特許第6681170号(P6681170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681170
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】皮膚ガス測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20200406BHJP
   G01N 1/02 20060101ALI20200406BHJP
   G01N 33/497 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   G01N1/22 B
   G01N1/02 W
   G01N1/22 L
   G01N33/497 Z
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-212828(P2015-212828)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-83337(P2017-83337A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100158610
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 新吾
(74)【代理人】
【識別番号】100121120
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 尚
(72)【発明者】
【氏名】上坂 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】花田 真理子
(72)【発明者】
【氏名】翁長 一夫
(72)【発明者】
【氏名】片山 仁
(72)【発明者】
【氏名】檜山 聡
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐樹
【審査官】 北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−040819(JP,A)
【文献】 特開2009−097960(JP,A)
【文献】 特開2010−107414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00〜 1/44
A61B 5/1477
G01N33/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚表面から発生する皮膚ガスに含まれる特定皮膚ガス成分を検出するための皮膚ガス測定装置であって、
皮膚表面密着される開口部と、前記開口部から前記皮膚ガスを拡散状態で捕集するための皮膚ガス捕集空間部を有するハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、前記特定皮膚ガス成分を検出するためのセンサと、
前記皮膚ガスの前記センサへの移動を阻害する部材であって、前記ハウジング内に配置されて前記開口部と対向する面を有することで前記開口部との間に空間を形成すると共に前記開口部から見て前記センサが隠れた状態にしており、前記皮膚ガスが拡散によって前記センサに向かって移動する流れにおいて、前記特定皮膚ガス成分が前記センサに到達したときに、前記特定皮膚ガス成分より拡散速度が低い雑ガス成分が前記センサに到達する量を減らす阻害部材と、
を備えた皮膚ガス測定装置。
【請求項2】
前記阻害部材は前記開口部と前記センサとの間に配置された板状部材である、請求項1に記載の皮膚ガス測定装置。
【請求項3】
前記阻害部材の熱伝導率は前記ハウジングの熱伝導率より低い、請求項1又は2に記載の皮膚ガス測定装置。
【請求項4】
前記阻害部材は、テフロン(登録商標)又は塩ビを有している、請求項1〜3のいずれかに記載の皮膚ガス測定装置。
【請求項5】
皮膚表面から発生する皮膚ガスに含まれる特定皮膚ガス成分を検出するための皮膚ガス測定装置であって、
皮膚表面密着される開口部と、前記開口部から前記皮膚ガスを拡散状態で捕集するための皮膚ガス捕集空間部を有するハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、前記特定皮膚ガス成分を濃縮する濃縮素子と、
前記濃縮素子を加熱することで、濃縮されている前記特定皮膚ガス成分を脱離させるヒータと、
前記ハウジング内に配置され、前記特定皮膚ガス成分を検出するためのセンサと、
前記皮膚ガスの前記センサへの移動を阻害する部材であって、前記ハウジング内に配置されて前記開口部と対向する面を有することで前記開口部との間に空間を形成すると共に前記開口部から見て前記濃縮素子が隠れた状態にしており、前記皮膚ガスが拡散によって前記濃縮素子に向かって移動する流れにおいて、前記特定皮膚ガス成分が前記濃縮素子に到達したときに、前記特定皮膚ガス成分より拡散速度が低い雑ガス成分が前記濃縮素子に到達する量を減らす阻害部材と、
を備えた皮膚ガス測定装置。
【請求項6】
前記阻害部材は、前記開口部から見て前記センサが隠れた状態になるように配置される、請求項5に記載の皮膚ガス測定装置。
【請求項7】
前記阻害部材は前記開口部と前記濃縮素子との間に配置された板状部材である、請求項5又は6に記載の皮膚ガス測定装置。
【請求項8】
前記阻害部材の熱伝導率は前記ハウジングの熱伝導率より低い、請求項5〜7のいずれかに記載の皮膚ガス測定装置。
【請求項9】
前記阻害部材は、テフロン(登録商標)又は塩ビを有している、請求項5〜8のいずれかに記載の皮膚ガス測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚ガス測定装置、特に、人体の皮膚表面から発生する皮膚ガスに含まれる特定皮膚ガス成分を検出するための皮膚ガス測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康管理の目的で、人体から生体サンプルを取得してその成分を測定することが積極的に行われる。
生体サンプルの一つとして、呼気ガスや皮膚ガス等の生体ガスがある。生体ガス中に含まれる特定のガス成分の有無や濃度を測定することで、健康状態に関する情報が得られる。生体ガスを用いることの利点は、採取が容易で感染リスクが無く、人体への侵襲や精神的な負担が伴わないことである。
