特許第6681152号(P6681152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681152
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】管状物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/91 20130101AFI20200406BHJP
   C23F 1/02 20060101ALI20200406BHJP
   C25D 1/08 20060101ALI20200406BHJP
   C25D 1/10 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   A61F2/91
   C23F1/02
   C25D1/08
   C25D1/10
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-105207(P2015-105207)
(22)【出願日】2015年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-214712(P2016-214712A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年5月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515141702
【氏名又は名称】株式会社エムダップ
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】高橋 圭二
(72)【発明者】
【氏名】佐野 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】大山 靖
(72)【発明者】
【氏名】比恵島 徳寛
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−184736(JP,A)
【文献】 特開2000−008187(JP,A)
【文献】 特開2005−021504(JP,A)
【文献】 特表2010−530795(JP,A)
【文献】 米国特許第5855802(US,A)
【文献】 国際公開第2014/134568(WO,A2)
【文献】 特表2016−502417(JP,A)
【文献】 特開2001−279500(JP,A)
【文献】 特表2013−537440(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0049310(US,A1)
【文献】 特開2008−240142(JP,A)
【文献】 特開2009−228127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/91
C23F 1/02
C25D 1/08
C25D 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状物を製造する方法であって、
内部に耐エッチング剤を充填した管を用意する工程と、
前記管外面にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することで、前記管外面にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記管を貫通するまでエッチングする工程と、
前記管の内部の前記耐エッチング剤及び前記レジストパターンを除去する工程と、
を具備することを特徴とする管状物の製造方法。
【請求項2】
管状物を製造する方法であって、
内部に耐エッチング剤を充填した管を用意する工程と、
前記管の外面に電解メッキ法によりメタルマスク用メッキ膜を形成する工程と、
前記メタルマスク用メッキ膜上にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することで、前記メタルマスク用メッキ膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記メタルマスク用メッキ膜をエッチングすることで、前記管の外面にメタルマスクを形成する工程と、
前記レジストパターンを剥離する工程と、
前記メタルマスクをマスクとして前記管をエッチングする工程と、
前記管の内部の前記耐エッチング剤及び前記メタルマスクを除去する工程と、
を具備することを特徴とする管状物の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記管を用意する工程と前記レジストパターンを形成する工程との間に、前記管の外面に疎水処理を行う工程を有することを特徴とする管状物の製造方法。
【請求項4】
請求項2において、
前記メタルマスク用メッキ膜を形成する工程と前記レジストパターンを形成する工程との間に、前記メタルマスク用メッキ膜の表面に疎水処理を行う工程を有することを特徴とする管状物の製造方法。
【請求項5】
管状物を製造する方法であって、
柱状部材の側面に導電膜を形成する工程と、
