特許第6681118号(P6681118)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681118
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】鉄道車両の空気ばねシステム
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/10 20060101AFI20200406BHJP
   F16F 9/04 20060101ALI20200406BHJP
   F16F 9/46 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   B61F5/10 D
   F16F9/04
   F16F9/46
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-64433(P2016-64433)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-177887(P2017-177887A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】新村 浩
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信之
(72)【発明者】
【氏名】三原 丈和
【審査官】 諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−144974(JP,A)
【文献】 特開2011−161980(JP,A)
【文献】 特開2010−285117(JP,A)
【文献】 特開2005−343294(JP,A)
【文献】 特開昭61−135809(JP,A)
【文献】 特開平08−324425(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−0822262(KR,B1)
【文献】 中国特許出願公開第104755352(CN,A)
【文献】 西独国特許出願公告第01088086(DE,B)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0121526(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/04
B61F 5/10
F16F 9/04
F16F 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に備えられた空気ばねと、該空気ばねにオリフィスを介して連通する補助空気室と、を備える鉄道車両の空気ばねシステムにおいて、
前記空気ばねの高さの制御を行う制御装置と、制御タイミングを記憶した記憶装置と、
複数の前記補助空気室とを備え、
前記空気ばねと前記補助空気室のうち少なくとも1つとは遮断弁を介して接続され、
前記空気ばねと前記補助空気室との容積比が変化するように、前記制御装置によって前記遮断弁を制御すること、
前記補助空気室が、第1補助空気室と該第1補助空気室と容積の異なる第2補助空気室とを有し、
前記第2補助空気室は遮断弁を介して前記第1補助空気室または前記空気ばねに接続され、
鉄道車両の車体傾斜を行う際に、前記制御装置によって前記遮断弁を制御し、前記第1補助空気室と前記第2補助空気室を前記空気ばねと連通させ、前記空気ばねと前記補助空気室の容積比を車体傾斜前と同じとすること、
を特徴とする鉄道車両の空気ばねシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両の空気ばねシステムにおいて、
前記記憶装置に記憶される制御タイミングで前記制御装置によって前記遮断弁を開閉すること、
を特徴とする鉄道車両の空気ばねシステム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鉄道車両の空気ばねシステムにおいて、
前記遮断弁の制御を、前記制御装置に備える前記記憶装置によって記憶された制御タイミングが、運行経路情報によって決定されていること、
を特徴とする鉄道車両の空気ばねシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の空気ばねシステムに関し、具体的には空気ばねと補助空気室とそれらを繋ぐ流路に設けられたオリフィスによって形成された空気ばねシステムを工夫することによって鉄道車両の上下振動低減を実現させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用のサスペンションとして採用される空気ばねは、二次ばねとして車両の台車と車体との間に設置されている。この空気ばねの機能には、ばね要素と減衰要素があり、減衰要素は、空気ばねと補助空気室の間に設置されたオリフィスの働きによって実現されている。
