(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1の設計法に基づく局部耐力は、柱のフランジ、ウェブの板厚が非常に厚い場合でなければダイアフラムを省略することができない。そのため、一般的な圧延H形鋼(JIS−Hや外法一定H形鋼)を用いてノンダイアフラム形式を採用することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、ノンダイアフラム形式の柱SRC梁S構造の接合部局部耐力におけるコンクリートの耐力負担効果を適切に考慮することで、従来構造に比して柱のフランジの板厚及びウェブの板厚をより薄くすることができる柱梁接合構造の接合部耐力評価方法、柱梁接合構造の設計方法、及び柱梁接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の柱梁接合構造の接合部耐力評価方法は、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱と、鉄骨造の梁と、前記柱に前記梁が接合された接合部と、を備えるノンダイアフラム形式の柱梁接合構造の接合部耐力評価方法であって、前記柱は、ウェブとフランジとを有する柱鉄骨を備え、前記梁は、ウェブとフランジとを有し、前記接合部において前記柱鉄骨の前記フランジに接合されていて、前記接合部について、前記柱鉄骨の耐力に、前記梁の圧縮側の前記フランジが前記柱鉄骨の前記フランジを前記柱鉄骨の前記フランジの厚さ方向に押し込む力に対して、前記柱鉄骨の前記フランジが前記厚さ方向の内側に変形するときの前記柱鉄骨の前記フランジの前記厚さ方向の内側の前記コンクリートの支圧破壊に対する耐力を加えて評価することを特徴としている。
一般的に、コンクリートの支圧耐力はコーン状破壊耐力よりも大きい。この発明によれば、柱鉄骨の耐力にコンクリートの支圧破壊に対する耐力を加えて評価することで、接合部の耐力がより適切に評価される。
【0008】
また、上記の柱梁接合構造の接合部耐力評価方法において、前記接合部について、前記柱鉄骨の耐力に、前記梁の引張側の前記フランジが前記柱鉄骨の前記フランジを前記柱鉄骨の前記フランジの厚さ方向に引き抜く力に対して、前記柱鉄骨の前記フランジが前記厚さ方向の外側に変形するときの前記柱鉄骨の前記フランジの前記厚さ方向の外側のかぶりコンクリートに生じるコーン状破壊に対する耐力を加えて評価してもよい。
この発明によれば、柱鉄骨の耐力にコンクリートに生じるコーン状破壊に対する耐力を加えて評価することで、接合部の耐力をより適切に評価することができる。
【0010】
また、本発明の他の柱梁接合構造の接合部耐力評価方法は、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱と、鉄骨造の梁と、前記柱に前記梁が接合された接合部と、を備えるノンダイアフラム形式の柱梁接合構造の接合部耐力評価方法であって、前記柱は、ウェブとフランジとを有する柱鉄骨を備え、前記梁は、ウェブとフランジとを有し、前記接合部において前記柱鉄骨の前記フランジに接合されていて、前記接合部について、(1)式による全塑性曲げモーメント
jM
p、及び(2)式による最大曲げモーメント
jM
uの少なくとも一方を求めることを特徴としている。
ただし、B
c:前記柱鉄骨の前記フランジの幅、t
cf:前記柱鉄骨の前記フランジの板厚、σ
cfy:前記柱鉄骨の前記フランジの降伏強さ、t
cw:前記柱鉄骨の前記ウェブの板厚、σ
cwy:前記柱鉄骨の前記ウェブの降伏強さ、t
bf:前記梁の前記フランジの板厚、H
b:前記梁のせい、F
c:前記柱のコンクリートの強度、d:前記柱鉄骨の前記フランジに対する前記コンクリートのかぶり厚さ、λ:前記コンクリートの支圧効果係数、σ
cwu:前記柱の前記ウェブの引張強さ。
【0011】
【数1】
【数2】
【0012】
また、本発明の柱梁接合構造の設計方法は、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱と、鉄骨造の梁と、前記柱に前記梁が接合された接合部と、を備えるノンダイアフラム形式の柱梁接合構造の設計方法であって、前記柱は、ウェブとフランジとを有する柱鉄骨を備え、前記梁は、ウェブとフランジとを有し、前記接合部において前記柱鉄骨の前記フランジに接合されていて、前記接合部における、(3)式及び(4)式により求められる前記接合部の局部降伏曲げモーメント
