(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
上記のような隅肉溶接方法または隅肉溶接構造として、地面を掘削したり掘削した土砂等を移動させたりする際に使用されるショベルローダやパワーショベル(バックホー)などの作業機械に適用されたものが知られている。具体的には例えば、油圧シリンダを介して駆動されるブームやアーム等の作業用駆動要素に、油圧シリンダが枢支されるブラケット用のプレートを溶接するための各手法が知られている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0003】
以下、上述のようなブラケット用のプレートの端部において隅肉溶接を行う場合の従来手法について、図面を参照して説明する。
図11は、パワーショベル等の作業機械に装備されるアーム部材(以下「ロングアーム100」と称する)の概略構成を示す側面図であり、まず、この図を参照して、ロングアーム100の構成について説明する。図示したロングアーム100は、複数の鋼板を箱状に接合して構成されたアーム本体101と、アーム本体101の基端部に固定された基端側ブラケット110と、アーム本体101の下面中間部に固定された下部ブラケット120とを備えて構成されている。
【0004】
基端側ブラケット110は、アーム本体101の後端部に立設固定されるように互いに平行に配置された一対のプレート111(図中手前側のプレート111のみを図示)により構成され、不図示の油圧シリンダを枢支するための軸座部112,113を備えている。同様に、下部ブラケット120は、アーム本体101の下面に立設固定されるように平行に配置された一対のプレート121(図中手前側のプレート121のみを図示)により構成され、不図示の油圧シリンダを枢支するための軸座部122を備えている。基端側ブラケット110を構成する一対のプレート111と、下部ブラケット120を構成する一対のプレート121は、それぞれアーム本体101に対して隅肉溶接により固定される。特に、プレート111の端部111a,111bや、プレート121の端部121a,121bに対しても隅肉溶接が行われる(
図11では溶接部は図示せず)。
【0005】
図12〜14は、プレート111の端部111aにおいて従来手法により隅肉溶接を行う際の作業工程を模式的に示しており、次に、これらの図を追加参照して、従来手法による隅肉溶接の作業工程について説明する。
図12は、アーム本体101上の溶接固定位置に配置されたプレート111の端部111aにおける溶接前縦断面図(プレート111の厚み方向に対し垂直な切断面による断面図)であり、
図13は上記端部111aにおける隅肉溶接後の縦断面図、
図14は上記端部111aにおける隅肉溶接後に研削作業を施した後の縦断面図である。
【0006】
まず、
図12に示すように、アーム本体101上に予め設定された溶接固定位置にプレート111を配置して、プレート111の端部111aがアーム本体101上に載置されるようにセットする。次に、プレート111の端部111aにおいて隅肉溶接を行う。具体的には、
図13に示すように、プレート上面111cとアーム本体101との間に形成される段差部分が、溶接により形成される溶接金属部(以下「隅肉溶接金属部131」と称する)によって埋められるように、段差部分に溶着金属を付加していく。溶接完了後、
図14に示すように、隅肉溶接金属部131に形成された盛り上がった部分(以下「盛上
り部132」と称する)を、グラインダ等の研削工具を用いて削り落とし、プレート上面111cと隅肉溶接金属部131とが滑らかに(略一定の傾きで連続的に)繋がるように加工する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のような研削作業は、プレート上面111cと盛上り部132との境界部分(止端部)に応力集中が生じないようにするために行われるものであり、繰り返し荷重等が作用するような箇所では重要な作業となる。しかし、盛上り部が大きくなるとそれを削り落とすための研削作業に多大な手間と時間を要することとなる。このため、このような盛上り部ができるだけ生じないようにしたいという要望があるが、上述の従来手法による隅肉溶接では、溶接時の入熱が大きくなって溶接対象部材が溶け落ちてしまい、その溶け落ちた部分を補うように溶接を行ううちに、盛上り部が大きくなり易いという問題がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、溶接相手部材に溶接対象部材の端部を隅肉溶接する際に、隅肉溶接金属部に盛上り部が形成されることを抑制することが可能な隅肉溶接方法および隅肉溶接構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る隅肉溶接方法は、溶接相手部材(例えば、実施形態におけるブーム本体31)に