【0003】
そして、皮膚ガスは、その捕集・測定に際しては、呼気ガスと比較して、捕集装置等へ吹きかけるといった能動的な動作が必要ないという点、さらに皮膚からの放出(成分、量等)は自らの意思で変更やコントロールできないという点などから、より正確に生体ガスの成分検出や濃度を測定できる。また、腕時計に代表される皮膚に接して身につけるタイプのデバイス(以下、「装用型デバイス」とも記載される。)に皮膚ガス測定装置を搭載できれば、前記デバイスを身につけているだけで、常時測定・無意識測定による健康管理が実現できるようになる。
【0004】
しかし、皮膚表面から放出される、身体状態と関連付けられる皮膚ガス成分(例えばアセトン、水素、一酸化炭素、メタン、硫化水素、イソプレン、トリメチルアミン、アンモニア、メタノール、アセトアルデヒド、エタノール、一酸化窒素、ホルムアルデヒド、ノネナール等)の放出量は、一般に、ng・cm−2・min−1オーダー以下の極微少量である。そのため、皮膚表面から放出される皮膚ガス成分をそのまま測定することが困難である。そこで、対象とする皮膚ガス成分を濃縮して測定する技術に関して、従来から検討がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1に記載の皮膚ガス測定装置では、多孔質材料を用いて皮膚ガス成分を吸着させて濃縮し、多孔質材料を加熱することで濃縮した皮膚ガス成分を脱離させ、測定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−232051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように皮膚ガス成分の放出量は微小量であるので、皮膚ガス測定装置の測定精度を高くすることが要求される。
一般に、皮膚ガス測定装置の性能を確かめるためには、当該装置を用いて、標準ガスによる測定、及び複数回の皮膚ガスを測定し、アセトン濃度に対する感度のグラフを作成することで検量線を取得する。そして、感度、検量線の勾配、各点のばらつきの程度を算出し、それらにより皮膚ガス測定装置の性能が評価される。
【0008】
本発明者が従来の皮膚ガス測定装置を用いてアセトン濃度を検出した場合、従来の皮膚ガス測定装置では、検量線の勾配が低く、さらに各点のばらつきが大きい、つまり定量性が十分でないことが分かった。
本発明者は、従来の皮膚ガス測定装置の問題点を解決すべく以下に述べる本発明を考案した。特に、本発明者は、雑ガス(主に、水分)がセンサ、濃縮素子に吸着されることに精度低下の原因があることを突き止め、この問題を解決した。
【0009】
本発明の目的は、皮膚ガス測定装置の測定精度を高くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
【0011】
本発明の一見地に係る皮膚ガス測定装置は、皮膚表面から発生する皮膚ガスに含まれる特定皮膚ガス成分を検出するための皮膚ガス測定装置である。
皮膚ガス測定装置は、ハウジングと、センサと、阻害部材とを備えている。
ハウジングは、皮膚表面に密着させる開口部と、開口部から皮膚ガスを拡散状態で捕集するための皮膚ガス捕集空間部とを有する。
センサは、ハウジング内に配置され、特定皮膚ガス成分を検出するための装置である。
阻害部材は、開口部から見てセンサが隠れた状態になるようにハウジング内に配置され、皮膚ガスがセンサに向かって移動する流れを阻害する。
この装置では、皮膚表面から発生した皮膚ガスは、拡散現象によって、皮膚ガス捕集空間部内をセンサ側に移動する。すると、皮膚ガスは、阻害部材によってセンサに向かって移動することが阻害される。したがって、特定皮膚ガス成分である例えばアセトンがセンサに十分に到達していても、雑ガスがセンサに十分に到達しない。したがって、測定対象ガスに関する測定精度が向上する。
なお、「開口部から見てセンサが隠れた状態になる」とは、センサの一部又は全てが開口部から見て隠れた状態になることを意味する。
【0012】
阻害部材は、開口部とセンサとの間に配置された板状部材であってもよい。
この装置では、簡単な構成によって、測定対象ガスに関する測定精度が向上する。
【0013】
阻害部材の熱伝導率はハウジングの熱伝導率より低くてもよい。
この装置では、例えば皮膚からの熱によってハウジングが昇温した場合に、阻害部材は比較的低温なままである。したがって、雑ガスが阻害部材に結露する。その結果、特定皮膚ガス成分である例えばアセトンがセンサに十分に到達していても、雑ガスがセンサに十分に到達しない。
【0014】
阻害部材は、テフロン(登録商標)又はポリ塩化ビニル(以下、塩ビ)を有していてもよい。
これらの素材を有していることで、他の素材を用いた場合に比べて、優れた効果が得られる。
【0015】
本発明の他の見地に係る皮膚ガス測定装置は、皮膚表面から発生する皮膚ガスに含まれる特定皮膚ガス成分を検出するための皮膚ガス測定装置である。
皮膚ガス測定装置は、ハウジングと、濃縮素子と、ヒータと、センサと、阻害部材とを備えている。
ハウジングは、皮膚表面に密着させる開口部と、開口部から皮膚ガスを拡散状態で捕集するための皮膚ガス捕集空間部とを有する。
濃縮素子は、ハウジング内に配置され、特定皮膚ガス成分が集められて濃縮される部材である。
ヒータは、濃縮素子を加熱することで、濃縮されている特定皮膚ガス成分を脱離させる。
センサは、ハウジング内に配置され、特定皮膚ガス成分を検出するための装置である。
阻害部材は、開口部から見て濃縮素子が隠れた状態になるようにハウジング内に配置され、皮膚ガスが濃縮素子に向かって移動する流れを阻害する。
なお、「開口部から見て濃縮素子が隠れた状態になる」とは、濃縮素子の一部又は全てが開口部から見て隠れた状態になることを意味する。
この装置では、皮膚表面から発生した皮膚ガスは、拡散現象によって、皮膚ガス捕集空間部内を濃縮素子側に移動する。すると、皮膚ガスは、阻害部材によって濃縮素子に向かって移動することが阻害される。したがって、特定皮膚ガス成分である例えばアセトンが濃縮素子に十分に到達していても、雑ガスが濃縮素子に十分に到達しない。したがって、特定皮膚ガス成分に関する測定精度が向上する。
