【実施例】
【0045】
1.TCR欠陥T細胞に、Vγ1及びVδ1 TCR遺伝子を移入したT細胞クローン(1C116)及びVγ2及びVδ2 TCR遺伝子を移入したT細胞クローン(2C21)の樹立
(不死化T細胞クローンの誘導)
健康な被験者から採取した末梢血を遠心分離し、PBMCs(末梢血単核球)を得た。PBMCsを抗panγδTCR抗体(製品名 B6.1;メーカー名 BD Bioscience;所在地 アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ)で標識した後、FACS(フローサイトメトリー)を用いてγδT細胞群を選別した。
得られたγδT細胞群を、下記ベース培地中に下記成分を添加した組成の完全培地中で、1μg/mLフィトヘマグルニチン(PHP-P)(メーカー名 Sigma-Aldrich;所在地 St. Louis, MO)を用いて3日間刺激した。
ベース培地:RPMI-1640(製品名;メーカー名 Thermo Fisher Scientific;所在地 アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウオルサム)
添加成分:
10% heat-inactivated fetal calf serum (FCS)(メーカー名 Hyclone, Logan, UT)
5 mM HEPES buffer (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
100 U/ml penicillin (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
100 μg/ml streptomycin (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
2 mM L-glutamine (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
2 mM sodium pyruvate (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
2 mM non-essential amino acids (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
2 mM modified vitamins (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
0.5 μM 2-mercaptoethanol (2-ME) (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
刺激した後のγδT細胞群を、ヘルペス サイミリ(Herpes saimiri)の488株(メーカー名 ATCC(American Type Culture Collection)から製品名VR-1396として入手可能)に感染させた後、10U/ml の組換えインターロイキン2(rIL-2)(メーカー名 塩野義;所在地 大阪、日本)存在下で培養し、安定した増殖能力を有する不死化γδT細胞群を誘導した。
得られた不死化γδT細胞群をVδ1抗体で標識し、FACS(フローサイトメトリー)を用いて選別し、不死化Vγ1Vδ1
+(Vδ1
+)T細胞クローンを分離した。この不死化T細胞クローンは、マイトゲン刺激無しで数か月間に亘り安定した増殖能力を示した。
【0046】
(プラスミドを用いたTCR-γ1 cDNA及びTCR-δ1 cDNAの増幅)
TCR-γ1とTCR-δ1の両方をエンコードする全配列cDNAを、不死化Vγ1Vδ1
+T細胞クローンから分離した。
TCR-γ1 cDNAは、下記センスプライマー及び下記アンチセンスプライマーを用いて増幅し、下記プラスミドに組み込んでクローン化した。
センスプライマー(配列番号1):
5’-GGCGGCGGCCGCGAAGGCATGCGGTGGGCCCT-3’
アンチセンスプライマー(配列番号2):
5’-GGGCTCGAGCTGTTATGATTTCTCTCCATT-3
プラスミド:pEF1/Myc-His A (メーカー名 Thermo Fisher Scientific;所在地 Waltham, MA)
TCR-δ1 cDNAは、下記センスプライマー及び下記アンチセンスプライマーを用いて増幅し、下記プラスミドに組み込んでクローン化した。
センスプライマー(配列番号3):
5’-GGCGGCGGCCGCCTTCAGGCAGCACAACTC-3’
アンチセンスプライマー(配列番号4):
5’-GGGCTCGAGGGAGTGTAGCTTCCTCAT-3’
プラスミド:pREP4 (メーカー名 Thermo Fisher Scientific).
