(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681239
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】プレス成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/20 20060101AFI20200406BHJP
B21D 53/88 20060101ALI20200406BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20200406BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20200406BHJP
B21D 37/16 20060101ALI20200406BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20200406BHJP
B62D 25/06 20060101ALI20200406BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
B21D22/20 G
B21D53/88 Z
B21D22/26 D
B21D24/00 F
B21D22/20 H
B21D24/00 M
B21D37/16
B62D25/04
B62D25/06 A
B62D25/20 F
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-64140(P2016-64140)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-177115(P2017-177115A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 嘉明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利哉
(72)【発明者】
【氏名】野村 成彦
(72)【発明者】
【氏名】入江 直之
(72)【発明者】
【氏名】猪 一郎
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 敬三
(72)【発明者】
【氏名】玄道 俊行
(72)【発明者】
【氏名】山崎 忠
【審査官】
飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0187410(US,A1)
【文献】
特開2013−184221(JP,A)
【文献】
実開昭59−124635(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20
B21D 22/26
B21D 24/00
B21D 37/16
B21D 53/88
B62D 25/04
B62D 25/06
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の金属製ベースワークに板状の金属製パッチワークが溶接されてなるパッチワークブランクを下側のパンチと上側のダイによってプレスしてプレス成形品を得る方法であって、
上記パッチワークブランクを上記パッチワークが上記ベースワークの上側に重ねられた姿勢で上記パンチとダイの間に搬入し、
上記パッチワークブランクを、上記ベースワークの上記パッチワークが設けられている部分が上記パンチ側に上記パッチワークの板厚分凹み、上記ダイのプレス成形面によって上記ベースワークと上記パッチワークが面一になるように、プレス成形することを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記パッチワークブランクを熱間でプレス成形することを特徴とするプレス成形方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記パッチワークブランクを上記パッチワークが上記プレス成形品の稜線を形成するようにプレス成形することを特徴とするプレス成形方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記プレス成形品として、腹壁部の両サイドに相対する縦壁部を有する断面ハット形の車両用ボディメンバーを得るものであり、上記パッチワークを上記車両用ボディメンバーの腹壁部と縦壁部とがなす稜線を形成するように設けることを特徴とするプレス成形方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記ベースワーク及び上記パッチワークの少なくとも一方は亜鉛めっき皮膜を有し、該亜鉛めっき皮膜を介して上記ベースワークと上記パッチワークが重ね合わされていることを特徴とするプレス成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレス成形
