(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6680329
(24)【登録日】2020年3月24日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 13/00 20060101AFI20200406BHJP
【FI】
B60C13/00 D
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-171728(P2018-171728)
(22)【出願日】2018年9月13日
(65)【公開番号】特開2020-40629(P2020-40629A)
(43)【公開日】2020年3月19日
【審査請求日】2019年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】堀内 研治
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−071281(JP,A)
【文献】
特開2010−188975(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/166802(WO,A1)
【文献】
特開2016−155504(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/114668(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部のタイヤ幅方向最外側端部のタイヤ幅方向内側に隣接するショルダー領域のそれぞれに複数のショルダーブロックが設けられる一方で、前記トレッド部のタイヤ幅方向最外側端部のタイヤ幅方向外側に隣接するサイド領域のそれぞれに前記ショルダーブロックとは別に複数のサイドブロックが設けられ、前記複数のサイドブロックはそれぞれ、前記サイドウォール部の外表面から隆起し、分断要素によって区画され、タイヤ周方向に沿って配列されており、タイヤ周方向に隣り合う前記サイドブロックどうしは、タイヤ径方向に沿って見たときに、少なくとも一部が重複しており、
前記分断要素は、前記トレッド部のタイヤ幅方向最外側端部、タイヤ周方向またはタイヤ幅方向に延在する溝、タイヤ周方向またはタイヤ幅方向に延在するサイプから選ばれる要素の組み合わせであり、
前記サイド領域のうち、車両装着時に車両に対して内側となる側を内側サイド領域とし、車両装着時に車両に対して外側となる側を外側サイド領域としたとき、前記内側サイド領域に設けられたサイドブロックの個数Ninが前記外側サイド領域に設けられたサイドブロックの個数Nout よりも小さいことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記内側サイド領域に設けられたサイドブロックの個数Ninが25以上であり、前記外側サイド領域に設けられたサイドブロックの個数Nout と前記内側サイド領域に設けられたサイドブロックの個数Ninとの比Nout /Ninが1.5以上3.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記トレッド部のタイヤ幅方向最外側端部から前記サイド領域のタイヤ径方向最内側点までの垂直距離Lとタイヤ断面高さSHの比L/SHが0.10〜0.30であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記サイドブロックの前記サイドウォール部の外表面から隆起高さHが5mm〜13mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記分断要素は相対的に溝深さが小さい浅溝領域を一部に含み、前記浅溝領域の溝深さは前記サイドブロックの前記サイドウォール部の外表面から隆起高さHの40%〜45%であり、前記浅溝領域の前記サイドブロックの踏面の輪郭線に沿った総長さが当該サイドブロックの踏面の輪郭線の全長の15%〜35%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記外側サイド領域に設けられた前記サイドブロックの総面積が前記内側サイド領域に設けられた前記サイドブロックの総面積の85%〜115%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記内側サイド領域および前記外側サイド領域のそれぞれにおいて、各サイド領域の面積に対する各サイド領域に設けられた前記サイドブロックの総面積の割合が15%〜70%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未舗装路走行用タイヤとして好適な空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、騒音性能と未舗装路での走行性能とを改善した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
