特許第6681693号(P6681693)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681693
(24)【登録日】2020年3月26日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20200406BHJP
【FI】
   C01B21/072 G
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-212251(P2015-212251)
(22)【出願日】2015年10月28日
(65)【公開番号】特開2017-81785(P2017-81785A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】丸山 昂洋
(72)【発明者】
【氏名】結城 整哉
(72)【発明者】
【氏名】北村 征寛
(72)【発明者】
【氏名】小山内 英世
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−100405(JP,A)
【文献】 特開昭63−045105(JP,A)
【文献】 特開平04−231310(JP,A)
【文献】 米国特許第05221527(US,A)
【文献】 特開昭62−246812(JP,A)
【文献】 特開平01−153511(JP,A)
【文献】 特開昭63−162517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B15/00−23/00
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が150m2/g以上であり、Cu−Kα線によるX線回折において、回折角2θが10〜40°の領域に、低角度側から順に(A)14.5°付近、(B)28.2°付近、および(C)38.3°付近に回折ピークを有し、上記A〜Cの回折ピークのうちAのピーク高さが最も高くCのピーク高さが最も低いX線回折パターンを呈するベーマイト(AlOOH)の粉末を、炭素含有物質を使用することなく、アンモニア(NH3)含有率が70〜100体積%の非酸化性雰囲気中で1200〜1600℃に加熱保持し、前記ベーマイトの全部を窒化アルミニウム(AlN)に変化させる、窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項2】
BET比表面積が150m2/g以上であり、Cu−Kα線によるX線回折において、回折角2θが10〜40°の領域に、低角度側から順に(A)14.5°付近、(B)28.2°付近、および(C)38.3°付近に回折ピークを有し、上記A〜Cの回折ピークのうちAのピーク高さが最も高くCのピーク高さが最も低いX線回折パターンを呈するベーマイト(AlOOH)の粉末を、炭素含有物質を使用することなく、アンモニア(NH3)含有率が70〜100体積%の非酸化性雰囲気中で1200〜1600℃に加熱保持し、前記ベーマイトの全部を窒化アルミニウム(AlN)に変化させることにより窒化アルミニウム単相の粉末を得る、窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項3】
BET比表面積が150m2/g以上であり、Cu−Kα線によるX線回折において、回折角2θが10〜40°の領域に、低角度側から順に(A)14.5°付近、(B)28.2°付近、および(C)38.3°付近に回折ピークを有し、上記A〜Cの回折ピークのうちAのピーク高さが最も高くCのピーク高さが最も低いX線回折パターンを呈するベーマイト(AlOOH)の粉末を、炭素含有物質を使用することなく、アンモニア(NH3)含有率が70〜100体積%の非酸化性雰囲気中で1200〜1600℃に加熱保持し、前記ベーマイトの全部を窒化アルミニウム(AlN)に変化させることにより炭素含有量が0.10質量%以下である窒化アルミニウム単相の粉末を得る、窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項4】
