特許第6679957号(P6679957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6679957接合剤、および該接合剤で接合されてなる物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6679957
(24)【登録日】2020年3月24日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】接合剤、および該接合剤で接合されてなる物品
(51)【国際特許分類】
   C09J 177/06 20060101AFI20200406BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20200406BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20200406BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20200406BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20200406BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   C09J177/06
   C09J11/04
   C09J11/06
   B32B15/08 N
   B32B15/088
   B32B15/092
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-17328(P2016-17328)
(22)【出願日】2016年2月1日
(65)【公開番号】特開2017-137375(P2017-137375A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野上 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】坂口 香織
(72)【発明者】
【氏名】柏村 岳
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/001949(WO,A1)
【文献】 特開2015−004016(JP,A)
【文献】 特開2014−122326(JP,A)
【文献】 特開2010−123355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と、多塩基酸単量体とポリアミン単量体との重合体であり、側鎖にフェノール性水酸基を有するポリアミド(A)と、前記フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを含有する接合剤であって、
金属粒子とポリアミド(A)と化合物(B)との合計100質量%中に金属粒子を90〜99質量%含み、
金属粒子100質量%中に平均粒径2〜200nmの金属ナノ粒子を80〜100質量%含み、
前記ポリアミド(A)は、以下の(i)および/または(ii)であり、更に、(iii)〜(vi)を満足し、
前記化合物(B)は以下の(vii)を満足する接合剤。
(i)ポリアミド(A)は、前記フェノール性水酸基および炭素数20〜60の炭化水素基(但し、前記フェノール性水酸基が結合する芳香環は含まない)が同一ポリマー内に含まれるポリアミド(A−1)である。
(ii)ポリアミド(A)は、側鎖にフェノール性水酸基を含むポリアミド(a−1)と、炭素数20〜60の炭化水素基を含むポリアミド(a−2)とを混合したポリアミド(A−3)である。
(iii)ポリアミド(A−1)を構成する単量体として、フェノール性水酸基を具備する単量体および炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含む。
(iv)ポリアミド(a−1)を構成する前記多塩基酸単量体または/および前記ポリアミン単量体に、フェノール性水酸基を具備する単量体を含み、且つ前記多塩基酸単量体および前記ポリアミン単量体に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含まない。
(v)ポリアミド(a−2)を構成する前記多塩基酸単量体または/および前記ポリアミン単量体に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含み、且つ前記多塩基酸単量体および前記ポリアミン単量体に、フェノール性水酸基を具備する単量体を含まない。
(vi)炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体の少なくとも一部が、炭素数5〜10の環状構造を具備する化合物を含む。
(vii)化合物(B)が、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、金属キレート、金属アルコキシドおよび金属アシレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【請求項2】
化合物(B)として、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、金属キレート、金属アルコキシドおよび金属アシレートからなる群より選ばれる少なくとも2種を組み合わせて用いることを特徴とする請求項に記載の接合剤。
【請求項3】
ポリアミド(A)のフェノール性水酸基価が、1〜80mgKOH/gであることを特徴とする請求項1または2に記載の接合剤。
【請求項4】
ポリアミド(A)を構成する全単量体100mol%中に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を10〜95mol%含む請求項1〜いずれか1項に記載の接合剤。
【請求項5】
炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体が、炭素数10〜24の一塩基性不飽和脂肪酸から誘導されるダイマーを残基として含む単量体である、請求項1〜いずれか1項に記載の接合剤。
【請求項6】
ポリアミド(A)のガラス転移温度が−40〜120℃である、請求項1〜いずれか1項に記載の接合剤。
【請求項7】
ポリアミド(A−1)の質量平均分子量が3,000〜1,000,000である請求項1〜いずれか1項に記載の接合剤。
【請求項8】
ポリアミド(a−2)の質量平均分子量が3,000〜1,000,000である請求項1〜いずれか1項に記載の接合剤。
【請求項9】
ポリアミド(a−1)の質量平均分子量が500〜30,000である請求項1〜いずれか1項に記載の接合剤。
【請求項10】
化合物(B)として、
エポキシ基含有化合物と、
金属キレート、金属アルコキシドおよび金属アシレートからなる群より選ばれる少なくとも1つと、
を組み合わせて用いることを特徴とする請求項1〜いずれか1項に記載の接合剤。
【請求項11】
ポリアミド(A)が、さらに(viii)〜(ix)を満足する請求項1〜10いずれか1項に記載の接合剤。
(viii)ポリアミド(A−1)を構成する単量体として含まれる炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体の一部が、3官能以上の多塩基酸化合物および3官能以上のポリアミン化合物の少なくともいずれかである。
(ix)ポリアミド(a−2)を構成する単量体として含まれる炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体の一部が、3官能以上の多塩基酸化合物および3官能以上のポリアミン化合物の少なくともいずれかである。
【請求項12】
金属部材同士、金属部材と半導体素子、または金属部材とLED素子とが、請求項1〜11いずれか1項に記載の接合剤の熱硬化物で接合されてなる物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接合剤、および該接合剤で接合されてなる物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部材同士、金属部材と半導体素子、または金属部材とLED素子等を接合するための接合材料としては、はんだが使用されていた。次世代パワーエレクトロニクスの分野では、高温動作可能なSiCなどのデバイスのための接合剤としては環境に配慮する側面から高温鉛はんだの代替材が求められている。例えば、特許文献1〜3に示すように銀ナノ粒子を用いた接合剤の利用が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−126869号公報
【特許文献2】特開2011−240406号公報
【特許文献3】特開2013−4309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接合剤に金属ナノ粒子を含有するだけでは、温度変化による熱膨張係数の違いから熱応力が生じ、接合部にクラック等の発生が危惧されている。現状では、200℃を超える高温に耐える材料が出てきておらず、高温動作を実現するための大きな課題となっている。
特に、金属粒子が、ペースト中成分の多くを占める場合、上記の通り、応力緩和が大きな課題となっている。そのため、従来、金属粒子の凝集体や樹脂を用いることが提案されているが、熱的特性および電気的特性が低下するとういう問題があった。
本発明は、熱的特性等の物性を低下させず優れた応力緩和を有する接合剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するため、鋭意検討の結果、特定のフェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂を利用することにより、応力緩和性能に優れた接合剤を見出した。
【0006】
すなわち、本発明の接合剤は、金属粒子と、多塩基酸単量体とポリアミン単量体との重合体であり、側鎖にフェノール性水酸基を有するポリアミド(A)と、前記フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを含有する接合剤であって、前記ポリアミド(A)は、以下の(i)および/または(ii)であり、更に、(iii)〜(vi)を満足し、前記化合物(B)は以下の(vii)を満足する接合剤。
