特許第6681097号(P6681097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6681097
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】カッティング装置
(51)【国際特許分類】
   B26D 5/00 20060101AFI20200406BHJP
   G05B 19/4103 20060101ALI20200406BHJP
   B26D 7/08 20060101ALN20200406BHJP
【FI】
   B26D5/00 F
   G05B19/4103 D
   !B26D7/08 A
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-107671(P2019-107671)
(22)【出願日】2019年6月10日
【審査請求日】2019年7月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513161689
【氏名又は名称】ACS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳史
【審査官】 藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−300288(JP,A)
【文献】 特開2016−159408(JP,A)
【文献】 特開2002−172590(JP,A)
【文献】 特開2019−177447(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/092754(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 5/00
G05B 19/4103
B26D 7/08
B26F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断される材料を載置して該材料を保持する材料保持手段と、
前記材料を切断するための切断手段と、
前記材料保持手段に保持された前記材料に対して前記切断手段を該材料の深さ方向に相対的に昇降させる昇降手段と、
前記深さ方向に垂直な平面上で前記切断手段を前記材料に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記昇降手段及び該移動手段に指令を出力して該昇降手段及び該移動手段を駆動させる制御手段と、
を備え、前記制御手段からの指令に基づき、カットラインに沿って前記切断手段を所定の方向に移動させながら前記材料を切断するカッティング装置であって、
前記カットラインは、前記深さ方向に垂直な平面に投影したときに直線、曲線又はこれらの組み合わせによって囲まれた閉図形を表し、当該カットライン上に始点となる第一の点と、第一の点と異なる位置に存する第二の点とを含み、
前記制御手段は、前記カットラインに沿って前記材料を切断する際に、前記昇降手段及び前記移動手段を共に駆動して、前記切断手段を第一の深さ位置まで降下させつつ該カットラインに沿って前記第一の点から前記第二の点まで移動させ、該第二の点において該昇降手段の駆動を停止して該材料に対する該切断手段の相対的な深さを維持した状態で該切断手段の移動を継続して該第一の点まで前進させる指令をn回(但し、nは2以上の整数)出すことで、前記材料を前記所定のカットラインに沿って第nの深さ位置まで切断するカッティング装置。
【請求項2】
前記n回の指令を出した後、前記制御手段は前記移動手段を駆動して、前記材料に対する前記切断手段の相対的な深さを前記第nの深さ位置に維持した状態で、前記切断手段を前記第一の点から前記第二の点まで移動させる指令を出すカッティング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断手段を移動させて材料を所定のカットラインで切断するカッティング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、特許文献1に示すように、切断刃を前後、左右、上下方向に移動させ、更にこれを回転、傾倒させることが可能なカッティング装置を提案している。このカッティング装置によれば、切断刃を直線状に動かすだけでなく、曲線状にも動かすことができるため、材料を多様な形状で切断することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−237215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで従来の装置で材料を切断する際、材料の表面から深さ方向に直線的に切断刃を裏面まで移動させて、切断刃を材料に貫入させてこれを前進させると、材料の種類や切断する形状によっては、切り出している材料片が切断途中で動いてしまうことがあった。