特許第6681322号(P6681322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジヤトコ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6681322-噛合式係合装置 図000002
  • 特許6681322-噛合式係合装置 図000003
  • 特許6681322-噛合式係合装置 図000004
  • 特許6681322-噛合式係合装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681322
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】噛合式係合装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/06 20060101AFI20200406BHJP
   F16D 27/118 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   F16D48/06 101B
   F16D27/118
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-243489(P2016-243489)
(22)【出願日】2016年12月15日
(65)【公開番号】特開2018-96497(P2018-96497A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】森本 達也
【審査官】 横山 幸弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−190595(JP,A)
【文献】 特開2014−051998(JP,A)
【文献】 特開平11−091389(JP,A)
【文献】 実開昭62−069632(JP,U)
【文献】 実公昭53−008831(JP,Y1)
【文献】 特開平09−196128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00−39/00
F16D 48/00−48/12
F16D 11/00−23/14
B60K 6/387
B60W 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噛合歯をそれぞれ有し、前記噛合歯が互いに噛み合い可能に対向して配置され、それぞれ支持部材に回転可能に軸支されると共に何れか一方が駆動源に連結され他方が駆動負荷に連結された第1及び第2の噛合係合要素と、
前記第1及び第2の噛合係合要素の外周に装備された電磁コイル,永久磁石及びヨークと、
前記第1及び第2の噛合係合要素を解放側へ操作する解放力を前記第1及び第2の噛合係合要素間に付与する解放力付与手段と、
前記電磁コイルへの通電を制御して前記第1及び第2の噛合係合要素を貫通する磁界を操作することにより、磁力を用いて前記第1の噛合係合要素を軸方向に移動させ、前記第1及び第2の噛合係合要素を完全解放と完全係合との間で切替制御する係合制御手段と、
少なくとも前記完全解放の位置を検出する位置検出手段と、を有する噛合式係合装置であって、
前記係合制御手段が、前記完全係合から前記完全解放へ切替制御する際、前記電磁コイルへ解放のための磁力を発生させる電流を供給開始した後、前記両噛合係合要素の制御状態を表す複数のパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータの状態が所定状態になっても前記位置検出手段で解放位置検出がなされなかった場合、前記電磁コイルへ係合のための磁力を発生させる電流を一時的に供給し、その後解放のための磁力を発生させる電流を再供給するように構成されている
ことを特徴とする、噛合式係合装置。
【請求項2】
前記係合制御手段が、前記完全係合から前記完全解放へ切替制御する際、前記電磁コイルへ解放のための磁力を発生させる電流を供給開始すると同時または電流供給開始以前に、前記第1及び第2の噛合係合要素間に懸かる負荷を低減するように構成されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の噛合式係合装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の噛合係合要素間に懸かる負荷の低減が、前記駆動源の駆動トルクの低減で達成される