【0047】
(TCR欠陥T細胞へのVγ1及びVδ1 TCR遺伝子の移入)
TCR-γ1 cDNAを組み込んだプライマー及びTCR-δ1cDNAを組み込んだプライマーの両方を、TCR欠陥Jurkat T細胞株であるJRT3-T3.5内に240〜270Vのエレクトロポレーション(electroporation)により移入した。移入処理した細胞を2日から3日間、1mg/mL のG418 sulfate(Thermo Fisher Scientific)及び0.5 mg/mL のhygromycin B(Wako Pure Chemical Industries, Osaka, Japan)を含む選択培地で培養することにより選別した。選別した細胞を、96ウエル マイクロプレート上に、限界希釈法により0.5から1細胞/ウエルとなるように撒き、分離した後、フローサイトメトリーによりγδTCR発現について分析し、Vγ1及びVδ1を移入したT細胞クローン(1C116)を樹立した。
【0048】
(PBMCsからVγ2Vδ2
+T細胞の分離)
Vγ2Vδ2
+T細胞は、骨粗鬆症治療に用いる薬剤リセドロネート(risedronate)により刺激されることが知られている。そこで、リセドロネートを用いて、PBMCs中のVγ2Vδ2
+T細胞を刺激、増殖させた。具体的には、次の手順を実施した。
健康な被験者から採取した末梢血を遠心分離し、PBMCs(末梢血単核球)を得た。このPBMCsを2.5 μg/mL のリセドロネート(メーカー名 Ajinomoto Pharmaceutical. Co.;所在地 Tokyo, Japan)で10U/mLのrIL-2の存在下で頻回刺激した後、Vδ2抗体で標識しFACS(フローサイトメトリー)を用いて選別し、Vγ2Vδ2
+(Vδ2
+)T細胞株を分離した。分離したVγ2Vδ2
+(Vδ2
+)T細胞株から目的とするfull-length cDNAsを得た。
【0049】
(プラスミドを用いたTCR-γ2 cDNA及びTCR-δ2 cDNAの増幅)
TCR-γ2とTCR-δ2の両方をエンコードする全配列cDNAを、Vγ2Vδ2
+T細胞から分離した。
TCR-γ2 cDNAは、下記センスプライマー及び下記アンチセンスプライマーを用いて増幅し、下記プラスミドに組み込んでクローン化した。
センスプライマー(配列番号5):
5’-GGGCTCGAGGACACCGCTTTACAACGA-3’
アンチセンスプライマー(配列番号6):
5’-GGGTCTAGAGTGAGGTTCTCTGTGT-3’
プラスミド: pEF1/Myc-His A.
TCR-δ2 cDNAは、下記センスプライマー及び下記アンチセンスプライマーを用いて増幅し、下記プラスミドに組み込んでクローン化した。
センスプライマー(配列番号7):
5’-GGGCTCGAGAACACTTGTGTGTTGGTTCA-3’
アンチセンスプライマー(配列番号8):
5’-GGGGGATCCAGTGTATCACTTGTAGGAG-3’
プラスミド: pREP4
【0050】
(TCR欠陥T細胞へのVγ2及びVδ2 TCR遺伝子の移入)
上記Vγ1及びVδ1 TCR遺伝子を移入する手順と同じ手順で、TCR-γ2 cDNAを組み込んだプライマー及びTCR-δ2cDNAを組み込んだプライマーの両方を、TCR欠陥Jurkat T細胞株であるJRT3-T3.5内に移入し、選別培養し、分析し、Vγ2及びVδ2を移入したT細胞クローン(2C21)を樹立した。
【0051】
2. 1C116クローン及び2C21クローンのTCRブロッキング分析、TCR‐依存刺激分析、及び、TCR‐依存刺激の反応特異性
(TCRブロッキング分析)
Vγ1及びVδ1を移入したT細胞クローン(1C116)及びVγ2及びVδ2を移入したT細胞クローン(2C21)を、抗pan-γδ-PE抗体(メーカー名 BioLegend;San Diego, CA)、及び、Vδ1-APC 抗体(メーカー名 Miltenyi Biotec GmbH, Bergisch Gladbach;所在地 Germany)、抗Vδ2-PE 抗体(メーカー名 Biolegend)、又は、抗CD3抗体と共に4℃、30分間インキュベートした後、処理した細胞を洗浄し、3% FCS 及び 0.01 M NaN
