特許第6681013号(P6681013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6681013-光学ガラス及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681013
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】光学ガラス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/12 20060101AFI20200406BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   C03C3/12
   G02B1/00
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-78147(P2015-78147)
(22)【出願日】2015年4月7日
(65)【公開番号】特開2016-199408(P2016-199408A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年3月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太志
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/137276(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/071202(WO,A1)
【文献】 特開昭60−033229(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/032789(WO,A1)
【文献】 特開2014−141389(JP,A)
【文献】 特開2015−040145(JP,A)
【文献】 増野敦信,"無容器浮遊法による新機能性ガラスの合成",NEW GLASS 95,日本,一般社団法人ニューガラスフォーラム,2009年,Vol.24, No.4,Page.37-44,ISSN:0194-6563,URL,https://www.newglass.jp/mag/TITL/maghtml/95-pdf/+95-p037.pdf
【文献】 増野敦信,"無容器浮遊法による超高屈折率ガラスの開発",粉体および粉末冶金,日本,一般社団法人粉体粉末冶金学会,2014年 1月15日,Vol.61, No.1,Page.11-17,ISSN:0532-8799,URL,htpps://doi.org/10.2497/jjspm.61.11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/062 − 3/068
C03C 3/12 − 3/155
C03B 8/00
C03B 19/10
G02B 1/00
INTERGLAD
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、TiO 40〜85%(ただし40%を含まない)、La 10〜40%、Ta 0〜50%(ただし0%を含まない)、TiO+La+Ta 50%以上(ただし50%を含まない)、SiO 0〜10%、B 0〜5%、BaO 0〜10%を含有し、短径が2mm以上であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
さらに、モル%で、Nb 0〜50(ただし50%を含まない)、ZrO 0〜40%、Gd 0〜20%、Y 0〜20%、またはYb 0〜20%を含有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
屈折率(nd)が2.10〜2.35であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
球形状または回転楕円体形状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学ガラスを製造するための方法であって、
ガラス原料を浮遊させて保持した状態で、前記ガラス原料を加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、前記溶融ガラスを冷却する工程を備えることを特徴とする、光学ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスに関し、特に高屈折率特性を有する光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ、顕微鏡及び内視鏡等に用いられる光学系の小型化や軽量化に伴い、使用される光学レンズに用いられるガラスの光学特性として、より高屈折率が求められている。
【0003】
ガラスをより高屈折率にするためには、ガラス骨格成分であるSiOやBの含有量を少なくし、La、Gd、Ta等の希土類酸化物またはNbやTiOを多量に含有させる必要がある。しかしながら、この場合ガラス化が困難になる。これは、一般に、光学ガラスは原料を坩堝等の溶融容器内で溶融し、冷却することで作製されるため、ガラス骨格成分が少ないガラス系では、溶融容器との接触界面を起点として結晶化が進行しやすくなるからである。
【0004】
ガラス化しにくい組成であっても、溶融容器との界面での接触をなくすことによりガラス化が可能となる。このような方法として、原料を浮遊させた状態で溶融、冷却する無容器凝固法(無容器浮遊法)が知られている。当該方法を用いると、溶融ガラスが溶融容器にほとんど接触することがないため、溶融容器との界面を起点とする結晶化を防止することができ、ガラス化が可能となる。例えば、特許文献1では、無容器凝固法により、ガラス組成としてTiOとBaOのみを含有するガラスが作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4789086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のガラスは、比較的失透しやすいため、無容器凝固法を用いた場合であっても、大径化(例えば短径2mm以上)は困難である。
【0007】
以上に鑑み、本発明は、高屈折率であり、かつ大径化が容易である新規な光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、TiO、La及びTaを必須成分として所定範囲で含有する光学ガラスであれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0009】
即ち、本発明の光学ガラスは、モル%で、TiO 0〜85%(ただし0%を含まない)、La 10〜40%、Ta 0〜50%(ただし0%を含まない)、TiO+La+Ta 40%以上を含有することを特徴とする。なお、「TiO+La+Ta」は各成分の含有量の合量を意味する。
【0010】
本発明の光学ガラスは、モル%で、Nb 0〜60%、ZrO 0〜40%、Gd 0〜20%、Y 0〜20%、またはYb 0〜20%を含有することが好ましい。
【0011】
本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)が2.10〜2.35であることが好ましい。
