(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図は概略図であり、実際の寸法比率とは必ずしも一致していない。
【0015】
[正極活物質(A)]
はじめに、本実施形態の正極活物質(A)について説明する。
本実施形態の正極活物質(A)はリチウムイオン電池に用いられる硫化遷移金属リチウム系正極活物質であり、例えば、一般式(2):Li
XMS
Yにより示される化合物を含んでいる。
ここで、上記一般式(2)において、0.1≦X≦50、0.1≦Y≦40の関係を満たす。また、MはTi、Mo、V、Co、Ni、Fe、Cr、Mn、およびZnから選択される一種または二種以上の元素である。
【0016】
また、正極活物質(A)は、上記一般式(2)において、上記Xが好ましくは1以上40以下であり、より好ましくは3以上36以下であり、さらに好ましくは4以上28以下、さらにより好ましくは5以上20以下、特に好ましくは5以上16以下である。
また、正極活物質(A)は、上記一般式(2)において、上記Yが好ましくは1以上30以下であり、より好ましくは2以上28以下であり、さらに好ましくは3以上18以下、特に好ましくは4以上17以下である。
上記Xおよび上記Yを上記範囲内とすることにより、得られるリチウムイオン電池の容量密度をより一層向上させることができる。
【0017】
正極活物質(A)は、上記一般式(2)において、Y/Xが0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。
ここで、硫化物系の正極活物質の電位は酸化物系の正極活物質に比べて1V以上低かった。そのため、大きなエネルギー密度を有するリチウムイオン電池を実現するために、より高電圧の硫化物系の正極活物質が求められていた。
本発明者らは、より高電圧の硫化物系の正極活物質を達成すべく鋭意検討を重ねた。その結果、Y/Xを上記下限値以上とすることにより、得られる正極活物質(A)の平均電圧を向上させることができることを見出した。
すなわち、Y/Xが上記下限値以上であることにより、正極活物質(A)の平均電圧を高めることができ、得られるリチウムイオン電池のエネルギー密度を向上させることができる。
また、正極活物質(A)は、上記一般式(2)において、Y/Xが1.2以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましい。Y/Xが上記上限値以下であることにより、正極活物質(A)の充放電容量をより向上させることができる。
【0018】
正極活物質(A)を用いると、大きな容量密度を有し、さらにサイクル特性に優れるリチウムイオン電池を得ることができる。この理由については必ずしも明らかではないが、以下の理由が推察される。
まず詳細は後述するが、正極活物質(A)は、通常は原料であるチタン硫化物、モリブデン硫化物、バナジウム硫化物、コバルト硫化物、ニッケル硫化物、鉄硫化物、クロム硫化物、マンガン硫化物、および亜鉛硫化物から選択される一種または二種以上の遷移金属硫化物と、多硫化リチウムと、を混合することにより得ることができる。ここで、原料である上記遷移金属硫化物は、リチウムイオンのインターカレーションによる体積収縮が小さい材料である。この遷移金属硫化物に多硫化リチウムを混合し、硫黄の量を高めると、遷移金属硫化物の結晶構造からなるドメインが微細化し、非晶質のLi
XMS
Yにより示される化合物が生成することでリチウムイオンが出入りするサイトが広がるとともにリチウムイオンが出入りするサイト数が増加し、大きな容量密度を実現できていると推察される。また、正極活物質(A)はリチウムイオンが出入りするサイトが広がることによりインターカレーションによる体積収縮がより一層小さい材料となり、優れたサイクル特性を実現できていると推察される。
【0019】
ここで、正極活物質(A)中のLi、MおよびSの含有量は、例えば、ICP発光分光分析により求めることができる。
【0020】
また、正極活物質(A)は、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、回折角2θ=20°の位置の強度をバックグラウンド強度I
0とし、回折角2θ=26.7±0.3°の位置に存在する回折ピークの回折強度をI
Aとしたとき、I
A/I
0の値が好ましくは20以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは12以下、さらにより好ましくは10以下である。上記I
A/I
0を上記上限値以下とすることにより、得られるリチウムイオン電池の容量密度をより大きくすることができるとともに、サイクル特性をより一層向上させることができる。
ここで、回折角2θ=26.7±0.3°の位置に存在する回折ピークは、多硫化リチウム由来の回折ピークを表している。したがって、I
A/I
0は、正極活物質(A)中の多硫化リチウムの含有量の指標を表している。I
A/I
0が小さいほど、正極活物質(A)に含まれる多硫化リチウムの量が少ないことを意味する。
上記I
A/I
0が上記上限値以下である正極活物質(A)は、原料である遷移金属硫化物と多リチウム硫化物の反応が十分に進み、新たな化合物が生成していることを意味する。
また、I
A/I
0は小さければ小さいほど好ましいため下限値は特に限定されないが、例えば0.01以上である。
【0021】
また、正極活物質(A)は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d
50が、好ましくは0.5μm以上20μm以下であり、より好ましくは1μm以上10μm以下である。
正極活物質(A)の平均粒子径d
50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、より一層高密度の正極を作製することができる。
【0022】
[リチウムイオン電池用正極活物質(A)の製造方法]
つづいて、本実施形態に係る正極活物質(A)の製造方法について説明する。
本実施形態に係る正極活物質(A)の製造方法はリチウムイオン電池に用いられる硫化遷移金属リチウム系正極活物質を製造するための製造方法であり、多硫化リチウムと、遷移金属硫化物と、を混合することにより硫化遷移金属リチウム系正極活物質を得る工程(A)を含む。
【0023】
本実施形態に係る正極活物質(A)の製造方法によれば、従来の製造方法により得られる硫化遷移金属リチウム系正極活物質に比べて、より大きな容量密度を有する正極活物質を得ることができる。この理由については必ずしも明らかではないが、以下の理由が推察される。
