特許第6679487号(P6679487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エックス−ボディ インコーポレイテッドの特許一覧

特許6679487細胞表面抗原に対する結合作用物質を生成するための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6679487
(24)【登録日】2020年3月23日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】細胞表面抗原に対する結合作用物質を生成するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6811 20180101AFI20200406BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20200406BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20200406BHJP
   C40B 40/08 20060101ALN20200406BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20200406BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20200406BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20200406BHJP
【FI】
   C12Q1/6811 Z
   C07K16/28
   G01N33/53 Y
   !C40B40/08
   !C12N5/10
   !C12N15/13ZNA
   !C12P21/08
【請求項の数】23
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-544048(P2016-544048)
(86)(22)【出願日】2014年9月22日
(65)【公表番号】特表2016-536006(P2016-536006A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】US2014056782
(87)【国際公開番号】WO2015042528
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2017年9月22日
(31)【優先権主張番号】61/881,203
(32)【優先日】2013年9月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511197822
【氏名又は名称】エックス−ボディ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】スティーブ・シャマー
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−528912(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02348052(EP,A1)
【文献】 特表2013−536173(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/125733(WO,A1)
【文献】 特表2013−503626(JP,A)
【文献】 特表2010−505830(JP,A)
【文献】 特表2013−507980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6811
C07K 16/28
C07K 16/28
G01N 33/53
C12N 5/10
C12N 15/13
C12P 21/08
C40B 40/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを同定する方法であって、
a.結合ポリペプチド/抗原複合体の第1の集団が形成されるように、その外部表面上に細胞表面抗原を提示する第1の細胞型を結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーと接触させること;
b.結合ポリペプチド/抗原複合体の該第1の集団を可溶化させること;
c.前記ライブラリーから、該第1の細胞型に特異的に結合する少なくとも1つのライブラリーメンバーを単離すること;
d.結合ポリペプチド/抗原複合体の第2の集団が形成されるように、その外部表面上に前記細胞表面抗原を提示しない第2の細胞型を前記結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーと接触させること;
e.結合ポリペプチド/抗原複合体の該第2の集団を可溶化させること;
f.前記ライブラリーから、該第2の細胞型に特異的に結合する少なくとも1つのライブラリーメンバーを単離すること;および
g.該第1の細胞型に特異的に結合するが、該第2の細胞型には結合しないライブラリーメンバーを選択し、それによって、細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを同定すること
を含み、ここで、可溶化工程が、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトンX100(登録商標))、n−ドデシル−β−D−マルトシド(DDM)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート(CHAPS)、およびポリエチレングリコールドデシルエーテル(Brij35(登録商標))ならびにそれらの組合せからなる群より選択される界面活性剤を用いて行われる、方法。
【請求項2】
ステップ(a)および(d)が、前記ライブラリーの別個のアリコートを使用して、並行して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを同定する方法であって、
a.結合ポリペプチド/抗原複合体の集団が形成されるように、その外部表面上に細胞表面抗原を提示する第1の細胞型を結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーと接触させること;
b.結合ポリペプチド/抗原複合体の該集団を可溶化させること;および
c.結合ポリペプチド/抗原複合体の該可溶化された集団を単離し、それによって、細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを同定すること
を含み、ここで、可溶化工程が、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトンX100(登録商標))、n−ドデシル−β−D−マルトシド(DDM)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート(CHAPS)、およびポリエチレングリコールドデシルエーテル(Brij35(登録商標))ならびにそれらの組合せからなる群より選択される界面活性剤を用いて行われる、方法。
【請求項4】
結合ポリペプチド/抗原複合体の該可溶化された集団が、前記結合ポリペプチドの一部分に特異的な結合作用物質を使用して単離される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
細胞表面抗原に特異的に結合する内部移行結合ポリペプチドを同定する方法であって、
a.内部移行化結合ポリペプチド/抗原複合体の集団が形成されるように、細胞表面抗原の内部移行を可能にする条件下で、その外部表面上に細胞表面抗原を提示する第1の細胞型を結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーと接触させること;
b.該第1の細胞型を洗浄して、前記外部表面に結合されたライブラリーメンバーを除去すること;および
c.該内部移行化結合ポリペプチド/抗原複合体を可溶化させて単離し、それによって、細胞表面抗原に特異的に結合する内部移行結合ポリペプチドを同定すること
を含み、ここで、可溶化工程が、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトンX100(登録商標))、n−ドデシル−β−D−マルトシド(DDM)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート(CHAPS)、およびポリエチレングリコールドデシルエーテル(Brij35(登録商標))ならびにそれらの組合せからなる群より選択される界面活性剤を用いて行われる、方法。
【請求項6】
ステップ(b)において、洗浄工程が、約3未満のpHである溶液を使用して行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該内部移行化結合ポリペプチド/抗原複合体が、前記結合ポリペプチドまたは前記抗原の一部分に特異的な結合作用物質を使用して、または前記結合ポリペプチドをコードする核酸の沈降により、更に単離される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
対照結合作用物質によって認識されるものとは異なるエピトープにて細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを同定する方法であって、
a.抗原および対照結合作用物質の複合体が形成されるような条件下で、その外部表面上に該細胞表面抗原を提示する第1の細胞型を対照結合作用物質と接触させること;
b.少なくとも1つの結合ポリペプチド/抗原複合体が形成されるように、該第1の細胞型を結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーと接触させること;
c.結合ポリペプチド/抗原複合体の該集団を可溶化させること;および
