特許第6681666号(P6681666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681666
(24)【登録日】2020年3月26日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】封止材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20200406BHJP
   C08L 15/02 20060101ALI20200406BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20200406BHJP
   C08L 11/00 20060101ALI20200406BHJP
   C08L 23/28 20060101ALI20200406BHJP
   C08K 5/544 20060101ALI20200406BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20200406BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   C09K3/10 J
   C09K3/10 H
   C08L15/02
   C08K5/37
   C08L11/00
   C08L23/28
   C08K5/544
   C08K5/548
   F16J15/10 Y
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-66432(P2015-66432)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-186014(P2016-186014A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2018年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】597096161
【氏名又は名称】株式会社朝日ラバー
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 明
(72)【発明者】
【氏名】高見 裕子
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102702574(CN,A)
【文献】 特開平03−093878(JP,A)
【文献】 特開平03−143981(JP,A)
【文献】 特開平04−266947(JP,A)
【文献】 特開2000−044583(JP,A)
【文献】 特開平04−213347(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101259080(CN,A)
【文献】 特開平07−034060(JP,A)
【文献】 国際公開第03/076535(WO,A1)
【文献】 特開2010−169260(JP,A)
【文献】 特開2010−169261(JP,A)
【文献】 特開2010−235907(JP,A)
【文献】 特開2014−118536(JP,A)
【文献】 特開2014−083710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/10−3/12
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
A61J 1/00−19/06
B65D 35/44−55/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、及びクロロプレンゴムから選ばれる少なくとも何れかであるハロゲン化ゴムと、湿式シリカを含み亜鉛化合物を含まず前記ハロゲン化ゴムの100質量部に対し10〜150質量部のフィラーと、メルカプト基、アミノ基、メルカプト生成官能基、及び/又はアミノ生成官能基を有するものでそのフィラーの含有量に対して0.5〜2質量%のアルコキシシラン化合物と、下記化学式(1)
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基)
で示される2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体とを含むゴム組成物が、加硫硬化して成形されていることを特徴とする封止材。
【請求項2】
前記ゴム組成物が、前記ハロゲン化ゴムの100質量部に対し、前記フィラーを10〜150質量部と、前記2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体を0.5〜1.5質量部とを含み、かつ、そのフィラーの含有量に対して0.5〜2質量%の前記アルコキシシラン化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の封止材。
【請求項3】