【0016】
阻害部材は、開口部から見てセンサが隠れた状態になるように配置されていてもよい。
この装置では、特定皮膚ガス成分に関する測定精度が向上する。
【0017】
阻害部材は、開口部と濃縮素子との間に配置された板状部材であってもよい。
この装置では、簡単な構成によって、特定皮膚ガス成分に関する測定精度が向上する。
【0018】
阻害部材の熱伝導率はハウジングの熱伝導率より低くてもよい。
この装置では、例えば皮膚からの熱によってハウジングが昇温した場合に、阻害部材は比較的低温なままである。したがって、雑ガスが阻害部材に結露する。その結果、特定皮膚ガス成分である例えばアセトンが濃縮素子に十分に到達していても、雑ガスが濃縮素子に十分に到達しない。
【0019】
阻害部材は、テフロン(登録商標)又は塩ビを有していてもよい。
これらの素材を有していることで、他の素材を用いた場合に比べて、優れた効果が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る皮膚ガス測定装置では、測定精度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図。
図2】ハウジングの平面図。
図3】第2実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図。
図4】ハウジングの平面図。
図5】第3実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図。
図6】ハウジングの平面図。
図7】皮膚ガス測定装置の測定制御を示すフローチャート。
図8】本発明の実施形態におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフ。
図9】従来例におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフ。
図10】第4実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図。
図11】ハウジングの平面図。
図12】本発明の実施形態におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフ。
図13】阻害部材の材料と感度の関係を示す表。
図14】本発明の実施形態におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフ。
図15】本発明の実施形態におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフ。
図16】本発明の実施形態におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフ。
図17】本発明の実施形態におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフ。
図18】本発明の実施形態におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフ。
図19】本発明の実施形態におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフ。
図20】本発明の実施形態におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフ。
図21】第5実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図。
図22】ハウジングの平面図。
図23】第6実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図。
図24】ハウジングの平面図。
図25】第7実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.第1実施形態
(1)皮膚ガス測定装置の全体構成
図1及び図2を用いて、第1実施形態の皮膚ガス測定装置1を説明する。図1は、第1実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図である。図2は、ハウジングの平面図である。
皮膚ガス測定装置1は、人体の皮膚表面hから発生する皮膚ガスに含まれる特定皮膚ガス成分を検出するための装置である。
皮膚アセトンの数値を計ることで体脂肪の燃焼量が分かり、歩数計などよりもより正確な脂肪燃焼量を計測できる。具体的には、体内では糖からエネルギーを消費し、糖が少なくなると脂肪を燃焼させてエネルギーにするので、皮膚アセトン量の数値が高ければ脂肪が燃焼していることになる。この結果、例えば、1日中計測すると皮膚アセトン量の変移がわかり、脂肪燃焼量の見える化が可能になる。これにより、脂肪の燃焼量に応じて適切な運動の種類、運動強度、運動時間、運動のタイミングや食事の種類、食事の量、食事摂取のタイミング等を判断できるようになる。
【0023】
図1に示すように、皮膚ガス測定装置1は、ハウジング3と、センサ5と、測定制御部7とを有している。皮膚表面hから放出される皮膚ガス成分は、皮膚表面hと密着したハウジング3内に捕集される。捕集された皮膚ガス成分は、センサ5によって検出され、検出信号が測定制御部7に送信される。これらの各工程の詳細については後述する。
【0024】
本発明の皮膚ガス測定装置が測定対象とする皮膚ガス成分は、皮膚表面hから放出される全ての皮膚ガス成分が含まれる。本発明の皮膚ガス測定装置の対象となる皮膚ガス成分は特に、身体状態(健康、疾患、睡眠、休息、運動など)と関連付けられる皮膚ガス成分を含み、無機成分(例えば水、水素、アンモニア、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、硫化水素等)及び種々の有機成分(例えばアセトン、メタノール、エタノール、メタン、イソプレン、トリメチルアミン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ノネナール等)が含まれる。
