特許第6680668号(P6680668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6680668
(24)【登録日】2020年3月24日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】蓄熱体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20200406BHJP
   F28D 17/02 20060101ALI20200406BHJP
   F28F 21/04 20060101ALI20200406BHJP
   B28B 3/00 20060101ALI20200406BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20200406BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   F28D20/00 A
   F28D17/02
   F28F21/04
   B28B3/00 Z
   C04B41/85 A
   C04B38/00 303Z
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-245176(P2016-245176)
(22)【出願日】2016年12月19日
(65)【公開番号】特開2018-100781(P2018-100781A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2018年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098224
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 勘次
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】足立 修一
(72)【発明者】
【氏名】高木 修
【審査官】 久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−202632(JP,A)
【文献】 特開平10−259070(JP,A)
【文献】 特表2008−544201(JP,A)
【文献】 特開平03−271181(JP,A)
【文献】 特開昭62−246888(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0037659(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00
B28B 3/00
C04B 38/00
C04B 41/85
F28D 17/02
F28F 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状のセラミックス製の蓄熱体の製造方法であって、
焼成により多孔質セラミックス焼結体となる成形原料で、可塑性を有する円柱状の成形体を押出成形によって成形し、
円柱状の該成形体のみを、上下に配置した二枚の平盤の間に介在させ、少なくとも一方の前記平盤を面方向で円または螺旋を描くように運動させつつ、二枚の前記平盤の間隔を狭めて行くことにより、前記成形体に一定ではない複数の方向から外力を作用させて押圧することにより、前記成形体の複数を合体させることなく、個々の前記成形体をそれぞれ塑性変形させて球状化し、
球状化された前記成形体を焼成することにより蓄熱体基体とした後、
加熱によりガラスとなるガラス質充填剤、及び、酸化物セラミックスを含有するセラミックス質充填剤の少なくとも一方を含有する充填材料で、前記蓄熱体基体の表面を被覆し、且つ、前記蓄熱体基体の内部に向かって前記充填材料を浸入させることにより、
前記蓄熱体基体の中心部において気孔が前記充填材料で充填されていない多孔質層、前記蓄熱体基体の表面を前記充填材料が被覆している被覆層、及び、前記多孔質層から前記被覆層に向かって前記充填材料で充填されていない気孔の割合が連続的に減少している傾斜層を有する蓄熱体とする