3 (FACS buffer)を含有するフォスファイトバッフアーサリン(PBS)中に再懸濁した。そして、フローサイトメトリーにより細胞を分析した。
Figure 1Aに結果を示す。オープンヒストグラム(白抜きの度数分布グラフ)は各抗体で染色したことを意味しており、シェードヒストグラム(網掛けの度数分布グラフ)はアイソタイプコントロールで染色したことを意味している。
クローン1C116は、pan-γδ及びVδ1によって染色されたが、Vδ2では染色されなかった。一方、クローン2C21は、pan-γδとVδ2によって染色されたが、Vδ1では染色されなかった。したがってクローン1C116及びクローン2C21は、どちらもγδT細胞クローンであることが確認された。
【0052】
(TCR‐依存刺激分析)
1C116クローン及び2C21クローンを、抗CD3抗体500ng/mLによりPMA 100ng/mL存在下、37℃、24時間の条件で刺激し、インターロイキン2(IL-2)の分泌を試験した。
どちらのクローンもCD3を発現しており(Figure 1A)、抗CD3抗体によりPMA存在下で刺激したときにIL-2を分泌した(Figure 1B)。したがって、これらのγδT細胞クローンから分泌されるIL-2の量は、TCR‐依存刺激の優れた指標になると考えられた。
【0053】
(TCR‐依存刺激の反応特異性)
イソペンテニル ピロフォスフェート(IPP)、エチルアミン、プロピルアミン又はブチルアミンのような様々なタイプのアルキルアミン、及び、骨粗しょう症の治療に用いるリセドロネート(Risedronate)のようなアミノ−ビスフォスフォネートが、Vγ2Vδ2
+T細胞を刺激することが、すでに知られている。そこで、1C116クローン及び2C21クローンを、IPP、エチルアミン及びリセドロネートを用いて刺激し、反応性の相違を試験した。
96ウエルU-bottom 組織培養プレートの各ウエルに200 μL の 完全培地(CCM)を入れた。CCMを満たした各ウエルに、1×10
5個の1C116クローン又は2C21クローンを撒き、下記被験化合物又は基材コントロール(vehicle control)であるジメチルスルホキシド(DMSO)のいずれかと共に、PMA100ng/mL存在下、37℃、24時間の条件でインキュベートした。インキュベート後、培地の上清を採取し、ELISAキット(メーカー名 BD Biosciense;所在地 San Diego, CA)を用いてIL-2の濃度を分析した。
<被験化合物>
0から1000 μM のイソペンテニル ピロフォスフェート(isopentenyl pyrophosphate (IPP)) (メーカー名 Sigma-Aldrich)
0から2000 μM のリセドロネート(risedronate)(メーカー名 Ajinomoto Co. Ltd;所在地 Tokyo, Japan)
0から33.5 μM のエチルアミン(ethylamine)(メーカー名 Sigma-Aldrich)
Figure 1Cに示したように、クローン2C21が、IPPによる刺激されIL-2を分泌するが、クローン1C116はIL-2を分泌しなかった。同様に、クローン2C21は、エチルアミンによって刺激されIL-2を分泌するが、クローン1C116はIL-2を分泌しなかった(Figure 1D)。また、クローン2C21は、リセドロネートにより刺激されIL-2を分泌するが、クローン1C116はIL-2を分泌しなかった(Figure 1E)。
これらの結果は、クローン2C21は、γ2δ2刺激性の抗原分子によってVγ2Vδ2 TCRを介して特異的に刺激されるが、クローン1C116は、Vγ1Vδ1 TCRを有し、Vγ2Vδ2 TCRを有しないため、クローン2C21とは異なる反応特異性を有していることを示している。
【0054】
3.クローン1C116 及びクローン2C21に対する刺激活性に関するフラボノイド配糖体のスクリーニング
幾つかの植物代謝産物が生理活性を有していることが知られている。近年、そのような天然化合物は、「フィトケミカルズ(phytochemicals)」と呼ばれている。そこで本発明者らは、C6-C3-C6構造を有する植物由来の芳香性化合物であるフラボノイドの、クローン1C116 及び2C21に対する刺激活性についてスクリーニングを実施した。
