(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態に係るクローラ付き作業機械としてのクローラクレーンの全体構成を示す側面図である。クローラクレーン100は、下部走行体1、上部旋回体3、ブーム5及びカウンタウェイト7から基本的に構成されている。上部旋回体3は旋回輪9を介して下部走行体1に旋回可能に設けられている。ブーム5は上部旋回体3に起伏可能に軸支されている。上部旋回体3のカウンタウェイト7設置側とは逆側の端部にはキャブ(運転室)11が設置され、キャブ11とカウンタウェイト7との間にはハウス(機械室)13が設けられている。
【0014】
上部旋回体3には巻き上げ用のウインチドラムである巻上ドラムと、起伏用のウインチドラムである起伏ドラムが搭載されている。巻上ドラムには巻上ロープが巻回され、巻上ドラムの駆動により巻上ロープが巻き取りまたは繰り出され、ブーム5の先端に吊り下げられたフックが昇降する。起伏ドラムには起伏ロープ15が巻回され、起伏ドラムの駆動により起伏ロープ15が起伏ドラムに巻き取り又は繰り出される。これによりブーム5が起伏する。
【0015】
ハウス13内には巻上用油圧モータ及び起伏用油圧モータが設置されている。巻上ドラムは巻上用油圧モータによって駆動され、起伏ドラムは起伏用油圧モータによって駆動される。また、巻上用油圧モータ及び起伏用油圧モータをそれぞれ制動するブレーキ装置が設置され、巻上用油圧モータ及び起伏用油圧モータの駆動と制動が制御される。
【0016】
図2は、クローラクレーン100の下部走行体1及び上部旋回体3部分を示す側面図、
図3は下部走行体1をカーボディとクローラに分離したときの状態を示す斜視図、
図4はクローラをカーボディに装着したときの状態を示す平面図である。
図2ないし
図4において、下部走行体1は、カーボディ21と一対のクローラ31−1,2から構成されている。カーボディ21の前部及び後部には、それぞれ左右方向に延在する合計4本のアクスル22−1,2,3,4が設けられている。各アクスル22−1,2,3,4の先端には、延長ビーム23−1,2,3,4が連結ピン25によって揺動可能に軸支されている。なお、以下の説明において、各部を総括的に示す場合には、ハイフンに続く符号、あるいはアルファベットで示す添え字は省略する。
【0017】
カーボディ21の前部及び後部には、下部走行体1をジャッキアップするためのジャッキアップ装置40が一対ずつ設けられている。カーボディ21の側面には、一対のクローラ31−1,2のカーボディ21に対する間隔を拡張及び縮小させるためのクローラ伸縮装置としてのリトラクトシリンダ42−1,2が左右に一対設けられている。
【0018】
クローラ(走行装置)31−1,2は所謂履帯式のものであって、右側前部及び右側後部のアクスル22−1,2、並びに左側前部及び左側後部のアクスル22−3,4にそれぞれ取り付けられる。図において右側のクローラ31−1は、クローラサイドフレーム(以下、サイドフレームと称す。)32−1、走行用駆動装置の駆動輪34及び従動輪35、上部ローラ(若しくはスライダ)36h、下部ローラ36(
図13)、並びに前記駆動輪34と従動輪35との間に掛け回された履帯(クローラベルト)38を備えている。走行用駆動装置は、各サイドフレーム32−1の後端近傍にそれぞれ回転可能に支持された駆動輪(スプロケット)34と、駆動輪34を駆動する走行用油圧モータとを備えている。なお、駆動輪34と従動輪35は図では形状は省略し、取り付け位置を示している。
【0019】
図5は右側のサイドフレーム32−1を示す図で、同図(a)は平面図、同図(b)は正面図、同図(c)は下面図である。同図において、右側のサイドフレーム32−1には、アクスル22−1,2を嵌挿させる嵌め込み部32a−1,2が前後2箇所設けられている。嵌め込み部32a−1,2はサイドフレーム32−1の側面に窓状に開口している。嵌め込み部32a−1,2の下板32b−1,2には、延長ビーム23−1,2とサイドフレーム32−1との相対位置を決めるためのガイド溝32c−1,2と、延長ビーム23−1,2とサイドフレーム32−1の相対位置を規定するための固定ピン嵌入孔32d−1,2がそれぞれ設けられている。ガイド溝32c−1,2は側面がストッパピン23−1fを案内する機能を備え、最深部がストッパピン23−1fの側方内側への移動を規制する機能を備えている。
