特許第6681246号(P6681246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681246
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】燃料電池用シール部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0284 20160101AFI20200406BHJP
   H01M 8/0286 20160101ALI20200406BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20200406BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20200406BHJP
【FI】
   H01M8/0284
   H01M8/0286
   F16J15/10 Y
   F16J15/10 D
   !H01M8/10 101
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-70947(P2016-70947)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-183161(P2017-183161A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】西川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−229324(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0287340(US,A1)
【文献】 特開2012−243580(JP,A)
【文献】 特開2011−238364(JP,A)
【文献】 特開2011−090802(JP,A)
【文献】 特開平10−168257(JP,A)
【文献】 特開2007−131665(JP,A)
【文献】 特開2004−315615(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/125819(WO,A1)
【文献】 特開2005−146099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
F16J 15/00 − 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(α)に示す燃料電池用シール部材の製造方法であって、下記の(A)〜(D)成分を含有し、かつ(A)成分と(B)成分との含有割合が、重量比で、A/B=95/5〜40/60の範囲であり、(A)および(B)成分の合計量100重量部に対し、(C)成分の含有量が0.4〜12重量部であり、(D)成分の含有量が5〜40重量部であるゴム組成物を混練する工程と、上記混練されたゴム組成物の射出成形を行う工程と、を備えていることを特徴とする燃料電池用シール部材の製造方法。
(α)燃料電池の構成部材をシールするために用いられる燃料電池用シール部材であって、下記の(A)〜()成分を含有し、かつ(A)成分と(B)成分との含有割合が、重量比で、A/B=95/5〜40/60の範囲であり、(A)および(B)成分の合計量100重量部に対し、(C)成分の含有量が0.4〜12重量部であり、(D)成分の含有量が5〜40重量部であるゴム組成物の架橋体からなる燃料電池用シール部材。
(A)エチレン−プロピレン−ジエンゴムからなるソリッドゴム。
(B)液状エチレン−プロピレン−ジエンゴムからなる液状ゴム。
(C)有機過酸化物からなる架橋剤。
(D)パラフィンオイルおよびポリαオレフィン化合物の少なくとも一方。
【請求項2】
上記液状ゴム(B)が、ジエン含量4重量%以上の液状エチレン−プロピレン−ジエンゴムである、請求項1記載の燃料電池用シール部材の製造方法
【請求項3】
上記(A)成分と(B)成分との含有割合が、重量比で、A/B=95/5〜65/35の範囲である、請求項1または2記載の燃料電池用シール部材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用構成部材をシールするために用いられる燃料電池用シール部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、ガスの電気化学反応により電気を発生させ、発電効率が高く、排出されるガスがクリーンで環境に対する影響が極めて少ない。なかでも固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動させることができ、大きな出力密度を有する。このため、発電用、自動車用電源等、種々の用途が期待される。
【0003】
