(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の悪化に伴い、樹脂のリサイクルや生体に安全で地球環境に対して負荷の少ない添加剤への関心が高まっている。ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)等に代表される樹脂は、自然環境下や生体内で水分や酵素により分解される生分解性樹脂として利用されている。
例えばPLAは、加工性が良く成形品の機械的強度が優れているので、使い捨ての容器、包装材等の用途に利用されている。しかし、PLAは、PGAやPCLに比較して加水分解速度が遅いという問題点がある。
【0003】
このようなPLAの問題点を克服すべく、PLAの加水分解速度を向上させる方法として、例えば、PLAにポリエチレングリコール等の親水性添加剤を配合する方法が提案されている。しかし、PLAは親水性が低く、ポリエチレングリコール等の親水性物質とは相溶しにくいため、親水性添加剤が成形時や成形後に浮き出したり(ブリードアウト)、成形品の機械的強度が低下したり、透明性等の外観が損なわれたりして、実用的ではない。
【0004】
PLAの加水分解に関して、酸性やアルカリ性での加水分解が報告されている(非特許文献1、2)。
本出願人は、PLAに加水分解を促進する共重合体を添加することを提案している(特許文献1,2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1,2ではPLAフィルムをアニールして結晶性の異なるサンプルを作製し、その加水分解の挙動を確認している。非特許文献1によると、PLAフィルムの分解はフィルム表面の非晶質部分の浸食によるものと考えられており、結晶化度が高くなるほど、分解による重量ロスが少ない、すなわち、加水分解しにくくなることが示されている。非特許文献2では、酸性、中性、アルカリ性での加水分解の違いが更に検討され、アルカリ性(pH12)での加水分解性は中性や酸性に比べて高いことが示されている。非特許文献1と同様に、結晶化度の高いサンプルでは重量ロスの速度が遅くなることが示されている一方で、分子量は結晶化度の高いサンプルの方が速く減少している。ただし、いずれも完全に分解するまでに200日程度の長い期間が必要である。つまり、通常PLAは結晶化により耐熱性や機械強度が高くなるが、結晶化させることにより結晶化させない場合と比較して加水分解が遅くなる。このため、分解速度を早くするためには結晶化度を低下させ耐熱性や機械強度を犠牲にする必要があり、加水分解速度と耐熱性や機械強度とを両立することは困難であった。
【0008】
特許文献1,2では、添加する共重合体(加水分解促進剤)によって、加水分解速度が向上することが示されている。いずれも、蒸留水、イオン交換水等のほぼ中性条件で50℃〜80℃での加水分解性について検討されており、より低温条件や結晶化度の依存性については検討されていない。
【0009】
上述したように、結晶化による耐熱性や機械強度の向上と、加水分解速度の向上とを両立できれば、これまで使用できなかった低温での加水分解や、例えば滅菌処理のような耐熱性や機械強度が必要となるような高温・高圧条件における使用が可能となる。
【0010】
本発明は、速やかに加水分解する樹脂組成物並びに加水分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、加水分解性を有する結晶性ポリマーに加水分解促進剤を組み合わせた樹脂組成物の結晶化度を高めることで、従来の教示に反して加水分解性、特にアルカリ水溶液中での加水分解速度が顕著に速くなることを見いだした。
【0012】
すなわち、本発明の一形態は、加水分解性を有する結晶性ポリマー(A)と、加水分解促進剤(B)とを含有する樹脂組成物であって、該樹脂組成物の結晶化度が15%以上、60%以下であることを特徴とする樹脂組成物(C)に関する。
また、本発明の一形態は、上記樹脂組成物(C)の加水分解方法であって、pHが7より大きい水溶液中で、加水分解することを特徴とする加水分解方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性や機械強度に優れ、加水分解性の向上した樹脂組成物が提供できる。また、本発明に係る加水分解方法は、該樹脂組成物を極めて短期間で加水分解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<加水分解性を有する結晶性ポリマー(A)>
本発明に用いる加水分解性を有する結晶性ポリマー(A)(以下、単に「結晶性ポリマー(A)」という)は、加水分解性を有する結晶性ポリマーであれば良く、特に限定されない。例えば、ポリエステルが挙げられ、特にポリヒドロキシカルボン酸、ジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル樹脂を使用できる。