【0012】
本発明の光学ガラスは、球形状または回転楕円体形状であることが好ましい。
【0013】
本発明の光学ガラスは、短径が2mm以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の光学ガラスの製造方法は、上記の光学ガラスを製造するための方法であって、ガラス原料を浮遊させて保持した状態で、ガラス原料を加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、溶融ガラスを冷却する工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来よりも高屈折率であり、かつ耐失透性に優れ、大径化が容易である新規な光学ガラスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の光学ガラスを製造するための装置の一実施形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の光学ガラスは、モル%で、TiO 0〜85%(ただし0%を含まない)、La 10〜40%、Ta 0〜50%(ただし0%を含まない)、TiO+La+Ta 40%以上を含有することを特徴とする。ガラス組成範囲をこのように限定した理由を以下に説明する。
【0018】
TiOは屈折率を高める効果が大きい成分であり、化学的耐久性を高める効果もある。TiOの含有量は、0〜85%(ただし0%を含まない)であり、好ましくは20〜80%、より好ましくは40〜75%、さらに好ましくは40〜70%(ただし40%を含まない)である。TiOの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、TiOの含有量が多すぎると、失透しやすくなり所望の大きさのガラス材が得られにくくなる。
【0019】
Laは屈折率を高める成分である。また、耐候性を向上させる効果もある。Laの含有量は10〜40%であり、好ましくは11〜35%、より好ましくは14〜29%である。Laの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、Laの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0020】
Taは屈折率を高める効果が大きい成分であり、また化学的耐久性を高める効果も有する。Taの含有量は0〜50%(ただし0%を含まない)であり、好ましくは4〜45%、より好ましくは10〜40%である。Taの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、Taの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。また、原料コストが高くなる傾向がある。
【0021】
TiO+La+Taは40%以上であり、好ましくは45%以上である。TiO+La+Taが少なすぎると、所望の高屈折率特性が得られにくくなる。なお、TiO+La+Taの上限は特に限定されないが、他の成分を含有させる場合は、99.9%以下、99%以下、さらには95%以下にしてもよい。
【0022】
本発明の光学ガラスには、上記成分以外にも、Nb、ZrO、Gd、YまたはYbを含有させることができる。これらの成分を導入することで、所望の光学特性を有するガラスを容易に作製することができる。
【0023】
Nbは屈折率を高める効果が大きい成分である。ただし、Nbの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。従って、Nbの含有量は、好ましくは0〜60%、より好ましくは10〜50%である。
【0024】
ZrOは屈折率を高める成分であり、化学的耐久性を高める効果も有する。ただし、ZrOの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。従って、ZrOの含有量は、好ましくは0〜30%、より好ましくは3〜20%である。
【0025】
Gdは屈折率を高める成分である。ただし、Gdの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。従って、Gdの含有量は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜15%である。
【0026】
は屈折率を高める成分である。ただし、Yの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。従って、Yの含有量は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜15%である。
【0027】
Ybは屈折率を高める成分である。ただし、Ybの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。また、原料コストが高くなる傾向がある。従って、Ybの含有量は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜15%である。
【0028】
本発明の光学ガラスには、上記成分以外にも、以下の成分を含有させることができる。
【0029】
Alはガラス骨格を形成し、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Alの含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得られにくくなる。従って、Alの含有量は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜10%である。
【0030】
SiOはガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。また、耐候性を向上させる効果もある。ただし、SiOの含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得られにくくなる。従って、SiOの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜5%である。
【0031】
はガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Bの含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得られにくくなる。従って、Bの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜5%である。
【0032】
GeOは屈折率を高める成分であり、ガラス化範囲を広げる効果もある。ただし、GeOの含有量が多すぎると、原料コストが高くなる傾向がある。従って、GeOの含有量は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜10%である。
【0033】
