特許第6680691号(P6680691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6680691ポリα−1,3−グルカンフィルムの製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6680691
(24)【登録日】2020年3月24日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】ポリα−1,3−グルカンフィルムの製造
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20200406BHJP
【FI】
   C08J5/18CEP
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-562471(P2016-562471)
(86)(22)【出願日】2015年1月5日
(65)【公表番号】特表2017-503909(P2017-503909A)
(43)【公表日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】US2015010139
(87)【国際公開番号】WO2015103531
(87)【国際公開日】20150709
【審査請求日】2017年12月27日
(31)【優先権主張番号】61/923,900
(32)【優先日】2014年1月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/928,571
(32)【優先日】2014年1月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519307218
【氏名又は名称】デュポン・インダストリアル・バイオサイエンシーズ・ユーエスエイ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンディヤ・ミシュラ
(72)【発明者】
【氏名】ティー・ジョセフ・デニス
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−535501(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/036918(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリα−1,3−グルカンフィルムを作製するための方法であって、
(a)ポリα−1,3−グルカンを、溶媒組成物に溶解させて、ポリα−1,3−グルカンの溶液を得る工程であって、前記溶媒組成物が水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液および水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液からなる群から選択される、工程と;
(b)ポリα−1,3−グルカンの前記溶液を、表面と接触させる工程と;
(c)前記溶媒組成物を除去して、ポリα−1,3−グルカンフィルムを形成する工程と
を含む方法。
【請求項2】
(d)前記フィルムが、
(i)約10%未満のヘイズ;
(ii)約10〜約80MPaの破断応力;
(iii)約250〜約3000gf/mmの引裂強度;
(iv)約10秒未満のガーレー透気度;および
(v)23℃、0%の相対湿度(RH)で、約0.3cc−mm/m2/日未満の酸素透過速度
のうちの少なくとも1つを有することを測定する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒組成物が溶解性添加剤または可塑剤添加剤の少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
可塑剤添加剤がグリセロールである、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリα−1,3−グルカンフィルムおよびそれらの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコース系多糖類およびそれらの誘導体は、潜在的な工業的用途を有し得る。
【0003】
セルロースは、このような多糖の典型例であり、ヘキソピラノース単位のβ−1,4−D−グリコシド結合を含む。セルロースは、繊維およびフィルム(セロファン)の製造などのいくつかの商業的用途に使用される。工業的用途用のセルロースは、木材パルプから得られる。木材パルプの溶解は、難しい手順である。セロファン製造の場合、セルロースの溶解のための最も一般的に使用される方法は、「ビスコース法」であり、ビスコース法において、セルロースは、セルロース化合物を、水酸化ナトリウムおよび二硫化炭素で処理することによって作製されるキサントゲン酸セルロースに転化される。キサントゲン酸セルロース溶液は、凝固浴中に押し出され、ここで、それは、凝固により再生されて、セルロースフィルムが形成される。セロファンフィルムは、透明度、酸素に対するバリア性、機械的強度などのようないくつかの望ましい特性を有し、それらの特性により、包装フィルムとしての用途をもたらした。しかしながら、欠点は、セロファン製造におけるこのビスコース法の使用であり、これは、有毒化学物質およびかなりの環境コストを伴う。