前記非酸化性雰囲気が、アンモニア(NH3)含有率70体積%以上100体積%未満のアンモニア(NH3)+窒素(N2)混合ガス雰囲気である請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーマイト(AlOOH)の粉末から純度の高い窒化アルミニウム(AlN)を直接的に合成する窒化アルミニウム粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム粉末は、絶縁基板等の焼結体原料や、半導体封止材料のフィラーとして使用されている。窒化アルミニウム粉末の合成方法として、ベーマイト(AlOOH)、あるいは擬ベーマイト(結晶性の低いアルミニウムオキシ水酸化物)を炭素含有物質存在下の窒素含有雰囲気中で熱処理する手法が知られている(特許文献1〜3)。また、γ−アルミナを炭化水素とアンモニアの混合ガス中で還元することにより窒化アルミニウムを合成する手法が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2003/097527号
【特許文献2】特開昭62−100405号公報
【特許文献3】特開昭63−139008号公報
【特許文献4】特開2000−44211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ベーマイト、擬ベーマイト、γ−アルミナなどの粉末を窒素含有ガス中で熱処理することにより窒化アルミニウムを合成する上記従来の手法では、十分な還元力を得るために炭素含有物質を使用していた。この場合、純度の高い窒化アルミニウム粉末製品を得るためには炭素(カーボン)を除去する工程が必要となり、手間がかかる。一方、炭素含有物質の還元力を利用せずに、アンモニアガス等を用いて窒化アルミニウムの合成を行うと、アルミニウム酸化物(例えばα−Al23)の混在量が多い粉末が生じてしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、Alを含有する原料粉末から、炭素含有物質を使用することなく、直接、窒化アルミニウム単相粉末を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは種々検討の結果、比表面積の大きいベーマイト粉末を原料に用いたとき、アンモニアガスを含有する非酸化性雰囲気において窒化アルミニウム単相で構成される粉末を得ることが可能になることを知見した。
【0007】
上記目的は、BET比表面積が150m2/g以上であり、Cu−Kα線によるX線回折において、回折角2θが10〜40°の領域に、低角度側から順に(A)14.5°付近、(B)28.2°付近、および(C)38.3°付近に回折ピークを有し、上記A〜Cの回折ピークのうちAのピーク高さが最も高くCのピーク高さが最も低いX線回折パターンを呈するベーマイト(AlOOH)の粉末を、アンモニア(NH3)含有率が70〜100体積%の非酸化性雰囲気中で1200〜1600℃に加熱保持し、前記ベーマイトの全部を窒化アルミニウム(AlN)に変化させる、窒化アルミニウム粉末の製造方法によって達成される。
特に、上記の手法でベーマイト(AlOOH)の全部を窒化アルミニウム(AlN)に変化させることにより窒化アルミニウム単相の粉末を得ることができる。また、炭素含有量が0〜0.10質量%である窒化アルミニウム単相の粉末を得ることができる。
前記前記アンモニア(NH3)含有非酸化性雰囲気は、例えばアンモニア(NH3)ガス100体積%の雰囲気や、アンモニア(NH3)含有率70体積%以上100体積%未満のアンモニア(NH3)+窒素(N2)混合ガス雰囲気とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭素含有物質を使用することなく、ベーマイト粉末から直接窒化アルミニウム粉末を得ることができる。得られた窒化アルミニウム粉末はカーボンレスであるため、脱炭素処理の工程を経ることなく、焼結に適した高純度の窒化アルミニウム粉末製品とすることができる。また、本発明によって得られる窒化アルミニウム粉末は比表面積が例えば3〜30m2/gと大きく、焼結用に多用されている従来一般的な窒化アルミニウム粉末より焼結性に富む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で使用した原料粉末のSEM写真。
図2】実施例1で使用した原料粉末のX線回折パターン。
図3】実施例1で得られた焼成後の粉末のX線回折パターン。
