特許第6681449号(P6681449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6681449Vγ1Vδ1型T細胞活性化剤及びウイルス感染症治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681449
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】Vγ1Vδ1型T細胞活性化剤及びウイルス感染症治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20200406BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20200406BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   A61K31/7048ZMD
   A61K45/00
   A61P31/18
【請求項の数】3
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-187802(P2018-187802)
(22)【出願日】2018年10月2日
(65)【公開番号】特開2020-55777(P2020-55777A)
(43)【公開日】2020年4月9日
【審査請求日】2018年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】595103809
【氏名又は名称】高橋 秀実
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀実
【審査官】 古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】 Journal of Andrology,2005年,Vol.26, No.3,p.414-421
【文献】 International Journal of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences,2018年 3月,Vol.10, No.3,p.85-89
【文献】 HIV感染症「治療の手引き」,HIV感染症治療研究会,2013年12月,第17版,p.13
【文献】 Pharmaceutical Biology,2011年,Vol.49, No.10,p.1046-1051
【文献】 Biol. Pharm. Bull.,2000年,Vol.23, No.3,p.356-358
【文献】 Pharmaceutical Biology,2017年,Vol.55, No.1,p.1545-1552
【文献】 Food Chemistry,2011年,Vol.128,p.312-322
【文献】 Pharmaceutical Biology,2017年,Vol.55, No.1,p.198-205
【文献】 Letters in Applied Microbiology,2011年,Vol.53,p.602-607
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 41/00−45/08
A61P 1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、下記式(1)又は(2)で表される化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つのフラボノイド配糖体を含み、Vγ1Vδ1型T細胞を活性化させることにより、HIV感染患者の無症状期におけるHIV増殖を抑制するために用いられる、HIV感染治療剤。
【化1】
[式(1)及び(2)において、Rは炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは水素原子又はヒドロキシル基を表す。RはA環上に結合していても良い置換基であって炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表し、RはB環上に結合していても良い置換基であって炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表し、RはC環上に結合していても良い置換基であって炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表す。n1はRの数であって0から2の整数を表し、n2はRの数であって式(1)の場合は0から3の整数を表し、式(2)の場合は0又は1の整数を表し、n3はRの数であって0から3の整数を表す。同一符号で表される置換基が複数存在する場合には各置換基は互いに同じであっても良いし異なっていても良い。]
【請求項2】
前記フラボノイド配糖体は、下記式(3)で表されるヘスペリジン、下記式(4)で表されるリナリン、及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載のHIV感染治療剤。
【化2】
【請求項3】
逆転写酵素阻害剤及びウイルス蛋白酵素阻害剤よりなる群から選ばれる抗ウイルス剤と組み合わせて、HIV感染治療に用いられる請求項1又は2に記載のHIV感染治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vγ1Vδ1型T細胞活性化剤、それを用いて生体内のVγ1Vδ1型T細胞を活性化させる方法に関する。また本発明は、Vγ1Vδ1型T細胞活性化作用を有する有効成分を含むウイルス感染症治療剤、及び、HIV感染治療のための当該ウイルス感染症治療剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、ヒトの免疫細胞に感染し、これを破壊するウイルスである。AIDS(エイズ:後天性免疫不全症候群)は、HIV感染の病期最終段階である発病期おいて重度な免疫不全状態または重度な免疫力低下症状を呈する疾病である。
HIVはレトロウイルスの一種で、CD4陽性の免疫システム関連細胞を標的とし、例えばCD4陽性ヘルパーT細胞、CD4陽性マクロファージ、CD4陽性樹状細胞などに感染し、これらを破壊することにより免疫系にダメージを与えることが知られている。特に、獲得免疫システムに属するCD4陽性ヘルパーT細胞を直接的にも間接的にも破壊し、免疫系へ大きなダメージを与える。
HIV感染の病期は、急性感染期、急性感染期後5年〜10年間の無症状期、及び、無症状期後の発病期に分けられる。急性感染期にはウイルス量が増加し他の感染症と見分けがつかない症状を呈するが、抗体の産生が活発化するとウイルス量が激減し無症状期に移行する。無症状期にはHIV増殖と免疫システムによるウイルス増殖阻止との平衡状態が保たれるため見かけ上の血中ウイルス濃度が低く抑えられ無症状であるが、免疫システムの疲弊は進行し続け、CD4陽性ヘルパーT細胞が徐々に減少する。そして末梢血中のCD4陽性ヘルパーT細胞がある程度まで減少すると、HIV増殖と免疫システムとの平衡状態が崩れ、発病期に移行する。発病期には免疫力低下症状を呈し、重症化するとAIDSが発症する。
感染の進行度は、HIV−1 PCR法によるウイルス量測定と、フローサイトメトリー法によるCD4陽性細胞数の検査により判定される。CD4陽性細胞数は現在の病態を反映する数値である。正常ならば800 − 1200個/μlであるが、HIVに感染すると徐々に低下し、200個/μl程度よりも低くなると、AIDSが発症し、日和見感染や日和見腫瘍などの症状が現れる。
【0003】
ヒトの免疫システムは、主に粘膜・皮膚などの異物の侵入部位である体表面に存在する「自然免疫システム」と、主に血液中、及び脾臓やリンパ節などの免疫臓器内に存在する「獲得免疫システム」から構成されている。
前者の自然免疫を担う細胞群には、表面に発現したToll-like receptors (TLRs) を介して侵入異物の情報を認識、把握し、その情報を免疫システム全体に伝達し、異物制御の包囲網形成を指令する樹状細胞群、そして、異物の保持ならびに処理を担うNKT細胞 (Natural Killer T-cells)、さらには、異物侵入の制御及び侵入に伴って生じたダメージを修復するγδ型T細胞群などが含まれる。このγδ型T細胞群は、主としてVγ1Vδ1型とVγ2Vδ2型に大別され、侵入した病原体の制御や局所に発生した腫瘍の排除などを担うと考えられている。
これまで、免疫システムにおいてHIVに感受性を有する細胞は、ヘルパーT細胞のような獲得免疫システムに属するCD4分子陽性のT細胞群であると考えられてきたが、最近、自然免疫システムに属するCD4陽性のNKT細胞群もまたHIVに感受性を有することが判明した (非特許文献1)。
【0004】
現在、HIV感染に有効な治療法としてHAART(Highly Active Anti-retroviral Therapy)が知られており、実際の治療に広く適用されている。HAARTは、複数の抗HIV−1薬を個々のHIV感染者の症状、体質に合わせて組み合わせて投薬することによりウイルス増殖を抑え、エイズの発症を防ぐ治療法である。
