である。
【0057】
血圧波形は、心臓が収縮し血液を送り出すことで発生する「駆出波」と、駆出波が末梢血管や動脈の分岐部で反射することにより発生する「反射波」との合成波となる。1心拍の血圧波形から抽出可能な特徴点の一例を以下に示す。
【0058】
・点F1は、圧脈波の立ち上がり点である。点F1は、心臓の駆出開始点、つまり大動脈弁の開放点に対応する。
・点F2は、駆出波の振幅(圧力)が最大となる点(第1ピーク)である。
・点F3は、反射波の重畳により、駆出波の立下りの途中で現れる変曲点である。
・点F4は、駆出波と反射波の間に現れる極小点であり、切痕とも呼ばれる。これは大動脈弁の閉鎖点に対応する。
・点F5は、点F4の後に現れる反射波のピーク(第2ピーク)である。
・点F6は、1心拍の終点であり、次の心拍の駆出開始点つまり次の心拍の始点に対応する。
【0059】
指標抽出部50は、上記特徴点の検出にどのようなアルゴリズムを用いてもよい。例えば、指標抽出部50が演算して、血圧波形のn次微分波形を求め、そのゼロクロス点を検出することにより、血圧波形の特徴点(変曲点)を抽出してもよい(点F1、F2、F4、F5、F6については1次微分波形から、点F3については2次微分波形又は4次微分波形から検出可能である。)。あるいは、指標抽出部50は、特徴点が予め配置された波形パターンを記憶ユニット27から読み出し、当該波形パターンを対象となる血圧波形にフィッティングすることにより、各特徴点の位置を特定してもよい。
【0060】
上記特徴点F1〜F6の時刻t及び圧力BPに基づき、指標抽出部50が演算して、1心拍の血圧波形から様々な情報(値、特徴量、指標など)を得ることができる。以下、血圧波形から取得可能な情報の代表的なものを例示する。ただし、txとBPxはそれぞれ特徴点Fxの時刻と血圧を表す。
【0061】
・脈波間隔(心拍周期)TA=t6−t1
・心拍数PR=1/TA
・脈波立上り時間UT=t2−t1
・収縮期TS=t4−t1
・拡張期TD=t6−t4
・反射波遅延時間=t3−t1
・最高血圧(収縮期血圧)SBP=BP2
・最低血圧(拡張期血圧)DBP=BP1
・平均血圧MAP=t1〜t6の血圧波形の面積/心拍周期TA
・収縮期の平均血圧=t1〜t4の血圧波形の面積/収縮期TS
・拡張期の平均血圧=t4〜t6の血圧波形の面積/拡張期TD
・脈圧PP=最高血圧SBP−最低血圧DBP
・収縮後期圧SBP2=BP3
・AI(Augmentation Index)=(収縮後期圧SBP2−最低血圧DBP)/脈圧PP
【0062】
これらの情報(値、特徴量、指標)の基本統計量も指標として用いることができる。基本統計量は、例えば、代表値(平均値、中央値、最頻値、最大値、最小値など)、散布度(分散、標準偏差、変動係数など)を含む。また、これらの情報(値、特徴値、指標)の時間的な変化も指標として用いることができる。
【0063】
また、指標抽出部50は、複数の拍情報を演算することでBRS(血圧調整能)という指標を得ることもできる。これは、血圧を一定に調整しようとする能力を表す指標である。算出方法は例えばSpontaneous sequence法などがある。これは、連続して3拍以上にわたり最高血圧SBPと脈波間隔TAとが同期して上昇、または下降するシーケンスのみを抽出し、最高血圧SBPと脈波間隔TAを2次元平面上にプロットし、回帰直線を最小二乗法により求めたときの傾きをBRSとして定義する方法である。
【0064】
以下、生体情報分析システム10の具体的な応用について、いくつかの実施例を例示的に説明する。
【0065】
<実施例1>
本実施例は、連続的に計測される血圧波形の瞬時心駆出量に基づいて心臓の状態や心疾患リスクを指標化する実施例である。
【0066】
