(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記係合制御手段は、前記第1及び第2の噛合係合要素を前記完全解放位置から前記完全係合位置に切り替えるときには、前記第1及び第2の噛合係合要素を接近させる側に磁力が発生するように前記コイルに電流供給を指示し、前記位置判定手段により前記第1及び第2の噛合係合要素が前記完全係合位置に移動したことが判定されたら前記コイルへの電流供給の停止を指示する
ことを特徴とする、請求項1記載の噛合式係合装置。
前記第1及び第2の噛合係合要素を前記完全解放位置から前記完全係合位置に切り替えるときに、前記第1及び第2の噛合係合要素を接近させる側に磁力が発生するように前記係合制御手段が前記コイルに電流供給を指示しても、前記位置判定手段により前記第1及び第2の噛合係合要素が前記完全係合位置に移動したことが判定されない場合に、係合不能故障であると判定する故障判定手段を備えている
ことを特徴とする、請求項2記載の噛合式係合装置。
前記位置判定手段は、前記第1及び第2の噛合係合要素を前記完全係合位置から前記完全解放位置に切り替えるときには、前記位置センサのオンオフ信号が切り替わったら前記完全解放位置に移動したと判定する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の噛合式係合装置。
前記係合制御手段は、前記第1及び第2の噛合係合要素を前記完全係合位置から前記完全解放位置に切り替えるときには、前記第1及び第2の噛合係合要素を離隔させる側に磁力を発生するように前記コイルに電流供給を指示し、前記位置判定手段により前記第1及び第2の噛合係合要素が前記完全解放位置に移動したことが判定されたら前記コイルへの電流供給を停止する
ことを特徴とする、請求項4記載の噛合式係合装置。
前記第1及び第2の噛合係合要素を前記完全係合位置から前記完全解放位置に切り替えるときに、前記第1及び第2の噛合係合要素を離隔させる側に磁力が発生するように前記係合制御手段が前記コイルに電流供給を指示しても、前記位置判定手段により前記第1及び第2の噛合係合要素が前記完全解放位置に移動したことが判定されない場合に、解放不能故障であると判定する故障判定手段を備えている
ことを特徴とする、請求項5記載の噛合式係合装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、両係合要素の位置関係を適切に把握するためには、例えば、一方の係合要素を基準とした他方の係合要素の軸方向位置をリニアに位置を検出することができるセンサを設けることが考えられる。
【0009】
しかし、リニアに検出ができるセンサは機構が複雑であり、噛み合い式電磁係合機構の場合、電磁力の影響を受けない位置に設けることを考慮する必要があるため、リニアに位置を検出可能なセンサを設けると、噛合係合装置全体が大型化したり、レイアウト上制約を受けたりするという課題がある。
【0010】
本発明はかかる課題に鑑み創案されたもので、リニアセンサを使わずに、噛合係合装置の大型化を抑制できるようにしながら、両係合要素が、完全係合、歯先接触、完全解放の何れの状態にあるかを適切に把握することができようにした、噛合式係合装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の噛合式係合装置は、噛合歯をそれぞれ有し、前記噛合歯が互いに噛み合い可能に対向して配置され、それぞれ支持部材に回転可能に軸支された第1及び第2の噛合係合要素と、前記第1及び第2の噛合係合要素の外周に装備されたコイル,永久磁石及びヨークと、前記第1及び前記第2の噛合係合要素を解放側へ操作する解放力を前記第1及び第2の噛合係合要素間に付与する解放力付与手段と、前記コイルへの通電を制御して前記第1及び第2の噛合係合要素を貫通する磁界を操作することにより、磁力を用いて前記第1の噛合係合要素を軸方向に移動させ、前記第1及び第2の噛合係合要素を完全解放と完全係合との間で切替制御する係合制御手段とを有し、前記第1及び第2の噛合係合要素の相対位置関係として、前記噛合歯の各歯先どうしが離隔した完全解放位置と、前記噛合歯どうしが完全に噛み合った完全係合位置と、前記完全解放位置と前記完全係合位置との中間位置であって前記噛合歯の各歯先どうしが当接した歯先接触位置とを有する、噛合式係合装置であって、前記第1及び第2の噛合係合要素の前記完全解放位置と前記歯先接触位置との間で信号のオンオフが切り替わるオンオフ型の位置センサと、前記コイルの電流値を検出する電流センサと、前記第1及び第2の噛合係合要素を前記完全解放位置から前記完全係合位置に切り替えるときに、前記位置センサのオンオフ信号が切り替わったら前記歯先接触位置に移動したと判定し、前記電流センサで検出された電流値が落ち込みを示したら前記完全係合位置に移動したと判定する、位置判定手段とを有することを特徴としている。