方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形用ブランクとして、板状のベースワークに該ベースワークよりも小さな板状のパッチワークが溶接されてなるパッチワークブランクは一般に知られている。例えば、特許文献1には、ベースワークとしての合金化溶融亜鉛めっき鋼板とパッチワークとしての小さな鋼板を重ね合わせてなるブランクを熱間プレス成形してハット形の横断面形状を有するプレス成形品(例えば、車両用ボディメンバー)を得ることが記載されている。また、同文献には、プレス成形品のパッチワークが重ね合わされた部分では、プレス成形時にめっき皮膜の亜鉛が溶融して母材鋼板の結晶粒界に浸入し、母材鋼板に表面割れを生ずることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−184221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、パッチワークブランクのプレス成形において、
図7に示すように、ベースワークaの上側にパッチワークbを重ねた状態で下側のパンチcと上側のダイdでプレス成形するようにすると、次の問題がある。
【0005】
この場合、上側のダイdのプレス成形面には、パッチワークbの板厚分の凹みeを設けることになるが、その凹みeの一部がアンダーカット部となる問題である。
図7の例では、プレス成形精度を高めるために、ダイdのプレス成形面に鎖線で示すようにパッチワークbの下端側に回り込んだ成形部fを設けたいところ、この成形部fがアンダーカット形状になる。なお、
図7及び後述の
図8、
図9において、×印は溶接を意味する。
【0006】
しかし、金型の加工具は同図における下方からしか入らないため、当該成形部fを設けることができない。仮に、特殊な方法で成形部fを設けたとしても、アンダーカット形状になるため、プレス成形品をダイdから離型することが難しくなる。そのため、ダイdのプレス成形面を実線で示すようにアンダーカット部ができないようにせざるを得ない。その場合、プレス成形面の形状が求めようとするプレス成形品の形状に対応しなくなるため、得られるプレス成形品の形状精度が悪化する(成形不良)。また、熱間プレス成形では、パッチワークbの下端部とダイdの間の隙間が大きくなるため、プレス成形品の冷却不良ひいては焼入れ不良を招く。
【0007】
一方、
図8に示すように、パッチワークbをベースワークaの下側に設けた場合には上記アンダーカットの問題はないが、プレス加工ラインでのブランクの搬送において、下側になったパッチワークbがコンベヤに接触して、搬送不良を招き易くなる。例えば、
図9に示すように、パッチワークbがベースワークaの片側に偏倚したブランクをローラーコンベヤgで搬送するケースでは、ブランクがコンベア上で傾いた状態になるため、直進せずに搬送位置にずれを生ずる。
【0008】
以上に述べたパッチワークブランクのプレス成形についての問題は、片面が部分的に隆起して板厚が厚くなった差厚鋼板をプレス成形する場合においても、同様に存する問題である。
【0009】
そこで、本発明は、パッチワークブランクよりなる強度が高いプレス成形品を得ることを課題とする。
【0010】
また、本発明は、パッチパークブランクや差厚鋼板のプレス成形において、成形不良を招くことなく、強度が高いプレス成形品を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここに開示す
るプレス成形方法は、板状の金属製ベースワークに板状の金属製パッチワークが溶接されてなるパッチワークブランクを下側のパンチと上側のダイによってプレスしてプレス成形品を得る方法であって、
上記パッチワークブランクを上記パッチワークが上記ベースワークの上側に重ねられた姿勢で上記パンチとダイの間に搬入し、