jM
yを、(5)式及び(6)式を満たすように設定することを特徴としている。
ただし、B
c:前記柱鉄骨の前記フランジの幅、t
cf:前記柱鉄骨の前記フランジの板厚、σ
cfy:前記柱鉄骨の前記フランジの降伏強さ、t
cw:前記柱鉄骨の前記ウェブの板厚、σ
cwy:前記柱鉄骨の前記ウェブの降伏強さ、r:前記柱鉄骨のフィレット半径、t
bf:前記梁の前記フランジの板厚、A
bf:前記梁の前記フランジの断面積、H
b:前記梁のせい、F
c:前記柱のコンクリートの強度、d:前記柱鉄骨の前記フランジに対する前記コンクリートのかぶり厚さ、λ:前記コンクリートの支圧効果係数、
bZ
p:前記梁の塑性断面係数、σ
by:前記梁の降伏強さ。
【0013】
【数3】
【0014】
また、本発明の柱梁接合構造は、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱と、鉄骨造の梁と、前記柱に前記梁が接合された接合部と、を備えるノンダイアフラム形式の柱梁接合構造であって、前記柱は、ウェブとフランジとを有する柱鉄骨を備え、前記梁は、ウェブとフランジとを有し、前記接合部において前記柱鉄骨の前記フランジに接合されていて、前記接合部における、(7)式及び(8)式により求められる前記接合部の局部降伏曲げモーメント
jM
yが、(9)式から(11)式を満たしていることを特徴としている。
ただし、B
c:前記柱鉄骨の前記フランジの幅、t
cf:前記柱鉄骨の前記フランジの板厚、σ
cfy:前記柱鉄骨の前記フランジの降伏強さ、t
cw:前記柱鉄骨の前記ウェブの板厚、σ
cwy:前記柱鉄骨の前記ウェブの降伏強さ、r:前記柱鉄骨のフィレット半径、t
bf:前記梁の前記フランジの板厚、A
bf:前記梁の前記フランジの断面積、H
b:前記梁のせい、F
c:前記柱のコンクリートの強度、d:前記柱鉄骨の前記フランジに対する前記コンクリートのかぶり厚さ、λ:前記コンクリートの支圧効果係数、
bZ
p:前記梁の塑性断面係数、σ
by:前記梁の降伏強さ。
【0015】
【数4】
【0016】
これらの発明によれば、ノンダイアフラム形式の柱SRC梁S構造の接合部局部耐力におけるコンクリートの耐力負担効果を適切に考慮することで、必要な耐力を維持しつつ、柱のフランジの板厚及びウェブの板厚をより薄くすることができる。
【0017】
また、上記の柱梁接合構造の接合部耐力評価方法において、前記接合部の前記全塑性曲げモーメント
jM
pを求めた場合において、(12)式による前記接合部の局部降伏曲げモーメント
jM
yを求めてもよい。
【0018】
【数5】
【0019】
また、上記の柱梁接合構造において、前記柱鉄骨が、前記ウェブの幅方向の両端に前記フランジが一体に形成された圧延H形鋼であってもよい。
また、上記の柱梁接合構造において、前記柱鉄骨が、前記ウェブの幅方向の両端に前記フランジがそれぞれ接合された溶接組立H形断面部材であり、前記溶接組立H形断面部材が、前記ウェブと前記フランジとが完全溶け込み溶接により接合された溶接部を有していてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の柱梁接合構造の接合部耐力評価方法、柱梁接合構造の設計方法、及び柱梁接合構造によれば、ノンダイアフラム形式の柱SRC梁S構造の接合部局部におけるコンクリートの耐力負担効果を適切に考慮して、柱のフランジの板厚及びウェブの板厚をより薄くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る柱梁接合構造、柱梁接合構造の接合部耐力評価方法、及び柱梁接合構造の設計方法の第1実施形態を、
図1から
図12を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態の柱梁接合構造1は、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造の柱11と、鉄骨造の梁21と、柱11に梁21が接合された接合部31と、を備える。