【0015】
本発明において、ポリヒドロキシカルボン酸は、水酸基とカルボキシル基とを併せ有するヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位(構成単位)(a−1)を有する重合体又は共重合体を意味する。
【0016】
ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシラウリン酸、2−ヒドロキシミリスチン酸、2−ヒドロキシパルミチン酸、2−ヒドロキシステアリン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ酢酸、マンデル酸、サリチル酸、カプロラクトン等のラクトン類の開環生成物が挙げられる。これらの2種以上を混合して用いても良い。
【0017】
ポリヒドロキシカルボン酸は、加水分解性を大きく損なわない限り、ヒドロキシカルボン酸以外の他の構成単位(共重合成分)を有していてもよいが、ポリヒドロキシカルボン酸の全構成単位100モル%中、ヒドロキシカルボン酸由来の構成単位(a−1)は好ましくは20モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、特に好ましくは100%である。
【0018】
ポリヒドロキシカルボン酸のうち、加水分解促進剤(B)との相溶性の点からは、ヒドロキシカルボン酸が乳酸である重合体または共重合体が好ましく、ポリ乳酸(単独重合体)がより好ましい。ポリ乳酸は、乳酸を出発原料として合成されたものであっても、ラクチドを出発原料として合成されたものであっても良い。
【0019】
本発明において、ジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル樹脂は、ジオール及びジカルボン酸に由来する繰り返し単位(構成単位)を有する重合体又は共重合体を意味する。該脂肪族ポリエステル樹脂は、結晶性ポリマー(A)としての加水分解性を大きく損なわない限り、ジオールとジカルボン酸に由来する構成単位以外の他の構成単位(共重合成分)を有していてもよい。
【0020】
ジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンセバケート、ポリジエチレンサクシネート、ポリジエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリジエチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンセバケートが挙げられる。
【0021】
結晶性ポリマー(A)の分子量は特に限定されないが、加水分解促進剤(B)よりも分子量の大きなものが好ましい。加水分解促進剤(B)との混合のし易さを考慮すると、結晶性ポリマー(A)の重量平均分子量は、好ましくは2,000〜2,000,000、より好ましくは3,000〜1,000,000、特に好ましくは50,000超、500,000以下である。この重量平均分子量は、後述する実施例に記載の条件で、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めた値である。
【0022】
<加水分解促進剤(B)>
本発明に用いる加水分解促進剤(B)は、結晶性ポリマー(A)の加水分解性を促進するものであれば、いずれのものも使用できるが、特にヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(a−2)と多価カルボン酸に由来する構成単位(b−1)を有する共重合体であることが好ましい。なお、「構成単位」とは、重合性単量体に由来する単位であり、末端基は含まない。加水分解促進剤(B)はランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体の何れでも構わない。ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(a−2)としては、結晶性ポリマー(A)を構成するヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(a−1)として例示したものが挙げられ、組み合わせる結晶性ポリマー(A)の構成単位(a−1)と同じものを使用することが好ましい。特にヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(a−2)としては、乳酸に由来する単位であることが好ましい。
【0023】