WOは屈折率を高める効果がある。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、ガラス化範囲を広げる効果もある。ただし、WOの含有量が多すぎると、失透しやすくなり大径化が困難になる傾向がある。従って、WOの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜5%である。
【0034】
SnOは屈折率を高める効果が大きい成分である。ただし、還元により着色の原因となりやすい。従って、SnOの含有量は、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%である。
【0035】
はガラス骨格を構成する成分であり、ガラス化範囲を広げる効果がある。ただし、その含有量が多すぎると、分相しやすくなる。従って、Pの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜3%である。
【0036】
ZnO、MgO、CaO、SrO及びBaOはガラス化を安定にしたり、化学的耐久性を高める効果がある。ただし、その含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得られにくくなる。従って、これらの成分の含有量は、好ましくは各々0〜10%、より好ましくは各々0〜5%である。
【0037】
LiO、NaO、KO及びCsOは溶融温度を低下させる効果があるが、屈折率を低下させるため、合量で0〜10%であることが好ましく、0〜5%であることがより好ましい。
【0038】
清澄剤としてSbを含有させることができる。ただし、着色を避けるため、あるいは環境面を考慮して、Sbの含有量は0.1%以下であることが好ましく、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0039】
PbOは環境への負荷を考慮し、実質的に含有しないことが好ましい。
【0040】
なお、本発明において「実質的に含有しない」とは、意図的に原料として含有させないことを意味し、不可避的不純物の混入まで排除するものではない。より客観的には、含有量が0.1%未満であることを意味する。
【0041】
本発明の光学ガラスの屈折率は、好ましくは2.10以上、より好ましくは2.15以上である。例えば、本発明の光学ガラスをレンズとして使用する場合、屈折率を高めるほどレンズを薄くすることが可能となり、光学デバイスを小型化する上で有利となる。なお、屈折率の上限は、ガラスの安定性を考慮して、好ましくは2.35以下、より好ましくは2.33以下である。
【0042】
本発明の光学ガラスにおいてアッベ数は特に限定されず、例えば10〜25の範囲で適宜調整される。
【0043】
本発明の光学ガラスは、例えば球形状や回転楕円体形状を有する。その場合、短径が2mm以上、2.5mm以上、特に3mm以上であることが好ましい。そのようにすれば、レンズ等の光学素子として適用しやすくなる。
【0044】
本発明の光学ガラスは例えば無容器凝固法により作製することができる。図1は、無容器凝固法によりガラス材を作製するための製造装置の一例を示す模式的断面図である。以下、図1を参照しながら、本発明の光学ガラスの製造方法について説明する。
【0045】
ガラス材の製造装置1は成形型10を有する。成形型10は溶融容器としての役割も果たす。成形型10は、成形面10aと、成形面10aに開口している複数のガス噴出孔10bとを有する。ガス噴出孔10bは、ガスボンベなどのガス供給機構11に接続されている。このガス供給機構11からガス噴出孔10bを経由して、成形面10aにガスが供給される。ガスの種類は特に限定されず、例えば、空気や酸素であってもよいし、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスであってもよい。
【0046】
製造装置1を用いてガラス材を製造するに際しては、まず、上記組成のガラスとなるように調製したガラス原料塊12を成形面10a上に配置する。ガラス原料塊12としては、例えば、原料粉末をプレス成形等により一体化したものや、原料粉末をプレス成形等により一体化した後に焼結させた焼結体や、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体等が挙げられる。
【0047】
次に、ガス噴出孔10bからガスを噴出させることにより、ガラス原料塊12を成形面10a上で浮遊させる。すなわち、ガラス原料塊12を、成形面10aに接触していない状態で保持する。その状態で、レーザー光照射装置13からレーザー光をガラス原料塊12に照射する。これによりガラス原料塊12を加熱溶融してガラス化させ、溶融ガラスを得る。その後、溶融ガラスを冷却することにより、ガラス材を得ることができる。ガラス原料塊12を加熱溶融する工程と、溶融ガラス、さらにはガラス材の温度が少なくとも軟化点以下となるまで冷却する工程とにおいては、少なくともガスの噴出を継続し、ガラス原料塊12、溶融ガラス、さらにはガラス材と成形面10aとの接触を抑制することが好ましい。なお、加熱溶融する方法としては、レーザー光を照射する方法以外にも、輻射加熱であってもよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
表1〜3は本発明の実施例及び比較例をそれぞれ示している。なお、表中において、「Ti+La+Ta」は「TiO+La+Ta」を意味する。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
各試料は次のようにして調製した。まず表に示す各ガラス組成になるように調合した原料粉末を用いてガラス原料塊を作製した。ガラス原料塊は、原料粉末をプレス成型して1100〜1400℃で12時間焼結する方法により作製した。なお、ガラス原料塊は、乳鉢を用いて粗粉砕し、0.1〜0.5gの小片にした状態で用いた。
【0054】
上記で得られたガラス原料塊を用いて、図1に準じた装置を用いた無容器凝固法によって略球形状のガラス材を作製した。なお、熱源としては100W COレーザー発振器を用いた。また、原料塊を浮遊させるためのガスとして酸素ガスを用い、流量1〜15L/minで供給した。
【0055】
得られたガラス材について、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を測定した。結果を表1〜3に示す。
【0056】
屈折率は、ガラス材を厚さ5mmのソーダ板基板上に接着後、直角研磨を行い、島津製作所製KPR−2000用いて、ヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で評価した。
【0057】
アッベ数は上記d線に対する屈折率と、水素ランプのF線(486.1nm)及びC線(656.3nm)に対する屈折率の値を用い、アッベ数(νd)={(nd−1)/(nF−nC)}の式から算出した。
【0058】
表1〜3に示すように、実施例1〜13では、屈折率が2.17763〜2.31976と高く、短径が2.4〜4.2mmと大きい試料が得られた。一方、比較例1及び2の試料は失透して所望の大きさ(短径2mm以上)のガラスが得られなかった。
【符号の説明】
【0059】
1:ガラス材の製造装置
10:成形型
10a:成形面
10b:ガス噴出孔
11:ガス供給機構
12:ガラス原料塊
13:レーザー光照射装置
図1