(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681269
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボ
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20200406BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20200406BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C30B15/10
C03B20/00 H
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-100409(P2016-100409)
(22)【出願日】2016年5月19日
(65)【公開番号】特開2017-206416(P2017-206416A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2018年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 綾平
【審査官】
若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−021985(JP,A)
【文献】
特表2004−521851(JP,A)
【文献】
特表2007−513857(JP,A)
【文献】
特開昭63−310748(JP,A)
【文献】
特開平09−255346(JP,A)
【文献】
特公昭47−001477(JP,B1)
【文献】
特開2005−231986(JP,A)
【文献】
特開2009−132616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透明層からなる、最も外側に形成された外層と、透明層からなる、最も内側に形成された内層とを、少なくとも備えた層構造を有する単結晶引上げ用の石英ガラスルツボであって、
前記外層は天然石英ガラスにより形成され、
前記内層は、結晶促進剤としてZrを特定濃度含有する合成石英ガラスにより、内層自体がZrを特定濃度含有する層として形成され、
かつ、前記内層のZrの特定濃度が1300wtppb以上1700wtppb以下であり、
内層全体が結晶化した内層であることを特徴とする石英ガラスルツボ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスルツボに関し、特に、シリコン単結晶を引き上げる際に用いられるシリコン単結晶引上げ用の石英ガラスルツボに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成においては、チョクラルスキー法(以下、CZ法)が広く用いられている。この方法は、ルツボ内に収容されたシリコン融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引き上げることによって、種結晶の下端にシリコン単結晶を形成していくものである。
【0003】
前記したルツボとしては、一般的に、石英ガラスルツボが用いられる。
一般的に、この石英ガラスルツボは、天然シリカ粉原料を用いて形成された不透明なシリカガラス層からなる外層と、合成シリカ粉を用いて形成された透明なシリカガラス層からなる内層とを備えている。
【0004】
シリコン単結晶を形成するにあたり、前記石英ガラスルツボは、シリコンの融点(約1400℃)以上の高温度で、長時間加熱される。このため、石英ガラスルツボ内表面ではシリカガラスの結晶化が進み、クリストバライトが形成、成長する。
前記クリストバライトとクリストバライトに変態化しないガラス相は、シリコン融液への溶解速度が異なるため、クリストバライトが不均一に生成、成長した場合には、クリストバライトの破片がルツボ表面から離脱し、シリコン融液中で浮遊する。
そして、このシリコン融液中で浮遊するクリストバライトの破片が、引き上げられるシリコン単結晶に付着すると、有転位化等を引き起こし、品質欠陥を招くという問題があった。
【0005】
前記した問題を解決するために、例えば、特許文献1では、シリカガラスルツボ内表面に、少なくとも10
−9モル/mm
2のZr、Nb、Hf、Ta及び希土類元素からなる群より選択される1または2以上の元素を含有してなる表面層を形成した石英ガラスルツボが提案されている。
また、特許文献2では、前記ルツボの内表面に鉱化剤を備え、前記鉱化剤は、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Zr、Cr、Mo、Fe、Co、Ni、Cu、及びAgのうちの少なくとも一つの原子を含み、前記内表面上での前記鉱化剤の濃度が1.0×10
5〜1.0×10
17個/cm
2であるシリカガラスルツボが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−29890号公報
【特許文献2】特開2012−25597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1、2に示された発明は、いずれもルツボ内表面に、Zr等の元素を含有してなる表面層(鉱化剤)を形成するものであり、ルツボの内層全体(内層の深層部分まで)を均一に結晶化させることができなかった。
即ち、ルツボ内表面が結晶化する前に、表面層が剥離、脱落し、あるいはまたルツボ内表面に形成される表面層が不均一に形成されることによって、ルツボの部位によって結晶化の度合いが異なるという技術的課題があった。