しかし、HIV感染者にHAARTを行うことにより、患者末梢血中にHIV粒子が全く認められなくなった場合でも、治療が中断されると再び速やかにHIV粒子が末梢血中に出現してくることが判明した(非特許文献2)。
現在知られている抗HIV薬では、患者末梢血中のHIV粒子を検出限界以下まで減らすことはできるが、HIV粒子を患者体内から完全に排除することはほぼ不可能であり、たとえ抗HIV薬が奏功した場合でも、患者個体内のどこかにHIVが潜伏し増殖可能な状態で残存するため、HIV感染症を完治させることは困難である。
【0005】
本発明者らは、以前行った研究において、抗レトロウイルス療法(ART:Anti-retroviral Therapy)を実施し、末梢血中にウイルスが検出できなくなった患者に大腸ファイバースコープを用いて腸管粘膜由来生検組織を検索したところ、回腸粘膜組織内にHIVを放出するp24抗原陽性細胞の存在を確認し、その細胞がNKT細胞に特有のVα24陽性T細胞レセプターを発現していることを確認した (非特許文献3)。この研究結果は、HIV感染者に抗レトロウイルス療法を実施し奏功した後に当該療法を中断した場合に、粘膜部位に存在する自然免疫系のNKT細胞がHIV−1の放出源となる可能性が高いことを示唆している。
この研究結果に着目し、さらに本発明者らはHIV感染CD4陽性NKT細胞内のウイルス複製を制御する細胞の同定を試みたところ、CD8αα陽性T細胞群、特にVγ1Vδ1型のγδT細胞群が、NKT細胞内のHIV増殖抑制作用を示すことを見出した (非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Exp. Med., 195:869-879, 2002
【非特許文献2】Nature Med., 6:757-879, 2002
【非特許文献3】Biomed. Res., 35:1-8, 2014
【非特許文献4】Immunology, 141:596, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記知見を踏まえて成し遂げられたものであり、ウイルス感染者の体内においてVγ1Vδ1型T細胞を活性化することにより、ウイルスに感染した細胞内でのウイルス複製を阻止することができるVγ1Vδ1型T細胞活性化剤、及び、当該Vγ1Vδ1型T細胞活性化剤を用いることにより従来の抗ウイルス薬とは異なる作用原理に基づいてウイルスの潜伏元での残存を阻止することができるウイルス感染治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも一部として提供されるウイルス感染治療剤は、有効成分として、下記式(1)又は(2)で表される化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つのフラボノイド配糖体を含み、Vγ1Vδ1型T細胞を活性化させることにより、HIV感染患者の無症状期におけるHIV増殖を抑制するために用いられる、HIV感染治療剤である。
【0009】
【化1】
【0010】
[式(1)及び(2)において、Rは炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは水素原子又はヒドロキシル基を表す。RはA環上に結合していても良い置換基であって炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表し、RはB環上に結合していても良い置換基であって炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表し、RはC環上に結合していても良い置換基であって炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表す。n1はRの数であって0から2の整数を表し、n2はRの数であって式(1)の場合は0から3の整数を表し、式(2)の場合は0又は1の整数を表し、n3はRの数であって0から3の整数を表す。同一符号で表される置換基が複数存在する場合には各置換基は互いに同じであっても良いし異なっていても良い。]
【0011】
前記本発明に係るウイルス感染治療剤の有効成分は、例えば、下記式(3)で表されるヘスペリジン、下記式(4)で表されるリナリン、及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0012】
【化2】
【0013】
本発明に係るウイルス感染症治療剤は、逆転写酵素阻害剤及びウイルス蛋白酵素阻害剤よりなる群から選ばれる抗ウイルス剤と組み合わせて、HIV感染治療に用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のVγ1Vδ1型T細胞活性化剤及びウイルス感染治療剤は、ウイルス感染又は何らかの免疫疾患の患者の体内においてVγ1Vδ1型T細胞を活性化し、免疫機能を強化又は調節することにより、これらの疾患を治療することができる。
特に、本発明のVγ1Vδ1型T細胞活性化剤及びウイルス感染症治療剤は、HIV感染者のNKT細胞内に潜伏し続けるHIVの増殖を、活性化したVγ1Vδ1型T細胞の働きにより阻止するため、HIV感染の治療にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、Vγ1及びVδ1を移入したT細胞クローン(1C116)及びVγ2及びVδ2を移入したT細胞クローン(2C21)のTCR‐依存刺激性を検討した結果を示す。図1において、Figure 1AはTCRブロッキング分析の結果である。Figure 1Bは、TCR‐依存刺激分析の結果であり、1C116クローン及び2C21クローンは両方とも抗CD3抗体による刺激時にIL-2を分泌したことを示す。Figure 1C,1D及び1Eは、TCR‐依存刺激に対する反応特異性分析の結果であり、クローン1C116はクローン2C21と異なる反応特異性を有していることを示す。
図2図2は、クローン1C116 及びクローン2C21に対する刺激活性に関するフラボノイド配糖体のスクリーニング結果である。Figure 2Aは、ヘスペリジン又はリナリンが、クローン1C116のIL-2分泌に関し強い刺激活性を示したことを示す。Figure 2Bは、クローン1C116に対するヘスペリジン及びリナリンの刺激活性が、抗‐γδ TCR特異的抗体によって完全に失われたことを示す。
図3図3は、ヒト由来天然γ1δ1 T細胞に対するフラボノイド配糖体の刺激活性を分析した結果である。Figure 3Aの上段のグラフ、及び、Figure 3Bの向かって左側のグラフは、ヘスペリジン及びリナリンがヒトPBMCから誘導されたγ1δ1T 細胞の数を増加させたことを示す。また、Figure 3Aの下段、及び、Figure 3Bの向かって右側のグラフは、ヘスペリジン及びリナリンがヒトPBMCから誘導されたγ1δ1T 細胞のCD25発現を有意に増強させたことを示す。
図4図4は、ヘスペリジン及びリナリンにより刺激したヒト由来天然γ1δ1T 細胞からのサイトカイン及びケモカイン分泌プロファイルを示す。Figure 4Aは、ヒトPBMCsからVγ1Vδ1-TCR 発現T 細胞を選抜した過程及び結果を示したグラフである。Figure 4Bは、ヘスペリジン又はリナリンで刺激したVγ1Vδ1 T 細胞の上清中に観察される主要なサイトカインは、意外にもIL-5 及びIL-13であったことを示す。Figure 4Cは、ヘスペリジン及びリナリンの量を大きくしたときに、ケモカインであるMIP-1α、MIP-1β、及び、RANTESの分泌量が大きくなり、サイトカインであるIL-5及び IL-13の分泌量も大きくなったことを示す。
図5図5は、R5 type HIV-1に感染させたCD4 NKT及びCD4T細胞に、ヒト由来天然γ1δ1 T細胞の存在下でヘスペリジン又はリナリンを添加したときに、被感染CD4NKT内のHIV-1ウイルス複製を抑制する否かについて検討した結果である。Figure 5Aの向かって右側のグラフは、ヘスペリジン及びリナリンの量が大きすぎる場合にNKT細胞の成長が停止したことを示す。Figure 5B内の黒色バーは、Vδ1T細胞をヘスペリジン又はリナリンにより刺激すると、R5-HIV-1-NL(AD8) ウイルスの存在を示すp24抗原の検出量が明らかに減少したことを示す。Figure 5B内の白色バーは、フラボノイド配糖体それ自体がある程度のウイルス複製抑制作用を有することを示す。Figure 5Cは、ヘスペリジン又はリナリンにより活性化されたVδ1T 細胞が、CD4T 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製についても有意に抑制したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.本発明のフラボノイド配糖体
HAART療法は、複数の抗HIV薬を組み合わせてHIV感染者に投与することにより優れた治療効果を奏するが、現在知られている抗HIV薬をどのように組み合わせたとしても、HIV粒子を患者体内から完全に排除することはほぼ不可能であり、HIV感染症を完治させることは困難である。
