(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シールケースは、前記ハウジングのメカニカルシール取付部に取り付けられており、メカニカルシール取付部は当該ハウジングの本体部と別部材で構成されて当該本体部に取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載する分割型メカニカルシール。
各密封環の基端部分の外周面に、前記スナップリングの内周部が嵌合する環状を形成してあることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載する分割型メカニカルシール。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような分割型メカニカルシールは、これが大型のものである場合にもメンテナンス作業を含む分解,組立作業を容易に行うことができ、大型回転機器の軸封手段として好適するものであるが、次のような問題が指摘されている。
【0007】
すなわち、第1従来シールでは、分割型密封環(第1密封環)が金属製の緊縛環によって直接的に緊縛されているため、緊縛環の保持環への締め付けが過剰である場合には、つまり緊縛環による分割型密封環の緊縛力が過剰である場合には、密封環の分割部分に歪が生じて(極端な場合には当該分割部分が破損して)、分割部分の衝合面間から被密封流体が漏洩する虞れがある。逆に、緊縛環の保持環への締め付けが不十分で、緊縛環による分割型密封環の緊縛力が不足する場合には、分割型密封環に作用する内圧(第1密封環の内周面に作用する被密封流体の圧力)によって分割部分の衝合面間が開き、被密封流体が漏洩する虞れがある。このような問題は、第2密封環を分割型密封環とした場合においても同様に生じ、特に、分割型密封環を引張荷重に弱い炭化珪素等のセラミックスや軟質のカーボン等で構成した場合や被密封流体の圧力が高い場合には顕著に生じる。
【0008】
これに対して、第2従来シールは、上記した如く、分割型密封環(第1及び第密封環)と緊縛環及び保持環との間に弾性部材を介在させているため、緊縛環による緊縛力に過不足がある場合や当該分割型密封環に作用する内圧が高い場合にも、第1従来シールのように分割面が開いたり密封端面に歪が生じたりすることがなく、分割型密封環をその分割面が径方向及び軸線方向にズレを生じることなく適正な円環状形態に組み立てることができ、第1従来シールの欠点を排除したものである。
【0009】
しかし、第1及び第2従来シールの何れにおいても、分割型密封環の組み立て時において両分割部分を円環状に衝合させた状態に人為的に保持しておく必要があり、メンテナンス作業を含むメカニカルシールの組み立て作業を容易且つ安全に行うことが困難であった。例えば、作業中に密封環(分割部分)が落下する等により破損したり、人身事故が生じる危険がある。
【0010】
また、第2従来シールにおいては、上記した如く分割型密封環と緊縛環との間に弾性部材を介在させているため、第1従来シールのように緊縛環による緊縛力の過不足を当該弾性部材でカバーすることができるものの、分割型密封環の緊縛力を緊縛環の保持環への締め付けによって得ている(分割型密封環と緊縛環との嵌合面をテーパ面によるカム作用により緊縛環の軸線方向力(保持環への締め付け力)の分力によって緊縛力を得ている)ため、第1従来シールと同様に、緊縛環の締め付け時に分割型密封環の衝合面(両分割部分の衝合面)が軸線方向にズレを生じる虞れがあり、当該密封環をその密封端面が適正な環状平面となるように組み立てることが困難であった。かかる問題は第1従来シールにおいても当然に生じるが、第2従来シールのように分割型密封環と緊縛環との間に弾性部材を介在している場合においては、緊縛環の保持環への締め付け(軸線方向移動)が弾性部材を介在することによって円滑に行い難いため、上記問題が生じる虞れがより高くなる。また、第2従来シールにあって分割型密封環と緊縛環との間に介在させる弾性部材の厚みは一定以上に厚くすることができない(弾性部材の厚みを必要以上に厚くすると、緊縛環の円滑な軸線方向移動が更に妨げられることになる)ことから、緊縛力の過不足による上記した問題を当該弾性部材によって完全に払拭できる訳ではなく、緊縛力過剰による密封端面の歪や緊縛力不足による漏れが生じる虞れは残る。
【0011】
なお、このように分割型密封環の密封端面が歪を生じる等により適正な円環状平面をなしていない場合、一般に、メカニカルシールの組立時やメンテナンス時に、当該密封端面を所謂摺り合わせ作業により修正するか、当該密封端面の径方向幅を極端に小さく設定して、正規の運転に先駆けて所謂馴染み運転を行うことが試みられているが、このような摺り合わせ作業や馴染み運転は、高度の熟練を必要とするためユーザサイドでは行い難いものであり、また作業者にも過大な負担を強いることになり、経済的負担も極めて大きい。
【0012】
また、腐食流体を扱う回転機器(例えば、海水淡水化プラント用ポンプや海水輸送用ポンプ等)においては密封環以外のメカニカルシール構成部品(例えば、緊縛環等の金属製部品)についても交換等のメンテナンスを必要とする場合があるが、このような用途に使用する場合、密封環のみを分割型としている第1及び第2従来シールにおいては、非分割のメカニカルシール部品を回転軸から挿脱させるために回転機器の一部(例えば、回転軸の軸受部や駆動源との接続部)を分解,再組立する必要があり、メカニカルシールのメンテナンス作業が極めて面倒である。
