特許第6681689号(P6681689)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシーの特許一覧

<>
  • 特許6681689-放射線断層撮影装置及びプログラム 図000002
  • 特許6681689-放射線断層撮影装置及びプログラム 図000003
  • 特許6681689-放射線断層撮影装置及びプログラム 図000004
  • 特許6681689-放射線断層撮影装置及びプログラム 図000005
  • 特許6681689-放射線断層撮影装置及びプログラム 図000006
  • 特許6681689-放射線断層撮影装置及びプログラム 図000007
  • 特許6681689-放射線断層撮影装置及びプログラム 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681689
(24)【登録日】2020年3月26日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】放射線断層撮影装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20200406BHJP
【FI】
   A61B6/03 330B
   A61B6/03 350G
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-204545(P2015-204545)
(22)【出願日】2015年10月16日
(65)【公開番号】特開2017-74299(P2017-74299A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2018年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】300019238
【氏名又は名称】ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100115462
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100151286
【弁理士】
【氏名又は名称】澤木 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】貫井 正健
【審査官】 伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−089810(JP,A)
【文献】 特開2013−158630(JP,A)
【文献】 特開2008−167804(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/033028(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 − 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備的なスキャンを行って被検体の予備的なデータを得るようデータ収集手段を制御する制御手段と、
前記予備的なデータと、設定されたノイズ指標値とに基づいて、自動露出機構により前記被検体の本スキャンに用いるべき放射線の出力を特定する特定手段と、
前記予備的なスキャンの条件と前記予備的なデータとに基づいて、前記特定された出力の放射線を用いて前記被検体の本スキャンを行った場合に前記被検体の体軸方向における各位置にて得られる投影データのチャネル方向における各位置での検出信号レベルの予想値を見積もる見積り手段と、
前記見積もられた予想値のいずれかが所定の閾値を下回るときに、前記本スキャンに用いる放射線の出力を前記特定された出力より大きくなるように決定する決定手段と、を備える放射線断層撮影装置。
【請求項2】
前記特定手段は、前記予備的なデータに基づいて、前記被検体の投影データのプロファイル面積と、前記被検体の体軸断面を楕円近似したときの楕円率とを求め、該プロファイル面積及び楕円率を用いて前記出力を特定する、請求項1に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項3】
前記決定手段は、前記体軸方向における位置のうち前記所定の閾値を下回る予想値が見積もられた位置に対応する放射線の出力を、前記特定された出力より上げる、請求項1または請求項2に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記体軸方向における各位置に対応する放射線の出力を、前記特定された出力より上げる、請求項1または請求項2に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項5】
前記決定手段は、下式に従って前記本スキャンに用いる放射線の出力を決定する、請求項4に記載の放射線断層撮影装置。
fmA(z)=MAX(G(z,ch)×imA(z))