固体高分子型燃料電池においては、膜電極接合体(MEA)等をセパレータで挟持したセルが発電単位となる。MEAは、電解質となる高分子膜(電解質膜)と、電解質膜の厚さ方向両面に配置された一対の電極触媒層(燃料極(アノード)触媒層、酸素極(カソード)触媒層)と、からなる。一対の電極触媒層の表面には、さらにガスを拡散させるための多孔質層が配置される。燃料極側には水素等の燃料ガスが、酸素極側には酸素や空気等の酸化剤ガスがそれぞれ供給される。供給されたガスと電解質と電極触媒層との三相界面における電気化学反応により、発電が行われる。固体高分子型燃料電池は、上記セルを多数積層したセル積層体を、セル積層方向の両端に配置したエンドプレート等により締め付けて構成される。
【0004】
セパレータには、各々の電極に供給されるガスの流路や、発電の際の発熱を緩和するための冷媒の流路が形成される。例えば、各々の電極に供給されるガスが混合すると、発電効率が低下する等の問題が生じる。また、電解質膜は、水を含んだ状態でプロトン導電性を有する。このため、作動時には、電解質膜を湿潤状態に保つ必要がある。したがって、ガスの混合、ガスおよび冷媒の漏れを防止すると共に、セル内を湿潤状態に保持するためには、MEAおよび多孔質層の周囲や、隣り合うセパレータ間のシール性を確保することが重要となる。これらの構成部材をシールするシール部材としては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、エチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)等からなるシール部材(ゴムガスケット)が提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−94056号公報
【特許文献2】特開2010−146781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料電池用シール部材のゴム成分としては、燃料電池用シール部材に要求される機械的物性(引張り強さ、破断伸び、硬度等)や耐ヘタリ性(シール性)等を良好に得る観点から、通常、EPDM、EPM等のソリッドゴム(ミラブル型ゴム)が用いられ、その架橋剤には、有機過酸化物が用いられる。
【0007】
ところで、燃料電池用シール部材の製造工程において、近年、生産性を向上させるために、射出成形時の射出性を改良することが求められている。すなわち、燃料電池用シール部材は、通常、厚み約lmm×大きさ10cm角以上で、枠の幅が3〜4mmの、枠状シール部材のため、射出成形で形成するのが困難(射出成形により金型の隅々にまでゴムを行き渡らせることが困難)であったことから、その改善が望まれている。
【0008】
上記の射出性を改良する手法としては、例えば、燃料電池用シール部材形成用のゴム組成物中に軟化剤(可塑剤)を配合し、ゴム組成物を低粘度化させる手法がある。
【0009】
しかしながら、EPDM、EPM等のミラブル型ゴムをポリマーとするゴム組成物に、上記射出性が改善されるほど軟化剤を配合して低粘度化し、燃料電池用シール部材を射出成形した場合、燃料電池用シール部材に要求される機械的物性や耐ヘタリ性を得られなくなることから、その改善が求められている。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、シール部材に要求される機械的物性や耐ヘタリ性を維持しながら射出成形性に優れる燃料電池用シール部材、およびその製造方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の(α)に示す燃料電池用シール部材の製造方法であって、下記の(A)〜(D)成分を含有し、かつ(A)成分と(B)成分との含有割合が、重量比で、A/B=95/5〜40/60の範囲であり、(A)および(B)成分の合計量100重量部に対し、(C)成分の含有量が0.4〜12重量部であり、(D)成分の含有量が5〜40重量部であるゴム組成物を混練する工程と、上記混練されたゴム組成物の射出成形を行う工程と、を備えている燃料電池用シール部材の製造方法を、その要旨とする。
(α)燃料電池の構成部材をシールするために用いられる燃料電池用シール部材であって、下記の(A)〜()成分を含有し、かつ(A)成分と(B)成分との含有割合が、重量比で、A/B=95/5〜40/60の範囲であり、(A)および(B)成分の合計量100重量部に対し、(C)成分の含有量が0.4〜12重量部であり、(D)成分の含有量が5〜40重量部であるゴム組成物の架橋体からなる燃料電池用シール部材。
(A)エチレン−プロピレン−ジエンゴムからなるソリッドゴム。
(B)液状エチレン−プロピレン−ジエンゴムからなる液状ゴム。
(C)有機過酸化物からなる架橋剤。
(D)パラフィンオイルおよびポリαオレフィン化合物の少なくとも一方。
