(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
航空機の空調装置の排気ダクトから排気口を通じて機外へと排出された排気は、航空機の駐機中は機体表面から離れる向きにそのまま噴出するが、飛行中は、機体の周りに生じる気流によって流路が曲げられることで、排気口よりも後方に位置する機体表面に張り付くように流れる。そうすると、機体表面に張り付いた排気によって機体表面が高温となる。
特に、金属よりも耐熱性が低い繊維強化樹脂が機体表面の構成部材に用いられている場合は、機体表面に高温排気が張り付くことへの対策が急務である。
【0006】
本発明は、空調装置からの排気をはじめとして、機外に排出される高温の空気が機体に与える熱的な影響を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の高温空気の機体張り付き対策構造は、航空機の装備品に備えられ、規定の温度よりも温度が高くなり得る高温空気が流れる高温空気ダクトと、高温空気ダクトにより導かれた高温空気の流れを機外へと排出する排気口と、機体の表面である機体表面に、機外へと排出された高温空気よりも温度が低い低温空気の流れを供給する低温空気供給部と、を備え、低温空気供給部は、航空機の飛行時に機体表面に向けて曲げられた高温空気と機体表面との間に低温空気の流れからなる空気層を形成する
ものであって、排気口を通じて低温空気を機外へと排出させて空気層をなす第1流路を有することを特徴とする。
「規定の温度」は、例えば、機体の表面である機体表面の許容温度のように規定された温度に該当する。
「低温空気」としては、装備品が配置されている空間に存在している空気か、機外から取り入れられた外気、あるいはこれらの両方が該当する。低温空気の温度は、規定の温度、例えば、機体表面の許容温度よりも温度が高くなり得る高温空気の温度に対して十分に低い。
本発明において、「前」および「後」は、航空機の進行方向の前および後を意味する。
【0008】
本発明における装備品としては、例えば、機内を空調する空調装置等、高温空気を排出する排気ダクトが備えられた装置を挙げることができる。
本発明における装備品は、機体表面を形成するフェアリングにより覆われる胴体の下部に設置し、排気口は、フェアリングに設けることができる。
本発明における機体表面を形成する部材は、例えば、アルミニウム合金等の金属材料や、ガラス繊維等の強化繊維を含む繊維強化樹脂から形成することができる。
【0009】
本発明によれば、高温空気ダクトおよび排気口を通じて機外へと排出された高温空気の噴流が、飛行中に機体の周囲に生じる気流により、排気口よりも後方に位置する機体表面に向けて曲げられても、低温空気供給部により機体表面に供給されている低温空気の流れが、機体表面に対向する高温空気の流れと機体表面との間で空気層を形成する。この空気層が高温空気と機体表面との間に介在することにより、高温空気が機体表面に直接的に張り付くことを避けることができる。そのため、機外に排出された高温空気による機体の温度上昇が抑制されるので、機体への熱的な影響を軽減することができ、機体の材料に応じた特性低下(例えば、耐力や強度の低下)を避けることができる。
【0010】
仮に、高温空気ダクトおよび排気口を流れる高温空気を低温空気により冷却するとすれば、高温空気ダクトの周りにラッパ管等を配置し、ラッパ管と高温空気ダクトとの間に導入した低温空気を排気口から排出させることが考えられる。そのラッパ管は、高温空気ダクト内を流れる高温空気と低温空気との間で十分に熱交換させる管路長と、高温空気ダクトから流出した高温空気と直接的に熱交換させる低温空気を十分に供給可能な流路断面積とを確保するため、軸方向および径方向の寸法が大きい大型のものとならざるを得ない。
【0011】
しかし、本発明では、高温空気ダクトや排気口、およびそれらの付近における高温空気と低温空気との直接間接の熱交換に頼ることなく、機体表面に供給される低温空気からなる空気層を機体表面と高温空気との間に形成することにより機体への熱的な影響を抑えている。したがって、空気層を形成するために機体表面に低温空気を供給可能な小型の配管を用いれば十分であり、大きい管路長や流路断面積は必要ない。そのため、航空機の重量増加を抑えることができる。
以上によれば、航空機の重量増加を抑えつつ、機外に排出される高温の空気が機体に与える熱的な影響を軽減することができる。