、平板状の溶接対象部材(例えば、実施形態における第1プレート41)
の長さ方向の一端部及び当該一端部から他端部側へと延びる側面下辺部を隅肉溶接する方法であって、前記溶接対象部材
の前記一端部に、先端側に向かって下る段部を備えた段付き舌片部を形成し、前記溶接対象部材を溶接固定位置に
立てて配置して、前記段付き舌片部
及び前記側面下辺部を前記溶接相手部材上に載置し、前記段付き舌片部の前記段部から先の部分(例えば、実施形態における舌片本体72)を隅肉溶接金属部が覆うように、
前記端部及び前記側面下辺部に隅肉溶接を行うことを特徴とする。
このような特徴を有する本発明に係る隅肉溶接方法において、前記溶接対象部材の前記一端部よりも前記側面下辺部の方を先に隅肉溶接することが好ましい。
【0011】
上記のような特徴を有する本発明に係る隅肉溶接方法において、前記段付き舌片部の前記段部から先の部分を、高さが一定の平板状に形成することができる。
【0012】
上記のような特徴を有する本発明に係る隅肉溶接方法において、前記段付き舌片部の前記段部から先の部分を、先端側に向かって高さが漸減する楔状に形成することもできる。
【0013】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る隅肉溶接構造は、溶接相手部材に隅肉溶接された、
平板状の溶接対象部材の
長さ方向の一端部及び当該一端部から他端部側へと延びる側面下辺部における溶接構造であって、前記溶接対象部材の前記
一端部に形成された、先端側に向かって下る段部を備えた段付き舌片部と、前記溶接対象部材が溶接固定位置に
立てて配置されて、前記段付き舌片部が前記溶接相手部材上に載置された状態で、前記段付き舌片部の前記段部から先の部分を覆
い、前記端部及び前記側面下辺部を隅肉溶接した隅肉溶接金属部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記のような特徴を有する本発明に係る隅肉溶接方法によれば、
平板状の溶接対象部材における隅肉溶接される
一端部に段付き舌片部を形成し、溶接対象部材を溶接固定位置に
立てて配置して段付き舌片部
及び側面下辺部を溶接相手部材上に載置し、段付き舌片部の段部から先の部分を隅肉溶接金属部が覆うように、
溶接対象部材の一端部及び側面下辺部に隅肉溶接を行うという構成であり、段付き舌片部を形成したことにより、隅肉溶接金属部の嵩(溶接時に付加する溶加材の量)を減らすことができるので溶接時の入熱を下げることが可能となる。入熱が下がることにより、溶接対象部材の
一端部における溶け落ちを抑えることができるので、隅肉溶接金属部に盛上り部が形成されることを抑制することが可能となる。
【0015】
また、上記のような特徴を有する本発明に係る隅肉溶接構造によれば、
平板状の溶接対象部材の隅肉溶接される
一端部に形成された段付き舌片部と、溶接対象部材が溶接固定位置に
立てて配置されて、段付き舌片部
及び側面下辺部が溶接相手部材上に載置された状態で、段付き舌片部の段部から先の部分を覆
い、溶接対象部材の一端部及び側面下辺部を隅肉溶接した隅肉溶接金属部とを備えた構成であり、段付き舌片部が形成されたことにより、隅肉溶接により形成される隅肉溶接金属部の嵩(溶接時に付加される溶加材の量)を減らすことができるので溶接時の入熱を下げることが可能となる。入熱が下がることにより、溶接対象部材の
一端部における溶接時の溶け落ちを抑えることができるので、隅肉溶接金属部に盛上り部が形成されることを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の適用対象となるパワーショベルを示す斜視図である。
【
図2】本発明を適用するメインブームおよび第1プレートの概略を示す側面図である。