柱11は、ウェブ14とフランジ13とを有する柱鉄骨12と、柱鉄骨12を囲う複数本の鉄筋15、及びコンクリート16を備えている。
なお、本柱梁接合構造1は、柱11への梁21の接合に際してダイアフラム(スチフナ)を用いない形式、すなわちノンダイアフラム形式である。
【0023】
複数本の鉄筋15は、
図2に示す柱鉄骨12の長手方向に見たときに、矩形の縁部の形状となる基準線上に等間隔ごとに配置されている。
コンクリート16は、長手方向に直交する断面が正方形又は長方形である。
図1に示すように、梁21は、H形断面で形成され、ウェブ24と、このウェブ24の両端部に接合された一対のフランジ23とを有している。梁21は、水平方向に沿って延びている。梁21は鉄骨であり、鋼板等で形成されている。
梁21のフランジ23は、接合部31において柱鉄骨12のフランジ13に溶接接合されている。梁21のウェブ24は、柱鉄骨12のフランジ13に溶接又は高力ボルト接合されている。柱鉄骨12のフランジ13と梁21とが接合された接合部31(溶接部、及び溶接部の近傍の柱鉄骨12、梁21)は、コンクリート16により囲われている。
【0024】
なお、柱鉄骨12はウェブ14の幅方向の両端にフランジ13が一体に形成された圧延H形鋼であってもよい。また、柱鉄骨12が、ウェブ14の幅方向の両端にフランジ13がそれぞれ接合された溶接組立H形断面部材であってもよい。この場合、溶接組立H形断面部材が、ウェブ14とフランジ13とが完全溶け込み溶接により接合された溶接部を有していてもよい。
【0025】
〔1.本発明で提案する崩壊機構〕
本柱梁接合構造1の崩壊機構として、
図3から
図5に示す機構を仮定する。
図3から
図5は、柱梁接合構造1が変形した後の状態を示している。柱鉄骨12のフランジ13に上方に塑性ヒンジ13
1、下方に塑性ヒンジ13
2が形成されるとする。後述する塑性回転角度θ
1、θ
2が0(radian)の状態から
図3から
図5に示す塑性回転角度θ
1、θ
2が正の状態まで変形したとする。
梁21の引張側のフランジ23(この例では上方のフランジ23
1)が柱鉄骨12のフランジ13を面外に引き抜く力に対しては、鉄骨である柱鉄骨12は、フランジ13の面外変形とウェブ14の局部降伏を生じる。これにより、柱鉄骨12のウェブ14に局部降伏14aが形成される。また、柱鉄骨12のフランジ13には、塑性ヒンジ13
1が形成される。
柱鉄骨12のフランジ13が面外に変形することよって、フランジ13の外側のかぶりコンクリート16aがコーン状破壊する。かぶりコンクリート16aの側面16a1を、
図4中にハッチングを付して示す。
【0026】
図3に示すように、梁21の圧縮側のフランジ23(この例では下方のフランジ23
2)が柱鉄骨12のフランジ13を面外に押し込む力に対しては、フランジ13が内側に面外変形してウェブ14の局部降伏が生じ、フランジ13の内側のコンクリート16が支圧破壊すると仮定している。コンクリート16に、支圧破壊部16bが形成される。支圧破壊部16bを、
図5中にハッチングを付して示す。また、柱鉄骨12のフランジ13には、塑性ヒンジ13
2が形成される。
一般にコンクリートの支圧耐力はコーン状破壊耐力よりも大きくなるので、接合部31の断面内の釣合条件を満たす中立軸C1は、梁せいH
b(梁のせい(成)、mm)の上下方向の中心よりも圧縮側のフランジ23
2側に位置する。
【0027】
本崩壊機構は、梁21の端部の曲げモーメントに対して接合部31が角度θ(radian)回転した状態を仮定している。ただし、角度θは微小な角度であり、tanθ=θ等と近似することができる。
本崩壊機構で用いる変数は、図中に示すx、y、z(mm)である。変数xは、梁21の端部の曲げモーメントに対する中立軸C1の位置を決定する係数で、0以上1以下の任意の値を取り得る。変数y、zは、任意の正数(0よりも大きい値)を取り得る。これらの変数x、y、zを用いて、柱鉄骨12のフランジ13とフランジ23
1、23
2の交差部における面外変形量δ
1、δ
2(mm)は、(13)式及び(14)式を用いて(15)式及び(16)式によって表わすことができる。ここで、梁21のフランジ23の板厚をt
