(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
実施の形態1.
まず、本発明の実施の形態1について説明する。
【0021】
図1に示すように、可動反射素子100は、全体として、矩形平板状の素子である。可動反射素子100では、その平板にスリットが形成されて、次の各部、すなわち固定枠110と、鏡面部130と、アクチュエータ部140とが形成されている。本実施の形態では、鏡面部130が揺動部に相当し、アクチュエータ部140が第1のアクチュエータに対応する。
【0022】
固定枠110は最も外周に配置された平板状の枠体である。鏡面部130は、固定枠110の枠内に配置された矩形平板状の部材である。アクチュエータ部140は、固定枠110と鏡面部130とを連結する部材であり、鏡面部130の両端に一対のものが設けられている。
【0023】
ここで、鏡面部130の重心位置を原点OとするXYZ3次元直交座標系を規定する。このXYZ座標系では、
図1において、鏡面部130に対してアクチュエータ部140が配置される方向をX軸とし、鏡面部130の反射層130D内においてX軸に直交する方向をY軸とし、鏡面部130の反射層130Dの法線方向をZ軸とする。本実施の形態では、第1の方向がY軸に相当し、第2の方向がX軸に相当する。また、第1の回転軸がX軸近傍の仮想的な回転軸であり、第2の回転軸がY軸近傍の仮想的な回転軸となる。
【0024】
固定枠110は、不図示の基台に固定される。鏡面部130は、基台には直接固定されない状態で用いられる。アクチュエータ部140は、固定枠110と鏡面部130との間であって、鏡面部130のX軸方向両側にそれぞれ設けられ、固定枠110と鏡面部130とを連結する。
【0025】
図2に示すように、可動反射素子100は、A層100A、B層100B、C層100Cがこの順に積層された積層構造を有している。A層100Aは、実際には、3つの層に分かれている。この3つの層については後述する。固定枠110、鏡面部130、アクチュエータ部140は、A層100A、B層100B、C層100Cの3層構造を含んでいる。
【0026】
図3に示すように、固定枠110、鏡面部130の厚みに比べて、アクチュエータ部140の厚みは小さく設定されており、アクチュエータ部140の下方には空隙が形成されている。鏡面部130及びアクチュエータ部140は、固定枠110で囲まれた空間内において、基台から浮いた状態となっている。
【0027】
アクチュエータ部140は、少なくとも上下方向(Z軸方向)に関して可撓性を有しており、上方に反ったり、下方に反ったりすることができる。これにより、アクチュエータ部140は、所定の自由度の範囲内で、固定枠110に対して鏡面部130を揺動させることができる。鏡面部130の上面には、後述するように+Z側に反射面が形成され、その反射面が、入射した光、電磁波等のビームを反射する。
【0028】
また、A層100A、B層100B、C層100Cの3層は、互いに同一の平面形状(
図1に示す形状)を有しているが、D層100Dの平面形状はA層100A、B層100B、C層100Cとは異なっている。
【0029】
D層100Dは、アクチュエータ部140に形成された上部電極層140D,141D,142Dと、鏡面部130に形成された反射層130Dと、第1の検出用電極としての検出用電極160Dとに対応する。固定枠110には、配線を除き、D層は形成されていない。ただし、固定枠110においては、配線の図示を省略している。上部電極層140D,141D,142Dは、圧電素子の電極を形成し、反射層130Dは、鏡面部130の反射面を形成し、検出用電極160Dは、鏡面部130の変位を検出するための電極を形成する。それ以外の部分には、D層を形成する必要はない。
【0030】
固定枠110には、前述の通り、配線として機能するD層が形成される。しかし、上部電極層140D,141D,142Dは、それぞれ別個の圧電素子を形成するために電気的に絶縁されている必要があるので、C層の上面全面に、同一の平面形状を有するD層を形成するのは望ましくない。
【0031】