ことを特徴とする蓄熱体の製造方法。
【請求項2】
前記蓄熱体基体は、少なくとも三つの異なる方向から見たときの二次元形状の円形度がそれぞれ0.86〜0.90であ
とを特徴とする請求項1に記載の蓄熱体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス製の蓄熱体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄熱式バーナ(リジェネバーナ)を使用した装置など熱交換式の装置において、熱交換部に充填されるセラミックス製の蓄熱体として、従前より球状のアルミナ(アルミナボール)が多用されている(例えば、特許文献1参照)。球状の蓄熱体は、投入することによって、容易に多数を熱交換部に充填することができる。特に、小型の装置の熱交換部は、作業者が入ることができないサイズであることが多く、蓄熱体を出し入れするための開口から熱交換部の奥まで、作業者の手が届きにくいことも多い。そのような場合、蓄熱体を並べたり積み重ねたりする作業を要することなく、投入することによって自ずと転がって熱交換部に充填される球状である利点は大きい。
【0003】
球状のセラミックス焼結体は、従来、半球状の金型を二つ使用して一軸加圧により予備成形をしてから、等方圧加圧成形をすることによって、球に近い形状の成形体を作製し、焼成した後、研磨によって球形に加工する方法で製造されている。この製造方法では、予備成形の際に二つの型の間に隙間を設ける必要があることから、焼成体の円周方向に帯状の突起が不可避に残存し、これを研磨によって除去しなくてはならない。セラミックスの焼結体は非常に硬度が高いため、この帯状の突起を除く作業が困難である。また、予備成形の後に等方圧加圧成形を行うのは、成形型が球に近い形状の場合は一軸加圧では成形体に作用する圧力が不均一となるためであるが、等方圧加圧成形を行うためには、成形体をゴム等の柔軟な袋に入れて脱気する必要がある等、作業が煩雑で効率が悪い。そのため、この製造方法は大量生産に適していない。
【0004】
また、球状のセラミックス焼結体の製造方法として、転動造粒法で球状に成形した後、焼成するという方法も実施されている。転動造粒法は、回転ドラム型造粒機や回転皿型造粒機を使用し、セラミックス粉末をバインダと共に回転させ、粉末粒子同士を衝突させて凝集させ、雪だるま式に粒子を成長させる方法である。粒子の成長の核となる微粒子を、添加する場合もある。この製造方法では、大径の球とすることが困難であり、直径が10mm以上の球を製造することは実際的ではないと言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−343829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、球状のセラミックス製の蓄熱体の製造方法であって、大量生産に適していると共に、大径であっても容易に製造することができる蓄熱体の製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる蓄熱体の製造方法(以下、単に「製造方法」と称することがある)は、
「球状のセラミックス製の蓄熱体の製造方法であって、
焼成により多孔質セラミックス焼結体となる成形原料で、可塑性を有する円柱状の成形体を成形し、
円柱状の該成形体に一定ではない複数の方向から外力を作用させることにより、前記成形体の複数を合体させることなく、個々の前記成形体をそれぞれ塑性変形させて球状化し、
球状化された前記成形体を焼成することにより蓄熱体基体とした後、
加熱によりガラスとなるガラス質充填剤、及び、酸化物セラミックスを含有するセラミックス質充填剤の少なくとも一方を含有する充填材料で、前記蓄熱体基体の表面を被覆し、且つ、前記蓄熱体基体の内部に向かって前記充填材料を浸入させることにより、
前記蓄熱体基体の中心部において気孔が前記充填材料で充填されていない多孔質層、前記蓄熱体基体の表面を前記充填材料が被覆している被覆層、及び、前記多孔質層から前記被覆層に向かって前記充填材料で充填されていない気孔の割合が連続的に減少している傾斜層を有する蓄熱体とする」ものである。