【0013】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、燃料電池用シール部材のゴム成分として優れた特性を示す、エチレン−プロピレンゴムやエチレン−プロピレン−ジエンゴムを用いるとともに、燃料電池の発電が阻害されることのないよう、有機過酸化物を、その架橋剤として用いることを検討した。また、その材料中に軟化剤を配合しなくとも射出成形時の射出性に優れるよう、上記ゴム成分として液状ゴムを用いることを検討した。しかしながら、液状ゴムのみでは所望の機械的物性が得られなかった。また、ソリッドゴムに液状ゴムを混ぜたとしても、液状ゴムが多すぎると均一に混練することができず、さらに、混練機にゴムが引っ付くといった、加工性の悪さが問題であったことから、さらに研究を重ねた。その結果、エチレン−プロピレンゴムやエチレン−プロピレン−ジエンゴムのソリッドゴム(A)と、液状エチレン−プロピレンゴムや液状エチレン−プロピレン−ジエンゴムの液状ゴム(B)とを、特定の割合で含有させたところ、燃料電池用シール部材に要求される機械的物性や耐ヘタリ性を維持しながら射出成形性に優れることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池用シール部材は、エチレン−プロピレンゴムおよびエチレン−プロピレン−ジエンゴムの少なくとも一方からなるソリッドゴム(A)と、液状エチレン−プロピレンゴムおよび液状エチレン−プロピレン−ジエンゴムの少なくとも一方からなる液状ゴム(B)と、有機過酸化物からなる架橋剤(C)と、を含有し、かつ(A)成分と(B)成分との含有割合が、重量比で、A/B=95/5〜40/60の範囲であるゴム組成物の架橋体からなる。このことから、本発明の燃料電池用シール部材は、シール部材に要求される機械的物性や耐ヘタリ性を維持しながら、射出成形性(射出成形により金型の隅々にまでゴムを行き渡らせること)にも優れている。
【0015】
特に、上記液状ゴム(B)が、ジエン含量4重量%以上の液状エチレン−プロピレン−ジエンゴムであると、耐ヘタリ性により優れるようになる。
【0016】
また、燃料電池用シール部材が、上記(A)〜(C)成分とともに、パラフィンオイルおよびポリαオレフィン化合物の少なくとも一方(D)を含有するゴム組成物の架橋体からなると、よりブリードアウトを抑制するようになる。
【0017】
また、本発明の燃料電池用シール部材の製造方法は、上記(A)〜(C)成分を含有し、かつ(A)成分と(B)成分との含有割合が、重量比で、A/B=95/5〜40/60の範囲であるゴム組成物を混練する工程と、上記混練されたゴム組成物の射出成形を行う工程とを備えている。このことから、射出成形時の射出性に優れ、しかも、上記のように優れた機械的物性や耐ヘタリ性等を有する燃料電池用シール部材を、良好に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の燃料電池シール体の一例を示す断面図である。
図2】本発明の燃料電池用シール部材を使用した一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0020】
本発明の燃料電池用シール部材(以下、単に「シール部材」という場合がある。)は、燃料電池の構成部材をシールするために用いられるものであって、先に述べたように、下記の(A)〜(C)成分を含有し、かつ(A)成分と(B)成分との含有割合が、重量比で、A/B=95/5〜40/60の範囲であるゴム組成物の架橋体からなる。
(A)エチレン−プロピレンゴムおよびエチレン−プロピレン−ジエンゴムの少なくとも一方からなるソリッドゴム。
(B)液状エチレン−プロピレンゴムおよび液状エチレン−プロピレン−ジエンゴムの少なくとも一方からなる液状ゴム。
(C)有機過酸化物からなる架橋剤。
【0021】
上記(A)および(B)のゴム成分は、上記ゴム組成物の主成分であって、通常、ゴム組成物全体の過半を占める。そして、上記のように、エチレン−プロピレンゴム(EPM)およびエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)の少なくとも一方からなるソリッドゴム(A)と、液状エチレン−プロピレンゴム(液状EPM)および液状エチレン−プロピレン−ジエンゴム(液状EPDM)の少なくとも一方からなる液状ゴム(B)とを、重量比で、A/B=95/5〜40/60の割合で含有し、好ましくは、A/B=90/10〜50/50の割合で含有し、さらに好ましくは、A/B=85/15〜65/35の割合で含有する。ここで、「ソリッドゴム」とは、常温(23℃)で固形を示すゴムであって、JIS K 6300−1に準拠し、100℃におけるムーニー粘度(ML1+4 100℃)が5以上のゴムのことを言う。また、「液状ゴム」とは、JIS Z 8803に準拠しB型粘度計により測定される常温(23℃)での粘度が1000Pa・s以下のゴムのことを言う。また、上記(A)および(B)のゴム成分の重量比よりもソリッドゴムが多い(液状ゴムが少ない)と、良好な射出成型性が得られず、上記重量比よりもソリッドゴムが少ない(液状ゴムが多い)と、所望の引張り強さが得られなかったり、混練時の加工性が悪いといった不具合を生じやすくなる。