但し、G(z,ch)=TH/DASC(z,ch)
ここで、zはスライス位置、chはチャネル位置、MAX()は最大値を採る関数、fmA(z)は前記本スキャンに用いる放射線の出力、imA(z)は前記特定された出力、THは前記閾値、DASC(z,ch)は前記予想値である。
【請求項6】
前記閾値は、投影データにおける検出信号とノイズとの関係においてデータ収集系のノイズの寄与率が増大し始める検出信号を基準に設定される、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項7】
前記閾値は、投影データの前記チャネル方向における位置に応じて変化させる、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項8】
前記閾値は、投影データの前記チャネル方向における中央部にて高くなり端部にて低くなる、請求項7に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項9】
前記予備的なスキャンは、前記被検体をラテラル方向に投影するスキャンを含む、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項10】
前記予備的なスキャンは、前記本スキャンより低線量の放射線を用いるヘリカルスキャンを含む、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項11】
前記出力は、放射線管の管電流値である、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の放射線断層撮影装置。
【請求項12】
コンピュータを、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の放射線断層撮影装置における各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動露出機構を用いた放射線断層撮影により得られる再構成画像の画質安定化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線断層撮影装置が有する機能の一つとして自動露出機構がある。自動露出機構は、事前に取得した被検体の放射線吸収量の分布を示すデータ(data)を基に、被検体に照射する放射線の出力を、放射線吸収量が多い場所はより大きく、放射線吸収量が少ない場所はより小さくなるように自動で制御する。
【0003】
自動露出機構による放射線出力の制御の方法はメーカ(maker)によって異なるが、一般的に次のような方法で行うことが多い。前提として、被検体は、体軸断面が楕円であり均一な物質によって構成されるモデル(model)に当てはめられる。初めに、操作者は、再構成画像に求めるノイズレベル(noise level)を表す所望のノイズ指標値(noise index)を事前に設定しておく。次に、被検体に対して低線量な放射線を照射する予備的なスキャン(scan)を行う。次いで、この予備的なスキャンで得られた被検体の放射線吸収量の分布を示すデータから、被検体の体軸方向における各位置について、投影データのプロファイル(profile)面積や被検体の体軸断面を楕円近似したときの楕円率などを求める。そして、これらの面積や楕円率などの情報と設定されたノイズ指標値とに基づいて、体軸方向における各位置や放射線の照射角度すなわちビュー角度(view angle)ごとに、照射する放射線の出力、例えば放射線管の管電流値を決定する(特許文献1,要約等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−043993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被検体の実際の形状や内部構造は複雑であり、被検体内には放射線の減衰率が大きく異なる複数の物質が混在していたり、断面形状についても楕円近似が相応しいとは言えない場合があったりする。
【0006】
そのため、上記の方法では、被検体に照射した放射線が局所的に強い減衰を受け、その部分の透過線量が極端に少なくなることがある。この場合、投影データ上においては、システムノイズすなわちフォトンノイズ(photon noise)(量子ノイズ(quantum noise))以外のデータ収集系によるノイズが相対的に大きくなってSN比が悪くなり、結果的に再構成画像の画質を低下させてしまう。
【0007】
このような事情により、放射線断層撮影装置により自動露出機構を用いて被検体を撮影する場合に、安定した画質で画像を再構成することが可能な技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の観点の発明は、
予備的なスキャンを行って被検体の予備的なデータを得るようデータ収集手段を制御する制御手段と、