【0020】
また、下板32b−1,2の下面には、
図5(c)から分かるように嵌め込み部32a−1,2の開口方向に沿って、幅方向の中央部に補強リブ32e−1,2が設置されている。固定ピン嵌入孔32d−1,2は補強リブ32e−1,2を避けるように補強リブ32e−1,2の側部に設けられている。
【0021】
左側のサイドフレーム32−2もカーボディ21の進行方向中心を基準に右側のサイドフレーム32−1と同様の構成で対称に設けられている。左側のサイドフレーム32−2は右側のサイドフレーム32−1に関する各部と対称な構成となっているので、以下、基本的に右側のサイドフレーム32−1について説明する。
【0022】
図6は右側後部のアクスル22−2と延長ビーム23−2を示す要部拡大斜視図であり、アクスル22−2の先端部近傍を示している。前述したように延長ビーム23−1,2は、上下方向に沿って挿通された連結ピン25によって各アクスル22−1,2の先端に軸支されている。
図6では、右側後部のアクスル22−2と延長ビーム23−2を示しているので、以下、右側後部のアクスル22−2と延長ビーム23−2を例にとって詳細に説明する。
【0023】
右側後部の延長ビーム23−2は、ピン挿通部23−2a、上部プレート23−2b、下部プレート23−2c、縦プレート23−2d、固定ピン23−2e及びストッパピン23−2fを備えている。ピン挿通部23−2aは、連結ピン25が挿通されてアクスル22−2の先端で回動可能に軸支される部位である。上部プレート23−2bは、ピン挿通部23−2aの上部から側方に延在する厚肉板状部材である。下部プレート23−2cは、ピン挿通部23−2aの下部から側方に延在する厚肉板状部材である。縦プレート23−2dは、ピン挿通部23−2a、上部プレート23−2b、及び下部プレート23−2cを接続する部材である。
【0024】
なお、延長ビーム23−2を上から見たときに、連結ピン25の挿通部分近傍の端部を基端側と呼び、固定ピン23−2e及びストッパピン23−2fが設けられる部分の近傍の端部を先端側と称す。また、下部プレート23−2cの先端側には、固定ピン23−2eが挿通される固定ピン挿通孔23−2g及びストッパピン23−2fが挿通されるストッパピン挿通孔23−2hが設けられている。なお、右側前部の延長ビーム23−1では、固定ピン挿通孔23−1gは、後述する
図17に示すように延長ビーム23−1の幅方向の中央に位置するストッパピン挿通孔23−1hから延長ビーム23−1の長手方向に引いた中心線(仮想線)52から所定の距離γだけずれた位置にオフセットされた配置になっている。
【0025】
図7は延長ビーム23−2を嵌め込み部32a−2に嵌め込んで固定したときの状態を示す要部斜視図である。
図7に示すように、固定ピン23−2eは固定ピン挿通孔23−2gに挿入された後、固定ピン保持用ピン23−2iを固定ピン保持部23−2kに挿入し、また、ストッパピン23−2fはストッパピン挿通孔23−2hに挿入された後、ストッパピン保持用ピン23−2jをストッパピン保持部23−2lに挿入し、それぞれ下部プレート23−2cの表面側で抜け止めすることができる。なお、
図7では、ストッパピン23−2fはガイド溝32c−2内に位置し、延長ビーム23−2は嵌め込み部32a−2内で位置決めされた状態である。
【0026】
延長ビーム23−1,2,3,4は、クローラ31−1,2を走行位置あるいは作業位置に伸長し、輸送時に縮小するために連結ピン25を介してアクスル22−1,2,3,4に回動可能に連結されている。
図8は延長ビーム23−1,2,3,4を伸長(以下、エクステンドと称する。)したとき、
図9は折り畳んだ(以下、リトラクトと称する。)ときのカーボディ21と左右のクローラ31−1,2との関係をそれぞれ示す斜視図である。また、
図10はリトラクト時の延長ビーム23−1,2の固定状態を示す要部斜視図である。
【0027】
延長ビーム23−2を側方に向けて延ばした状態で固定するには、
図6に示すようにアクスル22−2の先端で延長ビーム23−2が側方(アクスル22−2の延在方向)に延在するように、連結ピン25を中心に延長ビーム23−2を回動させる。
図6はリトラクト時から時計方向に90度回転させたときの状態を示す。なお、
