【実施例】
【0025】
《実施例1》
〔原料粉末の製造〕
濃度26質量%のアンモニア水を用意した。これを溶液Aとする。
硫酸アルミニウム水溶液(浅田化学工業株式会社製)に純水を加えて、硫酸アルミニウム濃度を4質量%とした液を用意した。これを溶液Bとする。
【0026】
撹拌機構を有する反応容器に純水3223.3gを入れ、これに中和剤である溶液Aを196.5g加え、液温を90℃に昇温した。反応容器内の液を撹拌状態とし、液温90℃を維持しながら、その液中におけるOH/Alモル比が16.7となる量の溶液Bを、反応容器内の液に約7秒かけて添加した(第1の添加ステップ)。ここで、上記OH/Alモル比におけるOHの値は、液中に溶解しているアンモニア(NH
3)のモル数に等しい値(当量値)を意味し、化学平衡に従って実際に電離して存在する水酸化物イオンOH
-のモル数を意味するものではない(以下の各例において同じ)。
【0027】
上記第1の添加ステップにおけるB液添加終了後、撹拌および液温90℃を維持したまま10分経過した時点で、撹拌および液温90℃を維持しながら、反応容器内の液中における累積OH/Alモル比が5.0となる量の溶液Bを、反応容器内の液に18分かけて添加した(第2の添加ステップ)。すなわち、第2の添加ステップ終了後の液中OH/Alモル比が5.0となるようにした。第1の添加ステップにおけるB液添加終了時点から第2の添加ステップにおけるB液添加開始時点までの時間を「インターバル時間」と呼ぶ。本例でのインターバル時間は上記の通り10分である。
【0028】
上記第2の添加ステップにおけるB液添加終了後、撹拌および液温90℃を維持したままの状態を60分保持したのち冷却を開始し、60分かけて約65℃まで降温した時点で撹拌を止め、その後、ブフナー漏斗およびアスピレーターを用いたろ過によって固液分離を行い、固形分を回収した。第2の添加ステップにおけるB液添加終了時点から前記固液分離前の撹拌終了時点までの所要時間を「熟成時間」と呼ぶ。本例での熟成時間は、90℃保持の60分と冷却開始後撹拌終了までの60分を合わせた120分である。回収した固形分を水洗し、乾燥することにより原料粉末を得た。
【0029】
図1に、得られた原料粉末のSEM写真を例示する。この原料粉末について、MOUNTECH社製、Macsorbを用いてBET一点法により比表面積を測定した。その結果、当該粉末のBET比表面積は286m
2/gであった。
【0030】
この原料粉末について、Rigaku社製、XtabLABminを用いて、管電圧40kV、管電流15mAの条件でCu−Kα線によるX線回折パターンを測定した。
図2に、そのX線回折パターンを示す。回折角2θが10〜40°の領域に、低角度側から順に(A)14.5°付近、(B)28.2°付近、および(C)38.3°付近に回折ピークを有し、これらのピーク高さが(A)>(B)>(C)の順に高いというベーマイト結晶に特有のX線回折パターンを呈している。すなわち、本例で得られた原料粉末は結晶性の良好なベーマイト粉末であることがわかる。
【0031】
〔焼成〕
上記原料粉末をアルミナ製のトレイに盛り、そのトレイをほぼ水平な状態としてアルミナ製の管状炉の中に収容した。トレイに盛られた原料粉末の最大堆積厚さは約5mmである。管状炉は一方の端部にガス導入口、他の端部にガス排出口を備え、炉内は大気から遮蔽できる構造になっている。また、アルミナ管の外周部に発熱体を有し、管の内部を加熱するようになっている。上記のガス導入口からアンモニア含有非酸化性ガスを炉内に連続的に導入するとともに、ガス排出口から炉内のガスを排出させることにより、管状炉の内部にアンモニア含有非酸化性ガスの気流を作り、トレイに盛られた原料粉末の表面が当該気流に曝される状態とした。炉内圧力はほぼ大気圧である。炉内に導入するアンモニア含有非酸化性ガスの組成は、アンモニア(NH
3)80体積%、窒素(N
2)20体積%からなるアンモニア(NH
3)+窒素(N
2)混合ガスとした。焼成は、この非酸化性ガスを流しながら粉末を1235℃で8時間保持する条件で行った。
【0032】
焼成後の粉末について、Cu−Kα線によるX線回折パターンを測定した。
なお、本明細書に示す焼成後の粉末についてのX線回折パターンの測定は、以下のいずれかの条件で行った。
・Rigaku社製、XtabLABminよる管電圧40kV、管電流15mAの条件(以下、条件Aという)。
・Rigaku社製、RINT2000による管電圧40kV、管電流30mAの条件(以下、条件Bという)。
本例では、条件Aにて測定したX線回折パターンを
図3に例示する。この焼成後の粉末は窒化アルミニウム(AlN)単相からなるものであることが確認された。
また、この粉末のBET比表面積は29m
2/gであった。
【0033】
《実施例2》
実施例1における焼成条件を1335℃で4時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
図4に、焼成後の粉末のSEM写真を例示する。
図5に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Bによる)を例示する。この粉末は窒化アルミニウム(AlN)単相からなるものであることが確認された。
この焼成後の粉末のBET比表面積は23m
2/gであった。また、この粉末の炭素含有量を高周波炉燃焼−赤外線吸収法にて測定したところ、炭素含有量は0.08質量%であった。
【0034】
《実施例3》
〔原料粉末の製造〕
第1の添加ステップにおいて、反応容器内の液中におけるOH/Alモル比が133.3となる量の溶液Bを、反応容器内の液に約5秒かけて添加したこと、および、第2の添加ステップにおいて、反応容器内の液中における累積OH/Alモル比が5.0となる量の溶液Bを、反応容器内の液に60分かけて添加したことを除き、実施例1と同様の条件で原料粉末を作製し、実施例1と同様の方法で調査を行った。
