特許第6681461号(P6681461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681461
(24)【登録日】2020年3月25日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】複合基板,その製法及び電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20200406BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   H03H9/25 C
   H03H3/08
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-502194(P2018-502194)
(86)(22)【出願日】2017年9月15日
(86)【国際出願番号】JP2017033454
(87)【国際公開番号】WO2018056210
(87)【国際公開日】20180329
【審査請求日】2018年1月26日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/077628
(32)【優先日】2016年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/188842(WO,A1)
【文献】 特開2008−270904(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/078481(WO,A1)
【文献】 特開2005−252550(JP,A)
【文献】 特開平08−130439(JP,A)
【文献】 特開2015−023193(JP,A)
【文献】 特開平02−187177(JP,A)
【文献】 特開2004−241670(JP,A)
【文献】 特開2009−248398(JP,A)
【文献】 特開平05−124867(JP,A)
【文献】 特開2016−144829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/25
H03H 3/08
H01L 41/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と圧電基板とがアモルファス層を介して接合された複合基板であって、
前記アモルファス層の厚さが5nm以下であり、
前記支持基板がサイアロン焼結体である、
複合基板。
【請求項2】
前記圧電基板は、ニオブ酸リチウム基板又はタンタル酸リチウム基板である、
請求項1に記載の複合基板。
【請求項3】
前記支持基板の音速が5000m/s以上である、
請求項1又は2に記載の複合基板。
【請求項4】
前記支持基板の40〜400℃の熱膨張係数が3.0ppm/K以下である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合基板。
【請求項5】
前記支持基板のヤング率が200GPa以上350GPa以下である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合基板。
【請求項6】
前記支持基板のサイアロン平均粒径が20μm以下である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合基板。
【請求項7】
前記アモルファス層の厚さが3.6nm以上5nm以下である、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合基板。
【請求項8】
支持基板と圧電基板とが厚さ5nm以下のアモルファス層を介して接合された複合基板又は請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合基板を製造する方法であって、
前記支持基板の表面と前記圧電基板の表面とを直接接合によって接合する接合工程
を含み、
前記接合工程の前に、前記支持基板の表面に存在する気孔の数が100μm×100μmの面積当たり30個以下となるように前記表面を研磨仕上げする、
複合基板の製法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合基板を製造する方法であって、
前記支持基板の表面と前記圧電基板の表面とを直接接合によって接合する接合工程
を含み、
前記接合工程の前に、前記支持基板の前記表面の100μm×140μmの測定範囲における中心線平均粗さ(Ra)が1nm以下となるように前記表面を研磨仕上げする、
