特許第6681279号(P6681279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6681279宇宙飛行シミュレーター,それを有するプラネタリウム,および宇宙飛行シミュレーティングプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681279
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】宇宙飛行シミュレーター,それを有するプラネタリウム,および宇宙飛行シミュレーティングプログラム
(51)【国際特許分類】
   G09B 27/00 20060101AFI20200406BHJP
【FI】
   G09B27/00 B
   G09B27/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-112213(P2016-112213)
(22)【出願日】2016年6月3日
(65)【公開番号】特開2017-219593(P2017-219593A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】595086410
【氏名又は名称】コニカミノルタプラネタリウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和浩
(72)【発明者】
【氏名】石牧 伸啓
(72)【発明者】
【氏名】大谷 健一
【審査官】 西村 民男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−271561(JP,A)
【文献】 特開2004−361584(JP,A)
【文献】 ヘクトパスカル,PCで惑星探訪 天文シミュレータ「Mitaka」,I/O,日本,株式会社工学社,2007年 4月24日,第32巻 第5号,pp. 25-27
【文献】 石坂 千春,”宇宙の果て”が137億光年ではない理由 −宇宙は400億光年先まで見えている−,[online], 2010年, [2020年3月2日検索],URL,https://www.sci-museum.jp/files/pdf/study/research/2010/pb20_061-064.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B1/00−9/56,17/00−19/26,
23/00−29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙空間内での銀河系外天体の3次元位置を出力する天体位置出力部と,
銀河系外宇宙空間内での観察者の3次元位置および姿勢を操作者に指定させる観察位置指定部と,
前記天体位置出力部の出力内容に基づいて,指定された観察者の3次元位置および姿勢から見た星野(せいや)上での各銀河系外天体の像の配置を決定して星野像を作成する天体像配置部とを有する宇宙飛行シミュレーターであって,
宇宙膨張効果を考慮に入れるか入れないかを操作者に選択させる宇宙膨張選択部と,
観察時刻を指定する時刻指定部と,
宇宙膨張効果および指定された観察時刻に基づいて銀河系外天体の3次元位置を補正する宇宙膨張補正部とを有しており,
前記天体像配置部は,
宇宙膨張効果を考慮に入れる場合には,前記宇宙膨張補正部による補正後の銀河系外天体の3次元位置に基づいて各銀河系外天体の像の配置を決定するとともに,
宇宙膨張効果を考慮に入れない場合には,前記宇宙膨張補正部による補正前の銀河系外天体の3次元位置に基づいて各銀河系外天体の像の配置を決定するように構成されていることを特徴とする宇宙飛行シミュレーター。
【請求項2】
請求項1に記載の宇宙飛行シミュレーターであって,
前記宇宙膨張選択部はさらに,宇宙膨張効果を考慮に入れる場合における宇宙論パラメーターおよび対象とする銀河系外天体の赤方偏移の少なくとも1つについて,操作者による調整が可能なものであり,
前記天体像配置部は,宇宙膨張効果を考慮に入れる場合には,
宇宙論パラメーターおよび対象とする銀河系外天体の赤方偏移のうち調整されたものについては調整後の値を用い,
調整されなかったものについてはあらかじめ用意されている既定値を用いるように構成されていることを特徴とする宇宙飛行シミュレーター。
【請求項3】
ドームスクリーンと,