不整地、泥濘地、雪道、砂地、岩場等の未舗装路の走行を意図した空気入りタイヤでは、一般的に、エッジ成分の多いラグ溝やブロックを主体とするトレッドパターンであって、溝面積が大きいものが採用される。また、トレッド部のタイヤ幅方向最外側に位置するショルダーブロックの更にタイヤ幅方向外側のサイド領域にサイドブロックを設けることが行われている。このようなタイヤでは、路面上の泥、雪、砂、石、岩等(以下、これらを総称して「泥等」と言う)を噛み込んでトラクション性能を得ると共に、溝内に泥等が詰まることを防いで、未舗装路での走行性能を向上している(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0003】
これら特許文献1,2のタイヤを対比すると、特許文献1のタイヤは、溝面積が比較的小さく、舗装路における走行性能も考慮したタイプのタイヤであると言える。一方、特許文献2のタイヤは、溝面積が大きく、個々のブロックも大きく、未舗装路での走行性能に特化したタイプのタイヤであると言える。そのため、前者は後者に比べて未舗装路での走行性能が低く、後者は前者に比べて通常走行時の性能が低くなる傾向がある。近年、タイヤに対する要求性能の多様化が進み、これら2タイプのタイヤの中間レベルの性能を有する未舗装路走行用タイヤも求められており、適度な溝形状で未舗装路での走行性能を効率的に高めるための対策が求められている。また、上述のように、未舗装路走行用タイヤは、基本的にブロックを主体として溝面積が大きいため、騒音性能(例えば風切り音など)が悪化し易い傾向があるため、騒音性能についても良好に維持または改善することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016‐007861号公報
【特許文献2】特開2013‐119277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、騒音性能と未舗装路での走行性能とを改善した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部のタイヤ幅方向最外側端部のタイヤ幅方向内側に隣接するショルダー領域のそれぞれに複数のショルダーブロックが設けられる一方で、前記トレッド部のタイヤ幅方向最外側端部のタイヤ幅方向外側に隣接するサイド領域のそれぞれに
前記ショルダーブロックとは別に複数のサイドブロックが設けられ、前記複数のサイドブロックはそれぞれ、前記サイドウォール部の外表面から隆起し、分断要素によって区画され
、タイヤ周方向に沿って配列されており、
タイヤ周方向に隣り合う前記サイドブロックどうしは、タイヤ径方向に沿って見たときに、少なくとも一部が重複しており、前記分断要素は、前記トレッド部のタイヤ幅方向最外側端部、タイヤ周方向またはタイヤ幅方向に延在する溝、タイヤ周方向またはタイヤ幅方向に延在するサイプから選ばれる要素の組み合わせであり、前記サイド領域のうち、車両装着時に車両に対して内側となる側を内側サイド領域とし、車両装着時に車両に対して外側となる側を外側サイド領域としたとき、前記外側サイド領域に設けられたサイドブロックの個数Ninが前記内側サイド領域に設けられたサイドブロックの個数Nout よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、上述のように、タイヤが泥等に埋もれた際や車体が傾いた際に接地するサイド領域に複数のサイドブロックを設けるにあたって、騒音(風切り音)への影響が大きい外側サイド領域のサイドブロックについては、個数Nout を相対的に大きく(即ち、個々のブロックを小さく)しているので、騒音性能を高めることができる。また、これにより溝成分が多くなるため、未舗装路(特に雪上路面)における走行性能を向上することもできる。一方、騒音(風切り音)への影響が小さい内側サイド領域のサイドブロックについては、個数Ninを相対的に小さくする(即ち、個々のブロックを大きくする)ことで、耐カット性を高めることができ、これにより未舗装路における走行性能を向上することができる。特に、未舗装路においては、タイヤが沈み込んだ状態や、車体が傾いた状態になり、車両外側に向かって露出しない車両内側にもカットが生じ易くなるため、効果的に耐カット性を向上することができる。このように車両内外で機能分担をさせることで騒音性能と未舗装路における走行性能とをバランスよく両立することができる。