前記フィラーが、前記アルコキシシラン化合物で表面処理されていることを特徴とする請求項1に記載の封止材。
【請求項4】
前記フィラーが、粒状又は粉状であり、前記湿式シリカと、タルク、酸化チタン、カーボンブラック、炭酸カルシウムから選ばれる何れかとを、有していることを特徴とする請求項1に記載の封止材。
【請求項5】
前記アルコキシシラン化合物が、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、及びN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1に記載の封止材。
【請求項6】
医薬用及び医療用であることを特徴とする請求項1に記載の封止材。
【請求項7】
ガスケット、Oリング、パッキン、シール材、又はゴム栓であることを特徴とする請求項1に記載の封止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械、器具、及び装置において液体や気体が外部に漏れないように封止するもので、特に医療用具に適し圧縮永久歪みが小さいゴム製の封止材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
封止材は、一般的に圧縮されて使用されるため長時間にわたり変形された状態にあり、その一部の変形量が元に戻らない圧縮永久歪みを生じやすい。例えば注射器に用いられるガスケット、具体的にはプレフィルドシリンジ用ガスケットは、その大きさが注射筒内筒の口径よりも僅かに大きく設計されており、薬液が予め収容された内筒に、押付けられて嵌め込まれるように圧縮されて挿入され、薬液を遺漏しないよう封止している。ガスケットの側面には、全周にわたり外方向に突出したピークが軸方向に向かって単数又は複数形成されており、そのピークが内筒の内周面に押付けられ圧縮した状態で接触して液密になっている。その圧縮された状態においてオートクレーブによる高圧蒸気滅菌(AC滅菌)処理及び乾燥、冷却が施されるので、ガスケットの外径は変形し易い。特に内筒と接触するガスケット側面のピークが歪みやすく、ピークに歪みが生じると、密封度が変化してしまい、薬液充填後の保管時における密封性が低下してしまう。また、このガスケットは、密封性だけでなく投薬時における摺動性を備える必要があり、ピークに歪みが生じることでその接触面積が増大して抵抗値が変化してしまい、摺動抵抗に変化が生じて品質にばらつきを発生させてしまう。
【0003】
さらに封止材を医療用具に用いるためには、圧縮永久歪みが小さいだけでなく、日本薬局方の規格を満たす必要がある。例えば前記のようなガスケットにおいて、薬液と接触する表面から薬液中へ封止材構成成分が溶出しないことが好ましく、日本薬局方の輸液用ゴム栓試験法に定められた溶出規格を満たす必要がある。医療用や医薬用の封止材としては、医薬注入器に用いられるガスケットの他、医薬用容器の開口部を密閉するためのゴム栓や、バイアルや点滴用パックにおいて注射針を貫通させるためのゴム栓などが挙げられる。
【0004】
これらの封止材から溶出される溶出物としては、例えば亜鉛化合物、塩化物、加硫剤残渣、ポリマーの分解物などが問題視されてきた。この溶出物のうち、従来から加硫に必要なために配合されてきた亜鉛化合物を使用せずに加硫された封止材として、例えば、特許文献1に超高分子量ポリエチレン微粉末を配合したハロゲン化ブチルゴムを、亜鉛化合物の非存在下で2−置換−4,6−ジチオール−s−トリアジン誘導体又は有機過酸化物を用いて加硫してなる医薬品容器用ゴム栓が開示されている。この医薬品容器用ゴム栓は、不純異物となる亜鉛を溶出することがなく、日本薬局方で規格化されたその他の溶出物の規格値も満たすものである。
【0005】
日本薬局方の規格を考慮しつつ圧縮永久歪み、特に高圧蒸気滅菌処理による加熱及び乾燥、冷却での圧縮永久歪みを小さくしたものとして、特許文献2にハロゲン含有ブチルゴムと熱可塑性樹脂と加硫剤としてトリアジン誘導体とを含有し、さらに必要に応じて機械的強度を向上させるフィラーを含有する熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。この熱可塑性エラストマー組成物より成形された医療用ゴム用品は、JIS K6262に準拠して測定した圧縮永久歪みにおいて30%〜35%を示すものである。
【0006】
この様な封止材は、日本薬局方の規格を満たす為に加硫剤としてトリアジン誘導体が好適に用いられているものの、その圧縮永久歪み率としてはせいぜい25%程度である。圧縮永久歪み率が大きいと、本来の封止性能を低下させてしまうため、できるだけその発生が抑えられており、圧縮永久歪み率の値が低いことが好ましい。日本薬局方の規格を満たし、またより一層溶出物を溶出させず、かつ、優れた封止性能を保つことができるよう、低い圧縮永久歪み率を持つ封止材が、望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−179690号公報