心臓の状態や心肥大・心拡大のリスクの評価指標として心駆出量(SV:Stroke Volume,心拍出量とも呼ばれる)が知られている。心駆出量(SV)は、心臓の前負荷を表す指標でもある。心駆出量(SV)は、脈圧(PP)と大動脈の硬化度(Stiffness:コンプライアンスCの逆数)から、SV=PP/Stiffnessとして算出可能である。ここで、大動脈硬化度Stiffnessが変化しない程度の期間であれば、SV=PPとすることもできる。
【0067】
また、心駆出量(SV)は、トノメトリ法で取得した血圧波形データを元に、
SV=ΔP+PAV×Tとして求めることもできる。ここで、ΔPは駆出の終わりの血圧と駆出の始まりの血圧の差、PAVは駆出の平均血圧、Tは駆出の持続時間である。この算出式の方が心駆出量との相関がより良い。
【0068】
心駆出量を用いて心拡大・心肥大のリスクを評価することができるが、従来の血圧測定装置では、1拍ごとの心駆出量が測定できない(スポット血圧計)、正確性に欠ける(パルスオキシメータ)、自由行動下で長時間(たとえば一晩)測定できない(観血法、トノメトリ法による従来装置)という問題がある。そこで本実施例では、長時間にわたり測定した1拍ごとの心駆出量を用いて、心臓の状態や心疾患リスクを容易に把握できるようにする方法を提案する。
【0069】
(指標)
本実施例では、長時間(たとえば、一晩から数日程度)にわたり血圧波形データを測定し、1拍ごとのSV値を求め、SV値の分布に基づいて心臓の状態を表す指標(心臓状態指標)を求める。心臓状態指標は、心疾患リスクを表す指標とも捉えられる。
【0070】
1心拍ごとのSV値は、瞬間的な心臓負荷を表す指標であり、瞬時心臓負荷指標の一例である。以下では、1心拍ごとのSV値を、瞬時SV値(瞬時心駆出量)とも称する。本実施例では、瞬時SV値の分布に基づいて、心臓状態指標が算出される。
【0071】
図7(A)は、測定期間における瞬時SV値の分布を表すグラフ4100である。図中の点線4101は測定対象ユーザのSV値の最大値(飽和点)を表す。飽和点のSV値は、あらかじめ運動負荷を与えた測定によって決定しておくことが好ましい。あるいは、測定期間内にユーザが所定強度以上の運動を行うのであれば、期間内のSV値の最大値を飽和点として採用してもよい。所定強度の運動とは、測定対象ユーザのSV値が飽和する程度の強度の運動である。
【0072】
本実施例における第1の心臓状態指標INDEX1は、閾値Th1を超えるSV値の頻度割合である。すなわち、点線4101と点線4102のあいだのSV値頻度の全体頻度に対する割合である。ここで、閾値Th1は、飽和点SV値に基づいて決定すればよく、たとえば飽和点SV値の80%の値とすることができる。指標INDEX1は、過剰な前負荷の発生割合を表す指標といえる。したがって、指標INDEX1の大きさにより、心拡大のリスクが分かる。なお、閾値Th1は飽和点SV値の80%である必要は無く、たとえば、飽和点SV値の70〜90%の範囲内の値であってもよく、その他の値であってもよい。
【0073】
本実施例における第2の心臓状態指標INDEX2は、閾値Th2を下回るSV値の頻度割合である。すなわち、点線4103以下であるSV値頻度の全体頻度に対する割合である。ここで、閾値Th2は、一般的な基準値の下限に基づいて決定し、全てのユーザに対して同一の値としてもよい。例えば60ml/beatに基づいた値とすることができる。指標INDEX2は、前負荷低下の発生割合を表す指標といえる。したがって、指標INDEX2の大きさにより、血栓のリスクが分かる。
【0074】