【0013】
さらに、第1及び第2従来シールの何れにおいても、分割型密封環の分解,組立時に緊縛環等を軸線方向に大きく移動させる必要があるため、回転軸上におけるメカニカルシールの装着部分の周辺領域にある程度以上の軸線方向スペース(以下「緊縛環等の軸線方向移動スペース」という)を必要とする。しかし、当該周辺領域には上記軸受部等の種々の機器,部品が存在しているため、上記緊縛環等の軸線方向移動スペースを十分に確保できない回転機器も多い。したがって、このような回転機器の軸封手段として第1及び第2従来シールを使用する場合には、密封環のみのメンテナンスを行うときにも、上記した如く密封環以外のメカニカルシール構成部品のメンテナンスを行う場合と同様に、回転機器の分解,再組立が必要となる。
【0014】
本発明は、このような問題をすべて解決して、メカニカルシールのメンテナンスを含む分解,組立を容易且つ安全に行うことができるアウトサイド型の分割型メカニカルシールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の目的を達成すべく、周方向に2分割されており、円環状に締結された状態で回転機器のハウジングに取り付けられたシールケースと、
周方向に2分割されており、円環状に締結された状態でシールケースに軸線方向移動可能に保持された第1緊縛環と、周方向に2分割されており、円環状に締結された状態で当該回転機器の回転軸に固定された第2緊縛環と、周方向の一箇所であって全長に亘って切離された切離部分を接着剤で接着することにより円筒体に構成される弾性材製の第1及び第2シール部材と、周方向に2分割された分割型密封環であって、密封端面を形成した先端部分とこれに連なる外径一定の中間部分とこれより外径を小径とする外径一定の基端部分とからなる第1及び第2密封環と、各分割型密封環の基端部分に外嵌されており、当該分割型密封環を円環状に緊縛保持するスナップリングと、を具備し、第1シール部材の基端部分を前記ハウジングとシールケースとの軸線方向対向端面間に挟圧固定すると共に、第1密封環の中間部分及びスナップリングが外嵌された基端部分を第1シール部材の先端部分を介在させた状態で第1緊縛環により円環状に緊縛固定し、第2密封環の中間部分及びスナップリングが外嵌された基端部分を第2シール部材を介在させた状態で第2緊縛環により円環状に緊縛固定し、両密封環の密封端面の相対回転摺接作用により当該相対回転摺接部分の内周側領域である被密封流体領域とその外周側領域である非密封流体領域とを遮蔽シールするように構成したことを特徴とする分割型メカニカルシールを提案する。
【0016】
かかる分割型メカニカルシールの好ましい実施の形態において、シールケースは、前記ハウジングのメカニカルシール取付部に取り付けられており、メカニカルシール取付部は当該ハウジングの本体部と別部材で構成されて当該本体部に取り付けられている。また、第2緊縛環は、夫々周方向に2分割されて円環状に締結された緊縛体と固定体とに分離構成されており、両体を一体に連結することにより第2密封環を第2シール部材を介在した状態で回転軸に固定するように構成される。また、各密封環の基端部分の外周面には、前記スナップリングの内周部が嵌合する環状溝を形成しておくことが好ましい。また、各密封環の基端部分には、軸線方向に密着状に並列する複数個の同一形状且つ同一材質のスナップリングが嵌合されていることが好ましい。また、各シール部材の先端部分は、分割型密封環の中間部分及びスナップリングが嵌合された基端部分の外周面並びに当該密封環の基端面に圧接する円筒形状をなすものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の分割型メカニカルシールにあっては、すべてのメカニカルシール構成部品が回転軸に対してこれに直交する方向に分解,組立できる構成となっているから、前記した緊縛環等の軸線方向移動スペースを十分に確保できない場合にも、更には分割型密封環以外のメカニカルシール構成部品を交換等のメンテナンスする必要がある場合にも、メンテナンスを含むメカニカルシールの分解,組立作業を容易に行うことができる。さらに、分割型密封環をスナップリングにより円環状に保持させた状態で緊縛環による緊縛作業を行うことができるから、分割型密封環の組立時にその分割部分が落下する等の破損事故や人身事故を防止することができ、分割型密封環の組立作業を容易に行うことができる。したがって、本発明の分割型メカニカルシールによれば、メンテナンスを含むメカニカルシールの分解,組立作業を容易且つ安全に行うことができる。しかも、本発明の分割型メカニカルシールは、緊縛環等の軸線方向移動スペースを十分に確保できない回転機器や密封環以外のメカニカルシール構成部品もメンテナンスする必要が生じる回転機器の軸封手段としても好適に使用することができ、その用途が大幅に拡大する。
【0018】