このため、例えば材料を円形に切り出そうとする場合、材料に切断刃を貫入させた位置と切断刃を1周動かした後の位置にずれが生じ、切断刃を貫入した位置にその痕跡が残ることがあった。また、切断刃を移動させる手段としてはサーボモータが一般的であって、切断刃を曲線状に移動させるには、基本的には前後移動用、左右移動用、回転用の3つのサーボモータを使用する必要がある。ここでサーボモータは、対象物を動かすにあたって、指令パルスとフィードバックパルスとの差である溜まりパルスを減じるようにしているが、特に加速時や減速時においては移動する対象物の慣性等の影響を大きく受けて溜まりパルスが増大するため、与えた指令通りに対象物を動かすことは難しい。このため、3つのサーボモータを同時に駆動させて、材料に貫入させた切断刃を円状に前進させようとしても、各サーボモータの挙動を一致させることは難しく、精度よく円形に切り出せないことがあった。特に、切断刃の移動速度を上げると慣性も増すことになり、これによって溜まりパルスの影響がより顕著になるため、切断精度を確保するには切断刃の移動速度を遅くせざるを得ない状況にあった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決することを課題とするものであり、材料を意図した通りの形状で安定して切断することができ、切り出された材料に与える損傷を抑制し、且つ、更に高速で切断する際も切断精度を確保することができるカッティング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、切断される材料を載置して該材料を保持する材料保持手段と、前記材料を切断するための切断手段と、前記材料保持手段に保持された前記材料に対して前記切断手段を該材料の深さ方向に相対的に昇降させる昇降手段と、前記深さ方向に垂直な平面上で前記切断手段を前記材料に対して相対的に移動させる移動手段と、前記昇降手段及び該移動手段に指令を出力して該昇降手段及び該移動手段を駆動させる制御手段とを備え、前記制御手段からの指令に基づき、カットラインに沿って前記切断手段を所定の方向に移動させながら前記材料を切断するカッティング装置であって、前記カットラインは、前記深さ方向に垂直な平面に投影したときに直線、曲線又はこれらの組み合わせによって囲まれた閉図形を表し、当該カットライン上に始点となる第一の点と、第一の点と異なる位置に存する第二の点とを含み、前記制御手段は、前記カットラインに沿って前記材料を切断する際に、前記昇降手段及び前記移動手段を共に駆動して、前記切断手段を第一の深さ位置まで降下させつつ該カットラインに沿って前記第一の点から前記第二の点まで移動させ、該第二の点において該昇降手段の駆動を停止して該材料に対する該切断手段の相対的な深さを維持した状態で該切断手段の移動を継続して該第一の点まで前進させる指令をn回(但し、nは2以上の整数)出すことで、前記材料を前記所定のカットラインに沿って第nの深さ位置まで切断するカッティング装置である。
【0007】
ここで、前記n回の指令を出した後、前記制御手段は前記移動手段を駆動して、前記材料に対する前記切断手段の相対的な深さを前記第nの深さ位置に維持した状態で、前記切断手段を前記第一の点から前記第二の点まで移動させる指令を出すことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるカッティング装置では、材料を切断する際、制御手段の指令によって、移動手段とともに昇降手段を駆動して、切断手段を第一の深さ位置まで降下させつつ所定のカットラインの始点となる第一の点から中間点となる第二の点まで移動させる。そのため、材料に切断手段が貫入して第一の深さ位置に達しても、切り出される部分は元の部分につながっているため、切り出される部分は動きにくくなる。また切り出される部分は元の部分から徐々に切断されるため、切り出される部分に加わる切断時の力が抑制され、この点でも切り出される部分の動きを抑えることができる。また、切り出された材料に与える損傷を抑制することができる。
【0009】