従来、硫化遷移金属リチウム系正極活物質は、通常、原料である硫化リチウムと、遷移金属硫化物と、をメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより作製していた。また、正極活物質中の硫黄(S)の量を高める場合は、原料である硫化リチウムと、遷移金属硫化物と、硫黄(S)とをメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより作製していた。
これに対し、本実施形態に係る正極活物質(A)の製造方法では、硫化リチウムや硫黄(S)の代わりに、多硫化リチウムを用いる。このような多硫化リチウムを用いることにより、使用する硫化リチウムや硫黄(S)の量を低減することができる。その結果、得られる正極活物質(A)は、濃度分布の小さい、より均一な正極活物質が得られると考えられる。より均一な正極活物質は、リチウムイオンの充放電反応がより均一に進むため、充放電容量が増加する。以上の理由から、本実施形態に係る正極活物質(A)の製造方法によれば、より大きな容量密度を有する正極活物質が得られると推察される。
特に、正極活物質中の硫黄(S)の量を高める場合に不均一な正極活物質となりやすいため、本実施形態に係る正極活物質(A)の製造方法は正極活物質中の硫黄(S)の量が高い正極活物質を得る場合に適している。すなわち、本実施形態に係る正極活物質(A)の製造方法は、上記一般式(2)においてY/Xが上記上限値以上である正極活物質(A)を得る場合に特に適している。
【0024】
上記遷移金属硫化物としては、例えば、チタン硫化物、モリブデン硫化物、バナジウム硫化物、コバルト硫化物、ニッケル硫化物、鉄硫化物、クロム硫化物、マンガン硫化物、および亜鉛硫化物から選択される一種または二種以上の遷移金属硫化物を用いることができる。
【0025】
ここで、上記工程(A)では、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、回折角2θ=20°の位置の強度をバックグラウンド強度I
0とし、回折角2θ=26.7±0.3°の位置に存在する回折ピークの回折強度をI
Aとしたとき、I
A/I
0の値が20以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは12以下、さらにより好ましくは10以下、特に好ましくは8以下となるまで上記混合をおこなうことが好ましい。これにより、得られるリチウムイオン電池の容量密度をより大きくすることができるとともに、サイクル特性をより一層向上させることが可能な正極活物質(A)を得ることができる。
以下、具体的に説明する。
【0026】
はじめに、正極活物質(A)が所望の組成比になるように、上記の各原料を所定のモル比で混合する。
また、2種類以上のLi
−M
−S化合物を別々に作製し、正極活物質(A)が所望の組成比になるように、これらの化合物を所定のモル比で混合することにより、正極活物質(A)を得ることもできる。
なお、Li
−M
−S化合物は構成元素として、Li、MおよびSを含んでいるものである。各原料の混合モル比は、例えば、ICP発光分光分析により求めることができるが、通常は仕込みの重量比から算出できる。
【0027】
各原料を混合する方法としては各原料を均一に混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、非活性雰囲気下で撹拌またはメカノケミカル処理によりおこなうことができる。非活性雰囲気下でメカノケミカル処理によりおこなうことがより好ましい。メカノケミカル処理を用いると、各原料を微粒子状に粉砕しながら混合することができるため、各原料の接触面積を大きくすることができる。それにより、各原料の反応を促進することができるため、より一層効率良く正極活物質(A)を得ることができる。
【0028】
ここで、メカノケミカル処理による混合方法とは、混合対象に、せん断力、衝突力または遠心力のような機械的エネルギーを加えつつ混合する方法である。メカノケミカル処理による混合をおこなう装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル等の粉砕・分散機が挙げられる。
【0029】
また、上記非活性雰囲気下とは、1〜10
−5Paの真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下のことである。上記非活性雰囲気下では、水分の接触を避けるために露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることがより好ましい。上記不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
【0030】
また、各原料を混合する時に、ヘキサン、トルエン、またはキシレン等の非プロトン性有機溶媒を添加して、溶媒に各原料を分散させた状態で混合してもよい。こうすることにより、より効率良く混合することができる。
【0031】
各原料を混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
【0032】
(多硫化リチウム)
本実施形態の多硫化リチウムとしては、例えば、一般式(1):Li
2S
1+nにより示される化合物等を用いることができる。ここで、上記一般式(1)において、0<n≦10の関係を満たすことが好ましく、0.1≦n≦5の関係を満たすことがより好ましく、0.1≦n≦3の関係を満たすことがさらに好ましく、0.2≦n≦2の関係を満たすことがよりさらに好ましく、0.2≦n≦1の関係を満たすことがよりさらに好ましく。
本実施形態の多硫化リチウムは、例えば、硫化リチウム(Li
2S)および硫黄(S)を含む混合物に対してメカノケミカル処理等の混合粉砕をおこなうことにより得られる。
【0033】
(チタン硫化物)
本実施形態のチタン硫化物としては、例えば、TiS
2、TiS、Ti
2S
3、TiS
3等を用いることができる。これらの中でも入手容易性の観点からTiS
2が好ましい。
本実施形態のチタン硫化物としては特に限定されず、市販されているチタン硫化物を使用することができる。高純度な正極活物質を得る観点から、不純物の少ないチタン硫化物を使用することが好ましい。
【0034】
(モリブデン硫化物)
本実施形態のモリブデン硫化物としては、例えば、MoS
2、Mo
2S
3、Mo
2S
5、MoS
3等を用いることができる。これらの中でも入手容易性の観点からMoS
2が好ましい。
