(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のヒータと前記第2のヒータとに、定められたON/OFFの間隔で同じ振幅のパルス電圧を同時に印加して、前記第1のセンサ素子と、第2のセンサ素子とを加熱する時の加熱温度は、ガス検出装置が使用される環境温度よりも高温で且つ、100℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態のガスセンサ素子を説明するための断面構造図である。本実施形態によるガスセンサ素子1は、対象ガスによる温度変化を検出する第1のセンサ素子2と、第1のセンサ素子2の基準抵抗となる第2のセンサ素子3を有し、測定環境に暴露された同じ空間に配置される。本実施例では、セラミックパッケージ15に第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3を配置し、測定環境に暴露させるために通気口17を備えたリッド16によりガスセンサ素子1を形成した。なお、図面は、模式的なものであり、説明の便宜上、厚みと平面寸法との関係、及びデバイス相互間の厚みの比率は、本実施形態の効果が得られる範囲内で現実のセンサ構造とは異なっていてもよい。
【0024】
第1のセンサ素子2は、基板4、絶縁膜5、第1のヒータ7A、ヒータ保護膜6、薄膜サーミスタ電極8、薄膜サーミスタ9、薄膜サーミスタ保護膜11を備える。
【0025】
第2のセンサ素子3は第1のセンサ素子2と素子抵抗値を除き、同様に構成されている。このような構成にすることで、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3の抵抗値以外の素子特性を同じにすることができる。すなわち、熱容量の違いによる応答時間の差がなく、環境温度の変化に対しては、同じ挙動とすることができる。
【0026】
第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3を隣接させて同時に形成することで、製造工程におけるばらつきを低減することが出来るので、センサ素子間の特性が揃ったものを作ることができる。これにより、センサ素子間の特性を組み合わせるといった選別工程をなくすことができる。
【0027】
基板4としては、適度な機械的強度を有し、且つエッチングなどの微細加工に適した材質であれば、特に限定されるものではない。例えば、シリコン単結晶基板、サファイア単結晶基板、セラミック基板、石英基板、ガラス基板などが好適である。基板の表面および裏面には、シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜などの絶縁膜5が形成される。絶縁膜5として、例えばシリコン酸化膜を形成するには、熱酸化法やCVD(Chemical Vapor Deposition)による成膜法を適用すればよい。膜厚は、絶縁膜8上に形成する膜と基板との絶縁がとれ、且つキャビティ10を形成する際のエッチング停止層として機能すればよい。通常0.1〜1.0μm程度が好適である。
【0028】
基板4には、第1のヒータ7Aを高温動作させた時に、熱が基板へ伝導するのを抑制するために第1のヒータ7Aの位置に対応して基板の一部を薄肉化したキャビティ10を有している。このキャビティ10により基板が取り除かれた部分はメンブレンと呼ばれる。メンブレンでは基板を薄肉化した分だけ熱容量が小さくなるため、非常に少ない消費電力で第1のヒータ7Aを高温にすることができる。また、基板4への伝導経路が数μmの薄膜部分のみで形成された断熱構造であるため、基板4への熱伝導が小さく、効率よく第1のヒータ7Aを高温にすることができる。
【0029】
第1のヒータ7Aの材質としては、薄膜サーミスタ9の成膜工程および熱処理工程などのプロセスに耐えうる導電性物質で比較的高融点の材料からなる金属層であって、例えば、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)又はこれら何れか2種以上を含む合金などが好適である。また、イオンミリングなどの高精度なドライエッチングが可能である導電材質であることが好ましく、さらに耐腐食性が高い、Ptなどがより好適である。また絶縁膜5との密着性を向上させるためにはPtの下部にはチタン(Ti)などの密着層を形成するのが好ましい。
【0030】
ガスによる第1のヒータ7Aの温度検出用の感熱体として、薄膜サーミスタ9が形成されている。薄膜サーミスタ9は薄膜サーミスタ電極8を備え、第1のヒータ7Aを覆うように形成される。これにより第1のヒータ7Aの温度を直接検出することができる。
【0031】