本発明者らは、HIV感染者の体内において、自然免疫システムに属するVγ1Vδ1型T細胞がNKT細胞内に潜伏するHIVの増殖を抑制するという知見(非特許文献4)を踏まえ、ウイルス感染者の生体内に存在するVγ1Vδ1型T細胞を活性化させることにより、従来の抗ウイルス薬とは異なる作用原理によりウイルス感染を治療することが可能となり、特に、現在のHAART療法をもってしてもHIV感染者の体内に潜伏し続けるHIVの増殖を阻止し、HAART療法の治療効果を向上させることが可能になると考え、Vγ1Vδ1型T細胞を活性化させる物質を探索し、本発明のVγ1Vδ1型T細胞活性化剤及びウイルス感染症治療剤の有効成分を発見するに至った。
【0017】
本発明のVγ1Vδ1型T細胞活性化剤及びウイルス感染症治療剤は、有効成分として、下記一般式(A)又は(B)で表される化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つのフラボノイド配糖体を含む。なお以下において、当該有効成分であるフラボノイド配糖体を、「本発明のフラボノイド配糖体」と称する場合がある。
【0018】
【化3】
【0019】
フラボノイド配糖体とは、アグリコンとなるフラボン骨格上に糖類がグリコシド結合した構造を有する化合物である。フラボン骨格は下記一般式で表されるが、フラボン骨格に含まれる2重結合の1つ以上が単結合に変化していても良い。なお、下記一般式においてフラボン骨格の周囲に記載した数字は、置換位置を表す番号である。
【0020】
【化4】
【0021】
本発明のフラボノイド配糖体は、フラボン骨格を有するアグリコンと、当該フラボン骨格の7位に結合する特定のニ糖類からなる糖部分とで構成される。
上記一般式(A)はフラボン骨格の2位と3位の間に単結合を有しないのに対し、上記一般式(B)は同じ位置に二重結合を有する点で異なるだけであり、他の部分の構造は同じである。
【0022】
一般式(A)及び(B)において、Rは炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは水素原子又はヒドロキシル基を表す。
は、A環上に結合していても良い置換基であるが、A環上に存在していなくてもよい。Rは、炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表す。
は、B環上に結合していても良い置換基であるが、B環上に存在していなくてもよい。Rは、炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表す。
は、C環上に結合していても良い置換基であるが、C環上に存在していなくてもよい。Rは、炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表す。
n1は、A環上に置換するRの数である。RがA環上に存在する場合には6位と8位に一つずつ、すなわち最大2つ結合できる。したがってn1は、0から2の整数を表す。
n2は、B環上に置換するRの数である。一般式(A)においてRが存在する場合には、B環上の2位に1つ、3位に2つ、すなわち最大3つ結合できる。一方、一般式(B)においてRが存在する場合には、Rは、B環上の3位に1つだけ結合できる。したがってn2は、一般式(A)の場合には0から3の整数を表し、一般式(B)の場合には0又は1の整数を表す。
n3は、C環上に置換するRの数である。RがC環上に存在する場合には、C環上の2’位に1つ、3’位に1つ及び6’位に1つ、すなわち最大3つ結合できる。したがってn3は、0から3の整数を表す。
、R又はRは、メチル基(すなわち炭素数1のアルキル基)、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基であってもよい。また、これらの置換基の数を表すn1、n2及びn3は、0又は1の整数であってもよい。
、R又はRはそれぞれ、フラボン骨格上に複数存在する場合がある。同一符号で表される各置換基は、互いに同じであっても良いし異なっていても良い。
【0023】
一般式(A)及び(B)において、アグリコンであるフラボン骨格の7位に結合する糖部分は、基部側(すなわちアグリコンに結合する側)にアルドヘキソース、及び、末端側にデオキシヘキソースが配置するように連結してなる2糖類構造を有しており、基部側のアルドヘキソースがフラボン骨格に対してβ−(1→7)Cグリコシド結合しており、末端側のデオキシヘキソースがアルドヘキソースに対してα(1→6)Oグリコシド結合している。すなわち、糖部分の基部側では、アルドヘキソースの1位がフラボン骨格の7位にβ−Cグリコシド結合している。一方、糖部分の末端側では、デオキシヘキソースの1位がアルドヘキソースの6位にOグリコシド結合している。
基部側のアルドヘキソースとしては、例えば、D−グルコース、D−マンノース、D−ガラクトース、D−アロース、D−アルトロース、D−グロース、D−イドース、D−タロースなどが挙げられ、その中でもD−グルコースが典型例である。
また末端側のデオキシヘキソースとしては、例えば、L−ラムノース(すなわち6−デオキシ−L−マンノース)、L−フコース(すなわち6−デオキシ−L−ガラクトース)、L−タロメチロース(すなわち6−デオキシ−L−タロース)、D−デオキシリボース(すなわち2−デオキシ−D−リボース)、D−アロメチロース(すなわち6−デオキシ−D−アロース)、D−キノボース(すなわち6−デオキシ−D−グルコース)、D−アンチアロース(すなわち6−デオキシ−D−グロース)、D−タロメチロース(すなわち6−デオキシ−D−タロース)、D−ジギタロース(すなわち6−デオキシ−3−O−メチル−D−ガラクトース)、D−ジギトキソース(すなわち2,6−ジデオキシ−D−ribo−ヘキソース)、D−シマロース(すなわち2,6−ジデオキシ−3−O−メチル−D−ribo−ヘキソース)、チベロース(すなわち3,6−ジデオキシ−D−マンノース)、アベコース(すなわち3,6−ジデオキシ−D−ガラクトース)、パラトース(すなわち3,6−ジデオキシ−D−グルコース)、コリトース(すなわち3,6−ジデオキシ−L−ガラクトース)、アスカリロース(すなわち3,6−ジデオキシ−L−マンノース)などが挙げられ、その中でもL−ラムノースが典型例である。
【0024】
一般式(A)又は(B)で表される化合物の薬理学的に許容される塩又はエステルとしては、フラボン骨格上の水酸基又は糖部分の水酸基が塩又はエステルの構造となったものが挙げられる。塩としては例えば、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、又はグリシン、アラニン、リジンもしくはグルタミン酸等のアミノ酸塩などを例示することができる。また、エステルとしては例えば、カルボン酸やリン酸などが結合したエステルを例示することができる。
【0025】
Vγ1Vδ1型T細胞は、生体の自然免疫システムに属し、病原体の制御や局所に発生した腫瘍の排除などを担い、自然免疫と獲得免疫の橋渡しをしていることがすでに知られている。また、本発明者らの研究により、Vγ1Vδ1型のγδT細胞群が、NKT細胞内のHIV増殖抑制作用を示すことが明らかにされ、すでに報告されている(非特許文献4)。
本発明においては、特定構造のフラボノイド配糖体がVγ1Vδ1型T細胞を刺激する作用を有していることを発見した。後述する実験結果により、本発明のフラボノイド配糖体は、Vγ1Vδ1型T細胞を活性化させケモカインを放出することが発見された。さらに後述する実験結果により、本発明のフラボノイド配糖体は、R5-tropic HIV−1に感染したCD4+ NKT細胞(ナチュラルキラーT細胞)及び、R5-tropic HIV−1に感染したCD4+ T 細胞のHIV−1複製を阻害することを発見した。CD4+ NKT細胞は自然免疫システムに属し、CD4+ T細胞は獲得免疫システムに属するから、本発明のフラボノイド配糖体は、自然免疫システム及び獲得免疫システムの両方に対し、免疫調節作用及びウイルス増殖抑制作用を有する。
したがって 本発明のフラボノイド配糖体は、ウイルス感染又は何らかの免疫疾患の患者の体内でVγ1Vδ1型T細胞を活性化させることにより、ウイルス増殖を抑制し又は免疫失調を回復させることができるため、これらの疾患を治療することができる。
【0026】
本発明のフラボノイド配糖体が、Vγ1Vδ1型T細胞を活性化させる作用を発揮するためには、以下の2つの条件が特に重要である。
(1)フラボン骨格の7位に、基部側(すなわちフラボン骨格側)から末端側に向かってアルドヘキソース及びデオキシヘキソースがこの順序で連結してなり、基部側のアルドヘキソースがフラボン骨格に対してβ−(1→7)Cグリコシド結合しており、末端側のデオキシヘキソースがアルドヘキソースに対してα(1→6)Oグリコシド結合している2糖類構造の糖部分を有していること。
(2)フラボン骨格の2位に結合したフェニル系置換基の4’位に炭素数1〜3の低級アルコキシル基が置換していること。
【0027】
上記一般式(A)又は(B)で表される化合物及びそのエステル又は塩のなかでも、下記式(1)又は(2)で表される化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つのフラボノイド配糖体が好ましい。