図10に示すように、延長ビーム23−2は、アクスル22−2の延在方向に沿って延在するエクステンド位置と、アクスル22−2の延在方向と直交するように折り畳まれたリトラクト位置との2位置の間で回動可能である。したがって、延長ビーム23−2の上述した2位置の間における回動範囲の大きさθは略90度である。
【0028】
図11は延長ビーム23−1,2,3,4をアクスル22−1,2,3,4の長手方向の延長上に延在させたときの状態を、
図12は延長ビーム23−1,2,3,4をアクスル22−1,2,3,4の長手方向に対して折り畳んだときの状態を、それぞれ示す平面図である。
図11及び
図12から分かるように、延長ビーム23−1,4は時計方向に折り畳まれ、延長ビーム23−2,3は反時計方向に折り畳まれる。伸長する場合には、逆方向の動作となる。
【0029】
例えば、
図11に示すようにクローラ31−1,2が取り外された状態からクローラ31−1,2をアクスル22−1,2,3,4に取り付ける場合には、延長ビーム23−1,2,3,4が折り畳まれていれば、クローラ31−1,2の取り付けに先立って延長ビーム23−1,2,3,4を延ばして固定する。この固定には、例えば
図6に示す延長ビーム回転止めプレート23−2mが使用される。そして、
図3に示すようにジャッキアップ装置40を使用して下部走行体1をジャッキアップし、補助クレーン等でクローラ31−1を持ち上げ、嵌め込み部32a−1,2を側方から延長ビーム23−1,2の先端側から挿入する。そして、ストッパピン挿通孔23−1hがガイド溝32c−1位置に達した時点でストッパピン23−1fをストッパピン挿通孔23−1hに挿入する。その後、クローラ31−1を少し外側に移動させ、ストッパピン23−1fをガイド溝32c−1の最深部に位置させて位置決めする。
【0030】
次いで、固定ピン23−1eを固定ピン挿通孔23−1gから固定ピン嵌入孔32d−1に挿入し、延長ビーム23−1をサイドフレーム32−1の嵌め込み部32a−1に固定する。これを右側のクローラ31−1の後側の延長ビーム23−2についても同時に行い、さらに左側のクローラ31−2を延長ビーム23−3,4に固定する。このようにしてクローラ31−1,2がカーボディ21に取り付けられる。
【0031】
クローラ31−1,2が
図9に示すリトラクト状態であれば、クローラ31−1,2をエクステンド状態にして作業可能にする。この場合、
図9及び
図12に示すようにクローラ31−1,2はすでにアクスル22−1,2,3,4に取り付けられている。この場合には、リトラクトシリンダ42−1,2によって、アクスル22−1,2,3,4から延長ビーム23−1,2,3,4の方へとクローラ31−1,2を側方外側に向かって押し出す。このとき、固定ピン23−1eはロックプレート32f−1のロック孔32g−1から離脱させておく。
【0032】
その際、ストッパピン23−1fの先端部は嵌め込み部32a−1のガイド溝32c−1が延長ビーム23−1の下部プレート23−1cの下面よりも下方に突出している。したがって、リトラクトシリンダ42−1,2によってクローラ31−1,2を側方外側に向かって押し出すと、下部プレート23−1cの下面から下方に突出したストッパピン23−1fが、下板32b−1に設けられたガイド溝32c−1に案内されて最深部に位置する。この状態になると、下部プレート23−1cに設けられた固定ピン挿通孔23−1gと下板32b−1に設けられた固定ピン嵌入孔32d−1との水平方向の位置が略一致する。
【0033】
この状態で固定ピン挿通孔23−1gに固定ピン23−1eを挿通させると、固定ピン23−1eの下部は固定ピン嵌入孔32d−1まで挿通される。これを後側の延長ビーム23−2についても同様に実施する。これにより、クローラ31−1が延長ビーム23−1,2に固定される。なお、
図7に示すように右側後部の延長ビーム23−2では、固定ピン23−2eを固定ピン挿通孔23−2g及び固定ピン嵌入孔32d−2に挿通させた後、固定ピン保持用ピン23−2iによって固定ピン23−2eの抜け止めを行う。
【0034】
一方、延長ビーム23−1,2,3,4を折り畳み、
図8に示したエクステンドの状態から