図4】実施例2で得られた焼成後の粉末のSEM写真。
図5】実施例2で得られた焼成後の粉末のX線回折パターン。
図6】実施例3で使用した原料粉末のSEM写真。
図7】実施例3で使用した原料粉末のX線回折パターン。
図8】実施例3で得られた焼成後の粉末のSEM写真。
図9】実施例3で得られた焼成後の粉末のX線回折パターン。
図10】比較例1で得られた焼成後の粉末のX線回折パターン。
図11】比較例2で得られた焼成後の粉末のX線回折パターン。
図12】比較例3で得られた焼成後の粉末のX線回折パターン。
図13】比較例4で使用した原料粉末のX線回折パターン。
図14】比較例4で得られた焼成後の粉末のX線回折パターン。
図15】実施例4で得られた焼成後の粉末のX線回折パターン。
図16】比較例5で得られた焼成後の粉末のX線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔ベーマイト粉末原料〕
本発明では、BET比表面積が150m2/g以上であるベーマイト(AlOOH)の粉末を使用する。発明者らの検討によれば、このように比表面積が大きい微細なベーマイト粉末は、炭素含有物質を使用せずに、アンモニアガスを用いた非酸化性雰囲気ガス中での熱処理によって窒化アルミニウム単相の粉末にまで変化させることができる。BET比表面積は180m2/g以上であることがより好ましく、250m2/g以上であることがより効果的である。ただし、比表面積が過剰に大きいベーマイト粉末は、製造コストの増大、保存・取扱い性の低下を伴う。本発明に適用する原料としては例えばBET比表面積500m2/g以下の範囲とすればよい。
【0011】
本発明で使用するベーマイト粉末は、結晶性が良好である必要がある。具体的にはCu−Kα線を用いて測定した常温でのX線回折パターンにおいて、回折角2θが10〜40°の領域に、低角度側から順に(A)14.5°付近、(B)28.2°付近、および(C)38.3°付近に回折ピークを有し、かつ上記A〜Cのピーク高さがA>B>Cの順でAのピークが最も高く、Cが最も低いという、ベーマイト結晶に特有のX線回折パターンを呈する粉末が適用対象となる。
【0012】
このようなベーマイト粉末は、水に溶けると酸性を示す水溶性アルミニウム塩を、塩基性水溶液中に添加してアルミニウムオキシ水酸化物の核を形成および成長させる湿式中和反応工程により合成することができる。その際、塩基性水溶液中へのアルミニウム塩の添加を、核形成に適した条件で行う第1の添加ステップと、核成長(結晶成長)を進行させるための第2の添加ステップに分けて、順次行う手法を適用することにより、結晶性が良好でかつ比表面積の大きい上述のベーマイト粉末を安定して製造することができる。従来のように、水に溶けると酸性を示す水溶性アルミニウム塩と中和剤である塩基性物質の混合を一時期に行うことによって中和沈殿物を生成させる方法では、水酸化アルミニウムや、結晶性の低いアルミニウムオキシ水酸化(擬ベーマイト)が生成しやすく、比表面積の大きいベーマイト粉末を工業的に安定して得ることは難しい。
【0013】
ベーマイト粉末を得る湿式工程において、中和剤である塩基性水溶液としては、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液などが適用できる。このうちアルカリ金属を含有しないアンモニア水を使用した場合には、中和により沈殿生成したベーマイトにアルカリ金属が付着しないという利点がある。
【0014】
Al供給源であるアルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、硝酸アルミニウムなど、水に溶けると酸性を示す水溶性アルミニウム塩が使用できる。これらの物質は水溶液として添加することが望ましい。その水溶液中のAl濃度は例えば0.01〜1.00mol/Lの範囲とすることができ、0.05〜0.50mol/Lの範囲とすることがより好ましい。
【0015】
湿式反応工程中の液温は100℃未満、より好ましくは60℃以上95℃以下とすることが好ましい。
【0016】
以下にベーマイト粉末の製造手順を例示する。
反応容器中に中和剤である塩基性水溶液を用意し、液温を上記反応温度に保つ。