請求項1または請求項2に記載の宇宙飛行シミュレーターと,
前記天体像配置部が作成した星野像を前記ドームスクリーンに投映する投映装置とを有することを特徴とするプラネタリウム。
【請求項4】
請求項3に記載のプラネタリウムであって,前記天体像配置部は,
宇宙膨張効果を考慮に入れるか入れないかの選択が操作者により任意に切り替えられるのに伴い,宇宙膨張効果を考慮に入れた星野像と考慮に入れない星野像とを切り替えて前記ドームスクリーンに投映させるように構成されていることを特徴とするプラネタリウム。
【請求項5】
請求項3に記載のプラネタリウムであって,
前記ドームスクリーンでの上映番組の予定を記憶するとともに,宇宙膨張効果を考慮に入れるか入れないかの選択を変更する切替スクリプトを前記予定の中に含めることができるスケジューリング部を有し,
前記天体像配置部は,前記予定に従う投映の実行中には,前記切替スクリプトに従って,宇宙膨張効果を考慮に入れた星野像と考慮に入れない星野像とを切り替えて前記ドームスクリーンに投映させるように構成されていることを特徴とするプラネタリウム。
【請求項6】
宇宙空間内での銀河系外天体の3次元位置を取得する天体位置取得手順と,
銀河系外宇宙空間内での観察者の3次元位置および姿勢を操作者に指定させる観察位置指定手順と,
取得された銀河系外天体の3次元位置に基づいて,指定された観察者の3次元位置および姿勢から見た星野上での各銀河系外天体の像の配置を決定して星野像データを作成する天体像配置手順とを宇宙飛行シミュレーターに行わせる宇宙飛行シミュレーティングプログラムであって,さらに,
宇宙膨張効果を考慮に入れるか入れないかを操作者に選択させる宇宙膨張選択手順と, 観察時刻を指定する時刻指定手順と,
宇宙膨張効果に基づいて銀河系外天体の3次元位置を補正する宇宙膨張補正手順とを宇宙飛行シミュレーターに行わせ,
前記天体像配置手順では,
宇宙膨張効果を考慮に入れる場合には,前記宇宙膨張補正手順による補正後の銀河系外天体の3次元位置および指定された観察時刻に基づいて各銀河系外天体の像の配置を決定させるとともに,
宇宙膨張効果を考慮に入れない場合には,前記宇宙膨張補正手順による補正前の銀河系外天体の3次元位置に基づいて各銀河系外天体の像の配置を決定させることを特徴とする宇宙飛行シミュレーティングプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,地球から遠く離れた宇宙空間中の観察点から見た星野(せいや)の画像をシミュレートしてその画像を作成する宇宙飛行シミュレーターに関する。本発明はまた,その宇宙飛行シミュレーターを有するプラネタリウムや,宇宙飛行シミュレーティングプログラムをも対象とする。
【背景技術】
【0002】
従来から,電子映像が投映可能なプラネタリウム投映装置や天文シミュレーターであって,擬似宇宙飛行の演出が可能なものがある。擬似宇宙飛行とは,例えば地球を脱出して数万光年程度もしくはそれ以遠の彼方の宇宙空間で見た星野を投映するといったシミュレーション機能のことである。そのような従来のプラネタリウムの一例として,特許文献1が挙げられる。同文献のプラネタリウムでは,「現在位置移動処理」を行うことによって,擬似宇宙飛行の演出を行うようになっている(同文献の[0025],[0026],図8)。このような擬似宇宙飛行の演出のためには,天体の宇宙空間内での3次元位置の情報が必要である。天体の3次元位置自体は過去の観測データから既知となっており,それに基づく情報が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−361584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記したような従来の技術には,次のような問題点があった。演出する宇宙飛行の距離スケールを銀河系外まで広げると,宇宙膨張の影響が無視できなくなる。ところが銀河系外天体についてもその3次元位置としては過去の観測データから得られるものが用いられている。一方で地球から見た銀河系外天体の距離は百万光年以上である。このため,既知情報とされている銀河系外天体の3次元位置としては百万年以上も前のものということになる。これは,銀河系外天体の現在の位置は,既知情報とされている位置よりも宇宙膨張の分だけ遠いことを意味している。このことにより従来の技術では,銀河系外スケールでの宇宙飛行を演出しようとしても,銀河系外天体の現在の3次元位置を反映させることができなかったのである。