【特許文献2】特開2013−112703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、加硫剤として亜鉛化合物やトリアジン誘導体を用いることなく日本薬局方の規格を満たし、水や薬液のような接触する液体への溶出物が極めて少なく、塩化物の発生が抑制されているため、医薬用及び医療用として使用することができ、圧縮永久歪みが大幅に低減され優れた封止性能を有する封止材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた、本発明の封止材は、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、及びクロロプレンゴムから選ばれる少なくとも何れかであるハロゲン化ゴムと、湿式シリカを含み亜鉛化合物を含まず前記ハロゲン化ゴムの100質量部に対し10〜150質量部のフィラーと、メルカプト基、アミノ基、メルカプト生成官能基、及び/又はアミノ生成官能基を有するものでそのフィラーの含有量に対して0.5〜2質量%のアルコキシシラン化合物と、下記化学式(1)
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基)で示される2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体とを含むゴム組成物が、加硫硬化して成形されていることを特徴とする。
【0010】
前記封止材は、前記ゴム組成物が、前記ハロゲン化ゴムの100質量部に対し、前記フィラーを10〜150質量部と、前記2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体を0.5〜1.5質量部とを含み、かつ、そのフィラーの含有量に対して0.5〜2質量%の前記アルコキシシラン化合物を含むことが好ましい。
【0011】
前記封止材は、前記フィラーが、前記アルコキシシラン化合物で表面処理されていることが好ましい。
【0012】
前記フィラーが、例えば、粒状又は粉状であり、前記湿式シリカと、タルク、酸化チタン、カーボンブラック、炭酸カルシウムから選ばれる何れかとを、有している
【0013】
前記封止材は、前記アルコキシシラン化合物が、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、及びN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも何れかであることが好ましい。なかでも、前記アルコキシシラン化合物が、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン及び3−アミノプロピルトリエトキシシランから選ばれる少なくとも何れかであることが特に好ましい。
【0014】
前記封止材は、医薬用及び医療用であることが好ましい。
【0015】
前記封止材は、ガスケット、Oリング、パッキン、シール材、又はゴム栓であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の封止材は、日本薬局方に定められた規格、例えば輸液用ゴム栓試験法の規格及び注射用水純度試験の塩化物の規格を満たし、さらに水や薬液のような接触する液体への溶出物が極めて少なく、塩化物の発生が低減されているため、医薬用及び医療用として使用することができる。
【0017】
この封止材としては、加硫剤として汎用され160℃〜170℃で加硫反応するトリアジン誘導体を用いることなく、180℃以上で加硫反応する2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体を用いるため、耐熱性に優れ、高圧蒸気滅菌温度での圧縮永久歪みが生じ難い。特に高圧蒸気滅菌処理のような加圧下で加熱や冷却が施される場合において、熱で加硫の鎖が切れそれが加硫剤で再度反応するような再加硫反応を生じ難く、加硫鎖が切れ再変化することで内部構造を変化させて回復応力が減少して生じる圧縮永久歪みを、大幅に低減させることができる。圧縮永久歪みを抑制することで、密封度や抵抗値の変化が極僅かとなり、優れた封止性能を維持することができる。
【0018】
またこの封止材は、成形するゴム組成物の流動性及び成形性が優れるため、生産性を低下させることなくフィラーを多量に添加することができる。さらに封止材は、貯蔵安定性が高く性状や性能が保持され、かつ成形性に優れたゴム組成物により成形されることで、生産数に対する欠陥品の割合である不良率が低く、高い生産性を示すことができる。
【0019】