【0004】
多糖ポリマーの中でも、α−1,3−グリコシド結合を有するグルカンポリマーが、大きな利点を有することが示されている。特許文献1には、ポリマー中のヘキソース単位の少なくとも50%がα−1,3−グリコシド結合を介して結合されたヘキソース単位、および少なくとも100の数平均重合度を有するポリマーを含む多糖繊維の調製が開示された。ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)に由来するグルコシルトランスフェラーゼ酵素(gtfJ)を、ポリマーを製造するのに使用した。ポリマーを紡糸溶媒に可溶にするために、ポリマーα−1,3−グルカンをアセチル化した。次に、アセチル化されたポリマーを、トリフルオロ−酢酸とジクロロメタンとの混合物に溶解させた。この溶液から、グルカンアセテートの連続した強力な繊維を紡糸した。その後、これらのグルカンアセテート繊維を、脱アセチル化して、α−1,3−グルカンから構成される繊維を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7,000,000号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
誘導体化工程を必要とせずに、セロファンと同等の特性を有する多糖α−1,3−グルカンポリマーから構成されるフィルムを作製することが望ましいであろう。さらに、セルロースのキサントゲン酸化(xanthation)に必要とされる二硫化炭素などの有害化学物質の使用をなくすのが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリα−1,3−グルカンフィルムを作製するための方法であって、(a)ポリα−1,3−グルカンを、溶媒組成物に溶解させて、ポリα−1,3−グルカンの溶液を得る工程と;(b)ポリα−1,3−グルカンの溶液を、表面と接触させる工程と;(c)溶媒組成物を除去して、ポリα−1,3−グルカンフィルムを形成する工程とを含む方法に関する。
【0008】
本発明は、(a)ポリα−1,3−グルカンを、溶媒組成物に溶解させて、ポリα−1,3−グルカンの溶液を得る工程と;(b)ポリα−1,3−グルカンの溶液を、表面と接触させる工程と;(c)溶媒組成物を除去して、ポリα−1,3−グルカンフィルムを形成する工程とを含む、ポリα−1,3−グルカンフィルムを作製するための方法にしたがって作製されるポリα−1,3−グルカンフィルムにも関する。
【0009】
本発明は、ポリα−1,3−グルカンを含むフィルムにも関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において使用される「フィルム」という用語は、薄い、視覚的に連続した自立性の材料を指す。
【0011】
本明細書において使用される「包装フィルム」という用語は、物体を部分的にまたは完全に包む、薄い、視覚的に連続した材料を指す。
【0012】
「ポリα−1,3−グルカン」、「α−1,3−グルカンポリマー」および「グルカンポリマー」という用語は、本明細書において同義的に使用される。ポリα−1,3−グルカンは、ポリα−1,3−グルカンの構造が、下式のとおりに示され得る(式中、nが、8以上である)ポリマーである:
【化1】
【0013】
本発明は、多糖ポリα−1,3−グルカンから製造されるフィルムの製造方法に関する。開示される本発明の特定の実施形態に有用なポリα−1,3−グルカンは、化学的方法を用いて調製され得る。あるいは、このようなポリα−1,3−グルカンは、ポリα−1,3−グルカンを産生する、真菌などの様々な生物からそれを抽出することによって調製され得る。開示される本発明の特定の実施形態に有用なポリα−1,3−グルカンはまた、全体が参照により本明細書に援用される、同時係属中の、同一出願人が所有する米国特許出願公開第2013/0244288号明細書に記載されている微生物中に見られる1つまたは複数のグルコシル−トランスフェラーゼ(例えば、gtfJ)酵素触媒を用いて、スクロースなどの再生可能資源から酵素的に産生され得る。
【0014】
ポリα−1,3−グルカンフィルムを作製するための本発明に係る方法は、(a)ポリα−1,3−グルカンを、溶媒組成物に溶解させて、ポリα−1,3−グルカンの溶液を得る工程と;(b)ポリα−1,3−グルカンの溶液を、表面と接触させる工程と;(c)溶媒組成物を除去して、ポリα−1,3−グルカンフィルムを形成する工程とを含む。
【0015】
フィルムの調製のために、ポリα−1,3−グルカンの溶液が調製される。溶媒組成物としては、以下に限定はされないが、NaOH水溶液(ここで、NaOH濃度は、典型的に、4〜6重量%の範囲である)、KOH水溶液(典型的に、水中7.5〜10重量%)、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液(典型的に、20重量%)、またはDMSOジメチルスルホキシドとLiClとの混合物(典型的に、3〜5重量%のLiCl)が挙げられる。塩基水溶液を用いた典型的な溶液組成物は、10%のポリマー、6.8%のKOHおよび残りの水、または10%のポリマー、4%のNaOHおよび残りの水、または7%のポリマー、18.5%の水酸化テトラエチルアンモニウムおよび残りの水であり得る。ポリα−1,3 グルカンをNaOH水溶液およびKOH溶液に溶解させる能力は、木材パルプ(セルロース)を上回る大きな利点を与える。ポリα−1,3−グルカンは、せん断を加えることによって、溶媒中に混合される。水性溶媒系のために、水中のポリα−1,3−グルカンポリマーのスラリーが作製された後、濃縮された塩基水溶液が加えられる。グルカンポリマーは、使用前に完全に乾燥され得るか、またはポリマー中の水分含量が測定され、溶液調製の際に計算に入れられ得る。
