(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、54質量部以上80質量部以下で含む、請求項1に記載の塗料組成物。
前記ワックス(D)は、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリプロピレン、マイクロクリスタリン、酸化マイクロクリスタリン、脂肪酸アマイド、及びカルナバワックスからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の塗料組成物。
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)を、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、10質量部以上25質量部以下で含み、並びに
前記ワックス(D)を、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、固形分で0.5質量部以上5.0質量部以下含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の塗料組成物。
前記骨材(E)が、アクリル樹脂粒子、ガラスビーズ、アクリロニトリル樹脂粒子、尿素樹脂粒子、セラミック繊維及びシリカ粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の塗料組成物。
金属板の少なくとも一方の面に、請求項1から8のいずれか1項に記載のプレコート金属板用塗料組成物を、硬化後の膜厚が10μm以上25μm以下となるよう塗装する工程、
前記プレコート金属板用塗料組成物を、前記金属板の到達温度が230℃以上270℃以下であり、乾燥及び硬化時間が20秒以上120秒以下の条件下で、乾燥及び硬化させる工程を含む、
プレコート金属板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に至った経緯を説明する。
プレコート金属板は、上述のように、シャッター、雨戸、ドア、屋根及びサイディング等の建築部材にも多用されている。建築部材のうち、例えば、ビル、住宅の出入口部等の開口部に設けられるシャッターは、プレコート金属板、例えば、プレコート鋼板、プレコートアルミ板から構成される複数のスラットと呼ばれる短冊状の部材を、各長辺部に形成される連結部を介して可動できるように、相互に連結した構造を有している。シャッターは、構造上、開閉時に、隣り合うスラット同士を連結している部材を軸にして折りたたまれ、隣り合うスラット同士の表面と裏面とが繰り返し摺動して擦り合わされる。そのため、シャッターを使用するうちに、繰り返しの摺動による摩耗によって、スラット表面に傷が発生し、及び/又は塗膜自体が摩耗(損耗)し、外観を損ねるだけでなく、錆の発生原因となったり、摺動性及び/又は静音性が悪化したり等の問題が生じている。
同様に、他の建築部材についても、繰り返しの摺動による摩耗と同様に、部材同士の接触により生る傷及び塗膜自体の損耗に起因する問題を有している。例えば、屋根材及び内外壁材等は、プレコート金属板製造時や成型された部材の輸送時に、部材同士の接触(擦り合せ)による傷、塗膜の損耗が生じ得る。また、屋根等は、部材が相互に重なるように配置されており、風雨等により、部材同士の接触面における傷、塗膜の損耗が生じ得る。
【0012】
更に、砂塵等に起因する傷付きを防止できる性質(耐砂塵傷付き性)が要求されている。例えば、砂塵に起因する傷は、比較的硬い粒状物である砂の噛み込みによる傷、風による砂埃の飛散等、衝撃に起因する傷、砂が付着した状態で部材同士が擦り合わされることにより発生する傷等を含むので、従来要求されてきた耐傷付き性よりも、更に高い傷付き防止性能を備える必要がある。
例えば、砂塵の飛来に起因する傷等、金属板、例えば、鋼板素地まで到達し得る傷の発生を抑制する塗膜物性が求められている。
【0013】
このように、プレコート金属板用塗料組成物において、特定の理論に限定して理解すべきでは無いが、通常の使用により生じる傷、繰り返しの摺動による摩耗、及び砂塵等に起因する傷等、様々な条件で傷及び摩耗が生じ得る。これらは、一言で傷、摩耗等と称されているが、その発生のメカニズムは多岐に亘る。このため、本発明者等は、種々の傷と摩耗を低減、予防できる塗膜形成可能な塗料組成物の開発を試みた。
【0014】
プレコート金属板用塗料組成物で汎用されている、ポリエステル系樹脂にワックスを含む塗料組成物では、塗膜の摩耗性、摺動性向上のため、樹脂を硬く、かつ、ワックス含有量を高くする必要がある。しかし、この様な組成物において、ポリエステル系樹脂では、樹脂の硬度化に限界があり、また、ワックスを塗料組成物中に大量に配合すると、塗料組成物の貯蔵安定性等、安定性を低下させてしまうという問題がある。
【0015】
一方、ポリエステル系樹脂に代わり、ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂とを含むマトリックス樹脂からなる塗料組成物も検討されている。しかし、既知の塗料組成物は、耐候性、耐摩耗性、更に砂塵付着時の耐傷付き性(耐砂塵傷付き性)が不十分である。
例えば、従来のプレコート金属板用塗料組成物の場合、耐傷付き性の向上を試みるために、ポリフッ化ビニリデン樹脂の添加量を少量に抑える必要がある。その結果、得られる塗膜の耐候性等の耐久性が悪くなる傾向がある。
また、耐摩耗性、耐傷付き性の向上を試みると、アクリル樹脂の配合量を多くする必要がある。しかし、アクリル樹脂の配合量が多くなると、得られる塗膜の耐候性が悪くなるといったトレードオフの問題を有している。
更に、近年においては、より長期にわたる耐久性も要求されているので、機械的物性を向上させるために耐候性を犠牲にすることは望ましくない。
【0016】
そこで、本発明者等は鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は、所定の組成を有することで、塗料組成物は、アクリル樹脂含有量が比較的低く、ポリフッ化ビニリデン樹脂の添加量を比較的多く含むことも可能であり、耐摩耗性、特に繰り返し使用時の耐摩耗性及び摺動性を確保できる塗膜を形成できる。その上、良好な耐候性を有することができるので、トレードオフの関係にあった物性をバランスよく有することができる。
更に、本発明の塗料組成物であれば、従来から要求されている性能を良好に満たすだけで無く、近年注目されている耐砂塵傷付き性を向上させることができる。
【0017】
本発明によると、上述した効果を含めて種々の効果を有する塗膜を形成できる。例えば、優れた加工性、優れた意匠性、耐候性、耐食性及び耐傷付き性等、プレコート金属板用塗料組成物に対して、従来から要求されている性能を満たすことができる。
その上、塗膜の摩耗防止(損耗防止)、繰返し摺動による塗膜の摩耗防止性等と関係する耐摩耗性を良好に有する。特に、本発明によると、繰り返し使用時の耐摩耗性に優れた塗膜を形成できるので、繰り返して摺動させる部材であっても、塗膜の摩耗、損耗による
塗膜外観の劣化、耐食性の低下等を抑制できる。
【0018】
また、従来、フッ素系樹脂を含む塗料組成物において、十分な効果を得ることができなかった耐砂塵傷付き性について、所定の組成を有する本発明は、優れた耐砂塵傷付き性を有する塗膜を形成できる。
このため、本発明は、比較的硬い粒状物である砂、小石等の噛み込みによる傷だけでなく、風による砂埃の飛散等、衝撃を伴う外的要因に起因し得る傷に対する耐性が向上した塗膜を形成できる。
【0019】
更に、本発明は、優れた摺動性を有する塗膜を形成できる。例えば、部材同士の抵抗が少なく、プレコート金属板に良好な滑り性をもたらすことができる。このため、例えば、金属板、例えば、鋼板がシャッタースラットである態様において、シャッター部材の良好な巻き取り性、静音性等をもたらすことができる。
【0020】
また、塗膜の耐傷付き性が大幅に向上した結果、金属板、例えば、鋼板の表面のみに本発明に係る塗料組成物を塗装し、裏面には、より安価な金属板用塗料組成物を塗装できるので、プレコート金属板のコスト上昇を抑制できる。
以下、本発明の塗料組成物について説明する。
【0021】
本開示に係るプレコート金属板用塗料組成物は、
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と、
アクリル樹脂(B)と、
ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)と、
ワックス(D)と、
骨材(E)と、
溶剤(F)とを含み、
前記アクリル樹脂(B)は、少なくとも1種の熱硬化性アクリル樹脂を含み、及び、
前記溶剤(F)は、ケトン構造を有する溶剤(F−1)を含み、
前記溶剤(F−1)は、沸点が180℃以上である、
プレコート金属板用塗料組成物である。
【0022】
本開示の塗料組成物は、塗膜形成樹脂として、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と、
アクリル樹脂(B)とを含む。本開示の塗料組成物であれば、上記塗膜形成樹脂を含むことにより、繰り返し摩耗性及び耐砂塵傷付き性の低下を抑制しながら、耐候性の向上をもたらすことができる。