【0012】
本発明において、低温空気供給部は、排気口を通じて低温空気を機外へと排出させる第1流路を有する
。
低温空気を機体表面に供給するための流路を機体に加工することなく、当該流路として排気口を利用することにより、航空機の重量増加を抑えることができる。
【0013】
本発明において、高温空気ダクトの外周部は、高温空気ダクト内から高温空気ダクト外への熱の伝搬を抑制する断熱材により覆われていることが好ましい。
そうすると、高温空気ダクト内を流れる高温空気の熱による低温空気の温度上昇が断熱材により抑えられるので、低温空気からなる空気層により、機体への熱的な影響を軽減する効果を高めることができる。
【0014】
本発明において、排気口は、排気口において高温空気ダクトが投影された領域の中央部に対して後方側にシフトしており、排気口内の後側では第1流路が広く、排気口内の前側では第1流路が狭いことが好ましい。
そうすると、空気層の形成に寄与する後方側の低温空気の流れを確保することができる。
【0015】
本発明において、低温空気供給部は、高温空気ダクトの外周部を包囲するカバーを有し、カバーと高温空気ダクトとの間および排気口を含んで第1流路が形成されていることが好ましい。
カバーは、空気層を形成するために低温空気を機体表面に供給可能な小型の配管に相当する。
【0016】
また、本発明は、航空機の装備品に備えられ、規定の温度よりも温度が高くなり得る高温空気が流れる高温空気ダクトと、高温空気ダクトにより導かれた高温空気の流れを機外へと排出する排気口と、機体の表面である機体表面に、機外へと排出された高温空気よりも温度が低い低温空気の流れを供給する低温空気供給部と、を備え、低温空気供給部は、
航空機の飛行時に機体表面に向けて曲げられた高温空気と機体表面との間に低温空気の流れからなる空気層を形成するものであって、高温空気が機体表面に対向する機体の領域において機体表面を形成する部材を貫通する第2流路を有
し、
第2流路は、機内の空間から流入する低温空気を機外へと流出させる。
第2流路は、排気口よりも後方に位置する機体表面に向けて曲げられたことで高温空気が機体表面に対向する領域に形成されているので、高温空気を排出する排気口から後方に離れている。そのため、第2流路を通じて、高温空気の熱の影響を受け難い低温空気を機体表面に供給し、高温空気の流れと機体表面との間に空気層を介在させることができる。
高温空気が機体表面に対向する領域に第2流路を適宜に配置することにより、当該領域の全体に亘って空気層を形成することができる。そうすると、当該領域の全体に亘り、高温空気による機体への熱的な影響を軽減することができる。
第2流路は、油圧配管等から漏れた油を機外へと排出させるドレン用流路としても好適である。
第2流路として、機体を貫通する孔の集合やスリットを機体に形成することができる。
【0017】
また、第2流路は、機体表面を形成する部材の肉厚の範囲内に形成された流路を含むように構成することもできる。
そうすると、部材の肉厚の範囲内を流れる低温空気によって機体が冷却されるので、当該部材への熱的な影響を軽減することに寄与できる。
【0018】
本発明において、低温空気供給部は、機外から取り入れられた外気が流れる第3流路を有し、第3流路は、上述の第1流
路に接続されていることが好ましい。
そうすると、飛行中は装備品が設置された空間の温度よりも十分に温度が低い外気が低温空気として機体表面に供給されるので、高温空気による機体表面への熱的な影響を一層軽減することができる。
【0019】
本発明の航空機は、上述した高温空気の張り付き対策構造を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、機外に排出される高温の空気が機体に与える熱的な影響を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
図1に示す航空機1は、胴体2と、胴体2の下部2Aを覆うフェアリング3(belly fairing)とを備えている。
胴体下部2Aには、種々の装備品が設けられている。それらの装備品の一つとして、航空機の空調システムを構成する空調装置4がある。
空調装置4は、冗長性を確保するために2つあり、それらのうちの1つの空調装置4が胴体下部2Aの左側に設けられ、もう1つの空調装置4が胴体下部2Aの右側に設けられている。
【0023】