【0016】
フィルムの流延または押出しのために、ポリマー溶液の粘度は、流動性および加工性であるのに十分低いが、破断せずに連続したフィルムを形成するのに十分高くすべきである。これらの粘度を実現するための、溶液中のポリα−1,3−グルカンの濃度は、約3重量%〜約23重量%の範囲である。
【0017】
溶媒組成物は、溶解性添加剤またはレオロジー調整剤などの添加剤をさらに含み得る。水溶液中に、尿素(CAS登録番号:57−13−6)またはグリセロール(CAS登録番号:56−81−5)が加えられてもよく、ここで、尿素の量は、最大でも、溶液中のポリマーの重量までであり得、グリセロールの量は、変化され得る。同じ溶媒系に可溶な他のポリマーとのブレンドなど、他の添加剤も、溶液中に混合することができる。
【0018】
フィルムは、ロッドコーターまたはドローダウンコーターを用いて基材上に溶液を流延することによって生成されてもよいが、スロットダイを介した押出しなどの他の溶液フィルム流延方法によっても生成され得る。フィルム流延は、当業者に公知の流延技術を用いて行われる。これは、溶液を支持体上に注ぐ工程と、マイヤーロッドまたはドクターブレードなどのキャスティングロッド(casting rod)を用いて、溶液を支持体上に塗布する工程とを含む。基材としては、以下に限定はされないが、ガラス(界面活性剤で被覆されているかまたはされていない)およびポリエステルフィルムが挙げられる。
【0019】
流延の後、キャスト溶液を、凝固および洗浄工程にかけて、自立性であり得るフィルムを生成する。フィルムは、キャスト溶液および基材を、凝固媒体に直接浸漬することによって、またはまずキャスト溶液を乾燥工程にかけて、溶媒の一部を除去した後、凝固および残留溶媒の除去を行うことによって形成され得る。溶媒除去は、室温でまたは高温、好ましくは、80C未満で行われる。凝固媒体は、メタノール、水、もしくは酸またはそれらの混合物などの、ポリα1−3 グルカン用の非溶媒を含み得る。好ましい酸は、硫酸または酢酸水溶液である。凝固媒体は、塩などの他の添加剤も含み得る。凝固の後、キャスト溶液は、フィルムへと転化され、それを、基材から取り外すことができる。
【0020】
本発明の方法は、洗浄による、形成されたフィルム中の残留溶媒組成物の除去をさらに含む。ポリα(1,3)グルカン溶液が、NaOH水溶液またはKOH水溶液などの水性溶媒系を含み、使用される凝固媒体が、硫酸水溶液などの酸性媒体である場合、対応する塩(硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウム)が、凝固中に形成される。塩および残留酸は、水中で洗浄することによって、フィルムから除去される。凝固浴がメタノールである場合、塩基(NaOHまたはKOH)は、メタノール中での洗浄の繰り返しによって、フィルムから除去される。凝固浴中への塩基の除去により、メタノール浴のpHが上昇される。pHインジケーターストリップによって測定した際の浴のpHが、フィルムの長時間の浸漬の後でも変化しない場合、塩基除去が完了したとみなされる。ポリα(1,3)グルカン溶液が、DMSO/LiCl溶媒系を含む場合、好ましい洗浄液は水である。溶媒除去技術に応じて、いくらかの残留溶媒組成物またはその成分が、少量で存在し得ることに留意されたい。
【0021】
本発明の方法は、自立性フィルムを形成するために張力下で乾燥させる工程をさらに含む。最終的なフィルムのヘイズは、乾燥条件に応じて決まることにも留意されたい。
【0022】
本発明の方法は、乾燥中または乾燥後にフィルムを加熱する工程を任意選択的に含み得る。フィルムはまた、可塑剤の溶液(水中1〜10重量%のグリセロールまたはエチレングリコールなど)中でのフィルムの浸漬によって可塑化され得る。脆性を低下させるためのフィルムへの可塑剤の添加は、当業者に公知の技術である。フィルム中への可塑剤の吸収は、可塑剤の濃度および可塑化浴における滞留時間に応じて決まる。
【0023】
工程の正確な順序は、異なる特性のフィルムを得るために変化され得る。用いられるプロセスに応じて、このように得られたフィルムは、クリアで透明であるか、または曇っていることがある。フィルムは、光沢のある外観または光沢のない外観を有し得る。フィルムは、可撓性であり、良好なデッドホールド性(dead fold characteristic)を示し得る。フィルムは、加撚および染色され得る。フィルムの強度は、使用されるプロセス工程に左右されることも分かった。セロファン包装フィルムは、縦方向における100MPaおよび横方向における約60MPaの典型的な破断応力を有する。本発明において形成されるポリα1,3 グルカンフィルムのいくつかは、セロファンと同様の破断応力を有し、このことは、これらのフィルムが、包装フィルムとして使用されるのに十分な引張強度を有することを示唆する。空気乾燥と、それに続くメタノール凝固によって形成されるフィルムが、最もクリアなフィルムである。フィルムの透過性を操作することもできる。ほとんどの条件下で、フィルムは、酸素ガスの透過に対する良好なバリア性を示す。酸素に対する高いバリア性が、特に、食品包装用途において望ましい。フィルムは、セロファンフィルムと同様に、水蒸気の高い透過性も示す。しかしながら、必要に応じて、使用されるプロセス方法の変化によって、フィルムは、ガーレー透気度試験機(Gurley permeometer)で測定可能な範囲内の空気透過性を有して、多孔質にされ得る。