【0023】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)は、フッ化ビニリデンの単独重合体、又は主成分であるフッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体であってよい。ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を含むことで、得られる塗膜に耐候性を付与できる。更に、本発明の塗料組成物であれば、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を用いることにより、特に、繰り返し摩耗性及び耐砂塵傷付き性の低下を抑制しながら、耐候性の向上をもたらすことができる。
【0024】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)は、例えば、高温高圧下でラジカル重合開始剤等を用いた重合により得ることができる。前記他のモノマーは、エチレン性炭素−炭素二重結合を有するモノマーであれば特に限定されない。他のモノマーがフッ素原子を含有していると、共重合体の耐候性がより向上する。このため、他のモノマーとしては、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン等のフッ素含有モノマーが好ましい。
【0025】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)は、カルボキシル基、スルホン酸基等の官能基が導入されていてもよい。ある態様において、本発明のポリフッ化ビニリデン樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体である。フッ化ビニリデンの単独重合体であることにより、良好な耐候性と塗料組成物の安定性(例えば、貯蔵安定性)をバランスよく備え得る。
【0026】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)は、例えば、重量平均分子量が100,000以上700,000以下、例えば、150,000以上500,000以下、150,000以上400,000以下である。
なお、本明細書中において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による測定値をポリスチレン標準で換算した値である。
【0027】
ある態様において、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)は、融点が140℃以上190℃以下であり、例えば、150℃以上180℃以下である。
【0028】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)は、市販のものを使用してもよい。例えば、HYLAR5000(ソルベイ社製)、Kynar500(カイナー500)(アルケマ社製)等を例示できる。
【0029】
ある態様において、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、54質量部以上80質量部以下で含む。
別の態様において、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、60質量部超80質量部以下で含み、例えば、60質量部超75質量部以下で含む。
ある態様において、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、60.1質量部以上75質量部以下で含み、例えば、60.1質量部以上72質量部以下で含む。
【0030】
所定の組成を有する本発明の塗料組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を上記関係で含むことにより、耐候性を十分に確保でき、更に、耐傷付き性、耐摩耗性、耐砂塵傷付き性及び優れた摺動性を有する塗膜を形成できる。特に、従来は、困難であった、耐候性と耐傷付き性とを共に向上させることができる。
また、本発明に係る所定の溶剤を用いるので、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を良好に溶解させることができ、塗料組成物の貯蔵安定性を長期に亘り維持できる。
【0031】
アクリル樹脂(B)
本発明の塗料組成物は、アクリル樹脂(B)を含むことにより、塗膜の表面硬度を高めることができ、耐食性、耐傷付き性をより高めることができる。また、耐候性を大幅に低下させることなく、塗料組成物中に含み得る着色顔料の分散性を高め、意匠性の高い塗装金属板を製造することができる。
更に、本発明に係るアクリル樹脂(B)は、少なくとも1種の熱硬化性アクリル樹脂を含む。熱硬化性アクリル樹脂を含むことで、優れた加工性を維持しつつ、耐摩耗性、耐候性、耐水性、耐薬品性等を付与できる。また、経時による加工性の低下、及び加工時に発生する熱による加工性の低下を抑制することができる。
【0032】
ある態様において、本開示の塗料組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、アクリル樹脂(B)を、20質量部以上45質量部以下で含む。
【0033】
ある態様において、本開示の塗料組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、アクリル樹脂(B)を、20質量部以上46質量部以下で含み、例えば、20質量部以上40質量部以下で含む。別の態様において、本開示の塗料組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、アクリル樹脂(B)を、25質量部以上40質量部以下で含み、例えば、25質量部以上39.9質量部以下で含む。別の態様において、28質量部以上39.9質量部以下で含む。
【0034】
例えば、本開示に係るアクリル樹脂(B)が、熱硬化性アクリル樹脂から構成される場合、本開示の塗料組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、熱硬化性アクリル樹脂、すなわち、熱硬化性アクリル樹脂を、20質量部以上46質量部以下で含み得る。ある態様において、本開示の塗料組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、熱硬化性アクリル樹脂を、25質量部以上39.9質量部以下で含み、例えば、28質量部以上39.9質量部以下含む。
【0035】
ある態様において、アクリル樹脂(B)は、2種以上の熱硬化性アクリル樹脂を含んでもよい。2種以上の熱硬化性アクリル樹脂を含む態様において、本開示の塗料組成物は、熱硬化性アクリル樹脂の合計が、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、20質量部以上46質量部以下で含まれるよう、配合量を適宜調整できる。同様に、上記範囲内で、配合量を適宜調整できる。
【0036】
ある態様において、アクリル樹脂(B)が2種以上のアクリル樹脂を含む態様において、少なくとも1種は熱硬化性アクリル樹脂であり、他は熱可塑性アクリル樹脂であってもよい。
アクリル樹脂(B)が熱硬化性アクリル樹脂と、熱可塑性アクリル樹脂とを含む場合、本開示の塗料組成物は、熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂のそれぞれの固形分の合計100質量部に対して、熱硬化性アクリル樹脂が、20質量部以上、好ましくは30質量部以上となるように調整され得る。熱硬化性アクリル樹脂と熱可塑性アクリル樹脂の割合が上記範囲内であることで、上述した熱硬化性アクリル樹脂の利点に加えて、得られる塗膜の加工性を更に向上させる効果がある。
【0037】
ある態様において、アクリル樹脂(B)が2種以上のアクリル樹脂を含む場合、少なくとも1種は熱硬化性アクリル樹脂であり、他は熱可塑性アクリル樹脂である。熱硬化性のアクリル樹脂と、熱可塑性アクリル樹脂とを有することで、上述した、熱硬化性アクリル樹脂を含むことで奏される利点に加えて、加工性を良好にできる。更に、下塗り塗膜との密着性を良好にできる。その結果、プレコート金属板が既知の下塗り塗膜を有する態様であっても、本開示の塗料組成物は良好な密着性を有することができる。
【0038】
本開示において、熱硬化性アクリル樹脂は、熱(例えば140℃以上)を加えることにより、重合・硬化反応が起こり得るアクリル系モノマーの共重合体を含む樹脂を意味する。ある態様において、熱硬化性アクリル樹脂は、160℃以上の温度、例えば200℃以上の熱を加えることにより、重合・硬化反応が起こり得る。
また、選択する樹脂の構造応じて、架橋剤を用いてもよい。
なお、本開示に係る熱硬化性アクリル樹脂には、上記温度以上で、樹脂単独でゲル化が進行する樹脂も含まれる。
【0039】
ある態様において、熱硬化性アクリル樹脂は、N−ヒドロキシアクリルアミド、N−アルコキシアクリルアミド、N−アルキロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のモノマー成分を共重合させた自己架橋型のアクリル樹脂であってもよく、ヒドロキシル基等の置換基を有するアクリル系モノマーと、メラミン等の架橋剤とを併用することにより架橋する硬化剤併用型のアクリル樹脂であってよい。
【0040】
一方、本開示において、熱可塑性アクリル樹脂は、熱硬化性アクリル樹脂以外のアクリル樹脂を意味する。通常、熱可塑性アクリル樹脂は、ガラス転移温度又は融点に達すると軟化する。
【0041】
例えば、アクリル樹脂(B)は、上記モノマーの他に、水酸基含有モノマー(b−1)及び他のモノマー(b−2)を共重合することによって調製できる。
