【実施例】
【0040】
以下に、本発明の具体例について説明する。各試験には、表1に示す品種・産地のゴマを使用した。
【表1】
【0041】
また、各光センシング情報の測定は次のように行った。
<蛍光X線分光情報の測定>
蛍光X線分光計測部として、エネルギー分散型蛍光X線分光分析装置(Energy dispersive X-ray Fluorescence Spectrometer)である、島津製作所製のRayny EDX-700を使用した。解析ソフトには、島津製作所社製のEDXソフトウェアDXP-700 Version 1.00 Rel.008を用いた。測定の際は、ゴマを専用の測定用容器にすりきれまで詰め、測定間でのX線の侵入深さの影響を抑えるため、測定間で重量を一定にした。
【0042】
表2に、蛍光X線分光計測部における蛍光X線分光情報の測定条件を示す。
【表2】
【0043】
<赤外分光スペクトル測定>
赤外分光計測部として、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いた。FT-IRには、ATRアクセサリを付属したBruker Optics社製のALPHAを用いてATR法により赤外分光スペクトルを取得した。ATR法とは、光が接触している屈折率の異なる2つの物質中を通過するとき、ある入射角度で全反射する。この時、光は相手側の物質(試料)に若干潜り込んでから全反射する。したがって、試料に吸収のない領域では光は全反射するだけであるが、吸収のある領域では一部の光が試料に吸収される。このような全反射の性質から、赤外領域に吸収を持たない物質をATR結晶として用いれば赤外分光を測定することができる。試料のスペクトル測定は、パソコン上で専用のアプリケーションソフト(OPUS)にて行った。
【0044】
表3に、赤外分光計測部における赤外分光情報の測定条件を示す。
【表3】
【0045】
<色彩情報の測定>
外からの光が進入しないように暗幕で覆った。色彩画像計測部として、高性能一眼レフカメラをレンズから試料台までの高さが約45cmになるようにコピースタンドに取り付けた。色彩劣化が起こりにくいRAW形式で撮影するため、高精細な画像を取得できる一眼レフカメラであるCanon社製のEOS 70Dを採用した。蛍光X線スペクトルを測定したそのままの状態(容器に入れた状態)で色彩情報を取得した。
【0046】
<主成分分析(PCA)>
演算部にはCAMO Software社製、The Unscrambler X Ver.10.3を用いた。条件は重みを定数1、クロスバリデーションをフル、アルゴリズムを特異値分解とした。
【0047】
《蛍光X線分光情報の選定》
ゴマの蛍光X線分光を計測し、得られた各スペクトルピークから主成分分析(PCA)した結果の寄与率を表4〜表6に示す。表4に金ゴマの結果を、表5に白ゴマの結果を、表6に黒ゴマの結果をそれぞれ示す。これらの結果から、金ゴマ、白ゴマ、黒ゴマのいずれも、寄与率はCaKα、FeKα、及びSrKαのピークを用いたときが最も高いことから、これらのピークで主成分分析を行うのが適していることが確認された。
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
《赤外分光情報の選定》
ゴマの赤外分光を計測し、得られた各波数の吸光度のうち、差が見られたピークのなかで国産ゴマの判別に有効であると考えられる波数1095cm
-1及び1238cm
-1の吸光度に着目した。
図4〜
図6に、横軸に波数1095cm
-1、縦軸に1238cm
-1における吸光度の二次微分値をプロットした結果を示す。
図4は金ゴマの結果であり、
図5は白ゴマの結果であり、
図6は黒ゴマの結果である。
【0052】
図4の結果から、≧−0.17×10
-3かつ≦−0.107×10
-3の領域に国産の金ゴマが全て集まることから、波数1095cm
-1及び1238cm
-1の吸光度によって産地を判別できることが確認された。
【0053】
図5の結果から、−0.18×10
-3≦、≦−0.16×10
-3、且つ≦−0.11×10
-3の領域に国産の白ゴマが集まる傾向があったので、波数1095cm
-1及び1238cm
-1の吸光度が産地判別に有効であることが確認された。
【0054】
図6の結果から、−0.17×10
-3≦、≦−0.16×10
-3、且つ−0.105×10
-3≦、≦−0.095×10
-3の領域に国産の黒ゴマが集まっていた。これにより、波数1095cm
-1及び1238cm
-1の吸光度によって産地を判別できることが確認された。