d.前記ライブラリーから、該細胞表面抗原に特異的に結合する少なくとも1つのライブラリーメンバーを単離し、それによって、対照結合作用物質によって認識されるものとは異なるエピトープにて該細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを同定すること
を含み、ここで、可溶化工程が、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトンX100(登録商標))、n−ドデシル−β−D−マルトシド(DDM)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート(CHAPS)、およびポリエチレングリコールドデシルエーテル(Brij35(登録商標))ならびにそれらの組合せからなる群より選択される界面活性剤を用いて行われる、方法。
【請求項9】
所望の活性化状態の細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを同定する方法であって、
a.その外部表面上に細胞表面抗原を提示する第1の細胞型を、該細胞表面抗原に特異的に結合し、該細胞表面抗原の活性化状態を調節する結合作用物質と接触させること;
b.結合ポリペプチド/抗原複合体の集団が形成されるように、該第1の細胞型を結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーと接触させること;
c.結合ポリペプチド/抗原複合体の該集団を可溶化させること;および
d.前記ライブラリーから、該第1の細胞型の外部表面上の細胞表面抗原に特異的に結合する少なくとも1つのライブラリーメンバーを単離し、それによって、所望の活性化状態の細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを同定すること
を含み、ここで、可溶化工程が、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトンX100(登録商標))、n−ドデシル−β−D−マルトシド(DDM)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート(CHAPS)、およびポリエチレングリコールドデシルエーテル(Brij35(登録商標))ならびにそれらの組合せからなる群より選択される界面活性剤を用いて行われる、方法。
【請求項10】
界面活性剤が、DDMおよびCHAPSの組み合わせである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記多様な核酸提示ライブラリーが、Vドメインライブラリーであり、前記ライブラリーの各メンバーが、第1の抗体由来のFR1〜FR3領域配列および第2の抗体由来のCDR3−FR4領域配列を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記FR1〜FR3領域配列またはCDR3−FR4領域配列が、ヒトの天然の免疫学的レパートリー由来である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記多様な核酸提示ライブラリーがDNA提示ライブラリーである、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記DNA提示ライブラリーの各メンバーが、結合ポリペプチドをコードするDNAコード配列に介在するDNAリンカーを通して連結される該結合ポリペプチドを含み、前記DNAリンカーが、制限エンドヌクレアーゼ部位を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、該DNAコード配列と該単離されたライブラリーメンバーの連結された結合ポリペプチドとを物理的に分離することを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
該第1の細胞型をポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーと接触させる前に、該多様な核酸提示ライブラリーを、その外部表面上に提示される抗原を提示しない第2の細胞型と接触させる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
該単離されたライブラリーメンバーが、抗原のリガンドでの溶出によって、細胞表面抗原の酵素的切断によって、または糖脂質アンカーのホスホリパーゼ切断によって、該第1または第2の細胞型から分離される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記方法が、該単離されたライブラリーメンバーの少なくとも一部分のDNAコード配列を決定することを更に含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記DNAコード配列が、パイロシーケンシングによって決定される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記抗原が、a)天然に存在するタンパク質、グリカン、または脂質;b)細胞表面タンパク質、Gタンパク質共役受容体、イオンチャネルタンパク質、またはグリコホスファチジルイノシトール(GPI)アンカータンパク質;c)GCGRタンパク質、CXCR4タンパク質、またはNav1.7タンパク質;または、d)組換え抗原またはキメラ抗原である、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の細胞型が、a)細胞表面抗原を天然に発現する細胞;b)細胞表面抗原を異種発現するように操作された組換え細胞;c)正常細胞の疾患関連変異体;または、d)腫瘍細胞である、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記結合ポリペプチドが、抗体、抗体断片、または抗体VHもしくはVLドメインである、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記ライブラリーが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、および18からなる群から選択される配列を有する少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを使用して作製される、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2013年9月23日出願の米国仮特許出願第61/881,203号に基づく優先権を主張し、その内容は、参照することによりその全体が本明細書中に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
結合ポリペプチド、例えば、抗体およびその断片は、治療薬および診断薬として商業上重要である。結合ポリペプチドを選別する従来の方法では概して、可溶性抗原が用いられる。しかし、ある特定の細胞表面抗原に関しては、これらの抗原が細胞膜から可溶化されるとき、抗原上の配座エピトープが変化し、結果として未変性(native)抗原を認識し得る結合ポリペプチドが生成されない。したがって、当技術分野において、抗原の未変性配座中で特異的に細胞表面抗原に結合し得る結合ポリペプチドを選別するための新規の方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチド(例えば、抗体またはその抗原結合断片)を識別するための方法および組成物を提供する。本発明の方法は概して、結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーを、細胞の外部表面上に提示される細胞表面抗原と接触させることと、このライブラリーから、細胞の外部表面上の細胞表面抗原に特異的に結合する少なくとも1つのライブラリーメンバーを単離することを含む。本発明の方法および組成物は、標的細胞表面抗原の未変性形態に結合する結合ポリペプチド、ならびに新規のエピトープの特異性および機能特性(例えば、内部移行、受容体活性化作用、拮抗作用、またはアロステリック調節特性)を保持する結合ポリペプチドの迅速な識別を可能にするという点において特に有利である。これらの方法および組成物はまた、新規の、治療上有用な細胞型特異的抗原またはエピトープの識別を可能にする。さらに、新規の結合ポリペプチドを選別するために使用され得る新規のVドメイン(例えば、VHおよび/またはVLドメイン)核酸提示ライブラリー(例えば、DNA提示ライブラリー)も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1図1は、本発明の典型的なDNA提示組成物および選別方法の概略図である。
図2図2は、本発明の典型的なDNA提示組成物および選別方法の概略図である。
図3図3は、本発明の方法で用いられる典型的な標的細胞選別戦略の概略図である。
図4図4は、本発明の方法で用いられる典型的な並行選択および大規模シーケンシング戦略の概略図である。
図5図5は、本発明の方法で用いられる典型的な並行選択および大規模シーケンシング戦略の概略図である。
図6図6は、本発明の方法で用いられる典型的な並行選択および大規模シーケンシング戦略の概略図である。
図7図7は、本発明の方法で用いられる典型的な並行選択戦略および大規模シーケンシング分析の結果の概略図である。
図8図8は、本発明の方法を使用して選択された高親和性VH分子のFACS性結合分析の結果を示すグラフを描写する。
図9図9は、本発明の方法を使用して選択されたVH分子の差次的結合を示すグラフを描写する。
図10図10は、本発明の方法を使用して選択されたVH分子の差次的結合を示すグラフを描写する。
図11図11は、本発明の方法で用いられる典型的な並行選別および大規模シーケンシング戦略の概略図であり、ここでは、特異的細胞表面タンパク質に結合し、それらを調節する抗体を濃縮するために、並行機能的選択的圧力での生細胞選択が繰り返し適用される。選択されたプールは、棒にタグ付けされ、大規模シーケンシングにかけられる。並行選択からの濃縮された配列の比較的生物情報学的分析は、主要な基準に適合する選択性および活性を保持する抗体の識別を可能にする。