さらに本発明の皮膚ガス測定装置の対象となる皮膚表面から放出される皮膚ガス成分には、生体内由来のガス成分だけでなく、生体外由来(環境由来)のガス成分をも含む。例えば、労働環境や生活環境中に含まれる種々の人工的なガス成分が呼吸、経皮吸収された後、皮膚表面から放出される皮膚ガス成分が挙げられる。具体的には化学薬品を扱う事業所や研究室で、有機溶媒(ベンゼン、トルエンなど)や塩素系溶剤などに暴露された場合に、これらの成分が皮膚表面から放出されることが知られている。
【0025】
(2)ハウジング及びその内部の構成
ハウジング3は、皮膚に当てて皮膚ガスを採取するための容器である。ハウジング3は、独立した装置であってもよいし、装用型デバイスの一部であってもよい。ハウジング3は、開口部9を有している。開口部9は、皮膚に皮膚表面hに密着させられる部分である。ハウジング3は、開口部9から皮膚ガスを拡散状態で捕集するための皮膚ガス捕集空間部11を有している。この実施形態では、ハウジング3はアルミ製である。
開口部9は、皮膚表面hに密着させることで閉空間を形成し、皮膚表面hから放出される皮膚ガス成分を皮膚ガス捕集空間部11内に滞留させることを可能にする。ここで、開口部9の形状、寸法(面積)については特に制限はなく、測定される皮膚ガスの捕集部分の皮膚の形状、大きさに応じて、皮膚表面hに密着させて閉空間を形成し得る形状、大きさを適宜選択することができる。さらに装用型デバイスに使用する場合には、装用型デバイスの形状、大きさに適合するように選択することができる。
具体的には、ハウジング3は、開口部9を有する円筒壁3aと、円筒壁3aに連続する本体部3bとを有している。
【0026】
この実施形態では、皮膚ガス捕集空間部11は、開口部9側の第1空間11aと、奥側の第2空間11bとに分かれている。第2空間11bは、第1空間11aより平面視での面積が大きい。これにより、第2空間11bは、開口部9と対向する対向空間13と、開口部9からは隠れているくぼみ空間15とに分かれている。くぼみ空間15は、この実施形態では、対向空間13の半径方向に対向する位置に設けられた一対の空間である。くぼみ空間15は、上下、両側部、半径方向外側を閉鎖する壁によって構成されている。くぼみ空間15は、平面視で開口部9と異なる位置に設けられているので、開口部9側から見たときに隠れている。より正確には、開口部9の開口面から垂直に延ばした領域内に、くぼみ空間15は重なっていない。
なお、くぼみ空間は、開口部9側から見たときに隠れた位置にあればよいので、数、位置、形状は上記実施形態に限定されない。
【0027】
センサ5は、ハウジング3内に配置され、特定皮膚ガス成分を検出するための装置である。
【0028】
センサ5は、皮膚ガス捕集空間部11に導入された特定皮膚ガス成分を検出し、その量または濃度を測定する。皮膚ガスが非常に多種類の成分を含み得る点、及び本発明の皮膚ガス測定装置の応用の特徴(短い測定間隔での皮膚ガス変移モニタリングを可能とし、消費電力も低く、デバイスの小型化や長時間駆動が容易)を考慮すると、半導体ガスセンサの使用が好ましい。具体的には、皮膚ガス成分であるアセトン、水素、一酸化炭素、メタン、硫化水素、イソプレン、トリメチルアミン、アンモニア、メタノール、アセトアルデヒド、エタノール、一酸化窒素、ホルムアルデヒド、ノネナール等の生体から発せられる各種ガス成分を測定する半導体ガスセンサから構成される。
【0029】
また、センサ5は、半導体ガスセンサに限定されるものではなく、電気化学式センサ、気体熱伝導式センサ、弾性表面波センサ、接触燃焼式センサ、光学式センサ等であってもよく、皮膚ガス成分を測定可能な何れか適切なセンサであってもよい。
この実施形態では、センサ5は、アセトンを検出するための半導体ガスセンサである。
センサ5は、ハウジング3の皮膚ガス捕集空間部11内に配置されている。より具体的には、センサ5は、皮膚ガス捕集空間部11の第2空間11bのくぼみ空間15に配置されている。この実施形態では、センサ5は、くぼみ空間15内において最も外周側に配置されている。
【0030】
(3)制御構成
測定制御部7は、センサ5からの検出信号に基づいて、アセトンの濃度を算出する装置である。
測定制御部7は、コントローラ21を有している。コントローラ21は、CPUを含むコンピュータであり、ソフトウェアを実行することで制御動作を実行する。より具体的には、測定制御部7は、測定プログラムを実行することで特定皮膚ガス成分を測定する。
【0031】
測定制御部7は、メモリ23を有している。メモリ23は、例えばRAM、ROMからなり、プログラム及びデータを保存可能である。
測定制御部7は、通信部25を有している。通信部25は、各種データを外部の装置、例えばスマートフォンに送信可能である。
皮膚ガス測定装置1は、充電式のバッテリ27を有している。バッテリ27は、皮膚ガス測定装置1の各装置に電力を供給している。
【0032】
(4)測定動作
図1に示すように、ハウジング3の開口部9を人体の皮膚表面hに当てる。皮膚表面hから発生した皮膚ガスは、拡散現象によって、皮膚ガス捕集空間部11内をセンサ5側に移動する。このとき、皮膚ガス内は、例えば、アセトンと、雑ガス(主に、皮膚表面hから生じる水蒸気や汗などの水分)が含まれている。
【0033】
そして、アセトンは速やかに移動し、センサ5に到達する。一方、雑ガスは、センサ5に十分に到達しない。その理由は、くぼみ空間15が形成されたハウジング3の構造が、開口部9から見てセンサ5が隠れた状態になるようにハウジング3内に配置され、皮膚ガスがセンサ5に向かって移動する流れを阻害する阻害部材を構成しているからである。この結果、雑ガスは、アセトンより拡散速度が低いのでセンサ5に到達するのが遅れたり、又はハウジング3の内壁に吸着されたりする。なお、この実施形態では、開口部9から見てセンサ5が完全に隠れているが、製品の要求性能によってはセンサ5の一部のみが隠れた状態にしてもよい。センサ5が完全に隠れた状態にすると、アセトンのセンサ5に向かって移動する流れがより阻害させられる。
以上に述べたように、皮膚ガスは、阻害部材(ハウジング3の構造)によってセンサ5に向かって移動することが阻害される。したがって、特定皮膚ガス成分である例えばアセトンがセンサ5に十分に到達していても、雑ガスがセンサ5に十分に到達しない。したがって、特定皮膚ガス成分に関する測定精度が向上する。
【0034】