(i)ポリアミド(A)は、前記フェノール性水酸基および炭素数20〜60の炭化水素基(但し、前記フェノール性水酸基が結合する芳香環は含まない)が同一ポリマー内に含まれるポリアミド(A−1)である。
(ii)ポリアミド(A)は、側鎖にフェノール性水酸基を含むポリアミド(a−1)と、炭素数20〜60の炭化水素基を含むポリアミド(a−2)とを混合したポリアミド(A−3)である。
(iii)ポリアミド(A−1)を構成する単量体として、フェノール性水酸基を具備する単量体および炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含む。
(iv)ポリアミド(a−1)を構成する前記多塩基酸単量体または/および前記ポリアミン単量体に、フェノール性水酸基を具備する単量体を含み、且つ前記多塩基酸単量体および前記ポリアミン単量体に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含まない。
(v)ポリアミド(a−2)を構成する前記多塩基酸単量体または/および前記ポリアミン単量体に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含み、且つ前記多塩基酸単量体および前記ポリアミン単量体に、フェノール性水酸基を具備する単量体を含まない。
(vi)炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体の少なくとも一部が、炭素数5〜10の環状構造を具備する化合物を含む。
(vii)化合物(B)が、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、金属キレート、金属アルコキシドおよび金属アシレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0007】
また、本発明は、金属部材同士、金属部材と半導体素子、または金属部材とLED素子とが、上記記載の接合剤の熱硬化物で接合されてなる物品に関する。
【発明の効果】
【0008】
汎用の有機溶剤に可溶で、かつ耐加水分解性、柔軟性に優れたフェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂と金属粒子を含む本発明の接合剤を利用し、焼成(以下、硬化、架橋ともいう)することにより、接合時に金属と樹脂の相分離構造を形成し、その結果、耐熱性を低下させることなく、熱膨張差の小さい接合した物品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の接合剤は、前述の通り、金属粒子と樹脂成分とを含む組成物であって、樹脂成分が、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)と前記フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを含有する。
【0010】
(金属粒子)
例えば金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モリブデン、および白金等の金属粉、ならびにこれらの合金、ならびにこれらの複合粉が挙げられる。また、核体と、前記核体物質とは異なる物質で被覆した微粒子、具体的には、例えば、銅を核体とし、その表面を銀で被覆した銀コート銅粉等が挙げられる。また、例えば酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ITO(スズドープ酸化インジウム)、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、およびGZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)等の金属酸化物の粉末、ならびにこれらの金属酸化物で表面被覆した粉末等が挙げられる。
使用する金属の種類は1種でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0011】
本発明では、金属粒子として、いわゆる金属ナノ粒子を用いることが好ましい。金属ナノ粒子の平均粒径は、ナノレベルであれば特に限定されない。例えば、1〜500nmの金属ナノ粒子を使用することが好ましく、2〜300nmを使用することがより好ましくは、2〜200nmの金属ナノ粒子を使用することが特に好ましい。金属ナノ粒子は、特定の粒径範囲のものを単独で使用してもよいし、異なる粒径範囲のものを複数組み合わせて使用してもよい。
ナノサイズの金属粒子を使用することにより、粒子表面の活性が上がり、ナノサイズ効果により融点が下がり低温での焼結が可能となる。また、金属ナノ粒子は、互いに結合してサイズが大きくなると、通常サイズの金属材料(バルク金属材料) と同等の高い融点となる。このため、電子部品の実装時の熱ストレスの低減および実装後の耐熱温度の向上が図られる。
ナノサイズの金属粒子の他に、ナノサイズ以外の金属粒子も用いることができる。ナノサイズ以外の金属粒子を用いる場合、金属粒子100質量%中にナノサイズ粒子の含有量は、25〜100質量%以上であることが好ましく、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0012】
本発明の接合剤は、金属粒子と後述するポリアミド(A)と後述する化合物(B)との合計100質量%中に、金属粒子を少なくとも80質量%以上含むことが好ましく、85〜99質量%含むことがより好ましく、90〜99質量%含むことがさらに好ましい。金属粒子を80質量%以上含むことによって、強固に部材を接合することが可能である。
【0013】
以下に本発明に利用される耐熱性樹脂成分について説明する。
本発明では、特定のフェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂(A)と、前記フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを耐熱性樹脂成分として用いる。これらを用いることによって、耐熱性を低下せずに、応力を緩和できる。
【0014】
<フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)>
本発明の接合剤に使用されるフェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂(A)は、側鎖にフェノール性水酸基を含有するポリアミド(A)(以下、「フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)」とも称する)と、前述のフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)(以下、「化合物(B)」とも称する)とを含有するものである。ポリアミド(A)の合成法は限定されないが、単量体として、通常、2価以上の多塩基酸および/または酸無水物および/またはこれらの低級アルキルエステルから選ばれる多塩基酸化合物と、2価以上のポリアミン化合物とを用いて合成される。ポリアミド(A)中のフェノール性水酸基は、3官能以上の化合物(B)と熱硬化させることによって架橋構造を形成できる。
【0015】
本発明におけるポリアミド(A)は、(i)フェノール性水酸基および炭素数20〜60の炭化水素基(但し、前記フェノール性水酸基が結合する芳香環は含まない)が同一ポリマー内に含まれるポリアミド(A−1)、および/または(ii)側鎖にフェノール性水酸基を含むポリアミド(a−1)と、炭素数20〜60の炭化水素基(但し、前記フェノール性水酸基が結合する芳香環は含まない)を含むポリアミド(a−2)とを混合したポリアミド(A−3)である。汎用性溶剤への溶解性および生産性の点からは、前者のポリアミド(A−1)が好ましい。なお、以降の説明において、炭素数20〜60の炭化水素基(但し、前記フェノール性水酸基が結合する芳香環は含まない)の括弧書きを省略するが、「炭素数20〜60の炭化水素基」というときは、前記括弧書きの条件を満たすものとする。また、「炭素数20〜60の炭化水素基」を「C20〜60炭化水素基」とも表記する。また、炭素数20〜60の炭化水素基とは、単量体の重合に寄与する官能基以外の残基の全部または一部に含まれる炭素数20〜60の炭化水素基をいい、炭素・水素以外の元素が含まれない連続した構造の炭素数をカウントする。より好ましくは、単量体の重合に寄与する官能基以外の残基の全部が炭素数20〜60の炭化水素基であることが好ましい。即ち、得られるポリアミド(A−1)に対して主鎖および当該主鎖に直結する側鎖を含めた連続する炭化水素基の炭素の総数をいい、脂肪族(脂環式を含む)の他、芳香環もカウント対象とする。但し、フェノール性水酸基が結合している芳香環は含まないものとする。また、このフェノール性水酸基が結合する芳香環を介して結合された炭化水素基は、其々、別の炭化水素基としてカウントするものとする。
【0016】
ポリアミド(A)は、以下の(iii)〜(vi)を満足するものである。即ち、(iii)ポリアミド(A−1)を構成する単量体として、フェノール性水酸基を具備する単量体および炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含む。なお、同種単量体内に、フェノール性水酸基と炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を用いてもよいことは言うまでもない。(iv)ポリアミド(a−1)を構成する多塩基酸単量体または/およびポリアミン単量体に、フェノール性水酸基を具備する単量体を含み、且つ多塩基酸単量体およびポリアミン単量体に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含まない。(v)ポリアミド(a−2)を構成する多塩基酸単量体または/およびポリアミン単量体に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含み、且つ多塩基酸単量体およびポリアミン単量体に、フェノール性水酸基を具備する単量体を含まない。(vi)炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体が、炭素数5〜10の環状構造を具備する化合物を含む。なお、「炭素数5〜10の環状構造を具備する化合物を含む」とは、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体の少なくとも一部に、炭素数5〜10の環状構造を具備する単量体が含まれるという意味である。