水酸基含有モノマー(b−1)として、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3−ジヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、これら水酸基含有の(メタ)アクリル酸エステルとε−カプロラクトンとの反応物及びポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物等が挙げられる。更に、上記多価アルコールと、(メタ)アクリル酸とのモノエステル化物にε−カプロラクトンを開環重合した反応物を用いることもできる。これらの水酸基含有モノマー(b−1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0042】
他のモノマー(b−2)として、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の、カルボキシル基含有モノマー及びマレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等のジカルボン酸モノエステルモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n、i又はt−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル等の脂環基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステルモノマー;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノアルキル(メタ)アクリルアミドモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のその他のN−置換(メタ)アクリルアミド系モノマー;(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルモノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸エチレングリコール等の2官能モノマー等を挙げることができる。これらの他のモノマー(b−2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記他のモノマー(b−2)のうち、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が好ましく用いられる。
【0043】
水酸基含有モノマー(b−1)及び他のモノマー(b−2)の重合方法として、当業者に通常用いられる方法を用いることができる。重合方法として、例えば、ラジカル重合開始剤を用いた、塊状重合法、溶液重合法、塊状重合後に懸濁重合を行う塊状−懸濁二段重合法等を用いることができる。これらの中でも、溶液重合法が特に好ましく用いることができる。溶液重合法として、例えば、上記モノマー混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下で、例えば80〜200℃の温度で撹拌しながら加熱する方法等が挙げられる。
【0044】
本開示の塗料組成物に含まれるアクリル樹脂(B)の数平均分子量は、3,000〜150,000であってよく、ある態様において、3,000〜50,000であり、例えば3,500〜30,000であり、別の態様において3,500〜20,000である。アクリル樹脂(B)の数平均分子量が上記の範囲内にあることにより、良好な塗膜硬度と加工性を両立させることができ、更に、耐候性に優れた塗膜を形成できる。
また、アクリル樹脂(B)の数平均分子量が上記の範囲内にあることにより、塗料組成物は良好な乾燥性を有することができる。
なお、本明細書中において、数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定したポリスチレン換算による値である。
なお、複数種のアクリル樹脂(B)を含む場合、本開示の塗料組成物に含まれるアクリル樹脂(B)の数平均分子量は、これらの混合物の数平均分子量を示す。
【0045】
アクリル樹脂(B)は、例えば、固形分水酸基価は0mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であり、ある態様においては0mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であり、例えば、0mgKOH/g以上70mgKOH/g以下である。
固形分水酸基価が上記の範囲内にあることにより、熱硬化性アクリル樹脂としての良好な反応性、及び着色顔料の良好な分散性、下塗り塗膜との良好な付着性を確保することができる。
なお、本明細書中において、樹脂の水酸基価は、固形分換算での値を示し、JIS K 0070に準拠した方法により測定された値である。
また、複数種のアクリル樹脂を含む場合、固形分水酸基価は、アクリル樹脂の固形分水酸基価が上記範囲に含まれることが好ましい。別の態様において、各アクリル樹脂の水酸基価の平均値が上記範囲に含まれ得る。
【0046】
ある態様において、アクリル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg
B)は10℃以上120℃以下、例えば、20℃以上80℃以下である。このような範囲にガラス転移温度を有することにより、塗膜の硬度、耐擦り傷性、耐水性、耐薬品性、耐食性を確保しつつ、優れた加工性を付与することができる。また、塗膜を良好に乾燥させることができる。
なお、本明細書において、ガラス転移温度は、示差熱走査熱量計によって測定した値であり、例えば、示差走査熱量計DSC−6100(セイコーインスツルメンツ社製)等により測定できる。
【0047】
アクリル樹脂(B)として、市販されるアクリル樹脂を用いてもよい。このようなアクリル樹脂の具体例として、アクリディックシリーズ(DIC社製)、ダイヤナールシリーズ(三菱ケミカル社製)、ヒタロイドシリーズ(日立化成工業社製)、PARALOIDシリーズ(ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0048】
ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)
本発明の塗料組成物は、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)を含む。塗料組成物がポリテトラフルオロエチレン粒子(C)を含むことにより、良好な耐摩耗性及び摺動性を有する塗膜を形成できる。また、本開示に係るポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とアクリル樹脂(B)と、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)とを組合せることで、高い表面硬度を有し、良好な耐摩耗性、特に繰り返し使用時の耐摩耗性及び摺動性(例えば、潤滑性)を確保できる。
【0049】
ある態様において、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)の平均粒子径は、3μm以上30μm以下であり、8μm以上30μm以下であってよく、例えば、10μm以上25μm以下である。別の態様において、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)の平均粒子径は、12μm以上24μm以下である。
なお、本明細書中において、平均粒子径は、粒子の体積平均粒子径を意味し、例えば、レーザ回折式粒子径分布測定装置SALD−2200(島津製作所社製)等を用いて測定することができる。
【0050】
ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)の平均粒子径がこのような関係を有することにより、塗膜の摩耗防止(損耗防止)、繰返し摺動による塗膜の摩耗防止性を良好に有することができ、耐摩耗性を良好に有することができる。特に、繰り返し使用時の耐摩耗性に優れた塗膜を形成できるので、繰り返して摺動させる部材であっても、塗膜の摩耗、損耗による塗膜外観の劣化、耐食性の低下等を抑制できる。更に、従来、フッ素系樹脂を含む塗料組成物において、十分な効果を得ることができなかった耐砂塵傷付き性についても、所定の組成を有する本発明は、優れた耐砂塵傷付き性を有する塗膜を形成できる。
【0051】
ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)は、四フッ化エチレンの単独重合体、及び主成分であるは四フッ化エチレンと他のモノマーとの共重合体から選択される少なくとも1種を含む粒子である。また、粒子全体の主成分が、四フッ化エチレン又はその誘導体である粒子である。前記他のモノマーは、エチレン性炭素二重結合を有するモノマーが好ましく、例えば、エチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン等が含まれる。
入手の容易性等から、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)は、四フッ化エチレンの単独重合体であることが好ましい。
【0052】