図12図12は、抗グルカゴン受容体(GCGR)VHドメインを識別するための本明細書で開示される方法を使用した典型的な並行選別戦略の結果を描写する。生細胞GCGR(クラスBのGPCR)選択から濃縮されたプールは、(反時計回りに)競合的結合、cAMP、無標識接着性、細胞内部移行、およびβアレスチン分析を含む、結合および機能的分析にかけられた。多様な集合の活性調節抗GCGR VHドメインが単離され、複数の異なる仕組みの働きを通して別個の機能的活性を示した。
図13図13は、本明細書で開示される方法を使用して選択された抗GCGR VHドメインのcAMPおよびβアレスチン分析の結果を描写する。GCGRを発現するHEK293細胞は、示されるVHドメインの存在または不在下で、10nMのグルカゴンを使って検証された。クローンB07およびB05は、GCGR誘発βアレスチン活性を阻害するが、受容体活性化cAMP生成にはほとんど影響がない。
図14図14は、本明細書で開示される方法を使用して選択された抗GCGR VHドメインのcAMPおよびグルコース放出分析の結果を描写する。初代ヒト肝細胞は、示されるGCGR VHドメインの不在または存在下で、2nMのグルカゴンで刺激を受けた。グルカゴン活性化cAMP生成およびグルコース放出は共に、VHドメインによって阻害され、生体関連分析において、内因性受容体に対するこれらのクローンの機能的活性を示す。
図15図15は、多種多様であり、かつ機能的特徴を有する抗GCGR VHドメインを識別する、典型的な並行生細胞選択の概略図である。
図16図16は、本明細書で開示される方法を使用して選択された抗CXCR4 VHドメインの結合、cAMP、および走化性分析の結果を描写する。CXCR4(クラスAのケモカインGPCR)に対する生細胞機能的選択は、内因発現されたCXCR4を有するジャーカット細胞内で、CXCR4発現細胞への特異的結合、SDF−la媒介cAMPシグナル伝達の阻害、およびリガンド誘発走化性の阻害を示すVHドメインの多様な集合を生み出した。
図17図17は、ベラトリジンおよびサソリ毒によって刺激されるNavl.7を発現するHEK293細胞のBIND無標識細胞性反応分析の結果を描写する。BINDは、光学バイオセンサの表面からの反射光のピーク波長値(PWV)の変化を監視することによって実時間での無標識細胞反応測定を可能にする。組換えNav1.7/HEK293細胞は、ベラトリジン(V)+サソリ毒(SVqq)によって刺激を受けて、チャネルを活性化した。BINDは、刺激の後、1時間後にPWVの低下を引き起こしたチャネル開放に対して、遅延の第2の反応を測定した。テトロドトキシン(TTX)は、Nav1.7チャネルを阻害し、マイナスへのPWVの移行を親HEK293細胞内で観察された反応に戻した。
図18図18は、ヒト疾患細胞に特異的に結合するVHドメインを識別する典型的な並行選別の概略図である。生細胞選択は、疾患患者細胞対正常なヒト細胞を含む区別可能な細胞性集団上で特異的に発現される標的またはエピトープを識別するために使用された。予測結合特殊プロファイルで濃縮されたVHドメインを識別するために、細胞型特異的選択戦略が適用され、大規模シーケンシングが使用された。高親和性(pM)結合体は単離され、これは、FACSによって測定されるように、疾患細胞特異的結合プロファイルを示した。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明は、細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチド(例えば、抗体またはその抗原結合断片)を識別するための方法および組成物を提供する。本発明の方法は概して、結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーを、細胞の外部表面上に提示される細胞表面抗原と接触させることと、このライブラリーから、細胞の外部表面上の細胞表面抗原に特異的に結合する少なくとも1つのライブラリーメンバーを単離することと、を含む。本発明の方法および組成物は、標的細胞表面抗原の未変性形態に結合する結合ポリペプチド、ならびに新規のエピトープの特殊性および機能特性(例えば、内部移行、受容体活性化作用、拮抗作用、またはアロステリック調節特性)を保持する結合ポリペプチドの迅速な識別を可能にするという点において特に有利である。これらの方法および組成物はまた、新規の、治療上有用な細胞型特異的抗原またはエピトープの識別を可能にする。さらに、新規の結合ポリペプチドを選別するために使用され得る新規のVドメイン(例えば、VHおよび/またはVLドメイン)核酸提示ライブラリー(例えば、DNA提示ライブラリー)も提供される。
【0006】
I.定義
本明細書で使用される場合、用語「核酸提示ライブラリー」は、例えば、米国特許第7,195,880号、同第6,951,725号、同第7,078,197号、同第7,022,479号、同第6,518,018号、同第7,125,669号、同第6,846,655号、同第6,281,344号、同第6,207,446号、同第6,214,553号、同第6,258,558号、同第6,261,804号、同第6,429,300号、同第6,489,116号、同第,6,436,665号、同第6,537,749号、同第6,602,685号、同第6,623,926号、同第6,416,950号、同第6,660,473号、同第6,312,927号、同第5,922,545号、同第6,348,315号、国際公開第WO2012125733号、および国際公開第WO2010/011944号に記載されるものを限定されることなく含む、任意の当業者に認識されるインビトロ無細胞表現型−遺伝子型関連ディスプレイを指し、これらは全て、参照することによりそれらの全体が組み込まれる。
【0007】
本明細書で使用される場合、用語「抗原」は、結合ポリペプチドによって認識される分子を指す。
【0008】
本明細書で使用される場合、用語「に特異的に結合する」は、結合分子(例えば、VHまたはVLドメイン)の、少なくとも約1×10−6M、1×10−7M、1×10−8M、1×10−9M、1×10−10M、1×10−11M、1×10−12M以上の親和性を有する抗原に結合する能力、および/または非特異的抗原に対して、抗原の少なくとも2倍の親和性を有する標的に結合する能力を指す。
【0009】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、4本のポリペプチド鎖、ジスルフィド結合によって相互連結された2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子ならびにそれらの多量体(例えば、IgM)を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(VHと省略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VLと省略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼称されるより一定に保たれた領域にわたって点在される、相補性決定領域(CDR)と呼称される超可変性の領域に更に細分され得る。
【0010】
本明細書で使用される場合、用語、抗体の「抗原結合部分」には、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に取得可能な、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質が含まれる。抗体の抗原結合断片は、例えば、抗体可変ドメインおよび選択的に抗体定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う、タンパク質消化または組換え遺伝子工学技術などの任意の好適な標準技術を使用した完全な抗体分子由来であり得る。抗原結合部分の非限定的な例には、(i)Fab断片、(ii)F(ab')断片、(iii)Fd断片、(iv)Fv断片、(v)単一鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAb断片、および(vii)抗体の超可変領域(例えば、単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位が含まれる。二重特異性抗体(diabody)、三重特異性抗体(triabody)、四重特異性抗体(tetrabody)およびミニボディなどの他の操作された分子もまた、「抗原結合部分」の表現の範囲に包含される。
【0011】
本明細書で使用される場合、用語「Vドメイン」は、VHドメインまたはVLドメインを含む単一のポリペプチドを指し、このドメインは、上述のVHドメインまたはVLドメインとそれぞれ相補的VLドメインまたはVHドメインとの共有結合的対合を促す定常領域配列を欠く。
【0012】
本明細書で使用される場合、用語「VHドメイン」および「VLドメイン」は、単一の抗体可変重ドメインおよび軽ドメインを指し、それぞれが、FR(フレームワーク領域)1、2、3、および4、ならびにCDR(相補性決定領域)1、2、および3(Kabat et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest(NIH Publication No.91−3242,Bethesdaを参照)を含む。
【0013】
本明細書で使用される場合、用語「FR1〜FR3」は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、およびFR3を包含するが、CDR3およびFR4領域を除外するVHの領域を指す。
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「CDR3−FR4」は、CDR3およびFR4を包含するが、FR1、CDR1、FR2、CDR2、およびFR3領域を除外するVHの領域を指す。
【0015】
抗体可変ドメインについて本明細書で使用される場合、用語「キメラ」は、2つ以上の異なる抗体可変ドメインからのアミノ酸配列を含む抗体可変ドメイン、例えば、参照抗体からのCDR3配列および1つ以上の異なる抗体からのFR1〜FR3配列を有する可変ドメインを指す。