【0017】
炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体は、溶解性や屈曲性を効果的に引き出す観点から、炭素数24〜56の炭化水素基を具備する単量体がより好ましく、炭素数28〜48の炭化水素基を具備する単量体が更に好ましく、炭素数36〜44の炭化水素基を具備する単量体がさらに好ましい。
【0018】
≪ポリアミド(A−1)≫
ポリアミド(A−1)は、多塩基酸単量体(m1)とポリアミン単量体(m2)とを重合してなり、側鎖にフェノール性水酸基を有し、且つ、同一ポリマー内にフェノール性水酸基およびC20〜60炭化水素基を有するものである。上記条件を満たせばよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の構造を有する多塩基酸単量体、ポリアミン単量体を適宜用いることができる。即ち、多塩基酸単量体(m1)は、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物およびその他の多塩基酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種から、ポリアミン単量体(m2)は、フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物、C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物およびその他のポリアミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種から、ポリマー中にフェノール性水酸基およびC20〜60炭化水素基が含まれるように選定すればよい。C20〜60炭化水素基を含む化合物およびフェノール性水酸基を有する化合物は、同種単量体内に含むように若しくは別の単量体に含むように、多塩基酸単量体(m1)および前記ポリアミン単量体(m2)を選定して重合することによりフェノール性水酸基含有ポリアミド(A−1)を得ることができる。
【0019】
即ち、「同種の単量体内に含むように」とは、多塩基酸単量体(m1)としてフェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物と、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物とを用いてもよいし、ポリアミン単量体(m2)としてフェノール性水酸基を有するポリアミン化合物と、C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物とを用いてもよい、との意である。また、「別の単量体に含むように」とは、多塩基酸単量体(m1)としてフェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物を含み、且つポリアミン単量体(m2)としてC20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物を含むようにしてもよいし、多塩基酸単量体(m1)としてC20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物を含み、且つポリアミン単量体(m2)としてフェノール性水酸基を有するポリアミン化合物を含むようにしてもよい、との意である。いずれの場合においても、その他の多塩基酸化合物やその他のポリアミン化合物は適宜用いることができる。
【0020】
多塩基酸単量体(m1)とポリアミン単量体(m2)との重合により生成される主鎖に対し、側鎖に導入されたフェノール性水酸基は、架橋点としての機能を担う。即ち、ポリアミド(A−1)と、後述するフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを熱硬化することにより密な架橋構造を形成できるようになる。
【0021】
二塩基酸単量体とジアミン単量体を用いてポリアミド(A)を得た場合には、下記一般式(1)の構造単位を有する。
【化1】

【0022】
一般式(1)中、Rは、構造単位毎に独立の構造を有していてもよい多塩基酸化合物残基である2価の連結基であり、Rは、構造単位毎に独立の構造を有していてもよいポリアミン化合物残基である2価の連結基であり、RおよびRの少なくとも一方は、フェノール性水酸基を有する連結基を含み、且つRおよびRの少なくとも一方は、C20〜60炭化水素基を有する連結基を含む。ポリアミド(A−1)は、−CO−R−CO−NH−R−NH−で示される構造単位が少なくとも2以上繰り返されたものである。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、一般式(1)の構造単位を1つ有し、且つ末端が封止された化合物が熱硬化性樹脂組成物に含まれてもよい。
【0023】
フェノール性水酸基含有単量体およびC20〜60炭化水素基含有単量体は、二塩基酸化合物およびジアミン化合物のいずれかの単量体に少なくとも含まれていればよく、二塩基酸化合物およびジアミン化合物の両者にこれらの基が其々含まれていてもよい。例えば2種の二塩基酸化合物R1−1、R1−2および2種のジアミン化合物R2−1、R2−2を用いる場合、−CO−R1−1−CO−NH−R2−1−NH−、−CO−R1−1−CO−NH−R2−2−NH−、−CO−R1−2−CO−NH−R2−1−NH−、−CO−R1−2−CO−NH−R2−2−NH−の構造単位が含まれ得る。
【0024】
<多塩基酸単量体(m1)>
[フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物]
本発明で用いられるフェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物は特に限定されないが、2−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシイソフタル酸、2,5−ジヒドロキシイソフタル酸、2,4−ジヒドロキシイソフタル酸、4,6−ジヒドロキシイソフタル酸等のジヒドロキシイソフタル酸、2−ヒドロキシテレフタル酸、2,3−ジヒドロキシテレフタル酸、2,6−ジヒドロキシテレフタル酸等のジヒドロキシテレフタル酸、4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシフタル酸等のヒドロキシフタル酸、3,4−ジヒドロキシフタル酸、3,5−ジヒドロキシフタル酸、4,5−ジヒドロキシフタル酸、3,6−ジヒドロキシフタル酸等のジヒドロキシフタル酸などが挙げられる。更にこれらの酸無水物や例えば多塩基酸メチルエステルのようなエステル誘導体なども挙げられる。遊離多塩基酸や酸無水物の場合は脱水反応、エステル誘導体の場合は対応する脱アルコール反応となるという違いが生じるだけである。なかでも、共重合性、入手の容易さなどの点から、5−ヒドロキシイソフタル酸が好ましい。なお、5−ヒドロキシイソフタル酸を用いた場合、一般式(1)におけるR1、即ち多塩基酸化合物残基である2価の連結基とは、前記5−ヒドロキシイソフタル酸から2つのカルボキシル基を除いた部分である。
【0025】
[C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物]
本発明で用いられるC20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物としては、好適な例として、炭素数10〜24の二重結合あるいは三重結合を1個以上有する一塩基性不飽和脂肪酸を反応させて得た、炭素数5〜10の環状構造を有する多塩基酸化合物を挙げることができる。反応の一例としては、ディールス−アルダー反応が挙げられる。例えば、大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、菜種油脂肪酸等の天然の脂肪酸およびこれらを精製したオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等を原料に用いてディールス−アルダー反応させて得た二量体化脂肪酸(ダイマー酸)を含む多塩基酸化合物が好適に用いられる。
環状構造は1つでも2つでもよく、2つの場合、2つの環が独立していてもよいし、連続していてもよい。環状構造としては、飽和の脂環構造、不飽和の脂環構造、芳香環が挙げられる。カルボキシル基は環状構造に直接結合することもできるが、溶解性向上、柔軟性向上の観点から、カルボキシル基は脂肪族鎖を介して環状構造と結合していることが好ましい。カルボキシル基と環状構造との間の炭素数は2〜25であることが好ましい。また、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物は、溶解性向上、柔軟性向上、誘電率および誘電正接の低下の観点から、環状構造以外の部分として自由度および疎水性の高い鎖状のアルキル基を有することが好ましい。アルキル基は1つの環状構造に対し2つ以上であることが好ましい。アルキル基の炭素数は2〜25であることが好ましい。
【0026】
C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物は、通常ダイマー酸(二量体化脂肪酸)から誘導されるダイマーを残基として含む単量体を主成分とし、他に、原料の脂肪酸や三量体化以上の脂肪酸の組成物として得られるものである。中でも、C20〜60炭化水素基を含む単量体100質量%中に、ダイマー酸(二量体化脂肪酸)から誘導されるダイマーを残基として含む単量体の含有量が70質量%以上、好ましくは95質量%以上とすることが好ましい。また、ダイマーに対して水素添加(水添反応)して不飽和度を下げたものが、耐酸化性(特に高温域における着色)や合成時のゲル化抑制の観点から特に好適に用いられる。C20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物としては、炭素数10〜24の一塩基性不飽和脂肪酸から誘導されるダイマーを残基として含む単量体(多塩基酸化合物)を用いることが好ましい。さらにC20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物の一部として、炭素数10〜24の一塩基性不飽和脂肪酸から誘導される、トリカルボン酸であるトリマーを残基として含む単量体を用いることが好ましい。
