特許第6681728号(P6681728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6681728-非圧縮性流体注入装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681728
(24)【登録日】2020年3月26日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】非圧縮性流体注入装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/30 20060101AFI20200406BHJP
   F16K 15/04 20060101ALI20200406BHJP
   F16N 23/00 20060101ALI20200406BHJP
   F16N 21/00 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   B62D55/30 A
   F16K15/04 C
   F16K15/04 A
   F16N23/00
   F16N21/00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-19154(P2016-19154)
(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2017-136953(P2017-136953A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(73)【特許権者】
【識別番号】591055975
【氏名又は名称】水戸工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】飯嶋 誠治
(72)【発明者】
【氏名】内藤 貴之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 聡史
(72)【発明者】
【氏名】壽江島 亮太
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−115814(JP,U)
【文献】 実開昭55−095986(JP,U)
【文献】 米国特許第06079519(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/30
F16K 15/04
F16N 21/00
F16N 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非圧縮性流体の注入時に非圧縮性流体が排出側に向って流れる流路、この流路の上流端に位置して非圧縮性流体が外部から注入される上流側開口、および、この上流側開口に設けられた弁座を備えたバルブ本体と、
このバルブ本体の流路の途中に設けられ、非圧縮性流体の逆流を防止する逆流防止弁と、
バルブ本体の上流側開口に臨んで弁座の下流側に位置し、弁座に対し離接することで流路の一部を開閉する球状の異物侵入防止弁本体およびこの異物侵入防止弁本体を弁座に向かって付勢するばねを備え、バルブ本体の流路の逆流防止弁の上流側に配置された異物侵入防止弁と、
流路の異物侵入防止弁本体の周囲にてこの異物侵入防止弁本体の上流側と下流側とを連通して設けられた溝部と
を具備したことを特徴とする非圧縮性流体注入装置。
【請求項2】
溝部は、異物侵入防止弁本体の周囲に略等間隔で複数設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の非圧縮性流体注入装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ本体の流路の途中に設けられた逆流防止弁と、バルブ本体の流路の逆流防止弁の上流側に配置された異物侵入防止弁とを備えた非圧縮性流体注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば履帯式車両である油圧ショベルのクローラ走行装置の履帯の張力を調整する履帯張力調整装置に用いられる注入用バルブは、非圧縮性流体の注入時にこの非圧縮性流体がシリンダ本体内の封入室側に向って流れる流路を有するバルブ本体と、このバルブ本体の流路の途中に配設され非圧縮性流体の逆流を防止する球状の逆流防止弁と、この逆流防止弁よりも上流側に配置された異物侵入防止弁とを備えている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0003】
しかしながら、この構成の場合、逆流防止弁が機能しなかったときに流路を逆流した非圧縮性流体が異物侵入防止弁に作用し、異物侵入防止弁に過剰な圧力が加わることが懸念される。
【0004】
この点、例えば注入用バルブの外側の取付け用のねじの箇所に溝部を設けることで、過剰な圧力を下流側から上流側に逃がして過剰な圧力が加わることを防止した構成が知られている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、この構成の場合、注入用バルブを緩めない限りでは圧力を逃がすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−215207号公報
【特許文献2】特開2012−233538号公報