構成単位(b−1)は多価カルボン酸に由来する構成単位であれば良く、特に限定されない。多価カルボン酸は2価または3価の多価カルボン酸から選択される1種以上であることが好ましく、中でも、アミノジカルボン酸、ヒドロキシジカルボン酸、ヒドロキシトリカルボン酸がより好ましく、アスパラギン酸、グルタミン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸から選択される1種以上であることが特に好ましい。これら多価カルボン酸は1種または異なる2種以上を有していてもよい。多価カルボン酸に由来する構成単位は、イミド環等の環構造を形成していてもよく、該環構造が開環していてもよく、またはこれらの環構造および開環構造が混在していてもよく、異なる2種以上環構造および/または開環構造が含まれていてもよい。
【0024】
加水分解促進剤(B)は、以上説明した構成単位(a−2)及び構成単位(b−1)を有する共重合体であれば良く、特に限定されない。中でも、アスパラギン酸−乳酸共重合体、リンゴ酸−乳酸共重合体、クエン酸−乳酸共重合体が特に好ましい。
【0025】
加水分解促進剤(B)における構成単位(a−2)と構成単位(b−1)のモル組成比[(a−2)/(b−1)]は、重合時の仕込量で、好ましくは1/1〜50/1、より好ましくは10/1〜20/1である。モル組成比がこれらの範囲内にあると、分解速度促進効果に優れ、結晶性ポリマー(A)との相溶性にも優れた共重合体が得られる。
【0026】
加水分解促進剤(B)中には、構成単位(a−2)および(b−1)以外の構成単位(他の共重合成分に由来する単位)が存在していてもよい。ただし、その量は加水分解促進剤(B)の性質を大きく損なわない程度であることが必要である。かかる点から、その他の構成単位の量は加水分解促進剤(B)全体の構成単位100モル%中、およそ20モル%以下であることが望ましい。
【0027】
加水分解促進剤(B)の重量平均分子量は1,000以上、50,000以下であり、好ましくは2,500以上、30,000以下であり、特に好ましくは2,500〜10,000の範囲内である。この重量平均分子量は、後述する実施例に記載の条件で、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めた値である。
【0028】
加水分解促進剤(B)の製造方法は特に限定されない。一般的には、多価カルボン酸とヒドロキシカルボン酸を所望の比で混合し、触媒の存在下又は非存在下で、加熱減圧下にて脱水重縮合することで得ることができる。また、ラクチド、グリコリド、カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸の無水環状化合物と多価カルボン酸とを反応させることで得ることもできる。
【0029】
<樹脂組成物(C)>
本発明に係る樹脂組成物(C)は、結晶性ポリマー(A)と加水分解促進剤(B)とを混合して得られる。その質量組成比[(A)/(B)]は、結晶性ポリマー(A)と加水分解促進剤(B)の合計量を100として、95/5〜50/50であり、好ましくは95/5〜55/45であり、より好ましくは95/5〜60/40であり、特に好ましくは95/5〜80/20である。質量組成比がこれらの範囲内にあると、結晶性ポリマー(A)の持つ性質を維持しつつ加水分解促進剤(B)による分解速度促進効果が発揮されるため好ましい。また、加水分解促進剤(B)の量が多いほど分解速度の大きな樹脂組成物(C)が得られる。一方、質量組成比が95/5より大きくなると、加水分解促進剤(B)の添加による分解促進効果が十分ではなく、また50/50より小さくなると樹脂組成物(C)の結晶化度が大きくならず、また、結晶性ポリマー(A)のもつ性質を損なうため好ましくない。
【0030】
結晶性ポリマー(A)に加水分解促進剤(B)を混合する方法は特に限定されない。好ましくは両者を溶融混練するか、溶媒に溶解させ攪拌混合する。このような製法により、結晶性ポリマー(A)と加水分解促進剤(B)とから、均一な樹脂組成物(C)を得ることが出来る。
【0031】
樹脂組成物(C)は、結晶性ポリマー(A)のもつ性質を大きく損なわない範囲で、加水分解促進剤(B)及び結晶性ポリマー(A)以外のポリマーや通常の樹脂に添加され得る添加剤が含まれていても良い。
【0032】
樹脂組成物(C)の結晶化度は、15%以上、60%以下である。本発明でいう結晶化度とは、後述する実施例に示すように、示差熱分析(DSC)により得られる融解エンタルピー、結晶化エンタルピー、再結晶化エンタルピーの関数として求められる。結晶化度の下限は耐熱性の観点から、20%が好ましく、25%がより好ましい。結晶化度の上限は耐熱性と結晶化工程の簡略化の観点から55%が好ましく、50%がより好ましい。結晶化度が15%未満では、結晶化による樹脂組成物(C)の耐熱性の向上効果が小さいだけでなく、加水分解促進剤(B)の添加効果しか発現せず、結晶化と加水分解促進剤(B)添加との相乗効果が発現しない。60%を超える結晶化度にするには長時間の結晶化工程が必要であるだけでなく、結晶化度が60%を超えると、非晶領域の減少により加水分解され難くなる。