ある態様において、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)の融点は、300℃以上350℃以下であり、例えば310℃以上335℃以下である。なお、本明細書において、融点は、示差熱走査熱量計によって測定した値であり、例えば、DSC−6100(セイコーインスツルメンツ社製)等により測定できる。
【0053】
ある態様において、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)は、半焼成又は焼成ポリテトラフルオロエチレン粒子である。半焼成又は焼成したポリテトラフルオロエチレン粒子を用いることにより、形成される塗膜の耐傷付き性が更に向上する。また、耐砂塵傷付き性がより良好な塗膜を形成できる。好ましくは、焼成ポリテトラフルオロエチレン粒子である。焼成ポリテトラフルオロエチレン粒子は、より高い耐傷付き性及び耐砂塵傷付き性を有する塗膜を形成できる。
【0054】
ある態様において、本発明の塗料組成物は、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)を、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、9質量部以上25質量部以下で含み、例えば、12質量部以上25質量部以下で含む。ある態様において、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)を、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、15質量部以上24質量部以下で含み、例えば、16質量部以上23質量部以下で含む。
ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)を上記範囲で含むことにより、塗膜の摩耗防止(損耗防止)、繰返し摺動による塗膜の摩耗防止性を良好に有し、耐摩耗性を良好に有する。特に、繰り返し使用時の耐摩耗性に優れた塗膜を形成できるので、繰り返して摺動させる部材であっても、塗膜の摩耗、損耗による塗膜外観の劣化、耐食性の低下等を抑制できる。
また、本発明の塗料組成物は、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)と、ワックス(D)とを共に含むことによって、得られる塗膜は優れた耐摩耗性、耐砂塵傷付き性等の効果を発揮できる。このため、塗料組成物は、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)を上記範囲内で含むことにより、ワックス(D)との相乗効果を、更に良好に発揮できる。
【0055】
ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)の市販品として、例えば、ホスタロンTF9202(ヘキストジャパン社製、融点:315℃)、ホスタロンTF9205(ヘキストジャパン社製、融点:315℃)、KTLシリーズ(喜多村製、融点:310〜335℃)等を挙げられる。これらを単独で使用してもよく、組合せて使用してもよい。
【0056】
ワックス(D)
本開示の塗料組成物は、ワックス(D)を含む。本開示の塗料組成物は、上記ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)とワックス(D)とを共に含むことによって、得られる塗膜は、優れた耐摩耗性、耐砂塵傷付き性、優れた摺動性等を効果的に発揮できる。更に、耐候性の低下を抑制できる。
【0057】
ワックス(D)は、常温(約23℃)で固体であり、例えば、融点は、30℃以上200℃以下であり、ある態様において、40℃以上160℃以下であり、例えば、80℃以上150℃以下である。
融点より10℃高い温度に加熱した場合、比較的低粘度の液体又はペースト状になる有機物である。また、上記温度で加熱した場合、分解することなく溶融する有機物である。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、ワックス(D)は、焼き付け時に溶融して塗膜表面に浮き機能を発現する傾向が高いと考えられる。その結果、塗膜は優れた耐摩耗性を有し、更に、優れた意匠性を有することができる。
また、融点(軟化点)が上記の範囲に設計されることにより、塗料組成物中での安定性と、塗膜形成時の摺動性を両立させることができる。
【0058】
ワックスは大きく分けると石油ワックス、動植物ワックス、合成ワックスに分類できる。更に、石油ワックスにはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の高級炭化水素があり、動植物ワックスにはカルナバワックス、キャンデリラワックス、木ろう、密ろう等の高級エステルがある。また、合成ワックスにはポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等の高級炭化水素がある。
【0059】
ある態様において、ワックス(D)は、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリプロピレン、マイクロクリスタリン、酸化マイクロクリスタリン、脂肪酸アマイド、及びカルナバワックスからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
このようなワックス(D)を含むことにより、塗膜は優れた耐摩耗性、耐砂塵傷付き性等を有し、更に、優れた意匠性を有することができる。
【0060】
ある態様において、ワックス(D)は、マイクロクリスタリンを含む。マイクロクリスタリンを含むことで、塗膜は、より優れた耐摩耗性、耐砂塵傷付き性及び優れた意匠性を有することができる。更に、滑り性が良好で、加工性により優れた塗膜を形成できる。
【0061】
ワックス(D)の平均粒子径は、5μm以上30μm以下であり、5μm以上25μm以下であってよく、例えば、5μm以上24μm以下である。別の態様において、ワックス(D)の平均粒子径は、5μm以上22μm以下である。ワックス(D)の平均粒子径がこのような範囲内であることにより、更に良好な外観を有し、優れた耐磨耗性及び耐砂塵傷付き性を有し、並びに塗料組成物の貯蔵安定性を良好にできる。
【0062】
上述のように、本開示の塗料組成物は、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)とワックス(D)とを共に含むことによって本開示の塗料組成物が有する効果を発揮できる。ある態様において、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)の平均粒子径と、ワックス(D)の平均粒子径は略同一範囲である。
別の態様においては、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)の平均粒子径>ワックス(D)の平均粒子径の関係を有する。ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)の平均粒子径が、ワックス(D)の平均粒子径よりも大きいことで、より優れた耐磨耗性及び耐砂塵傷付き性を有する塗膜を形成できる。
【0063】
ワックス(D)は、塗料組成物中での分散性を向上させるために、更に既知の溶剤を含んでもよい。ただし、本開示の塗料組成物の効果を損なわない範囲で選択され、特に、溶剤(F)の物性を損なわない範囲で選択される。
【0064】
ワックス(D)は、市販品を用いてもよい。例えば、融点が30℃以上200℃以下である市販品を用いることが好ましい。
市販品は、例えば、ポリエチレンワックスとして、スリップエイド(サンノプコ社製、融点:140℃)、ハイディスパーT−16P−2H(岐阜セラック製造所社製、融点:110℃)、ハイディスパーX−15P−2(岐阜セラック製造所社製、融点:120℃)、ハイディスパーT−13P−5(岐阜セラック製造所社製、融点120℃)等が挙げられる。
【0065】
酸化型ポリエチレンワックスの市販品として、例えば、デスパロン510−10X(楠本化成工業社製、融点:130℃)、ハイディスパー2352(岐阜セラック製造所社製、融点:130℃)、ハイディスパー1459(岐阜セラック製造所社製、融点:100℃)等が挙げられる。
【0066】
マイクロクリスタリンの市販品としては、SR−16(興洋化学社製、マイクロクリスタリンワックス)、ハイディスパー 1250(岐阜セラック製造所社製、マイクロクリスタリンワックス)、トプコS923(東洋ペトロライト社製、マイクロクリスタリンワックス)等が挙げられる。
【0067】
ある態様において、ワックス(D)を、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、固形分で0.5質量部以上5.0質量部以下含み、例えば、固形分で0.7質量部以上4.5質量部以下含む。
別の態様において、ワックス(D)を、固形分で0.8質量部以上4.0質量部以下含む。
本開示の塗料組成物は、このような関係でワックス(D)を含むことにより、得られる塗膜は、より優れた耐摩耗性、耐砂塵傷付き性及び優れた意匠性を有することができる。更に、滑り性が良好で、加工性により優れた塗膜を形成できる。
【0068】
上述のように、本開示の塗料組成物は、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)とワックス(D)とを共に含むことによって本開示の塗料組成物が有する効果を発揮できる。
