(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681702
(24)【登録日】2020年3月26日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】固体と流体との分離装置
(51)【国際特許分類】
B01D 45/12 20060101AFI20200406BHJP
【FI】
B01D45/12
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-226155(P2015-226155)
(22)【出願日】2015年11月19日
(65)【公開番号】特開2017-94232(P2017-94232A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 誠
(72)【発明者】
【氏名】東 祐一郎
【審査官】
中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】
特表平04−506626(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/023937(WO,A1)
【文献】
特開2014−177331(JP,A)
【文献】
特公昭35−014434(JP,B1)
【文献】
実開昭48−063872(JP,U)
【文献】
特開2002−220465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 45/12、50/00、53/62
B07B 7/083
C08G 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿り成分と固形成分とを含んで下方の系内から系外に向けて上がってくる混合流動体を通す経路に、前記混合流動体に遠心力を付与させるための回転羽根を設け、
前記回転羽根は、中心部から径方向の外向きに配置された複数の羽根体と、回転羽根における混合流動体の流入部の中心部を覆い、混合流動体が回転羽根の中心部に流入するのを防止して、混合流動体を回転羽根の中心部の外側の外周側環状部に案内する邪魔部材とを有し、
前記経路に、前記回転羽根を収容する収容室を構成する壁体であって、前記遠心力の作用によって回転羽根の径方向に沿って外向きに投射された混合流体物のうちの固形成分を受け止めて、この受け止めた固形成分を前記系内に落下させるとともに、前記投射された混合流動体のうちの流体の系外への排出は阻害しない壁体を設けたことを特徴とする固体と流体との分離装置。
【請求項2】
壁体を加熱する手段を有することを特徴とする請求項1記載の固体と流体との分離装置。
【請求項3】
ポリアミドの重合装置に接続されて、前記重合装置から上がってくる混合流動体に対して用いられるものであることを特徴とする請求項1または2記載の固体と流体との分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体と流体との分離装置に関し、たとえばポリアミドなどの樹脂組成物の製造装置からの排気通路などに好適に設置することができる、固体と流体との分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、テレフタル酸成分とジアミン成分とを含む半芳香族ポリアミドの製造方法が記載されている。この製造方法においては、所定の温度条件のもとで、テレフタル酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含有させずに、溶融したジアミンをテレフタル酸粉末に添加して撹拌し、テレフタル酸とジアミンとの反応による塩の生成と、塩の重合による低重合体の生成反応と行って、塩と低重合物との混合物を得る。反応の際には水蒸気が発生するので、これを反応装置よりも上方の系外に排出することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5546623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の反応系においては、水蒸気のほかにジアミンのミストも発生し、さらに撹拌を行うことから系内で粉体が舞い上がる。舞い上がる粉体としては、原料のテレフタル酸、生成された塩、生成された低重合体が挙げられる。
【0005】
このうち、水蒸気やジアミンのミストは系外に排出する必要があり、原料や生成物は系内に残すことが必要である。このためにはフィルタ装置を使用することが想定されるが、系内からの固体と流体とを含んだ混合流動体がフィルタ装置を通ることになるため、たとえばバグフィルタなどを用いると短時間のうちに目詰まりが発生する。
【0006】
そこで本発明は、固形成分である固体と、湿り成分である流体とを含んで下方の系内から上がってくる混合流動体における当該固体と流体とを、詰まりなどを発生させずに適正に分離できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、本発明の固体と流体との分離装置は、