次に、可動反射素子100を構成するA層100A、B層100B、C層100C、D層100Dの材質について説明する。まず、A層100Aは、他の各層の支持基板となる基板層であり、その上面に形成されるB層100B、C層100C、D層100Dを支持することができる材質によって形成されている。ただし、アクチュエータ部140は、少なくとも上下方向(Z軸方向)に関して可撓性を有している必要がある。すなわち、基板層としてのA層100Aは、各アクチュエータ部140が必要な範囲内(鏡面部130を、要求される角度で傾斜させるために必要な範囲内)で撓みを生じることができるよう、ある程度の可撓性を有する材料によって形成される。この実施の形態では、シリコン基板によってA層100Aが構成されている。より具体的には、A層100Aは、シリコンからなる支持層と、支持層の上に形成された二酸化シリコンのBOX層(二酸化ケイ素絶縁膜)と、BOX層の上に形成されたシリコンからなる活性層の3層構造となっている。
【0032】
なお、A層100Aは、BOX層を含まず、支持層と活性層とからなる2層構造であってもよい。即ち、A層100Aは、単一のシリコン基板でもよい。
【0033】
B層100Bは、圧電素子の下部電極を構成する。また、D層100Dは、圧電素子の上部電極を構成する。したがって、B層100BもD層100Dも導電性材料によって形成される。
【0034】
C層100Cは、圧電素子を構成し、圧電効果を呈する圧電材料によって構成される。例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)またはKNN(ニオブ酸カリウムナトリウム)の薄膜によってC層100Cが形成されている。本実施の形態では、圧電材料層(C層100C)を導電性材料層(B層100B及びD層100D)で挟んだサンドイッチ構造体によって圧電素子が構成される。
【0035】
なお、D層100Dのうち、各アクチュエータ部140に形成される部分は、上述のように、圧電素子用の上部電極層を構成することになる。しかし、鏡面部130に形成されるD層130Dは、鏡面部130の反射層として機能する。したがって、アクチュエータ部140の上部電極層140D,141D,142Dは、導電性の層であればよく、表面が反射性である必要はない。また、鏡面部130に形成されるD層130Dは、表面が反射性を有していればよく、導電性の層である必要はない。ただし、可動反射素子100を量産する場合は、上部電極層140D,141D,142D及び反射層130Dを、同一の材料からなるD層100Dとして形成する。この場合、D層100Dの材料としては、電極層の機能と反射層の機能とを兼ね備えた材料が用いられる。
【0036】
より具体的に言えば、D層100Dは、上面が反射面(鏡面)としての機能も果たす必要があるため、D層100Dの上面部分を、反射率の高い耐腐食性に優れた材料、例えば金(Au)の薄膜層によって構成するのが望ましい。金(Au)の薄膜層は、光や電磁波に対して良好な反射率を有しており、しかも耐腐食性に優れているため、長期間にわたって安定した反射性能を維持することができる。なお、B層100Bは、下部電極(導電層)としての機能を果たせばよいので、任意の金属層で十分である。
【0037】
可動反射素子100は、量産化に適した構造を有している。特に、可動反射素子100の製造には、半導体製造プロセスを利用したMEMS素子の製造方法を適用することが可能である。可動反射素子100は、シリコン基板(A層100A:基板層)の上面に、白金層(B層100B:下部電極層)、PZT層(C層100C:圧電材料層)、白金/金層(D層100D:下層部分は白金、上層部分は金からなる2層構造層)を順次堆積させて構成されている。上部電極層及び下部電極層として白金を用いるのは、圧電材料層となるPZT層との間に良好な界面を形成できるためである。一方、反射層としては、上述したように金を用いるのが好ましいので、D層の下層部分は上部電極層に適した白金を用い、上層部分は反射層に適した金を用いることとする。
【0038】
4層の積層構造体を形成したら、D層100Dに対してパターニング処理を行
い、更に、A層100A、B層100B、C層100Cの3層からなる構造体の部分に対して、エッチングなどの方法で上下方向に貫通するスリットを形成する。また、アクチュエータ部140や鏡面部130の下面側の一部分をエッチング等で除去すれば、可動反射素子100が完成する。
【0039】