薄膜サーミスタ9を形成するサーミスタの材質としては、複合金属酸化物、アモルファスシリコン、ポリシリコン、ゲルマニウムなどの負の抵抗温度係数を持つ材料をスパッタ法、CVDなどの薄膜プロセスを用いて形成する。膜厚は目標とするサーミスタ抵抗値に応じて調整すればよく、例えばMnNiCo系酸化物を用いて室温での抵抗値(R25)を2MΩ程度に設定するのであれば、素子の電極間の距離にもよるが0.2〜1μm程度の膜厚に設定すればよい。
【0032】
なお、第1のヒータ7Aの温度検出としては薄膜サーミスタ9が好適である。まず、薄膜の積層構造であるために、ヒータ7Aの発熱を直上にて直接検出することができる。また、白金測温体などに比べて抵抗温度係数が大きいために、検出感度を大きくすることができるためである。
【0033】
薄膜サーミスタ9の電気信号を取り出す為に、薄膜サーミスタ電極8が形成される。薄膜サーミスタ電極8の材質としては、薄膜サーミスタ9の成膜工程および熱処理工程などのプロセスに耐えうる導電性物質で比較的高融点の材料、例えば、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)又はこれら何れか2種以上を含む合金などが好適である。
【0034】
ヒータ7A及び絶縁膜5を覆うようにヒータ保護膜6が形成される。ヒータ保護膜6としては、絶縁膜5と同じ材料であることが望ましい。ヒータ7Aは数百度にまで上昇し、次に常温へ下がるという熱ストレスを繰り返し受ける。この熱ストレスを継続的に受けると層間剥離やクラックといった破壊につながる。同じ材料同士は、異種材料を積層した場合に比べて材料特性が同じであり密着性が強固で機械的強度も強い。このため、ヒータ7Aの熱ストレスに対しても破壊を防止することができる。ヒータ保護膜6として、例えばシリコン酸化膜を形成するには、熱酸化法やCVDによる成膜法を適用すればよい。膜厚は、ヒータ7Aを確実に覆うことができ層間絶縁ができる厚みが良い。通常0.1〜3.0μm程度が好適である。
【0035】
また、薄膜サーミスタ9に、複合金属酸化物等を利用する場合においては、ヒータ保護膜6は、絶縁性を有する酸化膜であることが望ましく、例えばシリコン酸化膜、シリコン窒化膜等が望ましい。ヒータ保護膜6の上には薄膜サーミスタ9および薄膜サーミスタ電極8が形成される。ヒータ保護膜6は、ヒータ7Aの保護膜であると同時に、薄膜サーミスタ9の下地層でもあり、薄膜サーミスタ9と直接接触する。
【0036】
複合金属酸化物を利用したサーミスタは、高温で還元劣化があるためサーミスタ全体を耐還元材料でコーティングする方法が知られている。即ち、サーミスタを還元性を持つ材料と接触させて高温状態にすると、サーミスタから酸素を奪って還元を引き起こし、サーミスタ特性に影響を与えてしまう。よって薄膜サーミスタ保護膜11においてもシリコン酸化膜等の絶縁性を有する酸化膜であることが望ましい。
【0037】
また、同様な理由により、薄膜サーミスタ電極8は薄膜サーミスタ9の基板側に形成されていることが望ましい。すなわち、ヒータ7A上に、絶縁層であるヒータ保護膜6を介して、薄膜サーミスタ電極8、薄膜サーミスタ9の順に積層し形成されている。つまり、薄膜サーミスタ電極8の上に薄膜サーミスタ9が形成される。一般的に、薄膜電極は、電極材料と下地との密着力を上げるために密着層が形成される。例えばクロム(Cr)やチタン(Ti)等が数nm程度の膜厚で形成される。薄膜サーミスタ9上に薄膜サーミスタ電極11が形成された場合、この密着層が直接薄膜サーミスタと接触し、サーミスタからの酸素を奪う等により酸化することで、界面抵抗が上昇し薄膜サーミスタ9の検出特性が変動してしまい好ましくない。
【0038】
薄膜サーミスタ電極8、ヒータ7Aは、電極パッド12と接続される。電極パッド12は、ワイヤーボンドなどでセラミックパッケージ電極14などを通して外部の回路と電気的接続され、例えばアルミニウム(Al)や金(Au)などの材料で形成され、必要に応じて積層してもよい。
【0039】
センサ素子は、ウエハ状態から個片へと切断された後、ダイペースト(図示せず)を用いてセラミックパッケージ15に固定した後、電極パッド12と、パッケージ電極14を、ワイヤボンディング装置を用いて、ワイヤ13で接続する。ワイヤ13はAu、Al、Cuなど、抵抗の低い金属ワイヤが好適である。
【0040】
最後に、セラミックパッケージ15と外気との通気口17を設けたリッド16を、樹脂(図示せず)を用いて固定する。この際、樹脂(図示せず)の硬化の加熱時に、樹脂に含まれる物質がガスとなって発生するが、通気口17により容易にパッケージ外へ放出されるため、素子自体に悪影響を与えることはない。以上によりガスセンサ素子1を得ることができる。
【0041】