【0027】
前記C20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物は公知の反応によって得ることができるが、市販品を用いることもできる。市販品の例としては例えば、クローダジャパン社製の「プリポール1004」、「プリポール1006」、「プリポール1009」、「プリポール1013」、「プリポール1015」、「プリポール1017」、「プリポール1022」、「プリポール1025」、「プリポール1040」や、BASFジャパン社製の「エンポール1008」、「エンポール1012」、「エンポール1016」、「エンポール1026」、「エンポール1028」、「エンポール1043」、「エンポール1061」、「エンポール1062」などが挙げられる。これらの多塩基酸化合物は単独若しくは併用して用いることができる。
【0028】
[その他の多塩基酸化合物]
フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物およびC20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物以外の多塩基酸化合物としては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において特に限定されないが、二塩基酸化合物や3官能以上の多塩基酸化合物が挙げられる。二塩基酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族二塩基酸、シュウ酸、マロン酸、メチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、りんご酸、酒石酸、チオりんご酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカンジオン酸、ジグリコール酸などの脂肪族二塩基酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族二塩基酸などが挙げられる。3官能以上の多塩基酸化合物としては、トリメリット酸、水添トリメリット酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0029】
これらの多塩基酸化合物は、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物やC20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物に対し、単独で使用してもよいし、複数を併用して用いてもよい。なかでも、イソフタル酸や1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、より耐熱性に優れる強靭なポリアミドが得られるという点から好適に用いることができる。また、3官能以上のものを使用することにより、ポリアミドに分岐構造を導入し、高分子量化でき、得られるポリアミドの凝集力を大きくできる。その結果、接着性に悪影響を与えずに、耐熱性を向上させることができる。
【0030】
さらに、本発明では、一官能のものも使うことができる。一官能のものを使用することにより、ポリアミドの末端官能基となりうるカルボキシル基やアミノ基を減らすことができ、得られるポリアミドの分子量を制御できる。その結果、特にポリアミド樹脂の経時安定性を向上させることができる。一塩基酸化合物としては、安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2-エチルヘキサン酸などが挙げられる。
【0031】
<ポリアミン単量体(m2)>
フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物は特に限定されないが、下記一般式(2)で表されるポリアミンが挙げられる。
【0032】
【化2】

【0033】
式中Rは、直接結合、または炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、またはハロゲンからなる基を示し、例えば、炭素数1〜30の2価の炭化水素基またはハロゲン原子によって水素の一部若しくは全部が置換されている炭素数1〜30の2価の炭化水素基、−(C=O)−、―SO−、−O−、−S−、―NH−(C=O)−、―(C=O)−O−、下記一般式(3)で表される基および下記一般式(4)で表される基が挙げられる。式中、rおよびsはそれぞれ独立に1〜20の整数を示し、R4は水素原子またはメチル基を示す。
【0034】
【化3】

【0035】
【化4】

【0036】
上記Rは、直接結合が好ましい。
【0037】
なお、一般式(2)の化合物を用いた場合、一般式(1)におけるR、即ちポリアミン化合物残基である2価の連結基とは、一般式(2)の化合物から2つのアミノ基を除いた部分である。
【0038】
[C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物]
C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物としては、前述のC20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物のカルボシキル基をアミノ基に転化した化合物が挙げられ、市販品の例としては例えば、クローダジャパン社製の「プリアミン1071」、「プリアミン1073」、「プリアミン1074」、「プリアミン1075」や、BASFジャパン社製の「バーサミン551」などが挙げられる。これらのポリアミン化合物は単独または併用して用いることができる。なかでも三量体であるトリアミン成分を約20〜25質量%含有する「プリアミン1071」を用いるとポリアミドの凝集力を向上することができ、耐熱性向上の点から好適に用いることができる。なお、ポリアミドの生産安定性の点から、ポリアミドの形成に供する全単量体100質量%中、三量体であるトリアミンおよび前述の三量体であるトリカルボン酸は合計で0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
【0039】
[その他のポリアミン化合物]
次に、フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物およびC20〜60炭化水素基を有するポリアミン化合物以外のポリアミン化合物としては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で特に限定されないが、ジアミン化合物やトリアミン化合物等が挙げられる。ジアミン化合物としては、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,3−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノトルエン、3,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノー1,2−ジフェニルエタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ジアミン、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’―ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジンなどの脂環族ジアミン、などが挙げられる。3官能以上のポリアミン化合物としては、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル、などが挙げられる。なお、芳香環を有していてもアミノ基が直結していない場合は脂肪族等に分類する。
【0040】
これらのポリアミン化合物は、フェノール性水酸基を有するポリアミンやC20〜60炭化水素基を有するポリアミンに対し、単独で使用してもよいし、複数を併用して用いてもよい。なかでも、イソホロンジアミンやノルボルナンジアミンは、より耐熱性に優れる強靭なポリアミドが得られるという点から好適に用いることができる。
【0041】
また、3官能以上のものを使用することにより、ポリアミドに分岐構造を導入し、高分子量化でき、得られるポリアミドの凝集力を大きくできる。その結果、接着性、耐熱性等を向上させることができる。
【0042】
さらに、本発明では、一官能のものも使うことができる。一官能のものを使用することにより、ポリアミドの末端官能基となりうるカルボキシル基やアミノ基を減らすことができ、得られるポリアミドの分子量を制御できる。その結果、特にポリアミド樹脂の経時安定性を向上させることができる。一方で、末端官能基となりうるカルボキシル基やアミノ基を1官能の化合物で減らさない場合、樹脂中にフェノール基とカルボキシル基および/またはアミノ基が混在することになり、フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)を併用した際に、それぞれの反応性の違いを利用して、加工性や接着性を向上できるため望ましい。一官能のアミン化合物としては、アニリン、4−アミノフェノール、2−エチルヘキシルアミンなどが挙げられる。
【0043】
本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A−1)は、接着性、耐熱性、等、特に向上させたい性能に応じて、前記の多塩基性単量体(m1)、ポリアミン単量体(m2)を適宜選択して得ることができる。
【0044】
なお、重合によって得られるポリアミド(A−1)は、フェノール性水酸基を有する成分とC20〜60炭化水素基を有する成分とをランダムに重合してなるものであってもよいし、ブロック重合体であってもよい。即ち、複数種の多塩基酸単量体化合物の混合物と1種のポリアミン化合物を重合してもよいし、複数種の多塩基酸化合物の混合物と複数種のポリアミン化合物の混合物と重合してもよいし、1種の多塩基酸化合物と複数種のポリアミン化合物の混合物とを重合してもよいし、1種の多塩基酸化合物と1種のポリアミン化合物とを重合した後、末端に残る官能基に応じ、さらに他の多塩基酸化合物や他のポリアミン化合物を重合してもよい。
【0045】