本実施例における第3の指標INDEX3は、飽和点におけるSV値(最大瞬時心駆出量)である。上述したように、飽和点SV値は、運動負荷を与えた測定によりあらかじめ測定しておくことが好ましいが、測定期間中にユーザが所定強度以上の運動を行っている状態で測定し、瞬時SV値の最大値として決定してもよい。心筋繊維の伸展が限界を超えると心駆出量SVは飽和する。飽和点SV値が小さい場合には、心筋の拡張限界が低下し心蔵の容積が低下していると判定できる。すなわち、飽和点SV値の値から心肥大のリスクを把握できる。また、飽和点SV値が閾値SVTh以下の場合に、心肥大のリスクが高いと判断することもできる。閾値SVThは一般的な基準値の下限に基づいて決定するとよい。例えば60ml/beatに基づいた値とすることができる。
【0075】
(画面表示例)
本実施例において、図7(A)に示すようなSV値のヒストグラムやヒストグラムから得られる上記指標INDEX1〜3を画面表示として提供するとよい。
【0076】
また、図7(B)に示すように、SV値の時間変化のグラフとともに上記指標INDEX1〜3を表示することも好ましい。グラフ4110がSV値の時間変化を表し、点線4111がSV値の最大値、点線4112が閾値Th1、点線4113が閾値Th2を示す。表示4120には心臓状態指標INDEX1〜3の値が示される。指標INDEX1〜3の値は、心疾患のリスクが高いと判断される場合には、色や大きさなどの表示態様を変えて強調表示してもよいし、リスクが高いという注釈とともに表示してもよいし、リスクが高いと判断される場合のみ表示してもよい。このようなグラフ表示により、ユーザの心臓の状態や心疾患のリスクを容易に把握でき、かつ、心疾患リスクを伴う心駆出量の変化がいつ起こっているかを容易に把握できる。
【0077】
また、瞬時SV値を、ユーザの状態や環境の状態と関連付けて表示することも好ましい。たとえば、図7(B)に示すように、SV値の時間変化のグラフを、就寝の時間帯4114や高温の時間帯4115などが分かるような態様で表示を行うとよい。たとえば、就寝時のSV値上昇は呼吸異常が原因であるとか、高温時のSV値低下は脱水が原因であるとかというように、SV値の変動の原因を推定でき、それにより予防や治療に役立てることができる。なお、就寝状態は体動測定ユニット21の測定データや計測時刻データから把握できる。高温などの温度情報は環境測定ユニット22の測定データから把握できる。これらの情報は、ユーザや第三者(医師等)による入力ユニット24への入力に基づいて取得したりすることもできる。
【0078】
また、瞬時SV値と環境状態を関連付けて表示する別の例として、上記のグラフ4110に重畳させて影響因子(たとえば、気温)やその他の指標の時間変化を表示することも好ましい。影響因子とSV値の時間変動の重畳表示は、SV値上昇の発生原因の特定に役立つ。
【0079】
また、瞬時SV値と環境状態を関連付けて表示するさらに別の例として、図7(C)のように、SV値と影響因子とを軸にとって測定データを散布図の形式で表示することも有用である。たとえば、同一時刻における影響因子の測定値とSV値とをそれぞれx座標値およびy座標値とするプロットを含む散布図が利用できる。このような表示は、表示されている影響因子が心負荷を与えている原因であるか否かの判定に役立つ。したがって、複数の影響因子について図7(C)のような表示を行うことで、心負荷を与えている原因を特定できる。
【0080】
(処理例)
図8は本実施例における処理の流れを説明するフローチャートである。ステップS101において、ユーザの連続血圧波形データの計測を行う。すなわち、ユーザは生体情報分析システム10を装着した状態で通常の生活をおくる。測定期間中、血圧測定ユニット20は血圧波形を測定し、測定データをローカルの記憶ユニット27に記憶するか、通信ユニット26を介してクラウドサーバに送信しクラウドサーバ内のメモリに記憶する。同時に、体動測定ユニット21や環境測定ユニット22は、センサから得られるデータを同様にメモリに記憶する。ステップS101の測定期間の長さは特に限定されないが、一晩あるいは数日程度、またはそれ以上とするとよい。