結晶化度の調整は、公知の方法が適用でき、樹脂組成物(C)を用いた成形品の成形時の加熱温度、昇温速度、冷却速度等を調整する方法や、成形品を結晶化温度以上溶融温度未満の温度で再加熱(アニール)する方法などが挙げられる。また、結晶核剤の使用や、延伸処理により結晶化度を高める方法なども挙げられる。通常、結晶性ポリマー(A)の一例であるポリ乳酸は、結晶化速度が遅く、金型成形して急速冷却したものは結晶化度が低い。
【0033】
樹脂組成物(C)の分子量は特に限定されない。成形性を考慮すると、樹脂組成物(C)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜100万、より好ましくは5,000〜50万、特に好ましくは50,000〜30万である。この重量平均分子量は、後述する実施例に記載の条件で、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めた値である。
【0034】
本発明に係る樹脂組成物(C)は、従来公知の成形法により、種々の形状、例えば、フィルム、シート、繊維、タブレットなどに成形することができる。
【0035】
<加水分解方法>
本発明に係る加水分解方法は、上記樹脂組成物(C)をpHが7より大きい水溶液(アルカリ水溶液という)中で加水分解する方法である。pHは7.1以上が好ましく、8以上がより好ましい。前記水溶液の好ましい態様としては、樹脂組成物(C)浸漬前の初期pHが7より大きい水溶液が挙げられる。また、別の態様としては、初期pHが7以下であって、樹脂組成物(C)浸漬後にpHが7より大きくなるように塩基性物質を添加して溶解した水溶液も挙げられる。いずれの方法においても、樹脂組成物(C)の分解過程の大半において、pHが7より大きいことが好ましい。
通常は、アルカリ水溶液中に樹脂組成物(C)からなる成形品を浸漬して行う。また、アルカリ水溶液を樹脂組成物(C)からなる成形品にスプレー等で吹きかけることで加水分解することもできる。アルカリ水溶液の温度は特に制限されないが、30℃以上、樹脂組成物(C)の融点未満であることが好ましい。温度が高いほど加水分解速度を高めることができるが、その分、エネルギーコストが高騰することから、目的に応じて適宜好ましい温度に調整する。本発明では、特許文献1,2において検討された温度よりも低い温度で、より速い加水分解が可能となる。また、樹脂組成物(C)は結晶化させることで耐熱性が向上しており、高温・高圧下での加水分解が必要となる用途にも使用可能となる。この場合、樹脂組成物(C)の融点以上の加水分解温度では、樹脂組成物(C)が融解してしまい、分解促進剤(B)を添加した効果が失われてしまうことから、樹脂組成物(C)の融点未満で加水分解を行う必要がある。
【0036】
アルカリ水溶液中に含まれる塩基性物質としては、特に制限はないが、汎用性や安全性を考慮すると、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。また、無機塩や有機塩を添加して、緩衝液としてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。実施例中「部」は質量部を示す。実施例における各測定方法は以下の通りである。
【0038】
<重量平均分子量(Mw)>
試料をクロロホルムに溶解し(濃度約0.5質量%)、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、重量平均分子量(Mw)をポリスチレン換算の値として求めた。
測定条件を以下に示す。
RI検出器:日本分光RI−2031、
カラム:SHODEX製 LF−GおよびLF−804、
カラム温度:40℃、
溶媒:クロロホルム、
流速:1.0ml/分。
【0039】
<結晶化度>
DSC装置(TA Instrument社製 DSC Q−200TA)を用い、4〜5mg程度の試料を昇温速度10℃/分で0℃〜200℃の温度範囲で測定を行い、融解エンタルピー(ΔHm)、結晶化エンタルピー(ΔHc)、再結晶化エンタルピー(ΔHr)、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)を求めた。なお、結晶化度(Xc)は以下の式により算出した。
Xc(%)={(|ΔHm|−|ΔHc|−|ΔHr|)/|ΔHf|}×100
ここで、ポリ乳酸が100%結晶化した際の融解エンタルピー(ΔHf)=93.1J/gとした。結晶化度はブレンド全体の結晶化度として表した。
【0040】
<加水分解試験>
厚み0.2mm、20mm角の試料をガラス容器に入れ、下記のpHの異なる溶液に浸漬し、40℃に制御した水浴中に静置した。分解中pHが変化しないように液を入れ替えてpHを一定に保った。所定の時間が経過した後試料を回収し、蒸留水で試料を洗浄した後、24時間室温にて真空乾燥して質量を測定した。加水分解による質量保持率は以下の式により算出した。なお、試料が回収できない場合は、試料の分解が完了したものとして質量保持率は0%とした。