【0022】
上記(A)および(B)のゴム成分におけるエチレン含有量は、極低温下におけるシール性の向上の観点から、60重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは53重量%以下である。一方で、上記エチレン含有量が少なすぎると、ゴム物性が低下し、シール部材に必要な伸びや引張り特性を確保することが困難となることから、上記エチレン含有量が40重量%以上であることが好ましい。
【0023】
そして、燃料電池の作動環境における耐酸性および耐水性の観点から、上記(A)成分としては、EPDMを用いることが好ましい。特に、上記EPDM中のジエン量が多くなれば、それに比例して架橋体であるシール部材の架橋密度が高くなり、より一層低温シール性が向上することとなる。このようなことから、上記EPDM中のジエン量(ジエン成分の質量割合)は、1〜20重量%の範囲が好ましく、より好ましくは3〜15重量%の範囲が好ましい。
【0024】
また、上記(B)成分としても、(A)成分と同様の観点から、液状EPDMを用いることが好ましい。そして、上記液状EPDMが、ジエン含量4重量%以上の液状EPDMであると、耐ヘタリ性により優れるようになるため好ましく、同様の観点から、特にジエン含量5重量%以上の液状EPDMが好ましく、さらにジエン含量6重量%以上の液状EPDMが好ましい。なお、上記ジエン含量の上限は12重量%である。
【0025】
上記(A)成分のEPDMおよび上記(B)成分の液状EPDMのジエン成分としては、例えば、炭素数5〜20のジエン系モノマーが好ましく、具体的には、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン(DCP)、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、2−メタリル−5−ノルボルネン、2−イソプロペニル−5−ノルボルネン等があげられる。
【0026】
上記(A)および(B)のゴム成分の架橋剤(C)は、有機過酸化物からなるものである。上記有機過酸化物としては、例えば、パーオキシケタール、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。このような有機過酸化物のなかでも、例えば、1時間半減期温度が160℃以下の有機過酸化物からなるものが好ましく用いられ、電解質膜と接着させるためには、1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物を用いることが好ましい。さらには、130℃程度の温度で架橋しやすく、架橋剤を加えて混練したゴム組成物の取扱性にも優れるという理由から、1時間半減期温度が100℃以上のパーオキシケタールおよびパーオキシエステルの少なくとも一方が好ましく、特に好ましくは、1時間半減期温度が110℃以上のものが好適である。また、パーオキシエステルを用いると、より短時間で架橋を行うことができる。
【0027】
本発明において、上記架橋剤(C)での、1時間半減期温度が160℃以下の有機過酸化物における「半減期」とは、有機過酸化物の濃度(活性酸素量)が初期値の半分になるまでの時間である。よって、「半減期温度」は、有機過酸化物の分解温度を示す指標となる。上記「1時間半減期温度」は、半減期が1時間となる温度である。つまり、1時間半減期温度が低いほど、低温で分解しやすい。例えば、1時間半減期温度が160℃以下の有機過酸化物を用いることにより、架橋をより低温(具体的には150℃以下)で、かつ短時間で行うことができる。したがって、例えば、固体高分子型燃料電池の電解質膜の近傍においても、本発明の燃料電池シール体を使用することができる。
【0028】
上記パーオキシケタールとしては、例えば、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ジ(4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン等があげられる。
【0029】
上記パーオキシエステルとしては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネートがあげられる。
【0030】
これらのうち、前記(A)および(B)のゴム成分との反応が比較的速いという理由から、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが好適である。なかでも、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを用いると、より短時間で架橋を行うことができる。
【0031】