【0012】
(2)前記係合制御手段は、前記第1及び第2の噛合係合要素を前記完全解放位置から前記完全係合位置に切り替えるときには、前記第1及び第2の噛合係合要素を接近させる側に磁力が発生するように前記コイルに電流供給を指示し、前記位置判定手段により前記第1及び第2の噛合係合要素が前記完全係合位置に移動したことが判定されたら前記コイルへの電流供給の停止を指示することが好ましい。
【0013】
(3)前記第1及び第2の噛合係合要素を前記完全解放位置から前記完全係合位置に切り替えるときに、前記第1及び第2の噛合係合要素を接近させる側に磁力が発生するように前記係合制御手段が前記コイルに電流供給を指示しても、前記位置判定手段により前記第1及び第2の噛合係合要素が前記完全係合位置に移動したことが判定されない場合に、係合不能故障であると判定する故障判定手段を備えていることが好ましい。
【0014】
(4)前記位置判定手段は、前記第1及び第2の噛合係合要素を前記完全係合位置から前記完全解放位置に切り替えるときには、前記位置センサのオンオフ信号が切り替わったら前記完全解放位置に移動したと判定することが好ましい。
【0015】
(5)前記係合制御手段は、前記第1及び第2の噛合係合要素を前記完全係合位置から前記完全解放位置に切り替えるときには、前記第1及び第2の噛合係合要素を離隔させる側に磁力を発生するように前記コイルに電流供給を指示し、前記位置判定手段により前記第1及び第2の噛合係合要素が前記完全解放位置に移動したことが判定されたら前記コイルへの電流供給を停止することが好ましい。
【0016】
(6)前記第1及び第2の噛合係合要素を前記完全係合位置から前記完全解放位置に切り替えるときに、前記第1及び第2の噛合係合要素を離隔させる側に磁力が発生するように前記係合制御手段が前記コイルに電流供給を指示しても、前記位置判定手段により前記第1及び第2の噛合係合要素が前記完全解放位置に移動したことが判定されない場合に、解放不能故障であると判定する故障判定手段を備えていることが好ましい。
【0017】
(7)前記位置判定手段は、前記電流値が予め設定された減少量以上の落ち込みを示したら前記歯先接触位置から前記完全係合位置へ移動したと判定することが好ましい。
【0018】
(8)前記コイル,永久磁石及びヨークを支持する支持部材は、前記完全係合位置では回転し、前記完全解放位置では非回転が可能に構成され、前記位置センサは、前記支持部材に固定されたセンサ支持体と、前記センサ支持体に進退可能に支持されて、前記第1の噛合係合要素が当接したオフ状態と、前記第1の噛合係合要素が当接しないオン状態とをとる先端検出部を有する検出体と、を有し、前記先端検出部には、ベアリング装置が装着されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1及び第2の噛合係合要素を完全解放位置から完全係合位置に切り替えるときには、位置判定手段が、位置センサのオンオフ信号と電流センサによるコイルの電流値とから、歯先接触位置に移動したこと及び完全係合位置に移動したことを判定するので、リニアセンサを使うことなく完全係合位置、歯先接触位置、または完全解放位置を適切に検出でき、装置の大型化を抑制することができる。
【0020】
また、故障判定手段は、第1及び第2の噛合係合要素を完全解放位置から完全係合位置に切り替えるときに、第1及び第2の噛合係合要素を接近させる側に磁力が発生するようにコイルに電流供給を指示しても、第1及び第2の噛合係合要素が完全係合位置に移動したことが判定されない場合に、係合不能故障であると判定するので、係合不能故障を短時間で確実に検出することができる。
【0021】
さらに、第1及び第2の噛合係合要素を完全係合位置から完全解放位置に切り替えるときには、位置判定手段が、位置センサのオンオフ信号から、完全解放位置に移動したと判定するので、リニアセンサを使うことなく完全係合位置から完全解放位置への移行を適切に検出でき、装置の大型化を抑制することができる。
【0022】
また、故障判定手段は、第1及び第2の噛合係合要素を完全係合位置から完全解放位置に切り替えるときに、第1及び第2の噛合係合要素を離隔させる側に磁力が発生するようにコイルに電流供給を指示しても、第1及び第2の噛合係合要素が完全解放位置に移動したことが判定されない場合に、解放不能故障であると判定するので、解放不能故障を短時間で確実に検出することができる。
【0023】