ことを特徴とする、請求項2に記載の噛合式係合装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つのパラメータが、前記電磁コイルへ解放のための磁力を発生させる電流を供給開始した後の経過時間であり、前記所定状態が、前記経過時間が所定時間以上となった状態である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の噛合式係合装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つのパラメータが、前記駆動源の駆動トルクであり、前記所定状態が、前記駆動トルクが所定値以下となった状態である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の噛合式係合装置。
【請求項6】
前記係合制御手段が、前記電磁コイルへ係合のための磁力を発生させる電流を一時的に供給する以前に前記第1及び第2の噛合係合要素間に懸かる負荷を低減するように構成されている
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の噛合式係合装置。
【請求項7】
前記第1及び第2の噛合係合要素間に懸かる負荷の低減が、前記駆動源の駆動トルクの増加で達成される
ことを特徴とする、請求項6に記載の噛合式係合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機等にクラッチ或いはブレーキとして適用される噛合式係合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば変速機等に適用される係合装置として、いわゆるドグクラッチ或いはツースクラッチとも呼ばれる、噛合式係合装置が知られている(特許文献1参照)。
この噛合式係合装置では、一対の噛合係合要素(単に、係合要素とも言う)の各対向面にそれぞれ噛合歯が形成され、一対の係合要素が接近しそれぞれの噛合歯が噛み合うことで係合し、一対の係合要素が離隔しそれぞれの噛合歯が離脱することで解放される。
【0003】
このような噛合式係合装置には、二つの部材間の係合と解放との切り替えをコイル(電磁石)への電流をコントロールすることで行なうように構成したものが知られている。
【0004】
この噛合式係合装置では、例えば、一対の係合要素の相互間に、互いの係合を解除(解放)する方向に力を付与するリターンスプリング(解放力付与部材)を設け、両係合要素の外周に電磁コイル及び永久磁石を設ける。これらの係合要素を解放状態から係合する時には、電磁コイルに通電して磁界を発生させ、電磁力を利用してリターンスプリングに抗して両係合要素を接近させ係合する。また、両係合要素を係合状態から解放する時には、電磁コイルに係合時とは逆方向に磁界を発生させ、逆向きの電磁力を利用して両係合要素を離隔させ解放する。
また、この噛合式係合装置には、両係合要素が完全係合している締結位置と完全解放している解放位置とに加えて、両係合要素の噛合歯の歯先(先端)どうしがストローク上の同一位置となって、歯先どうしが当接若しくは当接可能な状態となる歯先接触位置が存在する。
【0005】
このような噛合式係合装置おいて、両係合要素を完全係合状態(締結状態)から解放状態へ切り替える場合、両係合要素が離隔されるにつれて、一方の係合要素の歯先と他方の係合要素の歯底との間に空隙が生じる。この空隙は、電磁コイルによる解放方向への磁力(以下、解放力とも言う)を減少させる要因となる。
しかし、一方で、ストロークする一方の係合要素は、歯先と反対側にも磁石とコイルとにより磁界が形成され、こちら側の空隙は狭くなることから、図4(a)に示すように、両係合要素の解放側へのストロークに応じていったん解放力は低下するものの、その後、解放力が上昇することとなる。
【0006】
一方、両係合要素に生じる摩擦力は、図4(b)で示すように変化する。即ち、締結位置から歯先接触位置までは、両係合要素の噛合歯の側面(以下、歯側面と言う)どうしが当接することによって摩擦力が発生している上に、当接した歯側面間に噛合式係合装置に連結された負荷及び/または駆動源の駆動力(トルク)が懸かるため、この摩擦力はさらに大きなものとなる。但し、この摩擦力は両係合要素のストローク量には関係なく、ほぼ一定の値となる。
また、歯先接触位置から解放位置までの間では、上記歯側面間の摩擦力がなくなり、各係合要素と周辺構造物間で生じる摩擦力のみとなり、図4(b)に示すように極めて小さな摩擦力となる。
【0007】
このため、係合状態から解放状態への切り替えに際して、歯側面間の摩擦力が大きく且つ解放力が小さくなる歯先接触位置の直前で、係合要素の解放側へのストロークが停止してしまい、解放状態が得られない場合がある。
【0008】
駆動源に連結された噛合式係合装置では、解放状態への切り替えは駆動源の駆動力をほぼゼロに減少させて行う場合が大多数であり、解放状態への切り替えに際して、上記歯側面間に発生する摩擦力の要因は負荷側からの負荷トルクによるものがほとんどであった。