上記特定の架橋剤(C)(純度100%の原体の場合)の配合量は、前記(A)および(B)のゴム成分の合計量100重量部に対して0.4〜12重量部の範囲が好ましい。上記特定の架橋剤(C)の配合量が少なすぎると、架橋反応を充分に進行させることが困難となる傾向がみられ、上記特定の架橋剤(C)の配合量が多すぎると、架橋反応時に架橋密度が上昇して、伸びの低下を招く傾向がみられる。
【0032】
なお、本発明のシール部材に使用するゴム組成物には、前記(A)〜(C)成分以外に、パラフィンオイルおよびポリαオレフィン化合物の少なくとも一方(D)や、脂肪酸カリウム,脂肪酸ナトリウム等の脂肪酸塩、軟化剤(可塑剤)、架橋助剤、補強剤、老化防止剤、粘着付与剤、加工助剤等の、各種添加剤を配合しても差し支えない。
【0033】
上記のように、パラフィンオイルおよびポリαオレフィン化合物の少なくとも一方(D)を配合すると、よりブリードアウトを抑制するようになるため、好ましい。また、上記ポリαオレフィン化合物(PAO)の100℃における動粘度は、低温性の観点から、より好ましくは、8mm/s以下であり、更に好ましくは、2〜8mm/sの範囲である。ポリαオレフィン化合物の動粘度は、JIS K 2283に準拠して測定されたものである。
【0034】
なお、上記(D)成分の配合量は、前記(A)および(B)のゴム成分の合計量100重量部に対して5〜40重量部であることが、ブリードアウトを抑制する観点から好ましい。
【0035】
上記脂肪酸カリウム,脂肪酸ナトリウム等の脂肪酸塩を配合すると、金型離型性を高めることができる。上記脂肪酸カリウムおよび脂肪酸ナトリウムの炭素数は、特に限定はないが、炭素数が8〜22の範囲であることが、金型離型性の観点から好ましく、同様の観点から、炭素数が12〜18の範囲であることが、より好ましい。なお、金型離型性の観点において、上記脂肪酸カリウムおよび脂肪酸ナトリウムにおける「脂肪酸」は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。
【0036】
また、前記脂肪酸カリウムとしては、具体的には、カプリル酸カリウム(C8の飽和脂肪酸塩)、カプリン酸カリウム(C10の飽和脂肪酸塩)、ラウリン酸カリウム(C12の飽和脂肪酸塩)、ミリスチン酸カリウム(C14の飽和脂肪酸塩)、パルチミン酸カリウム(C16の飽和脂肪酸塩)、ステアリン酸カリウム(C18の飽和脂肪酸塩)、オレイン酸カリウム(C18の不飽和脂肪酸塩)、ベヘニン酸カリウム(C22の飽和脂肪酸塩)等が、単独であるいは二種以上併せて用いられる。また、上記脂肪酸ナトリウムとしては、具体的には、カプリル酸ナトリウム(C8の飽和脂肪酸塩)、カプリン酸ナトリウム(C10の飽和脂肪酸塩)、ラウリン酸ナトリウム(C12の飽和脂肪酸塩)、ミリスチン酸ナトリウム(C14の飽和脂肪酸塩)、パルチミン酸ナトリウム(C16の飽和脂肪酸塩)、ステアリン酸ナトリウム(C18の飽和脂肪酸塩)、オレイン酸ナトリウム(C18の不飽和脂肪酸塩)、ベヘニン酸ナトリウム(C22の飽和脂肪酸塩)等が、単独であるいは二種以上併せて用いられる。なお、上記「C**」は炭素数を示す。
【0037】
なお、上記脂肪酸塩の配合量は、前記(A)および(B)のゴム成分の合計量100重量部に対して0.5〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは、1〜5重量部の範囲である。すなわち、このような範囲であると、シール部材に要求される機械的物性と耐ヘタリ性を維持しつつ、金型離型性により優れた効果を奏するからである。
【0038】
前記軟化剤としては、例えば、プロセスオイル、潤滑油、ワセリン等の石油系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリン等のワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸等があげられる。
【0039】
上記軟化剤の配合量は、前記(A)および(B)のゴム成分の合計量100重量部に対して通常5〜40重量部の範囲である。
【0040】
前記架橋助剤としては、例えば、マレイミド化合物、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、架橋密度や強度の向上効果が大きいという理由から、マレイミド化合物を用いることが好ましい。
【0041】
上記架橋助剤の配合量は、前記(A)および(B)のゴム成分の合計量100重量部に対して0.1〜3重量部の範囲が好ましい。上記架橋助剤の配合量が少なすぎると、架橋反応を充分に進行させることが困難となる傾向がみられ、上記架橋助剤の配合量が多すぎると、架橋密度が大きくなり過ぎて、接着力が低下する傾向がみられる。
【0042】
前記補強剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ等があげられる。上記カーボンブラックのグレードは、特に限定されるものではなく、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等から適宜選択すればよい。