【0008】
本発明では、可塑性を有する円柱状の成形体に、一定ではない複数の方向から外力を与えて塑性変形させることによって球状化する。そのため、球状化の工程が簡易であり、大量生産に適している。また、球状の蓄熱体を大径としたい場合は、円柱状の成形体の直径及び高さを大きくすればよいため、大径であっても容易に製造することができると共に、大きさの調整が容易である。
【0009】
更に、仮に蓄熱体基体が緻密質であると、使用の際の蓄熱及び放熱に伴う熱膨張及び熱収縮によって、亀裂や割れが生じやすい。これに対し本構成では、蓄熱体基体を構成するセラミックス焼結体を多孔質としているため、熱膨張及び熱収縮が気孔で吸収され、蓄熱及び放熱に伴う亀裂や割れの発生を抑制することができる。
【0010】
一方、蓄熱体基体が多孔質であるため、緻密質である場合に比べて機械的強度が低下するおそれがある。特に、本発明では、投入によって蓄熱体を配置スペースに充填することを想定しているため、機械的強度が低いことは問題である。加えて、機械的強度が低い場合は、気孔で熱膨張及び熱収縮を吸収したとしても、僅かな熱膨張及び熱収縮でも亀裂や割れを生じることにより、耐熱衝撃性が低下するおそれがある。そこで、本構成では、蓄熱体基体の中心部では気孔を残し、その外側では気孔を部分的に充填材料で充填し、且つ、蓄熱体基体の表面を充填材料で被覆する。これにより、中心部で残存する気孔に熱膨張及び熱収縮を吸収する作用を発揮させながら、気孔を部分的に充填している充填材料、及び、蓄熱体基体の表面を被覆している充填材料で、蓄熱体の機械的強度が高められる。これにより、設置スペースに投入しても亀裂や割れの生じにくく、耐熱衝撃性に優れる蓄熱体を製造することができる。
【0011】
加えて、気孔が充填材料で充填されていない多孔質層と、充填材料で被覆されている被覆層との間の層は、多孔質層から被覆層に向かって充填材料で充填されていない気孔の割合が連続的に減少している傾斜層である。そのため、熱膨張及び熱収縮を気孔で吸収する作用の大きさが、蓄熱体の深さ方向で急激に変化することがなく徐々に変化するため、熱膨張及び熱収縮に起因する亀裂や割れがより効果的に抑制される。
【0012】
また、蓄熱体において最外層である被覆層は、加熱によりガラスとなるガラス質充填剤、及び、酸化物セラミックスを含有するセラミックス質充填剤の少なくとも一方を含有する充填材料の層である。そのため、蓄熱体基体を構成するセラミックスを非酸化物セラミックスとしても、高温の酸化性雰囲気下での使用の際に、酸素との接触が被覆層によって遮断され、酸化の進行を抑制することができる。これにより、共有結合性が高く、酸化物セラミックスに比べて硬度が高く熱的特性に優れている非酸化物セラミックスで、蓄熱体基体を構成させることができる。
【0013】
なお、充填材料が加熱によりガラスとなるガラス質充填剤を含む場合は、蓄熱体の使用時の加熱によってガラスが軟化する。そのため、使用の際に仮に亀裂が発生しても、軟化したガラスが塑性変形してそれを埋めるため、亀裂が伸展して破壊に至ることが抑制されるという利点を有している。
【0014】
次に、本発明にかかる製造方法により製造される蓄熱体は、
「多孔質セラミックス焼結体からなり、少なくとも三つの異なる方向から見たときの二次元形状の円形度がそれぞれ0.86〜0.90である蓄熱体基体と、
ガラス及び酸化物セラミックスの少なくとも一方を含有する充填材料が、前記蓄熱体基体の表面を被覆している被覆層と、を具備しており、
前記蓄熱体基体は、気孔が前記充填材料で充填されていない多孔質層を中心部に有していると共に、前記多孔質層から前記被覆層に向かって前記充填材料で充填されていない気孔の割合が連続的に減少している傾斜層を有している」ものである。
【0015】