ある態様において、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)を、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、10質量部以上25質量部以下で含み、並びに
ワックス(D)を、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、固形分で0.5質量部以上5.0質量部以下含む。 このような関係を有することで、より優れた耐磨耗性及び耐砂塵傷付き性を有する塗膜を形成できる。
なお、本開示の塗料組成物は、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)とワックス(D)とを、本明細書に記載の数値範囲内であれば、任意の量で配合できる。
【0069】
別の態様において、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)を、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、16質量部以上24質量部以下で含み、並びにワックス(D)を、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、固形分で0.8質量部以上4.5質量部以下含む。
【0070】
骨材(E)
本開示の塗料組成物は、骨材(E)を含む。塗料組成物は、骨材(E)を含むことにより、耐傷付き性、耐砂塵傷付き性に優れた塗膜を形成できる。
更に、本開示の塗料組成物は、所定のポリテトラフルオロエチレン粒子(C)、ワックス(D)及び骨材(E)を併用し、所定の溶剤(F)を含むことにより、塗料組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を、アクリル樹脂(B)よりも多く含むことができる。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、本開示の塗料組成物は所定の配合を有することにより、特に、繰り返し摩耗性及び耐砂塵傷付き性の低下を抑制し、良好な摺動性を確保しながら、更に、耐候性の向上をもたらすことができる。また、良好な耐候性を長期間保持できる。
【0071】
ある態様において、骨材(E)は、アクリル樹脂粒子、ガラスビーズ、アクリロニトリル樹脂粒子、尿素樹脂粒子、セラミック繊維及びシリカ粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む。骨材(E)は、このような粒子等を含むことで、より良好な耐傷付き性、耐砂塵傷付き性に優れた塗膜を形成できる。
ある態様において、骨材(E)はアクリル樹脂粒子及び/又はシリカ粒子を含む。骨材(E)は、アクリル樹脂粒子を含むことにより、塗膜形成樹脂であるアクリル樹脂(B)等との相溶性がよく、また、シリカ粒子を含むことにより、塗膜の硬度が向上し、耐傷付き性、耐砂塵傷付き性がより向上した塗膜を形成できる。
【0072】
骨材(E)の平均粒子径は、7μm以上30μm以下であり、8μm以上25μm以下であってよく、例えば、8μm以上22μm以下である。平均粒子径が上記範囲に設計されることにより、優れた耐傷付き性、耐砂塵傷付き性と塗料の安定性・塗装作業性を両立することができる。
【0073】
ある態様において、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)の平均粒子径と、ワックス(D)の平均粒子径と、骨材(E)の平均粒子径との関係は、次の関係を有する。
(C)>(E)≧(D)
このような関係を有することにより、特に、繰り返し摩耗性及び耐砂塵傷付き性の低下を抑制し、良好な摺動性と優れた意匠性、塗料組成物の貯蔵安定性を確保することができる。
【0074】
ある態様において、骨材(E)を、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、固形分で0.1質量部以上10.0質量部以下含み、例えば、固形分で0.5質量部以上8質量部以下含む。別の態様において、骨材(E)を、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の固形分とアクリル樹脂(B)の固形分との合計100質量部に対して、固形分で1.0質量部以上8質量部以下含み、例えば、1.5質量部以上8質量部以下含む。
骨材(E)を、このような量で含むことにより、繰り返し摩耗性及び耐砂塵傷付き性の低下を抑制し、良好な摺動性を確保しながら、十分な塗料組成物の安定性と塗装作業性を確保することができる。
【0075】
溶剤(F)
本開示の塗料組成物は、溶剤(F)を含み、更に、溶剤(F)は、沸点が180℃以上であり、ケトン構造を有する溶剤(F−1)を含む。
本開示の塗料組成物は、所定の溶剤(F)中に、所定のポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と、アクリル樹脂(B)と、ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)と、ワックス(D)と、骨材(E)とを含むことで、優れた加工性、意匠性、耐候性、耐食性、耐傷付き性、耐摩耗性、耐砂塵傷付き性及び摺動性を有する塗膜を形成できる。
このように、本発明の塗料組成物は、所定の成分(A)〜(E)及び所定の溶剤(F)、すなわち、所定の溶剤を含むことにより、塗装作業性、塗料安定性等の生産性を確保しつつ、種々の効果を相乗的に発揮できる。また、種々の効果を相乗的に発揮するだけでなく、例えば、耐摩耗性及び耐傷付き性の向上を試みると耐候性が悪くなる問題等、種々の問題を解決した。
更に、本開示の塗料組成物から形成した塗膜の耐傷付き性等の物性が大幅に向上したので、金属板、例えば、鋼板の表面のみに当該塗料を塗装し、裏面には安価な塗装金属板用裏面塗料を適用しても性能を確保することができ、プレコート金属板としてのコストを大幅に下げることに成功した。
【0076】
本開示において、沸点は、JIS K 5601に規定の方法に従い測定できる。
【0077】
本開示において、ケトン構造を有する溶剤は、分子中にカルボニル基(−C(=O)−)を有する溶剤である。ケトン構造を有する溶剤は、直鎖状構造であってもよく、環状構造を有してもよい。
【0078】
ある態様において、溶剤(F−1)は、沸点が180℃以上であり、ケトン構造と環状構造とを有する溶剤を含む。塗料組成物がこのような構造を有することにより、塗料組成物に含まれる成分(A)〜(E)が有する特性を、より効果的に発揮することができる。
【0079】
溶剤(F−1)
溶剤(F−1)は、沸点が180℃以上であり、ケトン構造を有する。ある態様において、溶剤(F−1)の沸点は180℃以上250℃以下である。溶剤(F−1)の沸点は、例えば、180℃以上225℃以下であってよい。溶剤(F)は、単独の溶剤(F−1)を含んでもよく、複数の溶剤(F−1)を含んでもよい。
【0080】
溶剤(F−1)として、例えば、イソホロン(沸点:215℃)、フェニルアセトン(沸点:215℃)、アセトフェノン(沸点:202℃)、プロピレンカーボネート(沸点:242℃)及びγ−ブチロラクトン(沸点:204℃)、2−ノナノン(沸点:195℃)、3−ノナノン(沸点:190℃)、4−ノナノン(沸点:187℃)、5−ノナノン(沸点:186℃)、ジイソペンチルケトン(沸点:208℃)、アセトニルアセトン(沸点:188℃)等を挙げることができる。ある態様において、溶剤(F)は、溶剤(F−1)として、イソホロン(沸点:215℃)を含む。溶剤(F)が、溶剤(F−1)としてイソホロンを含むことによって、良好な塗膜外観、塗料組成物の貯蔵安定性を得ることができ、また、得られた塗膜に良好な耐候性、加工性等を付与できる。
【0081】
ある態様において、塗料組成物は、溶剤(F)100質量部に対して、上記ケトン構造を有する溶剤(F−1)を、50質量部以上100質量部以下で含む。
ある態様において、溶剤(F)は、更に、他の溶剤を含んでもよい。他の溶剤として、例えば、後述する、ケトン構造を有し、沸点が180℃未満である溶剤(F−2)を含んでもよい。
ある態様において、本開示に係る塗料組成物は、溶剤(F)100質量部に対して、ケトン構造を有する溶剤(F−1)を、50質量部以上80質量部以下で含み、例えば、ケトン構造を有する溶剤(F−1)を、50質量部以上75質量部以下で含み得る。いずれの態様においても、溶剤(F)は、その残りについて、他の溶剤、例えば溶剤(F−2)を含み得る。
【0082】
溶剤(F)は、ケトン構造を有する溶剤(F−1)に加えて、他の溶剤を含んでよい。
他の溶剤として、ケトン構造を有する溶剤(F−1)の性質を損なわない限り、既知の溶剤を選択できる。
ある態様において、溶剤(F)は、上記の、沸点が180℃以上であり、ケトン構造を有する溶剤(F−1)に加えて、更に、他の溶剤として、ケトン構造を有し、沸点が180℃未満である溶剤(F−2)を含んでよい。
例えば、ケトン構造を有する溶剤(F−2)の沸点は、100℃以上、180℃未満であり、ある態様において、溶剤(F−2)の沸点は、130℃以上180℃未満である。
溶剤(F)が溶剤(F−1)と、溶剤(F−2)とを含むことにより、更に良好な塗膜外観および塗料組成物の貯蔵安定性を得ることができ、また、得られた塗膜により良好な耐候性、加工性等を付与できる。
【0083】
例えば、溶剤(F)において、溶剤(F−1)の量と溶剤(F−2)の量との比は、
溶剤(F−1):溶剤(F−2)=1:0.05〜1:0.5であり、ある態様において、溶剤(F−1):溶剤(F−2)=1:0.05〜1:0.3である。