上記パッチワークブランクを、上記ベースワークの上記パッチワークが設けられている部分が上記パンチ側に上記パッチワークの板厚分凹み、
上記ダイのプレス成形面によって上記ベースワークと上記パッチワークが面一になるように、プレス成形することを特徴とする
。
【0012】
このプレス成形方
法によれば、パッチワークブランクをパッチワークがベースワークの上側に重ねられた姿勢でパンチとダイの間に搬入することにより、搬送不良(位置ずれ)の問題を生ずることを避けることができる。そして、ベースワークのパッチワークに対応する部分をパンチ側にパッチワークの板厚分凹ませ、
ダイのプレス成形面によってベースワークとパッチワークが面一になるように成形するから、
ダイのプレス成形面にはパッチワークのための凹みを設ける必要がなく、プレス成形精度を高める上で有利になる。また、ベースワーク側に凹みが形成されることによって、得られるプレス成形品に凹凸が増え、それにより、断面係数が大きくなり、強度が高いプレス成形品が得られる。
【0013】
好ましい実施形態では、上記パッチワークブランクを熱間でプレス成形する。従って、ベースワーク側に凹みを形成するものの、熱間プレスであるから、プレス加工力が大きく増大することが避けられる。
【0014】
ここに、ベースワーク及びパッチワークを鋼板製にすると、熱間プレス成形後に急冷することによって焼入れ効果を得ることができる。また、ベースワーク及びパッチワークは、非めっき材であってもよいが、防錆のために、例えば、アルミニウムめっき、亜鉛めっき等を施したものであってもよい。
【0015】
好ましい実施形態では、上記パッチワークブランクを上記パッチワークが上記プレス成形品の稜線を形成するようにプレス成形する。パッチワークがプレス成形品の稜線を形成することにより、プレス成形品の補強に有利になる。
【0016】
好ましい実施形態では、上記プレス成形品として、腹壁部の両サイドに相対する縦壁部を有する断面ハット形の車両用ボディメンバーを得る。
【0017】
好ましい実施形態では、上記パッチワークが上記断面ハット形の車両用ボディメンバーの腹壁部と縦壁部とがなす稜線を形成するように設けられる。従って、パッチワークの一部が縦壁部を形成するものの、上述の如く、
ダイのプレス成形面にはパッチワークのための凹みを設ける必要がない。
【0018】
このことは、上記縦壁部を立てることができること、つまり、腹壁部と縦壁部がなす鈍角を90度に近づけること(例えば、100度以下に、さらには95度以下にすること)ができることを意味する。すなわち、ダイのプレス成形面の上記縦壁部を成形する部分を垂直に近い状態にしても、パッチワーク用の凹みを設ける必要がないから、
図7に示すアンダーカット部ができる問題は生じない。
【0019】
よって、腹壁部と縦壁部がなす角度を腹壁部に近い側よりも離れた側が大きくなるように縦壁部の中間部において変化させてなるハット形断面構造を得ることができる。このような相対する縦壁部各々が中間で屈曲している断面構造によれば、凹凸が増えて断面係数が増大することにより、パッチワークによる補強と相俟って、強度が高いボディメンバーが得られる。
【0020】
好ましい実施形態では、上記ベースワーク及び上記パッチワークの少なくとも一方は亜鉛めっき皮膜を有し、該亜鉛めっき皮膜を介して上記ベースワークと上記パッチワークが重ね合わされている。
【0021】
ここに、一般にベースワークとパッチワークの間に亜鉛めっき皮膜が介在するケースでは、亜鉛が溶融した状態でベースワーク又はパッチワークに引張変形を加えると、亜鉛が引張変形を受けたワークの結晶粒界に浸入してワークの強度が低下する。これに対して、上記プレス成形方法の場合、ベースワークのパッチワークが設けられた部分はパンチ側に凹むように成形されるから、引張変形量は小さい。パッチワークもベースワークの凹み変形に追従するように変形するから、同じく、引張変形量が小さくなる。よって、亜鉛めっき皮膜がベースワークとパッチワークの間に介在する当該ケースにおいて、亜鉛がワークに浸入することが避けられ、プレス成形品の強度が確保され
る。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るプレス成形
方法によれば、
パッチワークブランクから成形不良を招くことなく、強度が高いプレス成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】プレス成形装置にブランクを搬入した状態を示す断面図。