【0005】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,銀河系外の距離スケールの宇宙飛行を演出する場合に,宇宙膨張の効果を踏まえた銀河系外天体の現在の3次元位置に即した星野をシミュレートできる宇宙飛行シミュレーターを提供することにある。合わせて,その宇宙飛行シミュレーターを有するプラネタリウムや,宇宙飛行シミュレーティングプログラムをも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様における宇宙飛行シミュレーターは,宇宙空間内での銀河系外天体の3次元位置を出力する天体位置出力部と,銀河系外宇宙空間内での観察者の3次元位置および姿勢を操作者に指定させる観察位置指定部と,天体位置出力部の出力内容に基づいて,指定された観察者の3次元位置および姿勢から見た星野上での各銀河系外天体の像の配置を決定して星野像を作成する天体像配置部とを有する宇宙飛行シミュレーターであって,宇宙膨張効果を考慮に入れるか入れないかを操作者に選択させる宇宙膨張選択部と,観察時刻を指定する時刻指定部と,宇宙膨張効果および指定された観察時刻に基づいて銀河系外天体の3次元位置を補正する宇宙膨張補正部とをさらに有しており,天体像配置部は,宇宙膨張効果を考慮に入れる場合には,宇宙膨張補正部による補正後の銀河系外天体の3次元位置に基づいて各銀河系外天体の像の配置を決定するとともに,宇宙膨張効果を考慮に入れない場合には,宇宙膨張補正部による補正前の銀河系外天体の3次元位置に基づいて各銀河系外天体の像の配置を決定するように構成されているものである。
【0007】
上記態様における宇宙飛行シミュレーターでは,銀河系外宇宙空間内での観察者の3次元位置および姿勢を指定することができる。これにより,指定された観察点から見た星野像を生成することができる。これが宇宙飛行シミュレーションである。宇宙飛行シミュレーションでは,指定された観察者の3次元位置(観察点)および姿勢から見た星野像が作成される。すなわち,天体位置出力部から取得される銀河系外天体の3次元位置に基づいて,観察点から見た星野上での各銀河系外天体の像の配置を決定する。これにより星野像が描画される。ここで操作者は,宇宙膨張効果を考慮に入れるか入れないか選択することができる。また,観察時刻が指定される。宇宙膨張効果を考慮に入れる場合には,宇宙膨張効果に基づいて銀河系外天体の3次元位置が補正される。補正後の3次元位置に基づいて描画された星野像が,宇宙膨張効果を考慮に入れた星野像である。観察時刻の指定については,現在で固定とすることもできるし,後述するように操作者による指定を受け付けるようにすることもできる。
【0008】
上記態様の宇宙飛行シミュレーターでは,宇宙膨張選択部はさらに,宇宙膨張効果を考慮に入れる場合における宇宙論パラメーターおよび対象とする銀河系外天体の赤方偏移の少なくとも1つについて,操作者による調整が可能なものであり,天体像配置部は,宇宙膨張効果を考慮に入れる場合には,宇宙論パラメーターおよび対象とする銀河系外天体の赤方偏移のうち調整されたものについては調整後の値を用い,調整されなかったものについてはあらかじめ用意されている既定値を用いるように構成されていることとすることが望ましい。このようにすると,架空の宇宙の姿を演出することができる。
【0009】
本発明の別の一態様におけるプラネタリウムは,ドームスクリーンと,前述のいずれかの態様の宇宙飛行シミュレーターと,宇宙飛行シミュレーターの天体像配置部が作成した星野像をドームスクリーンに投映する投映装置とを有するものである。これにより,宇宙飛行シミュレーションにおける,宇宙膨張効果を考慮に入れた星野像や宇宙膨張効果を考慮に入れない星野像を,ドームスクリーンに投映することができる。
【0010】
上記態様のプラネタリウムでは,天体像配置部は,宇宙膨張効果を考慮に入れるか入れないかの選択が操作者により任意に切り替えられるのに伴い,宇宙膨張効果を考慮に入れた星野像と考慮に入れない星野像とを切り替えてドームスクリーンに投映させるように構成されていることが望ましい。これにより観客に,宇宙飛行シミュレーションにおける宇宙膨張効果を視覚的に実感させることができる。
【0011】