本実施形態のモリブデン硫化物としては特に限定されず、市販されているモリブデン硫化物を使用することができる。高純度な正極活物質を得る観点から、不純物の少ないモリブデン硫化物を使用することが好ましい。
【0035】
(バナジウム硫化物)
本実施形態のバナジウム硫化物としては、例えば、V
2S
3、V
3S
4、VS、V
5S
8、VS
2、V
2S
5、VS
3、VS
4、VS
5等を用いることができる。これらの中でも入手容易性の観点からV
2S
3が好ましい。
本実施形態のバナジウム硫化物としては特に限定されず、市販されているバナジウム硫化物を使用することができる。高純度な正極活物質を得る観点から、不純物の少ないバナジウム硫化物を使用することが好ましい。
【0036】
(コバルト硫化物)
本実施形態のコバルト硫化物としては、例えば、CoS、CoS
2等を用いることができる。これらの中でも入手容易性の観点からCoSが好ましい。
本実施形態のコバルト硫化物としては特に限定されず、市販されているコバルト硫化物を使用することができる。高純度な正極活物質を得る観点から、不純物の少ないコバルト硫化物を使用することが好ましい。
【0037】
(ニッケル硫化物)
本実施形態のニッケル硫化物としては、例えば、NiS、NiS
2、Ni
3S
2、Ni
7S
6等を用いることができる。これらの中でも入手容易性の観点からNiSが好ましい。
本実施形態のニッケル硫化物としては特に限定されず、市販されているニッケル硫化物を使用することができる。高純度な正極活物質を得る観点から、不純物の少ないニッケル硫化物を使用することが好ましい。
【0038】
(鉄硫化物)
本実施形態の鉄硫化物としては、例えば、FeS、Fe
2S
3、FeS
2等を用いることができる。これらの中でも入手容易性の観点からFeSが好ましい。
本実施形態の鉄硫化物としては特に限定されず、市販されている鉄硫化物を使用することができる。高純度な正極活物質を得る観点から、不純物の少ない鉄硫化物を使用することが好ましい。
【0039】
(クロム硫化物)
本実施形態のクロム硫化物としては、例えば、CrS、Cr
2S
3等を用いることができる。これらの中でも入手容易性の観点からCrSが好ましい。
本実施形態のクロム硫化物としては特に限定されず、市販されているクロム硫化物を使用することができる。高純度な正極活物質を得る観点から、不純物の少ないクロム硫化物を使用することが好ましい。
【0040】
(マンガン硫化物)
本実施形態のマンガン硫化物としては、例えば、MnS、MnS
2等を用いることができる。これらの中でも入手容易性の観点からMnSが好ましい。
本実施形態のマンガン硫化物としては特に限定されず、市販されているマンガン硫化物を使用することができる。高純度な正極活物質を得る観点から、不純物の少ないマンガン硫化物を使用することが好ましい。
【0041】
(亜鉛硫化物)
本実施形態の亜鉛硫化物としては、例えば、ZnS等を用いることができる。本実施形態の亜鉛硫化物としては特に限定されず、市販されている亜鉛硫化物を使用することができる。高純度な正極活物質を得る観点から、不純物の少ない亜鉛硫化物を使用することが好ましい。
【0042】
このような製造方法により、正極活物質(A)を得ることができる。
【0043】
本実施形態の正極活物質(A)の製造方法では、必要に応じて、得られた正極活物質(A)を粉砕、分級、または造粒する工程をさらにおこなってもよい。例えば、粉砕により微粒子化し、その後、分級操作や造粒操作によって粒子径を調整することにより、所望の粒子径を有する正極活物質(A)を得ることができる。上記粉砕方法としては特に限定されず、乳鉢、回転ミル、コーヒーミル等公知の粉砕方法を用いることができる。また、上記分級方法としては特に限定されず、篩等公知の方法を用いることができる。
これらの粉砕または分級は、空気中の水分との接触を防ぐことができる点から、不活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で行うことが好ましい。
また、粉砕、分級、または造粒する工程は、原料に対しておこなってもよいし、上記混合物に対しておこなってもよい。
【0044】
正極活物質(A)は高い充放電容量を有し、かつ、サイクル特性に優れているため、リチウムイオン電池用の正極活物質として有用である。
【0045】
[正極材料(P)]
つぎに、本実施形態の正極材料(P)について説明する。
正極材料(P)は、本実施形態の正極活物質(A)を含んでいる。そして、正極材料(P)は、本実施形態の正極活物質(A)以外の成分として、導電助剤(B)および固体電解質材料(C)から選択される1種以上の材料をさらに含むことが好ましい。これにより、より一層大きな容量密度を有するとともにサイクル特性にもより一層優れるリチウムイオン電池を得ることができる。
【0046】
(導電助剤(B))
正極材料(P)は、正極の導電性を向上させる観点から、導電助剤(B)を含むことが好ましい。導電助剤(B)としてはリチウムイオン電池に使用可能な通常の導電助剤であれば特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック、ケチェンブラック等のカーボンブラック;カーボンファイバー;気相法炭素繊維;黒鉛;カーボンナノチューブ;等の炭素材料が挙げられる。これらの導電助剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、粒子径が小さく、価格が安いカーボンブラックが好ましい。
【0047】
(固体電解質材料(C))
正極材料(P)を全固体リチウムイオン電池用の正極に用いる場合は、正極材料(P)は固体電解質材料(C)を含むことが好ましい。固体電解質材料(C)としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、一般的に全固体リチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。例えば、硫化物無機固体電解質材料、酸化物無機固体電解質材料等を挙げることができる。これらの中でも、硫化物無機固体電解質材料が好ましい。これにより、正極活物質(A)との界面抵抗がより一層低下し、出力特性に優れた全固体リチウムイオン電池とすることができる。
【0048】
固体電解質材料(C)としては、例えば、Li
2S−P
2S
5材料、Li
2S−SiS
2材料、Li
2S−GeS
2材料、Li
2S−Al
2S
3材料、Li
2S−SiS
2−Li
3PO
4材料、Li
2S−P
2S
5−GeS
2材料、Li
2S−Li
2O−P
2S
5−SiS
2材料、Li
2S−GeS
2−P
2S
5−SiS