複合基板の製法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合基板を製造する方法であって、
前記支持基板の表面と前記圧電基板の表面とを直接接合によって接合する接合工程
を含み、
前記接合工程の前に、前記支持基板の前記表面の100μm×140μmの測定範囲における断面曲線の最大山高さと最大谷深さとの高さの差(Pt)が30nm以下となるように前記表面を研磨仕上げする、
複合基板の製法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合基板を利用した電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板、その製法及び電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
表面弾性波素子は、例えば、携帯電話などの通信機器におけるバンドパスフィルタとして使用されている。表面弾性波素子である圧電基板には、高音速で電気機械結合係数が大きい特性が要求されるため、その要求を満足するニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)が広く用いられている。しかし、LTやLNは熱膨張係数が大きく、環境温度変化による膨張収縮量が大きい。これにより、フィルタの中心周波数がずれるため通過する周波数が減少し、特性が悪化する。そのため、環境温度変化によって、表面弾性波素子が膨張収縮し難いことが必要になってきている。この点を克服するために、ヤング率が高く熱膨張係数が比較的小さな支持基板上に、薄い圧電基板を接合することで、支持基板によって圧電基板を拘束し、圧電基板が膨張収縮しない複合基板が開発されている。例えば、特許文献1には、圧電基板と支持基板とを接着層を介して接合した複合基板が開示されている。また、支持基板の材料として、サファイアやシリコン、アルミナなどが例示されている。これらの材料は、圧電基板に比べて熱膨張係数が小さいため周波数温度依存性を低くすることができるし、音速が速い材料のため高周波用の表面弾性波素子に適している。
【0003】
一方、特許文献2には、支持基板の上にCVD法などでコーティング処理を施して0.1〜10μmのアモルファス層を形成した後、そのアモルファス層を介して支持基板と単結晶半導体基板とを貼り合わせることにより複合基板を得る方法が例示されている。支持基板の材料としては、サイアロン等が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−85286号公報
【特許文献2】国際公開第2016/052597号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のサファイア及びアルミナは、圧電基板に比べて熱膨張係数が小さいとはいっても7ppm/K程度であるため、周波数温度依存性を大幅に低くすることはできないという問題があった。また、サファイアは、ヤング率が450GPa以上と高すぎるため、加工性が悪いという問題もあった。一方、シリコンは、圧電基板に比べて熱膨張係数が十分小さいものの、ヤング率が180〜190GPa程度と低いため反りや割れが発生したり、抵抗率は高いものでも104Ωcm台であり十分な絶縁性がないためフィルタの共振特性が悪化するという問題があった。そのため、支持基板として、音速が速く、絶縁性が高く、ヤング率が適正な値であり、熱膨張係数が十分小さいものが求められていた。また、特許文献1の複合基板は、圧電基板と支持基板との間に有機接着剤層などの接着層を有しているため、複合基板全体のヤング率が低くなりすぎたり、支持基板による圧電基板の拘束力を十分に発現できなかったりするという問題もあった。
【0006】
一方、特許文献2には、支持基板の材料としてサイアロンが例示されている。しかしながら、特許文献2の複合基板は、支持基板と単結晶半導体基板との間に0.1〜10μmのヤング率が低いアモルファス層が介在するため、やはり、複合基板全体のヤング率が低くなりすぎたり、支持基板による圧電基板の拘束力を十分に発現できなかったりするという問題があった。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、高周波用弾性波デバイスの材料として適している複合基板を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の複合基板は、支持基板と機能性基板とが直接接合された複合基板であって、前記支持基板は、サイアロン焼結体であるものである。