【
図3】上記第1プレートの端部に形成される段付き舌片部の一態様を示す斜視図である。
【
図4】上記第1プレートの端部における隅肉溶接前の縦断面図である。
【
図5】上記第1プレートの端部における隅肉溶接後の縦断面図である。
【
図6】上記第1プレートの端部における隅肉溶接後の斜視図である。
【
図7】本発明に係る隅肉溶接方法の手順の流れを示すフローチャートである。
【
図8】上記第1プレートの端部に形成される段付き舌片部の別態様を示す斜視図である。
【
図9】上記別態様の段付き舌片部が形成された第1プレートの端部における隅肉溶接前の縦断面図である。
【
図10】上記別態様の段付き舌片部が形成された第1プレートの端部における隅肉溶接後の縦断面図である。
【
図11】作業機械に装備されるロングアームの側面図である。
【
図12】上記ロングアームに従来手法により隅肉溶接されるプレートの端部における溶接前の縦断面図である。
【
図13】上記プレートの端部における溶接後の縦断面図である。
【
図14】上記プレートの端部における研削作業後の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1には本発明の適用対象となるクローラ型のパワーショベル1を示しており、まず、この
図1を参照しながら、パワーショベル1の概略構成について説明する。なお、説明の便宜上、
図1に示す矢印方向を前後、左右および上下と定義して説明を行う。
【0018】
パワーショベル1は、
図1に示すように、平面視略H字状の走行台車2の左右に走行機構3,3を備えて構成される走行装置4と、走行台車2の後部に上下に揺動自在に設けられたブレード5と、走行台車2の上部に旋回自在に設けられた旋回台6と、旋回台6の前部に設けられたショベル機構7と、旋回台6の上部に立設されたオペレータ搭乗用のオペレータキャビン8とを備えて構成される。
【0019】
左右一対の走行機構3,3は、走行台車2の左右前部に設けられた駆動用スプロケット
ホイール9と、走行台車2の左右後部に設けられたアイドラホイール10と、駆動用スプロケットホイール9とアイドラホイール10との間に巻き掛けられた履帯11とから構成される。左右一対の走行機構3,3のうち、走行台車2の右側に設けられた走行機構3には、駆動用スプロケットホイール9を駆動する油圧駆動式の右走行モータ9Rが備えられている。走行台車2の左側に設けられた走行機構3には、駆動用スプロケットホイール9を駆動する油圧駆動式の左走行モータ9Lが備えられている。ブレード5は、油圧駆動式のブレードシリンダ(図示略)により揺動作動される。旋回台6は、油圧駆動式の旋回モータ(図示略)により、走行装置4に対して旋回作動される。
【0020】
ショベル機構7は、旋回台6の前部に揺動自在に枢結されたブーム12と、ブーム12の先端部にブーム12の揺動面内で上下に揺動自在に枢結されたアーム13と、アーム13の先端に上下に揺動自在に枢結されたバケット14とを備える。旋回台6の前部とブーム12とに跨って油圧駆動式のブームシリンダ15が設けられており、このブームシリンダ15によりブーム12が揺動作動される。ブーム12とアーム13とに跨って油圧駆動式のアームシリンダ16が設けられており、このアームシリンダ16によりアーム13が揺動作動される。アーム13とバケット14とに跨って油圧駆動式のバケットシリンダ17が設けられており、このバケットシリンダ17によりバケット14が揺動作動される。
【0021】
オペレータキャビン8は、略矩形箱状に形成されており、内部にオペレータが前方に向いて着座するためのオペレータシート18が設けられている。オペレータシート18の左右には、ブレード5、旋回台6、ショベル機構7および装着されたアタッチメント等の作動操作を行うための右作業操作レバー19と左作業操作レバー20とが設けられている。また、オペレータシート18の前方には、走行装置4の作動操作を行うための右走行操作レバー21と左走行操作レバー22とが設けられている。
【0022】
図2にはパワーショベル1に装備されたブーム12と同様のブーム(以下「メインブーム30」と称する)を示しており、次に、この