また、第1の噛合係合要素と、この第1の噛合係合要素が当接する位置センサの先端検出部にベアリング装置が装着されていれば、位置センサと第1の噛合係合要素とが支障なく相対回転することができ、先端検出部の接触時のフリクションを低減でき、位置センサの耐久性も確保される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することや適宜組み合わせることが可能である。
【0026】
〔装置構成〕
図1に示すように、図示しない駆動源(ここでは、モータ)に連結された入力軸1と、この入力軸1と同一軸心(回転軸心線O
1)上に設けられ、図示しない回転要素に回転力を出力するギヤ歯2aを有する出力ギヤ2とが備えられる。出力ギヤ2は入力軸1の外周にベアリング3a,3bを介して回転可能に配設されている。本噛合式係合装置(クラッチとも呼ぶ)10は、このような入力軸1と出力ギヤ2との間に介装されている。
【0027】
なお、本実施形態では、出力ギヤ2の回転力が出力される回転要素は、車両のドライブトレインの一部である。つまり、本噛合式係合装置10は、図示しないエンジン(内燃機関)と図示しないモータ(電動機)とを駆動源とするハイブリッド車において、モータを車両の駆動源として利用する場合に駆動連結し、モータを車両の駆動源として利用しない場合に駆動連結を解除するために用いられるものとする。
【0028】
噛合式係合装置10は、入力軸1と一体回転する第1のアーマチュア(第1の噛合係合要素)11と、出力ギヤ2と一体回転する第2のアーマチュア(第2の噛合係合要素)12とを有している。第1及び第2のアーマチュア11,12は、何れも磁性体を用いて円板状に形成され、回転軸心線O
1上に同心に互いに隣接して配設されている。第1のアーマチュア11は、スプライン結合等により入力軸1に対して軸方向移動可能で且つ一体回転するように連結される。第2のアーマチュア12は、出力ギヤ2にボルト等で一体回転するように結合されている。
【0029】
第1及び第2のアーマチュア11,12の互いに対向する面(ここでは、対向面の外周寄り)にはそれぞれ、互いに噛合い可能な噛合歯11a,12aが形成されている。第1及び第2のアーマチュア11,12は、第1のアーマチュア11の軸方向位置に応じて、互いの噛合歯11a,12aどうしが離隔して係合が完全に解放された完全解放状態(以下、単に、解放状態ともいう)と、互いの噛合歯11a,12aの歯先どうしが当接した歯先接触状態と、互いの噛合歯11a,12aどうしが完全に噛み合った完全係合状態(以下、単に、締結状態ともいう)との3つの状態を取ることができる。
【0030】
第1のアーマチュア11は、アーマチュア11,12を解放状態にする完全解放位置(以下、単に、解放位置ともいう)と、アーマチュア11,12を歯先接触状態にする歯先接触位置と、アーマチュア11,12を締結状態にする完全係合位置(以下、単に、締結位置ともいう)との間で適宜軸方向へ駆動される。
【0031】
第1のアーマチュア11を軸方向移動させるために、軸方向移動機構20が備えられている。軸方向移動機構20は、第1及び第2のアーマチュア11,12の外周の直近に装備されたコイル21及び永久磁石22と、第1のアーマチュア11を第2のアーマチュア12から離隔する方向に付勢して、第1及び第2のアーマチュア11,12を互いに解放する解放力を両アーマチュア11,12間に付与するスプリング(解放力付与手段)23とを備えている。
【0032】
コイル21及び永久磁石22の周囲には、磁性体製のヨーク24が備えられる。このヨーク24は、コイル21及び永久磁石22と共に支持部材25に支持されて第1及び第2のアーマチュア11,12の外周に備えられる。
【0033】
支持部材25は、磁性体で構成され、入力軸1の外周にベアリング4a,4bを介して回転可能に支持され回転軸心線O
1に沿って延びる筒状の基部25aと、この基部25aから外方(放射方向)に延設されたフランジ状部25bと、フランジ状部25bの外縁部から回転軸心線O
1に沿って延びる筒状のヨーク支持部25cとを有している。
【0034】
ヨーク24は、コイル21を挟むように軸方向(回転軸心線O
1の方向)に離隔して供えられた第1ヨーク24a及び第2ヨーク24bからなり、第1ヨーク24a及び第2ヨーク24bの対向部の内側は、コイル21を内周側から一部包囲するように延設されている。永久磁石22は第2ヨーク24bの外側のヨーク支持部25cとの間に配置されている。これにより、ヨーク24及び支持部材25が用いられて第1及び第2のアーマチュア11,12を貫通する磁界が形成される。
【0035】
この磁界は、アーマチュア11,12の位置及びコイル21の通電状態に応じて形成される。例えば