2材料、Li
2S−SnS
2−P
2S
5−SiS
2材料等が挙げられる。これらの中でも、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ広い電圧範囲で分解等を起こさない安定性を有する点から、Li
2S−P
2S
5材料が好ましい。ここで、例えば、Li
2S−P
2S
5材料とは、少なくともLi
2S(硫化リチウム)とP
2S
5とを含む混合物をメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより得られる材料を意味する。
【0049】
固体電解質材料(C)の形状としては、例えば粒子状を挙げることができる。粒子状の固体電解質材料(C)は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d
50が、好ましくは1μm以上20μm以下であり、より好ましくは1μm以上10μm以下である。
固体電解質材料(C)の平均粒子径d
50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、リチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。
【0050】
(バインダー(D))
正極材料(P)は、正極活物質(A)同士および正極活物質(A)と集電体とを結着させる役割をもつバインダー(D)を含んでもよい。ただし、正極活物質(A)は水と接触すると加水分解を起こすため、水溶性のポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン微粒子、スチレン・ブタジエン系ゴム微粒子等が水に分散した水系バインダーは適さない。
バインダー(D)はリチウムイオン電池に通常使用されるバインダーの中で有機溶剤系バインダーであれば特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド等が挙げられる。これらのバインダーは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
(増粘剤(E))
正極材料(P)は、有機溶媒系バインダーを使用すると比較的粘性が得られ易いため通常は不要であるが、塗布に適したスラリーの流動性を調整する点から、増粘剤を含んでもよい。本実施形態の増粘剤としては膨潤性粘度鉱物のスクメタイト、ポリビニルカルボン酸アミド等が挙げられる。これらの増粘剤は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
(正極活物質(A)とは異なる種類の正極活物質(F))
正極材料(P)は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述した正極活物質(A)とは異なる種類の正極活物質(F)を含んでもよい。
正極活物質(F)としてはリチウムイオンを可逆に放出・吸蔵でき、電子輸送が容易におこなえるように電子伝導度が高い材料が好ましい。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO
2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn
2O
4)、固溶体酸化物(Li
2MnO
3−LiMO
2(M=Co、Ni等))、リチウム−マンガン−ニッケル酸化物(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO
4)等の複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;Li
2S、CuS、Li−Cu−S化合物、TiS
2、FeS、MoS
2等の硫化物系正極活物質;硫黄を含浸したアセチレンブラック、硫黄を含浸した多孔質炭素、硫黄と炭素の混合粉等の硫黄を活物質とした材料;等を用いることができる。これらの正極活物質(F)は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、より高い放電容量密度を有し、かつ、サイクル特性により優れる観点から、硫化物系正極活物質が好ましい。
【0053】
(各種材料の配合割合)
正極材料(P)の各種材料の配合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されないが、正極活物質(A)と、導電助剤(B)と、固体電解質材料(C)とを含む場合、以下の配合割合が好ましい。
正極材料(P)の全固形分100質量%に対し、正極活物質(A)の含有量をX質量%とし、導電助剤(B)の含有量をY質量%としたとき、正極活物質(A)の含有量に対する導電助剤(B)の含有量の比(Y/X)が好ましくは0.20以上、より好ましくは0.30以上、さらに好ましくは0.40以上、特に好ましく0.50以上、そして、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.0以下である。
【0054】
Y/Xが上記下限値以上であると、正極活物質(A)同士あるいは正極活物質(A)と集電体との接触抵抗が低減し、正極内の電子伝導性を向上させることができる。また、Y/Xが上記上限値以下であると、正極内の正極活物質(A)の量を増やすことができる。
以上から、Y/Xが上記範囲内であると、得られるリチウムイオン電池の正極材料(P)の単位重量当たりの容量密度をより向上させることができる。
【0055】
従来、リチウムイオン電池の容量密度を向上させるためには、正極中の正極活物質の量を高めることが重要と考えられていた。導電助剤はあくまでも正極内の導電パスを維持させるために添加するもので、導電助剤をある一定以上含有させても、その効果は変わらないとされていた。むしろ導電助剤の含有量を増やすと、正極材料中の正極活物質の量が減るためリチウムイオン電池の容量密度が低下してしまったり、また、導電助剤は一般的に微粒子のため正極材料のハンドリング性が悪化してしまったりすると考えられていた。したがって、従来は、正極材料中の導電助剤の量は、少ないほど好ましいと考えられていた。
【0056】
しかし、本発明者らが、正極材料に含まれる導電助剤の割合を従来の基準よりも増やしてみたところ、リチウムイオン電池の正極材料の単位重量当たりの容量密度が向上するという、予想外の効果が得られることが明らかになった。すなわち、本発明者らは、全固体リチウムイオン電池において、その容量密度を向上させるためには、電解液を用いた従来のリチウムイオン電池とは異なる観点から配合設計をおこなうことが重要であることを見出した。