コントローラ21は、センサ5からの信号を受信する。その結果、皮膚ガス成分の量又はそれらの濃度が計算される。コントローラ21は、検出データをメモリ23に保存する、又は通信部25から例えばスマートフォン、医療施設、スポーツジム、自宅などに送信させる。
皮膚ガス測定装置1は表示部を備えていてもよい。表示部に表示する内容は特に限定されないが、ユーザーデータ、測定日時、温度、湿度などの測定条件データ、及び特定皮膚ガス成分の測定結果などを表示することが好ましい。ユーザーはこの表示により、皮膚ガス成分の変化を観察できる。
【0035】
2.第2実施形態
図3及び図4を用いて、第2実施形態の皮膚ガス測定装置1Aを説明する。図3は、第2実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図である。図4は、ハウジングの平面図である。
【0036】
ハウジング3及び測定制御部7の構成は第1実施形態と同様である。したがって、以下、第1実施形態と異なる点のみを説明する。
センサ5は、第2空間11bにおいて平面視で中央位置に配置されている。
【0037】
皮膚ガス測定装置1Aは、板状部材としてのプレート31を有している。プレート31は、第1空間11aと第2空間11bとの境界付近に設けられている。プレート31は、概ね平面視で円形であり、ハウジング3の内周面に外周縁が固定されている。プレート31は、2カ所に切り欠き31aを有している。切り欠き31aによって、第1空間11aと第2空間11bとが連通している。切り欠き31aは、この実施形態では、平面視において、くぼみ空間15が形成されていない位置において対向空間13の半径方向に対向して設けられている。なお、切り欠きはくぼみ空間が形成されていない位置に形成されていること、つまり平面視で切り欠きとくぼみ空間の入口が重なっていないことが好ましい。
プレート31は、ハウジング3内に配置され、開口部9から見てセンサ5が隠れた状態になるように配置されることで、皮膚ガスがセンサ5に向かって移動する流れを阻害する。また、プレート31は、第1空間11aと第2空間11bとを遮断された別室として構成して、切り欠き31aが小面積の気体通路として機能している。なお、この実施形態での開口部9とセンサ5の位置関係及びその意義は、前記実施形態の場合と同じである。
【0038】
図3に示すように、ハウジング3の開口部9を人体の皮膚表面hに当てる。皮膚表面hから発生した皮膚ガスは、拡散現象によって、皮膚ガス捕集空間部11内をセンサ5側に移動する。このとき、皮膚ガス内は、例えば、アセトンと、雑ガス(主に、水分)が含まれている。
そして、アセトンは切り欠き31aを通って速やかに移動し、センサ5に到達する。一方、雑ガスは、センサ5に十分に到達しない。その理由は、プレート31が、阻害部材として、ハウジング3内に配置され、開口部9から見てセンサ5が隠れた状態になるように配置されることで、皮膚ガスがセンサ5に向かって移動する流れを阻害するからである。この結果、雑ガスは、アセトンより拡散速度が低いのでセンサ5に到達するのが遅れたり、又はハウジング3の内壁面に吸着されたりする。
また、プレート31は、テフロン(登録商標)、塩ビ等のハウジング3のアルミよりも熱伝導率が低い材料からなることが好ましい。その場合、例えば皮膚からの熱によってハウジング3が昇温した場合に、プレート31は比較的低温なままである。したがって、雑ガスの水分がプレート31に結露する。したがって、雑ガスの移動が制限される。
以上に述べたように、皮膚ガスは、阻害部材(プレート31)によってセンサ5に向かって移動することが阻害される。したがって、特定皮膚ガス成分である例えばアセトンがセンサ5に十分に到達していても、雑ガスがセンサ5に十分に到達しない。したがって、特定皮膚ガス成分に関する測定精度が向上する。
【0039】
プレート31の形状は特に限定されない。例えば、プレートは、平面視で三角形、四角形等の多角形でもよい。また、プレートは、切り欠きの代わりに、孔を有していてもよい。
プレートは、メッシュ状であってもよい。
切り欠きの形状、数、位置は前記実施形態に限定されない。
センサ5の位置は前記実施形態に限定されない。センサは、プレートによって開口部側から一部又は全てが隠れる位置であれば、いずれの位置でもよい。
【0040】
3.第3実施形態
(1)皮膚ガス測定装置の全体構成
図5及び図6を用いて、第3実施形態の皮膚ガス測定装置1Bを説明する。図5は、第3実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図である。図6は、ハウジングの平面図である。
【0041】
図5に示すように、皮膚ガス測定装置1Bは、ハウジング3と、濃縮素子4と、センサ5と、測定制御部7とを有している。
【0042】
皮膚表面hから放出される皮膚ガス成分は、皮膚表面hと密着したハウジング3内に捕集される。捕集された皮膚ガス成分は、皮膚ガス捕集空間部11内に存在する濃縮素子4の多孔質材料に吸着されて濃縮される。その後、濃縮素子4を加熱することで皮膚ガス成分を脱離させる。次に脱離した皮膚ガス成分はセンサ5によって検出され、検出信号が測定制御部7に送信される。その結果、皮膚ガス成分の量又はそれらの濃度が測定される。これらの各工程の詳細については後述する。
【0043】
(2)ハウジング及びその内部の構成
ハウジング3は、第1実施形態と同じである。したがって、ここでは説明を省略する。
濃縮素子4は、ハウジング3内に配置され、皮膚ガス捕集空間部11内に滞留した特定皮膚ガス成分が集められて濃縮される部材である。
【0044】
濃縮素子4は、多孔質材料からなる。多孔質材料は、皮膚ガス成分を吸着し、さらに脱離(脱着)させる材料である。したがって、多孔質材料は、かかる性質を示す材料であれば、特に限定はなく、従来のかかる性質を有することが知られた天然物由来、合成物、又はこれらの混合物が含まれる。
【0045】
より具体的には、多孔質材料は、例えばゼオライト、多孔質ガラス、シリカ、アルミナ、活性炭、分子ふるいカーボン等を含むが、これらに限定されるものではない。