そのため、上記のような係合要素のストローク停止が発生した場合、駆動源の駆動トルクを増加して、歯側面間にかかる負荷トルクを相殺することにより、摩擦力を減少し、ストロークを再開させて解放状態を達成するという制御を実行することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016−017539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のような制御では、歯側面間に懸かる負荷トルクを相殺できるような大きさのトルクまで駆動源トルクを上昇させるのに時間を要するため、解放までの時間が長くなり制御遅れが発生するという課題がある。
【0011】
本発明はかかる課題に鑑み創案されたもので、両係合要素を係合状態から解放状態へ移行させる場合において、歯側面間に生じる摩擦力によって係合要素のストローク停止が発生しても、同ストローク停止を速やかに解消することにより上記課題を解決した噛合式係合装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の噛合式係合装置は、噛合歯をそれぞれ有し、前記噛合歯が互いに噛み合い可能に対向して配置され、それぞれ支持部材に回転可能に軸支されると共に何れか一方が駆動源に連結され他方が駆動負荷に連結された第1及び第2の噛合係合要素と、前記第1及び第2の噛合係合要素の外周に装備された電磁コイル,永久磁石及びヨークと、前記第1及び第2の噛合係合要素を解放側へ操作する解放力を前記第1及び第2の噛合係合要素間に付与する解放力付与手段と、前記電磁コイルへの通電を制御して前記第1及び第2の噛合係合要素を貫通する磁界を操作することにより、磁力を用いて前記第1の噛合係合要素を軸方向に移動させ、前記第1及び第2の噛合係合要素を完全解放と完全係合との間で切替制御する係合制御手段と、少なくとも前記完全解放の位置を検出する位置検出手段と、を有する噛合式係合装置であって、前記係合制御手段が、前記完全係合から前記完全解放へ切替制御する際、前記電磁コイルへ解放のための磁力を発生させる電流を供給開始した後、前記両噛合係合要素の制御状態を表す複数のパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータの状態が所定状態になっても前記位置検出手段で解放位置検出がなされなかった場合、前記電磁コイルへ係合のための磁力を発生させる電流を一時的に供給し、その後解放のための磁力を発生させる電流を再供給するように構成されていることを特徴としている。
【0013】
(2)前記係合制御手段が、前記完全係合から前記完全解放へ切替制御する際、前記電磁コイルへ解放のための磁力を発生させる電流を供給開始すると同時または電流供給開始以前に、前記第1及び第2の噛合係合要素間に懸かる負荷を低減するように構成されていることが好ましい。
(3)前記第1及び第2の噛合係合要素間に懸かる負荷の低減が、前記駆動源の駆動トルクの低減で達成されることが好ましい。
【0014】
(4)前記少なくとも1つのパラメータが、前記電磁コイルへ解放のための磁力を発生させる電流を供給開始した後の経過時間であり、前記所定状態が、前記経過時間が所定時間以上となった状態であることが好ましい。
(5)前記少なくとも1つのパラメータが、前記駆動源の駆動トルクであり、前記所定状態が、前記駆動トルクが所定値以下となった状態であることが好ましい。
【0015】
(6)前記係合制御手段が、前記電磁コイルへ係合のための磁力を発生させる電流を一時的に供給する以前に前記第1及び第2の噛合係合要素間に懸かる負荷を低減するように構成されていることが好ましい。
(7)前記第1及び第2の噛合係合要素間に懸かる負荷の低減が、前記駆動源の駆動トルクの増加で達成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、噛合式係合装置を完全係合から完全解放へ切替制御する際、制御状態を表す少なくとも1つのパラメータが所定状態となったら、電磁コイルへ係合のための磁力を発生させる電流(以下、締結電流と言う)を一時的に供給し、その後解放のための磁力を発生させる電流(以下、解放電流と言う)を再供給するように構成したので、噛合係合要素が瞬間的(一時的)に完全係合へ復帰し、その後再度完全解放へ移動することとなり、噛合係合要素の運動エネルギーが追加され且つ噛合係合要素間の摩擦が動摩擦状態となって、ストローク停止状態を速やかに解消して完全解放することが可能となり、制御時間(完全解放への切替時間)を短縮することができる。
【0017】
また、解放電流の供給開始と同時またはそれ以前に、噛合係合要素間に懸かる負荷、即ち摩擦力を低減させるので、前記電流の切り換えによる噛合係合要素の駆動がより確実に実施できることとなる。