そこで、本発明者らは、さらに鋭意検討した。その結果、Y/Xを上記範囲内とすることにより、得られるリチウムイオン電池の放電容量密度を向上させることができることを見出した。
【0057】
また、正極材料(P)の全固形分100質量%に対し、固体電解質材料(C)の含有量をZ質量%としたとき、正極活物質(A)の含有量に対する固体電解質材料(C)の含有量の比(Z/X)が好ましくは0.50以上、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは1.0以上、特に好ましくは1.2以上、そして、好ましくは5.0以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.0以下である。
【0058】
Z/Xが上記下限値以上であると、正極活物質(A)と固体電解質材料(C)との接触面積が増加し、正極活物質(A)と固体電解質材料(C)との界面の抵抗を低下させることができる。さらに固体電解質材料(C)同士の接点が確保され、正極材料(P)内の広範囲に渡りリチウムイオンの導伝パスが形成できるため容量密度を増加させることができる。また、Z/Xが上記上限値以下であると、正極内の正極活物質(A)の量を増やすことができる。
以上から、Z/Xが上記範囲内であると、得られるリチウムイオン電池の正極材料(P)の単位重量当たりの容量密度をより一層向上させることができる。
【0059】
このような正極材料(P)は、電子伝導性とリチウムイオン伝導性のバランスが優れた構造になっていると考えられる。したがって、Y/XおよびZ/Xが上記範囲内である正極材料(P)は、より一層高い容量密度を実現できると考えられる。
【0060】
また、正極材料(P)において、正極活物質(A)の含有量(X)が、好ましくは20質量%以上60質量%以下、より好ましくは25質量%以上50質量%以下であり、導電助剤の含有量(Y)が、好ましくは11質量%以上45質量%以下、より好ましくは15質量%以上35質量%以下であり、固体電解質材料(C)の含有量(Z)が、好ましくは25質量%以上60質量%以下、より好ましくは30質量%以上50質量%以下である。
正極材料(P)の配合が上記範囲内であると、得られるリチウムイオン電池の電池特性がとくに優れている。
【0061】
(正極材料(P)の製造方法)
次に、正極材料(P)の製造方法について説明する。
正極材料(P)は、例えば、正極活物質(A)、導電助剤(B)、固体電解質材料(C)、バインダー(D)、増粘剤(E)、正極活物質(A)とは異なる種類の正極活物質(F)および溶剤等から選択される一種または二種以上の材料と、を混合することにより得ることができる。
【0062】
各原料を混合する方法としては各原料を均一に混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、非活性雰囲気下で撹拌またはメカノケミカル処理によりおこなうことができる。非活性雰囲気下でメカノケミカル処理によりおこなうことがより好ましい。メカノケミカル処理を用いると、各原料を微粒子状に粉砕しながら混合することができるため、各原料の接触面積を大きくすることができる。それにより、各原料の反応を促進することができるため、より一層効率良く正極材料(P)を得ることができる。
【0063】
ここで、メカノケミカル処理による混合方法とは、混合対象に、せん断力、衝突力または遠心力のような機械的エネルギーを加えつつ混合する方法である。メカノケミカル処理による混合をおこなう装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル等の粉砕・分散機が挙げられる。
【0064】
また、上記非活性雰囲気下とは、1〜10
−5Paの真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下のことである。上記非活性雰囲気下では、水分の接触を避けるために露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることがより好ましい。上記不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
【0065】
また、各原料を混合する時に、ヘキサン、トルエン、またはキシレン等の非プロトン性有機溶媒を添加して、溶媒に各原料を分散させた状態で混合してもよい。こうすることにより、より効率良く混合することができる。
【0066】
各原料を混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
【0067】
このような製造方法により、正極材料(P)を得ることができる。
【0068】
[正極]
つぎに、本実施形態の正極について説明する。
本実施形態の正極は、正極材料(P)からなる正極活物質層を備えている。
【0069】
本実施形態の正極活物質層の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0070】
[正極の製造方法]
つぎに、本実施形態の正極の製造方法について説明する。
本実施形態の正極は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、本実施形態の正極材料(P)からなる正極活物質層をアルミ等の集電体の表面に形成することにより得ることができる。
【0071】
正極活物質層は、集電体の片面のみ形成しても両面に形成してもよい。正極活物質層の厚さ、長さや幅は、電池の大きさや用途に応じて、適宜決定することができる。
【0072】
本実施形態の正極の製造に用いられる集電体としては特に限定されず、アルミニウム箔等リチウムイオン電池に使用可能な通常の集電体を使用することができる。
【0073】
本実施形態の正極は、必要に応じてプレスをおこない、正極の密度を調整してもよい。プレスの方法としては、一般的に公知の方法を用いることができる。
【0074】
[リチウムイオン電池]
つぎに、本実施形態に係るリチウムイオン電池100について説明する。
図1は、本発明に係る実施形態のリチウムイオン電池100の構造の一例を示す断面図である。
【0075】
リチウムイオン電池100は、例えば、正極110と、電解質層120と、負極130とを備えている。そして、正極110が、前述した本実施形態の正極である。
リチウムイオン電池100は、一般的に公知の方法に準じて製造される。例えば、本実施形態の正極110および負極130をセパレーター中心に重ねたものを、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成し非水電解液を封入することにより作製される。