図2(a)に示すように、アーマチュア11,12の噛合歯11a,12aの歯先どうしが離隔した解放状態においてコイル21に通電しないと、永久磁石22による磁束線(黒矢印A1参照)が形成される。この磁束線に応じて、第1のアーマチュア11は支持部材25のフランジ状部25bの側に磁力吸引されて解放状態が保持される。
【0036】
ここで、コイル21に通電して
図2(a)に二点鎖線の矢印A2で示す磁束線を形成させると、このコイル21により形成される磁束線によるアーマチュア11,12どうしを接近させる磁力が、スプリング23の解放力と永久磁石22の磁束線に応じた磁力とに打ち勝って、アーマチュア11,12の噛合歯11a,12aの歯先どうしが磁力吸引されて、アーマチュア11が解放位置から締結位置の側へと駆動される。
【0037】
この途中で、アーマチュア11が解放位置から歯先接触位置に移動すると、アーマチュア11とフランジ状部25bとの離隔により
図2(a)に黒矢印A1で示す磁束線が消滅し、
図2(b)に黒矢印A3で示すように、永久磁石22によって、コイル21を囲むような磁束線が図示方向(解放位置とは逆向き)に形成されて、永久磁石22による磁力はアーマチュア11,12どうしをより接近させる側に働くようになる。つまり、コイル21によって形成される磁束線(白抜き矢印A4参照)による磁力と永久磁石22によって形成される磁束線(黒矢印A3参照)による磁力とが何れもアーマチュア11,12を締結位置へ駆動する係合力として作用する。
【0038】
そして、アーマチュア11が歯先接触位置にあって、アーマチュア11,12の相対位相が調整され噛合歯11a,12aどうしが噛み合う位置になると、アーマチュア11は、上記の係合力によってスプリング23の解放力に打ち勝って締結位置へと駆動される。
【0039】
この締結位置では、コイル21への通電を停止しても、
図2(c)に黒矢印A5で示すように、永久磁石22によるアーマチュア11,12どうしを接近させる磁力が、スプリング23の解放力に打ち勝ってアーマチュア11を締結位置に保持する。したがって、コイル21に通電することなくアーマチュア11,12を締結状態に保持することができる。
【0040】
一方、締結位置にある第1のアーマチュア11を解放側へ駆動するには、コイル21に対して逆方向に通電して
図2(d)に示すように磁束線(白抜き矢印A6参照)を形成させ、アーマチュア11,12の解放力となる磁力(黒矢印A6で示す磁束線を参照)を発生させる。このコイル21により形成されるアーマチュア11,12どうしを離隔させる磁力(解放力)が、スプリング23の解放力と協働して永久磁石22による磁力(係合力)に打ち勝って、アーマチュア11,12に作用するため、第1のアーマチュア11が締結位置から解放位置の側へと駆動される。
【0041】
ところで、本装置には、制御装置30が装備される。この制御装置30には、第1のアーマチュア11の位置(アーマチュア11,12の相対位置)を判定する位置判定部(位置判定手段)31と、位置判定部31の判定結果に基づいて、コイル21への通電を制御して第1及び第2のアーマチュア11,12を解放と締結との間で切替制御する係合制御部(係合制御手段)32と、切替制御時の第1及び第2のアーマチュア11,12の応答から噛合式係合装置10の故障を判定する故障判定部(故障判定手段)33とが備えられている。なお、制御装置30には、メモリ(ROM,RAM)及びCPU等で構成されるコンピュータが適用される。
【0042】
位置判定部31は、位置センサ41の検出情報と電流センサ42の検出情報とに基づいて、第1のアーマチュア11の位置を判定する。
位置センサ41は、第1のアーマチュア11の解放位置と歯先接触位置との間で信号のオンオフが切り替わるオンオフ型の位置センサである。位置センサ41は、
図3(a)に示すように、支持部材25のフランジ状部25bに固定されたセンサ支持体41aと、このセンサ支持体41aに進退可能に支持されて、第1のアーマチュア11が当接したオフ状態と、第1のアーマチュア11が当接しないオン状態とをとる先端検出部41cを有する検出体41bとを有している。
【0043】
検出体41bは、センサ支持体41aから弾性力〔
図3(b)中の矢印を参照〕を受けて突出しており、検出体41bの先端検出部41cに何かが接触して接触圧を受けると、検出体41bは弾性的に後退する。そして、検出体41bの先端検出部41cに何も接触しないで検出体41bがセンサ支持体41aから最も突出した状態〔
図3(a)参照〕では、位置センサ41はオンとなり、検出体41bの先端検出部41cに何かが接触して検出体41bがセンサ支持体41a側〔
図3(a)中の矢印を参照〕に僅かでも後退した状態では、位置センサ41はオフとなる。第1のアーマチュア11の解放位置と歯先接触位置との間で、位置センサ41の信号のオンオフが切り替わるように設定されている。
【0044】