このような関係を有することにより、更に優れた塗膜外観、加工性、意匠性、耐候性、耐食性、耐傷付き性、耐摩耗性、耐砂塵傷付き性及び摺動性を有する塗膜を形成できる。
【0084】
溶剤(F−1)とは異なる他の溶剤として、例えば、トルエン、キシレン(キシロール)、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、酢酸エチル、酢酸ブチル、石油エーテル、石油ナフサ、シクロヘキサノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−プロパノール、ブチルジグリコール、酢酸カービトール、亜リン酸トリエチル等が挙げられる。市販品として、例えば、ソルベッソ100(エクソン化学社製)、ソルベッソ150(エクソン化学社製)、ソルベッソ200(エクソン化学社製)が挙げられる。
ある態様において、溶剤(F)は、溶剤(F−1)とは異なる他の溶剤として、ケトン構造を有し、沸点が180℃未満である溶剤(F−2)を更に含み得る。
例えば、シクロヘキサノン(沸点:156℃)、シクロペンタノン(沸点:131℃)、3−メチルシクロヘキサノン(沸点:169℃)、4−メチルシクロヘキサノン(沸点:171℃)、2−オクタノン(沸点:173℃)、3−オクタノン(沸点:167℃)、4−オクタノン(沸点:166℃)、2−ヘプタノン(沸点:151℃)、3−ヘプタノン(沸点:146℃)、4−ヘプタノン(沸点:144℃)、2−ヘキサノン(沸点:128℃)、3−ヘキサノン(沸点:123℃)、ジイソブチルケトン(沸点:168℃)、エチルイソブチルケトン(沸点:136℃)等が挙げられる。ある態様において、溶剤(F−2)は、更に環状構造を有することが好ましい。
【0085】
その他成分
本開示の塗料組成物は、成分(A)〜(F)に加えて、目的、用途に応じて着色顔料、体質顔料、その他の添加剤等を必要に応じて配合することができる。ただし、その他の添加剤等は、本開示の塗料組成物が有する諸物性を損なわない態様で添加できる。
例えば、p−トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレート、2−エチルヘキソエート鉛等の硬化触媒、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、酸化チタン、タルク、硫酸バリウム、マイカ、弁柄、マンガンブルー、カーボンブラック、アルミニウム粉、パールマイカ等の顔料、その他、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ハジキ防止剤、皮張り防止剤等の各種添加剤を選択して配合することができる。
【0086】
塗料組成物の調製方法
本開示に係る塗料組成物を調製する方法は、特に限定されない。例えば、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダー、ペイントシェーカー又はディスパー等の混合機、分散機、混練機等を選択して使用し、各成分を混合することにより、調製することができる。
【0087】
被塗物
本開示のプレコート金属板用塗料組成物の塗装の対象となる被塗物は、例えば、溶融法又は電解法等により製造される亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、冷延鋼板等が挙げられる。また、これら鋼板又はめっき鋼板以外に、アルミニウム板(アルミニウム合金板を含む)等の金属板も塗装対象とすることができる。
本開示に係る金属板は、表面処理されていることが好ましい。具体的には、本発明の金属板は、アルカリ脱脂処理、湯洗処理、水洗処理等の前処理が施された後に、化成処理が施されていることが好ましい。化成処理は公知の方法で行ってよく、その例にはクロメート処理、リン酸亜鉛処理等の非クロメート処理等が含まれる。
【0088】
ある態様において、プレコート金属板は、一方の面に、本開示に係るプレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜を有する。
例えば、プレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜の膜厚は、10μm以上25μm以下であり、ある態様においては、膜厚は、15μm以上23μm以下である。
プレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜の膜厚が、このような範囲内であることにより、更に優れた加工性、意匠性、耐候性、耐食性、耐傷付き性、耐摩耗性、耐砂塵傷付き性及び摺動性を有する塗膜が備えられた、プレコート金属板を得ることができる。
【0089】
プレコート金属板が、一方の面に本開示に係るプレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜を有する場合、他方の面は、既知の塗料組成物から形成される塗膜であってもよい。
例えば、他方の面は、エポキシ樹脂を含む塗料組成物等、公知の塗料組成物から形成された塗膜を有してもよい。
【0090】
ある態様において、プレコート金属板は、シャッタースラット材である。シャッタースラット材は、少なくとも一方の面に本開示に係るプレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜を有する。本開示の塗料組成物から形成された塗膜を有することにより、シャッタースラット材は、優れた加工性を有するので、加工後も優れた意匠性を保持できる。
【0091】
別の態様において、シャッタースラット材は、一方の面に、本開示に係るプレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜を有し、他方の面に、既知の塗料組成物から形成される塗膜を有してもよい。
図1は、プレコート金属板の一例である、シャッタースラット材1が、金属板20の一方の面に、本開示に係るプレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜10を有し、他方の面に、塗料組成物から形成される塗膜30を有する態様を例示する、断面概略図である。例えば、塗膜30は、既知の塗料組成物から形成された塗膜であってよく、本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜であってよい。
【0092】
シャッターとして用いる場合、一のシャッタースラット材1における、本開示に係るプレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜10側に、他のシャッタースラット材1における、既知の塗料組成物から形成される塗膜30側が配置される。したがって、この態様の場合、本開示に係るプレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜と、例えば、既知の塗料組成物から形成される塗膜とが接触することになる
なお、本開示において、「シャッタースラット材の表面」等、「表面」と記載するときは、特に記載の無い限り、塗膜10を意味し、すなわち、本開示の塗料組成物から形成した塗膜面を意味し、「裏面」とは塗膜30を意味し得る。
【0093】
本開示のシャッタースラット材は、同一の塗膜を金属板、例えば、鋼板の両面に形成しなくても、上述の塗膜性能を十分に発揮できるので、シャッタースラット材のコスト上昇を抑制できる。同様に、プレコート金属板のコストも抑制できる。
所望により、シャッタースラット材は、金属板、例えば、鋼板等の金属板に加えて、他の部品を含んでもよい。これらの部品に、本開示の塗料組成物を塗装し、塗膜を形成してもよい。
【0094】
プレコート金属板、例えば、シャッタースラット材は、金属板と、本開示の塗料組成物から形成した塗膜との間に、下塗り塗膜を有してもよい。下塗り塗膜を有することで、本開示の塗料組成物から形成された塗膜の密着性、耐食性を高めることができる。また、本開示の塗料組成物から形成された塗膜の性質をより強固に補うことができるので、シャッタースラット材等のプレコート金属板を、より長期間使用できる。
ある態様において、下塗り塗膜の膜厚は、3μm以上15μm以下の膜厚であり、例えば5μm以上10μm以下である。
【0095】
塗膜形成方法
本開示の塗料組成物の塗装は、被塗装金属板等の表面に塗装下地処理としてリン酸塩処理、クロメート処理等の化成処理を施し、その上に塗料組成物を塗装することが好ましい。このように化成処理を施した金属板面上に、本開示の塗料組成物を塗装することにより、塗膜の金属板面に対する密着性が向上するとともに耐食性も向上する。また、化成処理を施した金属板面に下塗り塗膜(プライマー塗膜)を形成し、その上に塗装することもできる。
【0096】
塗料組成物の金属板表面への塗装方法は特に限定しないが、ロールコーター、エアレススプレー、静電スプレー、カーテンフローコーター等、従来公知の方法を採用することができ、好ましくはロールコーター、カーテンフローコーターで塗装するのがよい。塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱等の加熱手段により塗膜を焼き付け、樹脂を架橋させて硬化塗膜を得る。
【0097】
ある態様において、プレコート金属板の製造方法は、
金属板、例えば、鋼板の少なくとも一方の面に、本開示のプレコート金属板用塗料組成物を、硬化後の膜厚が10μm以上25μm以下となるよう塗装すること、