空調システムは、空調装置4により得られた空気を図示しない配管を通じて与圧区画に供給する。その空気は、空調に供された後は、胴体下部2Aに設けられた図示しない気圧調整弁を通じて与圧区間からフェアリング3内へと排出される。
従って、フェアリング3内は、機内を循環する空調用空気の圧力により、フェアリング3外(機外)と比べて圧力が高い。
【0024】
フェアリング3は、空調装置4をはじめとして、胴体下部2Aに設けられた装備品を覆っている。フェアリング3は、ガラス繊維や炭素繊維等を強化繊維として含む繊維強化樹脂や、アルミニウム合金等の金属材料を用いて形成することができる。
本実施形態のフェアリング3は、軽量化のため、ガラス繊維を含む繊維強化樹脂(GFRP:glass fiber reinforced plastics)から形成されている。
フェアリング3は、胴体下部2Aとの間に装備品を配置するために必要な容積を残して、胴体下部2Aに沿うように形成されている。
【0025】
図2に示すように、空調装置4には、高温の排気(高温空気)が流れる排気ダクト41が備えられている。排気ダクト41を流れる排気の温度は、フェアリング3の表面3Aの許容温度よりも高くなりうる。
図2に、この排気の流れFH(以下、排気流)を矢印で示している。
なお、空調装置4には、図示を省略するが、外気を取り入れるためのダクトや、エンジンおよび補助動力装置の各々からの抽気を導入するためのダクトも備えられている。
【0026】
空調装置4からの排気は、排気ダクト41により、フェアリング3に設けられた排気口30まで導かれ、排気口30を通じて機外へと噴出される。噴出された排気流FHは、航空機1の飛行中は、機体の周囲に生じる気流FFによって進路が曲げられるため、排気口30よりも後方に位置するフェアリング3の表面3A(外表面)に張り付くように流れる。
その排気流FHの熱によってフェアリング表面3Aの温度が許容温度を超えないように、排気流FHがフェアリング3に与える熱的な影響を軽減する必要がある。
【0027】
航空機1は、排気流FHがフェアリング表面3Aに張り付くことへの対策が可能である高温空気張り付き対策構造10を備えている。
高温空気張り付き対策構造10は、排気ダクト41と、排気口30と、低温空気供給部11とを備えている。
【0028】
低温空気供給部11は、フェアリング表面3Aに、機外に排出された排気流FHよりも温度が低い低温空気の流れFLを供給する。
そうすると、機外へと排出された排気流FHの噴流が気流FFにより曲げられても、低温空気供給部11によりフェアリング表面3Aに供給されている低温空気の流れFLが、フェアリング表面3Aに対向する排気流FHの流れとフェアリング表面3Aとの間で空気層12を形成する。
この空気層12が排気流FHとフェアリング表面3Aとの間に介在するため、排気流FHがフェアリング表面3Aに直接的に噴射されないので、フェアリング3に熱的影響を及ぼすことを避けることができる。
【0029】
本実施形態の低温空気供給部11は、フェアリング3内、つまり、フェアリング3と胴体下部2Aとの間の空間5に存在する空気を低温空気としてフェアリング表面3Aに供給する。空調システムの制御の下、機内を循環している空間5内の空気の温度は、排気ダクト41および排気口30を通じて機外へと排出された排気の温度に対して十分に低い。
低温空気供給部11は、空間5に存在する空気を排気口30を通じて機外へと排出し、フェアリング表面3Aに供給する。低温空気供給部11は、空間5に存在する低温空気を機外へと排出させる流路P1を有している。
【0030】
流路P1を通じて低温空気をフェアリング表面3Aに供給するにあたり、排気ダクト41の外周部を断熱材42により覆うことが好ましい。
断熱材42は、被覆する構造材(排気ダクト41)の表面と当接する側から、アラミド繊維、テフロン(登録商標)含浸ガラスクロス、アルミフィルムの順で積層して形成されており、排気ダクト41内から排気ダクト41外への熱の伝搬を抑制する。
断熱材42により、排気ダクト41内を流れる排気流FHの熱による低温空気の温度上昇が抑えられるので、低温空気からなる空気層12によってフェアリング3への熱的な影響を軽減する効果を高めることができる。
【0031】
排気口30は、
図3(a)に示すように、排気ダクト41の末端部の投影領域R1を含む開口である。本実施形態の排気ダクト41の横断面は円形状であり、投影領域R1は楕円状に形成される。