これは、上記の製造方法における全工程の後で熱処理を行い、充填材料がガラス質充填剤を含む場合は加熱によってガラス化させ、充填材料がセラミックス質充填剤を含む場合は加熱によって酸化物セラミックスを焼成または硬化させる工程を経て、製造される蓄熱体の構成である。上記の製造方法における球状化の手段は、可塑性を有する円柱状の成形体を、一定ではない方向の外力によって塑性変形させるというものであるが、検討の結果、このような手段によって、実用的な処理時間で真球に近づけることができる度合いは、「少なくとも三つの異なる方向から見たときの二次元形状の円形度がそれぞれ0.86〜0.90」というものであった。より真球に近づけるために、球状化の処理時間を長くしようとしても、時間の経過に伴い成形体の可塑性が低下する。
【0016】
ここで、円形度は、二次元形状の面積をS(m)、周囲の長さをL(m)としたときに、(4×円周率×S)をLで除算した数値であり、真円の円形度は1.0である。円形度は、大きさの相違(円の直径の相違)の影響を受けない利点を有しているが、二次元での形状の評価であるため、少なくとも三つの異なる方向で円形度を求めることにより、立体形状である球状の度合いを評価している。なお、「少なくとも三つの異なる方向」は、互いに直交する三方向とすることができる。
【0017】
本発明において蓄熱体を球状としている理由は、投下によって自ずと転がらせて設置スペースに充填するためであり、ベアリングに使用するセラミックス球ほど真球に近づける必要はない。そのため、上記の製造方法によって実現できる上記範囲の円形度は、目的にかなっている。
【0018】
本発明にかかる製造方法により製造される蓄熱体は、上記構成に加え、
「前記蓄熱体基体は、内部から表面に向かって略放射状に延びている亀裂を有しており、
前記亀裂の開端は、前記被覆層で被覆されていると共に、
前記亀裂の内部は、前記充填材料によって部分的に充填されている」ものとすることができる。
【0019】
上記の製造方法では、一定ではない複数の方向から成形体に外力を作用させて球状化するため、高い確率で成形体に亀裂が発生する。その亀裂は、蓄熱体基体において内部から表面に向かって略放射状に延びるように発生する。通常、このような亀裂を有する蓄熱体は、内部欠陥を有する蓄熱体として不良品とされる。これに対し、本発明では亀裂も熱膨張及び熱収縮を吸収する空隙として利用する。上記の製造方法では、蓄熱体基体の内部に向かって充填材料を浸入させているため、亀裂の内部にも充填材料が浸入して部分的に充填されると共に、充填材料で被覆層を形成する際に亀裂の開端(蓄熱体基体の表面における亀裂の開口)も被覆層で被覆される。従って、充填されていない部分の亀裂が熱膨張及び熱収縮を吸収する作用を発揮しながら、亀裂の存在による機械的強度の低下や、亀裂の伸展が、充填材料によって抑制されている。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の効果として、球状のセラミックス製の蓄熱体の製造方法であって、大量生産に適していると共に、大径であっても容易に製造することができる蓄熱体の製造方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)〜(c)本発明の一実施形態である製造方法における球状化の工程の説明図である。
図2】(a),(b)本発明の一実施形態である製造方法により製造される蓄熱体の断面図である。
図3】試料S5について、深さ方向の気孔率の変化を示すグラフを、切断面の走査型顕微鏡による撮像と並べて示す図である。
図4】試料S6について、深さ方向の気孔率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態である蓄熱体の製造方法、及び、その製造方法により製造される蓄熱体について、図1乃至図4を用いて説明する。
【0023】
本実施形態の製造方法は、球状のセラミックス製の蓄熱体の製造方法であって、成形工程と、球状化工程と、焼成工程と、被覆・充填工程と、熱処理工程とを具備している。
【0024】
具体的に説明すると、成形工程では、焼成により多孔質セラミックス焼結体となる成形原料で、可塑性を有する円柱状の成形体を成形する。
【0025】
焼成により得られるセラミックス焼結体を「多孔質」とする方法としては、成形原料におけるセラミックス粒子の粒径分布を制御する方法、焼成により焼失する成分を成形原料に含有させ、その焼失痕を気孔とする方法、セラミックスを反応生成する成形原料とし、成分が消費された痕を気孔とする方法、加熱によりガスを発生させる成分を成形原料に含有させ、ガスの抜けた痕を気孔とする方法、を例示することができる。