プレコート金属板用塗料組成物を230℃以上260℃以下の温度、20秒以上120秒以下の条件下で、乾燥及び硬化させることを含む。
ある態様において、塗料組成物を塗装後、素材到達最高温度が230℃以上260℃以下の温度となる条件で乾燥及び硬化(焼付け)できる。
焼付処理後、常温まで冷却してプレコート金属板を得ることができる。焼付処理後の冷却は、水で板温を常温まで急冷することが好ましい。
【0098】
このようにして形成されたプレコート金属板の硬化塗膜の膜厚は、例えば、10μm以上25μm以下であり、ある態様において、膜厚は、12μm以上23μm以下である。
プレコート金属板用塗料組成物から形成された塗膜の膜厚が、このような範囲内であることにより、更に優れた加工性、意匠性、耐候性、耐食性、耐傷付き性、耐摩耗性、耐砂塵傷付き性及び摺動性を有する塗膜が備えられた、プレコート金属板を得ることができる。
【0099】
本発明のプレコート金属板用塗料組成物は、2コート・2ベーク方式又は3コート・3ベーク方式のトップコートとしての使用が特に好ましい。3コート・3ベーク方式で使用する場合は、本発明のプレコート金属板用塗料組成物による塗膜とプライマー塗膜(下塗り塗膜)との間に、通常の3コート・3ベークで使用される中塗塗膜を設ける。
【実施例】
【0100】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中「部」及び「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0101】
塗料組成物の調製に用いた各成分は、以下のとおりである。また、アクリル樹脂(B)については、その調整方法を説明する。
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A−1)
Kynar500(アルケマ社製;樹脂固形分濃度:100質量%)
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A−2)
Hylar5000(ソルベイ社製;樹脂固形分濃度:100質量%)
【0102】
(製造例B−1)
アクリル樹脂(B−1)(熱硬化性アクリル樹脂)の合成
還流冷却器、滴下ロート、攪拌機、温度計、コンデンサー、窒素ガス導入口を備えた反応容器に、イソホロン667.5質量部を仕込み、窒素雰囲気下で90℃まで昇温した。これに、メタクリル酸7.65質量部、メタクリル酸メチル310.8質量部、アクリル酸n−ブチル168.9質量部、ジメタクリル酸エチレングリコール1.0質量部及びN−メトキシメチルアクリルアミド11.6質量部の混合溶液、並びに開始剤として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.5質量部及びイソホロン47.5質量部の混合溶液を、滴下ロートを通じて各々同時に3時間で等速滴下した。滴下終了後、90℃を保持したまま30分撹拌を続けた後、反応容器を120℃まで昇温した。次に、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル5質量部及びイソホロン35質量部の混合溶液を、30分で等速滴下した。滴下終了後、120℃を保持したまま2時間撹拌し、アクリル樹脂(B−1)(固形分濃度:40質量%、固形分酸価:10mgKOH/g、固形分水酸基価:0mgKOH/g、ガラス転移温度:30℃、数平均分子量:120,000)を得た。
【0103】
(製造例B−2)
アクリル樹脂(B−2)(熱可塑性アクリル樹脂)の合成
還流冷却器、滴下ロート、攪拌機、温度計、コンデンサー、窒素ガス導入口を備えた反応容器に、イソホロン667.5質量部を仕込み、窒素雰囲気下で90℃まで昇温した。これに、メタクリル酸7.65質量部、メタクリル酸メチル310.8質量部、アクリル酸n−ブチル168.9質量部、ジメタクリル酸エチレングリコール1.0質量部及びメタクリル酸2−ヒドロキシエチル11.6質量部の混合溶液、並びに開始剤として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.5質量部及びイソホロン47.5質量部の混合溶液を、滴下ロートを通じて各々同時に3時間で等速滴下した。滴下終了後、90℃を保持したまま30分撹拌を続けた後、反応容器を120℃まで昇温した。次に、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル5質量部及びイソホロン35質量部の混合溶液を、30分で等速滴下した。滴下終了後、120℃を保持したまま2時間撹拌し、固形分酸価10、固形分水酸基価0、Tg30℃のアクリル樹脂(B−2)(固形分濃度:40質量%、固形分酸価:10mgKOH/g、固形分水酸基価:0mgKOH/g、ガラス転移温度:30℃、数平均分子量:10,000)を得た。
【0104】
(製造例B−3)
アクリル樹脂(B−3)(熱硬化性アクリル樹脂)の合成
還流冷却器、滴下ロート、攪拌機、温度計、コンデンサー、窒素ガス導入口を備えた反応容器に、イソホロン667.5質量部を仕込み、窒素雰囲気下で90℃まで昇温した。これに、メタクリル酸7.65質量部、メタクリル酸メチル274.2質量部、アクリル酸n−ブチル160.2質量部、ジメタクリル酸エチレングリコール1.0質量部及びメタクリル酸2−ヒドロキシエチル57.0質量部の混合溶液、並びに開始剤として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.5質量部及びイソホロン47.5質量部の混合溶液を、滴下ロートを通じて各々同時に3時間で等速滴下した。滴下終了後、90℃を保持したまま30分撹拌を続けた後、反応容器を120℃まで昇温した。次に、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル5質量部及びイソホロン35質量部の混合溶液を、30分で等速滴下した。滴下終了後、120℃を保持したまま2時間撹拌し、アクリル樹脂(B−3)(固形分濃度:40質量%、固形分酸価:10mgKOH/g、固形分水酸基価:50mgKOH/g、ガラス転移温度:30℃、数平均分子量:10,000)を得た。
【0105】
・ポリテトラフルオロエチレン粒子(C−1):KTL−20N(喜多村社製;樹脂固形分濃度:100質量%、平均粒子径:20μm、融点:310〜320℃)
・ポリテトラフルオロエチレン粒子(C−2):KTL−8N(喜多村社製;樹脂固形分濃度:100質量%、平均粒子径:4μm、融点:310〜320℃)
・ポリテトラフルオロエチレン粒子(C−3):KTL−1N(喜多村社製;樹脂固形分濃度:100質量%、平均粒子径:2μm、融点:310〜320℃)
【0106】
・ワックス(D−1):HI−DISPER1250(岐阜セラック製造所社製、マイクロクリスタリンワックス;樹脂固形分濃度:10質量%、平均粒子径:13μm)
・ワックス(D−2):HI−FLAT X−15P−2(岐阜セラック製造所社製、ポリエチレンワックス;樹脂固形分濃度:15質量%、平均粒子径:12μm)
【0107】
・骨材(E−1):サイリシア435(富士シリシア社製、シリカ微粉末、平均粒子径:6μm)
・骨材(E−2):ガンツパール GM−1001(アイカ工業社製、アクリル樹脂粒子、平均粒子径:10μm)
・骨材(E−3):サイロイド ED80(富士シリシア社製、シリカ微粉末、平均粒子径:12μm)
・骨材(E−4):ガンツパール GM−2001(アイカ工業社製、アクリル樹脂粒子、平均粒子径:20μm)
【0108】
・溶剤(F−11):イソホロン (ケトン構造を有する溶剤;沸点:215℃)
・溶剤(F−12):プロピレンカーボネート (ケトン構造を有する溶剤;沸点:242℃)
・溶剤(F−2):シクロヘキサノン (ケトン構造を有する溶剤;沸点:156℃)
・溶剤(F−3):キシレン (ケトン構造を有しない溶剤;沸点:139℃)
・溶剤(F−4):2−ブタノール (ケトン構造を有しない溶剤;沸点:108℃)
・溶剤(F−5):ソルベッソ150 (エクソン化学社製、ケトン構造を有しない溶剤;沸点:195℃)
・顔料:LOMON Titanium Dioxide R−996(酸化チタン;SICHUAN LOMON TITANIUM INDUSTRY社製)
・メラミン樹脂:サイメル303 (三井サイアナミッド社製)
・硬化触媒:ドデシルベンゼンスルホン酸
【0109】
(実施例1)
塗料組成物1の調製
Kynar500(固形分濃度:100質量%)19質量部、アクリル樹脂(B−1、固形分濃度:40質量%)31質量部、イソホロン28質量部、シクロヘキサノン3質量部、キシレン11質量部及び顔料17質量部を混合し、サンドミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、顔料粗粒の最大粒子径が10μm以下になるまで分散し、分散体組成物1を調製した。得られた分散体組成物1に、KTL−20N 5.5質量部、ハイディスパー1250 3質量部、サイリシア435 0.5質量部及びガンツパールGM−1001 1.5質量部を加えて、ディスパーで均一に混合し、塗料組成物1を調製した。
【0110】
(実施例2〜29、比較例1〜9)
各成分の種類及び量を、下記表1〜3に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。なお、下記表1〜3中に記載の配合量は、荷姿を示し、例えば、アクリル樹脂(B)であれば、樹脂固形分及び溶剤分を合計した配合量(質量部)を示す。