排気口30の開口範囲において、投影領域R1を除いた残部である領域R2が、フェアリング3内の空間5に存在する低温空気が機外へと流れ出る流路P1に相当する。
空間5に存在する低温空気は、空間5と機外との圧力差によって流路P1を通じて機外へと排出される。
【0032】
排気口30の形状は、矩形や円形、長円等の任意の形状に定めることができる。本実施形態の排気口30は、楕円状に形成されている。
排気口30は、
図3(a)に示すように、投影領域R1の中央部に対して後方側にシフトしており、排気口30内の後側では流路P1が広く、排気口30内の前側では流路P1が狭いことが好ましい。
そうすると、排気口30よりも後方に流れ、空気層12の形成に寄与する低温空気の流れFLを確保できる。その一方、航空機の機軸方向に対して気流FFの向きが変化したときも空気層12を形成できるように、前側から横側にかけても、ある程度排気口30を確保しておくことも好ましい。
【0033】
排気口30には、
図3(b)に示すように、上下方向に対して傾斜した複数の羽根部材31からなるルーバー32が備えられている。排気流FHは、ルーバー32により斜め後方へと整流されて機外へと排出される。
【0034】
機外へと排出された排気流FHが、空調装置4からの排気圧で、フェアリング表面3Aから離れる向きへと噴出された後、気流FFによって曲げられるのに対して、空調装置4からの排気圧よりも小さい、空間5とフェアリング3の外部との圧力差によって、排出された低温空気の流れFLは、フェアリング3の外部(機外)に排出された直後に気流FFによって、フェアリング表面3Aに沿うように後方へと流れる。
以上より、気流FFにより曲げられた排気流FHよりも内周側に低温空気の流れFLが形成され、その流れFLによって空気層12が形成される。
【0035】
機外へと排出される低温空気の流れFLは、流路P1の寸法(断面積等)や、ルーバー32により流れFLに与えられる方向によって調整することができる。
【0036】
以上で説明した本実施形態では、低温空気供給部11により流路P1を通じて空間5内の低温空気をフェアリング表面3Aに供給することにより、気流FFにより曲げられた高温の排気流FHと、その排気流FHが対向するフェアリング表面3Aとの間に空気層12を介在させることができる。そのことによって、排気流FHによるフェアリング3の温度上昇が抑制されるので、フェアリング3を許容温度以下に維持でき、GFRP製のフェアリング3における曲げ強度の低下を防ぐことができる。
【0037】
また、排気口30において排気ダクト41の投影領域R1の残部である領域R2を、低温空気をフェアリング表面3Aに供給するための流路P1として利用しているので、高温空気張り付き対策構造10を航空機1に備えるにあたり、航空機1の重量が増加しない。
本実施形態によれば、空気層12の形成に必要な低温空気を流路P1を通じてフェアリング表面3Aに供給することにより、重量増加を抑えつつ、排気流FHが機体に与える熱的な影響を軽減することができる。
さらに、流路P1を流れる低温空気の流れFLを機体の推力に利用可能となる。
【0038】
〔第1実施形態の変形例〕
排気口30を通じて低温空気を機外へと排出させる流路P1は、
図4に示すように、排気ダクト41と、その外周を包囲するカバー43との間に形成されていてもよい。
カバー43は、排気ダクト41の末端部41Aおよびその近傍の外周部を包囲している。カバー43の末端部43Aは、排気口30に接続されている。
排気ダクト41の外周部およびカバー43の内周部の間と、排気口30とから、流路P1が構成されている。
カバー43は、空気層12の形成に必要な低温空気が流れる流路P1を排気ダクト41の外周部との間に形成するために、排気ダクト41の外周部の一部を包囲するものである。このカバー43に、大きい管路長や流路断面積は必要ないため、カバー43を設けることによる重量増加を最低限に抑えることができる。
【0039】
カバー43は、排気が内側を流れるカバー本体431と、カバー本体431および排気ダクト41の間に介在する緩衝用の部材であり、排気ダクト41の外周部との間に所定の間隙Sが設定される弾性部材432とを備えている。
カバー本体431および弾性部材432は、いずれも、排気ダクト41から伝搬する排気の熱に耐える材料から形成することができる。カバー本体431の材料としては、例えば、ステンレス鋼を挙げることができる。