本発明のポリアミド(A−1)は、形成に用いられる全単量体、即ち、多塩基酸単量体(m1)、ポリアミン単量体(m2)、および必要に応じて用いられる一塩基酸や一官能のアミン化合物の合計100mol中に、C20〜60炭化水素基を含む化合物を10〜95mol%含むことが好ましく、14〜92mol%含むことがより好ましく、18〜88mol%含むことがさらに好ましい。
【0046】
C20〜60炭化水素基を含む単量体のモル数の計算方法について説明する。まず、C20〜60炭化水素基を含む単量体の分子量(M)を下記式により求める。
M=(56.11×F×1000)/E
F:C20〜60炭化水素基を含む単量体の官能基数
E:C20〜60炭化水素基を含む単量体の酸価(mgKOH/g)
次いで、重合に供したC20〜60炭化水素基を含む化合物の質量を、前記分子量(M)で除することによって、重合に供したC20〜60炭化水素基を含む化合物のモル数を求める。同様にして重合に供した各単量体のモル数を求め、それらを合計し重合に供した全単量体のモル数を求める。そして、C20〜60炭化水素基を含む化合物のモル数を全単量体のモル数で除することによって、C20〜60炭化水素基を含む化合物の占める割合(mol%)を求めることができる。
【0047】
≪ポリアミド(A−3)≫
ポリアミド(A−3)は、ポリアミド(a−1)と(a−2)を混合してなるポリアミドである。ポリアミド(a−1)は、多塩基酸単量体(m3)とポリアミン単量体(m4)とを重合してなり、側鎖にフェノール性水酸基を有し、且つ、C20〜60炭化水素基は有さないものである。上記条件を満たせばよく、その他の多塩基酸単量体、ポリアミン単量体を適宜用いることができる。即ち、多塩基酸単量体(m3)は、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物およびその他の多塩基酸化合物(但し、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物は除く)からなる群より選ばれる少なくとも一種から、ポリアミン単量体(m4)は、フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物およびその他のポリアミン化合物(但し、C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物は除く)からなる群より選ばれる少なくとも一種から、ポリマー中にフェノール性水酸基が含まれるように選定すればよい。多塩基酸単量体(m3)またはポリアミン単量体(m4)の少なくとも一方がフェノール性水酸基を有する。2価の単量体と3価以上の単量体を組み合わせて、枝分かれ構造を導入しつつ、適切な分子量を調整してもよい。また、1価の単量体を用いて、分子量を適切に保つことも可能である。即ち、ポリアミド(a−1)は、側鎖にフェノール性水酸基を有するが、C20〜60炭化水素基は有しないポリアミドである。
【0048】
一方、多塩基酸単量体(m5)は、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物およびその他の多塩基酸化合物(但し、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物は除く)からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、ポリアミン単量体(m6)は、C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物およびその他のポリアミン化合物(但し、フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物は除く)からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、多塩基酸単量体(m5)または前記ポリアミン単量体(m6)の少なくも一方が、C20〜60炭化水素基を含む。即ち、ポリアミド(a−2)は、C20〜60炭化水素基を有するが、側鎖にフェノール性水酸基は有しないポリアミドである。
【0049】
つまり、ポリアミド(A−3)は、側鎖にフェノール性水酸基を有するが、C20〜60炭化水素基は有しないポリアミド(a−1)と、C20〜60炭化水素基を有するが、側鎖にフェノール性水酸基は有しないポリアミド(a−2)との混合物である。
後述するフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)は、フェノール性水酸基と反応し得る他、カルボキシル基ないしアミノ基の少なくともいずれか一方とも反応し得る場合が多い。混合物(A−3)とフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物を熱硬化する際、フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)としてカルボキシル基ないしアミノ基の少なくともいずれか一方とも反応し得るものを用いると、混合物(A−3)中のフェノール性水酸基含有ポリアミド(a−1)およびC20〜60炭化水素基を有するポリアミド(a−2)の有する、末端のカルボキシル基や末端のアミノ基も熱硬化反応に活用することができる。
【0050】
フェノール性水酸基含有ポリアミド(a−1)と、C20〜60炭化水素基を有するポリアミド(a−2)との混合比は、(a−1)のフェノール性水酸基価や分子量にもよって適宜調整することが可能であるが、フェノール性水酸基含有ポリアミド:C20〜60炭化水素基を有するポリアミド=5:95〜80:20(質量比)であることが好ましく、10:90〜50:50であることが好ましい。
【0051】
なお、ポリアミド(A−3)についていう「混合物」、「混合」とは、以下の場合を含む意である。即ち、前記ポリアミド(a−1)と前記ポリアミド(a−2)から予め混合物を得た後、後述するフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)を配合する場合や、前記ポリアミド(a−1)と前記ポリアミド(a−2)と後述するフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを配合する場合や、前記ポリアミド(a−1)と後述するフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを配合した後、前記ポリアミド(a−2)を配合する場合や、その逆を含む意である。
【0052】
多塩基酸単量体(m3)としては、多塩基酸単量体(m4)のうち、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物以外のものを挙げることができる。また、一塩基性化合物も併用できる。ポリアミン単量体(m4)としては、ポリアミン単量体(m2)のうち、C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物以外のものを挙げることができる。また、一官能のアミン化合物も併用できる。
【0053】
多塩基酸単量体(m5)としては、多塩基酸単量体(m1)のうち、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物以外のものを挙げることができる。また、一塩基性化合物も併用できる。ポリアミン単量体(m6)としては、ポリアミン単量体(m2)のうち、フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物以外のものを挙げることができる。また、一官能のアミン化合物も併用できる。
【0054】
本発明のポリアミド(A−3)は、形成に用いられる全単量体、即ち、多塩基酸単量体(m3)、ポリアミン単量体(m4)、多塩基酸単量体(m5)、ポリアミン単量体(m6)および必要に応じて用いられる一塩基酸や一官能のアミン化合物の合計100mol中に、C20〜60炭化水素基を含む化合物を10〜95mol%含むことが好ましく、14〜92mol%含むことがより好ましく、18〜88mol%含むことがさらに好ましい。
【0055】
<フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のスペック>
続いて、本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のスペック(フェノール性水酸基価、質量平均分子量、ガラス転移温度)について説明する。
【0056】
本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)は、ポリアミドの側鎖にフェノール性水酸基を含んでいれば、末端がカルボキシル基であってもアミノ基であってもよいし、末端に官能基を有さなくてもよい。ポリアミドの側鎖に含まれるフェノール性水酸基の量は、フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)の種類および量によって適宜調整することができる。
【0057】
[フェノール性水酸基価]
具体的には、本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のフェノール性水酸基価は、1〜80mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは5〜60mgKOH/g、更に好ましくは5〜30mgKOH/gである。フェノール性水酸基価が1mgKOH/g以上のポリアミドを用いることによって、密な架橋構造を形成でき、硬化後の塗膜の耐性を向上することができる。また、フェノール性水酸基価が80mgKOH/g以下のポリアミドを用いることによって、硬度、接着性、屈曲性の良好な硬化塗膜を得ることができる。また、フェノール性水酸基価が1〜80mgKOH/gの範囲内において、1mgKOH/gに近い範囲のポリアミドを用いる場合、得られる塗膜の接着性や屈曲性が向上し、一方、80mgKOH/gに近い範囲のポリアミドを用いる場合、架橋点が多くなることから、最終的に得られる塗膜の耐熱性が向上する。このように、本発明においてフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のフェノール性水酸基価は、1〜80mgKOH/gの範囲内で目的に応じて調整することが可能である。
【0058】