【0018】
さらに、制御状態を表す少なくとも1つのパラメータが所定状態となっても解放位置が検出されないときに、前記電流の切り換えを実行するので、実際のストローク停止状態を検知する必要がなく、制御態様が簡素化され且つより短い制御時間とすることができる。
【0019】
さらにまた、締結電流の供給開始以前に、噛合係合要素間に懸かる負荷(摩擦力)をさらに低減する制御を実行することにより、ストローク停止状態の解消がより確実に実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る噛合式係合装置の模式的構造を開示した縦断面図(上半部)である。
図2】本発明の一実施形態に係る噛合式係合装置の軸方向移動機構の動作を説明する要部縦断面図であり、(a)は完全解放位置に保持する磁界状態を示し、(b)は完全解放位置から完全係合位置へ移動させる磁界状態を示し、(c)は完全係合位置に保持する磁界状態を示し、(d)は完全係合位置から完全解放位置へ移動させる磁界状態を示す。
図3】本発明の一実施形態に係る制御手段を説明するフローチャートである。
図4】噛合式係合装置おいて、両係合要素を締結状態から解放状態へ切り替える場合の解放力及び摩擦力の変化を示すグラフであって、(a)は噛合式係合装置の噛合係合要素のストロークに対する解放力の変化を表すグラフであり、(b)は同ストロークに対する噛合係合要素に生じる摩擦力の変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することや適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
図1に示すように、図示しない駆動源(ここでは、モータ)に連結された入力軸1と、この入力軸1と同一軸心(回転軸心線O)上に設けられ、図示しない回転要素(駆動負荷)に回転力を出力するギヤ歯2aを有する出力ギヤ2とが備えられる。出力ギヤ2は入力軸1の外周にベアリング3a,3bを介して回転可能に配設されている。本噛合式係合装置(クラッチとも呼ぶ)10は、このような入力軸1と出力ギヤ2との間に介装されている。
【0023】
なお、本実施形態では、出力ギヤ2の回転力が出力される回転要素は、車両のドライブトレインの一部である。つまり、本噛合式係合装置10は、図示しないエンジン(内燃機関)と図示しないモータ(電動機)とを駆動源とするハイブリッド車において、モータを車両の駆動源として利用する場合に駆動連結し、モータを車両の駆動源として利用しない場合に駆動連結を解除するために用いられるものとする。
【0024】
噛合式係合装置10は、入力軸1と一体回転する第1アーマチュア(第1の噛合係合要素)11と、出力ギヤ2と一体回転する第2アーマチュア(第2の噛合係合要素)12とを有している。第1及び第2アーマチュア11,12は、何れも磁性体を用いて円板状に形成され、回転軸心線O上に同心に互いに隣接して配設されている。第1アーマチュア11は、スプライン結合等により入力軸1に対して軸方向移動可能で且つ一体回転するように連結される。第2アーマチュア12は、出力ギヤ2に図示しないボルト等で一体回転するように結合されている。
【0025】
第1及び第2アーマチュア11,12の互いに対向する面(ここでは、対向面の外周寄り)にはそれぞれ、互いに噛合い可能な噛合歯11a,12aが形成されている。第1及び第2アーマチュア11,12は、第1アーマチュア11の軸方向位置に応じて、互いの噛合歯11a,12aどうしが離隔して係合が完全に解放された完全解放状態(以下、単に、解放状態ともいう)と、互いの噛合歯11a,12aの歯先どうしが当接した歯先接触状態と、互いの噛合歯11a,12aどうしが完全に噛み合った完全係合状態(以下、単に、締結状態ともいう)との3つの状態を取ることができる。
【0026】
第1アーマチュア11は、両アーマチュア11,12を解放状態にする完全解放位置(以下、単に、解放位置ともいう)と、アーマチュア11,12を歯先接触状態にする歯先接触位置と、アーマチュア11,12を締結状態にする完全係合位置(以下、単に、締結位置ともいう)との間で適宜軸方向へ駆動される。
なお、前記歯先接触位置は、噛合歯11a,12aの両歯先がストローク上において同一位置となる状態であり、アーマチュア11,12の係合のための回転位相が合致している場合は両歯先が対向していないので、実際の歯先接触は生じていない。
【0027】
第1アーマチュア11を軸方向移動させるために、軸方向移動機構20が備えられている。軸方向移動機構20は、第1及び第2アーマチュア11,12の外周の直近に装備された電磁コイル21及び永久磁石22と、第1アーマチュア11を第2アーマチュア12から離隔する方向に付勢して、第1及び第2アーマチュア11,12を互いに解放する解放力を両アーマチュア11,12間に付与するスプリング23(解放力付与手段)とを備えている。