この封止材は、医療用品及び工業用品として用いることができ、ガスケット、Oリング、パッキン、シール材、ゴム栓、特に医薬用ゴム栓やシリンジ用ガスケットやプレフィルドシリンジ用ガスケットとして使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明の封止材は、ハロゲン化ゴムと、フィラーと、シランカップリング剤としてアルコキシシラン化合物と、加硫剤として前記化学式(1)で示される2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体とを含むゴム組成物が、加硫硬化して任意の形状に成形されているものである。この封止材は、ハロゲン化ゴムにより形成されたポリマーにフィラーがシランカップリング剤であるアルコキシシラン化合物を介して結合している構造を有する。具体的には、フィラーの表面に有する水酸基のような反応性官能基とアルコキシシラン化合物の加水分解基であるアルコキシ基とが反応して結合しており、さらにそのアルコキシシラン化合物のメルカプト基(SH基)、アミノ基(NH基)、メルカプト生成官能基、又はアミノ生成官能基がハロゲン化ゴムのハロゲン原子と反応し結合しているものである。本発明の封止材は、このような結合によりハロゲン化ゴムにより形成されたポリマーの主鎖に、アルコキシシラン化合物を介してフィラーが結合し、三次元的な網目構造を有する。
【0022】
封止材は、ハロゲン化ゴム100質量部に対して、フィラーを10〜150質量部と、2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体を0.5〜1.5質量部とを含み、更にそのフィラーの含有量に対して0.5〜2質量%のアルコキシシラン化合物を含むゴム組成物で成形されていることが好ましい。
【0023】
ハロゲン化ゴムとしては、具体的に、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、クロロプレンゴムが挙げられる。
【0024】
シランカップリング剤として配合されるアルコキシシラン化合物は、アルコキシ基を有しつつさらにメルカプト基、アミノ基、メルカプト生成官能基、及び/又はアミノ生成官能基を有するものである。メルカプト生成官能基やアミノ生成官能基とは、還元や脱ブロック化によってSH基やNH基を生成する基である。例えば、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド(TESPT)のように、本来構造中にSH基やNH基を有していないものの、加硫の際に4つの硫黄原子が連結している鎖内(−S−S−S−S−)の途中でその一部の結合が切断されることで、−S−SHや−SHを生じるものである。
【0025】
メルカプト生成官能基としては、具体的に、ジスルフィド基(-S-S-)のようなポリスルフィド基(-(S)n-,n=2〜4)や、メチル基、トリメチルシリル基のような保護基で保護されたメルカプト基が挙げられる。アミノ生成官能基としては、保護されたアミノ基であって、具体的に、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基のようなカルバメート系保護基で保護されたアミノ基;アシル基のようなアミド系保護基で保護されたアミノ基;フタロイル基のようなイミド系保護基で保護されたアミノ基;p-トルエンスルホニル基、2−ニトロベンゼンスルホニル基のようなスルホンアミド系保護基で保護されたアミノ基が挙げられる。
【0026】
アルコキシ基及びメルカプト基を含有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランが挙げられる。アルコキシ基及びアミノ基を含有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。アルコキシ基及びメルカプト生成官能基を含有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィドのようなポリスルフィド基含有アルコキシシラン化合物や、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物のブロック体が挙げられる。アルコキシ基及びアミノ生成官能基を生成する基を含有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、アミノ基含有アルコキシシラン化合物のブロック体が挙げられる。なかでも、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン又は3−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらのアルコキシシラン化合物は、単独で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0027】
これらのアルコキシシラン化合物は、フィラー表面に結合しており、このアルコキシシラン化合物を介してフィラーとポリマーとが結合している。アルコキシシラン化合物とフィラーとの結合は、フィラー表面においてその複数の結合箇所が点在していても、フィラー表面をアルコキシシラン化合物で被覆するように結合していてもよい。アルコキシシラン化合物は、フィラーと共に含有されてフィラー表面に化学結合することで、圧縮永久歪みを生じる原因の一つであるフィラーとハロゲン化ゴムとの界面のズレを防ぐことができ、圧縮永久歪みを大幅に低減させることができる。また、共に含有される酸化マグネシウムや酸化亜鉛のような金属酸化物が塩化マグネシウムや塩化亜鉛のような金属塩化物となって封止材から溶出してしまうのを防ぐことができる。