そして、切断手段が第一の深さ位置に達すると、昇降手段の駆動を停止して材料に対する切断手段の相対的な深さを維持したままで切断手段をカットラインに沿って第一の点まで前進させることにより、切り出される部分を動きにくく維持しつつ、材料を切断することができる。当該工程をn回繰り返すことで、材料を所定の深さ位置(第nの深さ位置)まで切断することができる。そのため、切断手段を高速で移動させたときにも、切断精度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に従うカッティング装置の一実施形態を概略的に示した平面図である。
図2図1の実施形態におけるヘッド部周辺を示す側面図である。
図3図1の実施形態におけるヘッド部の正面図である。
図4図1の実施形態におけるヘッド部の側面図である。
図5】切断刃によって材料を円形に切断する状況について説明する図であって、(a)はカットラインLを示す平面図であり、(b)は材料をカットラインLに沿って切断したときの切断面についての展開図であり、(c)は本発明とは別の方法で材料を切断したときの切断面についての展開図である。
図6】カットラインLの他の形状を示す平面図であり、(a)はカットラインLが曲線で囲まれた形状(楕円形)である場合を示す図であり、(b)はカットラインLが直線と曲線の組み合わせによって囲まれた閉図形(角丸形状)である場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に従うカッティング装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1における符号1は、本発明に従うカッティング装置の一実施形態を示している。本実施形態のカッティング装置1は、ベース(材料保持手段)2とヘッド3を備えている。ベース2は、符号Wで示す材料を載置するものである。なお材料Wは、図示の例では平面視において長方形になる平板状のものであるが、形状はこれに限定されるものではない。またその材質は、段ボールのような紙製品や、薄板状の合成樹脂板あるいは金属板、更には比較的厚みのあるポリエチレンや発泡材など、種々のものが含まれる。またヘッド3は、図2図4に示すように材料Wを切断する切断刃(切断手段)Sを保持している。
【0013】
ベース2において、材料Wを載置する載置面は、XYZ直交座標系におけるXY平面に対して平行に延在するものである。本実施形態においては、カッティング装置1を床面に設置した状態において、ベース2の載置面は水平方向に延在する。なお図示は省略するが、ベース2の載置面には、負圧によって材料Wを吸着保持するための吸着穴が設けられている。またベース2には、カッティング装置1に設けられる各種手段を駆動するための電源、エア源等に接続するための付帯設備が設けられている。
【0014】
またベース2とヘッド3との間には、X、Y方向移動手段4、Z方向移動手段5が設けられていて、これによりヘッド3は、ベース2に対してX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動することができる。なお本明細書等では、X、Y方向移動手段4を単に移動手段と称し、Z方向移動手段5を昇降手段と称することもある。
【0015】
本実施形態のX、Y方向移動手段4は、X軸方向に延在するとともにベース2に対してY軸方向に間隔をあけて設けられる一対のX軸レール(不図示)と、X軸レールを摺動するX軸ナット(不図示)と、X軸ナットに保持されるY軸フレーム4aと、図2に示すようにY軸方向に延在するとともにY軸フレーム4aに対してZ軸方向に間隔をあけて設けられる一対のY軸レール4bと、Y軸レール4bを摺動するY軸ナット4cと、Y軸ナット4cに保持されるY軸移動ベース4dを含んで構成されている。また詳細な説明は省略するが、X、Y方向移動手段4には、Y軸フレーム4aやY軸移動ベース4dを移動させるための駆動手段も含まれていて、本実施形態ではサーボモータを使用している。なお、他のモータ(ステッピングモータなど)を用いてもよい。また、上述したレールとナットとの組み合わせに限られず、タイミングベルトとプーリを利用した機構、ボールねじを用いた機構、ラックとピニオンを利用した機構を用いてもよい。
【0016】
またZ方向移動手段5は、Z軸方向に延在するとともにY軸移動ベース4dに対してY軸方向に間隔をあけて設けられる一対のZ軸レール5aと、Z軸レール5aを摺動するZ軸ナット5bと、Z軸ナット5bに保持されるZ軸移動ベース5cを含んで構成されている。更にZ方向移動手段5は、Z軸モータ5dと、Z軸モータ5dの回転によってZ軸移動ベース5cを移動させるボールねじ5eを備えている。
【0017】
ヘッド3は、切断刃SをZ軸周りに回転可能なθ方向移動手段6と、切断刃SをZ軸に直交するα軸(図4参照)周りに回転可能なα方向移動手段7と、切断刃Sを、その長手方向に振動させる振動手段8とを備えている。