【特許文献3】特開2012−148592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、下流側に位置する逆流防止弁の機能不全時に、上流側に位置する異物侵入防止弁を過剰な圧力から保護することが望まれている。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、逆流防止弁が機能しなかったときの非圧縮性流体の逆流による異物侵入防止弁への過剰な圧力を抑制できる非圧縮性流体注入装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、非圧縮性流体の注入時に非圧縮性流体が排出側に向って流れる流路、この流路の上流端に位置して非圧縮性流体が外部から注入される上流側開口、および、この上流側開口に設けられた弁座を備えたバルブ本体と、このバルブ本体の流路の途中に設けられ、非圧縮性流体の逆流を防止する逆流防止弁と、バルブ本体の上流側開口に臨んで弁座の下流側に位置し、弁座に対し離接することで流路の一部を開閉する球状の異物侵入防止弁本体およびこの異物侵入防止弁本体を弁座に向かって付勢するばねを備え、バルブ本体の流路の逆流防止弁の上流側に配置された異物侵入防止弁と、流路の異物侵入防止弁本体の周囲にてこの異物侵入防止弁本体の上流側と下流側とを連通して設けられた溝部とを具備した非圧縮性流体注入装置である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の非圧縮性流体注入装置における溝部が、異物侵入防止弁本体の周囲に略等間隔で複数設けられている非圧縮性流体注入装置である
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、逆流防止弁が機能しなかったとき、高圧の非圧縮性流体が異物侵入防止弁側へと逆流する場合があるものの、異物侵入防止弁本体の上流側と下流側とを連通する溝部が弁座にて異物侵入防止弁本体の周囲に設けられていることで、この溝部から高圧の非圧縮性流体が異物侵入防止弁本体をバイパスして外部へと確実に排出され、非圧縮性流体の逆流による異物侵入防止弁への過剰な圧力を抑制できる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、溝部を異物侵入防止弁本体の周囲に略等間隔で複数設けたので、これらの溝部から高圧の非圧縮性流体を確実かつ略均等に外部へと排出できる
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は本発明に係る非圧縮性流体注入装置の一実施の形態の上半に断面を示し下半に側面を示す説明図、(b)は(a)のI−I相当位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、図1に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。
【0014】
図1(a)において、10は非圧縮性流体注入装置であるグリース注入用バルブ(以下、単に注入用バルブという)であり、この注入用バルブ10は、例えば履帯式車両である油圧ショベルの下部走行体の左右一対のクローラ走行装置の履帯の張力を調整する履帯張力調整装置に用いられる。
【0015】
ここで、履帯張力調整装置は、アジャスタシリンダを備え、このアジャスタシリンダの非圧縮性流体である液状のグリースが封入された封入室に対して、注入用バルブ10と排出用バルブとを介してグリースの封入量を変えることでアジャスタシリンダのピストンロッドの突出量を変化させることにより、遊動輪を移動させて履帯の張力を増減させる、既知のものである。
【0016】
そして、注入用バルブ10は、グリースの注入時にこのグリースがアジャスタシリンダの封入室側に向って流れる流路15を有するバルブ本体16と、流路15の途中に配置された逆流防止弁17と、流路15の途中にて逆流防止弁17の上流側に配置された異物侵入防止弁18とを備えている。
【0017】
バルブ本体16は、アジャスタシリンダに螺着される本体部21と、この本体部21のうちアジャスタシリンダ外に位置する上流側端部であるグリース供給部であるグリースニップル部22とを有している。また、このバルブ本体16には、流路15を構成する貫通孔24が両端面に貫通して形成されている。すなわち、この貫通孔24の上流側開口が流路15の上流側開口15aであり、貫通孔24の下流側開口が流路15の下流側開口15bである。また、この貫通孔24は流路15の下流側から上流側へと、逆流防止弁用孔部分25、連通孔部分26、および、異物侵入防止弁用孔部分27を有している。逆流防止弁用孔部分25には、この逆流防止弁用孔部分25の上流端の位置する弁座31に当接して閉状態となるとともにグリースの注入時には弁座31から離れて開状態となる逆流防止弁17が配設されている。連通孔部分26は、逆流防止弁用孔部分25よりも径小に形成され、逆流防止弁用孔部分25と異物侵入防止弁用部分27とを連通している。異物侵入防止弁用孔部分27には、この異物侵入防止弁用孔部分27の上流端に位置する弁座33に当接して閉状態となるとともにグリースの注入時には弁座33から離れて開状態となる異物侵入防止弁18が配設されている。この弁座33は、本実施の形態では、上流側開口15aの縁部に位置している。
【0018】
また、バルブ本体16の本体部21の外周面にはねじ溝35,36が形成されているとともに、ナット部38,39が一体に設けられている。ナット部39は、グリースニップル部22に隣接して設けられている。
【0019】
グリースニップル部22は、グリースの注入時に図示しない注入用ポンプに基端部が接続された注入用配管の先端部が接続される部分である。
【0020】