アルミニウム塩の第1の添加ステップでは、液中のOH/Al比が例えば3〜600、好ましくは5〜500の範囲に維持される量のアルミニウム塩を撹拌状態の塩基性水溶液中に添加する。その添加開始から添加終了までの時間は例えば1〜60秒、好ましくは1〜30秒とすることができる。添加終了後、撹拌状態を継続する。この第1の添加ステップは、撹拌状態で少量のアルミニウム塩を添加し、中和析出物(アルミニウムオキシ水酸化物)の核をできるだけ多く生成させる過程である。第1の添加ステップでのアルミニウム塩の添加量が多すぎると、添加したアルミニウム塩は既に生成した核の成長に消費されてしまい、比表面積の大きい微細なベーマイト粉末を得ることが難しくなる。また、できるだけ多くの核を形成させる観点から、撹拌を十分に行うことが重要である。
【0017】
アルミニウム塩の第2の添加ステップでは、上記第1の添加ステップにおける添加終了時点から例えば5分以上経過した時点でアルミニウム塩の添加を開始し、液中のOH/Al比が第1の添加ステップからの累積で例えば3〜6の範囲となる量のアルミニウム塩を撹拌状態にて添加する。第2の添加ステップにおける添加開始から添加終了までの時間は例えば10〜180分とすることができる。この第2の添加ステップは、既に生成している中和析出物(アルミニウムオキシ水酸化物)の核を成長させ、ベーマイト結晶からなる粒子を合成する過程である。核生成の反応が十分に進行し終えるまで待ってから第2の添加ステップでのアルミニウム塩の添加を開始することが、微細なベーマイト粒子からなる粉末を得るうえで極めて重要である。この待ち時間(第1の添加ステップにおける添加終了時点から第2の添加ステップにおける添加開示時点までの時間)を本明細書では「インターバル」と呼ぶ。インターバルが短すぎると粒子が粗大化しやすい。またインターバル中も液の撹拌を継続することが望ましい。
【0018】
アルミニウム塩の第2の添加ステップを終えた後は、液温を上述の範囲に保ったまま撹拌状態を維持することが望ましい。この過程では、小さい粒子が溶解して大きい粒子表面に再析出する現象(オストワルド熟成)により、粒度分布を均一化するうえで効果的である。この過程を本明細書では「熟成過程」と呼ぶ。熟成過程の時間、具体的には第2の添加ステップにおけるアルミニウム塩添加終了時点から最初の固液分離前の撹拌終了時点までの所要時間は、例えば60〜180分を確保することが好ましい。
【0019】
その後、ろ過等の手法により固液分離を行って固形分を回収し、洗浄、乾燥の工程を経ることにより、BET一点法による比表面積が150m2/g以上であるベーマイト(AlOOH)の粉末を得ることができる。
【0020】
〔窒化アルミニウム粉末の製造〕
本発明では、上述の比表面積の大きいベーマイト粉末をアンモニア(NH3)含有非酸化性雰囲気中で熱処理することによって、窒化アルミニウム(AlN)粉末を得る。その際、炭素含有物質を使用せずに反応を進行させる。
【0021】
アンモニア(NH3)含有非酸化性雰囲気としては、例えば、アンモニア(NH3)ガス雰囲気、あるいはアンモニア(NH3)含有率が70体積%以上100体積%未満、残部が窒素(N2)であるアンモニア(NH3)+窒素(N2)混合ガスを例示することができる。アンモニア(NH3)+窒素(N2)混合ガスの場合、アンモニア(NH3)含有率が75〜95体積%であることがより好ましい。AlN生成反応を進行させる熱処理温度は1200〜1600℃とすることができ、1300〜1550℃とすることがより好ましい。この熱処理を本明細書では「焼成」と呼ぶ。
【0022】
焼成は、大気が侵入しない構造の炉内に原料粉末を収容し、炉内雰囲気を所定のアンモニア含有非酸化性雰囲気に保ち、炉内の粉末温度を上記所定範囲に昇温することによって行うことができる。炉内の圧力は大気圧とすればよい。熱処理中は、炉内の雰囲気ガス組成を一定範囲に維持するために、外部から供給されるアンモニア含有ガスを炉内に通気させ、粉末をその通気ガスの気流に曝すことが望ましい。粉末は、個々の粒子が雰囲気ガス成分と接触しやすいように、できるだけ薄く堆積させた状態で炉内に収容することが望ましい。例えば粉末をトレイの上に堆積させ、そのトレイを炉内に置く場合であれば、トレイ上に堆積させる粉末厚さは5mm以下とすることが好ましい。
【0023】