また、本発明の分割型メカニカルシールにあっては、各緊縛環の分割面を締結すること、つまり各緊縛環を分割面に対して垂直に締め付けることにより、各分割型密封環が弾性材のシール部材を介在した状態で緊縛されることから、第1及び第2従来シールのように緊縛環をカム作用を利用して軸線方向に締め付けることによって分割型密封環を緊縛させる場合と異なって、分割型密封環の組立時(緊縛時)に分割部分が軸線方向にズレを生じたりすることがない。しかも、分割型密封環と緊縛環との間に介在させるシール部材(先端部分)の緊縛方向厚み(径方向厚み)を十分に厚くしておく(緊縛時の圧縮代を大きくとる)ことができるから、緊縛環による緊縛力を高くしても、それによって分割型密封環に歪を生じたりすることない。したがって、分割型密封環を密封端面に歪を生じたりすることなく適正形態に組み立てることができ、前述したような摺り合わせ作業や馴染み運転を行う必要がない。しかも、上記したように緊縛環による緊縛力を高くできると共にシール部材の緊縛方向厚みを厚くできることから、高圧条件下で使用される場合にも、分割型密封環の分割面から漏れが生じることがなく、高PV値回転機器にも好適に使用することができる。
【0019】
このように本発明の分割型メカニカルシールは、シール機能及び分解,組立作業性に優れ且つ用途を大幅に拡大できるものであり、その実用的価値極めて大なるものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
【0022】
図1は本発明に係る分割型メカニカルシールの一例を示す断面図であり、
図2は
図1の要部を拡大して示す詳細図であり、
図3は
図1のIII −III 線に沿う断面図であり、
図4は
図1のIV−IV線に沿う断面図であり、
図5は
図1のV−V線に沿う断面図であり、
図6は
図1のVI−VI線に沿う断面図である。なお、以下の説明において、前後とは
図1及び
図2における左右を意味するものとする。
【0023】
図1に示す分割型メカニカルシールは、回転機器のハウジング(ポンプハウジング等であり、以下「機器ハウジング」という)1と回転軸(インぺラ軸等)2との間に装置されたものであり、機器ハウジング1に取り付けられたシールケース3と、シールケース3に第1緊縛環5及び第1シール部材6を介して軸線方向(前後方向)に移動可能に保持された第1密封環4と、回転軸2に第2緊縛環8及び第2シール部材9を介して固定された第2密封環7と、シールケース3と第1緊縛環5との間に介装されて、第1密封環4を第2密封環7に押圧接触させるべく軸線方向へと附勢するスプリング部材10とを具備して、両密封環4,7の対向端面たる密封端面4a,7aの相対回転摺接作用により、その相対回転摺接部分4a,7aの内周側領域である被密封流体領域(機内領域)Hとその外周側領域である非密封流体領域(機外領域であり、この例では大気領域)Lとを遮蔽シールするように構成されたアウトサイド型の端面接触形メカニカルシールである。
【0024】
シールケース3は、
図3に示す如く、周方向に直径線上で2分割された金属製の円環状体であり、分割部分3A,3Bの両端部同士を一対の締結ボルト31で締結することにより、分割面が衝合する円環状に構成される。シールケース3は、
図1及び
図3に示す如く、周方向に等間隔を隔てて配置した複数個の取付ボルト32により、機器ハウジング1の端部に形成されたメカニカルシール取付部1aに回転軸2と同心状に取り付けられている。シールケース3のメカニカルシール取付部1aに対する径方向の位置決めは、シールケース3の内周部がメカニカルシール取付部1aの大気領域側端部(前端面)に突設された環状凸部1bの外周部に嵌合することによって行われる。また、シールケース3の内周部にはその前端から内方に突出する円環状のフランジ部3aが形成されており、シールケース3をメカニカルシール取付部1aに取り付けた状態において両部1b,3aが軸線方向に所定間隔を隔てて直対向するようになっている。すなわち、当該環状凸部1bとフランジ部3aとの対向端面の内外径は一致している。なお、この例では、メカニカルシール取付部1aが、
図1に示す如く、機器ハウジング1の本体部1Aとは別部材で構成された金属製の円環状体で構成されており、当該本体部1Aの大気領域側端部(前端部)に複数個の取付ボルト(図示せず)により固着されている。また、各取付ボルト32は、シールケース3及びメカニカルシール取付部1aに形成したボルト挿通孔を貫通して、機器ハウジング1の本体部1Aに螺着されている。
【0025】
第1密封環4は、
図2に示す如く、外周面を基端方向(後方向)へと漸次拡径するテーパ面(截頭円錐面)に形成した先端部分42とこれに連なる中間部分43とこれに連なる基端部分44とからなる円環状体であり、
図4に示す如く、周方向に直径線上で2分割された分割型密封環に構成されており、その分割部分4A,4Bを第1スナップリング41により緊縛することにより、分割部分4A,4Bの端面同士が衝合する円環状に保持(仮止め)される。第1密封環4の材質としては、例えばSiC(シリコンカーバイド)又はカーボンが用いられる。
【0026】
第1密封環4の先端部分42の先端面(前端面)は軸線に直交する平滑な環状平面である密封端面4aに構成されている。第1密封環4の中間部分43の外径は一定であり、先端部分42の基端外径(テーパ面の最大径)と同一に設定されている。すなわち、中間部分43の外周面は、先端部分42の外周面から面一状に連なる円柱面をなしている。基端部分44の外径は一定であり、中間部分43の外径より小さく設定されている。すなわち、基端部分44の外周面は、中間部分43の外周面より小径であって、密封端面4aの外径と同径又はそれより小径の円柱面とされている。