【0076】
(負極)
負極130は特に限定されず、リチウムイオン電池に一般的に用いられているものを使用することができる。負極130は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、負極活物質を含む負極活物質層を銅、ステンレス、アルミニウム、ニッケル等の集電体の表面に形成することにより得られる。
【0077】
負極活物質層の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0078】
本実施形態の負極活物質としては、リチウムイオン電池の負極に使用可能な通常の負極活物質であれば特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素質材料;リチウム金属、リチウム合金、スズ、スズ合金、シリコン、シリコン合金、ガリウム、ガリウム合金、インジウム、インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を主体とした金属系材料;ポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー;リチウムチタン複合酸化物(例えばLi
4Ti
5O
12)等が挙げられる。これらの負極活物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0079】
負極は特に限定されないが、本実施形態の負極活物質以外の成分として、例えば、バインダー、増粘剤、導電助剤、固体電解質材料等から選択される1種以上の材料を含んでもよい。これらの材料としては、とくに限定はされないが、例えば、上述した正極110に用いる材料と同様のものを挙げることができる。
【0080】
(電解質層)
次に、電解質層120について説明する。電解質層120は、正極110および負極130の間に形成される層である。
電解質層120とは、セパレーターに非水電解液を含浸させたものや、固体電解質材料により構成された固体電解質層が挙げられる。
【0081】
本実施形態のセパレーターとしては正極110と負極130を電気的に絶縁させ、リチウムイオンを透過する機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、多孔性膜を用いることができる。
【0082】
多孔性膜としては微多孔性高分子フィルムが好適に使用され、材質としてポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル等が挙げられる。特に、多孔性ポリオレフィンフィルムが好ましく、具体的には多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。
【0083】
本実施形態の非水電解液とは、電解質を溶媒に溶解させたものである。
上記電解質としては、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、活物質の種類に応じて選択すればよい。例えば、LiClO
4、LiBF
6、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiB
10Cl
10、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、CF
3SO
3Li、CH
3 SO
3Li、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等が挙げられる。
【0084】
上記電解質を溶解する溶媒としては、電解質を溶解させる液体として通常用いられるものであれば特に限定されず、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の有機酸エステル類;リン酸トリエステルやジグライム類;トリグライム類;スルホラン、メチルスルホラン等のスルホラン類;3−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類;等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0085】
本実施形態の固体電解質層は、正極110および負極130の間に形成される層であり、固体電解質材料を含む固体電解質により形成される層である。固体電解質層に含まれる固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上述した正極に含ませる固体電解質材料(C)と同様のものを用いることができる。
本実施形態の固体電解質層における固体電解質材料の含有量は、所望の絶縁性が得られる割合であれば特に限定されるものではないが、例えば、10体積%以上100体積%以下の範囲内、中でも、50体積%以上100体積%以下の範囲内であることが好ましい。
【0086】
また、本実施形態の固体電解質層は、バインダーを含有していてもよい。バインダーを含有することにより、可撓性を有する固体電解質層を得ることができる。バインダーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有結着材を挙げることができる。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下の範囲内、中でも、0.1μm以上300μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0087】
(全固体リチウムイオン電池)
リチウムイオン電池100は電解質層120として、上述した固体電解質層を用いることによって全固体リチウムイオン電池とすることができる。
本実施形態の全固体リチウムイオン電池は、例えば、本実施形態の正極110、負極130、および、正極110と負極130との間に固体電解質材料により構成された固体電解質層を有するものである。
全固体リチウムイオン電池の正極材料として、正極材料(P)を用いると、放電容量密度、サイクル特性等の電池特性が良好で、かつ、高い安全性を有するリチウムイオン電池とすることができる。
【0088】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
リチウムイオン電池に用いられる硫化遷移金属リチウム系正極活物質を製造するための製造方法であって、
多硫化リチウムと、遷移金属硫化物と、を混合することにより硫化遷移金属リチウム系正極活物質を得る工程(A)を含む正極活物質の製造方法。
2.