【0016】
II.細胞表面抗原
特定の態様において、本発明は、細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを識別する方法を提供する。
【0017】
細胞の表面上に提示されることが可能な、タンパク質、グリカン、および/または脂質抗原を限定されることなく含む抗原はいずれも、本発明の方法で用いられ得る。特定の実施形態において、抗原は、天然に存在する分子である。好適な、天然に存在する抗原の非限定的な例には、膜貫通型タンパク質(例えば、Gタンパク質共役受容体)およびGPIアンカータンパク質が含まれる。特定の実施形態において、抗原は、天然に存在しない組換えまたは合成抗原である。好適な、天然に存在する抗原の非限定的な例には、異なる抗原分子からの部分を含むキメラ抗原が限定されることなく含まれる。特定の実施形態において、抗原の本質は、本発明の方法を予備策定する前から既知である。特定の実施形態において、抗原の同一性は、本発明の方法を実行する前に知られていない。
【0018】
特定の実施形態において、抗原は、膜貫通型タンパク質である。特定の実施形態において、抗原は、多径間膜貫通型タンパク質(例えば、Gタンパク質共役受容体(GPCR)およびイオンチャネル)である。標的抗原の非限定的な例には、グルカゴン受容体(GCGR)、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR6、CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR8、CFTR、CIC−1、CIC−2、CIC−4、CIC−5、CIC−7、CIC−Ka、CIC−Kb、ベストロフィン、TMEM16A、GABA受容体、グリシン受容体、ABC輸送体、NAV1.1、NAV1.2、NAV1.3、NAV1.4、NAV1.5、NAV1.6、NAV1.7、NAV1.8、NAV1.9、スフィンゴシン−1−リン酸塩受容体(S1P1R)、およびNMDAチャネルが限定されることなく含まれる。特定の実施形態において、抗原は、ヒト抗原である。特定の実施形態において、抗原は、GCGR、CXCR4、またはNAV1.7(例えば、ヒトGCGR、CXCR4、またはNAV1.7)である。
【0019】
本発明の方法で用いられる細胞表面抗原は、いずれの細胞または細胞の類似粒子(例えば、脂質小胞)の上でも提示され得る。特定の実施形態において、細胞は、細胞表面抗原を自然発現する細胞型である。特定の実施形態において、細胞は、細胞表面抗原を異種発現するように操作された組換え細胞である。特定の実施形態において、細胞は、正常な細胞の疾患関連変異体(例えば、腫瘍細胞)である。
【0020】
III.結合ポリペプチド
特定の態様において、本発明は、細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを識別する方法を提供する。
【0021】
結合ポリペプチドのいずれの型も、本発明の方法で用いられ得、それらには、抗体、またはその断片、および免疫グロブリンの類似ドメインが限定されることなく含まれる。好適な免疫グロブリンの類似ドメインには、フィブロネクチンドメイン(参照、例えば、Koide et al.(2007),Methods Mol. Biol. 352:95−109、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)、DARPin(参照、例えば、Stumpp et al.(2008)Drug Discov. Today 13(15−16):695−701、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)、タンパク質AのZドメイン(参照、Nygren et al.(2008)FEBS J. 275(11):2668−76、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)、リポカリン(参照、例えば、Skerra et al.(2008)FEBS J.275(11):2677−83、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)、アフィリン(参照、例えば、Ebersbach et al.(2007)J.Mol. Biol. 372(1):172−85、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)、アフィチン(参照、例えば、Krehenbrink et al.(2008). J.Mol. Biol. 383(5):1058−68、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)、アビマー(参照、例えば、Silverman et al.(2005)Nat.Biotechnol. 23(12):1556−61、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)、フィノマー、(参照、例えば、Grabulovski et al.(2007)J Biol Chem 282(5):3196−3204、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)、およびクーニッツドメインペプチド(参照、例えば、Nixon et al.(2006)Curr Opin Drug Discov Devel 9(2):261−8、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)が限定されることなく含まれる。
【0022】
特定の実施形態において、結合ポリペプチドは、抗体VHまたはVLドメインである。
【0023】
IV.核酸提示ライブラリー
特定の態様において、本発明の方法は、核酸提示ライブラリーを用いる。一態様において、本発明は、キメラVドメイン(例えば、VHまたはVLドメイン)の多様な核酸提示ライブラリーを提供し、ライブラリーの各メンバーが、第1の抗体からのFR1〜FR3領域配列および第2の抗体からのCDR3−FR4領域配列を含む。典型的なライブラリーは、例えば、本明細書の実施例2で開示される。本明細書で開示されるライブラリーは、本明細書で開示されるいずれの方法で使用するのにも好適である。
【0024】
本発明のライブラリーは、任意の源または種からのVHまたはVLドメイン配列を含み得る。特定の実施形態において、FR1〜FR3領域配列は、未処置のヒトの免疫学的レパートリーからのものである。特定の実施形態において、CDR3−FR4領域配列は、未処置のヒトの免疫学的レパートリーからのものである。特定の実施形態において、Vドメインは、VHドメイン(例えば、ヒトVHドメイン)である。
【0025】
特定の実施形態において、ライブラリーは、ライブラリーの各メンバーが同じ抗原に結合するように、抗原への結合のために事前に選択される。特定の実施形態において、ライブラリーの各メンバーは、GCGR、CXCR4、またはNAV1.7(例えば、ヒトGCGR、CXCR4、またはNAV1.7)に結合する。
【0026】
特定の実施形態において、ライブラリーは、少なくとも10(例えば、少なくとも10、10、10、10、10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、1014、または1015)個の固有のVドメイン(例えば、VHドメイン)を含む。
【0027】
本発明のライブラリーは、任意の当業者に認識される方法を使用して作製され得る。特定の実施形態において、ライブラリーは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、および18からなる群から選択される配列を有する少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを使用して(例えば、PCRによって)生成される。
【0028】
一態様において、本発明は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、および18からなる群から選択される配列を有する1つ以上のオリゴヌクレオチド(例えば、DNAオリゴヌクレオチド)を提供する。
【0029】
V.細胞表面提示方法
特定の態様において、本発明は、細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを識別する方法を提供する。本方法は概して、(a)結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーを、第1の細胞型の外部表面上に提示される細胞表面抗原と接触させることと、(b)このライブラリーから、第1の細胞型の外部表面上の細胞表面抗原に特異的に結合する少なくとも1つのライブラリーメンバーを単離することと、を含む。特定の実施形態において、抗原に特異的に結合しない結合ポリペプチドのライブラリーを事前に排除するために、ステップ(a)の前に、結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーは、外部表面上に提示される抗原を提示しない第2の細胞型と接触させられる。
【0030】
特定の態様において、本発明は、細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを識別する方法を提供する。本方法は、概して(a)結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーを、細胞表面抗原を発現する第1の細胞型に接触させること、およびライブラリーから、第1の細胞型に特異的に結合する少なくとも1つのライブラリーメンバーを単離することと、(b)結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーを、細胞表面抗原を発現しない第2の細胞型に接触させること、およびライブラリーから、第2の細胞型に特異的に結合する少なくとも1つのライブラリーメンバーを単離することと、(c)第1の細胞型に特異的に結合するが、第2の細胞型には結合しないライブラリーメンバーを選択することと、を含む。特定の実施形態において、ステップ(a)および(b)は、両方の細胞型に対するVH配列結合の頻度の大規模シーケンシング分析によって予測されるように、第1または第2の細胞型に対して選択的である結合体を識別するためにライブラリーの別個のアリコートを使用して並行して行われる。