【0028】
電磁コイル21及び永久磁石22の周囲には、磁性体製のヨーク24が備えられる。このヨーク24は、電磁コイル21及び永久磁石22と共に支持部材25に支持されて第1及び第2アーマチュア11,12の外周に備えられる。
【0029】
支持部材25は磁性体で構成され、入力軸1の外周にベアリング4a,4bを介して回転可能に支持され回転軸心線Oに沿って延びる筒状の基部25aと、この基部25aから外方(放射方向)に延設されたフランジ状部25bと、フランジ状部25bの外縁部から回転軸心線Oに沿って延びる筒状のヨーク支持部25cとを有している。
【0030】
ヨーク24は、電磁コイル21を挟むように軸方向(回転軸心線Oの方向)に離隔して供えられた第1ヨーク24a及び第2ヨーク24bからなり、第1ヨーク24a及び第2ヨーク24bの対向部の内側は、電磁コイル21を内周側から一部包囲するように延設されている。永久磁石22は第2ヨーク24bの外側のヨーク支持部25cとの間に配置されている。これにより、ヨーク24及び支持部材25が用いられて第1及び第2アーマチュア11,12を貫通する磁界が形成される。
【0031】
この磁界は、アーマチュア11,12の位置及びコイル21の通電状態に応じて形成される。例えば図2(a)に示すように、アーマチュア11,12の噛合歯11a,12aの歯先どうしが離隔した解放状態において電磁コイル21に通電しないと、永久磁石22による磁束線(黒矢印)が形成される。この磁束線に応じて、第1アーマチュア11は支持部材25のフランジ状部25bの側に磁力吸引されて解放状態が保持される。
【0032】
ここで、電磁コイル21に締結電流を通電して図2(a)に二点鎖線の矢印で示す磁束線を形成させると、この電磁コイル21により形成される磁束線によるアーマチュア11,12どうしを接近させる磁力が、スプリング23の解放力と永久磁石22の磁束線に応じた磁力とに打ち勝って、アーマチュア11,12の噛合歯11a,12aの歯先どうしが磁力吸引されて、アーマチュア11が解放位置から締結位置の側へと駆動される。
【0033】
この途中で、アーマチュア11が解放位置から歯先接触位置に移動すると、アーマチュア11とフランジ状部25bとの離隔により図2(a)に黒矢印で示す磁束線が消滅し、図2(b)に黒矢印A3で示すように、永久磁石22による電磁コイル21を囲むような磁束線が図示方向(解放位置とは逆向き)に形成されて、永久磁石22による磁力はアーマチュア11,12どうしをより接近させる側に働くようになる。つまり、コイル21によって形成される磁束線(白抜き矢印A4参照)による磁力と永久磁石22によって形成される磁束線(黒矢印A3参照)による磁力とが何れもアーマチュア11,12を締結位置へ駆動する係合力として作用する。
【0034】
そして、アーマチュア11が歯先接触位置にあって、アーマチュア11,12の相対位相が調整され噛合歯11a,12aどうしが噛み合う位置になると、アーマチュア11は、上記の係合力によってスプリング23の解放力に打ち勝って締結位置へと駆動される。
【0035】
この締結位置では、電磁コイル21への通電を停止しても、図2(c)に黒矢印A5で示すように、永久磁石22によるアーマチュア11,12どうしを接近させる磁力が、スプリング23の解放力に打ち勝ってアーマチュア11を締結位置に保持する。したがって、電磁コイル21に通電することなくアーマチュア11,12を締結状態に保持することができる。
【0036】
一方、締結位置にある第1アーマチュア11を解放側へ駆動するには、電磁コイル21に対して締結電流とは逆方向となる解放電流を通電して図2(d)に示すように磁束線(白抜き矢印A6参照)を形成させ、アーマチュア11,12の解放力となる磁力(黒矢印A7で示す磁束線を参照)を発生させる。この電磁コイル21により形成されるアーマチュア11,12どうしを離隔させる磁力(解放力)が、スプリング23の解放力と協働して永久磁石22による磁力(係合力)に打ち勝って、アーマチュア11,12に作用するため、第1アーマチュア11が締結位置から解放位置の側へと駆動される。
【0037】
ところで、本装置には、制御装置30が装備される。この制御装置30には、第1アーマチュア11の位置(アーマチュア11,12の相対位置)を判定する位置判定部(位置検出手段)31と、ハイブリット車の駆動機構全体を制御する主制御装置(図示せず)からの制御信号と位置判定部31の判定結果とに基づいて、電磁コイル21への通電を制御して第1及び第2アーマチュア11,12を解放と締結との間で切替制御すると共にモータ制御装置50に対して電流制御信号を発する係合制御部(係合制御手段)32とが備えられている。なお、制御装置30には、メモリ(ROM,RAM)及びCPU等で構成されるコンピュータが適用される。