前記予備的なデータと、設定されたノイズ指標値とに基づいて、自動露出機構により前記被検体の本スキャンに用いるべき放射線の出力を特定する特定手段と、
前記予備的なスキャンの条件と前記予備的なデータとに基づいて、前記特定された出力の放射線を用いて前記被検体の本スキャンを行った場合に前記被検体の体軸方向における各位置にて得られる投影データのチャネル方向における各位置での検出信号レベルの予想値を見積もる見積り手段と、
前記見積もられた予想値のいずれかが所定の閾値を下回るときに、前記本スキャンに用いる放射線の出力を前記特定された出力より大きくなるように決定する決定手段と、を備える放射線断層撮影装置を提供する。
【0009】
第2の観点の発明は、
前記特定手段が、前記予備的なデータに基づいて、前記被検体の投影データのプロファイル面積と、前記被検体の体軸断面を楕円近似したときの楕円率とを求め、該プロファイル面積及び楕円率を用いて前記出力を特定する、上記第1の観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0010】
第3の観点の発明は、
前記決定手段が、前記体軸方向における位置のうち前記所定の閾値を下回る予想値が見積もられた位置に対応する放射線の出力を、前記特定された出力より上げる、上記第1の観点または第2の観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0011】
第4の観点の発明は、
前記決定手段が、前記体軸方向における各位置に対応する放射線の出力を、前記特定された出力より上げる、上記第1の観点または第2の観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0012】
第5の観点の発明は、
前記決定手段が、下式に従って前記本スキャンに用いる放射線の出力を決定する、上記第4の観点の放射線断層撮影装置を提供する。
fmA(z)=MAX(G(z,ch)×imA(z))
但し、G(z,ch)=TH/DASC(z,ch)
ここで、zはスライス位置、chはチャネル位置、MAX()は最大値を採る関数、fmA(z)は前記本スキャンに用いる放射線の出力、imA(z)は前記特定された出力、THは前記閾値、DASC(z,ch)は前記予想値である。
【0013】
第6の観点の発明は、
前記閾値が、投影データにおける検出信号とノイズとの関係においてデータ収集系のノイズの寄与率が増大し始める検出信号を基準に設定される、上記第1の観点から第5の観点のいずれか一つの観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0014】
第7の観点の発明は、
前記閾値が、投影データの前記チャネル方向における位置に応じて変化させる、上記第1の観点から第6の観点のいずれか一つの観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0015】
第8の観点の発明は、
前記閾値が、投影データの前記チャネル方向における中央部にて高くなり端部にて低くなる、上記第7の観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0016】
第9の観点の発明は、
前記予備的なスキャンが、前記被検体をラテラル方向に投影するスキャンを含む、上記第1の観点から第8の観点のいずれか一つの観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0017】
第10の観点の発明は、
前記予備的なスキャンが、前記本スキャンより低線量の放射線を用いるヘリカルスキャンを含む、第1の観点から第8の観点のいずれか一つの観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0018】
第11の観点の発明は、
前記出力が、放射線管の管電流値である、上記第1の観点から第10の観点のいずれか一つの観点の放射線断層撮影装置を提供する。
【0019】
第12の観点の発明は、
コンピュータを、上記第1の観点から第11の観点のいずれか一つの観点の放射線断層撮影装置における各手段として機能させるためのプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0020】
上記観点の発明によれば、本スキャン前の予備的なスキャンにより得られた被検体のデータに基づいて、従来の自動露出機構により本スキャン時に被検体に照射する放射線の出力を求め、当該出力の放射線で本スキャンを行ったときに得られる投影データのチャネル方向における各位置での検出信号レベルの予想値を見積もり、いずれかの予想値が所定の閾値を下回るときはその予想値が見積もられたスキャン部分に対する放射線の出力を上記出力より大きくなるように決定するので、被検体に照射した放射線が局所的に強い減衰を受け、その透過線量が極端に少なくなって投影データのSN比が部分的に悪化し、再構成画像の画質を低下させてしまうことを防ぐことができ、自動露出機構を用いて被検体を撮影する場合に、安定した画質で画像を再構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係るX線CT装置のハードウェアの構成を概略的に示す図である。