図2を追加参照しながら、メインブーム30の概略構成について説明する。図示したメインブーム30は、複数の金属板を箱状に接合して構成されたブーム本体31と、ブーム本体31の上面中間部に固定された第1ブラケット40と、ブーム本体31の下面中間部に固定された第2ブラケット50と、ブーム本体31の前端部に固定された第3ブラケット60とを備えて構成されている。
【0023】
第1ブラケット40は、ブーム本体31の上面に立設固定されるように互いに平行に配置された一対の第1プレート41(図中手前側の第1プレート41のみを図示)により構成され、不図示の油圧シリンダ(
図1のアームシリンダ16に相当する)を枢支するための軸座部42を備えている。同様に、第2ブラケット50は、ブーム本体31の下面に立設固定されるように互いに平行に配置された一対の第2プレート51(図中手前側の第2プレート51のみを図示)により構成され、不図示の油圧シリンダ(
図1のブームシリンダ15に相当する)を枢支するための軸座部52を備えている。また、第3ブラケット60は、ブーム本体31の前端部に立設固定されるように互いに平行に配置された一対の第3プレート61(図中手前側の第3プレート61のみを図示)により構成され、不図示のアーム(
図1のアーム13に相当する)を枢支するための軸座部62を備えている。
【0024】
各一対の第1プレート41、第2プレート51および第3プレート61は、それぞれブーム本体31に対して隅肉溶接により固定される。特に、第1プレート41の端部41a,41bや、第2プレート51の端部51a,51b、第3プレート61の端部61a,61bに対しても隅肉溶接が行われる。また、第3プレート61に接合される、ブーム本体31を構成する鋼板の端部31a,31bに対しても隅肉溶接が行われるようになっている(
図2では溶接部は図示せず)。
【0025】
図3〜6は、第1プレート41の端部41aにおいて、本発明を適用して隅肉溶接を行う際の作業工程を模式的に示しており、
図7は、その作業手順の概要を示している。以下、これらの図を追加参照して、本発明に係る隅肉溶接方法の手順について説明する。なお、
図4,5に示す縦断面図は、第1プレート41の厚み方向に対し垂直な切断面による断面図である。また、溶接手法としては、被覆アーク溶接法や炭酸ガスアーク溶接法など、種々の溶融溶接手法の中から適宜選択して用いることが可能である。
【0026】
(A1)まず、
図3に示すように、第1プレート41の端部41aに段付き舌片部70を形成する(
図7のステップS1)。段付き舌片部70は、溶断により第1プレート41と一体に形成するものとするが、機械切断等の他の方法により第1プレート41と一体に形成してもよい。この段付き舌片部70は、第1プレート41の先端側に向かって下る段部71と、段部71から先の部分を構成する舌片本体72とから構成されており、舌片本体72はその高さ(図中上下方向の厚み)が各部分において略一定の平板状に形成されている。なお、舌片本体72の高さは、段部71の形成位置における第1プレート41の高さの半分程度とすることが好ましく、舌片本体72の幅は第1プレート41の幅と同じとすることが好ましい。
【0027】
(A2)次に、
図4に示すように、ブーム本体31上に設定された溶接固定位置に第1プレート41を配置して、段付き舌片部70がブーム本体31上に載置されるようにセットする(
図7のステップS2)。
【0028】
(A3)次いで、
図5に示すように、段付き舌片部70の舌片本体72が、溶接により形成される隅肉溶接金属部76によって覆われるように、溶融させた金属材料(溶加材)を付加しながら隅肉溶接を行う(
図7のステップS3)。このとき、第1プレート上面41cと隅肉溶接金属部76とが滑らかに(傾きが急激に変化しないように連続的に)繋がるように、隅肉溶接を行うことが好ましい。
【0029】
(A4)溶接終了後、隅肉溶接金属部76の状態に応じて、必要であれば、グラインダ等の研削工具を用いて研削作業を行う(
図7のステップS4)。例えば、隅肉溶接金属部76の止端部に段差が形成された場合には、その段差が許容範囲内となるように研削作業を行う。また、隅肉溶接金属部76に盛上り部が形成された場合には、その盛上り部を削り落とすように研削作業を行う。
【0030】
なお、
図5,6においては便宜的に、段付き舌片部70(段部71および舌片本体72)が溶接前と同じ形状で存在するように図示(
図5では実線で、