【0003】
特許文献1には、鉄道車両用台車に関する技術が開示されている。特許文献1の鉄道車両用台車のボルスタ(枕梁)は内部を上下方向に分割して形成され、それぞれを補助空気室として差圧弁を介して空気ばねに接続している。この様な構成とすることで補助空気室をボルスタ内部に形成し易くなる。こうした補助空気室と空気ばねの間に設置されたオリフィスにより空気ばねの減衰を確保している。しかしながら、走行区間や走行速度などに応じた最適オリフィス径が存在する。このため、オリフィス径を変更可能な構成にする事も考えられている。
【0004】
特許文献2には、車両用空気ばね装置に関する技術が開示されている。台車と車体との間に配置する空気ばねの内室と外部の補助空気室との間に空気通路に駆動源を含む可変オリフィスを設けている。そして、車両の走行地点又は走行速度に応じて設定した最適なオリフィス径を制御装置に予め入力し、この制御装置からの指令で設定地点又は設定速度の時に設定されたオリフィス径となるように可変オリフィスを制御する。こうすることで、車両の乗り心地を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−112304号公報
【特許文献2】特開2011−162156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の可変オリフィスを用いた鉄道車両は、メンテナンス性について問題があると考えられる。可変オリフィスは構造が複雑であり、可動部を有しているので定期的なメンテナンスが必要となる。また、故障した場合には交換も必要である。しかしながら、可変オリフィスの配置される場所は、空気ばね本体と補助空気室との間に配置されている。この為、可変オリフィスのメンテナンスや交換の際には、空気ばねをボルスタなどから外す必要があり、その為には台車から車体を降ろさなくてはならない。台車から車体を降ろすには専用の機材を要し、時間もかかる。定期点検以外にそのような作業が生じる事は、メンテナンスコストを増大させる要因となる。
【0007】
そこで、本発明はこの様な課題を解決する為に、可変オリフィスを用いずに空気ばねの特性変更が可能な鉄道車両の空気ばねシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による鉄道車両の空気ばねシステムは、以下のような特徴を有する。
【0009】
(1)鉄道車両に備えられた空気ばねと、該空気ばねにオリフィスを介して連通する補助空気室と、を備える鉄道車両の空気ばねシステムにおいて、前記空気ばねの高さの制御を行う制御装置と、制御タイミングを記憶した記憶装置と、複数の前記補助空気室とを備え、前記空気ばねと前記補助空気室のうち少なくとも1つとは遮断弁を介して接続され、前記空気ばねと前記補助空気室との容積比が変化するように、前記制御装置によって前記遮断弁を制御すること、を特徴とする。
【0010】
上記(1)に記載の態様により、前記鉄道車両の空気ばねシステムは、複数の補助空気室を備えて空気ばねと補助空気室の容積比が変化しないように制御装置によって制御する。その結果、鉄道車両の乗り心地を向上させることが出来る。空気ばねと補助空気室との容積比によって、空気ばねの応答倍率が決定され振動特性が決まることが知られているが、例えば車体傾斜時に一方の空気ばねが大きくなっていると、車体傾斜時以外の振動特性とは異なる状態となる。このため、特定の振動を減衰しきれないなどの事態が想定される。
【0011】
しかしながら、補助空気室を複数備えて、必要に応じて空気ばねとの容積比を調整することで、最適な振動特性を得ることができる。この結果、鉄道車両の乗り心地に貢献することが出来る。そして、この際に可変オリフィスを用いず遮断弁を使用する為、比較的単純な構成によって鉄道車両の乗り心地改善を実現出来る。このため、空気ばねシステムのメンテナンス性の向上に寄与することが出来る。
【0012】
(2)(1)に記載の鉄道車両の空気ばねシステムにおいて、前記補助空気室が、第1補助空気室と該第1補助空気室と容積の異なる第2補助空気室とを有し、前記第2補助空気室は遮断弁を介して前記第1補助空気室または前記空気ばねに接続され、鉄道車両の車体傾斜を行う際に、前記制御装置によって前記遮断弁を制御し、前記第1補助空気室と前記第2補助空気室を前記空気ばねと連通させ、前記空気ばねと前記補助空気室の容積比を車体傾斜前と同じとすること、が好ましい。
【0013】