上記態様のプラネタリウムではあるいは,ドームスクリーンでの上映番組の予定を記憶するとともに,宇宙膨張効果を考慮に入れるか入れないかの選択を変更する切替スクリプトを予定の中に含めることができるスケジューリング部を有し,天体像配置部は,予定に従う投映の実行中には,切替スクリプトに従って,宇宙膨張効果を考慮に入れた星野像と考慮に入れない星野像とを切り替えてドームスクリーンに投映させるように構成されていることもまた望ましい。これにより,操作者によるその都度の切り替え操作に頼らず自動的に,宇宙膨張効果を考慮に入れた星野像と考慮に入れない星野像とを切り替えてドームスクリーンに投映することができる。
【0012】
本発明の別の一態様における宇宙飛行シミュレーティングプログラムは,宇宙空間内での銀河系外天体の3次元位置を取得する天体位置取得手順と,銀河系外宇宙空間内での観察者の3次元位置および姿勢を操作者に指定させる観察位置指定手順と,取得された銀河系外天体の3次元位置に基づいて,指定された観察者の3次元位置および姿勢から見た星野上での各銀河系外天体の像の配置を決定して星野像データを作成する天体像配置手順とを宇宙飛行シミュレーターに行わせるコンピュータープログラムであって,さらに,宇宙膨張効果を考慮に入れるか入れないかを操作者に選択させる宇宙膨張選択手順と,観察時刻を指定する時刻指定手順と,宇宙膨張効果に基づいて銀河系外天体の3次元位置を補正する宇宙膨張補正手順とを宇宙飛行シミュレーターに行わせ,天体像配置手順では,宇宙膨張効果を考慮に入れる場合には,宇宙膨張補正手順による補正後の銀河系外天体の3次元位置および指定された観察時刻に基づいて各銀河系外天体の像の配置を決定させるとともに,宇宙膨張効果を考慮に入れない場合には,宇宙膨張補正手順による補正前の銀河系外天体の3次元位置に基づいて各銀河系外天体の像の配置を決定させるものである。これにより,既存のプラネタリウムあるいは宇宙飛行シミュレーターを,前述の態様のもののように機能させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本構成によれば,銀河系外の距離スケールの宇宙飛行を演出する場合に,宇宙膨張の効果を踏まえた銀河系外天体の現在の3次元位置に即した星野をシミュレートできる宇宙飛行シミュレーターが提供される。合わせて,その宇宙飛行シミュレーターを有するプラネタリウムや,宇宙飛行シミュレーティングプログラムも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係るプラネタリウムの構成を示す断面図である。
図2】映像制御部の構成を示すブロック図である。
図3】操作表示部の操作画面を示す正面図である。
図4】宇宙飛行シミュレーションでの投映星野像の一例を示す図である。
図5】宇宙膨張補正の概念図である。
図6】宇宙膨張の方程式により算出されるx,t,x0を示すグラフである。
図7】宇宙膨張補正後の投映星野像の一例を示す図である。
図8】宇宙膨張補正を行うか否かの切替の際のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,図1に示すプラネタリウム1において本発明を具体化したものである。図1のプラネタリウム1は,ドームスクリーン2と,投映レンズ3と,映像投映部4と,映像制御部5と,操作表示部6と,スピーカー8とを有している。
【0016】
映像制御部5は,ドームスクリーン2上に投映するビデオ映像を制御するためのものである。本形態での映像制御部5は,基本的にコンピューターグラフィクスにより映像を生成するデジタル型のものである。映像制御部5は,映像の制御の他に,ドームスクリーン2内にスピーカー8で流す音声の制御も行う。映像投映部4は,映像制御部5で作成されたビデオ映像をドームスクリーン2上に投映するものである。投映レンズ3は,映像投映部4から出射するビデオ映像をドームスクリーン2の全体に投映するためのレンズである。ここでは投映レンズ3として魚眼レンズを用いている。操作表示部6は,操作者7がプラネタリウム1の操作を行うためのものである。また,そのための画面を操作者7に対して表示するものである。
【0017】
映像制御部5について図2によりさらに説明する。図2に示すように映像制御部5は,制御部9を中心に構成されている。映像制御部5にはこの他,データ格納部10と,映像メモリ11と,映像生成部12と,音声生成部13とを備えている。制御部9は,操作者7が操作表示部6に入力した指示等に従って,映像制御,音声制御,照明制御等を行うものである。つまり制御部9は後述するように,観察位置指定部,天体像配置部,宇宙膨張選択部,時刻指定部,宇宙膨張補正部,スケジューリング部として機能するものである。制御部9にはそのための宇宙飛行シミュレーティングプログラムが内蔵されている。