図9に示したリトラクトの状態にするには、前述した延長ビーム23−1,2,3,4をリトラクトの状態からエクステンドさせる際の作業手順と逆の作業手順を踏めばよい。すなわち、
図10に示す折り畳まれた延長ビーム23−1,2の先端部において固定ピン保持用ピン23−1i,2iを外して固定ピン23−1e,2eを固定ピン挿通孔23−1g,2gから抜く。これにより、アクスル22−1と延長ビーム23−1,2との固定が解除される。なお、クローラ31−1,2をアクスル22−1,2の延在方向に沿って移動させる場合には、クローラ31−1,2をエクステンドする場合と同様にジャッキアップ装置40を用いて下部走行体1を地上から浮かせて行うことができる。
【0035】
図8に示すように、作業を行う際にクローラ31−1,2の位置をエクステンド状態から
図9及び
図12に示すリトラクト状態、あるいは
図11に示すクローラ31−1,2の取り外し状態に移行させるのは、輸送時の要求からである。例えば日本国内では、輸送時に車両の通行許可を得る為に、クローラを取り外して輸送重量を軽減し、輸送幅3,000mm以下にすることが望ましい。これに対し、クローラ付で輸送時の車両通行許可が得られる国や地域の場合にはリトラクト時の幅をできるだけ小さく、例えば3,500mm以下にすることが望ましい。一方、クローラクレーン100の大きさは最大吊り上げ荷重×作業半径で規定される場合が多い。その際、最大吊り上げ荷重×作業半径が大きくなるとクローラクレーン100も大きくなり、これを輸送するには、前記輸送幅の規制が問題となる。
【0036】
図11では、例えばクローラ31−1,2をアクスル22−1,2,3,4から取り外し、ジャッキアップ装置40をアクスル22−1,3、及び22−2,4に沿って回転させて国内輸送幅の目標値を満たしている。一方、
図12では、延長ビーム23−1,2,3,4を折り畳み、クローラ31−1,2をリトラクト状態にするだけでクローラ付輸送幅の目標値を満たしている。このような規格の相違により、輸送状態が規定される。
【0037】
ところで、本実施形態に係るクローラクレーン100の特徴は、
図5に示したように下板32b−1,2に設けた固定ピン嵌入孔32d−1,2を、補強リブ32e−1,2を避けて補強リブ32e−1,2の外側に形成したことにある。この構成について、以下、改良前の構成を比較例として図示し、比較例と対比して説明する。
【0038】
図13は比較例に係るクローラ31−1の要部を示す正面図、
図14は
図13の下面図である。両図において、クローラ31−1のサイドフレーム32−1の側面に形成された嵌め込み部32a−1の下板32b−1の下面には補強リブ32e−1が設けられている。補強リブ32e−1は、機械の吊り上げ能力にもよるが、例えば60mm程度の厚さである。補強リブ32e−1の位置は、負荷を仮定するトラックビームの荷重中心51からαだけ離れた位置である。図では、嵌め込み部32a−1のクローラ31−1の前後方向の中央部(荷重中心51に対応)から距離αだけ離れた位置である。補強リブ32e−1は、前記距離αだけ離れた位置から延長ビーム23−1の挿通方向と平行に嵌め込み部32a−1の長手方向に延びるように設けられている。
【0039】
比較例では、補強リブ32e−1の設置位置は、固定ピン嵌入孔32d−1が前記荷重中心51上に形成されているので、これを避ける位置に設定されている。この固定ピン嵌入孔32d−1は、延長ビーム23−1のガイド溝32c−1の中央部から長手方向に延びる仮想上の中心線上に位置している。この状態で、第1ないし第4の下部ローラ36a,36b,36c,36dは補強リブ32e−1からほぼ等しい距離に配置されている。すなわち、補強リブ32e−1の形成位置(荷重中心51から距離αだけ離れた位置)を基準に第2の下部ローラ36bと第3の下部ローラ36cの設置距離が等しくなるように配置されている。また、第1の下部ローラ36aと第4の下部ローラ36dは、それぞれ第2の下部ローラ36bと第3の下部ローラ36cからの距離が等しくなる位置に配置されている。
【0040】
しかし、このような位置に第1ないし第4の下部ローラ36a,6b,36c,36dを配置すると、トラックビームの荷重中心51から第2の下部ローラ36bまでの距離Dと、トラックビームの荷重中心51から第3の下部ローラ36cまでの距離Eが相違することになる。そのため、第2及び第3の下部ローラ36b,36cはトラックビーム荷重の負荷を不均一に分担することになる。