サイアロン焼結体は音速が速いため、本発明の複合基板を用いた弾性波デバイスはより高周波で使用することができる。また、サイアロン焼結体はヤング率が適正な値であるため、本発明の複合基板は反りや割れが発生しにくい反面、加工性は良好である、更に、サイアロン焼結体は抵抗率が高く絶縁性が高いため、本発明の複合基板を用いた弾性波デバイスは共振特性が良好になる。更にまた、サイアロン焼結体は熱膨張係数が十分低いため、本発明の複合基板を用いた弾性波デバイスは周波数温度依存性を十分低くすることができる。また、支持基板と機能性基板とは直接接合により一体化されているため、両基板が接着層などにより一体化されている場合に比べて、複合基板全体のヤング率が低くなりすぎることがないし、支持基板による機能性基板の拘束力を十分に発現できる。
【0009】
本発明の複合基板の製法は、上述した複合基板を製造する方法であって、前記支持基板の表面と前記機能性基板の表面とを直接接合する接合工程を含み、前記接合工程の前に、(a)前記支持基板の前記表面に存在する気孔の数が100μm×100μmの面積当たり30個以下となるように前記表面を研磨仕上げするか、(b)前記支持基板の前記表面の100μm×140μmの測定範囲における中心線平均粗さ(Ra)が1nm以下となるように前記表面を研磨仕上げするか、(c)前記支持基板の前記表面の100μm×140μmの測定範囲における断面曲線の最大山高さと最大谷深さとの高さの差(Pt)が30nm以下となるように前記表面を研磨仕上げするものである。この製法では、支持基板としてサイアロン焼結体を用いているため、支持基板を研磨仕上げした表面は表面平坦性が高い。そのため、機能性基板と支持基板とを直接接合するのに適している。
【0010】
本発明の電子デバイスは、上述した本発明の複合基板を利用したものである。この電子デバイスの支持基板であるサイアロン焼結体は、音速が速く、ヤング率が適正な値であり、抵抗率が高く、熱膨張係数が十分低い。そのため、この電子デバイスは、より高周波で使用することができ、反りや割れが発生しにくい反面、加工性はよく、共振特性が良好であり、周波数温度依存性を十分低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】複合基板10の斜視図。
図2】複合基板10を用いて作製した電子デバイス30の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
本実施形態の複合基板は、支持基板と機能性基板とが直接接合された複合基板であって、支持基板は、サイアロン焼結体であるものである。サイアロン焼結体は、一般式:Si6-zAlzz8-z(0<z≦4.2)で表されるが、酸化マグネシウムや酸化イットリウムなどの金属酸化物を固溶していてもよい。機能性基板としては、特に限定されないが、例えばLT、LN、窒化ガリウム、シリコンなどが挙げられる。このうちLTやLNが好ましい。支持基板と機能性基板との界面に厚さが5nm以下のアモルファス層が存在していてもよい。
【0014】
サイアロン焼結体は音速が速い。そのため、本実施形態の複合基板を用いた弾性波デバイスはより高周波で使用することができる。サイアロン焼結体の音速は、5000m/s以上が好ましく、5500m/s以上がより好ましい。この音速は、剛性率、密度、ヤング率、ポアソン比によって決まるが、サイアロンは前出の式のzの値を調整することにより、これらの特性を制御することができる。
【0015】
サイアロン焼結体はヤング率が適正な値である。つまり、本実施形態の複合基板は適度に硬いため、反りや割れが発生しにくいし加工性も良好である。サイアロン焼結体のヤング率は、200GPa以上350GPa以下が好ましい。
【0016】
サイアロン焼結体は抵抗率が高く絶縁性が高い。そのため、本実施形態の複合基板を用いた弾性波デバイスは共振特性が良好になる。サイアロン焼結体の抵抗率は、1014Ωcm以上が好ましい。
【0017】
サイアロン焼結体は機能性基板に比べて熱膨張係数が十分低い。そのため、実施形態の複合基板を用いた弾性波デバイスは周波数温度依存性を十分低くすることができる。サイアロン焼結体の熱膨張係数(40〜400℃)は3.0ppm/K以下が好ましく、2.7ppm/K以下がより好ましい。
【0018】
サイアロン焼結体は、開気孔率が0.1%以下であることが好ましく、相対密度が99.9%以上であることが好ましい。また、サイアロン焼結体は、X線回折図において、サイアロンの最大ピークの強度に対する、サイアロン以外の各成分の最大ピークの強度の総和の比が0.005以下のものが好ましい。なお、X線回折図の測定条件はCuKα、40kV、40mA、2θ=10−70°である。