図6では破線で図示)している。しかし、実際には、溶接過程において、段付き舌片部70は、溶接熱により一部が溶融して隅肉溶接金属部76と一体化する。
【0031】
また、
図6には、第1プレート41の側面下辺部に形成された隅肉溶接金属部77を図示している(
図6では隠れて見えないが、第1プレート41の反対側の側面下辺部にも形成されている)。この隅肉溶接金属部77は、第1プレート41の側面下辺部を第1プレート41の長さ方向全長に亘って隅肉溶接を行う際に形成されたものとして図示したものである。このような第1プレート41の側面下辺部における隅肉溶接を行う場合には、上述の第1プレート41の端部における隅肉溶接(隅肉溶接金属部76を形成する隅肉溶接)よりも先に実行することが好ましい。先に、端部の隅肉溶接を行うと、その際に溶融した金属材料(溶加材や舌片本体72等)が第1プレート41の側面下辺部に溶け落ちて付着し、その付着した部分が、側面下辺部の隅肉溶接を行う際に溶け込み不良となる虞があるからである。
【0032】
上述した手順による隅肉溶接方法によれば、段付き舌片部70を形成しておくことによ
り、隅肉溶接金属部76の嵩(溶接時に付加される溶加材の量)を減らすことができ、そのため、溶接時の入熱を、段付き舌片部70を形成しない従来手法による場合と比較して、減少させることが可能となる。入熱が減少することにより、第1プレート41の端部41a(特に段部71の出っ張った縁の部分)における溶け落ちを抑えることができる。このため、そのような溶け落ちが生じた場合にはそれを補おうとして溶接が行わるために隅肉溶接金属部76の上部に形成される可能性が高くなる盛上り部が、溶接過程において形成されることを抑制することが可能となる。このため、盛上り部を削り落とすための研削作業を簡略化または省略することが可能となり、作業効率を向上させることができる。
【0033】
次に、上述した手順による隅肉溶接方法により形成された隅肉溶接部の構造(本発明に係る隅肉溶接構造の一態様)について、
図5を参照しながら説明する。この隅肉溶接構造は、
図5に示すように、第1プレート41の端部41aに形成された、先端側に向かって下る段部71を備えた段付き舌片部70と、第1プレート41が溶接固定位置に配置されて、段付き舌片部70がブーム本体31上に載置された状態で、舌片本体72を覆う隅肉溶接金属部76とを備えて構成される。
【0034】
上述したように、段付き舌片部70は、
図5において便宜的に図示した状態とは異なり、溶接過程においてその一部が溶融しながら隅肉溶接金属部76と一体化する。また、段付き舌片部70が隅肉溶接金属部76と一体化した部分に隣接するように、溶接熱により組織変化が生じた溶接熱影響部(不図示)が形成される。この溶接熱影響部は、段付き舌片部70の溶接前の形状に沿って分布するように形成されると予想される。
【0035】
上述したように、
図5に示す隅肉溶接構造は、上述した本発明の隅肉溶接方法により、溶接時の入熱が従来手法よりも減少した状態で形成されたものである。溶接時の入熱が減少することにより、溶接熱影響部の靱性が向上し、シャルピー衝撃値を高めることが可能となる。また、上述のように、溶接熱影響部は、段付き舌片部70の溶接前の形状に沿うように形成されることとなる。このため、第1プレート41→溶接熱影響部→隅肉溶接金属部76へと応力が伝わる際の応力の作用方向(例えば、
図5の左右方向)に対して、溶接熱影響部が垂直とならない部分、換言すれば、溶接熱影響部の厚み方向が応力の作用方向と平行とならない部分が形成されることとなるので、靱性値がより高くなることも期待できる。
【0036】
図8〜10には、上述した段付き舌片部70とは異なる態様の段付き舌片部80を第1プレート41の端部41aに形成して隅肉溶接を行う際の作業工程を模式的に示している。以下、これらの図を追加参照して、本発明に係る隅肉溶接方法の別態様の手順について説明する。なお、その手順は、上述の(A1)〜(A4)および
図7に示した手順に準じたものであるので、重複する部分を簡略化して説明する。
【0037】
(B1)まず、
図8に示すように、第1プレート41の端部41aに段付き舌片部80を形成する(
図7のステップS1)。この段付き舌片部80は、第1プレート41の先端側に向かって下る段部81と、段部81から先の部分を構成する舌片本体82とから構成されており、舌片本体82は、先端側に向かって高さが漸減する楔状に形成されている。なお、舌片本体82の基端側の高さは、段部81の形成位置における第1プレート41の高さの半分程度とすることが好ましい。