bf(mm)、フランジ13及びフランジ23の交差部に仮定する剛域の幅をt’(mm)とする。
【0029】
柱鉄骨12のフランジ13の降伏ヒンジ線に生じる塑性回転角度θ
1、θ
2(radian)は、(17)式及び(18)式によって表わすことができる。
【0031】
〔2.第一の崩壊モデル〕
前述した柱梁接合構造1の崩壊機構の第一の崩壊モデルにおける柱梁接合構造の接合部耐力評価方法は、接合部31について、柱鉄骨12の耐力に、コンクリート16の支圧破壊に対する耐力を加えて評価する評価方法である。ここで言うコンクリート16の支圧破壊に対する耐力は、梁21の圧縮側のフランジ23
2が柱鉄骨12のフランジ13をフランジ13の厚さ方向D(
図3参照)に押し込む力に対して、柱鉄骨12のフランジ13が厚さ方向Dの内側D1に変形するときの柱鉄骨12のフランジ13の厚さ方向Dの内側D1のコンクリート16の支圧破壊に対する耐力である。
一般的に、コンクリートの支圧耐力はコーン状破壊耐力よりも大きい。柱鉄骨12の耐力にコンクリート16の支圧破壊に対する耐力を加えて評価することで、接合部31の耐力がより適切に評価される。したがって、コンクリート16の耐力負担効果を適切に考慮して、柱鉄骨12のフランジ13の板厚及びウェブ14の板厚をより薄くすることができる。
【0032】
さらに、前述の柱梁接合構造の接合部耐力評価方法において、接合部31について、柱鉄骨12の耐力に、かぶりコンクリート16aに生じるコーン状破壊に対する耐力を加えて評価してもよい。ここで言うかぶりコンクリート16aに生じるコーン状破壊に対する耐力は、梁21の引張側のフランジ23
1が柱鉄骨12のフランジ13を厚さ方向Dに引き抜く力に対して、柱鉄骨12のフランジ13が厚さ方向Dの外側D2に変形するときの柱鉄骨12のフランジ13の厚さ方向Dの外側D2のかぶりコンクリート16aに生じるコーン状破壊に対する耐力である。
柱鉄骨31の耐力にコンクリート16に生じるコーン状破壊に対する耐力を加えて評価することで、接合部31の耐力をより適切に評価することができる。
【0033】
また、柱梁接合構造1において、柱11の柱鉄骨12が鉄骨鉄筋コンクリート中のコンクリート16(鉄筋15及びコンクリート16)で囲われていない状態であるときに、梁21に一定の荷重が作用して接合部31の少なくとも一部が降伏する。しかし、柱11の柱鉄骨12がコンクリート16で囲われた状態であるときに、梁12にこの一定の荷重が作用しても接合部31は降伏しないように構成してもよい。
柱鉄骨12単体では接合部31が降伏する一定の荷重が作用した場合でも、柱鉄骨12を鉄筋コンクリートで囲って柱11とすることで、接合部31が降伏しないようすることができる。
【0034】
〔3.第二の崩壊モデル〕
〔3.1.崩壊曲げモーメント〕
柱鉄骨12及び梁21等のような鋼材の実際の応力−ひずみ特性を、
図6に示す。
図6の横軸は鋼材のひずみを表し、縦軸は鋼材に作用する応力を表す。鋼材には、ひずみが0の状態から、ひずみが増加するのにしたがって応力が比例して増加する弾性領域R1がある。弾性領域R1よりもひずみが大きい範囲が、非弾性領域R2である。非弾性領域R2では、弾性領域R1よりも応力の増加率が低下する。弾性領域R1と非弾性領域R2との境界となる応力が、降伏応力σ
1である。
非弾性領域R2では、最大応力σ
2において応力が最大値となる。最大応力σ
2に対応するひずみよりもひずみが大きくなると、応力は最大応力σ
2よりも低下する。鋼材は、ひずみε
1において破断する。
【0035】
第二の崩壊モデルでは、極限解析で理論解を求めるにあたり、柱鉄骨12及び梁21の応力−ひずみ特性として、
図7に線L1で示す剛塑性関係となる第一のモデルを仮定している。
図7の横軸は鋼材のひずみを表し、縦軸は鋼材に作用する応力を表す。
第一のモデルでは、ひずみが0のままで応力が増加する。応力が降伏応力σ
1となったときに、鋼材が降伏する。鋼材が降伏した後は、応力が変わらずにひずみが増加する。第一のモデルでは、ひずみ硬化を考慮していない。
これに対して、第二のモデルではひずみ硬化を考慮している。第二のモデルの応力−ひずみ特性は線L2で示すように変化し、鋼材はひずみε
1において最大応力σ
3で破断する。
【0036】