図2】ガントリ及び撮影テーブルを横から見た図である。
図3】本実施形態に係るX線CT装置の操作コンソールの機能ブロック図である。
図4】本実施形態に係るX線CT装置における処理の流れを示すフロー図である。
図5】プロジェクション面積と楕円率を説明するための図である。
図6】投影データにおけるDASカウントとノイズ/検出信号との関係を示す図である。
図7】重みの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明の実施形態について説明する。なお、これにより発明は限定されない。
【0023】
図1は、本実施形態に係るX線CT装置(X-ray Computed Tomography system)のハードウェアの構成を概略的に示す図である。
【0024】
図1に示すように、X線CT装置1は、ガントリ(gantry)2、撮影テーブル(imaging table)4、及び操作コンソール(console)6を備えている。
【0025】
ガントリ2は、X線管21、アパーチャ(aperture)22、コリメータ装置(collimator device)23、X線検出器24、データ収集部(data acquisition system)25、回転部26、高電圧電源27、アパーチャ駆動装置28、回転駆動装置29、及びガントリ・テーブル制御部30を有している。
【0026】
回転部26は、ガントリ2の空洞部2Bの周りに回転可能に支持されている。X線管21、アパーチャ22、コリメータ装置23、X線検出器24、及びデータ収集部25は、回転部26に搭載されている。
【0027】
図2は、X線管21及びX線検出器24を横から見た図である。
【0028】
X線管21及びX線検出器24は、空洞部2Bすなわち被検体5を挟み、互いに対向して配置されている。
【0029】
アパーチャ22は、X線管21と空洞部2Bとの間に配置されている。X線管21のX線焦点からX線検出器24に向けて放射されるX線をファンビーム(fan beam)やコーンビーム(cone beam)に成形する。
【0030】
コリメータ装置23は、空洞部2BとX線検出器24との間に配置されている。コリメータ装置23は、X線検出器24に入射する散乱線を除去する。
【0031】
X線検出器24は、X線管21から放射される扇状のX線ビームの広がり方向および厚み方向に、2次元的に配列された複数のX線検出素子を有している。なおここでは、上記広がり方向をチャネル(channel)方向といい、厚み方向を列方向あるいはスライス(slice)方向という。各X線検出素子は、空洞部2Bに配された被検者5の透過X線をそれぞれ検出し、その強度に応じた電気信号を出力する。
【0032】
データ収集部25は、X線検出器24の各X線検出素子から出力される電気信号を受信し、電気信号の大きさに応じたX線データ、すなわちデジタル(digital)のカウント(count)値に変換して収集する。データ収集部25は、DASとも呼ばれ、収集されるカウント値はDASカウント値とも呼ばれる。
【0033】
撮影テーブル4は、クレードル(cradle)41、クレードル駆動装置42を有している。被検者5は、クレードル41の上に載置される。クレードル駆動装置42は、クレードル41をガントリ2の空洞部2Bすなわち撮影空間に入れ出しする。
【0034】
高電圧電源27は、X線管21に高電圧及び電流を供給する。
【0035】
アパーチャ駆動装置28、アパーチャ22を駆動しその開口を変形させる。
【0036】
回転駆動装置29、回転部26を回転駆動する。
【0037】
ガントリ・テーブル制御部30は、ガントリ2内の各装置・各部、撮影テーブル4等を制御する。
【0038】
操作コンソール6は、操作者9からの各種操作を受け付ける。操作コンソール6は、入力装置61、表示装置62、記憶装置63、及び演算処理装置64を有している。本例では、操作コンソール6は、コンピュータ(computer)により構成されている。
【0039】
なお、ここでは、図1に示すように、被検者5の体軸方向、すなわち撮影テーブル4による被検者5の搬送方向をz方向とする。また、鉛直方向をy方向、y方向およびz方向に直交する水平方向をx方向とする。
【0040】
図3は、本実施形態に係るX線CT装置の操作コンソールの機能ブロック図(block diagram)である。
【0041】
本実施形態に係るX線CT装置の操作コンソール6は、機能ブロックとして、スキャン制御部71、スキャンプロトコル(scan protocol)設定部72、ノイズ指標値設定部73、自動露出機構部74、DASカウント予想値算出部75、最終管電流決定部76、及び表示制御部77を有している。
【0042】