図2は本実施形態に於けるガス検出装置の回路構成図である。ガス検出装置は、ガスセンサ素子1と制御回路21とで構成されている。
【0042】
ガスセンサ素子1は第1のセンサ素子2と前記第1のセンサ素子2を加熱する第1のヒータ7Aと、第1の感熱素子2の基準抵抗となる第2のセンサ素子3と第2のヒータ7Bで構成され、前記、第1のセンサ素子2と第2の感センサ素子3は直列に接続される。すなわち第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3は、ブリッジ回路を構成し、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3の中点電圧を測定することにより、各々のセンサ素子による温度変化を検出する。第1のセンサ素子2への加熱は第1のヒータ7Aで行い、第2のセンサ素子3への加熱は第2のヒータ7Bにより行い、ヒータ7A、7Bは各々独立に制御し駆動するよう構成されている。
【0043】
制御回路21は、ガスセンサ素子1からの信号を増幅するアンプ22と、アンプ22からの信号及び、温度センサ27からの信号を、アナログ−デジタル変換を行うA/Dコンバータ23と、ガスセンサ素子1のヒータ7Aとヒータ7Bへのパルス電圧及び、センサ素子1とセンサ素子2で構成されるブリッジ回路へのバイアス電圧の印加及び、アンプ22への基準電圧の印加を行うD/Aコンバータ24と、A/Dコンバータ23とD/Aコンバータ24の制御及び、ガス濃度の算出を行うMPU25と、回路に電源を供給する定電圧電源26とで構成されている。
【0044】
図3は本実施形態に於けるガス検出装置の動作タイミングを示す図であり、
図4は、本実施形態に於けるガス検出装置の演算手順を示す図である。
図3及び
図4を用いてガス検知の動作について説明をする。
【0045】
ステップ31にて、温度センサ27からの信号をA/Dコンバータ23を通してMPU25に読み込む。
【0046】
ステップ32にて、MPU25は、温度演算を実行して、アンプ22への基準電圧及び、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bへ出力する電圧を決定する。第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bへ出力する電圧は、第1のセンサ素子2及び第2のセンサ素子3が予め定められた温度で加熱されるように調整される。
【0047】
ステップ33にて、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とで構成されるブリッジ回路にバイアス電圧を、アンプ22に基準電圧(Vref)を、D/Aコンバータ24より印加する。バイアス電圧及び基準電圧を印加してしてから一定時間経過後に、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bに、ステップ32で決定された電圧を印加する(
図3に於けるVm1及びVm3)。尚、基準電圧は、検知対象ガスが雰囲気中に無く検出されない時のVd出力値と同電圧値である。
【0048】
第1のヒータ7Aと第2のヒータ7Bとに同時に電圧を印加して、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを同時に加熱する。この時、第1のセンサ素子2を加熱する第1のヒータ7Aへの通電電圧は、測定対象とするガスを効率良く検出するための温度に第1のセンサ素子2を加熱する電圧であり、第2のセンサ素子3を加熱する第2のヒータ7Bへの通電電圧は、ガス検出装置が使用される環境温度よりも高温である。第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを、それぞれどの温度に加熱するかは、予め決められている。第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを同時に加熱することにより、センサ素子に対する環境温度変化による影響を抑えて、ガス検出を行うことが出来る。
【0049】
ステップ34にて、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bに電圧を印加して一定時間経過後に、ブリッジ回路からのVd出力値(第1の測定)を、アンプ22及びA/Dコンバータ23を経由してMPU25に取り込む。
【0050】
ステップ35にて、MPU25にVd出力値を取り込み後、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bへの電圧印加をOFFとする。
【0051】