【0024】
有利には、本発明の方法は、有毒化学物質、特に、二硫化炭素の使用を必要としない。さらに、セルロースフィルムを形成するための従来の方法と比較して、本発明のα−1,3−グルカンフィルムを形成するのにより少ないプロセス工程が必要とされる。
【0025】
本発明は、ポリα−1,3−グルカンフィルムを作製するための方法であって、(a)ポリα−1,3−グルカンを、溶媒組成物に溶解させて、ポリα−1,3−グルカンの溶液を得る工程と;(b)ポリα−1,3−グルカンの溶液を、表面と接触させる工程と;(c)溶媒組成物を除去して、ポリα−1,3−グルカンフィルムを形成する工程とを含む方法に関する。
【0026】
溶媒組成物は、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、および塩化リチウムとジメチルスルホキシドとの混合物からなる群から選択され得る。
【0027】
溶媒組成物は、溶解性添加剤または可塑剤添加剤の少なくとも一方をさらに含み得る。溶解性添加剤は、尿素であり得る。可塑剤添加剤は、グリセロールであり得る。
【0028】
溶媒組成物を除去するプロセスは、水、酸またはアルコール中での蒸発および凝固を含む。
【0029】
本発明は、(a)ポリα−1,3−グルカンを、溶媒組成物に溶解させて、ポリα−1,3−グルカンの溶液を得る工程と;(b)ポリα−1,3−グルカンの溶液を、表面と接触させる工程と;(c)溶媒組成物を除去して、ポリα−1,3−グルカンフィルムを形成する工程とを含む方法にしたがって作製されるポリα−1,3−グルカンフィルムにも関する。
【0030】
本発明は、ポリα−1,3−グルカンを含むフィルムにも関する。
【0031】
本発明は、(a)約10%未満のヘイズ;(b)約10〜約80MPaの破断応力;(c)約250〜約3000gf/mmの引裂強度;(d)約10秒未満のガーレー透気度;および(e)23℃、0%の相対湿度(RH)で、約0.3cc−mm/m/日未満の酸素透過速度のうちの少なくとも1つを有するポリα−1,3−グルカンフィルムにも関する。
【0032】
試験方法
以下に続く非限定的な実施例において、以下の試験方法を用いて、様々な報告される特徴および特性を測定した。
【0033】
重合度(DP)および多分散指数(PDI)を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定した。使用されるクロマトグラフシステムは、3つのオンライン検出器:Waters製の示差屈折率計410、Wyatt Technologies(Santa Barbara,CA)製の多角度光散乱光度計Heleos(商標)8+およびWyatt製の示差毛細管粘度計ViscoStar(商標)と結合されたWaters Corporation(Milford,MA)製のAlliance(商標)2695液体クロマトグラフであった。データ整理に使用されるソフトウェアパッケージは、Waters製のEmpower(商標)version 3(広いグルカン標準、DR検出器のみを用いたカラム較正)およびWyatt製のAstra version 6(カラム較正を用いない三重検出法(triple detection method))であった。ポリマー分布の低分子量領域における分離能(resolution)を向上させるために、Shodex(日本)製の4つのSECスチレン−ジビニルベンゼンカラム−2つのリニアタイプKD−806M、KD−802およびKD−801を使用した。移動相は、0.11%のLiCl(Aldrich,Milwaukee,WI)を含むJ.T Baker(Phillipsburg,NJ)製のN,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)であった。クロマトグラフ条件は以下のとおりであった:カラムおよび検出器区画における温度:50℃、試料および注入器区画における温度:40℃、流量:0.5ml/分、注入量:100ul。試料調製は、100℃で一晩振とうしながら、5%のLiClを含むDMAc中の0.5mg/mLの試料濃度を目標としていた。溶解の後、ポリマー溶液は、室温で保存され得る。
【0034】
透気度を、ASTM D 726−空気の通過に対する非多孔質紙の抵抗性のための標準試験方法にしたがって、Gurley Precision instrumentモデル4340を用いて測定した。ガーレー秒数またはガーレー単位は、100立方センチメートル(1デシリットル)の空気が、4.88水柱インチの圧力差(0.188psi)で1.0平方インチの所与の材料を通過するのに必要とされる秒数を表す単位である(ISO 5636−5:2003)。
【0035】
フィルムの厚さを、ミツトヨマイクロメータ(Mitutoyo micrometer)、No.293−831を用いて測定した。
【0036】
引張試験の準備