【0031】
第1および第2の細胞型は、同一または異なる種の密接にまたは離れて関連する細胞型であり得る。特定の実施形態において、第2の細胞型は、第1の細胞型と密接に関連する。例えば、第2の細胞型は、同一の種および同一の系列からの細胞であり得るが、第1の細胞型とは異なる成熟段階からのものであり得る。代替的に、第2の細胞型は、第1の細胞型と同質遺伝子的であり得、標的抗原の発現においてのみ異なる。特定の実施形態において、第2の細胞型は、第1の細胞型に対して同質遺伝子的であるが、第1の細胞型内で発現される標的抗原(例えば、異なる種からの同等の抗原)の相同分子種を発現する。このような密接に関連する細胞型を対抗選択として使用することは、関連する抗原相同分子種に対して交差反応することなく所望の標的に結合する結合ポリペプチド(例えば、Vドメイン)の選択を可能にする。代替的に、密接に関連する細胞型を共選択分析において使用することは、所望の標的に結合し、また関連する抗原相同分子種と交差反応もする結合ポリペプチド(例えば、Vドメイン)の選択を可能にする。この共選択手法は、ヒト標的抗原、およびマウスまたはサル相同分子種の全てに結合する結合ポリペプチド(例えば、Vドメイン)を生成する上で有用であり、このことにより動物研究用に代用結合ポリペプチド(例えば、Vドメイン)を生成する必要がなくなる。
【0032】
本発明の方法で使用するための好適な核酸提示ライブラリーは、例えば、米国特許第7,195,880号、同第6,951,725号、同第7,078,197号、同第7,022,479号、同第6,518,018号、同第7,125,669号、同第6,846,655号、同第6,281,344号、同第6,207,446号、同第6,214,553号、同第6,258,558号、同第6,261,804号、同第6,429,300号、同第6,489,116号、同第6,436,665号、同第6,537,749号、同第6,602,685号、同第6,623,926号、同第6,416,950号、同第6,660,473号、同第6,312,927号、同第5,922,545号、同第6,348,315号、国際公開第WO2012125733号、および国際公開第WO2010/0119号に記載され、これらの全てが、参照することによりそれらの全体が組み込まれる。特定の実施形態において、多様な核酸提示ライブラリーは、DNA提示ライブラリーである。特定の実施形態において、核酸提示ライブラリーは、本明細書、または国際公開第WO2012125733号および/もしくは国際公開第WO2010/011944号中に記載されるDNA提示ライブラリーであり、これらは共に、参照することによりそれらの全体が組み込まれる。
【0033】
特定の実施形態において、DNA提示ライブラリーの各メンバーは、介在するDNAリンカーを通して、結合ポリペプチドをコードするDNAコード配列に連結された結合ポリペプチドを含み、このDNAリンカーは、制限エンドヌクレアーゼ部位(例えば、図1を参照)を含む。任意の制限エンドヌクレアーゼ部位が、用いられ得る。1つの具体的な実施形態において、制限エンドヌクレアーゼ部位は、DNA提示ライブラリーのメンバーのDNAコード配列中に存在せず、つまりは、ライブラリーメンバーの制限エンドヌクレアーゼ消化においてDNAコード配列の切断を回避する。1つの具体的な実施形態において、制限エンドヌクレアーゼ部位は、NotI部位である。
【0034】
特定の実施形態において、連結された結合ポリペプチドからの単離されたライブラリーメンバーのDNAコード配列を物理的に分離することが望ましい。任意の物理的分離方法が、用いられ得る。単離されたライブラリーメンバーが、制限エンドヌクレアーゼ部位を含むDNAリンカーを含む場合(例えば、図1を参照)、物理的分離は、単離されたライブラリーメンバーの制限エンドヌクレアーゼ消化によって達成され得る。得られた遊離DNAコード配列は、細胞/結合ポリペプチド複合体から、任意の当技術分野で認識される方法、例えば、遠心分離法によって更に分離され得る。
【0035】
特定の実施形態において、無傷の単離されたライブラリーメンバーを第1および/または第2の細胞型から物理的に分離することが望ましい。任意の物理的分離方法が、用いられ得る。特定の実施形態において、単離されたライブラリーメンバーは、標的抗原のリガンド(例えば、天然リガンド)での溶出によって、第1または第2の細胞型から分離される。特定の実施形態において、単離されたライブラリーメンバーは、細胞表面抗原の酵素的切断によって第1または第2の細胞型から分離される。任意の、抗原の酵素的切断方法、例えば、プロテアーゼ、リパーゼ、および/またはグリコシダーゼ酵素的切断が用いられ得る。特定の実施形態において、細胞表面抗原が、糖脂質アンカーによって細胞表面に結合する場合、単離されたライブラリーメンバーは、糖脂質アンカーのホスホリパーゼ切断によって第1または第2の細胞型から分離される。得られた遊離ライブラリーメンバーは、第1または第2の細胞型から、任意の当業者に認識される方法、例えば、遠心分離法によって更に分離され得る。
【0036】
第1および/または第2の細胞型に特異的に結合するライブラリーメンバーが単離されると、これらの分子のDNAコード配列が決定され得る。したがって、特定の実施形態において、本発明の方法は、単離されたライブラリーメンバーの少なくとも一部分のDNAコード配列を決定するステップを更に含む。任意の当業者に認識されるDNA配列の決定手段が、用いられ得る。1つの具体的な実施形態において、DNAコード配列は、単一分子、大規模シーケンシング技術(例えば、パイロシーケンシング)によって決定される。単一分子、大規模シーケンシング技術は、当技術分野において周知である(例えば、米国第6,210,891号に記載されるものを参照されたく、参照することによりその全体が組み込まれる)。特定の実施形態において、結合ポリペプチドが抗体またはその抗原結合断片である場合、CDR3領域のDNAコード配列が決定される。特定の実施形態において、第1および第2の細胞型に結合するライブラリーメンバーのDNAコード配列が決定される。第1の細胞型に特異的に結合するが、第2の細胞型に結合しないライブラリーメンバーは、第1の細胞型に特異な抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドを含むと考えられる。
【0037】
細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドが識別されると、それは、インビトロ(例えば、細胞発現系または無細胞発現系において)またはインビボ(例えば、遺伝子導入動物)において、異種発現され得る。したがって、特定の実施形態において、本発明の方法は、インビトロ(例えば、細胞発現系または無細胞発現系において)またはインビボ(例えば、遺伝子導入動物)において、識別された結合ポリペプチドを異種発現するステップを含む。
【0038】
特定の実施形態において、抗原の本質は、本発明の方法を予備策定する前から既知である。しかし、抗原の本質を知る必要はない。実際に、特定の実施形態において、抗原の本質は、本発明の方法を予備策定する前は不明である。つまりは、後者の場合、本発明の方法は、目的の細胞型(例えば、腫瘍細胞)の表面に存在する新規の抗原およびエピトープの識別を可能にする。
【0039】
特定の実施形態において、本明細書で開示される方法は、細胞表面抗原への結合に際して機能的内部移行が可能である結合ポリペプチドの選択を含む。このような結合ポリペプチドは、標的細胞の内部に細胞障害性薬物を送達することが可能なため、薬物共役の生成において特に有用である。機能的内部移行のためのいずれの選択方法論が用いられてもよい。例えば、結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーは、結合ポリペプチド内部移行を可能にする条件下(例えば、37℃で約1〜2時間)で標的細胞と接触させることができ。次に、この細胞を、プロテアーゼ阻害物質の存在下で、細胞溶解緩衝液で洗浄および溶解することができる。次に、内部移行化ライブラリーメンバーをエタノール沈降させ、DNAコード配列をPCR増幅によって濃縮することができる。
【0040】
本明細書で開示される方法は、任意の標的エピトープ発見手順に適用され得る。例えば、標的エピトープには、炎症に関するホーミングドメイン;治療に対する抵抗を有するまたは有さない原発腫瘍からの腫瘍特異的標的エピトープ、腫瘍細胞株、およびネオエピトープをもたらし得る任意の突然変異を抱える腫瘍;ならびに疾患特異的機能障害を媒介し、生物学的療法の標的になり得る他の疾患特異的エピトープが含まれ得る。
【0041】
VI.抗原可溶化
特定の態様において、本発明の方法は、抗原の未変性配座を維持し得、結合ポリペプチド(例えば、VHまたはVLドメイン)および抗原の複合体の回収を可能にし得る界面活性剤を使用する細胞からの抗原(例えば、細胞表面抗原、例えば、GPCR)の可溶化を伴う。これらの方法は、細胞表面抗原(例えば、GPCR)の未変性立体構造に結合する結合ポリペプチド(例えば、VHドメイン)を選択する上で特に有用である。
【0042】
一態様において、本発明は、細胞表面抗原に特異的に結合する結合ポリペプチド(例えば、VHまたはVLドメイン)を識別する方法を提供する。本方法は概して、結合ポリペプチド/抗原複合体の集団が形成されるように、外部表面上に細胞表面抗原を提示する第1の細胞型を結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーと接触させることと、結合ポリペプチド/抗原複合体の集団が可溶化されるように、第1の細胞型を界面活性剤と接触させることと、可溶化された結合ポリペプチド/抗原複合体の集団を単離することと、を含む。
【0043】