多孔質材料は名の通り多くの孔を有する物質で、例えばゼオライトはケイ素及びアルミニウムの周りに4つの酸素が規則正しく3次元的に連結した結晶構造を持つ規則性多孔体であり、その結晶構造によっておおよその大きさが決まるナノスケールの細孔を有する。この細孔を通過できる分子を多孔質材料の内部に吸着するため、細孔より大きい分子径を有する分子は吸着できない「分子ふるい作用」を示す。本発明の多孔質材料は、この「分子ふるい作用」により、細孔径を適切に選択することで、対象とする皮膚ガス成分を選択的に吸着・濃縮することが可能となる。多孔質材料の結晶構造及び細孔径は種々の方法で実測、又は推定することが可能である。
【0046】
濃縮素子4は、ハウジング3の皮膚ガス捕集空間部11内に配置されている。より具体的には、センサ5は、皮膚ガス捕集空間部11の第2空間11bのくぼみ空間15に配置されている。この実施形態では、濃縮素子4は、くぼみ空間15内において最も外周側に配置されている。
この実施形態では、センサ5は、アセトンを検出するための半導体ガスセンサである。センサ5は、ハウジング3の皮膚ガス捕集空間部11内に配置されている。より具体的には、センサ5は、皮膚ガス捕集空間部11の第2空間11bにおいて、濃縮素子4と半径方向に対向する位置に配置されている。この実施形態では、センサ5は、図6に示すように、対向空間13とくぼみ空間15の境界に配置されているが、対向空間13に配置されてもよいし、くぼみ空間15に配置されてもよい。
【0047】
皮膚ガス測定装置1Bは、ヒータ33を有している。ヒータ33は、濃縮素子4を加熱するための装置である。ヒータ33は、濃縮素子4に装着されている。ヒータ33は、皮膚ガスが吸着した多孔質材料から、特定皮膚ガス成分を脱離させるために、濃縮素子4を加熱する。この際、相対的に低い温度で加熱してもよい。ここで相対的に低い温度とは、多孔質材料で通常吸着成分を脱離させるために適用される温度(例えば、500℃)よりも低い温度を意味する。
ヒータ33は濃縮素子4に固定されている。この実施形態では、ヒータ33は濃縮素子4の開口部9側の面に設けられている。ただし、ヒータ33と濃縮素子4との位置関係及び固定手段は限定されない。
ヒータ33の加熱手段は特に制限されるものではないが、多孔質材料を所望の温度まで加熱できるものであれば特に制限はない。例えばセラミック製のヒータ、電気抵抗ヒータ、マイクロ波照射による加熱が可能である。また、多孔質材料が薄膜形成される場合には、電気抵抗ヒータを前記多孔質材料薄膜上に印刷することや、ミクロ加工することで、多孔質材料表面又は内部に設けることが可能となる。またゼオライトなどの多孔質材料は熱伝導性が低いものが一般的に多いことから、ヒータ33からの加熱エネルギーを効率的に多孔質材料の内部へ伝達するため、多孔質材料を熱伝導性の優れた材料と共に用いることも好ましい。
皮膚ガス測定装置1Bは、ブロアー35を有している。ブロアー35は、ハウジング3内の気体を強制的に入れ替えるための装置である。ブロアー35は、空気をハウジング3内に吹き込む送風装置を有している。また、ハウジング3には気体を外部に排出するための排出部(図示せず)が設けられている。
【0048】
(3)制御構成
測定制御部7は、センサ5からの検出信号に基づいて、アセトンの濃度を算出する装置である。
測定制御部7は、コントローラ21を有している。コントローラ21は、CPUを含むコンピュータであり、ソフトウェアを実行することで制御動作を実行する。より具体的には、測定制御部7は、測定プログラムを実行することで特定皮膚ガス成分を測定する。
コントローラ21は、センサ5に接続されている。また、コントローラ21は、ヒータ33及びブロアー35に接続されている。
【0049】
測定制御部7は、メモリ23を有している。メモリ23は、例えばRAM、ROMからなり、プログラム及びデータを保存可能である。
測定制御部7は、通信部25を有している。通信部25は、各種データを外部の装置、例えばスマートフォンに送信可能である。
皮膚ガス測定装置1Bは、バッテリ27を有している。バッテリ27は、皮膚ガス測定装置1Bの各装置に電力を供給している。
【0050】
(4)測定動作
図7を用いて、皮膚ガス測定装置1Bによるアセトンの検出動作を説明する。図7は、皮膚ガス測定装置の測定制御を示すフローチャートである。
ステップS1では、図5に示すように、皮膚を皮膚ガス測定装置1Bの開口部9に押し当てる。これにより、皮膚表面hと密着させた開口部9から皮膚ガス捕集空間部11内に、皮膚表面hから放出された皮膚ガス成分が導入される。
ステップS2では、コントローラ21は、測定プログラムを起動することで、アセトンの測定を開始する。
【0051】
ステップS3は、濃縮素子4のクリーニングを実行する。具体的には、コントローラ21がヒータ33を駆動し、それにより濃縮素子4から吸着ガスを脱離させる。また、加熱中に、ブロアー35を駆動し、皮膚ガス捕集空間部11内のエアパージを実行する。これにより、ハウジング3内のアセトン濃度は低下する。上記の動作は例えば20秒間行われる。
ステップS4では、濃縮素子4がアセトンを捕集する。つまり、導入された皮膚ガス成分を多孔質材料に吸着させて濃縮させる。この動作は例えば90秒間行われる。
【0052】
このとき、アセトンは速やかに移動し、濃縮素子4に到達する。一方、雑ガスは、濃縮素子4に十分に到達しない。その理由は、くぼみ空間15が形成されたハウジング3の構造が、開口部9から見て濃縮素子4が隠れた状態になるようにハウジング3内に配置され、皮膚ガスが濃縮素子4に向かって移動する流れを阻害する阻害部材を構成しているからである。この結果、雑ガスは、アセトンより拡散速度が低いのでセンサ5に到達するのが遅れたり、又はハウジング3の内壁に吸着されたりする。なお、この実施形態では、開口部9から見て濃縮素子4が完全に隠れているが、製品の要求性能によっては濃縮素子4の一部のみが隠れた状態にしてもよい。濃縮素子4が完全に隠れた状態にすると、アセトンの濃縮素子4に向かって移動する流れがより阻害させられる。
以上に述べたように、皮膚ガスは、阻害部材(ハウジング3)によって濃縮素子4に向かって移動することが阻害される。したがって、特定皮膚ガス成分である例えばアセトンが濃縮素子4に十分に到達していても、雑ガスが濃縮素子4に十分に到達しない。したがって、特定皮膚ガス成分に関する測定精度が向上する。
【0053】
ステップS5では、濃縮素子4からアセトンを脱離させる。具体的には、コントローラ21がヒータ33を駆動し、それにより濃縮素子4の多孔質材料に吸着された皮膚ガス成分を加熱して脱離させる。この際、前述したように、相対的に低い温度で加熱してもよい。この動作は例えば30秒間行われる。