定規を用いてフィルムを測定し、Fiskars製のコンフォートループロータリーカッター(comfort loop rotary cutter)、No.195210−1001を用いて1インチ×3インチ片を切断した。次に、室内条件が65%の相対湿度および70°F±2°Fである試験室に試料を運んだ。Mettler天秤モデルAE240を用いて試料の重量を測定した。
【0037】
引張特性を、ASTM D882−09にしたがって、1インチのグリップ(grip)、および1インチのゲージ長を用いて、Instron 5500R Model 1122において測定した。
【0038】
フィルム透明度を、透過モードでDRA−2500拡散反射アクセサリーを備えたAgilent(Varian)Cary 5000 uv/vis/nir分光光度計を用いて測定した。DRA−2500は、Spectralon(登録商標)コーティングを備えた150mmの積分球である。機器および試料についての全透過率および拡散透過率を、830nm〜360nmの波長範囲にわたって収集する。2度の観察者角度およびC光源(平均的な昼光、色温度6700Kを表す)を用いて、ASTM D1003にしたがって、計算を行う。
【0039】
酸素および水蒸気透過性を、それぞれASTM F1927およびASTM F1249にしたがって、MOCON Permatron−W 101K機器を用いて測定した。
【実施例】
【0040】
ポリα−1,3−グルカンの調製
gtfJ酵素調製を用いたポリ(α1,3 グルカン)を、参照により本明細書に援用される、同時係属中の、同一出願人が所有する米国仮特許出願第61532714号明細書に記載されているように調製した。
【0041】
以下の略語を実施例に使用した。
「脱イオン水(DI water)」は脱イオン水(deionized water)であり;「MPa」はメガパスカルであり;「NaOH」は水酸化ナトリウムであり;「KOH」は水酸化カリウムであり;「DPw」は重量平均重合度であり;「DMSO」はジメチルスルホキシドであり;「LiCl」は塩化リチウムであり;「RH」は相対湿度であり、「s」は秒である。
【0042】
材料および一般的な方法
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸および硫酸は、EMD Chemicals(Billerica,MA)製であった。尿素、塩化リチウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、およびジメチルスルホキシドは、Sigma Aldrich(St.Louis,MO)製であった。メタノールは、B.D.H Middle East(Dubai,UAE)から入手した。グリセロールは、Acros Organics(Pittsburgh,PA)製であった。
【0043】
溶液の調製
溶液を、IKAオーバーヘッドスターラーおよび1インチのプラスチックブレードスターラーまたは高せん断ミキサーのいずれかを用いて混合した。水性溶媒系のために、水中のポリα−1,3−グルカンポリマーのスラリーが作製された後、濃縮された塩基水溶液が加えられる。グルカンポリマーは、使用前に完全に乾燥され得るか、またはポリマー中の水分含量が測定され、溶液調製の際に計算に入れられ得る。
【0044】
十分な混合の後、溶液を、プラスチック遠心分離管に移し、Fisher Scientific製のMarathon 6K遠心分離機を用いて遠心分離した。溶液の粘度を、Brookfield Engineering laboratories Synchro−Lectric Viscometer、Model RVTを用いて測定した。ChemInstruments Custom Coater EC−300および巻線型(wire wound)キャスティングロッド、またはドクターブレードのような従来のフィルム流延装置を用いて、フィルムを流延した。
【0045】
実施例1
アルコール凝固による、塩基溶媒中のグルカン
DPw 1000の15gのグルカン固体を、135gの7.5重量%のKOH溶液と混合した。それを、高せん断ミキサーを用いて混合した。制御された量の溶液をガラスプレート上に注ぐことによって、フィルムを流延し、次に、ロッドコーターおよび254μmのキャスティングロッドを用いてドローダウンした。フィルムを45分間にわたって空気乾燥させ、次に、メタノール浴に入れた。pHインジケーターストリップを用いて試験した際に浴の見掛けのpHが7から9になったとき、浴を廃棄し、フィルムを新しいメタノールに入れた。浴のpHが変化しなかったら、フィルムをメタノールから取り出し、ガラス上で乾燥させた。フィルムの縁部に切れ目を入れ(score)、最小量の水を用いて、フィルムの縁部を湿らせ、次に、フィルムを、ガラスから、ポリエチレンまたは他の不活性な低剥離性基材上に剥がした。ガラスの表面を、界面活性剤で処理した場合、フィルムを剥がすのに水で湿らせる必要はない。フィルムを、張力下で空気乾燥させてから、急速に乾燥させたところ、クリアで強力なフィルムが得られた。
【0046】
このように形成されたフィルムは、25.4±7μmの厚さ、50MPaもの破断応力、3032gf/mmの引裂強度、13%の破断歪みおよび1.3%のヘイズを有していた。DPw 1200のグルカンの溶液(溶液中7.5%のポリマー濃度)および上記と同様のプロトコルを用いて、別のフィルムを作製した。このように形成されたフィルムは、8μmの厚さおよび77MPaの破断応力および19%の破断歪みを有していた。