【0038】
(B2)次に、
図9に示すように、ブーム本体31上の溶接固定位置に第1プレート41を配置して、段付き舌片部80がブーム本体31上に載置されるようにセットする(
図7のステップS2)。
【0039】
(B3)次いで、
図10に示すように、段付き舌片部80の舌片本体82が、溶接によ
り形成される隅肉溶接金属部76によって覆われるように隅肉溶接を行う(
図7のステップS3)。このとき、第1プレート上面41cと隅肉溶接金属部76とが滑らかに繋がるように、隅肉溶接を行うことが好ましい。
【0040】
(B4)溶接終了後、隅肉溶接金属部76の状態に応じて、隅肉溶接金属部76の止端部に段差が形成された場合や、隅肉溶接金属部76に盛上り部が形成された場合の研削作業を行う(
図7のステップS4)。
【0041】
なお、段付き舌片部80は、
図10において図示した状態とは異なり、実際には、溶接過程において、段付き舌片部80の一部が溶融して隅肉溶接金属部76と一体化している。
【0042】
次に、上述した別態様の隅肉溶接方法により形成された隅肉溶接部の構造(本発明に係る隅肉溶接構造の別態様)について、
図10を参照しながら説明する。この隅肉溶接構造は、
図10に示すように、第1プレート41の端部41aに形成された段付き舌片部80と、第1プレート41が溶接固定位置に配置されて、段付き舌片部80がブーム本体31上に載置された状態で、舌片本体82を覆う隅肉溶接金属部76とを備えて構成される。なお、上述したように、溶接過程において、段付き舌片部80の一部が溶融して隅肉溶接金属部76と一体化するが、その一体化した部分に隣接するように、溶接熱影響部(不図
示)が形成される。この溶接熱影響部は、段付き舌片部80の溶接前の形状に沿って分布
するように形成される。
【0043】
このような段付き舌片部80を形成した場合の隅肉溶接方法および隅肉溶接構造においても、先述した段付き舌片部70を形成した場合の隅肉溶接方法および隅肉溶接構造と同様の効果を得ることができる。段付き舌片部70と段付き舌片部80とを比較した場合、舌片本体72が平板状に形成された段付き舌片部70では、舌片本体72の先端側でも一定の厚みを有しているので、舌片本体72を溶断により形成する際に舌片本体72の先端側部分の溶け落ちが生じ難いという利点がある。これに対し、舌片本体82が楔状に形成された段付き舌片部80では、隅肉溶接後における母材(舌片本体82)から隅肉溶接金属部76への材質変化の状態が、平板状の段付き舌片部70を形成した場合よりも緩やかになるという利点がある。なお、舌片本体の形状としては、上述した平板状や楔状以外にも階段状や波板状などの種々の形状とすることが可能である。
【0044】
以上においては、
図2に示すメインブーム30のブーム本体31の上面に立設固定される第1プレート41の端部41aにける隅肉溶接に対し、本発明を適用した例を説明したが、第1プレート41の端部41bや第2プレート51の端部51a,51b、第3プレート61の端部61a,61bにおける隅肉溶接や、第3プレート61に接合される、ブーム本体31を構成する鋼板の端部31a,31bにおける隅肉溶接に対しても、同様に本発明を適用することが可能である。また、本発明は、メインブーム30以外の作業用駆動要素に対しても、同様に適用することが可能である。例えば、
図11に示すロングアーム100のアーム本体101に固定されるプレート111の端部111a,111bや、プレート121の端部121a,121bにおける隅肉溶接に対しても、本発明を適用することが可能である。その他にも、
図1に示すアーム13やバケット14、ブレード5等の作業用駆動要素の各部における隅肉溶接に対しても、同様に本発明を適用することが可能である。
【0045】
また、本発明は、溶接相手部材に立設固定される板状の溶接対象部材の端部における隅肉溶接以外にも、溶接相手部材に重ねるように固定される板状の溶接対象部材の重ね継手部分における隅肉溶接に対しても、適用することが可能である。さらに、本発明は、パワーショベル等の作業機械以外に、船舶、自動車、橋梁、ビルなど種々の製造物や建築物等
における隅肉溶接に対しても、適用することが可能である。