式(1)は一般式(A)に対応しており、フラボン骨格の2位と3位の間に単結合を有しないのに対し、式(2)は一般式(B)に対応しており、同じ位置に二重結合を有する。
【0028】
【化5】
【0029】
[式(1)及び(2)において、Rは炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは水素原子又はヒドロキシル基を表す。RはA環上に結合していても良い置換基であって炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表し、RはB環上に結合していても良い置換基であって炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表し、RはC環上に結合していても良い置換基であって炭素数1〜3のアルキル基、水酸基及びハロゲンよりなる群から選ばれる置換基を表す。n1はRの数であって0から2の整数を表し、n2はRの数であって式(1)の場合は0から3の整数を表し、式(2)の場合は0又は1の整数を表し、n3はRの数であって0から3の整数を表す。同一符号で表される置換基が複数存在する場合には各置換基は互いに同じであっても良いし異なっていても良い。]
【0030】
上記式(1)及び(2)の化合物は、一般式(A)及び(B)におけるフラボン骨格の7位に糖部分としてβ−ルチノースが結合した構造を有する。β−ルチノースとは、6−O−α−L−ラムノシル−D−β−グルコースである。すなわち、式(1)及び(2)の化合物は、フラボン骨格の7位にグルコースの1位がβ結合し、グルコースの6位にラムノースの1位がα結合(ラムノース側から見てα−1,6結合)している。
【0031】
上記式(1)又は(2)で表される化合物としては、例えば、式(1)に包含される下記式(3)で表されるヘスペリジン、及び、式(2)に包含される下記式(4)で表されるリナリンが挙げられる。ヘスペリジン(CAS登録番号520−26−3)及びリナリン(CAS登録番号480−36−4)は公知の化合物である。
【0032】
【化6】
【0033】
一般式(1)及び(2)で表される化合物は、公知の方法によりフラボン骨格を合成し、フラボン骨格に糖部分などの置換基を修飾することにより合成することができる。フラボン骨格を合成する方法としては、例えば、下記反応スキームに従うアラン・ロビンソン フラボン合成(Allan-Robinson Flavone Synthesis)が知られており、この方法ではo−ヒドロキシアリールケトンおよび酸無水物からフラボン誘導体を得ることができる。
【0034】
【化7】
【0035】
フラボン骨格の7位への糖部分の修飾は、フラボン骨格の7位に水酸基を導入し、修飾すべき糖を脱水縮合することにより達成できる。フラボン骨格の5位への水酸基の導入、及び、フラボン骨格の2位への置換基の導入又は当該置換基の修飾も、適宜公知の方法により行うことができる。
一般式(1)で表される化合物のうち、上記式(1)で表されるヘスペリジン及び上記式(2)で表されるリナリンはメーカーから購入することも可能である。例えば、ヘスペリジンは東京化成工業(株)、リナリンはエキストラシンシース社(Extrasynthese、フランス)から購入できる。
【0036】
2.本発明のフラボノイド配糖体のVγ1Vδ1型T細胞活性化剤、ウイルス感染症治療剤としての使用及び治療方法
Vγ1Vδ1型T細胞は、生体の自然免疫システムに属し、病原体の制御や局所に発生した腫瘍の排除などを担い、自然免疫と獲得免疫の橋渡しをしている。本発明のフラボノイド配糖体は、Vγ1Vδ1型T細胞を活性化するので、当該フラボノイド配糖体をウイルス感染又は何らかの免疫疾患の患者に投与することにより、または、インビトロで当該フラボノイド配糖体と接触させたVγ1Vδ1型T細胞をウイルス感染又は何らかの免疫疾患の患者に投与することにより、これらの疾患を治療することができる。
本発明のVγ1Vδ1型T細胞活性化剤及びウイルス感染症治療剤は、有効成分である上記フラボノイド配糖体のみ含む単体であってもよいが、その投与経路、投与方法、又は使用方法に合わせて公知の添加剤、賦形剤、酸化防止剤、溶媒等を用いて適切な治療組成物に調製されるのが一般的である。注射剤とする場合の一例としては、有効成分であるフラボノイド配糖体を、水系溶媒に溶解し、必要に応じ緩衝剤、pH調整剤、安定剤などの添加剤を加えて注射剤を調製することができる。
【0037】
本発明のウイルス感染症治療剤は、ウイルス感染者に投与されると、ウイルス感染者の生体内に存在するVγ1Vδ1型T細胞を活性化し、活性化されたVγ1Vδ1型T細胞が、ウイルスに感染した細胞内におけるウイルス増殖を阻止するので、ウイルス感染の治療効果が発揮される。本発明のウイルス感染症治療剤の投与経路は、経口、注射など特に限定されない。
本発明のウイルス感染症治療剤は、現在のHAART療法をもってしてもHIV感染者のNKT細胞内に潜伏し続けるHIVの増殖を阻止するため、HIV感染の治療にも有効である。
HIV−1が標的であるCD4陽性細胞に侵入するためには、CXCR4(X4)又はCCR5(R5)のうちどちらかのケモカイン受容体(kemokine recepter)がCD4陽性細胞表面に発現している必要がある。X4-tropic HIV−1(T cell-tropic HIV-1株)はCXCR4を用いて細胞に侵入し、R5-tropic HIV−1(macrophage-tropic HIV-1株)はCCR5を用いて細胞に侵入する。
R5-tropic HIV−1は通常、感染後早い時期に検出され、X4-tropic HIV−1は多くの場合、AIDSが進行した時期に検出される。HIV感染の進行を阻止し、患者の予後を良好にするためには、R5-tropic HIV−1の増殖を防ぐことが重要になる。
NKT細胞は自然免疫システムに属するCD4陽性細胞である。NKT細胞はCCR5受容体を発現しており、NKT細胞に侵入し残存しているHIVは、R5-tropic HIV−1である。したがって、HIV感染者に対し、本発明のウイルス感染症治療剤をHAART療法と組み合わせて投与することにより、NKT細胞内に残存するR5-tropic HIV−1の複製を抑制することができるため、HAART療法によるHIV感染の治療効果を向上させることが可能となる。さらに、従来のHAART療法では不可能であった患者体内からのHIV粒子の完全排除も期待できる。
また本発明のウイルス感染症治療剤は、獲得免疫システムに属するCD4+ T 細胞がR5-tropic HIV−1に感染した場合にも、R5-tropic HIV−1の複製を抑制することができる。したがって本発明のウイルス感染症治療剤は、NKT細胞内に潜伏し複製し続けるウイルスを排除するだけでなく、自然免疫システム及び獲得免疫システムのいずれに属するCD4陽性細胞に対しても、R5-tropic HIV−1感染時のウイルス抑制作用を有しているため、HIV感染の治療全般に適用できる。
【0038】
本発明のVγ1Vδ1型T細胞活性化剤は、ウイルス感染者に対してウイルス感染症治療剤として投与するほか、ウイルス感染以外の免疫疾患患者に対し、Vγ1Vδ1型T細胞活性化作用を有する免疫機能調節剤として投与してもよい。
さらに本発明のVγ1Vδ1型T細胞活性化剤は、患者に直接投与しない方法で用いることもできる。例えば、本発明のVγ1Vδ1型T細胞活性化剤をインビトロでVγ1Vδ1型T細胞に添加することにより刺激した後、Vγ1Vδ1型T細胞が刺激によって活性化したことを確認した後又は確認することなく、当該Vγ1Vδ1型T細胞をウイルス感染又は何らかの免疫疾患の患者に注射等の方法で投与するという治療方法や、本発明のVγ1Vδ1型T細胞活性化剤をインビトロでVγ1Vδ1型T細胞に添加し、得られた混合物をウイルス感染又は何らかの免疫疾患の患者に注射等の方法で投与するという治療方法に用いることができる。
【0039】
3.本発明に包含される実施形態
本発明は、特に以下の実施形態を包含する。
(1)有効成分として、下記式(1)又は(2)で表される化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つのフラボノイド配糖体を含む、Vγ1Vδ1型T細胞活性化剤。
【0040】
【化8】
【0041】
[式(1)及び(2)に含まれる各符号の意味は上記したものと同じである。]
【0042】
(2)前記フラボノイド配糖体は、下記式(3)で表されるヘスペリジン、下記式(4)で表されるリナリン、及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つである、上記(1)に記載のVγ1Vδ1型T細胞活性化剤。
【0043】
【化9】
【0044】
(3)有効成分として、前記式(1)又は(2)で表される化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つのフラボノイド配糖体を含む、ウイルス感染症治療剤。