【0028】
アルコキシシラン化合物の含有量としては、配合中のフィラー質量に対して0.5〜2.0質量%の量が好ましい。
【0029】
フィラーとしては、粒状又は粉状であり、例えば、タルク、シリカ、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、炭酸カルシウムなどが挙げられる。フィラーは、機械的強度の向上や着色を目的とした充填剤であってもよい。これらのフィラーは、単独で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0030】
フィラーは、封止材中において、アルコキシシラン化合物を介してポリマー鎖に結合している。フィラー表面にアルコキシシラン化合物が結合していることで疎水化されるため、日本薬局方の輸液用ゴム栓試験法における溶出物試験などでも、過マンガン酸カリウム還元性物質が接触液側に抽出されにくくなる。また、これらのフィラーは、その表面がアルコキシシラン化合物で処理されていると好ましく、ハロゲン化ゴムとの界面においてズレを生じないため、圧縮永久歪みを大幅に低減させることができる。
【0031】
フィラーの含有量としては、ハロゲン化ゴム100質量部に対して、20〜150質量部であると好ましい。
【0032】
2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体は、加硫剤として配合されるものであって、下記化学式(1)に示されるものである。
【0033】
【化2】
【0034】
式中、Rは水素原子又はメチル基である。
【0035】
2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体としては、例えば2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンゾイミダゾールが挙げられる。
【0036】
2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体の含有量としては、ハロゲン化ゴム100質量部に対して、0.5〜1.5質量部であると好ましい。
【0037】
本発明の封止材は、上記成分の他に必要に応じて添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、ステアリン酸などの防着・粘度調整剤、酸化マグネシウムや酸化亜鉛などの受酸剤、超高分子量ポリエチレンなどの樹脂パウダー、シリコーンオイルやパラフィンオイルのような軟化剤などが挙げられる。
【0038】
本発明の封止材は、ハロゲン化ゴム、フィラー、及びシランカップリング剤であるアルコキシシラン化合物と必要に応じて用いる添加剤とを混練し、加硫剤である2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体をさらに添加して混練することでゴム組成物を調製し、加熱して加硫し、任意の形状に硬化させて成形することで製造することができる。ゴム組成物の調製としては、この様に全ての成分を一度に配合して調製するインテグラルブレンド法であってもよく、前処理として先にフィラーとアルコキシシラン化合物とを反応させて表面処理されたフィラーを得た後、その表面処理されたフィラーを残りの各成分に添加して混練し、さらに2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体を添加して混練することで調製する方法であってもよい。
【0039】
予めフィラーをアルコキシシラン化合物で表面処理する直接処理方法としては、アルコキシシラン化合物であるシランカップリング剤水溶液と粉状のフィラーを撹拌した後、加熱乾燥して反応させる方法が挙げられる。フィラーの表面に有する水酸基などの反応性官能基とアルコキシシラン化合物のアルコキシ基とを反応させて結合することで、フィラー表面にアルコキシシラン化合物を存在させることができる。
【0040】
全ての成分を一度に配合して混練したゴム組成物であっても、予めアルコキシシラン化合物で表面処理されたフィラーを用いたゴム組成物であっても、同様に、加硫して成形されることで、フィラー表面にアルコキシシラン化合物が化学結合した状態で存在し、ハロゲン化ゴムにより形成されたポリマーにアルコキシシラン化合物を介してフィラーが結合している封止材を得ることができる。
【0041】
ゴム組成物を加硫する際の条件としては、180℃〜190℃の間で8分間〜20分間程度加熱するのが好ましい。
【0042】
得られた封止材の硬度は、デュロA硬度で40〜75、好ましくは50〜70(JISK6253 デュロA)である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