上記塗料組成物のうち、比較例4、6、7および9については、顔料の最大粒子径が10μm以下にならず、塗料組成物の調製ができなかった。
【0111】
(実施例30)
各成分の種類及び量を、下記表2に記載のように変更し、更に、サイメル303 5.0質量部(メラミン樹脂、三井サイアナミッド社製)及びドデシルベンゼンスルホン酸(硬化触媒)0.1質量部を加えたこと以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
スラット材の作製
(実施例M1)
表裏両面にクロメート処理(塗布量150mg/m
2)を施した亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板(300mm×200m×0.35mm)の裏面側に、スーパーラックR−90(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、エポキシ樹脂系塗料:塗料組成物41)を、乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーター塗装した後、素材最高到達温度210℃で60秒間焼付けた後、ただちに水没、冷却させることで、裏面塗膜を形成した。
【0116】
一方、表面には、下塗り塗料として、ファインタフGプライマー(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、エポキシ樹脂系プライマー:塗料組成物40)を、乾燥膜厚が5μmになるようにバーコーター塗装した後、素材到達最高温度210℃となる条件で60秒間焼付けを行い、下塗り塗膜を形成した。次に、製造例1で調製した塗料組成物1を、乾燥膜厚が15μmとなるようにバーコーター塗装した後、素材最高到達温度250℃で60秒間焼付けた後、ただちに水没、冷却させることで、上塗り塗膜(塗膜1)を形成した。
このようにして、実施例M1に係るスラット材を作成した。
【0117】
(実施例M2〜M30及び比較例M1〜M9)
以下に示す表3及び表4で示した塗料組成物を用いたこと以外は、実施例M1と同様にして、実施例M2〜M30及び比較例M1〜M9に係るスラット材を作成した。
【0118】
(実施例M31)
裏面塗膜として実施例1に示す塗膜の代わりに、表面と同様の塗料組成物、塗膜形成方法を用いて、塗膜を形成する以外は実施例M1と同様にして、実施例M31に係るスラット材を作成した。
【0119】
(実施例M32)
裏面塗膜として実施例M10に示す塗膜の代わりに、表面と同様の塗料組成物、塗膜形成方法を用いて、塗膜を形成する以外は実施例M10と同様にして、実施例M32に係るスラット材を作成した。
【0120】
評価方法及び評価基準
以下の評価を行った。評価結果を、表4〜6に示す。
塗膜外観の評価
塗膜外観の評価は、塗膜の平滑性を目視評価した。評価基準は次のとおりである。
目視評価は、スラット材の表面における、上塗り塗膜面について観察した。
○:凹み及びピンホールは認められない。(合格)
○△:若干の凹みは認められるが、ピンホールは認められない。(合格)
△:塗膜の一部に、凹み及びピンホールが認められる。(不合格)
×:凹み及びピンホールが全面に認められる。(不合格)
(2)耐繰り返し摩耗性の評価
耐繰り返し摩耗性の評価は、平面摩耗試験機H−2642(大栄科学精機製作所社製)を用いて行った。
具体的には、各実施例又は比較例で得られた塗装板(塗膜形成後のスラット材)の1枚を、押出試験機を用いて、塗装板の裏面が凸となるよう、3.5mm押出し、凸形状を有する評価用裏面塗装板を作成した。なお。凸部は曲面状である。
次に、試験機の固定面に、150mm×50mmの大きさを有する、別の試験板(評価用表面塗装板:平板)を、その表面が上に向くよう固定した。固定した評価用表面塗装板の表面上に、評価用裏面塗装板の凸部が接触するように評価用裏面塗装板を設置した。評価用裏面塗装板に、荷重2kg、往復速度30回/分、往復距離120mm、往復回数20,000回の条件で往復摩擦を行った。
試験後、摩擦試験に付した評価用表面塗装板における傷付きの程度を目視評価した。評価基準は次のとおりである。
○:傷が下塗り塗膜に達していない。(合格)
○△:傷の一部が下塗り塗膜に達しているが、基材が露出していない。(合格)
△:基材の一部が露出している。(不合格)
×:完全に基材が露出している。(不合格)
【0121】
(3)耐砂塵傷付き性の評価
耐砂塵傷付き性の評価は、平面摩耗試験機H−2642(大栄科学精機製作所)を用いて行った。
試験機の固定面に、実施例及び比較例で得られた、150mm×50mmの大きさを有する、塗膜形成後の試験板(下方試験板)を、その表面が上に向くよう固定した。次に、試験板の表面に6号珪砂(三河珪石社製;最頻粒子径:200μm)0.05gを均一に散布した。
別の、80mm×40mmの大きさを有する、塗膜形成後の試験板(上方試験板)を、上記硅砂を散布した下方試験板の上に、上方試験板の裏面が砂と接触するように配置し、500gの荷重をかけ、上方試験板の長手方向に振動を付した。試験条件は、周期50回/分、往復距離40mm、試験時間5分で行った。
試験後、振動試験機に付した塗装板表面における傷付きの程度を目視評価した。評価基準は次のとおりである。
○:傷が下塗り塗膜に達していない。(合格)
○△:傷の一部が下塗り塗膜に達しているが、基材が露出していない。(合格)
△:基材の一部が露出している。(不合格)
×:完全に基材が露出している。(不合格)
【0122】
(4)耐候性の評価
各実施例及び比較例で得られた試験板を、サンシャインウエザーメーター(スガ試験機社製)を用いて、2,000時間の促進耐候性試験を行った。運転条件は、JIS K 5600に準拠して行った。
促進耐候性試験後の各試験板の外観について、目視により評価を行った。評価基準は次のとおりである。
○:試験前の塗装板と外観変化が極めて少ない(合格)
○△:試験前の塗装板と外観変化が少ない(合格)
△:試験前の塗装板との外観変化が大きい(不合格)
×:試験前の塗装板との外観変化が極めて大きい(不合格)
【0123】
(5)経時加工性劣化の評価
各実施例及び比較例で得られた試験板を、幅50mmに切断し、20℃の室内にて、加工性の試験を実施した。
具体的には、加工する試験片と同一の厚み(0.35mm)の被塗板2枚を、加工する試験片(塗膜面を外側へ向ける)の内側にはさみ込み、180度密着折曲げをした。折曲げた先端を10倍ルーペで観察し評価を行った。評価基準は次のとおりである。
上記試験を、塗装板製造直後と室温で1か月放置した後に行い、クラックの発生度合いの変化を評価した。
○:クラックの発生度合いが、直後と1か月後で変化なし。(合格)
○△:クラックの発生度合いの変化が、直後と1か月後で少ない。(合格)
△:クラックの発生度合いの変化が、直後と1か月後で大きい。(不合格)
×:クラックの発生度合いの変化が、直後と1か月後で極めて大きい。(不合格)
【0124】
【表4】
【0125】
【表5】
【0126】
【表6】
【0127】
実施例M1〜M32で得られた試験板を、シャッタースラットとして使用することを想定し、加工を行った。その結果、いずれの試験板も塗膜の割れ、クラック等を生じること無く、所望の形状に加工できた。また、実施例M1〜M30におけるスラットは、特に表面において良好な意匠性を有する。実施例M31、及びM32におけるスラットは、表面、裏面共に良好な意匠性を有している。
更に、実施例におけるスラットは、特に表面において、良好な耐食性、耐傷付き性及び滑り性(摺動性)を有している。
このように、本開示に係る塗料組成物であれば、優れた加工性、意匠性、耐候性、耐食性、耐傷付き性、耐摩耗性、耐砂塵傷付き性及び優れた摺動性を備える塗膜を形成できる。その上、本開示に係る塗料組成物であれば、シャッタースラット材の少なくとも片面に塗膜を形成することで、前述した種々の効果を奏することができる。
【0128】
その一方で、比較例M1において、塗料組成物は、本開示に係るポリテトラフルオロエチレン粒子(C)を含まないため、繰り返し摩耗性の著しく悪い塗膜が形成された。
比較例M2において、塗料組成物は、本開示に係るワックス(D)を含まないため、繰り返し摩耗性は不十分であり、更に、耐砂塵傷付き性が著しく悪い塗膜が形成された。
比較例M3において、塗料組成物は、本開示に係る骨材(E)を含まないため、繰り返し摩耗性及び耐砂塵傷付き性の著しく悪い塗膜が形成された。
比較例M4において、塗料組成物は、本開示に係る溶剤(F)を含まないため、塗膜を形成することができなかった。なお、塗膜の形成ができなかったため、表中に記載の物性等の評価も行っていない。
比較例M5において、塗料組成物は、本開示に係る熱硬化性アクリル樹脂を含まないので、経時加工性劣化の著しく悪い塗膜が形成された。
比較例M6及びM7において、塗料組成物は、本開示に係る所定の溶剤(F−1)を含まないため、塗膜を形成することができなかった。なお、塗膜の形成ができなかったため、表中に記載の物性等の評価も行っていない。
比較例M8において、塗料組成物は、本開示に係るポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を含まないので、塗膜外観、耐繰り返し摩耗性、耐砂塵傷付き性及び耐候性の著しく悪い塗膜が形成された。
比較例M9において、塗料組成物は、本開示に係る所定のアクリル樹脂(B)を含まないため、塗料の作成及び塗膜の形成ができなかった。また、顔料を十分に分散することもできなかった。なお、塗膜の形成ができなかったため、表中に記載の物性等の評価も行っていない。