前記導電膜上にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することで、前記導電膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンから露出する前記導電膜上に電解メッキ法にてメッキ膜を形成する工程と、
前記レジストパターンを剥離する工程と、
前記導電膜をエッチングにより除去することで、前記メッキ膜を前記柱状部材から除去する工程と、
を具備することを特徴とする管状物の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記導電膜を形成する工程と前記レジストパターンを形成する工程との間に、前記導電膜に疎水処理を行う工程を有することを特徴とする管状物の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項において、
前記管状物は医療器具であることを特徴とする管状物の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか一項において、
前記インクジェットにて描画する前記管は、枝状に分岐した管形状または端部の径が異なる管形状を有することを特徴とする管状物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
管状物の一例としてはステントがある。ステントとは、人体の管状の部分(血管、気管、食道、十二指腸、大腸、胆道など)を管腔内部から広げる医療機器である。ステントの一例としては金属でできた網目の筒状のものがあり、治療する部位に応じたステントが用いられる。狭心症、急性心筋梗塞、急性冠症候群、癌による血管、気管や食道、十二指腸、大腸、胆道などの狭窄、脳梗塞などの治療としてステントグラフト内挿術が行われる。
【0003】
従来のステントの製造方法は次のとおりである。
医療用のステンレス(SUS316L,SUS316LVN)、コバルトクロム、NiTi等の素材となる単一金属または合金のパイプを外周からレーザー光によって加工し、その後、熱処理、酸洗浄、電解研磨の工程を経てステントが製作される。酸洗浄、電解研磨の工程は、レーザー加工時に、切り口にバリが生ずるため、そのバリを除去してステントの表面を滑らかにして仕上げを行う工程である。
【0004】
上記従来のステントの製造方法では、レーザー加工時に、素材のパイプ自体が過熱されてパイプの表面上に不純物等の偏析が生じ、酸洗浄の工程でステントの網目の一部が断線する事がある。
【0005】
また、長手方向が例えば100mm以上の長物のステントを製作しようとすると、レーザー加工後にステントが冷却される時、ステントの自重による垂れのために必要な加工精度が保てないという問題がある。そのため、必要な加工精度が保てるステントの長さは30〜40mm程度が限界であり、それより長いステントでは加工精度が上がらないので、上記従来のステントの製造方法では、長物のステントに対応することができないという問題がある。
【0006】
つまり、レーザー加工を用いたステントの製造方法では、レーザー加工時にステントに加えられる熱が問題となるので、そのような熱が加工時に発生しないステントの製造方法が求められている。
【0007】
また、上述したレーザー加工では、外径が一定である同径のパイプしか加工することができない。そこで、外径が一定でないパイプ(例えば端部の外径が異なるパイプ)や枝状に分岐した管(例えば枝管)を加工することについても産業上のニーズがあると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−36817
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一態様は、レーザー加工のような熱が加工時に発生しないステントの製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明の一態様は、外径が一定でない管状物または枝状に分岐した管状物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、本発明の種々の態様について説明する。
[1]管状物を製造する方法で、所望の形状をエッチングにより得るために管外面にレジストパターンを形成する工程において、インクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することを特徴とする管状物の製造方法。
[2]管状物を製造する方法で、所望の形状を電解メッキ法にてメッキ膜として得るために、管外面にレジストパターンを形成する工程において、インクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することを特徴とする管状物の製造方法。
[3]上記[1]または[2]において、
前記管状物は医療器具であることを特徴とする管状物の製造方法。
[4]上記[1]乃至[3]のいずれか一項において、
前記インクジェットにて描画する前記管は、枝状に分岐した管形状または端部の径が異なる管形状を有することを特徴とする管状物の製造方法。
【0011】