ステップ36にて、アンプ22に基準電圧(Vref)をD/Aコンバータ24より印加する。基準電圧を印加してしてから一定時間経過後に、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bに、ステップ32で決定されたステップ33とは異なる電圧を印加する(
図3に於けるVm2及びVm4)。
【0052】
第1のヒータ7Aと第2のヒータ7Bとに同時に電圧を印加して、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを同時に加熱する。この時、第1のセンサ素子2を加熱する第1のヒータ7Aへの通電電圧と、第2のセンサ素子3を加熱する第2のヒータ7Bへの通電電圧とは、同電圧であり、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とが同じ温度で且つ、ガス検出装置が使用される環境温度よりも高温に加熱される。第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを、どの温度に加熱するかは、予め決められている。第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを同時に加熱することにより、センサ素子に対する環境温度変化による影響を抑えた測定ができる。
【0053】
ステップ37にて、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bに電圧を印加して一定時間経過後に、ブリッジ回路からのVr出力値(第2の測定)を、アンプ22及びA/Dコンバータ23を経由してMPU25に取り込む。
Vr出力値は、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを、環境温度に関係なく同温度で加熱されるように制御されているため、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とに経時変化等による抵抗変化が生じていなければ、ドリフトが生じることなく、Vr出力値は、毎回同電圧が出力される。しかし、初回のVr出力値に比べて、異なった電圧値が出力された場合、初回のVr出力値との電位差が、経時変化によるドリフト分となる。このドリフト分を補正することにより、ガス検出の精度を向上させることが出来る。
【0054】
ステップ38にて、MPU25にVr出力値を取り込み後、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bへの電圧印加及び、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とで構成されるブリッジ回路へのバイアス電圧印加をOFFとする
【0055】
ステップ39にて、第2のヒータ7Bに電圧を一定時間印加(
図3に於けるVm5)した後、印加電圧をOFFとする。この時第2のヒータ7Bに印加する電圧値は、ステップ33にて第1のヒータ7Aに印加した電圧と同電圧である。第1のヒータ7Aと第2のヒータ7Bとにステップ33で印加している電圧は異なることにより、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3が受ける熱ストレスに差が生じてくる。そのため、第2のヒータ7Bのみへの通電により、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3との熱ストレスの差を無くして、ほぼ同じ熱ストレスの状態に合わせている。
【0056】
ステップ40にて、ステップ37で得たVr出力値を
図5に記載の補正係数と用いて、ガス濃度補正値を算出する。
【0057】
MPU25のメモリ(図示せず)に保存された初回のVr出力値と、今回測定されたVr出力値を比較し、電位差が生じていなければ、経時変化はゼロということであり、ガス濃度補正値はゼロとなる。電位差が生じていれば、センサ素子の経時変化によるドリフトが生じたということであり、このドリフト分を補正する。この得られた電位差をドリフト分を補正するためのガス濃度補正値として、そのまま使用することは出来ない。Vr出力値を得た時の第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3に対する加熱温度と、Vd出力値を得た時の加熱温度とは異なるからである。加熱温度が異なると、センサ素子の特性も変わってくるために、ガス濃度を得るためのVd出力値を補正するためには、Vr出力値より求めたドリフト分を、Vd出力値のドリフト量に変換するための補正係数と乗算し、Vd出力値のドリフト分の補正用として精度よく使えるように換算する。
【0058】