【0055】
《色彩情報の選定》
白ゴマでは、国産は外国産よりも彩度Sが小さい傾向がある。そこで、ゴマの彩度を測定したところ、国産ゴマは彩度S≦0.32であることが確認された。換言すれば、彩度S>0.32であれば、外国産ゴマである。したがって、蛍光X線分光情報と赤外分光情報との組み合わせでも判別が困難だった国産ゴマでも、色彩情報によれば判別できることがわかった。
【0056】
《産地判別方法の選定》
(金ゴマ)
上記赤外分光情報の選定試験の結果(
図4)から、d
2Abs
1095cm-1及びd
2Abs
1238cm-1の赤外分光情報に基づいて国産ゴマを全て判別できる可能性が示されたが、必ずしも100%の信頼性があるとは言い切れないと考えられた。そこで、I
CaKα、I
FeKα、及びI
SrKαの蛍光X線分光情報とd
2Abs
1095cm-1及びd
2Abs
1238cm-1の赤外分光情報とを同時に併用して主成分分析(PCA)してみた。その結果を
図7に示す。この結果から、10PC1+3PC2≦2の領域に全ての国産ゴマのみが集まり、国産ゴマを確実に判別できることが確認され、
図1に示すフローで産地判別を行うことが好ましいことがわかった。また、同一品種で産地が異なるサンプルの分布が互いに離れていることから、産地の違いが分光情報の違いとして捉えられていることが再確認された。
【0057】
つまり、金ゴマの産地判別は、蛍光X線分光情報のみによっても高い信頼性で行うこともできるが、
図1に示すフローチャートのように、蛍光X線分光情報(I
CaKα、I
FeKα、及びI
SrKα)と赤外分光情報(d
2Abs
1095cm-1及びd
2Abs
1238cm-1)とを組み合わせ、両情報を同時に併用(主成分分析:PCA)した複合判別することが好ましい。これにより、どのような産地でも確実に国産か外国産かを判別することができる。このときの判定基準は10PC1(第1主成分値)+3PC2(第2主成分値)=2である。10PC1+3PC2≦2であれば国産であり、10PC1+3PC2>2であれば外国産である。
【0058】
(白ゴマ)
金ゴマの例に倣い、I
CaKα、I
FeKα、及びI
SrKαの蛍光X線分光情報とd
2Abs
1095cm-1及びd
2Abs
1238cm-1の赤外分光情報とを同時に併用して主成分分析(PCA)を行ってみたが、国産ゴマを判別することはできなかった(
図8参照)。したがって、白ゴマに関しては、
図2に示すフローのように、蛍光X線分光情報と赤外分光情報とを段階的に用いる方が適していることがわかった。また、上記色彩情報の選定試験結果から、さらに色彩情報を加えることで、高い信頼性が得られる。
【0059】
つまり、白ゴマの産地判別は、赤外分光情報のみ、もしくは色彩情報のみによってもそこそこ高い信頼性で行うことができるが、
図2に示すフローチャートのように、蛍光X線分光情報(I
CaKα、I
FeKα、及びI
SrKα)によって判別した後、次いで赤外分光情報(d
2Abs
1095cm-1及びd
2Abs
1238cm-1)によって判別し、最後に色彩情報によって判別することが好ましい。これにより、最も高い信頼性で判別することができる。また、蛍光X線分光情報(I
CaKα、I
FeKα、及びI
SrKα)によって判別した後、次いで色彩情報(彩度S)から判別するだけでも、ある程度高い信頼性で判別することができる。
【0060】
このとき、蛍光X線分光情報に基づく判定基準は、1.2×PC1(第1主成分値)+PC2(第2主成分値)+2.8である。1.2×PC1+PC2+2.8≦0であれば国産であり、1.2×PC1+PC2+2.8>0であれば次ステップの判別を行う。赤外分光情報に基づく判定基準は、−0.16×10
−3≦d
2Abs
1095cm-1≦−0.18×10
−3且つd
2Abs
1238cm-1≦−0.11×10
−3である。この条件を満たせば国産であり、外れていれば外国産である。色彩情報に基づく判定基準は、彩度Sが0.32である。彩度S≦0.32であれば国産であり、彩度S>0.32であれば外国産である。
【0061】
(黒ゴマ)
金ゴマの例に倣い、I
CaKα、I
FeKα、及びI
SrKαの蛍光X線分光情報とd
2Abs
1095cm-1及びd
2Abs
1238cm-1の赤外分光情報とを同時に併用して主成分分析(PCA)を行ってみたが、白ゴマと同様に国産ゴマを判別することはできなかった(
図9参照)。したがって、黒ゴマに関しても、