なお、スキャン制御部71は、発明における制御手段の一例である。自動露出機構部74は、発明における特定手段の一例である。DASカウント予想値算出部75は、発明における見積り手段の一例である。最終管電流決定部76は、発明における決定手段の一例である。
【0043】
また、操作コンソール6は、演算処理装置64が所定のプログラム(program)を実行することにより各機能ブロックとして機能する。所定のプログラムは、例えば、記憶装置63または外部接続された記憶装置または記憶媒体90に記憶されている。
【0044】
スキャン制御部71は、操作者9の操作に応じて、スカウトスキャン(scout scan)及び本スキャンが実施されるようガントリ・テーブル制御部30を制御する。
【0045】
スキャンプロトコル設定部72は、スカウトスキャン及び本スキャンスの実施に用いるキャンプロトコルを設定する。
【0046】
ノイズ指標値設定部73は、再構成画像に求めるノイズレベルを表すノイズ指標値を設定する。
【0047】
自動露出機構部74は、スカウトスキャンにより得られたデータと、設定されたスキャンプロトコルとに基づいて、再構成画像のノイズレベルが、操作者により設定されたノイズ指標値が表すレベルになるよう、本スキャン時の管電流値を求める。
【0048】
DASカウント予想値算出部75は、設定されたスキャンプロトコルと、自動露出機構部74によって求められた管電流値とにより本スキャンを行ったと仮定した場合に、データ収集部において収集されると予想される投影データの検出信号レベルすなわちDASカウント値を、スライス位置単位及びチャネル位置単位で算出する。この予想値をDASカウント予想値と呼ぶ。
【0049】
最終管電流決定部76は、算出されたDASカウント予想値と、スカウトスキャンにより得られたデータとに基づいて、再構成画像の画質が劣化しないよう、本スキャン時の最終的な管電流値を決定する。
【0050】
表示制御部77は、再構成された画像を含む各種の画像やテキスト(text)を画面に表示するよう表示装置62を制御する。
【0051】
なお、これら各部の機能の詳細は、X線CT装置における処理の流れを説明する際に併せて説明する。
【0052】
次に、本実施形態に係るX線CT装置における処理の流れについて説明する。
【0053】
図4は、本実施形態に係るX線CT装置における処理の流れを示すフロー図(flowchart)である。
【0054】
ステップ(step)S1では、スキャンプロトコルを設定する。具体的には、操作者が、プリセットされた複数のスキャンプロトコルの中から一つを選択したり、各パラメータの値や選択肢を入力したりする。スキャンプロトコル設定部72は、これらの操作に応じてスキャンプロトコルを設定する。スキャンプロトコルには、例えば、撮影部位、スカウトスキャン範囲、小児/成人の別、ヘッドファースト/フットファーストの別、X線管21の管電圧、再構成関数などが含まれる。
【0055】
ステップS2では、ノイズ指標値を設定する。具体的には、操作者が、再構成画像に求めるノイズレベルを表す数値を入力する。ノイズ指標値設定部73は、入力された数値をノイズ指標値として設定する。このノイズ指標値は、自動露出機構部が本スキャン時の暫定的な管電流値を算出する際に用いられる。ノイズ指標値は、例えば、再構成画像における画素値(CT値)のバラつき程度であり、画素値の標準偏差SD等を用いる。
【0056】
ステップS3では、スカウトスキャンを行う。具体的には、スキャン制御部71が、被検体5のスカウトスキャンを行うよう、ガントリ・テーブル制御部30を制御する。スカウトスキャンとしては、例えば、2種類のスキャン方式を考えることができる。一つは、ガントリの回転を停めてクレードルを移動させながら低線量のX線を照射するスキャンである。もう一つは、低線量のX線を用いたヘリカルスキャンである。前者のスキャン方式としては、さらに、AP(Anterior-Posterior)方向すなわち被検体5から見たときの前後方向にX線を照射する0°方向のスキャンと、ラテラル(lateral)方向すなわち被検体5から見たときの左右方向にX線を照射する90°方向のスキャンとが考えられる。被検体5のX線の透過長は、前後方向より左右方向の方がより長い場合が多いので、DASカウント値が最も少なくなるのは、左右方向にX線を照射した場合である可能性が高い。そのため、ガントリの回転を停める方式のスキャンでは、少なくとも90°方向のスキャンを行うのが好ましい。なお、本例では、低線量のヘリカルスキャンを行うことを想定する。これにより、被検体5の投影データをスライス位置ごとにかつビュー角度ごとに得ることができる。
【0057】
ステップS4では、プロジェクション(projection)面積及び楕円率を算出する。具体的には、自動露出機構部74が、スカウトスキャンにより得られたデータに基づいて、各スライス位置でのプロジェクション面積及び楕円率を算出する。
【0058】