可動反射素子100の各部の寸法の一例について説明する。A層100Aは、一辺5mm角、厚み0.3mmのシリコン基板である。B層100Bは、厚み300nm程度の白金の薄膜層である。また、C層100Cは、厚み2μm程度のPZT層である。D層100Dは、厚み300nm程度の白金/金の薄膜層である。ここで、アクチュエータ部140については、シリコン基板(A層100A)の下面側をエッチング除去して、厚みを0.10mmとしている。これにより、基台の上面との間に、0.20mmの空隙が形成される。また、固定枠110とアクチュエータ部140、アクチュエータ部140と鏡面部130との間のスリットの幅を0.3mmとし、アクチュエータ部140の幅を0.5mmとしている。
【0040】
各部の寸法は任意に変更することができる。アクチュエータ部140の厚みや幅、長さは、鏡面部130が所定の角度範囲(可動鏡として要求される性能を満たす範囲)で傾斜できるような可撓性が得られる寸法に変更すればよい。また、固定枠110の厚みは、この可動反射素子100を基台に堅固に固着できる寸法に設定すればよい。
【0041】
アクチュエータ部140は、
図1に示すように、固定枠110と鏡面部130とを連結し、固定枠110の内辺からY軸方向に沿って延びた部分にY軸方向に沿って伸縮する圧電素子が形成された、可撓性のある一対の部材である。アクチュエータ部140のそれぞれが、X軸方向における鏡面部130の両側に配置され、圧電素子の伸縮により変形してX軸方向に沿った回転軸を中心に固定枠110に対して鏡面部130を揺動させる。アクチュエータ部140は、3つの部分から構成されており、それぞれの部分を、第1のアーム始端部としてのアーム始端部141と、第1のアーム終端部としてのアーム終端部142と、第1のアーム中継部としてのアーム中継部143としている。すなわち、アクチュエータ部140は、アーム始端部141、アーム終端部142及びアーム中継部143を備える。
【0042】
アーム始端部141の一端は、固定枠110の内辺に接続している。アーム始端部141は、固定枠110と鏡面部130との隙間をY軸方向に沿って、その一端から鏡面部130の外辺の中点Nを超えて直線状に延びている。アーム終端部142に上部電極層140Dによる圧電素子が形成されている。
【0043】
アーム終端部142は、一端が鏡面部130の外辺の中点Nと接続され、アーム始端部141と平行に延びている。
【0044】
アーム中継部143は、X軸方向に沿って延びる第1のアーム連結部としてのアーム連結部143Bと、アーム始端部141と平行に延びる第1のアーム伸長部としてのアーム伸長部143Aとが交互に連結されてつづら折りに形成され、アーム始端部141の他端とアーム終端部142の他端との間を連結する。
【0045】
アーム始端部141には、圧電素子が形成されている。この圧電素子は、B層(下部電極層)100B、C層(圧電材料層)100C及びD層(上部電極層)140Dで形成されている。アーム中継部143にも、2本のアーム伸長部143Aにおいてそれぞれ圧電素子が形成されている。この圧電素子は、B層(下部電極層)100B、C層(圧電材料層)100C及びD層(上部電極層)141D,142Dからなり、それぞれ独立して形成されている。
【0046】
アクチュエータ部140は、鏡面部130の重心Gを中心として2回回転対称に配置されている。
【0047】
次に、アクチュエータ部140の動作について説明する。例えばアーム始端部141には、A層(基板層)100A、B層(下部電極層)100B、C層(圧電材料層)100C、D層(上部電極層)140Dが形成されている。A層(基板層)100Aを「アクチュエータ本体部100A」と呼ぶ。また、B層(下部電極層)100B、C層(圧電材料層)100C、D層(上部電極層)140Dの3層構造部分を「圧電素子(100B、100C、140D)」と呼ぶ。このようにすれば、アーム始端部141は、可撓性を有するアクチュエータ本体部100Aと、このアクチュエータ本体部100Aの上面に固着された圧電素子(100B、100C、140D)とによって構成されているとみなすことができる。
【0048】
図4A、
図4B、
図4Cは、アーム始端部141の動作を示す断面図である。
図4Aに示すように、A層100Aは、シリコン基板等からなるアクチュエータ本体部であり、B層100B、C層100C、D層140Dからなる3層構造体が圧電素子である。C層(圧電材料層)100Cは、厚み方向に所定極性の電圧を印加すると、長手方向(厚み方向に直交する方向)に伸縮する性質を有する。