図3に示すフローのように、白ゴマと同様に蛍光X線分光情報と赤外分光情報とを段階的に用いる方が適していることがわかった。
【0062】
つまり、黒ゴマの産地判別も、蛍光X線分光情報のみによってある程度高い信頼性で行うことができるが、
図3に示すフローチャートのように、蛍光X線分光情報(I
CaKα、I
FeKα、及びI
SrKα)によって判別した後、次いで赤外分光情報(d
2Abs
1095cm-1及びd
2Abs
1238cm-1)によって判別することが好ましい。このとき、蛍光X線分光情報に基づく判定基準は、PC1(第1主成分値)の値が0.5である。PC1≧0.5であれば外国産である。一方、PC1<0.5であれば次ステップの判別を行う。赤外分光情報に基づく判定基準は、−0.17×10
−3≦d
2Abs
1095cm-1≦−0.16×10
−3、且つ−0.105×10
−3≦d
2Abs
1238cm-1≦−0.095×10
−3である。この条件を満たせば国産であり、外れていれば外国産である。
【0063】
[産地判別試験]
以下の試験では、各ゴマの産地を敢えて伏せた状態で計測判定し、その結果が得られてから産地を確認し、判定結果と実際の産地とを照会した。各図に示す産地は、産地を伏せた状態で得られた結果に、照会した産地を付したものである。
【0064】
(金ゴマ)
図1に示すフローに基づき、I
CaKα、I
FeKα、及びI
SrKαの蛍光X線分光情報とd
2Abs
1095cm-1及びd
2Abs
1238cm-1の赤外分光情報とを同時に併用して主成分分析(PCA)を行った。その結果を
図10に示す。このとき、式(1)を用いてPC1(第1主成分)を算出し、式(2)を用いてPC2(第2主成分)を算出した。
図10の結果から、未知のテストサンプルの国産金ゴマおよび外国産金ゴマを確実に判別することができた。
【0065】
PC1=0.562*X1-0.386*X2+0.539*X3-0.428*X4+0.249*X5・・・式(1)
PC2=-0.0619*X1-0.0400*X2+0.0481*X3+0.513*X4+0.854*X5・・・式(2)
この式は、得られた各情報の値が解析記憶に入力されて、解析記憶から自動的に得られた式である。
【0066】
X1〜X5は、それぞれ下記の通りである。
【数1】
【0067】
(白ゴマ)
図2に示すフローに基づき、先ず、I
CaKα、I
FeKα、及びI
SrKαの蛍光X線分光情報の主成分分析(PCA)を行った。このとき、式(3)を用いてPC1(第1主成分)を算出し、式(4)を用いてPC2(第2主成分)を算出した。その結果を
図11に示す。
PC1=0.704*X1-0.0814*X2+0.705*X3・・・式(3)
PC2=-0.0647*X1-0.997*X2-0.0504*X3・・・式(4)
この式は、得られた各情報の値が解析記憶に入力されて、解析記憶から自動的に得られた式である。
【0068】
X1〜X3は、それぞれ下記の通りである。
【数2】
【0069】
図11の結果から、殆どの未知のテストサンプルの産地判別を信頼性高く行えたが、1種類の国産ゴマが判定基準から外れていた。そこで、次の判別ステップとして、d
2Abs
1095cm-1及びd
2Abs
1238cm-1の赤外分光情報の二次微分スペクトル強度を求めた。その結果を
図12に示す。この結果、第1ステップで誤判定されたゴマでも正しく判別できた。
【0070】
最後に、色彩情報により判別した。その結果を
図13に示す。この結果、国産ゴマを的確に判別できた。
【0071】
(黒ゴマ)
図3に示すフローに基づき、先ず、I
CaKα、I
FeKα、及びI
SrKαの蛍光X線分光情報の主成分分析(PCA)を行った。このとき、式(5)を用いてPC1(第1主成分)を算出し、式(6)を用いてPC2(第2主成分)を算出した。その結果を
図14に示す。
PC1=0.601*X1-0.514*X2+0.612*X3・・・式(5)
PC2=-0.413*X1-0.855*X2-0.313*X3・・・式(6)
この式は、得られた各情報の値が解析記憶に入力されて、解析記憶から自動的に得られた式である。
【0072】
なお、X1〜X3は、それぞれ下記の通りである。
【数3】
【0073】
図14の結果から、全ての未知のテストサンプルの産地判別を誤判別無く行えたが、念のため、次の判別ステップとして、d
2Abs
1095cm-1及びd
2Abs
1238cm-1の赤外分光情報の二次微分スペクトル強度も求めた。その結果を
図15に示す。この結果、信頼性が比較的高い判別結果が得られた。