上記の試験「TCR‐依存刺激の反応特異性」と同様の方法で、本試験を実施した。すなわち、96ウエルU-bottom 組織培養プレートの各ウエルに200 μL の 完全培地(CCM)を入れた。CCMを満たした各ウエルに、1×10
5個の1C116クローン又は2C21クローンを撒き、下記被験化合物又は基材コントロール(vehicle control)であるジメチルスルホキシド(DMSO)のいずれかと共に、PMA100ng/mL存在下、37℃、24時間の条件でインキュベートした。インキュベート後、培地の上清を採取し、ELISAキット(メーカー名 BD Biosciense, San Diego, CA)を用いてIL-2の濃度を分析した。
<被験化合物>
0から100 μg/mL の各フラボノイド
被験フラボノイドは次のとおりである:ケルセチンquercetin、イソケルセチン isoquercitrin、 ハイペロサイドhyperoside、ガランギン galangin、カンフェノール、モリン morin、ミリセチン myricetin、ヘスペレチン hesperetin、ヘスペリジン hesperidin、アカセチン acacetin、リナリン linarin、及び、イソルフォリン isorhoifolin(これら全ての供給会社 Extrasynthese, Lyon, France)
各被験化合物の化学構造を以下に示す。
【0055】
【化10】
【0056】
(試験結果)
スクリーニング試験の結果を下記Table 1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
Table 1に示したように、幾つかのフラボノイドは、クローン1C116を刺激し、多量のIL-2を分泌させた。これに対し、いずれのフラボノイドも、クローン2C21は刺激しなかった。
特に、ルチノースと呼ばれる6-O-α-L-rhamnosyl-D-glucose 構造の二糖体がA環上に置換し、かつ、メトキシ基(−OCH
3)がB環上に置換しているもの、例えば、ヘスペリジンやリナリンは、クローン1C116のIL-2分泌に関し強い刺激活性を示した(Figure 2A)。このような刺激活性が、抗‐γδ TCR特異的抗体を用いた処理によって完全に失われた事実は、フラボノイド配糖体の認識がVγ1Vδ1 TCRを介して開始されたことを強く示している(Figure 2B)。
また、ヘスペリジンからルチノースを取り除いた構造を持っているヘスペレチン、又は、リナリンからルチノースを取り除いた構造を持っているアカセチンは、クローン1C116からIL-2を分泌させないか又は弱い分泌のみ示した(Figure 2A)。
また、フラボノイドのA環上に二糖体であるルチノースが置換していても、イソロイフォリン(isorhoifolin)のようにB環上にメトキシ基(−OCH3)がB環上に置換していない場合には、クローン1C116からのIL-2分泌が観察されなかった(Figure 2A)。
これらの知見を総合すると、Vγ1及びVδ1 TCR遺伝子を移入したクローン1C116は、A環上のルチノースとB環上のメトキシ基(−OCH
3)の両方を有しているフラボノイド配糖体によって、Vγ1Vδ1 TCRを介して特異的かつ強力に刺激されることを明らかに示している。さらに、ヘスペリジン及びリナリンは、クローン1C116に対し、極めて顕著な刺激活性を示した。
よって本発明者らは、ヘスペリジン及びリナリンに着目し、これらのフラボノイド配糖体が、Vγ1δ1-TCR-発現γ1δ1 T細胞の活性化作用を介して、CD4
+ NKT細胞内におけるR5-type HIV-1の複製を抑制するか否かについて検討を進めた。
【0059】
4.ヒト由来天然γ1δ1
+T細胞に対するフラボノイド配糖体の刺激活性分析
フラボノイド配糖体に属する化合物群の一部が、Vγ1及びVδ1 TCR遺伝子を移入したT細胞クローン1C116に対し刺激活性を有することが上記スクリーニング試験によって示された。そこで、スクリーニングニング試験においてVγ1Vδ1 TCRに特異的な刺激活性を示したフラボノイド配糖体が、Vγ1Vδ1 TCR遺伝子移入体クローンと同様に、ヒト由来天然γ1δ1 T細胞に対しても刺激活性を有するか否か検討した。
【0060】