[11]被加工用管の外面にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することで、前記被加工用管の外面にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記被加工用管をエッチングすることで管状物を形成する工程と、
前記レジストパターンを除去する工程と、
を具備することを特徴とする管状物の製造方法。
[12]被加工用管の外面にメッキ膜を形成する工程と、
前記メッキ膜上にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することで、前記メッキ膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記メッキ膜をエッチングすることで、前記被加工用管の外面に前記メッキ膜からなるメタルマスクを形成する工程と、
前記メタルマスクをマスクとして前記被加工用管をエッチングすることで管状物を形成する工程と、
前記メタルマスクから前記管状物を離す工程と、
を具備することを特徴とする管状物の製造方法。
【0012】
[13]上記[11]または[12]において、
前記管状物はステントであることを特徴とする管状物の製造方法。
【0013】
[14]上記[11]乃至[13]のいずれか一項において、
前記被加工用管は、枝状に分岐した管形状または端部の径が異なる管形状を有することを特徴とする管状物の製造方法。
【0014】
[14−1]人体の管状の部分を管腔内部から広げるためのステントであって、
前記ステントは、被加工用管を外面側からウェットエッチングにより加工したものであり、
前記ウェットエッチングによる加工面がテーパー形状を有することを特徴とするステント。
【0015】
[14−2]上記[14−1]において、
前記ステントは、
被加工用管の外面にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することで、前記被加工用管の外面にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記被加工用管をエッチングすることで管状物を形成する工程と、
前記レジストパターンを除去する工程を経て得られた前記管状物であることを特徴とするステント。
【0016】
[14−3]上記[14−1]において、
前記ステントは、
被加工用管の外面にメッキ膜を形成する工程と、
前記メッキ膜上にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することで、前記メッキ膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記メッキ膜をエッチングすることで、前記被加工用管の外面に前記メッキ膜からなるメタルマスクを形成する工程と、
前記メタルマスクをマスクとして前記被加工用管をエッチングすることで管状物を形成する工程と、
前記メタルマスクから前記管状物を離す工程を経て得られた前記管状物であることを特徴とするステント。
【0017】
[15]柱状部材の外面に導電膜を形成する工程と、
前記導電膜上にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することで、前記導電膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンから露出する前記導電膜上に電解メッキ法によりメッキ膜を形成する工程と、
前記レジストパターンを除去し、前記導電膜を除去することで、前記メッキ膜を前記柱状部材から離す工程と、
を具備することを特徴とする管状物の製造方法。
【0018】
[16]導電性を有する柱状部材上にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することで、前記柱状部材上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンから露出する前記柱状部材上に電解メッキ法によりメッキ膜を形成する工程と、
前記レジストパターンを除去することで、前記メッキ膜を前記柱状部材から離す工程と、
を具備することを特徴とする管状物の製造方法。
【0019】
[17]上記[15]または[16]において、
前記メッキ膜を前記柱状部材から離す工程で得られた当該メッキ膜からなる管状物はステントであることを特徴とする管状物の製造方法。
【0020】
[18]上記[15]乃至[17]のいずれか一項において、
前記柱状部材は、枝状に分岐した枝状部または端部の径が異なる柱状部を有することを特徴とする管状物の製造方法。
【0021】
[18−1]人体の管状の部分を管腔内部から広げるためのステントであって、
前記ステントは、電解メッキ法により形成されたメッキ膜からなることを特徴とするステント。
【0022】
[18−2]上記[18−1]において、
前記ステントは、
柱状部材の外面に導電膜を形成する工程と、
前記導電膜上にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することで、前記導電膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンから露出する前記導電膜上に電解メッキ法によりメッキ膜を形成する工程と、