【0008】
本発明では、タイヤ周方向に隣り合う前記サイドブロックどうしが、タイヤ径方向に沿って見たときに、少なくとも一部が重複してい
る。このようにサイドブロックを配置することで、タイヤ全周にわたってサイドブロックが存在することになり、未舗装路での走行性能を向上するには有利になる。
【0009】
本発明では、外側サイド領域に設けられたサイドブロックの個数Ninが25以上であり、外側サイド領域に設けられたサイドブロックの個数Nout と内側サイド領域に設けられたサイドブロックの個数Ninとの比Nout/in が1.5以上3.5以下であることが好ましい。これにより、各側におけるサイドブロックの個数や大きさのバランスが良好になり、騒音性能と未舗装路における走行性能とを両立するには有利になる。
【0010】
本発明では、トレッド部のタイヤ幅方向最外側端部からサイド領域のタイヤ径方向最内側点までの垂直距離Lとタイヤ断面高さSHの比L/SHが0.10〜0.30であることが好ましい。このようにサイドブロックが設けられるサイド領域の範囲を設定することで、未舗装路を走行する際にサイドブロックが適切に路面(泥等や岩)に接するようになり、未舗装路における走行性能を効果的に発揮するには有利になる。
【0011】
本発明では、サイドブロックのサイドウォール部の外表面から隆起高さHが5mm〜13mmであることが好ましい。これにより、サイドブロックが充分に隆起して適切な大きさになるので、未舗装路での走行性能を向上するには有利になる。
【0012】
本発明では、分断要素は相対的に溝深さが小さい浅溝領域を一部に含み、浅溝領域の溝深さはサイドブロックの前記サイドウォール部の外表面から隆起高さHの40%〜45%であり、浅溝領域のサイドブロックの踏面の輪郭線に沿った総長さが当該サイドブロックの踏面の輪郭線の全長の15%〜35%であることが好ましい。これにより、溝体積とブロック剛性とをバランスよく確保することが可能になり、騒音性能と未舗装路における走行性能とを両立するには有利になる。
【0013】
本発明では、外側サイド領域に設けられたサイドブロックの総面積が内側サイド領域に設けられたサイドブロックの総面積の85%〜115%であることが好ましい。このように、車両内外でサイドブロックの総面積を同程度に設定することで、車両内外のサイドブロックの個数の関係によって、効果的に溝体積とブロック剛性とのバランスを高めることができ、騒音性能と未舗装路における走行性能とを両立するには有利になる。
【0014】
本発明では、内側サイド領域および外側サイド領域のそれぞれにおいて、各サイド領域の面積に対する各サイド領域に設けられたサイドブロックの総面積の割合が15%〜70%であることが好ましい。これにより、各サイド領域においてサイドブロックを充分に確保できるので、未舗装路における走行性能を向上するには有利になる。
【0015】
本発明において、「接地端」とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに形成される接地領域のタイヤ軸方向の両端部である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
【
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッド面を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示し、符号Eは接地端を示す。尚、
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0019】
本発明の空気入りタイヤは、車両に対する装着方向が指定されている。具体的には、図のIN側が車両に装着する際に車両に対して内側にするように指定された側(以下、車両内側という)であり、図のOUT側が車両に装着する際に車両に対して外側にするように指定された側(以下、車両外側という)である。このような装着方向は、例えばタイヤ外表面の任意の部位に設けられた表示を見ることで判別することができる。
【0020】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。
【0021】