【0019】
次に、サイアロン焼結体の製造方法について説明する。サイアロン焼結体の製造フローは、サイアロン原料粉末を作製する工程と、サイアロン焼結体を作製する工程とを含む。
【0020】
(サイアロン原料粉末の作製)
原料粉末には、不純物金属元素含有量が0.2質量%以下、平均粒径が2μm以下の市販の窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ及びシリカ粉末を用いた。これら原料を用いて、Si:Al:O:N=(6−z):z:z:(8−z)(但し0<z≦4.2)が所定組成となるように質量割合を決定して各成分を混合してサイアロン原料粉末を作製する。zの値は0.5≦z≦4.0が好ましい。各粉末は、緻密に焼結するためには細かいものがより好ましく、平均粒径が1.5μm以下、更には1μm以下のものが好ましい。原料粉末の混合方法に特に制限はなく、例えばボールミル、アトライター、ビーズミル、ジェットミル等を利用することができ、乾式、湿式どちらの混合方法でもよい。但し、均質に混合された原料粉末を得るには溶媒を用いた湿式法が好ましい。その場合、混合に用いた溶媒等は乾燥除去されることで原料粉末を得る。原料粉末には添加物が含まれていてもよい。添加物としては、酸化マグネシウムや酸化イットリウムなどが挙げられる。得られたスラリーを乾燥し、乾燥物を篩に通してサイアロン原料粉末とする。なお、混合時にメディア成分等の混入によって組成がずれた場合は、適宜組成調整するなどして原料粉末とすればよい。あるいは、混合物に含まれる各成分の質量が所望のサイアロン組成になるように、予め混合粉末の各成分の質量を調整しておくことにより、混合物をそのままサイアロン原料粉末としてもよい。
【0021】
(サイアロン焼結体の作製)
得られたサイアロン原料粉末を所定形状に成形する。成形の方法に特に制限はなく、一般的な成形法を用いることができる。例えば、上記のようなサイアロン原料粉末をそのまま金型によってプレス成形してもよい。プレス成形の場合は、サイアロン原料粉末をスプレードライによって顆粒状にしておくと、成形性が良好になる。他に、有機バインダーを加えて坏土を作製し押出し成形したり、スラリーを作製しシート成形することができる。これらのプロセスでは焼成工程前あるいは焼成工程中に有機バインダー成分を除去することが必要になる。また、CIP(冷間静水圧プレス)にて高圧成形をしてもよい。
【0022】
次に、得られた成形体を焼成してサイアロン焼結体を作製する。この際、焼結粒子を微細に維持し、焼結中に気孔を排出することがサイアロン焼結体の表面平坦性を高めるために好ましい。その手法として、ホットプレス法が非常に有効である。ホットプレス法を用いることで常圧焼結に比べて低温で微細粒の状態で緻密化が進み、常圧焼結でよく見られる粗大な気孔の残留を抑制することができる。ホットプレス時の焼成温度は1725〜1900℃とすることが好ましく、1750〜1900℃とすることがより好ましい。また、ホットプレス時のプレス圧力は100〜300kgf/cm2とすることが好ましく、150〜250kgf/cm2がより好ましい。焼成温度(最高温度)での保持時間は、成形体の形状や大きさ、加熱炉の特性などを考慮し、適宜、適当な時間を選択することができる。具体的な好ましい保持時間は、例えば1〜12時間、更に好ましくは2〜8時間である。ホットプレス時の焼成雰囲気は、サイアロンの分解を避けるため、窒素雰囲気が好ましい。
【0023】
次に、複合基板の製法について説明する。この製法は、上述したサイアロン焼結体製の支持基板の表面と機能性基板との表面とを直接接合によって接合する工程を含むことが好ましい。接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。このように接合面積割合が大きいと、機能性基板と支持基板とが強固に接合された良好な複合基板になる。
【0024】
直接接合では、機能性基板と支持基板とのそれぞれの接合面を活性化した後、両接合面を向かい合わせにした状態で両基板を押圧する。接合面の活性化は、例えば、接合面への不活性ガス(アルゴンなど)の中性原子ビームの照射のほか、プラズマやイオンビームの照射などで行う。これらの照射には、例えばイオンガンやFABガンなどを用いて行うことができる。FABガンはイオンガンに比べて1粒子当たりのエネルギーが大きく常温接合の妨げとなるような基板表面の酸化膜や吸着層を除去する能力が高い。すなわち、接合に必要なフリーな結合の手を造り易いため、FABガンの方がより好ましい。