【0049】
D層(上部電極層)140D側が正、B層(下部電極層)100B側が負となるように、両電極層間に電圧を印加すると、C層(圧電材料層)100Cは長手方向(厚み方向に直交する方向)に伸びる。逆に、D層(上部電極層)140D側が負、B層(下部電極層)100B側が正となるように、両電極層間に電圧を印加すると、C層(圧電材料層)100Cは長手方向に縮む性質をもっている。伸縮の度合いは、印加する電圧値に応じた量になる。
【0050】
したがって、
図4Bに示すように、D層(上部電極層)140Dが正で、B層(下部電極層)100Bが負となる極性(以下、正極性と呼ぶ)の電圧を印加すると、B層100B、C層100C、D層140Dの3層からなる圧電素子は長手方向に伸び、可撓性を有するA層100Aの上面側に、面方向(Y軸に沿った方向)に伸びる方向への応力が加わる。その結果、アーム始端部141は、上方が凸になるように反り返る。
【0051】
これに対して、
図4Cに示すように、D層(上部電極層)140Dが負で、B層(下部電極層)100Bが正となる極性(以下、逆極性と呼ぶ)の電圧を印加すると、B層100B、C層100C、D層140Dの3層からなる圧電素子は長手方向に縮み、可撓性を有するA層100Aの上面側に、面方向に縮む方向への応力が加わる。その結果、アーム始端部141は、下方が凸になるように反り返る。
【0052】
もちろん、D層(上部電極層)1
40D側が正、B層(下部電極層)100B側が負となるように、両電極層間に電圧を印加すると、C層(圧電材料層)100Cが長手方向に縮む一方で、D層(上部電極層)140D側が負、B層(下部電極層)100B側が正となるように、両電極層間に電圧を印加すると、長手方向に伸びる性質を有するようなC層100Cを用いても構わない。この場合、正極性の電圧を印加すると、下方が凸になるように反り返り、負極性の電圧を印加すると、上方が凸になるように反り返る。
【0053】
いずれにしても、D層(上部電極層)140DとB層(下部電極層)100Bとの間に、所定極性の電圧を印加することにより、
図4B又は
図4Cに示す変形を生じさせることができる。なお、圧電素子を構成する材料によって(例えば、バルク、薄膜によって)、分極作用が異なるので、電圧の極性と伸縮の関係とが上述とは逆になる場合がある。
【0054】
さらに、アーム伸長部143Aは、A層(基板層)100A、B層(下部電極層)100B、C層(圧電材料層)100C、D層(上部電極層)141D,142Dによって形成される圧電素子により、
図4A〜
図4Cに示すアーム始端部141と同じように動作する。
【0055】
図1に戻り、図示しないD層100Dのうち、第1の検出電極としての検出用電極160Dは、アクチュエータ部140の変位を検出するために設けられている。検出用電極160Dは、配線のため、アクチュエータ部140の幅よりも幅が狭くなるように形成されている。
【0056】
検出用電極160Dは、アクチュエータ部140と固定枠110とが接続する部分に設けられている。これらの部分は、アクチュエータ部140の変形が大きくなる場所である。したがって、これらの場所に検出用電極160Dを配設することにより、アクチュエータ部140の変位を安定して検出することができる。
【0057】
鏡面部130は、固定枠110に対して、アクチュエータ部140を介して接続されており、アクチュエータ部140によって、基台から浮いた宙吊り状態で支持されている。したがって、アクチュエータ部140が上方もしくは下方に反り返ると、宙吊り状態で支持されている鏡面部130は、X軸周り、すなわちY軸方向に傾斜する。
【0058】
アーム始端部141,アーム伸長部143Aの各圧電素子に電圧が加えられていない場合には、鏡面部130は、
図5Aに示すように、アクチュエータ部140を介して基台(固定点)の上方に水平姿勢のまま支持されている。白い三角形は、鏡面部130の重心Gを示す。重心Gは、座標系の原点Oと一致している。
【0059】
アーム始端部141が上方に凸になるように反り返り、アーム始端部141に隣接するアーム伸長部143Aが下方に凸となり、下方に凸となったアーム伸長部143Aに隣接するアーム伸長部143Aが上方に凸となるように反り返ると、アクチュエータ部140全体が、+Y端が下がるように傾斜するようになる。これにより、