【0038】
位置判定部31は、位置センサ41の検出情報に基づいて、第1アーマチュア11の位置を判定する。
位置センサ41は、その本体内に配設された図示しないスプリング等の付勢手段によって先端部が常に第1アーマチュア11の側面に当接するように構成されたフォロワー41aの移動量を検出することにより、第1アーマチュア11の位置を検出する従来周知のストロークセンサである。フォロワー41aの先端部は図示しないスラストベアリング等を介して第1アーマチュア11に当接されている。
【0039】
なお、本発明においては、第1アーマチュア11の解放位置のみが検出できれば良いので、前記ストロークセンサに代えて、第1アーマチュア11が解放位置となったときにON−OFFが切り替わるようなスイッチタイプの位置センサを用いても良い。
【0040】
本実施形態では、第1アーマチュア11を締結位置から解放位置に切り替えるのは、車両を、モータを駆動源とするモータ単体走行或いはハイブリッド走行から、エンジンのみを駆動源とするエンジン単体走行に切り替える場合である。
この車両走行モードの切り替えが検知されると、図3に示すフローチャートに基づくプログラムが組み込まれた係合制御部32によって、第1アーマチュア11が締結位置から解放位置へ切り替えられる。
【0041】
第1のアーマチュア11を締結位置から解放位置に切り替えるには、まずステップS01においてモータトルクをゼロまで低減する制御を実行する。なお、モータトルクをゼロとする電流値は、モータの回転速度は出力ギヤ2の回転速度に同期しているが、その出力トルクがゼロとなる電流値、即ち、モータのロータを前記同期回転速度で回転できるだけの電流値である。
【0042】
次に、ステップS02において、電磁コイル21に解放電流を入力(供給開始)すると共にタイマを始動する。
【0043】
そしてステップS03で、解放電流を入力してからの経過時間T(制御状態を表すパラメータ)が所定時間Mを経過したか否かを判定する。この所定時間Mは、解放電流の立ち上がり時間と解放電流の入力によって第1アーマチュア11がストローク停止することなくスムーズに解放位置まで移動するのに要する時間を考慮した時間である。
【0044】
なお、ステップS03での判定として、経過時間Tの判定に代えて、ステップS01で低減を開始したモータトルクが所定トルク以下若しくは略ゼロとなったか否かの判定を用いても良い。但し、モータトルクの低減は多少長い時間を要するので、所定時間Mをモータトルク低減時間より短く設定することにより、全体の制御時間を短縮することが可能である。
なお、ステップS03での判定にモータトルク低減を用いた場合は、タイマTの始動、停止は不要となる。
【0045】
ステップS03の判定がNOである場合は、ステップS02に戻って同ステップS02及びステップS03を、同ステップS03での判定がYESとなるまで繰り返し実行する。
ステップS03での判定がYESとなると、ステップS04へ進んでタイマを停止し、さらにステップS05に進んで第1アーマチュア11の解放位置が検出されたか否かを判定する。
【0046】
ステップS05での判定がYESの場合は、第1アーマチュア11の解放位置への移動が終了してクラッチの解放が完了した状態であるので、ステップS06で解放電流をOFF(遮断)し、ステップS07でモータを停止して、制御を終了する。
【0047】
一方、ステップS05での判定がNOの場合は、第1アーマチュア11が解放位置へ達せず、ストローク停止していると判断できるので、ステップS08においてモータトルクを駆動側(駆動負荷を駆動する方向)へ増加させ、ステップS09にてモータトルクの増加量Nが所定値K以上となったか否かを判定する。
この所定値Kは、ストローク停止状態において、両噛合歯11a,12aの歯側面間に懸かっている負荷(摩擦力)の数分の一(例えば、1/4)程度の値である。
【0048】
ステップS08でのモータトルクの増加は、ストローク停止状態において、両噛合歯11a,12aの歯側面間に懸かっている負荷(摩擦力)を低減するための制御である。
即ち、段落0040で説明したように、第1アーマチュア11を締結位置から解放位置に切り替えるのは、車両を、モータを駆動源とするモータ単体走行或いはハイブリッド走行から、エンジンのみを駆動源とするエンジン単体走行に切り替える場合であるので、この場合、前記歯側面間に懸かる負荷(摩擦力)は、車輪(駆動負荷)側からの被駆動トルクによるものである。従って、この被駆動トルクを相殺して前記歯側面間に懸かる負荷(摩擦力)を低減するには、モータトルクを駆動側へ増加させる必要がある。
【0049】