次に、崩壊曲げモーメントの詳細について説明する。
柱鉄骨12のフランジ13の降伏ヒンジ線の単位長さあたりの降伏モーメントM
0(N)、及び柱鉄骨12のウェブ14に生ずる不連続線の単位長さあたりの降伏軸力N
0c(N/mm)は、それぞれ(19)式及び(20)式で与えられる。
ここで、柱鉄骨12のフランジ13の板厚をt
cf(mm)、柱鉄骨12のウェブ14の板厚をt
cw(mm)、柱鉄骨12のフランジ13の降伏強さをσ
cfy(N/mm
2)、柱鉄骨12のウェブ14の降伏強さをσ
cwy(N/mm
2)とする。
【0038】
柱鉄骨12のフランジ13の面外変形による内部仕事W
cfは、各降伏ヒンジ線の塑性回転による仕事の和として、(21)式で与えられる。また、柱鉄骨12のウェブ14の局部降伏による内部仕事W
cwは、各々の不連続線上で生じる塑性流れによる仕事の和として、(22)式で与えられる。
梁21の引張側のフランジ23
1周りのかぶりコンクリート16aに生じるコーン状破壊による内部仕事W
RC1は、(23)式で与えられる。梁21の圧縮側のフランジ23
2周りに生じる内部のコンクリート16の支圧破壊による内部仕事W
RC2は、(24)式で与えられる。
ここで、柱鉄骨12のフランジ13の幅をB
c(mm)、柱鉄骨12のフランジ13に対するコンクリート16のかぶり厚さをd(mm、
図2参照)、コンクリート16の強度(設計基準強度)をF
c(N/mm
2)、コンクリート16の支圧効果係数をλ(本実施形態では1.5とする)とする。
【0040】
仮想仕事の原理より、接合部31についての崩壊曲げモーメントM(Nmm)は(25)式で与えられる。崩壊曲げモーメントMの最小値である全塑性曲げモーメント
jM
p(Nmm)は、(26)式を連立して解くことで求められ、(27)式から(30)式によって与えられる。
【0042】
本崩壊荷重は接合部31の全塑性耐力に相当し、接合部31の局部降伏曲げモーメント
jM
y(Nmm)は式(31)によって評価される。
【0044】
また、
図3の崩壊機構のうち、かぶりコンクリート16aに生じるコーン状破壊による内部仕事W
RC1を無視し、柱11のウェブ14に生ずる単位長さあたりの応力である崩壊荷重N
1c(N/mm)を(32)式とすることで、接合部31の後述する最大耐力に相当する最大曲げモーメント
jM
u(Nmm)は(33)式から(36)式により得られる。
ここで、柱鉄骨12のウェブ14の引張強さをσ
cwu(N/mm
2)とする。
内部仕事W
RC1を無視するのは、最大曲げモーメント
jM
uが生じているときには、既にかぶりコンクリート16aのコーン状破壊が生じていて、かぶりコンクリート16aによる内部仕事が生じないと考えられるためである。
【0046】
前述の全塑性曲げモーメント
jM
pは、ひずみが0かつ応力が降伏応力σ
1となったときに接合部31に作用する曲げモーメントである。一方で、最大曲げモーメント
jM
uは、ひずみ硬化を考慮して、ひずみがε
1かつ応力が最大応力σ
3になったときに接合部31に作用する曲げモーメントである。
【0047】
また、非特許文献1において、ダイアフラムを用いないための条件は(37)式で与えられる。
ここで、柱鉄骨12のフィレット半径をr(
図2参照、mm)、梁21のフランジ23の断面積をA
bf(mm
2)とする。ここで言う断面積A
bfは、梁21が有する一対のフランジ23のうち一方のフランジ23の断面積のことを意味する。
【0049】
〔3.2.崩壊曲げモーメントによる実験結果の評価〕
〔3.1〕で得た崩壊曲げモーメントMは公知の極限定理に基づくものであり、崩壊荷重の上界を与える。そのため、既往の実験結果(北岡聡、他2名、「厚肉ウェブH形鋼の利用技術開発 その7.ノンスチフナ形式柱SRC・梁S接合部の梁端曲げ実験」、日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)、2007年8月、p.1143−1144)及び本検討のために実施した構造実験の接合部耐力と崩壊曲げモーメントMの計算値との対応関係を調査した。
【0050】
梁端曲げ実験の荷重‐変位の関係における接線剛性が初期剛性の1/3に低下した時点の耐力、荷重が最大値に至った時点の耐力を、接合部の降伏耐力、最大耐力とそれぞれ定義した。全塑性曲げモーメント