前記レジストパターンを除去し、前記導電膜を除去することで、前記メッキ膜を前記柱状部材から離す工程を経て得られた当該メッキ膜からなる管状物であることを特徴とするステント。
【0023】
[18−3]上記[18−1]において、
前記ステントは、
導電性を有する柱状部材上にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストを描画することで、前記柱状部材上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンから露出する前記柱状部材上に電解メッキ法によりメッキ膜を形成する工程と、
前記レジストパターンを除去することで、前記メッキ膜を前記柱状部材から離す工程を経て得られた当該メッキ膜からなる管状物であることを特徴とするステント。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様によれば、レーザー加工のような熱が加工時に発生しないステントの製造方法を提供することができる。
また、本発明の一態様によれば、外径が一定でない管状物または枝状に分岐した管状物を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一態様に係る管状物の製造方法を説明するための工程フローを示す図である。
図2】(A)〜(D)は、本発明の一態様に係る管状物の製造方法を示す断面図である。
図3】線状パターンを露光する方法を説明するための模式図である。
図4】(A)〜(D)は、本発明の一態様に係る管状物の製造方法を示す断面図である。
図5】本発明の一態様に係る管状物の製造方法を説明するための工程フローを示す図である。
図6】(A)〜(G)は、本発明の一態様に係る管状物の製造方法を示す断面図である。
図7】(A)〜(F)は、本発明の一態様に係る管状物の製造方法を示す断面図である。
図8】(A)は端部の径が異なる管形状を有する被加工用管を示す断面図、(B)は枝状に分岐した管形状を有する被加工用管を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0027】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一態様に係る管状物の製造方法を説明するための工程フローを示す図である。図2は、図1に示す管状物の製造方法を説明するための断面図である。図2に示す被加工用管51は管形状を有するが、図2では被加工用管51の一部の断面を示している。図3は、線状パターンを露光する方法を説明するための模式図である。本実施形態では、管状物としてステントを例に挙げて説明する。
【0028】
まず、図2(A)に示すように、内部51aに例えばロストワックス等の耐エッチング剤61を充填した小径の被加工用管51を用意する(図1のステップS1)。被加工用管51の外径は1mm以上40mm以下であるとよく、被加工用管51の厚さは0.03mm以上0.5mm以下であるとよい。また、被加工用管51の長さは10mm以上300mm以下であるとよい。被加工用管51は、例えばコバルトクロム合金、金、銀、銀合金、白金、白金合金、ニッケル合金、チタン、チタン合金、タンタル、ステンレス鋼等を用いることができる。
【0029】
次いで、被加工用管51の外面に疎水処理等の表面処理を行う(図1のステップS2)。
次いで、図2(B)に示すように、被加工用管51の外面51bにインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストの液滴を描画することで(図1のステップS3)、被加工用管51の外面51bにレジストパターン53aを形成する。
【0030】
詳細には、図3に示すように、レジストの液滴をショットで1点1点打ち、これが少し重なるように位置決めを行う。必要とされるステントパターンを点画16aで繋いで行くことにより、ステントパターン44を隙間無く複雑な制御無く描画する事が可能になる。
【0031】
光硬化性のレジストを用いた場合は、レジストの液滴投下直後または描画直後にUVキュア(紫外線照射)による硬化処理を行う(図1のステップS4)。また、熱硬化性のレジストを用いた場合は、レジストの液滴投下直後または描画直後に加熱して硬化処理を行う。
【0032】
次いで、図2(C)に示すように、レジストパターン53aをマスクとして被加工用管51をウェットエッチングすることで、レジストパターン53aから露出する被加工用管51がエッチングされ、レジストパターン53aで保護された被加工用管51が残される(図1のステップS5)。この残された部分の被加工用管が管状物のステント51cとなる。ウェットエッチングのエッチング液としては、塩酸、硝酸、硫酸、無水クロム酸、フッ化水素酸、フッ化アンモン、塩化第二鉄液、過硫酸アンモン、王水、シアン化ソーダ、過酸化水素、過硫酸塩、カ性ソーダ、及びこれらの混合液等を用いることができる。なお、ウェットエッチングにより被加工用管51を加工するため、被加工用管のエッチングされた部分にはテーパーが形成される。このテーパー形状は、ウェットエッチングの際の条件により調整することができる。
【0033】