上記フェノール性水酸基価は、(i)の場合には、単量体のうちのフェノール性水酸基を有する単量体の仕込み比(重合組成)によって調整可能である。また、(ii)の場合には、ポリアミド(a−1)、(a−2)のうちの全単量体のうちのフェノール性水酸基を有する単量体の比率によって調整可能である。例えば、多塩基酸化合物としてフェノール性水酸基を有する5−ヒドロキシイソフタル酸のみを用い、ポリアミン化合物としてフェノール性水酸基を有しないダイマージアミンのみを用いて反応させれば、最終的に得られるフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のフェノール性水酸基価を80mgKOH/gに近くすることができ、熱硬化物の耐熱性をより一層向上することができる。
【0059】
なお、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のうち、混合物(A−3)の場合は、混合物のフェノール性水酸基価をフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のフェノール性水酸基価とする。
【0060】
[質量平均分子量]
フェノール性水酸基有ポリアミド(A)のうち、ポリアミド(A−1)の質量平均分子量は、取扱い性および熱硬化物にした際の接着性、耐熱性の点から3,000〜1,000,000であることが好ましく、5,000〜550,000であることがより好ましく、10,000〜300,000であることがさらに好ましい。フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のうち、ポリアミド(a−1)の質量平均分子量は、後述する汎用性溶剤への溶解性の点から500〜30,000であることが好ましく、1000〜20,000であることがより好ましく、1,000〜10,000であることがさらに好ましい。また、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のうち、ポリアミド(a
−2)の質量平均分子量は、ポリアミド(A−1)の場合と同様の範囲であることが好ましい。
【0061】
[フェノール性水酸基有ポリアミド(A)のガラス転移温温度]
本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のガラス転移温度は、−40℃〜120℃であることが好ましく、より好ましくは、−30℃〜80℃である。フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のガラス転移温度を−40℃〜120℃の範囲に調整することで、接合のはみ出しを抑制することができ、さらには基材に対する良好な埋め込み性が可能となり、接着性をより一層向上することができる。
【0062】
ガラス転移温度の調整は、C20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物またはC20〜60炭化水素基を有するポリアミン化合物の比率を適宜設定することによって可能となる。例えば、C20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物またはC20〜60炭化水素基を有するポリアミン化合物の配合比率を高くすることにより、吸水率の高いアミド結合の濃度を低くすることや二量化脂肪酸特有の柔軟屈曲性を付与することができるため、ガラス転移温度は−40℃に近い範囲で調整することができる。
【0063】
なお、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のうち、混合物(A−3)の場合は、混合物のガラス転移温度をフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のガラス転移温度とする。
【0064】
[フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の有機溶剤可溶性]
本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)は、汎用性の有機溶剤に広範囲に可溶である。可溶であるとは、炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤等の汎用の溶剤の混合溶剤95質量部に対して、25℃において、5質量部以上溶解することをいう。特にトルエン/イソプロパノール=50/50(質量比)の混合溶剤95質量部に25℃で5質量部以上溶解することが好ましい。炭化水素系溶剤としてはベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン等が挙げられる。アルコール系溶剤としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等が挙げられる。ケトン系溶剤としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル系溶剤としては酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0065】
<フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の合成>
続いて、本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の合成方法について説明する。本発明に用いるフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の重合条件は特に限定されるものではなく、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、およびこれらの方法を組み合わせた公知の条件を利用することができる。一般に工業的には、触媒存在下あるいは非存在下において150〜300℃で1〜24時間程度の反応を行う。脱水あるいは脱アルコール反応を促進し、高温による着色、分解反応を避けるために、180〜270℃で大気圧以下の減圧下で反応を行うのが好ましい。
【0066】
フェノール性水酸基含有のポリアミド(A−1)を合成する場合には、例えば、窒素充填したフラスコに、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物または/およびフェノール性水酸基を有するポリアミン化合物、C20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物または/およびC20〜60炭化水素基を有するポリアミン化合物、イオン交換水を所定量仕込み、20〜100℃で加熱・撹拌することで均一溶解ないし分散する。その後、前記イオン交換水および反応により生ずる水を除去しながら230℃まで徐々に昇温し、230℃に達したら15mmHg程度まで減圧し、1時間程度保持することでフェノール性水酸基含有のポリアミド(A−1)を得ることができる。なお、多塩基酸化合物とポリアミン化合物とを混合すると、塩を形成し固まり易くなる。イオン交換水の存在下に両者を混合すると形成された塩が、イオン交換水に溶解ないし分散するので、安全性等の点からイオン交換水を利用することが好ましい。
【0067】
フェノール性水酸基含有のポリアミド(A−1)およびエステル結合を有するフェノール性水酸基含有のポリアミドエステル(A−2)を得るにあたり、使用されうる触媒の具体例としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機系リン化合物や、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸ジフェニルなどの亜リン酸エステル、テトラブチルオルソチタネート、テトライソプロピルオルソチタネートなどのチタン系触媒、ジブチルスズオキシド、ジブチルスズラウレート、モノブチルヒドロキシスズオキシドなどのスズ系触媒、テトラブトキシジルコニウム、酢酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウムなどのジルコニウム系触媒などが挙げられる。
【0068】
これらは2種類以上を混合して用いることもできる。また、これらの触媒がフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)中に含有されていても本発明を実施する上で差し支えない。
【0069】
また、副生物は使用した触媒の分解物、分解物の酸化物又はそれらの変性物や、オリゴマー等のアミド化合物等の副生物等の無機塩類の触媒であるが、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)に含有されていても差し支えない。
【0070】
<フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)と、フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを含むものである。フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)について説明する。本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上述したフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の硬化剤として、化合物(B)を使用する。なお、3官能以上の化合物(B)に加えて、フェノール性水酸基と反応し得る2官能の化合物(C)[以下、「化合物(C)」とも称する]も本発明の趣旨を逸脱しない範囲で加えることができる。化合物(C)を加える場合には、化合物(B)100質量部に対して、架橋密度を効果的に高める観点から100質量部以下とすることが好ましく、60質量部以下とすることがより好ましい。
【0071】
[エポキシ基含有化合物]
本発明において化合物(B)として用い得る3官能以上のエポキシ基含有化合物としては、エポキシ基を分子内に有する化合物であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、グリジシルエーテル型エポキシ樹脂、グリジシルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、又は環状脂肪族(脂環型)エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂を用いることができる。