塩素化ブチルゴム(JSR CHLOROBUTYL1066 JSR株式会社製)100質量部、ステアリン酸(精製ステアリン酸550V 花王株式会社製)0.3質量部、高活性酸化マグネシウム(キョーワマグ150 協和化学工業株式会社製)2質量部、カーボンブラック(旭#35 旭カーボン株式会社)1質量部、酸化チタン(タイペークR−630 石原産業株式会社)3質量部、超高分子量ポリエチレンパウダー(ミペロンXM−220 三井化学株式会社製)20質量部、パラフィンオイル(ダイアナプロセスオイルPW−380 出光興産株式会社)5質量部、湿式シリカ(ニップシールEL 東ソー・シリカ株式会社製)60質量部、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(Z−6062 東レ・ダウコーニング株式会社製)0.6質量部を配合し混練した後、2−メルカプト−メチル−ベンゾイミダゾール(レノグランMMBI−70 ラインケミージャパン株式会社)1.00質量部を配合してゴム組成物とした。これを混練し反応させて成形し、封止材を得た。
【0045】
(実施例2)
実施例1の3−メルカプトプロピルトリメトキシシランに替えて3−アミノプロピルトリエトキシシラン(Z−6011 東レ・ダウコーニング株式会社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、封止材を得た。
【0046】
(実施例3)
実施例1にタルク(ミクロエースP−8 日本タルク株式会社製)と3−アミノプロピルトリエトキシシランを追加した以外は実施例1と同様にして、封止材を得た。
【0047】
(比較例1)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを用いなかったこと、また湿式シリカに替えてタルクを用いたこと以外は実施例1と同様にして、封止材を得た。
【0048】
実施例1〜3及び比較例1の各成分の配合について、単位を質量部として下記表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
(物性評価)
実施例1〜3及び比較例1で得られた封止材を用いて、各物性評価試験を行った。各物性評価試験の結果を表2に示す。
【0051】
(硬さ試験)
JIS K 6253に準拠してタイプAデュロメーターにて硬さ試験を行った。各実施例及び比較例で調製されたゴム組成物を186℃で15分加硫させることで得られた厚さ12mmの試験片を使用した。
【0052】
(熱老化圧縮永久歪み)
JIS K 6262に準拠し熱老化における圧縮永久歪み試験を行った。試験方法としては、各実施例及び比較例で調製されたゴム組成物を186℃で15分加硫させることで得られた封止材を使用し、φ29mm及び厚み12.5mmの試験片としてそれを厚み9.38mmまで25%圧縮させ、70℃で72時間の加熱処理した後、開放した。治具から解放して30分経過した後に、25%圧縮されたままで全く戻らなかった場合を圧縮永久歪み100%とし、元の厚さまで完全に戻った場合を0%とする。
【0053】
【表2】
【0054】
実施例1〜3のように加硫剤として2−メルカプトベンゾイミダゾール誘導体を用いた封止材は、加硫剤としてトリアジン誘導体を用い、圧縮永久歪みが30〜35%、良くても25%程度であった従来の封止材と比べて、その圧縮永久歪みを大幅に減少させ改善することができた。また、実施例1〜3は、アルコキシシラン化合物を含まない比較例1と比べてもより低い値を示すことが明らかとなった。
【0055】
(溶出物評価)
実施例1〜3及び比較例1で調製されたゴム組成物を186℃で10分加硫させることで得られたガスケット製品である封止材を試料として用いて、溶出物試験を行った。
【0056】
第十六改正日本薬局方の輸液用ゴム栓試験法における溶出物試験に準拠して、試料質量の十倍量の純水で121℃で1時間加熱抽出した。抽出液について、過マンガン酸カリウム還元性物質、pH、紫外線吸収(UV)スペクトル、430nm透過率について測定した。
【0057】
塩化物の試験は試料であるガスケット製品10個を100mLの水につけ、121℃で2時間オートクレーブ滅菌(AC滅菌)処理した抽出液を試験液として用いた。3回繰り返し抽出したうち、その1回目及び3回目の液を試験液として用い、塩化物の検出を行った。この結果としては、塩化物の発生について、0.5ppm塩化物イオン溶液を比較対照として、これより濃度が薄いものを○、濃いもの×として評価した。これらの結果を下記表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3より、アルコキシシラン化合物を含有する実施例1〜3では、過マンガン酸カリウム還元性物質の発生量や、塩化物の発生量が低減されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の封止材は、機械、器具、及び装置において液体や気体が外部に漏れないように封止するガスケット、Oリング、パッキン、シール材、及びゴム栓として用いることができ、特に医薬用ゴム栓やシリンジ用ガスケットやプレフィルドシリンジ用ガスケットのような医薬・医療用封止材として有用である。