本発明は、このような一般的な断面構造の空気入りタイヤに適用されるが、その基本構造は上述のものに限定されない。
【0022】
図1,2に示す空気入りタイヤでは、トレッド部1の外表面のセンター領域には複数のセンターブロック10が設けられている。また、トレッド部1の外表面のショルダー領域には複数のショルダーブロック20が設けられている。言い換えると、トレッド部1の外表面において、タイヤ赤道の両側にそれぞれ2種類のブロック(センターブロック10およびショルダーブロック20)が設けられている。そして、タイヤ赤道側に位置するセンターブロック10が配置された領域がセンター領域となり、センターブロック10よりもタイヤ幅方向外側に位置するショルダーブロック20が配置された領域がショルダー領域となる。
【0023】
センターブロック10は、タイヤ周方向に対して傾斜して延びる傾斜溝11を挟んで対(ブロック対10′)を成すように配列されている。そして、このブロック対10′の一方側(図中のタイヤ赤道の左側)のセンターブロック10はタイヤ赤道の一方側(図中のタイヤ赤道の左側)から他方側(図中のタイヤ赤道の右側)にタイヤ赤道を跨ぐように延在し、他方側(図中のタイヤ赤道の右側)のセンターブロック10はタイヤ赤道の他方側(図中のタイヤ赤道の右側)から一方側(図中のタイヤ赤道の左側)にタイヤ赤道を跨ぐように延在している。また、各センターブロック10のタイヤ幅方向外側の壁面(傾斜溝30の反対側の壁面)には、トレッド踏面においてV字状に接続された2つの壁面からなる切り込み12が設けられている。
【0024】
ショルダーブロック20は、前述のようにセンターブロック10のタイヤ幅方向外側に配置されるブロックである。図示の例では、センターブロック10のタイヤ幅方向外側から接地端Eまで達する複数のショルダーブロック20がタイヤ周方向に間隔をおいて配列されている。これら複数のショルダーブロック20の間にはタイヤ幅方向に延在するショルダー溝21が形成されている。尚、以降の説明では、これらショルダーブロック20の子午線断面におけるタイヤ幅方向最外側端部を、トレッド部1のタイヤ幅方向最外側端部と見做し、この端部に隣接する領域をサイド領域(後述のサイドブロック30が形成される領域)とする。図示の例では、ショルダーブロック20の子午線断面におけるタイヤ幅方向最外側端部(トレッド部1のタイヤ幅方向最外側端部)にはタイヤ全周に亘って連続的に延在する突条22が設けられている。
【0025】
図示の例では、上記のようなセンターブロック10とショルダーブロック20のそれぞれに、サイプ40が形成されている。また、ショルダーブロック20のタイヤ幅方向外側の側面にはタイヤ幅方向に沿って屈曲しながら延在する浅溝41が設けられている。
【0026】
本発明は、未舗装路を走行する際(例えば、タイヤが泥等に埋もれた際や、車体が傾いた状態で接地した際)に路面に当接するサイド領域に設けられた後述のサイドブロック30の構造に関するものであるので、図示の例のようにブロックを主体として未舗装路における走行性能に好適なトレッドパターンであれば、トレッド部1のタイヤ幅方向最外側端部の間に形成される溝やブロックの構造は特に限定されない。
【0027】
ショルダー領域のタイヤ幅方向外側に位置するサイド領域には、サイドウォール部2の外表面から隆起した複数のサイドブロック30が形成されている。サイドブロック30の隆起高さHは好ましくは5mm〜13mmである。複数のサイドブロック30はタイヤ周方向に沿ってタイヤ全周に亘って配列されている。特に図示の例では、各ショルダーブロック20のタイヤ幅方向外側の延長位置にサイドブロック30が配置され、タイヤ周方向に隣り合うサイドブロック30間の溝が、タイヤ周方向に隣り合うショルダーブロック20間のショルダー溝21と実質的に連続している。個々のサイドブロック30の形状は特に限定されないが、タイヤ周方向に隣り合うサイドブロック30どうしが、タイヤ径方向に沿って見たときに、少なくとも一部が重複していることが好ましい。例えば図示のサイドブロック30は、タイヤ幅方向に延在する部分とタイヤ周方向に延在する部分とが組み合わさった略L字形状を有するため、隣り合うサイドブロック30の一部が重複している。
【0028】