図5Bに示すように、鏡面部130を、その+Y端が最も下がるように傾斜させることができる。
【0060】
アーム始端部141が下方に凸になるように反り返り、アーム始端部141に隣接するアーム伸長部143Aが上方に凸となり、上方に凸となったアーム伸長部143Aに隣接するアーム伸長部143Aが下方に凸となるように反り返ると、アクチュエータ部140全体が、−Y端が下がるように傾斜するようになる。これにより、
図5Cに示すように、鏡面部130を、その−Y端が最も下がるように傾斜させることができる。
【0061】
+X側のアクチュエータ部140の圧電素子及び−X側のアクチュエータ部140の圧電素子には、それぞれ逆極性の電圧が加えられる。これにより、固定枠110に対して、鏡面部130をX軸周りに揺動させることができる。
【0062】
傾斜の度合いは、印加する電圧値に応じた量になる。したがって、印加する電圧の極性および値を調整すれば、鏡面部130のX軸方向への傾斜角度を任意に調整することが可能になる。
【0063】
この実施の形態に係る可動反射素子100は、反射面を有する鏡面部130が、アクチュエータ部140を介して固定枠110に接続される。このようにすると、従来のジンバル構造による支持手法に比べて、単純な構造でありながら、十分な変位角を確保することが可能になる。ジンバル構造を機械的な回動機構によって実現すると、部品の点数が増え、構造が複雑にならざるを得ない。また、ジンバル構造を、トーションバーを用いて実現すると、構造は単純化されるが、最大変位角はトーションバーの最大捻れ角度の範囲内に抑えられてしまい、十分な変位角を確保することが困難になる。本実施の形態では、アクチュエータ部140によって鏡面部130を支持するため、単純な構造でありながら、十分な変位角を確保することができる。
【0064】
このように、可動反射素子100は、Y軸に沿って延びたアーム始端部141,アーム伸長部143Aを有しており、その上面もしくは下面には、それぞれ所定極性の電圧を印加することにより長手方向に沿って伸縮する圧電素子が固着されている。そのため、アーム始端部141、アーム伸長部143Aの圧電素子に電圧を印加して、圧電素子を伸縮させれば、鏡面部130をより大きくY軸方向に傾斜させる(X軸周りに回転させる)ことができる。このため、X軸回りに関して、十分な変位角を確保することが可能になる。
【0065】
なお、この実施の形態では、固定枠110に、アクチュエータ部140及び鏡面部130を配置した構造を採用している。しかしながら、固定枠110を枠体によって構成する必要はなく、例えば、アクチュエータ部140の一端を固定できれば枠状でなくてもよい。ただし、アクチュエータ部140及び鏡面部130は、変位を生じる可動構成要素であるため、外部物体と接触することは避けた方がよい。この点、固定枠110のように枠状であれば、可動構成要素を内部に囲い込むことができるので、可動構成要素を外部物体との接触から保護できる。
【0066】
また、固定枠110、鏡面部130については、矩形状に限られるものではなく、例えば楕円状、多角形状であってもよい。
【0067】
以上詳細に説明したように、本実施の形態1の可動反射素子100によれば、アクチュエータ部140のY軸方向に沿った部分の長さは、固定枠110の内辺からY軸方向に沿った鏡面部130の外辺の中点Nまでの距離よりも長くなっており、さらにつづら折りに形成されている。これにより、アクチュエータ部140の配置面積の増大化を抑制しつつ、固定枠110から鏡面部130までのアクチュエータ部140の長さを長くして、鏡面部130の駆動周波数を所望の値にできる。よって、本実施の形態1の可動反射素子100によれば、駆動周波数の最適化と小型化とを実現することができる。
【0068】
すなわち、アクチュエータ部140は、鏡面部130の外辺の中点Nに接続されているので、XY方向以外のモーメントが鏡面部130に殆ど働かず、鏡面部130の振動がいずれかの方向に偏らず捩じれないようにすることができる。また、アクチュエータ部1
40については、簡素な構成として、鏡面部130を小型化することができる。
【0069】