図5は、プロジェクション面積と楕円率を説明するための図である。プロジェクション面積は、横軸をチャネル位置、縦軸を検出信号レベルにとった投影データのプロファイルの面積であり、プロファイル曲線と横軸とで挟まれる領域の面積とすることができる。楕円率は、被検体5のz軸断面を楕円近似したときの楕円の短径aと長径bとの比である。楕円率は、例えば、被検体5をAP方向に投影して得られる投影データのプロファイルのチャネル方向における幅Δch1と、被検体5をラテラル方向に投影して得られる投影データのプロファイルのチャネル方向における幅Δch2との比から求める。
【0059】
ステップS5では、暫定的な管電流値を求める。具体的には、自動露出機構部74が、各スライス位置でのプロジェクション面積PS及び楕円率ORと、設定されたスキャンプロトコルとに基づいて、本スキャン時の各スライス位置zでの暫定的な管電流値imA(z)を求める。なお、自動露出機構部74による管電流値の算出方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、特許文献:特開2001−043993号公報にて開示されている方法を用いることができる。
【0060】
ステップS6では、DASカウントの予想値を算出する。具体的には、DASカウント予想値算出部75が、スカウトスキャンにより得られたデータに基づいて、スライス位置ごと、かつチャネル位置ごとに、DASカウントの予想値を算出する。DASカウント予想値は、設定されたスキャンプロトコル及び暫定的な管電流値を用いた本スキャンを行ったと仮定した場合に、X線検出器24で検出されると予想されるX線フォトンの数に対応した値である。つまり、DASカウント予想値は、データ収集部25において収集されると予想される投影データの検出信号レベルあるいはカウント数を表す値と考えることができる。
【0061】
ステップS7では、ゲイン(gain)を決定する。具体的には、まず、最終管電流決定部76が、DASカウント予想値に基づいて低カウント度Vを求める。低カウント度Vは、DASカウント予想値が低いほど大きな値を取る特徴量である。低カウント度Vは、例えば次式に従って算出する。すなわち、閾値THをDASカウント予想値で除した値を低カウント度Vとする。低カウント度Vは、スライス位置ごと、かつチャネル位置ごとに求める。なお、低カウント度Vは、DASカウント予想値が閾値THからどの程度下回っているかを表す指標値であればよく、本例に限定されない。例えば、閾値THからDASカウント予想値を減算して成る値(差分値)を低カウント度Vとしてもよい。
【0062】
V(z,ch)=TH/DASC(z,ch) …(7−1)
但し、THは閾値であり、DASCはDASカウント予想値である。
【0063】
次に、最終管電流決定部76が、低カウント度Vの大きさに応じて次式に従いゲインGを決定する。ゲインGは、最終的な管電流値fmAを求める際に、暫定的な管電流値imAに乗算する係数である。
【0064】
if 1≧V then G=1 …(7−2)
if Vt≧V>1 then G=V …(7−3)
if V>Vt then G=Vt …(7−4)
【0065】
すなわち、低カウント度Vが1以下であるときは、ゲインGは1とする。低カウント度Vが1より大きく閾値Vt以下であるときは、ゲインGは低カウント度Vの値とする。また、低カウント度Vが閾値Vtより大きいときは、ゲインGは閾値Vtの値とする。これにより、ゲインGは、上限をVtとし下限を1として、低カウント度Vが大きいほど、すなわちDASカウント予想値が小さいほど、大きな値を取るように変化する。閾値Vtは、例えば、1.2〜2.0とすることができる。本例では、暫定的な管電流値imAの1.5倍までを許容範囲として最終的な管電流値fmAを決定することを考え、閾値Vt=1.5とする。
【0066】
ここで、閾値THの例について説明する。
図6は、投影データにおけるDASカウントとノイズ/検出信号との関係を示す図である。ノイズ/検出信号は、検出信号レベルに対するノイズレベルの比であり、この値が大きいほど再構成画像における画像ノイズが多くなる。図6に示すように、一般的に、DASカウントが大きくなるとノイズ/検出信号は小さくなり、DASカウントが小さくなるとノイズ/検出信号は大きくなる。ノイズは、DASカウントが一定レベル以上であれば、フォトンノイズすなわち量子ノイズが支配的になる。しかし、DASカウントがこの一定レベルを下回ると、電気的なノイズなどを含むデータ収集系のシステムノイズの相対的な寄与率が増大し始めて無視できなくなり、ノイズ/検出信号は急激に増大し悪化する。そこで、閾値THは、この一定レベルすなわちデータ収集系のシステムノイズの寄与率が増大し始めるDASカウントを基準に、その近傍の値に設定する。本例では、図6に示すように、閾値THとして、データ収集系のシステムノイズの寄与率が増大し始めるDASカウントに相当する値をそのまま設定する。
【0067】
ステップS8では、最終的な管電流値を決定する。具体的には、最終管電流決定部76が、次の式(8−1)または式(8−2)に従って本スキャン時の最終的な管電流値fmAを計算する。