jM
pの計算結果と実験結果とを比較した結果を
図8に示す。
【0051】
図8の横軸は全塑性曲げモーメント
jM
pの計算結果を表し、縦軸は実験結果における降伏耐力を表す。図中の線L6は、全塑性曲げモーメント
jM
pの計算結果と実験結果とが一致していて、計算結果が実験結果を精度良く予測できている場合を表す。
凡例の●印の「柱SRC梁S」は、今回実験を行った柱がSRC構造で梁が鉄骨のみで形成されている場合を表す。□印の「柱S梁S」は、既往の実験の結果を載せたもので、柱及び梁が鉄骨のみで形成されている場合を表す。そして、○印の「柱SRC梁S」は、既往の実験の結果を載せたもので、柱がSRC構造で梁が鉄骨のみで形成されている場合を表す。
【0052】
なお、今回の実験に用いた柱11の柱鉄骨12等の諸元を表1に示す。柱鉄骨12を十字鉄骨とし、諸元を変えて3種類の試験を行った。
例えば、No.B1のサンプルでは、柱鉄骨12を、SN490Bの材料で形成された十字鉄骨とした。コンクリート16の強度がFc27N/mm
2以上で、1辺の長さDを860mmとした。主筋を、SD345の材料で形成された直径16mmの鉄筋とし、
図2に示す断面内に12本配置した。帯筋を、SD295の材料で形成された直径10mmの鉄筋とし、160mmピッチで配置した。
【0054】
図8に示すように、全塑性曲げモーメント
jM
pの計算結果は、実験結果における降伏耐力に対して2割ほど高くなることが分かった。
【0055】
図8の結果から、本実施例の接合部の全塑性耐力に相当する接合部31の全塑性曲げモーメント
jM
pの計算結果は実験結果をやや過大に評価する傾向にあるため、計算結果に低減係数を乗じて実験結果における降伏耐力を推定する。例えば、各実験に対する実験結果と計算結果に低減係数を乗じた値との差の二乗の和が最少になるように、低減係数の値を決める。
図9には、低減係数0.8を乗じたときの接合部31の全塑性曲げモーメント
jM
p(局部降伏曲げモーメント
jM
y)の計算結果と実験結果における降伏耐力の比較を示す。計算結果に低減係数0.8を掛けることで実験結果を精度良く、また安全側に予測できることが分かった。このことから、接合部31の局部降伏曲げモーメント
jM
yを(31)式で評価することとしている。
【0056】
図10に、最大曲げモーメント
jM
uの計算結果と実験結果における最大耐力とを比較した結果を示す。
図10の横軸は最大曲げモーメント
jM
uの計算結果を表し、
図10の縦軸は実験結果における最大耐力を表す。最大曲げモーメント
jM
uは、計算結果に低減係数を乗じなくとも実験結果と良い対応を示している。
【0057】
〔3.3.柱と梁におけるエネルギー吸収の考え方〕
一般的に、柱と梁の設計基準において、地震等が発生したときに、柱、梁、柱と梁との接合部のうち、柱と梁との接合部の全塑性曲げモーメントを梁の全塑性曲げモーメント以上にしている。溶接により接合されている部分はあまり変形できないため、柱と梁との接合部では、エネルギーをあまり吸収できない。そこで、よりエネルギーを吸収できる梁を先行して崩壊(降伏)させ、地震等のエネルギーを吸収させる。
梁21の全塑性曲げモーメント
bM
p(Nmm)は、(38)式で与えられる。ここで、梁21の塑性断面係数を
bZ
p、梁21の降伏強さをσ
by(N/mm
2)とする。
接合部31についての局部降伏曲げモーメント
jM
yが梁21の全塑性曲げモーメント
bM
p以上、という条件は、(39)式のように表される。
【0059】
〔3.4.本実施形態におけるノンダイアフラム化可能範囲〕
表2に示す柱11及び梁21の諸元に対して、柱梁接合構造においてノンダイアフラム化可能範囲(ダイアフラムを用いない範囲)を検討した。例えば、柱鉄骨12のせいH
cを600mm、柱鉄骨12のフランジ13の幅B
cを300mm、コンクリート16の1辺の長さDを1100mm等とした。この場合、
図2に示すコンクリート16のかぶり厚さdは、(1100−600)/2=250mmとなる。
【0061】
表2に示す諸元に対して、非特許文献1の(37)式、及び(39)式に基づくノンダイアフラム化可能範囲を調査した結果を