焼成時間は、炉内に収容した原料ベーマイト粉末の全部が窒化アルミニウム(AlN)に変化するに足る時間を確保する。原料粉末の比表面積、焼成温度、雰囲気ガス組成、炉内に収容する粉末の堆積状態によって焼成の所要時間は異なるが、例えばBET比表面積が180〜300m2/g程度のベーマイト粉末をアンモニア(NH3)含有率が70〜100体積%の非酸化性雰囲気中で1200〜1600℃に加熱する場合、通常、2〜10時間の範囲内、より好ましくは4〜8時間の範囲内で適正な焼成時間を設定することができる。
【0024】
このようにして、AlN単相の窒化アルミニウム粉末製品を得ることができる。ここでいうAlN単相の窒化アルミニウム粉末は、Cu−Kα線を用いた常温でのX線回折(XRD)において、AlNに特有のX線回折パターンが観測され、かつAlN以外のAl含有化合物相(例えばAlOOH、γ−Al23、α−Al23、AlON)に起因する回折パターンのピークが観測されないものを意味する。
この窒化アルミニウム粉末はBET比表面積が例えば3〜30m2/g程度と極めて微細な粒子からなり、焼結性に優れる。また、炭素含有物質を使用せずに焼成されたものであるから、粉末中の炭素含有量は例えば0.1質量%以下と極めて少なく、脱炭素処理に供することなく各種用途に適用可能である。
【実施例】
【0025】
《実施例1》
〔原料粉末の製造〕
濃度26質量%のアンモニア水を用意した。これを溶液Aとする。
硫酸アルミニウム水溶液(浅田化学工業株式会社製)に純水を加えて、硫酸アルミニウム濃度を4質量%とした液を用意した。これを溶液Bとする。
【0026】
撹拌機構を有する反応容器に純水3223.3gを入れ、これに中和剤である溶液Aを196.5g加え、液温を90℃に昇温した。反応容器内の液を撹拌状態とし、液温90℃を維持しながら、その液中におけるOH/Alモル比が16.7となる量の溶液Bを、反応容器内の液に約7秒かけて添加した(第1の添加ステップ)。ここで、上記OH/Alモル比におけるOHの値は、液中に溶解しているアンモニア(NH3)のモル数に等しい値(当量値)を意味し、化学平衡に従って実際に電離して存在する水酸化物イオンOH-のモル数を意味するものではない(以下の各例において同じ)。
【0027】
上記第1の添加ステップにおけるB液添加終了後、撹拌および液温90℃を維持したまま10分経過した時点で、撹拌および液温90℃を維持しながら、反応容器内の液中における累積OH/Alモル比が5.0となる量の溶液Bを、反応容器内の液に18分かけて添加した(第2の添加ステップ)。すなわち、第2の添加ステップ終了後の液中OH/Alモル比が5.0となるようにした。第1の添加ステップにおけるB液添加終了時点から第2の添加ステップにおけるB液添加開始時点までの時間を「インターバル時間」と呼ぶ。本例でのインターバル時間は上記の通り10分である。
【0028】
上記第2の添加ステップにおけるB液添加終了後、撹拌および液温90℃を維持したままの状態を60分保持したのち冷却を開始し、60分かけて約65℃まで降温した時点で撹拌を止め、その後、ブフナー漏斗およびアスピレーターを用いたろ過によって固液分離を行い、固形分を回収した。第2の添加ステップにおけるB液添加終了時点から前記固液分離前の撹拌終了時点までの所要時間を「熟成時間」と呼ぶ。本例での熟成時間は、90℃保持の60分と冷却開始後撹拌終了までの60分を合わせた120分である。回収した固形分を水洗し、乾燥することにより原料粉末を得た。
【0029】
図1に、得られた原料粉末のSEM写真を例示する。この原料粉末について、MOUNTECH社製、Macsorbを用いてBET一点法により比表面積を測定した。その結果、当該粉末のBET比表面積は286m2/gであった。
【0030】
この原料粉末について、Rigaku社製、XtabLABminを用いて、管電圧40kV、管電流15mAの条件でCu−Kα線によるX線回折パターンを測定した。図2に、そのX線回折パターンを示す。回折角2θが10〜40°の領域に、低角度側から順に(A)14.5°付近、(B)28.2°付近、および(C)38.3°付近に回折ピークを有し、これらのピーク高さが(A)>(B)>(C)の順に高いというベーマイト結晶に特有のX線回折パターンを呈している。すなわち、本例で得られた原料粉末は結晶性の良好なベーマイト粉末であることがわかる。
【0031】
〔焼成〕