【0043】
上記補強剤の配合量は、前記(A)および(B)のゴム成分の合計量100重量部に対して、通常10〜150重量部の範囲である。
【0044】
前記老化防止剤としては、フェノール系、イミダゾール系、ワックス等があげられる。上記老化防止剤の配合量は、前記(A)および(B)のゴム成分の合計量100重量部に対して、通常0.5〜10重量部の範囲である。
【0045】
〈燃料電池用シール部材の作製〉
本発明の燃料電池用シール部材は、例えば、前記(A)〜(C)成分を含有し、かつ(A)成分と(B)成分との重量比が特定の範囲であるゴム組成物を混練し(ゴム組成物には、必要に応じその他の各種添加剤も配合する)、ついで、上記混練されたゴム組成物の射出成形を行うことにより、作製することができる。すなわち、上記(A)および(B)成分の重量比が特定の範囲(A/B=95/5〜40/60、好ましくはA/B=90/10〜50/50、さらに好ましくはA/B=85/15〜65/35の範囲)であることから、混練がしやすく、ひっつきやむらのない混合を行うことができ、成形品であるシール部材において所望の機械的物性や耐ヘタリ性等を得ることができる。しかも、上記混練されたゴム組成物が射出性にも優れることから、射出成形により金型の隅々にまでゴムを行き渡らせることができ、結果的に、生産性を向上させることができる。なお、上記混練には、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等が用いられる。また、上記射出成形時のゴム組成物の、100℃におけるムーニー粘度(ML1+4 100℃)は、5〜30の範囲であることが、射出成形性の観点から好ましい。
【0046】
上記のようにして得られたシール部材は、燃料電池の各種構成部材に、接着剤により貼り付けて、利用に供することができる。なお、本発明のシール部材は、燃料電池の各種構成部材間に接着せずに配置するといった使用態様であってもよい。また、本発明のシール部材は、上記のように射出成形されたものを接着剤により貼り付ける(後接着する)他、接着剤の塗布面に対し、本発明のシール部材を射出成形することにより加硫接着させ、後述のように、燃料電池のMEA、セパレータ等の構成部材と、本発明のシール部材とを、金型内で一体成形することも可能である。
【0047】
〈燃料電池シール体〉
本発明の燃料電池シール体としては、燃料電池用構成部材と、それをシールするシール部材(本発明の燃料電池用シール部材)とが、接着層を介して接着されてなるもの等があげられる。
【0048】
本発明のシール部材によりシールされる燃料電池用構成部材は、燃料電池の種類、構造等により様々であるが、例えば、セパレータ(金属セパレータ等)、ガス拡散層(GDL)、MEA(電解質膜、電極)等があげられる。
【0049】
本発明の燃料電池シール体の一例を図1に示す。図1は、複数枚のセルが積層されてなる燃料電池における単一のセル1を主として示したものであり、セル1は、MEA2と、ガス拡散層(GDL)3と、シール部材4aと、セパレータ5と、接着層6を備えている。
【0050】
本発明の燃料電池シール体としては、例えば、図1に示すように、セパレータ5とシール部材4aとが接着層6を介して接着されてなるもの、MEA2とシール部材4aとが接着層6を介して接着されてなるもの、ガス拡散層3とシール部材4aとが接着層6を介して接着されてなるもの、隣接するシール部材4a同士が接着層6を介して接着されてなるもの等があげられる。
【0051】
MEA2は、図示しないが、電解質膜を挟んで積層方向両側に配置されている一対の電極からなる。電解質膜および一対の電極は、矩形薄板状を呈している。上記MEA2を挟んで積層方向両側には、ガス拡散層3が配置されている。上記ガス拡散層3は、多孔質層で、矩形薄板状を呈している。
【0052】
上記セパレータ5は、チタン等の金属製のものが好ましく、導通信頼性の観点から、DLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)やグラファイト膜等の炭素薄膜を有する金属セパレータが特に好ましい。上記セパレータ5は、矩形薄板状を呈しており、長手方向に延在する溝が合計六つ凹設されており、この溝により、セパレータ5の断面は、凹凸形状を呈している。セパレータ5は、ガス拡散層3の積層方向両側に、対向して配置されている。ガス拡散層3とセパレータ5との間には、凹凸形状を利用して、電極にガスを供給するためのガス流路7が区画されている。
【0053】
上記シール部材4aは、矩形枠状を呈している。そして、上記シール部材4aは、接着層6を介して、MEA2やガス拡散層3の周縁部、およびセパレータ5に接着され、MEA2やガス拡散層3の周縁部を封止している。なお、図1において、シール部材4aは、上下に分かれた2個の部材を使用しているが、両者を合わせた単一のシール部材であっても差し支えない。