図11に示す。(37)式を表す領域がR6であり、(39)式を表す領域がR7である。本発明では接合部の耐力にコンクリート16の合成効果を考慮しているため、従来技術である非特許文献1に比べて柱鉄骨12のウェブ14の板厚t
cw及びフランジ13の板厚t
cfが薄い場合でもノンダイアフラム化が可能であることが分かった。
すなわち、領域R7から領域R6を除いた領域R8が、新たにノンダイアフラム化が可能になった本発明の権利範囲である。
【0062】
表3に示す諸元は、表2に示す諸元に対して、コンクリート16の1辺の長さDを1100mmから1300mmに増加させたものである。
【0064】
表3に示す諸元に対して、ノンダイアフラム化を検討した結果を
図12に示す。この場合、
図3から
図5に示した柱梁接合構造1の崩壊機構においてかぶりコンクリートの耐力への寄与が増大する。
図12において領域R6は
図11から変化は無いが、(39)式を表す領域R9が領域R7に比べて板厚t
cw及び板厚t
cfがより小さい範囲まで広がる。この結果、領域R9から領域R6を除いた、新たにノンダイアフラム化が可能になる領域R10が領域R8に比べて広がる。
【0065】
このように、本実施形態の柱梁接合構造1は、接合部31の局部降伏曲げモーメント
jM
yが(39)式を満たし、さらに(40)式を満たす。
【0067】
本実施形態の柱梁接合構造1の設計方法は、接合部31の全塑性曲げモーメント
jM
p及び最大曲げモーメント
jM
uの少なくとも一方を求めて評価する。全塑性曲げモーメント
jM
pは降伏応力σ
1に対応する曲げモーメントであり、最大曲げモーメント
jM
uはひずみ硬化を考慮した最大応力σ
3に対応する曲げモーメントである。このため、接合部31の曲げモーメントをコンクリート16の支圧破壊に対する耐力、及びかぶりコンクリート16aに生じるコーン状破壊に対する耐力を含めて適切に評価することができる。
【0068】
接合部31の全塑性曲げモーメント
jM
pを求めた場合には、接合部31の局部降伏曲げモーメント
jM
yを求めて評価する。本実施形態の柱梁接合構造1の設計方法は、柱梁接合構造1の接合部31の局部降伏曲げモーメント
jM
yが(39)式を満たすように設定する。
本実施形態に示したように、コンクリートの合成効果を考慮しない従来技術に対して、本発明は柱梁接合部のノンダイアフラム化をより合理的に、広範囲に達成することができる。
柱梁接合構造1は、柱SRC梁S構造の接合部を柱通し型のノンダイアフラム形式としたものである。このように構成すると、部品数や鉄骨加工工数の削減や、梁の取り付け位置の鉛直方向の寸法公差が緩和されるなどの利点がある。
【0069】
以上説明したように、本実施形態の、柱梁接合構造1、柱梁接合構造1の接合部耐力評価方法、及び柱梁接合構造1の設計方法によれば、ノンダイアフラム形式の柱SRC梁S構造の接合部局部耐力におけるコンクリート16の耐力負担効果を適切に考慮して、柱鉄骨12のフランジ13の板厚t
cf及びウェブ14の板厚t
cwをより薄くすることができる。
本実施形態の柱梁接合構造の接合部耐力評価方法は、製造する前の柱梁接合構造1に対しても、製造した後の柱梁接合構造1に対しても好適に用いることができる。
【0070】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図13及び
図14を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
第1実施形態で説明した柱梁接合構造1の崩壊機構のモデルは精緻であるが、設計するのに必要となる計算は煩雑である。そこで、本実施形態では、柱梁接合構造1の諸元に一定の仕様規定を設けることで、接合部の耐力の推定精度をある程度保ったまま比較的簡便に接合部31の局部降伏曲げモーメント
jM
yを評価できるようにしたものである。
【0071】
ここで言う一定の仕様規定とは、表4及び表5に示すよう、すなわち以下の条件のようである。一定の仕様規定は、実用上比較的多く用いられる仕様である。
・柱鉄骨12の強度と梁21の強度とが等しい。
・コンクリート16の強度が、Fc27N/mm
2以上である。
・コンクリート16のかぶり厚さdが200mm以上である。