図4に示す例では、カバー43よりも上方で、排気ダクト41の外周部が断熱材42により覆われている。この例に限らず、排気ダクト41の外周部の全体が断熱材42により覆われていてもよい。
【0040】
空間5内の低温空気は、カバー43により囲まれた流路P1内が流れFLに対して負圧になることから、間隙Sを通じて排気ダクト41の外周部とカバー本体431との間に流入し、排気口30から機外へと排出される。
間隙Sの寸法が適切に設定されることにより、フェアリング3への熱的な影響を軽減する空気層12を形成するのに足りる低温空気を排気ダクト41とカバー43との間に導入し、機外へと排出することができる。
【0041】
流路P1は、必要に応じて開閉されることが好ましい。
そのために、例えば、排気流FHの温度に応じて上述の間隙Sを開閉する開閉機構を設けることができる。その開閉機構により、排気流FHの温度が、張り付く先のフェアリング表面3Aの許容温度を超える程高い場合にのみ流路P1を開き、それ以外の場合には流路P1を閉じることができる。
そういった開閉機構としては、例えば、線膨張係数が異なる金属部材が接合されているため温度に応じて異なる挙動を示すバイメタルを用いることができる。
【0042】
かかる開閉機構は、第2実施形態の流路P2(
図5)および第3実施形態の流路P3(
図8)についても同様に適用することができる。
【0043】
〔第2実施形態〕
次に、
図5および
図6を参照し、本発明の第2実施形態について説明する。
以下、第1実施形態と相違する事項を中心に説明する。第1実施形態と同様の構成には同じ符号を付している。
第2実施形態に係る高温空気張り付き対策構造は、フェアリング3を貫通する流路P2を有する低温空気供給部21を備えている。
低温空気供給部21は、主として空間5と機外との圧力差に基づいて、空間5内の低温空気を流路P2を通じてフェアリング表面3Aに供給する。
【0044】
なお、排気ダクト41からの排気により排気口30の近傍のフェアリング3の温度上昇が過大になるおそれがある場合は、排気ダクト41の周りから排気口30を通じて若干の低温空気を排出させることで、フェアリング3の温度上昇を抑えることが好ましい。
【0045】
流路P2は、排気流FHがフェアリング表面3Aに対向する領域3Rおよびその付近においてフェアリング3を厚み方向に沿って貫通する複数の貫通孔3H(
図6)から構成されている。貫通孔3Hの軸線は、ルーバー32(
図3(b))の羽根部材31と同様に、フェアリング3の板厚方向に対して傾斜していることが好ましい。
貫通孔3Hは、
図6に示すように、ほぼ等間隔に配置されている。
各貫通孔3Hの径は、例えば数mmである。
貫通孔3Hの集合の代わりに、フェアリング3を厚み方向に貫通するスリットを形成することもできる。例えば、フェアリング表面3Aの面内において前後方向に直交する左右方向に延びた単数または複数のスリットを形成することができる。
【0046】
流路P2は、気流FFにより曲げられた排気流FHがフェアリング表面3Aに対向しているフェアリング3の領域3Rおよびその付近に形成されているので、排気流FHを機外へと排出する排気口30から後方に離れている。そのため、流路P2を通じて、排気流FHの熱の影響を受け難い、冷たい低温空気をフェアリング表面3Aに供給し、排気流FHの流れとフェアリング表面3Aとの間に空気層12を介在させることができる。
また、領域3Rおよびその付近に貫通孔3Hを適宜に配置することにより、領域3Rの全体に亘って空気層12を形成し、領域3Rの全体に亘り、排気流FHによるフェアリング3への熱的な影響を軽減することができる。
【0047】
その上、流路P2は、高熱を発生させる排気ダクト41から離れているため、フェアリング3の内側の空間5に配設されている油圧配管等から漏れた油を機外へと排出させるドレン用流路として好適に用いることができる。
その場合は、油圧配管から漏れた油が流路P2に向けて流れるように、フェアリング3の内側に勾配やガイド等を設けるとよい。
また、流路P2を流れる、この程度の弱いFLの流れであっても、機体の推力には利用可能である。
【0048】
流路P2を構成する貫通孔3Hやスリットが形成される位置は、必ずしも、気流FFにより曲げられた排気流FHがフェアリング表面3Aに対向している領域3Rと一致している必要はない。本実施形態では、一部の貫通孔3Hが領域3Rよりも前方に配置されている。領域3Rよりも前方に位置する貫通孔3Hを通じて機外へと排出された低温空気は、それよりも後方に位置するフェアリング表面3Aと排気流FHとの間に流入する。