上記原料粉末をアルミナ製のトレイに盛り、そのトレイをほぼ水平な状態としてアルミナ製の管状炉の中に収容した。トレイに盛られた原料粉末の最大堆積厚さは約5mmである。管状炉は一方の端部にガス導入口、他の端部にガス排出口を備え、炉内は大気から遮蔽できる構造になっている。また、アルミナ管の外周部に発熱体を有し、管の内部を加熱するようになっている。上記のガス導入口からアンモニア含有非酸化性ガスを炉内に連続的に導入するとともに、ガス排出口から炉内のガスを排出させることにより、管状炉の内部にアンモニア含有非酸化性ガスの気流を作り、トレイに盛られた原料粉末の表面が当該気流に曝される状態とした。炉内圧力はほぼ大気圧である。炉内に導入するアンモニア含有非酸化性ガスの組成は、アンモニア(NH3)80体積%、窒素(N2)20体積%からなるアンモニア(NH3)+窒素(N2)混合ガスとした。焼成は、この非酸化性ガスを流しながら粉末を1235℃で8時間保持する条件で行った。
【0032】
焼成後の粉末について、Cu−Kα線によるX線回折パターンを測定した。
なお、本明細書に示す焼成後の粉末についてのX線回折パターンの測定は、以下のいずれかの条件で行った。
・Rigaku社製、XtabLABminよる管電圧40kV、管電流15mAの条件(以下、条件Aという)。
・Rigaku社製、RINT2000による管電圧40kV、管電流30mAの条件(以下、条件Bという)。
本例では、条件Aにて測定したX線回折パターンを図3に例示する。この焼成後の粉末は窒化アルミニウム(AlN)単相からなるものであることが確認された。
また、この粉末のBET比表面積は29m2/gであった。
【0033】
《実施例2》
実施例1における焼成条件を1335℃で4時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
図4に、焼成後の粉末のSEM写真を例示する。
図5に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Bによる)を例示する。この粉末は窒化アルミニウム(AlN)単相からなるものであることが確認された。
この焼成後の粉末のBET比表面積は23m2/gであった。また、この粉末の炭素含有量を高周波炉燃焼−赤外線吸収法にて測定したところ、炭素含有量は0.08質量%であった。
【0034】
《実施例3》
〔原料粉末の製造〕
第1の添加ステップにおいて、反応容器内の液中におけるOH/Alモル比が133.3となる量の溶液Bを、反応容器内の液に約5秒かけて添加したこと、および、第2の添加ステップにおいて、反応容器内の液中における累積OH/Alモル比が5.0となる量の溶液Bを、反応容器内の液に60分かけて添加したことを除き、実施例1と同様の条件で原料粉末を作製し、実施例1と同様の方法で調査を行った。
【0035】
図6に、得られた原料粉末のSEM写真を例示する。この粉末のBET比表面積は198m2/gであった。
図7に、この原料粉末のX線回折パターンを示す。実施例1と同様、本例で得られた原料粉末は結晶性の良好なベーマイト粉末であることがわかる。
【0036】
〔焼成〕
1550℃で4時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で焼成を行った。得られた粉末について実施例1と同様の方法で調査を行った。
図8に、焼成後の粉末のSEM写真を例示する。
図9に、この粉末のX線回折パターン(条件Aによる)を例示する。この粉末は窒化アルミニウム(AlN)単相からなるものであることが確認された。
この焼成後の粉末のBET比表面積は6m2/gであった。
【0037】
《実施例4》
実施例1における炉内に導入するアンモニア含有非酸化性ガスの組成をアンモニア(NH3)95体積%、窒素(N2)5体積%からなるアンモニア(NH3)+窒素(N2)混合ガスとし、焼成条件を1335℃で4時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
図15に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Aによる)を例示する。この粉末は窒化アルミニウム(AlN)単相からなるものであることが確認された。
【0038】
《比較例1》
実施例1における焼成条件を1135℃で4時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