【0026】
セラミックス焼結体の「セラミックス」としては、非酸化物セラミックスが望ましく、非酸化物セラミックスとしては、炭化物セラミックス、窒化物セラミックスを例示することができる。例えば、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化マグネシウムは、熱伝導率が高く熱交換の効率が良いため、蓄熱体として適している。炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素は、熱膨張率が小さく耐熱衝撃性に優れているため、蓄熱と放熱を繰り返す蓄熱体として適している。炭化ケイ素、窒化ケイ素は、高温における機械的強度が高いため、高温下で使用される蓄熱体として適している。炭化ホウ素、窒化ホウ素は硬度が非常に高く、その他の非酸化物セラミックスも酸化物セラミックスに比べると一般的に硬度が高いため、投入によって設置スペースに充填される蓄熱体として適している。
【0027】
「可塑性を有する」成形体とするために、成形原料は、セラミックス粒子にバインダ、界面活性剤、水や有機溶媒等の液体成分を添加し、混合した原料とすることができる。
【0028】
「円柱状の成形体」とする成形方法は、押出成形である。押出成形同一形状の成形体を連続的に成形できるため、効率がよい。なお、図1(a)の左図に示すように、円柱状の成形体10aの高さを円柱の外径Rと同一とすれば、後の工程での球状化がより容易となる。
【0029】
球状化工程では、円柱状の成形体に一定ではない複数の方向から外力を作用させることにより、成形体をそれぞれ塑性変形させて球状化する。一定ではない複数の方向から成形体に外力を作用させる方法は図1(a)における中央の上図に模式的に示すように、上下に配置した二枚の平盤91の間に成形体10aを介在させ、少なくとも一方の平盤91を面方向で円または螺旋を描くように運動させつつ、二枚の平盤91の間隔を狭めて行き、成形体10aを運動させつつ押圧することにより、円柱状の成形体10aを球状の成形体10bとする方法である。なお図1(a)における中央の中図に模式的に示すように、周囲から壁体93が立ち上がっている平盤92上で成形体10aを振動させ、成形体10aを壁体93や平盤92に衝突させて球状の成形体10bとする方法や、図1(a)における中央の下図に模式的に示すように、壁体で囲まれた容器95内で成形体10aを振動させ、成形体10aを壁体に衝突させて球状の成形体10bとする方法参考例である。
【0030】
転動造粒法とは異なり、球状化工程の途中で、成形体にセラミックス粒子(粉末)を供給することはなく、成形体の複数を合体させることもない。本実施形態の球状化工程は、個々の成形体をそれぞれ塑性変形させて球状化するものであり、円柱状の成形体の一個から、球状化された成形体の一個が形成される。
【0031】
焼成工程では、球状化された成形体を焼成し、セラミックス粒子を焼結させて多孔質セラミックス焼結体からなる蓄熱体基体とする。非酸化物セラミックスを焼成する場合、焼成雰囲気は非酸化性雰囲気とする。非酸化性雰囲気は、アルゴンやヘリウム等の不活性ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気、これらの混合ガス雰囲気、真空雰囲気とすることができる。また、セラミックスが窒化物の場合に、焼成雰囲気中の窒素を、焼結体を構成する窒素の少なくとも一部とすることができる。
【0032】
被覆・充填工程では、充填材料で蓄熱体基体の表面を被覆し、且つ、蓄熱体基体の内部に向かって充填材料を浸入させる。この工程は、充填材料を蓄熱体基体に塗布する工程、或いは、スプレーする工程とすることができる。この場合、充填材料の粘性や濡れ性を調整することにより、蓄熱体基体の表面を充填材料で被覆するだけではなく、蓄熱体基体の内部まで充填材料を浸入させることができ、その浸入深さを調整することができる。また、被覆・充填工程は、蓄熱体基体の開気孔を脱気し、充填材料を含浸させる工程とすることができる。これにより、蓄熱体基体の内部に充填材料をよりスムーズに浸入させることができ、脱気の程度、含浸液の粘性、含浸液の加圧等によって、含浸させる深さを調整することができる。