【0047】
これらのフィルムの複製を作製し、これらのフィルムの水蒸気および酸素透過性を測定した。フィルムは、23C、90%の相対湿度条件で、25.4g−mm/m/日を超える透過速度を有し、水蒸気に対して非常に透過性であることが分かった。フィルムは、酸素に対する透過性が低く(酸素に対する良好なバリア性を提供する)、23Cで、0%の相対湿度で0.13〜0.22cc−mm/m/日の低さの透過速度が測定された。これは、これらのフィルムが、セロファンと同等のバリア特性を示すことを示唆し、したがって、同様の用途に使用され得る。
【0048】
DPw 1000を有する溶液を用いて、別のフィルムを形成したが、キャスト溶液を、直ぐにメタノールに沈めた。凝固前のフィルム中の水のパーセンテージは約85%であった。
【0049】
このように形成されたフィルムは、13.8MPaの破断応力および98.5%のヘイズを有していた。フィルムは、ほぼ白色で不透明であった。したがって、メタノールに沈める前のキャストフィルムの乾燥度のパーセンテージが、フィルムの透明度に影響を与えた。DPw 1200ポリマーで作製された溶液を用いて別のフィルムを形成し、フィルムを、メタノール中での凝固の前に10分間にわたって乾燥させた。凝固前のフィルム中の水のパーセンテージは78%であった。乾燥されたフィルムはクリアであった。
【0050】
実施例2
アルコール凝固と、それに続く熱処理による、KOH中のグルカン溶液
DPw 1000の15gのグルカン固体を、135gの7.5重量%のKOH溶液と混合した。それを、高せん断ミキサーを用いて混合した。制御された量の溶液をガラスプレート上に注ぐことによって、フィルムを流延し、次に、ロッドコーターおよび254μmのロッドを用いてドローダウンした。フィルムを45分間にわたって空気乾燥させ、次に、メタノール浴に入れた。pHインジケーターストリップを用いて試験した際に浴の見掛けのpHが7から9になったとき、浴を廃棄し、フィルムを新しいメタノールに入れた。浴のpHが変化しなかったら、フィルムをメタノールから取り出し、ガラス上で乾燥させた。次に、フィルムを、10分間にわたって60℃で、コンベクションオーブン中で加熱した。フィルムの縁部に切れ目を入れ、最小量の水を用いて、フィルムの縁部を湿らせ、次に、フィルムを、ガラスからポリエチレン基材上に剥がした。それを空気乾燥させてから、急速に乾燥させたところ、クリアで強力なフィルムが得られた。
【0051】
このように形成されたフィルムは、17.8±3μmの厚さ、66MPaもの破断応力および8%の最大荷重時歪みを有していた。
【0052】
実施例3
尿素およびNaOH、水凝固、後乾燥を用いたグルカン溶液
撹拌子を用いてNaOHおよび尿素を脱イオン水中で撹拌することによって、4.1%のNaOHおよび5%の尿素の組成の溶媒混合物を作製した。ポリマーを上記の溶媒に溶解させ、ホモジナイザーを用いて、十分に混合された溶液を得ることによって、DPw 800のグルカンの9.1重量%の溶液を含有する溶液を調製した。溶液を遠心分離して、気泡を除去し、直ぐに流延するか、または使用まで−5℃で保存した。制御された量の溶液をガラスプレート上に注ぐことによって、フィルムを流延し、次に、250μmのドクターブレードを用いてドローダウンした。フィルムを4時間にわたって空気乾燥させた。次に、フィルムを、脱イオン水浴に浸漬することによって洗浄し、一晩、別の脱イオン水浴に入れておいた。フィルムを水に浸漬すると、フィルムはスライドガラスから剥がれる。水中での浸漬中、フィルムの縁部を、任意選択的にテープで留めることができる。水浴から取り出した後、フィルムを、平坦な不活性の非剥離性表面上で、張力下で乾燥させた。
【0053】
この技術を用いて調製されたフィルムは、14μmの厚さ、3.9〜4.26%のヘイズ、35MPaの破断応力、258gf/mmの引裂強度および243±160秒のガーレー透気度を有していた。
【0054】
実施例1と比較して、実施例3は、4.26%のより高いヘイズ(より低い透明度)、より低い強度を有し、より脆い。
【0055】
比較例A
尿素なしでNaOH、水凝固、後乾燥を用いたグルカン溶液
流延溶媒中で尿素を用いないことを除いて、実施例3におけるプロセスと同様のプロセスを使用した。撹拌子を用いてNaOHを脱イオン水中で撹拌することによって、4.3%のNaOHの組成の溶媒混合物を作製した。ポリマーを上記の溶媒に溶解させ、ホモジナイザーを用いて、十分に混合された溶液を得ることによって、DPw 800のグルカンの9.1重量%の溶液を含有する溶液を調製した。溶液を遠心分離して、気泡を除去し、直ぐに流延するか、または使用まで−5℃で保存した。制御された量の溶液をガラスプレート上に注ぐことによって、フィルムを流延し、次に、254μmのドクターブレードを用いてドローダウンした。フィルムを4時間にわたって空気乾燥させた。次に、フィルムを、1時間にわたって水浴に浸漬した。フィルムは、5分以内にガラスプレートから外れた。次に、フィルムを回収し、平坦な不活性基材上で乾燥させた。
【0056】
このように得られたフィルムは、21.6μmの厚さを有し、肉眼で半透明に見え、20%のヘイズ値、および12.5MPaの破断応力を有していた。
【0057】