次いで、図2(D)に示すように、被加工用管51の内部51aの耐エッチング剤61及び外面51b上のレジストパターン53aを除去する(図1のステップS6)。これにより、エッチング加工された被加工用管51からなる管状物のステント51cを製造することが可能となる。
【0034】
その後、必要に応じてステント51cの表面研磨や端面R処理等の表面処理を施してもよいし、ステント51cの表面に貴金属をコーティングしてもよい。
【0035】
図3に示すステントパターン44の外形精度はインクジェット液滴の着弾後の形状に依存し、おおよそ数μmから数十μm程度のレジストパターン描画が可能となる。さらに、従来技術のレーザー加工のような熱が被加工用管に加えられないので、長物のステントの製造も問題なく可能である。また、従来技術の加工用レーザー等の高額な設備を必要としないため、安価にステントを製造することが可能である。
【0036】
なお、本実施形態では、外径及び内径が一定である同径の被加工用管51を用いているが、例えば図8(A)に示すように、端部の径が異なる被加工用管を用いることも可能であり、また図8(B)に示すように、枝状に分岐した被加工用管を用いることも可能である。従って、従来技術では製造できない管状物を製造することが可能となる。
【0037】
[第2の実施形態]
図4(A)〜(D)は、本発明の一態様に係る管状物の製造方法を示す断面図であり、図2と同一部分には同一符号を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0038】
まず、図4(A)に示すように、被加工用管51の外面51bに電解メッキ法によりメタルマスク用メッキ膜62を形成する。このメタルマスク用メッキ膜62は、後の工程で被加工用管51をエッチングする際のエッチングマスクとして用いるため、被加工用管51に対するエッチング選択比が取れる材質であればよく、例えばCu、Au、Pt及びPt合金等を用いることができる。
【0039】
次いで、メタルマスク用メッキ膜62の表面に疎水処理等の表面処理を行う。
次いで、メタルマスク用メッキ膜62上にインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストの液滴を描画することで、メタルマスク用メッキ膜62上にレジストパターン53aを形成する。
【0040】
次に、図4(B)に示すように、次いで、レジストパターン53aをマスクとしてマスク用メッキ膜62をエッチングすることで、被加工用管51の外面51bにはメタルマスク62aが形成される。
【0041】
次いで、図4(C)に示すように、レジストパターン53aを剥離し、メタルマスク62aをマスクとして被加工用管51をウェットエッチングすることで、メタルマスク62aから露出する被加工用管51がエッチングされ、メタルマスク62aで保護された被加工用管51が残される。この残された部分の被加工用管が管状物のステント51cとなる。
【0042】
次いで、図4(D)に示すように、耐エッチング剤61及びメタルマスク62aを除去する。
【0043】
本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態では、レジストパターンに比べてエッチング耐性の高いメタルマスク62aを用いているため、エッチング加工の精度をより高くすることができる。
【0044】
[第3の実施形態]
図5は、本発明の一態様に係る管状物の製造方法を説明するための工程フローを示す図である。図6(A)〜(F)は、図5に示す管状物の製造方法を説明するための断面図である。本実施形態では、管状物としてステントを例に挙げて説明する。
【0045】
まず、小径の円柱状部材(犠牲材)41を用意する(図5のステップS11)。円柱状部材41の外径は1mm以上40mm以下であるとよい。また、円柱状部材41の長さは10mm以上300mm以下であるとよい。円柱状部材41は、耐エッチング性を有する材料で形成されていればよく、例えばロストワックス等で形成されている。なお、本実施形態では、円柱状部材41を用いているが、柱状部材であれば、他の形状(例えば角柱状部材等)であってもよい。
【0046】
次いで、図6(A)に示すように、円柱状部材41の側面41bに無電解メッキ法、CVD法またはPVD法により導電膜42を形成する(図5のステップS12)。導電膜42は、後の電解メッキ法によるメッキ工程で電鋳成膜用の電極として機能するものである。導電膜42は、例えば金、銀、亜鉛、クロム、ニッケル、スズ、白金、銅、アルミニウム、ロジウム、パラジウム、及びこれら合金等を用いることができる。
【0047】
次いで、第1の実施形態と同様の方法で、円柱状部材41の側面41bに疎水処理等の表面処理を行う(図5のステップS13)。
【0048】
次いで、図6(B)に示すように、第1の実施形態と同様の方法で、円柱状部材41の側面41bにインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストの液滴を描画することで(図5のステップS14)、円柱状部材41の側面41bにレジストパターン43aを形成する。
【0049】
光硬化性のレジストを用いた場合は、第1の実施形態と同様に、レジストの液滴投下直後または描画直後にUVキュア(紫外線照射)による硬化処理を行う(図5のステップS15)。また、熱硬化性のレジストを用いた場合は、第1の実施形態と同様に、レジストの液滴投下直後または描画直後に加熱して硬化処理を行う。