【0068】
fmA(z)=MAX(G(z,ch)×imA(z)) …(8−1)
fmA(z)=MAX(G(z,ch)×W(ch)×imA(z)) …(8−2)
但し、W(ch)はチャネル位置に依存する重みであり、1≧W>Wt≧0を満たす。Wtは重みの下限値である。
【0069】
式(8−1)を用いる場合には、各スライス位置zについて、チャネル位置chごとに暫定的な管電流値imA(z)にゲインG(z,ch)を乗算して得られる値を求め、これらの値のうち最大のものを当該スライス位置zでの最終的な管電流値fmA(z)とすることになる。
【0070】
一方、式(8−2)を用いる場合には、暫定的な管電流値imA(z)にゲインG(z,ch)を乗算し、さらに重みW(ch)を乗算して得られる値を求め、これらの値のうち最大のものを当該スライス位置zでの最終的な管電流値fmA(z)とすることになる。これは、再構成画像における画質の重要度が、再構成画像における場所に応じて異なることがあり、これを考慮したものである。
【0071】
図7に重みW(ch)の例を示す。一般的に、再構成画像の中央部は、関心領域に相当することが多く、画質の重要度が相対的に高い。一方、再構成画像の周辺部は、関心領域から外れることが多く、画質の重要度が相対的に低い。そこで、図7に示すように、チャネル方向における中央部で重みWの値を1に保持し、チャネル方向における端部で重みWの値を1より小さくする。本例では、チャネル方向における中央部から端部に近づくにつれて重みWが徐々に小さくなるようにしている。このようにすることで、必要以上に画質を向上させることがなくなり、管電流値を無駄に上げて被検体の被曝量を増大させる事態を防ぐことができる。なお、この重みWをチャネル方向における位置に応じて変化させることは、閾値THをチャネル方向における位置に応じて変化させることと同義である。
【0072】
ステップS9では、本スキャンを行う。具体的には、スキャン制御部71が、最終的な管電流値fmAを用いて本スキャンを行うよう、ガントリ・テーブル制御部30を制御する。
【0073】
なお、本スキャンを実施した後は、得られたデータを基に画像を再構成し、それらを画面に表示するが、これらの詳細については割愛する。
【0074】
以上、本実施形態によれば、本スキャン前の予備的なスカウトスキャンにより得られた被検体5のデータに基づいて、従来型の自動露出機構部74により本スキャン時に被検体5に照射するX線の出力を求め、当該出力のX線で本スキャンを行ったときに得られる投影データのチャネル方向における各位置でのDASカウント予想値を見積もり、いずれかの予想値が所定の閾値THを下回るときはその予想値が見積もられたスキャン部分に対するX線の出力を上記出力より大きくなるように決定するので、被検体5に照射した放射線が局所的に強い減衰を受け、その透過線量が極端に少なくなって投影データのSN比が部分的に悪化し、再構成画像の画質を低下させてしまうことを防ぐことができ、自動露出機構を用いて被検体5を撮影する場合に、安定した画質で画像を再構成することができる。
【0075】
なお、発明は本実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0076】
例えば、本実施形態では、最終的な管電流値をスライス位置単位で決定しているが、さらに個々のビュー角度やビュー角度範囲を単位として決定するようにしてもよい。逆にすべてのスライス位置に共通の管電流値を決定するようにしてもよい。
【0077】
また例えば、本実施形態では、自動露出機構により特定されるX線の出力はX線管21の管電流値であるが、X線管21の管電圧値や、X線管21の管電圧値及び管電流値の両方であってもよい。
【0078】
また、本実施形態は、X線CT装置であるが、発明は、X線以外の放射線、例えばガンマ線(gamma ray)を用いる断層撮影装置にも適用可能である。
【0079】
また、コンピュータを上記X線CT装置における制御や処理を行う各手段として機能させるためのプログラムやこれを記録した記録媒体もまた、発明の実施形態の一例である。
【符号の説明】
【0080】
1 X線CT装置
2 ガントリ
2B 空洞部
4 撮影テーブル
5 被検者
6 操作コンソール
21 X線管
22 アパーチャ
23 コリメータ装置
24 X線検出器
25 データ収集部
26 回転部
27 高電圧電源
28 アパーチャ駆動装置
29 回転駆動装置
30 ガントリ・テーブル制御部
41 クレードル
42 クレードル駆動装置
61 入力装置
62 表示装置
63 記憶装置
64 演算処理装置
71 スキャン制御部
72 スキャンプロトコル設定部
73 ノイズ指標値設定部
74 自動露出機構部
75 DASカウント予想値算出部
76 最終管電流決定部
77 表示制御部
90 記憶媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7