【0033】
充填材料としては、加熱によりガラスとなるガラス質充填剤を含有する充填材料、酸化物セラミックスを含有するセラミックス質充填剤を含有する充填材料、ガラス質充填剤及びセラミックス質充填剤の双方を含有する充填材料を、使用することができる。
【0034】
ガラス質充填剤を加熱することにより生成する「ガラス」は、ケイ酸系ガラス、ホウケイ酸系ガラス、ホウ酸系ガラス、リン酸系ガラスとすることができる。ガラス質充填剤には、ナトリウム、カリウム、カルシウム等のアルカリ金属成分・アルカリ土類金属成分を含有させることにより、熱処理工程で加熱した際のガラスの粘性を調整し、蓄熱体基体に対する接着性や気孔への浸入し易さを調整することができる。ガラス質充填剤には、酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムを含有させることにより、形成されるガラスの強度を調整することができる。更に、ガラス質充填剤には、炭化ケイ素の粉末を含有させることができる。充填材料に含まれる炭化ケイ素は、加熱の際に酸化して二酸化ケイ素になり易く、生成したばかりの二酸化ケイ素は反応性が高くガラス化し易い。
【0035】
セラミックス質充填剤に含有させる酸化物セラミックスとしては、ムライト、アルミナ、シリカ、ジルコニア、マグネシアを例示することができる。酸化物セラミックスは、粉末状、ゾル状、ゲル状とすることができ、これにバインダ等の添加剤、水や有機溶媒等の液体を添加してセラミックス質充填剤とすることができる。
【0036】
被覆・充填工程を経ることにより、蓄熱体基体の中心部に気孔が充填されていない多孔質層があり、蓄熱体基体の表面に充填材料(熱処理前)の被覆層があり、多孔質層から被覆層に向かって充填材料(熱処理前)で充填されていない気孔の割合が連続的に減少している傾斜層を有する状態となる。
【0037】
熱処理工程では、充填材料がガラス質充填剤を含有する場合は、加熱によりガラス成分を溶融させた後冷却してガラス化させ、蓄熱体基体に固着させる。また、加熱により溶融したガラス成分が、更に蓄熱体基体の内部の気孔に浸入する。充填材料がセラミックス質充填剤のみを含有する場合、熱処理の温度は、酸化物セラミックスを焼結させる温度としても、酸化物セラミックスは焼結させないが充填材料を硬化させる温度としても良い。
【0038】
以上の工程により、図2(a)に模式的に示すように、多孔質セラミックス焼結体からなる球状の蓄熱体基体20と、ガラス及び酸化物セラミックスの少なくとも一方を含有する充填材料(熱処理後)が、蓄熱体基体20の表面を被覆している被覆層30とを具備しており、蓄熱体基体20が、気孔が充填材料で充填されていない多孔質層21を中心部に有していると共に、多孔質層21から被覆層30に向かって充填材料で充填されていない気孔の割合が連続的に減少している傾斜層22を有している構成の蓄熱体1が製造される。この蓄熱体1における蓄熱体基体20の球状の程度は、後述するように、少なくとも三つの異なる方向から見たときの二次元形状の円形度がそれぞれ0.86〜0.90であるというものである。
【0039】
ここで、円柱状の成形体を押出成形で成形する場合、図1(b)に示すように、成形体10aの略中心を通り押出方向に延びる亀裂15が形成されることがある。これは、押出成形では、成形原料の混錬物が押し出される口金が先細りとなるテーパ部を有しているため、押し出される成形体において口金に近い外周縁部では圧縮力が作用して高圧となるのに対し、中心部は低圧となって圧密が不十分となり易いためである。通常、このような亀裂15は内部欠陥として望ましくないものとされ、亀裂15が発生しない条件を探索して成形する、或いは、亀裂15が発生した成形体を不良品として排除するが、本実施形態ではこのような亀裂15も、蓄熱体の熱膨張及び熱収縮を吸収させる空隙とする。
【0040】