また、前記理由によって、各ルツボの間においても結晶化の度合いが異なるという技術的課題があった。
【0008】
本発明者は、前記した技術的課題を解決するために、ルツボ内表面に、Zr等の元素を含有してなる表面層形成するのではなく、前記内層の原料粉にZr等の元素を含有し、内層全体を結晶化することを前提に、鋭意研究を重ねた。
その結果、前記内層にZrを含有し、前記Zrの濃度がある特定値内にある場合に、内層全体を均一に結晶化することができ、ルツボ内表面の荒れや剥離を抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は、石英ガラスルツボの内層におけるZr濃度を特定の範囲内にすることで、内層の結晶化のバラツキを抑えて、ルツボ内表面の荒れや剥離を抑制した石英ガラスルツボを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボは、不透明層からなる、最も外側に形成された外層と、透明層からなる、最も内側に形成された内層とを、少なくとも備えた層構造を有する単結晶引上げ用の石英ガラスルツボであって、前記外層は天然石英ガラスにより形成され、前記内層は、
結晶促進剤としてZrを特定濃度含有する合成石英ガラスにより、
内層自体がZrを特定濃度含有する層として形成され、かつ、前記内層のZr
の特定濃度が
1300wtppb以上1700wtppb以下で
あり、内層全体が結晶化した内層であることを特徴としている。
【0011】
このような石英ガラスルツボによれば、ルツボ内表面にZrを含有する表面層を形成することなく、前記内層自体が特定濃度(
1300wtppb以上1700wtppb以下)のZrを含有している。
その結果、前記内層全体を均一に結晶化することができ、内層の結晶化のバラツキを抑え、ルツボ内表面の荒れや剥離を抑制することができる。
また、Zrが用いられることにより、ガラスの結晶相であるクリストバライト層を効率的に形成することができる。また、Zrが溶融シリコン中に溶出した場合でも、偏析係数が小さく、シリコン単結晶中に取り込まれに難く、シリコン単結晶の品質欠陥を抑制することができる。
【0012】
ここで、前記内層のZr濃度が700wtppb未満の場合には、結晶化が斑に発生し剥離、もしくは未結晶化面の耐久性が劣り長時間の使用に耐えることができないため好ましくなく、1700wtppbを超えると過剰な結晶化に伴う剥離、もしくはシリコン単結晶の汚染を低減する観点から好ましくない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内層の結晶化のバラツキを抑えて、ルツボ内表面の荒れや剥離を抑制した石英ガラスルツボを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係る石英ガラスルツボを示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る石英ガラスルツボの製造装置の概略図である。
【
図3】
図3は本発明に係る石英ガラスルツボの内層に形成された結晶を分析した結果を示すグラフであり、内層の表面を数100μm除去したその表面を分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明にかかる実施形態について、
図1に基づいて説明する。
図1に示すように、石英ガラスルツボ1は、単結晶引上げに用いられるルツボであって、外側に形成された、不透明層からなる外層1aと、内側に形成された、透明層からなる内層1bとを備えている。
【0016】
この石英ガラスルツボ1の外層1aは天然石英ガラス原料粉
(以下、天然シリカ原料粉ともいう)により形成され、また内層1bは合成石英ガラス原料粉
(以下、合成シリカ原料粉ともいう)により形成される。
そして、全体としてルツボ形状の2層の石英ガラス成形体を形成した後、アーク溶融することにより、前記石英ガラスルツボ1が形成される。
【0017】
前記内層1bは、Zr濃度が700wtppb以上1700wtppb以下になされている。
即ち、前記内層1bの内表面に、Zr等の元素を含有してなる表面層(鉱化剤)形成するのではなく、前記内層自体がZrを含有する層として形成されている。
尚、このZrを含有する内層1bは、前記内層1bを形成する合成石英ガラス原料粉に特定濃度のZrを含有させることにより、形成することができる。
【0018】
また、前記内層1bにZrを含有したのは、ルツボが加熱された際に、クリストバライト層が効率的に形成することができ、またZrが溶融シリコン中に溶出した場合でも、偏析係数が小さいため、シリコン単結晶中に取り込まれに難く、結晶促進剤としては好適なためである。
【0019】
また、内層に含有されるZr濃度は、700wtppb以上1700wtppb以下の特定範囲にある。
前記内層のZr濃度が700wtppb未満の場合には、結晶化が斑に発生し剥離、もしくは未結晶化面の耐久性が劣り長時間の使用に耐えることができないので好ましくなく、1700wtppbを超えると過剰な結晶化に伴う剥離、もしくは未結晶化面の耐久性が劣り長時間の使用に耐えることができないので好ましくない。
【0020】
次に、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法について説明する。
尚、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造は、ジルコニウム(Zr)の濃度を特定濃度範囲内に調整すること以外は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法により製造することもできる。一般的には、回転モールド法及びアーク溶融法により製造される。
【0021】