湿り成分と固形成分とを含んで下方の系内から系外に向けて上がってくる混合流動体を通す経路に、前記混合流動体に遠心力を付与させるための回転羽根
を設け、
前記回転羽根は、中心部から径方向の外向きに配置された複数の羽根体と、回転羽根における混合流動体の流入部の中心部を覆い、混合流動体が回転羽根の中心部に流入するのを防止して、混合流動体を回転羽根の中心部の外側の外周側環状部に案内する邪魔部材とを有し、
前記経路に、前記回転羽根を収容する収容室を構成する壁体であって、前記遠心力の作用によって回転羽根の径方向に沿って外向きに投射された混合流体物のうちの固形成分を受け止めて、この受け止めた固形成分を前記系内に落下させるとともに、前記投射された混合流動体のうちの流体の系外への排出は阻害しない壁体
を設けるようにしたものである。
【0009】
本発明によれば、壁体を加熱する手段を有することが好適である。
本発明の固体と流体との分離装置は、ポリアミドの重合装置に接続されて、前記重合装置から上がってくる混合流動体に対して用いられるものであることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転羽根によって遠心力が付与された混合流体のうち、固形成分は、壁体により受け止めたうえで、重力の作用により落下させて系内に回収することができる。なお本発明において、固形成分とは、粒子などの固体のみならず、固体の周囲に流体などが付着して一体化したものをも含むものとする。
【0011】
回転羽根によって遠心力が付与された混合流体のうち、気体成分やミストなどの流体は、壁体により案内して系外に排出させることができる。
したがって本発明によれば、固体と流体とを含んで下方の系内から上がってくる混合流動体における当該固体と流体とを、詰まりを発生させることなしに確実に分離することができる。
【0012】
本発明によれば、回転羽根に邪魔部材を設けることで、回転羽根において強い遠心力が作用している外周側環状部に混合流動体を送りこむことができ、したがって効率よく分離を行うことができるうえに、遠心力の弱い回転羽根の中心部に混合流動体が流入することを防止して、回転羽根の中心部への固体や、固体と粘着性流体との一体化物や、粘着性流体の付着による詰まりの発生を防止することができる。
【0013】
本発明によれば、壁体を加熱する手段を有することで、固体と粘着性流体との一体化物や、粘着性流体が壁体に受け止められたときに、粘着性流体を昇温させてその粘度を低下させることができ、したがって一体化物や粘着性流体を系内に流下させることができて、これらが壁体に付着することによる詰まりの発生を防止することができる。
【0014】
本発明の固体と流体との分離装置は、ポリアミドの重合装置に接続されて、この重合装置から上がってくる混合流動体に対して用いられるものであることで、ポリアミドの重合装置において発生する水蒸気やジアミンのミストを効果的に系外に排出することができるのみならず、混合流動体に含まれる原料や生成物を確実に系内に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態の固体と流体との分離装置の断面図である。
【
図2】同分離装置における回転羽根の立体図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の固体と流体との分離装置の実施の形態を、ポリアミドの製造装置を例にとって説明する。
図1において、1はポリアミドの製造装置であって、この製造装置1は、詳細には回転式の撹拌装置を備えた反応装置2にて構成されている。反応装置2には、本発明の実施の形態の固体と流体との分離装置11が接続されている。
【0017】
詳細には、反応装置2の上部にはフランジ3を備えた開口4が形成されており、このフランジ3を用いて分離装置11が接続されている。分離装置11は、円筒体12とT形管13とを有し、上下方向に配置された円筒体12の下端の開口14の周囲のフランジ15が反応装置2の開口4のフランジ3に締結されるとともに、円筒体12の上端の開口16の周囲のフランジ17が、横向きのT字形となるように配置されたT形管13の下側フランジ18に締結されている。下側フランジ18が円筒体12のフランジ17に締結されたときに、T形管13の下端突出部19が、円筒体12の上端の開口16から円筒体12の内部に入り込むように構成されている。
【0018】