特定の実施形態において、結合ポリペプチド/抗原複合体の可溶化された集団は、結合ポリペプチドの一部分に特異的な結合作用物質を使用して単離される。未変性ポリペプチドに結合する任意の結合作用物質が、本方法において使用され得る。好適な結合作用物質には、ポリペプチド(または、ポリペプチドに遺伝子融合されるエピトープタグ)に特異的な抗体が限定されることなく含まれる。
【0044】
特定の実施形態において、特異的活性化状態に特異的な結合作用物質は、結合ポリペプチド/抗原複合体の集団を単離するために使用され得る。好適な結合作用物質には、抗原(例えば、リン光体特異的抗体)の化学的に修正された(例えば、リン酸化された)変異体に特異的な抗体が限定されることなく含まれる。
【0045】
特定の実施形態において、特異的活性化状態中に抗原に付随するアクセサリー分子(例えば、サイトゾルシグナル伝達分子または共受容体)に特異的な結合作用物質は、結合ポリペプチド/抗原複合体の集団を単離するために使用され得る。
【0046】
細胞膜から抗原を抽出し得、抗原の未変性配座を維持し得る任意の界面活性剤は、本発明の方法で用いられ得る。好適な界面活性剤には、n−ドデシル−β−d−マルトシド(DDM)および3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート(CHAPS)が限定されることなく含まれる。特定の実施形態において、抗原または結合ポリペプチド/抗原複合体の集団は、DDMおよびCHAPSの混合物を使用して可溶化される。
【0047】
当技術分野において既知である任意の細胞表面抗原(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法を使用して単離され得る。当技術分野において既知である任意の細胞型(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法で用いられ得る。当技術分野において既知である任意の核酸提示ライブラリー(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法で用いられ得る。当技術分野において既知である任意の結合ポリペプチドまたは小分子(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法の細胞表面抗原への結合のために選別され得る。
【0048】
VII.内部移行
特定の態様において、本発明の方法は、所望の細胞表面抗原に特異的に結合し、抗原と共に内部移行化される結合ポリペプチドの選択を伴う。このような方法は、細胞中にペイロード(例えば、ケモトシキン)を送達し得る結合ポリペプチドを生成する上で特に有用である。
【0049】
一態様において、本発明は、細胞表面抗原に特異的に結合する内部移行結合ポリペプチド(例えば、VHまたはVLドメイン)を識別する方法を提供する。本方法は概して、細胞表面抗原の内部移行を可能にし、かつ内部移行化結合ポリペプチド/抗原複合体の集団が形成されるような条件下で、外部表面上に細胞表面抗原を提示する第1の細胞型を、結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーと接触させることと、第1の細胞型を洗浄して、外部表面に結合されたライブラリーメンバーを除去することと、内部移行化結合ポリペプチド/抗原複合体を単離することと、を含む。
【0050】
特定の実施形態において、内部移行化結合ポリペプチド/抗原複合体は、界面活性剤抽出によって単離される。細胞膜から抗原を抽出し得、抗原の未変性配座を維持し得る任意の界面活性剤は、本発明の方法で用いられ得る。好適な界面活性剤には、n−ドデシル−β−d−マルトシド(DDM)および3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート(CHAPS)が限定されることなく含まれる。特定の実施形態において、抗原または結合ポリペプチド/抗原複合体の集団は、DDMおよびCHAPSの混合物を使用して可溶化される。
【0051】
特定の実施形態において、内部移行化結合ポリペプチド/抗原複合体は、結合ポリペプチドの一部分に特異的な結合作用物質を使用して更に単離される。好適な結合作用物質には、抗原の化学的に修飾された(例えば、リン酸化された)変異体に特異的な抗体(例えば、リン酸化特異的抗体)が限定されることなく含まれる。特定の実施形態において、特異的活性化状態において抗原に付随するアクセサリー分子(例えば、サイトゾルシグナル伝達分子または共受容体)に特異的な結合作用物質は、結合ポリペプチド/抗原複合体の集団を単離するために使用され得る。
【0052】
特定の実施形態において、内部移行化結合ポリペプチドが、結合ポリペプチドをコードする核酸の沈降により(例えば、エタノール沈降によって)更に単離される。
【0053】
第1の細胞型の外部表面に結合されたライブラリーメンバーは、任意の好適な洗浄緩衝液を使用して除去され得る。特定の実施形態において、第1の細胞型の外部表面に結合されたライブラリーメンバーは、低pH溶液(例えば、pHが約5未満、例えば、約pH4未満、約pH3未満、または約pH2未満の溶液)で洗浄することによって除去され得る。好適な低pH溶液には、pH3未満のHClまたはグリシンが含まれる。特定の実施形態において、低pH溶液は、約pH2.7の0.1MのHClである。
【0054】
特定の実施形態において、複数回選別される場合、内部移行化結合ポリペプチドは、初回の選別において、結合ポリペプチドをコードする核酸の沈降によって(例えば、エタノール沈降によって)単離され、1回目以降の(さらに厳しい)選別において、結合ポリペプチドの一部分に特異的な結合作用物質を使用して単離される。
【0055】
当技術分野において既知である任意の細胞表面抗原(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法を使用して単離され得る。当技術分野において既知である任意の細胞型(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法で用いられ得る。当技術分野において既知である任意の核酸提示ライブラリー(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法で用いられ得る。当技術分野において既知である任意の結合ポリペプチドまたは小分子(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法の未変性細胞表面抗原への結合のために選別され得る。
【0056】
VIII.抗原誘導
特定の態様において、本発明の方法は、対照結合作用物質(例えば、抗体)によって認識されるものとは異なるエピトープにて抗原に特異的に結合する結合ポリペプチドの選択を伴う。このような方法は、新規の機能特性を有する結合ポリペプチドを生成する上で特に有用である。
【0057】
一態様において、本発明は、対照結合作用物質(例えば、抗体)によって認識されるものとは異なるエピトープにて抗原に特異的に結合する結合ポリペプチド(例えば、VHまたはVLドメイン)を識別する方法を提供する。本方法は概して、抗原および対照結合作用物質(例えば、抗体)の複合体が形成されるような条件下で、抗原を対照結合作用物質と接触させることと、少なくとも1つの結合ポリペプチド/抗原複合体が形成されるように、抗原および参照抗体の複合体を結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーと接触させることと、ライブラリーから、抗原に特異的に結合する少なくとも1つのライブラリーメンバーを単離することと、を含む。
【0058】
当技術分野において既知である任意の細胞表面抗原(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法を使用して単離され得る。当技術分野において既知である任意の細胞型(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法で用いられ得る。当技術分野において既知である任意の核酸提示ライブラリー(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法で用いられ得る。当技術分野において既知である任意の結合ポリペプチドまたは小分子(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法の未変性細胞表面抗原への結合のために選別され得る。
【0059】
特定の実施形態において、抗原は、細胞の外部表面上に提示される細胞表面抗原(例えば、GPCRなどの細胞表面受容体)である。特定の実施形態において、抗原は、GCGR、CXCR4、またはNAV1.7(例えば、ヒトGCGR、CXCR4、またはNAV1.7)である。
【0060】
IX.抗原活性化状態への偏向
特定の態様において、本発明の方法は、所望の活性化状態の抗原(例えば、細胞表面抗原)に特異的に結合する結合ポリペプチドの選択を伴う。このような方法は、標的抗原をアロステリック調節する(例えば、阻害する)結合ポリペプチドを生成する上で特に有用である。
【0061】
一態様において、本発明は、所望の活性化状態の細胞表面抗原に特異的に結合する内部移行結合ポリペプチド(例えば、VHまたはVLドメイン)を識別する方法を提供する。本方法は概して、外部表面上に細胞表面抗原を提示する第1の細胞型を、i)細胞表面抗原に特異的に結合し、細胞表面抗原の活性化状態を調節する結合作用物質、およびii)結合ポリペプチドの多様な核酸提示ライブラリーと接触させることと、ライブラリーから、第1の細胞型の外部表面上の細胞表面抗原に特異的に結合する少なくとも1つのライブラリーメンバーを単離することと、を含む。
【0062】
受容体刺激薬、拮抗薬、部分的受容体刺激薬などを含む、抗原の任意の調節物質が、本発明の方法で用いられ得る。特定の実施形態において、調節物質は、抗原の天然リガンドである。特定の実施形態において、調節物質は、抗原を不活性配座に組み付ける。
【0063】