図5は、本実施形態に於けるブリッジ回路出力に対する補正係数を示すグラフであり、X軸に第1のセンサ素子2の加熱温度を、Y軸に補正係数を取ったものである。Y軸の補正係数は、予め、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを同時に同温度に加熱した時のVr出力値の経時変化量と、ガス検出装置が配置された雰囲気中に検出対象ガスがない環境に於けるVd出力値の経時変化量との割合より求めている。具体的には、Vr出力値の初期値をVr01、一定時間稼働後のVr出力値をVrn、検出対象ガスを検出する温度で第1のセンサ素子2を加熱した時のVd出力値の初期値をVd01、一定時間経過後のVd出力値をVdnとすると、補正係数を求める演算は以下の式(数式1)で表わされる。この演算結果が、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とに生じる経時変化の影響を補正するための係数となる。例えば、Vd出力値を得るときの第1のセンサ素子2の加熱温度が150℃である時は、補正係数は1.35となる。この値を、Vr出力値より求めたドリフト分(電位差)と乗算することにより、Vd出力値のドリフト分を補正するガス濃度補正値となる。
【0059】
K=(Vdn−Vd01)/(Vrn−Vr01) 数式1
K:補正係数
【0060】
Vr出力値は、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを同時に環境温度よりも高温に100℃以下に且つ、同温度に加熱することにより得ている。このようにすることにより、湿度・ガスなどの影響を排除して、経時変化量を求めることが出来る。また、仮に検出対象ガスが存在していたとしても、低温であるために熱伝導は小さい。また、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを同時に同温度に加熱しているために、検出対象ガスに対する熱伝導による抵抗変化分がキャンセルされることとなる。
【0061】
補正係数は、MPU内のメモリ領域(図示せず)に保存されている。保存形態は、近似式に置き換えた形でも良いし、前記で求めた補正係数の数値そのものでもよい。検出対象ガスを検出するためのセンサ素子を加熱する温度が1点であれば、その加熱温度に対する補正係数の値をメモリに保存してもよい。また、検出対象ガスが複数であり、センサ素子を加熱する温度が複数点ある場合は、近似式としてメモリに保存してもよい。
【0062】
ステップ41にて、Vd出力値とガス濃度補正値とを用いて、ガス濃度を算出する。
【0063】
ステップ42にて、ステップ41で算出したガス濃度値を出力する。
【0064】
第1のヒータ7Aと第2のヒータ7Bとに同時に電圧を印加して、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを同時に加熱するようにしたことにより、センサ素子が環境温度変化の影響を受けて、Vd及びVr出力値が変動することが無くなり、安定したガス検出を行うことが出来る。
【0065】
第1のヒータ7Aと第2のヒータ7Bとに同時に電圧を印加して、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを同時に加熱するようにしたことにより、ガス検出装置が配置された雰囲気中に検出対象ガスが存在しない時のVd出力値とVr出力値は、それぞれ一定の電圧値となる。そのため、アンプ22に対する基準電圧(Vref)は、予め定められた電圧値を出力すれば良く、環境温度の変化に伴い、可変する必要が無いため、MPU25の負担が軽減される。
【0066】
第2のヒータ7Bに対して、一定間隔毎に電圧を一定時間印加(
図3に於けるVm5)することにより、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3との熱ストレスの差を無くすことで、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3との熱ストレスによる経時変化を抑えることが出来る。
【0067】
第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを、同温度で且つ、同時に加熱することによって得られたVr出力値は、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とに生じる経時変化の有無及び、経時変化量を示すものである。測定開始の初回に得られたVr出力値と定期的に比較を行い、経時変化量の差異を得て、補正を行うことにより、ガス検出の精度向上が得られる。
【0068】
(第2の実施形態)
本実施形態に於けるガスセンサ素子の構造及び、ガス検出装置の回路構成については、第1の実施形態で