(4)前記フラボノイド配糖体は、前記式(5)で表されるヘスペリジン、前記式(6)で表されるリナリン、及び、それらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つである、上記(3)に記載のウイルス感染症治療剤。
(5)HIV感染治療に用いられる、上記(3)又は(4)に記載のウイルス感染症治療剤。
(6)逆転写酵素阻害剤及びウイルス蛋白酵素阻害剤よりなる群から選ばれる他の抗ウイルス剤と組み合わせて、HIV感染治療に用いられる、上記(3)又は(4)に記載のウイルス感染症治療剤。
(7)免疫疾患を治療するための、前記式(1)又は(2)で表される化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つのフラボノイド配糖体の使用。
(8)ウイルス感染症を治療するための、前記式(1)又は(2)で表される化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つのフラボノイド配糖体の使用。
(9)免疫疾患の治療方法であって、前記式(1)又は(2)で表される化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つのフラボノイド配糖体を、インビトロでVγ1Vδ1型T細胞と接触させた後、当該Vγ1Vδ1型T細胞を免疫疾患の患者に投与する治療方法。
(10)ウイルス感染症の治療方法であって、前記式(1)又は(2)で表される化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩又はエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1つのフラボノイド配糖体を、インビトロでVγ1Vδ1型T細胞と接触させた後、当該Vγ1Vδ1型T細胞をウイルス感染の患者に投与する治療方法。
【実施例】
【0045】
1.TCR欠陥T細胞に、Vγ1及びVδ1 TCR遺伝子を移入したT細胞クローン(1C116)及びVγ2及びVδ2 TCR遺伝子を移入したT細胞クローン(2C21)の樹立
(不死化T細胞クローンの誘導)
健康な被験者から採取した末梢血を遠心分離し、PBMCs(末梢血単核球)を得た。PBMCsを抗panγδTCR抗体(製品名 B6.1;メーカー名 BD Bioscience;所在地 アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ)で標識した後、FACS(フローサイトメトリー)を用いてγδT細胞群を選別した。
得られたγδT細胞群を、下記ベース培地中に下記成分を添加した組成の完全培地中で、1μg/mLフィトヘマグルニチン(PHP-P)(メーカー名 Sigma-Aldrich;所在地 St. Louis, MO)を用いて3日間刺激した。
ベース培地:RPMI-1640(製品名;メーカー名 Thermo Fisher Scientific;所在地 アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウオルサム)
添加成分:
10% heat-inactivated fetal calf serum (FCS)(メーカー名 Hyclone, Logan, UT)
5 mM HEPES buffer (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
100 U/ml penicillin (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
100 μg/ml streptomycin (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
2 mM L-glutamine (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
2 mM sodium pyruvate (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
2 mM non-essential amino acids (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
2 mM modified vitamins (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
0.5 μM 2-mercaptoethanol (2-ME) (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)
刺激した後のγδT細胞群を、ヘルペス サイミリ(Herpes saimiri)の488株(メーカー名 ATCC(American Type Culture Collection)から製品名VR-1396として入手可能)に感染させた後、10U/ml の組換えインターロイキン2(rIL-2)(メーカー名 塩野義;所在地 大阪、日本)存在下で培養し、安定した増殖能力を有する不死化γδT細胞群を誘導した。
得られた不死化γδT細胞群をVδ1抗体で標識し、FACS(フローサイトメトリー)を用いて選別し、不死化Vγ1Vδ1(Vδ1)T細胞クローンを分離した。この不死化T細胞クローンは、マイトゲン刺激無しで数か月間に亘り安定した増殖能力を示した。
【0046】
(プラスミドを用いたTCR-γ1 cDNA及びTCR-δ1 cDNAの増幅)
TCR-γ1とTCR-δ1の両方をエンコードする全配列cDNAを、不死化Vγ1Vδ1T細胞クローンから分離した。
TCR-γ1 cDNAは、下記センスプライマー及び下記アンチセンスプライマーを用いて増幅し、下記プラスミドに組み込んでクローン化した。
センスプライマー(配列番号1):
5’-GGCGGCGGCCGCGAAGGCATGCGGTGGGCCCT-3’
アンチセンスプライマー(配列番号2):
5’-GGGCTCGAGCTGTTATGATTTCTCTCCATT-3
プラスミド:pEF1/Myc-His A (メーカー名 Thermo Fisher Scientific;所在地 Waltham, MA)
TCR-δ1 cDNAは、下記センスプライマー及び下記アンチセンスプライマーを用いて増幅し、下記プラスミドに組み込んでクローン化した。
センスプライマー(配列番号3):
5’-GGCGGCGGCCGCCTTCAGGCAGCACAACTC-3’
アンチセンスプライマー(配列番号4):
5’-GGGCTCGAGGGAGTGTAGCTTCCTCAT-3’
プラスミド:pREP4 (メーカー名 Thermo Fisher Scientific).
【0047】
(TCR欠陥T細胞へのVγ1及びVδ1 TCR遺伝子の移入)
TCR-γ1 cDNAを組み込んだプライマー及びTCR-δ1cDNAを組み込んだプライマーの両方を、TCR欠陥Jurkat T細胞株であるJRT3-T3.5内に240〜270Vのエレクトロポレーション(electroporation)により移入した。移入処理した細胞を2日から3日間、1mg/mL のG418 sulfate(Thermo Fisher Scientific)及び0.5 mg/mL のhygromycin B(Wako Pure Chemical Industries, Osaka, Japan)を含む選択培地で培養することにより選別した。選別した細胞を、96ウエル マイクロプレート上に、限界希釈法により0.5から1細胞/ウエルとなるように撒き、分離した後、フローサイトメトリーによりγδTCR発現について分析し、Vγ1及びVδ1を移入したT細胞クローン(1C116)を樹立した。
【0048】
(PBMCsからVγ2Vδ2T細胞の分離)
Vγ2Vδ2T細胞は、骨粗鬆症治療に用いる薬剤リセドロネート(risedronate)により刺激されることが知られている。そこで、リセドロネートを用いて、PBMCs中のVγ2Vδ2T細胞を刺激、増殖させた。具体的には、次の手順を実施した。
健康な被験者から採取した末梢血を遠心分離し、PBMCs(末梢血単核球)を得た。このPBMCsを2.5 μg/mL のリセドロネート(メーカー名 Ajinomoto Pharmaceutical. Co.;所在地 Tokyo, Japan)で10U/mLのrIL-2の存在下で頻回刺激した後、Vδ2抗体で標識しFACS(フローサイトメトリー)を用いて選別し、Vγ2Vδ2(Vδ2)T細胞株を分離した。分離したVγ2Vδ2(Vδ2)T細胞株から目的とするfull-length cDNAsを得た。
【0049】
(プラスミドを用いたTCR-γ2 cDNA及びTCR-δ2 cDNAの増幅)
TCR-γ2とTCR-δ2の両方をエンコードする全配列cDNAを、Vγ2Vδ2T細胞から分離した。
TCR-γ2 cDNAは、下記センスプライマー及び下記アンチセンスプライマーを用いて増幅し、下記プラスミドに組み込んでクローン化した。
センスプライマー(配列番号5):
5’-GGGCTCGAGGACACCGCTTTACAACGA-3’
アンチセンスプライマー(配列番号6):
5’-GGGTCTAGAGTGAGGTTCTCTGTGT-3’
プラスミド: pEF1/Myc-His A.