個々のサイドブロック30は、少なくとも3方向が分断要素31によって区画されることで構成される。言い換えると、サイドウォール部2の外表面から隆起した陸部が複数の分断要素31によって区画されることでサイドブロック30が形成される。分断要素31とは、トレッド部1のタイヤ幅方向最外側端部、タイヤ周方向またはタイヤ幅方向に延在する溝、タイヤ周方向またはタイヤ幅方向に延在するサイプのいずれかである。また、分断要素31が深さを有する要素(溝やサイプ)である場合は、分断要素31は、サイドブロック30の隆起高さHの40%以上の深さを有するものとする。言い換えると、溝深さがサイドブロック30の隆起高さの40%未満である溝やサイプはサイドブロック30を区画する分断要素31とは見做さないものとする。これら分断要素31は、複数種類を任意に組み合わせることができる。例えば、図示の例では、車両外側のサイド領域(以下、外側サイド領域)には、トレッド部1のタイヤ幅方向最外側端部とタイヤ幅方向に延在する一対の溝とを分断要素31としたサイドブロック30aが形成されている。また、車両内側のサイド領域(以下、内側サイド領域)には、トレッド部1のタイヤ幅方向最外側端部とタイヤ周方向に延在する溝とタイヤ幅方向に延在する一対の溝とを分断要素31としたサイドブロック30bと、タイヤ周方向に延在する溝とタイヤ幅方向に延在する一対の溝とを分断要素31としたサイドブロック30cが形成されている。尚、分断要素31に関して、トレッド部1のタイヤ幅方向最外側端部は、溝やサイプと異なり深さを持つものではないが、本発明ではサイドブロック30を区画する要素と見做している。例えば、トレッド部1のタイヤ幅方向最外側端にタイヤ周方向に連続的に延在する突条22が存在して、突条22によってサイドブロック30が連結している場合であっても、本発明においてトレッド部1のタイヤ幅方向最外側端(即ち、突条22)はサイドブロック30を区画する分断要素31と見做されるため、突条22を除いた個々の部分が別個のサイドブロック30となる。
【0029】
本発明では、サイドブロック30を外側サイド領域および内側サイド領域のそれぞれに設けるにあたって、サイドブロック30の個数を異ならせている。即ち、外側サイド領域に設けられたサイドブロック30の個数をNout とし、内側サイド領域に設けられたサイドブロック30の個数をNinとすると、これら個数Nout およびNinは、Nout >Ninの関係を満たしている。例えば、図示の例では、外側サイド領域に設けられたサイドブロック30が内側サイド領域に設けられたサイドブロック30よりも細かく区画されているため、個数Ninが個数Noutよりも小さくなっている。
【0030】
このように、車両内外でサイドブロック30の個数を異ならせて、騒音(風切り音)への影響が大きい外側サイド領域のサイドブロック30については、個数Nout を相対的に大きく(即ち、個々のブロックを小さく)しているので、騒音性能を高めることができる。また、これにより溝成分が多くなるため、未舗装路(特に雪上路面)における走行性能を向上することもできる。一方、騒音(風切り音)への影響が小さい内側サイド領域のサイドブロック30については、個数Ninを相対的に小さくする(即ち、個々のブロックを大きくする)ことで、耐カット性を高めることができ、これにより未舗装路における走行性能を向上することができる。特に、未舗装路においては、タイヤが沈み込んだ状態や、車体が傾いた状態になり、車両外側に向かって露出しない車両内側にもカットが生じ易くなるため、効果的に耐カット性を向上することができる。このように車両内外で機能分担をさせることで騒音性能と未舗装路における走行性能とをバランスよく両立することができる。
【0031】
上記のように、車両内外でサイドブロック30の個数を異ならせるにあたって、内側サイド領域に設けられたサイドブロック30の総面積が外側サイド領域に設けられたサイドブロック30の総面積の85%〜115%であることが好ましい。このように、車両内外でサイドブロック30の総面積を同程度に設定すれば、個数Ninを相対的に小さくすることで個々のサイドブロック30を確実に大きくして耐カット性を向上することができ、個数Nout を相対的に大きくすることで個々のサイドブロック30を確実に小さくして騒音性能を向上することができる。このとき、車両内外のサイドブロック30の総面積の関係が上述の範囲から外れると、サイドブロック30の個数のみで車両内外のサイドブロック30の形状(大きさ)を適切な関係に設定することが難しくなる。尚、本発明において、サイドブロック30の総面積とは、サイドブロック30の頂面の面積の総和である。
【0032】