図1及び
図2を用いて説明したものと同じである。
図7は本実施形態に於けるガス検出装置の動作タイミングを示す図であり、
図8は、本実施形態に於けるガス検出装置の演算手順を示す図である。
図7及び
図8を用いてガス検知の動作について説明をする。
【0069】
ステップ51にて、温度センサ27からの信号をA/Dコンバータ23を通してMPU25に読み込む。
【0070】
ステップ52にて、MPU25は、温度演算を実行して、アンプ22への基準電圧及び、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bへ出力する電圧を決定する。第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bへ出力する電圧は、第1のセンサ素子2及び第2のセンサ素子3が予め定められた温度で加熱されるように調整される。
【0071】
ステップ53にて、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とで構成されるブリッジ回路にバイアス電圧を、アンプ22に基準電圧(Vref)をD/Aコンバータ24より印加する。バイアス電圧及び基準電圧を印加してしてから一定時間経過後に、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bに、ステップ52で決定された電圧を印加する(
図7に於けるVm6及びVm9)。尚、基準電圧は、検知対象ガスが雰囲気中に無く検出されない時のVd1出力値と同電圧値である。
【0072】
第1のヒータ7Aと第2のヒータ7Bとに同時に電圧を印加して、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを同時に加熱する。この時、第1のセンサ素子2を加熱する第1のヒータ7Aへの通電電圧は、測定対象とするガスを効率良く検出するための温度に第1のセンサ素子2を加熱する電圧であり、第2のセンサ素子3を加熱する第2のヒータ7Bへの通電電圧は、ガス検出装置が使用される環境温度よりも高温である。第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを、それぞれどの温度に加熱するかは、予め決められている。
【0073】
ステップ54にて、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bに電圧を印加して一定時間経過後に、ブリッジ回路からのVd1出力値(第1の測定)を、アンプ22及びA/Dコンバータ23を経由してMPU25に取り込む。
【0074】
ステップ55にて、ブリッジ回路からのVd2出力値を取り込んだか確認を行う。取り込みがまだであれば、再度、ステップ53から再実行する。ステップ53実行時、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bに、ステップ52で決定された電圧を印加する(
図7に於けるVm7及びVm10)。再実行されたステップ54にて、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bに電圧を印加して一定時間経過後に、ブリッジ回路からのVd2出力値を、アンプ22及びA/Dコンバータ23を経由してMPU25に取り込む。Vd2出力値の取り込みが完了すれば、次のステップを実行する。
【0075】
ステップ56にて、MPU25にVd2出力値(第3の測定)を取り込み後、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bへの電圧印加をOFFとする。
【0076】
ステップ57にて、アンプ22に基準電圧(Vref)をD/Aコンバータ24より印加する。基準電圧を印加してしてから一定時間経過後に、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bに、ステップ52で決定されたステップ53とは異なる電圧を印加する(
図7に於けるVm8及びVm11)。
【0077】
第1のヒータ7Aと第2のヒータ7Bとに同時に電圧を印加して、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを同時に加熱する。この時、第1のセンサ素子2を加熱する第1のヒータ7Aへの通電電圧と、第2のセンサ素子3を加熱する第2のヒータ7Bへの通電電圧とは、同電圧であり、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とが同じ温度で且つ、ガス検出装置が使用される環境温度よりも高温に加熱される。第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを、どの温度に加熱するかは、予め決められている。
