【実施例】
【0027】
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0028】
1.原料粉末の作製
原料粉末には、市販の窒化珪素粉末(酸素含有量1.3質量%、不純物金属元素含有量0.2質量%以下、平均粒径0.6μm)、窒化アルミニウム(酸素含有量0.8質量%、不純物金属元素含有量0.1質量%以下、平均粒径1.1μm)、アルミナ(純度99.9質量%、平均粒径0.5μm)、シリカ(純度99.9質量%、平均粒径0.5μm)の粉末を用いた。
【0029】
サイアロン原料粉末A〜Kは、以下のようにして作製した。すなわち、まず、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、シリカの各粉末を、表1に示すzの値を持つサイアロン組成(Si
6-zAl
zO
zN
8-z)になるように秤量した。これら各粉末を、アルミナを玉石(φ5mm)とし、溶媒にイソプロピルアルコールを用いてボールミルにて4時間混合し、サイアロン混合物(粉末が混合されたスラリー)を作製した。得られたスラリーを窒素ガスフロー下、110℃で乾燥し、乾燥物を篩に通してサイアロン原料粉末A〜Kとした。なお、サイアロン原料粉末D,H,Kには酸化マグネシウム(純度99.9%、平均粒径1.8μm)、サイアロン原料粉末E,F,G,I,Jには酸化イットリウム(純度99.9%、平均粒径1.1μm)を用いて前述と同様にして作製した。
【0030】
【表1】
【0031】
2.焼結体の作製及び評価
(1)実験例1
実験例1のサイアロン焼結体は、サイアロン原料粉末Aを金型を用いて直径125mm、厚さ約20mmに成形した後、黒鉛型にて、プレス圧力200kgf/cm
2下、最高温度1800℃で4時間、ホットプレス焼成したものである。焼成雰囲気は、窒素雰囲気とした。得られた焼結体は直径125mmで厚さは約8mmであった。この焼結体から4mm×3mm×40mmサイズの抗折棒などを切り出し、各種特性を評価した。各種特性の評価方法を以下に示す。また、結果を表2に示す。なお、焼結体表面の性状は、4mm×3mm×10mm程度の試験片の一面を研磨によって鏡面状に仕上げて評価した。研磨は3μmのダイヤモンド砥粒、最終的に0.5μmのダイヤモンド砥粒のラップ研磨を行った。
【0032】
・嵩密度、開気孔率
蒸留水を用いたアルキメデス法により測定した。
【0033】
・相対密度
相対密度は嵩密度÷見掛け密度で算出した。
【0034】
・結晶相及びピーク強度比Ix
サイアロン焼結体を粉砕し、X線回折装置により、サイアロン、異相の同定と各相の最大ピークの強度の算出を行った。焼結体の粉砕は、アルミナ乳鉢を用いているためアルミナ乳鉢からアルミナが混合される可能性があり、長時間の粉砕には注意が必要である。XRD装置には、全自動多目的X線解析装置D8 ADVANCEを用い、CuKα、40kV、40mA、2θ=10−70°を測定条件とした。X線回折図から、サイアロンの最大ピーク(2θ=32.8〜33.5°)の強度(Ic)に対する、検出された各異相(P、Q、R、・・・)の最大ピークの強度(Ip、Iq、Ir、・・・)の総和の比(ピーク強度比Ix)を下記式から求めた。なお、最大ピークが他のピークと重なる場合は、最大ピークの代わりに2番目にピーク強度の大きなピークを採用した。
Ix=(Ip+Iq+Ir・・・)/Ic
【0035】
・サイアロン焼結粒の平均粒径
破断面におけるサイアロン焼結粒をSEMにて127μm×88μmの視野で観察し、視野内の10個以上のサイアロン焼結粒の粒径を求め、その平均値をサイアロン焼結粒の平均粒径とした。なお、1つのサイアロン焼結粒の粒径は、その焼結粒の長径と短径の平均値とした。
【0036】
・気孔数
上記のように鏡面状に仕上げた面を3D測定レーザー顕微鏡で観察し、最大長さが0.5μm以上、深さが0.08μm以上の気孔の単位面積当たりの計数値を4箇所で計測し、その平均値を気孔数とした。単位面積は100μm四方の面積とした。
【0037】
・表面平坦性
上記のように鏡面状に仕上げた面に対し、3次元光学プロファイラー(Zygo)を用いて中心線平均粗さRaと、最大山高さと最大谷深さとの高さの差Ptを測定した。本明細書中のRaとPtは、JIS B 0601:2013で規定される、断面曲線の算術平均粗さRaと断面曲線の最大断面高さPtに対応する。上記のRa、Ptを表面平坦性とした。測定範囲は、100μm×140μmとした。
【0038】
・ヤング率
JIS R1602に準じた、静的撓み法で測定した。試験片形状は3mm×4mm×40mm抗折棒とした。
【0039】
・熱膨張係数(CTE,40〜400℃)
JIS R1618に準じて、押し棒示差式で測定した。試験片形状は3mm×4mm×20mmとした。
【0040】
・音速
音速cは、下記式により算出した。なお、ポアソン比は試験片にひずみゲージを貼付して測定した。
c=(G/ρ)
1/2 ,G=E/2(1+ν)
(G:剛性率、ρ:密度、E:ヤング率、ν:ポアソン比)
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、実験例1のサイアロン焼結体は優れた特性を備えていた。具体的には、実験例1のサイアロン焼結体の嵩密度は3.160g/cm