本実施形態では、先端検出部41cにベアリング装置43が装着されている。
ベアリング装置43には、スラストニードルベアリングが適用され、センサ側ワッシャ43aとアーマチュア側ワッシャ43bとの間に、図示しないホルダに保持されて回転軸心線O
1に対して放射状に装備された多数のニードルベアリング43cが配設されている。センサ側ワッシャ43aは、回転軸心線O
1と平行に進退可能な先端検出部41cに結合されて、先端検出部41cと一体に進退できるように、スプライン等の構造を介して基部25aに支持されている。
【0045】
第1のアーマチュア11が締結位置又は歯先接触位置にあると、先端検出部41cには何も接触しないため、位置センサ41はオン信号を出力する。そして、第1のアーマチュア11が、歯先接触位置から解放位置に移動する過程で、先端検出部41cに第1のアーマチュア11が接触するようになるため、位置センサ41の出力はオン信号からオフ信号に切り替わる〔
図3(b)に示す解放位置を参照〕。
【0046】
この先端検出部41cに第1のアーマチュア11が接触するときには、第1のアーマチュア11は、位置センサ41が固定される支持部材25に対して通常は相対回転しているため、先端検出部41cと第1のアーマチュア11との間で摺接状態になり、これによるフリクションが先端検出部41cの摩耗を招くが、ベアリング装置43によりフリクションを低減でき、先端検出部41cの摩耗を抑制し、耐久性が向上される。
【0047】
第1のアーマチュア11の位置について、位置センサ41により、解放位置と、締結位置又は歯先接触位置とを判別することはできるが、締結位置と歯先接触位置とを判別することはできない。そこで、コイル21を流れる電流に着目して、締結位置と歯先接触位置とを切り分けるようにしている。つまり、第1のアーマチュア11が締結位置に進む際に、コイル21を流れる電流(即ち、電流センサ42で検出される電流値)が一瞬低下する(即ち、落ち込みを示す)特性がある。
この特性を利用して、位置判定部31は、第1のアーマチュア11の位置を判定する。
【0048】
位置判定部31は、第1のアーマチュア11を解放位置から締結位置に切り替えるときには、位置センサ41の信号がオフからオンに切り替わったら第1のアーマチュア11が歯先接触位置に移動したと判定し、その後、電流センサ42で検出される電流値が落ち込みを示したら第1のアーマチュア11が締結位置に移動したと判定する。このとき、位置判定部31では、電流値が極大値(ピーク値)から予め設定された減少量以上低下したら、電流値の落ち込みを示したものとする。
【0049】
また、位置判定部31は、第1のアーマチュア11を締結位置から解放位置に切り替えるときに、歯先接触位置は発生しないため、位置センサ41の信号がオンからオフに切り替わるまでは第1のアーマチュア11は締結位置にあると判定し、位置センサ41の信号がオンからオフに切り替わったら、第1のアーマチュア11は解放位置に移動したと判定する。
【0050】
なお、本実施形態では、第1のアーマチュア11を解放位置から締結位置に切り替えるのは、車両を、エンジンのみを駆動源とするエンジン単体走行から、モータを駆動源とするモータ単体走行或いはハイブリッド走行に切り替える場合である。このため、このときには、係合制御部32は、まず、モータ制御装置50に指令を出して、停止していたモータを始動させて回転速度(「回転数」とも言う)を増加させ、第1のアーマチュア11の回転数を、ドライブトレイン側と連結された第2のアーマチュア12の回転数に近づけ、その後、コイル21の通電を制御し、第1のアーマチュア11を解放位置から締結位置の側に移動させる。
【0051】
このとき、第1のアーマチュア11が解放位置から締結位置の側に移動すると、第1及び第2のアーマチュア11,12の相対位相が、噛合歯11a,12aどうしが噛み合う位置にならない限り、第1のアーマチュア11は歯先接触位置となる。そこで、係合制御部32は、位置判定部31により第1のアーマチュア11が歯先接触位置に移動したことが判定されたら、モータ制御装置50に指令を出して、モータのトルクを上げて、第1のアーマチュア11を第2のアーマチュア12に対して相対回転させることで、噛合歯11a,12aどうしが噛み合う相対位相位置にする。これにより、コイル21による磁力によって第1のアーマチュア11が締結位置に移動する。係合制御部32は、位置判定部31により第1のアーマチュア11が締結位置に移動したことが判定されたら、コイル21の通電を終了する。
【0052】