当技術分野において既知である任意の細胞表面抗原(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法を使用して単離され得る。当技術分野において既知である任意の細胞型(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法で用いられ得る。当技術分野において既知である任意の核酸提示ライブラリー(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法で用いられ得る。当技術分野において既知である任意の結合ポリペプチドまたは小分子(本明細書で開示されるものを含む)は、本方法の未変性細胞表面抗原への結合のために選別され得る。
【0064】
X.抗体形式
本発明の方法で用いられるVHおよび/またはVLドメインは、単離する上で使用され得るか、または追加のアミノ酸(例えば、エピトープタグ)および/またはドメインに融合され得る。特定の実施形態において、ライブラリー中の少なくとも1つのVHドメインは、少なくとも1つのCH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはそれらの組み合わせに融合される。具体的な実施形態において、ライブラリー中の少なくとも1つのVHドメインは、少なくとも1つのCH1ドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む、少なくとも1つの重鎖定常領域に融合される。特定の実施形態において、ライブラリー中の少なくとも1つのVHドメインは、少なくとも1つの軽鎖定常領域に融合される。
【0065】
本明細書で開示される方法を使用して識別されるVHまたはVLドメインはまた、例えば、国際公開第WO2012125733号に記載の方法(参照することによりその全体が組み込まれる)を使用して、相補的VH/VLの対を選択するために更なる選別方法にかけられ得る。
【0066】
本発明の方法を使用して選択されたVHもしくはVLドメイン、および/またはVH/VLの対は、scFv、Fab、および/または完全なる四量体抗体を限定することなく含む別の抗体形式に組み込まれ得る。
【実施例】
【0067】
XI.実験例証
実施例1:生細胞選択および大規模シーケンシング分析を組み込んだ、ヒトVHライブラリーおよびdsDNA提示テクノロジーを使用した標的細胞特異的エピトープの識別。
A.まとめ
ヒト供与体の骨髄、末梢血、および脾細胞から取得された完全なヒト抗体VHライブラリーが作出され、dsDNA提示テクノロジーを使用して、多数の高親和性結合体および複数の標的に対する特異的VH結合体を識別した。標的細胞特異的エピトープを、ヒトVHライブラリーおよびdsDNA提示テクノロジーを使用する生細胞選択および大規模シーケンシング分析によって識別した。並行、差次的選択、および標的細胞選択的選択の戦略を、これらの方法(図4、5、6を参照)において適用した。全ての回に及ぶ全てのプールの大規模シーケンシングからのCDR3頻度の集計は、VHクローンの選択性を予測した。高親和性VHを標的細胞および関連細胞型に選択的に結合すると識別した。
【0068】
B.生細胞エピトープ発見のためのライブラリー操作および選択方法
生細胞に結合されたライブラリーメンバーを効果的に回収するために、2つの方法が生み出された。
【0069】
第1の方法は、結合された抗体に融合されたDNAの制限酵素消化によって、結合体を生細胞から剥離することを伴った。本方法は、細胞上の全てのエピトープに結合されたVHの完全な回収を可能にする。VH DNAライブラリーのC末端は、操作されて、NotI制限部位を保因した(図1を参照)。未処置のVHフレームワークにおいてNotI部位は無く、よって、完全長のVH結合体だけが後続の増幅のために細胞から溶出される。生細胞上で、NotI制限酵素消化緩衝液を、試験にかけ、37℃での最大2時間の培養を以って、細胞は生存可能であった。NotI消化の効率は高かった。4℃で1時間、ライブラリーが細胞へ結合した後、37℃で1時間、NotI緩衝液で細胞を洗浄および消化し、次に、細胞を遠心沈降して、PCR増幅用に(結合化VH DNAを含有する)上澄部を集めた(図1を参照)。
【0070】
第2の方法は、ホスホリパーゼC(PLC)消化を使用してVH結合体を生細胞から取り出すことである。本方法は、任意のGPIアンカー膜タンパク質のエピトープに結合したVH(つまり、エピトープの部分集合)の溶出を可能にする。PLCクリップ効率は、対照分子を用いるFACS上で確証されるように高い。4℃で1時間、ライブラリーの細胞との培養の後、この細胞を洗浄し、37℃で15分間PLCと培養した。続いて、細胞を遠心沈降し、GPIアンカー膜タンパク質の細ドメイン複合体化された融合VHを含有する上澄部をPCR増幅した(図2を参照)。
【0071】
C.標的および関連した/所望されない細胞型上の並行選択、差次的選択、および標的細胞選択的選択
国際公開第WO2010/011944号に記載されるプロトコル(参照することによりその全体が組み込まれる)に従って、主な未処置の融合ライブラリーを生成した。第1回目の選択で、全ての選択分岐に対して同一の多様性を保因する複数のライブラリー中に、精製された融合ライブラリーを平等に分割した(図5を参照)。
【0072】
正常な供与体または患者から取得された初代細胞を、標準細胞生物学プロトコルに従って、新たに解凍したか、または細胞培養フラスコから単離した。次に、細胞を37℃で満杯の媒体中で1時間回収し、続いて氷上で30分間、選択緩衝液中でブロッキングした。抗体および標的内部移行を妨げるために、全ての選択を氷上で実行した。
【0073】
並行選択に関して、ライブラリーを200ulの事前にブロックされたストレプトアビジンビーズおよび200ulの事前にブロックされたhIgGエポキシビーズで、室温で30分間事前に排除して、一切の異常な折り畳み構造のライブラリーメンバーおよび粘着性のライブラリーメンバーを順番に除去した。次いで、事前に排除されたライブラリーを氷上で冷却し、事前にブロックされた細胞にかけて、氷上で1時間培養した。
【0074】
標的細胞選択的選択に関して、所望されない細胞型および密接に関連する細胞型について、氷上で1時間事前排除を行い、一切の非選択的結合体を除去して、次に標的細胞にかけた。
【0075】
選択4回目において、標的細胞上の選択分岐に差次的選択方法を適用した(細胞の事前排除の有無を伴う)。この回では、ライブラリーを複数の管に分割し、各細胞型および異なる疾患段階の患者の細胞に並行して結合した。この戦略は、大規模シーケンシング分析および疾患の進行に伴って上昇した異なるエピトープを認識する結合体の識別によって、標的細胞対他の細胞型の直接的な比較を可能にした(図6を参照)。
【0076】
全ての選択分岐に関して、結合後、上述されるように10mLの結合緩衝液で細胞を洗浄し、膜タンパク質に対する全ての結合体を回収するようにNotI制限酵素消化、またはGPIアンカー膜タンパク質に対する結合体を回収するようにPLCクリップのどちらか一方にかけた。
【0077】
D.標的細胞に対して選択的な結合体を予測するための大規模シーケンシング分析
各回の選択の後、結合プールをPCR増幅した。各結合プールのHCDR3を、VH断片のフレームワーク3のC末端およびVH断片のフレームワーク4のN末端をプライミングするオリゴを用いたPCRによって引き上げた。次に、これらの個別の選択回および選択分岐から引き出されたHCDR3断片に、PCRによってイルミナシーケンシングのために使用された特異的DNAバーコードをタグ付けした。タグ付けされたHCDR3を集めて、Hi Seqテクノロジーでの高性能シーケンシングに送った。標的細胞からの4回目の結合プールもまたDNAバーコードをタグ付けされ、完全長のVH配列を得るために、454シーケンシングに提出した。
【0078】
シーケンシング後、DNAバーコードに基づいてこの配列を解いた。各回の選択および選択分岐から引き出された何百万もの配列は、異なる回および異なる選択分岐で存在する特定のCDR3配列の頻度を比較することによって集計された。選択的結合体の識別のために使用された基準は、1)制御または密接に関連する細胞型ではなく標的細胞の先の回から後の回へのCDR3配列の特異的濃縮、2)差次的選択回での、標的特異的細胞型においてはより高く、制御または密接に関連する細胞型においては低い頻度(図7を参照)、および3)他の標的またはデータベースのほかのプログラムからの細胞選択中には存在しない配列、であった。次に、イルミナシーケンシングによって識別された選択的クローンを、454完全長配列情報に基づいて合成した。
【0079】
E.生成、精製、およびFACS結合分析
次に、結合プールおよび合成VHをpET22b発現ベクターにサブクローンした。VHをBL−21大腸菌細胞中で生成し、標準プロトコルを使用してC末端Hisタグを通して精製した。異なる細胞型および結合体のEC50に対するVHの結合および選択性を査定するためにFACS分析を行った。生細胞選択方法によって、高親和性および選択的VH結合体を識別した(図8、9、および10を参照)。
【0080】
実施例2:増進された多様性VHライブラリーの作出
存在するVH未処置のライブラリー(例えば、国際公開第WO2010/011944号で開示されるもの)の多様性を拡大するため、CDR3およびフレームワーク再組換え手法を採用した。端的には、VHフレームワーク3のC末端領域およびフレームワーク4のN末端領域をプライミングするオリゴを使用してPCRを行なった。未処置のVHライブラリー由来のVH群の各々からの全CDR3ループドメインを増幅するために、この戦略を考案した。同一の未処置のライブラリーからの群特異的変性N末端フレームワーク1およびC末端フレームワーク3オリゴでのPCRによってVHフレームワーク1〜3を増幅した。CDR3およびフレームワークを等モル比で混合したT7 UTRおよびフレームワーク4オリゴを使用して重複PCRを行った。再度組換えられたライブラリーを更に修正して、選択のためのdsDNA融合ライブラリーに関して精製タグを保因した。特異的に、未処置のライブラリーからのHCDR3を、フレームワーク3およびフレームワーク4フォワードおよびリバースオリゴを有する各VH群から引き上げ、フレームワーク特異的SSオリゴヌクレオチドを使用して、骨髄B細胞およびPBMCから増幅された未処置のヒトVHドメインのフレームワーク領域1〜3を含むライブラリー中に組み合わせた。5’VH群特異的および3’一般的FR3リバースプライマーを使用して、ヒトVHフレームワーク領域1〜3を増幅し、VH群フレームワーク領域の別個のライブラリーを作り出した。5’T7TMVおよび3’FR4オリゴを使用して、更にPCR増幅をすることにより、VH群フレームワークライブラリー、および同一のライブラリーから引き上げられたHCDR3を組み換えた。このことはまた、インビトロ転写/翻訳について、5’端でT7TMV促進配列を追加した。FR4 Cu3リバースおよびY109プライマーをそれぞれ5’T7TMVプライマーと共に使用したPCRによって、C末端Cμ3配列およびFLAGタグ(翻訳後の精製)もまた追加した。HCDR3組換えVHライブラリーの調製のために使用されたオリゴヌクレオチドの核酸配列は、表1に記載される。