T形管13の上端部21の開口22の周囲には上側フランジ23が設けられている。上側フランジ23には、開口22を塞ぐための蓋24が締結されている。蓋24には円盤状のベアリングホルダ25が取り付けられている。蓋24には植え込みボルト26が締結され、この植え込みボルト26は、ベアリングホルダ25を貫通したうえで、ベアリングホルダ25よりも上側に突出している。そして植え込みボルト26におけるベアリングホルダ25よりも上側に突出した部分にはスリーブ27が外ばめされている。さらに、植え込みボルト26におけるスリーブ27よりも上側に突出した部分が、モータ28のフランジ29を貫通している。植え込みボルト26にナット30がねじ合わされることで、蓋24と、ベアリングホルダ25と、スリーブ27と、モータ28のフランジ29とが共締めされている。これによって、ベアリングホルダ25が蓋24に固定され、モータ28は、スリーブ27がスペーサとして機能することで、ベアリングホルダ25から上方へ距離をおいた位置に固定されている。すなわち、ベアリングホルダ25とモータ28のフランジ29との間には空間31が形成されている。
【0019】
T形管13の内部の中心部には、上下方向の円筒状のシャフトホルダ35が配置されている。シャフトホルダ35は、その上端が蓋24に取り付けられることで、蓋24によって吊り下げ支持された状態となっている。シャフトホルダ35の内部には、シャフト36が上下方向に配置されている。
【0020】
シャフトホルダ35の下端はT形管13の下端突出部19の下端開口の位置に達しており、このシャフトホルダ35の下端にはベアリングホルダ37が設けられており、このベアリングホルダ37によってベアリング38が保持されている。シャフト36は、その下端側の位置において、ベアリング38によって、下向きの移動が阻止された状態で回転自在に支持されている。39はベアリング押さえである。ベアリング押さえ39には、シャフト36の外周面に摺動可能に接するパッキン40が設けられている。パッキン40によって、シャフトホルダ37の下端側の位置において、ベアリング38を含むシャフトホルダ37の内部と、その外部とがシールされている。
【0021】
シャフトホルダ35の上端側に対応したベアリングホルダ25には、ベアリング41が保持されている。シャフト36は、その上端側の位置において、ベアリング41によって、上向きの移動が阻止された状態で回転自在に支持されている。42は、ベアリング押さえである。
【0022】
すなわち、シャフト36は、シャフトホルダ35の内部において、ベアリング38、41によって、上下方向への移動が阻止された状態で、回転自在に支持されている。かつ、シャフトホルダ35の内部は、パッキン40によって、T形管13の内部からシールされた状態とされている。
【0023】
シャフト36におけるベアリング押さえ42から上方に突出した上端部と、モータ28の回転軸とは、調心継手43によって互いに連結されている。つまり、シャフト36は、モータ28によって回転駆動されるように構成されている。
【0024】
円筒状のシャフトホルダ35の内部には、エアパージチューブ45が設けられている。このエアパージチューブ45は、その上部がベアリングホルダ25とベアリング押さえ42とを貫通して空間31に達しており、その上端が空間31においてパージエア供給エルボ46に連通されている。この供給エルボ46には、図外の供給源からパージエアが供給される。エアパージチューブ45の下端は、ベアリングホルダ37の内部に入り込んで、このベアリングホルダ37の内部に形成されたエア通路47に連通している。エア通路47は、ベアリングホルダ37の上端面において、シャフトホルダ35の下端側の内部と連通している。
【0025】
ベアリングホルダ25とベアリング押さえ42とを貫通するパージエア排出路48が形成されており、この排出路48は、シャフトホルダ35の上端側の内部と、ベアリング押さえ42に取り付けられたパージエア排出エルボ49とを連通する。
【0026】
T形管13には横向きの排出路50が形成されている。この排出路50は、先端の開口51と、開口51の周囲のフランジ52とを有する。排出路50は、フランジ52によって排出管53に接続されている。
【0027】
シャフト36の下端部55は、T形管13の下端開口およびシャフトホルダ35の下端から下向きに突出して、円筒体12の内部に同心状に入り込んでいる。そしてこの下端部55には、回転羽根56が取り付けられている。
図1および
図2に示すように、回転羽根56は、シャフト36の下端部55に外ばめされるスリーブ57と、スリーブ57から径方向の外向きに放射状に突出するように設けられた板状の羽根体58とを有する。羽根体58は、スリーブ57の周方向に沿って等間隔で複数が設けられている。回転羽根56の底部には、邪魔部材59が設けられている。邪魔部材59は、円板状に形成され、その外径が回転羽根56の外径よりも小さくなるように形成されて、回転羽根56に対して同心状に形成されている。その結果、回転羽根56を下から見たときに、この回転羽根56の中心部は邪魔部材59によって覆われており、中心部の外側の外周側環状部のみに、製造装置1からの混合流動体の流入口60が形成されている。以上によって、円筒体12の内部に回転羽根56のための収容室61が形成され、互いに同心状に配置された回転羽根56の外周と円筒体12の壁体62との間にはわずかな隙間63が形成されている。