【0018】
θ方向移動手段6は、Z軸方向に間隔をあけて設けられる一対のベアリング6aに回転可能に支持されるθ回転軸6bと、θ回転軸6bに保持されるθ軸ベース6c(図3参照)とを含んで構成されている。またθ方向移動手段6は、θ回転軸6bを回転させるものとして、θ回転軸6bに取り付けられるθ軸プーリ6dと、タイミングベルトを介してθ軸プーリ6dを回転させるθ軸モータ6eを備えている。
【0019】
α方向移動手段7は、図3に示すようにθ軸ベース6cに回転可能に支持されるα回転軸7aと、α回転軸7aに取り付けられるα軸プーリ7bと、図2に示すようにタイミングベルトを介してα軸プーリ7bを回転させるα軸モータ7cとを含んで構成されている。更にα方向移動手段7は、α回転軸7aとともに回転するスプラインケース7dと、スプラインケース7dに対して進退可能に設けられるスプライン軸7eと、スプライン軸7eの先端に設けられ、切断刃Sを保持するホルダー7fを備えている。
【0020】
振動手段8は、図2に示すようにスプライン軸7eの後端に連結するクランク8aと、回転可能に軸支されるとともにクランク8aを進退移動させる偏心カム付きシャフト8bと、偏心カム付きシャフト8bに取り付けられる振動付与用プーリ8cと、ベルト(タイミングベルト)を介して振動付与用プーリ8cを回転させる振動付与用モータ8dとを含んで構成されている。すなわち、振動付与用モータ8dによって偏心カム付きシャフト8bが回転すると、その偏心量の振幅をもってクランク8aが振動し、これによりホルダー7fを取り付けたスプライン軸7eも振動するため、ホルダー7fに保持される切断刃Sを長手方向に沿って振動させることができる。
【0021】
切断刃Sは、図2図4に示すように平刃状になるものであり、図3に示すように平板状になる延在面S1の側縁部には、材料Wを切断する刃先S2が設けられている。切断刃Sは、ホルダー7fに対して取り外し可能であって、ホルダー7fに保持される部位から先端の切先S3までの長さが比較的長いものや短いもの、また刃先S2が延在面S1の両側に設けられた両刃のものや片側だけに設けられた片刃のものなど、種々の切断刃Sを取り付けることができる。
【0022】
またカッティング装置1は、このようなX、Y方向移動手段4、Z方向移動手段5、θ方向移動手段6、α方向移動手段7、及び振動手段8を制御するものとして、不図示のコントロール基板(制御手段)を備えている。コントロール基板は、X、Y方向移動手段4、Z方向移動手段5、θ方向移動手段6、α方向移動手段7、及び振動手段8に対して指令を送り、これらを個別に又は連動して駆動させることができる。
【0023】
更にカッティング装置1は、図2に示すように、切断刃Sで材料Wを切断する際に材料Wを押えておく材料押圧手段9を備えている。本実施形態の材料押圧手段9は、切断刃Sの近傍に設けられる押圧板9aと、押圧板9aをヘッド3に対してZ軸方向に移動可能に支持するガイド9bと、押圧板9aを材料Wに対して押圧するための弾性体9cとを含んで構成されている。
【0024】
次に、このような構成を有するカッティング装置1を用いて材料Wを切断する方法について説明する。本実施形態では、図5(a)に示すカットラインLに沿って平板状の材料WをXY平面視において円形に所定の深さ(D(=D1+D2+D3))(図5(b)参照)まで切断する場合について説明する。なお、カットラインLは、該切断刃Sの切先S3が材料Wに最初に当接する点を始点とし、切断刃Sによる材料Wの切断が終了する点を終点(P4)とし、切断刃Sにより材料Wを所定形状に切断するまでの間に切先S3が描く軌跡T(図5(b)参照)をXY平面上に投影した図形をいい、本実施形態では、当該カットラインLは曲線で囲まれた閉じた図形、具体的には円形を呈する。以下、図5(a)及び図5(b)を参照しながら説明する。なお、図5(b)は材料WがカットラインLに沿って切断したときの切断面についての展開図である。図5(b)ではカットラインLと、切断時における切断刃Sの切先S3の描く軌跡Tを直線で表し、材料Wの切断面を一点鎖線で表している。また、切先S3の軌跡Tに連続する点線は材料Wの切断前後における切先S3の移動の軌跡を表している。
【0025】
本実施形態では、カットラインLに沿って材料Wを所定の深さ(D)で切断する際に、以下の3のステップを経る。
【0026】
最初のステップは切断準備ステップである。切断準備ステップでは、コントロール基板はX、Y方向移動手段4とZ方向移動手段5とに指令を出力し、これらを駆動して、切断刃Sの切先S3を移動開始地点P1から材料W表面の貫入開始地点P2まで移動させる。ここで、移動開始地点P1は、図5(a)、(b)に示すように材料Wの上方(Z軸方向上方)にあり、移動開始地点P1をXY平面に投影すると、上記カットラインL上の一点となる。