ステップS6では、センサ5が脱離させた皮膚ガス成分の濃度又は量を検知する。
測定結果は、通信部25からスマートフォンに送信され、そこで表示される。また、皮膚ガス測定装置1Bが表示部を有しており、そこで測定結果が表示されてもよい。
【0054】
次に、図8及び図9を用いて、本発明の実施形態(図5及び図6に示す、濃縮素子をくぼみ空間に配置した場合)と、従来例(阻害部材がない場合)との、装置の測定精度を説明する。図8は、本発明の実施形態におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフである。図9は、従来例におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフである。従来例とは、濃縮素子の一部及びセンサの一部がハウジングの開口部から見て隠れていない状態、言い換えると、開口部の開口面から垂直に延ばした領域内に濃縮素子の少なくとも一部及びセンサの少なくとも一部が重なっているような状態の皮膚ガス測定装置である。
本実施形態の皮膚ガス測定装置1Bを用いて、被験者10名の皮膚測定を行った。なおアセトン濃度表示単位は、皮膚1cmから1分間に放出するアセトン量(pg)(pg・cm−2・min−1)である。各値は、皮膚面積、容積、捕集時間、容器内のアセトン濃度から算出した。
図8に示すように、本発明の実施形態では、相関性が向上している(=ばらつきが小さい)。それに対して、図9に示すように、従来例では、相関性が低い。
【0055】
4.第4実施形態
図10及び図11を用いて、第4実施形態の皮膚ガス測定装置1Cを説明する。図10は、第4実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図である。図11は、ハウジングの平面図である。
【0056】
ハウジング3及び測定制御部7の構成は第3実施形態と同様である。したがって、以下、第3実施形態と異なる点のみを説明する。
濃縮素子4は、第2空間11bにおいて平面視で中央位置に配置されている。
センサ5は、第2空間11bにおいて対向空間13とくぼみ空間15の境界に配置されており、濃縮素子4との距離が短くなっている。
【0057】
皮膚ガス測定装置1Cは、プレート31を有している。プレート31は、第1空間11aと第2空間11bとの境界付近に設けられている。プレート31は、概ね平面視で円形であり、ハウジング3の内周面に外周縁が固定されている。プレート31は、2カ所に切り欠き31aを有している。切り欠き31aによって、第1空間11aと第2空間11bとが連通している。切り欠き31aは、この実施形態では、平面視において、くぼみ空間15が形成されていない位置において対向空間13の半径方向に対向して設けられている。なお、切り欠きはくぼみ空間が形成されていない位置に形成されていること、つまり平面視で切り欠きとくぼみ空間の入口が重なっていないことが好ましい。
プレート31は、ハウジング3内に配置され、開口部9から見て濃縮素子4が隠れた状態になるように配置されることで、皮膚ガスが濃縮素子4に向かって移動する流れを阻害する。また、プレート31は、第1空間11aと第2空間11bとを遮断された別室として構成して、切り欠き31aが小面積の気体通路として機能している。なお、この実施形態での開口部9と濃縮素子4の位置関係及びその意義は、前記実施形態の場合と同じである。
【0058】
図10に示すように、ハウジング3の開口部9を人体の皮膚表面hに当てる。皮膚表面hから発生した皮膚ガスは、拡散現象によって、皮膚ガス捕集空間部11内を第2空間11b側に移動する。このとき、皮膚ガス内は、例えば、アセトンと、雑ガス(主に、水分)が含まれている。
そして、アセトンは切り欠き31aを通って速やかに移動し、濃縮素子4に到達する。一方、雑ガスは、濃縮素子4に十分に到達しない。その理由は、プレート31が、阻害部材として、ハウジング3内に配置され、開口部9から見て濃縮素子4が隠れた状態になるように配置されることで、皮膚ガスが濃縮素子4に向かって移動する流れを阻害するからである。
以上に述べたように、皮膚ガスは、阻害部材(プレート31)によって濃縮素子4に向かって移動することが阻害される。したがって、特定皮膚ガス成分であるアセトンが濃縮素子4に十分に到達していても、雑ガスが濃縮素子4に十分に到達しない。したがって、特定皮膚ガス成分に関する測定精度が向上する。
【0059】
プレート31の形状の変形例は第2実施形態と同じである。
センサ5の位置は特に限定されない。センサ5は、濃縮素子4に対してさらに近くの位置に配置されてもよいし、濃縮素子4からさらに離れた位置に配置されてもよい。ただし、この実施形態では、濃縮素子4とセンサ5との距離が十分に短くなっているので、感度が向上している。
プレートの切り欠きの位置は特に限定されない。この実施形態では、切り欠きは平面視でセンサに対応する位置に形成されているが、切り欠きは他の位置にあってもよい。その場合は、センサ5もプレート31によって開口部9側から見た場合に隠れた状態になる。
【0060】
図12を用いて、第4実施形態の皮膚ガス測定装置1Cの測定精度を説明する。図12は、本発明の実施形態におけるアセトン濃度−感度の関係を示すグラフである。この場合、阻害部材としてのプレートはテフロン(登録商標)製である。この場合、相関性が向上したままであり、それに加えて、検量線の勾配が高くなっている。さらに、感度も高くなっている。
図13を用いて、阻害部材としてのプレートの材料ごとのセンサ検出結果の違いを説明する。図13は、阻害部材の材料と感度の関係を示す表である。なお、この場合のハウジングはアルミ製である。
【0061】
図から明らかなように、ばらつき及び感度・勾配の両方において良好な成績が得られたのは塩ビ、テフロン(登録商標)であった。これら材料が好ましい理由は、疎水性が高く、そのため雑ガスは吸着してもアセトンは吸着しにくいからであると考えられる。
また、例えばテフロン(登録商標)の熱伝導率は、アルミ製のハウジングの熱伝導率より低い。そのため、例えば皮膚からの熱によってハウジング3が昇温した場合に、プレート31は比較的低温なままである。したがって、雑ガスの水分がプレート31に結露しやすい。その結果、特定皮膚ガス成分である例えばアセトンが濃縮素子4に十分に到達していても、雑ガスが濃縮素子に十分に到達しないと考えられる。