3、開気孔
率は0.00%、相対密度は100.00%であった。結晶相は、サイアロン以外に僅かにアルミナや酸窒化ケイ素が検出された。サイアロンの最大ピークの強度に対する、サイアロン以外の各成分の最大ピークの強度の総和の比(ピーク強度比)Ixは0.0012であり、極めて小さかった。研磨面の100μm×100μm範囲において、最大長さが0.5μm以上の気孔数は1個で非常に少なかった。研磨面の表面平坦性は、中心線平均粗さRaが0.4nmと小さく、断面曲線の最大山高さと最大谷深さとの高さの差Ptは15nmと小さいことがわかった。ヤング率は307GPa、熱膨張係数(40〜400℃)は2.7ppm/K、音速は6200m/sであった。また、実験例1のサイアロン焼結体の抵抗率は10
14Ωcmを超えており、絶縁性が高かった。
【0043】
(2)実験例2〜11
実験例2〜11のサイアロン焼結体は、サイアロン原料粉末Aの代わりに表1に示すサイアロン原料粉末B〜Kを用いて、実験例1と同様にしてホットプレス焼成したものである。各サイアロン焼結体の特性を表2に示す。いずれのサイアロン焼結体も、開気孔率は0.01%以下、相対密度は99.9%以上、サイアロン以外の相とのピーク強度比Ixは0.005以下、サイアロン平均粒径は20μm以下、気孔数は10個以下、中心線平均粗さRaは1.0nm以下、最大山高さと最大谷深さとの高さの差Ptは30nm以下、ヤング率は210GPa以上、CTEは3.0ppm/K以下、音速は5000m/s以上であり、優れた特性を備えていた。また、実験例2〜11のサイアロン焼結体の抵抗率はいずれも10
14Ωcmを超えていた。なお、実験例4〜11のサイアロン焼結体は、酸化マグネシウムあるいは酸化イットリウムがサイアロン中に固溶したものであるが、いずれも実験例1〜3のサイアロン焼結体と同等の特性が得られることがわかった。
【0044】
3.複合基板の作製及び評価
実験例12〜22では、実験例1〜11の焼結体からそれぞれ切り出した直径100mm、厚さ230μm程度の支持基板に、直径100mm、厚さ250μm程度のLT基板を直接接合して複合基板を得た。まず、接合前の表面の活性化処理を行った。具体的には、10
-6Pa台まで真空引きした後、FABガンを用いてアルゴンの中性原子ビーム(加速電圧:1kV、電流:100mA、Ar流量:50sccm)を120sec両基板に照射した。その後、両基板を貼り合わせ、接合荷重0.1tonで1分間プレスし、支持基板とLT基板を室温で直接接合した。
【0045】
実験例12〜22の複合基板は、Ra、Ptが小さい支持基板を用いており、支持基板とLT基板との接合界面に気泡は殆ど観察されず、接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が表3に示すように92%以上であり、良好に接合されていた。ここで、接合面積は、気泡のない部分の面積であり、接合面積割合は、接合界面全体の面積に対する接合面積の割合である。更に、実験例12〜22で良好に接合された複合基板は、LT基板側を数μmから20μmの厚さとなるまで研磨処理しても、剥離することなく、接合面積は92%以上が維持されており、支持基板とLT基板が非常に強固に接合されていることが確認された。また、接合界面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて断面を観察した。接合界面は隙間がなく、原子レベルにおいても強固に接合、且つ、非常に薄いアモルファス層があった。実験例7〜9を代表例としてアモルファス層の厚さを測定したところ、それぞれ3.6nm、3.8nm、4.1nmであった。アモルファス層の厚さは、アモルファス層の異なる3箇所で測定した平均値とした。
【0046】
【表3】
【0047】
従来技術であるシリコン支持基板(ヤング率:190GPa、熱膨張係数:4ppm/K程度、抵抗率10
4Ωcm台)は、サイアロン支持基板に比べて、ヤング率が低いため機能性基板の拘束力が小さく、熱膨張係数が大きいため機能性基板の膨張収縮が生じ易く、さらに抵抗率が低いため共振特性が悪化しやすい。また、従来技術であるアルミナ支持基板(ヤング率:370GPa、熱膨張係数:7ppm/K程度)やサファイア支持基板(ヤング率:490GPa、熱膨張係数:7ppm/K程度)は、熱膨張係数がサイアロン支持基板の倍以上と大幅に大きいため、機能性基板の膨張収縮が生じ易い。以上より、シリコン支持基板、アルミナ支持基板及びサファイア支持基板と比べて、実験例サイアロン支持基板に用いた方が、膨張収縮が生じにくいため表面弾性波素子の周波数温度特性(TCF)を大幅に改善することができ、共振特性の面でも優れていると期待される。なかでも、実験例1、6に用いたサイアロン基板は高ヤング率の特徴を有しており、よりTCFの改善率が高いと期待される。
【0048】
なお、上述した実験例12〜22が本発明の複合基板及びその製法の実施例に相当する。
【0049】
本出願は、2016年9月20日に出願された国際出願PCT/JP2016/77628を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。