一方、本実施形態では、第1のアーマチュア11を締結位置から解放位置に切り替えるのは、車両を、モータを駆動源とするモータ単体走行或いはハイブリッド走行から、エンジンのみを駆動源とするエンジン単体走行に切り替える場合である。このため、このときには、係合制御部32は、まず、モータ制御装置50に指令を出して、モータのトルクを0にして、コイル21の通電を制御し、第1のアーマチュア11を締結位置から解放位置の側に移動させる。
【0053】
モータのトルクを0にすると、第1及び第2のアーマチュア11,12の噛合歯11a,12aの噛み合い摩擦力が低下するため、コイル21の磁力による解放力とスプリング23の解放力とによって、第1のアーマチュア11は締結位置から解放位置に容易に移動する。係合制御部32は、位置判定部31により第1のアーマチュア11が締結位置から解放位置に移動したことが判定されたら、モータ制御装置50に指令を出して、モータを停止(電力供給しない)させると共に、コイル21の通電を終了する。
【0054】
故障判定部33は、このような第1のアーマチュア11の位置の切替制御時の第1のアーマチュア11の応答から噛合式係合装置10の故障を判定する。
つまり、故障判定部33は、第1のアーマチュア11を解放位置から締結位置に切り替えるときに、第1及び第2のアーマチュア11,12を接近させる側に磁力が発生するように係合制御部32がコイル21に電流供給を指示しても、予め設定された所定時間内に、位置判定部31により第1のアーマチュア11が締結位置に移動したことが判定されない場合に、係合不能故障であると判定する。
【0055】
また、故障判定部33は、第1のアーマチュア11を締結位置から解放位置に切り替えるときに、第1及び第2のアーマチュア11,12を離隔させる側に磁力が発生するように係合制御部32がコイル21に電流供給を指示しても、予め設定された所定時間内に、位置判定部31により第1のアーマチュア11が解放位置に移動したことが判定されない場合において、解放不能故障であると判定する。ただし、本実施形態では、噛合歯11a,12aの噛み合いがタイトであると、モータを0トルク制御してコイル21に解放電流を入力しても噛合歯11a,12aの噛み合いが解除されない場合があり、これを想定し、所定時間内に解放位置に移動したことが判定されない場合、モータの0トルク制御を停止し、モータトルクをドライブ側に増加させる制御を実施し、それでも第1のアーマチュア11が解放位置に移動したことが判定されない場合に、解放不能故障であると判定する。
【0056】
本発明の一実施形態に係る噛合式係合装置は、上述のように構成されているので、例えば、
図4,
図5の模式図及び
図6,
図7のフローチャートに示すように、第1及び第2のアーマチュア11,12の係合状態が切り替えられる。
【0057】
例えば、エンジン単体走行から、モータを駆動源とするモータ単体走行或いはハイブリッド走行に切り替える場合、第1のアーマチュア11を解放位置から締結位置に切り替える。このときには、
図4及び
図6に示すように、コイル21及びモータが制御される。
この場合、はじめは、第1のアーマチュア11は、
図4(a)に示すように、解放位置にあって、位置センサ41の先端検出部41cがベアリング装置43を介して第1のアーマチュア11に当接して押し込まれて出力信号が0(=オフ)の状態にある。
【0058】
第1のアーマチュア11を解放位置から締結位置に切り替えるには、
図6に示すように、モータを始動させて回転数を増加させながら、第1のアーマチュア11の回転数をドライブトレイン側と連結された第2のアーマチュア12の回転数に近づける(ステップA10)。そして、出力回転数(第2のアーマチュア12の回転数)とモータ回転数(第1のアーマチュア11の回転数)との差αが、予め設定された所定値P未満になったか否かを判定する(ステップA20)。
【0059】
出力回転数(第2のアーマチュア12の回転数)とモータ回転数(第1のアーマチュア11の回転数)との差αが大きい状態で、第1及び第2のアーマチュア11,12の噛合歯11a,12aが当接すると、噛合歯11a,12aの摩耗を増大し異音の発生も招くおそれがあるので、このような観点から、噛合歯11a,12aが当接する際の差αの許容値として所定値Pが設定されている。差αが所定値P未満になってから噛合歯11a,12aを当接させることで、噛合歯11a,12aの摩耗や異音の発生も抑制される。
【0060】
ステップA20で差αが所定値P未満になったと判定されるまでは、次の制御周期でステップA10に進んでモータ回転数を増加させる。ステップA20で差αが所定値P未満になったと判定されたら、タイマをオンしてタイマカウントを開始し(ステップA30)、コイル21に締結電流を入力させる(ステップA40)。そして、位置センサ41の信号が0(=オフ)から1(=オン)に切り替わったかを判定する(ステップA50)。
【0061】