また、円柱状の成形体に一定ではない複数の方向から外力を作用させることにより、塑性変形させて球状の成形体とする際、図1(c)に示すように、内部から表面に向かって放射状に延びる亀裂16が高い確率で発生する。このような亀裂16も、通常は内部欠陥として望ましくないものとされるが、本実施形態ではこのような亀裂16も、蓄熱体の熱膨張及び熱収縮を吸収させる空隙とする。なお、図1(c)では、押出成形時に発生した単一の方向に延びる亀裂15と、球状化工程で発生した略放射状の亀裂16の双方を、球状の成形体10bが有している場合を図示している。
【0041】
このような亀裂15,16には、被覆・充填工程において充填材料が浸入するため、亀裂15,16の内部が、充填材料によって部分的に充填されると共に、亀裂15,16の開端が被覆層で被覆される。従って、熱処理工程を経て、図2(b)に模式的に示すように、蓄熱体基体20が球状でありながら単一の方向のみに延びて貫通している亀裂15(押出成形時に発生した亀裂)を有していると共に、内部から表面に向かって略放射状に延びている亀裂16(球状化工程で発生した亀裂)を有しており、亀裂15,16の開端が被覆層30で被覆されていると共に、亀裂15,16の内部が充填材料によって部分的に充填されている構成、の蓄熱体1が製造される。このような構成であることにより、充填されない部分の亀裂15,16に熱膨張及び熱収縮を吸収する作用を発揮させながら、亀裂15,16の存在による機械的強度の低下や亀裂の伸展を、充填材料によって抑制することができる。
【実施例】
【0042】
上記の製造方法により、蓄熱体基体を構成するセラミックスを炭化ケイ素、窒化ケイ素、または窒化アルミニウムとし、焼成工程後の蓄熱体基体の直径が約20mmで、焼成工程後で被覆・充填工程前の見掛け気孔率が異なる試料S1〜S9を作製した。試料S1,S2は、被覆・充填工程を行わなかった。試料S3〜S8には、加熱によりケイ酸系ガラスとなるガラス質充填剤を含有する充填材料を使用し、試料S9にはムライトであるセラミックス質充填剤を含有する充填材料を使用して、被覆・充填工程を行った。充填材料へ添加する添加物の種類、粘度、処理時間の長さ等を調整し、蓄熱体基体の内部への充填材料の浸入深さを調整した。
【0043】
各試料について、次の方法で、見掛け気孔率、円形度、被覆層の厚さ、及び傾斜層の厚さを測定すると共に、耐酸化性の評価試験、耐熱衝撃性の評価試験を行った。何れの測定及び評価試験も、一つの試料について複数の試験片を使用して行った。
【0044】
<見掛け気孔率>
焼成工程後で被覆・充填工程前の蓄熱体基体を所定のサイズに切り出し、アルキメデス法により測定した。
【0045】
<円形度>
焼成工程後で被覆・充填工程前の蓄熱体基体を、互いに直交する三方向からそれぞれ撮影した。撮像において試料と背景とを二値化により識別し、試料の二次元形状について面積Sと周囲の長さLを画像処理によって求め、円形度を算出した。
【0046】
<被覆層の厚さ、傾斜層の厚さ>
熱処理工程後の試料を、中心を通る面で切断し、樹脂に埋設して切断面を研磨した。研磨後の切断面を走査型電子顕微鏡で撮影した。撮像を画像処理し、充填されていない気孔と、充填材料で充填された気孔及びマトリックス部分とを、二値化により識別した。撮像において被覆層から多孔質層までを含む長方形の領域を、一対の辺の方向が試料の深さ方向と一致するように設定し、その領域を深さ方向に所定長さ(100μm)で区分し、区分された各領域について、その面積における気孔(充填されていない気孔)の面積の占める割合を算出して気孔率(%)とした。試料の表面からの深さに対して、気孔率をプロットしたグラフを作成した。例として、試料S5のグラフを走査型電子顕微鏡の撮像と共に図3に示し、試料S6のグラフを図4に示す。なお、被覆層の厚さ及び傾斜層の厚さの測定には、撮像において亀裂のない領域を用いた。
【0047】
何れの試料でも、表面の近傍でゼロに近い気孔率が不連続に増加しており、不連続に変化している深さを被覆層と傾斜層との境界とした。その境界より深さが増すにつれて、気孔率は連続的に増加した後でほぼ一定となったため、気孔率が一定である範囲の最外の深さを傾斜層と多孔質層との境界とした。
【0048】
<耐酸化性>