【0041】
図15は本実施形態に係るクローラ31−1の要部を示す正面図、
図16は
図15の下面図である。本実施形態では、補強リブ32e−1はトラックビームの荷重中心51の嵌め込み部32a−1の下板32b−1の下面に形成され、第1ないし第4の下部ローラ36a,36b,36c,36dは、比較例と同様に補強リブ32e−1からほぼ等しい距離に配置されている。このように配置すると、トラックビームの荷重中心51から第2の下部ローラ36bまでの距離Aと、トラックビームの荷重中心51から第3の下部ローラ36cまでの距離Bが等しくなる。そのため、第2及び第3の下部ローラ36b,36cは略同じ負荷を分担することになる。その結果、本実施形態では、比較例に対して負荷荷重の偏りを減らすことができる。
【0042】
また、比較例では、補強リブ32e−1の位置を設定する際には、固定ピン嵌入孔32d−1と第3の下部ローラ36cの位置を勘案する必要があり、設計上制約があった。しかし、本実施形態のように固定ピン嵌入孔32d−1の位置をトラック荷重中心51から外れた位置にオフセットすることにより、比較例のような設計上の制約も回避することができる。
【0043】
図17はエクステンド時の固定ピン挿通孔23−1g、ストッパピン挿通孔23−1h、ガイド溝32c−1及び補強リブ32e−1の関係を示す図であり、延長ビーム23−1と嵌め込み部32a−1を下面側から見た図に相当する。同図から分かるように、補強リブ32e−1はトラックビームの荷重中心51上に設けられており、固定ピン挿通孔23−1g及び固定ピン嵌入孔32d−1が、延長ビーム23−1の仮想上の中心線52から距離γだけオフセットしていることが分かる。
【0044】
図18はリトラクト時における固定ピン23−1eによる延長ビーム23−1の固定状態を示す要部下面図、
図19は要部平面図である。
【0045】
図10にも示すようにサイドフレーム32−1の中央部にはリトラクトシリンダブラケット33−1が上下一対の三角プレートにより形成され、サイドフレーム32−1の上下の三角プレートの中央部にはリトラクトシリンダ42−1の先端部42−1aを外面に突出させるための突出孔38−1が設けられている。リトラクトシリンダ42−1の先端部42−1aは円筒状に形成され、リトラクトシリンダブラケット33−1に形成された結合ピン挿入孔から結合ピン33−1aをリトラクトシリンダ42−1の先端部42−1aの円筒内に挿入して固定する。これにより、リトラクトシリンダ42−1をサイドフレーム32−1と結合し、前述したクローラ31−1のカーボディ21に対する近接離間動作を行うことができる。
【0046】
サイドフレーム32−1の上側のフレーム上板32h−1aと下側のフレーム下板32h−1bとの間に、前記延長ビーム23−1,2が折り畳まれる。延長ビーム23−1は固定ピン23−1eをフレーム下板32h−1bのロックプレート32f−1に形成されたロック孔32g−1に挿入することにより、サイドフレーム32−1に固定される。
【0047】
その際、
図17に示すように固定ピン挿通孔23−1gは延長ビーム23−1の仮想上の中心線52から距離γオフセットされた位置に位置していることから、
図18及び
図19にも示すように固定ピン23−1eをリトラクトシリンダブラケット33−1と干渉することなく固定ピン挿通孔23−1gに装着し、あるいは固定ピン挿通孔23−1gから取り外すことができる。また、後述するが、固定ピン挿通孔23−1gの位置を中心線52から距離γオフセットすることによりクローラ31に加わる横方向の力を低減することができる。
【0048】
図20は延長ビーム23−1の平面図で、同図(a)は本実施形態を、同図(b)は比較例をそれぞれ示す。本実施形態に係る延長ビーム23−1は、固定ピン挿通孔23−1gが延長ビーム23−1の長手方向の中心線52から距離γだけオフセットした位置に設けられ、比較例では、固定ピン挿通孔23−1gが延長ビーム23−1の長手方向の中心線52上に設けられている。本実施形態においても、比較例においてもストッパピン挿通孔23−1hと固定ピン挿通孔23−1gは、それぞれ略距離cだけ離れている。この距離cは、エクステンド時にクローラ31−1の外側からオペレータが固定ピン23−1eを装着し、あるいは取り外す際の作業性を考慮して設定されたものである。すなわち、固定ピン挿通孔23−1gの位置は、リトラクトシリンダブラケット33−1と固定ピン23−1eとの干渉を避け、作業性を損なわない位置に設定される。リトラクト時には、延長ビーム23−1が折り畳まれ、固定ピン挿通孔23−1gはクローラ31−1の外側から短距離の個所に位置することになるので、本実施形態及び比較例において作業性が問題となることはない。