【0081】
なお、測定期間中に少なくとも1回、所定強度以上の運動を行うように、出力ユニット25からユーザに指示するようにしてもよい。
【0082】
ステップS101の測定が終了したら、指標抽出部50は、瞬時心臓負荷指標として1心拍ごとのSV値を求める。具体的には、指標抽出部50は、まず、記憶ユニット27あるいはクラウドサーバから測定された血圧波形の測定データを取得し、拍単位にデータ分割する。この分割は、血圧波形データから、駆出開始点(図6の点F1)を求め、隣接する駆出開始点の間のデータを1拍とすることによって行える。そして、指標抽出部50は、拍ごとにSV値を求める。ここでSV=PPとして求めてもよいが、SV=ΔP+PAV×Tとして求める方がより好ましい。
【0083】
ステップS103において、指標抽出部50は、1心拍ごとのSV値の分布に基づいて、心臓状態指標を求める。より詳細には、指標抽出部50は、閾値Th1以上のSV値を有する拍の全拍数に対する割合を、指標INDEX1として求める。また、指標抽出部50は、閾値Th2未満のSV値を有する拍の全拍数に対する割合を、指標INDEX2として求める。また、指標抽出部50は、測定データにおける瞬時SV値の最大値、すなわち飽和点SV値を、指標INDEX3として求める。なお、INDEX1,INDEX2の値は上述の割合自体である必要はなく、当該割合に基づいて決定される値であってもよい。INDEX3についても同様に、飽和SV値である必要は無く、飽和SV値に基づいて決定される値であってもよい。
【0084】
ステップS104において、処理部51は、ステップS103において求めた心臓状態指標INDEX1〜3を含む画像表示を出力する。
【0085】
たとえば、処理部51は、図7(B)に示すように、心臓状態指標INDEX1〜3を数値で示す表示4120と、計測期間中の瞬時SV値の時間変化を示すグラフ4110とを含む画像データを生成して、出力ユニット25により表示する。グラフ4110は、横軸は時刻であり、縦軸はSV値(心臓負荷指標)である。また、グラフは上述の閾値Th1およびTh2が分かる態様で表示される。したがって、どの時間帯に心臓負荷が大きくあるいは小さくなるかをユーザあるいは医師等が容易に把握できる。
【0086】
さらに、処理部51は、体動測定ユニット21の測定データ(および時間帯)に基づいてユーザが特定の状態にある時間帯を特定し、その時間帯が分かる態様でグラフを表示してもよい。たとえば、処理部51は、時間帯4114においてユーザの体動が少なくかつ時間帯が夜間であることから、時間帯4114においてユーザが就寝状態であると特定してもよい。あるいは、処理部51は、ユーザの体動が大きいことからユーザが運動状態であることを特定したり、就寝状態から体動が大きくなった時点を起床時と特定したりしてもよい。また、処理部51は、環境測定ユニット22の測定データに基づいて環境が特定の状態にある時間帯を特定し、その時間帯が分かる態様でグラフを表示したりしてもよい。たとえば、処理部51は、環境温度を取得し、環境温度が閾値以上ある期間を高温状態であると特定してもよい。ユーザの状態や環境の状態をあわせて表示することによって、どのような原因で心臓負荷が上昇あるいは低下するのかをユーザや医師等が容易に理解できる。
【0087】
図7(B)の例では心臓状態指標INDEX1〜3は数値として表示しているが、処理部51は、心臓状態指標INDEX1〜3を数値以外の態様で表示してもかまわない。また、処理部51は、指標INDEX1が閾値以上であれば心拡大リスクが高い旨の表示をしたり、指標INDEX2が閾値以下であれば血栓リスクが高い旨を表示したり、指標INDEX3が閾値以下であれば心肥大リスクが高い旨を表示したりしてもよい。