TCR-δ2 cDNAは、下記センスプライマー及び下記アンチセンスプライマーを用いて増幅し、下記プラスミドに組み込んでクローン化した。
センスプライマー(配列番号7):
5’-GGGCTCGAGAACACTTGTGTGTTGGTTCA-3’
アンチセンスプライマー(配列番号8):
5’-GGGGGATCCAGTGTATCACTTGTAGGAG-3’
プラスミド: pREP4
【0050】
(TCR欠陥T細胞へのVγ2及びVδ2 TCR遺伝子の移入)
上記Vγ1及びVδ1 TCR遺伝子を移入する手順と同じ手順で、TCR-γ2 cDNAを組み込んだプライマー及びTCR-δ2cDNAを組み込んだプライマーの両方を、TCR欠陥Jurkat T細胞株であるJRT3-T3.5内に移入し、選別培養し、分析し、Vγ2及びVδ2を移入したT細胞クローン(2C21)を樹立した。
【0051】
2. 1C116クローン及び2C21クローンのTCRブロッキング分析、TCR‐依存刺激分析、及び、TCR‐依存刺激の反応特異性
(TCRブロッキング分析)
Vγ1及びVδ1を移入したT細胞クローン(1C116)及びVγ2及びVδ2を移入したT細胞クローン(2C21)を、抗pan-γδ-PE抗体(メーカー名 BioLegend;San Diego, CA)、及び、Vδ1-APC 抗体(メーカー名 Miltenyi Biotec GmbH, Bergisch Gladbach;所在地 Germany)、抗Vδ2-PE 抗体(メーカー名 Biolegend)、又は、抗CD3抗体と共に4℃、30分間インキュベートした後、処理した細胞を洗浄し、3% FCS 及び 0.01 M NaN3 (FACS buffer)を含有するフォスファイトバッフアーサリン(PBS)中に再懸濁した。そして、フローサイトメトリーにより細胞を分析した。
Figure 1Aに結果を示す。オープンヒストグラム(白抜きの度数分布グラフ)は各抗体で染色したことを意味しており、シェードヒストグラム(網掛けの度数分布グラフ)はアイソタイプコントロールで染色したことを意味している。
クローン1C116は、pan-γδ及びVδ1によって染色されたが、Vδ2では染色されなかった。一方、クローン2C21は、pan-γδとVδ2によって染色されたが、Vδ1では染色されなかった。したがってクローン1C116及びクローン2C21は、どちらもγδT細胞クローンであることが確認された。
【0052】
(TCR‐依存刺激分析)
1C116クローン及び2C21クローンを、抗CD3抗体500ng/mLによりPMA 100ng/mL存在下、37℃、24時間の条件で刺激し、インターロイキン2(IL-2)の分泌を試験した。
どちらのクローンもCD3を発現しており(Figure 1A)、抗CD3抗体によりPMA存在下で刺激したときにIL-2を分泌した(Figure 1B)。したがって、これらのγδT細胞クローンから分泌されるIL-2の量は、TCR‐依存刺激の優れた指標になると考えられた。
【0053】
(TCR‐依存刺激の反応特異性)
イソペンテニル ピロフォスフェート(IPP)、エチルアミン、プロピルアミン又はブチルアミンのような様々なタイプのアルキルアミン、及び、骨粗しょう症の治療に用いるリセドロネート(Risedronate)のようなアミノ−ビスフォスフォネートが、Vγ2Vδ2T細胞を刺激することが、すでに知られている。そこで、1C116クローン及び2C21クローンを、IPP、エチルアミン及びリセドロネートを用いて刺激し、反応性の相違を試験した。
96ウエルU-bottom 組織培養プレートの各ウエルに200 μL の 完全培地(CCM)を入れた。CCMを満たした各ウエルに、1×105個の1C116クローン又は2C21クローンを撒き、下記被験化合物又は基材コントロール(vehicle control)であるジメチルスルホキシド(DMSO)のいずれかと共に、PMA100ng/mL存在下、37℃、24時間の条件でインキュベートした。インキュベート後、培地の上清を採取し、ELISAキット(メーカー名 BD Biosciense;所在地 San Diego, CA)を用いてIL-2の濃度を分析した。
<被験化合物>
0から1000 μM のイソペンテニル ピロフォスフェート(isopentenyl pyrophosphate (IPP)) (メーカー名 Sigma-Aldrich)
0から2000 μM のリセドロネート(risedronate)(メーカー名 Ajinomoto Co. Ltd;所在地 Tokyo, Japan)
0から33.5 μM のエチルアミン(ethylamine)(メーカー名 Sigma-Aldrich)
Figure 1Cに示したように、クローン2C21が、IPPによる刺激されIL-2を分泌するが、クローン1C116はIL-2を分泌しなかった。同様に、クローン2C21は、エチルアミンによって刺激されIL-2を分泌するが、クローン1C116はIL-2を分泌しなかった(Figure 1D)。また、クローン2C21は、リセドロネートにより刺激されIL-2を分泌するが、クローン1C116はIL-2を分泌しなかった(Figure 1E)。
これらの結果は、クローン2C21は、γ2δ2刺激性の抗原分子によってVγ2Vδ2 TCRを介して特異的に刺激されるが、クローン1C116は、Vγ1Vδ1 TCRを有し、Vγ2Vδ2 TCRを有しないため、クローン2C21とは異なる反応特異性を有していることを示している。
【0054】
3.クローン1C116 及びクローン2C21に対する刺激活性に関するフラボノイド配糖体のスクリーニング
幾つかの植物代謝産物が生理活性を有していることが知られている。近年、そのような天然化合物は、「フィトケミカルズ(phytochemicals)」と呼ばれている。そこで本発明者らは、C6-C3-C6構造を有する植物由来の芳香性化合物であるフラボノイドの、クローン1C116 及び2C21に対する刺激活性についてスクリーニングを実施した。
上記の試験「TCR‐依存刺激の反応特異性」と同様の方法で、本試験を実施した。すなわち、96ウエルU-bottom 組織培養プレートの各ウエルに200 μL の 完全培地(CCM)を入れた。CCMを満たした各ウエルに、1×105個の1C116クローン又は2C21クローンを撒き、下記被験化合物又は基材コントロール(vehicle control)であるジメチルスルホキシド(DMSO)のいずれかと共に、PMA100ng/mL存在下、37℃、24時間の条件でインキュベートした。インキュベート後、培地の上清を採取し、ELISAキット(メーカー名 BD Biosciense, San Diego, CA)を用いてIL-2の濃度を分析した。
<被験化合物>
0から100 μg/mL の各フラボノイド
被験フラボノイドは次のとおりである:ケルセチンquercetin、イソケルセチン isoquercitrin、 ハイペロサイドhyperoside、ガランギン galangin、カンフェノール、モリン morin、ミリセチン myricetin、ヘスペレチン hesperetin、ヘスペリジン hesperidin、アカセチン acacetin、リナリン linarin、及び、イソルフォリン isorhoifolin(これら全ての供給会社 Extrasynthese, Lyon, France)
各被験化合物の化学構造を以下に示す。
【0055】
【化10】
【0056】
(試験結果)
スクリーニング試験の結果を下記Table 1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
Table 1に示したように、幾つかのフラボノイドは、クローン1C116を刺激し、多量のIL-2を分泌させた。これに対し、いずれのフラボノイドも、クローン2C21は刺激しなかった。
特に、ルチノースと呼ばれる6-O-α-L-rhamnosyl-D-glucose 構造の二糖体がA環上に置換し、かつ、メトキシ基(−OCH3)がB環上に置換しているもの、例えば、ヘスペリジンやリナリンは、クローン1C116のIL-2分泌に関し強い刺激活性を示した(Figure 2A)。このような刺激活性が、抗‐γδ TCR特異的抗体を用いた処理によって完全に失われた事実は、フラボノイド配糖体の認識がVγ1Vδ1 TCRを介して開始されたことを強く示している(Figure 2B)。
また、ヘスペリジンからルチノースを取り除いた構造を持っているヘスペレチン、又は、リナリンからルチノースを取り除いた構造を持っているアカセチンは、クローン1C116からIL-2を分泌させないか又は弱い分泌のみ示した(Figure 2A)。
また、フラボノイドのA環上に二糖体であるルチノースが置換していても、イソロイフォリン(isorhoifolin)のようにB環上にメトキシ基(−OCH3)がB環上に置換していない場合には、クローン1C116からのIL-2分泌が観察されなかった(Figure 2A)。