実施例3と比較して、比較例Aの溶液は、よりクリアでなく、より高いヘイズを有していた。実施例1と比較して、比較例Aは、20%のより高いヘイズ(より低い透明度)、より低い強度を有し、より脆い。
【0058】
実施例4
高温で乾燥させた後、アルコール凝固にかけた、KOH、キャスト溶液を用いたグルカン溶液
DPw 550の15gのグルカン固体を、135gの7.5%のKOH溶液と混合した。それを、高せん断ミキサーを用いて混合した。制御された量の溶液をガラスプレート上に注ぐことによって、フィルムを流延し、次に、ロッドコーターおよび254μmのロッドを用いてドローダウンした。フィルムを、コンベクションオーブン中で異なる時間および約60℃の温度で加熱して、乾燥プロセスを促進し、次に、メタノール浴に入れた。pHインジケーターストリップを用いて試験した際に浴の見掛けのpHが7から9になったとき、浴を廃棄し、フィルムを新しいメタノールに入れた。浴のpHが変化しなかったら、フィルムをメタノールから取り出し、ガラス上で乾燥させた。フィルムの縁部、最小量の水を用いて、フィルムの縁部を湿らせ、次に、フィルムを、ガラスからポリエチレン基材上に剥がした。ガラスの表面を、界面活性剤で処理した場合、水で湿らせる必要はない。それを張力下で空気乾燥させてから、急速に乾燥させたところ、クリアで強力なフィルムが得られた。
【0059】
このように形成されたフィルムは、13%のヘイズを有していた。これらのフィルムの強度が表に示され、ここで、MDは、流延の縦方向を指し、TDは、流延の横方向を指す。実際に、高温での乾燥が、乾燥時間を短縮するのに用いられるであろう。乾燥中の80℃を超える高温が、ポリマーの分解を引き起こして、糖を形成し得ることに留意されたい。例えば、1時間にわたって80℃に加熱されたキャスト溶液は、熱処理後に褐色を示し(糖形成のため)、また、洗浄および乾燥後に、より弱いフィルムになった。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例5
尿素 NaOH、直接の水凝固を用いたグルカン溶液
撹拌子を用いてNaOHおよび尿素を脱イオン水中で撹拌することによって、4.1%のNaOHおよび5%の尿素の組成の溶媒混合物を作製した。ポリマーを上記の溶媒に溶解させ、ホモジナイザーを用いて、十分に混合された溶液を得ることによって、グルカンDPw 1000の9.1重量%の溶液を含有する溶液を調製した。溶液を遠心分離して、気泡を除去し、直ぐに流延するか、または使用まで−5℃で保存した。制御された量の溶液をガラスプレート上に注ぐことによって、フィルムを流延し、次に、254μmのドクターブレードを用いてドローダウンした。次に、フィルムを、脱イオン水浴中で直ぐに凝固させ、3時間にわたって浸漬させ、ペーパータオル上で一晩乾燥させた。このように得られたフィルムは、22.9μmの厚さを有し、肉眼で半透明であり、20.3%のヘイズおよび9.7MPaの破断応力を有していた。
【0062】
実施例6
NaOH/尿素、直接の酸凝固を用いたグルカン溶液
撹拌子を用いてNaOHおよび尿素を脱イオン水中で撹拌することによって、4.1%のNaOHおよび5%の尿素の組成の溶媒混合物を作製した。ポリマーを上記の溶媒に溶解させ、ホモジナイザーを用いて、十分に混合された溶液を得ることによって、グルカンDPw 1000の9.1重量%の溶液を含有する溶液を調製した。溶液を遠心分離して、気泡を除去し、直ぐに流延するか、または使用まで−5℃で保存した。制御された量の溶液をガラスプレート上に注ぐことによって、フィルムを流延し、次に、254μmのドクターブレードを用いてドローダウンした。フィルムを、5%の酸浴(硫酸)中で直ぐに凝固させ、洗浄し、3時間にわたって水に浸漬させ、張力下で、ガラスプレート上で一晩乾燥させた。このように得られたフィルムは、24.1μmの厚さ、9.8%のヘイズ、および10.1MPaの破断応力を有していた。凝固のために20%の酸浴を用いたことを除いて同様の手順を用いて別のフィルムを作製した。このように得られたフィルムは、24.1μmの厚さ、2.9%のヘイズおよび21MPaの破断応力を有していた。
【0063】
実施例1と比較して、実施例6のフィルムは、水中で洗浄後に乾燥させると、より多い収縮を示した。フィルムの透明度および強度は、水で洗浄した後の乾燥中にフィルム上で維持される張力に左右されることが分かった。
【0064】
実施例7
キサントゲン酸グルカン溶液、酸凝固からのグルカンフィルム
グルカンを4.5%のNaOH溶液に溶解させ、二硫化炭素を用いて誘導体化することによって、キサントゲン酸グルカンの溶液を調製した。最終的なポリマー濃度は、8重量%のグルカンポリマーDPw 1000)であった。制御された量の溶液をガラスプレート上に注ぐことによって、フィルムを流延し、次に、254μmのドクターブレードを用いてドローダウンした。5分間の空気乾燥の後、プレート上のフィルムを、10分間にわたって5重量%のH2SO4浴中で凝固させた。次に、ガラスプレート上のフィルムを、3時間にわたって脱イオン水に浸漬し、次に、脱イオン水で数回すすぎ、一晩乾燥させた。このように作製されたフィルムは、19.05μmの厚さおよび14MPaの破断応力を有していた。いくらかのバブリングが、凝固中に観察された。凝固に対するより良好な制御により、得られるフィルム強度が向上され得ると考えられる。この実施例は、グルカンフィルムが、セロファンを作製するのに使用されるビスコース溶液と同様に、キサントゲン酸化溶液を用いても作製され得ることを示す。