【0078】
ステップ58にて、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bに電圧を印加して一定時間経過後に、ブリッジ回路からのVr1出力値(第2の測定)を、アンプ22及びA/Dコンバータ23を経由してMPU25に取り込む。
【0079】
Vr1出力値は、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とを、環境温度に関係なく同温度で加熱されるように制御されているため、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とに経時変化等による抵抗変化が生じていなければ、ドリフトが生じることなく、Vr1出力値は、毎回同電圧が出力される。しかし、初回のVr1出力値に比べて、異なった電圧値が出力された場合、初回のVr1出力値との電位差が、経時変化によるドリフト分となる。このドリフト分を補正することにより、ガス検出の精度を向上させることが出来る。
【0080】
ステップ59にて、MPU25にVr1出力値を取り込み後、第1のヒータ7A及び第2のヒータ7Bへの電圧印加及び、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3とで構成されるブリッジ回路へのバイアス電圧印加をOFFとする
【0081】
ステップ60にて、第2のヒータ7Bに電圧を一定時間印加(
図7に於けるVm12)した後、印加電圧をOFFとする。この時第2のヒータ7Bに印加する電圧値は、ステップ53にて第1のヒータ7Aに印加した電圧と同電圧である。第1のヒータ7Aと第2のヒータ7Bとにステップ53で印加している電圧は異なることにより、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3が受ける熱ストレスに差が生じてくる。そのため、第2のヒータ7Bのみへの通電により、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3との熱ストレスの差を無くして、ほぼ同じ熱ストレスの状態に合わせている。
【0082】
ステップ61にて、ステップ58で得たVr1出力値を
図5に記載の補正係数と用いて、ガス濃度補正値を算出する。
【0083】
MPU25のメモリ(図示せず)に保存された初回のVr1出力値と、今回測定されたVr1出力値を比較し、電位差が生じていなければ、経時変化はゼロということであり、ガス濃度補正値はゼロとなる。電位差が生じていれば、センサ素子の経時変化によるドリフトが生じたということであり、このドリフト分を補正する。この得られた電位差をドリフト分を補正するためのガス濃度補正値として、そのまま使用することは出来ない。Vr1出力値を得た時の第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3に対する加熱温度と、Vd1及びVd2出力値を得た時の加熱温度とは異なるからである。加熱温度が異なると、センサ素子の特性も変わってくるために、ガス濃度を得るためのVd1及びVd2出力値を補正するためには、Vr1出力値より求めたドリフト分を、Vd1及びVd2出力値のドリフト量に変換するための補正係数と乗算し、ドリフト分の補正用として精度よく使えるように換算する。
【0084】
Vd1及びVd2出力値を補正するための補正値を得るためには、第1の実施形態で用いた
図5の補正係数を示すグラフを使う。例えば、Vd1出力値を得るときの第1のセンサ素子2の加熱温度が125℃である時は、補正係数は1.03となり、Vd2出力値を得るときの第1のセンサ素子2の加熱温度が175℃である時は、補正係数は1.45となる。この値を、Vr1出力値より求めたドリフト分(電位差)と乗算することにより、Vd1及びVd2出力値のドリフト分を補正するガス濃度補正値となる。
【0085】
ステップ62にて、Vd1及びVd2出力値とガス濃度補正値とを用いて、ガス濃度を算出する。
【0086】
ステップ63にて、ステップ62で算出したガス濃度値を出力する。
【0087】
雰囲気中に於ける複数のガスを検出するために、第1のセンサ素子2を複数の温度によって加熱する場合であっても、それぞれの加熱温度に対する補正係数を求めると共に、それぞれの加熱温度に対するブリッジ回路の出力値に対するガス濃度補正値を算出することにより、高精度のガス検出が可能である。
【実施例1】
【0088】