試験前の試料の質量をW
0、試験後の真空乾燥した試料の質量をW
dとすると、
質量保持率(%)=(W
d/W
0)×100
用いたpHの異なる溶液
(1) pH7.4:リン酸緩衝液
(2) pH12.0:KCl−NaOH緩衝液
【0041】
<製造例1> 乳酸−リンゴ酸共重合体(PML)の製造
撹拌装置、脱気口をつけた500mlサイズのガラス製反応器に和光純薬製D,L−リンゴ酸13.4g(0.1モル)、Purac社製90%L−乳酸100.2g(1.0モル)を装入した。反応器をオイルバスに漬け、135℃、1.33kPa(10mmHg)で窒素を流通させながら重合した。得られた無色透明の固体を粉砕し、粉末状ポリマー(PML)を得た。得られたPMLについて、上述の方法により測定した重量平均分子量は3500であった。
【0042】
<製造例2> 乳酸−アスパラギン酸共重合体(PAL)の製造
撹拌装置、脱気口をつけた500mlサイズのガラス製反応器に和光純薬製L−アスパラギン酸39.9g(0.3モル)、Purac社製90%L−乳酸300.3g(3.0モル)を装入した。反応器をオイルバスに漬け、180℃で窒素を流通させながら7時間脱水重合した。得られた無色透明の固体を粉砕し、粉末状ポリマー(PAL)を得た。得られたPALについて、上述の方法により測定した重量平均分子量は3500であった。
【0043】
<比較例1>
ポリ乳酸(三井化学(株)製、商品名「レイシアH400」、Mw=24万)80部と製造例1で調製したPML20部とをラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、商品名「TOYOSEIKI、4M150」)にセグメントミキサー((株)東洋精機製作所製、商品名「TOYOSEIKI、KF−70V2」)を取り付け、50rpm、175℃で5分混練した。得られた組成物を170℃で熱プレスし、0℃で急冷してプレスフィルム1を得た。上述した方法により結晶化度を測定したところ、結晶化度は7.9%であった。得られたフィルムを上述した方法により加水分解試験を実施した。各pHでの試験結果を表1および2に示した。
【0044】
<比較例2>
PMLを製造例2で調製したPALに変更し、混練温度を180℃、熱プレス温度を180℃とした以外は比較例1と同様に行い、プレスフィルム2を得た。上述した方法により結晶化度を測定したところ、結晶化度は6.8%であった。得られたフィルムを上述した方法により加水分解試験を実施した。各pHでの試験結果を表1および2に示した。
【0045】
<実施例1>
比較例1で得られたプレスフィルム1を減圧下、ホットプレスにより比較例1のDSC測定で観察した結晶化温度(105℃)で10分間熱処理し、結晶化させ、本発明の結晶化した組成物1を得た。上述した方法により結晶化度を測定したところ、結晶化度は43.3%であった。得られたフィルムを上述した方法により加水分解試験を実施した。各pHでの試験結果を表1および2に示した。
【0046】
<実施例2>
比較例2で得られたプレスフィルム2を減圧下、ホットプレスにより比較例2のDSC測定で観察した結晶化温度(110℃)で10分間熱処理し、本発明の結晶化した組成物2を得た。上述した方法により結晶化度を測定したところ、結晶化度は41.6%であった。得られたフィルムを上述した方法により加水分解試験を実施した。各pHでの試験結果を表1および2に示した。
【0047】
<比較例3>
ポリ乳酸(三井化学(株)製、商品名「レイシアH400」)を180℃にて熱プレスし、0℃で急冷してプレスフィルム3を得た。上述した方法により結晶化度を測定したところ、結晶化度は1.9%であった。
【0048】
<比較例4>
比較例3で得られたプレスフィルム3を減圧下、ホットプレスにより比較例3のDSC測定で観察した結晶化温度(120℃)で1時間熱処理し、加水分解促進剤(B)を含まない結晶化したPLAフィルムを得た。上述した方法により結晶化度を測定したところ、結晶化度は52.1%であった。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1および2からは、結晶化させた場合、急冷したフィルムに比べ重量減少速度が速くなることが明らかとなった。特にアルカリ水溶液中においては結晶化しているにもかかわらず極めて短時間でポリ乳酸を完全に分解させることが可能であることが分かる。
通常ポリ乳酸は結晶化させることで分解が遅くなる(非特許文献1、2)。本発明における結晶化した組成物は、結晶化させることで従来とは反対に、分解に伴う質量減少が加速される。これは、結晶化させることで非晶部に本発明に係る加水分解促進剤(B)が集まりやすくなり、結果として非晶部の分解促進を加速することで、組成物全体としての重量減を加速するとともに、結晶領域の崩壊にも寄与していると考えられる。