【0027】
第1密封環4の基端部分44の外周面には、
図2に示す如く、その先端位置(中間部分43との境界位置)に位置して、第1スナップリング41の内周部が係合しうる環状溝44aが形成されている。
【0028】
第1スナップリング41は、
図4に示す如く、円環状板の周方向一箇所を切除したC字形状をなす金属製(SUS304等)のものである。第1スナップリング41は、JIS G3311に規定される一般的な軸用スナップリングと同様に、両端部をこれに形成した操作孔41aに係合させた適宜の工具(スナップリングプライヤー等)により第1密封環4の基端部分44の直径以上に拡開(弾性変形)させて、当該スナップリング41の内周部が前記環状溝44aに係合する状態で当該基端部分44に外嵌させることにより、第1密封環4をその分割部分4A,4Bの両端面同士が衝合する円環状に緊縛保持させるものである。第1スナップリング41の径方向幅及び厚さ(板厚)は一定であり、
図2に示す如く、環状溝44aに嵌合させた形態におけるスナップリング内径は環状溝44aの径(溝底の径)に一致しており、当該形態におけるスナップリング外径は第1密封環4の中間部分43の外径と同一又はこれより若干小さく設定されている。
【0029】
第2密封環7は、
図2に示す如く、外周面を基端方向(後方向)へと漸次拡径するテーパ面(截頭円錐面)に形成した先端部分72とこれに連なる中間部分73とこれに連なる基端部分74とからなる円環状体であり、
図5に示す如く、周方向に直径線上で2分割された分割密封環に構成されており、その分割部分7A,7Bを第2スナップリング71により緊縛することにより、分割部分7A,7Bの端面同士が衝合する円環状に保持(仮止め)される。第2密封環7の材質としては、例えばSiC(シリコンカーバイド)又はカーボンが用いられる。
【0030】
第2密封環7は、
図2に示す如く、第1密封環4と同一形状をなす分割型密封環に構成されたもので、先端部分72の先端面(後端面)は軸線に直交する平滑な環状平面である密封端面7aに構成されており、中間部分73の外径は一定であって先端部分72の基端外径(テーパ面の最大径)と同一に設定されており、その外周面は先端部分72の外周面から面一状に連なる円柱面をなしている。また、基端部分74の外径は一定であって中間部分73の外径より小さく設定されており、その外周面は中間部分73の外周面より小径であって、密封端面4aの外径と同径又はそれより小径の円柱面とされている。また、第2密封環7の基端部分74の外周面には、
図2に示す如く、その先端位置(中間部分73との境界位置)に位置して、第2スナップリング71の内周部が係合しうる環状溝74aが形成されている。
【0031】
第2スナップリング71は、
図5に示す如く、第1スナップリング41と同一材質で且つ同一形状に構成されたもので、円環状板の周方向一箇所を切除したC字形状をなす。第2スナップリング71は、第1スナップリング41ないしJIS G3311に規定される一般的な軸用スナップリングと同様に、両端部をこれに形成した操作孔71aに係合させた適宜の工具(スナップリングプライヤー等)により第2密封環7の基端部分74の直径以上に拡開(弾性変形)させて、当該スナップリング71の内周部が前記環状溝74aに係合する状態で当該基端部分74に外嵌させることにより、第2密封環7をその分割部分7A,7Bの両端面同士が衝合する円環状に緊縛保持させるものである。
【0032】
ところで、スナップリング41,71の弾性力はその材質や板厚等の形状によって決定されるが、当該弾性力が高いとスナップリング41,71の密封環4,7への装着作業が困難となり(上記したスナップリング両端の拡開操作が困難である等により装着作業性が悪い)、逆に当該弾性力が低いと分割型密封環4,7を円環状に緊縛保持させておくことが十分ではない(スナップリング41,71による分割型密封環4,7の緊縛保持力が不十分である)。したがって、1個のスナップリング41,71で分割型密封環4,7を緊縛保持させるときには、密封環4,7(特に、基端部分44,74)の外径寸法にもよるが、当該スナップリング41,71の弾性力を装着作業性と緊縛保持力とを共に満足しうるように決定することができない場合がある。かかる場合には、分割型密封環4,7を複数個のスナップリング41,71で緊縛保持させるようにして、各スナップリング41,72の弾性力を装着作業を容易に行いうる程度に低いものとし、1個のスナップリング41,72では不足する緊縛保持力を複数個のスナップリング41,71で補うようにすればよい。このように複数個のスナップリング41,71を使用する場合には、環状溝44a,74aの溝幅を、当該複数個のスナップリング41,71が相互に密着した状態でこれらの内周部が軸線方向にガタツキを生じることなく当該環状溝44a,74aに係合しうるように設定しておくことが望ましい。
【0033】
この例では、各分割型密封環4,7を、
図2に示す如く、2個のスナップリング41,71により緊縛保持するようにしている。各環状溝44a,74aの溝幅は、2個のスナップリング41,71が密着した状態でこれらの内周部が軸線方向にガタツキを生じることなく当該環状溝44a,74aに係合しうるように設定されている。なお、両密封環4,7は、シール条件等に応じて、共に炭化珪素等のセラミックスや超合金等の硬質材で構成されるか、或いは一方を炭化珪素等のセラミックスや超硬合金等の硬質材で構成すると共に他方をこれより軟質のカーボン等で構成する。この例では、両密封環4,7を炭化珪素で構成してある