上記(2)に記載の態様により、第1補助空気室は第2補助空気室と連通することでその容積を拡大することが出来る。空気ばねは車体傾斜によって容積が変化するが、この容積変化に合わせて複数の補助空気室を備え、遮断弁を介して空気ばねに接続することで、補助空気室の容積拡大が可能となる。その結果、空気ばねの内容積の変化を見越して、補助空気室の内容積を変化させ、車体傾斜前と同じ容積比とすることで応答倍率を変化させることなく維持出来る。そして、鉄道車両の乗り心地改善に寄与することが出来る。
【0014】
また、前記目的を達成するために、本発明の別の態様による鉄道車両の空気ばねシステムは、以下のような特徴を有する。
【0015】
(3)鉄道車両に備えられた空気ばねと、該空気ばねにオリフィスを介して連通する補助空気室と、を備える鉄道車両の空気ばねシステムにおいて、前記空気ばねと前記空気ばねに接続される前記補助空気室の容積比の制御を行う制御装置と、制御タイミングを記憶した記憶装置と、複数の前記補助空気室とを備え、前記補助空気室が、第1補助空気室と第2補助空気室とを有し、前記空気ばねと前記第2補助空気室は遮断弁を介して接続され、前記記憶装置に記憶される制御タイミングで前記制御装置によって前記遮断弁を開閉すること、を特徴とする。
【0016】
上記(3)に記載の態様により、鉄道車両の乗り心地改善のために、空気ばねと空気ばねに接続される補助空気室の容積比を変更することで、例えば車体傾斜時だけでなく、トンネル内や鉄道橋の上などの乗り心地が変化するような区間において、適切な空気容量を任意に選択することが可能である。この結果、比較的単純な構成で鉄道車両の乗り心地を改善する事が可能となる。
【0017】
(4)(2)または(3)に記載の鉄道車両の空気ばねシステムにおいて、前記遮断弁の制御を、前記制御装置に備える前記記憶装置によって記憶された制御タイミングが、運行経路情報によって決定されていること、が好ましい。
【0018】
上記(4)に記載の態様により、第1補助空気室と第2補助空気室との連通のタイミングを運行経路情報によって制御することが出来る。空気ばねの内容積は車体傾斜などによって変化するが、車体傾斜を行うのは通過速度の向上や乗り心地の改善を意図したもので、線路の曲線部にさしかかったときに曲率半径とカント量に応じて鉄道車両が傾斜される。従って運行経路情報に応じて空気ばねの内容積は変化する。このため、補助空気室の内容積もこれにあわせて変化させることが合理的である。また、路線によっては部分的に他の位置とは異なる応答倍率にした方が乗り心地を改善できるケースもあり、こうした場合にも適宜、補助空気室の内容積を変更してやることで、鉄道車両の乗り心地改善が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態の、鉄道車両の模式断面図である。
図2】本実施形態の、鉄道車両の車体傾斜を行った様子の模式断面図である。
図3】本実施形態の、補助空気室と空気ばねの接続を表す模式図である。
図4】本実施形態の、周波数と応答倍率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の実施形態について図面を用いて説明を行う。図1に、本実施形態の鉄道車両の模式断面図を示す。図2に、鉄道車両の車体傾斜を行った様子の模式断面図を示す。鉄道車両100は、台車10の上に空気ばね20を介して構体50を備えている。構体50を支える空気ばね20は、便宜的に向かって左側を第1空気ばね20Aとし、向かって右側を第2空気ばね20Bとする。ただし、空気ばね20と記載する場合には、第1空気ばね20Aまたは第2空気ばね20Bの両方、或いはその何れか1つを示すものとする。
【0021】
なお、鉄道車両100では、1つの構体50に対して2つの台車10が用いられるケースが多く、都合4つの空気ばね20が備えられることになるが、左側2つは第1空気ばね20Aと同じ動きをし、右側2つは第2空気ばね20Bと同じ動きをするものとして説明する。
【0022】
台車10は、側梁11と横梁12よりなる台車枠13と、その下部に配置される車輪15と台車枠13を支えるバネ部材14を備えている。車輪15はレール30の上を走るために備えられている。
【0023】
図3に、補助空気室と空気ばねの接続を表す模式図を示す。空気ばね20には、補助空気室40が接続されている。補助空気室40は、第1補助空気室41と第2補助空気室42の2つが用意される。なお、補助空気室40と表記する場合には、第1補助空気室41及び第2補助空気室42の両方か、何れか1つを示すものとする。
【0024】
この第1補助空気室41は第1配管L1を介して空気ばね20に接続され、その途中には第1オリフィス26が備えられている。第2補助空気室42は第2配管L2を介して第1配管L1に接続され、その途中には第2オリフィス27と遮断弁25が備えられている。遮断弁25は、制御装置150に接続されて制御される。