機能性基板と支持基板とを直接接合する前に、(a)支持基板の表面に存在する気孔の数が100μm×100μmの面積当たり30個以下となるように表面を研磨仕上げするか、(b)支持基板の表面の100μm×140μmの測定範囲における中心線平均粗さ(Ra)が1nm以下となるように表面を研磨仕上げするか、(c)支持基板の表面の100μm×140μmの測定範囲における断面曲線の最大山高さと最大谷深さとの高さの差(Pt)が30nm以下となるように表面を研磨仕上げするのが好ましい。こうすれば、機能性基板と支持基板とのナノレベルでの接触面積が高まり、良好に直接接合することができる。例えば、接合面積割合を80%以上(好ましくは90%以上)にすることができる。上述した(a)の気孔の数は10個以下がより好ましく、上述した(b)のRaは0.9nm以下がより好ましく、上述した(c)のPtは27nm以下がより好ましい。なお、支持基板の表面の研磨仕上げは(a)〜(c)の少なくとも1つを満たすように行うのが好ましい。また、機能性基板の表面も、支持基板の表面と同様、(a)〜(c)の少なくとも1つを満たすように研磨仕上げすることが好ましい。図1に複合基板の一例を示す。複合基板10は、機能性基板である圧電基板12と支持基板14とが直接接合により接合されたものである。
【0025】
このようにして作製した複合基板は、直接接合されているため、接着層を介して接合されている場合に比べて、複合基板全体のヤング率が低くなりすぎることがないし、支持基板による機能性基板の拘束力が強いため周波数温度依存性を低くすることができる。また、このようにして作製した複合基板は、支持基板と機能性基板との界面に厚さが5nm以下のアモルファス層が存在していてもよい。このように極く薄いアモルファス層が支持基板と機能性基板との間に存在していたとしても、複合基板全体のヤング率が低くなりすぎることがないし、支持基板による機能性基板の拘束力を十分に発現できる。
【0026】
次に、電子デバイスの実施の形態について説明する。電子デバイスは、上述した複合基板を利用したものである。電子デバイスに用いられる複合基板は、機能性基板と支持基板の厚さの比(機能性基板の厚さ/支持基板の厚さ)が0.1以下であることが好ましい。こうした電子デバイスとしては、弾性波デバイス(表面弾性波デバイスやラム波素子、薄膜共振子(FBAR)など)のほか、LEDデバイス、光導波路デバイス、スイッチデバイスなどが挙げられる。弾性波デバイスに上述した複合基板を利用する場合には、支持基板であるサイアロン焼結体の熱膨張係数が非常に小さく、且つ、ヤング率が高いため、支持基板が機能性基板を拘束する力が高まる。その結果、デバイスの周波数温度依存性が大きく改善される。図2に複合基板10を用いて作製した電子デバイス30の一例を示す。電子デバイス30は、1ポートSAW共振子つまり表面弾性波デバイスである。まず、複合基板10の圧電基板12に一般的なフォトリソグラフィ技術を用いて多数の電子デバイス30のパターンを形成し、その後、ダイシングにより1つ1つの電子デバイス30に切り出す。電子デバイス30は、フォトリソグラフィ技術により、圧電基板12の表面に櫛形のIDT(Interdigital Transducer)電極32,34と反射電極36とが形成されたものである。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0028】
1.原料粉末の作製
原料粉末には、市販の窒化珪素粉末(酸素含有量1.3質量%、不純物金属元素含有量0.2質量%以下、平均粒径0.6μm)、窒化アルミニウム(酸素含有量0.8質量%、不純物金属元素含有量0.1質量%以下、平均粒径1.1μm)、アルミナ(純度99.9質量%、平均粒径0.5μm)、シリカ(純度99.9質量%、平均粒径0.5μm)の粉末を用いた。
【0029】
サイアロン原料粉末A〜Kは、以下のようにして作製した。すなわち、まず、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、シリカの各粉末を、表1に示すzの値を持つサイアロン組成(Si6-zAlzz8-z)になるように秤量した。これら各粉末を、アルミナを玉石(φ5mm)とし、溶媒にイソプロピルアルコールを用いてボールミルにて4時間混合し、サイアロン混合物(粉末が混合されたスラリー)を作製した。得られたスラリーを窒素ガスフロー下、110℃で乾燥し、乾燥物を篩に通してサイアロン原料粉末A〜Kとした。なお、サイアロン原料粉末D,H,Kには酸化マグネシウム(純度99.9%、平均粒径1.8μm)、サイアロン原料粉末E,F,G,I,Jには酸化イットリウム(純度99.9%、平均粒径1.1μm)を用いて前述と同様にして作製した。