逆流防止弁17は、開状態ではグリースの流動を許容し閉状態ではグリースの上流への流動を規制してグリースの逆流を防止するものである。この逆流防止弁17は、例えば鋼鉄などにより球状に形成された逆流防止弁本体41と、この逆流防止弁本体41を弁座31側に向けて常時付勢する逆流防止弁付勢部材としての圧縮コイルばね42とを備えている。
【0021】
逆流防止弁本体41は、逆流防止弁用孔部分25の上流端に位置し、弁座31と対向している。
【0022】
圧縮コイルばね42は、逆流防止弁本体41の下流側に位置し、逆流防止弁用孔部分25の下流端に支持されている。
【0023】
異物侵入防止弁18は、開状態ではグリースの流動を許容し閉状態ではグリースの上流への流動を規制してグリースの逆流を防止しかつ流路15への異物の侵入を防止するものである。なお、異物は、細かな土砂や鉄粉等のコンタミネーションである。そして、この異物侵入防止弁18は、例えば鋼鉄などにより球状に形成された異物侵入防止弁本体44と、この異物侵入防止弁本体44を弁座33側に向けて常時付勢する異物侵入防止弁付勢部材としてのばねである圧縮コイルばね45とを備えている。
【0024】
異物侵入防止弁本体44は、異物侵入防止弁用孔部分27の上流端に位置し、弁座33と対向している。この異物侵入防止弁本体44の周囲のバルブ本体16(流路15)には、溝部47が設けられている。この溝部47は、弁座33を上流側から下流側に貫通して設けられている。すなわち、この溝部47は、流路15の上流端(上流側開口15a)に連通して設けられている。この溝部47は、図1(b)に示されるように、異物侵入防止弁本体44の周囲に略等間隔で複数設けられている。また、各溝部47は、異物侵入防止弁本体44の外周から径方向に沿って放射状に設けられ、異物侵入防止弁本体44から離れるほど幅狭となる、略三角形状の断面を有する、例えば径方向の深さ0.数mm〜1mm程度、軸方向長さ10mm程度のスリットとなっている。
【0025】
図1(a)に戻って、圧縮コイルばね45は、異物侵入防止弁本体44の下流側に位置し、異物侵入防止弁用孔部分27の下流端に支持されている。この圧縮コイルばね45の付勢力は、逆流防止弁17の圧縮コイルばね42の付勢力よりも弱く設定されている
【0026】
次に、図示された実施の形態の動作を説明する。
【0027】
履帯の張力を減少させる場合には、所望量のグリースを排出用バルブからアジャスタシリンダの封入室外に排出してアジャスタシリンダを縮ませ、遊動輪を駆動輪に対して後方に移動させる。
【0028】
一方、履帯の張力を増大させる場合には、注入用配管の先端部を注入用バルブ10のグリースニップル部22に接続してから注入用ポンプを作動させることにより所望量のグリースを注入用バルブ10からアジャスタシリンダの封入室に注入してアジャスタシリンダを伸ばし、遊動輪を駆動輪に対して前方に移動させる。
【0029】
このような注入用バルブ10を備える履帯張力調整装置では、グリースの注入時、クローラ走行装置による走行時、作業装置による作業時などにおいて、注入用バルブ10のバルブ本体16の流路15の途中に配設された異物侵入防止弁18が、流路15のうち異物侵入防止弁18より下流側の部分への異物の侵入を防止するため、逆流防止弁17のシート不良の発生を抑制でき、よって、グリースの漏れを抑制でき、履帯の張力を所望値に維持でき、クローラ走行装置による走行性の安定化が図られる。
【0030】
また、例えば逆流防止弁17の圧縮コイルばね42の不調などによって所要の機能を発揮できない、機能不全状態(シート不良状態)となった場合、高圧のグリースが逆流防止弁用孔部分25から連通孔部分26を介して異物侵入防止弁用孔部分27へと逆流する場合がある。このとき、流路15の異物侵入防止弁用孔部分27の上流端である弁座33にて異物侵入防止弁本体44の上流側と下流側とを連通する溝部47が設けられていることで、この溝部47から高圧のグリースが異物侵入防止弁本体44をバイパスして注入用バルブ10の外部へと排出され、グリースの逆流による異物侵入防止弁18(異物侵入防止弁本体44)への過剰な圧力を抑制できる。
【0031】
また、溝部47を異物侵入防止弁本体44の周囲に略等間隔で複数設けたので、これらの溝部47から高圧のグリースを確実かつ略均等に外部へと排出できる。
【0032】
特に、異物侵入防止弁18の耐圧を逆流防止弁17の耐圧より低く設定しているので、仮に逆流防止弁17が機能不全状態となったときに、逆流するグリース圧に異物侵入防止弁18が耐え切れないことが想定されるものの、上記の溝部47によって高圧のグリースを外部へと排出できるので、注入時の異物の侵入を異物侵入防止弁18によって適切に防止しつつ、逆流防止弁17の機能不全時の異物侵入防止弁18への過剰な圧力を抑制できる。
【0033】
しかも、溝部47は、開口面積が狭いスリットとしたので、グリースの注入時に溝部47から異物侵入防止弁18をバイパスして異物が侵入しにくい。
【0034】
なお、上記実施の形態において、履帯張力調整装置は、油圧ショベルのクローラ走行装置以外に、ブルドーザなどの他の建設機械のクローラ走行装置や、トラクタのクローラ走行装置などにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、例えば油圧ショベルなどの履帯式車両のクローラ装置の履帯の張力を調整する履帯張力調整装置の注入用バルブとして好適に用いられる。
【符号の説明】
【0036】
10 非圧縮性流体注入装置であるグリース注入用バルブ
15 流路
15a 上流側開口
16 バルブ本体
17 逆流防止弁
18 異物侵入防止弁
33 弁座
44 異物侵入防止弁本体
45 ばねである圧縮コイルばね
47 溝部
図1