【0072】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、又はテトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン等が挙げられる。グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン等が挙げられる。エポキシ基含有化合物としては、高接着性および耐熱性の点から、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、又はテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを用いることが好ましい。
【0073】
化合物(C)として用い得るエポキシ基含有化合物としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、又はジグリシジルテトラヒドロフタレート等が挙げられる。環状脂肪族(脂環型)エポキシ樹脂としては、例えば、3’,4’―エポキシシクロへキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどが挙げられる。エポキシ基含有化合物としては、化合物(B)を単独もしくは二種以上を併用して、或いは化合物(B)に化合物(C)を組み合わせて用いることができる。
【0074】
[イソシアネート化合物]
化合物(B)として用い得るイソシアネート基含有化合物としては、イソシアネート基を分子内に3個以上有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。イソシアネート基はブロック化剤でブロックされているもの、されていないもの、いずれも用いることができるが、ブロック化剤でブロックされているものが好ましい。
【0075】
フェノール性水酸基と反応し得る2官能の化合物(C)として用い得るイソシアネート基含有化合物としては特に限定されないが、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルレンジイソシアネート、2,6−トルレンジイソシアネートの芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0076】
フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)として用い得る、イソシアネート基含有化合物としては、特に限定されないが、例えば、前記で説明したジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュウレット体、イソシアヌレート環を有する3量体が挙げられる。
【0077】
ブロック化イソシアネート化合物しては、前記イソシアネート基含有化合物中のイソシアネート基がε−カプロラクタムやMEKオキシム等で保護されたブロック化イソシアネート基含有化合物であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、前記イソシアネート基含有化合物のイソシアネート基を、ε−カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、フェノール等でブロックしたものなどが挙げられる。特に、イソシアヌレート環を有し、MEKオキシムやピラゾールでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネート三量体は、本発明に使用した場合、保存安定性は勿論のこと、接合材に対する接着強度や耐熱性に優れるため、非常に好ましい。
【0078】
[カルボジイミド基含有化合物]
フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)として用い得る、カルボジイミド基含有化合物としては、日清紡績社製のカルボジライトシリーズが挙げられる。その中でもカルボジライトV−01、03、05、07、09は有機溶剤との相溶性に優れており好ましい。
【0079】
[金属キレート化合物]
フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)として用い得る、金属キレート化合物としては、アルミニウムキレート化合物、チタンキレート化合物、ジルコニウムキレート化合物が挙げられるが、中心金属が鉄やコバルト、インジウム、など種々の金属でもキレート結合を形成しうるため、特に限定されるものではない。なお、ここでの金属キレート、および後述する金属アルコキシドと金属アシレートの官能基数は中心金属の価数として計算され、3官能以上、即ち、中心金属の価数が3以上のものが化合物(
B)として用い得る。
【0080】
ここで本発明に用いられるアルミニウムキレート化合物としては、代表的なものとして、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムエチルアセトアセテート等が挙げられる。
【0081】
また、チタンキレート化合物としては、代表的なものとして、チタンアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ポリチタンアセチルアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0082】
また、ジルコニウムキレート化合物としては、代表的なものとして、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセチルアセトネート、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩、等が挙げられる。
【0083】
[金属アルコキシド]
金属アルコキシド化合物としては、アルミニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物が挙げられるが、中心金属が鉄やコバルト、インジウム、など種々の金属でもアルコキシド結合を形成しうるため、特に限定されるものではない。
【0084】
また、アルミニウムアルコキシド化合物としては、代表的なものとして、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムブチレート、アルミニウムエチレート等が挙げられる。
【0085】
また、チタンアルコキシド化合物としては、代表的なものとして、イソプロピルチタネート、ノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラオクチルチタネート、ターシャリーアミルチタネート、ターシャリーブチルチタネート、テトラステアリルチタネート等が挙げられる。
【0086】
また、ジルコニウムアルコキシド化合物としては、代表的なものとして、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート等が挙げられる。
【0087】
[金属アシレート]
金属アシレート化合物としては、アルミニウムアシレート化合物、チタンアシレート化合物、ジルコニウムアシレート化合物が挙げられるが、中心金属が鉄やコバルト、インジウム、など種々の金属でもアルコキシド結合を形成しうるため、特に限定されるものではない。
【0088】
3官能以上の化合物(B)は、一分子中に同種の官能基が3官能以上含ま
れている他、官能基が合計で3官能以上含まれている官能基も含む。例えば、キレート、アルコキシドおよびアシレートが1つの分子中に混在したものも好適に用いることができる。
【0089】
本発明において、化合物(B)は一種のみを単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。複数を併用した場合、フェノール基とカルボキシル基および/またはアミノ基が混在したポリアミド(A)を用いた際、それぞれの反応性の違いを利用した、加工性や接着性が向上するといった相乗効果が発揮されるため、望ましい。中でも、「金属キレート、金属アルコキシド、金属アシレートからなる群より選ばれる少なくとも一つ」と「3官能以上のエポキシ基含有化合物」は反応性が大きく違うこと、また、向上できる物性の特徴が違うことから、大きな相乗効果が期待できるため、好ましい。化合物(B)の使用量は、本発明の接合剤の用途等を考慮して決定すればよく、特に限定されるものではないが、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)100質量部に対して、0.5〜100質量部の割合で加えることが好ましく、1〜80質量部の割合で加えることがより好ましい。化合物(B)を使用することにより、本発明の接合剤の架橋密度を適度な値に調節することができるので、熱硬化物の塗膜の各種物性をより一層向上させることができる。
【0090】
本発明では、フェノール性水酸基と反応するかやや不明確ではあるが、カルボキシル基と反応し得る化合物や、アミノ基と反応し得る化合物を、前記化合物(B)と併用することができる。カルボキシル基と反応し得る化合物としては、アジリジン化合物、β―ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物、ジシアンジアミドが挙げられる。アミノ基と反応し得る化合物としては、マレイミド化合物が挙げられる。
【0091】
特に、2,2’−ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]は、本発明に使用した場合、焼成時のはみ出しを抑制でき、且つ硬化物の柔軟性を保持したまま耐熱性を向上できるため、本発明において好ましく用いられる。
【0092】
本発明では、硬化促進剤として硬化反応に直接寄与する化合物を含有することができる。硬化促進剤としては、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩、イミダゾール化合物、3級アミン化合物等が挙げられる。
【0093】