サイドブロック30を設けるにあたって、サイドブロック30が未舗装路における走行性能に有効に作用するように、内側サイド領域および外側サイド領域のそれぞれにおいて、各サイド領域の面積に対する各サイド領域に設けられたサイドブロック30の総面積の割合を好ましくは15%〜70%に設定するとよい。このように、サイド領域の充分な範囲をサイドブロック30が占めるようにすることで、未舗装路における走行性能を効果的に発揮することが可能になる。サイドブロック30の総面積の割合が15%未満であると、サイドブロック30が疎らに点在することになるため、未舗装路における走行性能を充分に向上することが難しくなる。サイドブロック30の総面積の割合が70%を超えると、サイドブロック30の間の溝やサイプの面積が減少しエッジ効果が得にくくなるため、未舗装路における走行性能を充分に向上することが難しくなる。また、個々のサイドブロック30が小さすぎると未舗装路面における走行性能を発揮するための充分なエッジ効果を得ることが難しくなるため、個々のサイドブロック30の面積はサイド領域の面積の例えば4%以上であることが好ましい。尚、本発明において、サイド領域の面積とは、トレッド部1のタイヤ幅方向最外側端部とサイドブロック30のタイヤ幅方向最外側端との間の領域の面積である。
【0033】
本発明において、サイドブロック30は、分断要素31によって区画されるものであるが、その全周が完全に区画されている(分断されている)必要はない。例えば、
図3(a)および
図3(b)に模式的に示す2種類のサイドブロック30には、ブロック内で終端する溝Aまたは溝Bが形成されている。このうち、
図3(a)のように、溝Aが充分な長さを持つ場合は、溝Aは分断要素31と見做すことができる。即ち、溝A(分断要素31)を延長した仮想溝(図中の破線を参照)の長さXに対する溝Aで分断されない部分の長さYの割合が15%未満であれば、この溝A(分断要素31)がブロックを実質的に分断しており、この溝A(分断要素31)の両側に位置するブロックの部分は別個のブロックとして区画されたと見做すことができる。一方、
図3(b)のように溝Bが短い場合(前述の長さの割合が15%以上の場合)は、ブロックは分断されていないものとする。
【0034】
内側サイド領域に設けられたサイドブロック30の個数Ninは好ましくは25以上、より好ましくは30以上45以下であるとよい。また、外側サイド領域に設けられたサイドブロック30の個数Nout と内側サイド領域に設けられたサイドブロック30の個数Ninとの比Nout /Ninは好ましくは1.5以上3.5以下であるとよい。このようにサイドブロック30の個数を設定することで、各側におけるサイドブロック30の個数や大きさのバランスが良好になり、騒音性能と未舗装路における走行性能とを両立するには有利になる。サイドブロック30の個数Ninが25未満であると、サイドブロック30が少なすぎるため、未舗装路における走行性能(特に耐カット性)を充分に向上することが難しくなる。比Nout /Ninが1.5未満であると、車両内外のサイドブロック30の個数の差が小さくなり、車両内外でサイドブロック30の個数を異ならせる効果が充分に得られなくなる。比Nout /Ninが3.5を超えると、車両内外のいずれかでサイドブロックの個数が過多または過少になるため、騒音性能と未舗装路における走行性能とをバランスよく発揮することが難しくなる。
【0035】
サイドブロック30はショルダー領域に隣接するサイド領域に設けられるが、トレッド部1のタイヤ幅方向最外側端部からサイド領域のタイヤ径方向最内側点までの垂直距離Lとタイヤ断面高さSHの比L/SHが好ましくは0.10〜0.30であるとよい。このようにサイドブロック30が設けられるサイド領域の範囲を設定することで、未舗装路を走行する際にサイドブロック30が適切に路面に接するようになり、未舗装路における走行性能を効果的に発揮するには有利になる。比L/SHが0.10未満であると、サイドブロック30が設けられる範囲が小さくなるため、未舗装路における走行性能を向上する効果が充分に得られなくなる。比L/SHが0.30を超えると、サイドブロック30が設けられる範囲が大きくなり、サイドブロック30による重量増の影響が大きくなるため、騒音性能(風切り音)や通常の走行性能(操縦安定性能)に影響が出る虞がある。
【0036】