【0025】
なお、第1補助空気室41及び第2補助空気室42は、専用のタンクを用意しても良いが、特許文献1のように側梁11または横梁12の内部空間を利用しても良い。本実施形態では側梁11の内部空間を補助空気室として利用することを想定している。
【0026】
制御装置150には図示しない記憶手段が備えられており、記憶手段にはカーブや鉄道橋、トンネルなどの位置を示す運行経路情報が記憶されている。また、鉄道車両100は空気ばね車体傾斜方式を採用しているので、空気ばね20は、制御装置150によって制御され、第1空気ばね20Aと第2空気ばね20Bの伸縮を変更することで、図2に示すような構体50の傾斜を実現している。
【0027】
ここで、図2に示すような状態に鉄道車両100を車体傾斜させた状態について説明する。この状態では第1空気ばね20Aの容積が30L程度に対して、伸長している第2空気ばね20Bの容積が45Lとなっている。つまり、空気ばね20の内容積が左右で異なる状況になっている。この際には、第2空気ばね20B側に接続される第2補助空気室42に繋がる遮断弁25を制御装置150によって開き、第2空気ばね20Bと連通させる。車体傾斜を解除する際には、この遮断弁25を閉じるように制御装置150によって制御する。
【0028】
本実施形態の鉄道車両の空気ばねシステムは上記構成であるため、以下に説明するような作用及び効果を奏する。
【0029】
本実施形態の鉄道車両100の空気ばねシステムでは、可変オリフィスのような複雑な機構の装置を必要としない。これは、鉄道車両100に備えられた空気ばね20と、空気ばね20にオリフィスを介して連通する補助空気室40と、を備える鉄道車両100の空気ばねシステムにおいて、空気ばね20の高さの制御を行う制御装置150と、制御タイミングを記憶した記憶装置と、複数の補助空気室40とを備え、空気ばね20と補助空気室40のうち第2補助空気室42は遮断弁25を介して接続され、空気ばね20と補助空気室40との容積比が変化するように、制御装置150によって遮断弁25を制御するからである。
【0030】
第1空気ばね20Aと第2空気ばね20Bにはそれぞれ別の補助空気室40が用意され、例えば第2空気ばね20Bに対して第1補助空気室41と第2補助空気室42が接続されているとして、図2に示すような車体傾斜制御を行った際には、制御装置150によって遮断弁25が開かれる。この結果、第2空気ばね20Bと補助空気室40(第1補助空気室41と第2補助空気室42の容積の和)との容積比が1.5となる。これは、第1空気ばね20Aと補助空気室40との容積比と等しい。
【0031】
つまり、遮断弁25によって、車体傾斜時における補助空気室40の内容積を増やす事ができ、空気ばね20と補助空気室40との容積比を、車体傾斜制御していない場合と概ね等しくなるように変化させることができる。図4に、周波数と応答倍率の関係をグラフに示す。この様に、容積比によって応答倍率と周波数は異なる関係を示すことが実験でも確かめられており、本実施形態の鉄道車両100は、容積比1.5倍の時に応答倍率のピークが低くなる傾向にある。
【0032】
つまり、このように空気ばね20と補助空気室40との容積比が車体傾斜前と車体傾斜中とで変動しないように遮断弁25を制御することで、鉄道車両100の乗り心地の向上に寄与することが出来る。このような制御は車体傾斜時だけでなく、空気ばね20の固有振動付近の振動が大きい場合に容積比を変動するように遮断弁25を制御して容積比を大きくしても良いし、空気ばね20の固有振動より高い周波数の振動が大きい場合には容積比を小さくしても良い。その指標となるのが図4に示す周波数と応答倍率の関係であり、例えば鉄道車両100がトンネル通過する際や鉄道橋などを渡る際には、振動特性が変化するため、これに対応させて遮断弁25を制御することも好ましい。
【0033】
以上、本発明に係る鉄道車両の空気ばねシステムの実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、空気ばね20と補助空気室40との容積比を1.5になる様に遮断弁25の制御を行っているが、鉄道車両100の振動応答倍率に応じてこれを変更することを妨げない。また、第1補助空気室41と第2補助空気室42の2つを例示しているが、例えば第3補助空気室など、3つ以上の補助空気室を追加して更に細かく制御することも出来る。
【符号の説明】
【0034】
10 台車
20 空気ばね
30 レール
40 補助空気室
50 構体
100 鉄道車両
150 制御装置
図1
図2
図3
図4