【0049】
排気流FHがフェアリング3に与える熱的影響の度合を考慮して、領域3R内の適宜な範囲に貫通孔3Hやスリットを形成することができるし、領域3Rを超える範囲にまで貫通孔3Hやスリットを形成することもできる。
【0050】
上述した第1実施形態および第2実施形態を組み合わせることも可能である。
つまり、第1実施形態の流路P1(
図2)と、第2実施形態の流路P2(
図5)との双方を通じて、フェアリング表面3Aに低温空気を供給することができる。
【0051】
〔第2実施形態の変形例〕
流路P2は、
図7に示すように、フェアリング3の肉厚の範囲内で、フェアリング表面3Aの面内方向に沿って延びた横流路P22を含んで構成されていてもよい。
図7に示す流路P2は、フェアリング3を厚み方向に貫通する複数の縦流路P21と、複数の縦流路P21を相互に繋ぐようにフェアリング3の肉厚の範囲内に形成される横流路P22とを含んで構成されている。
【0052】
フェアリング3が、GFRPにより形成されたハニカムコアサンドイッチパネルである場合は、ハニカムコアの各セルを縦流路P21として使用し、パネルに沿った方向に各セルを貫通するように孔明けされた複数の孔の各々を横流路P22として使用するとよい。
【0053】
空間5内の低温空気は、主として空間5と機外との圧力差によって縦流路P21へと流入し、横流路P22にも流れつつ、縦流路P21から機外へと排出される。空間5内の低温空気は、縦流路P21および横流路P22を通じてフェアリング3の面内を巡るように流れる。
【0054】
図7に示す構成によれば、フェアリング3の肉厚の範囲内を流れる低温空気によってフェアリング3をそれ自体の内部から冷却しながら、フェアリング表面3Aへと供給された低温空気からなる空気層12により機外からの熱要因、つまり排気流FHに対処できる。
ここで、空間5内の低温空気は、空気の流動によって温度が低く保たれるが、フェアリング3の内表面3Bの温度は、空調装置4の筐体やその排気ダクト41から発せられる熱を受けて高くなりがちである。そのフェアリング3の内表面3Bからの輻射も、フェアリング外表面3Aの温度に与える影響として無視できない。そのため、横流路P22を有する流路P2を流れる低温空気によってフェアリング3を内部から冷却することは、フェアリング3の内側からの輻射対策としても有効である。
【0055】
〔第3実施形態〕
次に、
図8を参照し、本発明の第3実施形態について説明する。
第3実施形態に係る高温空気張り付き対策構造は、第2実施形態で説明した流路P2に加えて、機外から取り入れられた外気が流れる流路P3を有している。
流路P3は、空調装置4に外気を取り入れる外気導入ダクト44に接続されており、外気導入ダクト44を流れる外気の一部が流路P3に流入する。流路P3は、排気口30よりも後方にまで延びており、流路P2へと外気を供給する。
空調装置4への外気導入とは別途取り入れた外気が流路P3に流れるように構成されていてもよい。
【0056】
流路P3および流路P2を通じて、飛行中は空間5の温度よりも十分に温度が低い外気が低温空気としてフェアリング表面3Aに供給されるので、高温空気によるフェアリング3への熱的な影響を一層軽減することができる。
【0057】
流路P2に代えて、第1実施形態で説明した流路P1に流路P3から外気を供給することもできる。また、流路P1および流路P2の双方に流路P3から外気を供給することもできる。
【0058】
ところで、空調装置4の筐体や排気ダクト41から発せられる熱により、フェアリング3の内表面3Bや、胴体下部2Aの表面等、空調装置4の周囲に位置する部材が高温となりがちである。そのため、流路P3を通じて、フェアリング3の内表面3Bや、胴体下部2Aの表面における高温領域に外気を供給することによってそれらの部材を冷却することが好ましい。
【0059】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本発明において機体表面に張り付くことへの対策が必要な高温空気は、空調装置4の排気ダクト41を通り機外へと排出されたものに限らず、航空機の他の装備品に備えられたダクトを通り機外へと排出されたものであってもよい。高温空気が張り付く機体表面は、ベリーフェアリングの外表面3Aには限らず、流れFHに曝される適宜な部材の表面であればよい。