【0018】
データ格納部10は,制御に必要なデータや投映等に必要なファイルを格納するものである。格納されているデータには,例えば各天体の明るさ,3次元位置,さらにに銀河系外天体については赤方偏移がある。また,格納されているファイルには,例えば天体の写真画像や星座絵がある。映像生成部12は,ドームスクリーン2に投映する映像を生成するものである。生成された映像は,映像投映部4に送られて投映レンズ3からドームスクリーン2上に投映される。また,生成された映像を映像メモリ11に保存しておくこともできる。音声生成部13は,スピーカー8で再生する音声を生成するものである。
【0019】
本形態のプラネタリウム1では,通常の地球上から見た星野像の投映の他に,宇宙飛行シミュレーションを行うことができる。すなわち,地球から離れた宇宙空間内の場所を観察点として設定し,そこから見えるであろう星野像をドームスクリーン2に投映することができる。本形態のプラネタリウム1では特に,この宇宙飛行シミュレーションとして,観察点を銀河系外の遠方の箇所に設定することができる。その場合,観察点からの星野に現れるのはもっぱら,銀河系外天体ばかりとなる。
【0020】
このためデータ格納部10には,主な銀河系外天体の3次元位置および赤方偏移が,例えば次の例のように記録されている(実際にはこの他に写真画像などもある)。
天体名 :シャプレー超銀河団
赤経 :13h25m
赤緯 :-30°
距離 :6.52億光年
赤方偏移:0.047
【0021】
宇宙飛行シミュレーションでは,宇宙空間内での観察者の3次元位置および姿勢を指定する必要がある。観察者の3次元位置は前述の天体の3次元位置と同じく,赤経,赤緯,距離の3つのパラメーターにより指定される。むろんこれ以外に,直交座標系や円柱座標系での座標値による指定であってもよい。観察者の姿勢とは,指定された3次元位置において観察者が向いている方位のことである。これは,3つの角度値により特定される。通常は,ヨー角,ピッチ角,ロール角の3つの角度パラメーターにより姿勢を特定する。いずれの角度パラメーターについても,適当に定めた標準姿勢での値を0°とし,それとの差分により指定すればよい。
【0022】
これらの観察者の3次元位置および姿勢についての計6つのパラメーターの指定は,操作表示部6を用いて操作者7が行う(観察位置指定手順)。そのため操作表示部6には,これらのパラメーターを操作者7が指定するための適当な入力画面が表示される。その入力画面は,パラメーターの数値を直接入力させるようなものであってもよいし,何らかのグラフィックスにより直感的に位置や姿勢を指定させるものであってもよい。後者であると,専門知識のない操作者7でも容易に指定ができる。
【0023】
観察者の3次元位置(観察点)が指定されると,データ格納部10から出力される各天体の3次元位置を用いて(天体位置取得手順),観察点からの星野における各天体の配置を算出することができる。そこで,算出された配置位置に当該天体の画像を貼ることで,観察点からの星野像を描画することができる(天体像配置手順)。なお,各天体の配置を算出する際,観察点からの星野における各天体の大きさも算出できる。観察点から各天体の3次元位置までの距離も計算できるからである。このため,星野像の描画の際に貼る画像の縮尺は,算出された当該天体の大きさに従えばよい。
【0024】
必要な天体の画像は,データ格納部10にあらかじめ用意されている。また,観察点が指定されることで,観察点と当該天体との間の距離も算出される。この距離に応じて,貼られる天体の画像の縮尺が適宜変更される。そして,指定された観察者の姿勢に応じて,得られた星野像が適宜回転される。こうして,ドームスクリーン2に投映すべき星野像が作成される。
【0025】
上記の宇宙飛行シミュレーションは,操作表示部6の操作画面(図3)で宇宙ボタン14を押すことにより開始される。宇宙ボタン14を押すと,前述の位置および姿勢のパラメーターの入力画面が表示され,必要なパラメーターを指定すると宇宙飛行シミュレーションとしての星野像が投映されるのである。なお,図3の操作画面で宇宙ボタン14でなく地球上ボタン15を押すと,必要なパラメーター設定を経て通常の地球上から見た星野像の投映が行われる。図3の操作画面中にはこの他,後述する宇宙膨張ボタン21が表示されている。