【0034】
第1緊縛環5は、
図4に示す如く、周方向に直径線上で2分割された金属製の円環状体であり、分割部分5A,5Bの両端部を一対の締結ボルト51で軸線に直交する方向に締結することにより、分割部分5A,5Bの端面同士が衝合する円環状に構成される。
【0035】
第1緊縛環5は、
図1に示す如く、円環状の本体部52とその内周部の軸線方向両端部(前後端部)から軸線に直交して内方に突出する円環状の第1及び第2壁部53,54と後位の第2壁部54の内周部から後方に延びる円筒状の保持部55と本体部52の外周部から軸線に直交して外方に突出する円環状の環状鍔部56とからなる。第1緊縛環5の本体部52の内周面は軸線に平行する円柱面をなしており、第1壁部53の内周面は第1密封環4の先端部分42の外周面(テーパ面)に衝合しうるテーパ面(後方へと漸次拡径する截頭円錐面)に形成されている。第1緊縛環5は、
図2に示す如く、保持部55をシールケース3のフランジ部3aの内周部に嵌合させることにより、シールケース3に軸線方向移動可能に保持されている。第1緊縛環5の環状鍔部56には、
図1に示す如く、金属製の円環状のドライブカラー57が取り付けられており、ドライブカラー57の内周部には本体部52の外周面に沿って前方に延びる金属製の円筒状の拡散防止カバー58が固着されている。なお、ドライブカラー57及びこれに固着された拡散防止カバー58は、第1緊縛環5と同一位置において周方向に2分割されており、ドライブカラー57を複数個の取付ボルト59により第1緊縛環5の環状鍔部56に取り付けることにより、円環状に組立てられる。ドライブカラー57の外周部には、
図4に示す如く、その周方向の2箇所において、係合凹部57aが形成されており、各係合凹部57aにシールケース3に螺着したドライブピン33を係合させることにより、第1緊縛環5のシールケース3に対する相対回転が阻止されている。また、密封端面4a,7aからの漏れ蒸気の拡散は拡散防止カバー58により防止される。なお、第1緊縛環5の環状鍔部56の外周部には、
図1に示す如く、各係合凹部57aに対応する位置にドライブピン33が通過する切欠部56aが形成されている。
【0036】
第1シール部材6は、
図2に示す如く、円筒状の先端部分61とその後端内周部から後方に延びる円筒状の第1中間部分62とその後端部から漸次拡径して後方へ延びる截頭円錐筒状の第2中間部分63とその後端部に連なる円環状の基端部分64とからなる比較的硬度が高い弾性材製の円筒体であり、
図3及び
図4に示す如く、周方向の一箇所が全長に亘って切離されていて、その切離部分6aを接着剤により接着することにより円筒体に構成されるものである。この例では、第1シール部材6がニトリルゴム(NBR)で構成されている。
【0037】
第1シール部材6の先端部分61は、
図2に示す如く、第1緊縛環5の両壁部53,54に衝合する状態で当該緊縛環5の本体部52に内嵌されると共に第1スナップリング41で円環状に緊縛された第1密封環4の基端面(基端部分44の後端面)に衝合する状態で当該密封環4の中間部分43及び基端部分44に外嵌されるものであり、その肉厚(径方向の厚み)は第1緊縛環5の本体部52と第1密封環4の中間部分43及び基端部分44との対向周面間隔(径方向間隔)の寸法より所定量(径方向の締代)大きく設定されている。而して、第1緊縛環5を締結することにより、
図4に示す如く、第1密封環4が、径方向に圧縮された第1シール部材6の先端部分61を介在する状態で円環状に緊縛固定されるようになっている。なお、
図2に示す如く、第1シール部材6の先端部分61の外径は一定であり、第1密封環4の中間部分43及びスナップリング41に嵌合する部分(以下「第1先端部分」という)61aの径方向の肉厚は、当該密封環4の基端部分44(スナップリング41が係合されている部分を除く)に嵌合する部分(以下「第2先端部分」という)61bの径方向の肉厚より当然に薄いが、当該基端部分44と第1緊縛環5の第2壁部54との間に挟圧される部分(以下「第3先端部分」という)61cの軸線方向の肉厚並びに後述する第1シール部材6の第1及び第2中間部分62,63の径方向の肉厚より厚く設定されている。
【0038】
第1シール部材6の第1中間部分62は、
図2に示す如く、その外周面が全面に亘って第1緊縛環5の保持部55の内周面に衝合する状態で、当該保持部55に内嵌されている。したがって、第1密封環4、第1緊縛環5及び第1シール部材6の先端部分61及び第1中間部分62は相互に軸線方向の相対変位を生じない一体構造物(以下「静止密封環要素」という)を構成している。また、第1シール部材6の基端部分64は機器ハウジング1とシールケース3との軸線方向対向端面間に挟圧固定されている。この例では、当該基端部分64が、
図2に示す如く、メカニカルシール取付部1aに形成された環状凸部1bとシール3に形成されたフランジ部3aとの対向端面間に挟圧保持されていて、機器ハウジング1(メカニカルシール取付部1a)とシールケース3との間をシール(二次シール)している。したがって、第1密封環4ないし第1緊縛環5とシールケース3との間には、この間が第1シール部材6でシール(二次シール)されるから、Oリング等の格別の二次シール手段を設けておく必要がない。一方、第1シール部材6の第2中間部分63は、