1.に記載の正極活物質の製造方法において、
前記遷移金属硫化物が、チタン硫化物、モリブデン硫化物、バナジウム硫化物、コバルト硫化物、ニッケル硫化物、鉄硫化物、クロム硫化物、マンガン硫化物、および亜鉛硫化物から選択される一種または二種以上の遷移金属硫化物を含む正極活物質の製造方法。
3.
1.または2.に記載の正極活物質の製造方法において、
前記工程(A)では、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、回折角2θ=20°の位置の強度をバックグラウンド強度I0とし、回折角2θ=26.7±0.3°の位置に存在する回折ピークの回折強度をIAとしたとき、IA/I0の値が20以下となるまで混合をおこなう正極活物質の製造方法。
4.
1.乃至3.いずれか一つに記載の正極活物質の製造方法において、
前記多硫化リチウムが一般式(1):Li2S1+n(ただし、前記一般式(1)において、0<n≦10の関係を満たす。)により示される化合物を含む正極活物質の製造方法。
5.
1.乃至4.いずれか一つに記載の正極活物質の製造方法において、
前記硫化遷移金属リチウム系正極活物質が一般式(2):LiXMSY(ただし、前記一般式(2)において、0.1≦X≦50、0.1≦Y≦40の関係を満たし、MはTi、Mo、V、Co、Ni、Fe、Cr、Mn、およびZnから選択される一種または二種以上の元素である。)により示される化合物を含む正極活物質の製造方法。
6.
5.に記載の正極活物質の製造方法において、
前記一般式(2)において、Y/Xが0.6以上である正極活物質の製造方法。
7.
リチウムイオン電池用の正極材料を製造するための製造方法であって、
1.乃至6.いずれか一つに記載の正極活物質の製造方法を用いて正極活物質(A)を作製する工程と、
得られた前記正極活物質(A)と、導電助剤(B)、固体電解質材料(C)、バインダー(D)、増粘剤(E)、前記正極活物質(A)とは異なる種類の正極活物質(F)、および溶剤から選択される一種または二種以上の材料と、を混合する工程と、
を含む正極材料の製造方法。
8.
リチウムイオン電池用の正極を製造するための製造方法であって、
7.に記載の正極材料の製造方法を用いて正極材料(P)を作製する工程と、
得られた前記正極材料(P)からなる正極活物質層を集電体の表面に形成する工程と、
を含む正極の製造方法。
9.