本発明の接合剤は、凝集を防止する観点で適宜分散剤を含有してもよい。例えばポリウレタン、およびポリアクリレート等のポリカルボン酸エステルポリアミド;ポリカルボン酸、ポリカルボン酸(部分)アミン塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸アルキルアミン塩、ポリシロキサン、長鎖ポリアミノアマイドリン酸塩、および水酸基含有ポリカルボン酸エステル;ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離のカルボキシル基を有するポリエステルとの反応で合成したアミド、およびその塩等;ポリエステル、ポリエーテル、ポリエステルエーテル、ポリウレタン等のポリリン酸(塩);ポリリン酸、ポリリン酸(部分)アミン塩、ポリリン酸アンモニウム塩、ポリリン酸アルキルアミン塩等;(メタ)アクリル酸−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル系、変性ポリアクリレート系、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加化合物、および繊維系誘導体樹脂等が挙げられる。
【0094】
本発明の接合剤は、適宜有機溶剤を含有することができる。
例えば、低沸点の溶剤としては、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、イソプロ
パノール、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が挙げられる。高沸点の溶剤としては、カルビトールアセテート、メトキシプロピルアセテート、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、イソボルニルシクロヘキサノール、オクタノール、炭化水素系溶剤に含まれるイソパラフィン系溶剤等が挙げられる。これら有機溶剤を塗工プロセスに応じて、適宜単独で、または複数用いることができる。
なお、本発明の接合剤は、導電ペーストであり、接合した物品としては、電子基板にある電気回路とその上に搭載する電子部品に展開できる。具体的には、ICチップなどが挙げられる。
上記の実施形態では、金属ナノ粒子分散体を接合剤として用いているが、用途しては、接合剤に限定されず、例えば、導電膜や回路の形成等に用いてもよい。
【0095】
(接合方法及び接合物品)
本発明は、上記接合剤を少なくとも第1の部材に塗布する工程と前記第1の部材と第2の部材とを接触させ、乾燥及び焼成することにより接合することができる。
接合する部材の種類は特に限定されず、金属部材、プラスチック材料、セラミック材料等を挙げることができる。金属部材同士、金属部材と半導体素子、金属部材とLED素子とを接合することが好ましい。
金属部材としては、例えば、銅基板、金基板、アルミ基板等を挙げることができる。プラスチック材料としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート等を挙げることができる。セラミック材料としては、例えば、ガラス、シリコン等を挙げることができる。また、部材として電子素子を挙げることもできる。特に、炭化ケイ素や窒化ガリウム等のパワーデバイス素子を部材として使用することができる。第1の部材及び第2の部材は、同じ種類だけではなく、異なる種類の部材であってもよい。上記部材は、接着性を上げるため適宜コロナ処理、メッキ等で加工してもよい。
接合剤を塗布する方法としては、部材上に均一に塗布できる方法であれば特に限定されるものではない。例えばスクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、およびグラビアオフセット印刷等の各種印刷法、ディスペンサー等が挙げられる。
接合工程における焼成条件は、適宜変更されるが、例えば、大気圧下、窒素雰囲気、真空中、加圧または還元雰囲気で200〜300℃等の条件を挙げることができる。
焼成装置としては、熱風オーブン、赤外線オーブン、リフローオーブン、マイクロウエーブオーブンおよび光焼成装置等が挙げられる。光焼成装置の場合、照射する光の種類はとくに限定されないが、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、ケミカルランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、レーザー光等が挙げられる。これら装置を適宜単独でまたは複数用いることができる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。部は質量部の意である。
【0097】
(銀粉)
銀粉A:セパラブル4口フラスコに冷却管、温度計、窒素ガス導入管、攪拌装置を取り付け、窒素雰囲気下、室温で攪拌しながらトルエン200部およびヘキサン酸銀22.3部を仕込み、0.5Mの溶液とした後に、分散剤としてジエチルアミノエタノール2.3部(金属1molに対し0.2mol倍)、オレイン酸2.8部(金属1molに対し0.1mol倍)を添加し溶解させた。その後、20%SUDH水溶液73.1部(金属1molに対しヒドラジド基2mol倍)を滴下すると液色が淡黄色から濃茶色に変化した。さらに反応を促進させるために40℃に昇温し、反応を進行させた。静置、分離した後、水相を取り出すことで過剰の還元剤や不純物を除去し、さらにトルエン層に数回蒸留水を加え、洗浄、分離を繰り返した後、乾燥させて銀粉Aを得た。銀粉Aの平均粒子径は0.005μm(=5nm)であった。
【0098】
銀粉B:球状銀粉(D50粒子径1.6μm、比表面積1.0m/g)
【0099】
ポリアミド樹脂1
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、炭素数36の多塩基酸化合物としてプリポール1009を202.9g(二塩基酸換算で0.35mol)、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物として5−ヒドロキシイソフタル酸を25.7g(0.14mol)、その他の多塩基酸化合物としてテレフタル酸35.1g(0.21mol)、炭素数36のポリアミン化合物としてプリアミン1074(ジアミン換算で0.59mol)を313.9g、イオン交換水を100g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で1時間保持し、温度を低下させた。最後に、酸化防止剤を添加し、重量平均分子量9800、酸価22.8mgKOH/g、アミン価0.3mgKOH/g、フェノール性水酸基価13.7mgKOH/g、ガラス転移温度4℃のフェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂1を得た。なお、反応に供した全単量体100mol%中、C20〜60炭化水素基を有する単量体は、72.7mol%である。
【0100】
ポリウレタン樹脂2
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、エチレングリコール15.8部、1.6−ヘキサンジオール5.3部、トルエンジイソシアネート49.8部、トルエン84.4部を仕込み、窒素気流下、撹拌しながら60℃まで昇温し、均一に溶解させた。続いて、これに触媒としてジブチル錫ジラウレート0.006部を投入し、110℃で3時間反応させた。その後、温度を低下し、無水トリメリット酸5.5部、トルエン238部を添加し、110℃で3時間反応させ、質量平均分子量14900、酸価42.0mgKOH/g、ガラス転移温度5.0℃のポリウレタン樹脂2を得た。
【0101】
ポリエステル樹脂3
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、フェノール性水酸基を有する多塩基酸として5−ヒドロキシイソフタル酸25.7部、その他の多塩基酸としてアジピン酸を82.4部、炭素数36のポリオールとしてプリポール2033を332.3部、トルエン139.3部を仕込み、窒素気流下、撹拌しながら60℃まで昇温し、均一に溶解させた。続いて、これに触媒としてテトラブチルオルソチタネートを0.77部投入し、110℃で3時間反応させた。その後、230℃まで昇温し、約2kPaの真空下で、1時間保持し、さらに約1kPaの真空下で2〜3時間反応させ、最後に、酸化防止剤を添加し、質量平均分子量9600、酸価23.4mgKOH/g、フェノール性水酸基価18.0mgKOH/g、ガラス転移温度34℃のフェノール性水酸基含有ポリエステル樹脂3を得た。
【0102】
(化合物B)
化合物B1:TETRAD−X(4官能)三菱ガス化学社製
化合物B2:jER1031S(4官能)三菱化学社製
【0103】
実施例1(接合剤の調製)
銀粉A:98部、ポリアミド樹脂1:1.9部、化合物B1:0.1部を混合し、接合剤を調製した。
【0104】
実施例2〜6、比較例1〜8
表1、2に示す組成に従って、実施例1と同様に接合剤を調製した。
【0105】
(接合強度試験)
調製した各接合剤を基材2に、25mm×80mmの面積で塗布し、基材1に貼り付けた。これを250℃×30分間、大気雰囲気で焼成して試験片を得た。
基材1:銅板
基材2:アルミ板
基材1、2ともに 25mm×100mm(厚み2mm)
【0106】
(1)初期 引張りせん断強度
オートグラフAGS−X(島津製作所社製)を用いて、試験片の引張りせん断強度を評価し下記基準で判断した。
試験条件
・ロードセル:100Kg
・引張り速度:1mm/min
○:10MPa以上。基材1と基材2が外れない。良好。
△:1〜9MPa。
×:1MPa未満。基材1と基材2が外れる。不良。
【0107】
(2)冷熱処理後 引張りせん断強度
試験片を−40℃の温度条件で10分保持した後、250℃の温度条件で10分間保持する処理工程を1サイクルとし、この処理を1000サイクル行った。その後、試験片の引張りせん断強度を上記(1)と同様に測定し上記基準で判断した。
【0108】
(3)線膨張係数
調製した各接合剤をガラス基材 5mm×5mmに塗布し、これを250℃×30分間、大気雰囲気で焼成して試験サンプルを得た。TMA SS6100(SII社製)を用いて、試験サンプルの線膨張係数(/K)を評価し下記基準で判断した。
試料温度を250℃まで昇温させ、針入法(治具 石英ガラス製)で測定し、想定基材 銅の線膨張係数(10E−6 台)と同等のものを良好とした。
試験条件
・塗膜の厚み:5〜10μm
・昇温速度:20℃/分
○:10×10E−6〜99×10E−6の範囲。銅基材と同等の膨張。良好。
△:−10×10E−6〜−99×10E−6の範囲。銅基材と同等だが収縮傾向。
×:10E−7以上、10E−5以下。銅基材と異なる膨張・収縮。不良。
【0109】
【表1】