図2に示す如く、これ以外の第1シール部材部分(先端部分61、第1中間部分62及び基端部分64)と異なって、機器ハウジング1(メカニカルシール取付部1a)、シールケース3、第1密封環4及び第1緊縛環5の何れに対しても相対変位可能な非接触状態にある。したがって、上記静止密封環要素4,5,61,62は、上記第2中間部分63の弾性変形により、第1シール部材6の基端部分64を固定するシールケース3に対する軸線方向移動を許容される。すなわち、第1密封環4の追従性が第1シール部材6の第2中間部分63によって確保されるようになっている。
【0039】
第2緊縛環8は、
図1に示す如く、円環状の緊縛体81と円環状の固定体82とに分離構成された金属製の円環状複合体であって、
図5及び
図6に示す如く、周方向に直径線上で2分割されており、緊縛体81の分割部分81A,81Bの両端部及び固定体82の分割部分82A,82Bの両端部を夫々一対の締結ボルト83,84で軸線に直交する方向に締結することによって、緊縛体81及び固定体82を分割部分81A,81B及び82A,82bの分割面同士が衝合する円環状に締結すると共に、両体81,82を複数個の連結ボルト85により一体連結してなる。
【0040】
緊縛体81は、
図1及び
図5に示す如く、内周面が軸線に平行する円柱面をなし且つその先端部(後端部)に内方へと突出する円環状の壁部81aを形成した円環状体であり、壁部81aの内周面は第2密封環7の先端部分72の外周面(テーパ面)に衝合しうるテーパ面(前方へと漸次拡径する截頭円錐面)に形成されている。固定体82は、
図1及び
図6に示す如く、緊縛体81の内周部に嵌合する先端部分82aと複数個のセットスクリュー86により回転軸2に嵌合固定される基端部分82bと外周面における両部分82a,82bの境界部位に突設された円環状のフランジ部82cとからなる円環状体である。固定体82の先端部分82aの内周部には、回転軸2の外周面との間に断面L字形の環状空間を形成する環状凹部82dが形成されている。両体81,82は、
図1に示す如く、固定体82の先端部分82aを緊縛体81の内周部に嵌合させると共に固定体82のフランジ部82cを緊縛体81の基端面(前端面)に衝合させた状態で、フランジ部82cを連結ボルト85により緊縛体81に取り付けることにより、第2緊縛環8に構成(一体化)される。なお、緊縛体81の内径は第1緊縛環5の本体部52の内径に一致しており、緊縛体81の壁部81aは第1緊縛環5の第1壁部53と軸線方向において対称となる同一形状のものであり、両体81,82が連結された状態における緊縛体81の壁部81aと固定体82の先端部分82aとの軸線方向対向間隔は第1緊縛環5における壁部53,54の軸線方向対向間隔に一致している。
【0041】
第2シール部材9は、
図2に示す如く、円筒状の先端部分91とその前端内周部から前方に延びる断面L字形の円筒状の基端部分92とからなる比較的硬度が高い弾性材製の円筒体であり、
図5に示す如く、周方向の一箇所が全長に亘って切離されていて、その切離部分9aを接着剤により接着することにより円筒体に構成されるものである。この例では、第2シール部材9は、第1シール部材6と同質のニトリルゴム(NBR)で構成されている。
【0042】
第2シール部材9の先端部分91は、
図2に示す如く、第1シール部材6の先端部分61と同様に、緊縛体81の壁部81aと固定体82の先端部分82aとの軸線方向対向端面に衝合する状態で緊縛体81に内嵌されると共に第2スナップリング71で円環状に緊縛された第2密封環7の基端面(基端部分74の前端面)に衝合する状態で当該密封環7の中間部分73及び基端部分74に外嵌されるものであり、その肉厚(径方向の厚み)は緊縛体81と第2密封環7の中間部分73及び基端部分74との対向周面間隔(径方向間隔)の寸法より所定量(径方向の締代)大きく設定されている。而して、緊縛体81を締結することにより、
図5に示す如く、第2密封環7が、径方向に圧縮された第2シール部材9の先端部分91を介在する状態で円環状に緊縛固定されるようになっている。なお、第2シール部材9にあっても、
図2に示す如く、第1シール部材6と同様に、先端部分91の外径は一定であり、第2密封環7の中間部分73及びスナップリング71に嵌合する部分(以下「第1先端部分」という)91aの径方向の肉厚は、当該密封環7の基端部分74(スナップリング71が係合されている部分を除く)に嵌合する部分(以下「第2先端部分」という)91bの径方向の肉厚より当然に薄いが、当該基端部分74と緊縛体82の壁部82aとの間に挟圧される部分(以下「第3先端部分」という)91cの軸線方向の肉厚より厚く設定されている。
【0043】
第2シール部材9の基端部分92は、回転軸2と固定体82との対向周面間に挟圧固定される。すなわち、第2シール部材9の基端部分92は、
図2に示す如く、固定体82の環状凹部82dに嵌合された状態で固定体82と回転軸2との間に挟圧固定されて、第2緊縛環8と回転軸2との間をシール(二次シール)する。
【0044】
スプリング部材10は、