【0026】
宇宙飛行シミュレーションでは,例えば図4に示す星野像がドームスクリーン2に投映される。図4に示すのは,観察点を銀河系外の遠方の箇所に設定し,さらに前述の角度パラメーターの設定により,観察者がほぼ地球の方を振り返って見る姿勢を取った状態での星野像である。このため図4中には,中心付近に我々の天の河銀河16の画像が配置されている。その周囲には,他の銀河団17〜19の画像が配置されている。図4中のその他の点は,恒星ではなく銀河系外天体である。図4中の円20は,観察点から見て,地球を中心とする半径20万光年の球の外縁を示す仮想的な円である。星野上での距離感の目安を観客に与えるためのものである。ただし円20は,図4中の銀河団17が地球から20万光年強程度の距離にあることを意味するものではない。各天体は宇宙空間の中で立体的に配置されているからである。このような星野像を投映しながら,観察点を移動させたり,姿勢を変更したりすることで,観客に宇宙旅行をしているように感じさせることができる。また,投映される星野像中に円20を含めることが必須な訳ではない。
【0027】
上記において,データ格納部10にあらかじめ記録されている主な天体の3次元位置は,実は宇宙の膨張を考慮したものではない。したがって,特に遠方の銀河系外天体の現在位置は,実際にはもっと遠い。そこで本形態のプラネタリウム1では,宇宙飛行シミュレーションに際して宇宙膨張補正を行うようにしている。
【0028】
宇宙膨張補正の概念図を図5に示す。図5では,宇宙年齢とされる138億年にわたる時間を縦軸とし,最遠距離とされる470億光年の距離を横軸としている。ここで,地球からの観測上の距離がx0 億光年とされている天体Gを考える。実際には,天体Gがt億年前に発した光Lが現在地球に届いている訳である(宇宙膨張の効果によりt>x0 )。天体Gは宇宙膨張により図5中で矢印Eのように移動するので,現在では地球からx億光年の距離の位置にいる筈である(x>x0 )。なお,宇宙の膨張に加速傾向があることが報告されていること等により,厳密には図5中の矢印Eは単純な直線ではない。しかしここでは単純化して直線で示している。
【0029】
宇宙膨張の方程式を数1に示す(出典:大阪市立科学館研究報告20,61−63(2010))。数1中の各パラメーターの意味は以下の通りである。
c :光速(2.9×105km/秒)
z :光Lの赤方偏移
0:ハッブル数(宇宙膨張の速度)
Ω0:密度パラメーター(宇宙論上の臨界密度に対する現実の宇宙の質量密度の比)
ΩΛ:宇宙項(ダークエネルギー密度)
【0030】
【数1】
【0031】
上記の4つのパラメーターのうち下の3つは宇宙論パラメーターと呼ばれる。宇宙論パラメーターは,宇宙全体の過去から未来にわたる姿を左右するパラメーターである。現状,これらの宇宙論パラメーターについては,種々の観測結果より,次の値が確からしいと考えられている。
0:71km/秒/メガパーセク
Ω0:0.27
ΩΛ:0.73
【0032】
一方,赤方偏移zは,天体ごとにその光のスペクトルから定まる無名数の値である。これは主要な銀河系外天体についてはすべて測定されているので,数1の各式中のパラメーターはすべて既知である。よって,主要な銀河系外天体についてはすべて,図5中のx,t,x0 が,数1の(1)式,(2)式,(3)式により定まることとなる。このようにして定められるx,t,x0 をグラフに示すと図6のようになる(出典:同上)。赤方偏移zが大きくなるほど,xとx0との差が大きくなる。このx0が,宇宙膨張を考慮しない場合のその天体の距離に相当する。データ格納部10にあらかじめ記憶されている各天体の3次元位置のうちの距離はこのx0に相当する。
【0033】
本形態のプラネタリウム1では,宇宙飛行シミュレーションに際して,図3の操作画面中の宇宙膨張ボタン21を押すことで,宇宙膨張補正を行うか否かを切り替えることができる(宇宙膨張選択手順)。宇宙膨張補正を行う場合には,銀河系外天体の3次元位置を補正する(宇宙膨張補正手順)。すなわち,データ格納部10にあらかじめ記憶されている各天体の補正前の3次元位置の距離を,数1の(1)式で算出されるxで置き替える。あるいは,補正前の3次元位置の距離(x0 )とその天体の赤方偏移zとから,数1の(3)式の逆算によりxを算出してもよい。また,補正後の値であるxをあらかじめデータ格納部10に用意しておいてもよい。