図2に基づいて、回転モールド法及びアーク溶融法により製造される場合について説明する。
前記ノズル20から内側部材12に対して、石英ガラス原料粉を供給する。このルツボ成形用型11内に石英ガラス原料粉を供給する際には、例えば、初めに粗粒の天然石英ガラス原料粉を供給し、その後、その内表面(内側)に、例えば微粒の合成石英ガラス原料粉を供給する。
この合成石英ガラス原料粉には、前記したようにZr濃度が700wtppb以上1700wtppb以下となるように、Zrが含有されている。
【0022】
前記ルツボ製造装置10は、支持体14に保持されたルツボ成形用型11が回転軸15を中心に回転することによって、遠心力が内側部材12に作用するように構成されている。
また、減圧機構18からの吸引力が、導出路17、開口部16、吸引路13、内側部材12の開口部(図示せず)を介して内側部材12の内表面に作用するように構成されている。
したがって、供給された天然石英ガラス原料粉は、遠心力及び吸引力により、ルツボ成形用型11の内側部材12に押圧され、一つの層(天然石英ガラス層30a)が形成される。
【0023】
この天然石英ガラス原料粉に続いて、Zrを含有する合成石英ガラス原料粉をルツボ成形用型11内に供給する。
合成石英ガラス原料粉は、前記した天然石英ガラス原料粉と同様に、遠心力及び減圧機構18の吸引により、天然石英ガラス原料粉の層30aに押圧され、一つの他の層(合成石英ガラス層30b)が形成される。
即ち、全体としてルツボ形状の2層の石英ガラス成形体30が形成される。
【0024】
その後、大気雰囲気で、減圧機構18の作動による減圧を続けた状態で、カーボン電極21に通電してルツボ成形体の内側から加熱し、石英ガラス成形体30を内側から順次溶融する。その後、冷却することによって、石英ガラスルツボ1が製造される。
【実施例】
【0025】
(実験1)
以下、本発明を実施例に基づき、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
回転モールド法及びアーク溶融法により、内層の厚さが3mm、外層の厚さが、13mmであり、外径710mm、高さ450mmのシリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボを製造した。
内層の形成には、Zrを含む
合成シリカ原料粉を用い、この
合成シリカ原料粉に含まれる、Zrの濃度を380wtppbから820wtppbまで変化させた。また、外層の形成には、天然シリカ原料粉を用いた。また、アーク溶融は、約2400℃で0.5時間行った。
【0026】
前記製造された石英ガラルツボを以下の使用条件下で使用し、ルツボの内層に形成された結晶を分析した。使用条件は、1400℃、100h、20Torrとした。
そして、各実施例、各比較例における総結晶領域を測定し、Zr濃度と総結晶領域との相関関係を分析した。
尚、前記総結晶領域とは、ルツボ内層においてメルトラインより下の領域に形成された結晶層をいう。また、前記総結晶領域とは、ルツボ内層のメルトラインより下の領域で縦方向(ルツボの回転軸方向)に結晶化している領域の長さをノギスにより測り、積算した値である。
【0027】
前記分析結果を、
図3に示す。
図3は、内層の表面を数100μm除去した内表面を分析した結果を示す。また、
図3の横軸は総結晶領域を表し、縦軸はジルコニウムの濃度を表す。
【0028】
分析の結果、
図3における総結晶領域(mm)とジルコニウムの濃度(wtppb)との間の決定係数は、およそ0.72であり、正の相関を有することが確認された。
即ち、内層に含まれるジルコニウムの濃度が高くなると、総結晶領域が長くなる(結晶化されやすい)ことが確認された。
このことは、内層に含まれるジルコニウムを高濃度で安定化させることで、内層における結晶化のバラツキを抑えることができるが確認された。
【0029】
(実験2)
実験2では、実験1で用いられた、合成シリカ原料粉に含まれるジルコニウムの濃度を、100wtppb(比較例1)、400wtppb(比較例2)、600wtppb(比較例3)、700wtppb(
参考例1)、900wtppb(
参考例2)、1300wtppb(実施例
1)、1700wtppb(実施例
2)、1900wtppb(比較例4)と変化させた。
また、ルツボ内表面にZr等の元素を含有してなる表面層(鉱化剤)を形成したした場合を比較例として検証した。このルツボ内表面に形成された表面層(鉱化剤)に含まれる、Zr量を0.2×10
−9g/cm
2(比較例5)、1.3×10
−9g/cm
2(比較例6)、5.0×10
−9g/cm
2(比較例7)と変化させた。
いずれも外層の形成には、天然シリカ原料粉を用いた。また、アーク溶融は、約2400℃で0.5時間行った。
【0030】
得られた石英ガラスルツボを、カーボンルツボに嵌め込んでセットし、ルツボ外周からヒータ加熱して、28インチのルツボ内で約250kgの原料シリコンを溶融させ、CZ法により、直径8インチのシリコン単結晶の引上げを行った。
実験2の結果を、表1、表2に示す。尚、ここで、引き上げ歩留まりとは、比較例1で引き上がったシリコン単結晶の重量を100としたときの相対値である。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表1、表2に示したように、内層に含まれるジルコニウムの濃度が高くなるにつれて、総結晶領域も長くなり、単結晶シリコンの引き上げ歩留まりも高くなった。総結晶領域が450mmの場合、内面が完全に結晶化したことを示している。
特に、ジルコニウムの濃度を700wtppb以上1700wtppb以下(
参考例1、2、実施例1、2)としたときは、200以上の引き上げ歩留まりを得ることが認められた。