健康な被験者から採取した末梢血を遠心分離し、PBMCs(末梢血単核球)を得た。PBMCsを、Cell Trace CFSE Cell Proliferation Kit (carboxy-fluorescein diacetate succinimidyl ester (CFDA-SE, also known as CFSE)) (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)を用いて標識した。
次に、48ウエルプレートの各ウエルに、0.5 mL の完全培地(CCM)を入れた。CCMは、RPMI-1640 (製品名;メーカー名 Thermo Fisher Scientific)に、5% AB ヒト血清(メーカー名 Biowest Nuaille; 所在地France)及び100 U/mL 組換えIL-2 (メーカー名 Shionogi)を添加した組成を有する。CCMを満たした各ウエルに、標識したPBMCsを撒き、100 μg/mL のヘスペレチン(hesperetin)、ヘスペリジン(hesperidin)、アカセチン(acacetin)又はリナリン(linarin)と共に、又は0.01%の ジメチルスルホキシド(DMSO:vehicle control)と共に、14日間培養した。
培養後、PBMCsを抗Vδ1-APC抗体(メーカー名 Miltenyi Biotec GmbH;所在地 Bergisch Gladbach, Germany)、又は、抗CD25-PE/Cy7抗体(メーカー名 Biolegend)と共に、4℃、30分間インキュベートした。 そして、インキュベートしたPBMCsを洗浄し、3% FCS 及び 0.01 M NaN
3 (FACS buffer)を含有する PBS 中に懸濁し、フローサイトメトリーにより分析した。
【0061】
Figure 3Aの上段のグラフは、培養後のPBMCsに抗Vδ1-APC抗体を反応させてフローサイトメトリーにより分析した結果であり、PBMCs中に存在するγ1δ1
+T細胞に対する各被験化合物の増殖活性を示している。Figure 3Bの向かって左側のグラフはFigure 3A上段の化合物ごとの結果を一つのグラフにしたものである。非刺激コントロ−ル又はDMSO(vehicle control)と比較すると、ヘスペレチン及びアカセチンはPBMC s中に存在するγ1δ1
+T 細胞を有意に増加させなかったが、ヘスペリジン及びリナリンはPBMC s中に存在するγ1δ1
+ T 細胞の数を増加させることができた。
また、Figure 3Aの下段は、培養後のPBMCsに抗Vδ1-APC抗体及び抗CD25-PE/Cy7抗体を反応させてフローサイトメトリーにより分析した結果であり、PBMCs中に存在するγ1δ1
+T細胞に対する各被験化合物のCD25発現量を示している。Figure 3Bの向かって右側のグラフはFigure 3A下段の化合物ごとの結果を一つのグラフにしたものである。非刺激コントロ−ル又はDMSO(vehicle control)と比較すると、ヘスペレチン及びアカセチンはPBMC s中に存在するγ1δ1
+T 細胞のCD25発現を優意に増強させなかったが、ヘスペリジン及びリナリンはPBMC s中に存在するγ1δ1
+ T 細胞のCD25発現を有意に増強させた。
【0062】
5.ヘスペリジン及びリナリンにより刺激したヒト由来天然γ1δ1
+T 細胞からのサイトカイン及びケモカイン分泌プロファイル
上記実験により、ヘスペリジン及びリナリンが、ヒト由来天然γ1δ1
+T細胞に対して刺激活性を有することが示された。
一般に免疫系細胞は、サイトカイン分泌による宿主細胞間の免疫調節及びケモカイン分泌による外来微生物に対する免疫調節を行っている。 本発明者らは、Vγ1Vδ1 T
+ 細胞により分泌されるCCL3 (MIP-1α)、 CCL4 (MIP-1β) 、及び、CCL5(RANTES)のようなケモカインは、CD4
+ NKT 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を抑制すると考えられることを以前に報告している。さらに本発明者らは、NL(AD8)-感染 CD4
+ NKT 細胞上に高度に発現したMICA/MICB を介してVγ1Vδ1 T 細胞が活性化することについて以前に報告している。
そこで本発明者らは、ヘスペリジン又はリナリンにより刺激されたVγ1Vδ1 T 細胞が、サイトカイン及びケモカインを分泌するか否かを検討した。