【0034】
そして,補正後の各天体の3次元位置を用いて,改めて観察点からの星野における各天体の配置を算出する。続いて,算出された配置位置に当該天体の画像を貼る。これにより,宇宙膨張を考慮に入れた観察点からの星野像が得られる。宇宙膨張を考慮に入れた投映星野像の例を図7に示す。図7は,図4に対して,宇宙膨張を考慮に入れたか否かのみが異なり,観察者の3次元位置および姿勢は同じの場合の星野像である。図7でも図4と同様に距離感の目安のための円20を表示している。
【0035】
図7図4とを比較してみると,次のことが言える。銀河団17〜19は,図4中よりも図7中において我々の天の河銀河16からより遠くなっている。これらはもともと図4中でも円20の外にあった,遠方の天体である。このような遠方の天体が,宇宙膨張を考慮に入れることにより,宇宙膨張を考慮に入れない場合と比較して遠くなっているのである。一方,円20の内側に見えるいくつかの天体は,図4でも図7でもあまり位置が変わらない。これらは天の河銀河16から比較的近く銀河団(おとめ座銀河団)を構成しており,重力の作用が勝るので宇宙膨張の影響を受けないからである。もしくは,仮に天の河銀河16から遠い天体であったとしても,観察点からの視線では天の河銀河16との角度差が小さいため,宇宙膨張の影響が星野上の移動としてはあまり現れないからである。
【0036】
本形態のプラネタリウム1では,図3の操作画面中の宇宙膨張ボタン21を押すたびに,図4の投映像と図7の投映像とを切り替えることができる。これにより,観客に宇宙膨張の効果を視覚的に体感させることができる。
【0037】
図8に,図4の投映像と図7の投映像との切り替えのフローチャートを示す。図8では,宇宙膨張を考慮に入れない場合が宇宙飛行シミュレーションの初期設定であることとしている。宇宙飛行シミュレーションが開始されるとまず,通常モードでの描画を行う(S1)。つまり図4のような星野像がドームスクリーン2に投映される。その後,宇宙膨張モードへの切替がなされない限り(S2:No),その状態が維持される。操作画面中の宇宙膨張ボタン21が押されると,宇宙膨張モードに切り替えられたことになる(S2:Yes)。このため天体の距離の置き替えが行われる(S3)。すなわち,各天体の3次元位置について,補正前の距離(x0 )が補正後の距離(x)で置き替えられる。これにより,図7のような星野像がドームスクリーン2に投映される(S4)。
【0038】
その後,通常モードへの切替がなされない限り(S5:No),その状態が維持される。宇宙膨張ボタン21が再び押されると,通常モードに切り替えられたことになる(S5:Yes)。このため再び,ドームスクリーン2への投映画像が図4のものに切り替えられる(S1)。以後,宇宙飛行シミュレーション自体が終了するまでこれが繰り返される。なお,S1やS4で描画した画像を,映像メモリ11に保存しておくこととしてもよい。そうすると,その後宇宙膨張ボタン21が押されるたびにいちいち描画をやり直す必要がない。
【0039】
なお,宇宙膨張を考慮に入れるか入れないかの切替については,上記のように操作者7の操作に委ねる他に,スケジューリングによる自動切替も可能である。そのためには,制御部9にスケジューリング機能を設けておいて,データ格納部10に上映番組の予定表を記憶させておけばよい。そしてその予定表の中に,宇宙膨張効果を考慮に入れるか入れないかの選択を変更する切替スクリプトを含めておくのである。そうすると,予定表に基づく自動番組の上映中には,切替スクリプトが配置されているタイミングごとに自動的に,図4の投映像と図7の投映像とが切り替えられることとなる。
【0040】
ここまでの説明では,観察者の観察時刻については言及しなかった。つまり,観察時刻は現在であるという前提での説明であった。しかしながら本形態のプラネタリウム1は,観察時刻の指定が可能なように構成することもできる。なぜなら図5に矢印Eで示したように,宇宙膨張の影響を受ける天体Gの位置は,時間とともに変化するからである。観察時刻の指定も観察者の3次元位置および姿勢の指定と同様に操作表示部6を用いて操作者7が行う(時刻指定手順)。何億年前あるいは何億年後といった具合に数字を直接入力させてもよいし,図5のような図形を操作表示部6の画面に表示して,その縦軸上で指定させてもよい。なお,観察時刻の初期設定を現在にしておけば,操作者7が観察時刻の指定を省略した場合,観察時刻は現在ということになる。さらに,観察時刻を現在で固定とし,操作者7による指定を受け付けない構成とすることもできる。