【0088】
図7(C)は、影響因子(ここでは、温度)とSV値の関係を示した散布図4131と心臓状態指標INDEX1〜3の表示4132を含む出力画面の例である。処理部51は、同一時刻のSV値と温度の測定データを記憶ユニット27(あるいはクラウドサーバ)から取得し、温度の値をx座標としSV値をy座標とする複数の点を含む散布図4131の画像データを生成する。心臓状態指標INDEX1〜3については図7(B)と同様であるため説明を省略する。
【0089】
本実施例によれば、長期間にわたる測定において1拍ごとのSV値を用いて、心臓の状態や心疾患リスク、さらには心疾患リスクを高める原因を容易に把握できるようになる。特に、1拍ごとの血圧波形データを利用できるので、急激な血圧変化時の瞬時心臓負荷が分かる。
【0090】
<実施例2>
本実施例は、心疾患リスクを指標化する実施例である。
【0091】
心臓の状態や心肥大のリスクの評価指標として全末梢血管抵抗(TPR:Total Peripheral Resistance)が知られている。全末梢血管抵抗(TPR)は、心臓の後負荷を表す指標でもある。
【0092】
全末梢血管抵抗(TPR)は、トノメトリ法で取得した血圧波形データを元に、
TPR=MBP・Stiffness/(PP・PR)として求めることができる。ここで、MBPは平均血圧、PPは脈圧、PRは脈拍数、Sitffnessは大動脈の硬化度(コンプライアンスCの逆数)である。
【0093】
大動脈硬化度Stiffnessが変化しない程度の期間であれば、全末梢血管抵抗は、
TPR=MBP/(PP・PR)とすることもできる。
【0094】
全末梢血管抵抗を用いて心肥大のリスクを評価することができるが、従来の血圧測定装置では、1拍ごとの全末梢血管抵抗が測定できない(スポット血圧計)、正確性に欠ける(パルスオキシメータ)、自由行動下で長時間(たとえば一晩)測定できない(観血法、トノメトリ法による従来装置)という問題がある。そこで本実施例では、長時間にわたり測定した1拍ごとの全末梢血管抵抗を用いて、心臓の状態や心疾患リスクを容易に把握できるようにする方法を提案する。
【0095】
(指標)
本実施例では、長時間(たとえば、一晩から数日程度)にわたり血圧波形データを測定し、1拍ごとのTPR値を求め、TPR値の分布に基づいて心臓の状態を表す指標(心臓状態指標)を求める。心臓状態指標は、心疾患リスクを表す指標とも捉えられる。
【0096】
1心拍ごとのTPR値は、瞬間的な心臓負荷を表す指標であり、瞬時心臓負荷指標の一例である。以下では、1心拍ごとのTPR値を、瞬時TPR値(瞬時全末梢血管抵抗)とも称する。本実施例では、瞬時TPR値の分布に基づいて、心臓状態指標が算出される。
【0097】
図9(A)は、測定期間における瞬時TPR値の分布を表すグラフ4200である。本実施例における心臓状態指標INDEX4は、閾値Th3以上のTPR値の頻度割合である。すなわち、点線4201以上のTPR値頻度の全体頻度に対する割合である。ここで、閾値Th3の値は、それ以上であれば過剰な後負荷が発生していると判断される値であり、一般的な基準値の上限に基づいて決定するとよい。たとえば閾値Th3を1200dynes・sec/cmとすることができる。
【0098】
閾値Th3以上のTPR値は、過剰な後負荷が発生していることを表す。したがって、上記の指標INDEX4は過剰な後負荷の発生割合を表す指標といえる。したがって、指標INDEX4の大きさにより、心肥大のリスクが分かる。
【0099】
(画面表示例)
本実施例において、図9(A)に示すようなTPR値のヒストグラムやヒストグラムから得られる上記指標INDEX4を画面表示として提供するとよい。
【0100】