【
図2】プレス成形途中段階のプレス成形装置を示す断面図。
【
図4】プレス成形前のパンチ、ダイ及びブランクを示す断面図。
【
図5】プランクをパンチ及びダイでプレスした状態を示す断面図。
【
図6】車両の骨格を形成するサイドアッセンブリーの正面図。
【
図9】ブランクとローラーコンベヤの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
<プレス成形装置>
図1に示す実施形態に係るプレス成形装置1は、熱間プレス成形装置であり、加熱されたパッチワークブランク2を下側のパンチ3と上側のダイ4によってプレス成形し、パンチ3及びダイ4によるプレス状態で冷却することによって焼入れされた高張力鋼製プレス成形品を得る。
【0026】
このプレス成形装置1ではプレス成形品の冷却に水冷が採用されている。すなわち、冷媒として水を用いている。図示は省略するが、パンチ3及びダイ4各々の内部には冷却水を通す冷媒流路が形成され、各々のプレス成形面14,25に冷却水の噴出口と冷却水の吸込口が開口している。パンチ3及びダイ4のプレス成形面14,25とプレス成形品の間に冷却水を供給することで、プレス成形品を急冷して焼き入れする。なお、パンチ3及びダイ4各々に冷媒流路を形成し、冷媒を噴出させることなく、パンチ2及びダイ4を介してプレス成形品を間接的に冷却することもできる。
【0027】
パッチワークブランク2は、板状のベースワーク5に該ベースワークよりも小さな板状のパッチワーク6が溶接されてなる。本例のベースワーク5及びパッチワーク6は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)である。パッチワークブランク2は、パッチワーク6がベースワーク5の上側に重ねられた姿勢でローラーコンベヤにより搬送され、その姿勢のままパンチ3とダイ4の間に搬入される。
【0028】
図1に示すプレス成形装置1において、11はパンチ3を保持するパンチホルダ、12はダイ4を保持するダイホルダである。ダイ4は、油圧シリンダ13によってダイホルダ12に取り付けられ、油圧シリンダ13の作動によりダイホルダ12に対して昇降する。ダイホルダ12はプレス機械の昇降するスライダ(図示省略)に取り付けられる。
【0029】
ブランク2のトリミングのために、パンチ3のプレス成形面14の両側縁にトリミング用切刃15が設けられ、ダイホルダ12にトリム刃16が設けられている。ブランク2は、プレス成形時にその両側部が中央部に引き寄せられていく。そのときにブランク2の両側部が切刃15を擦らないように(切刃15が摩耗しないように)、ブランク2の両端部を受けて該ブランク2が切刃15に接触することを妨げる切刃防護部材17がパンチ3の両側に設けられている。切刃防護部材17のブランク受け面は切刃15よりも少し高くなっている。
【0030】
切刃防護部材17は、パンチホルダ11に設けられた斜面に支持されていて、ブランク2のトリミング時には下降するトリム刃16と干渉しないように、
図2に矢符で示すようにパンチ3の側方へ退避する。すなわち、切刃防護部材17は、プレス成形時には付勢手段によってブランク2を受ける防護位置に位置付けられ、トリミング時にはダイホルダ12に設けられたカムドライバー18に押され上記斜面を摺動してパンチ3からその側方へ離れるように退避する。パンチホルダ11におけるパンチ3の両側位置には、ブランク2のトリミングで発生するスクラップを受けるスクラップ受け19が設けられている。
【0031】
図3に示すように、本実施形態のプレス成形で得るプレス成形品21は、腹壁部22と、腹壁部22の両側縁に続く相対する縦壁部23と、縦壁部23の端部に続く外側へ張り出したフランジ部24とを有する断面ハット形の車両用ボディメンバーである。相対する縦壁部23の各々はその中間に屈曲部23aを有し、屈曲部23aよりも腹壁部22に近い側23bは腹壁部22とのなす角度が100度以下の鈍角になっており、屈曲部23aよりも腹壁部22から遠い側23cは腹壁部22とのなす角度が110度以上130度以下の大きな鈍角になっている。
【0032】
パッチワーク6は、腹壁部22と片サイドの縦壁部23の腹壁部22に近い側23bとに跨がるように当該断面ハット形プレス成形品21の外面側(表面側)に設けられており、言わば、外パッチである。このパッチワーク6は、プレス成形品21の腹壁部22と片サイドの縦壁部23とがなす稜線21aを形成している。ベースワーク5は、パッチワーク6が設けられている部分がパッチワーク6の板厚分だけ内側(裏面側)に凹み、その結果、ベースワーク5の外面とパッチワーク6の外面が面一になっている。