なお、ハウジングがテフロン(登録商標)製でかつプレートがテフロン(登録商標)製の場合も同様の良好な結果が得られた。上記の実験では△及び○の材料を用いた場合も、従来例に比べては、良好な結果が得られた。
図14図20は、各材料のアセトン濃度−感度の関係を示すグラフである。
図14はステンレス、図15はアルミ、図16はアルミホイル、図17はポリプロピレン、図18は塩ビ、図19はポリビニルアルコールフィルム、図20はテフロン(登録商標)ハウジング+テフロン(登録商標)プレートの組合せである。
【0062】
5.第5実施形態
図21及び図22を用いて、第5実施形態の皮膚ガス測定装置1Dを説明する。図21は、第5実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図である。図22は、ハウジングの平面図である。
【0063】
ハウジング3及び測定制御部7の構成は第4実施形態と同様である。したがって、以下、第4実施形態と異なる点のみを説明する。
【0064】
皮膚ガス測定装置1Dは、第1プレート31Aを有している。第1プレート31Aは、第1空間11aと第2空間11bとの境界付近に設けられている。第1プレート31Aは、概ね平面視で円形であり、ハウジング3の内周面に外周縁が固定されている。第1プレート31Aは、2カ所に切り欠き31aを有している。切り欠き31aによって、第1空間11aと第2空間11bとが連通している。
第1プレート31Aは、ハウジング3内に配置され、開口部9から見て濃縮素子4が隠れた状態になるように配置されることで、皮膚ガスが濃縮素子4に向かって移動する流れを阻害する。また、第1プレート31Aは、第1空間11aと第2空間11bとを遮断された別室として構成して、切り欠き31aが小面積の気体通路として機能している。なお、この実施形態での開口部9と濃縮素子4の位置関係及びその意義は、前記実施形態の場合と同じである。
【0065】
皮膚ガス測定装置1Dは、第2プレート32Aを有している。第2プレート32Aは、第1空間11a内を第1室41と第2室43とに分割している。第2プレート32Aは、概ね平面視で円形であり、ハウジング3(具体的には、円筒壁3a)の内周面に外周縁が固定されている。第2プレート32Aは、2カ所に切り欠き32aを有している。切り欠き32aによって、第1空間11aの第1室41と第2室43とが連通している。
第2プレート32Aは、ハウジング3内に配置され、開口部9から見て濃縮素子4が隠れた状態になるように配置されることで、皮膚ガスが濃縮素子4に向かって移動する流れを阻害する。また、第2プレート32Aは、第1空間11aの両側部分を互いに別室として構成して、切り欠き32aが小面積の気体通路として機能している。なお、切り欠き32aは、切り欠き31aと平面視で重ならない位置に形成されている。
【0066】
以上より、皮膚ガス捕集空間部11内において、第2空間11bと皮膚表面hとの間に、第1室41と第2室43とが形成されているので、アセトンは十分に濃縮素子4に到達しても、雑ガスは濃縮素子4に到達しにくい。これは、雑ガスの拡散速度がアセトンに比べて低く、複数の室を直列に設けることで雑ガスの移動速度をさらに低下させられたことが原因であると考えられる。
なお、第1プレートと第2プレートの位置、形状は特に限定されず、さらに、切り欠きの数、位置、形状も特に限定されない。
プレートの数は限定されない。また、独立した室の数も限定されない。
【0067】
6.第6実施形態
図23及び図24を用いて、第6実施形態の皮膚ガス測定装置1Eを説明する。図23は、第6実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図である。図24は、ハウジングの平面図である。
図に示すように、ハウジング3A内にプレート31が配置され、濃縮素子4とセンサ5の両方が開口部9から見てプレート31によって隠された位置に配置されている。
この実施形態では、前記実施形態と同じ効果が得られる。
【0068】
7.第7実施形態
図25を用いて、第7実施形態の皮膚ガス測定装置1Fを説明する。図25は、第7実施形態の皮膚ガス測定装置の概略構成図である。
図に示すように、ハウジング3Bは、くぼみ空間15を有しており、そこに濃縮素子4
が配置されている。また、ハウジング3B内にプレート31が配置され、センサ5が開口部9から見てプレート31によって隠された位置に配置されている。
この実施形態では、前記実施形態と同じ効果が得られる。
【0069】
8.他の実施形態
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
阻害部材は単一の材料から構成されていてもよいし、複数の材料から構成されていてもよい。また、阻害部材は、表面のみが適切な材料から構成されていてもよい。さらに、阻害部材の表面は、雑ガス吸着性能が向上するための処理が施されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、人体の皮膚表面から発生する皮膚ガスに含まれる特定皮膚ガス成分を検出するための皮膚ガス測定装置に広く適用できる。
【符号の説明】
【0071】
1 :皮膚ガス測定装置
1A :皮膚ガス測定装置
1B :皮膚ガス測定装置
1C :皮膚ガス測定装置
1D :皮膚ガス測定装置
1E :皮膚ガス測定装置
1F :皮膚ガス測定装置
3 :ハウジング
3a :円筒壁
3b :本体部
4 :濃縮素子
5 :センサ
7 :測定制御部
9 :開口部
11 :皮膚ガス捕集空間部
11a :第1空間
11b :第2空間
13 :対向空間
15 :くぼみ空間
21 :コントローラ
23 :メモリ
25 :通信部
27 :バッテリ
31 :プレート
31a :切り欠き
31A :第1プレート
32A :第2プレート
32a :切り欠き
33 :ヒータ
35 :ブロアー
41 :第1室
43 :第2室
h :皮膚表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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