【0027】
切断刃Sの移動を開始するにあたり、まず、上述したコントロール基板からの指令に基づいてX、Y方向移動手段4とZ方向移動手段5を駆動させ、切断刃Sの切先S3を材料Wの上方(Z軸方向上方)の移動開始地点P1に位置させる。さらに、コントロール基板は、θ方向移動手段6の駆動も開始し、θ方向移動手段6により、切断刃Sの延在面S1(図3参照)が上記カットラインLの接線に沿う(すなわち、上記円の接線に沿う)ようにしておく。また、コントロール基板はα方向移動手段7に対して指令を送り、切断刃Sの切先S3が常に真下(Z方向(材料Wの深さ方向)下方)を向くようにしておく。さらに、コントロール基板は振動手段8にも指令を送り、切断刃Sの切先S3がカットラインLの始点に接するまでの間に振動手段8を駆動させておくようにする。また材料Wは、材料押圧手段9によって押圧しておくこととする。
【0028】
以上の準備を行いつつ、コントロール基板はX、Y方向移動手段4とZ方向移動手段5に指令を送り、切断刃Sを移動開始地点P1から材料Wに対して降下させつつ、XY平面視でカットラインLに沿って円を描くようにして、切断刃Sの切先S3を上記貫入開始地点P2に向けて前進させる。この貫入開始地点P2はカットラインLの始点であり、切断刃Sの切先S3が材料Wの表面に最初に当接する点に相当する。なお、図5(a)及び(b)において矢印Aで示す方向、すなわち、カットラインLに沿って移動開始地点P1から貫入開始地点P2(第一の点)に向かう方向を本発明にいう所定の方向とし、切断刃Sが当該所定の方向に移動することを前進するというものとする。
【0029】
以上の切断準備ステップを実行することで、次のような効果が得られる。切断準備ステップでは、切断刃Sを停止状態から所定の速度に達するまで加速移動させる。また、その間にθ方向移動手段や振動手段8の駆動も安定化させておく。切断刃Sを加速移動させている間は、溜まりパルスの影響によって切断刃Sの挙動が不安定になることがあるものの、本実施形態ではこの間に材料Wの切断を開始していないため、材料Wに損傷を与えることなく、切断精度等に対する溜まりパルスの影響を抑えることができる。
【0030】
上記切断準備ステップが終了すると、コントロール基板は各手段を駆動制御して、切断ステップを実行する。切断ステップでは、コントロール基板は、切先S3の材料Wに対する深さ位置を第一の深さ位置(D1)〜第三の深さ位置(D3)まで段階的に変化させながら材料Wを切断するように、各手段に対して指令を出力する。
【0031】
具体的には、コントロール基板は、X、Y方向移動手段4、Z方向移動手段5、θ方向移動手段6の駆動を継続して、切先S3が第一の深さ位置(D1)に達するまで、カットラインLに沿って切断刃Sを降下させながら等速で前進させる。すなわち、切断刃Sの切先S3がXY平面上において貫入開始地点P2から第一の深さ位置(D1)における貫入終了地点P3(D1)に達するまでの間、切断刃Sの切先S3をXY平面上でカットラインLに沿って移動させながら、切先S3が所定の深さ位置(D1)に達するまで切断刃Sを材料Wに対して相対的に降下させる。
なお、この際、切断刃Sの切先S3がXY平面上において予め定めた所定量(単位量)移動したときに、Z方向における切先S3の降下量が一定量になるようにすることができる。また、この際、切断刃Sの切先S3がXY平面上において予め定めた所定量移動したときのZ方向における切先S3の降下量を所定の関数式等により定義し、切断面を展開したときに切先S3が直線、曲線等の所定の関数式等により定義した軌跡を描くようにしてもよい。
【0032】
切先S3が第一の深さ位置(D1)における貫入終了地点P3(D1)に達した後は、切断刃Sの高さを第一の深さ位置(D1)に維持したままで、カットラインLに沿って円を描くように切断刃Sを貫入開始地点P2(D1)まで前進させる。このとき、コントロール基板は、切断刃Sが所定の速度で等速移動するようにX,Y方向移動手段4の駆動を継続させる指令を出力し、Z方向移動手段5の駆動を停止させる指令を出力する。
【0033】
本実施形態では、コントロール基板はこの動作を3回行わせることで、材料Wを所定の深さ(D)で切断する。すなわち、コントロール基板は切断刃Sの切先S3が第一の深さ位置(D1)における貫入開始地点P2(D1)に達すると、上記と同様の手順により、切先S3を第二の深さ位置(D2)における貫入終了地点P3(D2)、第二の深さ位置(D2)における貫入開始地点P2(D2)まで移動させる。そして、更に切先S3を第三の深さ位置(D3)における貫入終了地点P3(D3)、第三の深さ位置(D3)における貫入開始地点P2(D3)の順に移動させながら材料Wを切断する。