これらの知見を総合すると、Vγ1及びVδ1 TCR遺伝子を移入したクローン1C116は、A環上のルチノースとB環上のメトキシ基(−OCH3)の両方を有しているフラボノイド配糖体によって、Vγ1Vδ1 TCRを介して特異的かつ強力に刺激されることを明らかに示している。さらに、ヘスペリジン及びリナリンは、クローン1C116に対し、極めて顕著な刺激活性を示した。
よって本発明者らは、ヘスペリジン及びリナリンに着目し、これらのフラボノイド配糖体が、Vγ1δ1-TCR-発現γ1δ1 T細胞の活性化作用を介して、CD4+ NKT細胞内におけるR5-type HIV-1の複製を抑制するか否かについて検討を進めた。
【0059】
4.ヒト由来天然γ1δ1T細胞に対するフラボノイド配糖体の刺激活性分析
フラボノイド配糖体に属する化合物群の一部が、Vγ1及びVδ1 TCR遺伝子を移入したT細胞クローン1C116に対し刺激活性を有することが上記スクリーニング試験によって示された。そこで、スクリーニングニング試験においてVγ1Vδ1 TCRに特異的な刺激活性を示したフラボノイド配糖体が、Vγ1Vδ1 TCR遺伝子移入体クローンと同様に、ヒト由来天然γ1δ1 T細胞に対しても刺激活性を有するか否か検討した。
【0060】
健康な被験者から採取した末梢血を遠心分離し、PBMCs(末梢血単核球)を得た。PBMCsを、Cell Trace CFSE Cell Proliferation Kit (carboxy-fluorescein diacetate succinimidyl ester (CFDA-SE, also known as CFSE)) (メーカー名 Thermo Fisher Scientific)を用いて標識した。
次に、48ウエルプレートの各ウエルに、0.5 mL の完全培地(CCM)を入れた。CCMは、RPMI-1640 (製品名;メーカー名 Thermo Fisher Scientific)に、5% AB ヒト血清(メーカー名 Biowest Nuaille; 所在地France)及び100 U/mL 組換えIL-2 (メーカー名 Shionogi)を添加した組成を有する。CCMを満たした各ウエルに、標識したPBMCsを撒き、100 μg/mL のヘスペレチン(hesperetin)、ヘスペリジン(hesperidin)、アカセチン(acacetin)又はリナリン(linarin)と共に、又は0.01%の ジメチルスルホキシド(DMSO:vehicle control)と共に、14日間培養した。
培養後、PBMCsを抗Vδ1-APC抗体(メーカー名 Miltenyi Biotec GmbH;所在地 Bergisch Gladbach, Germany)、又は、抗CD25-PE/Cy7抗体(メーカー名 Biolegend)と共に、4℃、30分間インキュベートした。 そして、インキュベートしたPBMCsを洗浄し、3% FCS 及び 0.01 M NaN3 (FACS buffer)を含有する PBS 中に懸濁し、フローサイトメトリーにより分析した。
【0061】
Figure 3Aの上段のグラフは、培養後のPBMCsに抗Vδ1-APC抗体を反応させてフローサイトメトリーにより分析した結果であり、PBMCs中に存在するγ1δ1T細胞に対する各被験化合物の増殖活性を示している。Figure 3Bの向かって左側のグラフはFigure 3A上段の化合物ごとの結果を一つのグラフにしたものである。非刺激コントロ−ル又はDMSO(vehicle control)と比較すると、ヘスペレチン及びアカセチンはPBMC s中に存在するγ1δ1 T 細胞を有意に増加させなかったが、ヘスペリジン及びリナリンはPBMC s中に存在するγ1δ1 T 細胞の数を増加させることができた。
また、Figure 3Aの下段は、培養後のPBMCsに抗Vδ1-APC抗体及び抗CD25-PE/Cy7抗体を反応させてフローサイトメトリーにより分析した結果であり、PBMCs中に存在するγ1δ1T細胞に対する各被験化合物のCD25発現量を示している。Figure 3Bの向かって右側のグラフはFigure 3A下段の化合物ごとの結果を一つのグラフにしたものである。非刺激コントロ−ル又はDMSO(vehicle control)と比較すると、ヘスペレチン及びアカセチンはPBMC s中に存在するγ1δ1 T 細胞のCD25発現を優意に増強させなかったが、ヘスペリジン及びリナリンはPBMC s中に存在するγ1δ1 T 細胞のCD25発現を有意に増強させた。
【0062】
5.ヘスペリジン及びリナリンにより刺激したヒト由来天然γ1δ1 +T 細胞からのサイトカイン及びケモカイン分泌プロファイル
上記実験により、ヘスペリジン及びリナリンが、ヒト由来天然γ1δ1T細胞に対して刺激活性を有することが示された。
一般に免疫系細胞は、サイトカイン分泌による宿主細胞間の免疫調節及びケモカイン分泌による外来微生物に対する免疫調節を行っている。 本発明者らは、Vγ1Vδ1 T+ 細胞により分泌されるCCL3 (MIP-1α)、 CCL4 (MIP-1β) 、及び、CCL5(RANTES)のようなケモカインは、CD4+ NKT 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を抑制すると考えられることを以前に報告している。さらに本発明者らは、NL(AD8)-感染 CD4+ NKT 細胞上に高度に発現したMICA/MICB を介してVγ1Vδ1 T 細胞が活性化することについて以前に報告している。
そこで本発明者らは、ヘスペリジン又はリナリンにより刺激されたVγ1Vδ1 T 細胞が、サイトカイン及びケモカインを分泌するか否かを検討した。
【0063】
健康な被験者から採取した末梢血を遠心分離し、PBMCs(末梢血単核球)を得た。PBMCsに、Vδ1-APC 抗体(メーカー名 Miltenyi Biotec GmbH, Bergisch Gladbach;所在地 Germany)を反応させ、フローサイトメトリー法により、γ1δ1T 細胞を選別した。
選別されたVδ1T 細胞(Vγ1Vδ1 T 細胞に代表される細胞群)を、1 x 106個/mL のirradiated PBMCsを含有する2 μg/mL PHA(メーカー名 Sigma-Aldrich) と共にインキュベートした。それから、24ウエル培養プレートの各ウエルに、5% AB ヒト血清(メーカー名 Biowest Nuaille;所在地 France)、及び、100 U/mL 組換えIL-2(メーカー名 Shionogi;所在地 Osaka, Japan)を添加した完全培地(CCM)を入れ、各ウエルに、あらかじめインキュベートしたVδ1T 細胞を撒き、3日から4日ごとに培地を半分ずつ交換しながら、14 日間培養した。
14日間に亘り上記の初期培養を行った後、Vδ1T 細胞を、1 x 106個/mL のirradiated PBMCsを含有する2 μg/mL PHA (メーカー名 Sigma-Aldrich) を用いて再刺激し、さらに引き続き、上記と同じ方法により培養した。Vδ1T 細胞の再刺激は、実験に使用する少なくとも7日前に開始した。
再刺激を完了させたVδ1T 細胞を、以下の手順によりヘスペリジン又はリナリンで刺激し、サイトカイン及びケモカインのプロファイルを検討した。
【0064】
ラウンドボトム(round-bottom)型96ウエルプレートの各ウエルに、200μl の完全培地(CCM)を入れた。CCMは、5% AB ヒト血清(メーカー名 Biowest Nuaille; 所在地France)及び100 U/mL 組換えIL-2 (メーカー名 Shionogi)を添加した組成を有する。CCMを満たした各ウエルに、5 x 10個/mL のVγ1T 細胞を撒き、25ng/mLのPMAと共に、1μg/mLのイオノマイシン(ionomycin)、又は、10、30、100μg/mLいずれかの量のヘスペリジン、前記と同量のリナリン、又は、0.01、0.03、0.1%のジメチルスルホキシド(DMSO:vehicle control)のいずれかを添加し、培養した。48時間後、150μl の培地上清を各ウエルから採集し、
サイトカイン及びケモカインの測定まで−80℃で保存した。
多種類のサイトカイン(IFN-γ、IL-4、IL-5、IL-10、IL-13、IL-17A)を定量するために、BD CBA キット(BD CBA kit;「BD」は登録商標;メーカー名 BD Bioscience)、及び、FACSCanto II(製品名;メーカー名 べクトンディッキンソン)さらに、サイトカインのうち、IL-5の量は、BD CBA キットとIL-5 ELISA kit(メーカー名 R&D Systems;所在地 Minneapolis, MN)を用いて測定し、IL-13の量は、BD CBA キットとIL-13 ELISA kit(メーカー名 ThermoFisher)を用いて測定した。また、MIP-1α、MIP-1β、RANTESなどのケモカインは、それぞれのELISA kit(メーカー名 R&D Systems)を用いて定量した。
【0065】
Figure 4AはPBMCsからVγ1Vδ1-TCR 発現T 細胞を選抜した過程及び結果を示したグラフである。Figure 4Aの左側に示すように、PBMCs中に、Vδ1 T 細胞は0.47%含まれており、そこからFigure 4Aの右側に示すようにVδ1 T 細胞を選別した。