また、鏡面部130のねじれ角度の観点から見れば、この可動反射素子100によれば、鏡面部130を揺動させる一対のアクチュエータ部140を、アーム連結部143Bとアーム伸長部143Aとが交互に連結されてつづら折りに折れ曲がった形状とし、鏡面部130の外辺の中点Nに連結するようにした。こうすることにより、鏡面部130のねじれ角度を大きくしつつ、鏡面部130の回転軸を鏡面部130の外辺の中点Nを結ぶ方向に一致させることができるので、鏡面部130を正確に揺動させることができる。
【0070】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
【0071】
図6及び
図7に示すように、本実施の形態2に係る可動反射素子100は、基台に固定される固定枠110と、固定枠110の枠内に配置された可動枠120と、可動枠120の枠内に配置された鏡面部130と、を備える。さらに、可動反射素子100は、固定枠110と可動枠120とを連結する一対の部材であるアクチュエータ部140と、可動枠120と鏡面部130とを連結する一対の部材であるアクチュエータ部150とを備える。本実施の形態に係る可動反射素子100では、A層100A、B層100B、C層100Cが積層されている。
【0072】
アクチュエータ部140は、固定枠110と可動枠120との間であって、X軸方向における可動枠120の両側に設けられている。アクチュエータ部150は、可動枠120と鏡面部130との間であって、Y軸方向における鏡面部130の両側に設けられている。アクチュエータ部140の構成及び動作は、上記実施の形態1と同じである。本実施の形態では、可動枠120、アクチュエータ部150、鏡面部130が揺動部に相当する。
【0073】
図8に示すように、本実施の形態2に係る可動反射素子100においても、固定枠110、可動枠120、鏡面部130、アクチュエータ部140,150は、それぞれA層100A、B層100B、C層100Cの3層構造を含んでいる。
図7に示すように、固定枠110、可動枠120の厚みに比べて、鏡面部130、アクチュエータ部140,150の厚みは小さく設定されており、鏡面部130、アクチュエータ部140,150の下方には空隙が形成されている。
【0074】
アクチュエータ部150は、可動枠120と鏡面部130とを連結し、可動枠120の内辺からX軸方向に沿って延びた部分に、X軸方向に沿って伸縮する圧電素子が形成された、可撓性のある一対の部材である。アクチュエータ部150のそれぞれが、Y軸方向における鏡面部130の両側に配置され、圧電素子の伸縮により変形してY軸方向に沿った回転軸を中心に可動枠120に対して鏡面部130を揺動させる。アクチュエータ部150は、第2のアーム始端部としてのアーム始端部151、第2のアーム終端部としてのアーム終端部152、第2のアーム中継部としてのアーム中継部153を備える。
【0075】
アーム始端部151の一端は、可動枠120の内辺に接続している。アーム始端部151は、可動枠120と鏡面部130との隙間をY軸方向に沿って、その一端から鏡面部130の外辺の中点Nを超えて直線状に延びている。
【0076】
アーム終端部152は、一端が可動枠120の外辺の中点Nと接続され、アーム始端部151と平行に延びている。
【0077】
アーム中継部153は、X軸方向に沿って延びる第2のアーム連結部としてのアーム連結部153Bと、アーム始端部151と平行に延び圧電素子が形成された第2のアーム伸長部としてのアーム伸長部153Aとが交互に連結されてつづら折りに形成され、アーム始端部151の他端とアーム終端部152の他端との間を連結する。
【0078】
アーム始端部151には、圧電素子が形成されている。この圧電素子は、B層(下部電極層)100B、C層(圧電材料層)100C及びD層(上部電極層)150Dで形成されている。
【0079】
アーム伸長部153Aには、圧電素子が形成されている。圧電素子は、B層(下部電極層)100B、C層(圧電材料層)100C及びD層(上部電極層)151D,152Dで形成されている。
【0080】
アクチュエータ部150の各圧電素子に、電圧が加えられていない場合には、
図9Aに示すように、鏡面部130は、水平姿勢のまま可動枠120に支持されている。白い三角形は、鏡面部130の重心Gを示す。重心Gは、座標系の原点Oと一致している。
【0081】