【0034】
その後、切断刃Sの切先S3が第三の深さ位置(D3)における貫入終了地点P3(D3)に達した後も、コントロール基板は引き続きX、Y方向移動手段4の駆動を継続して、切先S3の高さを第三の深さ位置(D3)に維持したままで、カットラインLに沿って切断刃Sの切先S3を当該カットラインLの終点P4となる第三の深さ位置(D3)における貫入開始地点P2(D3)まで前進させる。
【0035】
以上の動作により、切断ステップが完了し、材料Wが所定の深さ(D(但し、D=D1+D2+D3))で円形に切り出される。なお、当該所定の深さ(D)は材料Wの厚みと同じであってもよいし、材料Wの厚みよりも小さくてもよい。
【0036】
このように切断ステップでは、材料Wを切断する際に切断刃Sの深さ位置を変化させるときは切断刃SをZ方向に直線的に移動させるのではなく、切断刃Sの切先S3をXY平面上でカットラインLに沿って移動させながら、Z方向に移動させることによって、材料Wが切断刃Sによって切り出されるカットラインLの内側部分と、その外側部分とをつなげた状態で材料Wを切り出すことができる。そのため、この内側部分が切断時に動くのを抑えることができる。また切断刃Sを深さ方向に移動させる際に材料Wは、カットラインLに沿って深さ方向に徐々に切断されていくため、切断刃Sから過剰な力を受けることがなく、この点でも内側部分の動きが抑えられ、切断刃Sにより材料Wを精度よく切断することができる。つまり、Z方向移動手段5により切断刃Sを材料Wに対して相対的に降下させる際に、切先S3の位置をXY平面上で一点に留めることなく、切先S3をXY平面上で常に移動させることによって、これらの効果を得ることができる。
【0037】
更に、本実施形態では、コントロール基板は、切断刃Sが貫入開始地点P2に達するまで(切先S3を材料Wに接し貫入させるまで)に、切断刃Sの移動速度が所定の速度に達するようにX,Y方向移動手段4及びZ方向移動手段5を駆動させる指令を出力し、切断ステップでは、所定の速度で等速移動するようにX,Y方向移動手段4及びZ方向移動手段5を駆動させる指令を出力する。このように、切断刃Sによって切り出されるカットラインLの内側部分と、その外側部分とがつながった状態で切断刃Sを等速移動させることで、切断刃Sを速い速度で移動させたときも材料Wの切り出される部分を動きにくく維持したまま材料Wを切断することができる。そのため、材料Wを高い精度で切断することができる。
【0038】
切断ステップが完了すると、コントロール基板は次のように各手段に指令を出力して抜去停止ステップを実行する。まず、コントロール基板は、X、Y方向移動手段4及びZ方向移動手段5に指令を出力して、切断刃SをカットラインLに沿って徐々に上昇させながら等速で前進させて、材料Wから切断刃Sを抜去する。
【0039】
そして、切断刃Sが材料Wから抜去された後、コントロール基板はX、Y方向移動手段4及びZ方向移動手段5に指令を出力して切断刃Sを減速させる。これにより切断刃Sは、切先S3が所定の移動停止地点(図示略)に達したところで停止する。
【0040】
このように、切断刃Sの減速を、切先S3が材料Wから抜去されてから開始することにより、溜まりパルスの影響を受けて減速移動中に切断刃Sの移動が不安定になることがあっても、切断精度に影響を及ぼすことはない。
【0041】
なお図示は省略するが、切断刃Sを材料Wから抜去するにあたっては、材料Wを上記と同様にして切り出した後、カットラインLに沿って切断刃Sの材料Wに対する深さを維持したまま前進させつつこれを減速させ、切断刃Sが停止した後は、切先S3が材料Wから脱するまで切断刃SをZ方向に対して直線的に上昇させるようにしてもよい。この場合は、切断刃Sが材料Wから完全に抜去されていない状態でこれを減速させているが、この動作は材料WをカットラインLに沿って切り出した後であるため、切断精度に影響を及ぼすことはない。なお、当該方法で切断刃Sを停止させた後は、切断刃Sの切先S3を材料Wから脱する方法は特に限定されるものではなく、上記と同様にして切断刃Sを平面視で当該カットラインLに沿ってXY平面上で移動させながらZ方向にも移動させるようにしてもよい。
【0042】