本発明におけるガスセンサ素子1は第1のセンサ素子2、第2のセンサ素子3とで構成されており、センサ素子2,3はNTC(Negative Temperature Coefficient)サーミスタであり、温度が上昇すると抵抗値が下がる特徴を持っている。NTCサーミスタの温度に対する抵抗値は近似的に以下の式(数式2)で表すことが出来る。
【0089】
R_TH=R_0 exp{B(1/T−1/T_0 )} 数式2
【0090】
式中のRTHは温度Tに於けるサーミスタの抵抗値、R0は温度T0に於けるサーミスタ抵抗値で、Bは温度TとT0に於けるサーミスタ抵抗値RTH、R0の関係を表す定数である。第1のセンサ素子2は、25℃で2000kΩを示し、150℃で65kΩを示し、B定数は3450である。第2のセンサ素子3は、25℃で220kΩを示し、60℃で65kΩを示し、B定数は3450である。第1のセンサ素子2の加熱時の抵抗値と第2のセンサ素子3の加熱時の抵抗値はおおよそ等しくなっている。
【0091】
図3にヒータ(MH1、MH2)と信号検出(Vd、Vr)のタイミング関係を示すように、第1のセンサ素子2の第1のヒータ7A、第2のセンサ素子3の第2のヒータ7Bは白金抵抗であり、パルス電圧が印加されることでジュール熱により発熱する。第1のヒータ7A、第2のヒータ7Bの抵抗値140Ωであり、1.2Vのパルス電圧(Vm1)が印加されることで第1のセンサ素子2が150℃に、0.5V(Vm3)のパルス電圧が印加されることで第2のセンサ素子3が60℃に加熱される。
【0092】
第1のセンサ素子2の第1のヒータ7A、第2のセンサ素子3の第2のヒータ7Bへの通電サイクルは、各々ヒータに100msec間、通電ONした後、400msec間、通電をOFFするタイミングで通電を行う。第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子3は、それぞれキャビティ10を有する構成となっているため、通電をON/OFFした後、20msec以内に設定した加熱温度又は、環境温度になる。
【0093】
第1のセンサ素子2の第1のヒータ7Aと、第2のセンサ素子3の第2のヒータ7Bとに、それぞれパルス電圧を印加し、第1のセンサ素子2が150℃に、第2のセンサ素子3が60℃に安定して加熱された状態で、ガス検出を行い、Vd出力値を取り込む。続いて、第1のヒータ7Aと、第2のヒータ7Bとに、それぞれパルス電圧を印加し、第1のセンサ素子2と、第2のセンサ素子3とが60℃に安定して加熱された状態で、ドリフト補正に用いるVr出力値を取り込む。続いて、第2のヒータ7Bのみにパルス電圧を印加し、第2のセンサ素子3を150℃に加熱する。
【0094】
第2のヒータ7Bのみにパルス電圧を印加することにより、第1のセンサ素子2と、第2のセンサ素子3との熱ストレスのバランスを取っている。
【0095】
測定開始初回のVr出力値と、新たに測定されたVr出力値との差を、補正係数と乗算し、その得られたガス濃度補正値を、Vd出力値に合算する。
【0096】
初期のVr出力値が、1.500Vであり、一定時間測定後のVr出力値が1.505Vであり、且つ、Vd出力検出時の第1のセンサ素子2の加熱温度が150℃であったとすると、補正係数が1.35となるため、ガス濃度補正値は、6.75mVとなる。この値をVd出力値に合算して、ガス濃度を求める演算を行う。
【0097】
図6は、第1の実施形態を用いたドリフト補正の有効性を示したグラフである。尚、本グラフに於ける検出対象ガスは炭酸ガスであり、濃度は、10000ppmとした。グラフ中の比較1は、一方をセンサ素子とし、もう一方を固定抵抗でブリッジ回路を組んだ時の経時変化によるガス検出誤差への影響を示しており、測定開始から1000hr経過すると経時変化による影響は、50000ppmのガス検出誤差となってあらわれる。
【0098】
グラフ中の比較2は、センサ素子同士でブリッジ回路を組んだ時の経時変化によるガス検出誤差への影響を示しており、測定開始から1000hr経過すると経時変化による影響は、3000ppmのガス検出誤差となってあらわれる。センサ同士でブリッジ回路を組むことにより、経時変化の影響は大幅に低下しているが、約30%の誤差を有している。
【0099】
グラフ中の実施1は、第1の実施形態に於ける補正演算を取り入れた時の経時変化によるガス検出誤差への影響を示しており、測定開始から1000hr経過すると経時変化による影響は、≒100ppmとなっており、補正演算を取り入れることにより、経過時間によるガス検出への影響が大幅に低減されていることが分かる。以上により、センサ素子の誤差を低減したガス検出装置を提供することを示した。
【0100】
実施例では、検出対象ガスに炭酸ガスを用いて説明したが、検出対象ガスがメタン等、他のガスであったとしても、演算処理の流れは何ら変わるものではない。