【0049】
比較例では、固定ピン挿通孔23−1gは中心線52上に位置していることから、リトラクトシリンダブラケット33−1の基部と干渉を避けるために、固定ピン挿通孔23−1gは、本実施形態よりもピン挿通部23−1a側に寄った位置に設けられている。一方、本実施形態では、固定ピン挿通孔23−1gは中心線52から距離γだけオフセットしたことにより、リトラクトシリンダブラケット33−1の三角プレートの基端側から先端側に寄った位置に設けられている。そのため、その位置から略距離cだけ先端側に寄った位置にストッパピン挿通孔23−1hを設けることができる。
【0050】
その結果、本実施形態では、比較例における延長ビーム23−1の回転中心からの長さaに対して、オフセットしてリトラクトシリンダブラケット33−1の三角プレートの基端側から先端側に寄れる長さbを付加することができる。すなわち、本実施形態における延長ビーム23−1の長さa+bは、比較例における延長ビーム23−1の長さaよりも、長さb分長くすることができる。このように延長ビーム23−1の長手方向の長さが長くなると、側方の吊り上げ性能を向上させることができる。
【0051】
図21は、クローラクレーン100に加わる力の関係を示す説明図である。同図(a)はクローラクレーン100の下部走行体1に加わる力の状態を示し、同図(b)は、固定ピン挿通孔23−1gの位置が中心線52から距離γだけオフセットした本実施形態における機械横方向の力を示す。
【0052】
カーボディ21に装着された左右のクローラ31には、
図21(a)に示すように走行駆動力F1,F2、抵抗力Fc1,Fc2、及び抵抗モーメントMc1,Mc2が加わる。走行駆動力F1,F2は、各クローラ31の駆動輪34を駆動する走行モータ39によって与えられ、履帯38の回転により抵抗力Fc1,Fc2が進行を妨げる方向に作用する。抵抗モーメントMc1,Mc2は、走行駆動力F1,F2と抵抗力Fc1,Fc2により各クローラ31の中心まわりに、図示のように生じるモーメントである。なお、符号Hはクローラ31間の幅、符号Lは駆動輪34と従動輪35の中心間の距離である。
【0053】
固定ピン23−1eは
図17にも示すように延長ビーム23の中心線52から距離γだけオフセットした位置にあり、クローラ31に関し、固定ピン23−1e間の距離はlである。
【0054】
走行中に図では左側に当たる片側のクローラ31に発生する抵抗モーメントは、Mc1である。また、この抵抗モーメントMc1により固定ピン23−1eに作用する機械横方向の力P1は、Mc1/lとなる。
すなわち、
Mc1=P1×(l/2)+P1×(l/2)
=P1×l
となり、機械横方向の力P1は、
P1=Mc1/l ・・・(1)
となる。前記比較例では固定ピン23−1e間の距離は中心線52間の距離に相当するので、比較例における固定ピン23−1e間の距離よりも本実施形態における固定ピン23−1e間の距離の方が長くなり、式(1)から本実施形態における横方向の力が小さくなる。すなわち、本実施形態の方が固定ピン23−1e間の距離lが長くなることにより、機械横方向の力P1を比較例よりも低減することができる。その結果、ピンの小型化が可能となり、コスト低減、レイアウトし易くなる。
【0055】
図22は、延長ビーム23を長くしたことにより側方の吊り上げ性能が向上する原理を示す説明図である。
【0056】
図において、左右のクローラ31のぞれぞれの中心位置をR1,R2、左右のクローラ31の中心位置R1,R2間の距離をL1、クローラクレーン100全体の重心位置での荷重をW、重心位置と右側のクローラ31の中心位置R2間の水平距離をG、吊り下げ荷重の質量をM、右側のクローラ31の中心位置R2と吊り下げ荷重の質量間の水平距離をL2としてクローラクレーン100が転倒しないように側方の安定度を算出する。安定度は、一般に安定モーメントを分子、転倒モーメントを分母とする比の値で示される。なお、中心位置R2は転倒する場合の支点である転倒支点に対応する。