また以上のように材料Wを切断することにより、図5(c)に示すように、XY平面上の移動量に対するZ方向への移動量が一定の割合になるように切断刃Sを移動させながら材料Wを切断した場合、すなわち切先S3が所定の深さ位置Dに達するまで切断刃Sを継続してXY平面上においても移動させた後、切断刃SをカットラインLに沿って一周前進させることで材料Wを切断した場合は、本実施形態における切断方法と比較すると切断時における切断刃Sの移動量が長くなる。そのため、本実施形態において説明した方法で材料Wを切断することにより、材料Wを切断する際の切断刃Sの移動量を小さくすることができ、材料Wの切断に要する時間を短縮することができる。
【0043】
以上説明した実施形態は本発明の一態様であり、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、上記実施形態では、カットラインLが円形である場合を例に挙げて説明したが、本発明においてカットラインLの形状特に限定されるものではなく、例えば、図6(a)に示すような楕円形等の曲線によって囲まれた他の閉図形であってもよいし、図6(b)に示すような正方形の角が丸められたいわゆる角丸形状等の直線と曲線の組み合わせによって囲まれた閉図形であってもよい。カットラインLの形状が異なる場合であっても、カットラインLの形状が直線、曲線又はこれらの組み合わせによって囲まれた閉図形であれば本発明を適用することができる。
【0044】
また、上記実施形態では、切断ステップにおいてコントロール基板は3段階に分けて深さ位置を変化させながら材料Wを切断するよう制御したが、2段階に分けて深さ位置を変化させながら材料Wを切断してもよいし、4段階以上に分けて深さ位置を変化させながら材料Wを切断してもよい。材料Wを切断すべき所定の深さ(D)に応じて、適宜、第一の深さ位置(D1)〜第nの深さ位置(Dn)を調整することができる。
【0045】
更に上記実施形態では固定した材料Wに対して切断刃Sを動かすことによって切断を行うようにしていたが、固定した切断刃Sに対して材料Wを動かすようにしてもよい。更に上述した実施形態では円形の穴が形成されるように材料Wを切断したが、円形の突起が形成されるように切断することも可能である。この場合は、切断刃Sを前進させつつ材料Wの厚み方向の途中まで貫入させ、更にその深さを維持したまま円を描くようにこれを1周前進させた後、切断刃Sを前進させながら抜去することによって、円形の溝を形成しておく。その後は、例えば材料Wを載置する向きを変えるなどして溝の外側部分を取り除くように切断を行えばよい。また上述した実施形態では切断刃Sを真下に向けていたが、α方向移動手段7を駆動させて切断刃Sを傾けることにより、例えば円錐面形状に材料Wを切り出すことも可能である。
【符号の説明】
【0046】
1:カッティング装置
2:ベース(材料保持手段)
3:ヘッド
4:X、Y方向移動手段(移動手段)
4a:Y軸フレーム
4b:Y軸レール
4c:Y軸ナット
4d:Y軸移動ベース
5:Z方向移動手段(昇降手段)
5a:Z軸レール
5b:Z軸ナット
5c:Z軸移動ベース
5d:Z軸モータ
5e:ボールねじ
6:θ方向移動手段(移動手段)
6a:ベアリング
6b:θ回転軸
6c:θ軸ベース
6d:θ軸プーリ
6e:θ軸モータ
7:α方向移動手段(移動手段)
7a:α回転軸
7b:α軸プーリ
7c:α軸モータ
7d:スプラインケース
7e:スプライン軸
7f:ホルダー
8:振動手段
8a:クランク
8b:偏心カム付きシャフト
8c:振動付与用プーリ
8d:振動付与用モータ
9:材料押圧手段
9a:押圧板
9b:ガイド
9c:弾性体
L:カットライン
P1:移動開始地点
P2:貫入開始地点(第一の点)
P3:貫入終了地点(第二の点)
P4:抜去終了地点
S:切断刃(切断手段)
S1:延在面
S2:刃先
S3:切先
W:材料
【要約】
【課題】材料を意図した通りの形状で安定して切断でき、高速で切断する際も切断精度を確保することができるカッティング装置を提案する。
【解決手段】本発明のカッティング装置1は材料Wに対して切断手段Sを相対的に昇降させる昇降手段5と、材料Wに対して切断手段Sを相対的に前進させる移動手段4と、これらを駆動させるための指令を出力する制御手段とを備え、材料Wを閉図形を表すカットラインLに沿って切断する際に、制御手段は昇降手段5及び移動手段4に指令を出力し、切断手段を第一の深さ位置まで降下させつつカットラインLに沿って第一の点P2から第二の点P3まで移動させ、第二の点P3において材料に対する切断手段の相対的な深さを維持した状態で切断手段の移動を継続して第一の点P2まで前進させる指令をn回(但し、nは2以上の整数)出すことで、材料をカットラインに沿って第nの深さ位置まで切断させる。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6