【0054】
固体高分子型燃料電池等の燃料電池の作動時には、燃料ガスおよび酸化剤ガスが、各々ガス流路7を通じて供給される。ここで、MEA2の周縁部は、接着層6を介して、シール部材4aによりシールされている。このため、ガスの混合や漏れは生じない。
【0055】
本発明の燃料電池シール体は、例えば、つぎのようにして作製することができる。まず、前述のように、本発明の燃料電池用シール部材を作製する。
【0056】
つぎに、金属セパレータ等の燃料電池用構成部材、およびこれをシールするシール部材のいずれか一方もしくは双方に、上記接着層形成材料(接着剤)を塗布することにより、金属セパレータ等の燃料電池用構成部材と、シール部材とが、接着層を介して接着されてなる、本発明の燃料電池シール体を得ることができる。
【0057】
上記接着層形成材料(接着剤)としては、例えば、ゴム糊、常温(23℃)で液状のゴム組成物、プライマー等が用いられる。上記液状のゴム組成物としては、ゴム成分、有機過酸化物(架橋剤)等を含有するゴム組成物があげられる。上記ゴム成分の一例としては、液状を呈するゴムがあげられ、具体的には、液状EPM、液状EPDM、液状アクリロニトリル−ブタジエンゴム(液状NBR)、液状水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(液状H−NBR)等が、単独であるいは二種以上併せて用いられる。上記プライマーとしては、例えば、アミノ基含有シランカップリング剤と、ビニル基含有シランカップリング剤との共重合オリゴマーを含有するプライマー等があげられる。
【0058】
上記接着層形成材料の塗布方法としては、例えば、ディスペンサー塗布等があげられ、通常は常温の条件化で塗布すればよい。
【0059】
本発明の燃料電池シール体における接着層の厚みは、上記液状ゴム組成物を用いる場合、通常、0.01〜0.5mmであり、好ましくは0.05〜0.3mmである。また、上記プライマーを用いる場合、通常、10〜500nmであり、好ましくは30〜200nmである。
【0060】
また、シール部材の加硫接着により、燃料電池用構成部材とシール部材とを一体化して、燃料電池シール体を製造するのであれば、以下のようにして製造することができる。すなわち、シール部材の成形用金型内に、接着層が形成された燃料電池用構成部材を配置し、上記金型内で、シール部材形成用のゴム組成物を、燃料電池構成部材に接触させた状態で架橋成形するといった製造方法である。
【0061】
さらに、本発明の燃料電池用シール部材を用いた他の使用例を図2に示す。図2は、矩形薄板状を呈し、長手方向に延在する溝が合計六つ凹設された、上述の断面凹凸形状を呈するセパレータ5の周縁部に、接着層6を介して、矩形状で断面凸部形状のリップ4bが設けられてなる部材である。そして、上記リップ4bとして、本発明の燃料電池シール部材が用いられる。なお、セパレータ5形成材料、接着層6形成材料としては、いずれも先に述べた材料と同様のものが用いられる。
【実施例】
【0062】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0063】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示すゴム組成物の材料を準備した。
【0064】
〔EPDM(A成分)〕
エチレン−プロピレン−ジエンゴム(JSR社製、EP342)
【0065】
〔液状EPDM−1(B成分)〕
エチレン量50重量%、ジエン量4.7重量%、数平均分子量3160の、液状EPDM(三井化学社製、PX−062)
【0066】
〔液状EPDM−2(B成分)〕
エチレン量52重量%、ジエン量6.9重量%、数平均分子量3850の、液状EPDM(三井化学社製、1481010A)
【0067】
〔カーボンブラック〕
東海カーボン社製、シースト116
【0068】
〔パラフィンオイル(D成分)〕
日本サン石油社製、Sunper 110
【0069】
〔PAO(D成分)〕
100℃における動粘度が8mm/sのポリαオレフィン化合物(Chevron Phillips社製、Synfluid PAO 8cSt)
【0070】
〔パーオキサイド(C成分)〕
日油社製、パーヘキサC−40
【0071】
[実施例1〜11、比較例1〜5]
後記の表1および表2に示す各成分を、同表に示す割合で配合し、バンバリーミキサーおよびオープンロールを用いて混練することにより、ゴム組成物を調製した。
また、上記ゴム組成物を、160℃で10分間保持することにより加硫し、所定の厚さの加硫ゴムを作製した。
【0072】
上記のようにして得られたゴム組成物および加硫ゴムに関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1および表2に併せて示した。
【0073】
<加工性>
前記ゴム組成物をオープンロールで混練するに際し、問題なく混練することができたものを○と評価し、混練することができなかったものを×と評価した。