また、図9(B)に示すように、TPR値の時間変化のグラフとともに上記指標INDEX4を表示することも好ましい。グラフ4210がTPR値の時間変化を表す。表示4220には、心臓状態指標INDEX4の値が示される。指標INDEX4の値は、心疾患のリスクが高いと判断される場合には、色や大きさなどの表示態様を変えて強調表示してもよいし、リスクが高いという注釈とともに表示してもよいし、リスクが高いと判断される場合のみ表示されてもよい。このようなグラフ表示により、ユーザの心臓の状態や心疾患のリスクを容易に把握でき、かつ、心疾患リスクを伴うTPR値の変化がいつ起こっているかを容易に把握できる。
【0101】
また、図9(B)に示すように就寝時刻4214や起床時刻4215などが分かるような態様で表示を行うとよい。その他にも、食事や運動の期間などを表示することも好ましい。
【0102】
TPR値と起床・就寝時刻等を同時に表示することで、TPR値上昇の原因の特定が容易となる。たとえば、点4211および点4212におけるTPR値の上昇は、夜間に生じているので睡眠時無呼吸に起因する可能性が想定される。したがって、その他の無呼吸指標と比較することで、原因を特定できる。また起床後(朝)におけるTPR値の上昇は、気温の上昇に起因する可能性が高い。したがって、気温と比較することで原因を特定できる。
【0103】
また、上記のグラフに重畳させて、その他の指標(たとえば睡眠時無呼吸を表す指標)や影響因子(たとえば、気温)の時間変動を表示することも好ましい。影響因子とTPR値の時間変動の重畳表示は、TPR値上昇の発生原因の特定に役立つ。
【0104】
さらに、TPR値と影響因子とを軸にとって測定データを散布図の形式で表示することも有用である。このような表示は、心負荷を与えている原因の特定に役立つ。
【0105】
なお、起床・就寝時刻や気温などの影響因子は体動測定ユニット21や環境測定ユニット22から取得したり、ユーザによる入力ユニット24への入力に基づいて取得したりすることができる。
【0106】
(処理例)
本実施例における処理は、実施例1と同様に図8のフローチャートにしたがって実施される。以下、主に実施例1との相違点について説明する。
【0107】
ステップS101の処理は実施例1と同様である。ステップS102は、血圧波形を拍単位のデータに分割する点は実施例1と同様であるが、拍単位のデータから求める瞬時心臓負荷指標が実施例1と異なる。本実施例では、指標抽出部50は、瞬時心臓負荷指標として、1心拍ごとのTPR値を求める。ここで、指標抽出部50は、TPR=MBP/(PP・PR)として、TPR値を求める。
【0108】
ステップS103において、指標抽出部50は、閾値Th3以上のTPR値を有する拍の全拍数に対する割合を、指標INDEX4として求める。
【0109】
ステップS104において、処理部51は、図9(B)のような画面表示を出力する。この際、指標INDEX4が閾値以上であれば心肥大リスクがある旨の表示をする。図9(B)では、処理部51は、ユーザが特定の動作(就寝や起床)を行った時刻が分かる態様の表示画面を生成しているが、実施例1と同様にユーザや環境が特定の状態にある時間が分かる態様の表示画面を生成してもよい。
【0110】
本実施例によれば、長期間にわたる測定において1拍ごとのTPR値を用いて、心疾患リスク、さらには心疾患リスクを高める原因を容易に把握できるようになる。特に、1拍ごとの血圧波形データを利用できるので、急激な血圧変化時の瞬時心臓負荷が分かる。
【0111】
(変形例)
瞬時TPR値の増加は、無呼吸が原因となって引き起こされることがある。したがって、ユーザの睡眠中に発生する瞬時TPR値の上昇は、睡眠時無呼吸のような呼吸異常(循環器疾患)のリスクを表す兆候として利用できる。そこで、処理部51は、ユーザの睡眠中に瞬時TPR値の閾値Th3以上への上昇を検出した場合に、呼吸異常のリスクがある旨を出力ユニット25から出力してもよい。睡眠の検出は、体動測定ユニット21による測定データや測定時刻などに基づいて行える。