【0033】
上記ハット形断面のプレス成形品21を得るべく、
図4に示すように、ダイ4は、断面ハット形のダイ穴26を備え、このダイ穴26の内部(穴底の両側部)に、プレス成形品21の稜線21aを形成するための凹形状の稜線成形部25aを有する。
【0034】
一方、パンチ3は、ダイ穴26よりも所定の大きさ(ベースワーク5の板厚)だけ小さなダイ穴形状に対応した凸部20を備え、この凸部20の頂部の両側部にプレス成形品21の稜線21aを形成するための凸形状の稜線成形部14a,14bを有する。一方の稜線成形部14aの少なくとも一部とその両側近傍部は、上記凹形状の稜線成形部25aの部位の上記所定の大きさだけ小さなダイ穴形状より一定の深さ凹んだ形状になっている。
【0035】
すなわち、パンチ3のプレス成形面14には、腹壁部22を成形する成形面と片サイドの縦壁部23(上記近い側23b)を成形する成形面に跨がって、パッチワーク6の板厚分の凹み14cが形成されている。この凹み14cは、プレス成形面14におけるベースワーク5とパッチワーク6が重なった部分を成形する箇所に設けられており、ベースワーク5を部分的に凹ませるためのものである。
【0036】
また、パンチ3のプレス成形面14の縦壁部23を成形する部分の中間には、プレス成形品21の屈曲部23aを成形する屈曲部14dが設けられている。この屈曲部14cに対応して、ダイ4のプレス成形面25の縦壁部23を成形する部分の中間に上記屈曲部23aを成形する屈曲部25aが設けられている。
【0037】
ダイ4のプレス成形面25にはパッチワーク6を収めるための凹みは設けられていない。すなわち、パンチ3側にパッチワーク6の板厚分の凹み14cを設けたことにより、ダイ4のプレス成形面25には凹みを設ける必要がない。従って、ダイ4のプレス成形面25の縦壁部23を成形する部分を垂直に近い状態にしても、
図7に示すアンダーカット部ができる問題は生じない。
【0038】
<プレス成形方法>
パッチワークブランク2をパッチワーク6がベースワーク5の上側に重ねられた姿勢でローラーコンベヤにより直進で搬送し、その姿勢のまま
図1に示すようにパンチ3とダイ4の間に搬入する。この搬入において、パッチワーク6はコンベヤのローラーには接触せず、従って、パッチワークブランク2は傾くことがないため、搬送方向が直進から逸れることが避けられる。
【0039】
図2に示すように、ダイ4が下降すると、ブランク2はパンチ3とダイ4に挟まれて上向きの凸になるように変形する。このとき、ブランク2の両側縁は、切刃15の直ぐそばに配置された切刃防護部材17に当接した状態になる。よって、ブランク2は切刃防護部材17に妨げられ、切刃15には接触しない。
【0040】
ダイ4の下降につれてブランク2のプレス成形が進み、トリム刃16がブランク2に当たる直前から切刃防護部材17がトリム刃16と干渉しないように退避していく。ダイ4がブランク2を完全にプレスした状態になった時点で油圧シリンダ13がダイホルダ12に対してダイ4を相対的に下降させた状態から相対的に上昇させる状態に切り替わる。
【0041】
これにより、ダイホルダ12がさらに下降し、トリム刃16がパンチ2の両側縁の切刃15とすれ違うことによってブランク2のトリミングが行なわれる。このとき、切刃防護部材17はパンチ3から側方に離れているから、トリム刃16は切刃防護部材17に干渉しない。トリミングによって生ずるスクラップはスクラップ受け19に受けられる。続いて、パンチ3及びダイ4各々のプレス成形面に開口した噴出口から冷却水がパンチ3及びダイ4各々のプレス成形面とプレス成形品の間に供給されて、プレス成形品が焼入れされる。
【0042】
図5に示すように、パンチ3のプレス成形面14にパッチワーク6の板厚分の凹み14cが形成されているから、ダイ4がブランク2をプレスした状態になると、ベースワーク5のパッチワーク6が設けられている部分が凹み14cに落ち込む。すなわち、ベースワーク5の当該部分はパンチ3側にパッチワーク6の板厚分凹む。ベースワーク5に凹み5aが形成される結果、ベースワーク5の外面とパッチワーク6の外面はダイ4のプレス成形面25によって面一になるように成形される。
【0043】