【0074】
<ムーニー粘度>
前記ゴム組成物(オープンロール混練後)の、100℃におけるムーニー粘度(ML1+4 100℃)を、JIS K 6300−1に準拠し測定した。
なお、後記の表1、表2には、比較例1のゴム組成物のムーニー粘度を基準(100)とした時の各ゴム組成物のムーニー粘度の指数を示す。
すなわち、ムーニー粘度の指数は、下記の式により算出した。
ムーニー粘度指数=(各ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4 100℃))/(基準となる比較例1のゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4 100℃))×100
そして、後記の表1、表2において、上記ムーニー粘度指数が90以下の場合を、射出成形時の射出性が向上したとして○と評価し、上記ムーニー粘度指数が90を超える場合を、射出成形時の射出性に乏しいとして×と評価した。
【0075】
<硬度>
上記加硫ゴムに対し、JIS K 6253−3に準拠し、その硬度(タイプA)を測定した。
なお、後記の表1、表2には、比較例1品である加硫ゴムの硬度を基準(100)とした時の各加硫ゴムの硬度の指数を示す。
すなわち、加硫ゴムの硬度の指数は、下記の式により算出した。
硬度指数=(各加硫ゴムの硬度(タイプA))/(基準となる比較例1の加硫ゴムの硬度(タイプA))×100
そして、後記の表1、表2において、上記硬度指数が90を超える場合を、物性が向上したとして○と評価し、上記硬度指数が90以下の場合を、物性が低下したとして×と評価した。
【0076】
<圧縮永久歪み>
前記ゴム組成物を160℃×15分間加熱し、それにより得られた加硫ゴムに対し、JIS K 6262に準拠した圧縮永久歪み試験を行った。上記圧縮永久歪み試験としては、−40℃の低温試験、150℃の高温試験の二種類の試験を行った。まず、−40℃の低温試験においては、加硫ゴムを圧縮率25%で圧縮し、その状態で−40℃下に24時間放置した後、圧縮を解放し、そのままの温度下で30分経過した後の加硫ゴムの厚みを測定して、圧縮永久歪み(%)を算出した。一方、150℃の高温試験においては、加硫ゴムを圧縮率25%で圧縮し、その状態で150℃下に72時間放置した後、圧縮を解放し、室温(25℃)下で30分経過した後の厚みを測定して、圧縮永久歪みを算出した。
なお、後記の表1、表2中、低温(−40℃×24時間)あるいは高温(150℃×72時間)の各圧縮永久歪みについては、各々、比較例1品である加硫ゴムの圧縮永久歪みを基準(100)とした時の各加硫ゴムの圧縮永久歪みの指数を示す。
すなわち、圧縮永久歪みの指数は、下記の式により算出した。
圧縮永久歪み指数=(各加硫ゴムの圧縮永久歪み(%))/(基準となる比較例1の加硫ゴムの圧縮永久歪み(%))×100
そして、後記の表1、表2において、上記圧縮永久歪み指数が110以下の場合を○と評価し、圧縮永久歪み指数が110より大きい場合を×と評価した。
【0077】
≪総合評価≫
上記各特性の評価において全て○の場合を、総合評価○とし、各特性の評価において一つでも×がある場合を、総合評価×とした。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
上記表の結果から、実施例の加硫ゴム(シール部材)は、機械的物性(硬度)を維持しつつ、低温・高温での圧縮永久歪み(耐ヘタリ性)も良好である。また、その形成材料(混練後のゴム組成物)のムーニー粘度が低いことから、射出成形時の射出性も良好であり、さらに加工性にも優れている。
【0081】
これに対し、比較例1の加硫ゴムは、ソリッドEPDMのみをポリマーとしており、射出成形時の射出性が悪い。比較例2の加硫ゴムは、ソリッドEPDMのみをポリマーとし、パラフィンオイルの増量により射出成形時の射出性を改善しているが、硬度や、低温圧縮永久歪みの悪化がみられる。比較例3の加硫ゴムは、ソリッドEPDMのみをポリマーとし、PAOの配合により射出成形時の射出性を改善しているが、硬度や、低温圧縮永久歪みの悪化がみられる。比較例4および5では、液状EPDMの割合を増やすことにより射出成形時の射出性の改善を試みようとしたが、射出成形前の混練加工ができなかったことから、それ以上の特性評価をすることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の燃料電池用シール部材は、金属セパレータ等の燃料電池用構成部材と、それをシールするゴム製のシール部材とが接着層を介して接着されてなる燃料電池シール体、もしくは上記シール部材同士が接着層を介して接着されてなる燃料電池シール体の上記シール部材に用いられる。
【符号の説明】
【0083】
1 セル
2 MEA
3 ガス拡散層
4a シール部材
4b リップ
5 セパレータ
6 接着層
7 ガス流路
図1
図2