図1に示す如く、シールケース3と第1緊縛環5との間に装填されて、第1緊縛環5を前方へと附勢する、つまり第1緊縛環5に第1シール部材6を介して嵌合固定された第1密封環4を第2密封環5に押圧接触させるべく軸線方向に附勢するものであり、
図3に示す如く、シールケース3ないし第1緊縛環5の周方向に等間隔を隔てて配置した複数個のコイルスプリング10aで構成されている。この例では、各コイルスプリング10aが、
図1に示す如く、シールケース3の前端部に形成した凹部3bと第1緊縛環5の環状鍔部56に形成した凹部(ドライブカラー57で閉塞した貫通孔)56bとに両端部を係合させた状態で保持されている。スプリング部材10による附勢力(スプリング力)は、
図1に示す如く、シールケース3と第1緊縛環5との軸線方向対向間隔を所定寸法としたときにおいて両密封環4,7の接触面圧が適正となるように設定されている。すなわち、当該メカニカルシールは、シールケース3と第1緊縛環5との軸線方向対向間隔が上記所定寸法となるように組み立てられる。具体的には、
図1及び
図6に鎖線図示する如く、シールケース3の外周部にボルト止めした一対の調整板(上記所定寸法に一致する板厚の円板)10bをシールケース3と第1緊縛環5との間に挿入し、シールケース3及び第1緊縛環5(環状鍔部56)が調整板10bに衝合する位置に位置されるように第2緊縛環8(固定体82)のセットスクリュー86による回転軸2への固定位置を調整する。なお、シールケース3と第1緊縛環5との軸線方向対向間隔が上記所定寸法とされたときにおいては、第1シール部材6(主として第2中間部分63)が軸線方向に圧縮された状態となっている。
【0045】
なお、機器ハウジング1の前端部を構成するメカニカルシール取付部1aには、
図1に示す如く、内周部に開口するフラッシング通路1cが形成されると共に、当該通路1cの開口部から回転軸2と同心状をなして両密封環4,7の相対回転摺接部分4a,7aの内周側近傍へと延びる薄肉円筒状の金属製バッフル1dが取り付けられていて、フラッシング通路1cから供給されたフラッシング液Fを、メカニカルシール取付部1a、第1密封環4及び第1シール部材6とバッフル1dとの対向周面間に形成される環状通路1eから密封端面4a,7aへと誘導するように構成されている。バッフル1dの先端外周部には、
図2に示す如く、フラッシング液Fを環状通路1eから密封端面4a,7aへと確実に向かわせるための環状突起1fが形成されている。フラッシング流体Fとしては、被密封流体領域Hの流体(被密封流体)と混合しても支障ない水等が使用される。
【0046】
以上のように構成された分割型メカニカルシールにあっては、密封環4,7、等のメカニカルシール構成部品が回転軸に対してこれに直交する方向(径方向)に分解,組立できる構成となっている。すなわち、当該メカニカルシールの分解,組立に際して、密封環4,7及び緊縛環5,8はその分割部分を回転軸の径方向両側から衝合,分離させ得るものであり、シール部材6,9及びスナップリング41,71はその切離部分を開いて回転軸2の径方向片側から密封環4,7等に嵌合させ得るものであり、コイルスプリング10aも含めてすべてのメカニカルシール構成部品が回転軸2に挿通移動させる必要のないものである。したがって、冒頭で述べた緊縛環等の軸線方向移動スペースを十分に確保できない場合にも、更には分割型密封環4,7以外のメカニカルシール構成部品を交換等のメンテナンスする必要がある場合にも、メンテナンスを含むメカニカルシールの分解,組立作業を容易に行うことができる。
【0047】
さらに、分割型密封環4,7をスナップリング41,71により円環状に保持させた状態でシール部材6,9との嵌合及び緊縛環5,8による緊縛作業を行うことができるから、分割型密封環4,7の組立時にその分割部分4A,4B又は7A,7Bが落下する等により破損したり、人身事故が起きたりすることがなく、分割型密封環4,7の組立作業を含むメンテナンス作業ないしメカニカルシールの分解,組立作業を容易且つ安全に行うことができる。
【0048】
また、緊縛環5,8の分割面を締結すること、つまり緊縛環5,8を分割面に対して垂直に締め付けることにより、分割型密封環4,7が弾性シール部材6,9を介在した状態で緊縛されることから、第1及び第2従来シールのように緊縛環をカム作用を利用して軸線方向に締め付けることによって分割型密封環を緊縛させる場合と異なって、分割型密封環4,7の組立時(緊縛時)に分割部分4A,4B又は7A,7Bが軸線方向にズレを生じたりすることがない。しかも、分割型密封環4,7と緊縛環5,8との対向周面間に介在させるシール部材6,9の第1先端部分61a,91a及び第2先端部分61b,91bの緊縛方向厚み(径方向厚み)を十分に厚くしておく(緊縛時の圧縮代を大きくとる)ことができるから、緊縛環5,8による緊縛力を高くしても、それによって分割型密封環4,7に歪を生じたりすることない。なお、第2従来シールにおいては、緊縛力を緊縛環の軸線方向移動によるテーパ面のカム作用によって得ているため、冒頭で述べた如く、緊縛環の軸線方向移動を行う上で弾性部材の厚みを一定以上に厚くしておくことができない。
【0049】
したがって、分割型密封環4,7を密封端面4a,7aが歪を生じたりすることなく適正形態な環状平面となるに組み立てることができ、冒頭で述べたような摺り合わせ作業や馴染み運転を行う必要がない。しかも、上記したように緊縛環5,8による緊縛力を高くできると共にシール部材6,9の緊縛方向厚みを厚くできることから、高圧条件下で使用される場合にも、分割型密封環の分割面から漏れが生じることがない。