【0065】
実施例8
キサントゲン酸グルカン溶液、凝固、後乾燥からのグルカンフィルム
グルカンを4.5%のNaOH溶液に溶解させ、二硫化炭素を用いて誘導体化することによって、キサントゲン酸グルカンの溶液を調製した。最終的なポリマー濃度は、8重量%のグルカンポリマー(DPw 1000)であった。制御された量の溶液をガラスプレート上に注ぐことによって、フィルムを流延し、次に、254μmのドクターブレードを用いてドローダウンした。ガラスプレート上のフィルムを、3時間にわたって空気乾燥させ、次に、8分間にわたって5重量%のHSO浴中で凝固させ、30分間にわたって脱イオン水に浸漬した。次に、フィルムを脱イオン水で数回すすぎ、一晩乾燥させた。このように作製されたフィルムは、25.5μmの厚さおよび42MPaの破断応力を有していた。いくらかのバブリングが、凝固中に観察された。凝固に対するより良好な制御により、得られるフィルム強度が向上され得ると考えられる。この実施例は、グルカンフィルムが、セロファンを作製するのに使用されるビスコース溶液と同様に、キサントゲン酸化溶液を用いても作製され得ることを示す。
【0066】
実施例9
可塑化
実施例2と同じ処理を用いて、グルカンフィルムを作製した。次に、フィルムを、10%のグリセロール溶液に10分間にわたって浸漬し、次に、Teflon(登録商標)FEPフィルム上に回収し、張力下で乾燥させた。このように得られたフィルムは、37重量%の可塑剤を得て、向上した可撓性を有し、破断応力の67%の低下とともに最大歪みの325%の増加を示した。10%のグリセロール中で30秒間の浸漬にかけた別のフィルムは、破断応力の67%の低下とともに最大歪みの250%の増加を示した。
【0067】
実施例10
染色されたグルカンフィルム
実施例2に記載されているようにフィルムを調製した。1時間にわたって水に溶解された、過剰の3%のベーシックレッド(basic red)#29またはダイレクトレッド(direct red)80の2.5%の溶液に浸漬することによって、フィルムを染色した。次に、フィルムを脱イオン水中で3回洗浄した。フィルムは、肉眼で観察した際に着色されて見えた。
【0068】
実施例11
DMSO:LiCl溶液からのグルカンフィルム
6重量%のグルカン溶液(DPw 1000)を、DMSOおよび3%のLiClから構成される溶媒中で混合した。それを、60分間にわたって丸底フラスコ中でオーバーヘッドスターラーを用いて混合した。508μmおよび254μmのロッドを用いてフィルムを流延し、16時間にわたって減圧下で、30℃で、オーブン中で乾燥させ、水中で洗浄した。このように形成されたフィルムは、クリアで透明であったが、かなりの収縮およびしわを有していた。254μmのロッドを用いて別のフィルムを流延し、100℃で、ホットプレート上で乾燥させ、次に、水で洗浄して、LiCl塩を除去した。このように得られたフィルムは、28μmの厚さ、および23MPaの破断応力を有していた。
実施例12
水酸化テトラエチルアンモニウムを用いたグルカンフィルム
磁気撹拌子を用いて、ポリマー、塩基および水を混合することによって、5%のグルカン(DPw 1000)、20%の水酸化テトラエチルアンモニウムおよび75%の水から構成される溶液を作製した。制御された量の溶液をガラスプレート上に注ぐことによって、フィルムを流延し、次に、254μmのドクターブレードを用いてドローダウンし、一晩乾燥させた。次に、フィルムを5%の酢酸浴中で凝固させ、水で洗浄し、張力下で、非剥離性表面上で一晩乾燥させた。次に、フィルムを剥がした。このように得られたフィルムは透明であり、11.3μmの厚さ、60MPaの破断応力および13%の破断歪みを有していた。
【0069】
以上、本発明を要約すると下記のとおりである。
1.ポリα−1,3−グルカンフィルムを作製するための方法であって、
(a)ポリα−1,3−グルカンを、溶媒組成物に溶解させて、ポリα−1,3−グルカンの溶液を得る工程と;
(b)ポリα−1,3−グルカンの前記溶液を、表面と接触させる工程と;
(c)前記溶媒組成物を除去して、ポリα−1,3−グルカンフィルムを形成する工程と
を含む方法。
2.前記溶媒組成物が、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、および塩化リチウムとジメチルスルホキシドとの混合物からなる群から選択される、上記1に記載の方法。
3.前記溶媒組成物が、溶解性添加剤または可塑剤添加剤の少なくとも一方をさらに含む、上記2に記載の方法。
4.前記溶解性添加剤が尿素である、上記3に記載の方法。
5.前記可塑剤添加剤がグリセロールである、上記3に記載の方法。
6.前記溶媒組成物を除去する工程が、水、酸またはアルコール中での蒸発および凝固を含む、上記1に記載の方法。
7.上記1にしたがって作製されるポリα−1,3−グルカンフィルム。
8.ポリα−1,3−グルカンを含むフィルム。
9.(a)約10%未満のヘイズ;
(b)約10〜約80MPaの破断応力;
(c)約250〜約3000gf/mmの引裂強度;
(d)約10秒未満のガーレー透気度;および
(e)23℃、0%の相対湿度で、約0.3cc−mm/m/日未満の酸素透過速度のうちの少なくとも1つを有する、上記8に記載のフィルム。