サイドブロック30を区画する分断要素31は、相対的に溝深さが小さい浅溝領域を一部に含むことが好ましい。この浅溝領域は、分断要素31である溝やサイプの少なくとも一部を浅くすることで構成することができる。浅溝領域の溝深さはサイドブロック30の隆起高さHの好ましくは40%〜45%であるとよい。また、浅溝領域のサイドブロック30の踏面の輪郭線に沿った総長さは、当該サイドブロック30の踏面の輪郭線の全長の好ましくは15%〜35%であるとよい。これにより、溝体積とブロック剛性とをバランスよく確保することが可能になり、騒音性能と未舗装路における走行性能とを両立するには有利になる。浅溝領域の溝深さが隆起高さHの40%未満であると、浅溝領域においてブロックが充分に分断されずサイドブロック30を適切に区画できなくなる虞がある。浅溝領域の溝深さが隆起高さHの45%を超えると、浅溝領域において溝深さが充分に浅くならず、浅溝領域を設ける効果が充分に発揮されなくなる。浅溝領域の総長さがサイドブロック30の踏面の輪郭線の全長の15%未満であると、浅溝領域が少なすぎるため、浅溝領域を設ける効果が充分に発揮されなくなる。浅溝領域の総長さがサイドブロック30の踏面の輪郭線の全長の35%を超えると、浅溝領域が多くなり過ぎてブロックが充分に分断されずサイドブロック30を適切に区画できなくなる虞がある。
【実施例】
【0037】
タイヤサイズがLT265/70R17であり、
図1に例示する基本構造を有し、
図2のトレッドパターンを基調とし、外側サイド領域のサイドブロックの個数Nout 、内側サイド領域のサイドブロックの個数Nin、サイドブロックの個数の比Nout/Nin、サイドブロックの隆起高さH、トレッド部のタイヤ幅方向最外側端部からサイド領域のタイヤ径方向最内側点までの垂直距離Lとタイヤ断面高さSHの比L/SH、浅溝領域の有無、隆起高さHに対する浅溝領域の溝深さの割合、サイドブロックの踏面の輪郭線の全長に対する浅溝領域の総長さの割合をそれぞれ表1〜2のように設定した比較例1〜3、実施例1〜16の19種類の空気入りタイヤを作製した。
【0038】
これら空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、未舗装路における走行性能(マッド性能およびスノー性能)と通常路面における騒音性能とを評価し、その結果を表1〜2に併せて示した。
【0039】
マッド性能
各試験タイヤをリムサイズ17×7.0Jのホイールに組み付けて、空気圧を250kPaとして試験車両(四輪駆動車)に装着し、泥濘地からなるテストコースにてトラクション性についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、比較例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどマッド性能に優れることを意味する。
【0040】
スノー性能
各試験タイヤをリムサイズ17×7.0Jのホイールに組み付けて、空気圧を250kPaとして試験車両(四輪駆動車)に装着し、悪路かつスノー路面からなるテストコースにてトラクション性についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、比較例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどスノー性能に優れることを意味する。
【0041】
騒音性能
各試験タイヤをリムサイズ17×7.0Jのホイールに組み付けて、空気圧を250kPaとして試験車両(四輪駆動車)に装着し、舗装された路面からなるテストコースにて騒音性能(風切り音)についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、比較例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど騒音性能に優れることを意味する。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1〜2から明らかなように、実施例1〜16はいずれも、比較例1と比較して、未舗装路における走行性能(マッド性能、スノー性能)および騒音性能をバランスよく効果的に向上した。尚、上述の評価では、未舗装路としてマッド性能およびスノー路面を採用したが、他の路面(砂地や岩場等)であっても、本発明のサイドブロックは、路面上の砂、石、岩等に有効に作用するので、いずれの未舗装路面でも良好な走行性能を発揮した。一方、比較例2は、車両内外でサイドブロックの個数が少ないため、未舗装路における走行性能は得られるものの、騒音性能が低下した。比較例3は、車両内外でサイドブロックの個数が多いため、騒音性能は得られるものの、未舗装路における走行性能が低下した。
【符号の説明】
【0045】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
10 センターブロック
20 ショルダーブロック
30 サイドブロック
31 分断要素
CL タイヤ赤道
E 接地端