【0050】
次いで、図6(C)に示すように、レジストパターン43aから露出する導電膜42上に電解メッキ法によりメッキ膜(電鋳膜)44を形成する(図5のステップS16)。つまり、円柱状部材41をメッキ液に浸漬し、導電膜42に電流を流すことにより、レジストパターン43aから露出する導電膜42上にメッキ膜44が形成される。このメッキ膜44が管状物のステントとなる。なお、レジストパターン43aで保護された導電膜42上にはメッキ膜44が形成されない。メッキ膜44の厚さは0.03mm以上0.3mm以下であるとよい。また、メッキ膜44は、例えばPt、PtPd、Pt合金、PtW、ニッケル、ニッケル合金、クロム、クロム合金、金、銀、銅等を用いることができる。
【0051】
次いで、図6(D)に示すように、導電膜42上のレジストパターン43aを剥離する(図5のステップS17)。
【0052】
次いで、図6(E)に示すように、導電膜42をエッチングにより除去することで、メッキ膜44を円柱状部材41から除去する。これにより、メッキ膜44からなる管状物のステントを製造することが可能となる(図6(F)参照)。
【0053】
その後、必要に応じてメッキ膜44からなるステントの表面研磨や端面R処理等の表面処理を施してもよいし、ステントの表面に貴金属をコーティングしてもよい。
【0054】
なお、本実施形態では、外径及び内径が一定である同径の円柱状部材41を用いているが、端部の径が異なる円柱状部材を用いることも可能であり、また枝状に分岐した円柱状部材を用いることも可能である。従って、従来技術では製造できない管状物を製造することが可能となる。
【0055】
[第4の実施形態]
図7(A)〜(F)は、本発明の一態様に係る管状物の製造方法を示す断面図であり、図6と同一部分には同一符号を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0056】
まず、図7(A)に示すように、導電性を有する小径の円柱状部材41を用意する。
次いで、第1の実施形態と同様の方法で、円柱状部材41の側面41bに疎水処理等の表面処理を行う。
【0057】
次いで、図7(B)に示すように、円柱状部材41の側面41bにインクジェット法により光硬化性または熱硬化性のレジストの液滴を描画することで、円柱状部材41の側面41bにレジストパターン43aを形成する。
【0058】
次いで、図7(C)に示すように、レジストパターン43aから露出する円柱状部材41上に電解メッキ法によりメッキ膜(電鋳膜)44を形成する。つまり、円柱状部材41をメッキ液に浸漬し、円柱状部材41に電流を流すことにより、レジストパターン43aから露出する円柱状部材41上にメッキ膜44が形成される。このメッキ膜44が管状物のステントとなる。なお、レジストパターン43aで保護された円柱状部材41上にはメッキ膜44が形成されない。
【0059】
次いで、図7(D)に示すように、円柱状部材41上のレジストパターン43aを剥離する。これにより、メッキ膜44が円柱状部材41から離され、メッキ膜44からなる管状物のステントを製造することが可能となる(図7(E)参照)。
【0060】
なお、上記の第1〜第4の実施形態を互いに組み合わせて実施することも可能である。
【0061】
また、本実施形態に従う構造とされたステントは、Y字形の分岐形状やテーパー形状、端部厚肉形状の他、基幹筒部と分岐筒部の径寸法が異なるステントや、それら基幹筒部と分岐筒部の少なくとも一方がテーパー筒形状とされたステント、長さ方向で部分的にテーパーが付されたステントや、長さ方向の端部や中央部分に厚肉部分が設けられたステント、カバードステントのカバーを除くステント本体、長さ方向中間部分で湾曲または屈曲したステントなど、各種の異形状のステントに対して適用可能である。
【0062】
更にまた、本実施形態に従う構造とされたステントは、脳動脈瘤治療用におけるフローダイバータの場合にも適用される。フローダイバータとは、例えば脳動脈瘤の血管内治療のために改良された間隙率の低い血流迂回デバイス等のことである。また、本発明の態様に従う構造とされたステントは、ステントレトリバーシステムにおける先端部分の場合にも適用される。ステントレトリバーシステムとは、例えば網で効率よく血栓を圧しつけ絡めて取り除くための網型筒形状の血栓回収デバイス等のことである。
【0063】
更にまた、本実施形態に従う構造とされたステントは、上記製品群以外にも、脳血管用コイル、ガイドワイヤ、造影用マーカ、下大動脈フィルタ、末梢保護フィルタ、医療用クリップ、医療用針、バネ類を用いた金属で作製可能な医療機器であればあらゆる態様で採用される。
【符号の説明】
【0064】
16a 点画(レジストの液滴)
41 円柱状部材
41b 側面
42 導電膜
43a レジストパターン
44 メッキ膜(電鋳膜),ステントパターン
51 被加工用管
51a 被加工用管の内部
51b 外面
51c 管状物のステント
53a レジストパターン
61 耐エッチング剤
62 メタルマスク用メッキ膜
62a メタルマスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8