アーム始端部151が上方に凸になるように反り返り、アーム始端部151に隣接するアーム伸長部153Aが下方に凸となり、下方に凸となったアーム伸長部153Aに隣接するアーム伸長部153Aが上方に凸となるように反り返ると、アクチュエータ部150全体が、+X端が下がるように傾斜するようになる。これにより、
図9Bに示すように、可動枠120に対して、鏡面部130を、その+X端が最も下がるように傾斜させることができる。
【0082】
アーム始端部151が下方に凸になるように反り返り、アーム始端部151に隣接するアーム伸長部153Aが上方に凸となり、上方に凸となったアーム伸長部153Aに隣接するアーム伸長部153Aが下方に凸となるように反り返ると、アクチュエータ部150全体が、−X端が下がるように傾斜するようになる。これにより、
図9Cに示すように、可動枠120に対して、鏡面部130を、その−X端が最も下がるように傾斜させることができる。
【0083】
一対のアクチュエータ部150において、+Y側の圧電素子と−Y側の圧電素子との間には、それぞれ逆極性の電圧が加えられる。これにより、可動枠120に対して、鏡面部130をY軸周りに揺動させることができる。
【0084】
傾斜の度合いは、印加する電圧値に応じた量になる。したがって、印加する電圧の極性および値を調整すれば、鏡面部130のX軸方向への傾斜角度を任意に調整することが可能になる。
【0085】
また、可動反射素子100は、X軸に沿って延びたアーム始端部151,アーム伸長部153Aを有しており、その上面もしくは下面には、それぞれ所定極性の電圧を印加することにより長手方向に沿って伸縮する圧電素子が固着されている。そのため、アーム始端部151、アーム伸長部153Aの圧電素子に電圧を印加して、圧電素子を伸縮させれば、鏡面部130をより大きくX軸方向に傾斜させる(Y軸周りに回転させる)ことができる。このため、Y軸回りに関して、十分な変位角を確保することが可能になる。
【0086】
第2の検出用電極としての検出用電極170Dは、アクチュエータ部150と可動枠120とが接続する部分に設けられている。これらの部分は、アクチュエータ部150の変形が大きくなる場所である。したがって、これらの場所に検出用電極170Dを配設することにより、アクチュエータ部150の変位を安定して検出することができる。
【0087】
以上説明した本実施の形態の可動反射素子100によれば、アクチュエータ部150のX軸方向に沿った部分の長さは、可動枠120の内辺からX軸方向に沿った鏡面部130の外辺の中点Nまでの距離よりも長くなっている。これにより、鏡面部130の駆動周波数の設定範囲を広げることができるので、可動枠120の駆動周波数と鏡面部130の駆動周波数との比率を所望の値にできる。よって、本実施の形態2の可動反射素子100によれば、駆動周波数の最適化と小型化とを実現することができる。
【0088】
また、本実施の形態2では、アクチュエータ部140が、鏡面部13
0を中心として2回回転対称に配置されている。また、アクチュエータ部150が、鏡面部130を中心として2回回転対称に配置されている。そして、アーム始端部141において固定枠110と接続される一端から他端へ向かう向きと、アーム始端部151において可動枠120と接続される一端から他端へ向かう向きとが、鏡面部130の重心Gを中心とする回転方向に関して同じになっている。
【0089】
そして、アクチュエータ部140もアクチュエータ部150も、揺動対象の外辺の中点Nを中心にして、つづら折りに形成されている。これにより、駆動周波数の比率を最適化できるとともに、可動枠120を小型化することができる。また、鏡面部130を偏りなく保持してバランス良く揺動させることができる。
【0090】
なお、アクチュエータ部150の向きが異なっていてもよい。すなわち、アーム始端部141の、固定枠110と接続された一端から他端へ向かう向きと、アーム始端部151の、可動枠120と接続された一端から他端へ向かう向きとが、鏡面部13
0を中心とする回転方向に関して逆向きとなっていてもよい。
【0091】
例えば、本実施の形態2に係る可動反射素子100でビームの二次元走査を行った場合に、投影される画像に歪みが生じる場合には、代わりにアクチュエータ部150の向きが異なる可動反射素子100を用いることにより、画像の歪みが矯正される場合がある。このような場合には、アクチュエータ部150が逆向きとなる可動反射素子100を採用することが解決手段として考えられる。