【0035】
図6に、得られた原料粉末のSEM写真を例示する。この粉末のBET比表面積は198m
2/gであった。
図7に、この原料粉末のX線回折パターンを示す。実施例1と同様、本例で得られた原料粉末は結晶性の良好なベーマイト粉末であることがわかる。
【0036】
〔焼成〕
1550℃で4時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で焼成を行った。得られた粉末について実施例1と同様の方法で調査を行った。
図8に、焼成後の粉末のSEM写真を例示する。
図9に、この粉末のX線回折パターン(条件Aによる)を例示する。この粉末は窒化アルミニウム(AlN)単相からなるものであることが確認された。
この焼成後の粉末のBET比表面積は6m
2/gであった。
【0037】
《実施例4》
実施例1における炉内に導入するアンモニア含有非酸化性ガスの組成をアンモニア(NH
3)95体積%、窒素(N
2)5体積%からなるアンモニア(NH
3)+窒素(N
2)混合ガスとし、焼成条件を1335℃で4時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
図15に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Aによる)を例示する。この粉末は窒化アルミニウム(AlN)単相からなるものであることが確認された。
【0038】
《比較例1》
実施例1における焼成条件を1135℃で4時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
図10に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Bによる)を例示する。この粉末は窒化アルミニウム(AlN)を主体とするものであるが、図中矢印で示した箇所にAlN結晶とは異別の相に起因する強度の増大が認められる。この強度の増大はγ−Al
2O
3の混在を示唆するものである。すなわち、この例では、焼成温度が低かったために4時間の焼成では窒化アルミニウム(AlN)単相からなる粉末が得られなかった。
【0039】
《比較例2》
実施例1における焼成時間を8時間から4時間に短縮したことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。すなわち、本例の焼成条件は1235℃×4時間である。
図11に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Bによる)を例示する。図中矢印で示した箇所にα−Al
2O
3に起因するピークが見られる。実施例1と焼成温度は同じであるが、焼成時間が不十分であったために、窒化アルミニウム(AlN)単相からなる粉末が得られなかった。
【0040】
《比較例3》
実施例2における焼成時間を4時間から2時間に短縮したことを除き、実施例2と同様の条件で実験を行った。すなわち、本例の焼成条件は1335℃×2時間である。
図12に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Bによる)を例示する。図中矢印で示した箇所にα−Al
2O
3に起因するピークが見られる。実施例2と焼成温度は同じであるが、焼成時間が不十分であったために、窒化アルミニウム(AlN)単相からなる粉末が得られなかった。
【0041】
《比較例4》
〔原料粉末の製造〕
実施例1と同様の溶液A(アンモニア水)および溶液B(硫酸アルミニウム水溶液)を用意した。
撹拌機構を有する反応容器に純水2585.3gを入れ、これに中和剤である溶液Aを162.4g加え、液温を60℃に昇温した。反応容器内の液を撹拌状態とし、液温60℃を維持しながら、その液中におけるOH/Alモル比が3.1となる量の溶液Bを、反応容器内の液に約30秒かけて添加した。その後、上述の熟成時間を15分確保した後、実施例1と同様の手法で固液分離、水洗、乾燥を行い、原料粉末を得た。すなわち、本例ではB液の添加を2つの添加ステップに分けることなく、1回のステップで行った。
図13に、この原料粉末のX線回折パターンを示す。回折角2θが14.5°付近に回折ピークが見られないことから、この原料粉末は結晶性の良好なベーマイト粉末として同定されるものではない。この粉末のBET比表面積は0.98m
2/gであった。
【0042】
〔焼成〕
上記の手法で得られた原料粉末について、1550℃で8時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で焼成を行った。
図14に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Aによる)を例示する。図中矢印で示した箇所にα−Al
2O
3に起因するピークが見られる。原料として結晶性が良好な高比表面積のベーマイト粉末を使用しなかった本例では、アンモニア含有非酸化性雰囲気中での焼成を行うことだけでは、窒化アルミニウム(AlN)単相からなる粉末が得られなかった。
【0043】
《比較例5》
実施例1における炉内に導入するアンモニア含有非酸化性ガスの組成をアンモニア(NH
3)50体積%、窒素(N
2)50体積%からなるアンモニア(NH
3)+窒素(N
2)混合ガスとし、焼成条件を1335℃で4時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
図16に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Aによる)を例示する。この焼成後の粉末のX線回折パターンには、図中矢印で示した箇所にα−Al
2O
3に起因するピークが見られた。本例では焼成時にアンモニア含有率の低い雰囲気ガスを使用したので、窒化アルミニウム(AlN)単相からなる粉末が得られなかった。