ステップS09での判定がNOの場合、ステップS05へ戻って、第1アーマチュア11が解放位置となったか否かを判定する。
これは、モータトルクの増加量Nが所定値Kに達しない程度の少量であっても(両歯側面間に懸かる負荷の低減量が僅かであっても)、第1アーマチュア11のストロークが再開する可能性を勘案した制御である。
【0050】
一方、ステップS09での判定がYESとなるのは、モータトルク増加量Nが所定値K以上となってもストローク停止が解消されない場合であり、ステップS10にて解放電流を一時的(一瞬、例えば0.1秒間)に締結電流に切り替えて電磁コイル21へ供給し、その後ステップS02に戻って解放電流を入力(再供給)する。これにより、第1アーマチュア11が、一旦、締結位置まで移動し、その後再度解放位置に向かって移動する動作が為されることになる。
そしてこれ以降、ステップS05での判定がYESとなるまで、ステップS02〜S05とステップS08〜S10が繰り返し実行される。
【0051】
但し、第1アーマチュア11は、ステップS10での締結電流入力により、ストローク停止の静摩擦状態から、締結位置への移動と解放位置への再移動の動摩擦状態へ切り替わるので、前記歯側面間に噛み込み等の大きな負荷が発生する事態が発生しない限り、ステップS08〜S10の制御は1回実行すれば解放位置が達成される可能性が高い。
【0052】
本発明の一実施形態に係る噛合式係合装置は上記のように構成されており、噛合式係合装置10を完全係合から完全解放へ切替制御する際、解放電流を入力してからの経過時間Tが所定時間M以上となったときに、第1アーマチュア11の解放位置が検知されなかった場合には、締結電流を一時的に供給し、その後解放電流を再供給するように構成したので、第1アーマチュア11が瞬間的(一時的)に係合位置へ復帰し、その後再度解放位置へ移動することとなり、第1アーマチュア11の運動エネルギーが追加され且つ接触している歯側面間に生じる摩擦が動摩擦状態となって、ストローク停止状態を速やかに解消して完全解放することが可能となり、制御時間(完全解放への切替時間)を短縮することができる。
【0053】
また、ステップS02での解放電流の供給開始より以前に、第1及び第2アーマチュア11,12間に懸かる負荷、即ち歯側面間に懸かる摩擦力を低減させるので、解放電流と締結電流との切り換えによる第1アーマチュア11の駆動がより確実に実施できる。
【0054】
さらに、経過時間Tが所定時間M以上となっても第1アーマチュア11の解放位置が検出されないときに電流の切り換えを実行することとしたので、第1アーマチュア11の実際のストローク停止状態を検知する必要がなく、制御態様が簡素化され且つより短い制御時間とすることができる。
【0055】
さらにまた、締結電流の供給開始より以前に、モータトルクを駆動方向に増加して第1及び第2アーマチュア11,12間に懸かる負荷(摩擦力)をさらに低減する制御を実行することにより、ストローク停止状態の解消がより確実に実行できる。
【0056】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態を適宜変形して実施することができる。
例えば上記の実施形態では、ステップS02における解放電流の供給に先立って、モータトルクをゼロとする制御をステップS01にて開始するように構成したが、モータトルク低減制御と解放電流入力とを同時に開始するように構成しても良い。
【0057】
また、上記の実施形態では、締結電流を入力する前にモータトルクを増加させて歯側面に懸かる負荷をさらに低減する制御を実行するように構成したが、伝達トルクがあまり大きくならない噛合式係合装置に本発明を適用する場合は、このモータトルクの増加制御を省略することも可能である。
【0058】
さらに、軸方向移動機構20は、電磁コイル,永久磁石及びヨークを装備し、電磁コイルへの通電を制御して磁界を操作することにより第1のアーマチュア11を軸方向に移動させるものであればよく、本実施形態の構造に限定されない。
【0059】
また、本実施形態では、ハイブリッド車のドライブトレインにモータを連結或いは非連結とする箇所に、本噛合式係合装置を適用したが、本噛合式係合装置はこれに限らず適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 入力軸
2 出力ギヤ
10 噛合式係合装置(クラッチ)
11 第1のアーマチュア(第1の噛合係合要素)
11a 第1のアーマチュア11の噛合歯
12 第2のアーマチュア(第2の噛合係合要素)
12a 第2のアーマチュア12の噛合歯
21 電磁コイル
22 永久磁石
23 スプリング(解放力付与手段)
30 制御装置
31 位置判定部(位置判定手段)
32 係合制御部(係合制御手段)
41 位置センサ
図1
図2
図3
図4