【0063】
健康な被験者から採取した末梢血を遠心分離し、PBMCs(末梢血単核球)を得た。PBMCsに、Vδ1-APC 抗体(メーカー名 Miltenyi Biotec GmbH, Bergisch Gladbach;所在地 Germany)を反応させ、フローサイトメトリー法により、γ1δ1
+T 細胞を選別した。
選別されたVδ1
+T 細胞(Vγ1Vδ1 T 細胞に代表される細胞群)を、1 x 10
6個/mL のirradiated PBMCsを含有する2 μg/mL PHA(メーカー名 Sigma-Aldrich) と共にインキュベートした。それから、24ウエル培養プレートの各ウエルに、5% AB ヒト血清(メーカー名 Biowest Nuaille;所在地 France)、及び、100 U/mL 組換えIL-2(メーカー名 Shionogi;所在地 Osaka, Japan)を添加した完全培地(CCM)を入れ、各ウエルに、あらかじめインキュベートしたVδ1
+T 細胞を撒き、3日から4日ごとに培地を半分ずつ交換しながら、14 日間培養した。
14日間に亘り上記の初期培養を行った後、Vδ1
+T 細胞を、1 x 10
6個/mL のirradiated PBMCsを含有する2 μg/mL PHA (メーカー名 Sigma-Aldrich) を用いて再刺激し、さらに引き続き、上記と同じ方法により培養した。Vδ1
+T 細胞の再刺激は、実験に使用する少なくとも7日前に開始した。
再刺激を完了させたVδ1
+T 細胞を、以下の手順によりヘスペリジン又はリナリンで刺激し、サイトカイン及びケモカインのプロファイルを検討した。
【0064】
ラウンドボトム(round-bottom)型96ウエルプレートの各ウエルに、200μl の完全培地(CCM)を入れた。CCMは、5% AB ヒト血清(メーカー名 Biowest Nuaille; 所在地France)及び100 U/mL 組換えIL-2 (メーカー名 Shionogi)を添加した組成を有する。CCMを満たした各ウエルに、5 x 10
4個/mL のVγ1
+T 細胞を撒き、25ng/mLのPMAと共に、1μg/mLのイオノマイシン(ionomycin)、又は、10、30、100μg/mLいずれかの量のヘスペリジン、前記と同量のリナリン、又は、0.01、0.03、0.1%のジメチルスルホキシド(DMSO:vehicle control)のいずれかを添加し、培養した。48時間後、150μl の培地上清を各ウエルから採集し、
サイトカイン及びケモカインの測定まで−80℃で保存した。
多種類のサイトカイン(IFN-γ、IL-4、IL-5、IL-10、IL-13、IL-17A)を定量するために、BD CBA キット(BD CBA kit;「BD」は登録商標;メーカー名 BD Bioscience)、及び、FACSCanto II(製品名;メーカー名 べクトンディッキンソン)さらに、サイトカインのうち、IL-5の量は、BD CBA キットとIL-5 ELISA kit(メーカー名 R&D Systems;所在地 Minneapolis, MN)を用いて測定し、IL-13の量は、BD CBA キットとIL-13 ELISA kit(メーカー名 ThermoFisher)を用いて測定した。また、MIP-1α、MIP-1β、RANTESなどのケモカインは、それぞれのELISA kit(メーカー名 R&D Systems)を用いて定量した。
【0065】
Figure 4AはPBMCsからVγ1Vδ1-TCR 発現T 細胞を選抜した過程及び結果を示したグラフである。Figure 4Aの左側に示すように、PBMCs中に、Vδ1
+T 細胞は0.47%含まれており、そこからFigure 4Aの右側に示すようにVδ1
+T 細胞を選別した。
ヘスペリジン又はリナリンで刺激したVγ1Vδ1 T 細胞の上清中に観察される主要なサイトカインは、意外にもIL-5 及びIL-13であり、刺激されていない通常状態 のlymphocytes 2 (ILC-2)に良く似た挙動であった。IL-5 及びIL-13は、アレルギー反応時や感染時に分泌されることが知られている。しかし、大多数のγδ T 細胞が分泌する主要なサイトカインであることが知られているIL-17 及び IFN-γは観察されないことを発見した(Figure 4B)。