【0041】
現在以外の時刻が観察時刻に指定されると,指定された観察時刻における各天体の距離を算出する。そして,算出された天体の距離に基づいて描画および投映が行われる。現在以外の時刻における各天体の距離の算出については,宇宙論に基づく宇宙膨張方程式により行ってもよいし,図5中の矢印Eを時間と距離との1次関数と見なしてその1次関数により算出してもよい。さらに,宇宙膨張の加減速傾向(現在の観測では加速傾向といわれている)を加味した高次項を入れた関数により算出してもよい。もちろん,観察時刻ごとにあらかじめ距離値を用意しておいてもよい。なお,観察者の3次元位置を固定したまま観察時刻を変化させることで,時間旅行を演出することもできる。
【0042】
また,観察時刻ばかりでなく,前述の宇宙論パラメーターや赤方偏移についても,操作者による調整を受け付けるようにしてもよい。これらのパラメーターについては,現実の観測に基づく前述の各値が既定値とされている。これを調整により変更した場合には,調整後の値に基づいて前述の各種算出が行われ,描画,投映が行われることとなる。このように現実の観測から離れた値を用いて星野像の描画および投映を行うことで,架空の宇宙の姿を演出することができる。なお,調整の受付の仕方については,前述の観察者の3次元位置および姿勢の指定の場合と同じく,数値の直接入力によってもよいし,何らかのグラフィックスによる直感的な指定であってもよい。また,宇宙論パラメーターおよび赤方偏移のすべてについて調整を受け付けるものに限らず,これらのうちの一部のパラメーターのみについて調整を受け付けるものであってもよい。
【0043】
なお,観察時刻の指定や各種パラメーターの調整を操作者7が行う状態へ移行するためのコマンドは,適宜定めておけばよい。例えば,図3の画面中の宇宙膨張ボタン21を長押しすると,それらの指定モード・調整モードへの移行ボタンが画面中に現れるようにしておくことが考えられる。
【0044】
以上詳細に説明したように本実施の形態のプラネタリウム1によれば,地球から遠く離れた銀河系外宇宙空間に観察点を置き,そこからの星野像をドームスクリーン2に投映することで宇宙飛行シミュレーションを行う。すなわち本形態のプラネタリウム1における映像制御部5は,宇宙飛行シミュレーターである。ここにおいて本形態では,操作者による選択に基づき,宇宙膨張補正を行った星野像を投映できるようにしている。さらに,宇宙膨張補正を行うか否かを容易に切り替えることができるようにしている。これにより,銀河系外の距離スケールの宇宙飛行を演出する場合であっても,宇宙膨張の効果を踏まえた銀河系外天体の現在の3次元位置に即した星野をシミュレートできるプラネタリウム1,宇宙飛行シミュレーターが実現されている。また,映像制御部5をそのような宇宙飛行シミュレーターとして機能させる宇宙飛行シミュレーティングプログラムが実現されている。
【0045】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,操作者7の座席,および操作表示部6もドームスクリーン2の中に設置される態様を図1に示したが,このことは必須ではない。ドームスクリーン2の外の別室に操作表示部6を設置し,操作者7による種々の設定,操作をその別室にて行う態様であってもよい。また,本発明は,ドームスクリーン2を含めたプラネタリウム1の全体を新設するケースに限らず,既存のプラネタリウム1における映像制御部5の部分(操作表示部6や映像投映部4を含めてもよい)のみを更新するケースにも適用可能である。さらに映像制御部5のハードをそのままに宇宙飛行シミュレーティングプログラムをバージョンアップするケースにも適用可能である。そのために,当該宇宙飛行シミュレーティングプログラムを何らかの媒体に記録したプログラム製品として流通に乗せることもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 プラネタリウム
2 ドームスクリーン
5 映像制御部
6 操作表示部
9 制御部
10 データ格納部
14 宇宙ボタン
21 宇宙膨張ボタン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8