上述の如く、ベースワーク5のパッチワーク6が設けられている部分は、パンチ3のプレス成形面14の凹み14cに落ち込むから、当該プレス成形による引張変形量は小さい。パッチワーク6もベースワーク5の凹み変形に追従するように変形するから、同じく、引張変形量が小さくなる。よって、ベースワーク5とパッチワーク6の間に介在する亜鉛めっき皮膜が溶融しても、亜鉛がワーク5,6に浸入することが避けられ、プレス成形品の強度が確保される。
【0044】
また、上記プレス成形方法によれば、ベースワーク5に凹み5aが形成されることによって、得られるプレス成形品21の稜線が増える。また、相対する縦壁部23各々の中間は屈曲部23aは稜線を構成する。このように稜線が増えて断面係数が増大することにより、パッチワーク6による補強と相俟って、強度が高いボディメンバーが得られる。
【0045】
<本発明の適用例>
図6は車両(自動車)の骨格を形成するサイドアッセンブリーに本発明を適用した例を示す。同図において、31はフロントピラーアウタ、32はセンターピラーアウタ、33はルーフサイドレールアウタ、34はサイドシルアウタメンバーである。フロントピラーアウタ31の上端部はルーフサイドレールアウタ33の先端部に接合され、フロントピラーアウタ31の下端部はサイドシルアウタメンバー34の先端部に接合されている。センターピラーアウタ32の上端部はルーフサイドレールアウタ33の長さ方向中間部に接合され、センターピラーアウタ32の下端部はサイドシルアウタメンバー34の長さ方向中間部に接合されている。
【0046】
フロントピラーアウタ31は、上部材31aと下部材31bを破線部位で予め接合したパッチワーク付きのテーラードブランクを熱間プレス成形することによって形成されている。センターピラーアウタ32は、上部材32aと下部材32bを破線部位で予め接合したパッチワーク付きのテーラードブランクを熱間プレス成形することによって形成されている。ルーフサイドレールアウタ33は、パッチワーク付きのブランクを熱間プレス成形することによって形成されている。サイドシルアウタメンバー34は、前部材34aと後部材34bを破線部位で予め接合したパッチワーク付きのテーラードブランクを熱間プレス成形することによって形成されている。フロントピラーアウタ31、センターピラーアウタ32、ルーフサイドレールアウタ33及びサイドシルアウタメンバー34は、いずれもGAによって形成され、断面形状がハット形になっている。
【0047】
フロントピラーアウタ31では、その上端部と下端部にパッチワーク6A,6Bが各々腹壁部両サイドの稜線を形成するように外パッチとして設けられている。センターピラーアウタ32では、その上部にパッチワーク6Cが腹壁部両サイドの稜線を形成するように外パッチとして設けられている。ルーフサイドレールアウタ33では、センターピラーアウタ32とT字状に交差する部分とそこから前方に延びる部分にパッチワーク6D,6Eが各々腹壁部両サイドの稜線を形成するように外パッチとして設けられている。サイドシルアウタメンバー34では、その前端部からフロントピラーアウタ31に続く部分と該部分からセンターピラーアウタ32に向かって延びる部分にパッチワーク6F,6Gが各々腹壁部片サイド(サイドシル上縁側)の稜線を形成するように外パッチとして設けられ、センターピラーアウタ32とT字状に交差する部分にパッチワーク6Hが腹壁部片サイド(サイドシル下縁側)の稜線を形成するように外パッチとして設けられている。
【0048】
フロントピラーアウタ31、センターピラーアウタ32、ルーフサイドレールアウタ33及びサイドシルアウタメンバー34各々のパッチワーク6A〜6Hが設けられた部分では、ベースワークがパッチワークの板厚分だけ内側に凹み、パッチワーク6A〜6H各々はそれらが設けられているベースワークと面一になっている。
【0049】
なお、本発明が上記車両のボディメンバーに限らず、一般構造物のプレス成形に適用できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0050】
1 プレス成形装置
2 パッチワークブランク
3 パンチ
4 ダイ
5 ベースワーク
6,6A〜6H パッチワーク
14 プレス成形面
14a 凸形状の稜線成形部
14b 凸形状の稜線成形部
14c 凹み
20 凸部
21 プレス成形品
21a 稜線
22 腹壁部
23 縦壁部
23a 屈曲部(稜線)
25 プレス成形面
25a 凹形状の稜線成形部
26 凹部
31〜34 プレス成形品