【0030】
【表1】
【0031】
2.焼結体の作製及び評価
(1)実験例1
実験例1のサイアロン焼結体は、サイアロン原料粉末Aを金型を用いて直径125mm、厚さ約20mmに成形した後、黒鉛型にて、プレス圧力200kgf/cm2下、最高温度1800℃で4時間、ホットプレス焼成したものである。焼成雰囲気は、窒素雰囲気とした。得られた焼結体は直径125mmで厚さは約8mmであった。この焼結体から4mm×3mm×40mmサイズの抗折棒などを切り出し、各種特性を評価した。各種特性の評価方法を以下に示す。また、結果を表2に示す。なお、焼結体表面の性状は、4mm×3mm×10mm程度の試験片の一面を研磨によって鏡面状に仕上げて評価した。研磨は3μmのダイヤモンド砥粒、最終的に0.5μmのダイヤモンド砥粒のラップ研磨を行った。
【0032】
・嵩密度、開気孔率
蒸留水を用いたアルキメデス法により測定した。
【0033】
・相対密度
相対密度は嵩密度÷見掛け密度で算出した。
【0034】
・結晶相及びピーク強度比Ix
サイアロン焼結体を粉砕し、X線回折装置により、サイアロン、異相の同定と各相の最大ピークの強度の算出を行った。焼結体の粉砕は、アルミナ乳鉢を用いているためアルミナ乳鉢からアルミナが混合される可能性があり、長時間の粉砕には注意が必要である。XRD装置には、全自動多目的X線解析装置D8 ADVANCEを用い、CuKα、40kV、40mA、2θ=10−70°を測定条件とした。X線回折図から、サイアロンの最大ピーク(2θ=32.8〜33.5°)の強度(Ic)に対する、検出された各異相(P、Q、R、・・・)の最大ピークの強度(Ip、Iq、Ir、・・・)の総和の比(ピーク強度比Ix)を下記式から求めた。なお、最大ピークが他のピークと重なる場合は、最大ピークの代わりに2番目にピーク強度の大きなピークを採用した。
Ix=(Ip+Iq+Ir・・・)/Ic
【0035】
・サイアロン焼結粒の平均粒径
破断面におけるサイアロン焼結粒をSEMにて127μm×88μmの視野で観察し、視野内の10個以上のサイアロン焼結粒の粒径を求め、その平均値をサイアロン焼結粒の平均粒径とした。なお、1つのサイアロン焼結粒の粒径は、その焼結粒の長径と短径の平均値とした。
【0036】
・気孔数
上記のように鏡面状に仕上げた面を3D測定レーザー顕微鏡で観察し、最大長さが0.5μm以上、深さが0.08μm以上の気孔の単位面積当たりの計数値を4箇所で計測し、その平均値を気孔数とした。単位面積は100μm四方の面積とした。
【0037】
・表面平坦性
上記のように鏡面状に仕上げた面に対し、3次元光学プロファイラー(Zygo)を用いて中心線平均粗さRaと、最大山高さと最大谷深さとの高さの差Ptを測定した。本明細書中のRaとPtは、JIS B 0601:2013で規定される、断面曲線の算術平均粗さRaと断面曲線の最大断面高さPtに対応する。上記のRa、Ptを表面平坦性とした。測定範囲は、100μm×140μmとした。
【0038】
・ヤング率
JIS R1602に準じた、静的撓み法で測定した。試験片形状は3mm×4mm×40mm抗折棒とした。
【0039】
・熱膨張係数(CTE,40〜400℃)
JIS R1618に準じて、押し棒示差式で測定した。試験片形状は3mm×4mm×20mmとした。
【0040】
・音速
音速cは、下記式により算出した。なお、ポアソン比は試験片にひずみゲージを貼付して測定した。
c=(G/ρ)1/2 ,G=E/2(1+ν)
(G:剛性率、ρ:密度、E:ヤング率、ν:ポアソン比)
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、実験例1のサイアロン焼結体は優れた特性を備えていた。具体的には、実験例1のサイアロン焼結体の嵩密度は3.160g/cm3、開気孔は0.00%、相対密度は100.00%であった。結晶相は、サイアロン以外に僅かにアルミナや酸窒化ケイ素が検出された。サイアロンの最大ピークの強度に対する、サイアロン以外の各成分の最大ピークの強度の総和の比(ピーク強度比)Ixは0.0012であり、極めて小さかった。研磨面の100μm×100μm範囲において、最大長さが0.5μm以上の気孔数は1個で非常に少なかった。研磨面の表面平坦性は、中心線平均粗さRaが0.4nmと小さく、断面曲線の最大山高さと最大谷深さとの高さの差Ptは15nmと小さいことがわかった。ヤング率は307GPa、熱膨張係数(40〜400℃)は2.7ppm/K、音速は6200m/sであった。また、実験例1のサイアロン焼結体の抵抗率は1014Ωcmを超えており、絶縁性が高かった。
【0043】
(2)実験例2〜11