【0057】
安定度の値は、大きければ大きいほど安定がよく、例えば、クレーン等安全規則では、定格荷重の1.27倍に相当する荷重Mを吊って行う安定度試験に合格する必要がある。
安定度は、式的には、
安定度=安定モーメント/転倒モーメント
で表され、これを
図22に示した符号に置き換えると、
安定度=W×G/M×L2
となる。
【0058】
その際、本実施形態では、
図20に示すように、従来技術として示した比較例よりも長さbだけ長くなっているので、水平距離Gがその分長くなり、距離L1で示されるロワーゲージ幅を広げることができる。これにより本実施形態では、転倒支点R2が比較例よりも外側に移動し、安定度の向上に寄与することができる。
【0059】
さらに詳しく説明すると、延長ビーム23はクローラクレーン100などの作業機械の運搬時の幅方向寸法の規制(輸送幅規制)及び例えば作業機械としてのクローラクレーン100の転倒に対する安定性を担保するために設けられている。安定性は、機体の全体重心位置から転倒支点までの距離の関数となる転倒支点から機体側に働く安定モーメントによって判断される。安定性は、前述のように転倒支点から吊り荷側に働く転倒モーメントを分母とする比で安定度を表し、この値が大きいほど安定であるといえる。なお、安定度には上記の側方の安定度の他に前方の安定度を考慮する必要がある。しかし、本実施形態では、ゲージ幅の増大に基づく側方の安定度の向上に関するものであるので、前方の安定度については省略する。
【0060】
クローラ付き作業機械では、大きな荷重を吊る能力と良好な安定性を確保するために、より大きなゲージ幅(
図4)が必要となる。一方、できるだけ狭い輸送幅(
図11、
図12)と大きな吊り性能と良好な安定性を両立させるために、より長い延長ビームが必要となる(
図20)。
【0061】
このようなことから、昨今では、輸送幅規制を確保した上で安定度を増加するため、延長ビームの延長長さを長くすることが求められるようになっている。その際、カーボディ及びクローラサイドフレームの大きさ及び構成には、作業機械の能力に応じて限界があるので、その限界内で延長ビームの長さを延ばす必要がある。
【0062】
本実施形態では、
図20で説明したように、同一規格のクローラ付き作業機械において、前記長さbだけ従来よりも長く設定することが可能となり、その分安定度を大きくすることができる。
【0063】
このことは、例えば、特許文献1を参照すると、
図3には延長ビームを延長(回動させて伸長)し、下部プレートの先端にストッパピンが装着され、それよりも若干基端側に固定ピンが装着された状態が図示されている。また、特許文献1の
図4及び
図5には延長ビームの下部プレートがクローラサイドフレーム側に折り畳まれ、クローラサイドフレームの側面から突出した延長ビーム固定ブラケットの挿通孔に固定ピンが装着され、延長ビームが固定された状態が図示されている。
【0064】
他方、特許文献1の
図2、
図4及び
図5から分かるように、リトラクトシリンダの先端はサイドフレーム内側から外側に挿通され、サイドフレームの外側の側面に突設されたリトラクトシリンダブラケットにピン結合されている。この状態で、延長ビームの先端は、引用文献1の
図13に示すようにリトラクトシリンダブラケットとの干渉を避ける位置まで後退している。また、固定ピンもオペレータが当該固定ピンを脱着するために延長ビームの上部プレートとの間で所定のスペースを確保し、延長ビームの長手方向の中心線上であってガイドピンより延長ビームの基端側に寄った位置で貫通孔に装着されるようになっている。これは前述のように、延長ビーム伸長時の取り付け作業の作業性が考慮されているからである。
【0065】
これに対し、本願実施形態では、延長ビーム23を長くしても作業性を劣化させない距離cを確保することができるので、安定度を確実に向上させることができる。
【0066】
以上のように構成した本実施形態によれば、次のような効果を奏する。
【0067】