試料を1300℃の温度で36時間、空気雰囲気下で加熱し、その前後の質量を測定した。炭化物も窒化物も酸化によって質量が増加するため、単位時間当たりの質量増加率を算出し、1時間当たりの質量増加率が0.01%以下である場合を耐酸化性に優れると評価して「〇」で表し、0.01%を超える場合は耐酸化性を有しないと評価して「×」で表した。なお、質量増加率は、以下のように算出される。
質量増加率(%)=(加熱後の質量−加熱前の質量)×100/加熱前の質量
【0049】
<耐熱衝撃性>
試料を1000℃の温度で30分間加熱し、水中に入れて急冷し5分間保持した後、常温の空気中で15分間保持する操作を1サイクルとし、このサイクルを繰り返した。5サイクル繰り返しても破壊に至らない場合を、耐熱衝撃性に優れると評価して「〇」で表し、5サイクルに至る前に破壊した場合は、耐熱衝撃性を有しないと評価して「×」で表した。5サイクル繰り返しても破壊しないものの、被覆層の剥離が生じた場合を「△」で表した。
【0050】
上記の測定の結果、何れの試料も、異なる三方向における円形度は0.86〜0.90の範囲であった。また、何れの試料も、被覆層の厚さは約200μmであった。その他の測定結果である見掛け気孔率及び傾斜層の厚さと、耐酸化性の評価及び耐熱衝撃性の評価を、各試料について、セラミックスの種類及び充填材料の種類とあわせて表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
以上の結果から、次のことを読み取ることができる。
・蓄熱体基体の見掛け気孔率が3%程度の緻密質である場合は、耐熱衝撃性を有しない。熱膨張及び熱収縮を吸収する気孔がほとんどないためと考えられる。
・蓄熱体基体を構成するセラミックスが非酸化物である場合、見掛け気孔率が3%程度までの緻密質であれば、高温の酸化性雰囲気下で蓄熱体を使用しても酸化はさほど進行しないが、見掛け気孔率が6%に至ると耐酸化性が低下する。気孔を介して酸素との接触面積が増加するためと考えられる。
・見掛け気孔率が6%以上の蓄熱体基体であっても、表面に少なくとも200μm厚さの被覆層があれば、耐酸化性を有する。これは、傾斜層の厚さが2μmと、傾斜層がほとんどない試料S3でも同様であった。
【0053】
・蓄熱体基体の見掛け気孔率が6%〜45%で充填材料がガラスの場合、少なくとも50μm厚さの傾斜層を有していれば、耐熱衝撃性に優れている。これは、充填材料で充填されることなく残存している気孔によって熱膨張及び熱収縮が吸収されると共に、気孔が部分的に充填材料で充填されており、その割合が急激に変化することなく連続的に変化している傾斜層を有することによって、気孔の存在に起因する機械的強度の低下が抑制されているためと考えられる。なお、充填材料がムライトの場合、傾斜層の厚さが40μmの試料S9は耐熱衝撃性に優れていた。
・耐熱衝撃性に優れる試料S4〜S9では、傾斜層の厚さは40μm〜5800μmでああった。これを、試料(直径約20mm)の半径に対する割合に換算すると、0.4%〜58%である。
【0054】
・充填材料(熱処理後)がガラスであっても酸化物セラミックスであっても、被覆層及び傾斜層の存在によって耐酸化性及び耐熱衝撃性を有する蓄熱体となる作用は、同様であった。
【0055】
上記の製造方法により、直径5mm〜80mmの球状の蓄熱体を問題なく製造できることを確認しているが、直径10mm以上の範囲は、従来の転動造粒法では製造が困難であった範囲であり、意義が高い。
【0056】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0057】
例えば、上記の実施例では、ガラス質充填剤及びセラミックス質充填剤のうち一方を含有する充填材料を使用した場合を例示したが、ガラス質充填剤及びセラミックス質充填剤の双方を含有する充填材料を使用することができる。ガラス質充填剤との混合により、セラミックス質充填剤に含まれる酸化物セラミックスの蓄熱体基体への接着性が増加する。
【符号の説明】
【0058】
1 蓄熱体
10a 成形体(円柱状の成形体)
10b 成形体(球状化された蓄熱体)
20 蓄熱体基体
21 多孔質層
22 傾斜層
30 被覆層
図1
図2
図3
図4