【0050】
また、密封環4,7の基端面と緊縛環5,8の第2壁部54との間にシール部材6,9の第3先端部分61c,91cが充填されていることから、密封環4,7に不必要な軸線方向の押圧力が作用した場合にも、これが第3先端部分61c,91cの弾性によって吸収緩和(クッション機能)されることになることから、密封端面4a,7aの接触面圧が常に適正に保持されて、密封端面4a,7aの相対回転摺接作用によるシール機能が良好に発揮される。
【0051】
なお、第2従来シールにおいても、分割型密封環と保持環との軸線方向対向端面に弾性部材(ゴムシート又はOリング)が装填されているが、この弾性部材は当該両環間のシール機能(二次シール機能)を発揮させるものであるから、緊縛環の締付力による分割密封環の保持環への押付力を高くして、当該弾性部材を十分なシール機能を発揮させるべく強く圧縮させておく必要がある。一方、当該弾性部材の圧縮度を高くすると、上記のように密封環に不必要な軸線方向の押圧力が作用した場合にも、これを吸収緩和させるに十分なクッション機能が発揮されなくなる。したがって、第2従来シールでは、弾性部材の圧縮度を、シール機能及びクッション機能を共に良好に発揮させる程度に緊縛環の締付力を調整しておく必要があるが、かかる調整は極めて困難であり、何れかの機能を犠牲にせざるを得ないことが多い。本発明に係る上記分割型メカニカルシールでは、密封環4,7とシールケース3との間のシール機能がシール部材6,9の第1先端部分61a,91a及び第2先端部分61b,91bと基端部分64,94とによって発揮され、クッション機能がシール部材6,9の第3先端部分61c,91cで発揮されることから、上記したような問題は生じない。
【0052】
また、密封環4,7は、緊縛環5,8における締結ボルト51,83,84の締結力によって弾性材製のシール部材6,7を介在した状態で強力に緊縛固定されるから、密封環4,7と緊縛環5,8との間に二次シール手段(Oリング)や相対回転阻止手段(ドライブピン)を設けておく必要がなく、密封環4,7と緊縛環5,8との連結構造の簡素化ないし簡略化を図ることができる。
【0053】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲において、適宜に改良,変更することができる。
【0054】
例えば、上記した分割型メカニカルシールでは、第2緊縛環8を緊縛体81と固定体82とに分離構成したが、この第2緊縛環8に代えて、
図7及び
図8に示す如く、一体構造物の第2緊縛環80を使用することができる。この第2緊縛環80は、
図7及び
図8に示す如く、上記両体81,82を一体化させた形状と同一の円環状形状をなす金属製のものであり、周方向に直線上で2分割されており、分割部分80A,80Bを一対の締結ボルト87で円環状に締結し、複数個のセットスクリュー88により回転軸2に固定するように構成されている。第2緊縛環80における第2シール部材9ないし第2密封環7の嵌合部分において第2シール部材9の先端部分91の基端面(前端面)に衝合するシール受け部分80aは前記固定体82の先端部分82aと同一形状をなしている。なお、
図7及び
図8に示す分割型メカニカルシールの構成は、上記した第2緊縛環80の構成を除いて、
図1〜
図6に示す分割型メカニカルシールと同一であるから、これに対応する部分については
図7及び
図8において
図1〜
図6と同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0055】
また、各スナップリング41,71の使用個数は、前述した如く、作業性及び必要な緊縛力を考慮して、分割型密封環4,7の形状等に応じて適宜に設定することができ、1個又は3個以上とすることもできる。また、スナップリング41,71の内周部が嵌合する環状溝44a,74aの溝幅は、その使用個数に応じたものに設定しておく。
【0056】
また、メカニカルシール取付部1aを機器ハウジング1の本体部1Aと別部材で構成する場合においては、当該メカニカルシール取付部1aをシールケース3と同様に周方向に直径線上で2分割し、分割部分を締結ボルトにより円環状に締結するようにすることも可能である。
【0057】
また、第1緊縛環5は、
図1又は
図7に示す如く、保持部55をシールケース3のフランジ部3aに直接的に嵌合保持させるようにしたが、当該両部3a,55の嵌合部分に弾性材製のOリングを介在させるようにしてもよい。このようにすれば、当該Oリングによる調心機能が発揮され、機器振動が激しい場合にも第1緊縛環5つまり第1密封環4の回転軸2に対する同心性が効果的に維持されるメリットがある。なお、当該Oリングは、第1及び第2従来シールにおいて保持環とシールケースとの嵌合部分に装填されるOリングと異なって、前記両部3a,55間のシール機能(二次シール機能)の発揮を意図するものではない。
【0058】
また、シールケース3、第1緊縛環5、第2緊縛環8(緊縛体81、固定体82)、第2緊縛環80において、各々の締結ボルト31,51,83,84,87の近傍に、各々の分割面を衝合する際の位置合わせ用のテーパピンを挿入するためのテーパ孔を設けてもよい。