本実施形態では、クローラ31及びカーボディ21を含む下部走行体1と、カーボディ21に旋回可能に支持される上部旋回体3と、カーボディ21のアクスル22の先端側に、クローラ31の長手方向に対して平行に回動可能に設置された延長ビーム23と、クローラ31のサイドフレーム32に開口した嵌め込み部32aと、嵌め込み部32aに差し込まれた延長ビーム23をサイドフレーム32に固定する固定ピン23−1eと、延長ビーム23に穿たれ、固定ピン23−1eが挿通される固定ピン挿通孔23−1gと、嵌め込み部32aに穿たれ、固定ピン23−1eが挿入される固定ピン嵌入孔32d−1と、嵌め込み部32aの下板32bの下面にサイドフレーム32の側面に対して垂直な方向に延設された補強リブ32eと、を備え、延長ビーム23を伸長して嵌め込み部32aに当該延長ビーム23を差し込み、固定ピン挿通孔23―1gを介して固定ピン23−1eを固定ピン嵌入孔32dに挿入することによって延長ビーム23を嵌め込み部32aに固定するクローラクレーン(クローラ付作業機械)100において、補強リブ32eが嵌め込み部32aの開口の中央部に設けられ、固定ピン嵌入孔32dが補強リブ32eと干渉しない位置に配置されている。
【0068】
このように構成すると、サイドフレーム32−1の側面に開口した嵌め込み部32aの開口の中央部から嵌め込み部32aの長手方向に沿って補強リブ32eが存在しているので、補強リブ32eの下側に位置する下部走行体1の下部ローラ36a,36b,36c,36dが分担する荷重が均等化される。これにより、補強リブ32eに最も近い下部ローラ36b,36cの故障の発生頻度が減少し、磨耗の度合いも他の下部ローラ36a,36dと同等になる。その結果、下部ローラ36a,36b,36c,36dの寿命が平均化され、メンテナンス頻度も減少させることができる。
【0069】
また、本実施形態では、カーボディ21には二対のアクスル22−1,2、3,4が設けられ、サイドフレーム32−1には一対の嵌め込み部32a−1,2が開口し、固定ピン挿通孔23−1gは、延長ビーム23の幅方向の中心を通る当該延長ビーム23の長手方向の仮想の中心線52から、クローラ31を取り付けるときに対となる延長ビーム23−1,2の外側に外れた位置(距離γ)にそれぞれ設けられ、固定ピン嵌入孔32dは、固定ピン挿通孔23−1gと対応する位置にそれぞれ設けられている。これにより、延長ビーム23をクローラ31に組み付けたときに前記中心線52上に位置する他の部材、例えば、リトラクトシリンダブラケット(伸縮部材結合ブラケット)33−1との干渉を回避することができる。
【0070】
また、本実施形態では、クローラ31をカーボディ21に対して近接・離間させるリトラクトシリンダ(伸縮部材)42と、嵌め込み部32aから延長ビーム23が突出する側のサイドフレーム32の側面に、リトラクトシリンダ42の先端を結合させるリトラクトシリンダブラケット(伸縮部材結合ブラケット)33−1と、を備え、固定ピン挿通孔23−1gは、嵌め込み部32aに挿通された延長ビーム23のサイドフレーム32からの突出部分が折り畳まれたとき、リトラクトシリンダブラケット33−1よりも外側に位置した構成となっている。これにより、固定ピン23−1eとリトラクトシリンダブラケット33−1との干渉を回避できるだけでなく、延長ビーム23を長くした場合でも、嵌め込み部32a内で固定ピン23−1eを装着する作業時の作業性を損なうことがなくなる。そのため、延長ビーム23を長くすることが可能となり、側方吊り性能の向上を図ることができる。また、クローラ31を取り付けるときに対となる延長ビーム23−1,2の固定ピン嵌入孔32d−1,2の間隔lが従来よりも広くなるので、ピンの小型化が可能となり、コスト低減、レイアウトし易くなる。
【0071】
また、本実施形態では、延長ビーム23がサイドフレーム32の外側で折り畳まれたとき、固定ピン挿通孔23−1gを介して固定ピン23−1eが挿入され、延長ビーム23をサイドフレーム32の側面側で固定するロック孔32g−1を備えている。これにより、リトラクト時においても、確実に延長ビーム23をサイドフレーム32の側面で保持することができる。また、本実施形態のように固定ピン嵌入孔32dの形成位置を前記中心線52から外れた位置に変更したとしても、輸送幅は従来通りなので、輸送性を損なうことがない。
【0072】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。