さらに、ヘスペリジン及びリナリンの量を3段階(10 μg/mL, 30 μg/mL, 100 μg/mL)に変えて効果の差を検討し、サイトカインとケモカインの分泌量を測定した。DMSO(vehicle control)と比較すると、ケモカインであるMIP-1α、MIP-1β、及び、RANTESの分泌量が大きくなり、サイトカインであるIL-5及び IL-13の分泌量も大きくなった(Figure 4C)。
これらの結果により、PBMCs中に存在するヒト由来天然γ1δ1
+T細胞は、ヘスペリジンやリナリンのようなフラボノイド配糖体により刺激されると、サイトカイン及び/又はケモカインを分泌して免疫調節を行うことが確認された。
また、ヘスペリジン及びリナリンにより刺激されたγ1δ1
+T細胞から分泌されたケモカインは、CD4
+ NKT 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を抑制すると考えられることから、ヘスペリジンやリナリンのようなフラボノイド配糖体により刺激されたヒト由来天然γ1δ1
+T細胞は、CD4
+NKT 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を抑制することが示唆された。
【0066】
6.ヘスペリジン及びリナリンにより活性化されたヒト由来天然γ1δ1
+T 細胞を介するCD4
+ナチュラルキラーT(CD4
+NKT)細胞内でのR5-type of HIV-1複製の抑制
上記実験によって、ヘスペリジンやリナリンのようなフラボノイド配糖体により刺激されたヒト由来天然γ1δ1
+T細胞は、CD4
+NKT 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を抑制することが示唆された。
上記示唆を踏まえ、本発明者らは、R5 type HIV-1に感染させたCD4
+NKTに、ヒト由来天然γ1δ1
+T細胞の存在下でヘスペリジン又はリナリンを添加したときに、被感染CD4
+NKT内のHIV-1ウイルス複製を抑制する否か検討した。
NKT 細胞を誘導するために、2 x 10
6のPBMCsを含有する1 mL の完全培地(CCM)中に、20 ng/ml のα‐ガラクトシルセラミド(α-GalCer)(製品名 KRN7000:メーカー名 Funakoshi Co., Ltd.,;所在地 Tokyo, Japan)を添加した。7日後、培地の半分を、20 U/ mL のIL-2(メーカー名 Shionogi)を含有し、かつ、α-GalCerを含有しない新しいCCMに置換した。この培養スキームにより、ヒトPBMCsからCD4
+Vα24
+NKT 細胞が誘導された(Figure 5A、向かって左のグラフ)。
誘導されたCD4
+ Vα24
+NKT 細胞を、20 U/mL のIL-2を含有する完全培地(CCM)中で、2 μg/mL の PHAを用い、3日間刺激した。引き続き、上記のPHA刺激CD4
+Vα24
+type-I NKT 細胞を洗浄して遊離PHAを除去した。洗浄後、1 - 2 X 10
5個の細胞を、30 μg/mL のDEAE-Dextran(メーカー名 Sigma-Aldrich)の存在下、感染多重度0.1(0.1 MOI)、且つ、37℃で2時間の条件で、NL(AD8) HIV-1 (R5-type)に感染させた。ここで感染多重度(MOI:Multiplicity of infection)とは、感染を受ける細胞に対する感染性ウィルスの比率であり、0.1 MOIは、10細胞に対しウィルス粒子1つを培養することを意味する。
【0067】
ベース培地であるRPMI-1640 (製品名;メーカー名 Thermo Fisher Scientific;所在地 アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウオルサム)に2% FCS を含有させた培地を調製した。このベース培地を用いてNL(AD8)-感染NKT 細胞を3回繰り返し洗浄した。洗浄後の細胞を、ラウンドボトム(round-bottom)型 96-ウエルプレートを使用し、20 U/ml のIL-2を含有する培地中でインキュベートした。
そして、2 x 10