位置センサ41の信号が1でなければ、ステップA110に進んで、タイマカウント値tが判定基準値t0よりも大きいか否かを判定する。判定基準値t0は、係合不能故障を判定する値である。噛合式係合装置10が故障していなければ、コイル21に締結電流を入力し係合側への移動を開始すれば、通常は所定時間内に第1及び第2のアーマチュア11,12が締結状態になり、当然その前に、位置センサ41の信号が0から1に切り替わる。判定基準値t0は、この所定時間に対応する。
【0062】
タイマカウント値tが判定基準値t0以内であれば、次の制御周期でステップA50に進んで、位置センサ41の信号が1か否かを判定する。噛合式係合装置10が故障していなければ、タイマカウント値tが判定基準値t0よりも大きくなる前に、位置センサ41の信号が1となる。この場合には、ステップA60に進んで、電流値から第1及び第2のアーマチュア11,12が締結状態になったか否かを判定する。つまり、電流センサ42で検出される電流値が落ち込みを示したか否かを判定し、電流値が落ち込みを示したら第1及び第2のアーマチュア11,12が締結状態になったと判定する。
【0063】
電流値が第1及び第2のアーマチュア11,12が締結状態を示さなければ、ステップA62に進んで、タイマカウント値tが判定基準値t0よりも大きいか否かを判定する。タイマカウント値tが判定基準値t0よりも大きいか否かを判定する。タイマカウント値tが判定基準値t0以内であれば、ステップA70に進んで、モータトルクを増加させる。
【0064】
第1及び第2のアーマチュア11,12が締結状態にならない状況は、
図4(b)に示すように、第1及び第2のアーマチュア11,12が歯先接触状態で、第1及び第2のアーマチュア11,12の噛合歯11a,12aが位相をずらしたままの状態で等速回転しているものと想定でき、このモータトルクの増加によって、第1及び第2のアーマチュア11,12間に差回転を与え噛合歯11a,12aの位相を合わせることができる。これにより、コイル21の磁力による締結力で第1のアーマチュア11を移動させ、噛合歯11a,12aを噛み合わせて第1及び第2のアーマチュア11,12が締結状態にすることができる。なお、タイマカウント値tが判定基準値t0以内であれば、第1及び第2のアーマチュア11,12が締結状態になるまで、制御周期毎にモータトルクを増加させる。
【0065】
この結果、電流値が落ち込みを示すようになり、ステップA60で肯定判定されて、ステップA80に進んで、
図4(c)に示すように、第1及び第2のアーマチュア11,12が締結状態であると判定する。次に、ステップA90に進んで、コイル21の締結電流をオフにする。そして、車両の走行モードをモータ走行モードあるいはハイブリッド走行モードとして(ステップA100)、タイマをオフし、タイマ値を0リセットして(ステップA150)、噛合式係合装置10の切替制御を終了する。
【0066】
一方、ステップA110又はステップA62で、タイマカウント値tが判定基準値t0よりも大きいと判定された場合には、噛合式係合装置10が係合不能故障(クラッチが解放状態で故障するクラッチ解放故障)であると判定する(ステップA120)。この場合には、コイル21の締結電流をオフにし(ステップA122)、エンジン走行モードを指示し(ステップA130)、車両内の警告灯等により故障表示を行なう(ステップA140)。そして、タイマをオフし、タイマ値を0リセットして(ステップA150)、噛合式係合装置10の切替制御を終了する。
【0067】
一方、モータを駆動源とするモータ単体走行或いはハイブリッド走行から、エンジン単体走行に切り替える場合、第1のアーマチュア11を締結位置から解放位置に切り替える。このときには、
図5及び
図7に示すように、コイル21及びモータが制御される。
この場合、はじめは、第1のアーマチュア11は、
図5(a)に示すように、締結位置にあって、位置センサ41の先端検出部41cは第1のアーマチュア11に当接しないため出力信号が1(=オン)の状態にある。
【0068】
第1のアーマチュア11を締結位置から解放位置に切り替えるには、
図7に示すように、モータのトルクを0にする0トルク制御を実施する(ステップB10)。そして、タイマをオンしてタイマカウントを開始し(ステップB20)、コイル21に解放電流を入力させる(ステップB30)。モータのトルクを0にすると、解放電流を入力されたコイル21の磁力による解放力とスプリング23の解放力とによって、第1のアーマチュア11は締結位置から解放位置に容易に移動する。
【0069】
そして、位置センサ41の信号が1から0に切り替わったかを判定する(ステップB40)。位置センサ41の信号が0に切り替わったら、ステップB90に進んで、