・柱鉄骨12の幅B
cは梁21のせいH
bの0.35倍以上0.65倍以下である。
・柱鉄骨12の幅B
cは梁21のフランジ23の幅の1.0倍以上2.0倍以下である。
・梁21のせいH
bは柱鉄骨12のせいの0.5倍以上1.4倍以下である。
【0073】
値を一定にしている変数は、柱鉄骨12及び梁21のフランジ、ウェブの降伏強さの325N/mm
2、柱鉄骨12のせいH
cの700mm、コンクリート16の1辺の長さDの1100mm、コンクリートの強度F
cの27N/mm
2である。
例えば、コンクリートの強度F
cが27N/mm
2で柱梁接合構造1が崩壊しないのであれば、コンクリートの強度F
cが27N/mm
2よりも大きいときに柱梁接合構造1が崩壊しないのは当然である。
降伏強さについても同様に大きい方が望ましく、柱鉄骨12のせいH
c及びコンクリート16の1辺の長さDについても同様に長い方が望ましい。
表4及び表5において「変数」と記載している柱鉄骨12の板厚t
cw及び板厚t
cfは、値が連続的に変化できることを意味する。
【0074】
表4及び表5に示すように、例えば、梁21のせいH
bが700mmのときに、梁21のフランジ23の幅B
bを350mm、300mm、250mm、200mm、梁21のウェブ24の板厚t
bwを16mm、12mm等と変化させて、前述の(31)式を解くと、
図13及び
図14に示す多数の細い実線の群G1が得られる。なお、
図13は柱鉄骨12のフランジ13の幅B
cが450mmの場合、
図14は柱鉄骨12のフランジ13の幅B
cが250mmの場合を示す。
図13及び
図14の横軸は梁21のフランジ23の断面積A
bfに対する柱鉄骨12のウェブ14の板厚t
cwの値を表わし、縦軸は梁21のフランジ23の断面積A
bfに対する柱鉄骨12のフランジ13の板厚t
cfの値を表わす。
【0075】
前述の一定の仕様規定において、群G1を包含する基準を、(41)式から(44)式、すなわち
図13及び
図14中に示す曲線L8のように表すことができる。
ここで、変数a、bは、(41)式及び(42)式に基づく変数である。
【0077】
本実施形態の柱梁接合構造1は、柱鉄骨12のフランジ13の幅B
c、柱鉄骨12のウェブ14の板厚t
cw、フランジ13の板厚t
cf、及び梁21のフランジ23の断面積A
bfが(41)式から(44)式を満たす。本実施形態の柱梁接合構造1の設計方法は、幅B
c、板厚t
cw、板厚t
cf、及び断面積A
bfが(41)式から(44)式を満たすように設定する。
幅B
c、板厚t
cw、板厚t
cf、及び断面積A
bf以外の変数は、限定されなくてもよい。
【0078】
例えば、
図14において、群G1においてある仕様規定に対して(31)式を表す曲線が曲線L10だとすると、この場合の(39)式を満たす領域は、曲線L10を含み、さらに曲線L10よりも矢印F1側の領域を含む領域となる。一方で、(41)式から(44)式を満たす領域は、曲線L8を含み、さらに曲線L8よりも矢印F2側の領域を含む領域となる。
【0079】
(41)式から(44)式によれば、柱鉄骨12のフランジ13の幅B
c、柱鉄骨12のウェブ14の板厚t
cw、フランジ13の板厚t
cf、及び梁21のフランジ23の断面積A
bfの関係のみによってノンダイアフラム化判定を行うことができる。
(41)式から(44)式は、(39)式に比べると若干ノンダイアフラム化可能範囲を狭めているが、従来技術に対しては十分優位性のあるノンダイアフラム化可能範囲を提示するものである。
【0080】
以上説明したように、本実施形態の柱梁接合構造1及び柱梁接合構造1の設計方法によれば、コンクリート16の耐力負担効果を適切に考慮して、柱鉄骨12のフランジ13の板厚t
cf及びウェブ14の板厚t
cwをより薄くすることができる。
さらに、柱梁接合構造1が崩壊しない板厚t
cf等の寸法をより簡単に求めることができる。
【0081】
以上、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
例えば、前記第1実施形態及び第2実施形態では、柱鉄骨は十字鉄骨であるとしたが、H形鋼等でもよい。梁21もH形鋼に限られず、十字鉄骨等でもよい。