ヘスペリジン又はリナリンで刺激したVγ1Vδ1 T 細胞の上清中に観察される主要なサイトカインは、意外にもIL-5 及びIL-13であり、刺激されていない通常状態 のlymphocytes 2 (ILC-2)に良く似た挙動であった。IL-5 及びIL-13は、アレルギー反応時や感染時に分泌されることが知られている。しかし、大多数のγδ T 細胞が分泌する主要なサイトカインであることが知られているIL-17 及び IFN-γは観察されないことを発見した(Figure 4B)。
さらに、ヘスペリジン及びリナリンの量を3段階(10 μg/mL, 30 μg/mL, 100 μg/mL)に変えて効果の差を検討し、サイトカインとケモカインの分泌量を測定した。DMSO(vehicle control)と比較すると、ケモカインであるMIP-1α、MIP-1β、及び、RANTESの分泌量が大きくなり、サイトカインであるIL-5及び IL-13の分泌量も大きくなった(Figure 4C)。
これらの結果により、PBMCs中に存在するヒト由来天然γ1δ1T細胞は、ヘスペリジンやリナリンのようなフラボノイド配糖体により刺激されると、サイトカイン及び/又はケモカインを分泌して免疫調節を行うことが確認された。
また、ヘスペリジン及びリナリンにより刺激されたγ1δ1T細胞から分泌されたケモカインは、CD4+ NKT 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を抑制すると考えられることから、ヘスペリジンやリナリンのようなフラボノイド配糖体により刺激されたヒト由来天然γ1δ1T細胞は、CD4NKT 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を抑制することが示唆された。
【0066】
6.ヘスペリジン及びリナリンにより活性化されたヒト由来天然γ1δ1T 細胞を介するCD4ナチュラルキラーT(CD4NKT)細胞内でのR5-type of HIV-1複製の抑制
上記実験によって、ヘスペリジンやリナリンのようなフラボノイド配糖体により刺激されたヒト由来天然γ1δ1T細胞は、CD4NKT 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を抑制することが示唆された。
上記示唆を踏まえ、本発明者らは、R5 type HIV-1に感染させたCD4NKTに、ヒト由来天然γ1δ1T細胞の存在下でヘスペリジン又はリナリンを添加したときに、被感染CD4NKT内のHIV-1ウイルス複製を抑制する否か検討した。
NKT 細胞を誘導するために、2 x 10のPBMCsを含有する1 mL の完全培地(CCM)中に、20 ng/ml のα‐ガラクトシルセラミド(α-GalCer)(製品名 KRN7000:メーカー名 Funakoshi Co., Ltd.,;所在地 Tokyo, Japan)を添加した。7日後、培地の半分を、20 U/ mL のIL-2(メーカー名 Shionogi)を含有し、かつ、α-GalCerを含有しない新しいCCMに置換した。この培養スキームにより、ヒトPBMCsからCD4Vα24NKT 細胞が誘導された(Figure 5A、向かって左のグラフ)。
誘導されたCD4+ Vα24NKT 細胞を、20 U/mL のIL-2を含有する完全培地(CCM)中で、2 μg/mL の PHAを用い、3日間刺激した。引き続き、上記のPHA刺激CD4Vα24type-I NKT 細胞を洗浄して遊離PHAを除去した。洗浄後、1 - 2 X 10個の細胞を、30 μg/mL のDEAE-Dextran(メーカー名 Sigma-Aldrich)の存在下、感染多重度0.1(0.1 MOI)、且つ、37℃で2時間の条件で、NL(AD8) HIV-1 (R5-type)に感染させた。ここで感染多重度(MOI:Multiplicity of infection)とは、感染を受ける細胞に対する感染性ウィルスの比率であり、0.1 MOIは、10細胞に対しウィルス粒子1つを培養することを意味する。
【0067】
ベース培地であるRPMI-1640 (製品名;メーカー名 Thermo Fisher Scientific;所在地 アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウオルサム)に2% FCS を含有させた培地を調製した。このベース培地を用いてNL(AD8)-感染NKT 細胞を3回繰り返し洗浄した。洗浄後の細胞を、ラウンドボトム(round-bottom)型 96-ウエルプレートを使用し、20 U/ml のIL-2を含有する培地中でインキュベートした。
そして、2 x 10個のNL(AD8)-感染NKT 細胞を、ラウンドボトム(round-bottom)型96-ウエルプレートを使用し、20 U/mL のIL-2を含有する200 μl の CCM 中で、1 x 10個のVδ14細胞の存在下で、又は、非存在下培養した。培養を行う際に、3, 10 又は 30 μg/mL のヘスペリジン、又は、3, 10 又は 30 μg/mL のリナリン、又は、0.003, 0.01 又は 0.03% DMSO (vehicle control)をプレートの各ウエルに添加した。
培養開始後4日目に100 μlの培地上清を各ウエルから採集し、p24 抗原の測定まで−80℃で保存し、ELISA kit(メーカー名 Sino Biological;所在地 Beijing, China)を用いて測定した。
【0068】
培地中のヘスペリジン又はリナリンの添加量が100 μg/mLを超えるとNKT細胞の成長が停止したことから、ヘスペリジン及びリナリンの量が100 μg/mLを超えると毒性をもつことが示され、これは予想外の結果であった(Figure 5Aの向かって右側のグラフ)。
細胞生存率の評価については、上記の培養スキームにより、ヒトPBMCsから誘導されたCD4Vα24NKT 細胞(1X10個)を、3, 10, 30又は100 μg/mL のヘスペリジン、又は、3, 10, 30又は100μg/mL のリナリン、又は、0.003, 0.01 又は 0.03% DMSO (vehicle control)と共に3日間培養した。培養後、トリパンブルーエクスクルージョン試験(trypan blue exclusion test)により、細胞生存率を計算した。
Vδ1T細胞をヘスペリジン又はリナリンにより刺激すると、R5-HIV-1-NL(AD8) ウイルスの存在を示すp24抗原の検出量が明らかに減少したことが観察され、これらのフラボノイド配糖体が、CD4NKT 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を用量依存的に有意に抑制した(Figure 5B内の黒色バー)。
Vδ1+ T細胞を含まない培地を用いた場合に、フラボノイド配糖体添加群において測定可能レベルのウイルス複製抑制が観察されたことから、フラボノイド配糖体それ自体がある程度のウイルス複製抑制作用をもつことも示された(Figure 5B内の白色バー)。
【0069】
7.ヘスペリジン及びリナリンにより活性化されたヒト由来天然γ1δ1+ T 細胞を介するCD4+T細胞内でのR5-type of HIV-1複製の抑制
上記実験によって、ヘスペリジンやリナリンのようなフラボノイド配糖体により刺激されたヒト由来天然γ1δ1T細胞は、CD4NKT(ナチュラルキラーT)細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製を抑制することが示唆された。
そこで本発明者らは、ヒト由来天然γ1δ1T細胞をヘスペリジン又はリナリンで刺激したときに、CD4NKTと同様に、CD4T 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) の複製についても阻害するか否かを検討した。
PBMCsから誘導されたCD4T 細胞を、CD4NKTに対して実施した上記手順と同じ手順で、NL(AD8) HIV-1 (R5-type)に感染させた。得られたNL(AD8)-感染CD4T 細胞を、上記と同じ手順でヘスペリジン又はリナリンと共に培養した。そして、培養開始後4日目に、培地上清中に存在するp24 抗原を測定した。
我々は、ヘスペリジン又はリナリンにより活性化されたVδ1T 細胞は、CD4T 細胞内におけるR5-HIV-1-NL(AD8) ウイルス複製についても有意に抑制したことを観察した(Figure 5C)。
これらの知見を総合的に検討すると、Vδ1+ T細胞は、ヘスペリジン及びリナリンのようなフラボノイド配糖体により活性化したときに、CD4NKT 細胞内におけるR5 tropic HIV-1 複製を抑制するだけでなく、CD4T 細胞内におけるR5 tropic HIV-1 複製も抑制することが示唆される。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]