リチウムイオン電池を製造するための製造方法であって、
8.に記載の正極の製造方法を用いて正極を作製する工程と、
得られた前記正極と、電解質層と、負極と、を用いてリチウムイオン電池を組み立てる工程と、
を含むリチウムイオン電池の製造方法。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、比較例では、「mAh/g」は正極材料1gあたりの容量密度を示す。
【0090】
[1]評価方法
はじめに、以下の実施例、比較例における評価方法を説明する。
【0091】
(1)ICP発光分光分析
ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により測定し、実施例および比較例で得られた正極活物質中の各元素の質量%をそれぞれ求め、それらの値に基づいて、各元素のモル比をそれぞれ計算した。
【0092】
(2)充放電試験
実施例および比較例で得られた正極材料を導電性銅箔粘着テープ(寺岡製作所社製)の粘着面に付着させ、正極を得た。
つづいて、プレス治具を用いて、硫化物系無機固体電解質材料(Li
11P
3S
12)を83MPaにて予備プレスを行った。その後、それを正極にのせて、さらに250MPa、10分間プレス成型をおこない、正極上に固体電解質層を形成した。
また、上記方法で得られた正極、固体電解質層、負極をこの順で積層させて320MPa、5分間プレスすることで全固体型リチウムイオン電池を作製した。ここで、負極としては、インジウム箔の表面にグラファイトを付着させたものを用いた。
次いで、得られた全固体型リチウムイオン電池について、25℃で、電流密度65μA/cm
2の条件で充電終止電位3.0Vまで充電した後、電流密度65μA/cm
2の条件で、放電終止電位0.4Vまで放電させる条件で充放電を10回行った。
ここで、1回目の放電容量を100%としたときの10回目の放電容量を放電容量変化率[%]とした。平均電圧、正極材料に対する放電容量密度と放電容量変化率について得られた結果を表1に示す。
【0093】
(3)X線回折分析
X線回折装置(リガク社製、RINT2000)を用いて、X線回折分析法により、各正極活物質の回折スペクトルをそれぞれ求めた。なお、線源としてCuKα線を用いた。
ここで、回折角2θ=20°の位置の強度をバックグラウンド強度I
0とし、回折角2θ=26.7±0.3°の位置に存在する回折ピークの回折強度をI
AとしI
A/I
0を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0094】
[2]材料
つぎに、以下の実施例、比較例において使用した材料について説明する。
【0095】
1.多硫化リチウム
硫化リチウム(Li
2S)および硫黄(S)を下記の混合比で混合し、組成比が異なる多硫化リチウムをそれぞれ合成した。
ここで、硫化リチウム(Li
2S)と硫黄(S)の混合比は、Li
2S:S=1:0.5〜1:1の範囲で変化させた。また、硫化リチウム(Li
2S)と硫黄(S)の混合は、遊星ボールミルによるメカニカルミリングで、以下の混合条件でおこなった。
混合条件:硫化リチウム(Li
2S)と硫黄(S)の合計量を約2gとした。400rpmでの混合(10分間)および静止(5分間)を1サイクルとして60サイクルおこなった。
【0096】
2.正極材料
アルゴン雰囲気下で、実施例および比較例で得られた正極活物質と、導電助剤であるケッチェンブラックとを乳鉢を用いて混合した。次いで、その混合物に無機固体電解質材料であるLi
11P
3S
12を加え、乳鉢を用いて混合した。
得られた混合物をAl
2O
3製ポットに加え、さらにZrO
2ボールを入れ、Al
2O
3製ポットを密閉した。Al
2O
3製ポット内はアルゴン雰囲気とした。
次いで、Al
2O
3製ポットを、ボールミル回転台に乗せ120rpmで、24時間粉砕混合を行い、正極材料を得た。ここで、正極活物質と、導電助剤と、無機固体電解質材料と、の混合比は1:0.5:1.2(質量比)とした。
【0097】
3.固体電解質材料
実施例および比較例で使用したLi
2S−P
2S
5材料であるLi
11P
3S
12を以下の手順で作製した。
原料には、Li
2S(シグマアルドリッチジャパン製、純度99.9%)、P
2S
5(関東化学製試薬)を使用した。Li
3Nは、以下の手順で作製した。
まず、窒素雰囲気のグローブボックス中で、Li箔(本城金属社製純度99.8%、厚さ0.5mm)にステンレス製の剣山を使用しφ1mm以下の穴を多数開けた。Li箔は穴の部分から黒紫色に変化し始め、そのまま、常温で24時間放置することでLi箔すべてが黒紫色のLi
3Nに変化した。Li
3Nは、メノウ乳鉢で粉砕後、ステンレス製篩で篩い分けし、75μm以下の粉末を回収し無機固体電解質材料の原料とした。
つづいて、アルゴングローブボックス中で各原料をLi
2S:P
2S
5:Li
3N=67.5:22.5:10.0(モル%)になるように精秤し、これら粉末を20分間メノウ乳鉢で混合した。次いで、混合粉末2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、遊星ボールミル(フリッチュ社製、P−7)にて100rpmで1時間混合粉砕した。次いで、400rpmで15時間混合粉砕した。混合粉砕後の粉末はカーボンボートに入れアルゴン気流中で300℃、2時間加熱処理し、Li
11P
3S
12組成のLi
2S−P
2S
5材料を得た。
【0098】
<実施例1>
アルゴン雰囲気下で、Al
2O
3製ポットに、遷移金属硫化物であるMoS
2(和光純薬工業社製)と、多硫化リチウムであるLi
2S
1.33とを秤量して加え、さらにZrO
2ボールを入れ、Al
2O
3製ポットを密閉した。
次いで、Al
2O
3製ポットを、ボールミル回転台に乗せ120rpmで、4日間処理を行い、混合物を得た。
得られた正極活物質は乳鉢により粉砕し、目開き43μmの篩により分級して正極活物質(Li
6MoS
6)を得た。
得られた正極活物質について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0099】
<実施例2〜6、比較例1〜8>
正極活物質の合成原料の種類および配合割合を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして正極活物質をそれぞれ作製し、得られた正極活物質について各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0100】
実施例で得られた正極活物質を用いたリチウムイオン電池は、比較例で得られた同組成の正極活物質を用いたリチウムイオン電池に比べて、放電容量が高かった。
以上から、本実施形態に係る正極活物質の製造方法によれば、より大きな容量密度を有する硫化物系の正極活物質が得られることが確認できた。
【0101】
【表1】