4個のNL(AD8)-感染NKT 細胞を、ラウンドボトム(round-bottom)型96-ウエルプレートを使用し、20 U/mL のIL-2を含有する200 μl の CCM 中で、1 x 10
4個のVδ14
+細胞の存在下で、又は、非存在下培養した。培養を行う際に、3, 10 又は 30 μg/mL のヘスペリジン、又は、3, 10 又は 30 μg/mL のリナリン、又は、0.003, 0.01 又は 0.03% DMSO (vehicle control)をプレートの各ウエルに添加した。
培養開始後4日目に100 μlの培地上清を各ウエルから採集し、p24 抗原の測定まで−80℃で保存し、ELISA kit(メーカー名 Sino Biological;所在地 Beijing, China)を用いて測定した。
【0068】
培地中のヘスペリジン又はリナリンの添加量が100 μg/mLを超えるとNKT細胞の成長が停止したことから、ヘスペリジン及びリナリンの量が100 μg/mLを超えると毒性をもつことが示され、これは予想外の結果であった(Figure 5Aの向かって右側のグラフ)。
細胞生存率の評価については、上記の培養スキームにより、ヒトPBMCsから誘導されたCD4
+Vα24
+NKT 細胞(1X10
4個)を、3, 10, 30又は100 μg/mL のヘスペリジン、又は、3, 10, 30又は100μg/mL のリナリン、又は、0.003, 0.01 又は 0.03% DMSO (vehicle control)と共に3日間培養した。培養後、トリパンブルーエクスクルージョン試験(trypan blue exclusion test)により、細胞生存率を計算した。
Vδ1
+T細胞をヘスペリジン又はリナリンにより刺激すると、R5-HIV-1-NL(AD8) ウイルスの存在を示すp24抗原の検出量が明らかに減少したことが観察され、これらのフラボノイド配糖体が、CD4
+NKT 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を用量依存的に有意に抑制した(Figure 5B内の黒色バー)。
Vδ1
+ T細胞を含まない培地を用いた場合に、フラボノイド配糖体添加群において測定可能レベルのウイルス複製抑制が観察されたことから、フラボノイド配糖体それ自体がある程度のウイルス複製抑制作用をもつことも示された(Figure 5B内の白色バー)。
【0069】
7.ヘスペリジン及びリナリンにより活性化されたヒト由来天然γ1δ1
+ T 細胞を介するCD4
+T細胞内でのR5-type of HIV-1複製の抑制
上記実験によって、ヘスペリジンやリナリンのようなフラボノイド配糖体により刺激されたヒト由来天然γ1δ1
+T細胞は、CD4
+NKT(ナチュラルキラーT)細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を抑制することが示唆された。
そこで本発明者らは、ヒト由来天然γ1δ1
+T細胞をヘスペリジン又はリナリンで刺激したときに、CD4
+NKTと同様に、CD4
+T 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) の複製についても阻害するか否かを検討した。
PBMCsから誘導されたCD4
+T 細胞を、CD4
+NKTに対して実施した上記手順と同じ手順で、NL(AD8) HIV-1 (R5-type)に感染させた。得られたNL(AD8)-感染CD4
+T 細胞を、上記と同じ手順でヘスペリジン又はリナリンと共に培養した。そして、培養開始後4日目に、培地上清中に存在するp24 抗原を測定した。
我々は、ヘスペリジン又はリナリンにより活性化されたVδ1
+T 細胞は、CD4
+T 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製についても有意に抑制したことを観察した(Figure 5C)。
これらの知見を総合的に検討すると、Vδ1
+ T細胞は、ヘスペリジン及びリナリンのようなフラボノイド配糖体により活性化したときに、CD4
+NKT 細胞内におけるR5 tropic HIV-1 複製を抑制するだけでなく、CD4
+T 細胞内におけるR5 tropic HIV-1 複製も抑制することが示唆される。