【0092】
上述した二次元走査による画像の歪みを矯正する方法には、他に種々な方法がある。例えば、可動枠120に重りを付けることにより、可動枠120及び鏡面部130の揺動状態の軸ずれを補正して、投影される画像の歪みを矯正するようにしてもよい。
【0093】
なお、重りを付けるのは、可動枠120に限定されない。例えば、重りを、鏡面部130に付けてもよい。或いは、重りを、アクチュエータ部140、150の両方、或いは一方につけてもよい。
【0094】
上記実施の形態に係る可動反射素子100は、鏡面部130の表面に形成された反射面を2軸の自由度をもって傾斜させることができる。このため、可動反射素子100を、光ビームや指向性電波を二次元的に走査する二次元走査装置に組み込んで、二次元走査を行うことができる。この二次元走査装置により、光ビームを走査すれば、スクリーンに画像を投影するプロジェクタを実現することができ、指向性電波を走査すれば、車載用のレーダ等を実現することができる。
【0095】
特に、上記実施の形態に係る可動反射素子100は、MEMS素子として、小型化及び低消費電流化に適しているため、携帯電話、スマートフォン、タブレット型電子端末などの小型機器に組み込んで利用するのに最適であり、これら小型機器にプロジェクタの機能を付加する用途に適している。近年、自動車には、レーダが不可欠の技術になってきており、指向性のある電波を広範囲に照射する必要がある。上記実施の形態に係る可動反射素子100を利用すれば、小型で広範囲なレーダ照射が可能な車載用装置を実現することも可能である。
【0096】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、鏡面部130(及び可動枠120)を揺動させる一対のアクチュエータ部140,150を、つづら折りに折れ曲がった形状と鏡面部130(及び可動枠120)の外辺の中点Nに連結するようにした。こうすることにより、鏡面部130(及び可動枠120)のねじれ角度を大きくしつつ、鏡面部130(及び可動枠120)の回転軸をその中点Nを通る方向に鏡面部130(及び可動枠120)を正確に揺動させることができる。すなわち、鏡面部130(及び可動枠120)を最適な状態で揺動させることができる。
【0097】
上記実施の形態では、アクチュエータ部140,150のつづら折りの数(折り返し数)を3回としたが、折り返し数を4回以上としてもよい。
【0098】
上記実施の形態では、アーム始端部141,151及びアーム伸長部143A,153Aに形成された圧電素子が伸縮する構成であったが、これに限られるものではない。アーム始端部141,151及びアーム伸長部143A,153Aに形成された圧電素子の伸縮に加えて、アーム終端部142,152及びアーム連結部143B,153Bに形成された圧電素子が伸縮する構成であってもよい。この構成の場合、アーム終端部142,152及びアーム連結部143B,153Bは、B層(下部電極層)100B、C層(圧電材料層)100C及びD層(上部電極層)100Dで形成される。
【0099】
また、アーム始端部141,151及びアーム伸長部143A,153Aに形成された圧電素子は伸縮せず、アーム終端部142,152及びアーム連結部143B,153Bに形成された圧電素子が伸縮する構成であってもよい。この構成の場合、アーム始端部141,151及びアーム伸長部143A,153Aは、例えば、B層(下部電極層)100B、C層(圧電材料層)100Cで形成される。また、アーム終端部142,152及びアーム連結部143B,153Bは、B層(下部電極層)100B、C層(圧電材料層)100C及びD層(上部電極層)100Dで形成される。
【0100】
このように、アクチュエータ部140,150において、どの部分を圧電素子で伸縮させるかについては、可動枠120及び鏡面部130に要求される揺動状態に応じて、適宜設計可能である。
【0101】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0102】
なお、本願については、2016年11月9日に出願された日本国特許出願2016−218812号を基礎とする優先権を主張し、本明細書中に日本国特許出願2016−218812号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。