図5(c)に示すように、第1及び第2のアーマチュア11,12が解放状態であると判定する。次に、ステップB100に進んで、コイル21の解放電流をオフにする。そして、車両の走行モードをエンジン走行モードとして(ステップB110)、タイマをオフし、タイマ値を0リセットして(ステップB160)、噛合式係合装置10の切替制御を終了する。
【0070】
一方、位置センサ41の信号が1のままであれば、ステップB40からステップB50に進んで、タイマカウント値tが判定基準値t1よりも大きいか否かを判定する。判定基準値t1は、モータを0トルク制御からドライブ側トルクを発生させる制御への切替タイミングを判定する値である。通常は、0トルク制御と解放電流の入力とにより、所定時間内に第1のアーマチュア11は締結位置から解放位置に移動し、位置センサ41の信号が1から0に切り替わるため、この所定時間に応じて判定基準値t1が設定される。
【0071】
噛合歯11a,12aの噛み合いがタイトであると、
図5(b)に示すように、モータを0トルク制御してコイル21に解放電流を入力しても噛合歯11a,12aの噛み合いが解除されない場合があり、この場合、モータトルクをドライブ側に発生させることで、噛合歯11a,12aの噛み合いを解除することができる場合がある。そこで、タイマカウント値tが判定基準値t1よりも大きくなっても、位置センサ41の信号が1のままであれば、モータの0トルク制御を停止し(ステップB60)、モータトルクをドライブ側に増加させる制御を実施する(ステップB70)。
【0072】
そして、モータトルクTmが予め設定された基準値Tpを超えたか否かが判定される(ステップB80)。モータトルクTmが基準値Tpを超えない限りは、次の制御周期で、ステップB40に進んで、位置センサ41の信号が1から0に切り替わったかを判定する。
位置センサ41の信号が1から0に切り替わったらステップB90に進んで、第1及び第2のアーマチュア11,12が解放状態であると判定し、上記と同様の処理を実施する(ステップB90,B100,B160)する。
【0073】
位置センサ41の信号が1のままであれば、ステップB40からステップB50,B60を経て、ステップB70に進んで、モータトルクをドライブ側に増加させる制御を実施する。そして、ステップB80で、モータトルクTmが予め設定された基準値Tpを超えたと判定されたら、噛合式係合装置10が解放不能故障(クラッチが締結状態で故障するクラッチ締結故障)であると判定する(ステップB120)。
【0074】
そして、モータ回転数Nm上限回転数Nms未満に制限する制御を実施し(ステップB130)、コイルの解放電流をオフにし(ステップB140)、車両の走行モードをモータ走行モードあるいはハイブリッド走行モードのままに保持して(ステップB150)、タイマをオフし、タイマ値を0リセットして(ステップB160)、噛合式係合装置10の切替制御を終了する。
【0075】
このように、本噛合式係合装置によれば、オンオフ式の位置センサ41と電流センサ42とを用いて、解放位置から締結位置に切り替えるときには、締結位置から、歯先接触位置,解放位置への移動を、締結位置から解放位置に切り替えるときには、締結位置から解放位置への移行を、何れもリニアセンサを使うことなく適切に検出でき、装置の大型化を抑制することができる。
【0076】
また、故障判定部33は、位置センサ41や電流センサ42の応答から、解放位置から締結位置に切り替えるときに係合不能故障を判定し、締結位置から解放位置に切り替えるときに解放不能故障を判定するので、係合不能故障や解放不能故障を短時間で確実に検出することができる。
【0077】
位置センサ41の先端検出部41cにベアリング装置43が装着されているので、位置センサ41と第1のアーマチュア11とが支障なく相対回転し、先端検出部41cのアーマチュア11との接触時のフリクションを低減でき、位置センサ41の耐久性も確保される。
【0078】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態を適宜変形して実施することができる。
例えば上記の実施形態では、位置センサ41の先端検出部41cにベアリング装置43が装着されているが、先端検出部41cと第1のアーマチュア11との摺接が滑らかであれば省略してもよい。
【0079】
また、軸方向移動機構20は、コイル,永久磁石及びヨークを装備し、コイルへの通電を制御して磁界を操作することにより第1のアーマチュア11を軸方向に移動させるものであればよく、本実施形態のものに限定されない。
【0080】
また、本実施形態では、ハイブリッド車のドライブトレインにモータを連結或いは非連結とする箇所に、本噛合式係合装置を適用したが、本噛合式係合装置はこれに限らず適用可能である。