【0081】
所望であれば、正常な個人および疾患患者から、さらに多くの供与体を包含していくことにより、ライブラリーの多様性を更に増進し得る。
【0082】
【表1】
【0083】
増進された多様性ライブラリーは、本明細書に記載されるように、生細胞表面剥離選択方法論のために更に操作され得る。
【0084】
実施例3:免疫沈降によるヒトVHライブラリーおよびdsDNA提示テクノロジー組み込みを使用した生細胞選択。
GPCRを可溶化しつつ、未変性機能的配座を保護する能力について、種々の界面活性剤を評価した。特に対照VH分子(Myc親和性タグを含む)およびGPCR発現細胞株を使用して、35S標識抗体結合分析を進めた。この分析において、等しい数のGPCR標的発現細胞を、トリトンX100、CHAPS、DDM、またはBrij35界面活性剤で溶解し、続いて、抗Mycタグ抗体で免疫沈降を行い、タンパク質G磁性ビーズにより捕獲した。標的細胞に結合する陽性対照VHを、インビトロ翻訳反応中、35Sで放射標識化した。この標識VHを、GPCR標的と共に培養し、上述されるような異なる界面活性剤での細胞溶解後に抗Myc抗体によって捕獲した。シンチレーション計数器を使用して、GPCR標的に結合されるVHの量を定量化した。VH結合活性に基づいて、界面活性剤可溶化によって保護された機能的配座をランク付けした。並行して、ウェスタンブロット法によって、抗Myc抗体で免疫沈降されたGPCRの数量を評価した。陽性対照VHは、細胞がDDMまたはCHAPSで溶解されるときにGPCRへのより良い結合活性を示した。DDMとCHAPSとの組み合わせは、最大の機能的GPCR活性および最適なGPCR数を、これらの2つの分析において示し、GCGR(グルカゴン受容体)結合VHドメインの選択において使用するために選択された。
【0085】
1つのGCGR選択分岐において、精製され、事前に排除されたVH DNA提示ライブラリーを、GCGR発現細胞と1時間接触させた。細胞を洗浄し、DDM/CHAPSで溶解し、その後、抗Mycタグ抗体で免疫沈降を行った。VH−GCGR−Myc Ab複合体を回収し、0.1NのKOHを使用してVH DNAを溶出した。本方法を使用して、4回の選択の後、GCGR発現細胞に結合する高親和性VHを識別した。
【0086】
代替的に、DDM/CHAPSで細胞を可溶化した後、抗Myc抗体で免疫沈降された、可溶化および高濃度GPCR標的(または別の目的の標的)を使用して、選択を行うことができる。次に、ビーズ上で捕獲されたこれらの標的で培養した後に、VHライブラリーを溶出することができる。
【0087】
上述される本方法に加えて、VHライブラリーが生細胞発現機能的GPCR(または他の目的の標的)と結合すると、細胞は、抗Myc抗体に類似した抗細胞内NまたはC末端抗体で溶解および免疫沈降され得る。抗リン酸化特異的抗体は、捕獲された活性受容体に適用され得、不活性化受容体から分離し得る。免疫沈降はまた、種々の活性化および不活性化状態の標的特異的経路を調節するVHを捕獲するために活性化または不活性化標的に付随するアクセサリー分子に対する抗体でも行われ得る。次に、これらの結合プールにおけるDNA提示ライブラリーメンバーは、PCR増幅の間、DNAバーコードをタグ付けされて、異なる作用機序を持つ機能的結合体を識別するために大規模シーケンシング提出することができる。
【0088】
実施例4:内部移行選択
内部移行活性で受容体刺激薬抗体または拮抗薬抗体を識別するための選択方法論が生み出された。端的には、GPCR結合VHを内部移行させるために、(上述されるような)未処置のヒトdsDNA提示VHライブラリーを、50mMのNH4C1の存在下で、生細胞発現GPCR(または他の目的の標的)を使って、37℃で培養した。次に、細胞を緩衝液で洗浄し、低pH酸(例えば、pH2.7の0.1MのHCL)によって、細胞表面VHを剥離した。低pH剥離後、上述されるように、CHAPS/DDMの組み合わせで細胞を溶解し、DNAの沈降を行って、内部移行化dsDNA提示ライブラリーメンバーのコード配列を回収した。代替的に、抗C末端または抗Mycタグ抗体での免疫沈降は、行われ得る。これらの方法はともに、組み合わせることも可能である。例えば、GCGR結合VHの選択において、内部移行化ライブラリーメンバーがDNA沈降によって回収された4回の選別の後、抗Myc抗体での内部移行化ライブラリーメンバーの免疫沈降が適用されて、選択的厳密さが増加した5回目の選択が行われた。これらの実験において、5回の内部移行選択の後、高親和性拮抗薬を識別した。これらのGCGR結合VHは、適用された選択的圧力と調和する内部移行活性を示した。
【0089】
実施例5:活性化/非活性化状態の標的細胞上での生細胞選択
GPCR標的の標的機能的エピトープおよびアロステリック調節性VHの識別を増進するために、活性化および非活性化標的細胞(例えば、生細胞中の受容体刺激薬活性化または拮抗薬不活性化GPCR)の選択を可能にするために、選択戦略を生み出した。内因性リガンド(またはリガンド類似体)の存在下での選択は、オルソステリック結合部位と区別可能な位置、またはリガンドおよび受容体の両方によって現される新規のエピトープに結合するVHの識別に有利に働く。端的には、受容体刺激薬(リガンド、類似体、または受容体刺激薬抗体)または拮抗薬(阻害物質または中和抗体)の存在下で、GCGR発現細胞は阻止され、(上述されるように)未処置のヒトdsDNA提示VHライブラリーで培養した。例えば、GCGRに対する選択において、グルカゴンの存在下で選択分岐を行った。別のGPCR選択において、リガンド模倣物質および拮抗薬の存在下で、アロステリック調節物質を識別するためにいくつかの選択分岐を行った。所望の活性化状態において、GPCR標的に結合するVHを効果的に捕獲するために、活性化および非活性化標的細胞でのこれらの選択を、本明細書で開示される種々のライブラリー回収方法と組み合わせた。
【0090】
実施例6:GPCRのオルソステリックおよびアロステリック調節物質を識別するための生細胞におけるリガンド溶出およびエピトープ誘導
生細胞選択を使用して、GPCRの特異的機能的エピトープ(または他の目的の標的)を標的とするための方法が生み出された。これらの方法は、GPCRのオルソステリック(受容体刺激薬/拮抗薬)およびアロステリック調節物質の識別を可能にする。例えば、GCGR結合VHの選択において、グルカゴンの存在下で1つの選択分岐を行った。GCGR選択の別の分岐に関して、抗体ライブラリーをGCGR発現標的細胞で培養した後、細胞を洗浄し、4時間グルカゴンで溶出した。次に、本明細書で開示される方法を使用して、リガンド結合ドメインと区別可能なエピトープに結合した残りの結合体を細胞から剥離した。これらの実験から、複数の高親和性VHドメインが、GCGRへのグルカゴン結合およびGCGRによるリガンド誘発cAMP誘発を阻止すると識別された。識別されたVHドメインのうちの1つが、正アロステリック調節物質として機能した。別の標的に関して、拮抗薬抗体を使用して、拮抗薬抗体の存在下で選択された細胞上のエピトープを予備阻止した。この実験は、存在する拮抗薬参照抗体と区別可能なエピトープを認識する複数のVHドメインの識別をもたらした。
【0091】
実施例7:齧歯目、霊長目、相同膜タンパク質に関する選択性
GPCR種相同体の抗GPCR抗体の選択性を増加させるために、これらの関連する相同体を発現する細胞株が、並行して生成されて、(異種間が所望されない場合)対抗選択手段としてか、あるいは標的細胞選択、次いで、選択的クローンを識別するための大規模シーケンシングおよび生物情報学集計と並行して使用されるかのいずれかで、本明細書に記載されるDNA提示選択方法において活用されてもよい。後の動物の有効性および毒性研究に関して、齧歯目または霊長目と交差反応性である抗体を生成するために、初回の選択でヒト標的細胞において選択を行い、次いで、齧歯目標的発現細胞に対する交差選択を行った。代替的に、ヒトおよび齧歯目細胞は、選択の別の回で使用され得る。識別されたVHドメインの多くが、細胞上でのヒト標的および齧歯目標的の両方への結合を示し、動物研究のために代用抗体を生成する必要がなくなる。
【0092】
実施例8:大規模シーケンシングの適用
大規模シーケンシングテクノロジーは、本明細書に記載されるDNA提示選択方法において広範囲に適用されてきた。特定の実験では、選択方法中に主要な基準が組み込まれ、多くの並行選択が行われた。個々の選択および選択分岐から引き出されたHCDR3断片に、PCRによるイルミナシーケンシングのために使用された特異的DNAバーコードをタグ付けした。タグ付けされたHCDR3を集めて、Hi SeqまたはMy Seqテクノロジーでの高性能シーケンシングに送った。シーケンシング後、DNAバーコードに基づいてこの配列を解いた。各回の選択および選択分岐から引き出された何百万もの配列は、異なる回および異なる選択分岐で存在する特定のCDR3配列の頻度を比較することによって集計され、組み込まれた選択的結合、エピトープの範囲、および機能的プロファイルでの主要な分子の選択を導いた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図12-4】
図12-5】
図12-6】
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]