【0112】
また、瞬時TPR値の増加は、気温が原因となって引き起こされることがある。たとえば、朝に瞬時TPR値が増加する場合、気温の上昇が原因である可能性がある。したがって、瞬時TPR値が増加している際の気温測定データを参照することで、瞬時TPR値の増加が気温を原因とするものであるか否かを判断できる。すなわち、瞬時TPR値の増加と気温の相関を調べることで、ユーザの血圧の気温感受性を把握できる。処理部51は、たとえば、朝の時間帯にユーザの瞬時TPR値が閾値Th3以上への増加を検出した場合に、ユーザの血圧の気温感受性が高い旨を出力ユニット25から出力してもよい。あるいは、血圧測定期間中の温度データが利用可能であれば、処理部51は、瞬時TPRが増加しているときの温度データを取得して、その期間において気温が上昇しているか否かを判断してもよい。その期間において気温が上昇している場合には、処理部51は、朝の時間帯の瞬時TPR値の増加が気温を原因とするものであると特定し、その旨を出力ユニット25から出力してもよい。
【0113】
(付記1)
生体情報分析装置であって、
ハードウェアプロセッサと、プログラムを記憶するメモリとを有し、
前記ハードウェアプロセッサは、前記プログラムにより、
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測される血圧波形のデータを取得し、
前記血圧波形のデータから1心拍ごとに心臓負荷指標を抽出し、
複数心拍分の前記心臓負荷指標の分布に関わる特徴に基づいて、心臓の状態を表す指標を求め、
前記心臓の状態を表す指標を出力する、
ことを特徴とする生体情報分析装置。
【0114】
(付記2)
生体情報分析システムであって、
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサと、ハードウェアプロセッサと、プログラムを記憶するメモリとを有し、
前記ハードウェアプロセッサは、前記プログラムにより、
前記センサにより連続的に計測される血圧波形のデータを取得し、
前記血圧波形のデータから1心拍ごとに心臓負荷指標を抽出し、
複数心拍分の前記心臓負荷指標の分布に関わる特徴に基づいて、心臓の状態を表す指標を求め、
前記心臓の状態を表す指標を出力する、
ことを特徴とする生体情報分析システム。
【0115】
(付記3)
生体情報分析方法であって、
少なくとも1つのハードウェアプロセッサによって、ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測される血圧波形のデータを取得するステップと、
少なくとも1つのハードウェアプロセッサによって、前記血圧波形のデータから1心拍ごとに心臓負荷指標を抽出するステップと、
少なくとも1つのハードウェアプロセッサによって、複数心拍分の前記心臓負荷指標の分布に関わる特徴に基づいて、心臓の状態を表す指標を求めるステップと、
少なくとも1つのハードウェアプロセッサによって、前記心臓の状態を表す指標を出力するステップと、
を含むことを特徴とした生体情報分析方法。
【符号の説明】
【0116】
1:生体情報分析装置、2:測定ユニット
10:生体情報分析システム、11:本体部、12:ベルト
20:血圧測定ユニット、21:体動測定ユニット、22:環境測定ユニット、23:制御ユニット、24:入力ユニット、25:出力ユニット、26:通信ユニット、27:記憶ユニット
30:圧力センサ、31:押圧機構、300:圧力検出素子
50:指標抽出部、51:処理部
90:設定テーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9