【0028】
円筒体12の壁体63の外周には、加熱装置64が設けられている。加熱装置64は、温水ジャケツトやヒータ等によって構成されている。
このような構成において、反応装置2を運転してポリアミドを製造する際には、排出管53を用いて系内の不要な流動体を排出しながら、モータ28を回転させて分離装置1を運転する。
【0029】
このとき、反応装置2の内部には、テレフタル酸粉末と液状のジアミンとが供給されて撹拌され、テレフタル酸粉末はジアミンの融点以上に加熱される。したがって、粉末状態のテレフタルと液状のジアミンとが反応装置の内部で撹拌される。その際に、テレフタル酸の粉末状態を保つように、実質的に水を含有させずに、ジアミンがテレフタル酸粉末に添加される。これにより反応装置2の内部では、テレフタル酸とジアミンとの反応による塩の生成と、この塩の重合による低重合体の生成反応とが行われる。
【0030】
この反応は縮合反応であるため水蒸気が発生し、また反応装置2の内部ではジアミンのミストも発生する。また撹拌を行うことから、反応装置2の中では、テレフタル酸の粉末や、生成された粉体状の塩や、生成された粉体状の低重合体が舞い上がる。
【0031】
排出管53においては湿り成分としての水蒸気とジアミンのミストだけを系外に排出させ、粉状の固体成分すなわち固形成分は系内に戻すことが必要である。そこで、分離装置11によってこの要求を満足させる。すなわち、排出管53によってたとえば吸引動作を行わせると、水蒸気やジアミンのミストと、各種粉体との混合流動体Mが、開口14から円筒体12の内部に入り込む。この混合流動体Mは、回転羽根56の流入口60からこの回転羽根56の内部に入り込み、回転羽根56により付与される遠心力によって円筒体12の壁体62に向けて投射される。
【0032】
このとき、回転羽根56の底部の中心部は邪魔部材59にて覆われており、流入口60は回転羽根56の底部の外周側環状部のみに形成される。よって、混合流動体Mは、回転羽根56において強い遠心力が作用している部分にのみ送り込まれ、したがって、固形成分と流体とを効率良く分離することができる。また遠心力の弱い回転羽根56の中心部に混合流動体Mが入り込むことを防止でき、このため、回転羽根56の中心部に、固体や、固体と粘着性流体との一体化物や、粘着性流体などが入り込んで付着することで詰まりが発生することを防止できる。
【0033】
壁体62に向けて投射された混合流動体Mのうち、固体である粉体は、壁体62によって受け止められ、重力の作用によって矢印Sで示すように反応装置2の内部に落下されて系内に戻される。壁体62には固体である粉体の周囲に液体が付着した一体化物や、粘着性を有する液体なども受け止められるが、これらも矢印Sで示すように反応装置2の内部に落下される。
【0034】
加熱装置64によって壁体63を昇温させれば、粘着性を有する液体などが壁体63によって受け止められたときに、その粘度を低下させることができ、したがって反応装置2へ向けて確実に落下させることができる。このため、壁体63への異物の付着による詰まりの発生を防止することができる。
【0035】
壁体63に向けて投射された混合流動体Mのうち、水蒸気や、ジアミンのミストなどの流体Fは、壁体63によってT形管13に案内され、排気管53を経て系外へ排出される。固形成分を含まない流体のみが投射されたときも同様である。
【0036】
このとき、シャフト36の周囲がパッキン40にてシールされているため、T形管13の内部の流体Fがシャフトホルダ35の内部に入り込むことが防止される。またシャフトホルダ35の内部には、供給エルボ46やチューブ45などを通ってパージエアAが供給される。供給されたパージエアAは、排出エルボ49から排出される。このため、シャフトホルダ35の内部はパージエアAで満たされ、これによってもT形管13の内部の流体がシャフトホルダ35の内部に入り込むことが防止される。すなわち、T形管13の内部の流体がシャフトホルダ35の内部に入り込むことが二重に防止される。このため、T形管13の内部の流体Fがシャフトホルダ35の内部を通って外部に漏れ出したり、ジアミンのミストなどがベアリング38、41やシャフト36などに付着してトラブルが発生することを防止できる。
【0037】
以上においては、本発明の固体と流体との分離装置をポリアミドの製造装置に適用した場合について説明したが、同分離装置は、それ以外にも、一般的な固体と流体との分離装置として用いることができる。特に、固体に加えて高沸点物質や粘着性物質を含む混合流動体といった、通常のバグフィルタなどの使用が困難な混合流動体に対して非常に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0038】
12 円筒体
13 T形管
28 モータ
35 シャフトホルダ
36 シャフト
45 エアパージチューブ
56 回転羽根
58 羽根体
59 邪魔部材
60 流入口
61 収容室
62 壁体
64 加熱装置
M 混合流動体