図10に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Bによる)を例示する。この粉末は窒化アルミニウム(AlN)を主体とするものであるが、図中矢印で示した箇所にAlN結晶とは異別の相に起因する強度の増大が認められる。この強度の増大はγ−Al23の混在を示唆するものである。すなわち、この例では、焼成温度が低かったために4時間の焼成では窒化アルミニウム(AlN)単相からなる粉末が得られなかった。
【0039】
《比較例2》
実施例1における焼成時間を8時間から4時間に短縮したことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。すなわち、本例の焼成条件は1235℃×4時間である。
図11に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Bによる)を例示する。図中矢印で示した箇所にα−Al23に起因するピークが見られる。実施例1と焼成温度は同じであるが、焼成時間が不十分であったために、窒化アルミニウム(AlN)単相からなる粉末が得られなかった。
【0040】
《比較例3》
実施例2における焼成時間を4時間から2時間に短縮したことを除き、実施例2と同様の条件で実験を行った。すなわち、本例の焼成条件は1335℃×2時間である。
図12に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Bによる)を例示する。図中矢印で示した箇所にα−Al23に起因するピークが見られる。実施例2と焼成温度は同じであるが、焼成時間が不十分であったために、窒化アルミニウム(AlN)単相からなる粉末が得られなかった。
【0041】
《比較例4》
〔原料粉末の製造〕
実施例1と同様の溶液A(アンモニア水)および溶液B(硫酸アルミニウム水溶液)を用意した。
撹拌機構を有する反応容器に純水2585.3gを入れ、これに中和剤である溶液Aを162.4g加え、液温を60℃に昇温した。反応容器内の液を撹拌状態とし、液温60℃を維持しながら、その液中におけるOH/Alモル比が3.1となる量の溶液Bを、反応容器内の液に約30秒かけて添加した。その後、上述の熟成時間を15分確保した後、実施例1と同様の手法で固液分離、水洗、乾燥を行い、原料粉末を得た。すなわち、本例ではB液の添加を2つの添加ステップに分けることなく、1回のステップで行った。
図13に、この原料粉末のX線回折パターンを示す。回折角2θが14.5°付近に回折ピークが見られないことから、この原料粉末は結晶性の良好なベーマイト粉末として同定されるものではない。この粉末のBET比表面積は0.98m2/gであった。
【0042】
〔焼成〕
上記の手法で得られた原料粉末について、1550℃で8時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で焼成を行った。
図14に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Aによる)を例示する。図中矢印で示した箇所にα−Al23に起因するピークが見られる。原料として結晶性が良好な高比表面積のベーマイト粉末を使用しなかった本例では、アンモニア含有非酸化性雰囲気中での焼成を行うことだけでは、窒化アルミニウム(AlN)単相からなる粉末が得られなかった。
【0043】
《比較例5》
実施例1における炉内に導入するアンモニア含有非酸化性ガスの組成をアンモニア(NH3)50体積%、窒素(N2)50体積%からなるアンモニア(NH3)+窒素(N2)混合ガスとし、焼成条件を1335℃で4時間保持する条件としたことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
図16に、この焼成後の粉末のX線回折パターン(条件Aによる)を例示する。この焼成後の粉末のX線回折パターンには、図中矢印で示した箇所にα−Al23に起因するピークが見られた。本例では焼成時にアンモニア含有率の低い雰囲気ガスを使用したので、窒化アルミニウム(AlN)単相からなる粉末が得られなかった。
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