実験例2〜11のサイアロン焼結体は、サイアロン原料粉末Aの代わりに表1に示すサイアロン原料粉末B〜Kを用いて、実験例1と同様にしてホットプレス焼成したものである。各サイアロン焼結体の特性を表2に示す。いずれのサイアロン焼結体も、開気孔率は0.01%以下、相対密度は99.9%以上、サイアロン以外の相とのピーク強度比Ixは0.005以下、サイアロン平均粒径は20μm以下、気孔数は10個以下、中心線平均粗さRaは1.0nm以下、最大山高さと最大谷深さとの高さの差Ptは30nm以下、ヤング率は210GPa以上、CTEは3.0ppm/K以下、音速は5000m/s以上であり、優れた特性を備えていた。また、実験例2〜11のサイアロン焼結体の抵抗率はいずれも1014Ωcmを超えていた。なお、実験例4〜11のサイアロン焼結体は、酸化マグネシウムあるいは酸化イットリウムがサイアロン中に固溶したものであるが、いずれも実験例1〜3のサイアロン焼結体と同等の特性が得られることがわかった。
【0044】
3.複合基板の作製及び評価
実験例12〜22では、実験例1〜11の焼結体からそれぞれ切り出した直径100mm、厚さ230μm程度の支持基板に、直径100mm、厚さ250μm程度のLT基板を直接接合して複合基板を得た。まず、接合前の表面の活性化処理を行った。具体的には、10-6Pa台まで真空引きした後、FABガンを用いてアルゴンの中性原子ビーム(加速電圧:1kV、電流:100mA、Ar流量:50sccm)を120sec両基板に照射した。その後、両基板を貼り合わせ、接合荷重0.1tonで1分間プレスし、支持基板とLT基板を室温で直接接合した。
【0045】
実験例12〜22の複合基板は、Ra、Ptが小さい支持基板を用いており、支持基板とLT基板との接合界面に気泡は殆ど観察されず、接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が表3に示すように92%以上であり、良好に接合されていた。ここで、接合面積は、気泡のない部分の面積であり、接合面積割合は、接合界面全体の面積に対する接合面積の割合である。更に、実験例12〜22で良好に接合された複合基板は、LT基板側を数μmから20μmの厚さとなるまで研磨処理しても、剥離することなく、接合面積は92%以上が維持されており、支持基板とLT基板が非常に強固に接合されていることが確認された。また、接合界面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて断面を観察した。接合界面は隙間がなく、原子レベルにおいても強固に接合、且つ、非常に薄いアモルファス層があった。実験例7〜9を代表例としてアモルファス層の厚さを測定したところ、それぞれ3.6nm、3.8nm、4.1nmであった。アモルファス層の厚さは、アモルファス層の異なる3箇所で測定した平均値とした。
【0046】
【表3】
【0047】
従来技術であるシリコン支持基板(ヤング率:190GPa、熱膨張係数:4ppm/K程度、抵抗率104Ωcm台)は、サイアロン支持基板に比べて、ヤング率が低いため機能性基板の拘束力が小さく、熱膨張係数が大きいため機能性基板の膨張収縮が生じ易く、さらに抵抗率が低いため共振特性が悪化しやすい。また、従来技術であるアルミナ支持基板(ヤング率:370GPa、熱膨張係数:7ppm/K程度)やサファイア支持基板(ヤング率:490GPa、熱膨張係数:7ppm/K程度)は、熱膨張係数がサイアロン支持基板の倍以上と大幅に大きいため、機能性基板の膨張収縮が生じ易い。以上より、シリコン支持基板、アルミナ支持基板及びサファイア支持基板と比べて、実験例サイアロン支持基板に用いた方が、膨張収縮が生じにくいため表面弾性波素子の周波数温度特性(TCF)を大幅に改善することができ、共振特性の面でも優れていると期待される。なかでも、実験例1、6に用いたサイアロン基板は高ヤング率の特徴を有しており、よりTCFの改善率が高いと期待される。
【0048】
なお、上述した実験例12〜22が本発明の複合基板及びその製法の実施例に相当する。
【0049】
本出願は、2016年9月20日に出願された国際出願PCT/JP2016/77628を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、表面弾性波素子の他にラム波素子、薄膜共振子(FBAR)などの電子デバイスに利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 複合基板、12 圧電基板、14 支持基板、30 電子デバイス、32,34 IDT電極、36 反射電極。
図1
図2